(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-18
(45)【発行日】2023-04-26
(54)【発明の名称】絶縁電線、ケーブル
(51)【国際特許分類】
H01B 7/02 20060101AFI20230419BHJP
C23C 28/00 20060101ALI20230419BHJP
H01B 5/02 20060101ALI20230419BHJP
H01B 5/08 20060101ALI20230419BHJP
H01B 7/18 20060101ALI20230419BHJP
【FI】
H01B7/02 F
C23C28/00 A
H01B5/02 A
H01B5/08
H01B7/18 D
(21)【出願番号】P 2018144443
(22)【出願日】2018-07-31
【審査請求日】2021-02-22
【審判番号】
【審判請求日】2022-06-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002343
【氏名又は名称】弁理士法人 東和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松田 基
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 仁
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 千華
【合議体】
【審判長】恩田 春香
【審判官】棚田 一也
【審判官】柴垣 俊男
(56)【参考文献】
【文献】欧州特許出願公開第2011/162301(EP,A1)
【文献】特開平1-289021(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 7/00
H01B 11/00
H01B 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心導体と、該中心導体の周囲を被覆した樹脂材料による絶縁体とからなる絶縁電線であって、
前記中心導体が、銅の外層と鋼の芯材とからなるクラッド線材を複数本撚り合わせた撚り線で形成されており、
前記クラッド線材の電気導電率が20(IACS%)~80(IACS%)の範囲であり、かつ、前記クラッド線材の径が、0.02(mm)~0.06(mm)の範囲であり、
前記中心導体の導体断面積が0.004(mm
2)~0.6(mm
2)の範囲であり、
前記クラッド線材の撚りピッチが、前記中心導体の径の30倍以下であ
り、
前記芯材の径が、前記クラッド線材の径の60(%)~90(%)の範囲であり、
前記外層がメッキによって形成される、絶縁電線。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁電線、ケーブルに関し、詳細には、中心導体と、中心導体の周囲を被覆した樹脂材料による絶縁体とからなる絶縁電線、ケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
ワイヤーハーネスは、車両内に配策されており、電気導電性の良さから銅電線を使用することが多い。また、軽量化や金属資源のリサイクルのためにアルミニウム電線を使用することもあるが、アルミニウム電線は銅電線よりも強度面で劣る。このため、例えば、特許文献1には、中心部がアルミニウム線で、その外周表面に銅クラッド層を形成した構造(銅被覆アルミニウム素線ともいう)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、例えばFA産業設備用の電線、ロボット用の電線、民生機器の可動部の電線、自動車用の電線などの屈曲部分に使用するケーブルには、断線しにくさ(高屈曲性)を備えることが望ましい。
【0005】
本発明は、上述のような実情に鑑みてなされたもので、実用的で高屈曲性を有した絶縁電線、ケーブルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る絶縁電線は、中心導体と、該中心導体の周囲を被覆した樹脂材料による絶縁体とからなる絶縁電線であって、前記中心導体が、銅の外層と鋼の芯材とからなるクラッド線材を複数本撚り合わせた撚り線で形成されており、前記クラッド線材の電気導電率が20(IACS%)~80(IACS%)の範囲であり、かつ、前記クラッド線材の径が、0.02(mm)~0.06(mm)の範囲であり、前記中心導体の導体断面積が0.004(mm2)~0.6(mm2)の範囲であり、前記クラッド線材の撚りピッチが、前記中心導体の径の30倍以下であり、前記芯材の径が、前記クラッド線材の径の60(%)~90(%)の範囲であり、前記外層がメッキによって形成される。
【発明の効果】
【0007】
上記によれば、実用的で高屈曲性を有した絶縁電線、ケーブルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る絶縁電線を有したケーブルの斜視図である。
【
図2】
図1の中心導体を構成するクラッド線材の断面図である。
【
図3】本発明の第2実施形態に係る絶縁電線の斜視図である。
【
図4】(A)は本発明の第3実施形態に係るケーブルの斜視図、(B)は(A)のシールド部を構成するクラッド線材の断面図である。
【
図5】本発明の第4実施形態に係るケーブルの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[本発明の実施形態の説明]
最初に本発明の実施形態の内容を列記して説明する。
本発明の一態様に係る絶縁電線は、(1)中心導体と、該中心導体の周囲を被覆した樹脂材料による絶縁体とからなる絶縁電線であって、前記中心導体が、銅の外層と鋼の芯材とからなるクラッド線材を複数本撚り合わせた撚り線で形成されており、前記クラッド線材の電気導電率が20(IACS%)~80(IACS%)の範囲であり、かつ、前記クラッド線材の径が、0.02(mm)~0.06(mm)の範囲であり、前記中心導体の導体断面積が0.004(mm2)~0.6(mm2)の範囲であり、前記クラッド線材の撚りピッチが、前記中心導体の径の30倍以下であり、前記芯材の径が、前記クラッド線材の径の60(%)~90(%)の範囲であり、前記外層がメッキによって形成される。
中心導体を撚り線で形成すれば、単線と比べて可撓性が優れ、断線しにくくなる。この撚り線構造の絶縁電線において、クラッド線材の電気導電率が20(IACS%)より小さいと電線として実用的でなく、80(IACS%)を超えると外層である銅の割合が増えるため屈曲性が低下する。よって、クラッド線材の電気導電率を20(IACS%)~80(IACS%)にすれば、高屈曲性を得ることが可能になる。そして、クラッド線材の径が0.02(mm)未満では、製造しにくくなるので実用的ではないが、クラッド線材の径が0.06(mm)を超えると、クラッド線材を曲げた場合に、曲げの外側に生ずる引張ひずみと内側に生ずる圧縮ひずみの差が大きくなるため、可撓性が低下する。よって、クラッド線材の径が0.02(mm)~0.06(mm)の範囲であれば、実用的で高屈曲性を有した絶縁電線を提供することができる。
また、本発明の絶縁電線の一態様では、前記中心導体の導体断面積が0.004(mm2)~0.6(mm2)の範囲である。中心導体の導体断面積を0.004(mm2)~0.6(mm2)にすれば、FA産業設備用の電線、ロボット用の電線、民生機器の可動部の電線、自動車用の電線などの屈曲部分に用いることができる。
また、本発明の絶縁電線の一態様では、前記クラッド線材の撚りピッチが、前記中心導体の径の30倍以下である。クラッド線材は素線硬度が大きいことから、クラッド線材の撚りピッチを中心導体の径の30倍以下にすれば、撚りピッチが長くならずに済み、撚り線浮きが生じない。
【0010】
また、本発明の絶縁電線の一態様では、前記芯材の径が、前記クラッド線材の径の60(%)~90(%)の範囲である。芯材の径をクラッド線材の径の60(%)~90(%)にすれば、低速信号線用途で可動する配線として用いることができる。
また、本発明の絶縁電線の一態様では、前記外層がメッキによって形成される。銅の外層を、圧着で形成する場合に比べて容易に形成できる。
【0011】
また、本発明の実施形態として、次の(2)~(7)の態様も記載されている。
(2)本発明の一態様に係るケーブルは、中心導体、絶縁体、シールド部および外被を配したケーブルであって、前記シールド部が、銅の外層と鋼の芯材とからなるクラッド線材で形成されている。シールド部を銅覆鋼線で形成すれば、高屈曲性を得ることが可能になる。
(3)本発明のケーブルの一態様では、前記芯材の径が、前記クラッド線材の径の60(%)~90(%)の範囲である。芯材の径をクラッド線材の径の60(%)~90(%)にすれば、低速信号線用途の可動する配線として用いることができる。
(4)本発明のケーブルの一態様では、前記外層がメッキによって形成される。銅の外層を、圧着で形成する場合に比べて容易に形成できる。
(5)本発明のケーブルの一態様では、前記クラッド線材の径が、0.02(mm)~0.06(mm)の範囲である。クラッド線材の径が0.02(mm)~0.06(mm)の範囲であれば、実用的で高屈曲性を有したシールドケーブルを提供することができる。
【0012】
(6)本発明のケーブルの一態様では、前記シールド部が、前記複数本のクラッド線材を並列に配して螺旋状に巻かれている。シールド部を横巻き構造にすれば、編組構造に比べてシールド部を作りやすくなる。
(7)本発明のケーブルの一態様では、前記シールド部は、前記複数本のクラッド線材が編組されている。シールド部を編組構造にすれば、信号漏洩や外部電波の侵入を容易に防止できる。
【0013】
[本発明の実施形態の詳細]
以下、添付図面を参照しながら、本発明に係る絶縁電線、ケーブルの具体例について説明する。
図1は、本発明の第1実施形態に係る絶縁電線を有したケーブルの斜視図であり、
図2は、
図1の中心導体を構成するクラッド線材の断面図である。
【0014】
図1に示したケーブル1はセンサーケーブルであり、信号線となる2心の絶縁電線4と、絶縁電線4の周囲を被覆する外被(シースともいう)6とから構成されており、2芯楕円の断面構造で形成されている。
絶縁電線4は、ノイズの影響を受けにくくするために、2本の絶縁電線4を撚った対撚り線とすることができる。絶縁電線4は、中心導体2と、中心導体2の周囲を被覆した樹脂材料による絶縁体3とからなる。
【0015】
中心導体2は、例えば18本のクラッド線材2aを撚り合わせた撚り線で形成されている。中心導体を撚り線で形成すれば、単線と比べて可撓性が優れ、断線しにくくなる。
中心導体2として、導体断面積が0.004(mm
2)~0.6(mm
2)程度で、AWG(American Wire Gauge)の#20~#40に相当する導線を用いている。中心導体2の線材には、
図2に示すように、銅の外層2cと鋼の芯材2bとからなるクラッド線材2a(銅覆鋼線、CCS(Copper Clad Steel)線ともいう)が用いられている。
【0016】
CCS線は、ASTM規格のB227-98に規定する引っ張り強さ(883(MPa)以上)を有するものである。芯材2bの炭素含有率は0.8(%)~0.85(%)であり、クラッド線材2aの電気導電率は、20(IACS(International Annealed Copper Standard)%)~80(IACS%)の範囲内に設定されている。
クラッド線材2aの電気導電率が80(IACS%)を超えると、強度が低下して断線しやすくなる。一方、クラッド線材2aの電気導電率が20(IACS%)未満では、信号線として実用的ではない。このため、クラッド線材2aの電気導電率を20(IACS%)~80(IACS%)にすれば、高屈曲性を得ることが可能になる。
【0017】
クラッド線材2aの外径は0.02(mm)~0.06(mm)の範囲内であり、好ましくは0.05(mm)である。外径0.05(mm)のクラッド線材2aを18本撚った場合には、断面積0.03(mm2)、外径0.25(mm)の中心導体2が形成される。
クラッド線材2aの径が0.02(mm)未満では、クラッド線材2aを曲げても、曲げの外側に生ずる引張ひずみと内側に生ずる圧縮ひずみの差が小さいため、可撓性は良好であるが、製造しにくくなるので実用的ではない。一方、クラッド線材2aの径が0.06(mm)を超えると、クラッド線材2aを曲げた場合に、曲げの外側に生ずる引張ひずみと内側に生ずる圧縮ひずみの差が大きくなるため、可撓性が低下する。よって、クラッド線材の径が0.02(mm)~0.06(mm)の範囲であれば、実用的で高屈曲性を有した絶縁電線4を提供することができる。
【0018】
なお、クラッド線材2aの撚りピッチは、中心導体2の外径の例えば30倍以下に設定されている。また、芯材2bの外径は、クラッド線材2aの外径の60(%)~90(%)の範囲内、言い換えれば、外層2cの厚みがクラッド線材2aの外径の5(%)~20(%)の範囲内に設定される。外層2cは、芯材2bの外周に例えばメッキによって形成されているが、メッキに変えて圧着で形成してもよい。
【0019】
絶縁体3には、例えば架橋したポリ塩化ビニル(PVC)樹脂が用いられ、外径が例えば0.05(mm)に成形される。架橋PVCにより、対半田特性、耐熱性があるケーブルとなる。
外被6には、例えば耐熱性のPVC樹脂が用いられており、2本の絶縁電線4の周囲を覆っている。耐熱性のPVC樹脂により耐熱性と同時に耐油性のあるケーブルとなる。
【0020】
次に、絶縁電線4の試験結果を説明する。中心導体にCCS線を用いた絶縁電線4(試料1)と、中心導体に錫入銅合金線を用いた絶縁電線(試料2)について、マンドレルを用いた屈曲試験を行った。
具体的には、試料1と試料2は中心導体2の材質が異なるが、その他は同じ構成であり、試料1および試料2のいずれも、中心導体2は、外径0.05(mm)の導線を18本撚って外径0.25(mm)とし、絶縁体3は、架橋PVCを用いて外径0.50(mm)とし、外被6はPVC樹脂で押出し成形し、短径が1.0(mm)、長径が2.0(mm)である。
【0021】
そして、絶縁電線4の両側はマンドレル(半径=8(mm))で挟み付けられ、絶縁電線4の一端には荷重(100g)がかけられている。この絶縁電線4の他端を絶縁電線4の長手方向を基準にして例えば90°ずつ屈曲させた。絶縁電線4の断線が確認されるまで屈曲を続けたところ、試料2は10(万回)であったのに対し、試料1は15(万回)であった。
次いで、径の異なるマンドレル(半径=20(mm))を準備し、同じく絶縁電線4の断線が確認されるまで屈曲を続けたところ、試料2は40(万回)であったのに対し、試料1は290(万回)に達していた。FA産業設備用の電線などの屈曲部分に相当するような、マンドレルが比較的大径の場合には、試料1の耐屈曲性が試料2よりも7倍程度向上していた。
【0022】
続いて、ケーブル1についてもマンドレルを用いて屈曲試験を行った。詳しくは、試料1の絶縁電線4を2本収容したケーブル1(試料3)と、試料2の絶縁電線を2本収容したケーブル1(試料4)を準備した。
ケーブル1の両側はマンドレル(半径=10(mm))で挟み付けられ、ケーブル1の一端には荷重(200g)がかけられている。このケーブル1の他端をケーブル1の長手方向を基準にして例えば90°ずつ屈曲させた。ケーブル1の断線が確認されるまで屈曲を続けたところ、試料4は25(千回)であったのに対し、試料3は50(千回)であった。
【0023】
次いて、径の異なるマンドレル(半径=12.5(mm))を準備し、同じくケーブル1の断線が確認されるまで屈曲を続けたところ、試料4は50(千回)であったのに対し、試料1は247(千回)に達していた。ケーブル1についても、マンドレルが比較的大径の場合には、試料3の耐屈曲性が試料4よりも5倍程度向上していた。
【0024】
上記実施形態では、中心導体2を撚り線で形成した例を挙げて説明したが、
図3に示すように、単線のクラッド線材2aのみで中心導体2を形成することも可能である。単線の場合は、撚り線に比べて導体断面積を同じにすると、線径が多少細くなり、より細径化することができ、また、コネクタ等の接点部に半田付けしやすいという利点がある。
【0025】
また、上述したCCS線は、中心導体2のみならず、シールド部(シールド導体ともいう)に用いることもできる。
図4,5に示したケーブル1はシールドケーブルであり、例えば接触して並べた2本の絶縁電線4の外側にシールド部5を配しており、その外側を外被6で被覆して構成されている。なお、図示の中心導体2は、
図1で説明した撚り線であっても、
図3で説明した単線であってもよい。
【0026】
シールド部5は、
図4(A)に示すように、複数本のクラッド線材5aを並列に配して螺旋状に巻かれており(横巻き構造ともいう)、2本の絶縁電線4を一括してシールドしている。
図4(B)に示すように、シールド部5の線材には、銅の外層5cと鋼の芯材5bとからなるクラッド線材5aが用いられている。
【0027】
なお、クラッド線材5aは、
図2等で説明したクラッド線材2aと同じ構造であり、クラッド線材5aの外径が0.02(mm)~0.06(mm)の範囲内に設定され、芯材5bの外径がクラッド線材5aの外径の60(%)~90(%)の範囲内に設定されている。また、外層5cも例えばメッキで形成される。
あるいは、シールド部5は、
図5に示すように、複数本のクラッド線材5aが編組された編組構造であってもよい。このクラッド線材5aも、
図4(B)で説明した構造と同様に、銅の外層5cと鋼の芯材5bとから構成される。
【0028】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した意味ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0029】
1…ケーブル、2…中心導体、2a,5a…クラッド線材、2b,5b…芯材、2c,5c…外層、3…絶縁体、4…絶縁電線、5…シールド部、6…外被。