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  • 特許-焼結排ガスのNOx低減方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-18
(45)【発行日】2023-04-26
(54)【発明の名称】焼結排ガスのNOx低減方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 1/16 20060101AFI20230419BHJP
   F27B 21/14 20060101ALI20230419BHJP
【FI】
C22B1/16 B
C22B1/16 C
F27B21/14 B
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019155396
(22)【出願日】2019-08-28
(65)【公開番号】P2021031749
(43)【公開日】2021-03-01
【審査請求日】2022-04-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】矢部 英昭
【審査官】岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/106756(WO,A1)
【文献】特開2003-328043(JP,A)
【文献】特開2013-023729(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 1/16
F27B 21/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の銘柄の鉄鉱石を含む配合原料を用いて焼結鉱を製造する際に排出される焼結排ガス中のNOx排出量を低減する焼結排ガスのNOx低減方法において、
前記焼結排ガス中のNOx濃度を監視し、
前記焼結排ガス中のNOx濃度が所定の閾値を超えた際に、前記複数の銘柄の鉄鉱石の配合割合を変更して、前記配合原料に含まれる全鉄鉱石の平均結晶水含有量を低くする、
ことを特徴とする焼結排ガスのNOx低減方法。
【請求項2】
前記焼結排ガス中のNOx濃度の実測値に基づいて求めた酸素濃度補正値を用いて、前記焼結排ガス中のNOx濃度を監視する、
ことを特徴とする請求項1に記載の焼結排ガスのNOx低減方法。
【請求項3】
前記配合割合の変更は、前記複数の銘柄の鉄鉱石に含まれる少なくとも1銘柄の鉄鉱石を、前記複数の銘柄の鉄鉱石に含まれる他の銘柄の鉄鉱石に少なくとも部分的に置き換えることを含む、
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の焼結排ガスのNOx低減方法。
【請求項4】
前記配合割合の変更において、変更前と変更後における前記配合原料に含まれる全鉄鉱石中の平均SiO濃度を維持する、
ことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の焼結排ガスのNOx低減方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼結排ガスのNOx低減方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、高炉製銑法の主原料は、焼結鉱である。この焼結鉱は、通常、次のように製造される。まず、原料となる鉄鉱石(粉)、製鋼ダスト等の含鉄雑原料、橄欖岩等のMgO含有副原料、石灰石等のCaO含有副原料、返鉱、燃焼熱によって焼結鉱を焼結(凝結)させる燃料となる炭材(凝結材とも言う)を所定の割合で混合する。混合した配合原料を、造粒して原料造粒物とする。次に、造粒された原料造粒物を、ホッパより、下方吸引式のドワイトロイド(DL)式焼結機のパレット上に搭載して、原料充填層を形成する。形成した原料充填層に上部(表面層)から原料充填層中の炭材に点火する。そして、パレットを連続的に移動させながらパレットの下方から空気を吸引して酸素を供給し、原料充填層中の炭材を上部から下部に向けて燃焼させることにより、炭材の燃焼熱により順次焼結させる。得られた焼結部(シンターケーキ)は、所定の粒度に粉砕、篩分け等により整粒して高炉の原料である焼結鉱となる。
【0003】
焼結鉱を製造する際には、焼結鉱の製造過程における炭材の燃焼にともない、炭材中に含まれる窒素に起因する窒素酸化物NOx(Fuel NOx)が発生し、排ガスとして排出される。NOxは大気汚染の一原因物質であるため、排ガス中のNOx(NOとNOが主体)の排出量には、大気汚染防止法により、施設の種類や規模に応じた排出基準が定められている。この排出基準は、全国一律に定められた排出口における濃度(許容限度)であるが、地域によっては、この排出基準よりも厳しい指導基準(例えば、条例による上乗せ排出基準や総量規制基準など)が定められている場合もある。焼結機の操業にあたっては、その操業地域において遵守すべき基準値(排出基準または/および指導基準に定められた値、以下、規制値という)を守る必要がある。
【0004】
焼結排ガス中のNOx濃度は、日常的な焼結機の操業変化等によっても変動する。そのため、焼結機の操業においては、操業地域の規制値を遵守するべく、製鉄所毎に、その規制値よりも低い操業管理値を設け、この操業管理値に基づいて操業を管理している。具体的には、焼結機排ガス中のNOx排出量(NOx濃度)を、煙突に設置された連続NOx測定装置によって排ガス中のNOx成分の分析測定を行い、測定した実測値から規制対象である酸素濃度補正値を算出する。この酸素濃度補正値を常時監視し、操業管理値を超えた場合には、NOx排出量を低減する措置をとる。低減措置としては、一時的に焼結機の運転を停止する措置が取られることもあったが、最近は、窒素含有量の低い炭材への転換(炭材の銘柄変更)、生石灰使用量の増加、石灰被覆炭材の使用などの対策が考案され、講じられている。
【0005】
また、配合原料中の水分や吸引ガス中の水蒸気のように水が関与する低減措置としては、以下のような技術がある。
特許文献1には、造粒水分を4.0~6.0%として焼結原料を造粒し、焼結原料を連続下方吸引式焼結機に供給し、コークス燃焼反応進行中の焼結ベッド表面へ5.0~90.0l/t-原料の水分を供給する焼結鉱の製造方法が開示されている。また、特許文献2には、焼結原料として、4.0mass%以上の結晶水を含有する高結晶水鉄鉱石を含む鉄鉱石と、副原料と、燃焼反応の開始温度が450℃未満である低温燃焼固体燃料を10mass%以上含む固体燃料とを前記高結晶水鉄鉱石が前記焼結原料中に30mass%以上含まれるように配合する焼結鉱の製造方法が開示されている。特許文献1に記載の技術は、配合原料中の水分量と散水量との配分を適正化することによりNOx排出量の低減するものであり、特許文献2に記載の技術は、高結晶水鉱石と固体燃料(チャー)とを組み合わせて使用することにより、NOx排出量を低下させるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開昭61-204342号公報
【文献】国際公開第2010/106756号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のように、焼結排ガス中のNOx排出量を低減させる措置として、様々な対策が提案されているが、本発明者らは、より簡易にNOx排出量を低減させる方法を検討した。
【0008】
本発明の目的は、焼結排ガス中のNOx濃度が所定の閾値を超えた際に、焼結排ガスに含まれるNOx排出量を低減させることができる焼結排ガスのNOx低減方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の要旨とするところは、以下のとおりである。
(1)複数の銘柄の鉄鉱石を含む配合原料を用いて焼結鉱を製造する際に排出される焼結排ガス中のNOx排出量を低減する焼結排ガスのNOx低減方法において、
前記焼結排ガス中のNOx濃度を監視し、
監視する前記焼結排ガス中のNOx濃度が所定の閾値を超えた際に、前記複数の銘柄の鉄鉱石の配合割合を変更して、前記配合原料に含まれる全鉄鉱石の平均結晶水含有量を低くする、
ことを特徴とする焼結排ガスのNOx低減方法。
(2)前記焼結排ガス中のNOx濃度の実測値に基づいて求めた酸素濃度補正値を用いて、前記焼結排ガス中のNOx濃度を監視する、
ことを特徴とする(1)に記載の焼結排ガスのNOx低減方法。
(3)前記配合割合の変更は、前記複数の銘柄の鉄鉱石に含まれる少なくとも1銘柄の鉄鉱石を、前記複数の銘柄の鉄鉱石に含まれる他の銘柄の鉄鉱石に少なくとも部分的に置き換えることを含む、
ことを特徴とする(1)又は(2)に記載の焼結排ガスのNOx低減方法。
(4)前記配合割合の変更において、変更前と変更後における前記配合原料に含まれる全鉄鉱石中の平均SiO濃度を維持する、
ことを特徴とする(1)から(3)のいずれか1つに記載の焼結排ガスのNOx低減方法。
ここで、「維持する」とは、変更前の全鉄鉱石中の平均SiO濃度に対して変更後の全鉄鉱石中の平均SiO濃度の差がSiOの操業管理許容値以下となる範囲を言う。ここに、SiOの操業管理許容値は0.1質量%、好ましくは0.03質量%、理想的には0.01質量%である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、焼結鉱を製造する際に排出される焼結排ガス中のNOx排出量を低減する焼結排ガスのNOx低減方法において、配合原料中の全鉄鉱石の平均結晶水含有量を低くすることにより、焼結排ガス中のNOx排出量を低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】各銘柄の鉄鉱石の結晶水含有量と焼結排ガス中のNOx濃度(O=15%補正値)との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明者らは、NOx排出量を低減するべく検討を重ねた結果、配合原料中の炭材の配合割合が一定であっても、異なる銘柄の鉄鉱石を用いた場合に、焼成時に発生して排出されるNOx排出量が大幅に異なることを見出した。具体的には、結晶水含有量が多い鉄鉱石を用いた場合にNOx排出量が多く、結晶水含有量が少ない鉄鉱石を用いた場合にNOx排出量は少なくなった。この知見に基づいて、本発明者らは、配合原料中の全鉄鉱石の平均結晶水含有量を、焼結排ガス中のNOx排出量を管理する指標とすることを思いついた。以下に、上記知見を裏付ける実験とその結果について説明する。
【0013】
<発明に至った基礎的検討>
鉄鉱石の銘柄毎に特有のNOx排出傾向を確認するため、5種の銘柄の鉄鉱石(鉄鉱石A~鉄鉱石E)を単味で配合した5つの実験(実験1~実験5)を実施した。実験1~実験5は、焼結機での焼結現象を模した小型(直径100mm)の焼結鍋試験により行った。
【0014】
(原料配合)
表1は、実験1~実験5で用いた焼結用の各原料の配合割合を示す。表1に示すように、返鉱および炭材を除いた新原料(鉄鉱石、石灰石、生石灰、および橄欖岩)を100質量%として、返鉱と炭材の配合割合を、それぞれ外数で、15.0質量%、4.5質量%とした。
【0015】
【表1】
【0016】
表2は、実験1~実験5において使用した各鉄鉱石A~鉄鉱石Eの主な成分量(質量%)を示す。実験1~実験5の各実験においては、表1に示す原料の鉄鉱石として、1つの鉄鉱石種(1銘柄)を、単味で使用した。例えば、実験1においては、原料の鉄鉱石として鉄鉱石Aのみを使用した。表2に示すように、鉄鉱石Aおよび鉄鉱石Bは、結晶水(CW:combined water)の含有量が多いピソライト系鉄鉱石であり、鉄鉱石Dおよび鉄鉱石Eは、結晶水の含有量が少ないヘマタイト系鉱石である。また、鉄鉱石Cは、結晶水含有量が鉄鉱石Aおよび鉄鉱石Bよりも少なく、鉄鉱石Dおよび鉄鉱石Eよりも多いマラマンバ系鉄鉱石である。
【0017】
【表2】
【0018】
表3は、原料として使用した鉄鉱石および炭材の粒度分布を示す。この粒度分布は、目開き寸法が5.0mm、3.0mm、1.0mm、0.5mm、0.25mmの篩で分級したものである。例えば、粒度区分「1mm-0.5mm」とは、0.5mmの篩目の篩で篩分けた際に篩上であり、1mmの篩目の篩で篩分けた際に篩下である。実験1~実験5の各実験において粒度条件を同一とし、表3に示す粒度分布の鉄鉱石および炭材を使用した。
【0019】
【表3】
【0020】
(実験条件)
各焼結用原料を、表1に示す配合割合で混合した配合原料を造粒し、造粒した原料造粒物を焼成した。主要な実験装置は表4に示す通りである。
【0021】
【表4】
【0022】
上記焼結実験においては、配合原料を、ドラムミキサーによって32rpmで1分間混合(乾燥混合)した。混合後、水分を7.0質量%添加して4分間造粒し、原料造粒物を製造した。焼結鍋内には、まず、カオウールをロストル上に敷設した。次に、原料造粒物を層厚が445mmとなるように焼結鍋に装入した。装入後、原料表面に点火炉で60[sec]加熱して点火し、風箱内の風量(一定)0.08[Nm3/min]で焼成した。
【0023】
(測定)
ガス分析には堀場製作所ポータブルガス分析計PG-350を用いた。NOx濃度は、化学発光式分析ユニット、酸素濃度はジルコニア式分析ユニットを用いて測定を行った。
【0024】
(実験結果)
表5の最右欄に、後述する式(1)により、測定したNOx濃度および酸素濃度から算出したNOx濃度(O=15%補正値)を示す。また、図1は、表5の結晶水含有量と、NOx濃度(O=15%補正値)との関係を示すグラフである。図1に示すように、結晶水含有量とNOx濃度(O=15%補正値)とには相関関係があり、鉄鉱石中の結晶水含有量が低くなるほど、焼成により発生するNOx濃度(NOx排出量)は低減する傾向があることが確認された。また、図1より、鉄鉱石中の結晶水含有量を1%低くすることにより、NOx濃度が約5ppm低下することが分かった。
【0025】
【表5】
【0026】
本発明は、以上の知見に基づいて創案されたものであり、配合原料中の鉄鉱石の銘柄の配合割合の変更により、鉄鉱石中の平均結晶水含有量を低くして、焼結排ガス中のNOx排出量(NOx濃度)を低減させるものである。以下、本発明の好適な実施形態について説明する。
【0027】
<実施形態>
(焼結機の操業)
焼結鉱の原料は、鉄鉱石(複数の銘柄の鉄鉱石が配合される。ここでは、配合後の鉄鉱石を均鉱と呼ぶ)、雑原料(スケール、ダストなどの鉄分を含有するリサイクル原料)、副原料(石灰石、橄欖岩などの焼結鉱中のCaO成分、MgO成分を調整するための原料)から成る新原料と、炭材(コークス、無煙炭などの焼結反応の熱源となる原料)、および返鉱(成品の篩下を循環使用するもの)とである。なお、焼結機における焼結鉱の製造方法は、上述した通り([0002]参照)であるので、ここでは、その説明を省略する。
鉄鉱石の配合割合(ここでは、均鉱(全鉄鉱石)に対する質量比率で表す)は、例えば、各鉄鉱石銘柄の入荷量、価格、焼結鉱のSiOおよびAlの目標成分組成を勘案して決定される。副原料の配合割合(ここでは、新原料に対する質量比率で表す)は、焼結鉱のCaOおよびMgO成分の実績推移を見ながら随時調整される。炭材と返鉱の配合割合(ここでは、新原料に対する質量比率を外数で表す)は、焼結操業状況(歩留、生産性、焼結鉱品質の状況)に応じて随時調整される。なお、炭材または返鉱の配合割合の変更による焼結鉱の化学成分の変化は無視できるレベルであるので、炭材または返鉱の配合割合の変更に合わせて副原料の配合割合を変更する必要はない。
【0028】
(焼結排ガスの成分測定)
焼結機実機から排出される焼結排ガス中のNOx濃度(実測値)は、メインブロアから煙突までの間に設置されたNOx分析計(化学発光法)によって連続的に測定される。また、焼結排ガス中の酸素濃度(実測値)は、ジルコニア式分析計、ガルバニ電池式分析計、磁気ダンベル式分析計等によって連続的に測定される。
【0029】
(NOx濃度監視値の算出)
測定されたNOx濃度(実測値Cs)と酸素濃度Osに基づいて、下記式(1)を用いて、補正後のNOx濃度(酸素濃度補正値C、以下、NOx濃度監視値ともいう)を算出する。NOx濃度(実測値Cs)は、燃焼排ガスの希釈度(漏風量)により値が変化するため、所定の酸素濃度(標準酸素濃度)におけるNOx濃度(酸素濃度補正値C)が、排出基準などの規制値との比較対象とされている。焼結機においては、規制値との比較対象となる値は、焼結排ガス中に残留する標準酸素濃度が15%となるように、下記式(1)を用いて補正した値である。
C=(21-On)/(21-Os)×Cs・・・式(1)
C : 酸素濃度補正後のNOx濃度 ( ppm )
Os : 排出ガス中の酸素濃度 ( 当該濃度が20%を超える場合は20%とする。)
On : 標準酸素濃度 ( % ) ※焼結機の場合は15%
Cs : 排出ガス中のNOx実測値( ppm )
【0030】
(NOx濃度監視値と規制値の比較)
算出されたNOx濃度監視値が、操業管理値を超えた場合、均鉱中の鉄鉱石の配合割合を変更する。算出されたNOx濃度監視値が、操業管理値以下である場合、鉄鉱石の配合割合を変更することなく操業を続ける。
【0031】
(鉄鉱石中の平均結晶水含有量の低減)
一方、NOx濃度監視値が操業管理値を超えた場合、複数の銘柄の鉄鉱石の配合割合を変更して、均鉱の結晶水含有量を低減させる。複数の銘柄の鉄鉱石の配合割合の変更は、例えば、配合原料中の少なくとも1銘柄の鉄鉱石のうちの少なくとも一部を、より結晶水含有の少ない他の少なくとも1銘柄の鉄鉱石へ置き換えることによる。この操作で均鉱の結晶水含有量を低くすることができ、焼結排ガス中のNOx濃度(NOx濃度監視値)を低くすることができる。配合原料中の複数の銘柄の鉄鉱石の配合割合の変更は、NOx濃度監視値が操業管理値以下となるまで、繰り返される。
【0032】
ここで、均鉱の結晶水含有量は、以下の式(2)により算出される。鉄鉱石は通常複数の鉄鉱石銘柄が配合されるので、均鉱の結晶水含有量は、鉄鉱石の平均結晶水含有量として、各銘柄別の結晶水含有量を均鉱中の配合量で荷重平均して求められる。
CW=Σ(Xi×CWi)/100・・・式(2)
CW:鉄鉱石の平均の結晶水含有量(質量%)
Xi:鉄鉱石iの配合割合(質量%)
CWi:鉄鉱石iの結晶水含有量(質量%)
なお、本願では、鉄鉱石中の結晶水を対象としているので、その平均は鉄鉱石(均鉱)の範囲となる。すなわち、ΣXi=100(質量%)である。
【0033】
(鉄鉱石の配合割合変更の実施形態1)
以下に、上記鉄鉱石の配合割合の変更について、表5に示した5銘柄の鉄鉱石(鉄鉱石A~鉄鉱石E)を、原料の鉄鉱石として配合して焼結鉱を製造している場合を例にして、具体的に説明する。
【0034】
実施形態1は、結晶水の高い鉄鉱石を結晶水の低い鉄鉱石に等量置き換える方法である。表6は、実施形態1の一例として均鉱中の鉄鉱石の配合割合の変更を示す。表6に示すように、鉄鉱石B(CW9.4質量%)を、鉄鉱石E(CW2.9質量%)に、等量置き換える。すなわち、24質量%の鉄鉱石Bを、等量(24質量%)の鉄鉱石Eに置き換えた均鉱を用いて、焼結鉱を製造する。鉄鉱石の配合割合の変更により、均鉱の結晶水含有量が1.6%低下し、図1より、NOx濃度監視値が8ppm低減することが期待できる。
【0035】
【表6】
【0036】
上記置き換え後においても、なおNOx濃度監視値が操業管理値を超えた場合には、引き続き、鉄鉱石の等量の置き換えを行う。例えば、12.0質量%分の鉄鉱石B(結晶水含有量8.4質量%)を、8.0質量%分の鉄鉱石C(結晶水含有量4.9質量%)と4.0質量%分の鉄鉱石D(結晶水含有量1.7質量%)とに置き換える。配合割合変更により置き換わる鉄鉱石(減配対象の鉄鉱石)の結晶水含有量が、置き換えられる鉄鉱石(増配対象の鉄鉱石)の結晶水含有量よりも少ないので、均鉱の結晶水含有量が低下し、NOx濃度監視値の低減が期待できる。
このような置き換えによりNOx濃度監視値が、操業管理値以下となった時点で置き換え操作(鉄鉱石の配合割合の変更)を終了する。
【0037】
なお、鉄鉱石の置き換え操作(鉄鉱石の配合割合の変更)は、上述したものに限らず、減配対象の全鉄鉱石と増配対象の全鉄鉱石とが等量であり、均鉱の結晶水含有量を低くすることができる操作であればよい。減配対象の鉄鉱石の銘柄の数や増配対象の鉄鉱石の銘柄の数は、1つ以上であればよい。また、減配対象の鉄鉱石の置き換え量は、その変更前の配合量(例えば表6の鉄鉱石Aであれば、24.0質量%)の全量であってもよく、また、一部であってもよい。
【0038】
(鉄鉱石の配合割合変更の実施形態2)
実施形態2は、上記実施形態1において、さらに、鉄鉱石の配合割合の変更前後において、均鉱のSiO濃度がほぼ一定となるように、配合割合を変更する方法である。表7は、実施形態2の一例の鉄鉱石の配合割合の変更を示す。表7に示すように、鉄鉱石A(SiO濃度4.6質量%)を減配する場合、鉄鉱石C(SiO濃度3.3質量%)と鉄鉱石D(SiO濃度8.2質量%)とを約2:1の比率で増配する。すなわち、24質量%の鉄鉱石Aを、2/3の16質量%の鉄鉱石Cと1/3の8質量%の鉄鉱石Dとに置き換える。均鉱中のSiO濃度を維持しつつ、鉄鉱石の結晶水含有量を低減できる。具体的には、この鉄鉱石の配合割合の変更により、均鉱の結晶水含有量が1.2%低下し、図1より、NOx濃度監視値が6ppm低減することが期待できる。
【0039】
【表7】
【0040】
このように、減配対象とする結晶水含有量の多い鉄鉱石を選択し、増配対象とする結晶水含有量の少ない複数銘柄の鉄鉱石を選択する。増配対象の鉄鉱石としては、減配対象とする鉄鉱石よりもSiO濃度が高いものと低いものを適宜選択して、各SiO濃度の値に基づいて、これらの配合割合を決めることができる。
実施形態1に比較して、配合割合変更の前後で均鉱のSiO濃度を一定とすることで、副原料の配合変更を同時に行う必要がないので、焼結鉱の成分変動を抑制しやすい。
【0041】
なお、SiO濃度を一定とした鉄鉱石の置き換え操作(鉄鉱石の配合割合の変更)は、上述したものに限らず、減配対象の全鉄鉱石と増配対象の全鉄鉱石とが等量であり、配合原料中の全鉄鉱石の平均結晶水含有量が低くすることができ、かつ、変更前後において、均鉱の平均SiO濃度が一定となる操作であればよい。同時に変更する減配対象の銘柄の鉄鉱石と、増配対象の銘柄の鉄鉱石の銘柄数が多いほど、配合原料のSiO濃度を一定としやすいが、減配対象の鉄鉱石の銘柄の数および増配対象の鉄鉱石の銘柄の数が、1つ以上であればよい。増配対象の鉄鉱石の銘柄の数が1つであるとは、例えば、その鉄鉱石のSiO濃度が、減配対象の鉄鉱石のSiO濃度と同じである場合である。
【0042】
以上、本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。
実施形態1および2ともに鉄鉱石の配合変更を均鉱内に留めかつ鉄鉱石の置換を「等量」とした。すなわち新原料に対する均鉱の比率が一定の例である。これによって、鉄鉱石の配合変更にともなう焼結鉱の成分変動が比較的低減できるので、好ましい実施形態となる。一方、本願発明の効果は、配合原料での鉄鉱石由来の結晶水の入量(配合原料中の鉄鉱石由来の結晶水の比率)が低減していれば、発現する。従って、実施形態1および2で鉄鉱石の置換を「等量」としたが、その限りではない。この場合に、均鉱の比率が新原料に対して変わることになるが、これは副原料の比率を同時に変えることとなり、焼結鉱の塩基度やMgO含有量を大きく変える。均鉱の比率をどの程度まで変更可能かは、高炉スラグの成分が所望の範囲になるかどうかで判断する。
また、本実施の形態においては、操業管理値を規制値よりも低い値としたが、操業管理値は規制値以下の値であればよい。また、監視対象である焼結排ガス中のNOx濃度は、NOx濃度の実測値、または、この実測値に基づいて求められた値(例えば、酸素濃度補正値)であればよい。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
図1