(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-18
(45)【発行日】2023-04-26
(54)【発明の名称】溶融亜鉛めっき鋼板
(51)【国際特許分類】
C23C 2/26 20060101AFI20230419BHJP
C23C 2/06 20060101ALI20230419BHJP
C23C 2/40 20060101ALI20230419BHJP
【FI】
C23C2/26
C23C2/06
C23C2/40
(21)【出願番号】P 2019098687
(22)【出願日】2019-05-27
【審査請求日】2022-01-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】橋本 茂
【審査官】▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-277454(JP,A)
【文献】特開平10-265931(JP,A)
【文献】特開2004-027285(JP,A)
【文献】特開平02-267014(JP,A)
【文献】特開平04-056612(JP,A)
【文献】特開2011-168102(JP,A)
【文献】特開平03-031463(JP,A)
【文献】特開昭62-107052(JP,A)
【文献】特表2018-538446(JP,A)
【文献】特開2000-248382(JP,A)
【文献】特開2005-089848(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2011-0126462(KR,A)
【文献】韓国公開特許第10-2015-0074969(KR,A)
【文献】特開平08-176777(JP,A)
【文献】特開昭62-253757(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 2/00-2/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板と、
前記鋼板の表面の少なくとも一部に設けられためっき層と、
を備え、
前記めっき層は、第1領域と、前記第1領域の静摩擦係数よりも小さい静摩擦係数を有する第2領域とを備
え、
前記第1領域の静摩擦係数は、0.3以上であり、
前記第2領域の静摩擦係数は、0.2未満である、
溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項2】
人又は車両が通る通路として用いられ、
前記第1領域は、前記鋼板の幅方向又は長さ方向に所定の間隔で、前記人又は前記車両の滑り止めのために設けられる、
請求項
1に記載の溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項3】
階段の踏面部に用いられ、
前記第1領域は、前記踏面部における角側の端縁に沿って設けられる、
請求項
1に記載の溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項4】
前記溶融亜鉛めっき鋼板は、ボルト又はねじを通すための孔が設けられる予定の位置を有し、
前記第1領域は、前記予定の位置に前記孔が形成された後、前記ボルト又は前記ねじが前記孔に通される際に、前記ボルト、前記ボルトと対になるナット、前記ボルトに締め付けられるワッシャー又は前記ねじの頭部の少なくともいずれかが前記めっき層に接触し得る領域の少なくとも一部に設けられる、
請求項
1に記載の溶融亜鉛めっき鋼板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融亜鉛めっき鋼板に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鋼板には、防錆の観点から、めっき処理が施される。例えば、特許文献1には、Al又はMg等を含み、残部がZn及び不純物からなるめっき層が設けられためっき鋼板が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
めっき鋼板が、歩行者等が通る通路として用いられる場合には、歩行者等が当該通路で滑らないようにするための工夫が求められている。例えば、めっき鋼板の表面にブラスト加工等を施し、めっき鋼板の静摩擦係数を上げることが考えられる。しかし、めっき鋼板の全面にブラスト加工が施されると、排水性が低下し、めっき鋼板の耐腐食性が部分的に悪化する。
【0005】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、排水性が良好であり、滑り止め機能を有する溶融亜鉛めっき鋼板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、鋼板と、前記鋼板の表面の少なくとも一部に設けられためっき層と、を備え、前記めっき層は、第1領域と、前記第1領域の静摩擦係数よりも小さい静摩擦係数を有する第2領域とを備え、前記第1領域の静摩擦係数は、0.3以上であり、前記第2領域の静摩擦係数は、0.2未満である、溶融亜鉛めっき鋼板が提供される。
【0008】
人又は車両が通る通路として用いられる溶融亜鉛めっき鋼板であって、前記第1領域は、前記鋼板の幅方向又は長さ方向に所定の間隔で、前記人又は前記車両の滑り止めのために設けられてもよい。
【0009】
階段の踏面部に用いられる溶融亜鉛めっき鋼板であって、前記第1領域は、前記踏面部における角側の端縁に沿って設けられてもよい。
【0010】
前記溶融亜鉛めっき鋼板は、ボルト又はねじを通すための孔が設けられる予定の位置を有し、前記第1領域は、前記予定の位置に前記孔が形成された後、前記ボルト又はねじが前記孔に通される際に、前記ボルト、前記ボルトと対になるナット、前記ボルトに締め付けられるワッシャー又は前記ねじの頭部の少なくともいずれかが前記めっき層に接触し得る領域の少なくとも一部に設けられてもよい。
【発明の効果】
【0011】
以上説明したように本発明によれば、排水性が良好であり、滑り止め機能を有する溶融亜鉛めっき鋼板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態に係る溶融亜鉛めっき装置の概略構成を示す模式図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る溶融亜鉛めっき装置が備える水吹付ノズルの概略構成の一例を示す模式図である。
【
図3】制御装置の構成を示す機能ブロック図である。
【
図4】溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法を示すフローチャート図である。
【
図5】ガスワイピング工程と水吹付工程におけるめっき層の様子を示す図である。
【
図6】複数の水吹付ノズルがめっき層に水滴を吹き付けている様子を示す図である。
【
図7】複数の水吹付ノズルによりめっき層に凹凸が設けられためっき鋼板を、水吹付ノズルからめっき鋼板の向きに見た図である。
【
図8】複数の水吹付ノズルが互いに異なるタイミングで水滴をめっき層に吹き付けている様子を示す図である。
【
図9】車両が通行するスロープに用いられるめっき鋼板の一例を示す図である。
【
図10】車両が通行するスロープに用いられるめっき鋼板の一例を示す図である。
【
図11】本発明の一実施形態に係るめっき鋼板の製造方法により製造される、階段用のめっき鋼板を示す図である。
【
図12】本発明の一実施形態に係るめっき鋼板を用いて製造された階段を示す図である。
【
図13】ボルト孔が設けられる予定のめっき鋼板を示す図である。
【
図14】
図13に示す第1領域に含まれる領域Yの一部を拡大した図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0014】
<1.溶融亜鉛めっき装置>
まず、
図1~3を参照しながら、本発明の実施形態に係る溶融亜鉛めっき装置1について説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る溶融亜鉛めっき装置1の概略構成を示す模式図である。
図2は、本発明の一実施形態に係る溶融亜鉛めっき装置1が備える水吹付ノズル20の概略構成の一例を示す模式図である。
【0015】
図1に示されるように、溶融亜鉛めっき装置1は、鋼板2を、溶融金属を満たしためっき浴3に連続的に浸漬することにより、鋼板2の表面に溶融金属を付着させた後、鋼板2の表面に付着した溶融金属膜の膜厚を調節し、さらに、鋼板2の表面に付着しためっき層に凹凸を形成する装置である。溶融亜鉛めっき装置1は、めっき槽4と、スナウト5と、シンクロール6と、上下一対のサポートロール7、8と、トップロール9と、ガスワイピングノズル10と、水吹付ノズル20と、制御装置30とを備える。
【0016】
鋼板2は、溶融金属によるめっき処理が施される対象となる金属帯である。めっき浴3は、Znを主成分とするZnめっき浴であり、例えば、Alを4質量%以上22質量%以下、Mgを1.0質量%以上10質量%以下含有するZnめっき浴である。上記のようにAl及びMgが含有されためっき浴3を用いることにより、めっき鋼板の耐食性や外観を向上させることができる。
【0017】
また、本実施形態に係る溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法により製造される溶融亜鉛めっき鋼板のめっき層は、平均組成で、Al:4~22質量%、Mg:1~10質量%を含有し、残部がZnおよび不純物を含む。このように、めっき層にAl及びMgが含有されることにより、めっき鋼板の耐食性や外観を向上させることができる。なお、めっき層は、Zn、Al及びMg以外の他の元素を含有してもよい。例えば、めっき層は、Siを0.001質量%以上1.000質量%以下含有することが好ましい。それにより、めっき層と鋼板2との密着性を向上させることができる。また、めっき層は、Ti、Nb、Fe、Ni、Cr、Sn、Mn又はBから選ばれる1種若しくは2種以上を、単独又は複合で、0.0001質量%以上1.0000質量%以下含有してもよく、その他の不純物を含有してもよい。不純物としては、例えば、Pb、Sb、Co、Cu、In、Bi、Be、Zr、Ca、Sr、Y、Ce、Hfが挙げられる。
【0018】
めっき槽4は、溶融金属からなるめっき浴3を貯留する。スナウト5は、上端が例えば焼鈍炉の出口側に接続され、下端がめっき浴3内に浸漬させて傾斜して設けられる。シンクロール6は、めっき浴3内の下方に配設される。シンクロール6は、サポートロール7、8よりも大きい直径を有する。シンクロール6は、鋼板2の搬送に伴って図示の時計回りに回転し、スナウト5を通ってめっき浴3内に斜め下方に向けて導入された鋼板2の搬送方向を、鉛直方向上方へ変更する。
【0019】
サポートロール7、8は、めっき浴3中のシンクロール6の上方に配設され、シンクロール6によって方向転換され、鉛直方向上方に引き上げられる鋼板2を鋼板2の厚み方向の両側から挟み込む。サポートロール7、8は、引き上げられる鋼板2の振動を抑制する。サポートロール7、8は、対にせずに1つだけであってもよいし、3つ以上設けられてもよい。あるいは、サポートロール7、8の配置が省略されていてもよい。トップロール9は、めっき浴3の上方であって、シンクロール6の上方に配設される。トップロール9は、鉛直方向上方に搬送される鋼板2の搬送方向を搬出方向へ変更する。
【0020】
ガスワイピングノズル10は、めっき浴3から引き上げられた鋼板2の表面の溶融金属の目付量を調節するためのものである。ガスワイピングノズル10は、めっき浴3から引き上げられた鋼板2の厚み方向の両側に1対設けられ、サポートロール7、8の上方、かつ、トップロール9の下方においてめっき浴3の浴面から所定の高さの位置に配設される。ガスワイピングノズル10は、めっき浴3から引き上げられた鋼板2にガス(例えば、窒素)を吹き付けることによって、鋼板2の表面に付着した溶融金属膜の膜厚を調節する。以下では、ガスワイピングノズル10から噴出されるガスをワイピングガスとも称する。
【0021】
具体的には、ガスワイピングノズル10の鋼板2側の端部である先端部には、鋼板2の板幅方向に延在するスリットが形成され、当該スリットからワイピングガスが噴出される。当該スリットは、鋼板2の板幅方向の両端部より外側まで延在して形成される。それにより、ワイピングガスは、鋼板2の板幅方向の全域に吹き付けられる。したがって、鋼板2の板幅方向の全域にわたって鋼板2の表面に付着した溶融金属膜の膜厚が調節される。
【0022】
水吹付ノズル20は、鋼板2の表面に付着した溶融金属膜に凹凸を形成するためのものである。水吹付ノズル20は、めっき浴3から引き上げられた鋼板2の厚み方向の両側に、鋼板2から所定の距離を空けて1対設けられ、ガスワイピングノズル10の上方、かつ、トップロール9の下方においてめっき浴3の浴面から所定の高さの位置に配設される。水吹付ノズル20は、溶融金属膜の膜厚がガスワイピングノズル10により調節された鋼板2に水滴を吹き付けることによって、鋼板2の表面に付着しためっき層の少なくとも一部に凹凸を形成する。
【0023】
このように、本実施形態では、水吹付ノズル20を用いてめっき鋼板に凹凸をつけることで、滑り止め機能を有するめっき鋼板を製造する。これに限らず、本発明に係るめっき鋼板は、ブラスト加工又はエッチングなどの各種の方法を用いてめっき鋼板の表面を加工することにより、めっき鋼板に滑り止め機能を付与されてもよい。
【0024】
なお、設けられる水吹付ノズル20の数は、上記の例に特に限定されない。2対以上の水吹付ノズル20が設けられてもよいし、鋼板2の片面のみに水吹付ノズル20が設けられてもよい。また、めっき層の一部に凹凸を形成する場合には、水吹付ノズル20から噴出される水滴が、当該凹凸が形成される部分に吹き付けられるように、水吹付ノズル20を設けられていてもよい。これにより、めっき層の一部に凹凸を形成することができる。
【0025】
図2に示されるように、水吹付ノズル20は、本体部21と、流路22と、噴出口23とを含む。本体部21は、例えば、円柱状であり、ステンレス鋼等を用いて形成され、本体部21には、水吹付ノズル20から噴出される水滴の形状及び分布を変えるための構造体(例えば、ノズルチップ)が入れられることもある。流路22は、図示しない外部タンクから供給される水の通路であり、本体部21の内部に本体部21の軸方向に延びて設けられる。噴出口23は、流路22を流れる水を水吹付ノズル20の外部へ噴出するための開口である。噴出口23は、本体部21の鋼板2側に設けられ、流路22と連通する。噴出口23の形状及び構造は多岐にわたる。どのような形状及び分布で対象物(本実施形態では鋼板2)に向けて水吹付ノズル20から水滴を噴出するかに応じて、噴出口23の形状及び構造が適宜調整される。
【0026】
水吹付ノズル20の基本的な構造では、流路22の噴出口23側の流路面積が、流路22の噴出口23側とは逆側の流路面積より小さくなることで、図示しない外部タンクから流路22へ供給された水が、流路22の噴出口23側で圧力及び流速が高められる。流速が高められた水は、噴出口23から水吹付ノズル20の外部へ噴出される。このとき、噴出口23から噴出される水は、空気による抵抗力及び水の噴出方向の剪断力と、水の表面張力とが釣り合うまで分裂することによって水滴化する。ここで、
図2は、水吹付ノズルの一例を示している。具体的には、
図2は、水吹付ノズルである直射ノズルの一例を示している。より具体的には、
図2に示される直射ノズルでは、噴出口23は、本体部21の軸方向に延びる略円筒形状を有する。本実施形態で用いられる水吹付ノズル20は、圧縮空気等の気体と水とを混合させることなく水滴60を噴出する1流体ノズルに代表される。水吹付ノズル20に1流体ノズルを適用することにより、噴出口23から噴出される水滴60の粒径が過度に小さくなることを抑制することができる。
【0027】
ここで、水吹付ノズル20から噴出される水滴60の粒径φ及び吐出時速度Vは、水吹付ノズル20内の水圧(例えば、流路22内の水圧)に依存する。また、水吹付ノズル20内の水圧は、水吹付ノズル20へ供給される水の流量Qに依存する。したがって、同一の水吹付ノズル20を使用する場合、水吹付ノズル20へ供給される水の流量Qを変化させることによって、水吹付ノズル20から噴出される水滴60の粒径φ及び吐出時速度Vを変化させることができる。なお、本実施形態において、水滴60の吐出時速度Vは、水滴60が鋼板2に向けて噴出口23から噴出される際の速度のうち鋼板2の厚み方向の成分を意味する。
【0028】
水吹付ノズル20には、水圧センサ24が設けられてもよい。水圧センサ24は、水吹付ノズル20内の水圧を検出し、検出結果を制御装置30へ出力する。
【0029】
制御装置30は、水吹付ノズル20の動作を制御する。より具体的には、制御装置30は、水吹付ノズル20により吹き付けられる水滴の速度又は粒径のうちの少なくともいずれかが不均一となるとなるように、水吹付ノズル20の動作を制御する。制御装置30は、演算処理装置であるCPU(Central Processing Unit)、CPUが使用するプログラムや演算パラメータ等を記憶するROM(Read Only Memory)、CPUの実行において適宜変化するパラメータ等を一時記憶するRAM(Random Access Memory)、データ等を記憶するHDD(Hard Disk Drive)装置などのデータ格納用記憶装置等で構成される。
【0030】
図3を参照して、制御装置30の構成について説明する。
図3は、制御装置30の構成を示す機能ブロック図である。制御装置30は、制御部310、通信部320、及び記憶部330を備える。以下、制御装置30が備える各機能部について説明する。
【0031】
制御部310は、水吹付ノズル20の動作を制御するための制御信号を生成する。生成された制御信号は、通信部320又は記憶部330に伝達される。制御部310は、流量制御部311、位置制御部312及びタイミング制御部314を備える。以下、制御部310が備える各機能部について説明する。
【0032】
流量制御部311は、水吹付ノズル20へ供給される水の流量を調節するための流量制御信号を生成する。流量制御信号は、通信部320を介して水吹付ノズル20に送信される。これにより、水吹付ノズル20の流量が制御され、水吹付ノズル20の水圧が制御される。この結果、水吹付ノズル20から放出される水滴の速度及び水滴の径等が制御される。
【0033】
位置制御部312は、水吹付ノズル20の位置を制御するための位置制御信号を生成する。位置制御信号が通信部320を介して水吹付ノズル20に送信されることにより、例えば、水吹付ノズル20と鋼板2との距離等が調整される。また、位置制御信号により、水吹付ノズル20の位置が、鋼板2の面に対して水平な方向に制御されてもよい。
【0034】
タイミング制御部314は、水吹付ノズル20が水滴を噴射するタイミングを制御するためのタイミング制御信号を生成する。タイミング制御信号が通信部320を介して水吹付ノズル20に送信されることにより、水吹付ノズル20が水滴を噴射するタイミングが制御される。つまり、タイミング制御部314は、水吹付ノズル20による水滴の吹付のON-OFFを制御することができる。
【0035】
また、本実施形態に係るタイミング制御部314は、複数の水吹付ノズル20が水を吹き付けるタイミングを制御することにより、狙った場所へのスポット的な凹凸の付与又は通板方向に多段の凹凸の付与を行うことも可能である。さらに、タイミング制御部314は、噴霧跡の細かい調整が可能であり、水吹付ノズル20が水滴を噴射するタイミングを制御する事で、めっき鋼板の表面に文字や模様を表現することも可能である。
【0036】
通信部320は、制御部310が生成した制御信号(流量制御信号、位置制御信号、方向制御信号、又はタイミング制御信号等)を水吹付ノズル20に送信する機能を有する。水吹付ノズル20は、受信した制御信号に基づき動作する。また、通信部320は、水吹付ノズル20から送信された情報を受信する機能を有する。受信された情報は、制御部310又は記憶部330に伝達される。
【0037】
記憶部330は、制御装置30が取得した情報を記憶する機能を有する。記憶部330は、例えば、記憶部330は、例えば、水吹付ノズル20に関する情報を記憶する。より具体的には、記憶部330は、水吹付ノズル20の数、向き、位置、構造、又は水の流量等の各種の水吹付ノズル20に関する情報を記憶する。また、記憶部330は、制御部310により生成された制御情報を記憶してもよい。記憶部330により記憶されている各種の情報は、必要に応じて制御部310又は通信部320に伝達される。
【0038】
<2.溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法>
ここで、
図4を参照して、溶融亜鉛めっき装置1を用いた溶融亜鉛めっき鋼板(以下、単に「めっき鋼板」とも称する。)の製造方法について説明する。
図4は、溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法を示すフローチャート図である。本実施形態に係る溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法では、
図4に示す浸漬工程(ステップS101)、ガスワイピング工程(ステップS102)、及び水吹付工程(ステップS103)が実施される。なお、本実施形態に係る溶融亜鉛めっき方法では、
図4に示すガスワイピング工程と水吹付工程とが実施される。以下、
図4に示す各工程について説明する。
【0039】
(浸漬工程:S101)
溶融亜鉛めっき装置1は、図示しない駆動源により鋼板2を移動させ、装置内の各部を通板させる。鋼板2は、スナウト5を通じてめっき浴3中に斜め下方に向けて連続的に導入され、シンクロール6を周回して、搬送方向が鉛直方向上方に変更される。次いで、鋼板2は、サポートロール7、8の間を通過して上昇し、めっき浴3外に引き上げられる。
【0040】
(ガスワイピング工程:S102)
次いで、
図5を参照して、ガスワイピング工程と水吹付工程とについて説明する。
図5は、ガスワイピング工程と水吹付工程におけるめっき層50の様子を示す図である。ガスワイピングノズル10から鋼板2にワイピングガスが吹き付けられることにより、鋼板2に付着している余剰の溶融金属が掻き取られて、鋼板2の溶融金属膜の膜厚が調節される。つまり、鋼板2の表面に対する溶融金属の付着量が所定の目付量に調節される。
【0041】
(水吹付工程:S103)
その後、水吹付ノズル20から鋼板2に水滴が吹き付けられることにより、鋼板2のめっき層50に凹凸51が形成される。本発明に係る溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法によれば、水吹付ノズル20から鋼板2に吹き付けられる水滴の速度又は粒径のうちの少なくともいずれかが不均一である。このため、静摩擦係数が部分的に高い溶融亜鉛めっき鋼板が製造される。また、本発明に係る溶融亜鉛めっき鋼板において、部分的に静摩擦係数が高いため、本発明に係る溶融亜鉛めっき鋼板の排水性は良好である。さらに、本実施形態では、めっき層50に凹凸が形成されるのみであり、めっき層50が剥がれ、鋼板2が露出しない。このため、本実施形態に係るめっき鋼板の製造方法により製造されためっき鋼板の耐食性は高い。以上のようにして、溶融亜鉛めっき装置1は、めっき層に凹凸51が形成されためっき鋼板を製造する。
【0042】
上記のように、溶融亜鉛めっき装置1を用いた溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法では、鋼板2をめっき浴3中に連続的に浸漬してめっきが行われる。また、溶融亜鉛めっき装置1を用いた溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法では、めっき浴3から引き上げられた鋼板2にガスワイピングノズル10によりガスを吹き付けることによって鋼板2の表面に付着した溶融金属膜の膜厚を調節するガスワイピング工程が行われる。また、溶融亜鉛めっき装置1を用いた溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法では、ガスワイピング工程の後に、鋼板2に水滴を吹き付ける水吹付工程が行われる。ここで、本実施形態に係る溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法によれば、水吹付工程において、水吹付ノズル20の動作を適切に制御することによって、めっき鋼板の静摩擦係数を調整することができる。以下では、このような水吹付工程についてより詳細に説明する。
【0043】
水吹付工程において、制御装置30は、水吹付ノズル20の動作を制御する。具体的には、流量制御部311は、水吹付ノズル20へ供給される水の流量Qを調節する図示しない調整弁の開度を制御するための流量制御信号を生成する。流量制御信号は、通信部320を介して水吹付ノズル20に送信される。水吹付ノズル20は、流量制御信号に基づき、調整弁の開度を変化させて水の流量Qを変化させることによって、水吹付ノズル20内の水圧を変化させることができる。これにより、水吹付ノズル20から噴出される水滴60の粒径φ及び吐出時速度Vを変化させることができる。
【0044】
具体的には、流量制御部311は、水圧センサ24の検出値を用いて調整弁の開度を制御する。これにより、水吹付ノズル20内の水圧を適切に調節することができる。したがって、水吹付ノズル20から噴出される水滴60の粒径φ及び吐出時速度Vを適切に調整することができる。
【0045】
このように、制御装置30は、水吹付ノズル20の動作を制御することによって、水吹付ノズル20から噴出される水滴60の粒径φ及び吐出時速度Vを適切に調整する。それにより、吹き付けられる水滴の速度又は粒径のうちの少なくともいずれかを不均一とすることができる。この結果、めっき層に形成される凹凸51の大きさが不均一となり、第1領域と、第1領域の静摩擦係数よりも低い静摩擦係数を有する第2領域とが形成される。また、本実施形態に係るめっき鋼板における第1領域では、鋼板2が露出しない程度にめっき層50に凹凸51が形成されていてもよい。これにより、めっき鋼板の耐腐食性が確保される。
【0046】
なお、上記では、制御装置30が水圧センサ24を用いて調整弁の開度を調節する例について説明したが、調整弁の開度を調節する手段はこのような例に特に限定されない。例えば、水吹付ノズル20に流量計が設けられてもよい。流量制御部311は、当該流量計により検出される水吹付ノズル20内の水の流量に基づいて、調整弁の開度を制御してもよい。
【0047】
なお、上記の説明では、流量制御部311が1つの水吹付ノズル20の流量を制御する例について説明した。これに限らず、水吹付ノズル20の数が複数である場合には、流量制御部311は、当該複数の各々の流量を制御してもよい。これにより、水吹付ノズル20から鋼板2に吹き付けられる水滴の速度又は粒径のうちの少なくともいずれかを不均一にすることができる。
【0048】
制御装置30が複数の水吹付ノズルの動作を制御する例について、
図6を参照して説明する。
図6は、複数の水吹付ノズル71がめっき層55に水滴を吹き付けている様子を示す図である。
【0049】
図6には、5つの水吹付ノズル71が示されている。5つの水吹付ノズル71は、それぞれ、水滴61をめっき層55に吹き付けている。めっき層55を備える鋼板2aは、紙面の表側から裏側に向かって通板されているものとする。
【0050】
なお、
図6には5つの水吹付ノズル71が示されているが、めっき装置に設けられる水吹付ノズル71の数は4つ以下であってもよいし、6つ以上であってもよい。また、
図6に示すめっき層55の反対側の面に設けられためっき層に水滴を吹き付ける水吹付ノズルが設けられてもよい。
【0051】
流量制御部311は、水吹付ノズル71から吹き付けられる水滴61の流量を制御する。
図6では、水滴61を示す矢印の長さは、各水吹付ノズル71から吹き付けられる水滴61の流量に対応しているものとする。具体的には、水滴61を示す矢印の長さが長いほど、各水吹付ノズル71から吹き付けられる水滴61の粒径及び吐出時速度が大きい。例えば、左端に示された水吹付ノズル71aから吹き付けられる水滴61aの流量は、真ん中に示された水吹付ノズル71cから吹き付けられる水滴61cの流量よりも大きい。流量が大きいほど、めっき層に形成される凹凸が大きくなる。形成される凹凸が大きいほど静摩擦係数は大きくなるため、めっき層55の静摩擦係数は、流量に応じた大きさとなる。このように、流量制御部311により水吹付ノズル71から吹き付けられる水滴61の流量が制御されることにより、めっき層55の静摩擦係数が調整される。
【0052】
また、位置制御部312は、水吹付ノズル71の各々の噴出口とめっき層55の表面との距離を制御することができる。なお、
図6には、すべての水吹付ノズル71の噴出口とめっき層55との距離d1が同一であるが、これに限らず、すべての水吹付ノズル71の各々の噴出口とめっき層55の表面との距離が異なっていてもよい。また、一部の水吹付ノズル71の噴出口とめっき層55の表面との距離が同じであってもよい。
【0053】
また、本実施形態に係る制御装置30は、水吹付ノズル71の噴出口とめっき層55の表面との距離d1を制御することができる。なお、当該距離d1は、制御装置30が備える位置制御部312により制御されてもよい。距離d1が制御されることにより、めっき層55に水滴が吹き付けられる範囲、又はめっき層55に水滴61が衝突する際の衝突速度が制御される。なお、距離d1は、手動によって調整されてもよい。当該距離d1は、100mm~200mm程度であってもよい。また、めっき層55に水滴61が吹き付けられる範囲における板幅方向の長さは、数10mm以上であってもよい。
【0054】
次に、
図7を参照して、複数の水吹付ノズルによりめっき鋼板に凹凸が設けられる様子ついて説明する。
図7は、複数の水吹付ノズル20によりめっき層に凹凸が設けられためっき鋼板40を、水吹付ノズル20からめっき鋼板40の向きに見た図である。
【0055】
図7には、5つの水吹付ノズル20と、めっき鋼板40とが示されている。なお、めっき鋼板40は、右側に示す矢印の方向(すなわち、下から上に向かう方向)に通板されているものとする。
【0056】
めっき鋼板40には、5つの斜線が付された第1領域41と第2領域42とが設けられている。これらの第1領域41は、水吹付ノズル20によりめっき層に凹凸が設けられることで形成された領域である。一方、第2領域42は、凹凸が設けられていないめっき層の領域である。従って、第1領域41の静摩擦係数は、第2領域42の静摩擦係数よりも高い。
【0057】
このように、本実施形態に係るめっき鋼板の製造方法によれば、めっき鋼板40に凹凸が設けられた第1領域41と、第1領域41の静摩擦係数よりも低い静摩擦係数を有する第2領域42とを備えるめっき鋼板を製造することができる。なお、
図7に示す例では、第2領域42には、水吹付ノズル20から水が吹き付けられていないが、本実施形態に係るめっき鋼板は、全面に水吹付ノズルから水滴が吹き付けられることにより、凹凸が設けられていてもよい。この場合、第2領域は、例えば第1領域に吹き付けられる水滴の流量よりも小さい流量の水滴が吹き付けられることにより、第1領域の静摩擦係数よりも低い静摩擦係数を有する。
【0058】
また、めっき鋼板40に凹凸が設けられた第1領域の静摩擦係数は、0.3以上であることが好ましい。第1領域の静摩擦係数が0.3以上であることにより、第1領域は、滑り止めなどの効果をより十分に発揮することができる。また、第1領域の静摩擦係数は、0.5以下であることが好ましい。第1領域の静摩擦係数が0.5以下であることにより、第1領域による滑り止めなどの効果が効きすぎることが抑止される。
【0059】
また、第2領域の静摩擦係数は、0.2未満であることが好ましい。第2領域の静摩擦係数が0.2未満であることにより、例えばめっき層の凹凸同士の接触に起因するめっき粉の発生が抑止される。さらに、第2領域の静摩擦係数が低いほど、第2領域による排水がより促進されるようになるため、めっき鋼板の排水性が向上する。特に、第2領域の静摩擦係数が0.2未満であると、めっき鋼板の排水性が特に良好となる。また、第2領域の静摩擦係数は、0.1以上であることが好ましい。第2領域の静摩擦係数を0.1以上とすることにより、第2領域は、適度に滑り止め等の効果を発揮することができる。
【0060】
なお、第1領域の面積が小さすぎると、第1領域に十分な静摩擦力が生じない場合がある。例えば、第1領域の形状が長方形である場合、鋼板の長さ方向(以下、「板長さ方向」又は「通板方向」とも称する。)及び鋼板の幅方向(以下、「板幅方向」とも称する。)の長さが共に1mm程度以下であると、十分な静摩擦力が生じない場合がある。
【0061】
そこで、第1領域における任意の2点を結ぶ距離の最長の長さが10mm以上であることが好ましい。さらに、第1領域の互いに直交する2つの方向の長さが、いずれも10mm以上であることが好ましい。これにより、物体が第1領域に接触する面積が大きくなるため、より十分な静摩擦力が第1領域に生じるようになる。
【0062】
より具体的には、本実施形態では、第1領域の板長さ方向又は板幅方向の少なくともいずれかの長さは、10mm以上であることが好ましい。第1領域の板長さ方向の長さが10mm以上であることにより、より十分な静摩擦力が第1領域に生じるようになる。さらに、第1領域の板長さ方向及び板幅方向の長さが、いずれも10mm以上であることが好ましい。これにより、より十分な静摩擦力が第1領域に生じるようになる。具体例については、本発明の一実施形態に係るめっき鋼板の用途例を用いて後述する。
【0063】
また、めっき鋼板に複数の互いに分離された第1領域が形成される場合には、当該複数の第1領域のうちの任意の2つ第1領域は、互いに所定の距離以上離れていることが好ましい。これにより、めっき鋼板の排水性が良好となる。2つの第1領域が離れている方向は特に限定されないが、例えば本実施形態に係るめっき鋼板では、2つの第1領域が板長さ方向又は板幅方向の少なくともいずれかの方向に所定の距離以上離れていることが好ましい。例えば、2つの第1領域が、板長さ方向又は板幅方向の少なくともいずれかの方向に10mm以上離れていることが好ましい。さらに、2つの第1領域が、板長さ方向及び板幅方向の方向に10mm以上離れていることが好ましい。具体例については、本発明の一実施形態に係るめっき鋼板の用途例を用いて後述する。
【0064】
なお、
図7には、5つの水吹付ノズル20が示されているが、用いられる水吹付ノズルの数は、1つ~4つであってもよいし、6つ以上であってもよい。従って、めっき鋼板40に形成される第1領域41の数は、1つ~4つであってもよいし、6つ以上であってもよい。
【0065】
また、5つの水吹付ノズル20の各々の流量は同一であってもよいし、全ての水吹付ノズル20の流量が異なっていてもよい。また、これらの水吹付ノズル20のうちのいくつかの水吹付ノズル20の流量が同一であってもよい。
【0066】
次に、
図8を参照して、制御装置30が複数の水吹付ノズル20が水滴を吹き付けるタイミングを制御する例について説明する。
図8は、複数の水吹付ノズル20が互いに異なるタイミングで水滴をめっき層に吹き付けている様子を示す図である。
【0067】
図8には、
図7に示した5つの水吹付ノズル20と実質的に同一の機能を有する水吹付ノズル20と、めっき鋼板43とが示されている。めっき鋼板43は、水吹付ノズル20により凹凸が設けられた5つの第1領域44と、凹凸が設けられていない第2領域45とを備えている。ここで、凹凸が設けられていない第2領域45の静摩擦係数は、凹凸が設けられた第1領域44の静摩擦係数よりも低い。
【0068】
制御装置30は、5つの水吹付ノズル20が水滴を吹き付けるタイミングを制御する。より具体的には、制御装置30が備えるタイミング制御部314が、水吹付ノズル20が水滴を吹き付けるタイミングを制御する。
【0069】
図8に示す例では、2つの水吹付ノズル20b及び20dがめっき層に水滴を吹き付けた後、3つの水吹付ノズル20a、20c、及び20eがめっき層に水滴を吹き付けるように、タイミング制御部314が、水吹付ノズル20が水滴を吹き付けるタイミングを制御する。この結果、めっき鋼板43には、めっき鋼板43の通板方向の奥側に2つの第1領域44b及び45dが形成され、めっき鋼板43の通板方向の手前側に3つの第1領域44a、45c、及び45eが形成される。このように、本実施形態に係る溶融亜鉛めっきの製造方法によれば、水吹付ノズル20が水を吹き付けるタイミングが制御されるため、溶融亜鉛めっき鋼板43の通板方向においても静摩擦係数の異なる領域を形成することができる。
【0070】
なお、
図8に示す例では、2つの水吹付ノズル20b及び20dが同じタイミングで水滴をめっき層に吹き付ける。さらに、3つの水吹付ノズル20a、20c、及び20eが、上記2つの水吹付ノズル20b及び20dがめっき層に水滴を吹き付けるタイミングと異なる(遅い)タイミングで水滴をめっき層に吹き付ける。これに限らず、制御装置30は、上記5つの水吹付ノズル20の全てが異なるタイミングでめっき層に水滴を吹き付けるように、水吹付ノズル20を制御してもよい。また、タイミング制御部314は、上記とは異なる組み合わせで、水吹付ノズル20がめっき層に水滴を吹き付けるタイミングが同一となるように、水吹付ノズル20を制御してもよい。
【0071】
上述のように、水滴61の衝突速度が速いほど、めっき層55に形成される凹凸は大きくなる。従って、位置制御部312は、水吹付ノズル71とめっき層55の表面との距離d1を制御することにより、めっき層55に形成される凹凸の大きさを制御することで、めっき層55の静摩擦係数を調整することができる。
【0072】
また、めっき鋼板の板幅全範囲に噴霧跡を形成してもよく、その方法は、特に限定されない。角度調整等しやすい数10mm幅の噴霧跡の単独ノズルを10~20組使用する方法が考えられる。なお、すべてのノズルが同じ水量であると、鋼板の通板方向に縞模様の摩擦濃淡が生じやすい。このため、各ノズルの水量を適宜調整することが好ましい。また、各水吹付ノズルの板幅方向の間隔を調整して、意図的に無噴霧部分を作ることで濃淡差を作ることもできる。
【0073】
本実施形態では、噴霧跡数10mm(例えばフラットノズルで)とするノズルを用いる。高摩擦係数が必要な範囲(例えば階段の滑り止めで数10mm)を1度に製造できる事や、摩擦係数測定方法の一つに必要な20mm程度のサンプルを製造できる事を考慮して、かかるノズルを用いるが、本発明に係るめっき鋼板の製造方法に用いられるノズルは、かかるノズルのみに限定されるものではない。
【0074】
以上、本発明の実施形態に係るめっき鋼板の製造方法について説明した。
【0075】
めっき鋼板の一部に高摩擦領域を形成する方法として、製造されためっき鋼板を切り出した後に、めっき層の表面の一部に凹凸を加える方法が考えられる。例えば切削又は研削手段を使って凹凸を形成する方法、又は再度めっき鋼板を加熱してめっき層を溶融状態にしてから水滴等を衝突させる方法が考えられる。前者の切削又は研削手段を使う方法では、めっき層のきり屑(金属粉)が生じる。このため、当該方法は、本実施形態に係るめっき鋼板の製造方法に比べて、生産性が低い方法である。このため、前者の方法では、例えば環境対策設備の必要等によるコストがかかるため、当該方法は汎用的な摩擦力が付与される製品の製造には向かない。また、後者の水滴等を衝突させる方法においても、再加熱のエネルギーを必要とすることから、製造コストが高くなる。本実施形態に係るめっき鋼板の製造方法によれば、めっき層のきり屑の発生が抑止される上、インラインでめっき鋼板の静摩擦係数を自由に変化させることができるため、製造コストが抑えられる。
【0076】
また、本実施形態に係るめっき鋼板の製造方法により製造されるめっき鋼板では、めっき層に第1領域と、当該第1領域の静摩擦係数よりも小さい静摩擦係数を有する第2領域とが設けられる。めっき鋼板の全面に大きな凹凸が設けられると、排水性が悪くなる場合がある。しかし、本発明の一実施形態に係るめっき鋼板では、めっき層の一部に凹凸が設けられるため、めっき鋼板の排水性は良好である。また、めっき鋼板の全面に凹凸が設けられる場合であっても、本発明の一実施形態のめっき鋼板における凹凸の大きさは均一ではなく、一部の領域における凹凸は小さい。より具体的には、当該一部の領域は、第1領域よりも小さな凹凸で形成された第2領域であり得る。このため、凹凸の形成による排水性の低下が抑止され、本実施形態に係るめっき鋼板の排水性は良好となる。このように、本実施形態に係るめっき鋼板の製造方法によれば、排水性が良好であり、滑り止め機能を有するめっき鋼板を得ることができる。
【0077】
さらに、本実施形態に係るめっき鋼板の製造方法により製造されるめっき鋼板では、めっき層に凹凸が設けられる。例えば、ブラスト加工によりめっき鋼板の静摩擦係数を高めようとすると、めっき層が剥がれて鋼板が露出し、めっき鋼板の耐腐食性が低下する場合がある。一方、本実施形態に係るめっき鋼板では、鋼板が露出しない。このため、本実施形態に係るめっき鋼板の製造方法によれば、耐腐食性が良好なめっき鋼板を製造することができる。
【0078】
<3.用途例>
次いで、本実施形態に係るめっき鋼板の製造方法により製造されるめっき鋼板の用途例について説明する。
【0079】
従来、めっき面全体に摩擦力を付与する方法又は摩擦力が付与された製品が提案されている。しかし、実際に摩擦力が必要になる場所は、めっき鋼板の用途に応じて異なる。例えば、めっき鋼板が、住宅等の屋根又は壁等に用いられる場合には、めっき鋼板と住宅等の骨組みとを固定するためにボルト又はネジを通すための孔がめっき鋼板に設けられる。この場合、これらの孔の周辺数10mm~数100mmに上記第1領域に相当する領域が設けられれば十分である。また、めっき鋼板が階段などに使用される場合には、滑り防止として機能する第1領域は、階段の踏面部のエッジ付近(数10mm)に設けられれば十分である。さらに、めっき鋼板がショッピングセンターなどの屋外駐車場などに設置されるスロープ等に用いられる場合、滑り防止として機能する第1領域は、めっき鋼板に10mm~数100mm間隔で配置されれば十分である。これにより、排水性も確保される。このように、めっき鋼板の一部に第1領域(高摩擦領域)が設けられることにより、めっき鋼板の全面に高摩擦領域が付与された場合のデメリットが軽減される。より具体的には、例えばめっき層に形成された凹凸部同士の接触が増えることによるめっき粉発生、又は排水性が阻害される事による耐腐食性の部分的悪化等が軽減される。
【0080】
以下、めっき鋼板の用途例として、ここで説明した車両用のスロープ、階段、及び屋根又は壁などに用いられるめっき鋼板について詳細に説明する。
【0081】
(スロープ用のめっき鋼板)
まず、
図9及び
図10を参照して、車両が通行するスロープに用いられるめっき鋼板の一例について説明する。
図9及び
図10は、車両が通行するスロープに用いられるめっき鋼板80の一例を示す図である。
【0082】
なお、ここでは、車両用のスロープに本実施形態に係るめっき鋼板が適用される例について説明するが、歩行者用のスロープに本実施形態に係るめっき鋼板が適用されてもよい。また、ここでは、勾配のあるスロープに本実施形態に係るめっき鋼板が適用される例について説明するが、これに限らず、水平に設置された車両又は歩行者用の通路に本実施形態に係るめっき鋼板が適用されてもよい。
【0083】
図9に示されるめっき鋼板80は、車両が通行するスロープに用いられるめっき鋼板80の一例である。めっき鋼板80は、斜線が付された第1領域81と、第1領域81の静摩擦係数よりも低い静摩擦係数を有する第2領域82とを備える。なお、第1領域81にのみ凹凸が付されていてもよいし、第1領域81と第2領域82の両方に凹凸が付されていてもよい。また、第1領域81の板幅方向の長さは、L1である。L1は、例えば、10~200mm程度の長さである。L1の長さは、タイヤとの接地により効果的に摩擦力が発生する様に定められる。L1の長さが10mm以上であると、より十分な摩擦力が得られるため好ましい。L1の長さが200mmを超える場合、一般的なタイヤの幅を超過するため、超過した部分は無駄な領域となる。また、第1領域81の間隔は、L2である。L2は、例えば、10~100mm程度の長さである。L2の長さが、10mm以上であると、めっき鋼板80の良好な排水性を保たれるため好ましい。また、L2の長さが、100mm以下であると、タイヤ一つの設置幅が静摩擦係数の高い第1領域に接しなくなることが抑止されるため好ましい。ただし、使用されるスロープが平均的なタイヤ幅が大きい大型車両用に使われるスロープである場合、L1の長さは、タイヤ幅に合わせて100mmより長くてもよい。
【0084】
次いで、
図10を参照して、車両が通行するスロープに用いられるめっき鋼板の別の例について説明する。めっき鋼板83は、斜線が付された第1領域84及び斜線が付されていない第2領域85を備える。なお、第1領域84にのみ凹凸が付されていてもよいし、第1領域84と第2領域85の両方に凹凸が付されていてもよい。第1領域84の板幅方向の長さはL3であり、L3は例えば300mm程度の長さである。また、第1領域84の通板方向の長さはL5であり、L5は例えば50mm程度の長さである。また、第1領域84同士の板幅方向の間隔はL4であり、L4は例えば300mm程度の長さである。さらに、第1領域84同士の通板方向の間隔はL6であり、L6は例えば10~100mm程度の長さである。L6の長さが10mm以上であると、スロープの高い排水性が保たれるため好ましい。また、L6の長さは、100mm以下であると、タイヤ一つの設置幅が静摩擦係数の高い第1領域に接しないことが無くなるため好ましい。ただし、スロープが、平均的なタイヤ幅が大きい大型車両用に使われるスロープの場合、L1の長さは、タイヤ幅に合わせて100mmより長くてもよい。
【0085】
車両用のスロープの勾配は、通常は12.5%程度であり、最大で16.7%程度である。このようなスロープとして、
図9又は
図10に示されためっき鋼板が用いられると、めっき鋼板が備える第1領域が車両の滑り止めとしての効果を発揮する。
【0086】
また、めっき鋼板に設けられる第1領域の面積は、鋼板の全面積のうちの50~80%の面積であってもよい。この場合、残りの領域が第2領域であってもよい。また、第1領域が上記スロープの滑り止め等に用いられる場合には、第1領域の静摩擦係数は、特限定されるものではないが、例えば、0.5以下であることが好ましい。静摩擦係数が0.5以下であることにより、滑り止めの効果が強くなりすぎることが抑止される。
【0087】
また、
図9及び
図10に示すめっき鋼板では、めっき鋼板の一部に第1領域が設けられているため、めっき鋼板の全面における静摩擦係数が高められることにより生じる排水性の悪化が抑止される。
【0088】
なお、ここでは、車両又は歩行者が通行する通路として、スロープを例に挙げたが、これに限らず、本発明に係る溶融亜鉛めっき鋼板は、建築において用いられる梁等にも適用可能である。
【0089】
(階段用のめっき鋼板)
次いで、
図11及び
図12を参照して、本実施形態に係るめっき鋼板が階段として用いられる例について説明する。
【0090】
図11は、本実施形態に係るめっき鋼板の製造方法により製造される、階段用のめっき鋼板86を示す図である。
図11には、めっき鋼板86に設けられた、斜線が付された3つの第1領域87と、第1領域87の静摩擦係数よりも低い静摩擦係数を有する4つの第2領域88と、が示されている。なお、第1領域87のみに凹凸が付されていてもよいし、第1領域87と第2領域88の両方に凹凸が付されていてもよい。また、第2領域88に示される破線102は、階段を製造するために折り曲げられる線を示している。
【0091】
第1領域87は、めっき鋼板86の板幅方向の一端から他端に亘って設けられている。第1領域87の通板方向の長さはL7である。また、第1領域87の各々は、通板方向に長さL8の間隔で均等に設けられている。ここで、長さL7は例えば20~50mm程度であり、長さL8は、後述する階段の踏面部における歩行者の進行方向の長さ、及び階段1段当たりの高さに依存するが、例えば350mm程度以上の長さである。
【0092】
図11に示すめっき鋼板が加工されることにより、
図12に示す階段89が製造される。より具体的には、破線102及び第1領域87の通板方向の手前側の端部でめっき鋼板86を折り曲げることにより、
図12に示す階段89が作製される。
【0093】
図12には、3段分の階段89が示されている。より具体的には、
図12には、階段89が備える、人が踏む面である3つの踏面部91と、それぞれの踏面部を接続する3つの接続部90とが示されている。なお、本実施形態に係るめっき鋼板により製造される階段の段数は2段以下であってもよいし、4段以上であってもよい。
【0094】
踏面部91には、第1領域92(
図11に示す第1領域87に相当する。)と、第1領域92の静摩擦係数よりも低い静摩擦係数を有する第2領域93(
図11に示す第2領域89に相当する。)とが設けられている。
【0095】
踏面部91の角側の端縁に沿って第1領域92が設けられることにより、歩行者が階段89を利用する際に、当該歩行者が踏面部91で滑ることが抑止される。また、踏面部91の一部に第1領域92が設けられている。このため、階段89が屋外等に設置され、雨が降った場合には、階段89の排水性は良好であり、踏面部91に雨等が溜まることが抑止される。
【0096】
図12に示す階段89は、
図11に示すめっき鋼板86の第2領域88に示された破線102と、階段89の端部94となる第1領域87の通板方向の端で折り曲げられることにより製造されてもよい。
【0097】
また、階段89の踏面部91における第1領域92と第2領域93と面積比は特に限定されるものではないが、例えば踏面部91の20%~30%が第1領域92であってもよい。
【0098】
また、階段89の踏面部91における第1領域92の静摩擦係数は、特に限定されないが、例えば0.3以上であることが好ましい。これにより、歩行者が滑ることがより抑止される。また、第1領域92の静摩擦係数は、0.5以下であることが好ましい。これにより、滑り止めの効果が強くなりすぎることが抑止される。
【0099】
(屋根又は壁等に用いられるめっき鋼板)
次に、屋根又は壁等に用いられるめっき鋼板について説明する。これらの用途でめっき鋼板が用いられる場合には、例えば、めっき鋼板を用いて住宅などの骨組みが固定される際に、めっき鋼板にボルト又はネジ(以下、「ボルト等」とも称する。)を通して、めっき鋼板と他の部材とを結合するときがある。従って、めっき鋼板の一部にボルト孔又はネジ孔(以下、これらを「ボルト穴等」とも称する。)が設けられる。このとき、めっき鋼板に設けられたボルト孔等の周りのめっき層における静摩擦係数が低いと、ボルト等をボルト穴等に通してめっき鋼板と他の部材とが結合された後、ボルト等の頭部とめっき層とが滑り、ボルト等が外れやすい場合がある。このため、ボルト孔等の付近のめっき層の静摩擦係数は、高いことが望ましい。
【0100】
そこで、本実施形態では、めっき鋼板にボルト孔等が設けられる予定の位置の周辺に、めっき層に第1領域98が設けられる。具体的には、当該第1領域98は、ボルト等がボルト孔等に通される際に、ボルト等の頭部が接触し得るめっき層の少なくともいずれかに設けられる。例えば、ボルト穴等が設けられる予定の位置の周辺10mm~数100mm程度の領域が、第1領域98であってもよい。
【0101】
ボルト孔等が設けられる予定の位置の周辺におけるめっき層に凹凸が設けられためっき鋼板について、
図13を参照してより具体的に説明する。
図13は、ボルト孔が設けられる予定のめっき鋼板97を示す図である。めっき鋼板97は、斜線が付された第1領域98と、斜線が付されていない第2領域99とを備える。第1領域98はめっき層に凹凸が設けられた領域であり、第2領域はめっき層に凹凸が設けられていない領域である。従って、第1領域98の静摩擦係数は、第2領域99の静摩擦係数よりも高い。なお、第1領域98と第2領域99の両方に凹凸が付されていてもよく、凹凸の大きさなどを調整することにより、第1領域98の静摩擦係数が第2領域99の静摩擦係数よりも高くなる。第1領域98の一部には、ボルト孔等が形成される予定である。
【0102】
第1領域98は、めっき鋼板97が備えるめっき層の板幅方向の一端から他端に亘って設けられている。第1領域98の通板方向の長さはL9である。また、第1領域98は、L9+L10の間隔で均等に通板方向に設けられている。ここで、長さL9は、例えば100mm~200mm程度である。また、長さL10は任意の長さであり、用途に応じて適宜決定され得る。
【0103】
次に、
図14を参照して、第1領域98についてより詳細に説明する。
図14は、
図13に示す第1領域98bに含まれる領域Yの一部を拡大した図である。第1領域98bの一部である拡大領域98c(
図13に示す第1領域98の斜線は省略している。)には、ボルト孔が形成される予定の位置である6つのボルト位置100が示されている。これらの6つのボルト位置100には、ボルト孔が形成され、必要に応じてボルトが通される。当該ボルトは、さらに他の部材にも通されることにより、めっき鋼板97と他の部材とが結合される。このとき、ボルト孔に通されたボルトの頭とめっき層又はボルトと対になるナットとめっき層とは、第1領域98に生じる摩擦力により滑りにくくなる。また、ワッシャーが入れられる場合には、ボルトに締め付けられるワッシャーとめっき層とは、第1領域98に生じる摩擦力により滑りにくくなる。この結果、ボルトがめっき鋼板97から外れにくくなる。なお、ここでは、主にボルト孔がめっき鋼板に設けられる例について説明したが、めっき鋼板に、ボルト孔の代わりにねじ孔が設けられてもよい。この場合には、当該ねじ孔に通されるねじの頭と第1領域とが滑りにくくなる。
【0104】
以上、屋根又は壁等に用いられるめっき鋼板について説明した。なお、第1領域98の静摩擦係数は、特に限定されないが、0.3以上であることが好ましい。これにより、ボルト等が滑ることが、より効果的に抑止される。なお、上記0.3という数値は、例えば、次式(1)等を用いて算出され得る。
【0105】
滑り荷重≧1.2×設計ボルト張力×0.4×摩擦面数×ボルト本数・・・(1)
【0106】
以上、本実施形態に係るめっき鋼板の用途例について説明した。
【0107】
上記の用途例において、第2領域の静摩擦係数は特に限定されないが、0.2未満であることが好ましい。第2領域の静摩擦係数が0.2未満であれば、第2領域の凹凸が大きすぎないため、めっき鋼板の排水性がより良好となる。また、第2領域の静摩擦係数は、0.1以上であることが好ましい。これにより、めっき鋼板の滑り止めの効果が高められる。
【0108】
また、めっき鋼板97における第1領域98の比率は、特に限定されるものではないが、例えば踏面部91の1%~5%が第1領域92であってもよい。
【実施例】
【0109】
以下では、実施例及び比較例を示しながら、本発明に係るめっき鋼板の製造方法について、具体的に説明する。なお、以下に示す実施例は、本発明に係るめっき鋼板の製造方法のあくまでも一例にすぎず、本発明に係るめっき鋼板の製造方法が下記の例に限定されるものではない。
【0110】
実施例及び比較例では、板幅が1500mm、0.6mmの厚みの鋼板を用いた。なお、実際にめっき鋼板が使用される場合には、めっき鋼板の設置場所によって使用されるめっき鋼板の板幅が異なる。このため、必要に応じて、複数枚のめっき鋼板を使用したり、めっき鋼板を切断して必要な板幅に合わせて使用したりしてもよい。めっき浴には、Al:11質量%、Mg:3質量%、及び残部がZnと不純物からなる溶融金属を用い、めっき浴の温度を450℃とした。めっき浴から引き上げられた鋼板に対して、めっき層の厚みが30μmとなるように、ワイピングガスを吹き付けた。さらに、水吹付ノズルを用いて、めっき層に水滴を吹き付け、めっき鋼板に凹凸を形成し、コイル状に巻きとることで回収した。その後、めっき鋼板の通板方向の長さが1200mmとなるように、めっき鋼板を切り出した。
【0111】
実施例では、車両が通過するスロープとして用いられることを想定しためっき鋼板を作製した。具体的には、実施例1~9では、
図9に示したように、水滴が吹き付けられることで形成された複数の第1領域81と、水滴が吹き付けられていない第2領域82とを備えるめっき鋼板80を作製した。また、第1領域81の静摩擦係数は、吹き付けられる水滴の流量を制御することで、表1に示した値に調整した。第1領域81の通板方向の長さを1000mmとした。また、実施例10では、第1領域81と第2領域82とで、異なる流量の水滴を吹き付けた。より具体的には、第2領域82に吹き付けられる水滴の流量を第1領域81に吹き付けられる水滴の流量よりも小さくし、それぞれの静摩擦係数が表1に示す値となるように、流量を調整した。第1領域81の形状は略長方形であり、その幅L1及び2つの第1領域81同士の間隔L2を、水滴が吹き付けられる領域を適宜制御することで、表1に示した値に調整した。一方、比較例1では、めっき鋼板の全面に水滴を吹き付けることで、全面に均一な静摩擦係数を有するめっき鋼板80を作製した。ここでは、比較例1に係るめっき鋼板は、第2領域82を有さず、第1領域81のみを有するものとして説明する。
【0112】
ここで、試験片(矩形板状試験片及び円板状試験片)の採取方法について説明する。上記実施例1~9で作製しためっき鋼板から、最も静摩擦係数が高いと推定される領域(第1領域81)と最も静摩擦係数が低いと推定される領域(第2領域82)とを切り出して試験片を採取した。具体的には、実施例1では、水吹付ノズルにより水滴が吹き付けられることで生成された噴霧跡領域の中でも水吹付ノズル直下に位置する噴霧跡を、第1領域81の矩形板状試験片及び円板状試験片として採取した。また、水滴が吹き付けられなかった領域を第2領域82の試験片として採取した。また、実施例10では、実施例1~9と同様にして第1領域81の試験片を採取した。第2領域82の中でも水吹付ノズル直下に位置する噴霧跡を、第2領域82の試験片として採取した。また、比較例では、水吹付ノズル直下を試験片として採取した。
【0113】
次いで、静摩擦係数の測定方法について説明する。まず、上記の連続めっきを行っためっき鋼板を切断し、幅150mm、長さ100mm、厚み0.6mmである矩形板状試験片と、直径20mm、厚み0.6mmである円板状試験片とを作製した。ただし、噴霧跡における板幅方向の長さが例えば20mm未満になった場合は、当該長さの直径を有する円板状試験片を採取した。矩形板状試験片の上に円板状試験片を配置し、矩形板状試験片と円板状試験片とを接触させた。ここでは、矩形板状試験片及び円板状試験片の組み合わせ方を、矩形板状試験片と円板状試験片とで板幅方向を一致させて合わせ、かつ摺動させる方向を通板方向とする組み合わせ方とした。さらに、円板状試験片に上から下方向への荷重(垂直荷重)をかけ、円板状試験片を矩形板状試験片に押し当てた状態で、矩形板状試験片に水平方向の荷重(水平荷重)をかけ、矩形板状試験片を円板状試験片に対して摺動させた。最初に矩形板状試験片が動き始めるときの水平荷重を垂直荷重で除した値を静摩擦係数とした。なお、試験条件として、垂直荷重を3.14kNとし、矩形板状試験片が摺動する速度を150mm/secとし、矩形板状試験片が摺動する距離を45mmとした。なお、上記試験には、高荷重往復動摩擦摩耗試験機(NSST社製)の試験機を用いた。
【0114】
ここで、同一のめっき鋼板において、上記のような試験で測定された静摩擦係数(静試験時摩擦係数)の大きさと、実際にめっき鋼板が使用される際の静摩擦係数(使用時静摩擦係数)の大きさとが異なることがある。具体的には、鋼帯の表面に付着しためっき層に形成されている凹凸の大きさが過度に大きい場合、使用時の静摩擦係数が試験時の静摩擦係数より小さくなることがある。このことは、凹凸の大きさが過度に大きい場合、実際にめっき鋼板が使用されるまでの間に、凸部の一部が外部からの衝撃等によりめっき鋼板から取れることに起因する。例えば、めっき鋼板が製造されてから実際に使用されるまでの間にめっき鋼板がロール状に巻き取られ、めっき鋼板の表面が擦られることにより凸部の一部がめっき鋼板から取れることによって、使用時の静摩擦係数が小さくなることがある。
【0115】
次に、作製しためっき鋼板の評価方法について説明する。
【0116】
(排水性)
作製しためっき鋼板の排水性をAA(特に良好)、A(より良好)、B(良好)又はC(不合格)の4段階で評価した。AA、A及びB評価を合格とした。具体的には、作製しためっき鋼板の傾斜角度を7.1°(12.5%)とした状態で、1時間当たり5mmの降水量の水をめっき鋼板に流した。このとき、第2領域82の全面積に対する、第2領域に発生した1mm以上の厚みを有する水膜の面積の比率で排水性を評価した。当該比率が30%以上70%未満であるめっき鋼板の排水性をB評価とした。さらに、当該比率が5%以上30%未満であるめっき鋼板の排水性をA評価とし、当該比率が5%未満であるめっき鋼板の排水性をAA評価とした。一方、当該比率が70%を超えるめっき鋼板の排水性をC評価とし、不合格とした。なお、比較例については、めっき鋼板が排水を促進する第2領域82を備えないため、常に1mm以上の水膜がめっき鋼板のほぼ全面に生成されている状態であったことから、排水性をC評価とし、不合格とした。
【0117】
(摩擦力)
作製しためっき鋼板の摩擦力をAA(特に良好)、A(より良好)、B(良好)又はC(不合格)の4段階で評価した。AA、A及びB評価を合格とした。具体的には、鋼板の傾斜角度を7.1°(12.5%)とし、幅155mmの新品のタイヤを有する軽自動車が当該めっき鋼板を15km/hrで30m下る際に、タイヤにスリップが発生した頻度で摩擦力を評価した。当該頻度が3回に1回未満であり、10回に1回以上であるめっき鋼板の摩擦力をB評価とした。また、当該頻度が10回に1回未満であり、20回に1回以上であるめっき鋼板の摩擦力をA評価とした。さらに、当該頻度が20回に1回未満であるめっき鋼板の摩擦力をAA評価とした。一方、当該頻度が3回に1回以上であるめっき鋼板の摩擦力をC評価とし、不合格とした。
【0118】
各実施例及び比較例に係るめっき鋼板の評価結果を、第1領域及び第2領域の条件と併せて表1に示した。
【0119】
【0120】
(実施例1)
実施例1のめっき鋼板では、排水性がA評価であった。これは、めっき鋼板の一部に形成された、第1領域81の静摩擦係数よりも低い静摩擦係数を有する第2領域82から排水されるため、排水性が良好であったと考えられる。また、実施例1のめっき鋼板では、摩擦力がB評価であり、滑り止め機能を有していた。これは、めっき鋼板の一部に形成された第1領域81により摩擦力が発生したため、タイヤのスリップが抑止されたためであると考えられる。
【0121】
(実施例2~4)
実施例2~4では、第1領域81の幅方向の長さL1を変更したこと以外は、実施例1と同様にしてめっき鋼板を作製した。実施例2に係るめっき鋼板の摩擦力の評価は、実施例1に係るめっき鋼板の摩擦力のB評価よりも高い評価Aとなった。これは、実施例2に係る第1領域81における幅方向の長さL1が、実施例1に係る第1領域81における幅方向の長さ7mmよりも長い15mmであったことに起因する。つまり、実施例2に係る第1領域81の面積が実施例1に係る第1領域81の面積よりも広いため、タイヤに係る摩擦力が向上し、実施例2に係るめっき鋼板の摩擦力の評価がA評価となった。また、表1に示すように、長さL1が長いほど、摩擦力が向上する結果となった。これは、長さL1が長いほど、上述のように、車両のタイヤが第1領域81に接する面積が広くなり、当該タイヤにかかる摩擦力が大きくなるためと考えられる。
【0122】
(実施例5~8)
第1領域81の幅方向の長さL1を50mmとし、第1領域81同士の間隔L2を表1に示す値に変化させて、めっき鋼板を作製した。実施例6に係るめっき鋼板の排水性の評価は、実施例5に係るめっき鋼板の排水性のB評価よりも高い評価Aとなった。これは、実施例6に係る第1領域81における幅方向の間隔L2が、実施例5に係る第1領域81における幅方向の間隔7mmよりも長い15mmであったことに起因すると考えられる。つまり、実施例6に係る第2領域82の面積が、実施例5に係る第2領域82の面積よりも広くなることで、排水経路が広くなり、排水がより促進されたためと考えられる。また、表1に示すように、間隔L2が長くなるほど、排水性が向上する結果となった。これは、上述のように、間隔L2が長くなるほど第2領域82の面積が大きくなることで排水経路が広くなり、めっき鋼板からより排水され易くなったためと考えられる。
【0123】
(実施例9)
実施例9では、第1領域81の静摩擦係数を、上記実施例1~8の第1領域81の静摩擦係数よりも低い0.25としたが、実施例9に係るめっき鋼板の摩擦力はB評価となり、良好な摩擦力となった。なお、上記実施例2~8に係る摩擦力の評価は、実施例9に係る摩擦力のB評価よりも高い評価(A又はAA)となった。これは、上記実施例2~8に係る第1領域81は、実施例9に係る第1領域81の静摩擦係数0.25よりも高い静摩擦係数(0.34~0.45)を有し、より高い摩擦力がタイヤに生じたためであると考えられる。特に、実施例2に係る第1領域81の幅方向の長さL1は実施例9に係るL150mmよりも短い15mmであるが、実施例2に係る第1領域81の静摩擦係数が実施例9に係る第1領域81の静摩擦係数0.25よりも高い0.40であったため、実施例2の摩擦力の評価がA評価となった。
【0124】
(実施例10)
実施例10では、第2領域82にも水滴を吹き付けたが、めっき鋼板の排水性はB評価であった。このように、めっき鋼板の全面に水滴を吹き付けた場合であっても、2段階の静摩擦係数を有する領域(第1領域81及び第2領域82)を形成することで、良好な排水性を有するめっき鋼板が得られることが分かった。上記実施例1~4、6~8に係るめっき鋼板では、実施例10に係る排水性のB評価よりも高い評価(A又はAA)となった。これは、上記実施例1~4、6~8に係る第2領域82には、水滴が吹き付けられておらず、実施例10に係る第2領域81の静摩擦係数0.22よりも低い静摩擦係数(0.12~0.16)を有するため、第2領域82における排水がより促進されたためと考えられる。特に、実施例6に係る第1領域81の幅方向の間隔L2は実施例10に係るL250mmよりも短い15mmであるが、実施例6に係る第2領域82の静摩擦係数が実施例10に係る第2領域82の静摩擦係数0.22よりも低い0.16であったため、実施例6の排水性の評価がA評価となった。
【0125】
(比較例)
比較例に係るめっき鋼板では、排水性が悪く、C評価となった。これは、比較例に係るめっき鋼板には、実施例に係るめっき鋼板のような第2領域82が形成されていないため、十分にめっき鋼板から排水がなされなかったためと考えられる。
【0126】
<4.補足>
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0127】
例えば、上記実施形態に係る溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法では、説明を簡略化するために、ステップS101~S103までの処理が順番に行われるものとして説明した。しかし、実際には、ステップS101~S103までの処理は、同時進行で行われてもよいし、適宜順番を入れ替えて行われてもよい。
【0128】
また、上記実施形態では、制御装置30が、水吹付ノズルの向く方向又は水吹付ノズルとめっき層の表面との距離を制御した。これに限らず、制御装置30は、水吹付ノズルの向く方向又は水吹付ノズルとめっき層の表面との距離を制御しなくてもよい。つまり、制御装置30は、位置制御部312を備えていなくてもよい。この場合、予め、例えば作業者による手動により、水吹付ノズルが向く方向又は水吹付ノズルとめっき層の表面との距離が調整されてもよい。
【0129】
また、上記実施形態では、めっき層に凹凸が設けられた領域を第1領域、凹凸が設けられていない領域を第2領域として、静摩擦係数が互いに異なる2つの領域が溶融亜鉛めっき鋼板に設けられる例について説明した。これに限らず、溶融亜鉛めっき鋼板には、静摩擦係数が異なる3つ以上の領域が設けられてもよい。
【符号の説明】
【0130】
1 溶融亜鉛めっき装置
2 鋼板
3 めっき浴
4 めっき槽
10 ガスワイピングノズル
20 水吹付ノズル
23 噴出口
24 水圧センサ
30 制御装置
41、44、81、84、87、92、98 第1領域
42、45、82、85、88、93、99 第2領域
89 階段
100 ボルト位置
310 制御部
311 流量制御部
312 位置制御部
314 タイミング制御部
320 通信部