(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-18
(45)【発行日】2023-04-26
(54)【発明の名称】ロールイン用油脂組成物
(51)【国際特許分類】
A23D 7/00 20060101AFI20230419BHJP
A21D 2/16 20060101ALI20230419BHJP
A21D 13/16 20170101ALI20230419BHJP
【FI】
A23D7/00 506
A21D2/16
A21D13/16
(21)【出願番号】P 2022033050
(22)【出願日】2022-03-04
【審査請求日】2022-10-28
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】315015162
【氏名又は名称】不二製油株式会社
(72)【発明者】
【氏名】唐谷 直宏
(72)【発明者】
【氏名】中野 幹生
(72)【発明者】
【氏名】円谷 恭子
(72)【発明者】
【氏名】林 貴広
【審査官】吉岡 沙織
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-169476(JP,A)
【文献】特開昭59-011141(JP,A)
【文献】特開2017-093365(JP,A)
【文献】特開2006-025671(JP,A)
【文献】特開2018-166414(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23D
A21D
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロールイン用油脂組成物の油相が油脂混合物Cと油脂Aからなり、該油脂Aを油相中に5~26質量%含み、該油脂Aが以下1~3の要件を満たし、該油脂混合物Cが以下4~9の要件を満たす事を特徴とする、該ロールイン用油脂組成物を焼成用穀粉生地に折り込んだ後焼成する、焼成層状穀粉食品における、浮き改善方法。
1 パルミチン酸含量が20~40重量%及びステアリン酸含量が1~20重量%。
2 ステアリン酸/パルミチン酸の重量比率が0.025~0.5。
3 10℃のSFCが50%以下。
4 10℃のSFCが49~72%。
5 15℃のSFCが39~61%。
6 20℃のSFCが29~49%。
7 25℃のSFCが20~35%。
8 30℃のSFCが13~24%。
9 35℃のSFCが7~14.5%。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロールイン用油脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ロールイン用油脂組成物を使用して調製されるパイやデニッシュにおいては、良好な「浮き」が求められる場合が多い。
特許文献1は、冷凍生地用ロールインマーガリンに関する出願であり、層状膨化食品の浮きも良好である旨が記載されている。
特許文献2は、「ヒキがあり歯切れの良い食感の層状膨化小麦粉食品用ロールイン油中水型乳化組成物」に関する出願である。
特許文献3は所定のエステル交換油脂を45~95質量%配合するロールイン用油脂組成物に関する出願である。
特許文献4はロールイン用乳化油脂組成物に関する出願であり、所定のエステル交換油脂を使用する旨も開示されている。
特許文献5には所定のエステル交換油脂および、該エステル交換油脂を配合したロールイン用油脂組成物が開示されている。
特許文献6には、所定のエステル交換油を含む可塑性油脂組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開WO2017/082113号パンフレット
【文献】特開2018-166414号公報
【文献】国際公開WO2019/054082号パンフレット
【文献】特開2016-21941号公報
【文献】国際公開WO2017/009887号パンフレット
【文献】国際公開WO2014/050488号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、折り込み適性があるなめらかな物性でありながら、デニッシュ等の浮きが良好なロールイン用油脂組成物を提供することを課題とする。更に、該ロールイン用油脂組成物の配合を容易に構成できることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、課題の解決に向け鋭意検討を行った。特許文献1は冷凍生地用という、限定された用途における発明であり、かつ、発明特定事項が多く、ロールインマーガリンの配合を構築するのが煩雑であった。
特許文献2は、歯切れや食感を実現するために、水相に増粘剤を添加する必要が有り、かつ、油脂も所定のものを選択する必要があるため、配合を構築するのが煩雑であった。
特許文献3は、所定のエステル交換油脂を最低でも45質量%配合する必要が有り、配合を構築する上で制約の大きいものであった。
特許文献4において開示されているエステル交換油脂は、SSS含有量が4~20質量%であり、本発明とは相違するものであった。
特許文献5において開示されているエステル交換油脂はラウリン酸を5~25質量%含むものであり、本発明とは相違するものであった。
特許文献6において開示されているエステル交換油は、炭素数14以下の脂肪酸を20~65質量%含むものであり、本発明とは相違するものであった。
【0006】
本発明者は更に鋭意検討を行ったところ、所定の油脂を油相中に5~26質量%配合するロールイン用油脂組成物であって、該油脂のパルミチン酸及びステアリン酸の含有量が所定の範囲であり、該油脂以外の油脂におけるSFCが所定の範囲であることで、良好な折り込み適性を示し、デニッシュ等の浮きが改善する事を見いだし、本発明を完成させた。
【0007】
すなわち本発明は、
(1)油相が油脂混合物Cと油脂Aからなるロールイン用油脂組成物であって、該油脂Aを油相中に5~26質量%含み、該油脂Aが以下1~3の要件を満たし、該油脂混合物Cが以下4~9の要件を満たす事を特徴とする、ロールイン用油脂組成物、
1 パルミチン酸含量が20~40重量%及びステアリン酸含量が1~20重量%、
2 ステアリン酸/パルミチン酸の重量比率が0.025~0.5、
3 10℃のSFCが50%以下、
4 10℃のSFCが49~72%、
5 15℃のSFCが39~61%、
6 20℃のSFCが29~49%、
7 25℃のSFCが20~35%、
8 30℃のSFCが13~24%、
9 35℃のSFCが7~14.5%、
(2)油相が油脂混合物Cと油脂Aからなるロールイン用油脂組成物であって、該油脂Aを油相中に5~26質量%含み、該油脂Aが以下1~3の要件を満たし、該油脂混合物Cが以下4~9の要件を満たす事を特徴とする、ロールイン用油脂組成物の製造法、
1 パルミチン酸含量が20~40重量%及びステアリン酸含量が1~20重量%、
2 ステアリン酸/パルミチン酸の重量比率が0.025~0.5、
3 10℃のSFCが50%以下、
4 10℃のSFCが49~72%、
5 15℃のSFCが39~61%、
6 20℃のSFCが29~49%、
7 25℃のSFCが20~35%、
8 30℃のSFCが13~24%、
9 35℃のSFCが7~14.5%、
(3)ロールイン用油脂組成物の油相が油脂混合物Cと油脂Aからなり、該油脂Aを油相中に5~26質量%含み、該油脂Aが以下1~3の要件を満たし、該油脂混合物Cが以下4~9の要件を満たす事を特徴とする、該ロールイン用油脂組成物を焼成用穀粉生地に折り込んだ後焼成する、焼成層状穀粉食品における、浮き改善方法、
1 パルミチン酸含量が20~40重量%及びステアリン酸含量が1~20重量%、
2 ステアリン酸/パルミチン酸の重量比率が0.025~0.5、
3 10℃のSFCが50%以下、
4 10℃のSFCが49~72%、
5 15℃のSFCが39~61%、
6 20℃のSFCが29~49%、
7 25℃のSFCが20~35%、
8 30℃のSFCが13~24%、
9 35℃のSFCが7~14.5%、
に関するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、折り込み適性があるなめらかな物性でありながら、デニッシュ等の浮きが良好なロールイン用油脂組成物を提供することができる。また、このような配合を容易に構成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、ロールイン用油脂組成物に関するものである。ここでロールイン用とは、主に小麦粉を用いた生地に折り込んで使用する油脂組成物であり、焼成によって、層状の構造が得られるものである。
このような用途に用いる生地を、本発明では焼成用穀粉生地と呼ぶことがあり、該焼成用穀粉生地を焼成したものを焼成層状穀粉食品と呼ぶことがある。
なお、本発明に係るロールイン用油脂組成物は、油中水型に乳化した可塑性油脂組成物であり、代表的には、マーガリンやファットスプレッドをあげることができる。
【0010】
本発明に係るロールイン用油脂組成物の油相は、油脂Aと、油脂A以外の油脂の混合物からなる。ここで、油脂A以外の油脂の混合物を本発明では便宜的に油脂混合物Cと呼ぶ。
【0011】
本発明に係るロールイン用油脂組成物においては、その配合中に油脂Aを油相中に5~26質量%含む事が特徴である。この量は、より望ましくは10~26質量%であり、更に望ましくは12~15質量%である。この量が適当であれば、折り込み適性があるなめらかな物性でありながら、デニッシュ等の浮きが良好なロールイン用油脂組成物を得ることができる。
なお、本発明において油相とは、該ロールイン用油脂組成物を構成する油脂原料の混合物である。同様に水相とは、該ロールイン用油脂組成物を構成する原材料のうち、水および水に溶解する原料の混合物である。
【0012】
また、「油脂A」における「A」とは、便宜的に付されたものである。なお、油脂Aには複数の種類が存在するので、それらについては、油脂A-1等と表記する。また、略記して「油脂A」、「油脂A-1」や「A-1」等と表記する事もある。
比較例の検討においては、油脂Aの比較であることを明確にするために、「油脂A’」等と表記することがある。略記する場合も同様である。
【0013】
本発明に係る油脂Aは以下の要件1~3を全て満たす必要がある。
1 パルミチン酸含量が20~40重量%及びステアリン酸含量が1~20重量%。
パルミチン酸の含有量はより望ましくは25~37質量%であり、更に望ましくは27~35質量%である。またステアリン酸の含有量は、より望ましくは2~10質量%であり、更に望ましくは2.5~7質量%である。これらの量が適当であることで、折り込み適性があるなめらかな物性でありながら、デニッシュ等の浮きが良好なロールイン用油脂組成物を得ることができる。
【0014】
2 ステアリン酸/パルミチン酸の重量比率が0.025~0.5。
この値は、より望ましくは0.05~0.4であり、更に望ましくは0.07~0.3である。この値が適当であることで、折り込み適性があるなめらかな物性でありながら、デニッシュ等の浮きが良好なロールイン用油脂組成物を得ることができる。
【0015】
3 10℃のSFCが50%以下。
この値は、より望ましくは4~35%であり、更に望ましくは6~20%である。この値が適当であることで、折り込み適性があるなめらかな物性でありながら、デニッシュ等の浮きが良好なロールイン用油脂組成物を得ることができる。
【0016】
油脂混合物Cは、単に「油脂C」と記載することがある。又、種類を示す為「油脂C-1」等の他、単に「C-1」等と記載することがある。
油脂混合物Cは、原則的には、従来知られているロールイン用油脂組成物の油相から選択できる。即ち本発明は、従来知られている油脂組成に対して、油脂Aを配合する事により、デニッシュ等の浮きの改善を図るものである。このように,従来の配合を活用できるので、配合を容易に構成することができるのである。
【0017】
本発明においては、油脂混合物Cを、各温度におけるSFCにより特定する。そのSFCは以下の通りである。
10℃のSFCが49~72%。
15℃のSFCが39~61%。
20℃のSFCが29~49%。
25℃のSFCが20~35%。
30℃のSFCが13~24%。
35℃のSFCが7~14.5%。
【0018】
10℃のSFCはより望ましくは52~65%であり、更に望ましくは55~60%である。15℃のSFCはより望ましくは42~55%であり、更に望ましくは45~50%である。20℃のSFCはより望ましくは32~45%であり、更に望ましくは33~38%である。25℃のSFCはより望ましくは21~31%であり、更に望ましくは22~28%である。30℃のSFCはより望ましくは14~20%であり、更に望ましくは14~18%である。35℃のSFCはより望ましくは7.5~12%であり、更に望ましくは8~10%である。
油脂混合物CのSFCが適当であることで、折り込み適性があるなめらかな物性でありながら、デニッシュ等の浮きが良好なロールイン用油脂組成物を得ることができる。
【0019】
SFCの測定は、以下により行った。
○SFCの測定法
1.油脂サンプルを80℃にて融解した。
2.油脂2.7~3.3gを長さ180mm、直径10mmの測定用試験管に分注した。
3.0℃の水槽中で60分間保持した。
4.20℃及び40℃の水槽中で30分間保持した。
5.BRUKER社製SFC測定装置 「minispec pc120 SFC測定装置」にて、測定した。
【0020】
次に、油脂Aの調製法を説明する。
油脂Aを調製する方法はいくつか存在する。まず、エステル交換により調製する方法を説明する。
エステル交換油である油脂Aを調製する上での原料油脂は、各種の油脂を使用することができる。具体的には、大豆油、菜種油、米油、魚油、綿実油、コーン油、カカオ脂、パーム油を初めとする油脂の1以上、および、これらの油脂から選択される1以上を分別、硬化、エステル交換から選ばれる1以上の処理により得られる油脂を使用できる。
【0021】
原料油脂を準備する場合、原料油脂の段階で油脂Aに求められる所定脂肪酸の量等の要件を満たす様に調整することも可能であるし、エステル交換を行った後に分別を行う事で、油脂Aに求められる全ての要件を満たす様に調製することもできる。
本発明においては、原料油脂をエステル交換反応後に分別することにより、油脂Aに求められる要件を充足するように調製することが、製造の効率の点で望ましい。
【0022】
本発明に係る油脂Aのエステル交換反応は、化学触媒を用いる方法でも、また酵素を用いる方法でも採用することができ、製造効率の観点からは、化学触媒を用いる方法がより望ましい。なお、本発明でいうエステル交換反応は、ランダムエステル交換反応を指す。
【0023】
本発明に係る油脂Aは、硬化と分別を組み合わせる事によっても得ることができる。具体的には、実施例にもあるような、異性化硬化と溶剤分別の組み合わせを例示することができる。
ただし、調製においては、エステル交換を採用する方が、効率の点では望ましい。
なお、いずれの方法を採用する場合であっても、油脂Aは配合中にラウリン脂を含まないことが望ましい。ラウリン脂を含まずに、油脂Aに求められる規定を満たす油脂とすることで、所定の機能を発揮することができる。
【0024】
本発明は又、折り込み適性があるなめらかな物性でありながら、デニッシュ等の浮きが良好なロールイン用油脂組成物の調製法ととらえることもできる。具体的には、ロールイン用油脂組成物の配合の油相が油脂Aと油脂混合物Cからなり、油脂Aを油相中に5~26質量%含み、油脂Aが以下1~3の要件を満たし、油脂混合物Cが以下4~9の要件を満たす事を特徴とする製造法である。
1 パルミチン酸含量が20~40重量%及びステアリン酸含量が1~20重量%。
2 ステアリン酸/パルミチン酸の重量比率が0.025~0.5。
3 10℃のSFCが50%以下。
4 10℃のSFCが49~72%。
5 15℃のSFCが39~61%。
6 20℃のSFCが29~49%。
7 25℃のSFCが20~35%。
8 30℃のSFCが13~24%。
9 35℃のSFCが7~14.5%。
【0025】
配合面以外の条件としては、たとえば製造装置は一般的なロールイン用油脂組成物に使用される、掻き取り式熱交換機を使用することができ、製造条件も、一般的なロールイン用油脂組成物の製造条件と同様である。
【0026】
本発明は更に、焼成層状穀粉食品における、浮き改善方法に係る発明ととらえることもできる。具体的には、本発明に係るロールイン用油脂組成物を、焼成用穀粉生地に折り込んだ後焼成する事を特徴とするものである。
以下、実施例により、より詳細に発明の実施態様を説明する。
【実施例】
【0027】
検討1 油脂Aの調製 その1
パーム油分別高融点部(ヨウ素価40.0)74重量%とStOSt脂分別低融点部18重量%、StOSt脂分別高融点部8重量%からなる配合油を、ナトリウムメチラートによりランダムエステル交換を行いエステル交換油脂1を得た。このエステル交換油脂1をアセトン分別により、高融点部と中融点部を除去し、本発明に係る油脂Aとした。ここで得られたエステル交換油脂を、以下「油脂A-1」と称した。
StOSt脂分別低融点部およびStOSt脂分別高融点部は、カカオバター代用脂としてのStOSt脂を生産する過程で生成した副生物であり、具体的には、ハイオレイックひまわり油30重量%とステアリン酸70重量%を、市販1,3特異性リパーゼによりエステル交換を行って得た油脂を、ヘキサンにより分別して低融点部及び高融点部として得られたものである。StOSt脂分別高融点部のステアリン酸量は、80重量%。ジグリセリドは、23重量%であった。StOSt脂分別低融点部のステアリン酸量は29.0重量%、ジグリセリドは2.5重量%であった。
油脂A-1の分析値は表1-1の通りであった。なお、脂肪酸は日本油化学協会基準油脂分析試験法(1996年版)2.4.1.2メチルエステル化法(三フッ化ホウ素メタノール法に規定の方法に準じて測定した。)により測定した。
なお、配合はラウリン脂を含まないものであった。
【0028】
【0029】
検討2 油脂Aの調製 その2
1 原料油脂として、スーパーパームオレイン(ヨウ素価 67)を準備した。
2 ニッケル触媒(ニッケル含量21%)2.1g、DLーメチオニン 0.05gを該原料油脂20gへ添加し、70℃で10分間攪拌した後、該原料油脂680gを混合した。
3 2の油脂を硬化用オートクレーブに注入し、水素圧1Kg/cm2、温度180~200℃で5時間硬化した。
4 3の油脂をヘキサンにて分別し、低融点成分として融点25℃、ヨウ素価68の油脂を得、油脂A-2とした。
なお、配合はラウリン脂を含まないものであった。
【0030】
【0031】
検討3 油脂Aの調製 その3
パーム油二段分別低融点部(ヨウ素価67.0)を、ナトリウムメチラートによりランダムエステル交換を行い油脂A-3を得た。なお、配合はラウリン脂を含まないものであった。
【0032】
【0033】
検討4 ロールイン用油脂組成物の調製
油脂A-1、A-2,A-3及び、比較する油脂を用い、表4-1の配合に従い、ロールイン用油脂組成物を調製した。
ロールイン用油脂組成物の調製法は、「○ロールイン用油脂組成物の調製法」に従った。
得られたロールイン用油脂組成物を用いてデニッシュを調製した。この際、折り込み適正や、デニッシュの浮きを評価した。デニッシュの調製法は「○デニッシュの調製法」に従った。また、折り込み適正や浮きの評価は、「○折り込み適正評価及び浮きの評価法」に従った。
結果を表4-4に示した。
【0034】
表4-1 ロールイン用油脂組成物の配合
・油脂A’-1は菜種油であった。
・油脂A’-2はパーム核オレインとヒマワリ油のエステル交換油脂(融点18.5℃)であった。
・油脂A’-3は不二製油社製の「精製シアオレイン」(融点20℃)であった。
・油脂A’-4は不二製油株式会社製「パームオレイン」であった。
・油脂A’-5は不二製油株式会社製「パーム核オレイン」(融点20℃)であった。
・油脂A’-6はパーム油とパーム核油のエステル交換油(融点32℃)であった。
・油脂A’-7はコーン油とSOS脂を主体とするエステル交換油(融点17℃)であった。
・乳化剤1には理研ビタミン株式会社製グリセリン脂肪酸エステルである「エマルジーP100」を使用した。
・乳化剤2には辻製油株式会社社製レシチンである「SLP-ペースト」を使用した。
・各油脂混合物CのSFCは表4-2の通りであった。
【0035】
【0036】
○ロールイン用油脂組成物の調製法
1 配合に従い、水相に分類される原材料を混合して水相を調製した。また、油脂A又は油脂A’、及び油脂混合物Cは60~70℃に昇温して融解、混合して油相を調製した。更に、乳化剤を溶解した。
2 油相を攪拌し、そこへ水相を添加することで、調合液とした。
3 調合液を、常法によりコンビネーターへ供し、シート状マーガリンを調製した。
【0037】
○デニッシュの調製法
配合は、「表4-3 デニッシュの配合」に従った。
調製の操作は「表4-4 ○工程条件」に従った。なお、折込油脂として検討4で調製したロールイン用油脂をそれぞれ対粉60質量%使用した。
【0038】
○折り込み適正評価及び浮きの評価法
折り込み適正は、熟練した折り込み作業者が「成形時生地質感」と「生地の縮み」について、以下の基準で評価を行った。
成型時生地質感
◎:油脂が生地同等に伸びる、生地の隅々まで油脂が行き渡る、べたつきがない、粘性がない、コシ(適度な弾性)がある。
○:油脂が生地同等に伸びにくい、生地の隅々までは油脂が行き渡らない、少しべたつく、若干粘性がある、コシ(適度な弾性)があるが少し柔らかい。
×:油脂が生地と同等に伸びない、割れあり、べたつく、粘性がある、コシ(弾性)がなく柔らかい。
生地の縮み
◎:10cm×10cm正方形カット後55g±3g以内、生地カット後のサイズ1辺-0.2cm以内。
○:10cm×10cm正方形カット後55g±6g以内、生地カット後のサイズ1辺-0.4cm以内。
×:10cm×10cm正方形カット後55g±6g以上、生地カット後のサイズ1辺-0.4cm以上。
両評価において、×の無いものを合格と判断した。
【0039】
浮きの評価は、「○デニッシュの調製法」で調製したデニッシュを対角線に切断し、ノギスで最も高い所を測定した。各評価区で各々3つ測定し、その平均を求めた。
36mm以上を合格と判断した。
折り込み適正評価及び浮きの評価のいずれも合格したものを、総合評価合格と判断した。
【0040】
表4-3 デニッシュの配合
・練り込み油脂には、不二製油株式会社製「メサージュV」を使用した。
【0041】
【0042】
【0043】
考察
本発明に係るロールイン用油脂組成物は折り込み適性があるなめらかな物性でありながら、折り込んだデニッシュが良好な浮きを示す事が確認された。
なお、本発明に係るロールイン用油脂組成物の配合は、コントロールの配合に対して、所定の油脂を追加配合するだけで容易に構築することができるものであった。
【要約】
【課題】
本発明は、折り込み適性があるなめらかな物性でありながら、デニッシュ等の浮きが良好なロールイン用油脂組成物を提供することを課題とする。更に、該ロールイン用油脂組成物の配合を容易に構成できることを課題とする。
【解決手段】
所定の油脂を油相中に5~26質量%配合するロールイン用油脂組成物であって、該油脂のパルミチン酸及びステアリン酸の含有量が所定の範囲であり、該油脂以外の油脂におけるSFCが所定の範囲であることで、良好な折り込み適性を示し、デニッシュ等の浮きが改善する事を見いだし、本発明を完成させた。
【選択図】なし