(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-18
(45)【発行日】2023-04-26
(54)【発明の名称】フレキシブルシート状発熱素子
(51)【国際特許分類】
H05B 3/14 20060101AFI20230419BHJP
H05B 3/12 20060101ALI20230419BHJP
H05B 3/03 20060101ALI20230419BHJP
H05B 3/10 20060101ALI20230419BHJP
H05B 3/20 20060101ALI20230419BHJP
B32B 7/027 20190101ALI20230419BHJP
B32B 9/00 20060101ALI20230419BHJP
B32B 3/14 20060101ALI20230419BHJP
【FI】
H05B3/14 F
H05B3/12 Z
H05B3/03
H05B3/10 C
H05B3/20 386
B32B7/027
B32B9/00 A
B32B3/14
(21)【出願番号】P 2018176391
(22)【出願日】2018-09-20
【審査請求日】2021-09-16
(73)【特許権者】
【識別番号】516332439
【氏名又は名称】株式会社樫の木製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100137213
【氏名又は名称】安藤 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100143823
【氏名又は名称】市川 英彦
(74)【代理人】
【識別番号】100151448
【氏名又は名称】青木 孝博
(74)【代理人】
【識別番号】100183519
【氏名又は名称】櫻田 芳恵
(74)【代理人】
【識別番号】100196483
【氏名又は名称】川嵜 洋祐
(74)【代理人】
【識別番号】100203035
【氏名又は名称】五味渕 琢也
(74)【代理人】
【識別番号】100185959
【氏名又は名称】今藤 敏和
(74)【代理人】
【識別番号】100160749
【氏名又は名称】飯野 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100160255
【氏名又は名称】市川 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100202267
【氏名又は名称】森山 正浩
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】大隈 航大
【審査官】木戸 優華
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-525580(JP,A)
【文献】特開2017-045688(JP,A)
【文献】国際公開第2016/208371(WO,A1)
【文献】国際公開第2009/081986(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 3/14
H05B 3/12
H05B 3/03
H05B 3/10
H05B 3/20
B32B 7/027
B32B 9/00
B32B 3/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁性基材と、
前記絶縁性基材の少なくとも一方の表面に、抵抗体層であるナノカーボン材料層と、
前記ナノカーボン材料層に接続された複数の電極層と
を積層した構造を有し、
前記絶縁性基材が、高分子フィルムであり、
前記ナノカーボン材料層の厚さが、0.01~5μmであり、
前記ナノカーボン材料層が、ナノカーボン材料層全体に対して、1~50重量%の界面活性剤を含み、
前記ナノカーボン材料層が、バインダー樹脂及び/又はフィラメント状金属粒子を含まないものであり、
表面抵抗値が20~300Ω/□であること
を特徴とする、フレキシブルシート状発熱素子。
【請求項2】
総厚みが、0.005~0.3mmである、請求項1に記載の発熱素子。
【請求項3】
前記ナノカーボン材料層中のナノカーボン材料の配向がランダムであり、均一に分散されている、請求項1又は2に記載の発熱素子。
【請求項4】
前記電極層への電圧印加から10分以上経過後における発熱素子表面の温度変化が、±5℃以内である、請求項1~3のいずれか1に記載の発熱素子。
【請求項5】
前記ナノカーボン材料層を構成するナノカーボン材料が、カーボンナノチューブ、グラフェン、又はそれらの組み合わせである、請求項1~
4のいずれか1に記載の発熱素子。
【請求項6】
前記高分子フィルムが、ポリイミド(PI)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン(PE)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、液晶ポリマー(LCP)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、パーフルオロエチレンプロペンコポリマー(FEP)、パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)、及びエチレンテトラフルオロエチレンコポリマー(ETFE)よりなる群から選択される1種以上のポリマーよりなるフィルムである、
請求項1に記載の発熱素子。
【請求項7】
前記電極層が、前記ナノカーボン材料層の一部の表面上に積層されている、請求項1~
6のいずれか1に記載の発熱素子。
【請求項8】
前記電極層が、金属の薄膜である、
請求項7に記載の発熱素子。
【請求項9】
前記金属が、アルミ、銅又は銀である、
請求項8に記載の発熱素子。
【請求項10】
前記ナノカーボン材料層及び前記複数の電極層を被覆する絶縁性被覆層をさらに備える、請求項1~
9のいずれか1に記載の発熱素子。
【請求項11】
前記絶縁性被覆層が、高分子ラミネートフィルムである、
請求項10に記載の発熱素子。
【請求項12】
絶縁性基材と;前記絶縁性基材の少なくとも一方の表面に、高分子を含有しない抵抗体層であるナノカーボン材料層と;前記ナノカーボン材料層に接続された複数の電極層とを積層した構造を有するフレキシブルシート状発熱素子の製造方法であって、
i)ナノカーボン材料と界面活性剤を含む分散溶液を、絶縁性基材の表面に塗布により付着させ、乾燥することで前記ナノカーボン材料層を形成する工程、及び
ii)前記ナノカーボン材料層の一部の表面上に、複数の電極層を形成する工程
を含
み、
前記分散溶液における前記界面活性剤の割合が、前記ナノカーボン材料と前記界面活性剤の合計に対して、1~50重量%であり、
前記フレキシブルシート状発熱素子の表面抵抗値が、20~300Ω/□である、
該製造方法。
【請求項13】
前記分散溶液中におけるナノカーボン材料の含有量が、0.1~10重量%である、
請求項12に記載の製造方法。
【請求項14】
前記分散溶液が水溶液である、
請求項12又は13に記載の製造方法。
【請求項15】
前記工程i)における前記分散液の塗布が、ロール・ツー・ロール式印刷又はスクリーン印刷を用いて行われる、
請求項12~14のいずれか1に記載の製造方法。
【請求項16】
前記ナノカーボン材料層及び前記複数の電極層を被覆する絶縁性被覆層を形成する工程をさらに含む、
請求項12~15のいずれか1に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フレキシブルで繰り返し加熱可能なシート状の発熱素子、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、セラミックや絶縁処理された金属板、高分子などの絶縁材料の上に、導電性物質を含む抵抗体層(発熱部)を積層し、これに電極を経て給電することにより発熱を提供する面状の発熱素子(発熱体)の開発が行われている。
【0003】
なかでも、フィルム状あるいはテープ状の高分子を絶縁基材として用いた面状発熱素子は、フレキシブルな構造を有することから、寒冷地において水道管などに巻きつけて凍結を防止するために用いられたり、或いは、低温状態が好ましくない物質等の搬送パイプラインを加熱、保温するための加熱ヒーターとして、また、電子写真画像形成装置の定着ヒーターなどとして、低温から高温領域まで多くの用途への使用が期待されている。
【0004】
このような面状発熱素子における抵抗体層としては、典型的には、カーボンブラックや金属粉末、グラファイトなどの導電性物質をバインダー樹脂に分散させ、これを塗布して得られたものが知られている(例えば、特許文献1)。しかしながら、このような組成の抵抗体層では、特に低電圧下において十分な発熱量を得ることはできず、また、発熱素子の全面において均一な発熱を得ることも困難であった。
【0005】
また、カーボンナノチューブ等のナノカーボン材料の優れた導電性に着目し、これを抵抗体層に用いた発熱素子も提案されている(例えば、特許文献2)。しかしながら、ナノカーボン材料をバインダー樹脂中に分散させて抵抗体層を形成する特許文献3のような場合には、発熱量の制御や均一な発熱を得るためには、ナノカーボン材料の均一な分散に加えて、一定方向の配向性が必要なるうえ、抵抗体層の厚さを薄くすることにも限界があった。また、均一な発熱性等の所望の発熱特性と、十分な機械的特性を両立させるためには、より導電性の高い金属微粒子のような材料を、ナノカーボン材料ともに添加する必要がある。さらに、バインダー樹脂の使用が必須であることから、温度の上昇に伴いバインダー樹脂が軟化した場合には、配向性や分散性が損なわれ、発熱特性が劣化するだけでなく、抵抗体層内でスパーク等が生じるおそれもある。
【0006】
一方で、そのようなバインダー樹脂等を用いずに、十分な発熱特性を有し、かつフレキシブルな発熱素子に適用可能な薄さの抵抗体層をナノカーボン材料のみから形成することは、従来の技術では困難であった。加えて、そのようなナノカーボン材料のみからなる抵抗体層の上に、金属箔等の電極を積層することも難しかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平10-310698号公報
【文献】特開2007-109640号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明は、導電性物質としてナノカーボン材料層を用いた抵抗体層を備え、優れた発熱特性及び機械的特性を有するとともに、生産効率の点でも優れたシート状発熱素子を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討の結果、柔軟なフィルム状の絶縁性基材の上に、μmオーダーの特定の薄さのナノカーボン材料層を抵抗体層(発熱層)として積層した構造とすることで、均一かつ安定的な発熱特性を有し、繰り返し使用に対する耐久性にも優れたフレキシブルな極薄シート状の発熱素子が得られること、及びかかる発熱素子を得るために好適な製造を見出し、これらに知見に基づき、本発明を完成するに至ったものである。
【0010】
すなわち、本発明は、一態様において、
<1>絶縁性基材と、前記絶縁性基材の少なくとも一方の表面に、抵抗体層であるナノカーボン材料層と、前記ナノカーボン材料層に接続された複数の電極層とを積層した構造を有し、前記ナノカーボン材料層の厚さが、0.01~5μmであり、表面抵抗値が20~300Ω/□であることを特徴とする、フレキシブルシート状発熱素子;
<2>総厚みが、0.005~0.3mmである、上記<1>に記載の発熱素子:
<3>前記ナノカーボン材料層中のナノカーボン材料の配向がランダムであり、均一に分散されている、上記<1>又は<2>に記載の発熱素子;
<4>前記電極層への電圧印加から10分以上経過後における発熱素子表面の温度変化が、±5℃以内である、上記<1>~<3>のいずれか1に記載の発熱素子;
<5>前記ナノカーボン材料層がバインダー樹脂及び/又はフィラメント状金属粒子を含まない、上記<1>~<4>のいずれか1に記載の発熱素子;
<6>前記ナノカーボン材料層を構成するナノカーボン材料が、カーボンナノチューブ、グラフェン、又はそれらの組み合わせである、上記<1>~<5>のいずれか1に記載の発熱素子;
<7>絶縁性基材が、高分子フィルムである、上記<1>~<6>のいずれか1に記載の発熱素子;
<8>前記高分子フィルムが、ポリイミド(PI)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、液晶ポリマー(LCP)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、パーフルオロエチレンプロペンコポリマー(FEP)、パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)、及びエチレンテトラフルオロエチレンコポリマー(ETFE)よりなる群から選択される1種以上のポリマーよりなるフィルムである、請求項7に記載の発熱素子;
<9>前記電極層が、前記ナノカーボン材料層の一部の表面上に積層されている、上記<1>~<8>のいずれか1に記載の発熱素子;
<10>前記電極層が、金属の薄膜である、上記<9>に記載の発熱素子;
<11>前記金属が、アルミ、銅又は銀である、上記<10>に記載の発熱素子;
<12>前記ナノカーボン材料層及び前記複数の電極層を被覆する絶縁性被覆層をさらに備える、上記<1>~<11>のいずれか1に記載の発熱素子;及び
<13>前記絶縁性被覆層が、高分子ラミネートフィルムである、上記<12>に記載の発熱素子
を提供するものである。
【0011】
別の態様において、本発明は、上記フレキシブルシート状発熱素子の製造方法にも関し、
<14>絶縁性基材と;前記絶縁性基材の少なくとも一方の表面に、高分子を含有しない抵抗体層であるナノカーボン材料層と;前記ナノカーボン材料層に接続された複数の電極層とを積層した構造を有するフレキシブルシート状発熱素子の製造方法であって、i)ナノカーボン材料と界面活性剤を含む分散溶液を、絶縁性基材の表面に塗布により付着させ、乾燥することで前記ナノカーボン材料層を形成する工程、及びii)前記ナノカーボン材料層の一部の表面上に、複数の電極層を形成する工程を含む、該製造方法;
<15>前記分散溶液中におけるナノカーボン材料の含有量が、0.1~10重量%である、上記<14>に記載の製造方法。
<16>前記分散溶液が水溶液である、上記<14>又は<15>に記載の製造方法;
<17>前記工程i)における前記分散液の塗布が、ロール・ツー・ロール式印刷又はスクリーン印刷を用いて行われる、上記<14>~<16>のいずれか1に記載の製造方法;及び
<18>前記ナノカーボン材料層及び前記複数の電極層を被覆する絶縁性被覆層を形成する工程をさらに含む、上記<14>~<17>のいずれか1に記載の製造方法
を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明のフレキシブルシート状発熱素子は、従来は達成されていなかった薄くかつ均一なナノカーボン材料層を有するため、均一な発熱性を提供することができ、所望の設定温度に長時間一定に維持することができる。フレキシブルかつ軽量であり、電源としてもUSB充電器等を使用可能であることから携帯性に優れ、種々の用途において加熱・保温用のヒーターとして好適に使用できる。
【0013】
また、導電性物質としてナノカーボン材料のみで抵抗体層を構成していることから、耐久性及び耐熱性に優れ、高温領域におけるバインダー樹脂の軟化等の問題も生じない。加えて、ナノカーボン材料をバインダー樹脂等に分散させた抵抗体層の場合のようにナノカーボン材料の配向性を一定にすることなく、ランダムな配向であっても優れた発熱特性が得られる。
【0014】
本発明の製造方法によれば、ナノカーボン材料と界面活性剤を含む分散溶液を印刷手法によって基材フィルム状に塗布することで簡易に抵抗体層を形成可能である。上述のように、ナノカーボン材料の配向性を一定に揃える必要もない。このため、均一な膜厚を容易に制御できるとともに、量産性にも優れている。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、本発明のフレキシブルシート状発熱素子の一態様における平面構造を示す概略図である。
【
図2】
図2は、本発明のフレキシブルシート状発熱素子の一態様における側面構造を示す概略図である。
【
図3】
図3は、本発明のフレキシブルシート状発熱素子におけるナノカーボン材料層の電子顕微鏡画像である。
【
図4】
図4は、本発明のフレキシブルシート状発熱素子をテープ形状とした実施態様を示す画像である。
【
図5】
図5は、本発明のフレキシブルシート状発熱素子について、シート表面の平均温度(℃)の時間変化を示すグラフである。
【
図6】
図6は、本発明のフレキシブルシート状発熱素子について、各電極間距離における表面温度を示すグラフである。
【
図7】
図7は、本発明のフレキシブルシート状発熱素子を比較的小面積とした場合の寸法図、温度変化、及びサーモグラフをそれぞれ示すものである。
【
図8】
図8は、本発明のフレキシブルシート状発熱素子を比較的大面積とした場合の寸法図、温度変化、及びサーモグラフをそれぞれ示すものである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について説明する。本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更し実施することができる。
【0017】
(1)発熱素子の構成
図1及び
図2は、典型的な態様における本発明のフレキシブルシート状発熱素子の平面及び側面の構造をそれぞれ示す概略図である。本発明のフレキシブルシート状発熱素子は、絶縁性基材1と、当該絶縁性基材の少なくとも一方の表面に抵抗体層であるナノカーボン材料層2が積層され、さらに、ナノカーボン材料層2に接続された複数の電極層3を有する。好ましい態様では、最外層の絶縁性被覆層4によって、ナノカーボン材料層2と複数の電極層3が被覆されていてもよい。給電部5は、外部電源等に接続されて電極層3に電力を供給するための部位である。
【0018】
絶縁性基材1は、絶縁性の材料よりなるフィルム状やシート状の形状を有し、柔軟性を有するものを用いることができる。好ましくは、絶縁性基材1は、高分子フィルム等の高分子材料であることができる。そのような高分子フィルムとしては、例えば、ポリイミド(PI)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン(PE)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、液晶ポリマー(LCP)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、パーフルオロエチレンプロペンコポリマー(FEP)、パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)、及びエチレンテトラフルオロエチレンコポリマー(ETFE)よりなる群から選択される1種以上のポリマーよりなるフィルムが挙げられる。これらポリマーの共重合体を用いることができ、また、絶縁性と柔軟性を有する限りエラストマーやゴムのような材料であることもできる。
【0019】
必ずしもこれに限定されるものではないが、加熱又は保温における所望の温度帯が70℃以下である場合、ポリエチレンテレフタレート製の高分子フィルムを絶縁性基材とすることが好ましく、一方、所望の温度帯が70℃を超える場合には、ポリエチレン製の高分子フィルムを絶縁性基材として用いることが好ましい。
【0020】
絶縁性基材1の厚さは、適用する用途に応じた柔軟性が得られる範囲のものであれば特に制限されないが、例えば、2.5μm~10mmの範囲であることができる。
【0021】
ナノカーボン材料層2は、導電性材料であるナノカーボン材料により形成されたほぼ均一な厚さを有する膜状の薄層であり、電圧印加により熱を発生させる抵抗体層(発熱層)として機能する領域である。本発明の発熱素子におけるナノカーボン材料層2は、従来よりも薄い膜厚であって、かつ、導電性材料であるナノカーボン材料がほぼ均一な分布で存在することを特徴とする。具体的には、ナノカーボン材料層2の厚さは、0.01~5μmの範囲であり、好ましくは、5μm未満の厚さであり、例えば、1~3μmの範囲である。
【0022】
ナノカーボン材料層2は、基本的には、構成成分としてナノカーボン材料にのみで形成される単層薄膜である。すなわち、ナノカーボン材料層2を形成する際に、上記特許文献2に示した従来技術ようのように、ナノカーボン材料を分散させ及び一定配向とするためにバインダー樹脂等の成分を用いる必要はない。また、本発明は、このようにナノカーボン材料の単層薄膜を用いることで均一で優れた加熱特性が得られることを見出したものであって、より導電性に優れる金属粒子等の物質をナノカーボン材料層に追加で添加する必要もない。
【0023】
本発明のナノカーボン材料層2は、層中のナノカーボン材料の配向がランダムであっても、所望の加熱特性や耐久性を提供することができることも特徴とする。すなわち、従来のバインダー樹脂等を用いてナノカーボン材料を分散させる場合のように、所望の加熱特性を得るために、層中のナノカーボン材料を一定方向に配向させる必要はない。これは、ナノカーボン材料層2が、実質的にナノカーボン材料のみで構成され、層中のナノカーボン材料が互いに重なり隣接したネットワーク構造を有していることによると考えられる。
【0024】
かかるナノカーボン材料層2は、後述のように、典型的には、ナノカーボン材料と界面活性剤を含む分散溶液を絶縁性基材の表面に塗布・乾燥することで形成することができ、この点も本発明の特徴の一つである。ただし、このように薄くかつ均等なナノカーボン材料の単層が得られるのであれば、必ずしもかかる形成方法に限定されるものではない。ナノカーボン材料層2中における界面活性剤成分は、ナノカーボン材料層全体に対して、1~50重量%であることが好ましく、1~30重量%であることがより好ましい。
【0025】
一方、上述のように、ナノカーボン材料層2は、ナノカーボン材料を分散させ及び一定配向とするためにバインダー樹脂を用いる必要はない。そのようなバインダー樹脂としては、絶縁性基材1に用いられる材料として上記で例示したポリイミド等のポリマー等が挙げられる。本発明におけるナノカーボン材料層2では、そのようなバインダー樹脂の含有量は、ナノカーボン材料層全体に対して、5重量%以下であることが好ましく、1重量%以下であることがより好ましい。0重量%であることが最も好ましい。
【0026】
また、上述のように、ナノカーボン材料層2は、ナノカーボン材料よりも導電性に優れる金属粒子等の物質の物質を追加で添加する必要はない。そのような金属粒子としては、銀、アルミニウム、ニッケルなどの微粒子、特にフィラメント状や針状の微粒子が挙げられる。本発明におけるナノカーボン材料層2では、そのような金属粒子の含有量は、ナノカーボン材料層全体に対して、5重量%以下であることが好ましく、1重量%以下であることがより好ましい。0重量%であることが最も好ましい。
【0027】
本発明のナノカーボン材料層2に用いられるナノカーボン材料としては、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、グラフェン、又はそれらの組み合わせを用いることができる。好ましくは、カーボンナノチューブ単独、グラフェン単独、又は、カーボンナノチューブとグラフェンの組み合わせを用いることができる。これらナノカーボン材料の製造方法は特に制限されず、従来から知られている方法によって製造することができるし、また、市販のものをそのまま用いることもできる。
【0028】
カーボンナノチューブは、一般に、炭素の六員環配列構造を有する1枚のシート状グラファイト(グラフェンシート)が円筒状に巻かれた直径数nm程度のチューブ状構造を有する材料である。このグラフェンシートにおける炭素の六員環配列構造には、アームチェア型構造、ジグザグ型構造、カイラル(らせん)型構造などが含まれる。当該グラフェンシートは、炭素の六員環に五員環または七員環が組み合わさった構造を有する1枚のシート状グラファイトであってもよい。本明細書において「カーボンナノチューブ」とは、1枚のシート状グラファイトで構成された単層カーボンナノチューブの他、前記筒状のシートが軸直角方向に複数積層した多層カーボンナノチューブ(カーボンナノチューブの内部にさらに径の小さいカーボンナノチューブを1個以上内包する多層カーボンナノチューブ)、単層カーボンナノチューブの端部が円錐状で閉じた形状のカーボンナノホーン、内部にフラーレンを内包するカーボンナノチューブなども包含される。これらのカーボンナノチューブは、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0029】
これらのカーボンナノチューブのうち、カーボンナノチューブ自体の強度の向上の点から、多層カーボンナノチューブが好ましい。さらに、導電性の点から、グラフェンシートの配列構造は、アームチェア型構造が好ましい。
【0030】
上述のように、カーボンナノチューブは、当該技術分野において公知の方法を用いて製造することができるが、具体的には、例えば、化学的気相成長法において、触媒の存在下、炭素含有原料(ベンゼン、トルエン、キシレンなどの炭化水素、一酸化炭素、エタノールなどのアルコール類など)を加熱することにより生成できる。すなわち、前記炭素含有原料及び前記触媒を雰囲気ガス(アルゴン、ヘリウム、キセノンなどの不活性ガス、水素など)と共に300℃以上(例えば、300~1000℃程度)に加熱してガス化して生成炉に導入し、800~1300℃、好ましくは1000~1300℃の範囲内の範囲内の一定温度で加熱して触媒金属を微粒子化させると共に炭化水素を分解させることによって微細繊維状(チューブ状)炭素を生成させる。触媒としては、例えば、鉄、コバルト、モリブデンなどの遷移金属またはフェロセン、前記金属の酢酸塩などの遷移金属化合物と、硫黄または硫黄化合物(チオフェン、硫化鉄など)の混合物などを用いることができる。これにより生成した繊維状炭素は、未反応原料、非繊維状炭化物、タール分および触媒金属を含有していて純度が低く、結晶性も低いので、次に800~1200℃の範囲内の好ましくは一定温度に保持された熱処理炉で処理して未反応原料やタール分などの揮発分を気化して除くのが好ましい。さらに、微細繊維状炭素を2400~3000℃の温度でアニール処理して、カーボンナノチューブにおける多層構造の形成を一層促進すると共にカーボンナノチューブに含まれる触媒金属を蒸発することによって製造できる。
【0031】
カーボンナノチューブの平均径(軸方向に対して直交する方向の直径又は横断面径)は、例えば、0.5nm~1μm(例えば、0.5~500nm、好ましくは0.6~300nm、さらに好ましくは0.8~100nm、特に1~80nm)程度から選択でき、単層カーボンナノチューブの場合には、例えば、0.5~10nm、好ましくは0.7~8nm、さらに好ましくは1~5nm程度であり、多層カーボンナノチューブの場合は、例えば、5~300nm、好ましくは10~100nm、好ましくは20~80nm程度である。カーボンナノチューブの平均長は、例えば、1~1000μm、好ましくは5~500μm、さらに好ましくは10~300μm(特に20~100μm)程度である。
【0032】
複数の電極層3は、ナノカーボン材料層2に電力を供給できるものであれば、任意の材料を用いることができる。これら電極間の領域におけるナノカーボン材料層2への電圧の印加によって発熱するものであるため、少なくともそれぞれがナノカーボン材料層2に電気的に接続されている必要があり、好ましくは、ナノカーボン材料層2の一部の表面上に積層されていることができる。
【0033】
電極層3の数は、少なくとも2つであり、発熱素子の大きさや所望の設定温度等に応じて適宜設定することができる。同様に、電極間の距離や電極層のサイズ、形状も所望の設定温度等に応じて適宜設定することができる。
【0034】
電極層3は、典型的には、金属製の薄膜の形態である。電極層3は、例えば、圧延した金属箔の圧着、金属めっき工法、或いは、金属ペーストをスクリーン印刷により塗布・乾燥すること等の手法により形成することができる。そのような金属としては、アルミ、銅や銀などを用いることができる。したがって、好ましい態様において、電極層3は、アルミ箔膜、銅箔膜又は銀箔膜である。
【0035】
好ましい態様において、本発明の発熱素子は、最外層として、ナノカーボン材料層2及び複数の電極層3を被覆する絶縁性被覆層4をさらに備えることができる。これにより、ナノカーボン材料層2や電極層3を保護することができる。絶縁性被覆層4を構成する材料としては、絶縁性基材1と同様のポリマー材料を用いることができる。好ましくは、絶縁性被覆層4は、ポリマー材料による高分子ラミネートフィルムである。
【0036】
また、場合によっては、絶縁性被覆層4の内部又は表面に熱伝導性粒子を設けることもできる。これにより、ナノカーボン材料層2で発生した熱量を効率よく被加熱物に供給することができる。同様に、絶縁性被覆層4の片側層あるいは両側層外面にフッ素樹脂層を設けることもでき、これにより最外層である絶縁性被覆層4と外部或いは被加熱物との摩擦抵抗が低下させることもできる。
【0037】
以上のような構成を採用することにより、本発明の発熱素子は、均一かつ優れた発熱特性を提供することができる。具体的には、表面抵抗値が20~300Ω/□(オームパースクエア)、好ましくは、40~280Ω/□を有する。
【0038】
また、本発明の発熱素子は、迅速な発熱の立ち上がりにより比較的短時間で所望の設定温度に達することができ、さらに驚くべきことに、所望の設定温度を長時間ほぼ一定に維持することもできる。必ずしも理論に拘束されるものではないが、これは、発熱層であるナノカーボン材料層2が、実施的にナノカーボン材料のみで形成したネットワーク構造を有し、かつ厚さ0.01~5μmという極めて薄い膜状としたことによるものと考えられる。
【0039】
より具体的には、本発明の発熱素子は、電極層3への電圧印加から10分以上経過後における発熱素子表面の温度変化が、±5℃以内であることができる。当該測定条件としては、典型的には、複数の電極層3を1.5cmもしくは18cmの間隔で設け、20℃において直流又は交流の15Vから45Vの印加電圧をかけたとき、電極間におけるナノカーボン材料層2の表面上の温度変化を測定したものである。なお、温度上昇の程度や設定温度の絶対値は、ナノカーボン材料層2におけるナノカーボン材料の含有量や厚さ、また、電極間の距離等によって調整することができ、所望の用途に応じて設定可能である。
【0040】
本発明の発熱素子の総厚みは、その用途等に応じて適宜変更され得るが、フレキシブルなシート状という観点から、典型的には、0.005~0.3mmの範囲であることが好ましい。
【0041】
なお、給電部5は、外部電源等に接続されて電極層3に電力を供給するための部位であるが、各電極層3の一方の端部又は両端に設けることができる。外部電源としては、電力を供給できるものであれば、当該技術分野において公知のものを用いることができるが、例えば、USB充電器を用いることもできる。
【0042】
(2)発熱素子の製造方法
別の側面において、本発明は、上述のフレキシブルシート状発熱素子の製造方法にも関する。具体的には、本発明は、
絶縁性基材と;前記絶縁性基材の少なくとも一方の表面に、高分子を含有しない抵抗体層であるナノカーボン材料層と;前記ナノカーボン材料層に接続された複数の電極層とを積層した構造を有するフレキシブルシート状発熱素子の製造方法であって、以下の工程i)及びii)を含む製造方法を提供するものである。
工程i)ナノカーボン材料と界面活性剤を含む分散溶液を、絶縁性基材の表面に塗布により付着させ、乾燥することで前記ナノカーボン材料層を形成する工程;
工程ii)前記ナノカーボン材料層の一部の表面上に、金属をめっき処理して各電極層を形成する工程。
【0043】
工程i)は、ナノカーボン材料層2を形成するための工程である。当該工程は、ナノカーボン材料と界面活性剤を含む分散溶液を用いることによって、従来のようにバインダー樹脂等を用いずとも、当該分散溶液を絶縁性基材の表面に塗布・乾燥するだけで、ナノカーボン材料層を形成できることを見出したことに基づくものである。これにより、導電性物質であるナノカーボン材料がほぼ均一に存在する単層薄膜を効率的かつ簡便に得ることが可能となる。
【0044】
絶縁性基材の表面への分散溶液を塗布する手法としては、ロール・ツー・ロール式印刷又はスクリーン印刷を好適に用いることができる。上述のように、ナノカーボン材料層中の配向性を制御する必要はないため、かかる手法を用いて効率的かつ簡便な手法によりナノカーボン材料をコーティングでき、量産性に優れた製造方法であるといえる。
【0045】
分散溶液に用いる界面活性剤としては、両性イオン界面活性剤、陰イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤を使用できる。ナノカーボン材料間のファンデルワールス力による凝集及びバンドル形成を抑制し、ナノカーボン材料を水などの溶媒中に安定に微細に分散させることができる点から、特に、両性イオン界面活性剤を用いることが好ましい。
【0046】
両性イオン界面活性剤としては、例えば、スルホベタイン類、ホスホベタイン類、カルボキシベタイン類、イミダゾリウムベタイン類、アルキルアミンオキサイド類などを挙げることができる。これらの両性イオン界面活性剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。なお、両性イオン界面活性剤において、塩としては、アンモニア、アミン(例えば、アミン、エタノールアミンなどのアルカノールアミン等)、アルカリ金属(例えば、ナトリウム、カリウム等)、アルカリ土類金属(例えば、カルシウムなど)等との塩が挙げられる。
【0047】
陰イオン性界面活性剤としては、例えば、アルキルベンゼンスルホン酸塩(例えば、ラウリルベンゼンスルホン酸ナトリウムなどのC6-24アルキルベンゼンスルホン酸塩など)、アルキルナフタレンスルホン酸塩(例えば、ジイソプロピルナフタレンスルホン酸ナトリウムなどのジC3-8アルキルナフタレンスルホン酸塩など)、アルキルスルホン酸塩(例えば、ドデカンスルホン酸ナトリウムなどのC6-24アルキルスルホン酸塩など)、ジアルキルスルホコハク酸エステル塩(例えば、ジ2-エチルヘキシルスルホコハク酸ナトリウムなどのジC6-24アルキルスルホコハク酸塩など)、アルキル硫酸塩(例えば、硫酸化脂、ヤシ油の還元アルコールと硫酸とのエステルのナトリウム塩などのC6-24アルキル硫酸塩、ポリオキシエチレン(平均付加モル数2~3モル程度)アルキルエーテル硫酸塩など)、アルキルリン酸塩(例えば、モノ~トリ-ラウリルエーテルリン酸などのリン酸モノ~トリ-C8-18アルキルエステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩など)などが挙げられる。これらの陰イオン性界面活性剤は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。塩としては、前記両性イオン界面活性剤と同様の塩が例示できる。
【0048】
陽イオン性界面活性剤としては、例えば、テトラアルキルアンモニウム塩(例えば、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、ジオクタデシルジメチルアンモニウムクロライドなどのモノ又はジC8-24アルキル-トリ又はジメチルアンモニウム塩など)、トリアルキルベンジルアンモニウム塩[例えば、セチルベンジルジメチルアンモニウムクロライドなどのC8-24アルキルベンジルジメチルアンモニウム塩(塩化ベンザルコニウム塩など)など]、アルキルピリジニウム塩(例えば、セチルピリジニウムブロマイドなどのC8-24アルキルピリジニウム塩など)などが挙げられる。これらの陽イオン性界面活性剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。なお、塩としては、ハロゲン原子(例えば、塩素原子、臭素原子)、過塩素酸などとの塩が挙げられる。
【0049】
非イオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル(例えば、ポリオキシエチレンオクチルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテルなどのポリオキシエチレンC6-24アルキルエーテル)、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル(例えば、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルなどのポリオキシエチレンC6-18アルキルフェニルエーテルなど)、ポリオキシエチレン多価アルコール脂肪酸部分エステル[例えば、ポリオキシエチレングリセリンステアリン酸エステルなどのポリオキシエチレングリセリンC8-24脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタンステアリン酸エステルなどのポリオキシエチレンソルビタンC8-24脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンショ糖C8-24脂肪酸エステルなど]、ポリグリセリン脂肪酸エステル(例えば、ポリグリセリンモノステアリン酸エステルなどのポリグリセリンC8-24脂肪酸エステル)などが挙げられる。これらの非イオン性界面活性剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。なお、前記ノニオン性界面活性剤において、エチレンオキサイドの平均付加モル数は、1~35モル、好ましくは2~30モル、さらに好ましくは5~20モル程度である。
【0050】
前記分散溶液中におけるナノカーボン材料の含有量は、目的とするナノカーボン材料層の層厚等によって調整することができるが、典型的には、分散液に対して0.1~10重量%の範囲、好ましくは1~10重量%の範囲であることができる。また、界面活性剤の割合は、ナノカーボン材料と界面活性剤の合計に対して、1~50重量%であることが好ましく、1~30重量%であることがより好ましい。界面活性剤の割合がこの範囲にあると、カーボンナノチューブの均一性を向上させるとともに、高い導電性を得ることができる。
【0051】
分散溶液における溶媒は、好ましくは親水性溶媒等の極性溶媒、より好ましくは水である。
【0052】
分散溶液は、場合によって、分散安定化剤、増粘剤又は粘度調整剤等の添加剤を含むこともできる。
【0053】
本発明の製造方法における好ましい態様の一つとして、界面活性剤の存在下で、水性媒体のpHを4.0~8.0、好ましくは4.5~7.5、さらに好ましくは5.0~7.0に保持しながら、水性媒体(水)中にナノカーボン材料を分散処理することが好ましい。この調製方法における分散処理は、分散装置としてメディアを用いたミル(メディアミル)を用いて行うことができる。メディアミルの具体例としては、ビーズミル、ボールミルなどを挙げることができる。ビーズミルを用いる場合には、直径が0.1~10mm、好ましくは0.1~1.5mm(例えば、ジルコニアビーズなど)などが好ましく用いられる。特に、予めボールミルを用いて、ナノカーボン材料、界面活性剤を水性媒体中に混合してペースト状物を調製した後、ビーズミルを用いて界面活性剤を含む水性媒体を加えて分散溶液を調製してもよい。
【0054】
上述の分散溶液を絶縁性基材上に塗布した後、乾燥することで溶媒を除去することで、ナノカーボン材料が均一に薄層状態で絶縁性基材上に付着したナノカーボン材料層を得ることができる。その際の、乾燥温度は、分散液中の溶媒(分散媒)の種類に応じて選択でき、溶媒として水を用いた場合には、典型的には、60~200℃程度の乾燥温度を用いることができる。
【0055】
工程ii)は、工程i)で形成したナノカーボン材料層2の一部の表面上に、電極層3を形成するための工程である。具体的には、ナノカーボン材料層の表面上の電極を形成したい部分に、圧延した金属箔の圧着すること、金属のめっき処理を行うこと、又は金属ペーストをスクリーン印刷により塗布・乾燥すること等の手法を用いて電極層を形成することができる。そのような金属としては、上述のように、アルミ、銅や銀などを用いることができる。
【0056】
また、本発明の製造方法では、工程ii)の後に、ナノカーボン材料層2及び複数の電極層3を被覆する絶縁性被覆層4を形成する工程をさらに含むことができる。絶縁性被覆層4の材料としては上述のとおりであるが、一般的なラミネート手法を用いることができる。
【0057】
このようにして得られたフレキシブルシート状発熱素子は、長尺のテープ状、フィルム状、あるいはシート状など所望の形状にすることができ、円筒状あるいは複雑な曲面を有する形状の被加熱物に面接触させることができる。ナノカーボン材料層2も長方形、円形、あるいは必要とする発熱パターンにあわせて、所望の形状にすることができる。
【0058】
本発明のフレキシブルシート状発熱素子は、優れた発熱特性に加えて、耐久性に優れ、また、非常に薄いシート状であるため、薄くて軽量でコンパクトであるとともに、柔軟性、取り扱い性、加工性、携帯性、屈曲疲労性などにも優れている。さらに、設定温度を長時間一定に維持する機能も有する点も特徴的である。それゆえ、融雪装置、凍結防止装置、ロードヒーティング、車輌シート、床暖房、壁暖房、発熱保温衣料など広範囲な用途に応用することができる
【0059】
さらに、本発明の製造方法により、ナノカーボン材料層を抵抗体層とするフレキシブルシート状発熱素子を、高効率かつ簡便に製造することができ、量産等の実用性にも優れるものである。
【実施例】
【0060】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【実施例1】
【0061】
発熱素子の作製
(1)カーボンナノチューブ分散溶液の調製
両性界面活性剤(商品名オバゾリンCAB-30(ヤシ油脂肪酸アミドプロピルベタイン水溶液)」、東邦化学社製)15g及びカーボンナノチューブ(商品名「NC7000」、Nanocyl社製)15.2gを、水1000ml中で混合し水溶液として後、ボールミル胴体(円筒形、内容積=1800ml、ボールの直径=150mm、ボール量の充填量=3200g)に入れて、手で撹拌してペースト状物とした後、ボールミル胴体を回転架台に載せて1時間撹拌した。
【0062】
得られた分散液状物の全量をボールミル胴体から取り出して、前記(i)と同様に調製した界面活性剤の水溶液500mlを追加し、ビーズミル(WAB社製「ダイノーミル」、筒形状、内容積=2000ml、直径0.6mmのジルコニアビーズを1800g充填)に充填して、回転数300回/分の条件下に60分間撹拌して、両性界面活性剤を含有するカーボンナノチューブの水性分散液(カーボンナノチューブの濃度=1.48w%)を調製した。なお、ビーズミルによる撹拌操作中、水性分散液のpHは5.5~7.0に維持されていた。
【0063】
(2)カーボンナノチューブ層の形成
絶縁性基材として、厚み50μmのポリイミドフィルム(商品名「カプトン100H」、東レ・デュポン(株)社製)を幅500mm、長さ1000mmのものを使用した。この絶縁性基材に、上記(1)で得られたカーボンナノチューブ分散液を、ロール・ツー・ロール式印刷(富士商工社製「KS1号」)によりコーティングした。その後、長さ1000m分のコーティングしたポリイミドフィルムを100℃で5分間ですべて乾燥させた。
【0064】
絶縁性基材の表面はすべて実質的にカーボンナノチューブで黒く覆われており、カーボンナノチューブに覆われていない部分は実質的に見当たらず、表面被覆率は100%であった。カーボンナノチューブ層の厚さは、3μmであった。得られたカーボンナノチューブ層の電子顕微鏡画像を
図3に示す。
図3に示すように、カーボンナノチューブ層は、カーボンナノチューブが、ランダムな配向で重なり合い、ネットワーク上に積層した薄層が形成されていることが分かった。
【0065】
(3)電極層の形成
(2)で得られたカーボンナノチューブ層の表面に、金属めっきにより銅箔を形成した。各電極間の距離は18cmとした。
【0066】
(4)絶縁性被覆層の形成
(3)で電極層を形成した後、ポリイミドのラミネートフィルムを形成した。
【0067】
かかる工程により作製したフレキシブルシート状発熱素子を、テープ形状としたものの製造例を
図4に示す(
図4は、絶縁性基材としてPETを用いた例である)。
【実施例2】
【0068】
発熱素子の温度変化の測定
実施例1で得られたフレキシブルシート状発熱素子を用いて、発熱特性の評価を行った。各電極に電圧を印加した後の、シート表面の平均温度(℃)の時間変化を
図5に示す。印加電圧としては、それぞれ15V、25V、35V、45Vを用いた。
【0069】
図5に示すように、いずれの場合も、電圧印加からおよそ数時間で最大の温度に到達し、その後は、60時間経過後まで一定の温度を維持することが分かった。また、到達温度は、電圧の大きさに依存して制御可能であることも分かった。
【実施例3】
【0070】
加熱特性の電極間距離の依存性の検証
次に、実施例1の工程に従い、電極間距離を50mm~200mmまで変えて発熱素子を作成し、それぞれにつき電圧印加に伴う温度変化を測定した。結果を
図6に示す。
【0071】
図6に示すように、印加電圧の大きさと電極間距離を調整することにより、素子の表面温度を所望の値に制御できることが分かった。
【実施例4】
【0072】
発熱素子のサイズのバリエーション
実施例1と同様の手法により、比較的小面積の発熱素子と、より面積の大きい発熱素子を作製した例を、それぞれ
図7及び
図8に示す。併せて、これらの2つの発熱素子例について、実施例2と同様に電圧印加に伴う表面温度変化の測定結果、及びサーモグラフをそれぞれ図中に示す。
【0073】
これらの結果から、発熱素子のサイズの大小にかかわらず、適切な電圧印加により目標温度に一定に保たれる優れた発熱特性が得られることが分かった。