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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-18
(45)【発行日】2023-04-26
(54)【発明の名称】CO2を吸収して炭素に分解する方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/05 20170101AFI20230419BHJP
   B01J 20/10 20060101ALI20230419BHJP
   B01J 20/34 20060101ALI20230419BHJP
   C03C 3/062 20060101ALI20230419BHJP
【FI】
C01B32/05
B01J20/10 A
B01J20/34 H
C03C3/062
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019105070
(22)【出願日】2019-06-05
(65)【公開番号】P2020196654
(43)【公開日】2020-12-10
【審査請求日】2022-02-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100132230
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 一也
(74)【代理人】
【氏名又は名称】成瀬 勝夫
(74)【代理人】
【識別番号】100198269
【弁理士】
【氏名又は名称】久本 秀治
(74)【代理人】
【識別番号】100088203
【弁理士】
【氏名又は名称】佐野 英一
(74)【代理人】
【識別番号】100100192
【弁理士】
【氏名又は名称】原 克己
(72)【発明者】
【氏名】近藤 次郎
【審査官】磯部 香
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-162192(JP,A)
【文献】特開2018-131351(JP,A)
【文献】特開2003-326159(JP,A)
【文献】特開2004-216245(JP,A)
【文献】特開2009-249247(JP,A)
【文献】特開2005-281050(JP,A)
【文献】特開2008-221082(JP,A)
【文献】特開2015-187059(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/05
B01J 20/10
B01J 20/34
C03C 3/062
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ金属珪酸塩であるnが2.6~4.6のnNa O・SiO と石英ウールとが質量割合で1:40~1:6000の比率となるようにし、かつ少なくとも一部で互いに接触した状態で反応系内に存在させ、これら反応系内材料にCOを含んだCO含有ガスを接触させることで、該CO含有ガス中のCOを反応系内材料に吸収させる工程Aと、
反応系内を非酸化性雰囲気にして350℃以上700℃以下に加熱することで、前記反応系内材料が吸収したCOを炭素に分解する工程Bとを有することを特徴とする、COを吸収して炭素に分解する方法。
【請求項2】
前記工程Aでは、反応系内材料を室温以上650℃以下の温度にした状態でCO含有ガスを接触させる、請求項1に記載のCOを吸収して炭素に分解する方法。
【請求項3】
前記アルカリ金属珪酸塩は、3.6NaO・SiO である、請求項1又は2に記載のCOを吸収して炭素に分解する方法。
【請求項4】
前記工程Bの後、再び、前記工程Aと前記工程Bとを行って、COの吸収と炭素への分解を繰り返すようにする、請求項1~3のいずれかに記載のCOを吸収して炭素に分解する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、COを吸収して炭素に分解する方法に関し、詳しくは、アルカリ珪酸化物を用いてCOを吸収させ、炭素に分解する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、大気中の二酸化炭素(CO2)は増加の一途を辿っており、これが地球温暖化の一因であると言われて久しい。大気中のCOを炭素(C)に分解(還元)することができれば、この問題解決の一助となると共に、分解したCを工業材料や燃料等の炭素源として使用できることから、工業的にも極めて有利である。ところが、COの吸収とCへの分解との両方を簡便に行うことができる有力な方法は、これまでに見出されていない。
【0003】
例えば、特許文献1には、アルカリ元素の炭酸化物及び/又はアルカリ土類元素の炭酸化物を水ガラス又はアルカリ珪酸化物と混合し、この混合物を非酸化性雰囲気中で700℃以上1600℃以下に加熱することで、炭酸化物から遊離炭素を製造する方法が開示されている。
【0004】
この方法に関して、例えば、CaO(生石灰)やNaOは効率良くCOを吸収して炭酸化物を生成することから、このような炭酸化物を用いることで、結果的にCOをCに転化することになる。つまり、この方法は、COを吸収させて得られた炭酸化物を水ガラスやアルカリ珪酸化物を用いて炭素を分離するものである。
【0005】
しかしながら、CaOやNaOは強アルカリ化合物であり、なかでも、NaOは非常に不安定であることから、装置を構成する各種材質とも容易に反応してしまう。また、非酸化性雰囲気中で加熱する際に、アルカリ珪酸化物や炭酸化物等が溶融して一体化するため、繰り返しの使用が困難である。更には、析出した炭素(C)が溶融物に固着し触媒毒として作用することもあり、繰り返しの使用が困難である。
【0006】
上記と同じく、特許文献2、および、特許文献3には、リチウム珪酸化物のリチウムオルトシリケート(Li4SiO4)およびリチウムメタシリケート(Li2SiO3)がCOを吸収して炭酸化物を生成することが開示されている。これら技術と特許文献1の炭酸化物から遊離炭素を製造する方法を組み合わせても、結果的にCOをCに転化させることができる。しかしながら、加熱中にアルカリ珪酸化物や炭酸化物等が粒成長し焼結が進み一体化するため、繰り返しの使用が困難である。更には、析出した炭素(C)がアルカリ珪酸化物や炭酸化物に固着し触媒毒として作用することもあり、このことからも繰り返しの使用が困難である。
【0007】
また、特許文献4には、HOの存在下で珪酸ナトリウム(Na2O・nSiO2)に大気中のCOを吸収させ、COとHOを吸収した珪酸ナトリウムを非酸化性雰囲気中で700℃以上1600℃以下に加熱することで、炭素を分離する方法が開示されている。これによれば、炭酸化物源としてCaOやNaOのような強アルカリ性の化合物を使用することなく、COを吸収させてCに分解することができる。
【0008】
しかしながら、COを吸収させた珪酸ナトリウムからCを分離するにあたり、非酸化性雰囲気中で少なくとも700℃に加熱しなければならず、Cの分離のために大きなエネルギーを必要としてしまう点で改良の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2015-187059号公報
【文献】特開2008-105006号公報
【文献】特開2011-161332号公報
【文献】特開2018-131351号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、本発明者らは、アルカリ珪酸化物を用いてCOを吸収させ、それをCに分解する方法において、Cの分解温度をより低温にすることができる手段について鋭意検討した結果、驚くべきことには、アルカリ珪酸化物と共に石英ウールを反応系内に存在させることで、上記課題が達成できることを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
したがって、本発明の目的は、アルカリ珪酸化物を用いてCOを吸収し、Cに分解するにあたり、Cの分解温度をより低温にすることができ方法を提供することにある。
なお、本発明におけるアルカリ珪酸化物は、Na O・SiO 等のようなアルカリ金属の珪酸塩を意味する。そのため、本明細書においてアルカリ珪酸化物とする場合は、アルカリ金属珪酸塩を表すものとする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
すなわち、本発明の要旨は次の通りである。
(1)アルカリ金属珪酸塩であるnが2.6~4.6のnNa O・SiO と石英ウールとが質量割合で1:40~1:6000の比率となるようにし、かつ少なくとも一部で互いに接触した状態で反応系内に存在させ、これら反応系内材料にCOを含んだCO含有ガスを接触させることで、該CO含有ガス中のCOを反応系内材料に吸収させる工程Aと、
反応系内を非酸化性雰囲気にして350℃以上700℃以下に加熱することで、前記反応系内材料が吸収したCOを炭素に分解する工程Bとを有することを特徴とする、COを吸収して炭素に分解する方法。
(2)前記工程Aでは、反応系内材料を室温以上650℃以下の温度にした状態でCO含有ガスを接触させる、(1)に記載のCOを吸収して炭素に分解する方法。
(3)前記アルカリ金属珪酸塩は、3.6NaO・SiO である、(1)又は(2)に記載のCOを吸収して炭素に分解する方法。
(4)前記工程Bの後、再び、前記工程Aと前記工程Bとを行って、COの吸収と炭素への分解を繰り返すようにする、(1)~(3)のいずれかに記載のCOを吸収して炭素に分解する方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、アルカリ珪酸化物を用いてCOを吸収させ、それをCに分解するにあたり、このCの分解温度を従来法よりも低温にすることができる。しかも、本発明においてCOを吸収して炭素に分解する方法では、COの吸収と炭素への分解を繰り返すことが可能であることから、炭素源として使用できる炭素をCOの有効利用によって効率良く製造することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、NaO-SiOの2成分系相平衡状態図である。
図2図2は、KO-SiOの2成分系相平衡状態図である。
図3図3は、LiO-SiOの2成分系相平衡状態図である。
図4図4は、アルカリ金属におけるCOの吸収特性とCOの分解特性との傾向を説明するための説明図である。
図5図5は、実施例で使用した反応装置(COの吸収・分解装置)を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明について詳しく説明する。
本発明においてCOを吸収して炭素に分解する方法では、アルカリ珪酸化物と石英ウールとが質量割合で1:40~1:6000の比率となるようにし、かつ少なくともこれらが一部で互いに接触した状態で反応系内に存在させ、これら反応系内材料にCOを含んだCO含有ガスを接触させることで、CO含有ガス中のCOを反応系内材料に吸収させる工程Aと、アルカリ珪酸化物と石英ウールとを含んだ反応系内を非酸化性雰囲気にして350℃以上700℃以下に加熱することで、反応系内材料が吸収したCOをCに分解する工程Bとを有している。
【0016】
本発明においては、反応系内に石英ウールを存在させることで、石英ウールを存在させない場合に比べて、工程BにおけるCOから炭素(C)への分解温度をより低温にすることができる。この理由については現時点で十分に解明されていないが、反応系内材料が吸収したCOをCに分解するにあたり、石英ウールが存在することで、その分解を助ける働きをするものと考えられる。すなわち、そのメカニズム等については不明であるが、石英ウールが存在することで、アルカリ珪酸化物と石英ウールとの接触界面がCO分解反応の場を提供しているのではないかと推測している。又、石英ウールが存在することによりアルカリ珪酸化物の間に隙間が生じ、ガスの関与する本反応が低温で進み易くなる可能性も考えられる。
【0017】
この石英ウールの配合量に関して、アルカリ珪酸化物と石英ウールとが質量割合で1:40~1:6000の比率で反応系内に存在させるようにし、好ましくは1:50~1:5000の比率で反応系内に存在させるようにする。石英ウールに対する質量割合でアルカリ珪酸化物が1/40を超えて存在すると、吸収させたCOを工程Bの加熱処理でCに分解する際に350℃では分解が進まずに、本発明の目的である分解温度の低温化を図ることができなくなってしまう。反対に、石英ウールに対する質量割合でアルカリ珪酸化物が1/6000に満たないと、そもそもCOを吸収して分解させるCの生成量(遊離の炭素量)が僅かになるため、工業的に有効であるとは言えない。
【0018】
本発明で用いるアルカリ珪酸化物としては、第1族元素であるアルカリ金属を含んだものであるのがよく、なかでも、Li、Na、又はKのいずれかを含んだものであるのよい。これらについて、本発明では、いずれか1種類のアルカリ金属を含んだアルカリ珪酸化物を用いてもよく、異なるアルカリ金属が選ばれてなる2種以上のアルカリ珪酸化物を組み合わせて、その混合物を用いるようにしてもよいが、アルカリ珪酸化物の相対的な割合が少ないことから、単独種類のアルカリ珪酸化物を用いることで十分である。なお、アルカリ珪酸化物を2種以上用いる場合には、その合計量が上述した石英ウールに対する質量割合を満たすようにする。
【0019】
アルカリ珪酸化物として、具体的には、nが2.6~4.6のnNaO・SiO、nが3.4~5.4のnKO・SiO、及び、nが2.4~5のnLiO・SiOであるのが好ましく、これらの1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0020】
このうち、nが2.6~4.6のnNaO・SiOについて、図1には、NaO-SiOの2成分系相平衡状態図が示されている。これから分かるように、nが上記範囲のnNaO・SiOは、Na成分の比率が大きい高アルカリ比であるため、COの吸収という観点で有利である。また、nが上記範囲であれば低融点となり、本発明のようなCOの吸収と分解の反応が起こり易いという観点で有利となる。より好ましくはnが3.2~4.0のnNaO・SiOであり、最も好ましくは3.6NaO・SiOである。
【0021】
また、nが3.4~5.4のnKO・SiOについて、図2には、KO-SiOの2成分系相平衡状態図が示されている。これから分かるように、nが上記範囲のnKO・SiOは、K成分の比率が大きい高アルカリ比であるため、COの吸収という観点で有利である。また、nが上記範囲であれば低融点となり、本発明のようなCOの吸収と分解の反応が起こり易いという観点で有利となる。より好ましくはnが4~4.8のnKO・SiOであり、最も好ましくは4.4KO・SiOである。
【0022】
更に、nが2.4~5のnLiO・SiOについて、図3には、LiO-SiOの2成分系相平衡状態図が示されており、nNaO・SiOやnKO・SiOの場合と同様の理由を挙げることができ、より好ましくはnが3.0~4.6のnLiO・SiOであり、最も好ましくは3.4LiO・SiOである。なお、図1~3において化合物の組成を示す横軸は、アルカリ金属(第1族元素)のモル分率を表す。また、上述したnNaO・SiOやnKO・SiOを含めて、これらの係数nは、SiOに対するLiOやNaO、KOの比を表す正の数である。更に、これらのアルカリ珪酸化物は工業製品としては勿論、試薬としてもほとんど市販されていないため、主な入手方法は合成による。
【0023】
このうち、低融点に関する理由付けは未だ推測の域を出ないが、反応の際にアルカリ珪酸化物が溶融状態になれば、若しくは、融点近くの温度となれば、酸素イオン(O2-)の移動が容易となって反応が進み易く、また、電導度も大きくなるため、Oが離脱した後にエレクトロン(e)が拡散して、炭素(C)の生成が起こり易くなると考えられる。そのため、仮に同じ反応温度で反応させるとすれば、融点が低い化合物である方が有利になる。
【0024】
ところで、アルカリ珪酸化物のなかでも、COの吸収特性が高いものと低いものであったり、吸収したCOのCへの分解特性が高いものと低いものであったりと特性が異なる。特に、アルカリ金属(第1族元素)の種類における傾向は図4に示した通りであり、COの吸収特性は高い方から順にLi、Na、Kであり、COのCへの分解特性(COの分解特性)は、これとは逆に高い方から順にK、Na、Liとなる。COの吸収に関しては、アルカリ元素の有効核電荷の大きい順であり、CO吸収時にOを吸引すると考えると理解できる。COの分解特性に関しては、ギブスエネルギーから考えたアルカリ炭酸化物の分解し易さの順となっている。
【0025】
また、本発明において、アルカリ珪酸化物は、気体吸収性に優れる方が望ましいことから、その形状については、塊状のものよりは粉末状であるか又は粒状のものであるのがよい。特に制限されないが、個々の粒子の粒径が0.1μm~5mm程度であるのがよく、好ましくは1μm~0.1mmであるのがよい。なお、粒径を小さくし過ぎると粉砕の過程で不純物が混入することなどが懸念されるため、粉砕したとしても0.1μm程度までとするのがよい。
【0026】
一方、本発明において使用する石英ウールについては特に制限はなく、一般的な市販品をそのまま使用することができる。また、CO含有ガスとしては、空気のほか、例えば、石炭、重油、天然ガス等を燃料とする火力発電所や、製造所のボイラー、コークスで酸化鉄を還元する製鉄所の高炉等から排出されるような排ガスを用いることもできる。
【0027】
本発明の方法では、先ず、アルカリ珪酸化物と石英ウールとを所定の質量割合としながら、少なくとも一部が互いに接触した状態で反応系内に存在させ、この反応系内材料にCOを含んだCO含有ガスを接触させて、COを吸収させる(工程A)。ここで、アルカリ珪酸化物と石英ウールは、互いに混合された状態で存在してもよく、混合はされなくても、例えば、石英管内面にアルカリ珪酸化物の微粉を塗布し、次に、この石英管に石英ウールを挿入したり、或いは、石英ウールにアルカリ珪酸化物を振り掛けるようにするなど、アルカリ珪酸化物と石英ウールとが少なくとも一部において互いに接触しているようにする。すなわち、アルカリ珪酸化物と石英ウールとの接触界面が反応に寄与する可能性を考慮すると、両者は接触していることが必要となる。その際、アルカリ珪酸化物と石英ウールとが反応系内に存在する状態において、COを吸収することにより、例えば、nKO・SiOにおけるKOの一部や、nLiO・SiOにおけるLiOの一部が、KCO類似の構造やLiCO類似の構造を有する化合物に変化すると考えられる。なお、COを吸収することにより、アルカリ珪酸化物と石英ウールの接触界面にどのような変化が生じるかは現時点では不明である。
【0028】
ここで、アルカリ珪酸化物と石英ウールとが反応系内に存在するとは、これらの反応系内材料が所定の温度に加熱された状態で、CO含有ガスがアルカリ珪酸化物及び石英ウールに同時又は略同時に接触して、アルカリ珪酸化物にCOが吸収される形態を表し、その際、反応系内材料の少なくとも一部において、アルカリ珪酸化物と石英ウールとが互いに接触する接触界面を有するようにする。このような状況については、例えば、互いに混合されたアルカリ珪酸化物と石英ウールとが上部開放の容器内に配置され、かつ、これらの反応系内材料が所定の温度に加熱された状態で、大気中のCOが接触可能な反応装置を構成するようにしてもよい。また、ガスを流通させるためのガス出入り口を有した密閉容器内に、アルカリ珪酸化物と石英ウールとを混ぜて配置したり、或いは、アルカリ珪酸化物と石英ウールとが混合されないまでも互いに一部で接触した状態で配置して、これらの反応系内材料が所定の温度に加熱された状態で容器内にCO含有ガスが流通して、COが接触可能な反応装置を構成するようにしてもよい。
【0029】
本発明において、CO含有ガスを反応系内材料に接触させてCOを吸収させる際には、反応系内材料の温度が室温の状態でもCOを吸収させることはできるが、COの吸収を高める観点から、反応系内材料を室温以上650℃以下に加熱するのがよい。なお、反応系内材料の温度が650℃を超えると反応系内材料へのCOの吸収量が減少するので好ましくない。
【0030】
次に、COを吸収させた反応系内材料について、反応系内を非酸化性雰囲気にして350℃以上700℃以下に加熱することで、反応系内材料に吸収させたCOをCに分解する(工程B)。この加熱の際には、生成したC(炭素)の酸化を防止するために、非酸化性雰囲気とする必要がある。非酸化性雰囲気としては、例えば、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガスの雰囲気や窒素雰囲気等を挙げることができる。ちなみに、使用する非酸化性ガスの純度としては、一般的なガスボンベの純度、例えば、99.99%程度で十分である。このような純度があれば、加熱する際に用いる加熱炉などの一般的な加熱装置に収容される反応装置内において、生成した炭素が酸化することを実質的に無視することができる。なお、非酸化性ガスの流量としては特に制限はなく、経済的な観点から少量で構わない。例えば、加熱による反応装置内での圧力の上昇・破損を防ぐ目的から、ガスフロー系にて本発明を実施する場合は、排気管から非酸化性ガスが逆流しない流量であればよく、この流量として、数10mL~数10L/分程度、好ましくは、100mL~2L/分程度の流量を示すことができる。
【0031】
また、反応系内材料に吸収させたCOをCに分解する際には、反応系内材料を350℃以上700℃以下、好ましくは350℃以上650℃以下に加熱する。本発明では、先の特許文献2の場合(700℃以上)に比べてはるかに低い温度でCへの分解を行うことができる。
【0032】
工程AでCOを吸収させる際に反応系内材料を加熱する場合の昇温速度や、工程BでCOをCに分解させる際に加熱する昇温速度について、それぞれ特に制限されないが、例えば、一般に使用される通常の加熱炉の昇温速度である1~40℃/分を選択でき、好ましくは、10~20℃/分であるのがよい。また、それぞれの加熱における最高温度到達後の保持時間についても特に制限はない。経済的な観点から短時間の保持時間を選択し、例えば、1~180分、好ましくは、10~60分程度で十分である。更には、最高温度到達後の冷却速度についても同様に制限されず、最高到達温度での保持時間が終了した後、直ちに加熱を止めて、装置の自然冷却に任せてよく、もし、装置の構造上から冷却速度に制約があれば、それに従ってもよい。なお、上述したように、特に加熱することなく、室温のままCOを吸収させることも可能である。
【0033】
本発明の方法により、COを吸収したアルカリ珪酸化物からCが生成する反応メカニズムについては未だ明らかになっていないが、今のところ以下のように推測している。
例えば、NaO・SiO系化合物であるnNaO・SiOや、KO・SiO系化合物であるnKO・SiO、LiO・SiO系化合物であるnLiO・SiO等、更に石英ウールは最大量の酸素原子を有しており、還元物質としては作用できない。したがって、反応の進行に還元物質は関与しておらず、これらのアルカリ珪酸化物は触媒として作用すると考えられる。また、前述したように、これらのアルカリ珪酸化物がCOを吸収すると、例えば、nKO・SiOのKOの一部がKCO類似の構造を有する化合物へと変化すると推測している。
【0034】
このことから、加熱中の推測されるメカニズムとして、例えば、KCO類似の化合物中の酸素原子がnKO・SiO中を拡散し、その結果、炭素(C)が取り残されるというものである。nLiO・SiOやnNaO・SiOがCOを吸収する場合についても同様である。
【0035】
また、本発明では、COを吸収したアルカリ珪酸化物を非酸化性雰囲気中で加熱すると、分解した炭素はアルカリ珪酸化物や石英ウールに固着するのではなく、これらの反応系内材料から分離可能な状態で回収することができる。加えて、アルカリ珪酸化物は、COの吸収や分解のための加熱によって、それ自身が全て溶融してしまうのではなく、せいぜい粉末状のものが粒子同士で結合する程度に抑えられる。
【0036】
また、上述したように、本発明における方法では、炭素(C)がアルカリ珪酸化物や石英ウールに固着するのではなく、これら反応系内材料から分離可能な状態で回収することができ、しかも、COの吸収や分解のための加熱によっても、アルカリ珪酸化物や石英ウールの形状変化は抑えられることから、工程Bにより一旦炭素を回収した後、再び、その反応系内材料にCOを吸収させる工程Aと、炭素へ分解させる工程Bとを繰り返して行うようにしてもよい。その際、炭素はアルカリ珪酸化物に固着しないため、いわゆる触媒被毒の問題がなく、反応効率を落とさずに、COの吸収とCへの分解を複数回にわたって繰り返すことが可能であり、アルカリ珪酸化物を効率良く使用することができる。
【0037】
なお、本発明においては、CaO、NaO等のアルカリ元素の酸化物やアルカリ土類元素の酸化物をアルカリ珪酸化物と共に用いるようにしてもよい。すなわち、CaOやNaO等を併用することを妨げるものではない。CaOやNaO等を併用する場合でも、本発明によれば、炭素はアルカリ珪酸化物から分離した状態で回収され、また、COの吸収や分解のための加熱によってもアルカリ珪酸化物がCaOやNaO等との溶融一体化はほとんど進行せず、特にCaO併用の場合には、形状変化がほぼ抑えられる。
【0038】
本発明の方法によって得られた炭素は、工業材料や燃料等として用いられる通常の炭素源として使用することができる。特に、本発明によれば、簡便な方法でCOの吸収と炭素への分解を繰り返して行うことができることから、COの有効活用と地球温暖化対策を同時に達成できる点で有意義なものであると言える。
【0039】
以下、実施例等に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの内容に制限されるものではない。
【0040】
(実施例1)
3.6NaO・SiOは一般には市販されておらず、以下の工程により合成した。
先ず、市販の水酸化ナトリウム(粒状の特級試薬)とケイ砂(SiO)(200~300メッシュ)を、NaO:SiO比が3.6:1となり、水酸化ナトリウムとケイ砂が反応して3.6NaO・SiOが生成した場合に約20gとなる量を各々秤量し、上部内径が約36mm、深さが約36mmのニッケルルツボに装入した。これをニッケルルツボごと内径約41mm、深さ約115mmの石英ルツボへ入れた。石英ルツボにアルミナ製の蓋をし、Ar雰囲気の加熱炉で1100℃まで10℃/分で昇温し、30分間保持後、室温まで自然冷却した。冷却後、ニッケルルツボの中にはほぼ無色透明の均一なガラス状物質が生成していた。この生成物の質量減少を測定すると、水酸化ナトリウムが完全に脱水し、ケイ砂と反応して3.6NaO・SiOが生成した場合の質量減少と一致し、3.6NaO・SiOが生成したことが確認された。
【0041】
ニッケルルツボにはテーパーが付いているが、ニッケルルツボを伏せて底を軽く叩くと生成したガラス状の3.6NaO・SiOを取り出すことができた。3.6NaO・SiOのニッケルルツボとの接触部分は、所々わずかに薄い黄色を帯びていたので、この部分をステンレス製のスクレーパーで削り落とし、無色の3.6NaO・SiO塊を得た。
【0042】
上記で得られた3.6NaO・SiO塊について、アルミナ乳鉢にて1mm以下に粉砕し、そのうちの約15gをシリカアルミナルツボに装入した。次いで、シリカアルミナルツボごと加熱炉に入れて、乾燥空気を2L/分で流しながら、10℃/分で昇温して700℃とし、その温度で12時間保持した後、室温まで自然冷却した。この酸化処理により、3.6NaO・SiO粉中の有機物及び炭素を完全除去した。また、これによって3.6NaO・SiO粉は完全に無水物となったと考えられる。
【0043】
このようにして合成し、粉砕して酸化処理した3.6NaO・SiOについて、その0.4gを秤量し、図5に示した石英製の反応皿2の内面に塗布した。次いで、3.6NaO・SiOを塗布した反応皿2に石英ウール20gを装入し、塗布した3.6NaO・SiOに石英ウールの一部が接触するようにして反応系内材料3とし、反応皿2ごと石英管からなる反応容器1内に配した。ここで、石英ウールとしては市販品(東ソー社製石英ウール、ファイン)を使用し、直径2~6μm、長さは数10mmであるが、反応系内材料3として挿入する際に、一部は折れて数~数10mm程度の長さとなる。
【0044】
反応系内材料3が装入された反応容器1については、一方の端部にガス供給用のガス導入管4が接続され、他方の端部にはガス排出用のガス排出管5が接続されている。このうち、ガス導入管4の上流側は二股に分かれており、CO含有ガスを供給するCO供給管6とヘリウム(He)ガスを供給するHe供給管7とが、それぞれバルブ8、9を介して接続されている。一方、ガス排出管5の先には図示外の質量分析器(四重極質量分析器)が接続されて、反応容器1から排出されたガスの分析を行うことができるようになっている。そして、この反応容器1は加熱炉10に入れられて、反応容器1に装入された反応皿2内の反応系内材料3が所定の温度に加熱できるようになっており、本実施例に係る反応装置(COの吸収・分解装置)を構成している。
【0045】
このような反応装置において、先ず、反応系内材料3が装入された反応皿2を有する反応容器1に対して、室温にて、CO供給管5から100%濃度のCOガスを10mL/minの流量で2時間流通させた後、CO供給管6からのCOガスの供給を止めた。次に、反応容器1内から反応皿2を取り外して秤量したところ、約0.04gのCOが反応系内材料3に吸収されたことが判明した。以上が工程Aである。
【0046】
次に、この反応皿2を素早く反応容器1内に装入して、He供給管7からHeガスを20mL/minの流量で流通させながら、反応容器1を350℃に加熱し、その温度で60分間保持する加熱処理B(工程B)を行った。その間、反応皿2の内側表面に黒色物が析出するのが確認された。
【0047】
加熱処理Bの終了後、自然冷却した反応容器1から反応系内材料3が収容された反応皿2を取り出し、反応皿2から石英ウールを取り出した。次に、小型のスパチュラで反応皿2の内面の3.6NaO・SiO表面に析出していた黒色物のかなりの部分、約0.001gを掻き出した。このようにして回収した黒色物を燃焼赤外線吸収法で炭素分析したところ、90%以上が炭素であった。反応容器1内における炭素源は先の工程Aで反応系内材料3に接触させたCOしかなく、反応系内材料3に吸収されたCOが加熱処理BによりCに還元されたと考えられる。上記分析から、反応系内材料3が吸収したCOのCへの転化効率は大凡8%であることが判明した。尚、COのCへの転化効率は、吸収したCO中のC量が吸収COの12/44であると考え、この値と、分析で得られたC量との比から算出した。
【0048】
一方、反応容器1から回収された反応系内材料3は、アルカリ珪酸化物(3.6Na2O・SiO2)の粒子同士や石英ウールとの結合は認められず、再使用することが可能な状態であった。
【0049】
(実施例2)
反応皿2の内面に塗布する3.6NaO・SiOを0.1gとしたこと以外は、上記実験例1と全く同様にして実験を行ったところ、およそ0.011gのCOが反応系内材料3に吸収され、また、加熱処理Bにより黒色物が生成した。次いで、反応容器1内から反応皿2を取り出し、石英ウールを取り出して、反応皿2の内面に塗布した3.6NaO・SiOの表面に析出した黒色物のかなりの部分に相当する約0.0006gを小型のスパチュラで掻き出した。このようにして回収した黒色物を燃焼赤外線吸収法で炭素分析したところ、90%以上が炭素であった。反応容器1内における炭素源は先の工程Aで反応系内材料3に接触させたCOしかなく、反応系内材料3に吸収されたCOが加熱処理BによりCに還元されたと考えられる。上記分析から、反応系内材料3が吸収したCOのCへの転化効率は大凡18%であることが判明した。
【0050】
(実施例3)
反応皿2の内面に塗布する3.6NaO・SiOを0.005gとし、また、その後に装入した石英ウールを25gとしたこと以外は、上記実験例1と全く同様にして実験を行ったところ、およそ0.0007gのCOが反応系内材料3に吸収され、また、加熱処理Bにより黒色物が生成した。次いで、反応容器1内から反応皿2を取り出し、石英ウールを取り出して、反応皿2の内面に塗布した3.6NaO・SiOの表面に析出した黒色物のかなりの部分に相当する約0.00002gを小型のスパチュラで掻き出した。このようにして回収した黒色物を燃焼赤外線吸収法で炭素分析したところ、90%以上が炭素であった。反応容器1内における炭素源は先の工程Aで反応系内材料3に接触させたCOしかなく、反応系内材料3に吸収されたCOが加熱処理BによりCに還元されたと考えられる。上記分析から、反応系内材料3が吸収したCOのCへの転化効率は大凡9%であることが判明した。
【0051】
(比較例1)
反応皿2の内面に塗布する3.6NaO・SiOを0.5gとし、また、その後に装入した石英ウールを15gとしたこと以外は、上記実施例1と全く同様にして実験を行ったところ、およそ0.04gのCOが反応系内材料3に吸収された。次に、加熱処理Bを行ったが、黒色物の生成は確認されず、微量の灰色の部分が生成したのみであった。念のため、この部分全てを燃焼赤外線吸収法により炭素分析したが炭素は検出されなかった。燃焼赤外線吸収法の炭素分析下限は5μgであり、仮に炭素が生成していたとしても生成量は5μgより少ない量である。このことから、反応系内材料2が吸収したCOのCへの転化は進まなかったか、進んだとしてもその効率は0.05%未満と非実用的な値であった。
【0052】
(比較例2)
反応皿2の内面に塗布する3.6NaO・SiOを0.003gとし、また、その後に装入した石英ウールを24gとしたこと以外は、上記実施例1と全く同様にして実験を行ったところ、およそ0.004gのCOが反応系内材料3に吸収された。次に、加熱処理Bを行ったが、黒色物の生成は確認されず、微量の灰色の部分が生成したのみであった。念のため、この部分全てを燃焼赤外線吸収法により炭素分析したが炭素は検出されなかった。燃焼赤外線吸収法の炭素分析下限は5μgであり、仮に炭素が生成していたとしても生成量は5μgより少ない量である。このことから、反応系内材料2が吸収したCOのCへの転化は進まなかったか、進んだとしてもその効率は0.5%未満と非実用的な値であった。
【0053】
(比較例3)
石英ウールを使用しない点を除いては、上記実施例1と全く同様にして実験を行ったところ、およそ0.037gのCOが反応系内材料3に吸収された。次に、加熱処理Bを行ったが、黒色物の生成は確認されず、微量の灰色の部分が生成したのみであった。念のため、この部分全てを燃焼赤外線吸収法により炭素分析したが炭素は検出されなかった。燃焼赤外線吸収法の炭素分析下限は5μgであり、仮に炭素が生成していたとしても生成量は5μgより少ない量である。このことから、反応系内材料2が吸収したCOのCへの転化は進まなかったか、進んだとしてもその効率は0.05%未満と非実用的な値であった。
【0054】
(比較例4)
反応系内材料2の各々の量は実施例1と同じであるが、3.6NaO・SiOと石英ウールとを接触させず、15mm以上離れた状態とし、他は上記実施例1と全く同様に実験を行った。すなわち、本比較例4では、3.6NaO・SiOが塗布された反応皿2に石英ウールを装入するかわりに、反応容器1内で反応皿2から15mm以上離れた位置に配するようにした。そして、工程Aによりおよそ0.038gのCOが反応系内材料2に吸収された。
次に、加熱処理Bを行ったが、黒色物の生成は確認されず、微量の灰色の部分が生成したのみであった。念のため、この部分全てを燃焼赤外線吸収法により炭素分析したが炭素は検出されなかった。燃焼赤外線吸収法の炭素分析下限は5μgであり、仮に炭素が生成していたとしても生成量は5μgより少ない量である。このことから、反応系内材料2が吸収したCOのCへの転化は進まなかったか、進んだとしてもその効率は0.05%未満と非実用的な値であった。本比較例4と実施例1から、COを炭素へ分解するためには、アルカリ珪酸化物と石英ウールの接触が必要であることが分かる。
【0055】
(比較例5)
加熱処理Bの温度を750℃とした点を除いては上記実施例1と全く同様に実験を行った。工程Aによりおよそ0.039gのCOが反応系内材料2に吸収された。次に、加熱処理Bを行ったが、極わずかな量の灰色の物質が生成したのみであった。この灰色の物質は3.6NaO・SiOと固着しており回収することができなかった。本比較例5では加熱処理Bの温度が高すぎたため、加熱処理Bの昇温途中でいくらかは生成したかもしれない炭素は3.6NaO・SiOと反応し気体となって飛散したと想像される。このように、750℃は加熱処理Bの温度としては高すぎ、本発明では比較的低温の方がCOから生成した炭素を回収できることが分かる。
【符号の説明】
【0056】
1:反応容器、2:反応皿、3:反応系内材料、4:ガス導入管、5:ガス排出管、6:CO供給管、7:He供給管、8、9:バルブ、10:加熱炉。
図1
図2
図3
図4
図5