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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-18
(45)【発行日】2023-04-26
(54)【発明の名称】構造体
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/20 20060101AFI20230419BHJP
   F16C 33/58 20060101ALI20230419BHJP
   F16C 13/00 20060101ALI20230419BHJP
   F16C 27/06 20060101ALI20230419BHJP
   B32B 15/06 20060101ALI20230419BHJP
【FI】
F16C33/20 A
F16C33/58
F16C13/00 B
F16C27/06 B
B32B15/06 Z
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019125580
(22)【出願日】2019-07-04
(65)【公開番号】P2020051615
(43)【公開日】2020-04-02
【審査請求日】2022-05-12
(31)【優先権主張番号】P 2018178657
(32)【優先日】2018-09-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002325
【氏名又は名称】セイコーインスツル株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000206901
【氏名又は名称】大塚化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】飯野 朗弘
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 明彦
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼石 悠貴
【審査官】日下部 由泰
(56)【参考文献】
【文献】特開平8-232945(JP,A)
【文献】特開平11-51063(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 33/58
B29C 45/14
B32B 15/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属部材と、前記金属部材上に形成された被覆層とを備えた構造体であって、
前記被覆層は、前記金属部材上に形成された第一の材料層と、前記第一の材料層上に形成された第二の材料層とを備え、
前記第一の材料層は、非晶性熱可塑性樹脂と熱可塑性エラストマーとを含み、前記第一の材料層の総質量に対して、前記第一の材料層に含まれる熱可塑性エラストマーの含有量が2~12質量%であり、前記第一の材料層に含まれる非晶性熱可塑性樹脂の含有量が58~68質量%であり、
前記第二の材料層は、熱可塑性エラストマーを含み、
前記第二の材料層は、前記第一の材料層よりも軟らかい材料である、構造体。
【請求項2】
金属部材と、前記金属部材上に形成された被覆層とを備えた構造体であって、
前記被覆層は、前記金属部材上に形成された第一の材料層と、前記第一の材料層上に形成された第二の材料層とを備え、
前記第一の材料層は、非晶性熱可塑性樹脂と熱可塑性エラストマーとを含み、前記第一の材料層に含まれる熱可塑性エラストマーの含有量が、前記第一の材料層の総質量に対して2~12質量%であり、前記第一の材料層に含まれる非晶性熱可塑性樹脂及び熱可塑性エラストマーの質量比(非晶性熱可塑性樹脂:熱可塑性エラストマー)が85:15~95:5であり、
前記第二の材料層は、熱可塑性エラストマーを含み、
前記第二の材料層は、前記第一の材料層よりも軟らかい材料である、構造体。
【請求項3】
金属部材と、前記金属部材上に形成された被覆層とを備えた構造体であって、
前記被覆層は、前記金属部材上に形成された第一の材料層と、前記第一の材料層上に形成された第二の材料層とを備え、
前記第一の材料層は、非晶性熱可塑性樹脂と熱可塑性エラストマーとを含み、
前記第二の材料層は、熱可塑性エラストマーを含み、
前記第二の材料層は、前記第一の材料層よりも軟らかい材料であり、
前記第二の材料層に含まれる熱可塑性エラストマーの融点をTm、前記第一の材料層に含まれる非晶性熱可塑性樹脂のガラス転移温度をTgとしたときに、Tg≧Tm≧Tg-5を満たす、構造体。
【請求項4】
前記第二の材料層に含まれる熱可塑性エラストマーの融点をTm、前記第一の材料層に含まれる非晶性熱可塑性樹脂のガラス転移温度をTgとしたときに、下記式(1)を満たす、請求項1または2に記載の構造体。
Tm≧Tg-5 ・・・(1)
【請求項5】
前記第一の材料層に含まれる熱可塑性エラストマーの含有量が、前記第一の材料層の総
質量に対して2~12質量%である、請求項に記載の構造体。
【請求項6】
前記第一の材料層は、無機繊維をさらに含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の構造体。
【請求項7】
前記第一の材料層に含まれる熱可塑性エラストマーと、前記第二の材料層に含まれる熱可塑性エラストマーとが同じ種類である、請求項1~のいずれか一項に記載の構造体。
【請求項8】
前記非晶性熱可塑性樹脂がポリカーボネート樹脂である、請求項1~のいずれか一項に記載の構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、転がり軸受の用途として、転がり軸受の外輪で紙幣や切符などの搬送物を搬送することや、転がり軸受を移動体の車輪として接触物に沿って転がせることが知られている。この場合、例えば金属部材からなる外輪の外周面には搬送物や接触物との摩擦力を大きくしたり、外輪が転がり接触しながら動作する際の音(ノイズ)を低減したりするために、外輪にウレタンゴムを用いて被覆層を形成することがある。
ウレタンゴムは、耐摩耗性に優れ、さらに外輪に強固に接着固定できる。外輪にウレタンゴムを装着する製造工程は以下の通りである。
【0003】
まず、転がり軸受の外輪の外周面をサンドブラスト処理により粗く加工し、粗く加工した外周面に接着剤を塗布する。次に、転がり軸受を金型内にセットし、ウレタン原料(液体)を外周面と金型との間に流し込み、金型に圧力をかけて成形する。次いで、金型内において高温で所定の時間(硬度によるが半日から1日程度)保持する。ウレタンゴムを高温で硬化させるとともに、接着剤に高温をかけてウレタンゴムを外周面に加硫接着する。加硫接着後に、ウレタンの外周面を研磨により所定の寸法、精度に仕上げる。これにより、転がり軸受の外輪の外周面にウレタンゴムが被覆される(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】実開平6-87717号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の転がり軸受では以下のような課題がある。
すなわち、金型内でウレタンゴムを長時間にわたり硬化させる必要があり、外輪の外周面への接着剤の塗布に時間がかかり、ウレタンゴムの硬化後にウレタンの外周面を研磨により所定の寸法、精度に仕上げる必要がある。
よって、ウレタンゴムが外周面に被覆された転がり軸受を大量生産する場合には、ウレタンゴムを外周面に被覆するための設備を多数備える必要があり、設備費が嵩む。また、外輪の外周面をサンドブラストで粗く加工する工程や、粗く加工した外周面に接着剤を塗布する工程が必要である。このため、ウレタンゴムが被覆された転がり軸受を、安価で大量に製造することは難しい。
【0006】
本発明は、このような事情に考慮してなされたもので、その目的は、安価に大量に製造でき、被覆層が金属部材に充分に固定され、信頼性が高い構造体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために本発明の一態様にかかる構造体は、金属部材と、前記金属部材上に形成された被覆層とを備えた構造体であって、前記被覆層は、前記金属部材上に形成された第一の材料層と、前記第一の材料層上に形成された第二の材料層とを備え、前記第一の材料層は、非晶性熱可塑性樹脂と熱可塑性エラストマーとを含み、前記第二の材料層は、熱可塑性エラストマーを含み、前記第二の材料層は、前記第一の材料層よりも軟らかい材料であることを特徴とする。
この構成によれば、第一の材料層に非晶性熱可塑性樹脂を含有させることで、第二の材料層との熱融着性が高まり、第二の材料層が第一の材料層に充分に固定される。また、第一の材料層に熱可塑性エラストマーを含有させることで、第一の材料層上に第二の材料層を成形する際の熱により、第一の材料層のウエルド部に割れやクラックが生じることを抑制できる。その結果、第一の材料層の抜き力が低下しにくくなり、第一の材料層が金属部材に充分に固定される。加えて、第一の材料層と第二の材料層とを一層良好に熱融着することができる。その結果、第二の材料層を第一の材料層に一層強固に固定でき、第二の材料層が金属部材から脱落することを一層確実に防止できる。よって、被覆層が金属部材に充分に固定され、信頼性が高い構造体が得られる。
また、第二の材料層に熱可塑性エラストマーを含有させることで、第一の材料層に第二の材料層を熱融着により強固に固定できる。よって、従来必要とされていた、サンドブラスト加工工程や、接着剤による塗布工程を不要にできる。これにより、構造体を安価で大量に製造することができる。
また、第二の材料層を第一の材料層よりも軟らかい材料とすることにより、第一の材料層に硬い材料を使用できる。軟らかい材料とは、曲げ弾性率、硬度(例えば、デュロ硬度A(デュロメータ硬さA))が小さい材料をいう。硬い材料とは、曲げ弾性率、硬度(例えば、デュロ硬度A(デュロメータ硬さA))が大きい材料をいう。
また、第二の材料層を第一の材料層よりも軟らかい材料とすることにより、第二の材料層を第一の材料層に熱融着により一層強固に固定できる。加えて、例えば構造体が軸受のとき、外輪で紙幣や切符などの搬送物を搬送する場合や、軸受を移動体の車輪として接触物に沿って転がせる場合に、第二の材料層で音(ノイズ)を低減できる。
【0008】
また、前記第一の材料層は、無機繊維をさらに含むことが好ましい。
この構成によれば、第二の材料層が第一の材料層により強固に固定される。
【0009】
また、前記第二の材料層に含まれる熱可塑性エラストマーの融点をTm、前記第一の材料層に含まれる非晶性熱可塑性樹脂のガラス転移温度をTgとしたときに、下記式(1)を満たすことが好ましい。
Tm≧Tg-5 ・・・(1)
この構成によれば、第二の材料層が第一の材料層により強固に固定される。
【0010】
また、前記第一の材料層に含まれる熱可塑性エラストマーと、前記第二の材料層に含まれる熱可塑性エラストマーとが同じ種類であることが好ましい。
この構成によれば、第二の材料層が第一の材料層により強固に固定される。
【0011】
また、前記非晶性熱可塑性樹脂がポリカーボネート樹脂であることが好ましい。
この構成によれば、第一の材料層の抜き力がより低下しにくくなり、第一の材料層が金属部材により強固に固定される。
【0012】
また、前記第一の材料層に含まれる熱可塑性エラストマーの含有量が、前記第一の材料層の総質量に対して1~14質量%であることが好ましい。
この構成によれば、第一の材料層のウエルド部に割れやクラックが生じることをより抑制できる。その結果、第一の材料層の抜き力がより低下しにくくなり、第一の材料層が金属部材により強固に固定される。加えて、成形時の収縮率が大きくなりにくく、精密な成形が容易となる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、安価に大量に製造でき、被覆層が金属部材に充分に固定され、信頼性が高い構造体を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の第一実施形態に係る構造体としての軸受を示す断面図である。
図2】本発明の第一実施形態に係る軸受の変形例を示す側面図である。
図3】本発明の第一実施形態に係る軸受を備えた移動体を示す側面図である。
図4】本発明の第二実施形態に係る構造体としての軸受を示す断面図である。
図5】本発明の第三実施形態に係る構造体としての軸受を示す断面図である。
図6】本発明の第四実施形態に係る構造体を示す断面図である。
図7】(a)は第二の材料層の抜き力の測定方法を説明する断面図であり、(b)は第一の材料層の抜き力の測定方法を説明する断面図である。
図8】熱可塑性エラストマーにチタン酸カリウム繊維を含有させた状態の特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る実施形態について図面を参照して説明する。第一実施形態~第三実施形態においては、構造体を軸受10,130,140として説明する。
【0016】
[第一実施形態]
図1は、第一実施形態に係る軸受10の断面図である。
図1に示すように、軸受10は、輪体12、複数の転動体14、リテーナ16および被覆層18を備える転がり軸受である。
輪体12は、外輪21および内輪22を備える。外輪21と内輪22は、軸受10の軸線Oと同軸上に配置されている。内輪22は、外輪21の径方向の内側に配置される。
複数の転動体14は、輪体12を構成する外輪21と内輪22との間において、環状に配置される。リテーナ16は、複数の転動体14を周方向に均等配列させた状態で転動自在に保持する。
【0017】
外輪21は、例えばステンレス、軸受鋼などの金属材料からなる金属部材である。外輪21は、円筒状の部材であり、例えば鍛造や切削、研削等の機械加工などにより形成される。外輪21は、外周面(すなわち、円形に形成された外面)24、内周面25、中央部26、一対の外側部27を有する。
外周面24は、外輪21の径方向外側に環状に形成されている。内周面25は、外輪21の径方向内側に環状に形成されている。中央部26は、軸線O方向の中央に形成されている。中央部26は、内周面25のうち軸線O方向中央の部位25aが外輪21の外周面24から径方向内側に間隔T1をおいて形成されている。外周面24のうち中央部26に相当する部位には、周方向へ延びる溝部28として凹部が形成されている。
【0018】
溝部28は、外周面24より径方向内側に最深部位28aを有する。最深部位28aは、溝部28のうち最も深い部位である。溝部28は、断面形状において、外周面24側から最深部位28aまで溝幅寸法L1が漸次小さくなるように形成されている。
一例として、溝部28は、外輪21の軸線O方向の中央において断面形状が曲面に形成され、外輪21の径方向外側に開口されている。溝部28は、外輪21の軸線O方向の中央に対して対称の形状に形成されている。
【0019】
一対の外側部27は、中央部26より軸線O方向外側で、外輪21の軸線O方向の中央に対して対称に形成されている。一対の外側部27は、内周面25のうち軸線O方向外側の部位が外輪21の外周面24から径方向内側に間隔T2をおいて形成されている。中央部26の間隔T1は、一対の外側部27の間隔T2に比べて大きく設定されている。すなわち、中央部26の肉厚寸法は、一対の外側部27の肉厚寸法より大きい。
【0020】
内周面25のうち中央部26の部位25aには、外輪転動面29が形成されている。外輪転動面29は、転動体14の外表面に沿うように側面断面が円弧状に形成されている。外輪転動面29の断面における曲率半径は、転動体14の外表面の曲率半径と略同一か、若干大きくなるように形成される。外輪転動面29は、外輪21の内周面25の全周にわたって形成されている。外輪転動面29は、複数の転動体14の外表面が当接可能である。
外輪転動面29は、軸線O方向の中央に形成され、外周面24の径方向において溝部28と重なる位置に配置されている。
【0021】
ところで、溝部28は、軸線O方向の中央に形成され、外輪転動面29と外周面24の径方向において重なる位置に配置されている。一方、溝部28は断面形状が曲面に形成されている。よって、外輪21の変形や溝部28による外輪21の剛性低下が外輪転動面29に及ぼす影響を抑制できる。
さらに、溝部28の断面形状を曲面に形成することにより、溝部28の底面に平坦部を有しない。これにより、溝部28を刃具で加工する際に、刃具の切削抵抗を小さく抑えることができ、溝部28の加工が容易になる。さらに、刃具の切削抵抗を小さく抑えることにより刃具の寿命を延ばすことができる。
加えて、溝部28は、外輪21の軸線O方向の中央に対して対称の形状に形成されている。外輪21の外周面24中央に溝部28がバランスよく形成されている。これにより、外輪21の変形や溝部28による外輪21の剛性低下が外輪転動面29に及ぼす影響を一層良好に抑制できる。
【0022】
ここで、溝部28が外輪21の軸線O方向の中央に設けられ、外輪転動面29も外輪21の軸線O方向の中央に設けられている。これにより、外輪21の焼入れなどの熱処理による変形の影響を少なく抑えることができる。特に、外輪21は、中央部26の肉厚寸法が一対の外側部27の肉厚寸法より大きく形成されている。中央部26の肉厚寸法が大きい部位に溝部28が形成されている。これにより、溝部28を形成する肉厚寸法を確保できる。
さらに、溝部28は、断面形状が曲面に形成されている。一方、外輪転動面29も断面形状が曲面に形成されている。すなわち、溝部28は外輪転動面29と同形状に形成されている。これにより、外輪21の焼入れなどの熱処理による変形の影響を一層少なく抑えることができる。
【0023】
なお、第一実施形態においては、溝部28を断面曲面に形成した例について説明したが、これに限らないで、その他の例として、断面V字面、断面U字面などの形状に形成してもよい。溝部28を断面V字面、断面U字面などに形成した場合も、第一実施形態と同様の効果が得られる。
【0024】
内輪22は、例えばステンレスなどの金属材料からなる金属部材である。内輪22は、軸線O方向に所定の厚さ寸法を有する、略円筒状の部材であり、例えば鍛造や機械加工などにより形成されている。
内輪22の外周面32における軸線O方向の中間部には、内輪転動面33が形成される。内輪転動面33は、転動体14の外表面に沿うように側面断面が円弧状に形成されている。内輪転動面33の断面における曲率半径は、転動体14の外表面の曲率半径と略同一か、若干大きくなるように形成される。内輪転動面33は、内輪22の外周面32の全周にわたって形成されている。内輪転動面33は、複数の転動体14の外表面が当接可能である。
【0025】
内輪22が支持軸41に固定されることにより、被覆層18が外輪21とともに回転する。被覆層18を構成する第二の材料層44の被覆外周面52cは、例えば、紙幣や切符などを搬送する面、または接触物5(図3参照)を転がる面である。
【0026】
転動体14は、ステンレス、軸受鋼などの金属材料やジルコニヤなどのセラミック材料などにより球状に形成される。転動体14は、外輪21の外輪転動面29および内輪22の内輪転動面33の間に複数個配置されて、外輪転動面29および内輪転動面33に沿って転動する。複数の転動体14は、リテーナ16によって、転動自在に周方向に沿って環状に均等配列される。軸受10には潤滑用のグリースが封入されている。
【0027】
外輪21の外周面24には被覆層18が形成されている。被覆層18は、第一の材料層43と、第二の材料層44とを備えている。第二の材料層44は、被覆層18の外周面層を形成する。
【0028】
第一の材料層43は、外輪21の外周面24のうち、軸線O方向の中央に形成されている。第一の材料層43は、外輪21の外周面24のうち、軸線O方向の中央に射出成形によりインサート成形される。第一の材料層43は、第1外周面46、第1内周面47、一対の側面48,49を有する。以下、一対の側面48,49のうち一方の第1側面を第1側面48、他方の側面を第2側面49という。
【0029】
第1内周面47は、外輪21の外周面24および溝部28にインサート成形により固定されている。第1外周面46は、外輪21の外周面24に対して所定の厚さ寸法となるように円弧状に形成されている。すなわち、第1外周面46は、軸受10の軸線O方向において、軸線Oと平行となるように直線状に形成されている。
第1側面48は、第1外周面46の一端と第1内周面47の一端とを連結し、軸受10の軸線O方向に対して交差するように形成された面である。第1側面48は、外周面24の第1端縁24aから軸線O方向において外周面24の中央側に間隔S1をおいて形成されている。第2側面49は、外周面24の第2端縁24bから軸線O方向において外周面24の中央側に間隔S1をおいて形成されている。
【0030】
第一の材料層43は、非晶性熱可塑性樹脂と熱可塑性エラストマーとを含む。
非晶性熱可塑性樹脂は熱可塑性エラストマーとの熱融着性に優れる。第一の材料層43が非晶性熱可塑性樹脂を含むことで、後述する第二の材料層44に含まれる熱可塑性エラストマーとの熱融着性が高まり、第一の材料層43と第二の材料層44とが熱融着され、第二の材料層44が第一の材料層43に充分に固定される。
また、第一の材料層43が熱可塑性エラストマーを含むことで、第一の材料層上に第二の材料層を成形する際の熱により、第一の材料層のウエルド部に割れやクラックが生じることを抑制できる。その結果、第一の材料層の抜き力が低下しにくくなり、第一の材料層43が外輪21に充分に固定される。第一の材料層43と第二の材料層44とを一層良好に熱融着することができる。これにより、第二の材料層44を第一の材料層43に一層強固に固定でき、第二の材料層44が外輪21の外周面24から脱落することを一層確実に防止できる。よって、被覆層18が外輪21に充分に固定され、信頼性が高い軸受10が得られる。
【0031】
非晶性熱可塑性樹脂とは、ガラス転移温度を有し、融点や融解熱を示さない熱可塑性樹脂(ただし、後述の熱可塑性エラストマーを除く。)をいう。なお、非晶性熱可塑性樹脂には、明確な融点や測定可能な融解熱を示さないが、ゆっくり冷却する場合には多少の結晶性を示すものを含むものとする。非晶性熱可塑性樹脂のガラス転移温度、融点および融解熱は、示差走査熱量計(DSC)を用いて測定することができ、示差走査熱量計(DSC)を用いて測定される融解熱が、1cal/g未満のものを非晶性熱可塑性樹脂と定義する。
【0032】
非晶性熱可塑性樹脂のガラス転移温度は、耐熱性の観点から50℃以上が好ましく、70℃以上がより好ましく、130℃以上がさらに好ましい。一方、成形性の観点からは、非晶性熱可塑性樹脂のガラス転移温度は250℃以下が好ましく、200℃以下がより好ましく、170℃以下がさらに好ましい。
【0033】
非晶性熱可塑性樹脂としては、ポリカーボネート樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、芳香族ポリスルホン樹脂、芳香族ポリエーテルスルホン樹脂、芳香族非晶性ポリアミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂等が挙げられる。これらの中でも第一の材料層43の抜き力がより低下しにくくなり、第一の材料層43が外輪21により強固に固定される観点から、ポリカーボネート樹脂が好ましい。
ポリカーボネート樹脂の種類には特に制限なく、公知のものを用いることができる。また、ポリカーボネート樹脂は、慣用の方法(例えば、ホスゲン法、エステル交換法など)により製造することができる。なお、本明細書においてポリカーボネート樹脂とは、下記一般式(i)で表される構造単位を有する基本構造の重合体を意味する。
【0034】
【化1】
【0035】
式(i)中、Xは2価の炭化水素基であり、nは1以上の数である。2価の炭化水素基は、種々の特性を付与する目的で、その鎖中にヘテロ原子やヘテロ結合が導入されていてもよい。
【0036】
ポリカーボネート樹脂は、芳香族ポリカーボネート樹脂(芳香族ジヒドロキシ化合物を重合成分とするポリカーボネート樹脂)、脂肪族ポリカーボネート樹脂(脂肪族ジヒドロキシ化合物を重合成分とするポリカーボネート樹脂)に分類されるが、耐熱性、機械的物性、電気的特性等の観点から、芳香族ポリカーボネート樹脂が好ましい。
ポリカーボネート樹脂は1種類を用いてもよく、2種類以上を任意の組み合わせおよび任意の比率で併用してもよい。さらに、ポリカーボネート樹脂は、本発明の優れた特性を損なわない範囲において、他の樹脂と混合しアロイ化して得られる樹脂として用いてもよい。アロイ化する際に用いる他の樹脂としては、例えば、アクリロニトリル-スチレン樹脂、ABS樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂等が挙げられる。
【0037】
非晶性熱可塑性樹脂のメルトフローレート(以下「MFR」と略記する。)値は、例えば、非晶性熱可塑性樹脂としてポリカーボネート樹脂を用いた場合、成形性の観点から、280℃、荷重2.16kgの条件で測定したMFR値が0.1g/10min以上であることが好ましく、15g/10min以上であることが好ましく、30g/10min以上であることがより好ましい。一方、熱可塑性エラストマーとの相溶性の観点から、280℃、荷重2.16kgの条件で測定したMFR値が130g/10min以下であることが好ましく、100g/10min以下であることがより好ましく、80g/10min以下であることが更に好ましく、60g/10min以下であることが特に好ましい。
非晶性熱可塑性樹脂のMFR値は、JIS K 7210に準拠して測定される値である。
【0038】
熱可塑性エラストマーとは、常温(20℃)ではゴム状弾性を有し、加熱すると可塑性を示すエラストマーである。すなわち、分子中に、弾性をもつゴム成分(ソフトセグメント)と塑性変形を防止するための分子拘束成分(ハードセグメント)との両性分を有している。
熱可塑性エラストマーとしては、ソフトセグメントおよびハードセグメントの種類により、例えばスチレン系熱可塑性エラストマー(TPS)、オレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO)、塩化ビニル系熱可塑性エラストマー(PPVC)、ウレタン系熱可塑性エラストマー(TPU)、ポリエステル系熱可塑性エラストマー(TPEE)などが挙げられる。機械的強度、耐摩耗性の観点からTPU、TPEE、TPSが好ましく、TPEEがより好ましい。
TPUは、耐摩耗性に最も優れるが成形性に問題があり、吸湿性が高く充分な乾燥が必要である。さらに、アニール処理も必要であり、製造に時間がかかるとともに成形精度にも問題がある。また、TPUは、機械的強度や耐摩耗性が熱可塑性エラストマー中で最も優れている。このため、TPUは、被覆層18に機械的強度や耐摩耗性の特性が必要な場合に使用される。
TPEEは、TPU以外の熱可塑性エラストマーの中では耐摩耗性、機械的強度が最も優れるとともに、非晶性熱可塑性樹脂との熱融着性にも優れている。また、TPEEは、吸湿性も低く、成形性も良好なため被覆層18の材料として最適である。
【0039】
熱可塑性エラストマーは、ソフトセグメントに基づく柔軟性を有するが、この柔軟性は、JIS K 6253に準拠して測定したデュロ硬度A(タイプAデュロメータ硬度)として表すことができる。前記デュロ硬度Aは、10以上であることが好ましく、30以上であることがより好ましく、45以上であることがさらに好ましく、55以上であることが特に好ましく、95以下であることが好ましく、85以下であることがより好ましい。
【0040】
熱可塑性エラストマーのMFR値は、例えば、熱可塑性エラストマーとしてTPEEを用いた場合、成形性の観点から、280℃、荷重2.16kgの条件で測定したMFR値が0.1g/10min以上であることが好ましく、15g/10min以上であることが好ましく、30g/10min以上であることがより好ましい。一方、非晶性熱可塑性樹脂との相溶性の観点から、280℃、荷重2.16kgの条件で測定したMFR値が100g/10min以下であることが好ましく、85g/10min以下であることがより好ましく、60g/10min以下であることが更に好ましい。
熱可塑性エラストマーのMFR値は、JIS K 7210に準拠して測定することができる。
【0041】
熱可塑性エラストマーは、融点が観測されるものが好ましい。熱可塑性エラストマーの融点は、耐熱性が向上する観点から、100℃以上が好ましく、110℃以上がより好ましく、120℃以上がさらに好ましい。一方、成形性の観点からは、熱可塑性エラストマーの融点は210℃以下が好ましく、180℃以下がより好ましく、160℃以下がさらに好ましい。
ここで、熱可塑性エラストマーが、2種以上のハードセグメントが存在するなどで融点が2つ以上存在する場合、熱可塑性エラストマーを充分に溶融させて第一の材料層43を成形するという観点から、最も温度の高い融点を熱可塑性エラストマーの融点として取り扱うこととする。
熱可塑性エラストマーの融点は、DSCを用いて測定される値である。
【0042】
熱可塑性エラストマーは、上記構造、特性等を満たすものであれば2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0043】
第一の材料層43に含まれる熱可塑性エラストマーの含有量は、第一の材料層43の総質量(すなわち、第一の材料層43に含まれる全ての成分の総質量)に対して1~14質量%が好ましく、2~12質量%がより好ましい。熱可塑性エラストマーの含有量が1質量%以上であれば、第一の材料層43のウエルド部に割れやクラックが生じることをより抑制できる。その結果、第一の材料層43の抜き力がより低下しにくくなり、第一の材料層43が外輪21により強固に固定される。熱可塑性エラストマーの含有量が14質量%以下であれば、成形時の収縮率が大きくなりにくく、精密な成形が容易となる。
【0044】
非晶性熱可塑性樹脂と熱可塑性エラストマーの質量比は、非晶性熱可塑性樹脂:熱可塑性エラストマー=70:30~99:1が好ましく、85:15~95:5がより好ましい。非晶性熱可塑性樹脂と熱可塑性エラストマーの質量比が上記範囲内であれば、第一の材料層43の外輪21に対する固定力と、第二の材料層44に対する固定力とのバランスに優れる。
【0045】
第一の材料層43は、無機繊維をさらに含むことが好ましい。第一の材料層43が無機繊維をさらに含むことで、第二の材料層44が第一の材料層43により強固に固定される。加えて、第一の材料層43の摩耗量を減らすことができる。
無機繊維としては、繊維状粒子から構成される粉末であることが好ましく、平均繊維長が1~300μmであり、かつ平均アスペクト比が3~200であるものがより好ましい。無機繊維の平均繊維長は、1~200μmがより好ましく、3~100μmがさらに好ましく、5~50μmが特に好ましい。無機繊維の平均アスペクト比は、3~100がより好ましく、5~50がさらに好ましく、8~40が特に好ましい。上記範囲の平均繊維長および平均アスペクト比を有する無機繊維を用いることにより、第二の材料層44が第一の材料層43により強固に固定される。
無機繊維の平均繊維長および平均繊維径は、走査型電子顕微鏡(SEM)の観察により測定することができ、平均アスペクト比(平均繊維長/平均繊維径)は平均繊維長および平均繊維径より算出することできる。例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)により、複数の無機繊維を撮影し、その観察像から無機繊維を任意に300個選択し、それらの繊維長および繊維径を測定し、繊維径の全てを積算して個数で除したものを平均繊維長とし、繊維径の全てを積算し個数で除したものを平均繊維径とすることができる。
【0046】
無機繊維の具体例としては、ガラス繊維、炭素繊維、チタン酸カリウム繊維、ワラストナイト繊維、ホウ酸アルミニウム繊維、ホウ酸マグネシウム繊維、ゾノトライト繊維、酸化亜鉛繊維、塩基性硫酸マグネシウム繊維等が挙げられる。これらの中でも、得られる成形体の摺動時の相手材への攻撃性、成形機の摩耗、機械的特性の観点から、チタン酸カリウム繊維、ワラストナイト繊維が好ましい。
【0047】
チタン酸カリウム繊維としては、従来公知のものを広く使用でき、4チタン酸カリウム、6チタン酸カリウム、8チタン酸カリウム等が挙げられる。
チタン酸カリウムの寸法は、上述の無機繊維の寸法の範囲であれば特に制限はないが、通常、平均繊維径は0.01~1μmが好ましく、0.05~0.8μmがより好ましく、0.1~0.7μmがさらに好ましい。平均繊維長は1~50μmが好ましく、3~30μmがより好ましく、10~20μmがさらに好ましい。平均アスペクト比は10以上好ましく、10~100がより好ましく、15~35がさらに好ましい。
【0048】
ワラストナイト繊維は、メタ珪酸カルシウムからなる無機繊維である。
ワラストナイトの寸法は、上述の無機繊維の寸法の範囲であれば特に制限はないが、通常、平均繊維径は0.1~15μmが好ましく、1~10μmがより好ましく、2~7μmがさらに好ましい。平均繊維長は3~180μmが好ましく、10~100μmがより好ましく、20~40μmがさらに好ましい。平均アスペクト比は3以上が好ましく、3~30がより好ましく、5~15がさらに好ましい。
【0049】
無機繊維は1種類を用いてもよく、2種類以上を任意の組み合わせおよび任意の比率で併用してもよい。
第一の材料層43に含まれる無機繊維の含有量は、軸受10の用途に対応させて適宜決定すればよいが、例えば、第一の材料層43の総質量に対して、1~50質量%が好ましく、10~40質量%がより好ましく、20~35質量%がさらに好ましい。
【0050】
第一の材料層43は、外輪21の外周面24および溝部28に射出成形により形成される。第一の材料層43が冷却される際に、外周面24に対して外輪21の中心に向かって(径方向に)密着するように力が加わるため、第一の材料層43が外輪21の外周面24および溝部28に固定される。
第一の材料層43は、外周面24に沿って非晶性熱可塑性樹脂および熱可塑性エラストマーを含む材料で環状に形成されている。よって、第一の材料層43が冷却されて硬化する際の収縮により、第一の材料層43が外周面24に強固に取り付けられる。
第一の材料層43が溝部28に充填される。外周面24の溝部28に第一の材料層43の突部43aが充填されることにより、外周面24の溝部28と第一の材料層43の突部43aとを凹凸状に係合させることができる。
【0051】
ここで、第一の材料層43を外輪21の外周面24および溝部28にインサート成形する際には、軸受10が成形型の内部に収められ、外輪21のうち、少なくとも軸線O方向の端面21a,21bが成形型に接触して支えられる。このように、端面21a,21bが成形型で支えられることにより、第一の材料層43が外輪21の外周面24および溝部28にインサート成形される。また、外輪21の単体に対して第一の材料層43をインサート成形しても構わない。
【0052】
加えて、溝部28に第一の材料層43の突部43aが充填されることにより、溝部28に充填された突部43aがアンカーの役割を果たす。これにより、外輪21と第一の材料層43とが物理的に係合し、第一の材料層43を外輪21の外周面24および溝部28に一層強固に固定できる。
第一の材料層43が外輪21の外周面24に設けられた状態において、外周面24のうち、第一の材料層43の軸線O方向の両側部に位置する第1側部24cおよび第2側部24dが外部に露出されている。
【0053】
第二の材料層44は、第一の材料層43と、外周面24の第1側部24c、第2側部24dとに形成されている。第二の材料層44は、外周面層52と、一対の側面層53,54とを有する。以下、一対の側面層53,54のうち一方の第1側面層を第1側面層53、他方の側面層を第2側面層54という。
外周面層52は、第一の材料層43の第1外周面46を覆う層である。第1側面層53は、外周面層52の一端部52aに連結され、第一の材料層43の第1側面48を覆う層である。第1側面層53は、外輪21の外周面24の第1側部24cに接触されている。
第2側面層54は、外周面層52の他端部52bに連結され、第一の材料層43の第2側面49を覆う層である。第2側面層54は、外輪21の外周面24の第2側部24dに接触されている。
すなわち、第二の材料層44の第1側面層53および第2側面層54で第一の材料層43の両側面(第1側面48、第2側面49)が挟み込まれている。
【0054】
第二の材料層44は、熱可塑性エラストマーを含む。
第二の材料層44が熱可塑性エラストマーを含むことで、第一の材料層43に含まれる非晶性熱可塑性樹脂との熱融着性が高まり、第一の材料層43と第二の材料層44とが熱融着され、第二の材料層44が第一の材料層43に充分に固定される。
熱可塑性エラストマーとしては、第一の材料層43の説明において先に例示した熱可塑性エラストマーが挙げられる。中でも、TPU、TPEE、TPSが好ましい。特に、TPEEは、吸湿性も低く、成形性も良好なため軸受10の第二の材料層44の材料として最適である。
【0055】
ここで、本明細書において、「熱融着」とは、例えば、第二の材料層44の熱可塑性エラストマーが加熱により溶融して非晶性熱可塑性樹脂を含む第一の材料層43に付着することをいう。
熱融着は、2色成形時に特に効果を発揮する。
【0056】
音(ノイズ)を抑えるという観点から、第二の材料層44のデュロ硬度Aは75~95が望ましい。第二の材料層44のデュロ硬度Aが75以上であれば、音(ノイズ)を良好に抑えつつ、かつ、第二の材料層44の機械的強度や耐摩耗性を良好に確保できる。
デュロ硬度Aは、JIS K 6253に準拠したタイプAデュロメータを用い測定される値である。
【0057】
第二の材料層44は、第一の材料層43よりも軟らかい材料である。第二の材料層を第一の材料層よりも軟らかい材料とすることにより、第一の材料層に硬い材料を使用できる。よって、外輪21の外周面24に第一の材料層43を溶融状態で射出成形し、射出成形後に溶融状態の第一の材料層43が冷却、凝固することにより、環状の第一の材料層43が収縮する。よって、第一の材料層43を外輪21の外周面24強固に固定できる。
ここで、本発明において、「軟らかい材料」とは、第二の材料層44の曲げ弾性率および硬度(例えば、デュロ硬度A(デュロメータ硬さA))の少なくとも一方が、第一の材料層43よりも小さいことを意味する。
曲げ弾性率や硬度は、熱可塑性エラストマーや無機繊維の種類や含有量などにより調整できる。
【0058】
また、第二の材料層44が第一の材料層43により強固に固定される観点から、第二の材料層44に含まれる熱可塑性エラストマーの融点をTm、第一の材料層43に含まれる非晶性熱可塑性樹脂のガラス転移温度をTgとしたときに、下記式(1)を満たすことが好ましい。
Tm≧Tg-5 ・・・(1)
【0059】
また、第二の材料層44が第一の材料層43により強固に固定される観点から、第一の材料層43に含まれる熱可塑性エラストマーと、第二の材料層44に含まれる熱可塑性エラストマーとが同じ種類であることが好ましい。例えば、第一の材料層43に含まれる熱可塑性エラストマーがTPEEである場合、第二の材料層44に含まれる熱可塑性エラストマーもTPEEであることが好ましい。
【0060】
また、第二の材料層44は、必要に応じて、無機繊維、非晶性熱可塑性樹脂、これら以外の添加剤(その他の添加剤)を含んでいてもよい。
無機繊維としては、第一の材料層43の説明において先に例示した無機繊維が挙げられる。
非晶性熱可塑性樹脂としては、第一の材料層43の説明において先に例示した非晶性熱可塑性樹脂が挙げられる。
その他の添加剤としては、例えばグラファイト、二硫化モリブデン、二硫化タングステン、ボロンナイトライド(BN)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリエチレン樹脂、シリコーン樹脂等の摺動性改良剤;カーボンブラック、酸化チタン等の顔料、および染料等の着色剤;離型剤;熱伝導剤;帯電防止剤;造核剤;老化防止剤(酸化防止剤);紫外線吸収剤;難燃剤などが挙げられる。これらその他の添加剤は、1種類を用いてもよく、2種類以上を任意の組み合わせおよび任意の比率で併用してもよい。
【0061】
以上説明した第一実施形態の軸受10によれば、第一の材料層43が非晶性熱可塑性樹脂を含むので、第二の材料層44との熱融着性が高まり、第二の材料層44が第一の材料層43に充分に固定される。また、第一の材料層43に熱可塑性エラストマーを含有させることで、第一の材料層43上に第二の材料層44を成形する際の熱により、第一の材料層43のウエルド部に割れやクラックが生じることを抑制できる。その結果、第一の材料層43の抜き力が低下しにくくなり、第一の材料層43が外輪21に充分に固定される。加えて、第一の材料層43と第二の材料層44とを一層良好に熱融着することができる。その結果、第二の材料層44を第一の材料層43に一層強固に固定でき、第二の材料層44が外輪21から脱落することを一層確実に防止できる。
【0062】
しかも、第一実施形態の軸受10では、外輪21の外周面24に溝部28を設けることにより、第一の材料層43を溝部28に充填できる。外周面24の溝部28に第一の材料層43の突部43aが充填されることにより、外周面24の溝部28と第一の材料層43の突部43aとを凹凸状に係合させることができる。よって、第一の材料層43に力が加わった際に、外周面24と第一の材料層43との凹凸で第一の材料層43が外輪21から外れないようにできる。
【0063】
ここで、第二の材料層44は、第一の材料層43に沿って環状に形成され、第一の材料層43よりも軟らかい材料である。よって、第二の材料層44を第一の材料層43に射出成形(例えば2色成形)により強固に熱融着できる。
また、第二の材料層44の第1側面層53および第2側面層54で第一の材料層43の両側面(第1側面48、第2側面49)が挟み込まれている。よって、第二の材料層44が射出成形後に冷却して収縮することにより、第一の材料層43の第1側面48および第2側面49を、第二の材料層44の第1側面層53および第2側面層54で挟持できる。これにより、第二の材料層44を第一の材料層43に一層強固に係合させることができる。
【0064】
さらに、第二の材料層44の第1側面層53の内周面53aは、外輪21の外周面24の第1側部24cに固定されている。第二の材料層44の第2側面層54の内周面54aは、外輪21の外周面24の第2側部24dに固定されている。すなわち、第1側面層53および第2側面層54の高さ寸法H1が大きく確保されている。
よって、第1側面48に対する第1側面層53の接触面積が大きく確保されている。第2側面49に対する第2側面層54の接触面積が大きく確保されている。これにより、第二の材料層44が冷却して収縮することにより、第1側面48および第2側面49の全域を第1側面層53および第2側面層54で挟持できる。この結果、第二の材料層44を第一の材料層43に一層強固に係合させることができる。よって、第二の材料層44に軸線O方向の力や、外輪21の外周面24からめくられる方向の力がかかった場合でも、第二の材料層44が外輪21の外周面24から剥がれ難くできる。
【0065】
このように、外輪21の外周面24と第二の材料層44との間に、第二の材料層44よりも硬い材料である第一の材料層43を介在させることにより、第二の材料層44を第一の材料層43を介して外輪21の外周面24に一層強固に係合させることができる。これにより、第一の材料層43および第二の材料層44が外輪21の外周面24から脱落することを防止できる。
【0066】
さらに、第二の材料層44を第一の材料層43を介して外輪21の外周面24に強固に係合させることにより、従来必要とされていた、サンドブラスト加工工程や、接着剤による塗布工程を不要にできる。
また、第一の材料層43および第二の材料層44を、例えば2色成形で射出成形する際に、第一の材料層43に含まれる非晶性熱可塑性樹脂および熱可塑性エラストマーと、第二の材料層44に含まれる熱可塑性エラストマーを、ウレタンゴムのように金型内で長時間にわたり硬化させる必要がない。すなわち、第一の材料層43および第二の材料層44を射出成形する際に、ウレタンゴムのように金型内で長時間にわたり硬化させる工程を不要にできる。
これにより、外輪21の外周面24に被覆層18(第一の材料層43、第二の材料層44)が形成された軸受10を安価に大量に製造できる。
【0067】
前述したように、被覆層18の第一の材料層43および第二の材料層44は、例えば2色成形で形成される。具体的には、外輪21の外周面24に第一の材料層43が非晶性熱可塑性樹脂および熱可塑性エラストマーの射出成形によりインサート成形される。第一の材料層43がインサート成形された後、第二の材料層44が熱可塑性エラストマーの射出成形によりインサート成形される。
第一の材料層43や第二の材料層44を射出成形するために金型が用いられる。特に、第二の材料層44を射出成形する金型は、例えばゲートG1が第二の材料層44の第1側面層53に相当する位置に配置される。溶融された熱可塑性エラストマーがゲートG1から金型の内部(キャビティ)に充填されることにより、第一の材料層43および外周面24の第1側部24cおよび第2側部24dに第二の材料層44がインサート成形される。
金型のゲートG1を第1側面層53に相当する位置に設けることにより、熱可塑性エラストマーの充填個所を外周面層52の被覆外周面52cからずらすことができる。
【0068】
また、金型のパーティングラインPLは、例えば軸受10の軸線O方向において第1側面層53の外側面53bに位置させる。第1側面層53の外側面53bは、外周面層52の被覆外周面52cに対して被覆外周面52cの一端52dにおいて凹部に形成されている。パーティングラインPLは、外周面層52の被覆外周面52cからずらした位置に配置されている。
このように、ゲートG1やパーティングラインPLを外周面層52の被覆外周面52cからずらすことにより、熱可塑性エラストマーをゲートG1から金型内に充填させる際に生じるバリや、パーティングラインPLにより生じるバリなどが外周面層52の被覆外周面52cに生じさせないようにできる。これにより、外周面層52の被覆外周面52cからバリを除去する後加工を不要にできる。
ここで、第1側面層53の外側面53bと第2側面層54の内周面54aとの間の間隔が被覆層18の幅寸法となる。被覆層18の幅寸法は、輪体12の幅寸法と同一に設定されている。
【0069】
ところで、非晶性熱可塑性樹脂や熱可塑性エラストマーを射出成形する際の金型温度は150℃以下(好ましくは100℃以下)と低く抑えられる。また、溶融された非晶性プラスチックや熱可塑性エラストマーがゲートG1から金型内に充填されると、非晶性プラスチックや熱可塑性エラストマーは瞬時に固まる。よって、溶融された非晶性プラスチックや熱可塑性エラストマーの熱が軸受10に封入されたグリースまで伝わらないようにできる。これにより、溶融された非晶性プラスチックや熱可塑性エラストマーの高温で、汎用的なグリース(増ちょう剤にリチュウム石鹸等の石鹸系を用いたもの)を用いた場合であってもグリースを劣化させるおそれはない。
【0070】
ここで、被覆層18(第一の材料層43、第二の材料層44)を外周面24に固定することにより、被覆層18を外周面24に接着剤で接着する必要がない。被覆層18と外周面24との間に接着剤を介在させないことにより次の効果が得られる。
すなわち、小型の軸受の場合、例えば、被覆層を外周面に接着剤で接着すると接着剤の塗布ムラにより、接着剤を外周面に均一の厚さ寸法に塗布できないおそれがある。一方、小型の軸受の場合、被覆層の厚さ寸法が1.0mmより小さくなることが考えらえる。この状態において、接着剤が外周面に均一の厚さ寸法に塗布されていない場合、被覆層の硬度が不均一になることが考えられる。
このため、被覆層が被覆された小型の軸受で搬送物を搬送する場合や、被覆層を接触物に沿って転がり動作させる場合に、音(ノイズ)が発生したり、トルクムラの原因となったりするおそれがある。
【0071】
これに対して、被覆層18(第一の材料層43、第二の材料層44)を外周面24に固定することにより、接着剤を不要にできる。これにより、軸受10が小型で被覆層18の厚さ寸法が1.0mmより小さくなった場合でも、被覆層18の硬度を全周において均一に保つことが可能になる。
これにより、軸受10を小型に形成した場合でも、搬送物を軸受10で搬送する場合や、接触物に沿って軸受10を転がり動作させる際に、音(ノイズ)の発生や、トルクムラの原因を抑えることができる。
【0072】
なお、第1実施形態では、被覆層18(第一の材料層43、第二の材料層44)を外周面24に固定のみで設ける例について説明するが、軸受10の用途に応じて、例えば被覆層18の外周面24への固定に接着剤を併用し被覆層18を外周面24に設けてもよい。
【0073】
また、被覆層18の形成方法は上述した方法(2色成形)に限定されず、例えば以下のようにして被覆層18を形成してもよい。まず、第一の材料層43を環状などの所望の形状に予め成形しておく。この第一の材料層43を外輪21の外周面24に嵌め込むなどして取り付ける。その後、第一の材料層43の第1外周面46、第1側面48、第2側面49を覆うように、第二の材料層44をインサート成形する。
また、以下のようにして被覆層18を形成してもよい。まず、第一の材料層43を環状などの所望の形状に予め成形しておく。この第一の材料層43の第1外周面46、第1側面48、第2側面49を覆うように、第二の材料層44をインサート成形する。第二の材料層44が形成された第一の材料層43を外輪21の外周面24に嵌め込むなどして取り付ける。
【0074】
(変形例)
次に、第一実施形態の軸受10の変形例について説明する。
図2は、第一実施形態に係る軸受の変形例を示す側面図である。
図2に示すように、第二の材料層44の被覆外周面に、歯車用の複数の歯57を形成することも可能である。これにより、軸受10を歯車55として用いることが可能になる。歯車55は、例えば、遊星歯車機構の内部の小さなプラネタリギア(遊星歯車)として用いることが可能である。
歯車55は、複数の歯57が熱可塑性エラストマーで形成されている。これにより、歯車55が噛み合う際に発生する駆動音を低減することが可能である。
また、複数の歯57を形成する第二の材料層44は、歯車55の耐摩耗性、機械的強度などを考慮してデュロ硬度Aが95を超えた熱可塑性エラストマーの使用も可能である。
【0075】
次に、第一実施形態の軸受10の用途の例を図3に基づいて説明する。図3は、第一実施形態に係る軸受10を備えた移動体1を示す側面図である。
図3に示すように、例えば、軸受10は移動体(駆動モジュール)1に取り付けられて車輪として用いられる。移動体1は、本体部2と、本体部2の両側に取り付けられた複数の軸受10とを備えている。複数の軸受10は、内輪22が支持軸41に取り付けられることにより固定されている。
支持軸41は本体部2に取り付けられている。内輪22が支持軸41に固定されることにより、外輪21および被覆層18が支持軸41に回転自在に支持されている。すなわち、複数の軸受10は車輪として用いられる。
【0076】
移動体1は、複数の軸受10の被覆層18(具体的には、第二の材料層44)が接触物5に接触された状態で配置されている。第二の材料層44は、熱可塑性エラストマーを含む材料で形成されている。軸受10の外輪21および被覆層18が接触物5を転がることにより、移動体1を接触物5に沿って移動させることができる。
外輪21に被覆層18が形成されているので、軸受10が接触物5を転がりながら移動する際に、被覆層18(特に、第二の材料層44)により音(ノイズ)を低減させることができる。また、外輪21の外周面24に被覆層18が強固に係合されているので、外輪21の外周面24から被覆層18が脱落することを防止できる。
このように、移動体1に複数の軸受10を備えることにより、耐久性を確保できるとともに低コストの移動体1を得ることができる。
【0077】
図3においては、軸受10の被覆層18を接触物5に接触させた状態で回転させ、移動体1を接触物5に沿って移動させる例について説明したが、これに限らない。その他の例として、移動体1を固定状態に保持し、被覆層18を接触物5に接触させて被覆層18の回転により接触物5を移動させてもよい。この場合、机の引き出しにおいて引き出しを接触物5とする場合がこれに相当する。この状態においても、被覆層18により音(ノイズ)を低減させることができる。
また、その他の例として、軸受10を走行方向が旋回する自在車に適用してもよい。軸受10を自在車に適用することにより、移動体1の走行方向に対応させて軸受10を旋回させることができる。
【0078】
さらに、他の用途の例として、軸受10は紙幣や切符などの搬送装置(駆動モジュール)に用いられる。すなわち、搬送装置は、一対の軸受10の内輪22が支持軸3に取り付けられて、外輪21および被覆層18が支持軸に回転自在に支持される。一対の被覆層18は隣接して配置されている。この状態において、外輪21および被覆層18が回転することにより、一対の被覆層18間に紙幣や切符などが挟み込まれて搬送される。
【0079】
外輪21に被覆層18が形成されているので、軸受10の被覆層18間に紙幣や切符などを挟み込みながら搬送する際に、被覆層18により音(ノイズ)を低減させることができる。また、外輪21の外周面24に被覆層18が強固に係合されているので、外輪21の外周面24から被覆層18が脱落することを防止できる。
このように、搬送装置に軸受10を備えることにより、耐久性を確保できるとともに低コストの搬送装置を得ることができる。
【0080】
次に、第二実施形態および第三実施形態の軸受と、第四実施形態の構造体を図4図6に基づいて説明する。なお、第二実施形態および第三実施形態の軸受において、第一実施形態の軸受10と同一、類似部材については同じ符号を付して詳しい説明を省略する。
【0081】
[第二実施形態]
図4は、第二実施形態に係る軸受130の断面図である。
図4に示すように、軸受130は、第一実施形態の被覆層18を被覆層132に代えたもので、その他の構成は第一実施形態の軸受10と同様である。
被覆層132は、第一実施形態の第一の材料層43を第一の材料層113に代え、第二の材料層44を第二の材料層134に代えたものである。
【0082】
第一の材料層113は、第1外周面116、第1内周面117、第1側面118および第2側面119を有する。第1外周面116は、第一の材料層43の第1外周面46と同様で、かつ、外輪21の外周面24と同一幅に形成されている。第1内周面117は、第一の材料層43の第1内周面47と同様で、かつ、外輪21の外周面24と同一幅に形成されている。第1内周面117は、外輪21の外周面24に接触する面積が大きく確保される。よって、第一の材料層113は、射出成形後に冷却して収縮することにより外輪21の外周面24に強固に固定される。
【0083】
第二の材料層134は、被覆層132の外周面層を形成する。第二の材料層134は、第1層側面136と、第2層側面137とを有する。
第1層側面136は、外輪21の外周面24の第1端縁24aと面一に形成されている。第2層側面137は、外輪21の外周面24の第2端縁24bと面一に形成されている。すなわち、第二の材料層134は、外輪21の外周面24や、第一の材料層113と同じ幅寸法W2に形成されている。
第二の材料層134は、第一の材料層113の第1外周面116に強固に熱融着により係合されている。
【0084】
第二実施形態に係る軸受130によれば、第一実施形態の軸受10と同様に、第一の材料層113が非晶性熱可塑性樹脂を含むので、第二の材料層134との熱融着性が高まり、第二の材料層134が第一の材料層113に充分に固定される。また、第一の材料層113に熱可塑性エラストマーを含有させることで、第一の材料層113の抜き力が低下しにくくなり、第一の材料層113が外輪21に充分に固定される。加えて、第二の材料層134を第一の材料層113に一層強固に固定でき、第二の材料層134が外輪21から脱落することを一層確実に防止できる。
【0085】
しかも、第一の材料層113は、射出成形後に冷却して収縮することにより外輪21の外周面24に強固に固定される。また、第二の材料層134が第一の材料層113に強固に係合されている。
これにより、第5実施形態の軸受130によれば、第二の材料層134を第一の材料層113を介して外輪21の外周面24に強固に係合させることができる。
【0086】
[第三実施形態]
図5は、第三実施形態に係る軸受140の断面図である。
図5に示すように、軸受140は、第一実施形態の輪体12を輪体152に代え、第一実施形態の被覆層18を被覆層142に代えたもので、その他の構成は第一実施形態の軸受10と同様である。
輪体152は、第一実施形態の外輪21を外輪154に代えたものである。
被覆層142は、第一実施形態の第一の材料層43を第一の材料層143に代え、第二の材料層44を第二の材料層144に代えたものである。
【0087】
外輪154は、第一実施形態の外輪21の溝部28を有していない以外は、第一実施形態の外輪21と同様である。
【0088】
第一の材料層143は、外輪154の外周面24に形成されている。第一の材料層143は、外輪154の外周面24に射出成形によりインサート成形される。第一の材料層143は、外周面層31と、一対の側面層31a,31bとを有する。外周面層31は、外輪154の外周面24を覆っている。一対の側面層31a,31bは、外周面層31の軸線O方向の両側に連結されている。一対の側面層31a,31bは、外輪154の端面21a,21bを全周にわたって覆っている。
【0089】
第一の材料層143の材質は、第一実施形態の第一の材料層43と同様である。
第一の材料層143は、外周面24に沿って非晶性熱可塑性樹脂および熱可塑性エラストマーを含む材料で環状に形成されている。よって、第一の材料層143が冷却されて硬化する際の収縮により、第一の材料層143が外周面24に強固に取り付けられる。
【0090】
ここで、第一の材料層143は、外輪154の外周面24を覆う外周面層31に加え、第一の材料層143の外周面層31における軸線O方向の両側に連結されて外輪154の端面21a,21bを覆う一対の側面層31a,31bを有する。これにより、第一の材料層143は、冷却して収縮することにより、外輪154の端面21a,21bを一対の側面層31a,31bで挟み込み挟持できる。よって、外輪154と第一の材料層143とが物理的に係合し、第一の材料層143は、外輪154に対して強固に固定される。
【0091】
第一の材料層143を外輪154の外周面24にインサート成形する際には、軸受10が成形型の内部に収められ、外輪154の端面21a,21bが成形型に接触して支えられる。このように、端面21a,21bが成形型で支えられることにより、第一の材料層143が外輪154の外周面24にインサート成形される。また、外輪154の単体に対して第一の材料層143をインサート成形しても構わない。
【0092】
第二の材料層144は、第一の材料層143の外周面34(外面)に形成されている。第二の材料層144は、被覆層142の外周面35を形成している外周面層である。
第二の材料層144の材質は、第一実施形態の第二の材料層44と同様である。
【0093】
このように第三実施形態の軸受140は、金属部材である外輪154の外周面24に形成された被覆層142を備える。被覆層142は、外輪154の外周面24に形成された、非晶性熱可塑性樹脂と熱可塑性エラストマーとを含む第一の材料層143と、第一の材料層143の外周面34に熱可塑性エラストマーが熱融着されることにより被覆層142の外周面35を形成する外周面層としての第二の材料層144とを備える。第二の材料層144は、第一の材料層143よりも軟らかい材料であり、第一の材料層143は、外輪154の外周面24を覆う外周面層31と、外周面層31の軸線O方向の両側に連結されて外輪154の端面21a,21bを覆う一対の側面層31a,31bと、を有する。
【0094】
第三実施形態の軸受140によれば、第一実施形態の軸受10と同様に、第一の材料層143が非晶性熱可塑性樹脂を含むので、第二の材料層144との熱融着性が高まり、第二の材料層144が第一の材料層143に充分に固定される。また、第一の材料層143に熱可塑性エラストマーを含有させることで、第一の材料層143の抜き力が低下しにくくなり、第一の材料層143が外輪154に充分に固定される。加えて、第二の材料層144を第一の材料層143に一層強固に固定でき、第二の材料層144が外輪154から脱落することを一層確実に防止できる。
【0095】
しかも、第三実施形態の軸受140では、熱可塑性エラストマーを熱融着して外周面35を形成することにより、外周面層としての第二の材料層144を熱融着により強固に固定できる。よって、従来必要とされていた、サンドブラスト加工工程や、接着剤による塗布工程を不要にできる。これにより、熱可塑性エラストマーによる被覆層142を備えた軸受140を、安価で大量に製造することができる。
また、第二の材料層144を第一の材料層143よりも軟らかい材料とすることにより、第一の材料層143に硬い材料を使用できる。
また、第一の材料層143が外輪154の外周面24に形成されることにより、第一の材料層143が環状に形成される。よって、第一の材料層143が冷却されて硬化する際の収縮により、第一の材料層143が外輪154の外周面24に強固に取り付けられる。
また、第二の材料層144を第一の材料層143よりも軟らかい材料とすることにより、軸受140の外輪で紙幣や切符などの搬送物を搬送する場合や、軸受140を移動体の車輪として接触物に沿って転がせる場合に、第二の材料層144で音(ノイズ)を低減できる。
【0096】
さらに、第一の材料層143は、外輪154の外周面24を覆う外周面層31と、外周面層31の軸線O方向の両側に連結されて外輪154の端面21a,21bを覆う一対の側面層31a,31bと、を有する。第一の材料層143の一対の側面層31a,31bは、外輪154の端面21a,21bを全周にわたって覆っているので、第一の材料層143が冷却して収縮することにより、外輪154の端面21a,21bを全周にわたって一対の側面層31a,31bで挟み込み挟持できる。よって、第三実施形態の軸受140は、第一の材料層143を外輪154に一層強固に固定させることができ、第一の材料層143が外輪154から脱落することを防止できる。
【0097】
[第四実施形態]
図6は、第四実施形態に係る構造体160の断面図である。
図6に示すように、構造体160は、平坦部材162の外面163に被覆層164が形成されている。平坦部材162は、例えばステンレスなどの金属材料からなる金属部材である。
被覆層164は、平坦部材162の外面163に形成された第一の材料層165と、第一の材料層165の外面165aに形成された第二の材料層166とを備えている。
【0098】
平坦部材162は、例えば外面163に突起部171を有する。突起部171は、外面163に対して交差する方向に突出された脚部172と、脚部172の先端172aに形成された延長部173とを有する。突起部171は、脚部172と延長部173とでT字状に形成されている。すなわち、平坦部材162の外面163は、凹凸を有する平坦な外面である。
突起部171は、平坦部材162の外面163に形成された第一の材料層165で覆われる。第一の材料層165は、第1実施形態の第一の材料層43(図1参照)と同じ材料であり、具体的には非晶性熱可塑性樹脂および熱可塑性エラストマーを含む材料で形成されている。第一の材料層165は、突起部171に係止されることにより、平坦部材162の外面163に強固に係止されている。
【0099】
第一の材料層165の外面165aに第二の材料層166が形成されている。第二の材料層166は、被覆層164の外周面層を形成する。第二の材料層166は、第1実施形態の第二の材料層44(図1参照)と同じ材料であり、具体的には熱可塑性エラストマーを含む材料で形成されている。
第二の材料層166は、外周面層175、第1側面層176および第2側面層177を有する。第二の材料層166の第1側面層176および第2側面層177で第一の材料層165の両側面(第1側面165b、第2側面165c)が挟み込まれている。よって、第二の材料層166が冷却して収縮することにより、第一の材料層165の第1側面165bおよび第2側面165cを第二の材料層166(第1側面層176、第2側面層177)で挟持できる。これにより、第二の材料層166を第一の材料層165に強固に係合させることができる。
【0100】
第四実施形態の構造体160によれば、第一実施形態の軸受10と同様に、第一の材料層165が非晶性熱可塑性樹脂を含むので、第二の材料層166との熱融着性が高まり、第二の材料層166が第一の材料層165に充分に固定される。また、第一の材料層165に熱可塑性エラストマーを含有させることで、第一の材料層165の抜き力が低下しにくくなり、第一の材料層165が平坦部材162に充分に固定される。加えて、第二の材料層166を第一の材料層165に一層強固に固定でき、第二の材料層166が平坦部材162から脱落することを一層確実に防止できる。
【0101】
しかも、第四実施形態の構造体160によれば、第一実施形態の軸受10と同様に、第一の材料層165および第二の材料層166を平坦部材162の外面163に強固に係合させることができる。これにより、被覆層164が平坦部材162の外面163から脱落することを防止できる。
また、第四実施形態の構造体160によれば、第一実施形態の軸受10と同様に、平坦部材162の外面163に被覆層164が形成された構造体160を大量に、かつ安価に製造することができる。
【実施例
【0102】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
実施例および比較例における各種測定・評価方法と、使用した材料は以下の通りである。
【0103】
[測定・評価方法]
<MFR値の測定>
JIS K 7210に準拠し、測定温度280℃、測定荷重2.16kgの条件にてMFR値を測定した。
【0104】
<ガラス転移温度、融点および融解熱の測定>
示差走査熱量計(DSC)を用いて、昇温速度10℃/minで、測定試料を予想される融点以上の温度まで加熱した。次いで、降温速度10℃/minで、測定試料を0℃まで冷却し、そのまま1分間放置した。その後、再び昇温速度10℃/minで加熱昇温したときの融解ピークを測定し、これを融点とした。また、融解ピークと同時に融解熱およびガラス転移温度を測定した。
【0105】
<引張り強さおよび破断伸びの測定>
ISO 527-4に準拠して、引張り強さおよび破断伸びを測定した。
【0106】
<成形収縮率の測定>
JIS K 7161-2に記載の引張り特性の試験に使用するダンベル形状の試験片を、金型を用いて作製した。マイクロメータを用いて試験片の流れ方向の寸法(全長)を測定した。同様に金型の寸法(全長)を測定し、下記式より流れ方向の成形収縮率を求めた。
成形収縮率={(金型寸法-試験片の寸法)/金型寸法}×100
【0107】
<抜き力の測定>
図7に示す万能試験機200を用意した。万能試験機200は、中空状の抜き打ち治具210と台座220とを備える。
図7(a)に示すように、軸受130を抜き打ち治具210と台座220との間にセットし、軸受130の軸線方向に抜き打ち治具210を押し込み、第一の材料層113と第二の材料層134との融着面が剥離する際の最大荷重を求め、これを第二の材料層134の抜き力とした。
次いで、図7(b)に示すように、第二の材料層が剥離された軸受131を抜き打ち治具210と台座220との間にセットし、軸受131の軸線方向に抜き打ち治具210を押し込み、外輪と第一の材料層113との融着面が剥離する際の最大荷重を求め、これを第一の材料層113の抜き力とした。
3つの軸受130について測定を行い、第一の材料層113および第二の材料層134の抜き力の平均値と標準偏差を求めた。
なお、図7においては、軸受130の構成部材のうち第一の材料層113および第二の材料層134のみを図示し、第一の材料層113および第二の材料層134以外の構成部材は省略する。
【0108】
<外観評価>
第一の材料層の外観を目視にて観察し、割れの有無を確認した。
【0109】
<曲げ強さおよび曲げ弾性率の測定>
JIS K 7171に準拠して、曲げ強さおよび曲げ弾性率を測定した。
【0110】
<アイゾットノッチの測定>
ASTM D256に準拠し、試験片(1/8インチ、ノッチ付き)のアイゾット衝撃強度を測定した。
【0111】
<デュロ硬度Aの測定>
JIS K 6253に準拠したタイプAデュロメータを用いて、デュロ硬度Aを測定した。
【0112】
<摩耗量の測定>
移動テーブルに試験片を設置し、接触相手材としてガラスプレートを用い、荷重0.7kg、速度0.16m/sで20分間往復摺動試験を行ったときの、試験片の摩耗量を測定した。
【0113】
[材料]
<非晶性熱可塑性樹脂>
非晶性熱可塑性樹脂として、芳香族ポリカーボネート樹脂(MFR値:44g/10min、ガラス転移温度:147℃)またはABS樹脂(MFR値:127g/10min、ガラス転移温度:102℃)を用いた。
【0114】
<熱可塑性エラストマー>
熱可塑性エラストマーとして、ポリエステル系熱可塑性エラストマー(MFR値:44g/10min、融点:142℃、デュロ硬度A:58)を用いた。
【0115】
<無機繊維>
無機繊維として、チタン酸カリウム繊維(6チタン酸カリウム、平均繊維長:15μm、平均繊維径:0.5μm)を用いた。
【0116】
<その他の添加剤>
その他の添加剤として、シリコーン樹脂を用いた。
【0117】
[実施例1~5、比較例1~3]
表1に示す配合組成に基づき、被覆層の第一の材料層および第二の材料層を2色成形により形成し、図4に示す軸受130を製造した。具体的には、表1に示す成形温度にて、外輪21の外周面24に第一の材料層113を射出成形によりインサート成形した後、第二の材料層134を射出成形によりインサート成形して、軸受130を得た。
第一の材料層113と同じ組成で試験片を作製し、引張り強さ、破断伸び、曲げ弾性率および成形収縮率を測定した。同様に、第二の材料層134と同じ組成で試験片を作製し、引張り強さ、破断伸び、デュロ硬度Aおよび曲げ弾性率を測定した。各試験片を作製する際の成形温度は、表1に示す成形温度とした。これらの結果を表1に示す。
また、第一の材料層113および第二の材料層134の抜き力を測定した。さらに、第一の材料層113の外観評価を行った。これらの結果を表1に示す。
なお、第一の材料層における非晶性熱可塑性樹脂と熱可塑性エラストマーの質量比(非晶性熱可塑性樹脂:熱可塑性エラストマー)は、実施例1では97.1:2.9であり、実施例2では93.9:6.1であり、実施例3では87.9:12.1であり、実施例4では82.9:17.1であり、実施例5では97.1:2.9であり、比較例1~3では100:0であった。
表1中の「PC」は芳香族ポリカーボネート樹脂の略号であり、「ABS」はABS樹脂の略号である。
【0118】
[参考例6]
表1に示す第一の材料層の配合組成に基づき、試験片を作製して成形収縮率を測定した。試験片を作製する際の成形温度は、240℃とした。結果を表1に示す。
なお、第一の材料層における非晶性熱可塑性樹脂と熱可塑性エラストマーの質量比(非晶性熱可塑性樹脂:熱可塑性エラストマー)は、78.6:21.4であった。
【0119】
【表1】
【0120】
表1から明らかなように、実施例1~5で得られた軸受は、第一の材料層および第二の材料層の抜き力が大きく、被覆層が外輪に充分に固定されていた。また、実施例1~5の場合、第一の材料層の抜き力の標準偏差が小さく、抜き力のバラつきが小さいことから、信頼性が高いことも示された。これは以下のように考察される。
すなわち、第一の材料層の抜き力を測定している際には、必ずウエルド部が径方向に向かって完全に割れて(割れによってできた空間が)周方向に広がることで、溝部から第一の材料層が外れて抜ける。この動作中に第一の材料層に掛かった最大の力が抜き力として測定されるが、特に比較例1、2の第一の材料層には初めからウエルド部に割れが生じており、この割れの大きさ(深さ)も各サンプルでバラつきがある。
従って、比較例1、2の場合小さな抜き力しか得られず、また抜き力の値には大きなバラつきが生じているものと考えられる。これに対し、実施例1~5の場合にはウエルド部に割れを生じていないため大きな抜き力が得られると共に、そのバラつきも小さい。
【0121】
また、実施例1~5で得られた軸受は、比較例1、2よりも成形温度が高いにもかかわらず、第一の材料層のウエルド部に割れが認められなかった。ただし、実施例1、2の場合は、僅かなウエルドラインが現れていた。
さらに、実施例1~5の場合、第一の材料層の成形収縮率は0.44%以下であった。なお、芳香族ポリカーボネート樹脂を55質量%と、ポリエステル系熱可塑性エラストマーを15質量%と、チタン酸カリウム繊維を30質量%用いた場合(参考例6)の成形収縮率は0.48%であった。これらの結果より、熱可塑性エラストマーの含有量が少なくなるほど成形時の収縮率が大きくなりにくく、精密な成形が容易となることが示された。
【0122】
一方、比較例1、2で得られた軸受は、第一の材料層および第二の材料層の抜き力が小さく、特に第一の材料層の抜き力はバラつきが大きかった。また、第一の材料層のウエルド部に割れが認められた。
比較例3で得られた軸受は、実施例1~5に比べて第一の材料層の抜き力が小さかった。
【0123】
[実験例1~4]
以下、実験例について説明する。
実験例1~4では、熱可塑性エラストマーに無機繊維を配合することで第一の材料層や第二の材料層の摩耗量の軽減抑制効果が得られることを確認するために、ポリエステル系熱可塑性エラストマーへのチタン酸カリウム繊維の配合量を変化させた場合の、ポリエステル系熱可塑性エラストマーの物性(引張り強さ、曲げ強さ、曲げ弾性率、アイゾットノッチおよびデュロ硬度A)と摩耗量を測定した。結果を表2、図8に示す。
表2、図8において、チタン酸カリウム繊維を含有しないポリエステル系熱可塑性エラストマーを「エラストマー(単体)」として示す。また、チタン酸カリウム繊維を10質量%含有したポリエステル系熱可塑性エラストマーを「エラストマー(10wt%)」として示す。チタン酸カリウム繊維を20質量%含有したポリエステル系熱可塑性エラストマーを「エラストマー(20wt%)」として示す。チタン酸カリウム繊維を30質量%含有したポリエステル系熱可塑性エラストマーを「エラストマー(30wt%)」として示す。
【0124】
【表2】
【0125】
表2、図8から明らかなように、ポリエステル系熱可塑性エラストマーにチタン酸カリウム繊維を10質量%、20質量%、30質量%含有させることにより、引張り強さを12Mpaから13MPa,18MPa,23MPaと高くできた。また、曲げ強さを4MPaから7MPa,9MPa,16MPaと高くできた。さらに、曲げ弾性率を0.05GPaから0.13GPa,0.21GPa,0.44GPaと高くできた。
また、ポリエステル系熱可塑性エラストマーにチタン酸カリウム繊維を10質量%、20質量%、30質量%含有させた状態において、ポリエステル系熱可塑性エラストマーのデュロ硬度Aを94から96,97,98と略同様に確保できた。
さらに、ポリエステル系熱可塑性エラストマーにチタン酸カリウム繊維を10質量%、20質量%、30質量%含有させた状態において、ポリエステル系熱可塑性エラストマーの摩耗量を12.5×10-3cmから10.1×10-3cm,7.0×10-3cm,3.8×10-3cmと減少させることができた。
【符号の説明】
【0126】
10,130,140 軸受(構造体)
18,132,142,164 被覆層
21,154 外輪(金属部材)
43,113,143,165 第一の材料層
44,134,144,166 第二の材料層
160 構造体
162 平坦部材(金属部材)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8