(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-18
(45)【発行日】2023-04-26
(54)【発明の名称】ホットスタンプ用めっき鋼板
(51)【国際特許分類】
C23C 2/06 20060101AFI20230419BHJP
C23C 2/40 20060101ALI20230419BHJP
C23C 2/28 20060101ALI20230419BHJP
B21D 22/20 20060101ALI20230419BHJP
C22C 38/00 20060101ALN20230419BHJP
C22C 38/38 20060101ALN20230419BHJP
【FI】
C23C2/06
C23C2/40
C23C2/28
B21D22/20 H
B21D22/20 E
C22C38/00 301T
C22C38/38
(21)【出願番号】P 2022507216
(86)(22)【出願日】2021-03-09
(86)【国際出願番号】 JP2021009266
(87)【国際公開番号】W WO2021182465
(87)【国際公開日】2021-09-16
【審査請求日】2022-07-21
(31)【優先権主張番号】P 2020042521
(32)【優先日】2020-03-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002044
【氏名又は名称】弁理士法人ブライタス
(72)【発明者】
【氏名】竹林 浩史
(72)【発明者】
【氏名】秋葉 浩二郎
(72)【発明者】
【氏名】仙石 晃大
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/179397(WO,A1)
【文献】特開2014-201799(JP,A)
【文献】特表2016-520162(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0118437(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 2/00-2/40
B21D 22/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
母材と、前記母材の表面に形成された亜鉛めっき層とを備えるホットスタンプ用めっき鋼板であって、
前記亜鉛めっき層は、前記母材側から順に、合金化亜鉛層、凝固亜鉛層およびAlを含む酸化物層を有し、
前記亜鉛めっき層中のZn含有量(g/m
2)に対する、前記凝固亜鉛層中のZn含有量(g/m
2)の割合が、10~95%である、
ホットスタンプ用めっき鋼板。
【請求項2】
前記酸化物層の化学組成が、下記(i)式を満足する、
請求項1に記載のホットスタンプ用めっき鋼板。
3.0≦Zn/Al≦6.0 ・・・(i)
但し、上記式中のZnおよびAlは、それぞれ、前記酸化物層中に含まれるZnおよびAlの含有量(g/m
2)である。
【請求項3】
前記酸化物層の平均厚さが1.0μm以下である、
請求項1または請求項2に記載のホットスタンプ用めっき鋼板。
【請求項4】
前記亜鉛めっき層のZn含有量が65~150g/m
2である、
請求項1から請求項3までのいずれかに記載のホットスタンプ用めっき鋼板。
【請求項5】
前記亜鉛めっき層のFe含有量が、質量%で、7%未満である、
請求項1から請求項4までのいずれかに記載のホットスタンプ用めっき鋼板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホットスタンプ用めっき鋼板に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の車体を構成する各種の自動車部品には、当該部品の用途に応じて多様な性能が要求されている。例えば、Aピラーレインフォース、Bピラーレインフォース、バンパーレインフォース、トンネルレインフォース、サイドシルレインフォース、ルーフレインフォースまたはフロアークロスメンバー等の自動車部品には、それぞれの自動車部品における特定部位だけが、この特定部位を除く一般部位よりも高い強度を有することが要求される。そこで、自動車部品における補強が必要な特定部位に相当する部分だけにホットスタンプ成形して、ホットスタンプ部材とする工法が一部採用されている。
【0003】
この際、表面処理を施していない冷延鋼板を用いると、加熱中に鋼板表面に鉄の酸化スケールが発生する。この酸化スケールは、成形中に剥離して金型を損耗するだけでなく、鋼板表面に疵が生じる原因となる。また、成形後の鋼板表面に酸化スケールが残れば、後の溶接工程における溶接不良、または塗装工程における塗装の密着性不良の原因になることがある。
【0004】
そこで、酸化スケールの生成を防止するために、特許文献1に記載されるように、亜鉛系等のめっき鋼板が用いられることがある。亜鉛系のめっき鋼板を用いることにより、鉄よりも先に亜鉛が少量酸化されることで、鉄の酸化を抑制し、溶接性および塗装性を大幅に改善することができる。
【0005】
さらに近年では、これらの部品にも耐食性が求められるようになり、例えば、特許文献2~5では、加熱前の鋼板のめっき付着量を厚目付にして、加熱後のめっき表面にZn含有量が約70%で残部がFeを主成分とするめっきを残存させ、耐食性を向上させる技術が開発されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2003-126921号公報
【文献】特開2005-240072号公報
【文献】特開2006-022395号公報
【文献】特開2007-182608号公報
【文献】特開2011-117086号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、連続ラインでめっき層を形成する場合、めっき浴中のZnと母材中のFeとが反応して過度に合金化するのを抑制するため、めっき浴中には少量のAlを含有させる必要がある。
【0008】
特に、厚目付のAl含有Znめっきを用いた際に、加熱して成形後に蜘蛛の巣状の表面欠陥が発生することがある。この蜘蛛の巣状の表面欠陥は凸状欠陥であり、自動車用の塗装をした後も表面に浮き出てくることがあるため、品質上好ましくない。
【0009】
したがって、この蜘蛛の巣状の欠陥を抑制する必要がある。しかし、その発生メカニズムも、それを抑制する手法についてもよく分かっていなかったのが実情である。
【0010】
本発明は、上記の問題点を解決し、Al含有Znめっきを用いた場合において、蜘蛛の巣状の表面欠陥を抑制することが可能なホットスタンプ用めっき鋼板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、下記のホットスタンプ用めっき鋼板を要旨とする。
【0012】
(1)母材と、前記母材の表面に形成された亜鉛めっき層とを備えるホットスタンプ用めっき鋼板であって、
前記亜鉛めっき層は、前記母材側から順に、合金化亜鉛層、凝固亜鉛層およびAlを含む酸化物層を有し、
前記亜鉛めっき層中のZn含有量(g/m2)に対する、前記凝固亜鉛層中のZn含有量(g/m2)の割合が、10~95%である、
ホットスタンプ用めっき鋼板。
【0013】
(2)前記酸化物層の化学組成が、下記(i)式を満足する、
上記(1)に記載のホットスタンプ用めっき鋼板。
3.0≦Zn/Al≦6.0 ・・・(i)
但し、上記式中のZnおよびAlは、それぞれ、前記酸化物層中に含まれるZnおよびAlの含有量(g/m2)である。
【0014】
(3)前記酸化物層の平均厚さが1.0μm以下である、
上記(1)または(2)に記載のホットスタンプ用めっき鋼板。
【0015】
(4)前記亜鉛めっき層のZn含有量が65~150g/m2である、
上記(1)から(3)までのいずれかに記載のホットスタンプ用めっき鋼板。
【0016】
(5)前記亜鉛めっき層のFe含有量が、質量%で、7%未満である、
上記(1)から(4)までのいずれかに記載のホットスタンプ用めっき鋼板。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、Al含有Znめっきを用いた場合において、蜘蛛の巣状の表面欠陥を抑制することが可能なホットスタンプ用めっき鋼板を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明者らは、蜘蛛の巣状の表面欠陥が発生する原因について調査した結果、以下の知見を得た。
【0019】
(a)めっき浴中にAlを含有させる場合、めっき層の表面には、薄いAlを含む酸化物層が形成する。特に厚目付の場合、ホットスタンプ時の加熱により、めっき層が液相となって流動し、それに伴う応力によって酸化物層に細かいひび割れが生じる。
【0020】
(b)酸化物層のひび割れによって生じる隙間にめっき中のZn、Mn等が流入し、これらの酸化物が充填することで、蜘蛛の巣状となり、表面性状が悪化する。
【0021】
本発明者らは、酸化物層のひび割れを抑制する方法について鋭意検討を行い、さらに以下の知見を得るに至った。
【0022】
(c)めっき層を適度に合金化して合金化亜鉛層を形成し、それより上層に形成される亜鉛凝固層の割合を制御することで、めっき液相の流動を抑制することが可能となる。
【0023】
(d)さらに、酸化物層を改質し、酸化物層中のZn含有量をAl含有量に対して相対的に増加させることで、酸化物層が軟質となり、ひび割れがより発生しにくくなる。
【0024】
(e)酸化物層の改質には、ワイピング条件の最適化が有効である。
【0025】
本発明は上記の知見に基づいてなされたものである。以下、本発明の各要件について詳しく説明する。
【0026】
(A)全体構成
本発明の一実施形態に係るホットスタンプ用めっき鋼板は、母材と、母材の表面に形成された亜鉛めっき層とを備える。亜鉛めっき層の構成について、以下に詳述する。
【0027】
(B)亜鉛めっき層
本発明における亜鉛めっき層は、母材側から順に、合金化亜鉛層、凝固亜鉛層およびAlを含む酸化物層を有する。亜鉛めっき層の目付量については特に制限はないが、例えば、Zn含有量において、30~180g/m2とすることができる。また、厚目付であるほど耐食性が向上する。
【0028】
加えて、蜘蛛の巣状の表面欠陥は、厚目付であるほど生じやすい。そのため、亜鉛めっき層の目付量が、Zn含有量において、65g/m2以上である場合において、本発明の効果が顕著に発揮される。一方、蜘蛛の巣状の表面欠陥を抑制する観点からは、亜鉛めっき層の目付量は、Zn含有量において、150g/m2以下であるのが好ましい。
【0029】
また、一般的な合金化溶融めっき鋼板の場合、亜鉛めっき層を完全に合金化させる必要があるため、亜鉛めっき層中のFe含有量は7%以上となる。一方、本発明においては、後述するように亜鉛めっき層を完全には合金化させない。このため、亜鉛めっき層中全体の平均Fe含有量は、質量%で、7%未満であるのが好ましく、6%以下であるのがより好ましい。
【0030】
(C)合金化亜鉛層
合金化亜鉛層は、めっき浴中のZnと母材中のFeとが反応して金属間化合物化されることで形成される層である。合金化亜鉛層が適度な量で形成されることによって、後述する凝固亜鉛層の割合を制御し、ホットスタンプ時におけるめっき液相の流動を抑制することが可能となる。
【0031】
(D)凝固亜鉛層
凝固亜鉛層は、溶融亜鉛めっき浴が凝固した層であり、一般的にはη層とも呼ばれる。そして、本発明においては、凝固亜鉛層中のZn含有量(g/m2)の割合を、亜鉛めっき層中のZn含有量(g/m2)に対して、10~95%とする。
【0032】
連続ラインで製造される合金化されていない通常の溶融亜鉛めっき鋼板の場合、めっき浴中に含有されるAlにより、めっき浴中のZnと母材中のFeとの反応が抑制される。そのため、亜鉛めっき層のほとんどが凝固亜鉛層であり、例えば、凝固亜鉛層中のZn含有量の割合は95%超となる。
【0033】
上述のように、厚目付の場合、ホットスタンプ時の加熱により、凝固亜鉛層が液相となって流動するため、本発明においては、凝固亜鉛層の割合を適度に減少させる。具体的には、凝固亜鉛層中のZn含有量の割合を、亜鉛めっき層中のZn含有量に対して、95%以下とすることによって、めっき液相の流動を抑制することが可能となる。めっき液相の流動を抑制するためには、凝固亜鉛層中のZn含有量の割合は85%以下または75%以下であるのが好ましく、65%以下または55%以下であるのがより好ましい。
【0034】
一方、通常の合金化溶融亜鉛めっき鋼板の場合、亜鉛めっき層を完全に合金化させることで、合金化亜鉛層としている。すなわち、凝固亜鉛層中のZn含有量の割合はほぼ0%である。しかし、凝固亜鉛層の割合を極端に低減すると、耐食性が劣化する。そのため、本発明においては、凝固亜鉛層中のZn含有量の割合を、亜鉛めっき層中全体のZn含有量に対して、10%以上とする必要がある。亜鉛めっき層の耐食性を保つためには凝固亜鉛層中のZn含有量の割合は20%以上であるのが好ましく、30%以上であるのがより好ましい。
【0035】
(E)酸化物層
亜鉛めっき層の表面には、Alを含む酸化物層が形成されている。Alを含む酸化物層は比較的硬質であることから、加熱時に凝固亜鉛層が液相となって流動することによって、ひび割れが生じるおそれがある。
【0036】
上述のように、凝固亜鉛層の割合を低減することにより、めっき液相の流動を抑え、ひび割れを抑制することが可能となる。それに加えて、酸化物層を軟質化することで、さらにひび割れの発生を効果的に抑制できる。そのためには、酸化物層中にZnを相対的に濃化させ、Zn/Alの値を3.0以上にすることが効果的である。また、Zn/Alの値を6.0以下にすることで、Zn系の酸化物の比率が過剰に増加するのを抑制することが可能となり、ホットスタンプ後に自動車用途等で実施される塗装時において、優れた塗装密着性が得られる。そのため、酸化物層の化学組成が、下記(i)式を満足することが好ましい。
3.0≦Zn/Al≦6.0 ・・・(i)
但し、上記式中のZnおよびAlは、それぞれ、酸化物層中に含まれるZnおよびAlの含有量(g/m2)である。
【0037】
さらに、酸化物層の平均厚さは、1.0μm以下であるのが好ましい。平均厚さを1.0μm以下とすることで酸化物の剛性が小さくなり、めっき浴の流動が発生しても細かく破砕されることにより、大きく明瞭なひび割れには至らないことから、明瞭な蜘蛛の巣状の欠陥を抑制することができる。酸化物層の平均厚さは、より好ましくは0.8μm以下であり、さらに好ましくは0.6μm以下である。
【0038】
酸化物層の平均厚さは薄ければ薄いほど望ましいため、下限を設ける必要はない。ただし、上述のように、めっき浴中にAlを含有させる場合、酸化物層の形成は避けられないため、酸化物層の平均厚さは実質的に0μm超である。
【0039】
(F)測定方法
本発明において、亜鉛めっき層の全体および各層の化学組成、厚さ等については以下の手順で測定するものとする。
【0040】
まず、めっき鋼板を10%クロム酸水溶液に浸漬して、酸化物層のみを溶解する。そして、溶解液をICP発光分光分析することにより、AlおよびZnの含有量を測定し、これを酸化物層中の含有量とする。
【0041】
次に、塩化アンモニウム150g/Lの水溶液中において、4mA/cm2で定電流電解する。この際、銀-塩化銀電極を参照電極とする。そして、-0.95V以下で溶解した溶解液について、ICP発光分光分析でZn含有量を測定し、凝固亜鉛層のZn含有量とする。
【0042】
続いて、残りのめっき層について、母材鋼板の電位である-0.5V付近で均一な電位を示すまで定電流電解を行う。そして、この間に得られた溶解液について、ICP発光分光分析でZn含有量を測定し、合金化亜鉛層のZn含有量とする。
【0043】
また、上記サンプルに隣接する位置から切り出した他のめっき鋼板について、朝日化学工業製イビット700BK等のインヒビター入りの10%塩酸水溶液によって、亜鉛めっき層を全て溶解する。得られた溶解液について、ICP発光分光分析でZn、AlおよびFeの含有量を測定し、亜鉛めっき層全体に占めるFe含有量を求める。
【0044】
さらに、隣接する他のめっき鋼板について、グロー放電発光分析法(GDS)で、表面から深さ方向にスパッタリングしながら成分分析を行い、Alの濃度プロファイルを取得する。そして、Al濃度が、表面から定量して初めて0.1質量%を下回った深さの1/2を酸化物層の厚さと定義する。測定装置は、例えば、リガク社製:GDA-750、測定条件は900V-20mA、測定径4mmφである。1つの材料から任意の10点を測定し、その平均値をその材料の測定値とする。材料表面に塗油または汚れが付着している場合は、有機溶剤などで脱脂してから測定する。
【0045】
(G)製造方法
本実施形態のホットスタンプ用めっき鋼板を製造する工程には、母材を製造する工程と、母材の表面に亜鉛めっき層を形成する工程とが含まれる。以下、各工程について、詳述する。
【0046】
[母材製造工程]
母材製造工程では、ホットスタンプ用めっき鋼板の母材を製造する。例えば、所定の化学組成を有する溶鋼を製造し、この溶鋼を用いて、鋳造法によりスラブを製造するか、または、造塊法によりインゴットを製造する。次いで、スラブまたはインゴットを熱間圧延することにより、母材(熱延板)が得られる。
【0047】
なお、上記熱延板に対して酸洗処理を行い、酸洗処理後の熱延板に対して冷間圧延を行って得られる冷延板を母材としてもよい。さらに、上記の酸洗処理後の熱延板または冷延板に焼鈍を施し、得られる熱延焼鈍板または冷延焼鈍板を母材としてもよい。
【0048】
[めっき処理工程]
めっき処理工程では、上記の母材表面に亜鉛めっき層を形成して、ホットスタンプ用めっき鋼板を製造する。亜鉛めっき層は、例えば、溶融めっき処理を行うことにより形成することができる。
【0049】
例えば、溶融めっき処理による亜鉛めっき層の形成例は、以下のとおりである。すなわち、母材を、Zn、Alおよび不純物からなる溶融亜鉛めっき浴に浸漬し、母材表面に亜鉛めっき層を付着させる。溶融亜鉛めっき浴の化学組成は、Znが主体である。具体的には、Zn含有量が90質量%以上である。また、Al含有量は0.05~1.00%であるのが好ましく、0.10~0.50%であるのがより好ましく、0.12~0.30%であるのがさらに好ましい。その他に、Mg、Pb、Si等が含まれていてもよいが、これらの合計含有量は10質量%以下であることが好ましい。
【0050】
次いで、亜鉛めっき層が付着した母材をめっき浴から引き上げる。鋼板をめっき浴から引き上げた後、ガスをめっき鋼板の表面に吹き付けるガスワイピングにより、亜鉛めっき層の厚さを制御する。
【0051】
この際、ガスの吹き付けにより、亜鉛めっき層の表面には新生面が現れ、その瞬間からめっき表面での酸化が始まり、新たに酸化物層が形成される。ガスワイピング後には、後述する合金化熱処理が行われるが、ガスワイピングから合金化熱処理までの冷却および加熱の条件を最適化することが、めっき表面の酸化物層の制御、ひいては、後のホットスタンプ後の蜘蛛の巣状模様の抑制に有効であることを見出した。より具体的には、ワイピング時のガスの温度および流量を最適化することにより、めっき浴から引き上げてから合金化熱処理を行うまでの間に、めっきを凝固させないことが重要であることを見出した。
【0052】
通常、溶融亜鉛めっき浴の温度は450~470℃が一般的である。鋼板をめっきした直後のめっき層は、ほぼめっき浴温と同じで溶融状態である。その後、徐々に冷却され、特に吹き付けるガスの温度が低く、さらに流量が多いとめっきの温度は急激に下がる。亜鉛めっきの凝固温度は約419℃であるため、めっき皮膜がそれ以下になると急激にめっきが凝固する。
【0053】
亜鉛めっき層の表面に形成する酸化物層は、めっきが溶融状態では比較的軟質であるのに対し、めっきが凝固するとその表面の酸化物層は非常に強固になりZn/Al濃度も小さくなってしまい、後のホットスタンプ時に蜘蛛の巣状模様が発生しやすいことが明らかとなった。
【0054】
そのため、めっき浴から引き上げてから合金化熱処理を行うまでの間に、亜鉛めっき層の表面温度が419℃以下に低下しないよう、ワイピング時のガスの温度および流量を適宜調整する。
【0055】
また、ガスワイピング後のめっき表面での酸化物層は刻一刻と成長してしまうため、ガスワイピングから合金化熱処理において最高温度に達するまでの時間が30sを超えると酸化物層が強固に形成するため、その間の時間は30s以下とするのが望ましく、20s以下とするのがより望ましく、15s以下とするのがさらに望ましい。
【0056】
なお、ガスワイピングには空気または窒素などが用いられることが多いが、酸化抑制の観点から、極力酸素濃度を下げたガスを吹き付けることが望ましい。よって、ガスワイピングで用いるガスには、空気を用いた場合にもその後の加熱までのヒートパターンにより酸化を最小限にできる場合もあるが、酸素分圧が望ましくは15%以下、より望ましくは10%以下に制御した窒素分圧の高い空気、または窒素ガスなどを用いることが有効である。
【0057】
その後、合金化亜鉛層を形成するための合金化熱処理を行う。合金化熱処理の条件については特に制限はなく、加熱温度を440~600℃または460~550℃とするのが望ましく、加熱時間は加熱温度に応じて調節し1~30s、1~15s、1~10sまたは1~5sとするのが望ましい。
【0058】
以下、実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0059】
厚さ1.0mmであり、質量%で、C:0.21%、Si:0.2%、Mn:2.0%、P:0.01%、S:0.007%、Cr:0.2%、Ti:0.02%、B:0.003%、残部Feおよび不純物である化学組成を有する冷延鋼板に対して、連続溶融亜鉛めっきラインにより焼鈍を施し、続けて、表1に示す条件でめっきを施した。そして、その後に表1に示す条件で合金化熱処理を行うことで、めっき鋼板とした。
【0060】
なお、鋼板をめっき浴から引き上げた後は、めっき層の凝固が生じないよう、ガスワイピング条件の適正化を図った。表1のガスワイピング条件においては、めっき層の凝固が生じなかった場合を○、凝固が生じた場合を×とした。また、全ての例において、ガスワイピングから合金加熱処理時の最高温度に達するまでの時間を10sとし、ガスワイピング時のガス中の酸素濃度は15%で残部窒素とした。そして、めっき浴組成はAl濃度:0.13質量%、残部:Znであり、めっき浴温度は460℃とした。
【0061】
【0062】
得られためっき鋼板の亜鉛めっき層の化学組成の測定を上述の方法により行った。さらに、酸化物層の厚さをGDSにより測定した。これらの測定結果を表1に併せて示す。なお、表1に示されるように、試験No.1では、凝固亜鉛層の割合が98%であり、合金化されていない一般的な溶融亜鉛めっき鋼板に相当する。また、試験No.32~35では、完全に合金化されて凝固亜鉛層の割合が0%となっており、一般的な合金化溶融亜鉛めっき鋼板に相当する。
【0063】
その後、各試験例のめっき鋼板について、100mm角のサイズに切り出した後、大気雰囲気の電気炉を900℃に加熱しその中で3分間加熱後取り出し、速やかに水冷配管を内蔵した平板プレスに挟んで急冷してホットスタンプ高強度材を得た。その材料の表面を観察し、蜘蛛の巣状の欠陥が無いかどうか評価した。評価基準は、蜘蛛の巣状の欠陥が材料表面に非常にくっきり見えている場合をF、薄く見えているが化成電着後も見える場合をC、わずかに見えるが化成電着後は見えない場合をB、化成電着する前の状態でも見えない場合をAとした。
【0064】
また、耐食性は、温塩水浸漬による塗膜密着性試験で評価した。ホットスタンプ加熱後の供試材に日本パーカライジング株式会社製PBL-3080で通常の化成処理条件により燐酸亜鉛処理を行った後、関西ペイント製電着塗料GT-10を電圧200Vのスロープ通電で電着塗装し、焼き付け温度150℃で20分焼き付け塗装した。塗膜厚みは20μmであった。そのサンプルを50℃の5%NaCl水溶液中に500時間浸積した後、塗装にテープ剥離試験を行い、5%以上の剥離が発生した場合をF、1%以上5%未満の剥離が発生した場合をB、1%未満の場合をAとした。
【0065】
以上の評価結果を表1に併せて示す。表1の結果から分かるように、本発明の規定を満足する場合には、蜘蛛の巣状の欠陥を抑制でき、さらに耐食性にも優れることが分かる。特に、酸化物層中のZn/Alの値が3.0~6.0である例については、蜘蛛の巣状の欠陥がほぼまたは完全に生じなかった。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明によれば、Al含有Znめっきを用いた場合において、蜘蛛の巣状の表面欠陥を抑制することが可能なホットスタンプ用めっき鋼板を得ることができる。