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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-18
(45)【発行日】2023-04-26
(54)【発明の名称】皮膚バリア機能向上又は修復用組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/49 20060101AFI20230419BHJP
   A61K 31/198 20060101ALI20230419BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20230419BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20230419BHJP
【FI】
A61K8/49
A61K31/198
A61P17/00
A61Q19/00
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021091571
(22)【出願日】2021-05-31
(65)【公開番号】P2022183993
(43)【公開日】2022-12-13
【審査請求日】2022-04-19
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000113274
【氏名又は名称】ホーユー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100122644
【弁理士】
【氏名又は名称】寺地 拓己
(72)【発明者】
【氏名】井浪 義博
(72)【発明者】
【氏名】吉村 光希
【審査官】池田 周士郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-180206(JP,A)
【文献】特開2016-196419(JP,A)
【文献】特開2012-106945(JP,A)
【文献】GRANERUS G. et al.,Treatment of two mastocytosis patients with a histidine decarboxylase inhibitor,Agents and Actions,1985年,Vol.16, No.3/4,pp.244-248
【文献】高橋苑子、岡田峰陽,イメージングで見る感覚神経と皮膚バリアの関係,FRAGRANCE JOURNAL,2020年11月,pp.16-23
【文献】内山太平,セラミドはアトピー性皮膚炎の症状を大きく改善する,FRAGRANCE JOURNAL,2003年06月,pp.99-101
【文献】松下 啓、ほか,皮膚掻痒症,別冊 日本臨床 領域別症候群17,1997年07月31日,p.125-128
【文献】佐伯秀久,日本皮膚科学会アトピー性皮膚炎診療ガイドライン,医学のあゆみ,2009年01月03日,Vol.228, No.1,p.75-79
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00- 8/99
A61Q 1/00-90/00
A61P 1/00-43/00
A61K 31/00-31/80
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
α-フルオロメチルヒスチジン又はその薬理学的に許容可能な塩若しくはそのプロドラッグを有効成分として含有する、外用組成物として使用するための皮膚バリア機能向上または修復用組成物。
【請求項2】
α-フルオロメチルヒスチジン又はその薬理学的に許容可能な塩若しくはそのプロドラッグの含有量が組成物全体の1重量%以上である、請求項に記載の組成物。
【請求項3】
医薬品である、請求項1または2に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外用組成物、特に皮膚バリア機能向上又は修復用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒスタミンは、アミノ酸であるヒスチジンの脱炭酸反応で誘導され、血圧降下、血管透過性亢進、平滑筋収縮、血管拡張、腺分泌促進などの薬理効果があり、アレルギー反応や炎症の発現に介在物質として働くことが知られている(非特許文献1)。
【0003】
α-フルオロメチルヒスチジン(αFMH)は、α-ヒドラジノヒスチジン、ヒスチジンメチルエステル等とともに、ヒスタミン生合成酵素の働きを抑制する化合物として知られている。αFMHの、抗潰瘍剤(特許文献1)、喘息の治療薬(特許文献2)、育毛剤及び毛髪成長抑制剤(特許文献3、特許文献4)、並びに抗炎症/鎮痛剤(特許文献5)としての使用について報告がされている。また、α-ヒドラジノヒスチジン及びヒスチジンメチルエステルについても、終末糖化産物の形成阻害、アテローム硬化症及び糖尿病マーカー、タンパク質老化阻害、メイラード活性阻害、歯の変色防止、抗胃酸分泌剤、皮膚刺激抑制剤としての使用が報告されている(特許文献6~11)。
【0004】
ヒスタミンの作用として、皮膚バリアに関連するタンパク質発現を変化させることが報告されている(非特許文献2)。しかし、実際の皮膚でヒスタミンの生合成を抑制することによる効果を検証した報告はない。また、ヒスタミンH受容体やH受容体アンタゴニストによる皮膚バリアの改善が報告されている(非特許文献2)。これまでに種々の皮膚バリア機能改善剤が知られている(特許文献12~15)。また、皮膚バリア(表皮バリア)のダメージに起因する知覚過敏の改善に関しての報告もされている(特許文献16)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開昭57-059812号公報
【文献】特開平6-100446号公報
【文献】特開2004-191106号公報
【文献】特表平11-501035号公報
【文献】特開昭59-112917号公報
【文献】特表平9-511492号公報
【文献】特表平8-507516号公報
【文献】特表平7-503713号公報
【文献】特開平2-056413号公報
【文献】特開昭58-043970号公報
【文献】特表平10-513452号公報
【文献】特開2008-1599号公報
【文献】特開2019-199437号公報
【文献】特開2020-203862号公報
【文献】特開2021-17447号公報
【文献】特開2004-107250号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】里見正隆、日本食品科学工学会誌、57巻、2010年、8号
【文献】Y. Ashida et al., The Journal of Investigative Dermatology, VOL.116, No.2, February 2001, pp 261-265
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、皮膚バリア機能向上又は修復用組成物を提供することを目的としている。また、本発明は、知覚過敏の予防、改善又は治療用組成物を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は前記課題に鑑み、鋭意検討を行った結果、α-フルオロメチルヒスチジン(αFMH)又はその誘導体を有効成分として含有する組成物が皮膚バリア機能向上及び修復用途に有益であることを見出した。また、α-フルオロメチルヒスチジン(αFMH)又はその誘導体を有効成分として含有する組成物が知覚過敏の予防、改善又は治療用途に有益であることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて、さらに検討を重ねることにより完成したものである。
【0009】
即ち、本発明は下記に掲げる発明の態様を包含する。
【0010】
[1-1]α-フルオロメチルヒスチジン又はその誘導体を有効成分として含有する、皮膚バリア機能向上または修復用組成物。
【0011】
[1-2]α-フルオロメチルヒスチジン又はその誘導体を有効成分として含有する、知覚過敏の予防、改善または治療用組成物。
【0012】
[1-3]α-フルオロメチルヒスチジン又はその誘導体の含有量が組成物全体の1重量%以上である、[1-1]又は[1-2]に記載の組成物。
【0013】
[1-4]α-フルオロメチルヒスチジン又はその誘導体の含有量が組成物全体の3重量%以上である、[1-1]~[1-3]のいずれかに記載の組成物。
【0014】
[1-5]α-フルオロメチルヒスチジン又はその誘導体の含有量が組成物全体の6重量%以上である、[1-1]~[1-4]のいずれかに記載の組成物。
【0015】
[1-6]医薬品である、[1-1]~[1-5]のいずれかに記載の組成物。
【0016】
[1-7]α-フルオロメチルヒスチジンの誘導体が、その薬理学的に許容可能な塩である、[1-1]~[1-6]のいずれかに記載の組成物。
【0017】
[1-8]外用組成物として使用するための、[1-1]~[1-7]のいずれかに記載の組成物。
【0018】
[2-1]有効量のα-フルオロメチルヒスチジン又はその誘導体を含有する組成物を対象に投与することを含む、皮膚バリア機能向上または修復のための方法。
【0019】
[2-2]有効量のα-フルオロメチルヒスチジン又はその誘導体を含有する組成物を対象に投与することを含む、知覚過敏の予防、改善または治療のための方法。
【0020】
[2-3]α-フルオロメチルヒスチジン又はその誘導体の含有量が組成物全体の1重量%以上である、[2-1]又は[2-2]に記載の方法。
【0021】
[2-4]α-フルオロメチルヒスチジン又はその誘導体の含有量が組成物全体の3重量%以上である、[2-1]~[2-3]のいずれかに記載の方法。
【0022】
[2-5]α-フルオロメチルヒスチジン又はその誘導体の含有量が組成物全体の6重量%以上である、[2-1]~[2-4]のいずれかに記載の方法。
【0023】
[2-6]組成物が医薬品である、[2-1]~[2-5]のいずれかに記載の方法。
【0024】
[2-7]α-フルオロメチルヒスチジンの誘導体が、α-フルオロメチルヒスチジンの薬理学的に許容可能な塩である、[2-1]~[2-6]のいずれかに記載の方法。
【0025】
[2-8]組成物が外用組成物である、[2-1]~[2-7]のいずれかに記載の方法。
【0026】
[3-1]医薬品として使用されるα-フルオロメチルヒスチジン又はその誘導体。
【0027】
[3-2]皮膚バリア機能向上または修復において使用するための、[3-1]に記載のα-フルオロメチルヒスチジン又はその誘導体。
【0028】
[3-3]知覚過敏の予防、改善または治療において使用するための、[3-1]に記載のα-フルオロメチルヒスチジン又はその誘導体。
【0029】
[3-4]α-フルオロメチルヒスチジン又はその誘導体を組成物全体の1重量%以上の量で含有する組成物として投与される、[3-1]~[3-3]のいずれかに記載のα-フルオロメチルヒスチジン又はその誘導体。
【0030】
[3-5]α-フルオロメチルヒスチジン又はその誘導体を組成物全体の3重量%以上の量で含有する組成物として投与される、[3-1]~[3-4]のいずれかに記載のα-フルオロメチルヒスチジン又はその誘導体。
【0031】
[3-6]α-フルオロメチルヒスチジン又はその誘導体を組成物全体の6重量%以上の量で含有する組成物として投与される、[3-1]~[3-5]のいずれかに記載のα-フルオロメチルヒスチジン又はその誘導体。
【0032】
[3-7]α-フルオロメチルヒスチジンの誘導体がα-フルオロメチルヒスチジンの薬理学的に許容可能な塩である、[3-1]~[3-6]のいずれかに記載のα-フルオロメチルヒスチジン又はその誘導体。
【0033】
[3-8]組成物が外用組成物である、[3-4]~[3-6]のいずれかに記載のα-フルオロメチルヒスチジン又はその誘導体。
【0034】
[4-1]皮膚バリア機能向上または修復における、α-フルオロメチルヒスチジン又はその誘導体の非治療的使用。
【0035】
[4-2]知覚過敏の予防、または改善における、α-フルオロメチルヒスチジン又はその誘導体の非治療的使用。
【0036】
[4-3]α-フルオロメチルヒスチジン又はその誘導体を組成物全体の1重量%以上の量で含有する組成物としての、[4-1]又は[4-2]に記載の使用。
【0037】
[4-4]α-フルオロメチルヒスチジン又はその誘導体を組成物全体の3重量%以上の量で含有する組成物としての、[4-1]~[4-3]のいずれかに記載の使用。
【0038】
[4-5]α-フルオロメチルヒスチジン又はその誘導体を組成物全体の6重量%以上の量で含有する組成物としての、[4-1]~[4-4]のいずれかに記載の使用。
【0039】
[4-6]α-フルオロメチルヒスチジンの誘導体がα-フルオロメチルヒスチジンの薬理学的に許容可能な塩である、[4-1]~[4-5]のいずれかに記載の使用。
【0040】
[4-7]組成物が外用組成物である、[4-3]~[4-5]のいずれかに記載に使用。
【0041】
[5-1]皮膚バリア機能向上または修復において用いるための組成物を作製するための、α-フルオロメチルヒスチジン又はその誘導体の使用。
【0042】
[5-2]知覚過敏の予防、改善または治療において用いるための組成物を作製するための、α-フルオロメチルヒスチジン又はその誘導体の使用。
【0043】
[5-3]α-フルオロメチルヒスチジン又はその誘導体の含有量が組成物全体の1重量%以上である、[5-1]又は[5-2]に記載の使用。
【0044】
[5-4]α-フルオロメチルヒスチジン又はその誘導体の含有量が組成物全体の3重量%以上である、[5-1]~[5-3]のいずれかに記載の使用。
【0045】
[5-5]α-フルオロメチルヒスチジン又はその誘導体の含有量が組成物全体の6重量%以上である、[5-1]~[5-4]のいずれかに記載の使用。
【0046】
[5-6]組成物が医薬品である、[5-1]~[5-5]のいずれかに記載の使用。
【0047】
[5-7]α-フルオロメチルヒスチジンの誘導体が、その薬理学的に許容可能な塩である、[5-1]~[5-6]のいずれかに記載の使用。
【0048】
[5-8]組成物が外用組成物である、[5-1]~[5-7]のいずれかに記載の使用。
【発明の効果】
【0049】
本発明の皮膚バリア機能向上または修復組成物によれば、脆弱化した皮膚バリア機能を改善することができ、持続的にその効果を得ることができる。また、本発明の知覚過敏の予防、改善又は治療用組成物によれば、知覚過敏反応を抑制することができ、持続的にその効果を得ることができる。また、症状として発生した自発的な痒みに対する抑制効果は低い一方、通常ならば痒みを生じないような外的刺激を受けた後に生じる痒み過敏反応を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
図1図1は、1重量%、3重量%及び6重量%αFMH、1重量%ジフェンヒドラミン塩酸塩、ワセリン、並びに0.3重量%ヘパリン類似物質でマウスを処置した場合のマウスの角層水分量の経日的変化を示すグラフである。
図2図2は、1重量%、3重量%及び6重量%αFMH、1重量%ジフェンヒドラミン塩酸塩、ワセリン、並びに0.3重量%ヘパリン類似物質でマウスを処置した場合のマウスの経皮水分蒸散量(Transdermal epidermal loss;TEWL)の経日的変化を示すグラフである。
図3図3は、6重量%αFMHでマウスを処置した場合のマウスの痒み反応の経日的変化を示すグラフである。
図4図4は、1重量%、3重量%及び6重量%αFMH、1重量%ジフェンヒドラミン塩酸塩、ワセリン、並びに0.3重量%ヘパリン類似物質でマウスを処置した場合のマウスの痒み過敏反応(アロネーシス:Alloknesis)の経日的変化を示すグラフである。Y軸は実験器具[von Frey filament(室町機械株式会社製)、ターゲットフォース:0.07g]で一回非侵襲的な刺激を加えた後にマウスが後肢で引っ掻いた場合を1カウントとし、同様の操作を合計15回行った際のカウント数(アローネシススコア)を示している。
図5図5は、1重量%、3重量%及び6重量%αFMH、並びに1重量%ジフェンヒドラミン塩酸塩でマウスを処置した場合の痒み過敏反応(アロネーシス:Alloknesis)の経時的変化を示すグラフである。Y軸は実験器具[von Frey filament(室町機械株式会社製)、ターゲットフォース:0.07g]で一回非侵襲的な刺激を加えた後にマウスが後肢で引っ掻いた場合を1カウントとし、同様の操作を合計15回行った際のカウント数(アロネーシススコア)を示している。
図6図6は、実施例1及び2における試験のタイムラインを示す図である。
図7図7は、実施例1及び2におけるマウスの刺激部位を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0051】
一つの側面において、本発明はα-フルオロメチルヒスチジン又はその誘導体を有効成分として含有する皮膚バリア機能向上または修復用組成物を提供する。皮膚バリア機能とは、皮膚の角層や表皮に担われる機能であり、生体を構成する細胞や組織の活動に不可欠な水分の喪失を防ぎ、外界からの刺激やウィルスや細菌などの物質の体内への侵入を防ぐ機能である。一つの態様において、皮膚バリア機能は、発汗しない条件下での経表皮水分蒸散量(Transdermal epidermal loss;TEWL)の測定で、(g/m・h)を単位として評価できる(日本化粧品技術者会編、化粧品事典、丸善株式会社、平成17年、P83-84)。
【0052】
一つの側面において、本発明はα-フルオロメチルヒスチジン又はその誘導体を有効成分として含有する知覚過敏の予防、改善又は治療用組成物を提供する。ここで、知覚過敏とは、通常ならば痒みを生じないような弱い外的刺激、特に表皮への外的刺激、に対する感受性が増大することにより生じる症状を意味し、痒み過敏とも称される。本発明における知覚過敏症状としては、皮膚炎に伴う症状が挙げられる。皮膚炎に伴う症状には、表皮における痛みや痒みがあり、特に痒みを主訴とするものが挙げられる。本発明において知覚過敏はアロネーシス(通常は痒みを生じない刺激で痒みが起こる状態)スコアによって測定される。
【0053】
本発明の一つの態様において、αFMHの誘導体は、αFMHの薬理学的に許容可能な塩である。「薬理学的に許容可能な塩」とは、例えば、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩若しくはリン酸塩等の無機酸塩、シュウ酸塩、マロン酸塩、クエン酸塩、フマル酸塩、乳酸塩、リンゴ酸塩、コハク酸塩、酒石酸塩、酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、マレイン酸塩、グルコン酸塩、安息香酸塩、アスコルビン酸塩、グルタル酸塩、マンデル酸塩、フタル酸塩、メタンスルホン酸塩(メシル酸塩)、エタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩(トシル酸塩)、カンファースルホン酸塩、アスパラギン酸塩、グルタミン酸塩若しくはケイ皮酸塩等の有機酸塩、トリエチルアミン塩、ジイソプロピルエチルアミン塩、エタノールアミン塩、モルホリン塩、ピペリジン塩若しくはジシクロヘキシルアミン塩等の有機塩基との塩、アルギニン若しくはリジン等の塩基性アミノ酸との塩又はリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、アンモニウム塩、アルミニウム塩若しくは亜鉛塩等の無機塩基との塩が挙げられる。
【0054】
本発明の一つの態様において、αFMHの誘導体は、αFMHのプロドラッグの形態であってもよい。「プロドラッグ」とは、生体内においてαFMH又はその薬理学的に許容可能な塩に変換されうる化合物を意味する。
【0055】
αFMHのプロドラッグとしては、αFMHのカルボキシ基がエステル化又はアミド化された化合物が挙げられる。具体的には、αFMHのカルボキシ基が、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、プロポキシカルボニル基、イソプロポキシカルボニル基、ブトキシカルボニル基、フェノキシカルボニル基等の(C1-6アルコキシ)カルボニル基;カルボキシメトキシカルボニル基;ジメチルアミノメトキシカルボニル基;ピバロイルオキシメトキシカルボニル基、アセチルオキシメトキシカルボニル基等の(C1-6アルキル)カルボニルオキシ(C1-6アルキル)カルボニル基;メトキシカルボニルオキシメトキシカルボニル基、エトキシカルボニルオキシエトキシカルボニル基、イソプロポキシカルボニルオキシメトキシカルボニル基、tert-ブトキシカルボニルオキシメトキシカルボニル基等の(C1-6アルコキシ)カルボニルオキシ(C1-6アルコキシ)カルボニル基;フタリジルオキシカルボニル基、(5-メチル-2-オキソ-1,3-ジオキソレン-4-イル)メトキシカルボニル基、シクロヘキシルオキシカルボニルエトキシカルボニル基、メチルアミノカルボニル基に置換される化合物が例示される。
【0056】
また、αFMHのアミノ基がアシル化、アルキル化、リン酸化された化合物が挙げられる。具体的には、αFMHのアミノ基が、アセチルアミノ基、プロピオニルアミノ基、ブチリルアミノ基、イソブチリルアミノ基、ピバロイルアミノ基、ペンタノイルアミノ基等の(C1-6アルキル)カルボニルアミノ基;t-ブトキシカルボニルアミノ基等の(C1-6アルコキシ)カルボニルアミノ基;エイコサノイルアミノ基、カルボキシメチルメチルアミノ基、(5-メチル-2-オキソ-1,3-ジオキソレン-4-イル)メトキシカルボニルアミノ基、テトラヒドロフラニルアミノ基、ピロリジルメチルアミノ基、ピバロイルオキシメチルアミノ基、t-ブチルアミノ基に置換される化合物が例示される。
【0057】
本発明の組成物は、常法にしたがって、薬学的に許容される担体を混合した皮膚バリア機能向上又は修復用組成物として、又は、知覚過敏の予防、改善又は治療用組成物として、例えば、注射剤、坐剤、皮膚外用剤等の形態で非経口的に投与することができる。
【0058】
本発明の組成物は、非治療的用途に使用することができる。ここで「非治療的用途」とは、医療行為を含まない用途、すなわち人間を治療する用途を含まないことを意味する。より具体的には、非治療的用途は、例えば、医師又は医師の指示を受けた者が人間に対して治療を実施するための用途を含まないことを意味する。
【0059】
本発明の皮膚外用剤とは、化粧品、医薬部外品、外用医薬品を含み、製剤形態として、例えば、化粧水、乳液、クリーム、ローション、エッセンス、パック、口紅、ファンデーション、リクイドファンデーション、ジェル、メイクアッププレスパウダー、ほほ紅、白粉、口紅類、洗顔料、ボディシャンプー、スリミング剤、毛髪用シャンプー、毛髪用リンス、トリートメント、石けん等が挙げられ、また、浴剤等の化粧品;クリーム剤、ローション剤、ジェル剤、乳液剤、液剤、パップ剤、貼り付け剤、リニメント剤、エアゾール剤、軟膏剤、パック剤等の医薬品が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0060】
皮膚外用剤には、本発明に係る有効成分の他に、皮膚外用剤に用いられる成分、例えば油性成分、界面活性剤(合成系、天然物系)、保湿剤、増粘剤、防腐・殺菌剤、粉体成分、紫外線吸収剤、抗酸化剤、色素、香料等を必要に応じて適宜配合することができる。本発明の皮膚外用剤において、これらの添加剤を含有させる場合、その含有量については、使用する添加剤の種類等に応じて適宜設定すればよい。また、本発明の有効性、特長を損なわない限り、他の生理活性成分を組み合わせて配合することもできる。
【0061】
皮膚外用剤の剤型については、経皮適用可能である限り特に制限されず、液状、固形状、半固形状(クリーム状、ゲル状、軟膏状、ペースト状)、泡状等のいずれであってもよい。また、本発明の組成物は、水中油型乳化製剤、油中水型乳化製剤等の乳化製剤であってもよく、また可溶化型製剤、水性軟膏等の非乳化製剤であってもよい。
【0062】
本発明の皮膚バリア機能向上又は修復用組成物は、低下した皮膚バリア機能の修復、健全な状態にある皮膚バリア機能の維持・向上、皮膚バリア機能の低下抑制等の用途に使用される。本発明の知覚過敏の予防、改善又は治療用組成物は、痒み又は痛みなどの表皮の知覚過敏の予防、改善又は治療等の用途に使用される。
【0063】
本発明の組成物中のα-フルオロメチルヒスチジンの濃度は、1重量%以上、好ましくは3重量%以上、さらに好ましくは6重量%以上である。
【0064】
本発明の組成物は体の特定部位に適用することができる。例えば、頭、顔、首、脚、足、腕、手、胴、腹又は背に適用することが出来る。
【実施例
【0065】
実施例1:皮膚バリア修復効果の評価試験
70重量%エタノールを溶媒とする10重量%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)溶液を調製し、Hos:HR-1ヘアレスマウス(株式会社 星野試験動物飼育所)(7週齢の雄、6―8匹/群)に1日1回、4日間続けて吻側背部に50μLを、ピペットを使って塗布した。実験開始日を第0日とした時、第2日にSDS皮膚炎が観察された。第2日の10重量%SDS溶液の塗布から3時間経過後、SDS塗布部位に50重量%エタノールを溶媒とする各評価薬物(αFMH(MedKoo Biosciences, Inc.)、ジフェンヒドラミン塩酸塩(アスゲン製薬株式会社)、ワセリン(日興リカ株式会社)、ヘパリン類似物質(アピ株式会社))溶液を塗布した。薬物は1日1回、2日間続けて吻側背部に30μLを、ピペットもしくはシリンジを使って塗布した。各日のSDS溶液塗布前(前日のSDS溶液塗布から22~24時間後)に皮膚の状態を評価する目的で、皮膚乾燥の指標としての角層水分量をMoisture Checker(登録商標)(Scalar Corp.)を用いて測定し、及び皮膚バリアの指標としての経表皮水分蒸散量(TEWL)をVapometer(Keystone Scientific Co., Ltd.)を用いて測定し、非侵襲的な刺激がない状態で痒みの程度を評価する目的でマウスの後肢によるSDS塗布部位への掻破行動を無人環境下でビデオ撮影し、撮影後に動画データを観察することで評価した。SDS溶液塗布、評価薬物塗布、及び測定のタイムラインを図6に示す。試験結果を以下の表1~2及び図1~2に示す。角層水分量の試験結果から、角層水分量における各評価薬物の効果に差はなく、保湿能は同等であった。
【0066】
【表1】
経表皮水分蒸散量(TEWL)の試験結果から、αFMHの投与マウスにおいて経皮水分蒸散量の低減効果、すなわち皮膚バリア修復効果が確認された。1重量%αFMHの投与マウスにおいてその効果は既存保湿医薬品(ワセリン、ヘパリン類似物質)や既存外用抗ヒスタミン薬(ジフェンヒドラミン塩酸塩)よりも優れていた。
【0067】
【表2】
実施例2:痒み反応及び痒み過敏反応の評価試験
実施例1と同様に、70重量%エタノールを溶媒とする10重量%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)溶液を準備し、Hos:HR-1ヘアレスマウス(株式会社 星野試験動物飼育所)(7週齢の雄、6―8匹/群)の吻側背部に1日1回、4日間続けて塗布した。実験開始日を第0日とした時、第2日にSDS皮膚炎が観察された。第2日の10重量%SDS溶液の塗布から3時間経過後、SDS塗布部位に各評価薬物(αFMH、ジフェンヒドラミン塩酸塩、ワセリン、ヘパリン類似物質)を塗布した。薬物塗布は1日1回、2日間連続で行った。各日のSDS溶液塗布前に、実験器具[von Frey filament(室町機械株式会社製)(室町機械株式会社製)、ターゲットフォース:0.07g]を用いて非侵襲的な刺激をマウスの吻側背部のSDS皮膚炎の炎症周囲(図7参照)に加え、刺激した部位およびその周囲を後肢で引っ掻くか否かで知覚過敏反応を評価した。また、SDS皮膚炎による自発的な痒みが発生するかについて、非侵襲的な刺激がない状態でのマウスの後肢によるSDS塗布部位への掻破行動を、無人環境下でビデオ撮影し、撮影後に動画データを観察することにより評価した。SDS溶液塗布、評価薬物塗布、及び測定のタイミングを図6に示す。痒み反応の試験結果は表3及び図3に示されている。試験結果から、αFMHの投与はマウスの痒み反応に影響を及ぼさないことが確認された。具体的には、6重量%αFMHを投与したマウスにおいて、第3日には掻破回数が減少したが、第4日ではその痒み抑制効果が認められなかったことからαFMHの鎮痒作用は小さいことが示唆された。
【0068】
【表3】
知覚過敏反応の試験結果を表4及び図4に示す。試験結果から、αFMHに知覚過敏抑制効果があり、その効果は1重量%αFMHにおいて、既存保湿医薬品(ワセリン、ヘパリン類似物質)や既存外用抗ヒスタミン薬(ジフェンヒドラミン塩酸塩)よりも優れていることが確認された。3重量%及び6重量%αFMHで顕著な効果が見られた。
【0069】
【表4】
実施例3:知覚過敏反応の評価試験
実験開始日を第0日とし、第2日の10重量%SDS溶液の塗布から3時間経過後、Hos:HR-1ヘアレスマウス(株式会社 星野試験動物飼育所)(7週齢の雄、6―8匹/群)のSDS塗布部位に各評価薬物(αFMH、ジフェンヒドラミン塩酸塩)を塗布した。その塗布直前と塗布から30分おきにタッチテストを実施した。具体的には、塗布直前、塗布30分後、60分後、90分後、120分後の5時点で、実験器具[von Frey filament(室町機械株式会社製)、ターゲットフォース:0.07g]を用いて非侵襲的な刺激をマウスの吻側背部のSDS皮膚炎の炎症周囲(図7参照)に加え、刺激した部位およびその周囲を後肢で引っ掻くか否かを、無人環境下でビデオ撮影し、撮影後に動画データを観察することにより評価した。試験結果を表5及び図5に示す。試験結果から、1重量%αFMHは塗布30分後から知覚過敏抑制効果を示し、その効果は既存外用抗ヒスタミン薬(ジフェンヒドラミン塩酸塩)よりも優れていることが確認された。
【0070】
【表5】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7