(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-18
(45)【発行日】2023-04-26
(54)【発明の名称】定着装置および画像形成装置
(51)【国際特許分類】
G03G 15/20 20060101AFI20230419BHJP
【FI】
G03G15/20 555
(21)【出願番号】P 2019098836
(22)【出願日】2019-05-27
【審査請求日】2022-03-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000005049
【氏名又は名称】シャープ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000947
【氏名又は名称】弁理士法人あーく事務所
(72)【発明者】
【氏名】浜田 敏正
(72)【発明者】
【氏名】山名 真司
【審査官】佐藤 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-311747(JP,A)
【文献】特開2015-219360(JP,A)
【文献】特開2006-337488(JP,A)
【文献】特開2012-185344(JP,A)
【文献】特開2010-002639(JP,A)
【文献】特開平10-123875(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 15/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
用紙を加圧および加熱して、該用紙上に形成された未定着画像を定着させる定着装置であって、
用紙を挟持して搬送する定着部材と、
前記定着部材を加圧する加圧部材と、
前記定着部材を加熱する熱源と、
前記定着部材の輻射熱を検知する第1非接触センサおよび第2非接触センサと、
前記第1非接触センサと前記定着部材との間の距離に基づいて、距離補正値を算出する温度補正部とを備え、
前記加圧部材は、前記定着部材に対して、圧接された圧接状態と、離間された圧解状態とを切り換え可能な構成とされ、
前記温度補正部は、前記第2非接触センサでの検知結果と、前記距離補正値とに基づいて、前記定着部材の温度における温度補正量を算出する第1補正を行
い、前記圧接状態と前記圧解状態とに応じて、前記距離補正値を異ならせること
を特徴とする定着装置。
【請求項2】
請求項
1に記載の定着装置であって、
前記圧接状態での距離補正値は、前記圧解状態の距離補正値よりも値が小さいこと
を特徴とする定着装置。
【請求項3】
請求項
1または請求項
2に記載の定着装置であって、
前記加圧部材は、前記圧接状態よりも弱い力で前記定着部材を加圧する複数の弱圧接状態が設定され、
前記温度補正部は、前記複数の弱圧接状態のそれぞれに対し、異なる補正テーブルを用いて、前記第1補正を行うこと
を特徴とする定着装置。
【請求項4】
請求項1から請求項
3までのいずれか1つに記載の定着装置であって、
前記温度補正部は、前記定着部材の温度が、予め設定された規定温度を超えている場合、前記温度補正量を補正する第2補正を行うこと
を特徴とする定着装置。
【請求項5】
請求項1から請求項
4までのいずれか1つに記載の定着装置を備えた画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、用紙上の未定着画像を定着させる定着装置および画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複写機、プリンタ等の電子写真方式の画像形成装置に用いられる定着装置では、未定着のトナー像が形成された用紙を加圧および加熱することで、トナー像の定着が行われる。定着装置では、定着部材の温度を検知する温度検知手段を設けて、定着温度を制御している。温度検知手段としては、定着部材に傷を付けることを避けるため、非接触式の温度センサを採用する場合がある。
【0003】
非接触式の温度センサは、赤外線や熱線など、対象が発する輻射熱を検知する非接触温度検知手段と、非接触温度検知手段自体の周囲の温度を測定する周囲温度検知手段とで、測定値を比較・演算して、対象の温度を算出している。
【0004】
ところで、定着装置では、定着部材について、複数箇所の温度を測定することがあり、それに応じて温度センサが複数設けられている。そして、上述した非接触温度検知手段と周囲温度検知手段とを複数組設けた構成では、温度を算出する処理が並列に行われて処理が遅くなったり、コストアップに繋がったりする。そこで、複数の非接触温度検知手段に対して、1つの周囲温度検知手段を共有化する技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の定着装置では、熱源によって昇温する定着部材と、定着部材から輻射される熱を検知する複数の非接触温度検知手段と、非接触温度検知手段自体の周囲の温度を測定する周囲温度検知手段とを備え、複数の非接触温度検知手段に対して、周囲温度検知手段を1つ設けて共有化している。
【0007】
定着装置では、定着部材と加圧部材とで用紙を挟持する構成とされているが、用紙の種類に応じて、加圧部材からの圧力を変動させることがある。加圧部材からの圧力によっては、定着部材と温度センサとの距離が変わることがあり、温度測定において、誤差を生じさせることがあった。上述した定着装置では、このような定着部材と温度センサとの距離について考慮されておらず、生じた誤差を補正できないという課題があった。
【0008】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、検知のズレを補正することで、正確な温度検知をすることができ、温度制御の精度を上げることができる定着装置および画像形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る定着装置は、用紙を加圧および加熱して、該用紙上に形成された未定着画像を定着させる定着装置であって、用紙を挟持して搬送する定着部材と、前記定着部材を加熱する熱源と、前記定着部材の輻射熱を検知する第1非接触センサおよび第2非接触センサと、前記第1非接触センサと前記定着部材との間の距離に基づいて、距離補正値を算出する温度補正部とを備え、前記温度補正部は、前記第2非接触センサでの検知結果と、前記距離補正値とに基づいて、前記定着部材の温度における温度補正量を算出する第1補正を行うことを特徴とする。
【0010】
本発明に係る定着装置は、前記定着部材を加圧する加圧部材を備え、前記加圧部材は、前記定着部材に対して、圧接された圧接状態と、離間された圧解状態とを切り換え可能な構成とされ、前記温度補正部は、前記圧接状態と前記圧解状態とに応じて、前記距離補正値を異ならせる構成としてもよい。
【0011】
本発明に係る定着装置では、前記圧接状態での距離補正値は、前記圧解状態の距離補正値よりも値が小さい構成としてもよい。
【0012】
本発明に係る定着装置では、前記加圧部材は、前記圧接状態よりも弱い力で前記定着部材を加圧する複数の弱圧接状態が設定され、前記温度補正部は、前記複数の弱圧接状態のそれぞれに対し、異なる補正テーブルを用いて、前記第1補正を行う構成としてもよい。
【0013】
本発明に係る定着装置では、前記温度補正部は、前記定着ベルトの温度が、予め設定された規定温度を超えている場合、前記温度補正量を補正する第2補正を行う構成としてもよい。
【0014】
本発明に係る画像形成装置は、本発明に係る定着装置を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によると、定着部材からの距離によって生じる検知のズレを、温度補正部で補正することで、正確な温度検知をすることができ、温度制御の精度を上げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る画像形成装置を示す概略構成図である。
【
図2A】圧接状態とされた定着装置を示す説明図である。
【
図2B】弱圧接状態とされた定着装置を示す説明図である。
【
図2C】圧解状態とされた定着装置を示す説明図である。
【
図3】圧接状態での定着装置の要部を抜き出して示す模式平面図である。
【
図4】圧接状態での定着装置の要部を抜き出して示す模式側面図である。
【
図5】圧接状態での定着装置において、第1非接触センサおよび第2非接触センサを拡大して示す模式説明図である。
【
図6】圧解状態での定着装置の要部を抜き出して示す模式平面図である。
【
図7】圧解状態での定着装置の要部を抜き出して示す模式側面図である。
【
図8】圧解状態での定着装置において、第1非接触センサおよび第2非接触センサを拡大して示す模式説明図である。
【
図9】本発明の第1実施形態において、第1非接触センサでの検知結果と、温度補正部で算出した温度補正量との関係を示す特性図である。
【
図10】本発明の第2実施形態において、第1非接触センサでの検知結果と、温度補正部で算出した温度補正量との関係を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(第1実施形態)
以下、本発明の第1実施形態に係る画像形成装置および定着装置について、図面を参照して説明する。
【0018】
図1は、本発明の第1実施形態に係る画像形成装置を示す概略構成図である。
【0019】
画像形成装置1は、外部から伝達された画像データに応じて、所定の用紙に対して多色および単色の画像を形成し、露光装置11、現像装置12、感光体ドラム13、クリーナ装置14、帯電器15、中間転写ベルト装置16、定着装置17、給紙カセット18、および排紙トレイ19を備える構成とされている。
【0020】
本画像形成装置において扱われる画像データは、ブラック(K)、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)の各色を用いたカラー画像に応じたものである。従って、現像装置12、感光体ドラム13、帯電器15、クリーナ装置14は、各色に応じた4種類の潜像を形成するようにそれぞれ4個ずつ設けられ、それぞれブラック、シアン、マゼンタ、イエローに設定され、これらによって4つの画像ステーションが構成されている。
【0021】
感光体ドラム13は、画像形成装置1の略中央に配置されている。帯電器15は、感光体ドラム13の表面を所定の電位に均一に帯電させる。露光装置11は、感光体ドラム13の表面を露光して静電潜像を形成する。現像装置12は、感光体ドラム13の表面の静電潜像を現像して、感光体ドラム13の表面にトナー像を形成する。上述した一連の動作によって、各感光体ドラム13の表面に各色のトナー像が形成される。クリーナ装置14は、現像および画像転写の後に感光体ドラム13の表面の残留トナーを除去および回収する。
【0022】
中間転写ベルト装置16は、感光体ドラム13の上側に配置され、中間転写ベルト21、中間転写ベルト駆動ローラ22、中間転写ベルト従動ローラ23、中間転写ローラ24、中間転写ベルトクリーニング装置25、およびテンションローラ26を備えている。なお、中間転写ローラ24は、YMCK用の各色の画像ステーションに対応して4本設けられている。
【0023】
中間転写ベルト駆動ローラ22、中間転写ベルト従動ローラ23、中間転写ローラ24、およびテンションローラ26は、中間転写ベルト21を張架して、中間転写ベルト21の表面を所定方向(図中矢符C方向)に移動させるように構成されている。
【0024】
中間転写ベルト21は、矢符Cの方向へ周回移動し、中間転写ベルトクリーニング装置25によって残留トナーを除去および回収され、各感光体ドラム13の表面に形成された各色のトナー像が順次転写して重ね合わされて、中間転写ベルト21の表面にカラーのトナー像が形成される。
【0025】
2次転写装置27の転写ローラ27aは、中間転写ベルト21との間にニップ域が形成されており、シート搬送経路Sを通じて搬送されて来た用紙Pをニップ域に挟み込んで搬送する。用紙Pは、ニップ域を通過する際に、中間転写ベルト21の表面のトナー像が転写される。
【0026】
給紙カセット18は、画像形成に使用する用紙Pを蓄積しておくためのカセットであり、露光装置11の下側に設けられている。また、排紙トレイ19は、画像形成部1aの上側に設けられており、画像形成済みの用紙Pを載置するためのトレイである。
【0027】
また、画像形成装置1において、給紙カセット18の用紙Pは、シート搬送経路Sを通じて、2次転写装置27や定着装置17を経由して排紙トレイ19に送られる。シート搬送経路Sに沿って、給紙ローラ31、レジストローラ32、レジスト前ローラ33、定着装置17、および排紙ローラ34が配置されている。
【0028】
給紙ローラ31は、給紙カセット18の端部近傍に備えられ、給紙カセット18から用紙Pを1枚ずつシート搬送経路Sに供給する。レジストローラ32は、給紙カセット18から搬送されている用紙Pを一旦保持し、感光体ドラム13上のトナー像の先端と用紙Pの先端とを合わせるタイミングで用紙Pを転写ローラ27aに搬送する。レジスト前ローラ33は、用紙Pの搬送を促進補助するための小型のローラである。
【0029】
定着装置17は、ベルト定着方式の定着装置とされており、複数のローラ(ここでは定着ローラ171および加熱ローラ172)に定着ベルト173(定着部材の一例)が巻き掛けられている。定着ベルト173は、加熱ローラ172から定着ローラ171へ熱伝達できるようになっている。定着装置17では、定着ベルト173を介して定着ローラ171に加圧ローラ174(加圧部材の一例)が押圧されるようになっている。定着装置17では、未定着のトナー像が形成された用紙Pを受け取り、用紙Pを定着ベルト173と加圧ローラ174との間に挟み込んで搬送する。定着ベルト173の近傍には、第1非接触センサ50および第2非接触センサ60が設けられている。定着後の用紙Pは、排紙ローラ34によって排紙トレイ19上に排出される。なお、定着装置17については、後述する
図2Aないし
図2Cを参照して詳細を説明する。また、第1非接触センサ50および第2非接触センサ60の詳しい位置については、後述する
図3および
図4を参照して説明する。
【0030】
本実施の形態では、定着装置17は、ベルト定着方式の定着装置とされているがこれに限定されず、加圧ローラ174で定着ローラ171を直接押圧する方式としてもよい。この場合、上述した定着部材は、定着ローラ171に相当する。
【0031】
次に、本発明の第1実施形態に係る定着装置について、図面を参照して説明する。
【0032】
図2Aは、圧接状態とされた定着装置を示す説明図である。
【0033】
図2Aでは、
図1に示す定着装置17から定着ローラ171、加熱ローラ172、定着ベルト173、および加圧ローラ174等を抜き出して示している。なお、
図1では、画像形成装置1の正面側から示しているのに対して、
図2Aは、画像形成装置1の背面側から示しているため、左右が反転している。
【0034】
本実施の形態において、加圧ローラ174は、定着ローラ171に対して、圧接された圧接状態と、離間された圧解状態とを切り換え可能な構成とされている。具体的に、加圧ローラ174は、加圧フレーム176によって支持されており、加圧フレーム176を介して、加圧ローラ174を定着ローラ171に圧接させる付勢部材175(例えば、コイルスプリング等)が設けられている。
【0035】
加圧フレーム176は、加圧ローラ174の回転軸の両端部をそれぞれ支持している。加圧フレーム176は、端部(
図2Aでは、加圧フレーム176の下端)に設けられた回動ピン176aが筐体に固定されており、回動ピン176aを中心として回動する。そして、加圧ローラ174は、加圧フレーム176が回動するのに応じて、定着ローラ171(定着ベルト173)に対して離接する方向に揺動する。また、加圧フレーム176は、回動ピン176aと反対側の端部(
図2Aでは、加圧フレーム176の上端)に係止ボス176eが設けられている。係止ボス176eには、付勢部材175の一端が係止されている。
【0036】
付勢部材175の他端は、離接軸113に支持された回動部材110の回動ボス112に係止されている。回動部材110は、定着ローラ171の近傍(
図2Aでは、定着ローラ171の上方)に設けられ、離接軸113を中心に回動し、回動ボス112が離接軸113の軸回りに移動する。付勢部材175は、加圧フレーム176を回動ボス112の側に近づけるように付勢しており、付勢部材175の付勢力によって、加圧フレーム176を介し、加圧ローラ174を定着ローラ171に圧接させている。
【0037】
加熱ローラ172は、内側に、例えば、ヒータなどの熱源172aが収められている。熱源172aが発する熱によって、加熱ローラ172および定着ベルト173が暖められる。定着ベルト173は、定着ローラ171および加熱ローラ172によって移動し、熱源172aに近い部分が徐々にずれて、全体が暖められる。第1非接触センサ50および第2非接触センサ60は、加熱ローラ172の近傍であって、定着ベルト173に面して設けられている。
【0038】
図2Bは、弱圧接状態とされた定着装置を示す説明図である。
【0039】
図2Bでは、
図2Aに示す状態に対して、離接軸113が矢符Bの方向へ回転(回動部材110が矢符W2の方向へ回転)した後、停止している。加圧ローラ174は、離接軸113を回転させることによって、圧接状態よりも定着ローラ171から離間する方向へ移動している。なお、加圧ローラ174は、定着ベルト173と当接している。弱圧接状態では、圧接モードよりも弱い力で用紙Pを挟み込むため、普通紙よりも厚い用紙Pに対して搬送不良を生じさせずに定着を行うことができる。
【0040】
図2Cは、圧解状態とされた定着装置を示す説明図である。
【0041】
図2Cでは、
図2Bに示す状態に対して、さらに離接軸113が矢符Bの方向へ回転(回動部材110が矢符W2の方向へ回転)した後、停止している。加圧ローラ174は、
図2Bに示す弱圧接状態よりも、定着ローラ171から離間する方向へ移動している。なお、
図2Cでは、定着ローラ171と加圧ローラ174とが離間した状態を示しているが、圧解状態では、定着ローラ171と加圧ローラ174とが接触していてもよく、弱圧接状態よりも、加圧ローラ174が定着ローラ171を押圧する力が弱くなるように、互いの位置関係が設定されていればよい。
【0042】
図3は、圧接状態での定着装置の要部を抜き出して示す模式平面図であって、
図4は、圧接状態での定着装置の要部を抜き出して示す模式側面図である。
【0043】
図3および
図4では、図面の見易さを考慮して、
図2Aに示す状態から、加圧フレーム176等を省略した状態を示している。上述したように、第1非接触センサ50と第2非接触センサ60とは、加熱ローラ172の近傍に位置しており、加熱ローラ172の回転軸に沿った幅方向Wで離間している。具体的に、第1非接触センサ50は、加熱ローラ172における幅方向Wでの中央に面しており、第2非接触センサ60は、加熱ローラ172における幅方向Wでの端部に面している。圧接状態において、第1非接触センサ50および第2非接触センサ60と定着ベルト173との間は、所定の距離(第1検知距離BL1)となるように設定されている。
【0044】
図5は、圧接状態での定着装置において、第1非接触センサおよび第2非接触センサを拡大して示す模式説明図である。
【0045】
図5では、定着ベルト173に対する第1非接触センサ50および第2非接触センサ60の位置関係を模式的に示しており、加熱ローラ172等を省略している。第1非接触センサ50および第2非接触センサ60は、いずれも定着ベルト173と直に接することなく、定着ベルト173が発する輻射熱を検知する非接触式の温度センサとされている。本実施の形態では、互いに構成が異なる第1非接触センサ50および第2非接触センサ60を用いており、両者についての詳細を説明する。
【0046】
第1非接触センサ50は、第1フィルム51、第1輻射熱検知部52、温度検知部53、およびハウジング54で構成されている。第1フィルム51は、例えば、ポリイミドなど耐熱性を有する薄い膜であって、第1輻射熱検知部52および温度検知部53を取り付ける支持材とされている。第1輻射熱検知部52は、定着ベルト173が発する輻射熱を検知するセンサとされている。温度検知部53は、第1非接触センサ50自体の周囲の温度を検出するセンサとされている。ハウジング54は、内部に第1フィルム51を収容しており、第1輻射熱検知部52に対応した開口部54aが設けられている。つまり、第1輻射熱検知部52は、開口部54aを通じてハウジング54内に入射した輻射熱を検知している。
【0047】
第2非接触センサ60は、第2フィルム61および第2輻射熱検知部62で構成されている。第2フィルム61は、第1フィルム51と同様の材料で形成されており、第1輻射熱検知部52が取り付けられている。第2輻射熱検知部62は、第1輻射熱検知部52と同様に、定着ベルト173が発する輻射熱を検知するセンサとされている。
【0048】
第1非接触センサ50では、第1輻射熱検知部52によって、定着ベルト173(特に、中央部)が発する赤外線量を検知しており、検知した赤外線量から定着ベルト173の温度を算出するが、第1輻射熱検知部52からの出力は、自身の周囲の温度から影響を受ける。そこで、温度検知部53で検知した周囲の温度を、演算に取り入れることで、定着ベルト173の中央部の温度を算出することができる。
【0049】
また、第2非接触センサ60では、第2輻射熱検知部62によって、定着ベルト173(特に、端部)が発する赤外線量を検知しているが、第2非接触センサ60の周囲の温度は検知していない。ここで、第1非接触センサ50と第2非接触センサ60とでは、設置箇所が近いため、周囲の温度に大きな隔たりがないと推測でき、第1非接触センサ50の温度検知部53で検知した結果を、第2非接触センサ60にも適用できる。これによって、第1非接触センサ50と同様に、定着ベルト173の端部の温度を算出することができる。
【0050】
第1非接触センサ50および第2非接触センサ60での検知結果は、定着装置17または画像形成装置1の制御部(図示しない)に出力される。制御部は、検知結果から定着ベルト173の温度を算出し、熱源172aの制御に反映している。
【0051】
画像形成装置1では、ユニット毎に取り付ける構造とされており、異なるユニットから強い力で押圧されると、ユニットが僅かに揺動するように、ゆとりを持たせて固定されている。このように、ゆとりを持たせることで、ユニットが押圧された際の衝撃を緩和している。定着装置17においては、圧接状態で定着ローラ171が加圧ローラ174に押圧されており、この圧力は、定着ベルト173を介して加熱ローラ172にも伝わっている。そして、圧接状態から圧解状態に移行すると、加圧ローラ174からの圧力が弱まるため、加熱ローラ172が揺動し、第1非接触センサ50および第2非接触センサ60と定着ベルト173との間の距離が変化する。次に、圧解状態での定着ベルト173に対する第1非接触センサ50および第2非接触センサ60の位置関係を、図面を参照して説明する。
【0052】
図6は、圧解状態での定着装置の要部を抜き出して示す模式平面図であって、
図7は、圧解状態での定着装置の要部を抜き出して示す模式側面図であって、
図8は、圧解状態での定着装置において、第1非接触センサおよび第2非接触センサを拡大して示す模式説明図である。
【0053】
図6ないし
図8は、
図3ないし
図5に示す圧接状態から圧解状態に移行させた際の、定着ベルト173に対する第1非接触センサ50および第2非接触センサ60の位置関係を示している。なお、
図6および
図7では、圧接状態からの位置関係の変化を強調するため、加圧ローラ174と定着ローラ171とが離間した状態を示しているが、これに限定されず、加圧ローラ174が定着ローラ171を押圧する力が弱まっていれば、加圧ローラ174と定着ローラ171とが接触していてもよい。
【0054】
圧解状態では、加圧ローラ174からの圧力が弱まったことで、加熱ローラ172が加圧ローラ174の側(
図7では、矢符Hの方向)に移動している。その結果、第1非接触センサ50および第2非接触センサ60と定着ベルト173との間は、第1検知距離BL1よりも離間した第2検知距離BL2となっている。
【0055】
図8において、破線で示す近接時ベルトKBは、圧接状態(
図5参照)での定着ベルト173の位置を表しており、圧解状態にしたとき、定着ベルト173は、第1非接触センサ50および第2非接触センサ60から離れる方向に移動している。このように、定着ベルト173と、第1非接触センサ50および第2非接触センサ60との間の距離が長くなると、空気による赤外線の吸収が変化する。つまり、熱の対流などにより、定着ベルト173からの輻射熱が奪われるので、第1輻射熱検知部52および第2輻射熱検知部62では、輻射熱を本来よりも低く検知してしまう。
【0056】
これに対し、本実施の形態では、第1非接触センサ50と定着ローラ171との間の距離に基づいて、距離補正値を算出する温度補正部(図示しない)を備えている。温度補正部は、第2非接触センサ60での検知結果と、距離補正値とに基づいて、定着ローラ171の温度における温度補正量を算出する第1補正を行う。なお、温度補正部は、制御部にプログラムとして記憶されており、このプログラムを実行することで、温度補正部としての機能を実現することができる。次に、第1非接触センサ50および第2非接触センサ60での検知結果と、温度補正部での補正との関係について、図面を参照して説明する。
【0057】
図9は、本発明の第1実施形態において、第1非接触センサでの検知結果と、温度補正部で算出した温度補正量との関係を示す特性図である。
【0058】
図9において、横軸は、温度検知部53で検知した周囲の温度(検知温度)を示し、右に向かうに従って、温度が高くなることを表している。また、縦軸は、温度補正量を示し、上に向かうに従って、温度が高くなることを表している。
【0059】
温度補正部では、第2輻射熱検知部62で検知した赤外線量と、温度検知部53で検知した検知温度とに加えて、距離補正値を用いた演算によって、温度補正量を算出している。また、圧接状態での距離補正値は、圧解状態の距離補正値よりも値が小さく設定されている。つまり、定着装置17が圧接状態か圧解状態かによって、温度補正量が異なっている。
【0060】
具体的に、定着ベルト173の端部の温度は、「第2非接触センサ60での検知温度+温度補正量」で算出され、温度補正量は「T=A×G+α」という計算式から算出される。この計算式において、Tは、温度補正量を示し、Aは、検知温度を示し、Gは、傾き係数を示し、αは、距離補正値を示す。各種センサの出力と温度との関係を試験等によって、予め測定しており、傾き係数は、これらの結果に基づいて決定された値であり、本実施の形態では、「-0.1~0.1」とされている。距離補正値も、傾き係数と同様に、試験結果に基づいて決定されており、本実施の形態において、圧接状態と圧解状態での差が、「3~20」となるように設定されている。本実施の形態では、温度補正による影響を小さくして、圧接状態を基準とするように設定される。つまり、圧接状態のほうが、使用頻度が高いと想定されるので、基準とすることが好ましい。
【0061】
傾き係数および距離補正値は、第2非接触センサ60と定着ベルト173との距離によって、変化させればよく、距離が大きくなるに従って、傾きはマイナス側に大きくなり、距離補正値はプラス側に大きくなる。
【0062】
図9では、圧接状態において、検知温度に対する温度補正量の推移を示す第1特性TL1と、圧解状態において、検知温度に対する温度補正量の推移を示す第2特性TL2とを示している。
【0063】
第1特性TL1は、検知温度に比例して、温度補正量が上昇しており、
図9では、右上がりに傾斜した直線となっている。第2特性TL2は、第1特性TL1と同様に、検知温度に比例して、温度補正量が上昇する直線となっており、第1特性TL1と比較すると、傾きは同じであって、距離補正値の差により、全体的に温度補正量が高くなっている。
【0064】
このように、定着ローラ171からの距離によって生じる検知のズレを、温度補正部で補正することで、正確な温度検知をすることができ、温度制御の精度を上げることができる。また、加圧ローラ174からの圧力によって、定着ローラ171の位置が変位し、非接触センサ(第1非接触センサ50および第2非接触センサ60)との距離が変化するので、距離補正値を変えることで、温度のズレを防ぐことができる。
【0065】
また、
図9では、圧接状態と圧解状態とについて説明したが、弱圧接状態では、圧接状態および圧解状態のいずれとも異なる距離補正値が設定されていてもよい。また、弱圧接状態については、複数設定されていてもよく、段階的に加圧ローラ174からの圧力を変えるようにしてもよい。温度補正部では、複数の弱圧接状態のそれぞれに対し、異なる補正テーブルを設ければよく、補正テーブルに基づいて、異なる距離補正値を適用すればよい。このように、補正テーブルに基づいて、算出する温度を微調整することで、温度検知の精度をさらに高めることができる。
【0066】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態に係る画像形成装置および定着装置について説明する。
【0067】
図10は、本発明の第2実施形態において、第1非接触センサでの検知結果と、温度補正部で算出した温度補正量との関係を示す特性図である。
【0068】
第2実施形態では、第1実施形態に対し、温度補正の処理で変更点が設けられている。なお、第2実施形態は、
図1ないし
図8に示す第1実施形態と略同様の構成とされているので、図面を省略する。
【0069】
第2実施形態では、規定温度が設定されており、定着ベルト173の温度が規定温度を超えている場合、温度補正量を補正する第2補正を行う。
【0070】
図10では、
図9と略同様にして示す第1特性TL1および第2特性TL2に加えて、第2補正を行った第3特性TL3および第4特性TL4を示している。定着ベルト173の温度に対しては、規定温度KTが設定されており、規定温度KT以上の範囲に対しては、異なる計算式が適用される。つまり、定着ローラ171の温度が高温になると、検知される輻射熱と定着ローラ171の温度との相関関係にズレが生じるので、第2補正によって調整し、温度検知の精度を向上させることができる。本実施の形態では、規定温度KT以上となった際に、傾き係数「G」を変化させており、第3特性TL3および第4特性TL4は、第1特性TL1および第2特性TL2よりも傾きが大きくなっている。なお、これに限定されず、距離補正値「α」も変化させたり、計算式自体を変更したりしてもよい。
【0071】
上述した第2補正によって、圧接状態では、規定温度KTを超えると、第1特性TL1から第3特性TL3に切り換えられる。また、圧解状態では、規定温度KTを超えると、第2特性TL2から第4特性TL4に切り換えられる。
図10に示す一点鎖線は、第3特性TL3および第4特性TL4との違いを示すために、第1特性TL1および第2特性TL2を延長した直線を表している。
【0072】
図10に示した第3特性TL3および第4特性TL4は一例であって、第2補正では、傾き係数「G」を小さくしたり、圧接状態と圧解状態とで傾きを異ならせたりしてもよい。また、
図10では、定着ベルト173の温度に対して設定した規定温度KTについて説明したが、これに限定されず、検知温度(横軸)に対して規定温度を設定してもよい。
【0073】
なお、今回開示した実施の形態は全ての点で例示であって、限定的な解釈の根拠となるものではない。従って、本発明の技術的範囲は、上記した実施の形態のみによって解釈されるものではなく、特許請求の範囲の記載に基づいて画定される。また、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれる。
【符号の説明】
【0074】
1 画像形成装置
17 定着装置
50 第1非接触センサ
51 第1フィルム
52 第1輻射熱検知部
53 温度検知部
54 ハウジング
60 第2非接触センサ
61 第2フィルム
62 第2輻射熱検知部
171 定着ローラ
172 加熱ローラ
172a 熱源
173 定着ベルト(定着部材の一例)
174 加圧ローラ(加圧部材の一例)
W 幅方向