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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-18
(45)【発行日】2023-04-26
(54)【発明の名称】河川の改修方法および河川構造物
(51)【国際特許分類】
   E02B 3/00 20060101AFI20230419BHJP
   E02B 3/12 20060101ALI20230419BHJP
【FI】
E02B3/00
E02B3/12
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022175796
(22)【出願日】2022-11-01
【審査請求日】2022-11-07
(31)【優先権主張番号】P 2022111431
(32)【優先日】2022-07-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】592141765
【氏名又は名称】株式会社久保製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100134979
【弁理士】
【氏名又は名称】中井 博
(74)【代理人】
【識別番号】100167427
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】中村 守
【審査官】石川 信也
(56)【参考文献】
【文献】特開昭48-095043(JP,A)
【文献】登録実用新案第3118346(JP,U)
【文献】特開2013-167115(JP,A)
【文献】特開平11-061775(JP,A)
【文献】特開2010-007387(JP,A)
【文献】特開2006-283505(JP,A)
【文献】特開2003-164891(JP,A)
【文献】特開2004-330066(JP,A)
【文献】特開平03-278888(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02B 3/00- 3/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
河川における堤防間に設けられる構造物であって、
予め定められた限界液面の高さに床面を有するベース構造体と、
該ベース構造体の上方に間隔を空けて設けられる、内部に中空な空間を有する設備構造体と、
前記ベース構造体より上流側の河川の低水路の底床に設けられた、河川の水を貯留する貯留槽と、
該貯留槽内の水を前記設備構造体の中空な空間に供給する供給部と、
前記設備構造体の下流側に設けられ、該設備構造体の中空な空間内の水を河川に落下させる落下流路と、
該落下流路に設けられた発電機と、を備えており、
前記貯留槽は、
河川の低水路の底床よりも下方に位置する内底を有している
ことを特徴とする河川構造物。
【請求項2】
前記設備構造体の中空な空間は、
前記供給部から供給される水が貯留される受水槽と、
前記落下流路に排水する水が貯留される排水槽と、
前記受水槽と前記排水槽との間に設けられた浄水設備と、を備えている
ことを特徴とする請求項1記載の河川構造物。
【請求項3】
前記ベース構造体と前記設備構造体との間には、河川の水を流す流路空間が設けられている
ことを特徴とする請求項1または2記載の河川構造物。
【請求項4】
前記設備構造体には、
中空な空間を覆う天井部材が設けられており、
該天井部材には太陽光発電パネルが設けられている
ことを特徴とする請求項1または2記載の河川構造物。
【請求項5】
前記ベース構造体の上流側には、
河川における低水路と高水敷との境界に、該境界を掘削して河川の流れる方向に沿って形成された平坦な設置底に河川の流れる方向に沿って並べて設置された複数の護岸ボックスで形成された一対の護岸構造物を備えており、
各護岸ボックスは、
中空な箱状体の内部に、低水路の底床および中洲の土砂を浚渫した土砂を封入したものである
ことを特徴とする請求項1または2記載の河川構造物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、河川の改修方法および河川構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、巨大台風や集中豪雨等により、各地の河川堤体が決壊し、甚大な被害が発生している。河川堤体の多くは、古くから様々な土質材料を用いた土堤で築造されており、洪水時の越流や土堤内の浸透、または侵食により破堤する事例が多く報告されている。
【0003】
かかる既設堤体を補強するための堤補強構造として、特許文献1に記載の技術が開発されている。特許文献1の技術は、堤体の表面を、堤体または堤体の周辺地盤を構成している現地土砂、セメント材、短繊維材、遮水材及び水を混合してなる改良土にて造成するものである。
【0004】
また、特許文献2には、岸から一定の距離に矢板を設置して、矢板と岸との間に河川底部の汚泥とセメントを混ぜて投入し固化することによって河川周辺に地盤を造成する技術が開示されている。
【0005】
また、特許文献3には、上部に開口を有する護岸ブロックを堤体の表面に積み重ねて並べることによって護岸を形成する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2022-062469号公報
【文献】特開昭48-95043号公報
【文献】実用新案登録第3118346号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかるに、特許文献1、2の技術は、堤体の表面や堤体に対して低水路側に地盤を造成するものに過ぎず、また、特許文献3の技術は、堤体の表面や護岸ブロックを並べて堤体の表面を補強する技術であり、いずれの技術も既設の堤体と別に護岸を形成する技術ではない。また、特許文献1~3の技術では、既設の堤体は強化できても、洪水を十分に防ぐことができるものではなく、洪水をより効果的に防ぐことができる技術が求められている。
【0008】
また、洪水に限らず種々の災害において飲用水や電力などの供給不足が発生するが、河川の水を災害時の飲用水の供給源としたり電力源したりとすることができれば有効である。しかし、災害時に河川の水を有効活用する設備は十分ではない。
【0009】
本発明は上記事情に鑑み、河川の水を有効活用できる河川構造物を提供することを目的とする。
また、本発明は、洪水を効果的に防ぐことができる河川の改修方法および河川構造物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
<河川構造物>
第1発明の河川構造物は、河川におけると堤防間に設けられる構造物であって、予め定められた限界液面の高さに床面を有するベース構造体と、該ベース構造体の上方に間隔を空けて設けられる、内部に中空な空間を有する設備構造体と、前記ベース構造体より上流側の河川の低水路の底床に設けられた、河川の水を貯留する貯留槽と、該貯留槽内の水を前記設備構造体の中空な空間に供給する供給部と、前記設備構造体の下流側に設けられ、該設備構造体の中空な空間内の水を河川に落下させる落下流路と、該落下流路に設けられた発電機と、を備えており、前記貯留槽は、河川の低水路の底床よりも下方に位置する内底を有していることを特徴とする。
第2発明の河川構造物は、第1発明において、前記設備構造体の中空な空間は、前記供給部から供給される水が貯留される受水槽と、前記落下流路に排水する水が貯留される排水槽と、前記受水槽と前記排水槽との間に設けられた浄水設備と、を備えていることを特徴とする。
第3発明の河川構造物は、第1または第2発明において、前記ベース構造体と前記設備構造体との間には、河川の水を流す流路空間が設けられていることを特徴とする。
第4発明の河川構造物は、第1または第2発明において、前記設備構造体には、中空な空間を覆う天井部材が設けられており、該天井部材には太陽光発電パネルが設けられていることを特徴とする。
第5発明の河川構造物は、第1または第2発明において、前記ベース構造体の上流側には、河川における低水路と高水敷との境界に、該境界を掘削して河川の流れる方向に沿って形成された平坦な設置底に河川の流れる方向に沿って並べて設置された複数の護岸ボックスで形成された一対の護岸構造物を備えており、各護岸ボックスは、中空な箱状体の内部に、低水路の底床および中洲の土砂を浚渫した土砂を封入したものであることを特徴とする。
<護岸構造物>
第6発明の河川構造物は、河川における低水路と高水敷との境界に、該境界を掘削して河川の流れる方向に沿って形成された平坦な設置底に河川の流れる方向に沿って並べて設置された複数の護岸ボックスで形成された一対の護岸構造物を備え、各護岸ボックスは、中空な箱状体の内部に、低水路の底床および中洲の土砂を浚渫した土砂を封入したものであることを特徴とする。
第7発明の河川構造物は、第6発明において、前記一対の護岸構造物間をつなぐように設置された堰構造物を備えており、該堰構造物は、複数の前記護岸ボックスを連結して形成されたものであることを特徴とする。
第8発明の河川構造物は、第7発明において、前記堰構造物は、上流から下流に水を通す水路を有しており、該水路には水力発電装置が設置されていることを特徴とする。
<河川の改修方法>
第9発明の河川の改修方法は、河川におけると低水路と高水敷との境界を掘削して河川の流れる方向に沿って平坦な設置底を形成し、形成された設置底に上端に開口を有する中空な複数の護岸ボックスを河川の流れる方向に沿って並べて設置し、低水路の底床および/または中洲の土砂を浚渫し浚渫した土砂を複数の護岸ボックス内に投入し、複数の護岸ボックス内に所定の量の土砂を収容すると、複数の護岸ボックスの開口を密閉し、一対の護岸構造物を形成することを特徴とする。
第10発明の河川の改修方法は、第9発明において、浚渫機器を設置した浮遊体を河川の水に浮かべ、浮遊体を河川の流れる方向に沿って移動させながら低水路の底床および/または中洲の土砂を浚渫し、浚渫した土砂を複数の護岸ボックス内に投入することを特徴とする。
第11発明の河川の改修方法は、第10発明において、前記浚渫機器は、前記浮遊体に設けられた開口を通して昇降する中空な箱状体の浚渫容器と、該浚渫容器を昇降させる昇降装置と、前記浚渫容器内の土砂を吸引する吸引装置と、を備えており、前記浚渫容器は、上端が天井壁によって閉塞され下端に開口が形成された中空な箱状体であり、前記昇降装置は、前記浚渫容器内に土砂が入るように、前記浚渫容器の下端部を低水路の底床および/または中洲の土砂に押し付ける機能を有しており、前記吸引装置によって前記浚渫容器内から吸い上げた土砂を複数の護岸ボックスに供給することを特徴とする。
第12発明の河川の改修方法は、第9発明において、前記一対の護岸構造物間を横断するように中空な複数の護岸ボックスを並べて設置し、低水路の底床および/または中洲の土砂を浚渫し浚渫した土砂を複数の護岸ボックス内に投入し、複数の護岸ボックス内に所定の量の土砂を収容すると、複数の護岸ボックスの開口を密閉し、堰構造物を形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
<河川構造物>
第1発明によれば、河川の水を有効活用しやすくなる。
第2発明によれば、浄水設備によって河川の水を浄化すれば、河川の水を飲料水や生活用水としてしようできる。すると、災害時に河川の水を有効に利用することができる。
第3発明によれば、河川が増水しても設備構造体などの損傷を防止しつつ発電などを実施することができる。
第4発明によれば、設備構造体が設けられている領域を発電に有効利用することができる。
第5発明によれば、河川におけると低水路と高水敷との境界に複数の護岸ボックスを並べて形成された一対の護岸構造物が設けられているので、堤防の強度を高くできる。しかも、護岸ボックス内に低水路の底床および/または中洲の土砂を浚渫した土砂を収容するので、低水路の水の流れを良好にできるし浚渫した土砂の処理も容易になる。
<河川構造物>
第6発明によれば、河川におけると低水路と高水敷との境界に複数の護岸ボックスを並べて形成された一対の護岸構造物が設けられているので、堤防の強度を高くできる。しかも、護岸ボックス内に低水路の底床および/または中洲の土砂を浚渫した土砂を収容するので、低水路の水の流れを良好にできるし浚渫した土砂の処理も容易になる。
第7、第8発明によれば、堰構造物を設置するので河川の水の利用を促進できる。
<河川の改修方法>
第9発明によれば、河川におけると低水路と高水敷との境界に複数の護岸ボックスを並べて一対の護岸構造物を形成するので、堤防の強度を高くできる。しかも、護岸ボックス内に低水路の底床および/または中洲の土砂を浚渫した土砂を収容するので、低水路の水の流れを良好にできるし浚渫した土砂の処理も容易になる。
第10発明によれば、低水路の底床および/または中洲の土砂の浚渫を効果的に実施できるし、複数の護岸ボックスの設置も効率よく実施することができる。
第11発明によれば、低水路の底床および/または中洲の土砂の浚渫を効果的に実施できる。
第12発明によれば、堰を設置するので河川の水の利用を促進できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】(A)は本実施形態の護岸構造物1を設けた河川Rの概略断面図であり、(B)は本実施形態の護岸構造物1を設けた河川Rの概略平面図である。
図2】本実施形態の河川の改修方法の概略作業図である。
図3】(A)は浚渫装置30の概略正面図あり、(B)は浚渫装置30の概略平面図ある。
図4】(A)は堰構造物3を有する本実施形態の護岸構造物1を設けた河川Rの概略断面図であり、(B)は堰構造物3を有する本実施形態の護岸構造物1を設けた河川Rの概略平面図である。(C)は堰構造物3の概略断面図である。
図5】(A)は浚渫容器33内に容器41を有する浚渫装置30の概略正面図であり、(B)は浚渫容器33内に容器41を有する浚渫装置30のB-B線断面図である。
図6】容器41に破砕装置43gを設け配管36を固定した状態の浚渫装置30の概略正面図である。
図7】本実施形態の河川構造物100を設けた河川Rの概略平面図である。
図8】本実施形態の河川構造物100を設けた河川Rの概略平面図であって、天井部材110cを取り外した状態の概略説明図である。
図9】本実施形態の河川構造物100を設けた河川Rの概略縦断面図である。
図10】他の実施形態の河川構造物100を設けた河川Rの概略平面図であって、天井部材110cを取り外した状態の概略説明図である。
図11】他の実施形態の河川構造物100を設けた河川Rの概略縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本実施形態の河川の改修方法は、河川の氾濫などを防止することができ、河川にある砂などを有効に活用できるようにしたものである。
【0014】
<河川の構造>
まず、本実施形態の河川の改修方法を説明する前に、本実施形態の河川の改修方法を採用する河川の構造について説明する。
【0015】
図2(A)に示すように、本実施形態の河川の改修方法を採用する河川Rは、低水路LRと、高水敷HRと、堤防Bと、を有するものである。
低水路LRは常に水Wが流れる水路であり、高水敷HRは低水路LRよりも一段高くなっている水路であり、河川Rを流れる水が多くなったとき、例えば、洪水時などに水Wが流れる領域である。
堤防Bは、計画高水位以下の水位の場合に水Wを安全に流すことができるように設計されている。以下の本実施形態の河川の改修方法では、低水路LRの幅が狭まる可能性はあるが、改修前の河川Rにおいて計画高水位となる水量が改修後の河川Rに流れても、計画高水位はほとんど変わらないように設計される。
【0016】
<本実施形態の河川の改修方法>
本実施形態の河川の改修方法は、図2(A)に示すような構造を有する河川Rを改修する方法である。つまり、図2(A)に示すような構造を有する河川Rを、図1に示すような護岸構造物1を有する河川Rに改修する改修方法である。
【0017】
<護岸構造物1>
図1に示すように、護岸構造物1は、低水路LRと高水敷HRの境界に、複数の護岸ボックス10を並べて形成された護岸壁2を一対備えている。つまり、低水路LRを水Wが流れる方向(以下流路方向Dという場合がある)と交差する方向から挟むように 一対の護岸壁2,2が設けられている。
【0018】
護岸壁2を構成する各護岸ボックス10は、後述する改修方法において低水路LRの底床LBおよび/または中洲SDの土砂を浚渫した土砂を収容した状態で、低水路LRと高水敷HRの境界部分における低水路LRの底床LBに形成された設置底SB(以下単に設置底SBという場合がある)上に設置されるものである。
【0019】
護岸ボックス10は、内部に中空な空間を有する直方体であり、例えば、ステンレスなどの金属製の鉄板を溶接などで連結して形成されたものである。護岸ボックス10は、例えば、厚さ2~3mm厚のステンレス板を連結して、高さ3~8m(好ましくは5~6m)、奥行き2~5m(好ましくは3~5m)、幅が高さ2~6m(好ましくは5~6m)に形成されたものである。
【0020】
護岸ボックス10は、上端に開口を有する有底角筒状の本体部11の開口11aを蓋部材12によって塞いで形成されたものである。具体的には、護岸ボックス10は、開口11aを通して中空な空間11h内に土砂を投入した後、蓋部材12を本体部11の開口11aに溶接などの方法で取り付けて形成されたものである(図1(A)参照)。つまり、護岸ボックス10は、低水路LRの底床LBに形成された設置底SBに設置してから完成されたものである。
【0021】
そして、一対の護岸壁2,2は、複数の護岸ボックス10を連結することによって形成されている。具体的には、複数の護岸ボックス10が流路方向Dに沿って設置底SB上に並ぶように配置されたのち、隣接する護岸ボックス10を連結することによって一対の護岸壁2,2は形成されている。
【0022】
<河川の改修方法について>
上述したような一対の護岸壁2,2を有する護岸構造物1を形成する方法を以下に説明する。
【0023】
まず、護岸ボックス10を設置する低水路LRと高水敷HRの境界部分に低水路LRの底床LBを水平に近づけるように掘削などを実施し設置底SBを形成する(図2(B)参照)。設置底SBは流路方向Dに沿って所定の長さ(例えば1km等)だけ形成する。
【0024】
設置底SBを形成すると、設置底SBの長さ方向(つまり流路方向D)に沿って、設置底SBが設けられている領域全体に、護岸ボックス10の本体部11を並べて設置する。このとき、護岸ボックス10の本体部11は、その開口11aが上方を向いた状態になるように並べて設置する(図2(C)参照)。
【0025】
設置底SBに護岸ボックス10の本体部11を設置すると、隣接する護岸ボックス10の本体部11同士を溶接やボルト結合などの方法で連結して護岸ボックス列を形成する。護岸ボックス列が形成されると、浮遊体31に浚渫機器32を備えた浚渫装置30を河川Rの水Wに浮かべて、低水路LRの底床LBおよび/または中洲SDの土砂を浚渫する(図2(C)参照)。そして、浚渫した土砂を浚渫装置30の浚渫機器32によって、複数の護岸ボックス10の本体部11の空間11h内に投入する。
【0026】
浚渫装置30を河川Rの流れる方向に沿って移動させながら上記作業を実施することによって、浚渫機器32によって、護岸ボックス列の複数の護岸ボックス10の本体部1111の空間11h内に浚渫した土砂を投入する。なお、「浚渫装置30を河川Rの流れる方向に沿って移動させながら上記作業を実施する」とは、浚渫装置30を移動しながら浚渫作業や土砂を本体部11の空間11h内に投入する作業を実施する場合と、浚渫作業や土砂を本体部11の空間11h内に投入する作業の際には浚渫装置30を停止する場合の両方を含んでいる。
【0027】
護岸ボックス列を形成する全ての護岸ボックス10の本体部11の空間11h内に土砂を投入すると、蓋部材12を本体部11の開口11aに配置して蓋部材12と本体部11とを連結し、蓋部材12によって本体部11の空間11hを密閉する。蓋部材12と本体部11との連結は溶接によって実施する。例えば、河川Rの堤防Bに沿って移動する溶接機を設け、この溶接機によって全ての護岸ボックス10における蓋部材12と本体部11とを連結して護岸ボックス列の全ての護岸ボックス10を密閉すれば護岸壁2が完成する。そして、両岸に護岸壁2を形成すれば、護岸構造物1を流路方向Dに沿って所定の長さにわたって形成することができる(図2(D)参照)。
【0028】
以上のような方法で護岸構造物1を形成すれば、低水路LRの底床LBや中洲SDの土砂を低水路LRから除去することができるので、河川Rの水流を安定した状態に維持できるし、河川Rの氾濫を抑制し易くなる。
【0029】
また、護岸壁2を構成する護岸ボックス10内に低水路LRの底床LBや中洲SDから除去した土砂を収容しておくことができるので、土砂の処理が容易になるし、除去した土砂を護岸に有効に利用できる。
【0030】
また、土砂を収容する護岸ボックス10を耐食性の高い金属で形成すれば、長期間にわたって低水路LRと高水敷HRの境界部分を強化できるので、長期間にわたって河川Rの強度を高くできる。なお、常時水につかっている部分であれば、耐食性の高い金属でなくてもよく、一般的な鋼板で形成してもよい。
【0031】
なお、護岸構造物1を形成した河川Rでは、一対の護岸壁2,2が設置されかつ低水路LRの底床LBが浚渫されるため、通常水Wが流れる部分、つまり、低水路LRに相当する部分の幅は元の低水路LRの幅よりも狭くなり、低水路LRの深さは元の低水路LRの深さより深くなる。例えば、護岸構造物1を形成した河川Rにおいて、低水路LRに相当する部分の幅は元の低水路LRの幅の1/2程度とすることができ、低水路LRに相当する部分の深さは元の低水路LRの深さの3~6倍程度とすることができる。なお、護岸構造物1を形成した河川Rにおいて、低水路LRに相当する部分の幅や深さは上記範囲に限られず、河川Rの状態などに応じて適切に調整すればよい。
【0032】
<護岸ボックス10の固定について>
複数の護岸ボックス10のうち、隣接する護岸ボックス10同士は、溶接やボルト止め等の方法で連結されるが、隣接する護岸ボックス10同士を連結する方法はとくに限定されない。
【0033】
また、各護岸ボックス10には土砂が収容されており、一つの護岸ボックス10だけでも数t以上あるので、複数の護岸ボックス10が連結されていれば、必ずしも護岸ボックス10を低水路LRの底床LBに杭などで固定しなくてもよい。しかし、一対の護岸壁2,2の安定性を高める上では、複数の護岸ボックス10の全てまたは複数の護岸ボックス10のうちいくつか護岸ボックス10を杭などで低水路LRの底床LBに固定しておくことが望ましい。
【0034】
<護岸ボックス10の形状について>
護岸ボックス10の大きさは上述したサイズに限定されない。護岸ボックス10のサイズは護岸ボックス10によって一対の護岸壁2,2を形成する河川Rの大きさや形状(例えば、低水路LRと高水敷HRの段差の大きさ等)に合せて適切な大きさに形成すればよい。
【0035】
また、護岸ボックス10の形状も上述した形状に限定されない。護岸ボックス10は、例えば、その断面が三角形や五角形等の多角形であってもよいし、断面が円形であってもよい。また、護岸ボックス10は、直方体に限られず立方体でもよい。護岸ボックス10によって一対の護岸壁2,2を形成する河川Rの状態に合せて適切な大きさや形状に形成すればよい。なお、護岸ボックス10は、隣接する護岸ボックス10同士の連結を強くする上では、側面が平面になっているものが望ましい。つまり、護岸ボックス10は、隣接する護岸ボックス10同士が接触する面が平面になっているものが望ましい。
【0036】
また、一対の護岸壁2,2を形成する護岸ボックス10は、全ての同じ大きさ同じ形状のもので形成しなくてもよい。河川Rの大きさや形状(例えば、低水路LRと高水敷HRの段差の大きさ等)に合せて、異なる形状や異なる大きさの護岸ボックス10を適宜用いてもよい。
【0037】
<浚渫装置30>
浚渫装置30は、低水路LRの底床LBおよび/または中洲SDの土砂を浚渫できるのであれば、どのような構造を採用してもよい。堤防Bや高水敷HRを移動できる浚渫機械や低水路LR内を移動できる浚渫機械、例えば、例えば、GNSS対応のミニショベルカー等を浚渫装置30として使用することができる。しかし、上述したように、河川Rの水Wに浮かべて移動できるように、浮遊体31上に浚渫機器32を設けて浚渫装置30とすれば、浚渫装置30の移動が容易になるし、低水路LRの底床LBおよび/または中洲SDの土砂を除去する作業を効率よく実施できる。
【0038】
この場合、浮遊体31の構造はとくに限定されず、浚渫機器32を載せて浚渫作業を実施しても、安定して浚渫作業ができる構造となっていればよい。例えば、浮遊体31は、ステンレス等によって形成された中空な板状構造とし、十分に広い面積を有し十分な浮力を発生できる容積を有するものであればよい(図3参照)。また、連結分離可能な複数の中空構造の箱状体を連結して浮遊体31を形成してもよい。
【0039】
浮遊体31に設ける浚渫機器32は、例えば、GNSS対応のミニショベルカー等でもよいが、図3に示すような機器を使用してもよい。図3に示すように、浮遊体31の中央部に上下を貫通する開口31hを設け、この開口31hを挿通しうる浚渫容器33と、この浚渫容器33を上下に昇降させる昇降装置34と、浚渫容器33内を吸引するポンプなどの吸引装置35と、によって浚渫機器32とする。この場合、浚渫容器33は、下端に開口33aを有する、天井壁33bと側壁33cによって囲まれた中空な箱状体とする。昇降装置34には、図示しないが、浚渫容器33を下方に押し付ける付勢力を発生させる機能を設ける。なお、浚渫容器33の天井壁33bには貫通孔33hを設けて、この貫通孔33hに吸引装置35のパイプなどの配管36を接続しておく。つまり、吸引装置35が貫通孔33hを通して浚渫容器33内の物体を吸引できるようにしておく。
【0040】
かかる浚渫機器32を使用する場合に、以下のようにして低水路LRの底床LBおよび/または中洲SDの土砂を浚渫することができる。
【0041】
まず、浚渫する土砂の上方に浮遊体31の開口31hを配置した状態で浚渫装置30の移動を停止する。その状態で、昇降装置34によって浚渫容器33を下降させる。そして、浚渫容器33の下端が土砂の上面に載せられた状態になると、昇降装置34によって浚渫容器33を下方に押し付けて、浚渫容器33の下端を土砂内に押しこむ。その状態で吸引装置35を作動すると、吸引装置35によって土砂が吸い込まれるので、低水路LRの底床LBおよび/または中洲SDから土砂を除去することができる。そして、吸引装置35が吸い込んだ土砂を排出するパイプ37を護岸ボックス10の本体部11の空間11h内に配置しておけば、土砂を護岸ボックス10の本体部11の空間11h内に供給することができる(図2(C)参照)。
【0042】
なお、浚渫容器33を浮遊体31の開口31hを通して安定して昇降させるのであれば、浮遊体31に浚渫容器33の移動を案内する案内レールを設けることが望ましい。例えば、浮遊体31の開口31hから上下方向に沿って延びるレールを設けて、そのレールに沿って浚渫容器33が昇降するようにしてもよい。
【0043】
<浚渫機器40>
また、浚渫容器33内に、浚渫容器33内の土砂をすくう浚渫機器40を設けてもよい。浚渫機器40に容器41を設けこの容器41によって土砂や石等をすくうようにすれば、配管36に吸い込むことができない石等をすくって除去できる。
【0044】
例えば、図5に示すように、容器41として、底板41bと底板41bの側面に設けられた一対の側板41s,41sと、この一対の側板41s,41s間をつなぐように仕切り板41dと、を有するものを設ける。つまり、上方と両端部(図5では左右方向の端部)が開放された容器41を設ける。そして、左右方向(図5では矢印Xの方向)に沿ってワイヤ42などによって容器41を移動できるようにする。すると、矢印Xの方向に容器41を移動させれば、容器41の両端部に設けられた開口41aから石や土砂を容器41内にすくうことができる。
【0045】
かかる浚渫機器40を設ける場合には、浚渫容器33として天井壁33bを有しない構造のものを使用する。すると、浚渫容器33内において容器41を昇降できるようにしておけば、配管36に吸い込むことができない石等をすくった場合には、容器41をその開口41aが浚渫容器33の上端より上方に位置するまで上昇させれば、配管36に吸い込むことができない石等を浮遊体31上に排出できる。すると、重機などで石等を浮遊体31上から護岸ボックス10の本体部11の空間11h内に投入したり他の場所に搬送したりすることができる。また、重機などで容器41の上から石等を直接搬出して浮護岸ボックス10の本体部11の空間11h内に投入したり他の場所に搬送したりすることができる。
【0046】
また、容器41に配管36を固定できるようにすれば、配管36に吸い込むことができない石等を除去した低水路LRの底床LBや中洲SDの土砂を配管36によって吸いあげることができる(図6参照)。そして、容器41に配管36が固定されているので、容器41を移動させれば、浚渫容器33内において配管36の先端の位置を自由に調整できる。すると、浚渫容器33内の土砂を確実に吸い上げることができる。
【0047】
また、容器41に、ピックハンマやコンクリートブレーカ等の破砕装置43gを設けてもよい(図6参照)。この場合、破砕装置43gの先端部を容器41の底板41bの下面から突出させておく。すると、容器41を下方に移動させて破砕装置43gの先端が低水路LRの底床LBや中洲SDの土砂や岩に接触した状態で破砕装置43gを作動させれば、低水路LRの底床LBや中洲SDの土砂や岩を砕くことができる。この場合、容器41に配管36を固定しておけば、砕かれた石などを配管36によって吸いあげることができる。もちろん、低水路LRの底床LBや中洲SDの土砂や岩を砕いたのち、一度容器41を上昇させて容器41に配管36を固定した後、容器41を移動させて砕かれた石などの位置に配管36を配置して、配管36によって吸いあげてもよい。
【0048】
また、容器41は移動可能とせずに浚渫容器33内に固定してもよい。この場合でも、浚渫装置30自体を移動させれば、容器41によって石や土砂をすくうことができる。
【0049】
また、上述したピックハンマやコンクリートブレーカ等を容器41に設けてもよい。この場合、ピックハンマやコンクリートブレーカ等の先端部を容器41の底板41bの下面から突出させておけば、低水路LRの底床LBや中洲SDを破砕し、破砕した石や土砂等を容器41によってすくうこともできる。
【0050】
また、浚渫容器33とは別に容器41を設けてもよい。この場合でも、浮遊体31に対して移動可能に容器41を設けワイヤ42などによって容器41を移動させるようにしたり、容器41は浚渫装置30に固定するが浚渫装置30自体を移動させたりすれば、容器41によって石や土砂をすくうことができる。
【0051】
さらに、浚渫容器33や吸引装置35を設ける浮遊体31とは別の浮遊体を設け、この浮遊体に容器40を設けてもよい。
【0052】
また、昇降装置34は、浚渫容器33を保持し浚渫容器33の昇降を案内するレールを備えたフレーム34Fを有していることが望ましい。かかるフレーム34Fを有していれば、浚渫容器33を安定して昇降させることができる。また、浚渫容器33が破砕装置43gを有している場合には浚渫容器33の重量が重くなるが、その場合でも安定して浚渫容器33を保持することができる。
【0053】
また、浚渫機器32を構成する各機器は電動で作動するものを採用することが望ましい。かかる構成とすれば、浮遊体31上に太陽光発電装置を設けておけば、動力源を太陽光発電装置から供給できるので、河川Rの改修を省エネルギーで実現できる。
【0054】
<堰3の設置について>
河川Rは上流と下流の高低差で流れるため、設置底SBを水平に一定の距離だけ形成しその上に一対の護岸壁2,2を形成した場合、上流側と下流側では、護岸ボックス10と低水路LRの水Wの水位との相対的な高さが変化する。例えば、0.1%勾配の河川であれば1kmで1mの高低差が生じるため、上流側では一対の護岸壁2,2が十分な護岸機能を発揮できない可能性がある。
【0055】
そこで、一対の護岸壁2,2間をつなぐように堰構造物3を設置してもよい。具体的には、一対の護岸壁2,2に使用する護岸ボックス10と同様の構造を有するものを一対の護岸壁2,2間に並べて設置して堰構造物3を形成してもよい。なお、以下では、堰構造物3を形成する護岸ボックスを、堰ボックス20という。
【0056】
堰ボックス20は、護岸ボックス10と同様の構造を有しており、内部に中空な空間を有する直方体であり、例えば、ステンレスなどの金属製の鉄板を溶接などで連結して形成されたものである。堰ボックス20は、例えば、厚さ2~3mm厚のステンレス板を連結して、高さ3~8m(好ましくは5~6m)、奥行き2~5m(好ましくは3~5m)、幅が高さ2~6m(好ましくは5~6m)に形成されたものである。
【0057】
この堰ボックス20も、護岸ボックス10と同様に、上端に開口を有する有底角筒状の本体部21の開口21aを蓋部材22によって塞いで形成されたものである。具体的には、堰ボックス20は、開口21aを通して中空な空間21h内に土砂を投入した後、蓋部材22を本体部21の開口21hに溶接などの方法で取り付けて形成されたものである(図4(C)参照)。つまり、堰ボックス20も、一対の護岸壁2,2間に設置してから完成される。
【0058】
なお、堰ボックス20を設置する場所には、一対の護岸壁2,2間をつなぐように設置面EBを形成する(図4(A)参照)。
【0059】
そして、堰構造物3を形成する堰ボックス20と、一対の護岸壁2,2において堰構造物3と隣接する護岸ボックス10とは、両者間に隙間ができないように溶接などの方法で連結される。
【0060】
<堰構造物3の設置方法について>
上述したような堰構造物3は、一対の護岸壁2,2と同様の方法で形成することができる。なお、一対の護岸壁2,2は河川Rに水Wを流した状態でも設置できるが、堰構造物3を形成する場合には、設置場所の上流で水Wを堰き止めてから作業が行われる。
【0061】
まず、堰ボックス20を設置する領域に設置面EBを形成し、設置面EBが形成されると、設置面EBが設けられている領域全体に、堰ボックス20の本体部21を並べて設置する。このとき、堰ボックス20の本体部21は、その開口21aが上方を向いた状態になるように並べて設置する(図4(C)参照)。そして、複数の堰ボックス20の全てまたは複数の堰ボックス20のうちいくつか堰ボックス20を杭などで設置面EBに固定する。
【0062】
設置面EBに堰ボックス20が固定されると、隣接する堰ボックス20の本体部21同士を溶接やボルト結合などの方法で連結して堰ボックス列を形成する。堰ボックス列が形成されると、浚渫装置30によって低水路LRの底床LBおよび/または中洲SDの土砂を浚渫する。そして、浚渫した土砂を浚渫装置30によって、複数の堰ボックス20の本体部21の空間21h内に投入する。
【0063】
堰ボックス列を形成する全ての堰ボックス20の本体部21の空間21h内に土砂を投入すると、蓋部材22を本体部21の開口21aに配置して蓋部材22と本体部21とを連結し、蓋部材22によって本体部21の空間21hを密閉する。そして、全ての堰ボックス20を蓋部材22によって密閉すれば堰構造物3が完成する。
【0064】
<堰ボックス20の固定について>
複数の堰ボックス20のうち、隣接する堰ボックス20同士は、溶接やボルト止め等の方法で連結されるが、隣接する堰ボックス20同士を連結する方法はとくに限定されない。
【0065】
<堰ボックス20の形状について>
堰ボックス20の大きさは上述したサイズに限定されない。堰ボックス20のサイズは堰ボックス20によって堰構造物3を形成する河川Rの大きさや形状に合せて適切な大きさに形成すればよい。
【0066】
また、堰ボックス20の形状も上述した形状に限定されない。堰ボックス20は、例えば、その断面が三角形や五角形等の多角形であってもよいが、護岸ボックス10と同様に、側面が平面になっているものが望ましい。
【0067】
また、堰構造物3を形成する堰ボックス20は、全ての同じ大きさや同じ形状のもので形成しなくてもよい。形成する堰構造物3に必要とされる形状に合わせて異なる形状や大きさの堰ボックス20を適宜用いてもよい。
【0068】
<堰構造物3について>
堰構造物3には、種々の設備を設けてもよい。
例えば、堰構造物3の一部に上流から下流に水Wを通す水路を設けてもよい。かかる水路を設けた場合、水路に魚が通過できる魚道を設けてもよい。また、堰構造物3の前後で水路に大きな落差を設ければ、その水路に水力発電装置を設置すれば発電を行うことも可能である。
【0069】
<堰構造物3を設置する位置について>
堰構造物3を設置する位置はとくに限定されない。しかし、上述したような水力発電装置を設置する場合には、隣接する堰構造物3間で低水路LRの底床LBの高さの差が少なくとも1mとなる位置に設置することが好ましい。具体的には、隣接する堰構造物3間で河床勾配Iが、I=1/100より大きくなるように堰構造物3を設置することが望ましい。
【0070】
<河川構造物100について>
図7図8に示すように、複数の護岸ボックス10によって形成された一対の護岸壁2,2を有する護岸構造物1が設置されている河川Rに、以下のような河川構造物100を形成すれば、災害時において、必要な浄化水や電力を供給することが可能になる。
【0071】
<本体構造体101>
図9に示すように、河川構造物100は、ベース構造体102と、設備構造体110とを有する本体構造体101を有している。この本体構造体101は、一対の堤防B,B間を連結するように設けられている(図7図8参照)。また、本体構造体101は、河川Rの流れる方向において一対の護岸壁2,2が上流側と下流側に位置するように設けられている。つまり、河川Rの流れる方向において一対の護岸壁2,2に挟まれるように本体構造体101は設置されている。
【0072】
<ベース構造体102>
図9に示すように、本体構造体101のベース構造体102は、設備構造体110を支持するために設けられている。このベース構造体102は、河川Rに設けられた、例えばコンクリート製の基礎であり、その上面、つまり、床面102bがほぼ水平面または河川Rの勾配とほぼ平行に形成された構造物である。このベース構造体102の床面102bは、一対の護岸壁2,2間に通常の状態で水を流す最大の液面の高さとほぼ同じ高さとなるように形成されている。つまり、一対の護岸壁2,2間に通常の水量の水が流れている状態では、ベース構造体102によって一対の護岸壁2,2間の水路の水が堰き止められた状態となるようにベース構造体102は設けられている。
【0073】
なお、ベース構造体102は、設備構造体110を安定して支持できるものであればよく、コンクリート製に限られず、鉄鋼などによって形成されていてもよい。
【0074】
<設備構造体110>
図9に示すように、このベース構造体102の上方には設備構造体110が設置されている。具体的には、設備構造体110の下面110bとベース構造体102の床面102bとの間に流路空間101hが形成されるように、設備構造体110は設置されている。例えば、設備構造体110の下面110bの高さは、河川Rの計画高水位よりも若干高くなるように設定されているが、設備構造体110の下面110bの高さは計画高水位よりも若干高くなっていればよく、とくに限定されない。この設備構造体110は、ベース構造体102に立設された複数の柱103によって設備構造体110が支持されている。複数の柱103は、例えば、鉄筋コンクリートや鋼材によって形成されている。なお、複数の柱103は、後述するように、設備構造体110の内部に最大量の水が貯留された状態でも、安定して設備構造体110を支持できる強度を有していれば、その構造はとくに限定されない。
【0075】
図8に示すように、設備構造体110は、内部に中空な空間110hを有する構造体である。具体的には、設備構造体110は、内部に水を貯留できる構造を有している。つまり、設備構造体110の中空な空間110h内に水を貯留した場合に、その水が漏れたりしない構造を有している。この設備構造体110の中空な空間110hは、分離壁110c,110dによって、上流側から受水槽111と、設備設置空間112と、排水槽113と、に液密に分割されている。
【0076】
<受水槽111>
受水槽111は、後述する供給部130から供給される水を貯留するための空間である。この受水槽111には、配管135pによって供給部130の揚水ポンプ135と連通されており、貯留槽105内の水が供給部130の揚水ポンプ135によって供給されている。
【0077】
<設備設置空間112>
設備設置空間112は、受水槽111内の水を浄化して排水槽113に供給する浄化設備115が設けられる空間である。この浄化設備115は、一端が受水槽111に連通され他端が浄化設備115の受水口などに連通された配管などによって受水槽111に連通され、一端が浄化設備115の排出口などに連通され他端が排水槽113に連通された配管などによって排水槽113に連通されている。
【0078】
なお、設備設置空間112に設置される浄化設備115はとくに限定されない。例えば、メタウォーター株式会社製CPCM2等の浄水設備を浄化設備115として使用できる。また、設置する浄化設備115の数もとくに限定されず、処理する水の量に応じて必要な数を設ければよい。
【0079】
<排水槽113>
排水槽113は、浄化設備115によって浄化された浄化水が供給される空間である。この排水槽113には落下流路140の上流側の端部が連通されており、この落下流路140を通して排水槽113内の水を本体構造体101よりも下流側に落下させることができるようになっている。この落下流路140には発電機145が設けられている。つまり、排水槽113内の水を落下流路140に通すことによって発電できる機能を有している。なお、発電機145を通過した水は、を落下流路140に連通された配管などを介して家庭や工場等の種々の設備に供給することができる。
【0080】
なお、落下流路140に設置される発電機145はとくに限定されない。例えば、イムール工業株式会社製の水中タービン発電機等を発電機145として使用できる。
【0081】
<供給部130>
図7図9に示すように、設備構造体110の上流側には、低水路LRの底床LBを掘削して形成された貯留槽105が設けられている。この貯留槽105は、その内底面105bが貯留槽105の上流側の低水路LRの底床LBよりも低くなるように形成された空間である。この貯留槽105内の空間には、複数の揚水ポンプ135が設けられている。上述したように、揚水ポンプ135の排水口には配管135pの一端が連通されており、配管135pの他端には受水槽111に連通されている。したがって、揚水ポンプ135を作動すれば、貯留槽105の貯留槽105内の水を受水槽111に供給することができる。
【0082】
なお、揚水ポンプ135は、貯留槽105の貯留槽105内の水を受水槽111に供給できるものであればよく、とくに限定されない。例えば、株式会社浪速ポンプ製作所製の遠心ポンプ(型式:FBW-500-2等)を揚水ポンプ135として使用できる。
【0083】
<太陽光発電設備116>
図7に示すように、設備構造体110は、上述した中空な空間110hを覆うように天井部材110cが設けられており、この天井部材110cの上面には太陽光発電設備116の太陽光発電パネル116pが設けられている。太陽光発電設備116は、太陽光発電パネル116pが発電した電力を蓄電する蓄電器116bや、発電した電力を蓄電器116bに供給して蓄電したり他の機器(浄化設備115や揚水ポンプ135等)に供給したりする制御器116cを備えている(図8参照)。
【0084】
なお、制御器116cは、太陽光発電設備116が発電した電力の供給などを制御する機能だけでなく、発電機145が発電した電力の供給などを制御する機能もそなえていてもよい。もちろん、発電機145が発電した電力の供給を制御する制御器は制御器116cとは別に設けてもよいし、発電機145が発電した電力を蓄電する蓄電器も蓄電器116bとは別に設けてもよい。
【0085】
以上のような河川構造物100を設ければ、河川Rの水を浄化して飲料水とすることができるので、災害時に必要な飲料を河川Rから得ることができる。
【0086】
また、太陽光発電設備116や発電機145によって災害時の電力を供給することも可能になる。
【0087】
さらに、河川Rの水量が一対の護岸壁2,2間に通常の状態で水を流す最大の液面の高さ以上限界液面以下の場合であれば、河川Rの水量が多くなっても、設備構造体110の下面110bとベース構造体102の床面102bとの間に空間(流路流路空間101h)に水を流すことができる。すると、河川Rが増水して複数の揚水ポンプ135の処理量を超える水量となっても、河川構造物100を損傷することなく、河川構造物100における浄水や発電を維持することができる。
【0088】
<本体構造体101について>
本体構造体101の大きさはとくに限定されず、河川Rの大きさに合わせて適切な大きさに形成されていればよい。堤防B間の幅が100mの河川Rであれば、本体構造体101は、例えば、平面視でその幅(図7図8であれば上下方向の長さ)が100m、河川Rの流路方向Dに沿った長さが200mの大きさに形成することができる。また、設備構造体110の中空な空間110hの高さもとくに限定されず、適切な量の水を貯留できる深さにすればよい。設備構造体110の中空な空間110hの高さは、例えば、5~6mとすることができる。
【0089】
一対の護岸壁2,2は必ずしも本体構造体101の上流側と下流側に設けられていなくてもよい。本体構造体101の上流側だけに設けられていてもよい。しかし、本体構造体101の下流側に設ければ、下流側に水を排出した際に落差を設けやすくなり、発電を行いやすくなる。
【0090】
また、設備構造体110は、上述したように中空な空間110hを覆うように天井部材110cを設けていれば、太陽光発電パネル116pに限らず様々な機器を天井部材110cの上面に設けることができる。しかし、設備設置空間112に浄化設備115等の機器を設けない場合には、必ずしも天井部材110cは設けなくてもよい。
【0091】
また、受水槽111内の水は必ずしも設備設置空間112内の浄化設備115等を通して排水槽113に供給しなくてもよい。例えば、受水槽111内の水を浄化しない場合であれば、受水槽111内の水を受水槽111から排水槽113に直接供給できるようになっていてもよい。例えば、受水槽111と排水槽113とをつなぐバイパス流路などを設けて受水槽111から排水槽113に直接供給するようにしてもよい。
【0092】
浄化設備115を設けた場合、浄水した水は、排水槽113に供給せずに直接外部に供給するようにしてもよい。この場合には、受水槽111内の水の一部はバイパス流路などを設けて受水槽111から排水槽113に直接供給するようにしておく方が望ましい。
【0093】
<供給部130について>
揚水ポンプ135を設ける数はとくに限定されず、受水槽111の容量などに応じて適切な数を設ければよく、一つでもよいし複数設けてもよい。また、複数の揚水ポンプ135を設ける場合には、各揚水ポンプ135に対応する貯留槽105をそれぞれ設けてもよいし、複数の揚水ポンプ135が配置される貯留槽105を複数設けてもよいし、一つの貯留槽105に全ての揚水ポンプ135を配置してもよい。複数の貯留槽105を設ければ、
【0094】
また、供給部130は必ずしも設けなくてもよいが、供給部130を設けていれば、揚水ポンプ135の給水口を確実に水中に配置することができる。つまり、河川Rの水位が低下しても、揚水ポンプ135の給水口が露出することを防止しやすくなる。
【0095】
また、貯留槽105の大きさもとくに限定されず、河川Rの大きさに合わせて適切な大きさに形成されていればよい。堤防B間の幅が100mの河川Rであれば、本体構造体101は、例えば、平面視でその幅(図7図8であれば上下方向の長さ)が50m、河川Rの流路方向Dに沿った長さが30mの大きさに形成することができる。また、貯留槽105の深さもとくに限定されず、適切な量の水を貯留できる深さにすればよい。低水路LRの底床LBと貯留槽105の内底面105bの高さの差を、例えば、4~8mとすることができる。
【0096】
また、供給部130の落差、つまり、貯留槽105の上流側の低水路LRの底床LBと貯留槽105の内底面105bの高さの差をある程度大きくすれば(例えば8m程度)、貯留槽105に流入する水流を発電に利用することも可能になる。例えば、貯留槽105の上流側の端部に、貯留槽105の上流側の低水路LRの底床LBと貯留槽105の内底面105bとの間を連通する配管を設けて、この配管に発電機を設ければ、貯留槽105に流入する水流を発電に利用することも可能になる。この場合に使用する発電機はとくに限定されず、上述した発電機145と同じ発電機を使用することができる。
【0097】
とくに、貯留槽105に発電機を設ける場合には、貯留槽105に低水路LRの底床LBよりも上方に延びる壁面105wと、壁面105wに囲まれた空間を覆う天井壁105cを設けて、この壁面105wおよび天井壁105cに囲まれた空間に、壁面105wを貫通する配管105pを設けて、この配管105pを介して水を供給するようにしてもよい(図10図11)。なお、図10では、構造を分かりやすくするために天井壁105cを除いた図面としている。この場合、配管105pに発電機146を設ければ、低水路LRの底床LBと貯留槽105の内底面105bの高さの差を利用した発電を行うことも可能になる。
【0098】
<落下流路140および発電機145について>
落下流路140は複数設けてもよいし一カ所でもよい。排水槽113の容量や発電機145の発電量に応じて適切な数を設ければよい。また、落下流路140を複数設けた場合には、落下流路140に電磁バルブなどを設けて、水を流す落下流路140を調整してもよい。つまり、全ての落下流路140に水を流してもよいし、一部の落下流路140に水を流してもよい。河川Rの状況や排水槽113内の水の状態などに応じて適切に調整すればよい。また、全ての落下流路140に発電機145を設けてもよいし、一部の落下流路140だけに発電機145を設けてもよい。
【0099】
また、図9および図11に示すように、落下流路140および発電機145を囲うように、側壁140bと天井壁140cとを有する囲いを設けてもよい(なお、図7図8図10では、構造を分かりやすくするために天井壁140cを除いた図面としている。)。つまり、落下流路140や発電機145を側壁140bと天井壁140cとに囲まれた空間に配設するようにしてもよい。なお、側壁140bの下端は、低水路LRの底床LBとの間に落下流路140から排出された水等が下流側に流れることができる十分な隙間が空間ができるように設けられていればよい。例えば、側壁140bの下端は、低水路LRに通常の水位で水が流れている状態において、その水面より若干下方に位置するように設ければよい。
【0100】
さらに、複数の落下流路140および発電機145を設けた場合には、各落下流路140および発電機145にそれぞれ側壁140bと天井壁140cとを有する囲いを設けてもよいし、全ての落下流路140および発電機145を収容する側壁140bと天井壁140cとを有する囲いを設けてもよいし、いくつかの落下流路140および発電機145(例えば、2つの落下流路140および発電機145)を収容する側壁140bと天井壁140cとを有する囲いを複数設けてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明の河川の改修方法は、低水路と高水敷と堤防とを有する河川の改修方法として適している。
【符号の説明】
【0102】
1 護岸構造物
2 護岸壁
3 堰構造物
10 護岸ボックス
11 本体部
11a 開口
11h 空間
12 蓋部材
20 堰ボックス
21 本体部
21a 開口
21h 空間
22 蓋部材
30 浚渫装置
31 浮遊体
31h 開口
32 浚渫機器
33 浚渫容器
33a 開口
33b 天井壁
33h 貫通孔
33c 側壁
34 昇降装置
35 吸引装置
36 配管
37 パイプ
40 浚渫機器
41 容器
100 河川構造物
101 本体構造体
101h 空間
102 ベース構造体
105 貯留槽
105b 内底面
110 設備構造体
111 受水槽
112 設備設置空間
113 排水槽
115 浄化設備
116 太陽光発電設備
130 供給部
135 揚水ポンプ
140 落下流路
145 発電機
R 河川
LR 低水路
LB 底床LB
HR 高水敷
B 堤防
SD 中洲
SB 設置底
W 水
【要約】
【課題】河川の水を有効活用できる河川構造物を提供する提供する。
【解決手段】河川Rにおけると堤防B間に設けられる構造物であって、予め定められた限界液面の高さに床面102bを有するベース構造体102と、ベース構造体102の上方に間隔を空けて設けられる、内部に中空な空間110hを有する設備構造体110と、ベース構造体102より上流側の河川Rの低水路LRの底床LBに設けられた、河川Rの水を貯留する貯留槽105と、貯留槽105内の水を設備構造体110の中空な空間110hに供給する供給部130と、設備構造体110の下流側に設けられ、設備構造体110の中空な空間110h内の水を河川Rに落下させる落下流路140と、落下流路140に設けられた発電機145と、を備えており、貯留槽105は、河川Rの低水路LRの底床LBよりも下方に位置する内底105bを有している。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11