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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-18
(45)【発行日】2023-04-26
(54)【発明の名称】金属管及び金属管の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B21C 1/22 20060101AFI20230419BHJP
   B21C 9/00 20060101ALI20230419BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20230419BHJP
   C22C 38/58 20060101ALI20230419BHJP
   B21D 41/04 20060101ALI20230419BHJP
   C21D 8/10 20060101ALI20230419BHJP
【FI】
B21C1/22 D
B21C9/00 A
C22C38/00 302H
C22C38/58
B21D41/04 C
C21D8/10 D
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019044713
(22)【出願日】2019-03-12
(65)【公開番号】P2020146707
(43)【公開日】2020-09-17
【審査請求日】2021-11-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001553
【氏名又は名称】アセンド弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】彌永 大作
(72)【発明者】
【氏名】黒田 浩一
(72)【発明者】
【氏名】大田尾 修治
(72)【発明者】
【氏名】大瀧 光慶
(72)【発明者】
【氏名】中根 一弥
【審査官】池田 安希子
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-032029(JP,A)
【文献】特開2018-034201(JP,A)
【文献】特開2016-155147(JP,A)
【文献】仏国特許発明第959159(FR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21C 1/00-19/00
C22C 38/00
C22C 38/58
B21D 41/04
C21D 8/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
引抜加工に供される金属管であって、
管本体と、
前記管本体の外径よりも小さい外径を有する管端部と、
前記管本体と前記管端部とを接続し、前記管端部に向かって縮径するテーパ部と、
を備え、
前記管端部は、
前記管端部の外面に形成され、前記金属管の周方向に延びる溝であって、前記管端部の基端から前記金属管の軸方向に前記管端部の前記外径の0.14倍以上離れて配置される前記溝、
を有する、金属管。
【請求項2】
請求項1に記載の金属管であって、
前記管端部は、前記外面において平行に配置された複数の前記溝を有する、金属管。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の金属管であって、
前記金属管は、
質量%で、
C:0.008~0.03%、
Si:0~1%、
Mn:0.1~2%、
Cr:20~35%、
Ni:3~10%、
Mo:0~5%、
W:0~6%、
Cu:0~3%、及び、
N:0.15~0.40%を含有し、
残部がFe及び不純物からなる化学組成を有する二相ステンレス鋼管である、金属管。
【請求項4】
引抜加工に供される金属管の製造方法であって、
a)金属の素管を準備する工程と、
b)前記素管の管端部を、前記金属のσ相析出温度域未満の温度に加熱する工程と、
c)加熱された前記管端部を外周側から加圧することにより、前記管端部を縮径させるとともに、前記管端部の外面に前記素管の周方向に延びる溝を形成する工程と、
を備え、
前記工程c)では、前記素管の軸方向において前記管端部の基端から縮径後の前記管端部の外径の0.14倍以上離れた位置に、前記溝を形成する、製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載の製造方法であって、
前記工程c)では、前記管端部の前記外面に、複数の前記溝を平行に形成する、製造方法。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の製造方法であって、
前記素管は、
質量%で、
C:0.008~0.03%、
Si:0~1%、
Mn:0.1~2%、
Cr:20~35%、
Ni:3~10%、
Mo:0~5%、
W:0~6%、
Cu:0~3%、及び、
N:0.15~0.40%を含有し、
残部がFe及び不純物からなる化学組成を有する二相ステンレス鋼管であり、
前記工程b)では、前記管端部を560℃以上、730℃以下の温度に加熱する、製造方法。
【請求項7】
金属管の製造方法であって、
請求項1~3のいずれか1項に記載の金属管を準備する工程と、
前記金属管をダイスに通し、内面に複数の歯を有するグリッパで前記管端部を把持して、前記金属管を前記ダイスから引き抜く工程と、
を備える、製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、金属管に関し、より詳細には、引抜加工に供される金属管及びその製造方法、並びに当該金属管を素材として新たな金属管を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ある種の金属管の製造プロセスでは、引抜加工が実施されることがある。すなわち、マンネスマン製管法、又はユジーン・セジェルネ製管法等によって熱間で素管を成形した後、冷間での引抜加工によって素管を最終製品の寸法に整える。
【0003】
引抜加工では、口絞り加工が施された金属管(口絞り金属管)をダイスに通し、小径の管端部をグリッパで把持する。この状態でグリッパをダイスから相対的に遠ざけて、ダイスから口絞り金属管を引き抜く。これにより、管本体の外径が減少して最終製品の外径に整えられる。管本体の肉厚を整える場合は、ダイスに通された金属管にプラグ及びマンドレルを挿入する。
【0004】
引抜加工を行う際、口絞り金属管の管端部に対して、グリッパが軸方向に滑ることがある。これにより、グリッパの歯に摩耗や欠けが発生する。この摩耗や欠けが進行してグリッパの歯が鈍くなると、グリッパは、管端部を把持することができなくなり、寿命に達する。グリッパと管端部との滑りが頻繁に発生する場合、少ない引抜回数でグリッパの歯が鈍ってしまい、グリッパの寿命が短くなる。
【0005】
例えば、特許文献1は、グリッパと管端部との滑りを防止するための技術を開示する。特許文献1では、口絞り金属管の管端部にフランジ状の凸部が設けられる。特許文献1によれば、フランジ状の凸部により、グリッパと管端部との滑りによるグリップミスを減少させることができる。また、特許文献1によれば、グリッパが管端部に対して滑ってもグリップミスが発生しないよう、管端部に余分な長さを持たせる必要がない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平7-32029号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1では、口絞り金属管の管端部に設けられたフランジ状の凸部によって、管端部に対するグリッパの滑りを低減することができる。しかしながら、特許文献1では、口絞り加工工程とは別工程で管端部に凸部を形成する必要がある。そのため、金属管の製造プロセスにおいて工程数が増加する。また、特許文献1では、凸部の高さによって口絞り加工の必要長さが変化する。すなわち、凸部の高さを考慮して、縮径加工する管端部の長さを決定する必要がある。
【0008】
本開示は、金属管の引抜加工時において管端部に対するグリッパの滑りを低減するとともに、引抜加工に供される金属管をより簡易に製造することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示に係る金属管は、引抜加工に供される。金属管は、管本体と、管端部と、テーパ部と、を備える。管端部は、管本体の外径よりも小さい外径を有する。テーパ部は、管本体と管端部とを接続する。テーパ部は、管端部に向かって縮径する。管端部は、溝を有する。溝は、管端部の外面に形成される。溝は、金属管の周方向に延びる。溝は、管端部の基端から、金属管の軸方向に、管端部の外径の0.14倍以上離れて配置される。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、金属管の引抜加工時において管端部に対するグリッパの滑りを低減することができるとともに、引抜加工に供される金属管をより簡易に製造するこことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、実施形態に係る金属管の斜視図である。
図2図2は、図1に示す金属管の縦断面図である。
図3A図3Aは、実施形態に係る金属管の製造方法を説明するための模式図である。
図3B図3Bは、実施形態に係る金属管の製造方法を説明するための模式図である。
図3C図3Cは、実施形態に係る金属管の製造方法を説明するための模式図である。
図3D図3Dは、実施形態に係る金属管の製造方法を説明するための模式図である。
図3E図3Eは、実施形態に係る金属管の製造方法を説明するための模式図である。
図4図4は、実施形態に係る金属管の引抜加工に用いられる引抜装置の模式図である。
図5図5は、図4に示す引抜装置の部分拡大図である。
図6図6は、引抜加工に供される金属管のパラメータ:L/d13と引抜加工時の最大引張応力との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
実施形態に係る金属管は、引抜加工に供される。金属管は、管本体と、管端部と、テーパ部と、を備える。管端部は、管本体の外径よりも小さい外径を有する。テーパ部は、管本体と管端部とを接続する。テーパ部は、管端部に向かって縮径する。管端部は、溝を有する。溝は、管端部の外面に形成される。溝は、金属管の周方向に延びる。溝は、管端部の基端から、金属管の軸方向に、管端部の外径の0.14倍以上離れて配置される(第1の構成)。
【0013】
第1の構成に係る金属管は、小径の管端部の外面において、周方向に延びる溝を有する。そのため、金属管の引抜加工時に管端部をグリッパが把持したとき、グリッパの歯が溝に引っ掛かり、金属管の軸方向におけるグリッパの移動が規制される。よって、管端部に対するグリッパの滑りを低減することができる。その結果、グリッパの歯の鈍りが抑制され、グリッパを長寿命化することができる。
【0014】
引抜加工に供される金属管では、管端部とテーパ部との境界、つまり管端部の基端において外径が比較的急激に変化する。そのため、引抜加工時には、金属管の外面側のうち管端部の基端において軸方向の引張応力が大きくなる。そこで、第1の構成では、管端部の基端から所定距離以上離れた位置に、グリッパの移動を規制する溝を設ける。これにより、管端部の基端に溝が重ならず、当該基端における応力集中を抑制することができる。よって、引抜加工の際に管端部が基端から破断するのを防止することができる。
【0015】
小径の管端部の長さは、グリッパの移動を規制する溝に応じて調整する必要はない。よって、第1の構成に係る金属管は、製造プロセスを煩雑にすることなく、簡易に製造することができる。
【0016】
管端部は、複数の上記溝を有していてもよい。これらの溝は、管端部の外面において平行に配置されていることが好ましい(第2の構成)。
【0017】
第2の構成によれば、管端部の外面には、周方向に延びる溝が複数形成されている。これにより、引抜加工時においてグリッパの歯の移動をより確実に規制することができる。よって、管端部に対するグリッパの滑りをさらに低減することができる。
【0018】
金属管は、二相ステンレス鋼管であってもよい。この二相ステンレス鋼管は、質量%で、C:0.008~0.03%、Si:0~1%、Mn:0.1~2%、Cr:20~35%、Ni:3~10%、Mo:0~5%、W:0~6%、Cu:0~3%、及び、N:0.15~0.40%を含有し、残部がFe及び不純物からなる化学組成を有することができる(第3の構成)。
【0019】
実施形態に係る製造方法は、引抜加工に供される金属管の製造方法である。製造方法は、工程a)と、工程b)と、工程c)と、を備える。工程a)では、金属の素管を準備する。工程b)では、素管の管端部を、金属のσ相析出温度域未満の温度に加熱する。工程c)では、加熱された管端部を外周側から加圧することにより、管端部を縮径させるとともに、管端部の外面に素管の周方向に延びる溝を形成する。工程c)では、素管の軸方向において管端部の基端から縮径後の管端部の外径の0.14倍以上離れた位置に、溝を形成する(第4の構成)。
【0020】
第4の構成に係る製造方法では、工程c)で素管の管端部を加圧して縮径する際、管端部の外面に対し、周方向に延びる溝が付与される。この製造方法で製造された金属管が引抜加工に供された際、管端部の溝にグリッパの歯が引っ掛かり、金属管の軸方向におけるグリッパの移動が規制される。よって、管端部に対するグリッパの滑りを低減することができる。その結果、グリッパの歯の鈍りが抑制され、グリッパを長寿命化することができる。
【0021】
第4の構成において、グリッパの移動を規制する溝は、縮径された管端部の基端から所定距離以上離れた位置に設けられる。そのため、管端部の基端に溝が重ならず、管端部の基端における応力集中を抑制することができる。よって、引抜加工の際に管端部が基端から破断するのを防止することができる。
【0022】
第4の構成では、工程c)において、管端部が縮径されると同時に、その外面に溝が形成される。すなわち、グリッパの移動を規制する溝を口絞り加工の工程c)で形成することができるため、溝を形成するための工程を別途設ける必要がない。よって、第4の構成によれば、引抜加工に供される金属管を簡易に製造することができる。
【0023】
第4の構成によれば、工程b)では、素管を構成する金属のσ相析出温度域未満の温度に管端部が加熱される。このため、素管にσ相が析出しない。よって、この素管から製造された金属管について、σ相を消去するための熱処理を省略することができる。
【0024】
工程c)では、管端部の外面に、複数の上記溝を平行に形成してもよい(第5の構成)。
【0025】
第5の構成によれば、管端部の外面には、周方向に延びる溝が複数形成される。これにより、引抜加工時においてグリッパの歯の移動をより確実に規制することができる。よって、管端部に対するグリッパの滑りをさらに低減することができる。
【0026】
素管は、二相ステンレス鋼管であってもよい。この二相ステンレス鋼管は、質量%で、C:0.008~0.03%、Si:0~1%、Mn:0.1~2%、Cr:20~35%、Ni:3~10%、Mo:0~5%、W:0~6%、Cu:0~3%、及び、N:0.15~0.40%を含有し、残部がFe及び不純物からなる化学組成を有することができる。この場合、工程b)では、管端部を560℃以上、730℃以下の温度に加熱する(第6の構成)。
【0027】
二相ステンレス鋼では、通常の熱間温度域よりも低い温度域でσ相が析出する。このため、口絞り加工を施す素管が二相ステンレス鋼管である場合には、σ相の析出を抑制する目的で、通常よりも低い温度に管端部が加熱される場合がある。例えば、一般的な口絞り加工では管端部が1200℃程度に加熱されるのに対し、二相ステンレス鋼の素管の場合、管端部が700℃程度に加熱される。しかしながら、管端部の温度が低い状態で管端部を縮径加工すると、加工硬化が発生して管端部の硬度が高くなるとともに、管端部の延性が低下する。管端部の硬度が高い場合、管端部にグリッパが噛み込みにくくなり、引抜加工時において管端部に対するグリッパの滑りが発生する。管端部の延性が低い場合、引抜加工時に管端部が基端から破断することがある。
【0028】
これに対して、第6の構成によれば、素管が二相ステンレス鋼管であっても、引抜加工時におけるグリッパの滑り及び管端部の破断を抑制することができる。すなわち、第6の構成では、二相ステンレス鋼管の管端部を比較的低い温度で縮径加工するため、加工硬化が生じ得る。ただし、引抜加工時には管端部の溝にグリッパの歯を引っ掛けることができるため、グリッパの滑りが抑制される。また、管端部の基端及びその近傍には溝が形成されず、引抜加工時において管端部の基端で応力が増大しないため、管端部の破断を抑制することができる。
【0029】
第6の構成において、二相ステンレス鋼の素管の管端部は、560℃以上、730℃以下の温度に加熱される。この温度は、上記化学組成を有する二相ステンレス鋼のσ相析出温度域未満の温度である。このため、σ相を実質的に析出させずに、引抜加工に供するための金属管を製造することができる。
【0030】
実施形態に係る金属管の製造方法は、第1~第3の構成のいずれかを有する金属管を準備する工程と、金属管をダイスに通し、内面に複数の歯を有するグリッパで管端部を把持して、金属管をダイスから引き抜く工程と、を備える(第7の構成)。
【0031】
第7の構成では、金属管に引抜加工が施される。引抜加工の素材としての金属管は、管端部の外面において、周方向に延びる溝を有する。この溝にグリッパの歯を引っ掛けることができるため、管端部に対し、金属管の軸方向にグリッパが滑るのを低減することができる。
【0032】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。各図において同一又は相当の構成については同一符号を付し、同じ説明を繰り返さない。
【0033】
[口絞り金属管]
図1は、実施形態に係る金属管10の斜視図である。図2は、金属管10の縦断面図である。金属管10の縦断面とは、金属管10の中心軸X1を含む平面で金属管10を切断した断面をいう。中心軸X1に対して垂直な断面は横断面である。以下、中心軸X1が延びる方向を軸方向といい、金属管10の半径方向及び周方向を単に半径方向及び周方向という。
【0034】
図1及び図2を参照して、金属管10は、引抜加工に供される口絞り金属管である。金属管10は、管本体11と、テーパ部12と、管端部13と、を備える。管本体11、テーパ部12、及び管端部13は、軸方向においてこの順で配置されている。
【0035】
図2を参照して、管本体11は、金属管10の主要部である。管本体11は、実質的に中心軸X1を軸心とする円筒形をなす。管本体11は、外径d11[mm]を有する。
【0036】
テーパ部12は、管本体11と管端部13とを接続する。テーパ部12の形状は、実質的に、中心軸X1を軸心とする中空円すい台状である。テーパ部12は、管端部13に向かって縮径する。
【0037】
金属管10の縦断面視で、テーパ部12の外面121は、中心軸X1に対して傾斜する傾斜面である。中心軸X1に対する外面121の角度は、引抜加工の条件等に応じ、適宜決定することができる。外面121の両端は、それぞれ、管本体11の外面111及び管端部13の外面131に接続される。外面121は、外面111及び/又は外面131に対し、直接接続されていてもよいし、曲面を介して接続されていてもよい。
【0038】
管端部13は、金属管10において軸方向の一端部を構成する。管端部13は、中心軸X1を軸心とする概略円筒形をなす。管端部13は、その外面131において、ストレート部132と、複数の溝133と、を有する。
【0039】
ストレート部132は、テーパ部12に隣接して配置される。ストレート部132は、管端部13の外面131のうち、実質的に凹凸が存在しない部分である。ストレート部132は、金属管10の縦断面視で概ね直線状をなす。ストレート部132は、直径d13[mm]を有する。本実施形態では、このストレート部132の直径d13を管端部13の外径として取り扱う。管端部13の外径d13は、管本体11の外径d11よりも小さい。
【0040】
本実施形態において、管端部13の形状は、実質的に円筒形状である。ただし、管端部13の形状は、これに限定されるものではない。管端部13が円筒形状をなさず、ストレート部132の直径を定義することが難しい場合、中心軸X1に対して垂直な方向におけるストレート部132の最大長さを、管端部13の外径d13とする。
【0041】
複数の溝133は、管端部13の外面131に形成され、半径方向の内側に向かって凹の形状をなす。溝133の各々は、周方向に延びている。より具体的には、溝133の各々は、管端部13の全周にわたって延びる環状溝である。本実施形態において、各溝133は、管端部13の全周にわたり連続する。ただし、各溝133は、一箇所以上で途切れていてもよい。すなわち、各溝133は、管端部13を断続的に周回することもできる。
【0042】
複数の溝133は、略平行に配置されている。溝133は、概ね一定のピッチp13[mm]で軸方向に配列される。溝133の深さz13[mm]は、特に限定されるものではないが、例えば、0.5mm以上、4mm以下である。
【0043】
複数の溝133とテーパ部12との間には、ストレート部132が介在する。溝133は、管端部13の基端から軸方向に所定の距離L[mm]だけ離れて配置されている。距離Lは、管端部13の外径d13の0.14倍以上に設定される(L≧0.14×d13)。より好ましくは、距離Lは、外径d13の0.18倍以上である(L≧0.18×d13)。
【0044】
管端部13の基端は、金属管10の縦断面視において、テーパ部12の外面121の延長線e12と、ストレート部132の延長線e13との交点を通り、中心軸X1に直交する仮想的な直線b13で表すことができる。管端部13の基端b13は、テーパ部12と管端部13との境界ともいえる。距離Lは、金属管10の縦断面視で、基端b13から、複数の溝133のうち最もテーパ部12に近い溝133までの軸方向の長さである。
【0045】
金属管10の材質は、特に限定されるものではないが、例えば、二相ステンレス鋼であってもよい。金属管10が二相ステンレス鋼管である場合、金属管10は、以下の元素を含有する。本実施形態において、元素の含有量の単位:%は、質量%を意味する。
【0046】
C:0.008~0.03%
炭素(C)は、鋼中のオーステナイト相を安定化する。ただし、C含有量が多すぎる場合、粗大な炭化物が析出しやすくなり、鋼の耐食性、特に耐SCC性が低下する。したがって、C含有量は、0.008~0.03%である。
【0047】
Si:0~1%
シリコン(Si)は、任意元素である。Siは、鋼を脱酸し、鋼の耐食性を高める。ただし、Si含有量が多すぎる場合、オーステナイト相の安定性が低下し、延性が低下する。したがって、Si含有量は、0~1%である。
【0048】
Mn:0.1~2%
マンガン(Mn)は、鋼を脱酸するとともに、オーステナイト相を安定化する。また、Mnは、σ相の析出を抑制しつつ、鋼の強度を高める。ただし、Mn含有量が多すぎる場合、鋼の耐食性が低下する。したがって、Mn含有量は、0.1~2%である。
【0049】
Cr:20~35%
クロム(Cr)は、鋼の耐食性を高める。ただし、Cr含有量が多すぎる場合、σ相に代表される金属間化合物が顕著に析出し、鋼の熱間加工性が低下する。したがって、Cr含有量は、20~35%である。
【0050】
Ni:3~10%
ニッケル(Ni)は、オーステナイト相を安定化し、鋼の耐食性を高める。ただし、Ni含有量が多すぎる場合、二相ステンレス鋼中のフェライト相の割合が減少する。さらに、σ相に代表される金属間化合物が顕著に析出する。したがって、Ni含有量は、3~10%である。
【0051】
Mo:0~5%
モリブデン(Mo)は、任意元素である。Moは、鋼の耐食性及び強度を高める。ただし、Mo含有量が多すぎる場合、σ相に代表される金属間化合物が顕著に析出する。したがって、Mo含有量は、0~5%である。
【0052】
W:0~6%
タングステン(W)は、任意元素である。Wは、鋼の耐食性を高める。ただし、W含有量が多すぎる場合、σ相に代表される金属間化合物が顕著に析出する。したがって、W含有量は、0~6%である。
【0053】
Cu:0~3%
銅(Cu)は、任意元素である。Cuは、オーステナイト相を安定化する。また、Cuは、フェライト相及びオーステナイト相の境界におけるσ相の生成を抑制する。Cuはさらに、鋼の強度を高める。ただし、Cu含有量が多すぎれば、鋼の熱間加工性が低下する。したがって、Cu含有量は、0~3%である。
【0054】
N:0.15~0.40%
窒素(N)は、オーステナイト相を安定化する。Nは、二相ステンレス鋼の熱的安定性、強度及び耐食性を高める。ただし、N含有量が多すぎる場合、溶接欠陥であるブローホールが発生しやすくなる。さらに、溶接時の熱影響により粗大な窒化物が生成され、鋼の靭性及び耐食性が低下する。したがって、N含有量は、0.15~0.40%である。
【0055】
二相ステンレス鋼管である金属管10の残部は、鉄(Fe)及び不純物からなる。不純物とは、意図せず金属管10に含まれた元素を意味し、金属管10に悪影響を与えない範囲で許容される。不純物は、鋼の原料として利用される鉱石、スクラップ、又は製造の環境等から金属管10に混入する。不純物は、例えば、燐(P)、硫黄(S)、アルミニウム(Al)等である。
【0056】
[口絞り金属管の製造方法]
次に、金属管10を製造する方法について説明する。金属管10の製造方法は、素管を準備する工程a)と、素管の管端部を加熱する工程b)と、素管の口絞り加工を行う工程c)とを備える。図3A図3Eは、工程a)~工程c)を説明するための模式図である。
【0057】
工程a)
図3Aを参照して、工程a)では、金属の素管20を準備する。素管20は、例えば、マンネスマン製管法、又はユジーン・セジェルネ製管法等といった公知の製管法で継目無金属管を成形し、所定の長さに切断することで得られる。
【0058】
素管20は、例えば、二相ステンレス鋼管である。この場合、素管20の化学組成は、C:0.008~0.03%、Si:0~1%、Mn:0.1~2%、Cr:20~35%、Ni:3~10%、Mo:0~5%、W:0~6%、Cu:0~3%、及び、N:0.15~0.40%を含有し、残部がFe及び不純物からなる。
【0059】
工程b)
工程b)では、素管20の管端部23を加熱する。素管20の管端部23は、金属管10の管端部13(図2)に相当する部分である。管端部23は、公知の加熱炉又は加熱装置を用い、σ相析出温度域未満の温度に加熱される。σ相析出温度域は、素管20においてσ相が析出する温度の範囲であり、素管20の材質及び温度保持時間に応じて定まる。工程b)では、素管20の材質と、管端部23が高温に保持される時間(金属管10の製造に要する時間)とに基づいてσ相析出温度域を導出し、このσ相析出温度域の下限値よりも低い温度に管端部23を加熱する。
【0060】
素管20が上記化学組成を有する二相ステンレス鋼管である場合、工程b)では、管端部23を560℃以上、730℃以下の温度に加熱する。管端部23の温度を730℃以下とすれば、管端部23におけるσ相の析出を抑制することができる。管端部23の温度を560℃以上とすれば、次工程c)における管端部23の加工性を確保することができる。
【0061】
工程c)
工程c)では、素管20に対して口絞り加工を施して金属管10(図2)に成形する。
【0062】
図3B及び図3Cを参照して、まず、口絞り加工に用いられる加工装置30について説明する。図3B及び図3Cでは、加工装置30とともに素管20を示す。図3Bは、素管20の中心軸X2に沿って素管20及び加工装置30を見た図である。図3Cは、素管20及び加工装置30の縦断面図である。ここでの縦断面とは、中心軸X2を含む平面で切断したときの断面をいう。
【0063】
図3Bに示すように、加工装置30は、複数のダイス31を有する。ダイス31は、素管20の周方向において、実質的に等間隔に配置される。ダイス31は、素管20の半径方向において、往復動可能に構成されている。これらのダイス31の内側に、加熱された管端部23が配置される。
【0064】
図3Cに示すように、ダイス31の各々は、加圧面311と、テーパ面312と、を有する。加圧面311は、素管20の管端部23を加圧するための面であり、管端部23の外面231に対向する。テーパ面312は、加圧面311に直接、又は曲面を介して接続される。テーパ面312は、加圧面311から素管20の入り側に向かって拡径する。
【0065】
加圧面311には、複数の突起313が形成されている。突起313の各々は、加圧面311から管端部23の外面231に向かって突出し、高さz31[mm]を有する。各突起313は、素管20の周方向に延びている。複数の突起313は、略平行に配置される。突起313は、概ね一定のピッチp31[mm]で素管20の軸方向に沿って配列されている。
【0066】
加圧面311において、テーパ面312の近傍部分には、突起313が形成されていない。すなわち、加圧面311のうちテーパ面312の近傍部分は、実質的にフラットな形状を有する。
【0067】
引き続き図3Cを参照して、加工装置30の動作を説明する。加工装置30によって口絞り加工を行う際、素管20の管端部23は、テーパ面312側から複数のダイス31の内側に挿入される。管端部23が所定の位置に配置されたら、素管20に各ダイス31を接近させる。これにより、各ダイス31の加圧面311が管端部23を外周側から加圧し、管端部23を縮径させる。これと同時に、加圧面311に形成された突起313の形状が管端部23の外面231に転写される。
【0068】
工程c)において、互いに隣り合うダイス31の間から素管20の材料が噛み出す場合には、ダイス31又は素管20を中心軸X2周りに回転させてもよい。すなわち、ダイス31によって素管20の管端部23を加圧した後、ダイス31を管端部23から一旦後退させる。次に、ダイス31又は素管20を中心軸X2周りに若干回転させ、管端部23において材料が噛み出している部分をダイス31の加圧面311に対向させる。この状態で、ダイス31を管端部23に再度接近させ、管端部23を加圧する。これにより、管端部23の外面231の形状を矯正することができる。この矯正作業は、必要に応じ、複数回実施してもよい。
【0069】
図3Dを参照して、工程c)では、ダイス31及び素管20を軸方向に相対移動させてもよい。例えば、素管20の軸方向において、縮径を要する管端部23の長さがダイス31の長さよりも長い場合、ダイス31又は素管20を軸方向に移動させる。すなわち、ダイス31によって管端部23の一部を加圧して縮径させた後、ダイス31を管端部23から一旦後退させる。次に、ダイス31又は素管20を中心軸X2に沿って移動させ、管端部23の残りの部分をダイス31によって加圧する。このとき、管端部23において、先の加圧の際にダイス31の突起313が形成した溝133を後の加圧で潰さないように、ダイス31及び素管20の相対移動量F[mm]を制御することが好ましい。ダイス31及び素管20を軸方向に相対移動させる回数は、縮径させるべき管端部23の長さに応じ、適宜決定することができる。
【0070】
管端部23を所定の外径まで圧縮したら、各ダイス31を後退させる。これにより、図3Eに示すように、引抜加工に供される金属管10が成形される。
【0071】
ダイス31の加圧面311及びテーパ面312により、金属管10には、小径の管端部13、及び管端部13に続くテーパ部12が形成される。管端部13の外面131には、加圧面311の突起313により、溝133が形成される。ただし、加圧面311のうちテーパ面312の近傍部分には突起313が存在しないため、管端部13の外面131のうちテーパ部12の近傍部分は、溝133が存在しないストレート部132となる。
【0072】
溝133は、突起313のピッチp31と概ね等しいピッチp13で、管端部13の外面131に形成されている。溝133の深さz13は、ダイス31の突起313の高さz31以下である。管端部13の基端b13と溝133との軸方向の距離Lは、縮径後の管端部13の外径d13の0.14倍以上であり、好ましくは0.18倍以上である。
【0073】
工程a)~工程c)を経て製造された金属管10は、例えば放冷により、常温まで冷却される。その後、金属管10は、引抜加工に供される。
【0074】
[金属管の製造方法]
次に、金属管10を素材として新たな金属管を製造する方法について説明する。この製造方法は、口絞り金属管10を準備する工程と、準備された金属管10を引抜加工する工程と、を備える。図4は、金属管10の引抜加工に用いられる引抜装置40の模式図である。図5は、引抜装置40の部分拡大図である。
【0075】
引抜装置40は、金属管の引抜加工に一般に用いられる引抜装置と同様である。このため、引抜装置40の構成及び動作については簡単に説明する。図4を参照して、引抜装置40は、一般的な引抜装置と同様、ダイス41と、グリッパ42と、キャリッジ43と、移動機構44と、を備える。
【0076】
引抜加工に際し、金属管10は、ダイス41に通される。この金属管10内には、図示しないプラグが挿入されている。グリッパ42は、ダイス41に通された金属管10の管端部13を把持する。
【0077】
図5において、グリッパ42及び管端部13の縦断面を拡大して示す。図5に示すように、グリッパ42は、その内面に複数の歯421を有する。歯421の各々は、管端部13の周方向に沿って延びている。複数の歯421は、概ね一定のピッチp42で配列されている。複数の歯421のうち、少なくとも一部の歯421の先端は、管端部13の溝133内に配置される。
【0078】
図4に戻り、グリッパ42は、キャリッジ43に取り付けられている。移動機構44は、例えば無端チェーンであり、キャリッジ43を移動させる。キャリッジ43は、移動機構44上を走行して、グリッパ42とともにダイス41から遠ざかる。金属管10の管端部13を把持したグリッパ42がダイス41から遠ざかることにより、ダイス41から金属管10が引き抜かれる。金属管10の管本体11は、ダイス41及びプラグ(図示略)により、最終製品の外径及び肉厚に整えられる。これにより、実質的に最終製品の形状を有する金属管が製造される。
【0079】
[実施形態の効果]
本実施形態では、口絞り金属管10の管端部13の外面131に、周方向に延びる溝133が設けられている。このため、金属管10が引抜加工に供され、管端部13がグリッパ42によって把持されたとき、グリッパ42の歯421を溝133に引っ掛けることができる。これにより、引抜加工の際、管端部13に対してグリッパ42が軸方向に滑るのを抑制することができる。その結果、グリッパ42の歯421に摩耗や欠け等が生じにくくなり、グリッパ42を長寿命化することができる。
【0080】
本実施形態では、管端部13の外面131に複数の溝133が形成される。引抜加工の際には、これらの溝133に対し、グリッパ42の歯421を確実に引っ掛けることができる。ただし、管端部13の外面131には、単一の溝133が設けられていてもよい。溝133の数は、金属管10の材質やグリッパ42の構成等を考慮して、適宜決定することができる。
【0081】
本実施形態において、溝133は、管端部13の基端b13及びその近傍には設けられていない。溝133は、管端部13の基端b13から軸方向に距離Lだけ離れた位置に配置される。距離Lは、管端部13の外径d13の0.14倍以上である。これにより、元々応力集中が生じやすい管端部13の基端b13に溝133が重ならないため、引抜加工の際、金属管10の外面において基端b13及びその近傍で引張応力が増大するのを抑制することができる。よって、管端部13が基端b13から破断するのを防止することができる。
【0082】
本実施形態では、口絞り加工の工程c)において、小径の管端部13を成形すると同時に溝133を形成する。このため、管端部13に溝133を付与するにもかかわらず、工程数が増加しない。また、溝133に応じて管端部13の長さ等を調整する必要がないため、金属管10の製造プロセスが煩雑になりにくい。よって、引抜加工に供される金属管10を簡易に製造することが可能である。
【0083】
本実施形態において、素管20から口絞り金属管10を製造する際、素管20の管端部23はσ相析出温度域未満の温度に加熱される。これにより、管端部23におけるσ相の析出を抑制することができる。よって、σ相を消去するための熱処理工程を省略することができ、金属管10の製造プロセスが簡易になる。
【0084】
本実施形態では、金属管10の素材である素管20を二相ステンレス鋼管とすることができる。この場合、素管20の管端部23は、σ相を析出させないよう、560℃以上、730℃以下の温度に加熱される。このように、管端部23の温度が低い場合、工程c)では、縮径加工される管端部23において加工硬化が発生し得る。ただし、この加工硬化が金属管10の管端部13に承継されていたとしても、引抜加工では、管端部13に存在する溝133により、グリッパ42が管端部13を把持することができる。すなわち、管端部13が高硬度である場合にも、管端部13に対するグリッパ42の滑りを抑制することができる。
【0085】
二相ステンレス鋼の素管20の管端部23が560℃以上、730℃以下の温度に加熱され、口絞り加工が行われる場合、素管20の延性も低下する。よって、素管20から製造された金属管10を引抜加工する際、管端部13の破断が生じやすい。ただし、本実施形態では、管端部13の基端b13及びその近傍に溝133を形成せず、基端b13及びその近傍での応力集中を抑制している。そのため、溝133が設けられない従来の口絞り金属管と比較して、管端部13の破断が特別生じやすくなることもない。
【0086】
工程c)において、ダイス31又は素管20を軸方向に移動させながらダイス31の突起313で溝133を形成する場合、ダイス31及び素管20の軸方向の相対移動量Fは、グリッパ42の歯421のピッチp42の自然数倍であることが好ましい(F=n×p42(n=1,2,3・・・))。これにより、グリッパ42の歯421と管端部13の溝133との位相ずれが防止される。よって、引抜加工時において、より確実にグリッパ42の歯421を管端部13の溝133内に配置することができる。その結果、管端部13に対するグリッパ42の滑りをさらに低減することが可能となる。
【0087】
以上、本開示に係る実施形態について説明したが、本開示は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【実施例
【0088】
以下、実施例によって本開示をさらに詳しく説明する。ただし、本開示は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0089】
[第1実施例]
グリッパの滑りを低減する溝の適切な位置を検証するため、有限要素法(FEM)による数値解析を実施した。FEM解析では、上記実施形態で説明した口絞り金属管10と同一形状を有する解析モデルを作成し、溝133の位置を変更しながら、引抜加工時の応力状態を調査した。FEM解析では、金属管10の引張強さを1100[MPa]とした。比較のため、管端部13に溝133が存在しない場合についても、引抜加工時の応力状態を調査した。
【0090】
解析モデルは、対称性を考慮し、周方向1/16モデルとした。この解析モデルにおいて、管端部13の基端b13を固定した状態で管端部13の先端に350トン(t)の引抜荷重を付与し、軸方向における引張応力の最大値(最大引張応力)を計算した。FEM解析の条件及び結果を表1に示す。
【0091】
【表1】
【0092】
表1に示すように、管端部13の基端b13から溝133までの距離(溝133の開始位置)L[mm]を管端部13の外径d13[mm]で除し、パラメータ:L/d13と最大引張応力との関係を整理した。図6は、L/d13と最大引張応力との関係を示すグラフである。
【0093】
表1及び図6からわかるように、L/d13が0.14以上であれば、最大引張応力が金属管10の引張強さ未満となる。L/d13が0.18以上の場合、最大引張応力は、溝133が設けられない場合の最大引張応力とほぼ同程度まで低下する。
【0094】
この結果より、管端部13の基端b13から溝133までの距離Lを管端部13の外径d13の0.14倍以上とすることで(L≧0.14×d13)、引抜加工時の管端部13の破断を抑制することができるといえる。管端部13の破断をより確実に抑制するためには、距離Lが外径d13の0.18倍以上であることが好ましい(L≧0.18×d13)。
【0095】
[第2実施例]
本開示による効果を確認するため、口絞り金属管の引抜試験を実施した。すなわち、複数種類の口絞り金属管を準備し、実際の引抜装置でこれらの金属管を引抜加工して管端部における破断の発生を調査した。また、金属管の種類ごとに引抜可能な本数を調査した。具体的には、金属管の種類ごとに、何らかの問題が発生して引抜試験を中断又は中止せざるを得なくなるまで引抜加工を実施し、引抜不能となった時点までの引抜本数を寿命本数とした。引抜試験の条件及び結果を表2に示す。
【0096】
【表2】
【0097】
表2に示すように、実施例2-1及び実施例2-2の引抜試験で用いた金属管は、上記実施形態に係る口絞り金属管10と同様、管端部13に溝133を有し、L≧0.14×d13の条件を満たす。実施例2-1の金属管の材質は、二相ステンレス鋼である。実施例2-2の金属管の材質は、オーステナイト系ステンレス鋼(単相)である。
【0098】
比較例2-1の引抜試験で用いた金属管は、管端部13に溝133を有するが、Lがd13の0.06倍であり、L≧0.14×d13の条件を満たさない。比較例2-2の引抜試験で用いた金属管は、管端部13に溝133を有しない。比較例2-1及び比較例2-2の金属管の材質は、実施例2-1と同様、二相ステンレス鋼である。
【0099】
実施例2-1及び実施例2-2では、管端部13に溝133を有する金属管を用いて引抜試験を実施した。実施例2-1では、準備した54本の金属管全てについて引抜加工を実施することができた。また、実施例2-2では、準備した81本の金属管全てについて引抜加工を実施することができた。よって、実施例2-1の寿命本数は54本以上、実施例2-2の寿命本数は81本以上である。一方、管端部13に溝133が存在しない金属管を用いた比較例2-2では、最短で4本目、平均で20本目の金属管でグリッパが管端部13に対して滑り、引抜不能となった。すなわち、比較例2-2の寿命本数は4~20本であった。
【0100】
このように、管端部13に溝133を有する金属管を用いた実施例2-1及び実施例2-2では、管端部13に溝133が存在しない金属管を用いた比較例2-2と比較して、グリッパが寿命に到達するまでの引抜本数(寿命本数)が有意に増加した。よって、口絞り金属管の管端部13に溝133を設けることにより、グリッパを長寿命化することができることがわかる。
【0101】
実施例2-1及び実施例2-2では、溝133が適切な位置に配置された金属管、すなわち、L≧0.14×d13を満たす金属管を用いて引抜試験を実施した。一方、比較例2-1の引抜試験では、L<0.14×d13である金属管が用いられている。この比較例2-1の引抜試験では、12本目の金属管において管端部13が根本から割れたのに対し、実施例2-1及び実施例2-2の引抜試験では、そのような割れは発生しなかった。この結果から、L≧0.14×d13を満たすように溝133を配置することで、引抜加工時における管端部13の破断を防止することができるといえる。
【符号の説明】
【0102】
10:金属管
11:管本体
12:テーパ部
13:管端部
131:外面
133:溝
20:素管
23:管端部
231:外面
41:ダイス
42:グリッパ
421:歯
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図3D
図3E
図4
図5
図6