(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-18
(45)【発行日】2023-04-26
(54)【発明の名称】吸収部材
(51)【国際特許分類】
A61F 13/42 20060101AFI20230419BHJP
G01N 27/00 20060101ALI20230419BHJP
【FI】
A61F13/42 F
G01N27/00 H
(21)【出願番号】P 2018056166
(22)【出願日】2018-03-23
【審査請求日】2021-03-17
(73)【特許権者】
【識別番号】593006630
【氏名又は名称】学校法人立命館
(74)【代理人】
【識別番号】100111567
【氏名又は名称】坂本 寛
(72)【発明者】
【氏名】道関 隆国
(72)【発明者】
【氏名】田中 亜実
【審査官】津田 健嗣
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-524771(JP,A)
【文献】特開2005-52564(JP,A)
【文献】特表2014-527623(JP,A)
【文献】"尿発電電池"を用いた尿失禁センサでおむつの交換時期がわかる - 立命館大,日本,マイナビニュース,2016年12月14日,https://news.mynavi.jp/techplus/article/20161214-ritsumei/
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 13/15-13/84
G01N 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
使い捨ておむつ用の吸収体と、
前記吸収体に吸収された液体に接することで電流を発生させる電極と、
前記電極における液体との非接触範囲の大きさに応じて変化する寄生抵抗の大きさに応じた信号を出力する検出装置と、
を備え
る吸収部材であって、
前記吸収体は、前記吸収体が人体に装着されたときに人体正面側に位置する前端と人体背面側に位置する後端とを有し、
前記吸収体は、前記吸収体の前後方向への排泄液の拡散を促進する構造を備え、
前記電極は、前記吸収体の前後方向に沿った長手方向を有して、長手方向一端は、前記吸収体の前記後端付近に位置し、電流の出力端であり、
前記検出装置は、前記吸収部材が人体に装着されたときに人体正面側に位置する正面範囲に配置され、
前記電極を前記検出装置に電気的に接続するために、前記出力端から出力された電流を、前記吸収部材が人体に装着されたときに人体正面側に位置する正面範囲へ導くための配線をさらに備え、
前記吸収体は、前記吸収部材が装着者に装着されたときにおける前記装着者側の面及びその反対の面を備え、
前記配線は、前記吸収体の前記反対の面側に設けられた非液透過性シートの前記吸収体側の面の反対面に配置されている吸収部材。
【請求項2】
前記配線は、シート状の導電体により形成されている
請求項1に記載の吸収部材。
【請求項3】
前記検出装置は、前記電極からの電流によってチャージされるキャパシタを備え、
前記信号は、前記寄生抵抗と前記キャパシタとによって構成されるRC回路の時定数に応じた信号である前記電極は、前記吸収体における液体の広がり方向に沿った長手方向を有する
請求項1に記載の吸収部材。
【請求項4】
前記信号は、前記キャパシタが、前記電極からの電流によってチャージされて所定の電位に達するまでの時間を示す信号である
請求項
3に記載の吸収部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、吸収部材に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、電極が吸収体に排泄された尿と接触することによって起電力を発生させることを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【0004】
本発明者らは、吸収部材における液体の吸収状態の把握には、電極における液体との非接触範囲の大きさを検出することが有効であることを見出した。
【0005】
電極における液体との非接触範囲の大きさによって、電極の寄生抵抗の大きさが変化する。したがって、寄生抵抗の大きさの検出によって、非接触範囲の大きさを把握することができる。更なる詳細は、後述の実施形態として説明される。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図8】
図8は、尿の注入総量と拡散範囲の長さとの関係を示すグラフである。
【
図10】
図10は、蓄電時間とキャパシタ電位との関係を示す図である。
【
図11】
図11は、発電部とキャパシタCとによって構成されるRC回路を示す図である。
【
図12】
図12は、尿の注入総量と蓄電時間との関係を示す図である。
【
図14】
図14は、蓄電時間とキャパシタ電位を示す図である。
【
図16】
図16は、蓄電時間とキャパシタ電位を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
<1.吸収部材の概要>
【0008】
(1)実施形態に係る吸収部材は、例えば、人体に装着される。人体に装着される吸収部材は、例えば、おむつである。おむつは、使い捨ておむつであるのが好ましい。おむつは、成人用であってもよいし、乳幼児用であってもよい。
【0009】
吸収部材は、吸収体を備えることができる。吸収体は、液体を吸収する。多くの液体を吸収できるように、吸収体は、高吸収性ポリマーを含有するのが好ましいが、高吸収性ポリマーを含有していなくてもよい。吸収体は、単一の部材として構成されていてもよいし、複数の部材の組み合わせによって構成された構造体であってもよい。
【0010】
吸収部材は、電極を備えることができる。電極は、吸収体に吸収された液体に接することで電流を発生させる。すなわち、電極は、液体により活性化するバッテリー(発電部)を構成する。電極は、正極と負極とを含む。電極は、吸収体に接するように配置されるのが好ましい。この場合、吸収体が液体を吸収すると、電極間に電流が発生する。電極は、前記吸収体の外表面に接するように配置されていてもよいし、前記吸収体に接するように前記吸収体の内部に配置されていてもよい。
【0011】
吸収部材は、検出装置を備える。検出装置は、前記電極における液体との非接触範囲の大きさに応じて変化する寄生抵抗の大きさに応じた信号を出力する。寄生抵抗の大きさに応じた信号によって、非接触範囲の大きさの把握が可能となる。ここで、寄生抵抗は、液体との非接触範囲における電極の抵抗である。寄生抵抗は、液体により活性化するバッテリーの内部抵抗になる。
【0012】
非接触範囲は、電極における液体との接触範囲以外の範囲である。非接触範囲が大きければ、接触範囲は小さくなる。一方、非接触範囲が小さければ、接触範囲は大きくなる。電極における液体との非接触範囲の大きさは、吸収体における液体の広がり余力に対応させることができるため、吸収体による吸収能力の余力の把握に有利である。
【0013】
寄生抵抗は、電極における電流の出力端から、電極における液体との接触範囲までの距離に応じて変化する。非接触範囲が大きいほど、寄生抵抗が大きくなり、非接触範囲が小さいほど、寄生抵抗が小さくなる。なお、電極は、非接触範囲の大きさに応じて抵抗が十分に大きく変化する程度に、大きな抵抗値を持つものが好ましい。したがって、電極は、抵抗値の小さい導電体よりも、抵抗値の大きい材料からなるものが好ましい。抵抗値の大きい電極は、例えば、カーボン電極である。
【0014】
(2)前記検出装置は、前記電極からの電流によってチャージされるキャパシタを備えることができる。前記信号は、前記寄生抵抗と前記キャパシタとによって構成されるRC回路の時定数に応じた信号であるのが好ましい。RC回路は、遅延回路である。時定数は、寄生抵抗の値をRとし、キャパシタの容量をCとした場合に、R×Cで表される。Cが一定である場合、時定数は、Rに応じて変化する。したがって、時定数は、寄生抵抗の大きさに応じて変化する。すなわち、寄生抵抗が大きいほど、時定数が大きくなる。時定数が大きいほど、遅延が大きくなる。
【0015】
(3)前記信号は、前記キャパシタが、前記電極からの電流によってチャージされて所定の電位に達するまでの時間を示す信号であってもよい。時定数が大きいほど遅延が大きくなるため、所定の電位に達するまでの時間が長くなる。つまり、所定の電位に達するまでの時間は、寄生抵抗の大きさに応じて変化する。
【0016】
(4)前記電極は、前記吸収体における液体の広がり方向に沿った長手方向を有するのが好ましい。この場合、非接触範囲の大きさが、液体の広がり状況を示しやすくなる。なお、液体の広がりが、例えば、平面的な広がりである場合、電極の長手方向は、その平面内におけるいずれの方向であってもよい。
【0017】
(5)前記吸収体は、使い捨ておむつ用の吸収体であるのが好ましい。おむつ用の吸収体は、前記吸収部材が人体に装着されたときに人体正面側に位置する前端と人体背面側に位置する後端とを有する。前記電極は、前記吸収体の前後方向に沿った長手方向を有することができる。おむつの場合、尿などの液体は、主に、吸収体の前後方向に沿って広がるため、電極も、吸収体の前後方向に沿った長手方向を有するのが好ましい。
【0018】
(6)前記電極の長手方向一端は、前記吸収体の前記後端付近に位置することができる。前記電極の長手方向一端は、電流の出力端であるのが好ましい。おむつにおいては、尿などの液体は、主に、吸収体の後端に向かって広がる。したがって、電極の電流出力端を、吸収体の後端付近に設定することで、吸収体の後端までの液体の広がり状況を把握することができる。
【0019】
(7)実施形態の吸収部材は、前記出力端から出力された電流を、前記吸収部材が人体に装着されたときに人体正面側に位置する正面範囲へ導くための配線をさらに備えることができる。この場合、検出装置の配置の自由度が高まる。
【0020】
(8)前記検出装置は、前記正面範囲に配置され、前記配線を介して前記電極に接続されている。この場合、検出装置を、人体の正面側に位置させることができる。
【0021】
(9)前記吸収体は、前記吸収体の前後方向への排泄液の拡散を促進する構造を備えることができる。前後方向への排泄液の拡散を促進する構造は、例えば、吸収体に形成された溝である。かかる構造を備えることで、排泄液の前後方向への拡散が促進される。
【0022】
<2.吸収部材の例>
【0023】
図1~
図4は、吸収部材10の一例として、装着者に装着される使い捨ておむつを示している。
図1~
図4に示す吸収部材10は、吸収部材本体20と検出装置90とを備えている。
【0024】
<2.1 吸収部材本体>
【0025】
実施形態の吸収部材本体20は、おむつとしての基本構成を備える。吸収部材本体20は、表面シート30、裏面シート40、及び吸収体50を備える。さらに、実施形態の吸収部材本体20は、尿などの排泄物を検出するため電極61,62を備える。
【0026】
図2及び
図4に示すように、吸収部材本体20は、展開状態における平面視において、ほぼ矩形状である。吸収部材本体20は、装着者に装着されたときに、装着者の股下におおむね位置する股位置21と、装着者正面側に位置する正面範囲22と、装着者背面側に位置する背面範囲23と、を有する。図示の吸収部材本体20は、臀部のふくらみに対応して、背面範囲23のほうが正面範囲22よりも前後方向に長くなっている。
【0027】
なお、
図1~4において、おむつの左右方向(幅方向)はX方向として示され、おむつの前後方向(長手方向)はY方向として示され、おむつの厚さ方向はZ方向として示されている。なお、おむつの正面範囲22側が前側であり、おむつの背面範囲23側が後側である。
【0028】
吸収体50は、表面シート30と裏面シート40との間に配置されている。ここで、表面は、吸収部材10が装着者に装着されたときにおける、装着者側の面である。裏面は、表面の反対の面である。
【0029】
表面シート30は、ほぼ矩形状の液透過性シートである。表面シート30は、装着者への装着時において、装着者の肌に接触する。表面シート30は、トップシートともよばれる。表面シート30は、例えば、不織布又は織布によって形成されている。
【0030】
裏面シート40は、ほぼ矩形状の非液透過性シートである。裏面シート40は、吸収体50によって吸収された排泄液が、裏面側に漏れ出すのを防止する。裏面シート40は、防水フィルム等を有して構成される。裏面シート40は、吸収体50側の第1面40aと、第1面40aの反対面である第2面40bと、を有する。
【0031】
吸収体50は、表面シート30を透過した液体を吸収する。実施形態の吸収体50は、複数の吸収部材からなる吸収構造体である。吸収体50は、装着者に装着されたときに装着者正面側に位置する前端50aと、装着者背面側に位置する後端50bと、を有する。すなわち、吸収体50は、吸収部材本体10の正面範囲22と背面範囲23とに跨って配置されている。吸収体50は、正面範囲22から背面範囲23に跨る広い範囲において、排泄液を吸収可能である。吸収体50は、正面範囲22に位置する部分よりも、背面範囲23に位置する部分の方が広い。背面範囲23に位置する吸収体50によって、広い範囲で液体を吸収することができる。
【0032】
実施形態の吸収構造体は、第1吸収部材51、第2吸収部材52、及び第3吸収部材53を備える。第1吸収部材51、第2吸収部材52、及び第3吸収部材53は、この順番で、表面シート30側から積層されている。
【0033】
第1吸収部材51は、パルプなどの吸収性繊維と、高吸収性ポリマーと、によって構成されている。第2吸収部材52も、パルプなどの吸収性繊維と、高吸収性ポリマーと、によって構成されている。第1吸収部材51及び第2吸収部材52は、いずれも、ほぼ矩形状のマット体であり、平面視において同形同大である。
図3に示すように、第2吸収部材52には、通液部となる溝52aが形成されている。
【0034】
図2に示すように、溝52aは、股位置21の近傍から、吸収体50の後端50bの近傍の範囲に形成されている。溝52aは、長手方向が前後方向に向くように形成されている。溝52aは、一本でも、複数本でもよいが、図示の第2吸収部材52は、2本の溝52aを有する。複数の溝52aは、左右方向に間隔をおいて形成されている。
【0035】
吸収体50における排泄液の拡散が、吸収体50の前後方向に促進されるように、溝52aの長手方向は、吸収体50の前後方向と一致している。溝52aは、第1吸収部材51から流入した排泄液を、溝52aの長手方向に沿って移動させ、第2吸収部材52などに拡散させることにより、吸収体50全体における排泄液の前後方向の拡散を促進させる通液部になっている。なお、通液部については、例えば、特開2016-7495号に開示されている。排泄液の前後方向の拡散を促進させる構造は、溝に限られず、所望の方向への液の拡散を促進できる構造であれば特に限定されない。
【0036】
実施形態において、溝52aは、主に、背面範囲23に形成されているため、正面範囲22近傍で排泄された尿を背面範囲23に拡散させることができる。尿を背面範囲23に拡散させることで、背面範囲23にある吸収体50による吸収能力を活用することができる。なお、溝52aは、正面範囲22にも形成されていてもよい。この場合、背面範囲23への拡散を優先する観点からは、背面範囲23に位置する部分の溝52aの長さは、正面範囲22に位置する部分の溝52aの長さよりも長いのが好ましい。
【0037】
第3吸収部材53は、吸水性を有する不織布によって構成されている。第3吸収部材53は、第2吸収部材52と、平面視において、ほぼ同形同大である。第3吸収部材53は、第2吸収部材52の裏面シート40側に貼付されている。第3吸収部材53は、第2吸収部材52が液体を吸収して濡れた状態にある範囲に対応した範囲が濡れた状態になる。
【0038】
第3吸収部材53の裏面シート40側の面には、排泄液を検出するための発電部60が配置されている。発電部60は、一対の電極61,62を有する。一対の電極61,62は、正極61と負極62とを有する。電極61,62は、第3吸収部材53に貼付されている。電極61,62は、吸収体50に吸収された液体に接触することができる。
【0039】
正極61は、例えば、長尺シート状のカーボン電極によって構成される。カーボン電極は、例えば、活性炭を含む活性炭電極である。負極62は、例えば、長尺シート状のアルミニウム電極によって構成される。電極61,62は、例えば、長さが580mmに形成される。正極61は、幅が約10mmに形成され、負極62は、幅が約1.8mmに形成される。
【0040】
活性炭電極などのカーボン電極は、導電性に優れたアルミニウム電極に比べて、比較的抵抗が大きい。アルミニウムのように配線としても用いられる導電体は、抵抗が十分に低い。これに対して、カーボン電極自体は、抵抗として機能する素材である。活性炭電極のシート抵抗は、例えば、100~200Ωスクエア程度である。後述の実験では、幅10mmの180Ωスクエアのシート抵抗を有する活性炭電極が用いられる。
【0041】
正極61に適用されるカーボンは、フェノール等の合成樹脂、石炭、コークス、ピッチ等の化石燃料由来の原料からなる活性炭、またはメソポーラスカーボンを含むことができる。正極61のカーボンは、多孔性であり、液体を吸収し保持することができる。例えば、正極61のカーボンは、ナノオーダの孔を多数有している。
【0042】
正極61の厚みは、50~500μm、より好ましくは100~400μmとすることができる。正極61のカーボンの密度は、0.3~1.0g/cc、より好ましくは、0.4~0.7g/ccとすることができる。正極61のカーボンの比表面積は、500~4000m2/g、より好ましくは、1000~2000m2/gとすることができる。正極61のカーボンの平均粒子径は、0.1~10μm、より好ましくは1~5μmとすることができる。
【0043】
正極61は、例えば、水蒸気賦活した所定量の活性炭に、バインダーとしての四フッ化エチレン樹脂分散液と、導電補助材としてのケッチェンブラックとを混合及び混練し、混練後の材料を二軸ローラで加圧しつつシート状に延伸させることによって製造することができる。
【0044】
電極61,62は、吸収体50の左右方向に間隔をおいて配置されている。電極61,62は、吸収体50の前後方向に沿った長手方向を有する。電極61,62の長手方向長さは、吸収体50の前後方向長さと同程度である。電極61,62は、それぞれ、吸収体50の前端50a付近に位置する第1端61a,62aを有する。また、電極61,62は、それぞれ、吸収体50の後端50b付近に位置する第2端61b,62bを有する。なお、電極61,62は、吸収体50の左右方向に沿った長手方向を有していてもよい。
【0045】
裏面シート40は、電極61,62に接続される配線70を備えている。配線70は、電極61,62間で発生した電流の経路となる。配線70は、電極61,62それぞれの第2端(長手方向一端)61b,62bに接続されている。すなわち、電極61,62の第2端61b,62bは、配線70,70への接続端である。第2端61b,62bは、電極61,62からの電流の出力端になっている。
【0046】
配線70は、シート状の導電体により形成されており、裏面シート40に貼付されている。配線70は、電極61,62と検出装置90とを電気的に接続する。
図4に示すように、検出装置90は、裏面シート40の第2面40bにおける正面範囲22に配置されている。検出装置90のかかる配置は、装着者の腹部付近の配置となり、装着者が、仰向け姿勢をとるのが容易となる。検出装置90は、例えば面ファスナによって、裏面シート40に着脱自在に取り付けられる。
【0047】
配線70は、裏面シート40の第1面40a側に配置された電極61,62と、裏面シート40の第2面40b側に配置された検出装置90と、を接続する。また、配線70は、背面範囲23にある接続端61b,62bと、正面範囲22にある検出装置90と、を接続する。配線70によって、接続端61b,62bと検出装置90とを離すことができ、接続端61b,62b及び検出装置90それぞれが適切な配置をとるための自由度を高めることができる。
【0048】
電極61,62は、第2面40bにおいて、裏面シート40の前後方向に形成されており、裏面シート40の後端において、第1面40aへ回り込んでいる。第1面40aに位置する配線70が、電極61,62の第2端61b,62bに接続されている。
【0049】
<2.2 検出装置>
【0050】
図5は、検出装置90を示している。検出装置90は、電極61,62を有する発電部60に接続されたキャパシタCを備える。キャパシタCの容量は、例えば、10mFである。キャパシタCは、発電部60により発電された電力を蓄える。
【0051】
検出装置90は、間欠電源回路94を備える。間欠電源回路94は、キャパシタCの電位が所定の電位に達すると、間欠電源回路94は、キャパシタCに蓄えられた電力の供給を受け、無線送信機95へ供給される電源電圧を出力する。キャパシタCは、電力を放出すると、発電部60から供給される電力を再び蓄えることができる。したがって、発電部60により発電がなされている間においては、キャパシタCでは、電力の蓄積と放出とが繰り返し行われる。間欠電源回路94は、キャパシタCが電力を放出する度に、間欠的に、無線送信機95への電力供給をする。
【0052】
間欠電源回路94は、キャパシタCの電位が所定の電圧に達する度に作動する。間欠電源回路94の間欠動作の周期は、キャパシタCの電位が所定の電圧に達するまでの時間となる。キャパシタCの電位が所定の電圧に達するまでの時間は、吸収体50への排泄液の吸収状況によって変化する。キャパシタCの電位が所定の電圧に達するまでの時間の変化の仕方については後述する。
【0053】
無線送信機95は、間欠電源回路94から電源供給を受ける度に、無線信号を送信する。つまり、無線送信機95は、間欠的に無線信号を送信する。無線信号が間欠的に送信される周期は、キャパシタCの電位が所定の電圧に達するまでの時間となる。なお、送信機95は、有線で信号を送信するものであってもよい。
【0054】
<3.管理装置>
【0055】
送信機95から送信された信号は、
図6に示す管理装置100によって受信される。管理装置100は、例えば、介護施設において、複数の被介護者が装着する使い捨ておむつ10の交換要否の管理に用いられる。
【0056】
管理装置100は、送信機95から送信された無線信号を受信する受信機101を備える。受信機101は、受信した信号を、プロセッサ102に与える。プロセッサ102は、メモリ103に格納されたプログラムを実行することにより、おむつ交換の要否判断の処理を行う。おむつ交換が必要と判断された場合、管理装置100の出力装置104は、おむつ交換が必要であることを出力する。
【0057】
<4.排尿に関する実験>
【0058】
以下の実験は、すべて、市販の成人用の使い捨ておむつに電極を取り付けて行った。
【0059】
図7は、使い捨ておむつの吸収体50における尿(人工尿)の拡散状況を確認した実験結果を示している。実験では、
図7において"Pouring Point"(注入位置)として示される排尿位置から、200cm
3、400cm
3、600cm
3の尿をおむつ10に注入した。実験における尿の注入位置は、おむつ10の正面範囲22内であり、おむつ装着時における実際の排尿位置におおむね対応する。
図7に示すおむつ内おいて、濃いグレーの部分が、尿の拡散範囲である。
【0060】
いずれの量の尿を注入した場合でも、注入位置から前方(
図7の上方)への尿の拡散よりも、注入位置から後方(
図7の下方)への尿の拡散のほうが大きくなった。これは、溝52aによる拡散の促進効果によるものと考えられる。
【0061】
図7では、注入位置から後方(
図1の下方)への尿の拡散範囲の長さLを、L1,L2,L3で示した。L1は、200cm
3の尿を注入したときの後方への拡散長さ(Spread lenght)である。L2は、400cm
3の尿を注入したときの後方への拡散長さ(Spread lenght)である。L3は、600cm
3の尿を注入したときの後方への拡散長さ(Spread lenght)である。
図7に示すように、後方への拡散長さLは、注入量が多いほど、長くなる。
【0062】
図8は、100cm
3、200cm
3、300cm
3、400cm
3それぞれの量の尿を繰り返し注入したときの、拡散長さLの測定結果を示している。なお、400cm
3の注入回数は1回である。
図8に示すように、尿の総注入量(Total amount of urine)の増加に応じて、拡散長さLが増加することがわかる。
【0063】
図9は、3つの拡散範囲S1,S2,S3の模式図を示している。拡散範囲S1は、200cm
3の尿を注入したときの拡散範囲である。拡散範囲S2は、400cm
3の尿を注入したときの拡散範囲である。拡散範囲S3は、600cm
3の尿を注入したときの拡散範囲である。
図10は、
図9に示すように、200cm
3、400cm
3、600cm
3の尿をおむつに注入したときに、キャパシタCの電位V
outの時間的変化を示している。
図10において、0(s)が注入時点である。
【0064】
図10に示すように、十分な時間(例えば、注入時点から180s)が経過すると、キャパシタCの電位V
outは、尿の量が多いほど大きくなるものの、それらの電位の差は小さく、尿の量にかかわらずおおむね0.8V程度になる。ただし、尿の注入量が多くなるほど、電位の立ち上がりが急峻になる。したがって、所定の電位(例えば、0.6V)に達するまでの時間は、尿の注入量が少なくなるほど、長くなる。
【0065】
つまり、尿の注入量が少ないほど、電位変化の遅延が大きくなっている。これは、
図11に示すように、電極61の寄生抵抗RとキャパシタCとがRC回路(RC遅延回路)を構成しているためである。電極61,62からなる発電部60の等価回路は、電流源と寄生抵抗R(発電部の内部抵抗)とによって表される。電極61全体が尿を吸収している場合には、電極61の寄生抵抗Rは問題とならない程度に低くなる。しかし、
図9に示すように、尿と接触していない非接触範囲(電極61が乾燥している範囲)N1,N2,N3では、電極61の抵抗が寄生抵抗Rとなる。
【0066】
寄生抵抗Rの大きさは、尿の拡散範囲(尿と電極の接触範囲)S1,S2,S3から、配線70との接続端である電極後端61bまでの非接触範囲N1,N2,N3の長さ(前後方向長さ)に応じて変化する。尿の量が200cm3である場合、例えば、非接触範囲N1の長さは、190mmとなる。この場合、電極61のシート抵抗が180Ωスクエアであり、電極幅が10mmであるので、非接触範囲N1の寄生抵抗Rは、約3.4kΩになる。また、尿の量が600cm3である場合、例えば、非接触範囲N3の長さは、40mmとなる。この場合、非接触範囲N3の寄生抵抗Rは、約0.7kΩになる。
【0067】
このように、尿の量が少ないと、非接触範囲が大きくなり、寄生抵抗Rが増大する。寄生抵抗Rの増大により、RC回路の時定数(R×C)が大きくなり、遅延が大きくなる。この結果、キャパシタCの電位Voutが所定の電位(例えば、0.6V)に達するまでの時間は、寄生抵抗Rの大きさに応じて変化する。
【0068】
図12は、100cm
3、200cm
3、300cm
3、400cm
3それぞれの量の尿を繰り返し注入したときの、尿のキャパシタCの電位Voutが0.6Vに達するまでの充電時間(charging time)を示している。なお、400cm
3の注入回数は1回である。
図12の横軸は、尿の総注入量(Total amount of urine)を示している。
図12に示すように、尿の総注入量の増加に応じて、寄生抵抗Rが低下し、充電時間が短くなることがわかる。
【0069】
図13は、
図9と同様に、200cm
3、400cm
3、600cm
3の尿を注入したときの拡散範囲S1,S2,S3を示している。
図14は、
図13に示すように、200cm
3、400cm
3、600cm
3の尿をおむつに注入したときの、キャパシタCの電位Voutの時間的変化を示している。ただし、
図14の結果は、
図12に示すように、電極61,62と配線70との接続端を、電極61,62の第1端61a,62aとした場合のものである。
【0070】
図13において、尿の拡散範囲(尿と電極の接触範囲)S1,S2,S3から、配線70との接続端である電極前端61aまでの非接触範囲N1,N2,N3の長さは、尿の量に応じて変化するものの、その変化は、
図9における非接触範囲N1,N2,N3の変化に比べて小さい。これは、吸収体50の正面範囲22への尿の広がり方は、尿量による変化が小さいためである。非接触範囲N1,N2,N3の長さの変化が小さいと、寄生抵抗Rの変化も小さくなる。
【0071】
このため、
図14に示すように、キャパシタCの電位V
outが所定の電位(例えば、0.6Vに達する)まで時間には、非接触範囲N1,N2,N3に応じた差が生じ難くなる。このため、非接触範囲の大きさに応じたキャパシタCの電位Voutの時間的変化を得るには、
図9に示すように電極61の後端61bを接続端(電極端子)とするのが好ましい。
【0072】
図15は、注入点を変えて、同じ量(200cm
3)の尿をおむつに注入したときの拡散範囲S1,S2を示している。拡散範囲S1は、おむつの正面範囲22における注入点P1から注入したときの拡散範囲である。拡散範囲S2は、おむつの背面範囲23における注入点P2から注入したときの拡散範囲S3である。
図15において、電極61と配線70との接続端は、電極後端61b,62bである。
図16は、
図15に示すように200cm
3の尿を注入したときの、キャパシタCの電位Voutの時間的変化を示している。
【0073】
図15において、尿の拡散範囲(尿と電極の接触範囲)S1から、配線70との接続端である電極後端61bまでの非接触範囲N1,N2の長さは、尿の注入点P1,P2の前後方向位置に応じて変化する。すなわち、注入点が電極後端61bに近いほど、非接触範囲の長さは小さくなる。
【0074】
この結果、電極後端61bから遠い注入点P1の場合には、非接触範囲N1が長くなり、寄生抵抗Rが増大し、遅延が大きくなる。一方、電極後端61bに近い注入点P2の場合には、寄生抵抗Rが小さくなり、遅延が小さくなる。
【0075】
つまり、
図16に示すように、同じ量(200cm
3)の尿であっても、背面範囲23の注入点P2から注入した場合のほうが、キャパシタCの電位の立ち上がりが急峻になる。このように、キャパシタCの電位V
outが所定の電位に達するまでの時間は、尿が同じ量であっても、寄生抵抗R大きさに応じて変化することがわかる。
【0076】
吸収体50の吸収余力は、非接触範囲の大きさに依存するため、非接触範囲が小さくなれば、おむつの交換が望まれる。したがって、非接触範囲の大きさに応じて変化する寄生抵抗Rの値は、おむつの交換に適した指標である。
【0077】
図17は、検出装置90の送信機95から送信された無線信号(検出信号)が、受信機101において受信された時間間隔Δtを示している。
図17に示す時間間隔Δtは、おむつに、300cm
3の尿を注入した場合のものである。
図17において、Δtは、約20sである。
【0078】
図18は、尿の注入によるΔtの変化を示している。
図18の横軸は、最初の尿の注入時点(0s)からの経過時間を示し、縦軸は、時間間隔Δtを示す。
図18においては、最初の尿の注入時点から1200秒後に、追加で300cm
3の尿が注入されている。
【0079】
最初の尿の注入から2回目の尿の注入まで(0s~1200s)は、Δtはおおむね20sである。2回目の尿の注入があると、Δtは、10s程度に低下する。したがって、管理装置100は、Δtによって、非接触範囲(吸収余力)の大きさを把握することができる。また、管理装置100は、Δtが大きく変化した回数によって、排尿回数を検出することができる。管理装置は、Δtに基づいて、おむつ交換の要否の判断をすることができる。
【0080】
<5.付記>
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、様々な変形が可能である。
【符号の説明】
【0081】
10 吸収部材
20 吸収部材本体
21 股位置
22 正面範囲
23 背面範囲
30 表面シート
40 裏面シート
40a 第1面
40b 第2面
50 吸収体
50a 前端
50b 後端
51 第1吸収部材
52 第2吸収部材
52a 溝
53 第3吸収部材
60 発電部
61 正極
61a 第1端
61b 第2端
62 負極
62a 第1端
62b 第2端
70 配線
90 検出装置
94 間欠電源回路
95 無線送信機
100 管理装置
101 受信機
102 プロセッサ
103 メモリ
104 出力装置
C キャパシタ
C1 接触範囲
C2 接触範囲
C3 接触範囲
N1 非接触範囲
N2 非接触範囲
N3 非接触範囲
P1 注入点
P2 注入点