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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-18
(45)【発行日】2023-04-26
(54)【発明の名称】被覆用組成物及び被覆物品
(51)【国際特許分類】
   C09D 201/00 20060101AFI20230419BHJP
   C09D 127/12 20060101ALI20230419BHJP
   C09D 127/18 20060101ALI20230419BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20230419BHJP
   C09D 5/02 20060101ALI20230419BHJP
   C09D 179/08 20060101ALI20230419BHJP
   C09D 5/00 20060101ALI20230419BHJP
【FI】
C09D201/00
C09D127/12
C09D127/18
C09D7/63
C09D5/02
C09D179/08 B
C09D5/00 D
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022121054
(22)【出願日】2022-07-29
(65)【公開番号】P2023024332
(43)【公開日】2023-02-16
【審査請求日】2022-07-29
(31)【優先権主張番号】P 2021129583
(32)【優先日】2021-08-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001531
【氏名又は名称】弁理士法人タス・マイスター
(72)【発明者】
【氏名】山口 誠太郎
(72)【発明者】
【氏名】本多 有佳里
(72)【発明者】
【氏名】中谷 安利
【審査官】澤村 茂実
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-532247(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第112480757(CN,A)
【文献】特開2020-176216(JP,A)
【文献】特開平11-349887(JP,A)
【文献】特開2004-204073(JP,A)
【文献】特開平05-039451(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00-10/00,101/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐熱性樹脂(A)、非溶融加工性の含フッ素重合体(B)及び溶融加工性の含フッ素重合体(C)が水媒体に分散し、
(A)~(C)の樹脂粒子の平均粒子径が0.1~10μmであり、
HLBが10以下である非イオン性界面活性剤を含有し、
かつ、塗料全量に対して、メチルセルロース量が、0.050質量%未満であることを特徴とする被覆用組成物。
【請求項2】
耐熱性樹脂(A)は、ポリアミドイミド及び/又はポリイミド(A-1)である請求項1記載の被覆用組成物。
【請求項3】
耐熱性樹脂(A)は、ポリアミドイミド及び/又はポリイミド(A-1)並びにポリエーテルスルホン(A-2)である請求項1記載の被覆用組成物。
【請求項4】
ポリアミドイミド及び/又はポリイミド(A-1)と、ポリエーテルスルホン(A-2)との質量比((A-1):(A-2))が85:15~65:35で、
ポリエーテルスルホンとポリアミドイミド及び/又はポリイミド(A)との合計量の非溶融加工性の含フッ素重合体(B)と溶融加工性の含フッ素重合体(C)の合計量に対する質量比((A):(B)+(C))が15:85~35:65である請求項3記載の被覆用組成物。
【請求項5】
非溶融加工性の含フッ素重合体(B)は、ポリテトラフルオロエチレン及び/又は変性ポリテトラフルオロエチレンである請求項1~4のいずれかに記載の被覆用組成物。
【請求項6】
溶融加工性の含フッ素樹脂重合体(C)は、テトラフルオロエチレン-ヘキサフロオロプロピレン共重合体(FEP)及び/又はテトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)である請求項に1~4のいずれかに記載の被覆用組成物。
【請求項7】
金属又は非金属無機材料からなる基材上に直接塗布されるか、又は、耐熱性樹脂からなる層の上に塗布される請求項1~4のいずれかに記載の被覆用組成物。
【請求項8】
基材と、
請求項1~4のいずれかに記載の被覆用組成物を基材に直接塗布し、形成したプライマー層と、
含フッ素重合体を含む上塗り層を有することを特徴とする被覆物品。
【請求項9】
プライマー層と上塗り層の間に、さらに中塗り層を有する請求項記載の被覆物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、被覆用組成物及び被覆物品に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体等のフッ素樹脂は、低摩擦係数を有し、非粘着性、耐熱性等の特性に優れているので、食品工業用品、フライパンや鍋等の調理器具又は厨房用品、アイロン等の家庭用品、電気工業用品、機械工業用品等の表面加工に広く用いられている。
【0003】
特許文献1には、ポリエーテルスルホン樹脂と、ポリイミド系樹脂と、非溶融加工性含フッ素重合体と、溶融加工性含フッ素重合体とを含む被覆用組成物が開示されている。
特許文献2には、フッ素樹脂、耐熱性バインダー及び熱安定剤を含有する被覆用組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2020-176216
【文献】特開2003-53261
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示は、組成物における発泡を抑制し、これによって、塗膜物性が良好な被覆を形成することができる被覆用組成物及び被覆物品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、耐熱性樹脂(A)、非溶融加工性の含フッ素重合体(B)及び溶融加工性の含フッ素重合体(C)が水媒体に分散し、
(A)~(C)の樹脂粒子の平均粒子径が0.1~10μmであり、
HLBが10以下である非イオン性界面活性剤を含有し、
かつ、塗料全量に対して、メチルセルロース量が、0.050質量%未満であることを特徴とする被覆用組成物である。
【0007】
上記耐熱性樹脂(A)は、ポリアミドイミド及び/又はポリイミド(A-1)であることが好ましい。
上記耐熱性樹脂(A)は、ポリアミドイミド及び/又はポリイミド(A-1)並びにポリエーテルスルホン(A-2)であることが好ましい。
上記耐熱性樹脂(A)は、ポリアミドイミド及び/又はポリイミド(A-1)と、ポリエーテルスルホン(A-2)との質量比((A-1):(A-2))が85:15~65:35で、
ポリエーテルスルホンとポリアミドイミド及び/又はポリイミド(A)との合計量の非溶融加工性の含フッ素重合体(B)と溶融加工性の含フッ素重合体(C)の合計量に対する質量比((A):(B)+(C))が15:85~35:65であることが好ましい。
【0008】
上記非溶融加工性の含フッ素重合体(B)は、ポリテトラフルオロエチレン及び/又は変性ポリテトラフルオロエチレンであることが好ましい。
上記溶融加工性の含フッ素樹脂重合体(C)は、テトラフルオロエチレン-ヘキサフロオロプロピレン共重合体(FEP)及び/又はテトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)であることが好ましい。
【0009】
上記被覆用組成物は、さらに、HLBが10以下である非イオン性界面活性剤を含有することが好ましい。
上記被覆用組成物は、金属又は非金属無機材料からなる基材上に直接塗布されるか、又は、耐熱性樹脂からなる層の上に塗布されることが好ましい。
【0010】
本開示は、基材と、上記被覆用組成物を基材に直接塗布し、形成したプライマー層と、含フッ素重合体を含む上塗り層を有することを特徴とする被覆物品でもある。
上記被覆物品は、上記プライマー層と上記上塗り層の間に、さらに中塗り層を有するものであってよい。
【発明の効果】
【0011】
本開示により、塗膜物性が良好な被覆を形成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示を詳細に説明する。
本開示は、耐熱性樹脂(A)、非溶融加工性の含フッ素重合体(B)及び溶融加工性の含フッ素重合体(C)が水媒体に分散し、
(A)~(C)の樹脂粒子の平均粒子径が0.1~10μmであり、
かつメチルセルロースを実質的に含まない被覆用組成物である。
上記(A)~(C)の成分を含有する被覆用組成物は、塗装性を確保するために、増粘剤としてメチルセルロースを添加するのが一般的であった。しかし、このようなメチルセルロースを含有する被覆用組成物は、スプレー塗装工程において、発泡を生じてしまい、これが塗膜性能に悪影響を及ぼすことがあった。
【0013】
このため、本開示においては、メチルセルロースを実質的に含まないことを特徴とするものである。これによって、驚くべきことにスプレー塗装時の塗料の発泡を抑制することができた。メチルセルロースは媒体に溶解して媒体の粘度を上げ、発生した泡を安定化させるが、メチルセルロースを実質的に含まないことによって媒体の粘度を低下させ破泡を加速したものと推定される。発泡によって生じる塗膜物性の悪化等の問題を生じないという点でも好ましいものである。具体的には、発泡が少ないと、塗膜の空隙が減るため塗膜の耐食性が向上する。ここで、メチルセルロースを実質的に含まないとは、塗料全量に対して、メチルセルロース量が、0.050質量%未満であることを意味する。上記メチルセルロース量は、0.025質量%以下であることがより好ましい。また、メチルセルロースを含有しないものであってもよい。
【0014】
本開示の被覆用組成物は、上述したようにメチルセルロースを実質的に含まないものであるが、これによって、粘性が低下しすぎると、塗装が困難となる。このため、粘度を調整する目的で、HLBが10以下である非イオン性界面活性剤を含有することが好ましい。このような親油性の非イオン界面活性剤を使用することで、被覆用組成物の粘性が高くなり、これによって、塗装性が良好なものとなる点で好ましい。さらに、水に分散した含フッ素重合体及び耐熱樹脂の機械的安定性を向上させ、塗装時の金属被塗物への濡れ性を向上させる効果も併せ持つ。
【0015】
本開示において、HLBは、グリフィン法により次式から求めた値である。
HLB=20×[(界面活性剤中に含まれる親水基の分子量)/(界面活性剤の分子量)]
【0016】
本開示の被覆用組成物において、非イオン界面活性剤の化学構造は特に限定されるものではないが、具体的には、非アルキルフェノール型ノニオン界面活性剤等を挙げることができる。
【0017】
非アルキルフェノール型ノニオン界面活性剤は、構造中に、ベンゼン環を含んでいないノニオン界面活性剤である。例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル系の天然アルコールを原料としたノニオン界面活性剤等が挙げられる。
非アルキルフェノール型ノニオン界面活性剤(b)は、下記一般式(I):
R-O-A-H (I)
(式中、Rは直鎖状又は分岐鎖状の炭素数8~19の飽和又は不飽和の非環式脂肪族炭化水素基、あるいは、炭素数8~19の飽和環式脂肪族炭化水素基を表す。Aはオキシエチレンユニットを3~25個及びオキシプロピレンユニットを0~5個有するポリオキシアルキレン鎖を表す。)で表されるノニオン界面活性剤であることが好ましい。
上記一般式(I)で表されるノニオン界面活性剤としては、下記一般式(II):
2x+1CH(C 2y+1)C 2zO(C O) H (II)
(式中、xは1以上の整数、yは1以上の整数、zは0又は1、但しx+y+zは8~18の整数、nは4~20の整数を表す。)で表されるポリオキシエチレンアルキルエーテル系界面活性剤、又は、
下記一般式(III):
2x+1-O-A-H (III)
(式中、xは8~18の整数、Aはオキシエチレンユニットを5~20個及びオキシプロピレンユニットを1又は2個有するポリオキシアルキレン鎖を表す。)で表されるポリオキシエチレンアルキルエーテル系界面活性剤が好ましい。
【0018】
本開示の被覆用組成物において、HLBが10以下である非イオン界面活性剤の配合量は被覆用組成物全量に対して2.0~10.0質量%であることが好ましい。上記下限は、2.5質量%であることが好ましく、3.0質量%であることが更に好ましい。上記上限は、9.0質量%であることが好ましく、8.0質量%であることが更に好ましい。HLBが11以上の非イオン性界面活性剤の配合量は特に限定されず、被覆用組成物全量に対して1.0~5.0質量%が好ましい。
【0019】
本開示の被覆用組成物は、耐熱性樹脂(A)、非溶融加工性の含フッ素重合体(B)及び溶融加工性の含フッ素重合体(C)が水媒体に分散した状態のものである。そして、これら(A)~(C)の樹脂粒子の平均粒子径は、0.1~10μmである。このような範囲内のものとすることで、良好な分散性が得られ、組成物の安定性を得ることができ、被覆膜の物性を良好なものとすることができる。
【0020】
(A)~(C)の樹脂粒子の平均粒子径を0.1~10μmとする具体的な方法は特に限定されるものではなく、原料として使用される(A)~(C)の各成分として、それぞれ0.1~10μmの範囲内のものを使用して組み合わせる方法で行うことができる。
【0021】
樹脂粒子の平均粒子径は、レーザー回折による粒度分布測定装置(マイクロトラック・ベル社製マイクロトラックMT-3000EXII型)により測定した。平均粒子径(50%積算粒子径)は、この装置で自動計算される。
【0022】
以下、(A)~(C)の各成分について詳述する。
耐熱性樹脂(A)は、150℃以上の条件で連続使用することができる樹脂を意味する。このような樹脂であって、含フッ素樹脂以外のものを挙げることができる。なお,(B)(C)に該当する含フッ素樹脂は、耐熱性樹脂(A)には該当しない。
より具体的には、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリアリールエーテルケトン(PAEK)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、ポリエーテルケトン(PEK)及びポリエーテルエーテルケトンケトン(PEEKK)等の芳香族ポリエーテルケトン樹脂、ポリエーテルサルフォン(PES)、液晶ポリマー(LCP)、ポリサルフォン(PSF)、非晶性ポリアリレート(PAR)、ポリエーテルニトリル(PEN)、熱可塑ポリイミド(TPI)、ポリイミド(PI)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリアミドイミド(PAI)等を挙げることができる。
なかでも、ポリアミドイミド及び/又はポリイミド(A-1)であることが金属との接着性に優れるという点で特に好ましい。
【0023】
更に、耐熱性樹脂(A)は、ポリアミドイミド及び/又はポリイミド(A-1)並びにポリエーテルスルホン(A-2)を組み合わせて使用するものであってもよい。これらの樹脂を併用することで、被膜の耐食性と耐スチーム性を両立できるという点で好ましい。
【0024】
この場合、ポリアミドイミド及び/又はポリイミド(A-1)と、ポリエーテルスルホン(A-2)との質量比((A-1):(A-2))が85:15~65:35であることが好ましい。このような範囲内とすることで、被覆の耐食性と耐スチーム性が良好であるという点で好ましい。上記範囲は、80:20~70:30であることがより好ましい。
【0025】
上記ポリアミドイミド(PAI)は、分子構造中にアミド結合及びイミド結合を有する重合体からなる樹脂である。上記PAIとしては特に限定されず、例えば、アミド結合を分子内に有する芳香族ジアミンとピロメリット酸等の芳香族四価カルボン酸との反応;無水トリメリット酸等の芳香族三価カルボン酸と4,4-ジアミノフェニルエーテル等のジアミンやジフェニルメタンジイソシアネート等のジイソシアネートとの反応;芳香族イミド環を分子内に有する二塩基酸とジアミンとの反応等の各反応により得られる高分子量重合体からなる樹脂等が挙げられる。耐熱性に優れる点から、上記PAIとしては、主鎖中に芳香環を有する重合体からなるものが好ましい。
【0026】
上記ポリイミド(PI)は、分子構造中にイミド結合を有する重合体からなる樹脂である。上記PIとしては特に限定されず、例えば、無水ピロメリット酸等の芳香族四価カルボン酸無水物の反応等により得られる高分子量重合体からなる樹脂等が挙げられる。耐熱性に優れる点から、上記PIとしては、主鎖中に芳香環を有する重合体からなるものが好ましい。
【0027】
上記ポリエーテルサルフォン樹脂(PES)は、下記一般式:
【0028】
【化1】
【0029】
で表される繰り返し単位を有する重合体からなる樹脂である。PESとしては特に限定されず、例えば、ジクロロジフェニルスルホンとビスフェノールとの重縮合により得られる重合体からなる樹脂等が挙げられる。
【0030】
上記芳香族ポリエーテルケトン樹脂は、アリーレン基とエーテル基[-O-]とカルボニル基[-C(=O)-]とで構成された繰り返し単位を含む樹脂である。上記芳香族ポリエーテルケトン樹脂としては、ポリエーテルケトン樹脂(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン樹脂(PEEK)、ポリエーテルエーテルケトンケトン樹脂(PEEKK)、ポリエーテルケトンエステル樹脂等が例示できる。上記芳香族ポリエーテルケトン樹脂は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用できる。
上記芳香族ポリエーテルケトン樹脂としては、PEK、PEEK、PEEKK及びポリエーテルケトンエステル樹脂からなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、PEEKがより好ましい
【0031】
本開示の被覆用組成物は、更に、非溶融加工性含フッ素重合体(B)を含む。「非溶融加工性」とは、ASTM D-1238及びD-2116に準拠して、融点より高い温度でメルトフローレートを測定できない性質を意味する。
【0032】
上記非溶融加工性含フッ素重合体(B)は、非溶融加工性ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)であることが好ましい。
【0033】
上記非溶融加工性PTFEは、フィブリル化性を有するものであることが好ましい。上記フィブリル化性とは、容易に繊維化してフィブリルを形成する特性を指す。フィブリル化性の有無は、TFEの重合体から作られた粉末である「高分子量PTFE粉末」を成形する代表的な方法である「ペースト押出し」で判断できる。通常、ペースト押出しが可能であるのは、高分子量のPTFEがフィブリル化性を有するからである。ペースト押出しで得られた未焼成の成形物に実質的な強度や伸びがない場合、例えば伸びが0%で引っ張ると切れるような場合はフィブリル化性がないとみなすことができる。
【0034】
上記非溶融加工性PTFEは、標準比重(SSG)が2.130~2.230であることが好ましい。上記SSGは、2.130~2.190であることがより好ましく、2.140~2.170であることが更に好ましい。上記非溶融加工性PTFEのSSGが上記範囲内にあると、耐食性に一層優れた塗膜を形成できる。SSGは、ASTM D 4895に準拠して測定する値である。
【0035】
上記非溶融加工性PTFEは、300℃以上の温度に加熱した履歴がない上記非溶融加工性PTFEについて、示差走査熱量計により昇温速度10℃/分にて得られる融解熱曲線において、333~347℃にピークトップ(DSC融点)を有することが好ましい。より好ましくは、333~345℃にピークトップを有するものであり、更に好ましくは340~345℃にピークトップを有するものである。ピークトップ(DSC融点)が上記範囲内にあると、耐食性に一層優れた塗膜を形成できる。
【0036】
より具体的に説明すると、例えば、上記示差走査熱測定(DSC)は、事前に標準サンプルとして、インジウム、鉛を用いて温度校正したRDC220(エスアイアイ・ナノテクノロジー社製)を用い、PTFE粉末約3mgをアルミ製パン(クリンプ容器)に入れ、200ml/分のエアー気流下で、250~380℃の温度領域を10℃/分で昇温させて行う。なお、標準サンプルとして、インジウム、鉛、スズを用いて熱量を校正し、測定リファレンスには、空の上記アルミ製パンをシールして用いる。得られた融解熱曲線は、Muse標準解析ソフト(エスアイアイ・ナノテクノロジー社製)を用いて、融解熱量のピークトップを示す温度をDSC融点とする。
【0037】
上記非溶融加工性PTFEは、テトラフルオロエチレンホモポリマー(以下、「ホモPTFE」ともいう。)及び変性ポリテトラフルオロエチレン(以下、「変性PTFE」ともいう。)からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0038】
上記変性PTFEは、テトラフルオロエチレン(TFE)とTFE以外のモノマー(以下、「変性モノマー」ともいう。)とからなる変性PTFEである。
【0039】
上記変性モノマーとしては、TFEとの共重合が可能なものであれば特に限定されず、例えば、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)等のパーフルオロオレフィン;クロロトリフルオロエチレン(CTFE)等のクロロフルオロオレフィン;トリフルオロエチレン、フッ化ビニリデン(VDF)等の水素含有フルオロオレフィン;パーフルオロビニルエーテル;パーフルオロアルキルエチレン、エチレン等が挙げられる。また、用いる変性モノマーは1種であってもよいし、複数種であってもよい。
【0040】
上記パーフルオロビニルエーテルとしては特に限定されず、例えば、下記一般式(1)
CF=CF-ORf (1)
(式中、Rfは、パーフルオロ有機基を表す。)で表されるパーフルオロ不飽和化合物等が挙げられる。本明細書において、上記「パーフルオロ有機基」とは、炭素原子に結合する水素原子が全てフッ素原子に置換されてなる有機基を意味する。上記パーフルオロ有機基は、エーテル酸素を有していてもよい。
【0041】
上記パーフルオロビニルエーテルとしては、例えば、上記一般式(1)において、Rfが炭素数1~10のパーフルオロアルキル基であるパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)(PAVE)が挙げられる。上記パーフルオロアルキル基の炭素数は、好ましくは1~5である。
【0042】
上記PAVEにおけるパーフルオロアルキル基としては、例えば、パーフルオロメチル基、パーフルオロエチル基、パーフルオロプロピル基、パーフルオロブチル基、パーフルオロペンチル基、パーフルオロヘキシル基等が挙げられるが、パーフルオロアルキル基がパーフルオロプロピル基であることが好ましい。すなわち、上記PAVEは、パーフルオロプロピルビニルエーテル(PPVE)が好ましい。
【0043】
上記パーフルオロビニルエーテルとしては、更に、上記一般式(1)において、Rfが炭素数4~9のパーフルオロ(アルコキシアルキル)基であるもの、Rfが下記式:
【0044】
【化2】
【0045】
(式中、mは、0又は1~4の整数を表す。)で表される基であるもの、Rfが下記式:
【0046】
【化3】
【0047】
(式中、nは、1~4の整数を表す。)で表される基であるもの等が挙げられる。
【0048】
パーフルオロアルキルエチレン(PFAE)としては特に限定されず、例えば、パーフルオロブチルエチレン(PFBE)、パーフルオロヘキシルエチレン等が挙げられる。
【0049】
上記変性PTFEにおける変性モノマーとしては、HFP、CTFE、VDF、PAVE、PFAE及びエチレンからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。より好ましくは、PAVEであり、更に好ましくは、PPVEである。
【0050】
上記ホモPTFEは、実質的にTFE単位のみからなるものであり、例えば、変性モノマーを使用しないで得られたものであることが好ましい。
【0051】
上記変性PTFEは、変性モノマー単位が0.001~2モル%であることが好ましく、0.001~1モル%であることがより好ましい。
【0052】
上記非溶融加工性含フッ素重合体の各単量体単位の含有量は、NMR、FT-IR、元素分析、蛍光X線分析を単量体の種類によって適宜組み合わせることで算出できる。
【0053】
本開示の被覆用組成物は、更に、溶融加工性含フッ素重合体(C)を含む。上記「溶融加工性」とは、押出機及び射出成形機等の従来の加工機器を用いて、ポリマーを溶融して加工することが可能であることを意味する。従って、上記溶融加工性含フッ素重合体は、メルトフローレート(MFR)が0.01~100g/10分であることが通常である。
【0054】
本明細書において、上記MFRは、ASTM D 1238に従って、メルトインデクサー((株)安田精機製作所製)を用いて、フルオロポリマーの種類によって定められた測定温度(例えば、PFAやFEPの場合は372℃、ETFEの場合は297℃)、荷重(例えば、PFA、FEP及びETFEの場合は5kg)において内径2mm、長さ8mmのノズルから10分間あたりに流出するポリマーの質量(g/10分)として得られる値である。
【0055】
上記溶融加工性含フッ素重合体(C)は、融点が100~333℃であることが好ましく、140℃以上であることがより好ましく、160℃以上であることが更に好ましく、180℃以上であることが特に好ましい。また、332℃以下であることがより好ましく、322℃未満であることが更に好ましく、320℃以下であることが特に好ましい。
【0056】
本明細書において、上記溶融加工性含フッ素重合体(C)の融点は、示差走査熱量計〔DSC〕を用いて10℃/分の速度で昇温したときの融解熱曲線における極大値に対応する温度である。
【0057】
上記溶融加工性含フッ素重合体(C)としては、低分子量PTFE、TFE/PAVE共重合体(PFA)、TFE/HFP共重合体(FEP)、エチレン(Et)/TFE共重合体(ETFE)、Et/TFE/HFP共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、CTFE/TFE共重合体、Et/CTFE共重合体及びポリフッ化ビニリデン(PVDF)からなる群より選択される少なくとも1種が挙げられる。
上記溶融加工性含フッ素重合体(C)は、耐食性に一層優れる塗膜が得られる点で、FEP及びPFAからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましく、FEPであることがより好ましい。
【0058】
上記FEPとしては、特に限定されないが、TFE単位とHFP単位とのモル比(TFE単位/HFP単位)が70/30以上99/1未満である共重合体が好ましい。より好ましいモル比は、70/30以上98.9/1.1以下であり、更に好ましいモル比は、80/20以上98.9/1.1以下である。TFE単位が少なすぎると機械物性が低下する傾向があり、多すぎると融点が高くなりすぎ成形性が低下する傾向がある。上記FEPは、TFE及びHFPと共重合可能な単量体に由来する単量体単位が0.1~10モル%であり、TFE単位及びHFP単位が合計で90~99.9モル%である共重合体であることも好ましい。TFE及びHFPと共重合可能な単量体としては、PAVE、CF=CF-OCH-Rf(式中、Rfは炭素数1~5のパーフルオロアルキル基を表す。)で表されるアルキルパーフルオロビニルエーテル誘導体等が挙げられる。
【0059】
上記FEPは、融点が150~322℃未満であることが好ましく、200~320℃であることがより好ましく、240~320℃であることが更に好ましい。
【0060】
上記FEPは、MFRが1~100g/10分であることが好ましい。
【0061】
上記FEPは、熱分解開始温度が360℃以上であることが好ましい。上記熱分解開始温度は、380℃以上であることがより好ましく、390℃以上であることが更に好ましい。
【0062】
本明細書において、熱分解開始温度は、示差熱・熱重量測定装置〔TG-DTA〕(商品名:TG/DTA6200、セイコー電子社製)を用い、試料10mgを昇温速度10℃/分で室温から昇温し、試料が1質量%減少した温度である。
【0063】
上記PFAとしては、特に限定されないが、TFE単位とPAVE単位とのモル比(TFE単位/PAVE単位)が70/30以上99/1未満である共重合体が好ましい。より好ましいモル比は、70/30以上98.9/1.1以下であり、更に好ましいモル比は、80/20以上98.9/1.1以下である。TFE単位が少なすぎると機械物性が低下する傾向があり、多すぎると融点が高くなりすぎ成形性が低下する傾向がある。上記PFAは、TFE及びPAVEと共重合可能な単量体に由来する単量体単位が0.1~10モル%であり、TFE単位及びPAVE単位が合計で90~99.9モル%である共重合体であることも好ましい。TFE及びPAVEと共重合可能な単量体としては、HFP、CZ=CZ(CF(式中、Z、Z及びZは、同一若しくは異なって、水素原子又はフッ素原子を表し、Zは、水素原子、フッ素原子又は塩素原子を表し、nは2~10の整数を表す。)で表されるビニル単量体、及び、CF=CF-OCH-Rf(式中、Rfは炭素数1~5のパーフルオロアルキル基を表す。)で表されるアルキルパーフルオロビニルエーテル誘導体等が挙げられる。
【0064】
上記PFAは、融点が180~322℃未満であることが好ましく、230~320℃であることがより好ましく、280~320℃であることが更に好ましい。
【0065】
上記PFAは、メルトフローレート(MFR)が1~100g/10分であることが好ましい。
【0066】
上記PFAは、熱分解開始温度が380℃以上であることが好ましい。上記熱分解開始温度は、400℃以上であることがより好ましく、410℃以上であることが更に好ましい。
【0067】
上記溶融加工性含フッ素重合体の各単量体単位の含有量は、NMR、FT-IR、元素分析、蛍光X線分析を単量体の種類によって適宜組み合わせることで算出できる。
【0068】
上記被覆用組成物中での分散安定性や、得られる塗膜の表面平滑性の観点から、上記非溶融加工性含フッ素重合体及び上記溶融加工性含フッ素重合体は、平均粒子径が0.01~40μmであることが好ましい。上記平均粒子径は、0.05μm以上であることがより好ましく、また、20μm以下であることがより好ましく、10μm以下であることが更に好ましく、5μm以下であることが特に好ましい。
上記平均粒子径は、レーザー光散乱法により測定することができる。
【0069】
耐食性に一層優れる塗膜が得られる点で、上記PES及び上記ポリイミド系樹脂の合計量の、上記非溶融加工性含フッ素重合体及び上記溶融加工性含フッ素重合体の合計量に対する質量比が15/85~35/65であることが好ましい。上記質量比は、20/80以上であることがより好ましく、また、30/70以下であることがより好ましい。
【0070】
また、耐食性に一層優れる塗膜が得られる点で、上記非溶融加工性含フッ素重合体の、上記溶融加工性含フッ素重合体に対する質量比が5/95~95/5であることが好ましい。上記質量比は、20/80以上であることがより好ましく、30/70以上であることが更に好ましく、40/60以上であることが更により好ましく、50/50以上であることが特に好ましく、また、90/10以下であることがより好ましく、80/20以下であることが更に好ましく、70/30以下であることが特に好ましい。
【0071】
本開示の被覆用組成物は、水性媒体中に上述した樹脂粒子が分散した形態のものである。
【0072】
本開示の被覆用組成物は、有機溶媒を含んでもよい。上記有機溶媒は、有機化合物であって、20℃程度の常温において液体であることが好ましい。
【0073】
上記有機溶媒としては、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、N-エチル-2-ピロリドン、N-ブチル-2-ピロリドン、3-アルコキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド、γ-ブチロラクトン、ジメチルスルホキシド、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、3-メチル-2-オキサゾリジノン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、N-ホルミルモルホリン、N-アセチルモルホリン、ジメチルプロピレンウレア、アニソール、ジエチルエーテル、エチレングリコール、アセトフェノン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、キシレン、トルエン、エタノール、2-プロパノール等が挙げられ、1種又は2種以上を使用することができる。
【0074】
上記有機溶媒は、N-エチル-2-ピロリドン、N-ブチル-2-ピロリドン、3-アルコキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド、γ-ブチロラクトン、ジメチルスルホキシド、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、3-メチル-2-オキサゾリジノン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、N-ホルミルモルホリン、N-アセチルモルホリン、ジメチルプロピレンウレア、アニソール、ジエチルエーテル、エチレングリコール、アセトフェノン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、キシレン、トルエン、エタノール及び2-プロパノールからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましく、N-エチル-2-ピロリドン、N-ブチル-2-ピロリドン、3-アルコキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド、γ-ブチロラクトン、ジメチルスルホキシド、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、3-メチル-2-オキサゾリジノン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、N-ホルミルモルホリン、N-アセチルモルホリン及びジメチルプロピレンウレアからなる群より選択される少なくとも1種であることがより好ましく、N-エチル-2-ピロリドン、N-ブチル-2-ピロリドン、3-アルコキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、3-メチル-2-オキサゾリジノン、N-ホルミルモルホリン、N-アセチルモルホリン及びジメチルプロピレンウレアからなる群より選択される少なくとも1種であることが更に好ましい。
【0075】
上記3-アルコキシ-N,N-ジメチルプロパンアミドは、N(CHCOCHCHOR11(R11はアルキル基)で表される。アルコキシ基(R11O基)は、特に限定されないが、炭素数1~6程度の低級アルキル基を含むアルコキシ基であることが好ましく、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、又はブトキシ基であることがより好ましい。上記3-アルコキシ-N,N-ジメチルプロパンアミドとしては、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド(N(CHCOCHCHOCH)が特に好ましい。
【0076】
上記有機溶媒は、また、沸点が150℃以上であることが好ましく、170℃以上であることがより好ましく、210℃以上であることが更に好ましい。これにより、塗装時の乾燥速度を遅延させ、塗膜の表面平滑性を向上させることができる。
上記沸点は、1気圧(atm)において測定する値である。
【0077】
上記被覆用組成物の固形分濃度は5~70質量%であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、60質量%以下であることがより好ましく、50質量%以下であることが更に好ましく、40質量%以下であることが特に好ましい。
【0078】
本開示の被覆用組成物は、各種添加剤を更に含んでもよい。上記添加剤としては特に限定されず、例えば、充填材、レベリング剤、固体潤滑剤、沈降防止剤、水分吸収剤、界面活性剤、表面調整剤、チキソトロピー性付与剤、粘度調節剤、ゲル化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、可塑剤、色分かれ防止剤、皮張り防止剤、スリ傷防止剤、防カビ剤、抗菌剤、酸化防止剤、帯電防止剤、シランカップリング剤、着色剤(酸化鉄、二酸化チタン等)等が挙げられる。
【0079】
本開示の被覆用組成物は、得られる被覆物品に対する特性付与、物性向上、増量等を目的として、上記添加剤として充填材を含むものであってもよい。上記特性や物性としては、強度、耐久性、耐侯性、難燃性、意匠性等が挙げられる。
【0080】
上記充填材としては特に限定されず、例えば、木粉、石英砂、カーボンブラック、クレー、タルク、ダイヤモンド、フッ素化ダイヤモンド、コランダム、ケイ石、窒化ホウ素、炭化ホウ素、炭化珪素、融解アルミナ、トルマリン、翡翠、ゲルマニウム、酸化ジルコニウム、炭化ジルコニウム、クリソベリル、トパーズ、ベリル、ガーネット、体質顔料、光輝性偏平顔料、鱗片状顔料、ガラス、ガラス粉、マイカ粉、金属粉(金、銀、銅、白金、ステンレス、アルミニウム等)、各種強化材、各種増量材、導電性フィラー等が挙げられる。
【0081】
上記添加剤の含有量は、上記被覆用組成物に対し、0.01~10.0質量%が好ましく、0.1~5.0質量%がより好ましい。
【0082】
本開示の被覆用組成物は、塗装時の粘度が、25℃において100~300cPであることがより好ましい。メチルセルロースを実質的に含有させることなく、このような粘度範囲のものにすることで、本開示の目的を特に好適に実現することができる。
【0083】
本開示の被覆用組成物は、基材上にプライマー層を形成し、その後、含フッ素重合体を含む上塗り層を形成する被覆方法におけるプライマー層を形成するための被覆用組成物として使用することができる。このような被覆物品を以下、第1の被覆物品と記載することがある。
上記第1の被覆物品は、上記プライマー層と上記上塗り層の間に、さらに中塗り層を有するものであってもよい。上記中塗り層としては特に限定されず、公知の中塗り塗料により形成することができる。
【0084】
本開示の被覆用組成物は、更に、耐熱性樹脂を含むプライマー層、中塗り層及び含フッ素重合体を含む上塗り層からなる複層塗膜の中塗り層を形成するための被覆用組成物として使用することもできる。このような被覆物品を以下、第2の被覆物品と記載することがある。
【0085】
なお、このような使用方法は、本出願人が出願した特開2020-176216と同様であり、使用方法については、当該先行文献に記載された使用方法と同様のものとすることができる。
【0086】
上記基材としては、例えば、金属又は非金属無機材料からなるもの等を使用することができるが、金属からなるものが好ましく、アルミニウム又はステンレスからなるものがより好ましい。
【0087】
上記金属としては、鉄、アルミニウム、銅等の金属単体及びこれらの合金類等が挙げられる。上記合金類としては、ステンレス等が挙げられる。
上記非金属無機材料としては、ホーロー、ガラス、セラミック等が挙げられる。
上記基材は、金属又は非金属無機材料とともに、他の材料を含んでもよい。
【0088】
上記基材は、必要に応じ、脱脂処理、粗面化処理等の表面処理を行ったものであってもよい。上記粗面化処理の方法としては特に限定されず、酸又はアルカリによるケミカルエッチング、陽極酸化(アルマイト処理)、サンドブラスト等が挙げられる。上記表面処理は、上記基材や上記被覆用組成物等の種類に応じて適宜選択すればよいが、例えば、サンドブラストであることが好ましい。
【0089】
上記基材は、380℃で空焼きして油等の不純物を熱分解除去する脱脂処理を実施したものであってもよい。また、表面処理後にアルミナ研掃材を用いて粗面化処理を施したアルミニウム基材を使用してもよい。
【0090】
上記基材又は上記耐熱層の上に上記被覆用組成物を塗布する方法としては特に限定されず、上記被覆用組成物が液状である場合、スプレー塗装、ロール塗装、ドクターブレードによる塗装、ディップ(浸漬)塗装、含浸塗装、スピンフロー塗装、カーテンフロー塗装等が挙げられ、なかでも、スプレー塗装が好ましい。上記被覆用組成物が粉体状である場合、静電塗装、流動浸漬法、ロトライニング法等が挙げられ、なかでも、静電塗装が好ましい。
【0091】
上述したように、本開示は、メチルセルロースを実質的に含まないことによって発泡の抑制を図るものであるが、このような発泡による問題は、霧化圧力が0.2Mpa未満の低圧霧化塗装ガンを使用してスプレー塗装する場合において特に顕著に生じるものである。よって、低圧霧化ガンを使用したスプレーによる塗装を行う場合に、特に好適に効果を発揮することができる。
【0092】
上記被覆用組成物の塗布の後、乾燥を行ってもよい。上記乾燥は、70~300℃の温度で5~60分間行うことが好ましい。さらに、焼成を、260~410℃の温度で10~30分間行うことが好ましい。
【0093】
上記第1の被覆物品において、本開示の被覆用組成物をプライマー層の形成に使用する場合、プライマー層は、膜厚が5~90μmであることが好ましい。膜厚が薄過ぎると、ピンホールが発生し易く、被覆物品の耐食性が低下するおそれがある。膜厚が厚過ぎると、クラックが生じ易くなり、被覆物品の耐水蒸気性が低下するおそれがある。上記プライマー層が液状組成物から形成される場合の膜厚のより好ましい上限は60μmであり、更に好ましい上限は50μmである。上記プライマー層が粉体状組成物から形成される場合の膜厚のより好ましい上限は80μmであり、更に好ましい上限は70μmである。
【0094】
上記第1の被覆物品は、このようなプライマー層と、含フッ素重合体を含む上塗り層を有するものである。上記上塗り層は、本出願人が出願した特開2020-176216において詳述した含フッ素層と同様とすることができる。
【0095】
含フッ素層は、膜厚が5~90μmであることが好ましい。膜厚が薄過ぎると、被覆物品の耐食性が低下するおそれがある。膜厚が厚過ぎると、被覆物品が水蒸気の存在下にある場合、水蒸気が被覆物品中に残存し易くなり、耐水蒸気性に劣る場合がある。上記含フッ素層が液状組成物から形成される場合の膜厚のより好ましい上限は60μmであり、更に好ましい上限は50μmであり、特に好ましい上限は40μmである。含フッ素層が粉体状組成物から形成される場合の膜厚のより好ましい上限は80μmであり、更に好ましい上限は75μmであり、特に好ましい上限は70μmである。
【0096】
プライマー層は、上記基材と直接接していることが好ましい。
含フッ素層は、プライマー層と直接接していてもよく、他の層を介して接していてもよいが、直接接していることが好ましい。
【0097】
本開示の被覆用組成物は耐食性に優れる塗膜を与えることができ、第1及び第2の被覆物品は耐食性に優れる。このため、本開示の被覆用組成物、並びに、第1及び第2の被覆物品は、耐食性が求められるあらゆる分野において好適に用いることができる。適用可能な用途としては特に限定されず、含フッ素重合体が有する非粘着性、耐熱性、滑り性等を利用した用途を挙げることができる。例えば、非粘着性を利用したものとして、フライパン、圧力鍋、鍋、グリル鍋、炊飯釜、オーブン、ホットプレート、パン焼き型、包丁、ガステーブル等の調理器具;電気ポット、製氷トレー、金型、レンジフード等の厨房用品;練りロール、圧延ロール、コンベア、ホッパー等の食品工業用部品;オフィスオートメーション(OA)用ロール、OA用ベルト、OA用分離爪、製紙ロール、フィルム製造用カレンダーロール等の工業用品;発泡スチロール成形用等の金型、鋳型;合板・化粧板製造用離型板等の成形金型離型;工業用コンテナ(特に半導体工業用)等が挙げられ、滑り性を利用したものとして、医療用ガイドワイヤー、カテーテル、シース、シースイントロデューサー等、のこぎり、やすり等の工具;アイロン、鋏、包丁等の家庭用品;金属箔;電線;食品加工機、包装機、紡織機械等のすべり軸受;カメラ・時計の摺動部品;パイプ、バルブ、ベアリング等の自動車部品;雪かきシャベル;すき;シュート等が挙げられる。
【0098】
本開示の被覆用組成物、並びに、第1及び第2の被覆物品は、調理器具又は厨房用品に用いられることが好ましく、調理器具に用いられることがより好ましく、炊飯釜に用いられることが更に好ましい。
第1及び第2の被覆物品は、調理器具、厨房用品又はその構成部材であることも好ましく、調理器具又はその構成部材であることがより好ましく、炊飯釜又はその構成部材であることが更に好ましい。
【実施例
【0099】
以下、本開示を実施例に基づいて具体的に説明する。
以下の実施例においては特に言及しない場合は、「部」「%」はそれぞれ「質量部」「質量%」を表す。
平均粒子径は、レーザー回折による粒度分布測定装置(マイクロトラック・ベル社製マイクロトラックMT-3000EXII型)により測定したものである。膜厚は、高周波式膜厚計(商品名:LZ-300C、ケット科学研究所製)を用いて測定した。
【0100】
製造例1 ポリアミドイミド樹脂水性分散体(1)の調製
固形分29%のポリアミドイミド樹脂〔PAI〕ワニス(N-メチル-2-ピロリドン(以下、NMPという)を71%含む)を水中に投入してPAIを析出させた。これをボールミル中で48時間粉砕してPAI水性分散体(平均粒子径2μm)を得た。得られたPAI水性分散体の固形分は、20%であった。
【0101】
製造例2 ポリエーテルスルホン樹脂水性分散体(1)の調製
数平均分子量約24000のポリエーテルスルホン樹脂〔PES〕60部及び脱イオン水60部を、セラミックボールミル中でPESからなる粒子が完全に粉砕されるまで約10分間攪拌した。次いで、NMP180部を添加し、更に、48時間粉砕し、分散体を得た。得られた分散体を更にサンドミルで1時間粉砕し、PES濃度が約20%のPES水性分散体(平均粒子径2μm)を得た。
【0102】
製造例3(本開示の被覆用組成物:実施例1)
製造例1で得られたPAI水性分散体に、テトラフルオロエチレンホモポリマー〔TFEホモポリマー、以下PTFEという〕水性分散体(平均粒子径0.28μm、固形分60%、分散剤として非アルキルフェノール型ポリエーテル系非イオン性界面活性剤をPTFEに対して6%含有している)とテトラフルオロエチレン-ヘキサフロオロプロピレン共重合体(以下、FEPという)水性分散体(平均粒子径0.20μm、固形分60%、分散剤として非アルキルフェノール型ポリエーテル系非イオン性界面活性剤をFEPに対して5%含有している)を、固形分の質量比でFEPがPTFEの8.4%となるように添加し、かつPAIが、PAI、PTFE及びFEPの固形分合計量の25%となるように加え、増粘剤として非アルキルフェノール型ポリエーテル系非イオン性界面活性剤(HLB値9.5)をポリマーの固形分に対して11%添加して、ポリマーの固形分37%の水性分散液(下塗り用被覆組成物(1))を得た。
【0103】
製造例4(本開示の被覆用組成物:実施例2,3,5)
製造例2で得られたPES水性分散体、及び、製造例1で得られたPAI水性分散体を、PESが、PESとPAIとの固形分合計量の75%となるように混合し、これにテトラフルオロエチレンホモポリマー〔TFEホモポリマー、以下PTFEという〕水性分散体(平均粒子径0.28μm、固形分60%、分散剤として非アルキルフェノール型ポリエーテル系非イオン性界面活性剤をPTFEに対して6%含有している)とテトラフルオロエチレン-ヘキサフロオロプロピレン共重合体(以下、FEPという)水性分散体(平均粒子径0.20μm、固形分60%、分散剤としてポリエーテル系非イオン性界面活性剤をFEPに対して5%含有している)を、固形分の質量比でFEPがPTFEの50%となり、かつPES及びPAIが、PES、PAI、PTFE及びFEPの固形分合計量の25%となるように加え、増粘剤として非アルキルフェノール型ポリエーテル系非イオン性界面活性剤(HLB値9.5)をポリマーの固形分に対して11%添加して、ポリマーの固形分37%の水性分散液(下塗り用被覆組成物(2))を得た。
【0104】
製造例5(本開示の被覆用組成物:実施例4)
製造例4にメチルセルロースをポリマーの固形分に対して0.068%添加した以外は製造例4と同様にしてポリマーの固形分36%の下塗り用被覆用組成物(3)を得た。
【0105】
比較製造例1
増粘剤を非アルキルフェノール型ポリエーテル系非イオン性界面活性剤(HLB値9.5)に替えてメチルセルロースをポリマーの固形分に対して0.61%添加した以外は製造例3と同様にして、ポリマーの固形分33%の下塗り用被覆用組成物(4)を得た。
【0106】
比較製造例2
増粘剤を非アルキルフェノール型ポリエーテル系非イオン性界面活性剤(HLB値9.5)に替えてメチルセルロースをポリマーの固形分に対して0.61%添加した以外は製造例4と同様にして、ポリマーの固形分33%の下塗り用被覆用組成物(5)を得た。
【0107】
比較製造例3
製造例4にメチルセルロースをポリマーの固形分に対して0.14%添加した以外は製造例4と同様にしてポリマーの固形分36%の下塗り用被覆用組成物(6)を得た。
【0108】
<試験板の作製>
縦5cm、横10cmに切断した厚みが1.5mmのアルミニウム板(A-1050P)の表面をアセトンで脱脂した後、JIS B 1982に準拠して測定した表面粗度Ra値が2.5~4.0μmとなるようにサンドブラストを行い、表面を粗面化した。エアーブローにより表面のダストを除去した後、製造例及び比較製造例で得られた下塗り用被覆用組成物を、乾燥膜厚が約10μmとなるように、RG-2型重力式スプレーガン(商品名、アネスト岩田社製、ノズル径1.0mm)を用い、吹き付け圧力0.2MPaでスプレー塗装した。得られたアルミニウム板上の塗布膜を80~100℃で15分間乾燥し、室温まで冷却した。
【0109】
得られた塗布膜上に、PTFE水性塗料(ダイキン工業株式会社製ポリフロンPTFE EK-3700C21R)又はPFA粉体塗料(ダイキン工業株式会社製ネオフロンPFA ACX-34)を塗装した。
実施例5の中塗りとしては、ACX-34に炭化ケイ素を2.0質量%混合したもの、上塗りとしてはACX-34にガラスフレークを1.5質量%とダイヤモンド粉末を1.0質量%混合したものを塗装した。
PTFE水性塗料の場合、RG-2型重力式スプレーガン(商品名、アネスト岩田社製、ノズル径1.0mm)を用い、吹き付け圧力0.2MPaでスプレー塗装し、380℃で20分間焼成し、冷却して、上塗りに膜厚が約20μmのPTFE層を形成することにより、試験用塗装板を得た。得られた試験用塗装板は、アルミニウム板上に下塗り層、及びPTFEからなる上塗り層が形成されていた。
【0110】
上塗りがACX-34の場合、印加電圧40KV、圧力0.08MPaの条件で静電塗装し、380℃で20分間焼成し、冷却して、上塗りに膜厚が約40μmのPFA層を形成することにより、試験用塗装板を得た。得られた試験用塗装板は、アルミニウム板上に下塗り層、及びPFAからなる上塗り層が形成されていた。
中塗りが充填材含有粉体塗料の場合、印加電圧40KV、圧力0.08MPaの条件で炭化ケイ素を含有するACX-34を静電塗装し、続いて上塗りのガラスフレークとダイヤモンド粉末を含有するACX-34を同様に静電塗装した。380℃で20分間焼成し、冷却して、中塗りに膜厚が約40μmの充填材含有PFA(PFA98%と炭化ケイ素2%を含む)層、上塗りに約5μmの充填材含有PFA(PFA97.5%、ガラスフレーク1.5%、ダイヤモンド粉末1.0%を含む)層を形成することにより、試験用塗装板を得た。得られた試験用塗装板は、アルミニウム板上に下塗り層、PFAと炭化ケイ素からなる中塗り層、及びPFA、ガラスフレーク、ダイヤモンド粉末からなる上塗り層形成されていた。上記で得られた塗装板で耐食試験を行った。
【0111】
<評価方法>
下記の評価を行った。
(下塗り用被覆組成物の塗装試験)
縦5cm、横10cmに切断した厚みが1.5mmのアルミニウム板(A-1050P)の表面をアセトンで脱脂した後、実施例及び比較例で得られた下塗り用被覆組成物を、乾燥膜厚が約10μmとなるように、W-101型重力式スプレーガン(商品名、アネスト岩田社製、ノズル径1.2mm)を用い、吹き付け圧力0.1MPaでスプレー塗装した。塗装直後の泡の数を調べた。
【0112】
(塗装板の耐食試験)
得られた試験用塗装板の塗膜表面にカッターナイフでクロスカットを入れ、基材に達する傷を入れた。この試験板を、おでんの素(ヱスビー食品株式会社製)20gを水1リットルに溶解した溶液中に浸漬し、70℃に保温して、カッターナイフでクロスカットを入れた試験板を1000時間浸漬し、クロスカット部の膨れの数を数えた。
下記の通り、点数を付与した。
5点 膨れなし
4点 膨れ(3mm以下)が3個以下
3点 膨れが4~6個、又は4mm以上の膨れ
2点 膨れが7~10個、又は10mm以上の膨れ、又は4mm以上の膨れ3個以上
1点 膨れが11個以上
【0113】
(塗料粘度)
B型粘度計(東機産業株式会社製TVB10型)を使用し、No.2ローター、60rpm、25℃の条件で粘度を測定した。
【0114】
【表1】
【0115】
上記表1の結果から、本開示の被覆用組成物は、発泡が抑制されていることが示された。これによって優れた塗膜物性を有する塗膜を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0116】
本開示の被覆用組成物は、耐食性が求められる用途において好適に使用することができ、調理器具又は厨房用品に特に好適に使用することができる。