IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 住友電工ウインテック株式会社の特許一覧 ▶ 住友電気工業株式会社の特許一覧

特許7265432絶縁電線の製造装置及び絶縁電線の製造方法
<>
  • 特許-絶縁電線の製造装置及び絶縁電線の製造方法 図1
  • 特許-絶縁電線の製造装置及び絶縁電線の製造方法 図2
  • 特許-絶縁電線の製造装置及び絶縁電線の製造方法 図3
  • 特許-絶縁電線の製造装置及び絶縁電線の製造方法 図4
  • 特許-絶縁電線の製造装置及び絶縁電線の製造方法 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-18
(45)【発行日】2023-04-26
(54)【発明の名称】絶縁電線の製造装置及び絶縁電線の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01B 13/16 20060101AFI20230419BHJP
   B05C 3/15 20060101ALI20230419BHJP
   B05C 9/14 20060101ALI20230419BHJP
【FI】
H01B13/16 B
H01B13/16 Z
B05C3/15
B05C9/14
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019127612
(22)【出願日】2019-07-09
(65)【公開番号】P2021012855
(43)【公開日】2021-02-04
【審査請求日】2021-12-21
(73)【特許権者】
【識別番号】309019534
【氏名又は名称】住友電工ウインテック株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 義典
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 一規
(74)【代理人】
【識別番号】100106264
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 耕治
(72)【発明者】
【氏名】中澤 善洋
(72)【発明者】
【氏名】岩本 昂大
【審査官】神田 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-252868(JP,A)
【文献】特開2012-252870(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 13/16
B05C 3/15
B05C 9/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
線状の導体をその軸方向に走行させつつワニスの塗布及び乾燥を行う塗布乾燥部と、
上記塗布乾燥部の上記導体の走行方向下流側に設置され、上記ワニスを硬化させる硬化部と
を備え、
上記塗布乾燥部が、上記導体に上記ワニスを塗布する塗布装置と、ワニス塗布後の上記導体を加熱する加熱炉とを有し、
上記硬化部が、上記導体を加熱する誘導加熱器を有し、
上記加熱炉が、熱風循環式加熱炉であり、
上記導体が上記塗布乾燥部及び上記硬化部をこの順に繰り返し通過するように構成されている絶縁電線の製造装置。
【請求項2】
上記誘導加熱器が、上記導体の加熱温度を独立して制御可能な複数の加熱領域を上記導体の走行方向に沿って有する請求項1に記載の絶縁電線の製造装置。
【請求項3】
上記導体が上記塗布乾燥部で上記塗布装置及び上記加熱炉をこの順に繰り返し通過するように構成されている請求項1又は請求項2に記載の絶縁電線の製造装置。
【請求項4】
線状の導体をその軸方向に走行させつつワニスを塗布する工程と、
上記導体に塗布されたワニスを加熱炉により乾燥する工程と、
上記乾燥する工程後の上記ワニスを誘導加熱器により硬化する工程と
を備え、
上記加熱炉が、熱風循環式加熱炉であり、
上記塗布する工程、上記乾燥する工程及び上記硬化する工程をこの順に繰り返し行う絶縁電線の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁電線の製造装置及び絶縁電線の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
線状の導体を絶縁塗料(ワニス)で被覆した絶縁電線が知られている。この絶縁電線は、線状の導体をその軸方向に走行させつつ、導体の外周面へのワニスの塗布及び焼付を絶縁被膜が所定の厚さに達するまで繰り返し行うことで製造される。
【0003】
このような絶縁電線の製造装置としては、走行している導体の表面にワニスを塗布する塗布部と、ワニスが塗布された導体への加熱により、導体表面に絶縁層を形成する加熱部とを備える製造装置が知られている(特開2015-43305号公報参照)。
【0004】
上記絶縁電線の製造装置では、塗布されたワニスが導体への加熱により乾燥及び硬化することで、導体表面に絶縁層が形成される。このとき、導体を急に加熱すると塗布されたワニスが発泡し易くなり、形成される絶縁層の絶縁性が低下するおそれがある。このため、対流及び輻射により比較的緩やかに加熱される熱風循環式加熱炉を用いることが一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2015-43305号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
熱風循環式加熱炉を用いた絶縁電線の製造装置で、絶縁電線の製造能力を向上するには、導体の走行速度を上げる必要がある。単に走行速度のみを上げると導体が熱風循環式加熱炉を通過する時間が短くなるため、ワニスが十分に乾燥及び硬化する時間が不足する。この時間不足を補うためには、熱風循環式加熱炉の炉長を伸ばす方法及び炉温を上げる方法が挙げられる。
【0007】
前者では、走行速度上昇に応じて熱風循環式加熱炉の炉長を伸ばす必要が生じる。絶縁電線の製造装置では、製造設備のうち熱風循環式加熱炉が占める割合が高いため、絶縁電線の製造装置が大型化し、設備のためのスペース確保が困難となる。
【0008】
後者の炉温を上げる方法では、設備の耐熱性の観点から上げられる炉温には限度があり、また炉温の上昇分以上にランニングコストが大きくなるため、製造コストが増大するおそれがある。
【0009】
本発明は、上述のような事情に基づいてなされたものであり、製造時にワニスの発泡が生じ難く、かつ製造設備の大型化及び製造コストの増大を抑止しつつ、製造能力を向上した絶縁電線の製造装置及び絶縁電線の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様に係る絶縁電線の製造装置は、線状の導体をその軸方向に走行させつつワニスの塗布及び乾燥を行う塗布乾燥部と、上記塗布乾燥部の上記導体の走行方向下流側に設置され、上記ワニスを硬化させる硬化部とを備え、上記塗布乾燥部が、上記導体に上記ワニスを塗布する塗布装置と、ワニス塗布後の上記導体を加熱する加熱炉とを有し、上記硬化部が、上記導体を加熱する誘導加熱器を有する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の絶縁電線の製造装置及び絶縁電線の製造方法は、製造時にワニスの発泡が生じ難く、かつ製造設備の大型化及び製造コストの増大を抑止しつつ製造能力を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る絶縁電線の製造装置の模式的構成図である。
図2図2は、図1の絶縁電線の製造装置の塗布乾燥部及び硬化部の構成を示す模式図である。
図3図3は、図2の塗布装置の詳細構成を示す模式図である。
図4図4は、図2の硬化部の詳細構成を示す模式図である。
図5図5は、本発明の一実施形態に係る絶縁電線の製造方法を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[本発明の実施形態の説明]
本発明の一態様に係る絶縁電線の製造装置は、線状の導体をその軸方向に走行させつつワニスの塗布及び乾燥を行う塗布乾燥部と、上記塗布乾燥部の上記導体の走行方向下流側に設置され、上記ワニスを硬化させる硬化部とを備え、上記塗布乾燥部が、上記導体に上記ワニスを塗布する塗布装置と、ワニス塗布後の上記導体を加熱する加熱炉とを有し、上記硬化部が、上記導体を加熱する誘導加熱器を有する。
【0014】
当該絶縁電線の製造装置は、塗布乾燥部で、導体へのワニスの塗布後に炉長の長い加熱炉により緩やかに乾燥させるのでワニスの発泡が生じ難い。また、加熱炉は単位長当たりの設備コストが小さいので、長い炉長としても製造にかかるコストの増大を抑止できる。一方、当該絶縁電線の製造装置は、硬化部で、乾燥させたワニスを誘導加熱器により硬化させる。誘導加熱器は投入した電力に実質的に比例して導体の温度を容易に高めることができるので、加熱炉に比べて短い炉長でワニスを硬化させることができる。このため、導体の走行速度を上げて製造能力を向上させても、製造設備の大型化や製造コストの増大を抑止できる。さらに、乾燥させたワニスでは急加熱を行ってもワニスの発泡は生じ難い。従って、当該絶縁電線の製造装置は、ワニスの発泡が生じ難く、かつ製造設備の大型化及び製造コストの増大を抑止しつつ、製造能力を向上できる。
【0015】
上記誘導加熱器が、上記導体の加熱温度を独立して制御可能な複数の加熱領域を上記導体の走行方向に沿って有するとよい。このように上記誘導加熱器を上記導体の加熱温度を独立して制御可能な複数の加熱領域を上記導体の走行方向に沿って有するものとすることで、導体の温度管理を容易に行うことができるので、導体を速やかに所望の温度まで加熱した後、その温度を保つことができる。このような温度管理により製造能力をさらに向上することができる。
【0016】
上記導体が上記塗布乾燥部及び上記硬化部をこの順に繰り返し通過するように構成されているとよい。導体に必要な絶縁層の厚さに相当する量のワニスを一度に塗布すると、ワニスの乾燥に時間を要するうえに発泡し易くなる。このように塗布乾燥及び硬化を繰り返しながら導体に絶縁層を形成していくことで、ワニスの発泡を抑止しつつ効率的に絶縁層を形成することができる。
【0017】
上記導体が上記塗布乾燥部で上記塗布装置及び上記加熱炉をこの順に繰り返し通過するように構成されているとよい。このように塗布乾燥部で、導体への塗布及び乾燥を一定回数繰り返した後に硬化部で硬化を行うことで、硬化のために必要な設備を低減できる。従って、設備費用及び設置スペースを低減できるうえにランニングコストを低減することができる。
【0018】
本発明の別の一態様に係る絶縁電線の製造方法は、線状の導体をその軸方向に走行させつつワニスを塗布する工程と、上記導体に塗布されたワニスを加熱炉により乾燥する工程と、上記乾燥する工程後の上記ワニスを誘導加熱器により硬化する工程とを備える。
【0019】
当該絶縁電線の製造方法では、導体へのワニスの塗布後に炉長の長い加熱炉により緩やかに乾燥させるのでワニスの発泡が生じ難い。また、加熱炉は単位長当たりの設備コストが小さいので、長い炉長としても製造にかかるコストの増大を抑止できる。一方、当該絶縁電線の製造方法では乾燥させたワニスを誘導加熱器により硬化させる。誘導加熱器は投入した電力に実質的に比例して導体の温度を容易に高めることができるので、加熱炉に比べて短い炉長でワニスを硬化させることができる。このため、導体の走行速度を上げて製造能力を向上させても、製造設備の大型化や製造コストの増大を抑止できる。さらに、乾燥させたワニスでは急加熱を行ってもワニスの発泡は生じ難い。従って、当該絶縁電線の製造方法を用いることで、ワニスの発泡が生じ難く、かつ製造設備の大型化及び製造コストの増大を抑止しつつ、製造能力を向上できる。
【0020】
なお、本明細書において「加熱炉」とは、電熱や燃焼により発生させた熱を被加熱物体に伝えることで加熱を行う炉を指す。
【0021】
[本発明の実施形態の詳細]
以下、本発明に係る絶縁電線の製造装置及び絶縁電線の製造方法の実施形態について図面を参照しつつ詳説する。
【0022】
〔絶縁電線の製造装置〕
図1に示す絶縁電線の製造装置は、平行に配設され、1又は複数周回架け渡される線上の導体Wを走行させる一対のドラム1(第一ドラム1a及び第二ドラム1b)と、導体Wをその軸方向に走行させつつワニスの塗布及び乾燥を行う塗布乾燥部2と、塗布乾燥部2の導体Wの走行方向下流側に設置され、上記ワニスを硬化させる硬化部3と、巻かれた導体Wを第一ドラム1aに送り出す送出部4と、絶縁層を形成された導体W、つまり絶縁電線を巻き取る巻取部5とを備える。
【0023】
<導体>
導体Wとしては、特に材質及び構成が限定されるわけではないが、例えば銅線、錫めっき銅線、アルミ線、アルミ合金線、鋼心アルミ線、カッパーフライ線、ニッケルめっき銅線、銀めっき銅線、銅覆アルミ線等を用いることができる。また、導体Wの断面形状としては、特に制限されず、円形状(丸線)、楕円形状、及び四角形状(平角線)等の多角形状等とすることができる。
【0024】
<送出部>
送出部4は、リールに巻かれた導体Wを第一ドラム1aに送り出す。送出部4のリールは、駆動式としてもよく、非駆動式としてもよい。送出部4のリールを駆動式とする場合は、第一ドラム1aとの間の導体Wに過度な弛みや張力が発生しないように、送出部4の駆動を制御することが好ましい。送出部4の駆動には、サーボモーター及びステッピングモーター等の公知のモーターを用いることができる。
【0025】
<ドラム>
第一ドラム1aと第二ドラム1bとは、塗布乾燥部2と硬化部3とを挟んで上下方向に対向して配置されており、下側に第一ドラム1aが配置され、上側に第二ドラム1bが配置されている。この第一ドラム1aと第二ドラム1bとは、導体Wを周回させる。この第一ドラム1a及び第二ドラム1bは、図1の紙面に垂直な方向に延伸しており、導体Wを掛ける位置をドラム1の軸方向で紙面奥側に1周毎に一定間隔ずらすことで導体Wを周回させることができるようになっている。一定回数ドラム1間を周回させて表面に絶縁層が形成された導体W、即ち、絶縁電線は、最終的には導体Wの走行方向下流側に設けられた巻取部5に巻き取られる。ドラム1の材質としては、金属や樹脂等を用いることができる。第一ドラム1aは、駆動ドラムであり、図示しない駆動部によって回転駆動する。第二ドラム1bは、回転自在に支持されており、導体Wの走行に伴って回転する。
【0026】
<塗布乾燥部>
塗布乾燥部2は、図2に示すように、導体Wにワニスを塗布する塗布装置21と、ワニス塗布後の導体Wを加熱する加熱炉22とを有する。
【0027】
上述のように導体Wは、一定回数ドラム1間を周回し、周回の都度、塗布装置21及び加熱炉22をこの順で通過する。また、図2に示す塗布乾燥部2では、導体Wは、塗布乾燥部2内の塗布装置21及び加熱炉22を3回連続で通過した後に硬化部3を通過するように当該絶縁電線の製造装置が構成されている。つまり、当該絶縁電線の製造装置では、導体Wが塗布乾燥部2で塗布装置21及び加熱炉22をこの順に3回繰り返し通過するように構成されている。このように塗布乾燥部2で、導体Wへの塗布及び乾燥を一定回数繰り返した後に、硬化部3で硬化を行うことで硬化に要する時間を短縮できる。これにより絶縁層の絶縁性を抑止しつつ、絶縁電線の製造能力を向上できる。
【0028】
図2では、導体Wが周回毎に異なる塗布装置21を通過するように塗布乾燥部2が構成されているが、例えば同一種類で同一濃度のワニスを塗布する場合であれば、導体Wが周回毎に1つの塗布装置21を通過する構成とすることもできる。また、導体Wの周回数よりも少ない複数の塗布装置21を備え、1つの塗布装置21に対し1回又は複数回、導体Wが通過する構成としてもよい。
【0029】
逆に図2では、導体Wが周回毎に同一の加熱炉22を通過するように塗布乾燥部2が構成されているが、例えば周回毎に温度管理を行う場合であれば、導体Wが周回毎に異なる加熱炉22を通過する構成とすることもできる。また、導体Wの周回数よりも少ない複数の加熱炉22を備え、1つの加熱炉22に対し、導体Wが1回又は複数回通過する構成としてもよい。
【0030】
(塗布装置)
塗布装置21は、図3に示すように、ワニスを貯留するワニス槽21aと、ワニス槽21aの導体Wの走行方向下流側に設けられ、ワニス槽21aを通過した導体Wが挿通される塗布ダイス21bとを備える。塗布装置21は、第一ドラム1a及び第二ドラム1bを周回する導体Wの外周面にワニスを塗布する。
【0031】
ワニス槽21aの底部には、導体Wを貫通させる貫通孔が設けられており、貫通孔を貫通した導体Wの外周面にはワニス槽21aのワニスが塗布される。なお、1つの塗布装置21に対し導体Wの通過回数が複数である場合は、この貫通孔は、導体Wが周回し易いように所望の間隔を空けて通過回数だけ配列される。
【0032】
導体Wの外周面に塗布されたワニスは、導体Wが塗布ダイス21bに挿通されることでダイス孔の径に応じてほぼ均一な厚さに整えられる。この塗布ダイス21bは、1つの塗布装置21に対し導体Wの通過回数に関わらず、導体Wの周回ごとに設けられる。つまり、導体Wの通過回数と同数の塗布ダイス21bが設けられる。塗布ダイス21bのダイス孔の径は、導体Wの走行方向下流側に位置する塗布ダイス21bほど大きくされる。このように塗布ダイス21bの径を徐々に大きくすることで、導体Wの外周面に形成される被覆を徐々に厚くし、一定の厚さの絶縁層を形成することができる。
【0033】
従って、塗布ダイス21bの個数は、1回当たりに形成される絶縁層の厚さと、必要な絶縁層の総厚とから決定される。そして、導体Wの周回回数は、この塗布ダイス21bの個数と同数とできる。
【0034】
上記ワニスとしては、絶縁層を構成する樹脂を溶剤で溶解したものが用いられる。この構成樹脂としては、絶縁性が高く、耐熱性が高い樹脂であれば特に限定されない。具体的には、例えばポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエステルイミド等を挙げることができる。また、溶剤としては、例えばピロリドンやクレゾール等を用いることができる。
【0035】
(加熱炉)
加熱炉22は、ワニス塗布後の導体Wを加熱することで、上記溶剤を蒸発させ、ワニスを乾燥させる。
【0036】
加熱炉22としては、特に限定されないが、電熱や燃焼により発生させた熱をエネルギー源として、対流及び輻射により導体Wを加熱するものを用いることができる。上記電熱としてはヒータを用いることができる。また、上記燃焼には、燃料とともにワニスから蒸発する溶剤を取り込んで燃やすものが含まれる。加熱炉22は、対流及び輻射により比較的緩やかに導体Wを加熱するので、加熱時にワニスの発泡が生じ難い。
【0037】
加熱炉22としては、導体Wを循環する熱風により加熱する熱風循環式加熱炉が好ましい。導体Wを熱風により加熱することにより、容易に導体Wの外周面の温度分布の均一化を図ることができるので、製造される絶縁電線の均質化を図ることができる。
【0038】
加熱炉22内を通過する導体Wへの加熱温度(加熱炉22内の雰囲気温度)としては、ワニスから溶剤を蒸発可能な温度とされる。具体的には、加熱炉22内の雰囲気温度の下限としては、150℃が好ましく、200℃がより好ましい。一方、上記雰囲気温度の上限としては、600℃が好ましく、500℃がより好ましい。上記雰囲気温度が上記下限未満であると、十分に溶剤が蒸発しないおそれや、加熱炉22の炉長が不必要に大きくなるおそれがある。逆に、上記雰囲気温度が上記上限を超えると、加熱炉22の耐熱性の不足や、導体Wに熱的損傷を与えるおそれがある。
【0039】
加熱炉22の炉長は、ワニスから溶剤が十分に蒸発する長さとされ、導体Wの走行速度や加熱炉22内の雰囲気温度に依存して適宜決定される。
【0040】
上述のように加熱炉22では、緩やかに導体Wを加熱するので、加熱時にワニスの発泡が生じ難い。緩やかに導体Wを加熱するため、加熱に必要とされる炉長は必然的に長くなる。加熱炉22は単位長当たりの設備コストが例えば後述する誘導加熱器31に比べ小さいので、このように長い炉長としても設備コストの増加を抑止できる。従って、当該絶縁電線の製造装置は、加熱炉22を備えることで製造にかかるコストの増大を抑止できる。
【0041】
<硬化部>
硬化部3は、図2に示すように、導体Wを加熱する誘導加熱器31を有する。硬化部3は、塗布乾燥部2で溶剤が蒸発した後のワニスに含まれる樹脂を硬化させ、導体Wの外周に絶縁被覆を形成する。
【0042】
図2に示す硬化部3では、導体Wは、塗布乾燥部2内の塗布装置21及び加熱炉22を3回連続で通過した後に硬化部3を通過するように当該絶縁電線の製造装置は構成されている。そして、当該絶縁電線の製造装置は、硬化部3を通過した導体Wが、再び塗布乾燥部2内を通過し、硬化部3を通過するように構成されている。つまり、当該絶縁電線の製造装置は、導体Wが塗布乾燥部2及び硬化部3をこの順に繰り返し通過するように構成されている。このように塗布乾燥及び硬化を繰り返しながら導体Wに絶縁層を形成していくことで、硬化のために必要な設備を低減できる。従って、設備費用及び設置スペースを低減できるうえにランニングコストを低減することができる。
【0043】
誘導加熱器31は、磁界の変化(交流磁界)により導体Wに発生する電磁誘導電流を用いて直接導体Wを加熱する。誘導加熱器31の周波数(交流磁界を発生させるための電流の周波数)としては、加熱効率や設備費用の観点から適宜決定されるが、例えば10kHz以上10MHz以下とできる。
【0044】
誘導加熱では、磁界を生じさせるためコイルに流す電流の大きさに比例して磁界が強まり、磁界の強度に比例して導体Wに誘導される電流も大きくなる。導体Wの発熱量は、この誘導電流の2乗に比例するから、誘導加熱器31では、磁界を生じさせるためのコイルに流す電流の2乗に比例して導体Wを加熱することができる。このため、必要な走行速度に比例した発熱を生ずるように電流を増やすことで、導体Wが誘導加熱器31内部を通過する距離(誘導加熱器31の加熱距離)を伸ばすことなく、導体Wに必要な加熱が可能となる。従って、上記加熱距離は、加熱炉の長さに対し、例えば1/10以上1/2以下とできる。また、直接加熱であるため、設備の耐熱性に起因して加熱温度が制約されることが生じ難い。
【0045】
誘導加熱器31は、図4に示すように、導体Wの加熱温度を独立して制御可能な3つの加熱領域(第1加熱領域31a、第2加熱領域31b及び第3加熱領域31c)を導体Wの走行方向に沿って有する。誘導加熱器31内に挿通された導体Wは、速やかに所望の温度(ワニスに含まれる樹脂の硬化に適した温度)に加熱され、その温度を一定に保ったまま誘導加熱器31内を通過することが好ましい。具体的には、例えば第1加熱領域31aで導体Wに大きな誘導電流を生じさせて急速加熱を行い、第2加熱領域31bで導体Wの温度が所望の温度に近づくよう加熱量を調整し、第3加熱領域31cで導体Wの温度を一定に保つように制御するとよい。この場合、各領域で導体Wに誘導すべき電流の大きさが異なるため、第1加熱領域31a、第2加熱領域31b及び第3加熱領域31cが導体Wの加熱温度を独立して制御可能である必要がある。つまり、誘導加熱器31を導体Wの加熱温度を独立して制御可能な複数の加熱領域を導体Wの走行方向に沿って有するものとすることで、導体Wの温度管理を容易に行うことができるので、導体Wを速やかに所望の温度まで加熱した後、その温度を保つことができる。このような温度管理により製造能力をさらに向上することができる。なお、所望の温度とは、ワニスに含まれる樹脂を硬化できる温度であり、例えば150℃以上600℃以下である。
【0046】
第1加熱領域31a、第2加熱領域31b及び第3加熱領域31cは、1つの誘導加熱器31内を3つの領域に分けて構成してもよいが、それぞれ独立した3つの誘導加熱器を並べて構成することもできる。
【0047】
また、第1加熱領域31a、第2加熱領域31b及び第3加熱領域31cの加熱距離は必要とされる温度管理により適宜決定される。このため、第1加熱領域31a、第2加熱領域31b及び第3加熱領域31cの加熱距離は、等しくともよいが、異なってもよい。
【0048】
第1加熱領域31aと第2加熱領域31bとの間、及び第2加熱領域31bと第3加熱領域31cとの間には、空隙があってもよい。
【0049】
なお、図4では、誘導加熱器31が3つの加熱領域を有しているが、加熱領域の領域数は3に限定されるものではなく、2あるいは4以上であってもよい。また、誘導加熱器31は、導体Wの加熱温度を独立して制御可能な複数の加熱領域を有さない、つまり全体で
1つの温度制御しかできないものであってもよい。
【0050】
誘導加熱器31の加熱距離(第1加熱領域31a、第2加熱領域31b及び第3加熱領域31cそれぞれの加熱距離の合計)は、ワニスに含まれる樹脂を十分に硬化できる長さとされ、誘導加熱器31により加熱される導体Wの温度プロファイルと導体Wの走行速度とに依存して適宜決定される。なお、誘導加熱器31の入口及び出口付近は導体Wの加熱に寄与し難いため、加熱効率の観点から個々の誘導加熱器31の加熱領域の長さは、100mm以上とすることが好ましい。
【0051】
具体的には、加熱炉22の炉長と誘導加熱器31の加熱距離との比率としては、6:1以上10:1以下とできる。このように当該絶縁電線の製造装置では、加熱炉22の炉長に比べて誘導加熱器31の加熱距離を短くすることができる。このため、同一の絶縁電線の製造装置スペースに対して、加熱炉のみで構成する場合に比べて、加熱炉22の炉長を長くとることができる。従って、導体Wの走行速度を増しても導体Wに塗布されたワニスの乾燥及び硬化を確実に行うことが可能となる。
【0052】
<巻取部>
巻取部5は、導体Wを引っ張ってリールに巻き取る。この巻取部5の引張力によって、導体Wが塗布乾燥部2及び硬化部3間を周回する。巻取部5の駆動には、サーボモーター及びステッピングモーター等の公知のモーターを用いることができる。
【0053】
〔絶縁電線の製造方法〕
次に当該絶縁電線の製造方法について説明する。当該絶縁電線の製造方法は、図5に示すように、塗布する工程S1と、乾燥する工程S2と、硬化する工程S3とを備える。当該絶縁電線の製造方法は、図1に示す絶縁電線の製造装置を用いて行うことができる。
【0054】
<塗布する工程>
塗布する工程S1では、線状の導体Wをその軸方向に走行させつつワニスを塗布する。具体的には、導体Wを送出部4から送り出し、第一ドラム1aを経由させ、塗布装置21を走行させる。
【0055】
導体Wは、ワニス槽21aの底部の貫通穴から挿入され、ワニス槽21aに貯留されたワニス中を通過することによって外周面に絶縁ワニスが塗布される。そして、導体Wの外周面に塗布されたワニスは、導体Wが塗布ダイス21bに挿通されることでダイス孔の径
に応じてほぼ均一な厚さに整えられる。
【0056】
<乾燥する工程>
乾燥する工程S2では、導体Wに塗布されたワニスを加熱炉22により乾燥する。具体的には、塗布ダイス21bを通過した導体Wを加熱炉22を走行させる。
【0057】
これにより導体Wに塗布されたワニスは、加熱炉22内を通過する際にその溶剤が蒸発し、ワニスが乾燥する。
【0058】
なお、塗布する工程S1及び乾燥する工程S2は、硬化する工程S3を行う前にこの順に複数回繰り返してもよい。
【0059】
<硬化する工程>
硬化する工程S3では、乾燥する工程S2後の上記ワニスを誘導加熱器31により硬化する。具体的には、加熱炉22を通過した導体Wを誘導加熱器31を走行させる。
【0060】
これにより乾燥する工程S2で溶剤が蒸発した後のワニスに含まれる樹脂が硬化し、導体Wの外周に絶縁被覆が形成される。
【0061】
なお、塗布する工程S1、乾燥する工程S2及び硬化する工程S3は、この順に繰り返し行ってもよい。
【0062】
以上の工程を経て、導体Wの外周に絶縁層が形成され、絶縁電線を製造することができる。
【0063】
〔利点〕
当該絶縁電線の製造装置及び当該絶縁電線の製造方法では、導体Wへのワニスの塗布後に炉長の長い加熱炉22により緩やかに乾燥させるのでワニスの発泡が生じ難い。また、加熱炉22は単位長当たりの設備コストが小さいので、長い炉長としても製造にかかるコストの増大を抑止できる。当該絶縁電線の製造装置及び当該絶縁電線の製造方法では、乾燥させたワニスを誘導加熱器31により硬化させる。誘導加熱器31は投入した電力に実質的に比例して導体Wの温度を容易に高めることができるので、加熱炉に比べて短い炉長でワニスを硬化させることができる。このため、導体Wの走行速度を上げて製造能力を向上させても、製造設備の大型化や製造コストの増大を抑止できる。さらに、乾燥させたワニスでは急加熱を行ってもワニスの発泡は生じ難い。従って、当該絶縁電線の製造装置及び当該絶縁電線の製造方法を用いることで、ワニスの発泡が生じ難く、かつ製造設備の大型化及び製造コストの増大を抑止しつつ、製造能力を向上できる。
【0064】
[その他の実施形態]
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記実施形態の構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【0065】
上記実施形態では、導体が塗布乾燥部で塗布装置及び加熱炉をこの順に3回繰り返し通過する場合を説明したが、この繰り返し回数は3回に限定されず、2回又は4回以上であってもよい。なお、この繰り返し回数としては、硬化時間の短縮効果と絶縁層の絶縁性低下の抑止との観点から、2回以上5回以下とすることが好ましい。
【0066】
また、上記実施形態では、上記繰り返し回数が3回で固定されており、硬化部を通過して周回し、次に導体が塗布乾燥部を通過する際も同じ繰り返し数となるが、この繰り返し数は硬化部を通過して周回するごとに異なってもよい。
【0067】
さらに、上記繰り返し回数は1回、つまり導体が塗布乾燥部で塗布装置及び加熱炉を繰り返し通過せず、塗布装置及び加熱炉を1回通過するごとに硬化部を通過する構成も本発明の意図するところである。
【0068】
上記実施形態では、導体が塗布乾燥部及び硬化部をこの順に繰り返し通過する場合を説明したが、塗布乾燥部及び硬化部をこの順に繰り返さない構成、つまり硬化部が塗布乾燥部の下流側に1つだけ設けられる構成も本発明の意図するところである。
【産業上の利用可能性】
【0069】
以上のように、本発明の絶縁電線の製造装置及び絶縁電線の製造方法は、製造時にワニスの発泡が生じ難く、かつ製造設備の大型化及び製造コストの増大を抑止しつつ製造能力を向上できる。
【符号の説明】
【0070】
1 ドラム
1a 第一ドラム
1b 第二ドラム
2 塗布乾燥部
21 塗布装置
21a ワニス槽
21b 塗布ダイス
22 加熱炉
3 硬化部
31 誘導加熱器
31a 第1加熱領域
31b 第2加熱領域
31c 第3加熱領域
4 送出部
5 巻取部
W 導体
図1
図2
図3
図4
図5