(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-18
(45)【発行日】2023-04-26
(54)【発明の名称】多孔質セルロース粒子および化粧料
(51)【国際特許分類】
C08B 15/00 20060101AFI20230419BHJP
A61Q 1/00 20060101ALI20230419BHJP
A61K 8/60 20060101ALI20230419BHJP
A61K 8/73 20060101ALI20230419BHJP
【FI】
C08B15/00
A61Q1/00
A61K8/60
A61K8/73
(21)【出願番号】P 2018184396
(22)【出願日】2018-09-28
【審査請求日】2021-09-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000190024
【氏名又は名称】日揮触媒化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】榎本 直幸
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 慧
(72)【発明者】
【氏名】嶋崎 郁子
【審査官】奥谷 暢子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2009/142255(WO,A1)
【文献】特開2017-088873(JP,A)
【文献】国際公開第2008/084854(WO,A1)
【文献】国際公開第02/036168(WO,A1)
【文献】特開平02-174709(JP,A)
【文献】国際公開第2014/038686(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/046473(WO,A1)
【文献】特開平02-084401(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08B
A61Q
A61K
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶性セルロースが集合して形成された多孔質セルロース粒子であって、
該結晶性セルロースは、グルコース分子を構成単位としたI型の結晶形であり、
該多孔質セルロース粒子は、平均粒子径(d
1)が5~500nm未満、比表面積が25~1000m
2/g、真球度が0.85以上であることを特徴とする多孔質セルロース粒子。
【請求項2】
細孔容積(PV)が、0.2~5.0ml/gであることを特徴とする請求項1に記載の多孔質セルロース粒子。
【請求項3】
平均細孔径(PD)が、2~100nmであることを特徴とする請求項1または2に記載の多孔質セルロース粒子。
【請求項4】
前記多孔質セルロース粒子の水分散液を、超音波分散機を用いて60分間分散させたとき、分散後の平均粒子径d
2と、分散前の平均粒子径d
1の比(d
2/d
1)が、0.95~1.05の範囲にあることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の多孔質セルロース粒子。
【請求項5】
前記結晶性セルロースの平均粒子径(d
3)が1~200nmの範囲にあることを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の多孔質セルロース粒子。
【請求項6】
前記多孔質セルロース粒子は、外殻の内部に空洞を有する中空粒子であることを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載の多孔質セルロース粒子。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の多孔質セルロース粒子が配合された化粧料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、良好な生分解性を持つセルロースが集まって形成された多孔質セルロース粒子に関し、特に、高い真球度の多孔質セルロース粒子とこれを含む化粧料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、化粧料に数百μm級のプラスチック粒子(例えば、ポリエチレン粒子)を配合して、感触特性を向上させている。石油由来の合成高分子(プラスチック粒子)の多くは、自然環境中で分解されず、更に、殺虫剤等の化学物質を吸着し易い。そのため、様々な環境問題が起こっている。例えば、水環境に流出したプラスチック製品が蓄積され、海洋や湖沼の生態系に大きな害を与えている。また、生物濃縮により人体に影響を与えるおそれがある。
【0003】
近年、マイクロプラスチックと呼ばれる長さが5mm以下からナノレベルまでの微細なプラスチックが大きな問題となっている。マイクロプラスチックに該当するものとして、化粧料等に含まれる微粒子、加工前のプラスチック樹脂の小さな塊、大きな製品が海中で浮遊するうちに微細化した物、等が挙げられている。
【0004】
これらのことは国連環境計画等でも指摘されており、各国、各種業界団体が規制を検討している。そこで、自然環境中で微生物等により水と二酸化炭素に分解され、自然界の炭素サイクルに組み込まれる生分解性プラスチックが注目されている。
【0005】
また、自然派化粧品やオーガニック化粧品に関心が高まっており、化粧品の自然・オーガニック指数表示に関するガイドライン(ISO16128)が制定されている。このガイドラインによれば、製品中の原料を、自然原料、自然由来原料、非自然原料に分類し、各原料の含有量に基づいて指数が定められる。今後、このガイドラインに沿って算出された指数が商品に表示されるであろう。そのため、自然由来原料、更に、自然原料を用いることが要求される。
【0006】
このような背景から、良好な生分解性を持つ、植物由来のセルロース粒子が注目されている。従来から、セルロースが溶解した銅アンモニア溶液を酸で中和して、9~400nmの真球状の再生セルロース粒子を得ることが知られている(例えば、特許文献1を参照)。また、セルロースが溶解した銅エチレンジアミン溶液を凝固液に噴霧して、球状の再生セルロース粒子を得ることが知られている(例えば、特許文献2を参照)。これらの再生セルロース粒子は、意図的な化学修飾を行うプロセスにより得られたII型の結晶形セルロースを用いて作製されている。前述のガイドラインの定義によれば、このような再生セルロース粒子は自然由来原料に分類される。一方、意図的な化学修飾を行わないプロセスによりI型の結晶形セルロースを得て、これを用いて形成されたセルロース粒子をスクラブ剤や化粧品に適用することも知られている(例えば、特許文献3を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】WO2008/084854号国際公開公報
【文献】特開2013-133355号公報
【文献】特開2017-88873号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
プラスチックビーズの代替として化粧料に用いるために、セルロース粒子には以下の2点が求められている。
(1)自然原料とみなされるために、意図的な化学修飾を行わないプロセスによって得られるI型の結晶形セルロースで形成されること。
(2)高い真球度や良好な流動性を備え、化粧料の感触特性を向上させること。
【0009】
特許文献1、2に記載の再生セルロース粒子は前述のガイドラインでは自然原料としてみなされなかった。また、特許文献3に記載のセルロース粒子は真球度が0.1~0.7であり、化粧料に良好な感触特性を与えることができなかった。
【0010】
そこで、本発明の目的は、意図的な化学修飾を行わないプロセスによって得られるI型の結晶形セルロースを用いて、高い真球度と良好な流動性を兼ね備える多孔質セルロース粒子を実現することにある。このような多孔質セルロース粒子が配合された化粧料は、環境問題を引き起こす懸念が少なく、さらに、従来のプラスチックビーズと同様な感触特性を得ることができる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明による多孔質セルロース粒子は結晶性セルロースが集合した粒子であり、多孔質セルロース粒子の平均粒子径d1が5~500nm未満、比表面積が25~1000m2/g、真球度が0.85以上である。ここで、結晶性セルロースは、グルコース分子を構成単位としたI型の結晶形を持っている。
【0012】
また、細孔容積PVを、0.2~5.0ml/gの範囲とした。さらに、平均細孔径PDを、2~100nmの範囲とした。また、平均粒子径d3が1~200nmの結晶性セルロースを用いることとした。
【0013】
さらに、多孔質セルロース粒子の水分散液を、超音波分散機を用いて60分間分散させたとき、分散後の平均粒子径d2と、分散前の平均粒子径d1の比(d2/d1)が、0.95~1.05の範囲にある。
【0014】
本発明による多孔質セルロース粒子の製造方法は、I型の結晶形である結晶性セルロースの分散液と界面活性剤と非水系溶媒を混合して、乳化液滴を含む乳化液を調製する乳化工程と、乳化液滴を脱水処理する脱水工程と、脱水工程で得られた非水系溶媒分散体を固液分離して多孔質セルロース粒子を固形物として得る工程と、を備えている。
【0015】
上述したいずれかの多孔質セルロース粒子を化粧料成分に配合して、化粧料を作製することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明による多孔質セルロース粒子は、「グルコース分子を構成単位としたI型の結晶形」を持つ結晶性セルロース(以後、単に「I型の結晶性セルロース」と称す。)が集って形成されている。この多孔質セルロース粒子は、平均粒子径(d1)が5~500nm未満、真球度が0.85以上、比表面積が25~1000m2/gである。このような粒子によれば、プラスチックビーズと同様の感触特性が得られる。平均粒子径は化粧料の感触特性に影響を与える。5nm未満の平均粒子径では、粒子粉体の流動性が低いために、均一な延び広がり性が得られず、感触特性が著しく低下する。一方、500nm以上の平均粒子径では、延び広がり性が高いため、粒子粉体に触ったときにソフト感としっとり感が得られない。特に、平均粒子径(d1)は10~300nmが好ましい。ここでは、レーザー回折法により平均粒子径(d1)を求めた。
【0017】
また、粒子の比表面積が25m2/g未満の場合、水系環境に流出した際に十分な速度で生分解できない。一方、比表面積が1000m2/gを超える場合、粒子が脆くなり、肌に塗布した際に崩壊することがある。比表面積は50~500m2/gが特に好ましい。
【0018】
また、真球度が0.85未満の粒子が配合された化粧料では、良好な転がり性が得られない。真球度は0.90以上が特に好ましい。ここで、真球度は走査型電子顕微鏡の写真から画像解析法により求めた。
【0019】
さらに、多孔質セルロース粒子の粒子変動係数(CV)は、50%以下が好ましい。粒子変動係数が50%を超えると、均一な転がり性が得られない。粒子変動係数は、小さいほど好適であるものの、1%未満の狭小分布な粒子を得ることは工業的に困難である。概ね3%以上であれば製造上特に問題にはならない。粒子変動係数は、3~40%が好ましく、特に3~30%が良い。
【0020】
さらに、細孔容積(PV)は0.2~5.0ml/g、平均細孔径(PD)は2~100nmが好ましい。細孔容積が0.2ml/g未満の粒子は、弾性が低いため、ソフトな感触特性が得られにくい。一方、5.0ml/gを超える粒子では、強度が脆いため、肌に塗布した際に崩壊するおそれがある。細孔容積は0.2~2.0ml/gが、特に好ましい。また、平均細孔径が、2nm未満の場合、感触特性に大きな影響はないものの、生分解性が低下する。一方、100nmを超えると、粒子の強度が脆くなる。
【0021】
化粧料の製造工程で多孔質セルロース粒子が崩壊すると、当初想定していた機能が得られないおそれがある。そのため、製造工程中に平均粒子径が変化しないことが望ましい。そこで、多孔質セルロース粒子を蒸留水に分散させ、この分散液に、超音波分散機を用いて60分間超音波を印加した。分散試験後の平均粒子径d2と試験前の平均粒子径d1の比(d2/d1)は、0.95~1.05が好ましい。この比(d2/d1)が0.95未満ということは、粒子の強度が低いことを表している。すなわち、製造工程における機械的負荷によって、粒子が崩壊し、感触改良効果が得られないおそれがある。一方、この比(d2/d1)が1.05を超えるということは、水中で結晶性セルロースが膨潤することを表している。そのため、製造工程後に化粧料が増粘しやすく、品質安定性を担保できない。さらに、感触特性も変化するおそれがある。この比(d2/d1)は、0.97~1.03が特に好ましい。
【0022】
また、多孔質セルロース粒子は、外殻の内部に空洞が形成された中空構造でもよい。このような中空粒子は同径の中実粒子より軽いため、同じ重量に含まれる粒子数は中実粒子より多くなる。ここで、外殻は多孔質であり、窒素ガスが通過できる程度の多孔性を持つことが好ましい。さらに、外殻の厚さTと多孔質セルロース粒子の外径ODの比(T/OD)は、0.02~0.45の範囲が好ましい。この比(T/OD)が0.45を超えると、中実粒子と実質的に同等になってしまう。一方、この比が、0.02未満であると、粒子が崩壊しやすい。比(T/OD)は、0.04~0.30の範囲が特に好ましい。
【0023】
多孔質セルロース粒子を形成するI型の結晶性セルロースは、平均粒子径d3が1~200nmの範囲であることが好ましい。微細な平均粒子径の粒子で形成された多孔質セルロース粒子は、良好な生分解性を発揮する。
【0024】
I型の結晶を持つ結晶性セルロースは、植物繊維を蒸解して得られるセルロース繊維や市販のセルロース粉末(旭化成社製セオラス(登録商標)PH-101等)をウォータージェット法等の機械処理やTEMPO酸化法等の化学処理により解繊して得られる。その他にも、セルロースナノファイバーやセルロースナノクリスタルが好適である。あるいは、市販の水分散体(例えば、旭化成社製セオラスRC、第一工業製薬社製レオクリスタ(登録商標)、スギノマシーン社製BiNFi-s(登録商標)、草野作工社製Fibnano等)をI型の結晶性セルロースとして用いてもよい。
【0025】
ここで、多孔質セルロース粒子中にはI型の結晶性セルロースだけではなく、II~IV型の他の結晶性セルロースを含んでいても良い。ただし、I型の結晶性セルロースを50重量%以上含むことが望ましい。I型の結晶性セルロースの含有量は、好ましくは75%以上、更に好ましくは90%以上である。含有量が多いほど前述のガイドラインによる自然指数が高くなる。なお、セルロースの結晶形は、赤外分光法にて同定することができ、I型の結晶形は、3365~3370cm-1に強い吸収が認められる。その他、固体13C-NMR法によるケミカルシフトの違いや、X線回折法による回折角から同定することもできる。また、結晶形は、Iα、Iβのどちらでも良く、混合物であっても良い。
【0026】
<多孔質セルロース粒子の製造方法>
次に、多孔質セルロース粒子の製造方法について説明する。まず、I型の結晶性セルロースの分散液と界面活性剤と非水系溶媒を混合して、乳化させる(乳化工程)。これにより乳化液滴を含む乳化液が得られる。次に、乳化液を脱水処理する(脱水工程)。これにより、乳化液滴中の水が除去される。次に、固液分離して多孔質セルロース粒子を固形物として取り出す(固液分離工程)。この固形物を乾燥して解砕する(乾燥工程)ことにより、多孔質セルロース粒子の粉体が得られる。得られた多孔質セルロース粒子の真球度は0.85以上である。
【0027】
以下、各工程を詳細に説明する。
【0028】
[乳化工程]
まず、I型の結晶性セルロースの分散液を用意する。この分散液の固形分濃度を0.01~5%の範囲に調整して、適切な粘度の分散液とする。固形分濃度が5%を超える場合は、通常、粘度が高くなり、乳化液滴の均一性が損なわれることがある。0.01%未満の固形分濃度では経済性が悪く、特に利点もない。分散液の固形分濃度は、特に0.1~3.0%が好ましい。なお、分散液の溶媒は水が好ましい。
【0029】
この分散液と非水系溶媒と界面活性剤を混合する。非水系溶媒は、乳化のために必要であり、水と相溶しないものであればよい。非水系溶液としては、一般的な炭化水素溶媒を用いることができる。界面活性剤は油中水滴型の乳化液滴を形成するために添加される。界面活性剤のHLB値は1~10の範囲が適している。非水系溶媒の極性に応じて、最適なHLB値を選択すればよい。HLB値は特に1~5の範囲が好ましい。また、異なるHLB値の界面活性剤を組み合わせてもよい。
【0030】
次に、この混合溶液を乳化装置により乳化させる。このとき、平均径が5nm~5μmの乳化液滴を含んだ乳化液が得られるように、乳化条件を設定する。乳化液滴中には水に分散したI型の結晶性セルロースが存在している。乳化装置には、一般的な高速せん断装置を用いることができる。この他、より微細な乳化液滴が得られる高圧乳化装置、より均一な乳化液滴が得られる膜乳化装置、マイクロチャネル乳化装置等の公知の装置を目的に応じて選択できる。
【0031】
なお、乳化液滴の平均径は次のように測定した。乳化液をスライドガラスに滴下し、その上からカバーガラスを被せる。デジタルマイクロスコープ(キーエンス社製、VHX-600)により、カバーガラス越しに30倍から2000倍の倍率で撮影し、乳化液滴の写真投影図を得る。この写真投影図から、50個の液滴を任意に選び、付属のソフトウェアにて円相当径を算出する。それら50個の円相当径の平均値を平均径(平均液滴径)とした。
【0032】
[脱水工程]
次に、乳化工程で得られた乳化液を脱水処理する。常圧または減圧下で加熱することにより、水を蒸発させる。これにより、乳化液滴から水が除去され、粒子径5~500nm未満の多孔質セルロース粒子(I型結晶性セルロースの集合体)を含む非水系溶媒分散体が得られる。
【0033】
例えば、常圧下の加熱脱水法では、冷却管を備えたセパラブルフラスコを加熱し、非水系溶媒を回収しながら、脱水を行う。また、減圧下の加熱脱水法では、ロータリーエバポレーターや、蒸発缶等用いて減圧加熱し、非水系溶媒を回収しながら、脱水を行う。後述の固液分離工程で非水系溶媒分散体から多孔質セルロース粒子を固形物として取り出せる程度まで脱水を行うことが好ましい。脱水が不十分だと、固液分離工程で球状粒子としての形態を維持できない。
【0034】
[固液分離工程]
固液分離工程では、従来公知の濾過、遠心分離等の方法で、脱水工程で得られた非水系溶媒分散体から固形分を分離する。これにより、多孔質セルロース粒子のケーキ状物質が得られる。
【0035】
さらに、得られたケーキ状物質を洗浄してもよい。これにより、界面活性剤を除去できる。多孔質セルロース粒子を乳化物等の液体製剤に配合する場合、界面活性剤が長期安定性を阻害するおそれがある。そのため、多孔質セルロース粒子に含まれる界面活性剤の残留量は500ppm以下が好ましい。界面活性剤を低減させるためには、有機溶媒を用いて洗浄すると良い。
【0036】
[乾燥工程]
乾燥工程では、常圧または減圧下での加熱により、固液分離工程で得られたケーキ状物質に含まれる非水系溶媒を蒸発させる。これにより、真球度0.85以上、平均粒子径5~500nm未満の多孔質セルロース粒子の乾燥粉体が得られる。
【0037】
また、乳化工程で得られた乳化液を-50~0℃の範囲で冷却してから脱水工程を行ってもよい。すなわち、乳化液滴中の水を凍結させて凍結乳化物とする。凍結乳化物を常温に戻してから脱水工程を行う。凍結温度が-50℃~-10℃の場合には、中実構造の多孔質セルロース粒子が得られる。-10~0℃の場合には、中空構造の多孔質セルロース粒子が得られる。-10~0℃程度の温度では、氷の結晶が徐々に成長する。結晶の成長に伴って、液滴中の結晶性セルロース(一次粒子)が液滴の外周に排斥される。そのために、外殻の内部に空洞が形成される。
【0038】
<化粧料>
上述の多孔質セルロース粒子と各種化粧料成分を配合して化粧料を調製することができる。このような化粧料によれば、単一成分の無機粒子(シリカ粒子)と同様の転がり感、転がり感の持続性、及び均一な延び広がり性、プラスチックビーズと同様のソフト感としっとり感を同時に得ることができる。すなわち、化粧料の感触改良材に求められる代表的な感触特性を満たすことができる。
【0039】
具体的な化粧料を表1に分類別に例示する。このような化粧料は、従来公知の一般的な方法で製造できる。化粧料は、粉末状、ケーキ状、ペンシル状、スティック状、クリーム状、ジェル状、ムース状、液状、クリーム状等の各種形態で使用される。
【0040】
各種化粧料成分として代表的な分類や成分を表2に例示する。さらに、医薬部外品原料規格2006(発行:株式会社薬事日報社、平成18年6月16日)や、International Cosmetic Ingredient Dictionary and Handbook(発行:The Cosmetic, Toiletry, and Fragrance Association、Eleventh Edition2006)等に収載されている化粧料成分を配合してもよい。
【0041】
【0042】
【実施例】
【0043】
以下、本発明の実施例を具体的に説明する。
【0044】
[実施例1]
はじめに、I型の結晶性セルロースの分散液を準備する。本実施例では、I型セルロース(旭化成社製セオラスPH-101)50gを純水4950gに懸濁した。この懸濁液をマイクロフルイダイザー(マイクロフルイデックス社製M-7250-30)に200回通過させて、固形分濃度1%の分散液を調製した。
【0045】
この分散液と非水溶性溶媒と界面活性剤を混合する。本実施例では、この分散液200gを、ヘプタン(関東化学社製)3346gと界面活性剤AO-10V(花王社製)25gの混合溶液中に加えた。この混合溶液を100MPaの圧力でマイクロフルイダイザーに通過させた。これにより乳化され、乳化液滴を含む乳化液が得られた。この乳化液を、60℃で16時間加熱し、乳化液滴を脱水した。さらに、10000Gで10分間遠心分離処理を行って、固液分離した。得られた沈降物をヘプタンに分散させ、再度遠心分離処理を行った。この操作を3回繰り返し、界面活性剤を除去した。これにより得られたケーキ状物質を、60℃で12時間乾燥した。この乾燥粉体を250mesh篩(JIS試験用規格篩)でふるいにかけ、多孔質セルロース粒子の粉体を得た。
【0046】
多孔質セルロース粒子の調製条件を表3に示す。また、多孔質セルロース粒子の粉体の物性を以下の方法で測定した。その結果を表4に示す。
【0047】
(1)各粒子の平均粒子径(d1、d3)
レーザー回折法を用いて、各粒子の粒度分布を測定した。この粒度分布からメジアン値を求め、平均粒子径とした。このようにして、多孔質セルロース粒子の平均粒子径d1、I型の結晶性セルロースの平均粒子径d3を求めた。ここでは、レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置LA-950v2(株式会社堀場製作所製)を用いて粒度分布を測定した。但し、セルロースナノファイバーやセルロースナノクリスタル等に代表される繊維状のI型結晶性セルロースの平均粒子径d3については、「平均粒子径=6000÷(真密度×比表面積)」の式を用いて等価球換算の平均粒子径を算出した。
【0048】
(2)超音波分散前後の平均粒子径比
レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置(LA-950v2)で、分散条件を「超音波60分間」に設定し、分散させた。分散後の多孔質セルロース粒子の粒度分布を測定した。この粒度分布のメジアン値を超音波分散後の平均粒子径d2とした。これから超音波分散前後の平均粒子径の比(d2/d1)を求めた。
【0049】
(3)多孔質セルロース粒子の真球度
透過型電子顕微鏡(日立製作所製、H-8000)により、2000倍から25万倍の倍率で撮影し、写真投影図を得る。この写真投影図から、任意の50個の粒子を選び、それぞれの最大径DLと、これに直交する短径DSを測定し、比(DS/DL)を求めた。それらの平均値を真球度とした。
【0050】
(4)多孔質セルロース粒子の比表面積
多孔質セルロース粒子の粉体を磁性ルツボ(B-2型)に約30ml採取し、105℃の温度で2時間乾燥後、デシケーターに入れて室温まで冷却した。次に、サンプルを1g取り、全自動表面積測定装置(湯浅アイオニクス社製、マルチソーブ12型)を用いて、比表面積(m2/g)をBET法にて測定した。多孔質セルロース粒子に配合したI型結晶性セルロースの密度(1.5g/cm3)でこれを換算し、単位体積当たりの比表面積を求めた。
【0051】
(5)多孔質セルロース粒子の細孔容積、平均細孔径
多孔質セルロース粒子の粉体10gをルツボに取り、105℃で1時間乾燥後、デシケーターに入れて室温まで冷却した。次いで、洗浄したセルに0.15g試料を取り、Belsorp miniII(日本ベル社製)を使用して真空脱気しながら試料に窒素ガスを吸着させ、その後、脱着させる。得られた吸着等温線から、BJH法により平均細孔径を算出する。また、「細孔容積(ml/g)=(0.001567×(V-Vc)/W)」という式から細孔容積を算出した。ここで、Vは圧力735mmHgにおける標準状態の吸着量(ml)、Vcは圧力735mmHgにおけるセルブランクの容量(ml)、Wは試料の質量(g)を表す。また、窒素ガスと液体窒素の密度の比を0.001567とした。
【0052】
[実施例2]
実施例1と同様に、固形分濃度1%のI型の結晶性セルロースの分散液を調製した。この分散液200gとヘプタン3346gと界面活性剤(AO-10V)25gとを混合した。この混合溶液を100MPaの圧力でマイクロフルイダイザーに通過させることにより、乳化させた。このようにして得られた乳化液を-5℃の恒温槽中で72時間静置し、乳化液滴中の水を凍結させた。その後、常温まで昇温し、解凍した。さらに、実施例1と同様に遠心分離処理を行い、ヘプタンで繰り返し洗浄し、界面活性剤を除去した。得られたケーキ状物質から、実施例1と同様に多孔質セルロース粒子の粉体を得て、この粉体の物性を測定した。
【0053】
本実施例で得られた多孔質セルロース粒子の内部構造を調べた。粉体0.1gをエポキシ樹脂約1g(BUEHLHER製EPO-KWICK)に均一に混合して常温で硬化させた後、FIB加工装置(日立製作所製、FB-2100)を用いて、試料を作製した。透過型電子顕微鏡(日立製作所製、HF-2200)を用いて、加速電圧200kVの条件下で、この試料のSEM像を撮影した。その結果、外殻の内部に空洞が形成された中空構造の粒子であった。このSEM像から、外殻の厚さTと外径ODを計測し、外殻の厚さ比(T/OD)を求めた。
【0054】
[実施例3]
実施例2と同様に乳化液を調製した。この乳化液を-25℃の冷凍庫中で72時間静置した。これ以降は実施例2と同様にして、多孔質セルロース粒子を調製し、物性を測定した。
【0055】
[実施例4]
実施例1のセオラスPH-101の代わりにBiNFi-s WMa-10002(スギノマシン社製)をI型セルロースとして用いて、固形分濃度1%の分散液を調製した。これ以降は実施例1と同様にして多孔質セルロース粒子を調製し、物性を測定した。
【0056】
[実施例5]
本実施例では、乳化時に50MPaの圧力で混合溶液をマイクロフルイダイザーに通過させた。これ以外は実施例1と同様にして多孔質セルロース粒子を調製し、物性を測定した。
【0057】
[実施例6]
実施例1のセオラスPH-101の代わりに第一工業製薬社製I-2SPをI型セルロースとして用いて、固形分濃度1%の分散液を調製した。また、乳化時のマイクロフルイダイザーへの通液回数を5回に変更した。これ以外は実施例1と同様にして多孔質セルロース粒子を調製し、物性を測定した。
【0058】
[比較例1]
乳化液の脱水条件を40℃で4時間に変更した以外は実施例4と同様にして多孔質セルロース粒子を調製し、物性を測定した。
【0059】
[比較例2]
本比較例では、乳化法を用いずに噴霧乾燥法により結晶性セルロースの集合粒子を作製した。はじめに、旭化成社製セオラスPH-101 20g、尿素75g、水酸化リチウム23g、蒸留水5000gを混合した。この混合液を-25℃の恒温槽内で2時間冷却した。これを常温に昇温し、解凍することによりセルロースが溶解した溶液が得られる。この溶液を噴霧液として、スプレードライヤー(NIRO社製、NIRO-ATMIZER)により噴霧乾燥した。すなわち、入口温度150℃、出口温度が50~55℃に設定した乾燥気流中に、2流体ノズルの一方から噴霧液を2L/hrの流量で、他方のノズルから0.15MPaの圧力で気体を供給して噴霧乾燥した。これにより得られた乾燥粉体はII型の結晶形を持つセルロースである。これを純水に懸濁し、10000Gで10分間遠心分離処理を行って、固液分離した。得られた沈降物を純水に分散させ、再度遠心分離処理を行った。この操作を5回繰り返し、ケーキ状物質を得た。このケーキ状物質を120℃で16時間乾燥させた後、250mesh篩(JIS試験用規格篩)でふるいにかけ、多孔質セルロース粒子の粉体が得られた。この粉体の物性を実施例1と同様に測定した。
【0060】
【0061】
【0062】
[多孔質セルロース粒子の粉体の感触特性]
次に、各実施例と比較例で得られた粉体の感触特性を評価した。各粉体について、20名の専門パネラーによる官能テストを行い、さらさら感、しっとり感、転がり感、均一な延び広がり性、肌への付着性、転がり感の持続性、およびソフト感の7つの評価項目に関して聞き取り調査を行った。評価点基準(a)に基づく各人の評価点を合計し、評価基準(b)に基づき感触特性を評価した。結果を表5に示す。その結果、各実施例の粉体は、化粧料の感触改良材として極めて優れているが、比較例の粉体は、感触改良材として適していないことが分かった。
評価点基準(a)
5点:非常に優れている
4点:優れている
3点:普通
2点:劣る
1点:非常に劣る
評価基準(b)
◎:合計点が80点以上
○:合計点が60点以上80点未満
△:合計点が40点以上60点未満
▲:合計点が20点以上40点未満
×:合計点が20点未満
【0063】
【0064】
[パウダーファンデーションの使用感]
多孔質セルロース粒子の粉体を用いて表6に示す配合比率(重量%)となるようにパウダーファンデーションを作製した。すなわち、各実施例の粉体を成分(1)として、成分(2)~(9)とともにミキサーに入れて撹拌し、均一に混合した。次に、化粧料成分(10)~(12)をこのミキサーに入れて撹拌し、さらに均一に混合した。得られたケーキ状物質を解砕処理した後、その中から約12gを取り出し、46mm×54mm×4mmの角金皿に入れてプレス成型した。この様にして得られたパウダーファンデーションについて、20名の専門パネラーによる官能テストを行った。肌への塗布中の均一な延び、しっとり感、滑らかさ、および、肌に塗布後の化粧膜の均一性、しっとり感、やわらかさの6つの評価項目に関して聞き取り調査を行った。前述の評価点基準(a)に基づく各人の評価点を合計し、前述の評価基準(b)に基づきファンデーションの使用感を評価した。結果を表7に示す。実施例による化粧料A~Fは、塗布中でも塗布後でも、使用感が優れていることが分かった。しかし、比較例の化粧料a、bは、使用感がよくないことが分かった。
【0065】
【0066】