(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-18
(45)【発行日】2023-04-26
(54)【発明の名称】エンジンシステム
(51)【国際特許分類】
F02D 41/40 20060101AFI20230419BHJP
F02D 41/34 20060101ALI20230419BHJP
F02M 51/00 20060101ALI20230419BHJP
【FI】
F02D41/40
F02D41/34
F02M51/00 A
(21)【出願番号】P 2019152130
(22)【出願日】2019-08-22
【審査請求日】2022-04-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】脇坂 佳史
(72)【発明者】
【氏名】近藤 照明
(72)【発明者】
【氏名】河合 健二
(72)【発明者】
【氏名】冬頭 孝之
(72)【発明者】
【氏名】池田 太郎
【審査官】津田 真吾
(56)【参考文献】
【文献】特許第3803903(JP,B2)
【文献】特開2015-68284(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 41/00
F02D 43/00
F02D 45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
気筒を有するエンジンと、
前記気筒内に燃料を噴射する燃料噴射装置と、
1サイクルにおける燃料の噴射を、第1パイロット噴射、第2パイロット噴射、メイン噴射の順に行なうように前記燃料噴射装置を制御する制御装置とを備え、
前記第1パイロット噴射の燃料の燃焼に伴う前記気筒内の圧力変動のピーク時期である第1ピーク時期から前記第2パイロット噴射の燃料の燃焼に伴う前記気筒内の圧力変動のピーク時期である第2ピーク時期までの時間である第1時間をΔt
1とし、前記第2ピーク時期から前記メイン噴射の燃料の燃焼に伴う前記気筒内の圧力変動のピーク時期であるメインピーク時期までの時間である第2時間をΔt
2とし、かつ、前記第1ピーク時期から前記メインピーク時期までの時間である第3時間をΔt
3とするとき、
前記制御装置は、式(A)、(B)および(C)
0.25ミリ秒≦Δt
1≦0.55ミリ秒 …(A)
0.75ミリ秒≦Δt
2≦1.65ミリ秒 …(B)
0.75ミリ秒≦Δt
3≦1.65ミリ秒 …(C)
を満たすように前記第1パイロット噴射、前記第2パイロット噴射および前記メイン噴射の噴射時期を制御
し、
前記制御装置は、式(A)、(B)および(C)に加えて、さらに式(D)、(E)
1.1ミリ秒≦Δt
2
…(D)
1.1ミリ秒≦Δt
3
…(E)
を満たすように前記第1パイロット噴射、前記第2パイロット噴射および前記メイン噴射の噴射時期を制御する、エンジンシステム。
【請求項2】
Δt
1は略0.3ミリ秒であり、
Δt
2は略1.2ミリ秒であり、
Δt
3は略1.5ミリ秒である、請求項
1に記載のエンジンシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、エンジンの燃焼騒音を低減する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、コモンレール方式に代表されるディーゼルエンジンにおいては、燃焼騒音の低減および排気エミッションの低減のために、エンジンの1サイクルにおける燃料の噴射を複数段に分割して行なうものが存在する。
【0003】
1サイクルにおける燃料の噴射が複数段に分割されるエンジンにおいて、各噴射の燃料が燃焼することによって生じる気筒内の圧力波を互いに干渉させることによって燃焼騒音を低減する技術が、たとえば特許第3803903号公報(特許文献1)に開示されている。特許第3803903号公報に開示された技術は、1サイクルにおける燃料の噴射をパイロット噴射、メイン噴射、アフター噴射の3段に分割し、パイロット噴射、メイン噴射、アフター噴射の各燃焼によって生じる圧力波を互いに干渉させることによって、エンジンの燃焼騒音を低減する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許第3803903号公報には、パイロット噴射、メイン噴射、アフター噴射の各燃焼によって生じる圧力波を互いに干渉させる際に、パイロット噴射の燃焼とメイン噴射の燃焼との間隔時間を0.16ミリ秒に設定し、メイン噴射の燃焼とアフター噴射の燃焼の間隔時間を0.16ミリ秒あるいは0.48ミリ秒に設定することで、略3kHz以上の高い周波数帯域の圧力波を互いに干渉させることが示されている。
【0006】
しかしながら、本願の発明者等がエンジンの燃焼騒音のスペクトルを解析したところ、筒内圧の高周波成分の中でも、特に略0.9kHz~2.0kHzの周波数帯域の方が、略3kHz以上の周波数帯域よりも圧力レベルが高いという特性が見い出された。この特性を踏まえると、特許第3803903号公報に示されているような略3kHz以上の周波数領域の圧力レベルを下げるよりも、略0.9kHz~2.0kHzの周波数領域の圧力レベルを下げるほうが、エンジンの燃焼騒音を効果的に低減し得る。
【0007】
本開示は、上述の課題を解決するためになされたものであって、その目的は、1サイクルにおいて多段階の燃料噴射が行なわれるエンジンにおいて、エンジンの燃焼騒音を効果的に低減することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1) 本開示によるエンジンシステムは、気筒を有するエンジンと、気筒内に燃料を噴射する燃料噴射装置と、1サイクルにおける燃料の噴射を、第1パイロット噴射、第2パイロット噴射、メイン噴射の順に行なうように燃料噴射装置を制御する制御装置とを備える。
【0009】
第1パイロット噴射の燃料の燃焼に伴う気筒内の圧力変動のピーク時期である第1ピーク時期から第2パイロット噴射の燃料の燃焼に伴う気筒内の圧力変動のピーク時期である第2ピーク時期までの時間である第1時間をΔt1とし、第2ピーク時期からメイン噴射の燃料の燃焼に伴う気筒内の圧力変動のピーク時期であるメインピーク時期までの時間である第2時間をΔt2とし、かつ、第1ピーク時期からメインピーク時期までの時間である第3時間をΔt3とするとき、
制御装置は、式(A)、(B)および(C)
0.25ミリ秒≦Δt1≦0.55ミリ秒 …(A)
0.75ミリ秒≦Δt2≦1.65ミリ秒 …(B)
0.75ミリ秒≦Δt3≦1.65ミリ秒 …(C)
を満たすように第1パイロット噴射、第2パイロット噴射およびメイン噴射の噴射時期を制御する。
【0010】
上記のエンジンシステムによれば、第1パイロット噴射の燃料の燃焼によって気筒内に発生する圧力波(以下「第1パイロット圧力波」ともいう)と第2パイロット噴射の燃料の燃焼によって気筒内に発生する圧力波(以下「第2パイロット圧力波」ともいう)との間で位相差0.5周期で相殺される周波数、第2パイロット圧力波とメイン噴射の燃料の燃焼によって気筒内に発生する圧力波(以下「メイン圧力波」ともいう)との間で位相差1.5周期で相殺される周波数、および、第1パイロット圧力波とメイン圧力波との間で位相差1.5周期で相殺される周波数を、エンジンの燃焼騒音を効果的に低減し得る略0.9kHz~2.0kHzの範囲に含めることができる。その結果、エンジンの燃焼騒音を効果的に低減することができる。
【0011】
(2) ある形態においては、制御装置は、式(A)、(B)および(C)に加えて、さらに式(D)、(E)
1.1ミリ秒≦Δt2 …(D)
1.1ミリ秒≦Δt3 …(E)
を満たすように第1パイロット噴射、第2パイロット噴射およびメイン噴射の噴射時期を制御する。
【0012】
上記形態によれば、第2パイロット圧力波とメイン圧力波との間で位相差1.0周期の強い増幅が生じる周波数を、0.9kHz以下に抑えることができる。また、第1パイロット圧力波とメイン圧力波との間で位相差1.0周期の強い増幅が生じる周波数も、0.9kHz以下に抑えることができる。これにより、強い増幅が生じる周波数の圧力波を、エンジンのシリンダブロックなどの構造体によって減衰させることができる。
【0013】
(3) ある形態においては、Δt1は略0.3ミリ秒であり、Δt2は略1.2ミリ秒であり、Δt3は略1.5ミリ秒である。
【0014】
(4) 本開示の他の局面によるエンジンシステムは、気筒を有するエンジンと、気筒内に燃料を噴射する燃料噴射装置と、1サイクルにおける燃料の噴射を、第1パイロット噴射、第2パイロット噴射、メイン噴射の順に行なうように燃料噴射装置を制御する制御装置とを備える。
【0015】
第1パイロット噴射の燃料の燃焼に伴う気筒内の圧力変動のピーク時期である第1ピーク時期から第2パイロット噴射の燃料の燃焼に伴う気筒内の圧力変動のピーク時期である第2ピーク時期までの時間をΔt1とし、第2ピーク時期からメイン噴射の燃料の燃焼に伴う気筒内の圧力変動のピーク時期であるメインピーク時期までの時間をΔt2とし、かつ、第1ピーク時期からメインピーク時期までの時間をΔt3とし、かつ燃焼騒音を低減する対象となる周波数領域の下限値および上限値をそれぞれFminおよびFmaxとするとき、
制御装置は、式(A1)、(B1)および(C1)
0.5(1/Fmax)≦Δt1≦0.5(1/Fmin) …(A1)
1.5(1/Fmax)≦Δt2≦1.5(1/Fmin) …(B1)
1.5(1/Fmax)≦Δt3≦1.5(1/Fmin) …(C1)
を満たすように第1パイロット噴射、第2パイロット噴射およびメイン噴射の噴射時期を制御する。
【0016】
上記のエンジンシステムによれば、第1パイロット圧力波と第2パイロット圧力波との間で位相差0.5周期で相殺される周波数、第2パイロット圧力波とメイン圧力波との間で位相差1.5周期で相殺される周波数、および、第1パイロット圧力波とメイン圧力波との間で位相差1.5周期で相殺される周波数を、下限値Fminから上限値Fmaxまでの範囲に含めることができる。
【0017】
(5) ある形態においては、制御装置は、式(A1)、(B1)および(C1)に加えて、さらに式(D1)、(E1)
1/Fmin≦Δt2 …(D1)
1/Fmin≦Δt3 …(E1)
を満たすように第1パイロット噴射、第2パイロット噴射およびメイン噴射の噴射時期を制御する。
【0018】
上記形態によれば、第2パイロット圧力波とメイン圧力波との間で位相差1.0周期の強い増幅が生じる周波数を下限値Fmin以下に抑えることができる。また、第1パイロット圧力波とメイン圧力波との間で位相差1.0周期の強い増幅が生じる周波数も下限値Fmin以下に抑えることができる。
【0019】
(6) ある形態においては、Fminは略0.9kHzであり、Fmaxは略2.0kHzである。
【0020】
(7) ある形態においては、Δt1は略0.3ミリ秒であり、Δt2は略1.2ミリ秒であり、Δt3が略1.5ミリ秒である。
【発明の効果】
【0021】
本開示によれば、1サイクルにおいて第1パイロット噴射、第2パイロット噴射、メイン噴射がこの順に行なわれるエンジンにおいて、エンジンの燃焼騒音を効果的に低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】エンジンシステムの全体構成の一例を概略的に示す図である。
【
図2】1サイクル中における燃料噴射指令の出力タイミングを模式的に示す図である。
【
図3】位相差0.5周期の2つの圧力波とそれらの合成波とを模式的に示す図である。
【
図4】位相差1.5周期の2つの圧力波とそれらの合成波とを模式的に示す図である。
【
図5】位相差1.0周期の2つの圧力波とそれらの合成波とを模式的に示す図である。
【
図6】エンジンのクランク角と筒内圧力変動値との対応関係の一例を示す図である。
【
図7】位相差0.5周期で互いに相殺される第1パイロット圧力波W
1および第2パイロット圧力波W
2と、それらの合成波W
12とを模式的に示す図である。
【
図8】位相差1.5周期で互いに相殺される第2パイロット圧力波W
2およびメイン圧力波W
mと、それらの合成波W
2mとを模式的に示す図である。
【
図9】位相差1.5周期で互いに相殺される第1パイロット圧力波W
1およびメイン圧力波W
mと、それらの合成波W
1mとを模式的に示す図である。
【
図10】単発噴射時の燃焼騒音強度のスペクトルを示す図である。
【
図11】騒音強度から音のエネルギーを逆算し、周波数が1.0kHzのときの音のエネルギーで正規化した図である。
【
図12】第1時間Δt
1、第2時間Δt
2および第3時間Δt
3の設定例を示す図である。
【
図13】第1時間Δt
1、第2時間Δt
2および第3時間Δt
3をそれぞれ0.3ミリ秒、1.2ミリ秒および1.5ミリ秒に設定した場合における、エンジンの燃焼騒音強度のスペクトルを示す図である。
【
図14】第1時間Δt
1、第2時間Δt
2の要求範囲を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0024】
<全体構成>
図1は、本実施の形態によるエンジンシステム1の全体構成の一例を概略的に示す図である。エンジンシステム1は、エンジン2と、制御装置100とを備える。
【0025】
エンジン2は、コモンレール式の4気筒直列ディーゼルエンジンであり、たとえば車両に搭載される。なお、本実施の形態においては、エンジン2は、ディーゼルエンジンである場合を一例として説明するが、たとえば、ガソリンエンジンであってもよい。
【0026】
エンジン2は、4つの気筒3を含む。なお、本実施の形態に係るエンジン2には、4つの気筒3が設けられる例について説明するが、エンジン2に設けられる気筒の数は4つに限られるものではなく、4つより少なくてもよいし、4つより多くてもよい。
【0027】
各気筒3には、燃焼室4内に燃料を噴射するインジェクタ5が配設される。各インジェクタ5は、コモンレール6に接続される。コモンレール6には、高圧ポンプ27によって加圧された高圧状態の燃料が貯留されており、インジェクタ5には、コモンレール6に貯留された高圧燃料が供給される。インジェクタ5の先端部には、ノズル7が設けられる。
【0028】
エンジン2には、燃焼室4内に空気を吸入するための吸気通路10が吸気マニホールド11を介して接続される。また、エンジン2には、燃焼後の排気ガスを排出するための排気通路16が排気マニホールド17を介して接続される。
【0029】
制御装置100は、CPU(Central Processing Unit)と、メモリと、各種信号を入出力するための入出力ポートとを含んで構成される。制御装置100は、各センサ(たとえばエンジン回転数センサなど)および機器からの信号、並びにメモリに格納されたプログラムなどに基づいて、各機器の制御を行なう。なお、各種制御については、ソフトウェアによる処理に限られず、専用のハードウェア(電子回路)により処理することも可能である。
【0030】
制御装置100は、たとえば、高圧ポンプ27を制御することによって、コモンレール6のレール圧を変更する。また、制御装置100は、燃料噴射量の指令信号をインジェクタ5に送ることによって、インジェクタ5の燃料噴射量(噴射時間)を制御する。
【0031】
本実施の形態においては、制御装置100は、エンジン2を作動させる場合、各気筒への1サイクルの燃料噴射として、第1パイロット噴射、第2パイロット噴射、およびメイン噴射をこの順に行なう。具体的には、制御装置100は、要求パワーに応じたメイン噴射指令を所定のタイミングでインジェクタ5に出力する。これにより、メイン噴射指令に応じた燃料がインジェクタ5から噴射される「メイン噴射」が行なわれる。また、制御装置100は、燃焼騒音を低減したり排気を浄化したりするために、メイン噴射指令に先立って、極少量の燃料を噴射させるための第1パイロット噴射指令、第2パイロット噴射指令をこの順にインジェクタ5に出力する。これにより、メイン噴射に先立って、第1パイロット噴射指令に応じた極少量の燃料がインジェクタ5から噴射される「第1パイロット噴射」、および、第2パイロット噴射指令に応じた極少量の燃料がインジェクタ5から噴射される「第2パイロット噴射」がこの順に行なわれる。なお、各気筒への1サイクルの燃料噴射として、上記の噴射に加えて、他の噴射(たとえばメイン噴射後のポスト噴射)が追加されてもよい。
【0032】
図2は、1サイクル中における第1パイロット噴射指令、第2パイロット噴射指令およびメイン噴射指令の出力タイミングを模式的に示す図である。なお、
図2の横軸は、エンジン2のクランク角を示し、「TDC」は上死点(Top Dead Center)を示す。
図2に示すように、1サイクル中において、第1パイロット噴射指令、第2パイロット噴射指令、およびメイン噴射指令がこの順に出力される。これにより、第1パイロット噴射、第2パイロット噴射およびメイン噴射がこの順に行なわれる。
【0033】
<エンジンの燃焼騒音の低減>
一般的に、エンジンの燃焼騒音は、燃料の燃焼に伴う気筒内の圧力変動に起因しており、圧力変動が大きいほど燃焼騒音も大きくなる。このような燃焼騒音を効果的に低減するために、本実施の形態による制御装置100は、第1パイロット噴射、第2パイロット噴射およびメイン噴射の3段階の噴射によって筒内にそれぞれ発生する圧力波が互いに相殺し合うように、第1パイロット噴射、第2パイロット噴射およびメイン噴射の噴射時期を制御する。
【0034】
ここで、圧力波の相殺および増幅の原理について説明する。2つの圧力波の周期を「T」とし、2つの圧力波の位相差を「Δt」とし、1以上の整数を「n」とするとき、下記の式(a)が満たされる場合に2つの圧力波は相殺し合い、下記の式(b)が満たされる場合に2つの圧力波は増幅し合う。
【0035】
Δt=(n-0.5)T …(a)
Δt=nT …(b)
図3は、周期Tの2つの圧力波の位相差Δtが0.5周期(=0.5T)である場合の2つの圧力波とそれらの合成波とを模式的に示す図である。なお、
図3に示す波形は、上記の式(a)においてn=1とした場合の波形に相当する。
図4は、周期Tの2つの圧力波の位相差Δtが1.5周期(=1.5T)である場合の2つの圧力波とそれらの合成波とを模式的に示す図である。なお、
図4に示す波形は、上記の式(a)においてn=2とした場合の波形に相当する。
【0036】
図3,4の各々において、実線は周期Tの圧力波を示し、一点鎖線は実線で示す圧力波に対して位相差Δtを有する周期Tの圧力波を示し、二点鎖線は実線で示す圧力波と一点鎖線で示す圧力波との合成波を示す。
図3に示すように、周期Tの2つの圧力波の位相差Δtが0.5周期である場合、2つの圧力波は互いに相殺し合う。また、
図4に示すように、周期Tの2つの圧力波の位相差Δtが1.5周期である場合にも、2つの圧力波は互いに相殺し合う。したがって、燃焼騒音を低減するためには、このような相殺を積極的に利用することが望ましい。なお、上記の式(a)におけるnの値が小さいほど、より強く相殺し合う。すなわち、位相差Δtが0.5周期となる周波数を有する圧力波(
図3参照)のほうが、位相差Δtが1.5周期となる周波数を有する圧力波(
図4参照)よりも、より強く相殺し合うことになる。
【0037】
図5は、周期Tの2つの圧力波の位相差Δtが1.0周期(=1.0T)である場合の2つの圧力波とそれらの合成波とを模式的に示す図である。なお、
図5に示す波形は、上記の式(b)においてn=1とした場合の波形に相当する。
【0038】
図5においても、上述の
図3および
図4と同様に、実線は周期Tの圧力波を示し、一点鎖線は実線で示す圧力波に対して位相差Δtを有する周期Tの圧力波を示し、二点鎖線は実線で示す圧力波と一点鎖線で示す圧力波との合成波を示す。
図5に示すように、周期Tの2つの圧力波の位相差Δtが1.0周期である場合、2つの圧力波は互いに増幅し合う。したがって、燃焼騒音を低減するためには、このような増幅を避けることが望ましい。なお、上記の式(b)におけるnの値が小さいほど、より強く増幅し合う。すなわち、位相差Δtが1.0周期となる周波数を有する圧力波のほうが、位相差Δtが2.0周期となる周波数を有する圧力波よりも、より強く増幅し合うことになる。
【0039】
本実施の形態においては、上述のような圧力波の相殺および増幅の原理を利用して、エンジン2の燃焼騒音を効果的に低減する。具体的には、本実施の形態による制御装置100は、第1パイロット噴射の燃料の燃焼によって気筒3内に発生する圧力波を「第1パイロット圧力波W1」とし、第2パイロット噴射の燃料の燃焼によって気筒3内に発生する圧力波を「第2パイロット圧力波W2」とし、メイン噴射の燃料の燃焼によって気筒3内に発生する圧力波を「メイン圧力波Wm」とするとき、第1パイロット圧力波W1と第2パイロット圧力波W2とメイン圧力波Wmとが互いに相殺し易く、かつ互いに増幅し難くなるように、第1パイロット噴射、第2パイロット噴射およびメイン噴射の各噴射時期を制御する。
【0040】
図6は、エンジン2のクランク角と筒内圧力変動値との対応関係の一例を示す図である。
図6の横軸には、エンジン2のクランク角が、上死点(TDC)を0、上死点後を正として示されている。
図6の縦軸に示される筒内圧力変動値は、筒内圧力をクランク角で微分した値である。
図6において、実線は、メイン噴射に先立って、第1パイロット噴射および第2パイロット噴射の合計2回のパイロット噴射が行なわれる本実施の形態の筒内圧力変動値を示す。一点鎖線は、メイン噴射に先立って1回のパイロット噴射のみが行なわれる比較例の筒内圧力変動値を示す。
【0041】
本実施の形態(実線)においては、第1パイロット噴射および第2パイロット噴射の合計2回のパイロット噴射が行なわれる。そして、第1パイロット噴射による第1パイロット圧力波W1と第2パイロット噴射による第2パイロット圧力波W2との2つの圧力波でメイン圧力波Wmが相殺されるように、第1パイロット噴射、第2パイロット噴射およびメイン噴射の各噴射時期が制御される。そのため、1回のパイロット噴射のみが行なわれる比較例(一点鎖線)に比べて、メイン圧力波Wmによって生じる筒内圧力変動値のピークが低減される。これにより、最も騒音レベルの大きいメイン噴射による燃焼騒音が低減される。
【0042】
また、本実施の形態においては、第1パイロット圧力波W1で第2パイロット圧力波W2が相殺されるように、第1パイロット噴射および第2パイロット噴射の噴射時期が制御される。そのため、第2パイロット噴射による燃焼騒音も低減される。
【0043】
以下では、
図6に示すように、第1パイロット噴射の燃料の燃焼によって筒内圧力変動値がピークとなる時期を「第1パイロットピーク時期P
1」とも称する。第2パイロット噴射の燃料の燃焼によって筒内圧力変動値がピークとなる時期を「第2パイロットピーク時期P
2」とも称する。メイン噴射の燃料の燃焼によって筒内圧力変動値がピークとなる時期を「メインピーク時期P
m」とも称する。
【0044】
また、以下では、第1パイロットピーク時期P1から第2パイロットピーク時期P2までの間隔時間を「第1時間Δt1」とも称する。第2パイロットピーク時期P2からメインピーク時期Pmまで間隔時間を「第2時間Δt2」とも称する。第1パイロットピーク時期P1からメインピーク時期Pmまで間隔時間を「第3時間Δt3」とも称する。したがって、第3時間Δt3は、第1時間Δt1と第2時間Δt2との合計である。
【0045】
第1パイロット圧力波W1、第2パイロット圧力波W2およびメイン圧力波Wmの各々には、単一の周波数の圧力波のみが含まれるのではなく、さまざまな周波数の圧力波が含まれる。以下では、第1パイロット圧力波W1と第2パイロット圧力波W2との間で位相差0.5周期で互いに相殺される圧力波の周波数および周期を、それぞれ「第1相殺周波数f1」および「第1相殺周期T1」とも称する。同様に、第2パイロット圧力波W2とメイン圧力波Wmとの間で位相差1.5周期で相殺される圧力波の周波数および周期をそれぞれ「第2相殺周波数f2」および「第2相殺周期T2」とも称する。また、第1パイロット圧力波W1とメイン圧力波Wmとの間で位相差1.5周期で相殺される圧力波の周波数および周期をそれぞれ「第3相殺周波数f3」および「第3相殺周期T3」とも称する。
【0046】
図7は、位相差0.5周期で互いに相殺される第1パイロット圧力波W
1および第2パイロット圧力波W
2と、それらの合成波W
12とを模式的に示す図である。この場合、第1時間Δt
1と第1相殺周期T
1との間には、Δt
1=0.5t
1の関係が成立する。すなわち、第1時間Δt
1を調整することによって、第1相殺周期T
1およびその逆数である第1相殺周波数f
1を調整することができる。
【0047】
図8は、位相差1.5周期で互いに相殺される第2パイロット圧力波W
2およびメイン圧力波W
mと、それらの合成波W
2mとを模式的に示す図である。この場合、第2時間Δt
2と第2相殺周期T
2との間には、Δt
2=1.5T
2の関係が成立する。すなわち、第2時間Δt
2を調整することによって、第2相殺周期T
2およびその逆数である第2相殺周波数f
2を調整することができる。
【0048】
図9は、位相差1.5周期で互いに相殺される第1パイロット圧力波W
1およびメイン圧力波W
mと、それらの合成波W
1mとを模式的に示す図である。この場合、第3時間Δt
3と第3相殺周期T
3との間には、Δt
3=1.5T
3の関係が成立する。すなわち、第3時間Δt
3を調整することによって、第3相殺周期T
3およびその逆数である第3相殺周波数f
3を調整することができる。
【0049】
本実施の形態においては、第1相殺周波数f1、第2相殺周波数f2および第3相殺周波数f3のいずれもが、燃焼騒音を低減する対象となる周波数領域(以下「低減対象領域FC」ともいう)に含まれるように、第1時間Δt1、第2時間Δt2および第3時間Δt3が設定されている。以下、この点について詳しく説明する。
【0050】
<低減対象領域FC>
まず、本実施の形態による低減対象領域FCについて説明する。本願の発明者等がエンジン2の燃焼騒音のスペクトルを解析したところ、筒内圧の高周波成分の中でも、特に略0.9kHz~2.0kHzの周波数帯域の方が、略3kHz以上の周波数帯域よりも圧力レベルが高いという特性が見い出された。
【0051】
図10は、単発噴射時(たとえば1サイクルでメイン噴射のみを行なった場合)の燃焼騒音強度のスペクトルを示す図である。
図10において、横軸は周波数(kHz)を示し、縦軸は音の強さ(dBA)を示す。
図10から分かるように、単発噴射の燃焼騒音強度のスペクトルは、周波数が略1.0kHz周辺でピークとなり、周波数が1.0kHzよりも高いほど、また、周波数が1.0kHzよりも低いほど、徐々に減少していく。
【0052】
図11は、騒音強度から音のエネルギーを逆算し、周波数が1.0kHzのときの音のエネルギーで正規化した図である。
図11から分かるように、音のエネルギーは、1.0kHzのときにピークとなり、周波数が1.0kHzよりも高いほど低下する。そして、2.0kHz以上の周波数領域では、ピーク時の10分の1以下にまで低下する。すなわち、2.0kHz以上の周波数は燃焼騒音に与える影響はかなり小さい。また、0.9kHz未満の周波数領域では、音のエネルギーがピーク時の10分の1を超える領域も含まれるが、0.9kHz未満の周波数領域ではエンジン2のシリンダブロックなどの構造体によって音の振動が吸収され減衰するため、低減対象領域FCからは除外してもよい。
【0053】
これらの特性を踏まえると、略0.9kHz~2.0kHzの周波数領域の圧力レベルを下げるほうが、その他の周波数領域の圧力レベルを下げるよりも、エンジンの燃焼騒音を効果的に低減し得る。
【0054】
以上より、本実施の形態においては、0.9kHz~2.0kHzの周波数領域を低減対象領域FCとし、この低減対象領域FCの圧力レベルを低減するように、第1時間Δt1、第2時間Δt2および第3時間Δt3が設定される。
【0055】
<Δt
1、Δt
2、Δt
3の設定例>
図12は、第1時間Δt
1、第2時間Δt
2および第3時間Δt
3の設定例を示す図である。
図12には、第1時間Δt
1、第2時間Δt
2および第3時間Δt
3をそれぞれ0.3ミリ秒(ms)、1.2ミリ秒および1.5ミリ秒に設定した場合において、相殺および増幅される圧力波の周期(ms)および周波数(kHz)が記載されている。なお、既に述べたように、2つの圧力波の位相差が0.5周期、1.5周期、2.5周期である場合(上述の式(a)においてn=1、2,3とした場合)に相殺が発生し、位相差が小さいほど強い相殺が発生する。また、2つの圧力波の位相差が1.0周期、2.0周期、3.0周期である場合(上述の式(b)においてn=1、2,3とした場合)に増幅が発生し、位相差が小さいほど強い増幅が発生する。
【0056】
第1時間Δt1を0.3ミリ秒に設定すると、第1パイロット圧力波W1と第2パイロット圧力波W2との位相差が0.5周期となる第1相殺周波数f1は、1.66kHzとなる。すなわち、第1パイロット圧力波W1と第2パイロット圧力波W2との間で、低減対象領域FCに含まれる1.66kHzで強い相殺を発生させて燃焼騒音を低減することができる。
【0057】
第2時間Δt2を1.2ミリ秒に設定すると、第2パイロット圧力波W2とメイン圧力波Wmとの位相差が1.5周期となる第2相殺周波数f2は、1.25kHzとなる。すなわち、第2パイロット圧力波W2とメイン圧力波Wmとの間で、低減対象領域FCに含まれる1.66kHzでやや強い相殺を発生させて燃焼騒音を低減することができる。
【0058】
また、第3時間Δt3は第1時間Δt1と第2時間Δt2との合計、すなわち1.5ミリ秒となるため、第1パイロット圧力波W1とメイン圧力波Wmとの間で位相差が1.5周期となる第3相殺周波数f3は、1.0kHzとなる。すなわち、低減対象領域FCに含まれる1.0kHzでやや強い相殺を発生させて燃焼騒音を低減することができる。
【0059】
なお、第1時間Δt1が0.3ミリ秒である場合、第1パイロット圧力波W1と第2パイロット圧力波W2との位相差が1.5周期以上となる周波数は3.33kHz以上であり、いずれも低減対象領域FCを超えている。そのため、第1パイロット圧力波W1と第2パイロット圧力波W2との位相差が1.5周期以上となる場合の相殺および増幅については、エンジンの燃焼騒音に与える影響は小さく考慮しなくてよいと考えられる。
【0060】
また、第2時間Δt2が1.2ミリ秒である場合、第2パイロット圧力波W2とメイン圧力波Wmとの位相差が1.0周期となる0.83kHzの周波数において強い増幅が発生してしまう。また、第3時間Δt3が1.5ミリ秒である場合、第1パイロット圧力波W1とメイン圧力波Wmとの位相差が1.0周期となる0.67kHzの周波数においても強い増幅が発生してしまう。しかしながら、0.83kHzおよび0.67kHzはどちらも0.9kHz未満であり、上述したようにエンジン2のシリンダブロックなどの構造体によって振動が減衰されるので、今回の低減対象領域FCから外れている。したがって、これらの増幅は燃焼騒音に関しては、無視することができる。
【0061】
また、第2時間Δt2が1.2ミリ秒である場合、第2パイロット圧力波W2とメイン圧力波Wmとの位相差が2.0周期となる1.66kHzの周波数においてやや強い増幅が発生してしまう。また、第3時間Δt3が1.5ミリ秒である場合、第1パイロット圧力波W1とメイン圧力波Wmとの位相差が2.0周期となる1.33kHzの周波数においても、やや強い増幅が発生してしまう。しかしながら、これらの増幅は位相差1.0周期の増幅に比べれば増幅効果が弱いため、エンジンの燃焼騒音に与える影響は小さく考慮しなくてよいと考えられる。
【0062】
以上のように、第1時間Δt1、第2時間Δt2および第3時間Δt3をそれぞれ0.3ミリ秒、1.2ミリ秒および1.5ミリ秒に設定した場合、騒音低減に有効な位相差0.5周期および1.5周期の相殺は低減対象領域FC(0.9kHz~2.0kHz)に含まれ、騒音低減に不利な位相差1.0周期の増幅は0.9kHz未満になる。これにより、エンジン2の燃焼騒音を効果的に低減することができる。
【0063】
図13は、第1時間Δt
1、第2時間Δt
2および第3時間Δt
3をそれぞれ0.3ミリ秒、1.2ミリ秒および1.5ミリ秒に設定した場合における、エンジン2の燃焼騒音強度のスペクトルを示す図である。
図13において、横軸は周波数(kHz)を示し、縦軸は燃焼騒音レベル(dBA)を示す。
【0064】
第1時間Δt
1、第2時間Δt
2および第3時間Δt
3をそれぞれ0.3ミリ秒、1.2ミリ秒および1.5ミリ秒に設定した場合、上述の
図12に示したように、第1相殺周波数f
1、第2相殺周波数f
2および第3相殺周波数f
3はそれぞれ1.66kHz、1.25kHz、1.0kHzとなり、いずれも低減対象領域FCに含まれる。そして、
図13から理解できるように、第1相殺周波数f
1、第2相殺周波数f
2および第3相殺周波数f
3において、燃焼騒音レベルが低減されている。
【0065】
<Δt1、Δt2、Δt3の要件>
上述のように第1時間Δt1、第2時間Δt2および第3時間Δt3をそれぞれ0.3ミリ秒、1.2ミリ秒および1.5ミリ秒に設定する例は、あくまで一例であって、これに限定されるものではない。
【0066】
第1時間Δt1、第2時間Δt2および第3時間Δt3は、燃焼騒音の低減に有効な位相差0.5周期および1.5周期の相殺が生じる周波数が低減対象領域FCの範囲内であるという要件(以下「相殺要件」ともいう)を満たし、かつ、燃焼騒音の低減に不利な位相差1.0周期の増幅が生じる周波数が低減対象領域FCの範囲外であるという要件(以下「増幅抑制要件」ともいう)を満たす数値であればよい。
【0067】
以下、第1時間Δt1、第2時間Δt2および第3時間Δt3が満たすべき数値要件について説明する。第1時間Δt1、第2時間Δt2および第3時間Δt3が満たすべき数値要件としては、上述の相殺要件と増幅抑制要件とがある。
【0068】
(相殺要件)
以下、第1時間Δt1、第2時間Δt2および第3時間Δt3の相殺要件について説明する。
【0069】
まず、第1時間Δt1の相殺要件について説明する。第1パイロット圧力波W1と第2パイロット圧力波W2との位相差が0.5周期となる第1相殺周波数f1は、低減対象領域FCに含まれていることが望ましい。そのため、第1相殺周波数f1に対して下記の式(1)で示す要件が導かれる。
【0070】
0.9kHz≦f1≦2.0kHz …(1)
また、第1相殺周波数f1は、その定義より、下記の式(2)で示すように第1相殺周期T1の逆数である。
【0071】
f1=1/T1 …(2)
式(1)、(2)より、下記の式(3)が導かれる。
【0072】
0.5ミリ秒≦T1≦1.1ミリ秒 …(3)
ここで、第1パイロット圧力波W1と第2パイロット圧力波W2との位相差は第1パイロットピーク時期P1から第2パイロットピーク時期P2までの第1時間Δt1に相当するため、下記の式(4)に示すように、第1時間Δt1は第1相殺周期T1の0.5倍である。
【0073】
Δt1=0.5T1 …(4)
したがって、第1時間Δt1が満たすべき数値範囲は下記の式(5)のように導かれる。
【0074】
0.25ミリ秒≦Δt1≦0.55ミリ秒 …(5)
式(5)で示される数値範囲が第1時間Δt1の相殺要件である。第1時間Δt1が式(5)に示される相殺要件を満たすことによって、第1パイロット圧力波W1と第2パイロット圧力波W2との間で位相差0.5周期で強い相殺を発生させて騒音を低減することができる。
【0075】
次に、第2時間Δt2の相殺要件について説明する。第2パイロット圧力波W2とメイン圧力波Wmとの位相差が1.5周期となる第2相殺周波数f2も、低減対象領域FCに含まれていることが望ましい。そのため、第2相殺周波数f2に対して下記の式(6)で示す要件が導かれる。
【0076】
0.9kHz≦f2≦2.0kHz …(6)
また、第2相殺周波数f2は、その定義より、下記の式(7)で示すように第2相殺周期T2の逆数である。
【0077】
f2=1/T2 …(7)
式(6)、(7)より、下記の式(8)が導かれる。
【0078】
0.5ミリ秒≦T2≦1.1ミリ秒 …(8)
ここで、第2パイロット圧力波W2とメイン圧力波Wmとの位相差は第2パイロットピーク時期P2からメインピーク時期Pmまでの第2時間Δt2に相当するため、下記の式(9)に示すように、第2時間Δt2は第2相殺周期T2の1.5倍である。
【0079】
Δt2=1.5T2 …(9)
したがって、第2時間Δt2が満たすべき数値範囲は下記の式(10)のように導かれる。
【0080】
0.75ミリ秒≦Δt2≦1.65ミリ秒 …(10)
式(10)で示される数値範囲が第2時間Δt2の相殺要件である。第2時間Δt2が式(10)に示される相殺要件を満たすことによって、第2パイロット圧力波W2とメイン圧力波Wmとの間で位相差1.5周期の強い相殺を発生させて騒音を低減することができる。
【0081】
次に、第3時間Δt3の相殺要件について説明する。第1パイロット圧力波W1とメイン圧力波Wmとの間で位相差が1.5周期となる第3相殺周波数f3も、低減対象領域FCに含まれていることが望ましい。そのため、第3相殺周波数f3に対して下記の式(11)で示す要件が導かれる。
【0082】
0.9kHz≦f3≦2.0kHz …(11)
また、第3相殺周波数f3は、その定義より、下記の式(12)で示すように、第3相殺周期T3の逆数である。
【0083】
f3=1/T3 …(12)
式(11)、(12)より、下記の式(13)が導かれる。
【0084】
0.5ミリ秒≦T3≦1.1ミリ秒 …(13)
ここで、第1パイロット圧力波W1とメイン圧力波Wmとの間で位相差は第1パイロットピーク時期P1からメインピーク時期Pmまでの第3時間Δt3に相当するため、下記の式(14)に示すように、第3時間Δt3は第3相殺周期T3の1.5倍である。
【0085】
Δt3=1.5T3 …(14)
したがって、第3時間Δt3(すなわち第1時間Δt1と第2時間Δt2との合計)が満たすべき数値範囲は、下記の式(15)のように導かれる。
【0086】
0.75ミリ秒≦Δt3≦1.65ミリ秒 …(15)
式(15)で示される数値範囲が第3時間Δt3の相殺要件である。第3時間Δt3が式(15)に示される相殺要件を満たすことによって、第1パイロット圧力波W1とメイン圧力波Wmとの間で位相差1.5周期の強い相殺を発生させて騒音を低減することができる。
【0087】
以上のように、第1時間Δt1、第2時間Δt2および第3時間Δt3が上述の式(5)、(10)、(15)に示す相殺要件をそれぞれ満たすことによって、第1パイロット圧力波W1、第2パイロット圧力波W2およびメイン圧力波Wmの間で低減対象領域FCに含まれる周波数の圧力波を適切に相殺することができる。これにより、エンジン2の燃焼騒音を効果的に低減することができる。
【0088】
(増幅抑制要件)
以下、第2時間Δt2および第3時間Δt3の増幅抑制要件について説明する。
【0089】
第2パイロット圧力波W2とメイン圧力波Wmとの間で位相差1.0周期の強い増幅が生じるため、この強い増幅が生じる周波数を0.9kHz以下に抑えてエンジン2のシリンダブロックなどの構造体によって減衰させることが望ましい。そのため、第2パイロット圧力波W2とメイン圧力波Wmとの間で位相差1.0周期の強い増幅が生じる圧力波の周波数を「増幅周波数fa2」とすると、増幅周波数fa2に対して下記の式(16)で示す要件が導かれる。
【0090】
fa2≦0.9kHz …(16)
第2パイロット圧力波W2とメイン圧力波Wmとの間で位相差1.0周期の強い増幅が生じる圧力波の周期を「増幅周期Ta2」とすると、fa2=1/Ta2であるため、式(16)は下記の式(17)のように変形することができる。
【0091】
1.1ミリ秒≦Ta2 …(17)
ここで、第2パイロット圧力波W2とメイン圧力波Wmとの間で位相差は第2パイロットピーク時期P2からメインピーク時期Pmまでの第2時間Δt2に相当する。そのため、第2時間Δt2は、下記の式(18)で表わされる。
【0092】
Δt2=Ta2 …(18)
よって、第2時間Δt2が満たすべき数値範囲は、下記の式(19)のように導かれる。
【0093】
1.1ミリ秒≦Δt2 …(19)
式(19)で示される数値範囲が第2時間Δt2の増幅抑制要件である。第2時間Δt2が式(19)に示される増幅抑制要件を満たすことによって、第2パイロット圧力波W2とメイン圧力波Wmとの間で位相差1.0周期の強い増幅が生じる周波数を0.9kHz以下に抑えて構造的に減衰させることができる。
【0094】
同様に、第1パイロット圧力波W1とメイン圧力波Wmとの間でも位相差1.0周期の強い増幅が生じるため、この強い増幅が生じる周波数を0.9kHz以下に抑えてエンジン2のシリンダブロックなどの構造体によって減衰させることが望ましい。そのため、第1パイロット圧力波W1とメイン圧力波Wmとの間で位相差1.0周期の強い増幅が生じる圧力波の周波数を「増幅周波数fa3」とすると、増幅周波数fa3に対して下記の式(20)で示す要件が導かれる。
【0095】
fa3≦0.9kHz …(20)
第1パイロット圧力波W1とメイン圧力波Wmとの間で位相差1.0周期の強い増幅が生じる圧力波の周期を「増幅周期Ta3」とすると、fa3=1/Ta3であるため、式(20)は下記の式(21)のように変形することができる。
【0096】
1.1ミリ秒≦Ta3 …(21)
ここで、第1パイロット圧力波W1とメイン圧力波Wmとの間で位相差は第1パイロットピーク時期P1からメインピーク時期Pmまでの第3時間Δt3に相当する。そのため、第3時間Δt3は、下記の式(22)で表わされる。
【0097】
Δt3=Ta3 …(22)
よって、第3時間Δt3が満たすべき数値範囲は、下記の式(23)のように導かれる。
【0098】
1.1ミリ秒≦Δt3 …(23)
式(23)で示される数値範囲が第3時間Δt3の増幅抑制要件である。第3時間Δt3が式(23)に示される増幅抑制要件を満たすことによって、第1パイロット圧力波W1とメイン圧力波Wmとの間で位相差1.0周期の強い増幅が生じる周波数を0.9kHz以下に抑えて構造的に減衰させることができる。
【0099】
(Δt1、Δt2の要求範囲)
上述したように、相殺要件および増幅抑制要件は以下のとおりである。
【0100】
0.25ミリ秒≦Δt1≦0.55ミリ秒 …(5)
0.75ミリ秒≦Δt2≦1.65ミリ秒 …(10)
0.75ミリ秒≦Δt3≦1.65ミリ秒 …(15)
1.1ミリ秒≦Δt2 …(19)
1.1ミリ秒≦Δt3 …(23)
さらに、第3時間Δt3は第1時間Δt1と第2時間Δt2との合計であるため、下記の式(24)で示す関係が成立する。
【0101】
Δt3=Δt1+Δt2 …(24)
式(10)、(19)より、下記の式(25)が導かれる。
【0102】
1.1ミリ秒≦Δt2≦1.65ミリ秒 …(25)
式(15)、(23)、(24)より、下記の式(26)が導かれる。
【0103】
1.1ミリ秒≦Δt1+Δt2≦1.5ミリ秒 …(26)
したがって、Δt1、Δt2の要求範囲は上記の式(5)、(25)、(26)にまとめられる。
【0104】
図14は、第1時間Δt
1、第2時間Δt
2の要求範囲を示す図である。
図14において、横軸は第1時間Δt
1を示し、縦軸は第2時間Δt
2を示す。
図14に示す斜線部分が第1時間Δt
1、第2時間Δt
2の要求範囲である。第1時間Δt
1、第2時間Δt
2をこの範囲に含まれる数値に設定することによって、上述の相殺要件および増幅抑制要件を満たすことができる。
【0105】
上述の
図12に示したように第1時間Δt
1、第2時間Δt
2および第3時間Δt
3をそれぞれ0.3ミリ秒、1.2ミリ秒および1.5ミリ秒に設定する例は、
図13に示すΔt
1、Δt
2の要求範囲を満たす一例である。
【0106】
以上のように、本実施の形態による制御装置100は、相殺要件を示す式(5)、(10)、(15)を満たすように、第1パイロット噴射、第2パイロット噴射およびメイン噴射の各噴射時期を制御する。これにより、低減対象領域FCである0.9kHz~2.0kHzの範囲に含まれる周波数の圧力波同士を適切に相殺して、エンジン2の燃焼騒音を効果的に低減することができる。
【0107】
さらに、本実施の形態による制御装置100は、相殺要件を示す式(5)、(10)、(15)に加えて増幅抑制要件を示す式(19)、(23)を満たすように、第1パイロット噴射、第2パイロット噴射およびメイン噴射の各噴射時期を制御する。これにより、第2パイロット圧力波W2とメイン圧力波Wmとの間で位相差1.0周期の強い増幅が生じる周波数を0.9kHz以下に抑えて構造的に減衰させることができるとともに、第1パイロット圧力波W1とメイン圧力波Wmとの間で位相差1.0周期の強い増幅が生じる周波数を0.9kHz以下に抑えて構造的に減衰させることができる。
【0108】
本実施の形態における相殺要件を示す式(5)、(10)、(15)は、本開示の式「(A)」、「(B)」、「(C)」にそれぞれ対応し得る。また、本実施の形態における増幅抑制要件を示す式(19)、(23)は、本開示の式「D」、「E」にそれぞれ対応し得る。
【0109】
なお、本実施の形態においては、相殺要件および増幅抑制要件の双方の要件を満たすようにしたが、必ずしも双方の要件を満たすことに限定されず、相殺要件のみを満たすようにしてもよい。
【0110】
[変形例]
上述の実施の形態においては、0.9kHz~2.0kHzの範囲を低減対象領域FCとして、相殺要件および増幅抑制要件を満たすように第1時間Δt1、第2時間Δt2および第3時間Δt3を設定する例について説明した。
【0111】
しかしながら、低減対象領域FCは必ずしも0.9kHz~2.0kHzの領域に限定されるものではない。低減対象領域FCを下限値Fminから上限値Fmaxまでの範囲とする場合、相殺要件および増幅抑制要件は以下のように表わすことができる。
【0112】
まず、相殺要件について説明する。
第1相殺周波数f1は下記の式(1.1)で示す要件を満たすことが望まれる。
【0113】
Fmin≦f1≦Fmax …(1.1)
上述の式(2)で示すようにf1=1/T1であるため、式(1.1)は下記の式(3.1)に変形することができる。
【0114】
1/Fmax≦T1≦1/Fmin …(3.1)
上述の式(4)に示すようにΔt1=0.5T1であるため、第1時間Δt1の相殺要件は下記の式(5.1)のように表わすことができる。
【0115】
0.5(1/Fmax)≦Δt1≦0.5(1/Fmin) …(5.1)
また、第2相殺周波数f2も下記の式(6.1)で示す要件を満たすことが望まれる。
【0116】
Fmin≦f2≦Fmax …(6.1)
上述の式(7)で示すようにf2=1/T2であるため、式(6.1)は下記の式(8.1)に変形することができる。
【0117】
1/Fmax≦T2≦1/Fmin …(8.1)
上述の式(9)に示すようにΔt1=1.5T2であるため、第2時間Δt2の相殺要件は下記の式(10.1)のように表わすことができる。
【0118】
1.5(1/Fmax)≦Δt2≦1.5(1/Fmin) …(10.1)
また、第3相殺周波数f3も下記の式(11.1)で示す要件を満たすことが望まれる。
【0119】
Fmin≦f3≦Fmax …(11.1)
上述の式(12)で示すようにf3=1/T3であるため、式(11.1)は下記の式(13.1)に変形することができる。
【0120】
1/Fmax≦T3≦1/Fmin …(13.1)
上述の式(14)に示すようにΔt3=1.5T3であるため、第3時間Δt3の相殺要件は下記の式(15.1)のように表わすことができる。
【0121】
1.5(1/Fmax)≦Δt3≦1.5(1/Fmin) …(15.1)
次に、増幅抑制要件について説明する。
【0122】
増幅周波数fa2は下記の式(16.1)で示す要件を満たすことが望まれる。
fa2≦Fmin …(16.1)
fa2=1/Ta2であるため、式(16.1)は下記の式(17.1)のように変形することができる。
【0123】
1/Fmin≦Ta2 …(17.1)
上述の式(18)で示すようにΔt2=Ta2であるため、第2時間Δt2の増幅抑制要件は、下記の式(19.1)のように導かれる。
【0124】
1/Fmin≦Δt2 …(19.1)
同様に、増幅周波数fa3は下記の式(20.1)で示す要件を満たすことが望まれる。
【0125】
fa3≦Fmin …(20.1)
fa3=1/Ta3であるため、式(20.1)は下記の式(21.1)のように変形することができる。
【0126】
1/Fmin≦Ta3 …(21.1)
上述の式(22)で示すようにΔt3=Ta3であるため、第3時間Δt3の増幅抑制要件は、下記の式(23.1)のように導かれる。
【0127】
1/Fmin≦Δt3 …(23.1)
本変形例による制御装置100は、相殺要件を示す式(5.1)、(10.1)、(15.1)を満たすように、第1パイロット噴射、第2パイロット噴射およびメイン噴射の各噴射時期を制御する。これにより、低減対象領域FCである下限値Fminから上限値Fmaxまでの範囲に含まれる周波数の圧力波同士を適切に相殺して、エンジン2の燃焼騒音を効果的に低減することができる。
【0128】
さらに、本変形例による制御装置100は、相殺要件を示す式(5.1)、(10.1)、(15.1)に加えて増幅抑制要件を示す式(19.1)、(23.1)を満たすように、第1パイロット噴射、第2パイロット噴射およびメイン噴射の各噴射時期を制御する。これにより、第2パイロット圧力波W2とメイン圧力波Wmとの間で位相差1.0周期の強い増幅が生じる周波数を下限値Fmin以下に抑えて構造的に減衰させることができるとともに、第1パイロット圧力波W1とメイン圧力波Wmとの間で位相差1.0周期の強い増幅が生じる周波数を下限値Fmin以下に抑えて構造的に減衰させることができる。
【0129】
本変形例における相殺要件を示す式(5.1)、(10.1)、(15.1)は、本開示の式「(A1)」、「(B1)」、「(C1)」にそれぞれ対応し得る。また、本変形例における増幅抑制要件を示す式(19.1)、(23.1)は、本開示の式「D1」、「E1」にそれぞれ対応し得る。
【0130】
上述した実施の形態およびその変形例については、適宜組合せることも可能である。
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本開示の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0131】
1 エンジンシステム、2 エンジン、3 気筒、5 インジェクタ、6 コモンレール、7 ノズル、10 吸気通路、11 吸気マニホールド、16 排気通路、17 排気マニホールド、27 高圧ポンプ、100 制御装置。