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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-18
(45)【発行日】2023-04-26
(54)【発明の名称】工作用の回転機器
(51)【国際特許分類】
   B23Q 11/00 20060101AFI20230419BHJP
   F16J 15/3204 20160101ALI20230419BHJP
   F16J 15/324 20160101ALI20230419BHJP
   F16J 15/46 20060101ALI20230419BHJP
   F16J 15/40 20060101ALI20230419BHJP
   F16C 33/78 20060101ALI20230419BHJP
   F16C 19/36 20060101ALI20230419BHJP
   F16C 35/12 20060101ALI20230419BHJP
   B23Q 1/01 20060101ALI20230419BHJP
   B23Q 11/12 20060101ALN20230419BHJP
【FI】
B23Q11/00 E
F16J15/3204 201
F16J15/324
F16J15/46
F16J15/40 Z
F16C33/78 Z
F16C19/36
F16C35/12
B23Q1/01 T
B23Q11/12 A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019054110
(22)【出願日】2019-03-22
(65)【公開番号】P2020151823
(43)【公開日】2020-09-24
【審査請求日】2022-03-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000154901
【氏名又は名称】株式会社北川鉄工所
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 哲也
【審査官】亀田 貴志
(56)【参考文献】
【文献】実開平04-019732(JP,U)
【文献】特開2018-068084(JP,A)
【文献】特開平10-132088(JP,A)
【文献】特開2001-232537(JP,A)
【文献】特開2019-019848(JP,A)
【文献】特開2016-064481(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23Q 11/00 - 11/12
B23Q 1/00 - 1/68
F16J 15/00 - 15/48
F16C 33/78
F16C 19/36
F16C 35/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
工作用の回転機器であって、
シャフト及びテーブルを有するスピンドルと、
前記テーブルを露出させた状態で、前記スピンドルを回転可能に収容する筐体と、
前記テーブルと前記筐体との間の隙間を塞ぐように、所定の環状隙間を隔てて互いに対向するように配置された一対の環状シール材と、
前記環状隙間と連通するように前記筐体に形成され、前記環状隙間にエアを供給する給気通路と、
を備え、
前記給気通路は、
前記筐体にエアを導入する1つのメイン通路と、
前記メイン通路と連通し、前記スピンドルの周囲を巡るように設けられた環状スペースと、
前記環状スペースと前記環状隙間とに連通する複数の連絡通路と、
を有し、
前記環状隙間は、周方向に互いに間隔を隔てて配置されていて各々が前記連絡通路の各々に接続されている複数のエア導出口を有し、
前記給気通路が、前記メイン通路、前記環状スペース、および前記連絡通路の各々を介して、前記エア導出口の各々から前記環状隙間にエアを供給するように構成されていて
前記筐体は、
円筒状の収容室が形成されている本体部と、
前記本体部の前側に形成されている円形の凹部に嵌め込まれるとともに前記収容室と中心線が一致する開口部が形成されている前蓋部と、
を有し、
前記シャフトは、前記収容室に収容された状態で、前記収容室の前側に配置されたベアリングを介して前記筐体に軸支されていて、前記テーブルは、当該シャフトに組み付けられた状態で、前記開口部を通じて前記筐体の前面に露出するとともに前記前蓋部の前方に張り出すフランジ部を有しており、
前記メイン通路の下流側の端部は、前記本体部における前記前蓋部との接合面に開口し、
前記前蓋部の後面の外周縁部に凹みが形成されていて、当該前蓋部を前記本体部に組み付けることによって前記環状スペースが形成され、
前記一対の環状シール材は、前記フランジ部と前記前蓋部との間に前記環状隙間を隔てて径方向に対向するように配置されていて、
前記エア導出口の各々は、前記環状隙間の後面に形成され、
前記連絡通路の各々は、前記前蓋部に形成されていて、前記エア導出口から屈曲して径方向に延びる第1孔と、前記環状スペースから軸方向に延びて当該第1孔に連なる第2孔とを有する略L状に屈曲した形状に形成されている、工作用の回転機器。
【請求項2】
工作用の回転機器であって、
テーブルを有するスピンドルと、
前記テーブルを露出させた状態で、前記スピンドルを回転可能に収容する筐体と、
前記テーブルと前記筐体との間の隙間を塞ぐように、所定の環状隙間を隔てて互いに対向するように配置された一対の環状シール材と、
前記環状隙間と連通するように前記筐体に形成され、前記環状隙間にエアを供給する給気通路と、
を備え、
前記給気通路が、前記環状隙間の周方向のいずれか一方に偏ってエアを流出させることにより、前記環状隙間に密封性を確保した状態でエアの旋回流が形成される、工作用の回転機器。
【請求項3】
請求項2に記載の工作用の回転機器において、
前記給気通路は、
前記筐体にエアを導入する1つのメイン通路と、
前記メイン通路と連通し、前記スピンドルの周囲を巡るように設けられた環状スペースと、
前記環状スペースと前記環状隙間とに連通する複数の連絡通路と、
を有し、
前記環状隙間は、周方向に互いに間隔を隔てて配置されていて各々が前記連絡通路の各々に接続されている複数のエア導出口を有し、
前記給気通路は、前記メイン通路、前記環状スペース、および前記連絡通路の各々を介して、前記エア導出口の各々から前記環状隙間にエアを供給し、
前記連絡通路の各々が、前記環状隙間の周方向のいずれか一方に偏ってエアを流出させることにより、前記環状隙間にエアの旋回流が形成される、工作用の回転機器。
【請求項4】
請求項1または請求項3に記載の工作用の回転機器において、
前記環状スペースは、
前記メイン通路が接続されている1つの給気口と、
周方向に互いに間隔を隔てて配置されていて、各々が前記連絡通路の各々に接続されている複数のエア導入口と、
を有し、
前記給気口が、隣接している2つの前記エア導入口の間の部位に配置されていて、前記エア導入口の双方から、少なくとも所定の間隔を隔てて位置している、工作用の回転機器。
【請求項5】
請求項2または請求項3に記載の工作用の回転機器において、
一対の前記環状シール材が、軸方向に前記環状隙間を隔てて互いに対向するように配置されている、工作用の回転機器。
【請求項6】
請求項2または請求項3に記載の工作用の回転機器において、
一対の前記環状シール材が、径方向に前記環状隙間を隔てて互いに対向するように配置されている、工作用の回転機器。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1つに記載の工作用の回転機器において、
前記環状シール材が弾性変形可能なリップを有し、前記リップが前記テーブルおよび前記筐体のいずれか一方に接触している、工作用の回転機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
開示する技術は、加工対象を支持する回転テーブルなどの工作用の回転機器に関し、その中でも特に、シール部位での発熱抑制と異物侵入防止とを両立する技術する。
【背景技術】
【0002】
工作時には、切粉や切削水が周辺に飛散するため、この種の回転機器は過酷な環境下で回転される。回転部位に異物が侵入すると、故障の原因となる。そのため、通常は、シール材で回転部位の周囲を封止し、異物の侵入を防止している。
【0003】
開示する技術に関連して、本発明者が先に提案した回転機器がある(特許文献1)。
【0004】
図1に、その回転機器を示す。機器本体10にベアリング11を介してスピンドル12が回転自在に軸支されている。そのスピンドル12の前端に、加工対象を支持するテーブル13が取り付けられている。スピンドル12は、不図示のギア機構を介して連結されたモータによって回転される。機器本体10の内部には、潤滑油が貯留されていて、ベアリング11およびスピンドル12の一部は、潤滑油に浸漬している。
【0005】
機器本体10の前面には、テーブル13の周囲を覆うようにケーシング14が装着されている。テーブル13とケーシング14との間の隙間を塞ぐために、3つのリング状のシール材S2,S3,S4が設けられている。
【0006】
2つのシール材S4,S3は、オイルシールであり、軸Jが延びる方向に並んだ状態で、テーブル13の外縁部とケーシング14との間に配置されている。シール材S2は、Vリングであり、これらシール材S4,S3よりも奥方に配置されている。
【0007】
機器本体10およびケーシング14には、給気通路31が形成されている。工作時には、その給気通路31を通じて、2つのシール材S4,S3の間の環状の隙間(密封空間K)に空気が供給される。それにより、図1に拡大して矢印で示すように、シール材S4には、密封空間Kを開く方向に空圧が作用し、また、シール材S3には、密封空間Kを閉じる方向に空圧が作用する。
【0008】
従って、シール材S4では、空気の吹き出しによって異物の浸入が防止できる。シール材S3では、潤滑油がシール材S2から漏れ出しても、それより先への潤滑油の漏れ出しを抑制できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2019-19848号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1の回転機器では、1つの給気通路31を直接、密封空間Kに接続して空気を供給していた。そのため、密封空間Kで圧力差が発生し、シール性が低下するなどの課題が認められた。この点、具体的に説明する。
【0011】
図2に、図1における矢印X-X線での概略断面図を示す。環状の密封空間Kには、給気口が一箇所だけ形成されており、給気通路31は、その給気口を通じて密封空間Kに空気を供給する。密封空間Kに流入する空気は、給気口から両側に分岐して流れて行くので、供給口の反対側で衝突する。
【0012】
そのため、密封空間Kのうち、給気口の反対側の部位の空圧が相対的に高くなり、密封空間Kに圧力差が生じる。空圧を利用してシールしているため、密封空間Kの部位によってシール性が異なることとなる。その結果、シール性が局所的に低下する、シール材が局所的に劣化し易くなるなどの不具合が認められた。
【0013】
そこで開示する技術の主たる目的は、シール部位での発熱抑制と異物侵入防止とが、適切に両立できる工作用の回転機器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
開示する技術は、工作用の回転機器に関する。前記回転機器は、円形のテーブルを有するスピンドルと、前記テーブルを露出させた状態で、前記スピンドルを回転可能に収容する筐体と、前記テーブルと前記筐体との間の隙間を塞ぐように、所定の環状隙間を隔てて互いに対向するように配置された一対の環状シール材と、前記環状隙間と連通するように前記筐体に形成され、前記環状隙間にエアを供給する給気通路と、を備え、前記給気通路は、前記筐体にエアを導入する1つのメイン通路と、前記メイン通路と連通し、前記スピンドルの周囲を巡るように設けられた環状スペースと、前記環状スペースと前記環状隙間とに連通する複数の連絡通路と、を有し、前記環状隙間は、周方向に互いに間隔を隔てて配置されていて各々が前記連絡通路の各々に接続されている複数のエア導出口を有し、前記給気通路が、前記メイン通路、前記環状スペース、および前記連絡通路の各々を介して、前記エア導出口の各々から前記環状隙間にエアを供給する。
そして、前記筐体は、円筒状の収容室が形成されている本体部と、前記本体部の前側に形成されている円形の凹部に嵌め込まれるとともに前記収容室と中心線が一致する開口部が形成されている前蓋部と、を有し、前記シャフトは、前記収容室に収容された状態で、前記収容室の前側に配置されたベアリングを介して前記筐体に軸支されていて、前記テーブルは、当該シャフトに組み付けられた状態で、前記開口部を通じて前記筐体の前面に露出するとともに前記前蓋部の前方に張り出すフランジ部を有しており、前記メイン通路の下流側の端部は、前記本体部における前記前蓋部との接合面に開口し、前記前蓋部の後面の外周縁部に凹みが形成されていて、当該前蓋部を前記本体部に組み付けることによって前記環状スペースが形成され、前記一対の環状シール材は、前記フランジ部と前記前蓋部との間に前記環状隙間を隔てて径方向に対向するように配置されていて、前記エア導出口の各々は、前記環状隙間の後面に形成され、前記連絡通路の各々は、前記前蓋部に形成されていて、前記エア導出口から屈曲して径方向に延びる第1孔と、前記環状スペースから軸方向に延びて当該第1孔に連なる第2孔とを有する略L状に屈曲した形状に形成されている。
【0015】
好ましくは、円形のテーブルを有するスピンドルと、前記テーブルを露出させた状態で、前記スピンドルを回転可能に収容する筐体と、前記テーブルと前記筐体との間の隙間を塞ぐように、所定の環状隙間を隔てて互いに対向するように配置された一対の環状シール材と、前記環状隙間と連通するように前記筐体に形成され、前記環状隙間にエアを供給する給気通路と、を備え、前記給気通路が、前記環状隙間の周方向のいずれか一方に偏ってエアを流出させることにより、前記環状隙間に密封性を確保した状態でエアの旋回流が形成される。
【0016】
好ましくは、前記給気通路は、前記筐体にエアを導入する1つのメイン通路と、前記メイン通路と連通し、前記スピンドルの周囲を巡るように設けられた環状スペースと、前記環状スペースと前記環状隙間とに連通する複数の連絡通路と、を有し、前記環状隙間は、周方向に互いに間隔を隔てて配置されていて各々が前記連絡通路の各々に接続されている複数のエア導出口を有し、前記給気通路は、前記メイン通路、前記環状スペース、および前記連絡通路の各々を介して、前記エア導出口の各々から前記環状隙間にエアを供給し、前記連絡通路の各々が、前記環状隙間の周方向のいずれか一方に偏ってエアを流出させることにより、前記環状隙間にエアの旋回流が形成される。
【0017】
好ましくは、前記環状スペースは、前記メイン通路が接続されている1つの給気口と、周方向に互いに間隔を隔てて配置されていて、各々が前記連絡通路の各々に接続されている複数のエア導入口と、を有し、前記給気口が、隣接している2つの前記エア導入口の間の部位に配置されていて、前記エア導入口の双方から、少なくとも所定の間隔を隔てて位置している。
【0018】
好ましくは、一対の前記環状シール材が、軸方向に前記環状隙間を隔てて互いに対向するように配置されている。
【0019】
好ましくは、一対の前記環状シール材が、径方向に前記環状隙間を隔てて互いに対向するように配置されている。
【0020】
好ましくは、前記環状シール材が弾性変形可能なリップを有し、前記リップが前記テーブルおよび前記筐体のいずれか一方に接触している。
【発明の効果】
【0021】
開示する技術によれば、工作用の回転機器におけるシール部位での発熱抑制と異物侵入防止とが、適切に両立できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】従来の回転機器を説明するための図である(特許文献1の図3図4に相当)。
図2図1における矢印X-X線での概略断面図である。
図3】本実施形態のNC円テーブル(回転機器)を示す概略斜視図である。
図4図3における矢印Y-Y線での概略断面図である。
図5】前方から要部を見た概略断面図である。
図6】応用例のNC円テーブルにおける図5相当図である。
図7】第1変形例のNC円テーブルにおける図4相当図である。
図8】第2変形例のNC円テーブルにおける図4相当図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、開示する技術の実施形態を、図3~8に基づいて詳細に説明する。ただし、以下の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物あるいはその用途を制限するものではない。
【0024】
説明で用いる「軸方向」は、回転軸Jが延びる方向を意味する。同様に、「周方向」は、回転軸Jを中心とする円周の方向を意味し、「径方向」は、回転軸Jを中心とする半径または直径の方向を意味する。「前」は機械加工時における使用側を意味し、「後」は機械加工時における不使用側を意味する。
【0025】
図3図4に、開示する技術を適用したNC円テーブル1(回転機器の一例)を示す。NC円テーブル1は、大略、筐体2、ボックス3、スピンドル4、モータ5などで構成されている。NC円テーブル1は、機械加工に用いられ、その前面のテーブル42が高速回転する。
【0026】
すなわち、テーブル42にチャック等を装着してワーク(加工対象物)を支持する。そうした状態で、スピンドル4が高速で回転駆動される。回転するワークに、冷却用のオイルや水を供給しながら、切削具等を押し当てることにより、加工が行われる。
【0027】
筐体2は、本体部21、前蓋部22、後蓋部23などで構成されている。本体部21には、前後方向に貫通する円筒状の収容室21aが形成されている。後蓋部23は、本体部21の後側に組み付けられており、収容室21aの後側の開口を塞いでいる。
【0028】
前蓋部22は、円筒状の部材からなる。前蓋部22は、本体部21の前側に形成されている円形の凹部に嵌め込まれている。前蓋部22は、収容室21aの前側を覆うように、本体部21の前側に組み付けられている。
【0029】
前蓋部22には、円形の開口部22aが形成されている。開口部22aの中心線と収容室21aの中心線とは、略一致している。収容室21aの前側には、環状のベアリング7が配置されている。ベアリング7は、互いに自在に回転する外輪部7aおよび内輪部7bを有している。ベアリング7は、その外輪部7aが、本体部21と前蓋部22との間に挟み込まれることにより、筐体2に組み付けられている。
【0030】
ボックス3は、箱形の容器からなり、筐体2の一方の側面に組み付けられている。ボックス3の内部には、NC円テーブル1の駆動および制御に用いられる各種ケーブルや電気機器が配設されている。ボックス3から導出されているケーブル(図示せず)を通じて、NC円テーブル1に電力が供給される。
【0031】
本実施形態のスピンドル4は、シャフト41およびテーブル42を有している。シャフト41は、多段円柱状の部材からなり、収容室21aに収容されている。シャフト41は、小径部41aと、小径部41aよりも外径が大きい大径部41bとを有している。
【0032】
テーブル42は、開口部22aの内径よりも僅かに外径が小さい円板状部材からなり、シャフト41(大径部41b)の前面に組み付けられている。シャフト41とテーブル42とが組み付けられることにより、ベアリング7の内輪部7bが、シャフト41とテーブル42との間に挟み込まれている。それにより、スピンドル4は、ベアリング7を介して筐体2に軸支されており、回転軸Jを中心に回転自在となっている。すなわち、スピンドル4は、回転体を構成している。
【0033】
上述したように、テーブル42は、スピンドル4のうち、チャック又は冶具等を介してワークが装着される部位であり、テーブル42の円形の前面は、開口部22aを通じて筐体2の前面に露出している。なお、スピンドル4は、本実施形態のように、複数のパーツを組み合わせて構成してもよいし、一体で構成してあってもよい(第1変形例参照)。
【0034】
モータ5は、ロータ51とステータ52とを有し、収容室21aに収容されている。ロータ51は、環状の部材からなり、小径部41aに固定されている。ステータ52は、ロータ51よりも大きな環状の部材からなり、ロータ51と僅かなギャップを隔てて径方向に対向した状態で、本体部21に固定されている。
【0035】
ステータ52に所定の制御電流を供給することで、ロータ51との間に回転磁界が形成される。それによってスピンドル4が、直接駆動され、所定の高速回転(例えば、ロータ51の外周での周速が10m/s以上)で回転する(いわゆるダイレクトドライブ形式)。
【0036】
(シール構造)
テーブル42と筐体2との間には隙間が有る。NC円テーブル1の場合、その前面は、切粉や切削水に曝されるため、隙間を通じて収容室21aへのこれら異物の侵入を防ぐ必要がある。
【0037】
高接触圧のオイルシールやフェイスシールでシールすれば、異物の侵入は効果的に防ぐことができるが、接触圧が高いため、接触部位の摩擦によって発熱し易いという問題がある。上述したような高速回転では、発熱量が過剰になり、シール材の変形や劣化を招く。スピンドル4やテーブル42が熱膨張して、加工精度が悪化するおそれもある。
【0038】
一方、低接触圧のシール材(例えば、バネ無しのオイルシールやVリングなど)でシールすれば、接触圧が低いため、接触部位の発熱が低減できる。しかし、その分、シール性が低下するため、異物が侵入し易くなる。すなわち、発熱抑制と異物侵入防止とが両立できない。
【0039】
そこで、このNC円テーブル1では、低接触圧のシール材とエア圧とを利用して、発熱抑制と異物侵入防止とが両立できるように工夫されている。更に、そのようなシールが安定して精度高く実現できるように改良されている。
【0040】
(シール材)
本実施形態では、テーブル42と筐体2との間の隙間を塞ぐように、一対の環状シール材8,8(環状内シール材81、環状外シール材82ともいう)が、軸方向に、所定の環状隙間100を隔てて互いに対向するように配置されている。各環状シール材8は、前蓋部22の開口部22aの内周縁に形成されている段部に圧入されている。
【0041】
これら環状シール材8は、いずれも低接触圧のシール材である(例えば、バネ無しのオイルシール)。各環状シール材8は、弾性変形可能なリップ8aを有している。各リップ8aは、傾斜している。隙間の外方に向かうほどリップ8aの内径が小さくなるように、各環状シール材8は配置されている。内径の最も小さいリップ8aの先端部分が、テーブル42の外周面に接触している。
【0042】
なお、各リップ8aの接触圧を高めるには、例えば、バネ無しをバネ有りとすればよい。
【0043】
(給気通路9)
環状隙間100と連通して、環状隙間100にエアを供給する給気通路9が、筐体2に形成されている。環状隙間100にエアを供給することで、各環状シール材8を加圧する。それにより、環状外シール材82には、リップ8aを押し上げる方向(環状隙間100を開く方向)にエア圧が作用し、環状内シール材81には、リップ8aを押し付ける方向(環状隙間100を閉じる方向)にエア圧が作用する。
【0044】
従って、環状シール材8の接触圧が低く、多少の隙間が生じ得る状態であっても、エアの供給により、密封性を確保できる。更に、エア圧が一定以上になると、環状外シール材82が押し上げられてエアが吹き出すので、より異物の侵入を防止することができる。
【0045】
従って、テーブル42と筐体2との間の隙間からの異物の侵入を安定して防止できる。
【0046】
各環状シール材8の接触圧は低くてもよいので、接触部位での発熱も効果的に低減できる。従って、発熱も抑制できる。電力消費も低減できるし、シール材の劣化も抑制でき、耐久性も向上する。また、環状シール材8が摩耗しても、エア圧の調整によってシール性を維持できる利点もある。
【0047】
図4図5に示すように、本実施形態の給気通路9は、1つのメイン通路91、1つの環状スペース92、複数(本実施形態では3つ)の連絡通路93などで構成されている。
【0048】
メイン通路91は、筐体2に形成された細い孔からなり、ドリル等で本体部21を切削して形成されている。メイン通路91はL状に屈曲しており、メイン通路91の上流側の端部は、本体部21の外面に開口し、メイン通路91の下流側の端部は、本体部21の、前蓋部22との接合面に開口している。
【0049】
メイン通路91の上流側の端部には、流れるエア量の調整が可能な絞り弁10が取り付けられている。絞り弁10には、コンプレッサ等、エアの供給源(図示せず)に接続されたエア供給管11が接続されている。それにより、工作時には、エア供給管11および絞り弁10を通じて、エアが所定の流量で筐体2に導入される。なお、絞り弁10では、環状隙間100のところにおいて0.05MPa程度にエア圧を調整するのが好ましい。
【0050】
図5に示すように、環状スペース92は、周方向に延びる環状の空間からなり、スピンドル4の周囲を巡るように、筐体2に設けられている。具体的には、前蓋部22の後面の外周縁部に凹みが形成されていて、前蓋部22が本体部21に組み付けられることにより、環状スペース92が形成されている。環状スペース92の両側には、気密性を確保するパッキン12が装着されている。
【0051】
環状スペース92には、1つの給気口92aと、複数(本実施形態では3つ)のエア導入口92bとが形成されている。給気口92aにメイン通路91が接続されており、給気口92aを介して、環状スペース92は、メイン通路91と連通している。
【0052】
エア導入口92bの各々は、周方向に互いに等間隔(本実施形態では、中心角θ1で120°)を隔てて配置されている。また、環状隙間100には、複数(本実施形態では3つ)のエア導出口100aが形成されている。これらエア導出口100aは、各エア導入口92bの配置に対応して、周方向に互いに等間隔を隔てて配置されている。
【0053】
各連絡通路93は、前蓋部22に形成されている。具体的には、前蓋部22の外周面から開口部22aに貫通し、径方向に延びる直線状の細孔(第1孔)が形成されている。前蓋部22の外周面に開口する第1孔の端部は、ネジで封止されている。開口部22aに開口する第1孔の端部は、各エア導出口100aに接続されている。
【0054】
更に、軸方向に延びて、各エア導入口92bから第1孔に連なる直線状の細孔(第2孔)が形成されている。それにより、前蓋部22に、略L状に屈曲する3つの連絡通路93が形成されている。それにより、環状スペース92と環状隙間100とが、各連絡通路93を介して連通している。
【0055】
従って、エア供給管11から導入されるエアは、メイン通路91、環状スペース92、および連絡通路93の各々を介して、エア導出口100aの各々から環状隙間100に供給される。その際、環状隙間100に、局所的なエアの圧力差が生じるのを抑制し、全周にわたってバランスよくシールできるようになっている。
【0056】
まず、エア導出口100aが周方向に間隔を隔てて複数設けられている。1つのエア導出口100aから流入するエア量が分散されて少量になるため、各エア導出口100aの付近でのエア圧が低下する。
【0057】
そして、エア導入口92bから環状隙間100に流入するエアは、両側に分岐して流れて行くので、隣接しているエア導出口100aとの間の部位(略二分する部位)で、そのエア導出口100aから分岐して流れてくるエアと衝突する。その部位では、相対的にエア圧は高くなるが、本実施形態の場合、3箇所で衝突するので、エア圧が分散される。
【0058】
すなわち、相対的にエア圧が高くなる、エア導出口100aの近傍およびエアの衝突部位が、環状隙間100の全周において、略等間隔の6箇所に存在することになる。従って、環状隙間100の局所的なエアの圧力差が効果的に抑制できる。
【0059】
更に、給気通路9の途中には、環状スペース92が設けられている。すなわち、筐体2に供給されるエアは、環状スペース92で緩衝されるので、各連絡通路93に流入するエア量のバラツキも低減できる。従って、各エア導出口100aから流出するエア量の差を小さくできる。
【0060】
また更に、給気口92aが、隣接している2つのエア導入口92b,92bの間の部位に配置されていて、これらエア導入口92b,92bの双方から、少なくとも所定の間隔(例えば、中心角で5°)を隔てて位置している。給気口92aがエア導入口92bの近くにあると、そのエア導入口92bにエアが多く流れ込む。つまり、各エア導出口100aから流出するエア量に差が生じる。
【0061】
従って、そのような差が生じないように、給気口92aをエア導入口92bから離れて配置するのが好ましい。隣接している2つのエア導入口92bの中間点(これらエア導出口100aの中心角を二等分する点)の近傍が最も好ましい。例えば、2つのエア導入口92bの間を3等分し、環状スペース92を中間領域と、その両側の2つの端部領域とに分けた場合の、中間領域に給気口92aを配置するのが好ましい。
【0062】
そうすれば、環状スペース92を有効活用することができ、各連絡通路93に均等にエアを供給することができる。なお、給気口92aは、エアが効果的に分散するように、環状スペース92の壁面と対向(正対)して形成するのが好ましい。
【0063】
<応用例>
図6に、上述したNC円テーブル1の応用例を示す。本応用例のNC円テーブル1Aの基本的な構成は、上述したNC円テーブル1と同じである。従って、同じ構成については、同じ符号を用いてその説明は省略する。NC円テーブル1Aでは、連絡通路93の構成が、上述したNC円テーブル1と異なっている。
【0064】
上述したNC円テーブル1の各連絡通路93は、いずれも径方向に延びていて、環状隙間100に対し、法線方向から接続されている。従って、各エア導出口100aから環状隙間100に流入するエアは、テーブル42の外周面に正面から衝突する。
【0065】
一方、NC円テーブル1Aの各連絡通路93は、いずれも環状隙間100の法線に対して傾斜しており、螺旋状ないし渦状に配置されている。換言すれば、各連絡通路93の指向線(連絡通路93の中心線を延出した線)は、テーブル42の外周面の接線に対して傾斜している。なお、その接線に対する指向線の傾斜角θ2は、45°以内が好ましい。
【0066】
それにより、各連絡通路93は、環状隙間100の周方向のいずれか一方(本実施形態では反時計回りであるが、時計回りであってもよい)に偏ってエアを流出させる。その結果、環状隙間100では、図6に矢印で示すように、エアが衝突することなく、旋回流が形成される。
【0067】
環状隙間100でエアの旋回流が発生していれば、周方向に圧力差はほとんど生じない。従って、安定したシール性を確保できる。また、テーブル42および筐体2との熱交換が促進され、均等に冷却できる利点もある。
【0068】
<第1変形例>
図7に、上述したNC円テーブル1の第1変形例を示す。本変形例でのNC円テーブル1Bの基本的な構成は、上述したNC円テーブル1と同じである。従って、同じ構成については、同じ符号を用いてその説明は省略する(後述する第2変形例も同様)。NC円テーブル1Bでは、筐体2やスピンドル4、環状シール材8の構成が、上述したNC円テーブル1と異なっている。それにより、NC円テーブル1Bは、組み付けが容易になっている。
【0069】
スピンドル4は、一部材からなり、シャフト41とテーブル42とが一体に構成されている。スピンドル4の外周には、挟持リング201が組み付けられている。収容室21aの後側からスピンドル4に挟持リング201を組み付けることにより、内輪部7bがスピンドル4と挟持リング201とで挟み込まれている。それにより、スピンドル4はベアリング7を介して筐体2に軸支されている。
【0070】
環状内シール材81には、環状外シール材82よりも大径なものが用いられている。前蓋部22の開口部22aの内周縁には、後側ほど径が大きい段差部が形成されている。収容室21aに対して後方から順次、その段差部に挿入することにより、環状外シール材82および環状内シール材81が筐体2に装着されている。環状内シール材81の抜け出しを防止するため、環状内シール材81の内側には止輪202が嵌め込まれている。
【0071】
環状外シール材82の外側には、前蓋部22が張り出している。それにより、環状外シール材82は隠れた状態となっており、異物の侵入が更に防止できる。
【0072】
環状スペース92は、前蓋部22の後面の外周縁部ではなく、前蓋部22の外縁の端面に形成された凹みによって構成されている。それにより、給気通路9が簡素化されるので、加工が容易になる。
【0073】
<第2変形例>
図8に、上述したNC円テーブル1の第2変形例を示す。本変形例のNC円テーブル1Cでは、特に、環状シール材8の配置が、上述したNC円テーブル1と異なっている。すなわち、このNC円テーブル1Cでの一対の環状シール材8,8は、径方向に、環状隙間100を隔てて互いに対向するように配置されている。
【0074】
テーブル42は、前蓋部22の前方に張り出すフランジ部203を有している。それにより、テーブル42の前面は、上述したNC円テーブル1よりも大きく、かつ、そのサイズは自在に設計できる。
【0075】
フランジ部203と前蓋部22の前面との間に、一対の環状シール材8,8が、径方向に環状隙間100を隔てて互いに対向するように配置されている。これら環状シール材8には、例えば、Vリングが使用できる。これら環状シール材8は、リップ8aを径方向外側に向けた状態で、フランジ部203の後面に形成された円筒状の受面に装着されている。それにより、リップ8aの先端部分は、前蓋部22の前面に接触している。
【0076】
各エア導出口100aは、環状隙間100の後面に形成されている。各連絡通路93の下流端(第孔の下端)は、屈曲して前方に延びることにより、各エア導出口100aに接続されている。
【0077】
このNC円テーブル1Cの場合、各環状シール材8のリップ8aが、遠心力の作用によって開き易くなる。しかし、環状内シール材81よりも環状外シール材82の方が開き易いので、異物の侵入を安定して防止できる。接触抵抗が低くなり易いので、発熱抑制や耐久性の面でも有利である。
【0078】
なお、Vリングは例示である。また、エア導出口100aの位置も環状隙間100の後面に限らない。環状隙間100の外周面に配置すれば、各連絡通路93の下流端を屈曲させる必要がなくなる。また、連絡通路93の下流端の向きを環状隙間100に対して斜めにすれば、環状隙間100に旋回流を発生させることができる。
【0079】
なお、開示する技術にかかる工作用の回転機器は、上述した実施形態に限定されず、それ以外の種々の構成をも包含する。
【0080】
絞り弁10は、図5に2点鎖線で示すように、ボックス3の内部に配置してもよい。その場合、ボックス3の内部にエアパージする配管があれば、そこから分岐してもよい。また、エア供給管11の途中に絞り弁10を配置してもよい。
【0081】
連絡通路93は3つに限らない。4つ以上であってもよい。
【0082】
上述した変形例では、複数の連絡通路93で、環状隙間100に旋回流を発生させる場合を説明したが、環状隙間100に旋回流を発生させる場合には、環状スペース92や複数の連絡通路93は省略してもよい。すなわち、環状隙間100で旋回流が発生していれば、周方向に圧力差が生じ難いため、1つの給気通路9を、直接、環状隙間100に接続し、1つのエア導出口100aからエアを環状隙間100に供給してもよい。
【符号の説明】
【0083】
1 NC円テーブル(回転機器)
2 筐体
3 ボックス
4 スピンドル
5 モータ
7 ベアリング
8 環状シール材
9 給気通路
10 絞り弁
41 シャフト
42 テーブル
91 メイン通路
92 環状スペース
92a 給気口
92b エア導入口
93 連絡通路
100 環状隙間
100a エア導出口
J 回転軸
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8