(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-18
(45)【発行日】2023-04-26
(54)【発明の名称】骨開大デバイスおよび骨開大システム
(51)【国際特許分類】
A61B 17/56 20060101AFI20230419BHJP
【FI】
A61B17/56
(21)【出願番号】P 2018156863
(22)【出願日】2018-08-24
【審査請求日】2021-08-13
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】304050912
【氏名又は名称】オリンパステルモバイオマテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118913
【氏名又は名称】上田 邦生
(72)【発明者】
【氏名】葛城 良成
(72)【発明者】
【氏名】横山 靖治
(72)【発明者】
【氏名】吉田 真樹
【審査官】羽月 竜治
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-229016(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0225416(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2002/0133157(US,A1)
【文献】特開2017-046783(JP,A)
【文献】特許第4736091(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向に沿って延びる帯板状の部材からそれぞれなり、板厚方向に配列された第1開閉部材および第2開閉部材と、
該第1および第2開閉部材の基端側に配置され、ヒンジ部の軸線回りに揺動可能に連結された
第1揺動部材
および第2揺動部材と、
前記第1および第2揺動部材を前記軸線回りに相対的に揺動させる開閉機構とを備え、
前記第1および第2開閉部材の先端部が、脛骨または大腿骨に該脛骨または大腿骨の左右方向に形成された切込み
に挿入され、前記
第1および第2揺動部材の前記軸線回りの相対的な揺動によって
前記板厚方向に離間させられることにより、前記切込みを開大
し、
前記第1開閉部材
の先端部が、
前記板厚方向において前記第2開閉部材とは反対側に、前記切込みを構成する
第1切断面に接触させられる
第1接触面を備え、
前記第2開閉部材の先端部が、前記板厚方向において前記第1開閉部材とは反対側に、前記切込みを構成する第2切断面に接触させられる第2接触面を備え、
前記
第1接触面
と前記第2接触面との間の
前記板厚方向の距離が、
前記板厚方向と前記先端部における前記長手方向とに直交する幅方向に沿って一方向に増大し、
前記第1および第2開閉部材の先端部は、前記距離が大きい方の前記幅方向の一側が前記脛骨または大腿骨の後側に配置される所定の方向に前記切込みに挿入される、骨開大デバイス。
【請求項2】
長手方向に沿って延びる帯板状の部材からそれぞれなり、板厚方向に配列された第1開閉部材および第2開閉部材と、
該第1および第2開閉部材の基端側に配置され、ヒンジ部の軸線回りに揺動可能に連結された
第1揺動部材
および第2揺動部材と、
前記第1および第2揺動部材を前記軸線回りに相対的に揺動させる開閉機構とを備え、
前記第1および第2開閉部材の先端部が、脛骨または大腿骨に該脛骨または大腿骨の左右方向に形成された切込みに所定の方向に挿入され、前記
第1および第2揺動部材の前記軸線回りの相対的な揺動によって
前記板厚方向に離間させられることにより、前記切込みを開大
し、
前記
第1開閉部材
の先端部が、
前記板厚方向において前記第2開閉部材とは反対側に、前記切込みを構成する
第1切断面に接触させられる
第1接触面を備え、
前記第2開閉部材の先端部が、前記板厚方向において前記第1開閉部材とは反対側に、前記切込みを構成する第2切断面に接触させられる第2接触面を備え、
前記
第1接触面
と前記第2接触面との間の
前記板厚方向の距離が、
前記先端部の基端から先端に向かって一方向に増大し、
前記第1および第2開閉部材の先端部は、前記先端が前記脛骨または大腿骨の後側に配置される所定の方向に前記切込みに挿入される、骨開大デバイス。
【請求項3】
前記
第1および第2接触面が傾斜面である請求項1
または請求項2に記載の骨開大デバイス。
【請求項4】
前記
第1接触面
および前記第2接触面が、0°よりも大きく12°よりも小さい角度をなして配置されている請求項
3に記載の骨開大デバイス。
【請求項5】
前
記第1および第2揺動部材と前記
第1および第2開閉部材との間に、前記
第1および第2揺動部材の揺動動作を前記
第1および第2開閉部材の並進移動動作に変換するカム機構を有する請求項1から請求項
4のいずれかに記載の骨開大デバイス。
【請求項6】
前記
第1および第2開閉部材が、前記ヒンジ部の前記軸線に交差する方向に延びる第1部分と、該第1部分に対して前記軸線に平行に延びる第2部分とからL字状に
それぞれ形成され、前記第2部分に前記
第1接触面
および前記第2接触面が
それぞれ設けられている請求項1から請求項
4のいずれかに記載の骨開大デバイス。
【請求項7】
前記
第1および第2開閉部材を離間した状態に維持するストッパ機構を備える請求項1から請求項
6のいずれかに記載の骨開大デバイス。
【請求項8】
前記ヒンジ部に、該ヒンジ部を前記軸線に沿って貫通する貫通孔が設けられている、請求項1から請求項
7のいずれかに記載の骨開大デバイス。
【請求項9】
請求項1から請求項
8のいずれかに記載の骨開大デバイスを2つ備え、
2つの該骨開大デバイスが、前記ヒンジ部の前記軸線に沿う方向に着脱可能に組合せられている骨開大システム。
【請求項10】
2つの前記骨開大デバイスの前記揺動部材どうしを係合する係合部を備える請求項
9に記載の骨開大システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、骨開大デバイスおよび骨開大システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
先端に配置されたヒンジ部により相対的に揺動可能に連結された2対の揺動部材と、これら揺動部材をそれぞれヒンジ部の軸線回りに開閉させる2つの開閉機構とを備え、2対の揺動部材がヒンジ部の軸線方向に着脱可能に組み合わせられた骨切術用開大器が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
この骨切術用開大器によれば、変形性膝関節症患者の変形した大腿骨または脛骨に形成された切込みに揺動部材の先端のヒンジ部側から挿入し、開閉機構を作動させて揺動部材を相対的に開く方向にヒンジ部の軸線回りに揺動させていくと、切込みが開大されていく。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、切込みを挟んで両側に配置される大腿骨あるいは脛骨は靱帯等の組織によって連結されているため、大腿骨あるいは脛骨の左側または右側に形成された切込みが変形を修復する方向に開大されていくときに、大腿骨あるいは脛骨の後ろ側よりも前側の方が大きく開大され易い。このため、注意深く開大しなければ開大後の大腿骨あるいは脛骨が後傾し易いという不都合がある。
本発明は、骨の後傾を簡易に防止しながら切込みを開大することができる骨開大デバイスおよび骨開大システムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様は、ヒンジ部の軸線回りに揺動可能に連結された一対の揺動部材と、脛骨または大腿骨に該脛骨または大腿骨の左右方向に形成された切込みに所定の方向に挿入され、前記揺動部材の前記軸線回りの相対的な揺動によって離間させられることにより、前記切込みを開大する一対の開閉部材と、前記揺動部材を前記軸線回りに相対的に揺動させる開閉機構とを備え、各前記開閉部材が、前記切込みを構成する切断面に接触させられる接触面を備え、各前記接触面は、前記一対の開閉部材が前記所定の方向に前記切込みに挿入された状態において前記脛骨または大腿骨の前側および後側にそれぞれ配置される第1側および第2側を有し、前記接触面間の距離が、前記骨の前側よりも後側において大きい、骨開大デバイスである。
【0006】
本態様によれば、一対の開閉部材を近接させて閉じた状態で骨に形成された切込みに挿入し、揺動部材を操作してヒンジ部の軸線回りに揺動させることにより、一対の開閉部材が揺動部材の揺動に応じて離間させられ、切込みが開大される。このとき、各開閉部材に設けられた接触面が骨の切断面に接触し、切断面同士を離間させることにより切込みが開大される。この場合において、一対の開閉部材は、接触面間の距離が、骨の前側よりも後側において大きくなる形状を有しているので、自動的に骨の前側よりも後側がよりも大きく開大させられる。これにより、骨の後傾を簡易に防止しながら切込みを開大することができる。
【0007】
上記態様においては、前記接触面が傾斜面であってもよい。
この構成により、傾斜面からなる接触面を骨の切断面に面接触させることができ、開大時に骨の切断面に加わる圧力を分散して、骨を健全な状態に維持しながら開大することができる。
【0008】
また、上記態様においては、前記接触面どうしが、前記骨の前側から後側に向かって0°よりも大きく12°よりも小さい角度をなして配置されていてもよい。
この構成により、骨の後傾を効果的に防止することができる。
【0009】
また、上記態様においては、前記揺動部材と前記開閉部材との間に、前記揺動部材の揺動動作を前記開閉部材の並進移動動作に変換するカム機構を有していてもよい。
この構成により、一対の開閉部材が平行な状態を維持しつつ開閉させられるので、開大が進行しても接触面どうしの距離の骨の前後方向の大小関係を維持することができる。
【0010】
また、上記態様においては、各前記開閉部材が、前記ヒンジ部の前記軸線に交差する方向に延びる第1部分と、該第1部分に対して前記軸線に平行に延びる第2部分とからL字状に形成され、前記第2部分に前記接触面が設けられていてもよい。
この構成により、ヒンジ部の軸線を骨のヒンジに一致させて配置し、第2部分を切込みに挿入し、開閉部材をヒンジ部の軸線回りに揺動させる方法によっても切込みを開大することができる。
【0011】
また、上記態様においては、前記開閉部材を離間した状態に維持するストッパ機構を備えていてもよい。
この構成により、ストッパ機構の作動により開閉部材を離間させ切断面を開大した状態に維持することができる。
【0012】
また、本発明の他の態様は、上記いずれかの骨開大デバイスを2つ備え、2つの該骨開大デバイスが、前記ヒンジ部の前記軸線に沿う方向に着脱可能に組合せられている骨開大システムである。
【0013】
本態様によれば、両方の骨開大デバイスを用いて広い面積で骨の切断面を開大し、一方の骨開大デバイスをヒンジ部の軸線に沿う方向に移動させて取り外すことができる。これにより、残った他方の骨開大デバイスにより、切断面を開大した状態に維持する一方で、取り外された一方の骨開大デバイスが占有していた空間に、人工骨ブロックを挿入し易くすることができる。
【0014】
上記態様においては、2つの前記骨開大デバイスの前記揺動部材どうしを係合する係合部を備えていてもよい。
この構成により、2つの骨開大デバイスの揺動部材どうしを係合部により係合させた状態として、開閉部材を一体的に動作させ、広い面積で骨の切断面を開大することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、大腿骨あるいは脛骨の後傾を簡易に防止しながら切込みを開大することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一実施形態に係る骨開大デバイスを示す正面図である。
【
図2】
図1の骨開大デバイスの開閉部材を開いた状態を示す正面図である。
【
図4】
図1の骨開大デバイスの開閉部材に設けられた傾斜面を説明する部分的な斜視図である。
【
図5】
図4の開閉部材が開かれることにより、傾斜面の間隔が広がった状態を説明する部分的な斜視図である。
【
図6】
図1の骨開大デバイスを、脛骨に設けられた切込みに挿入する状態を説明する図である。
【
図7】
図6の骨開大デバイスを、脛骨に設けられた切込みに挿入した後に、開閉部材を離間させた状態を示す図である。
【
図8】
図7の切込みに挿入された骨開大デバイスを脛骨の軸方向から見た図である。
【
図9】
図4の傾斜面の変形例を説明する部分的な斜視図である。
【
図10】
図1の骨開大デバイスの第1の変形例を切込みに挿入した状態で脛骨の軸方向から見た図である。
【
図11】
図10の骨開大デバイスの開閉部材に設けられた傾斜面を説明する部分的な斜視図である。
【
図12】
図11の開閉部材が開かれることにより、傾斜面の間隔が広がった状態を説明する部分的な斜視図である。
【
図13】
図1の骨開大デバイスの第2の変形例を切込みに挿入した状態で脛骨の軸方向から見た図である。
【
図14】
図1の骨開大デバイスの第3の変形例を切込みに挿入した状態で脛骨の軸方向から見た図である。
【
図17】
図1の骨開大デバイスを2つ組み合わせた本発明の一実施形態に係る骨開大システムを示す正面図である。
【
図18】
図17の骨開大システムの2つの骨開大デバイスを切込みに挿入した状態で脛骨の軸方向から見た図である。
【
図19】
図18の骨開大システムにおいて一方の骨開大デバイスを取り外し、他方の骨開大デバイスを切込みに残した状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の一実施形態に係る骨開大デバイス1について図面を参照して以下に説明する。
本実施形態に係る骨開大デバイス1は、
図1から
図3に示されるように、ヒンジ部2の軸線(以下、ヒンジ軸という。)A回りに揺動可能に連結された一対の揺動部材3,4と、揺動部材3,4の一端に設けられ、揺動部材3,4の揺動動作によって近接または離間させられる一対の開閉部材5,6と、揺動部材3,4の他端に設けられ、術者が把持することにより加えた力によって揺動部材3,4を揺動させ開閉部材5,6を開閉させるグリップ(開閉機構)7,8と、揺動部材3,4の揺動動作を開閉部材5,6の並進移動に変換するカム機構9とを備えている。
【0018】
図1に示されるように、各開閉部材5,6は、帯板状の部材であって、先端が板厚方向に薄く形成されているとともに、基端が、いずれかの揺動部材3,4の先端に、ヒンジ軸Aに平行な第1軸線B1,B2回りに揺動可能に連結されている。また、各開閉部材5,6には、長手方向に延びる長孔5a,6aが幅方向に貫通した状態に設けられている。
【0019】
本実施形態においては、各開閉部材5,6の先端には、
図4および
図5に示されるように、相互に密着させられる面とは反対側に、幅方向に沿って一方向に傾斜する傾斜面(接触面)5b,6bを備えている。これにより、
図4に示されるように、一対の開閉部材5,6を最も近接させた状態で、2つの開閉部材5,6を合わせた板厚が、幅方向に沿ってテーパ角度βで一方向に漸次先細になる形状を有している。テーパ角度βは、0°<β<12°であることが好ましい。
【0020】
カム機構9は、
図1および
図2に示されるように、ヒンジ軸Aに平行な第2軸線C回りに揺動可能に連結された2対のリンク10,11を備えている。各対の2本のリンク10,11は第2軸線Cにおいてクロスして配置されている。各リンク10,11は、一端がいずれか一方の揺動部材3,4の第1軸線B1,B2に揺動可能に連結され、他端が他方の揺動部材3,4の長孔5a,6aを貫通するシャフト12,13に揺動可能に連結されている。2対のリンク10,11は開閉部材5,6を幅方向に挟む位置に配置されている。
【0021】
揺動部材3,4がヒンジ軸A回りに揺動させられて、各揺動部材3,4の第1軸線B1,B2の間隔が変化すると、各対のリンク10,11が第2軸線C回りの角度を変化させることにより、シャフト12,13を長孔5a,6aに沿って移動させる。これにより、各開閉部材5,6が各揺動部材3,4に対して第1軸線B1,B2回りに揺動させられて、揺動部材3,4の相対角度にかかわらず、平行な位置関係を維持しながら近接または離間させられる。すなわち、カム機構9によって、揺動部材3,4の揺動動作が開閉部材5,6の並進動作に変換され、開閉部材5,6は、
図5に示されるように、傾斜面5b,6bのテーパ角度βを維持しながら開閉させられる。
【0022】
このように構成された本実施形態に係る骨開大デバイス1の作用について以下に説明する。
本実施形態に係る骨開大デバイス1を用いて、脛骨(骨)Xに形成された切込みYを開大するには、
図6に示されるように、骨鋸を用いて膝関節を構成する脛骨Xの内側からヒンジ部X1を残して形成した切込みYに、本実施形態に係る骨開大デバイス1の開閉部材5,6の先端を挿入する。
【0023】
挿入時には、開閉部材5,6は、
図4に示されるように、相互に密着する位置まで閉じた状態とし、先端に設けられた傾斜面5b,6bを、
図7に示されるように、切込みYを構成している切断面Y1,Y2間に挿入する。このとき、開閉部材5,6は傾斜面5b,6bによって幅方向一方向に板厚が大きくなる形状を有しているので、脛骨Xの前側から後側に向かって板厚が大きくなる向きで先端から挿入する。
【0024】
そして、
図8に示されるように、先端に設けられた傾斜面5b,6bが切込みYを構成している切断面Y1,Y2の外縁部分、すなわち、皮質骨に接触する位置に配置する。この状態で、術者がグリップ7,8に圧縮力を加えることにより、揺動部材3,4をヒンジ軸A回りに揺動させて、カム機構9により、
図5に示されるように、開閉部材5,6を相互に離間させる。
【0025】
これにより、
図7に示されるように、脛骨Xに形成された切込みYが押し広げられて、脛骨Xの角度が矯正させられる。この状態で、開大された切込みY内に人工骨を挟んだり、開大された切込みYを跨いで骨プレートを固定したりすることにより、脛骨Xの角度が矯正された状態に維持される。
【0026】
この場合において、本実施形態に係る骨開大デバイス1によれば、切込みYを構成している切断面Y1,Y2に接触する傾斜面5b,6bによって、前側から後側に向かって板厚が大きくなる開閉部材5,6が切込みYを構成している切断面Y1,Y2を押し広げるので、切込みYは自動的に脛骨Xの後側の方が前側よりも大きく開大させられる。これにより、後傾を簡易に防止しながら、脛骨Xの切込みYを開大することができるという利点がある。
【0027】
切込みYの角度が脛骨Xの後ろ側の方が前側よりも小さくなると、脛骨Xの前方移動量が減るため、大腿膝蓋関節圧が上昇し、大腿膝蓋関節の変形性膝関節症が進行するという報告がある。本実施形態によれば、脛骨Xの後側の方を前側よりも大きく開大することにより、上記不都合の発生をなくし、適正な傾斜となるように脛骨Xを開大することができる。
【0028】
特に、本実施形態によれば、傾斜面5b,6bを切断面Y1,Y2の皮質骨に接触させることにより、開閉部材5,6と切断面Y1,Y2とを面接触させ続けることができる。これにより、脛骨Xの切断面Y1,Y2にかかる力が分散され、局部的に過大な力が掛かることを防止して、切断面Y1,Y2を健全な状態に維持することができる。そして、開閉部材5,6の開き幅が増大しても、傾斜面5b,6b間の傾斜角度βが一定に維持されるので、周囲の筋組織等から受ける力にかかわらず、切込みYを脛骨Xの後側が広がる適正な角度に開大することができる。
【0029】
なお、本実施形態においては、開閉部材5,6の先端に幅方向に漸次板厚が小さくなる傾斜面5b,6bを設けたが、これに代えて、
図9に示されるように、段差14,15によって、接触面間の距離が脛骨Xの前側よりも後側において大きくなる形状を構成してもよい。
【0030】
また、真っ直ぐに延びる開閉部材5,6の先端を脛骨Xの内側から挿入する場合を例示して説明した。これに代えて、
図10から
図12に示されるように、開閉部材5,6が、ヒンジ軸Aに交差する方向に延びる第1部分16,17と、第1部分16,17に対してヒンジ軸Aに平行に延びる第2部分18,19とからL字状に形成され、第2部分18,19に傾斜面5b,6bが設けられていてもよい。これにより、
図10に示されるように、骨開大デバイス1を配置して開閉部材5,6の先端を切込みYに挿入すれば、上記と同様に、脛骨Xの前側よりも後側を大きく開大させることができる。また、第2部分18,19の傾斜面5b,6bの傾斜方向を逆方向に設定することにより、
図13に示される方向から骨開大デバイス1を挿入することができる。
【0031】
また、
図14から
図16に示されるように、脛骨Xのヒンジ部2にヒンジ軸Aを一致させた状態で、開閉部材5,6を切断面Y1,Y2間に配置する骨開大デバイス20では、カム機構9が不要となる。すなわち、第2部分18,19に設けられた傾斜面5b,6bを、
図15に示されるように、先端に向かって板厚が厚くなる方向に傾斜させておけばよい。
【0032】
図14に示す例では、
図16に示されるように、ヒンジ軸Aに設けた貫通孔21に挿入したピン22の先端を脛骨Xのヒンジ部X1に一致させている。これに代えて、ピン22を用いることなく、
図16の貫通孔21を軸方向に透視しながら貫通孔21の延長上に脛骨Xのヒンジ部X1を配置することにしてもよい。
【0033】
図16の骨開大デバイス20では、2つの傾斜面5b,6bをそれぞれがヒンジ軸Aにおいて交差する方向にも傾斜させている。これにより、開閉部材5,6の開閉によって傾斜面5b,6bの角度が変化しても、傾斜面5b,6bを脛骨Xの切断面Y1,Y2の傾斜角度に一致させ面接触させることができるという利点がある。
【0034】
次に、本発明の一実施形態に係る骨開大システム100について図面を参照して以下に説明する。
本実施形態に係る骨開大システム100は、
図17から
図19に示されるように、
図13の骨開大デバイス1に類似する2つの骨開大デバイス1a,1bを備えている。2つの骨開大デバイス1a,1bは、
図18に示されるように、ヒンジ軸Aに沿う方向に着脱可能に組み合わせられている。
【0035】
2つの骨開大デバイス1a,1bは、
図18に示されるように、組み合わせられた状態で先端の開閉部材5,6を並列に配置している。傾斜面5b,6bは、一方の骨開大デバイス1aから他方の骨開大デバイス1bまで同じ傾斜角度で一方向に傾斜している。
図18に示す例では、脛骨Xの切込みYに挿入されたときに、脛骨Xの後側で最も板厚方向に厚く、脛骨Xの前側で最も薄くなる方向に傾斜している。
【0036】
一方の骨開大デバイス1aのグリップ7,8には、他方の骨開大デバイス1bのグリップ7,8に設けられた溝23,24に嵌め込まれて、グリップ7,8どうし、すなわち、グリップ7,8の先端に設けられた揺動部材3,4どうしを係合する係合部25,26が設けられている。これにより、
図18に示されるように、2つの骨開大デバイス1a,1bを組み合わせた状態では、一方の骨開大デバイス1aに設けられた係合部25,26が、他方の骨開大デバイス1bに設けられた溝23,24に嵌め込まれ、術者が一方のグリップ7,8に力を加えると、他方のグリップ7,8にも力が伝達されて、2つのグリップ7,8が同時に揺動させられる。
【0037】
また、他方の骨開大デバイス1bには、一対のグリップ7,8を任意の相対位置で固定するストッパ機構27が設けられている。ストッパ機構27は、例えば、
図17および
図18に示されるように、一方のグリップ8に揺動可能に支持され、他方のグリップ7を貫通するシャフト28と、シャフト28の先端に形成された雄ネジ29に締結されるナット30とを備えている。ナット30を締結していくと、一対のグリップ7,8の間隔が次第に狭められ、開閉部材5,6が次第に開かれていく。ナット30がグリップ7に係合することにより、術者が手を放しても開閉部材5,6が開かれた状態に維持される。
【0038】
このように構成された本実施形態に係る骨開大システム100によれば、
図18に示されるように、組み合わせた2つの骨開大デバイス1a,1bの2つの開閉部材5,6を脛骨Xの切込みY内に前後方向に並列して挿入し、グリップ7,8に把持する力を加えることにより、2つの開閉部材5,6が同時に同じだけ開かれる。開閉部材5,6に設けられた傾斜面5b,6bにより、切込みYは、前側よりも後側の方が大きく開大され、大腿骨あるいは脛骨Xの後傾を簡易に防止することができる。
【0039】
そして、適正な角度まで開大された状態で、ストッパ機構27により、他方の骨開大デバイス1bのグリップ7,8間隔を固定し、溝23,24と係合部25,26との係合を解除して、
図19に示されるように、一方の骨開大デバイス1aを他方の骨開大デバイス1bから取り外す。これにより、取り外された一方の骨開大デバイス1aの開閉部材5,6が配置されていたスペースから開閉部材5,6が抜き出されて、スペースが開放されるので、開放されたスペースに人工骨を挿入したり、骨プレートを固定したりする作業を容易に行うことができる。
【0040】
なお、ストッパ機構27として、シャフト28とナット30とを備えるものを例示したが、これに限定されるものではなく、ラチェット機構等の任意のストッパ機構を採用してもよい。
また、開閉部材5,6に設けられた傾斜面5b,6bの角度が固定されている場合について説明したが、これに代えて、角度の調節機構を備えていてもよい。また、開閉部材5,6を交換可能に設けてもよい。
【符号の説明】
【0041】
1,1a,1b,20 骨開大デバイス
2 ヒンジ部
3,4 揺動部材
5,6 開閉部材
5b,6b 傾斜面(接触面)
7,8 グリップ(開閉機構)
9 カム機構
14,15 段差(接触面)
16,17 第1部分
18,19 第2部分
25,26 係合部
27 ストッパ機構
100 骨開大システム
A ヒンジ軸(軸線)
X 脛骨(骨)
Y 切込み
Y1,Y2 切断面