(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-18
(45)【発行日】2023-04-26
(54)【発明の名称】CO2を吸収して炭素に分解する方法
(51)【国際特許分類】
C01B 32/05 20170101AFI20230419BHJP
B01J 20/10 20060101ALI20230419BHJP
B01J 20/34 20060101ALI20230419BHJP
C03C 3/062 20060101ALI20230419BHJP
【FI】
C01B32/05
B01J20/10 A
B01J20/10 B
B01J20/34 H
C03C3/062
(21)【出願番号】P 2019105059
(22)【出願日】2019-06-05
【審査請求日】2022-02-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100132230
【氏名又は名称】佐々木 一也
(74)【代理人】
【氏名又は名称】成瀬 勝夫
(74)【代理人】
【識別番号】100198269
【氏名又は名称】久本 秀治
(74)【代理人】
【識別番号】100088203
【氏名又は名称】佐野 英一
(74)【代理人】
【識別番号】100100192
【氏名又は名称】原 克己
(72)【発明者】
【氏名】近藤 次郎
【審査官】磯部 香
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-162192(JP,A)
【文献】特開2018-131351(JP,A)
【文献】特開2003-326159(JP,A)
【文献】特開2004-216245(JP,A)
【文献】特開2009-249247(JP,A)
【文献】特開2005-281050(JP,A)
【文献】特開2008-221082(JP,A)
【文献】特開2015-187059(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/05
B01J 20/10
B01J 20/34
C03C 3/062
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ金属珪酸塩である3.4Li
2
O・SiO
2
と石英ウールとが質量割合で50:1~1:10の比率となるようにし、かつ
前記アルカリ金属珪酸塩と前記石英ウールとを少なくとも一部で互いに接触させて反応系内に存在させ、これら反応系内材料を450℃以上650℃以下に加熱した状態で、CO
2を含んだCO
2含有ガスを接触させることで、該CO
2含有ガス中のCO
2を反応系内材料に吸収させる工程Aと、
反応系内を非酸化性雰囲気にして450℃以上700℃以下に加熱することで、前記反応系内材料が吸収したCO
2を炭素に分解する工程Bとを有することを特徴とする、CO
2を吸収して炭素に分解する方法。
【請求項2】
アルカリ金属珪酸塩であるmが3.4~5.4のmK
2
O・SiO
2
及びnが2.4~4.4のnLi
2
O・SiO
2
の混合物と石英ウールとが質量割合で50:1~1:10の比率となるようにし、かつ前記アルカリ金属珪酸塩の混合物と前記石英ウールとを少なくとも一部で互いに接触させて反応系内に存在させ、これら反応系内材料を450℃以上650℃以下に加熱した状態で、CO
2
を含んだCO
2
含有ガスを接触させることで、該CO
2
含有ガス中のCO
2
を反応系内材料に吸収させる工程Aと、
反応系内を非酸化性雰囲気にして450℃以上700℃以下に加熱することで、前記反応系内材料が吸収したCO
2
を炭素に分解する工程Bとを有することを特徴とする、CO
2
を吸収して炭素に分解する方法。
【請求項3】
前記
アルカリ金属珪酸塩の混合物は、
4.4K
2
O・SiO
2
と3.4Li
2
O・SiO
2
との混合物である、請求項
2に記載のCO
2を吸収して炭素に分解する方法。
【請求項4】
前記工程Bの後、再び、前記工程Aと前記工程Bとを行って、CO
2の吸収と炭素への分解を繰り返すようにする、請求項1~3のいずれかに記載のCO
2を吸収して炭素に分解する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CO2を吸収して炭素に分解する方法に関し、詳しくは、アルカリ珪酸化物を用いてCO2を吸収させ、炭素に分解する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、大気中の二酸化炭素(CO2)は増加の一途を辿っており、これが地球温暖化の一因であると言われて久しい。大気中のCO2を炭素(C)に分解(還元)することができれば、この問題解決の一助となると共に、分解したCを工業材料や燃料等の炭素源として使用できることから、工業的にも極めて有利である。ところが、CO2の吸収とCへの分解との両方を簡便に行うことができる有力な方法は、これまでに見出されていない。
【0003】
例えば、特許文献1には、アルカリ元素の炭酸化物及び/又はアルカリ土類元素の炭酸化物を水ガラス又はアルカリ珪酸化物と混合し、この混合物を非酸化性雰囲気中で700℃以上1600℃以下に加熱することで、炭酸化物から遊離炭素を製造する方法が開示されている。
【0004】
この方法に関して、例えば、CaO(生石灰)やNa2Oは効率良くCO2を吸収して炭酸化物を生成することから、このような炭酸化物を用いることで、結果的にCO2をCに転化することになる。つまり、この方法は、CO2を吸収させて得られた炭酸化物を水ガラスやアルカリ珪酸化物を用いて炭素を分離するものである。
【0005】
しかしながら、CaOやNa2Oは強アルカリ化合物であり、なかでも、Na2Oは非常に不安定であることから、装置を構成する各種材質とも容易に反応してしまう。また、非酸化性雰囲気中で加熱する際に、アルカリ珪酸化物や炭酸化物等が溶融して一体化するため、繰り返しの使用が困難である。更には、析出した炭素(C)が溶融物に固着し触媒毒として作用することもあり、繰り返しの使用が困難である。
【0006】
上記と同じく、特許文献2、および、特許文献3には、リチウム珪酸化物のリチウムオルトシリケート(Li4SiO4)およびリチウムメタシリケート(Li2SiO3)がCO2を吸収して炭酸化物を生成することが開示されている。これら技術と特許文献1の炭酸化物から遊離炭素を製造する方法を組み合わせても、結果的にCO2をCに転化させることができる。しかしながら、加熱中にアルカリ珪酸化物や炭酸化物等が粒成長し焼結が進み一体化するため、繰り返しの使用が困難である。更には、析出した炭素(C)がアルカリ珪酸化物や炭酸化物に固着し触媒毒として作用することもあり、このことからも繰り返しの使用が困難である。
【0007】
また、特許文献4には、H2Oの存在下で珪酸ナトリウム(Na2O・nSiO2)に大気中のCO2を吸収させ、CO2とH2Oを吸収した珪酸ナトリウムを非酸化性雰囲気中で700℃以上1600℃以下に加熱することで、炭素を分離する方法が開示されている。これによれば、炭酸化物源としてCaOやNa2Oのような強アルカリ性の化合物を使用することなく、CO2を吸収させてCに分解することができる。
【0008】
しかしながら、CO2を吸収した珪酸ナトリウムからCを分離するにあたり、非酸化性雰囲気中で少なくとも700℃に加熱しなければならず、Cの分離のために大きなエネルギーを必要としてしまい、また、回収できるCの効率も未だ十分ではない点で、改良の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2015-187059号公報
【文献】特開2008-105006号公報
【文献】特開2011-161332号公報
【文献】特開2018-131351号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、本発明者らは、アルカリ珪酸化物を用いてCO2を吸収し、Cに分解する方法において、Cの分解温度をより低温にすることができ、しかも、Cの分解効率をより高める手段について鋭意検討した結果、驚くべきことには、アルカリ珪酸化物と共に石英ウールを反応系内に存在させることで、これらの課題が達成できることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
したがって、本発明の目的は、アルカリ珪酸化物を用いてCO2を吸収し、Cに分解するにあたり、Cの分解温度をより低温にすることができると共に、CO2からCへの分解効率をより高めることができる、CO2を吸収して炭素に分解する方法を提供することにある。
なお、本発明におけるアルカリ珪酸化物は、K
2
O・SiO
2
等のようなアルカリ金属の珪酸塩を意味する。そのため、本明細書においてアルカリ珪酸化物とする場合は、アルカリ金属珪酸塩を表すものとする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
すなわち、本発明の要旨は次の通りである。
(1)アルカリ金属珪酸塩である3.4Li
2
O・SiO
2
と石英ウールとが質量割合で50:1~1:10の比率となるようにし、かつ前記アルカリ金属珪酸塩と前記石英ウールとを少なくとも一部で互いに接触させて反応系内に存在させ、これら反応系内材料を450℃以上650℃以下に加熱した状態で、CO2を含んだCO2含有ガスを接触させることで、該CO2含有ガス中のCO2を反応系内材料に吸収させる工程Aと、
反応系内を非酸化性雰囲気にして450℃以上700℃以下に加熱することで、前記反応系内材料が吸収したCO2を炭素に分解する工程Bとを有することを特徴とする、CO2を吸収して炭素に分解する方法。
(2)アルカリ金属珪酸塩であるmが3.4~5.4のmK
2
O・SiO
2
及びnが2.4~4.4のnLi
2
O・SiO
2
の混合物と石英ウールとが質量割合で50:1~1:10の比率となるようにし、かつ前記アルカリ金属珪酸塩の混合物と前記石英ウールとを少なくとも一部で互いに接触させて反応系内に存在させ、これら反応系内材料を450℃以上650℃以下に加熱した状態で、CO
2
を含んだCO
2
含有ガスを接触させることで、該CO
2
含有ガス中のCO
2
を反応系内材料に吸収させる工程Aと、
反応系内を非酸化性雰囲気にして450℃以上700℃以下に加熱することで、前記反応系内材料が吸収したCO
2
を炭素に分解する工程Bとを有することを特徴とする、CO
2
を吸収して炭素に分解する方法。
(3)前記アルカリ金属珪酸塩の混合物は、4.4K
2
O・SiO
2
と3.4Li
2
O・SiO
2
との混合物である、(2)に記載のCO2を吸収して炭素に分解する方法。
(4)前記工程Bの後、再び、前記工程Aと前記工程Bとを行って、CO2の吸収と炭素への分解を繰り返すようにする、(1)~(3)のいずれかに記載のCO2を吸収して炭素に分解する方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の方法によれば、CO2からCへの分解温度をより低温にすることができ、しかも、CO2からCへの分解効率をより高めて、CO2を吸収して炭素に分解することができるようになる。また、本発明では、CO2の吸収と炭素への分解を繰り返すことが可能であることから、炭素源として使用できる炭素をCO2の有効利用によって効率良く製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、アルカリ金属におけるCO
2の吸収特性とCO
2の分解特性との傾向を説明するための説明図である。
【
図2】
図2は、K
2O-SiO
2の2成分系相平衡状態図である。
【
図3】
図3は、Li
2O-SiO
2の2成分系相平衡状態図である。
【
図4】
図4は、実施例で使用した反応装置(CO
2の吸収・分解装置)を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明について詳しく説明する。
本発明における方法は、アルカリ珪酸化物と石英ウールとが質量割合で50:1~1:10の比率となるようにし、かつ少なくともこれらを一部で互いに接触させて反応系内に存在させ、これらアルカリ珪酸化物と石英ウールとを含んだ反応系内材料を450℃以上650℃以下に加熱した状態で、CO2を含んだCO2含有ガスを接触させて、CO2含有ガス中のCO2を反応系内材料に吸収させる工程Aと、アルカリ珪酸化物と石英ウールとが含まれた反応系内を非酸化性雰囲気にして450℃以上700℃以下に加熱することで、反応系内材料が吸収したCO2をCに分解する工程Bとを有する。
【0016】
本発明においては、反応系内に石英ウールを存在させることで、石英ウールを存在させない場合に比べて、CO2からCへの分解効率をより高めることができると共に、Cの分解温度をより低温にすることができる。この理由については現時点で十分に解明されていないが、反応系内材料が吸収したCO2をCに分解するにあたり、石英ウールが存在することで、その分解を助ける働きをするものと考えられる。その際のメカニズム等については不明であるが、石英ウールが存在することで、アルカリ珪酸化物と石英ウールとの接触界面がCO2分解反応の場を提供しているのではないかと推測している。
【0017】
一方で、アルカリ珪酸化物のなかでも、CO
2の吸収特性が高いものと低いものであったり、吸収したCO
2のCへの分解特性が高いものと低いものであったりと特性が異なる。特に、アルカリ金属(第1族元素)の種類における傾向は
図1に示した通りであり、CO
2の吸収特性は高い方から順にLi、Na、Kであり、CO
2のCへの分解特性(CO
2の分解特性)は、これとは逆に高い方から順にK、Na、Liとなる。CO
2の吸収に関しては、アルカリ元素の有効核電荷の大きい順であり、CO
2吸収時にOを吸引すると考えると理解できる。CO
2の分解特性に関しては、ギブスエネルギーから考えたアルカリ炭酸化物の分解し易さの順となっている。
【0018】
そこで、本発明においては、アルカリ珪酸化物として、Li、Na、及びKからなるアルカリ金属元素の元素群のなかから、異なるアルカリ金属元素が選ばれてなる2種以上のアルカリ珪酸化物を組み合わせて、その混合物を用いるようにしてもよい。その際、トータルでのCへの分解効率をより高めるようにする観点から、石英ウールによるCへの分解を補助する働きを考慮して、好ましくは、Liの珪酸化物とKの珪酸化物とを含めるようにするのがよい。すなわち、Liの珪酸化物を用いることでCO2の吸収特性を高めることができ、Kの珪酸化物を用いることでCO2の分解特性を高めるようにする。但し、実施例において後述するように、Liの珪酸化物とKの珪酸化物との組み合わせの場合でも、反応系内に石英ウールが存在しないと、CO2のCへの分解は十分には進まない。
【0019】
具体的には、アルカリ珪酸化物として、mが3.4~5.4のmK
2O・SiO
2と、nが2.4~4.4のnLi
2O・SiO
2との混合物を用いる方法が一例である。ここで、
図2には、K
2O-SiO
2の2成分系相平衡状態図が示されており、
図3には、Li
2O-SiO
2の2成分系相平衡状態図が示されている。これらから分かるように、mやnが上記範囲のmK
2O・SiO
2、nLi
2O・SiO
2は、K成分やLi成分の比率が大きい高アルカリ比であるため、CO
2の吸収という観点で有利である。また、mやnが上記範囲であれば低融点となり、本発明のようなCO
2の吸収と分解の反応が起こり易いという観点で有利となる。なお、
図2及び3において各化合物の組成を示す横軸は、いずれもアルカリ元素のモル分率を表す。
【0020】
このうち、低融点に関する理由付けは未だ推測の域を出ないが、反応の際にmK2O・SiO2やnLi2O・SiO2が溶融状態になれば、若しくは、融点近くの温度となれば、酸素イオン(O2-)の移動が容易となって反応が進み易く、また、電導度も大きくなるため、O2が離脱した後にエレクトロン(e-)が拡散して、炭素(C)の生成が起こり易くなると考えられる。そのため、同じ反応温度であれば、融点が低い化合物である方が有利になる。なお、mとnがこれら範囲のmK2O・SiO2、nLi2O・SiO2であることで、本発明では、先の特許文献1に記載されるように、水ガラスやアルカリ珪酸化物と共にCaOやNa2Oを使用しなくても、CO2を吸収させることができると共に、そのCO2をCに分解することができる。
【0021】
このmK2O・SiO2については、上述したように、CO2吸収の観点や、吸収したCO2を加熱によりCに分解する反応が進み易いといった観点から、好ましくはmが3.4~5.4のmK2O・SiO2であり、より好ましくはmが4~4.8のmK2O・SiO2であり、最も好ましくは4.4K2O・SiO2である。また、nLi2O・SiO2についても同様に、好ましくはnが2.4~4.4のnLi2O・SiO2であり、より好ましくはnが3.0~3.8のnLi2O・SiO2であり、最も好ましくは3.4Li2O・SiO2である。なお、これらの係数m、nは、SiO2に対するK2OやLi2Oの比を表す正の数である。また、m=3.4~5.4のmK2O・SiO2やn=2.4~4.4のnLi2O・SiO2は工業製品としては勿論、試薬としてもほとんど市販されていないため、主な入手方法は合成による。
【0022】
また、アルカリ珪酸化物として、mK2O・SiO2とnLi2O・SiO2との混合物を用いる場合、これらの混合比率については特に制限されないが、各々の体積が同等程度となる比率を選択でき、これら化合物の比重が比較的近い値を有することから、互いに質量が比較的近い値を選択できる。質量比として好ましくは、1:10~10:1であり、さらに好ましくは、1:3~3:1を選択することができるが、これらの値に制限されるものではない。
【0023】
一方で、反応系内に存在させるアルカリ珪酸化物と石英ウールとの比率については、CO2の吸収やCへの分解を考慮して、アルカリ珪酸化物と石英ウールとが質量割合で50:1~1:10の比率となるようにする。この比について、好ましくは50:1~1:5であり、より好ましくは10:1~1:1である。なお、上述したようにアルカリ珪酸化物として2種以上の混合物を用いる場合、その合計が当該アルカリ珪酸化物と石英ウールとの比率となるようにすればよい。
【0024】
また、本発明において使用する石英ウールについては特に制限はなく、一般に市販されているものをそのまま使用することができ、例えば、直径2~6μm、長さは数10mm程度の市販品でよいが、本発明では、これに限るわけではない。
【0025】
また、アルカリ珪酸化物は、気体吸収性に優れる方が望ましいことから、その形状については、塊状のものよりは粉末状であるか又は粒状のものであるのがよい。特に制限されないが、個々の粒子の粒径が0.1μm~5mm程度であるのがよく、好ましくは1μm~2mmであるのがよい。なお、粒径を小さくし過ぎると粉砕の過程で不純物が混入することなどが懸念されるため、粉砕したとしても0.1μm程度までとするのがよい。
【0026】
更に、本発明において、CO2含有ガスとしては、空気のほか、例えば、石炭、重油、天然ガス等を燃料とする火力発電所や、製造所のボイラー、コークスで酸化鉄を還元する製鉄所の高炉等から排出されるような排ガスを用いることもできる。
【0027】
本発明の方法では、先ず、アルカリ珪酸化物と石英ウールとが所定の質量割合となるようにしながら、少なくとも一部で互いに接触した状態で反応系内に存在させ、これら反応系内材料を450℃以上650℃以下に加熱してCO2含有ガスを接触させることで、反応系内材料にCO2を吸収させる(工程A)。ここで、アルカリ珪酸化物と石英ウールは、互いに混合された状態で存在してもよく、混合はされなくても、例えば、アルカリ珪酸化物に石英ウールを振り掛けたり、その逆であったりするなど、両者が少なくとも一部において互いに接触しているようにする。すなわち、アルカリ珪酸化物と石英ウールとの界面が反応に寄与する可能性を考慮すると、両者は接触していることが必要となる。その際、アルカリ珪酸化物と石英ウールとが反応系内に存在する状態において、CO2を吸収することにより、例えばmK2O・SiO2のK2Oの一部やnLi2O・SiO2のLi2Oの一部が、K2CO3類似の構造やLi2CO3類似の構造を有する化合物に変化すると考えられる。なお、CO2を吸収することにより、アルカリ珪酸化物と石英ウールの接触界面にどのような変化が生じるかは現時点では不明である。
【0028】
また、CO2含有ガスを反応系内材料に接触させてCO2を吸収させる際には、CO2の吸収を高める観点から、反応系内材料を450℃以上650℃以下、好ましくは500℃以上600℃以下に加熱する。この温度が450℃未満であると反応系内材料へのCO2の吸収が不十分である。反対に650℃を超えると反応系内材料へのCO2の吸収量が減少するので好ましくない。
【0029】
ここで、アルカリ珪酸化物と石英ウールとが反応系内に存在するとは、これらの反応系内材料が所定の温度に加熱された状態で、CO2含有ガスがアルカリ珪酸化物及び石英ウールに同時又は略同時に接触して、反応系内材料にCO2が吸収される形態を表し、その際、反応系内材料の少なくとも一部において、アルカリ珪酸化物と石英ウールとが互いに接触する接触界面を有するようにする。この反応系内に存在する状況については、例えば、互いに混合されたアルカリ珪酸化物と石英ウールとが上部開放の容器内に配置され、かつ、これらの反応系内材料が所定の温度に加熱された状態で、大気中のCO2が接触可能な反応装置を構成するようにしてもよい。また、ガスを流通させるためのガス出入り口を有した密閉容器内に、アルカリ珪酸化物と石英ウールとを混ぜて配置したり、或いは、アルカリ珪酸化物と石英ウールとが混合されないまでも互いに一部で接触した状態にして配置し、これらの反応系内材料が所定の温度に加熱された状態で容器内にCO2含有ガスが流通して、CO2が接触可能な反応装置を構成するようにしてもよい。
【0030】
次に、CO2を吸収させた反応系内材料について、反応系内を非酸化性雰囲気にして450℃以上700℃以下に加熱することで、反応系内材料に吸収させたCO2をCに分解する(工程B)。この加熱の際には、生成したC(炭素)の酸化を防止するために、非酸化性雰囲気とする必要がある。非酸化性雰囲気としては、例えば、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガスの雰囲気や窒素雰囲気等を挙げることができる。ちなみに、使用する非酸化性ガスの純度としては、一般的なガスボンベの純度、例えば、99.99%程度で十分である。このような純度があれば、加熱する際に用いる加熱炉などの一般的な加熱装置に収容される反応装置内において、生成した炭素が酸化することを実質的に無視することができる。なお、非酸化性ガスの流量としては特に制限はなく、経済的な観点から少量で構わない。例えば、加熱による反応装置内での圧力の上昇・破損を防ぐ目的から、ガスフロー系にて本発明を実施する場合は、排気管から非酸化性ガスが逆流しない流量であればよく、この流量として、数10mL~数10L/分程度、好ましくは、100mL~2L/分程度の流量を示すことができる。
【0031】
また、反応系内材料に吸収させたCO2をCに分解する際には、Cへの分解を高める観点から、反応系内材料を450℃以上700℃以下、好ましくは500℃以上650℃以下に加熱する。この温度が450℃未満であるとCへの分解がほとんど進行しない。反対に700℃を超えると、アルカリ珪酸化物の固着一体化が急速に進行するので再使用には強く粉砕する等の手間が必要となってしまう。そのため、好ましくは650℃以下であるのがよく、この温度であればアルカリ珪酸化物の状態はほとんど変化せず、多数回使用しても粉末が軽く凝結した多孔体構造を維持することができるので、ごく軽く粉砕する、もしくは、そのままの状態で再使用することができる。
【0032】
また、工程AでCO2を吸収させる場合、及び工程BでCO2をCに分解させる場合について、それぞれの加熱時の昇温速度については特に制限がなく、例えば、一般に使用される通常の加熱炉の昇温速度である1~40℃/分を選択でき、好ましくは、10~20℃/分であるのがよい。また、それぞれの加熱における最高温度到達後の保持時間についても特に制限はない。経済的な観点から短時間の保持時間を選択し、例えば、1~180分、好ましくは、10~60分程度で十分である。更には、最高温度到達後の冷却速度についても同様に制限されず、最高到達温度での保持時間が終了した後、直ちに加熱を止めて、装置の自然冷却に任せてよく、もし、装置の構造上から冷却速度に制約があれば、それに従ってもよい。
【0033】
本発明の方法により、CO2を吸収した反応系内材料からCが生成する反応メカニズムについては未だ明らかになっていないが、今のところ以下のように推測される。
例えば、K2O・SiO2系化合物であるmK2O・SiO2やLi2O・SiO2系化合物であるnLi2O・SiO2等、更に石英ウールは最大量の酸素原子を有しており、還元物質としては作用できない。したがって、反応の進行に還元物質は関与しておらず、これらの反応系内材料は触媒として作用すると考えられる。また、前述したように、例えばmK2O・SiO2がCO2を吸収すると、mK2O・SiO2のK2Oの一部が、K2CO3類似の構造を有する化合物へ変化するのではないかと推測している。このことから、加熱中の推測されるメカニズムとして、例えば、K2CO3類似の化合物中の酸素原子がmK2O・SiO2中を拡散し、その結果、炭素(C)が取り残されるというものである。nLi2O・SiO2がCO2を吸収する場合についても同様である。なお、このメカニズムでは酸素原子が酸素分子として、例えば、溶融状態のmK2O・SiO2から離脱せねばならないが、実験サンプルの重量変化から酸素の脱離が確認できている。なお、以上の推測において、アルカリ珪酸化物と石英ウールの接触界面がどのように作用するかは現時点では不明である。
【0034】
また、本発明では、CO2を吸収した反応系内材料を非酸化性雰囲気中で加熱すると、分解した炭素はアルカリ珪酸化物や石英ウールに固着するのではなく、これらとは分離可能な状態で回収できる。加えて、アルカリ珪酸化物は、CO2の吸収や分解のための加熱によって、せいぜい粉末状のものが粒子同士で軽く結合する程度に抑えられる。
【0035】
また、上述したように、本発明における方法では、炭素(C)がアルカリ珪酸化物や石英ウールに固着して回収されるのではなく、しかも、CO2の吸収や分解のための加熱によっても、アルカリ珪酸化物や石英ウールの形状変化は抑えられることから、工程Bにより一旦炭素を回収した後、再び、その反応系内材料にCO2を吸収させる工程Aと、炭素へ分解させる工程Bとを繰り返して行うようにしてもよい。その際、炭素はアルカリ珪酸化物や石英ウールに析出・固着しないため、いわゆる触媒被毒の問題がなく、反応効率を落とさずに、CO2の吸収とCへの分解を複数回にわたって繰り返すことが可能であり、アルカリ珪酸化物と石英ウールを効率良く使用することができる。
【0036】
なお、本発明においては、CaO、Na2O等のアルカリ元素の酸化物やアルカリ土類元素の酸化物をアルカリ珪酸化物と共に用いるようにしてもよい。すなわち、CaOやNa2O等を併用することを妨げるものではない。CaOやNa2O等を併用する場合でも、本発明によれば、炭素はアルカリ珪酸化物や石英ウールに固着せずに、また、CO2の吸収や分解のための加熱によってもアルカリ珪酸化物がCaOやNa2O等との固着一体化はほとんど進行せず、特にCaO併用の場合には、形状変化がほぼ抑えられる。
【0037】
本発明の方法によって得られた炭素は、工業材料や燃料等として用いられる通常の炭素源として使用することができる。特に、本発明によれば、簡便な方法でCO2の吸収と炭素への分解を繰り返して行うことができることから、CO2の有効活用と地球温暖化対策を同時に達成できる点で有意義なものであると言える。
【0038】
以下、実施例等に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの内容に制限されるものではない。
【0039】
(実施例1)
4.4K2O・SiO2、及び3.4Li2O・SiO2はいずれも一般には市販されておらず、以下の工程により合成した。
先ず、市販の水酸化カリウム(粒状の特級試薬)とケイ砂(SiO2)(200~300メッシュ)を、K2O:SiO2比が4.4:1となり、水酸化カリウムとケイ砂が反応して4.4K2O・SiO2が生成した場合に約20gとなる量を各々秤量し、上部内径が約36mm、深さが約36mmのニッケルルツボに装入した。これをニッケルルツボごと内径約41mm、深さ約115mmの石英ルツボへ入れた。石英ルツボにアルミナ製の蓋をし、Ar雰囲気の加熱炉で1050℃まで10℃/分で昇温し、30分間保持後、室温まで自然冷却した。冷却後、ニッケルルツボの中にはほぼ無色透明の均一なガラス状物質が生成していた。この生成物の質量減少を測定すると、水酸化カリウムが完全に脱水し、ケイ砂と反応して4.4K2O・SiO2が生成した場合の質量減少と一致し、4.4K2O・SiO2が生成したことが確認された。
【0040】
ニッケルルツボにはテーパーが付いているが、ニッケルルツボを伏せて底を軽く叩くと生成したガラス状の4.4K2O・SiO2を取り出すことができた。4.4K2O・SiO2のニッケルルツボとの接触部分は、所々わずかに薄い黄色を帯びていたので、この部分をステンレス製のスクレーパーで削り落とし、無色の4.4K2O・SiO2塊を得た。
【0041】
また、市販の水酸化リチウム(粒状の特級試薬)とケイ砂(SiO2)(200~300メッシュ)を、Li2O:SiO2比が3.4:1となり、水酸化リチウムとケイ砂が反応して3.4Li2O・SiO2が生成した場合に約20gとなる量を各々秤量し、上部内径が約36mm、深さが約36mmのニッケルルツボに装入した。これをニッケルルツボごと内径約41mm、深さ約115mmの石英ルツボへ入れた。石英ルツボにアルミナ製の蓋をし、Ar雰囲気の加熱炉で1050℃まで10℃/分で昇温し、30分間保持後、室温まで自然冷却した。冷却後、ニッケルルツボの中にはほぼ無色透明の均一なガラス状物質が生成していた。この生成物の質量減少を測定すると、水酸化リチウムが完全に脱水し、ケイ砂と反応して3.4Li2O・SiO2が生成した場合の質量減少と一致し、3.4Li2O・SiO2が生成したことが確認された。
【0042】
ニッケルルツボにはテーパーが付いているが、ニッケルルツボを伏せて底を軽く叩くと生成したガラス状の3.4Li2O・SiO2を取り出すことができた。3.4Li2O・SiO2のニッケルルツボとの接触部分は、所々わずかに薄い青色を帯びていたので、この部分をステンレス製のスクレーパーで削り落とし、無色の3.4Li2O・SiO2塊を得た。
【0043】
上記で得られた4.4K2O・SiO2塊について、アルミナ乳鉢にて1mm以下に粉砕し、そのうちの約15gをアルミナルツボに装入した。次いで、アルミナルツボごと加熱炉に入れて、乾燥空気を2L/分で流しながら、10℃/分で昇温して700℃とし、その温度で12時間保持した後、室温まで自然冷却した。この酸化処理により、4.4K2O・SiO2粉中の有機物及び炭素を完全除去した。また、これによって4.4K2O・SiO2粉は完全に無水物となったと考えられる。
【0044】
また、上記で得られた3.4Li2O・SiO2塊についてもアルミナ乳鉢にて1mm以下に粉砕し、そのうちの約15gをアルミナルツボに装入した。次いで、アルミナルツボごと加熱炉に入れて、乾燥空気を2L/分で流しながら、10℃/分で昇温して600℃とし、その温度で12時間保持した後、室温まで自然冷却した。この酸化処理により、3.4Li2O・SiO2粉中の有機物及び炭素を完全除去した。また、完全に無水物とした。
【0045】
このようにして合成し、粉砕して酸化処理した4.4K
2O・SiO
2の2gと、同じく合成して粉砕し、酸化処理した3.4Li
2O・SiO
2の2gとをそれぞれ秤量し、これらに石英ウールを1.3g加えて混合して(アルカリ珪酸化物:石英ウール=50:16.25)、
図4に示したように、石英管からなる反応容器1内に装入して、反応系内材料2とした。ここで、石英ウールとしては市販品(東ソー社製石英ウール、ファイン)を使用した。これは、直径2~6μm、長さは数10mmであるが、反応系内材料2として混合する際に、一部は折れて数~数10mm程度の長さとなる。
【0046】
反応系内材料2が装入された反応容器1については、一方の端部にガス供給用のガス導入管3が接続され、他方の端部にはガス排出用のガス排出管4が接続されて、これら以外は密閉されている。このうち、ガス導入管3の上流側は二股に分かれており、CO2含有ガスを供給するCO2供給管5とアルゴン(Ar)ガスを供給するAr供給管6とが、それぞれバルブ7、8を介して接続されている。一方、ガス排出管4の先には図示外の質量分析器(四重極質量分析器)が接続されて、反応容器1から排出されたガスの分析を行うことができるようになっている。そして、この反応容器1は加熱炉9に入れられて、反応容器1内の反応系内材料2が所定の温度に加熱できるようになっており、本実施例に係る反応装置(CO2の吸収・分解装置)を構成している。
【0047】
このような反応装置において、先ず、反応系内材料2が装入された反応容器1に対して、CO2供給管5から100%濃度のCO2ガスを20mL/minの流量で流通させながら、15℃/minで加熱炉9を昇温し、反応容器1を450℃まで加熱して30分間保持する加熱処理Aを行った。その際、ガス排出管4を通じて排出される排出ガスを質量分析器で分析したところ、この加熱処理Aによりおよそ0.52gのCO2が反応系内材料2に吸収された。
【0048】
次に、CO2供給管5からのCO2ガスの供給を止め、反応容器1を450℃に加熱したまま、Ar供給管6からArガスを100mL/minの流量で流通させ、その温度で60分間保持する加熱処理Bを行った。その間、反応容器1の内側表面に黒色物が析出するのが確認された。
【0049】
加熱処理Bの終了後、自然冷却した反応容器1から反応系内材料2を取り出した上で、ごく軽く粉砕した後、篩にかけた。生成した粉状黒色物は微細であり、0.1mmの篩を使用することにより、アルカリ珪酸化物および石英ウールと黒色物とを分離することができた。このようにして回収した黒色物の一部を燃焼赤外線吸収法で炭素分析したところ、ほぼ100%の炭素であった。反応容器1内における炭素源は先の加熱処理Aで反応系内材料2に接触させたCO2しかなく、反応系内材料2に吸収されたCO2が加熱処理BによりCに還元されたと考えられる。また、回収された黒色物(遊離炭素)は0.13gであり、反応系内材料2が吸収したCO2のCへの転化効率は91%以上であった。尚、CO2のCへの転化効率は、吸収したCO2中のC量が吸収CO2の12/44であると考え、この値と、分析で得られたC量との比から算出した。
【0050】
一方、反応容器1から回収された反応系内材料2は、アルカリ珪酸化物(4.4K2O・SiO2、3.4Li2O・SiO2)の粒子同士や石英ウールとの結合は認められたものの、加熱処理A及びBによってアルカリ珪酸化物が一旦全て溶融して再固化したような状態ではなく、多孔体形状が維持されていた。また、石英ウールを含めて、全体的に加熱処理前と同じ白色であり、黒色物の析出は確認されなかった。
【0051】
そこで、反応系内材料2については特に手を加えることなく、そのまま再度反応容器1に装入し、先に行った加熱処理Aと加熱処理Bとを同様にして2度目のCO2吸収・分解反応を行ったところ、加熱処理Bの後に同じく黒色物(遊離炭素)が回収された。このとき、加熱処理Aで吸収されたCO2の量はおよそ0.33gであり、加熱処理Bで回収された黒色物は0.066gであった。黒色物の一部を燃焼赤外線吸収法で炭素分析したところ、ほぼ100%の炭素であった。このことからCO2のCへの転化効率は73%以上であった。また、2度目のCO2吸収・分解反応を行った反応系内材料2についても色、形状ともに、1度目の場合と比べて特段の変化もなかったことから、3度目及び4度目のCO2吸収・分解反応を繰り返して行った。その結果、3度目における加熱処理Aで吸収されたCO2の量はおよそ0.35gであり、加熱処理Bで回収された黒色物は0.043gであった。黒色物の一部を燃焼赤外線吸収法で炭素分析したところ、ほぼ100%の炭素であった。このことからCO2のCへの転化効率は45%以上であった。また、4度目における加熱処理Aで吸収されたCO2の量はおよそ0.34gであり、加熱処理Bで回収された黒色物は0.049gであった。黒色物の一部を燃焼赤外線吸収法で炭素分析したところ、ほぼ100%の炭素であった。このことからCO2のCへの転化効率は52%以上であった。
【0052】
(実施例2)
石英ウールを0.1gとした点(アルカリ珪酸化物:石英ウール=50:1.25)を除いては上記実施例1と全く同様に1度目の実験を行った。加熱処理Aによりおよそ0.51gのCO2が反応系内材料2に吸収された。次に、加熱処理Bを行ったところ、黒色物が析出するのが確認された。加熱処理Bの終了後、自然冷却した反応容器1から反応系内材料2を取り出した上で、ごく軽く粉砕した後、篩にかけた。生成した粉状黒色物は微細であり、0.1mmの篩を使用することにより、アルカリ珪酸化物および石英ウールと黒色物とを分離することができた。このようにして回収した黒色物の一部を燃焼赤外線吸収法で炭素分析したところ、ほぼ100%の炭素であった。反応容器1内における炭素源は先の加熱処理Aで反応系内材料2に接触させたCO2しかなく、反応系内材料2に吸収されたCO2が加熱処理BによりCに還元されたと考えられる。また、回収された黒色物(遊離炭素)は0.009gであり、反応系内材料2が吸収したCO2のCへの転化効率は6%以上であった。
【0053】
(実施例3)
4.4K2O・SiO2を0.1g、3.4Li2O・SiO2を0.1g、石英ウールを1.6gとした点(アルカリ珪酸化物:石英ウール=1:8)を除いては上記実施例1と全く同様に1度目の実験を行った。加熱処理Aによりおよそ0.03gのCO2が反応系内材料2に吸収された。次に、加熱処理Bを行ったところ、黒色物が析出するのが確認された。加熱処理Bの終了後、自然冷却した反応容器1から反応系内材料2を取り出した上で、ごく軽く粉砕した後、篩にかけた。生成した粉状黒色物は微細であり、0.1mmの篩を使用することにより、アルカリ珪酸化物および石英ウールと黒色物とを分離することができた。このようにして回収した黒色物の一部を燃焼赤外線吸収法で炭素分析したところ、ほぼ100%の炭素であった。反応容器1内における炭素源は先の加熱処理Aで反応系内材料2に接触させたCO2しかなく、反応系内材料2に吸収されたCO2が加熱処理BによりCに還元されたと考えられる。また、回収された黒色物(遊離炭素)は0.0004gであり、反応系内材料2が吸収したCO2のCへの転化効率は4%以上であった。
【0054】
(実施例4)
4.4K2O・SiO2を使用せず、3.4Li2O・SiO2を4.0gとした点を除いては上記実施例1と全く同様に1度目の実験を行った。加熱処理Aによりおよそ0.94gのCO2が反応系内材料2に吸収された。次に、加熱処理Bを行ったところ、黒色物が析出するのが確認された。加熱処理Bの終了後、自然冷却した反応容器1から反応系内材料2を取り出した上で、ごく軽く粉砕した後、篩にかけた。生成した粉状黒色物は微細であり、0.1mmの篩を使用することにより、アルカリ珪酸化物および石英ウールと黒色物とを分離することができた。このようにして回収した黒色物の一部を燃焼赤外線吸収法で炭素分析したところ、ほぼ100%の炭素であった。反応容器1内における炭素源は先の加熱処理Aで反応系内材料2に接触させたCO2しかなく、反応系内材料2に吸収されたCO2が加熱処理BによりCに還元されたと考えられる。また、回収された黒色物(遊離炭素)は0.010gであり、反応系内材料2が吸収したCO2のCへの転化効率は3%以上であった。
【0055】
(比較例1)
石英ウールを使用しない点を除いては上記実施例1と全く同様に1度目の実験を行った。加熱処理Aによりおよそ0.49gのCO2が反応系内材料2に吸収された。次に、加熱処理Bを行ったが、微量の灰色に近い黒色物が生成したのみであった。この黒色物全てを燃焼赤外線吸収法により炭素分析したが炭素は検出されなかった。燃焼赤外線吸収法の炭素分析下限は5μgであり、仮に炭素が生成していたとしても生成量は5μgより少ない量である。このことから、反応系内材料2が吸収したCO2のCへの転化は進まなかったか、進んだとしてもその効率は0.004%未満と非実用的な値であった。
【0056】
(比較例2)
石英ウールを0.06gとした点(アルカリ珪酸化物:石英ウール=50:0.75)を除いては上記実施例1と全く同様に1度目の実験を行った。加熱処理Aによりおよそ0.48gのCO2が反応系内材料2に吸収された。次に、加熱処理Bを行ったが、微量の灰色に近い黒色物が生成したのみであった。この黒色物全てを燃焼赤外線吸収法により炭素分析したが炭素は検出されなかった。燃焼赤外線吸収法の炭素分析下限は5μgであり、仮に炭素が生成していたとしても生成量は5μgより少ない量である。このことから、反応系内材料2が吸収したCO2のCへの転化は進まなかったか、進んだとしてもその効率は0.004%未満と非実用的な値であった。
【0057】
(比較例3)
4.4K2O・SiO2を0.2g、3.4Li2O・SiO2を0.2g、石英ウールを5gとした点(アルカリ珪酸化物:石英ウール=1:12.5)を除いては上記実施例1と全く同様に1度目の実験を行った。加熱処理Aによりおよそ0.05gのCO2が反応系内材料2に吸収された。次に、加熱処理Bを行ったが、微量の灰色に近い黒色物が生成したのみであった。この黒色物全てを燃焼赤外線吸収法により炭素分析したが炭素は検出されなかった。燃焼赤外線吸収法の炭素分析下限は5μgであり、仮に炭素が生成していたとしても生成量は5μgより少ない量である。このことから、反応系内材料2が吸収したCO2のCへの転化は進まなかったか、進んだとしてもその効率は0.04%未満と非実用的な値であった。
【0058】
(比較例4)
反応系内材料2の各々の量は実施例1と同じであるが、4.4K2O・SiO2および3.4Li2O・SiO2と石英ウールとを混合せずに、反応容器1内で石英ウールを4.4K2O・SiO2および3.4Li2O・SiO2から15mm以上離れた状態とし、他は上記実施例1と全く同様にして1度目の実験を行った。加熱処理Aによりおよそ0.46gのCO2が反応系内材料2に吸収された。
次に、加熱処理Bを行ったが、微量の灰色に近い黒色物が生成したのみであった。この黒色物全てを燃焼赤外線吸収法により炭素分析したが炭素は検出されなかった。燃焼赤外線吸収法の炭素分析下限は5μgであり、仮に炭素が生成していたとしても生成量は5μgより少ない量である。このことから、反応系内材料2が吸収したCO2のCへの転化は進まなかったか、進んだとしてもその効率は0.004%未満と非実用的な値であった。本比較例4と実施例1から、CO2を炭素へ分解するためには、アルカリ珪酸化物と石英ウールの接触が必要であることが分かる。
【0059】
(比較例5)
加熱処理Bの温度を750℃とした点を除いては上記実施例1と全く同様に1度目の実験を行った。加熱処理Aによりおよそ0.50gのCO2が反応系内材料2に吸収された。次に、加熱処理Bを行ったが、極わずかな量の灰色の物質が生成したのみであった。この灰色の物質は4.4K2O・SiO2および3.4Li2O・SiO2と固着しており回収することができなかった。本比較例5では加熱処理Bの温度が高すぎたため、加熱処理Bの昇温途中でいくらかは生成したかもしれない炭素は4.4K2O・SiO2または3.4Li2O・SiO2と反応し気体となって飛散したと想像される。このように、750℃は加熱処理Bの温度としては高すぎ、本発明では比較的低温の方がCO2から生成した炭素を回収できることが分かる。
【符号の説明】
【0060】
1:反応容器、2:反応系内材料、3:ガス導入管、4:ガス排出管、5:CO2供給管、6:Ar供給管、7,8:バルブ、9:加熱炉。