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特許7265506アルミニウム合金クラッド材、熱交換器用部材および熱交換器の製造方法
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  • 特許-アルミニウム合金クラッド材、熱交換器用部材および熱交換器の製造方法 図1
  • 特許-アルミニウム合金クラッド材、熱交換器用部材および熱交換器の製造方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-18
(45)【発行日】2023-04-26
(54)【発明の名称】アルミニウム合金クラッド材、熱交換器用部材および熱交換器の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 21/00 20060101AFI20230419BHJP
   C22C 21/10 20060101ALI20230419BHJP
   F28F 1/32 20060101ALI20230419BHJP
   F28F 19/06 20060101ALI20230419BHJP
   C22F 1/053 20060101ALN20230419BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20230419BHJP
   C22F 1/04 20060101ALN20230419BHJP
【FI】
C22C21/00 E
C22C21/10
C22C21/00 J
F28F1/32 B
F28F19/06 A
F28F19/06 B
C22F1/053
C22F1/00 627
C22F1/00 630M
C22F1/00 640A
C22F1/00 651A
C22F1/00 682
C22F1/00 683
C22F1/00 694B
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 685Z
C22F1/00 623
C22F1/00 684Z
C22F1/04 Z
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020113168
(22)【出願日】2020-06-30
(65)【公開番号】P2022022649
(43)【公開日】2022-02-07
【審査請求日】2022-03-22
(73)【特許権者】
【識別番号】522160125
【氏名又は名称】MAアルミニウム株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100091926
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 幸喜
(72)【発明者】
【氏名】森 祥基
(72)【発明者】
【氏名】吉野 路英
(72)【発明者】
【氏名】江戸 正和
(72)【発明者】
【氏名】岩尾 祥平
(72)【発明者】
【氏名】三宅 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】内多 陽介
(72)【発明者】
【氏名】本間 伸洋
(72)【発明者】
【氏名】山田 詔悟
【審査官】河口 展明
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-207276(JP,A)
【文献】特開平7-197160(JP,A)
【文献】特開2005-254329(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 21/00-21/18
F28F 1/32
F28F 19/06
C22F 1/053
C22F 1/00
C22F 1/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯材の両面に犠牲材が配置され、前記芯材の組成が質量%で、Mn:0.7~1.8%、Si:0.3~1.3%、Fe:0.05~0.7%、Zn:0.5~3.0%を含有し、残部がAlおよび不可避不純物からなり、前記犠牲材の組成が質量%で、Mn:0.005~0.7%、Fe:0.05~0.3%、Zn:1.0~4.0%を含有し、残部がAlおよび不可避不純物からなり、前記犠牲材のZn含有量が前記芯材のZn含有量よりも質量%で0.2%以上高く、前記芯材のろう付熱処理後の電位が-700~-870mVの範囲にあることを特徴とするアルミニウム合金クラッド材。
【請求項2】
前記犠牲材と前記芯材の電位差(芯材電位-犠牲材電位)が、ろう付熱処理後に20~100mVであることを特徴とする請求項1に記載のアルミニウム合金クラッド材。
【請求項3】
前記芯材のろう付熱処理後のMn固溶量が、前記犠牲材のMn固溶量よりも質量%で0.2%以上高いことを特徴とする請求項1または2に記載のアルミニウム合金クラッド材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、犠牲陽極効果に優れたアルミニウム合金クラッド材、熱交換器用部材および熱交換器の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、車内の空調やエンジンオイルなどを冷却するための自動車用熱交換器の需要が増えている。これらの熱交換器では、外部は塩害や結露水等で腐食環境にさらされ、内部の冷却水流路もまた、腐食しやすい環境であるために高い耐食性が要求される。
さらに、自動車用熱交換器は、ろう付熱処理によって各他部材と接合することが必要であることから、当該用途には犠牲材、芯材、ろう材からなるアルミニウム合金クラッド材が使用されることが多い。しかし、このような用途に使用される熱交換器は種々の形態をとり、また、複雑な構造を持つこともあり、例えば犠牲効果のあるフィンを配置することにより防食する場合がある。
【0003】
フィンに犠牲効果を与えるものとしては、特許文献1や特許文献2が提案されている。
特許文献1では、芯材にMgを含有することで強度を高めている。特許文献2では、犠牲材にSnを含有することで、犠牲陽極効果を高めている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平5-125477号公報
【文献】特許第2607245号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、フィンでチューブを犠牲防食するためには、フィンをチューブよりも卑な電位に設定する必要がある。一方で電位を卑にしすぎるとフィンの腐食速度が過度に速くなり早期にフィンが消耗して犠牲陽極効果が無くなってしまう。
さらに、ろう付時にフラックスを多量に塗布する場合や、真空ろう付にてろう付を行う場合では、ろう付中に材料中のZnが蒸発することによりフィンの腐食形態が悪化し、フィンの早期消耗により犠牲陽極効果が無くなってしまう。
【0006】
本発明は、上記事情を背景としてなされたものであり、材料の電位を適切に設定することで、適切な犠牲防食を可能にするアルミニウム合金クラッド材、熱交換器用部材および熱交換器の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のアルミニウム合金クラッド材のうち、第1の形態は、芯材の両面に犠牲材が配置され、前記芯材の組成が質量%で、Mn:0.7~1.8%、Si:0.3~1.3%、Fe:0.05~0.7%、Zn:0.5~3.0%を含有し、残部がAlおよび不可避不純物からなり、前記犠牲材の組成が質量%で、Mn:0.005~0.7%、Fe:0.05~0.3%、Zn:1.0~4.0%を含有し、残部がAlおよび不可避不純物からなり、前記犠牲材のZn含有量が前記芯材のZn含有量よりも質量%で0.2%以上高く、前記芯材のろう付熱処理後の電位が-700~-870mVの範囲にあることを特徴とする。
【0008】
第2の形態のアルミニウム合金クラッド材の発明は、前記形態の発明において、前記犠牲材と前記芯材の電位差が20~100mVあることを特徴とする。
【0009】
第3の形態のアルミニウム合金クラッド材は、前記形態の発明において、ろう付熱処理後の前記芯材のMn固溶量が前記犠牲材のMn固溶量よりも0.2%以上高いことを特徴とする。
【0010】
以下に、本発明で規定している技術的事項の限定理由について説明する。なお、犠牲材および芯材に含まれる成分の含有量は質量%で示される。
【0011】
[芯材]
Mn:0.7~1.8%
Mnは強度を向上させる元素である。ただし、含有量が少ないと、所望の効果が十分に得られず、過大に含有すると製造性(鋳造性,圧延性)を悪化させる。これらの理由により、Mn含有量は上記範囲とする。同様の理由により、Mn含有量の下限は0.7%、上限は、1.6%とするのが望ましい。
【0012】
Si:0.3~1.3%
Siは強度を向上させる元素である。ただし、Si含有量が少ないと、所望の効果が得られず、過大に含有すると融点が低下することで、ろう付熱処理時にフィンが座屈してしまいろう付性が低下する。これらの理由により、Siを含有する場合は、Si含有量は上記範囲内とする。同様の理由により、下限は0.3%、上限は1.1%とするのが望ましい。
【0013】
Fe:0.05~0.7%
Feは強度を向上させる元素である。ただし、含有量が過大であると、鋳造時に巨大金属間化合物が発生し製造性を悪化させ、耐食性も劣化する。また、下限については、鋳造時の原料に不純物として存在しているため、下限未満とすると製造コストが増大となる。これらの理由により、Fe含有量は上記範囲内とする。同様の理由により、下限を0.05%、上限を0.4%とするのが望ましい。
【0014】
Zn:0.5~3.0%
Znは、犠牲陽極効果を増大させるために含有させる。ただし、Zn含有量が少ないと、所望の効果が得られず、含有量が過大であると、腐食速度促進により早期に犠牲陽極効果が喪失する。同様の理由により、下限を1.0%、上限を2.5%とするのが望ましい。
【0015】
[犠牲材]
芯材の両面には犠牲材が配置される。それぞれの面の犠牲材は同一の組成でもよく、また、以下の組成の範囲内において組成が異なるものであってもよい。
【0016】
Mn:0.005~0.7%
Mnは、強度向上のため含有させる。ただし、含有量が過大であると、製造性(鋳造性、圧延性)を劣化させる。さらに、犠牲材のMn含有量が芯材の含有量よりも過大となると、ろう付熱処理後に犠牲材と芯材に固溶しているMnの差が取れなくなり、犠牲材が残存したまま芯材まで腐食が生じ、腐食形態が悪化する。また、下限については、鋳造時の原料に不純物として存在しているため、下限未満とすると製造コストが増大となる。これらの理由により、Fe含有量は上記範囲内とする。なお、同様の理由により、Mn含有量は下限を0.005%、上限を0.5%とするのが望ましい。
【0017】
Fe:0.05~0.3%
Feは、強度向上のため含有させる。ただし、含有量が過大であると、鋳造時の巨大金属間化合物が生成することで製造性を悪化させ、耐食性も劣化させる。また、下限については、鋳造時の原料に不純物として存在しているため、下限未満とすると製造コストが増大となる。これらの理由により、Fe含有量は上記範囲に定める。なお、同様の理由により、Fe含有量は、上限を0.2%とするのが望ましい。
【0018】
Zn:1.0~4.0%
Znは、犠牲陽極効果を増加させる。ただし、含有量が過小であると所望の効果が得られず、孔食の発生や犠牲材が残存したまま芯材まで腐食が生じ、腐食形態が悪化する。一方、含有量が過大であると、腐食速度促進により早期に犠牲陽極効果が喪失する。さらに、フィレットの優先腐食が生じる。これらの理由によりZnの含有量は上記範囲に定める。
なお、同様の理由により、Zn含有量は下限を1.5%、上限を3.5%とするのが望ましい。
【0019】
犠牲材の不可避不純物としてSi、Cu、Mg、Cr、Tiなどを0.05%の範囲で含有してもよい。またSiに関しては0.1%まで含有しても差し支えない。
【0020】
[芯材と犠牲材の関係]
犠牲材のZn含有量が芯材のZn含有量よりも質量%で0.2%以上高い。
犠牲材のZn含有量を芯材のZn含有量よりも、0.2%以上高くすることで、犠牲材が優先的に腐食し、フィンの腐食形態が良化する。犠牲材のZn含有量が芯材のZn含有量よりも低い場合は、犠牲材が残存したまま芯材にも腐食が進行し、腐食形態の悪化が生じる。
【0021】
ろう付熱処理後の芯材のMn固溶量が犠牲材のMn固溶量よりも質量%で0.2%以上高い。
ろう付熱処理時には、材料中の元素が拡散するため、犠牲材に添加されているZnが芯材に拡散してしまう。その場合、犠牲材と芯材の電位差が小さくなってしまい、腐食が板厚方向に進行しやすくなる。一方、Mnはろう付熱処理時ではほとんど拡散しないため、犠牲材と芯材の電位差が小さい場合でも、芯材のMn固溶量を犠牲材よりも高くすることで、犠牲材と芯材の界面近傍の電位差が大きくなり、犠牲材が優先的に腐食し、フィンの腐食形態が良化する。以上の理由により、Mn固溶量は上記範囲に定める。
ろう付熱処理としては、一例として室温から600℃まで20分間で昇温し、600℃で3分間保持する条件が挙げられる。以下も同様である。ただし、本発明としてはろう付条件が上記に限定されるものではない。
【0022】
[電位]
芯材のろう付熱処理後の電位が-720~-870mVの範囲
所定の電位を有することで犠牲陽極効果が得られる。電位が高すぎると、所望の効果が得られず、電位が低すぎると腐食速度促進により早期に犠牲陽極効果が喪失する。
【0023】
犠牲材と芯材の電位差(芯材電位-犠牲材電位):20mV~100mV
上記電位差を有することで、フィンの腐食形態が良化する。電位差が過小であると、犠牲材が残存したまま芯材も腐食が生じ、腐食形態が悪化する。電位差が過大であると腐食速度促進により早期に犠牲陽極効果が喪失する。
【発明の効果】
【0024】
以上説明したように、本発明によれば、材料の電位を適切に設定することでろう付相手材との電位差を適正にして良好な犠牲陽極効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の一実施形態のアルミニウム合金クラッド材の断面を示す図である。
図2】一実施形態のアルミニウム合金クラッド材を用いて製造された熱交換器の斜視図である。
【0026】
以下に、本発明の実施形態を説明する。
本発明の組成を有する芯材用アルミニウム合金および犠牲材用アルミニウム合金を用意する。これら合金は、常法により製造することができ、その製法は特に限定されない。例えば、半連続鋳造によって製造することができる。
【0027】
芯材用アルミニウム合金には、質量%でMn:0.7~1.8%、Si:0.3~1.3%、Fe:0.05~0.7%、Zn:0.5~3.0%を含有し、残部がAlおよび不可避不純物からなる組成を有する合金を用いる。
犠牲材用アルミニウム合金には、質量%で、Mn:0.005~0.7%、Fe:0.05~0.3%、Zn:1.0~4.0%を含有し、残部がAlおよび不可避不純物からなる組成を有する合金を用いる。
なお、組成の選定では、犠牲材のZn含有量が芯材のZn含有量も質量%で0.2%以上高いように設定するのが望ましい。
【0028】
芯材用アルミニウム合金または犠牲材用アルミニウム合金は、溶製した後、所望により均質化処理を施すことができる。均質化処理では、鋳造時にマトリクスに過飽和に固溶したMnが金属間化合物として析出する。析出する金属間化合物のサイズや分散量は均質化処理の温度、時間に影響を及ぼされるため、適切な熱処理条件を選択する必要がある。
一般的に高温の熱処理を行うと金属間化合物の析出・成長が促進され、Mn固溶度は低くなり、逆に低温で熱処理を行うと金属間化合物の析出・成長が抑制されMn固溶度は高くなる。また、均質化処理により析出する金属間化合物を微細にすると、ろう付熱処理により析出物が再度溶融し、材料中に固溶するためろう付熱処理後のMn固溶量は増加する。一方、均質化処理により析出する金属間化合物を粗大にすると、ろう付熱処理中では化合物の一部は溶融するが、完全には溶融しないためろう付熱処理後のMn固溶量は減少する。
本発明では、芯材のMn固溶量が犠牲材のMn固溶量よりも質量%で0.2%以上高くすることでフィンの腐食形態が良化するため、均質化処理や熱間圧延、焼鈍温度条件を適切に組み合わせることでMn固溶量を制御する必要がある。
【0029】
本実施形態では、芯材と犠牲材のMn固溶量の差によりフィン材の腐食形態を良化させるため、芯材に対しては400℃~500℃で4~16時間均質化処理を行い、析出物を微細に析出させる。一方で犠牲材は、基本的には均質化処理を施さないが、芯材よりも高温の500℃~600℃で4~16時間の均質化処理を行い、芯材に対して犠牲材の析出物を粗大にすることで、犠牲材中に固溶するMn量を減少させ腐食形態を良化させる。
【0030】
芯材用アルミニウム合金および犠牲材用アルミニウム合金は、熱間圧延を経て板材とされる。また連続鋳造圧延を経て板材とするものであってもよい。
熱間圧延では、仕上げ温度を設定することができる。
通常熱間圧延は500℃前後の高温で負荷されるが、圧延終了後にコイル化され室温まで冷却される。この場合、熱間圧延の仕上げ温度により高温で保持される時間が変わるため、金属間化合物の析出挙動に影響を及ぼす。
【0031】
板材は、熱間圧延後、さらに冷間圧延を行うことで所望の厚さのアルミニウム合金クラッド材が得られる。
本発明としては、クラッド材のクラッド率は特に限定されるものではないが、例えば犠牲材の片面の厚さ5~25%、芯材厚さ50~90%などが用いられる。
なお、上記では、芯材に直接犠牲材が重ね合わされるものとして説明したが、他の層が介在するものとしてもよい。
【0032】
クラッド材は、冷間圧延によって、例えば厚さ0.05~0.20mmとする。なお、冷間圧延途中には、中間焼鈍を行ってもよい。中間焼鈍の条件は、例えば、150~400℃、1~10時間の範囲から選択できる。ただし、中間焼鈍温度が高温となると、焼鈍時に金属間化合物の析出・成長が促進され、犠牲材と芯材の間のMn固溶量差が小さくなってしまうため、300℃以下の温度で行う事が望ましい。
【0033】
これら板材は、図1に示すように、芯材2の片面に犠牲材3a、他の片面に犠牲材3bを配置し、重ね合わせた状態で適宜のクラッド率でクラッドされてアルミニウム合金クラッド材1とされる。なお、犠牲材3a、3bは同じ組成でもよく、また、上記した組成の範囲内で異なる組成とするものであってもよい。
【0034】
得られたクラッド材は、例えば、熱交換器用チューブ材、フィンなどとして使用することができる。犠牲材3a、3bと芯材2とは、20~100mVの電位差を有している。
熱交換器用フィン材は、チューブなど、適宜の被ろう付部材とろう付接合される。
被ろう付部材の材質、形状などは本発明としては特に限定されるものではなく、適宜のアルミニウム材料を用いることが可能である。
【0035】
ろう付時の熱処理条件は590~615℃まで昇温することを除いて特に限定されないが、例えば、550℃から目標温度までの到達時間が1分~10分となるような昇温速度で加熱し、590~615℃の目標温度で1分~20分間保持し、その後、300℃まで50~100℃/minで冷却した後、室温までを空冷とする条件で行うことができる。
ろう付熱処理後には、芯材のMn固溶量が犠牲材のMn固溶量も質量%で0.2%以上高くなっているのが望ましい。
【0036】
また、ろう付後において、芯材の電位が-720~-870mVの範囲内にある。
なお、被防食部材である、ろう付相手部材の芯材の電位は一般的に用いられるAl-Mn系合金を考慮しているため、芯材の電位のみを規定している。
電位は、材料の組成および製造条件により調製する。
【0037】
図2は、上記アルミニウム合金クラッド材を用いてフィン5を形成し、ろう付対象材としてアルミニウム合金製のチューブ6を用いたアルミニウム製自動車用熱交換器4を示している。フィン5、チューブ6を、補強材7、ヘッダプレート8と組み込んで、ろう付によってアルミニウム製自動車用熱交換器4を得ている。
【実施例1】
【0038】
表1に示す組成(残部がAlと不可避不純物)に基づいて、半連続鋳造により犠牲材および芯材用アルミニウム合金を鋳造した。犠牲材および芯材用アルミニウム合金には、表に示す組成(残部Alおよび不可避不純物)を有する合金を用いた。次に、実施例に示す条件で均質化処理を行い、熱間圧延、冷間圧延を行った後に、中間焼鈍を実施し、冷間圧延にて板厚0.2mmまで圧延を行うことで質別H14の板材を作製した。クラッド材では、犠牲材片面のクラッド率が10%となるように作製した。
【0039】
得られた供試材について以下の評価方法を実施した。各評価結果は表2に示した。
【0040】
[供試材単体の腐食評価]
最終圧延後の板厚0.20mmの供試材にろう付熱処理を実施し、腐食試験に供する材料とした。
【0041】
[犠牲防食の評価]
コルゲート加工された板厚0.20mmの供試材を、板厚0.3mmのブレージングシート(クラッド構成:ろう材(10%)/芯材(75%)/犠牲材(15%)、ろう材:JIS A4045合金、芯材:Al-1.0Mn-0.5Cu合金、犠牲材:JIS A7072合金)のろう材面に組み付けたものに、ろう付熱処理を実施した。
【0042】
ろう付条件として、フラックスとしてK1-3AlF4-6を10g/m塗布したサンプルを、高純度窒素ガス雰囲気中で室温から600℃まで20分間で昇温し、600℃で3分間保持した後、60℃/分で300℃まで冷却するろう付相当熱処理を施した。
【0043】
その後、供試材の犠牲材面をマスキングし、供試材及びブレージングシートのろう材面が露出した状態で、OY水(Cl:195ppm, SO 2-:60ppm, Cu2+:1ppm, Fe3+:30ppm残部純水)による浸漬試験を実施した。試験条件は室温×16h+88℃8h(撹拌なし)を1日のサイクルとし、フィン単体の腐食評価では2週間、犠牲防食の評価では8週間浸漬した。その後、リン酸クロム酸で腐食生成物を除去し、供試材の腐食形態及びブレージングシート腐食部の深さを評価した。
【0044】
[単体の腐食評価基準]
×;芯材の優先腐食が発生(芯材:板厚中央部のみが優先的に腐食)
〇;一部孔食が見られる(一部、犠牲材を溶け残して芯材が腐食)
〇〇;大部分が面状腐食であるが、極一部孔食が見られる。
〇〇〇;全面が面状腐食
【0045】
[犠牲防食の評価基準]
×;ブレージングシートに貫通孔が発生。
〇;ブレージングシートに生じた腐食深さが板厚の半分(0.125mm)以上、貫通
未満
〇〇;ブレージングシートに生じた腐食深さが板厚の半分(0.125mm)未満
〇〇〇;ブレージングシートに生じた腐食深さが板厚の1/4(0.06mm)未満
【0046】
[自然電位の測定]
5%NaCl溶液を酢酸によりpHを3.0に調整した溶液で、銀塩化銀電極を用いて、フィンの芯材および犠牲材の自然電位を測定した。
【0047】
[ろう付熱処理後強度の評価]
ろう付相当熱処理後の材料をJIS5号試験片形状にフライス加工し、引張試験により強度を測定した。
【0048】
[ろう付熱処理後強度の評価基準]
×;ろう付熱処理後の引張強さが90MPa未満
○;ろう付熱処理後の引張強さが90MPa以上、120MPa未満
○○;ろう付熱処理後の引張強さが120MPa以上
【0049】
[Mn固溶度の測定]
ろう付熱処理後のフィン材を10%NaOH溶液によりエッチングし、芯材および犠牲材のみサンプルを作製した。その後、フェノールにより芯材、および犠牲材をそれぞれ溶解し、得られた溶液をICP発光分光分析にかけることでMnの固溶量を測定した。
【0050】
【表1】
【0051】
【表2】
【0052】
本実施例では、本発明のクラッド材に相当するフィンと相手材であるチューブとの組み合わせを想定し、フィンの電位をチューブの電位に対して適切な範囲に設定可能とすることでチューブを犠牲防食し、かつフィンの早期の消耗を抑制することを明らかにした。また、フィンの両面に犠牲材を付与し、フィン芯材と犠牲材の電位も適切な範囲に設定することにより、犠牲材が優先的に腐食することにより板厚方向への腐食を抑制し、腐食形態を改善する効果がある。
なお、本明細書では、課題、効果においてアウターフィンを代表的に用いて説明しているが、本発明がアウターフィンに限定されるものでなく、アウターフィン以外のフィンやその他の用途においても同様の効果を得ることができる。
【0053】
以上、本発明について、上記実施形態および実施例に基づいて説明したが、本発明はこれら説明の内容に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱しない限りは、前記実施形態に対する適宜の変更が可能である。
【符号の説明】
【0054】
1 クラッド材
2 芯材
3a 犠牲材
3b 犠牲材
4 熱交換器
5 フィン
6 チューブ
図1
図2