(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-18
(45)【発行日】2023-04-26
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池用負極板の製造方法、リチウムイオン二次電池用負極板及び、リチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/139 20100101AFI20230419BHJP
H01M 4/1393 20100101ALN20230419BHJP
【FI】
H01M4/139
H01M4/1393
(21)【出願番号】P 2020142560
(22)【出願日】2020-08-26
【審査請求日】2022-02-28
(73)【特許権者】
【識別番号】399107063
【氏名又は名称】プライムアースEVエナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】中藤 広樹
(72)【発明者】
【氏名】若松 直樹
【審査官】森 透
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-362859(JP,A)
【文献】特開2011-204571(JP,A)
【文献】特開2009-289586(JP,A)
【文献】特開2016-021332(JP,A)
【文献】国際公開第2017/138193(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/13
H01M 4/02
H01M 10/052
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極集電体と、当該負極集電体上に形成された負極層とを備えるリチウムイオン二次電池用負極板の製造方法であって、
溶媒と負極活物質とを少なくとも含み、時間経過に伴い気泡が発生する性質を有するスラリーを前記負極集電体上に塗工する塗工工程と、
前記塗工したスラリーの表層側を乾燥させる第1の乾燥工程と、
前記スラリーの内部において気泡を発生させる気泡発生工程と、
前記塗工したスラリーを乾燥させて前記負極層を形成する第2の乾燥工程と、を備え、
前記負極層の前記負極集電体側における密度が前記負極層の表層側における密度よりも小さくなるように、前記スラリーの内部において前記気泡を発生さ
せ、
前記スラリーは、前記溶媒と反応して気泡を発生させる添加剤を含み、
前記気泡発生工程において、前記溶媒と前記添加剤とを反応させることによって、前記スラリーの内部において前記気泡を発生させ、
前記添加剤は、
前記溶媒が水の場合、アルミニウム及び酸化カルシウムのうちの少なくとも1つを含み、
前記溶媒が硫酸の場合、亜鉛、塩化ナトリウム、フッ化カルシウム、硫化鉄、及び銅のうちの少なくとも1つを含み、
前記溶媒が塩酸の場合、酸化マンガン及び炭酸カルシウムのうちの少なくとも1つを含み、
前記溶媒が硝酸の場合、銅を含む、
リチウムイオン二次電池用負極板の製造方法。
【請求項2】
前記第1の乾燥工程における乾燥条件を変更することで、前記負極層の表層側における密度を制御する、請求項
1に記載のリチウムイオン二次電池用負極板の製造方法。
【請求項3】
前記気泡発生工程における気泡発生時間を変更することで、前記負極層の前記負極集電体側における密度を制御する、請求項1
又は2に記載のリチウムイオン二次電池用負極板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はリチウムイオン二次電池用負極板の製造方法、リチウムイオン二次電池用負極板及び、リチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウムイオン二次電池は、電気自動車やハイブリッド自動車などの電源として広く利用されている。リチウムイオン二次電池は、リチウムイオンを吸蔵・放出する正極及び負極の間を、電解液中のリチウムイオンが移動することで充放電可能な二次電池である。
【0003】
特許文献1は、負極層の面方向において、空隙率の異なる部分を形成することによって、電極面方向の電子伝導性とリチウムイオン伝導性を向上させたリチウムイオン二次電池用電極を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
リチウムイオン二次電池は、電解液中のリチウムイオンが正極及び負極の間を移動することで充放電される。しかしながら、低温での使用や大電流での充電により、リチウムが電極に析出する場合がある。このようにリチウムが電極に析出すると、リチウムイオン二次電池の電池容量やエネルギー密度が低下するという問題がある。
【0006】
上記課題に鑑み本発明の目的は、負極にリチウムが析出することを抑制できるリチウムイオン二次電池用負極板の製造方法、リチウムイオン二次電池用負極板及び、リチウムイオン二次電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係るリチウムイオン二次電池用負極板の製造方法は、
負極集電体と、当該負極集電体上に形成された負極層とを備えるリチウムイオン二次電池用負極板の製造方法であって、
溶媒と負極活物質とを少なくとも含み、時間経過に伴い気泡が発生する性質を有するスラリーを前記負極集電体上に塗工する塗工工程と、
前記塗工したスラリーの表層側を乾燥させる第1の乾燥工程と、
前記スラリーの内部において気泡を発生させる気泡発生工程と、
前記塗工したスラリーを乾燥させて前記負極層を形成する第2の乾燥工程と、を備え、
前記負極層の前記負極集電体側における密度が前記負極層の表層側における密度よりも小さくなるように、前記スラリーの内部において前記気泡を発生させる。
【0008】
本発明の一態様に係るリチウムイオン二次電池用負極板は、上述のリチウムイオン二次電池用負極板の製造方法によって製造されたリチウムイオン二次電池用負極板である。
【0009】
本発明の一態様に係るリチウムイオン二次電池は、上述のリチウムイオン二次電池用負極板を有するリチウムイオン二次電池である。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、負極にリチウムが析出することを抑制できるリチウムイオン二次電池用負極板の製造方法、リチウムイオン二次電池用負極板及び、リチウムイオン二次電池を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】第1の実施形態に係るリチウムイオン二次電池用負極板の製造方法のフローを示した図である。
【
図2】関連技術に係るリチウムイオン二次電池用負極板の製造方法によって製造されたリチウムイオン二次電池用負極板の模式断面図である。
【
図3】第1の実施形態に係るリチウムイオン二次電池用負極板の製造方法によって製造されたリチウムイオン二次電池用負極板の模式断面図である。
【
図4】第1の実施形態に係るリチウムイオン二次電池用負極板の製造方法によって製造されたリチウムイオン二次電池用負極板の負極層密度とリチウムイオン受け入れ性との関係を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(第1の実施形態)
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。ただし、本発明が以下の実施形態に限定される訳ではない。また、説明を明確にするため、以下の記載及び図面は、適宜、簡略化されている。
本実施の形態に係るリチウムイオン二次電池用負極板の製造方法について説明する。
図1は、第1の実施形態に係るリチウムイオン二次電池用負極板の製造方法のフローを示した図である。第1の実施形態に係るリチウムイオン二次電池用負極板の製造方法は、負極集電体3と、負極集電体3上に形成された負極層6とを備えるリチウムイオン二次電池用負極板の製造方法であり、塗工工程(ステップS1)、第1の乾燥工程(ステップS2)、気泡発生工程(ステップS3)、及び第2の乾燥工程(ステップS4)を備える。
【0013】
塗工工程(ステップS1)は、スラリー4を負極集電体3上に塗工する工程である。スラリー4は、負極活物質1及び溶媒2を少なくとも含み、時間経過に伴い気泡5が発生する性質を有する。
【0014】
負極活物質1は、リチウムを吸蔵・放出可能な材料であり、例えば、黒鉛(グラファイト)やハードカーボン等からなる粉末状の炭素材料を用いることができる。負極活物質1の粒径は、例えば1μm~30μm程度とすることができる。なお、本発明において各々の材料の粒径はメジアン径D50であり、レーザー回折・散乱法を用いて測定した値である。溶媒2には、例えばイソプロピルアルコール、N-メチルピロリドン、水等を用いることができる。
【0015】
スラリー4は、バインダーを含んでいてもよい。バインダーには、例えばポリフッ化ビニリデン等のフッ素系樹脂、スチレンブタジエンゴム(SBR)等のゴム系のバインダー、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、カルボキシメチルセルロース(CMC)等を用いることができる。
【0016】
負極集電体3には、例えば銅やニッケルなどの金属箔を用いることができる。負極集電体3の厚さは、例えば5μm~50μm程度とすることができる。
【0017】
第1の乾燥工程(ステップS2)は、ステップS1において塗工したスラリー4の表層側を乾燥させる工程である。例えば、第1の乾燥工程における乾燥条件は、180℃で3秒である。第1の乾燥工程においてスラリー4の表層側を選択的に乾燥させることによって、負極層6の表層側における密度を高めることができる。例えば、第1の乾燥工程における乾燥条件を変更することにより、負極層6の表層側における密度を任意の密度に制御することができる。
【0018】
気泡発生工程(ステップS3)は、スラリー4の内部において気泡5を発生させる工程である。例えば、気泡発生工程における気泡5を発生させる時間は、25℃で10分である。このようにスラリー4の内部で気泡5を発生させることによって、負極層6の内部に空隙を形成することができる。例えば、気泡発生工程における気泡5の発生時間を変更することによって、負極層6の負極集電体3側における密度を任意の密度に制御することができる。
【0019】
上述のように、本実施の形態で用いるスラリー4は、時間経過に伴い気泡5が発生する性質を有する。例えば、スラリー4に含まれる負極活物質1として中空構造を備える負極活物質1を用いることによって、気泡5を発生させることができる。つまり、負極活物質1が中空構造を備える場合は、負極活物質1の中空構造に取り込まれている気体が時間経過に伴いスラリー4中に移動することで気泡5が発生する。
【0020】
また、溶媒2と反応して気泡5を発生させる添加剤をスラリー4に含めることにより、気泡5を発生させてもよい。この場合は、気泡発生工程において、溶媒2と添加剤とを反応させることによって、スラリー4の内部において気泡5を発生させることができる。例えば、溶媒が水の場合は、添加剤は、アルミニウムあるいは酸化カルシウムを用いることができる。
また、溶媒が硫酸の場合は、添加剤に、例えば亜鉛、塩化ナトリウム、フッ化カルシウム、硫化鉄、銅等を用いることができる。溶媒が塩酸の場合は、添加剤に、例えば酸化マンガン、炭酸カルシウムを用いることができる。溶媒が硝酸の場合は、添加剤に例えば銅を用いることができる。
【0021】
第2の乾燥工程(ステップS4)は、塗工したスラリー4を乾燥させて負極層6を形成する工程である。第2の乾燥工程では、塗工したスラリー4全体を乾燥させて負極層6を形成する。第2の乾燥工程における乾燥は、例えば、180℃で30秒で行う。
【0022】
以上で説明した工程により、リチウムイオン二次電池用負極板を製造することができる。なお、ステップS4の後、乾燥後の負極層6をプレスするプレス工程を備えていてもよい。
【0023】
上述のように本実施形態では、負極層6の負極集電体3側における密度が負極層6の表層側における密度よりも小さくなるように、スラリー4の内部において気泡5を発生させる。つまり、負極集電体3側は表層側に比べて気泡5により形成された空隙を多く有する。これにより、表層側から受け入れたリチウムイオンが移動可能な空間を負極集電体3側に作ることができ、表層側にリチウムが析出することを抑制できる。
【0024】
また、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用負極板の製造方法では、負極集電体3にスラリー4を塗工する塗工工程が1度であるので、製造工程を簡素化することができる。すなわち、一度の塗工工程で、負極層6の負極集電体3側における密度を負極層6の表層側における密度よりも小さくすることができる。
【0025】
一例を挙げると、負極層6の負極集電体3側における密度は0.4~g/1.1cm3が好ましく、0.4~0.6g/cm3がさらに好ましい。また、負極層6の表層側における密度は、0.8~1.5g/cm3が好ましく、1.1~1.5g/cm3がさらに好ましい。負極層6の表層側は、負極活物質1の粒径と同等又はそれ以上の厚みとすることが好ましい。負極層6の負極集電体3側については、表層側を除いた領域となる。例えば、粒径10μmの場合、表層側の厚みは10~30μm以上とすることが好ましい。また、表層側の厚みの上限は負極層の厚みの半分以下であることが好ましい。
【0026】
次に、本発明のメカニズムについて詳細に説明する。
図2は、関連技術に係るリチウムイオン二次電池用負極板の製造方法によって製造されたリチウムイオン二次電池用負極板の模式断面図である。
図3は、第1の実施形態に係るリチウムイオン二次電池用負極板の模式断面図である。
図2及び
図3を用いて、関連技術に係るリチウムイオン二次電池用負極板と、第1の実施形態に係るリチウムイオン二次電池用負極板の製造方法を用いて製造したリチウムイオン二次電池用負極板との違いについて説明する。
【0027】
充電の際、負極層6の表層側については、リチウムイオンの拡散が律速しないため、反応場が多い、つまり密度が大きいことが求められる。一方で、負極集電体3側については、リチウムイオンの拡散が律速するため、空隙量が多い、つまり密度が小さいことが求められる。
図2に示すように、関連技術に係る製造方法によって製造されたリチウムイオン二次電池用負極板は、負極層6の表層側と負極集電体3側との密度が等しいため、表層側の反応場が少ない状況、あるいは負極活物質1の負極集電体3側へのリチウムイオンの拡散が追い付かず、負極集電体3側の反応場が少ない状況が発生する。この場合、全てのリチウムイオンを受け入れられず、負極層6の表層側にリチウムが析出する。
【0028】
一方で、
図3に示すように、第1の実施形態に係るリチウムイオン二次電池用負極板の製造方法によって製造されたリチウムイオン二次電池用負極板は、負極層6の表層側の密度が大きく反応場が多い。また、負極集電体3側の密度は小さく空隙量が多いため、リチウムイオンは負極集電体3側へ拡散可能であり、負極集電体3側における反応場の不足が生じない。よって、表層側、及び負極集電体3側共に反応場が多いため、負極層6の表層側におけるリチウムイオンの析出を抑制できる。
【0029】
図4は、第1の実施形態に係るリチウムイオン二次電池用負極板の製造方法によって製造されたリチウムイオン二次電池用負極板の負極層6の密度とリチウムイオン受け入れ性との関係を示した図である。
図4右上に示すように、負極板は表層側の密度が大きくなるほど、リチウムイオンの受け入れ性が向上する。
図4右下に示すように、負極集電体3側では、密度が小さくなるほど(空隙率が高いほど)、リチウムイオンの受け入れ性が向上する。つまり、負極層6の表層側の密度を大きくし、負極集電体3側の密度を小さくすることによって、負極板のリチウムイオンの受け入れ性を向上させることができる。したがって、負極層6の負極集電体3側の密度が表層側よりも小さい負極板は、リチウムイオンの受け入れ性が向上し、表層側のリチウムイオンの析出を抑制できる。
【0030】
次に、本発明の実施例について説明する。
(実施例)
図1に示したフローを用いて、サンプルを作製した。まず、活物質として黒鉛を、バインダーとしてSBRとCMCを、それぞれ準備した。このときの黒鉛の粒径(D50)は10μmとした。
【0031】
そして、これらの材料を溶媒の水に混合して混練することでスラリーを作製した。このときの混合比(重量比)は、60:40とした。
【0032】
その後、作製したスラリーを負極集電体である銅箔に塗布して、負極集電体上に負極層を形成した。そして、負極層を乾燥温度180℃の条件で3秒間乾燥した。
【0033】
その後、スラリーの内部において10分間、気泡を発生させ、さらに乾燥温度180℃の条件で30秒間乾燥し、その後プレスした。このときの負極層の厚さ(プレス後の厚さ)は80μmとした。
【0034】
(比較例)
スラリーを塗布した後、乾燥温度180℃の条件で30秒間乾燥を行い、気泡が発生する前にスラリー乾燥を完了させることで、表層側と集電体側で密度差が無い負極板を作製した。他の作製条件は、実施例と同様とした。
【0035】
<各サンプルの評価(容量維持率)>
作製した負極板を用いてリチウムイオン二次電池を作製し、各々のリチウムイオン二次電池の容量維持率を測定した。容量維持率を測定することで、リチウム析出の有無(リチウム吸蔵能力)を評価することができる。
【0036】
容量維持率は次のようにして測定した。
まず、1Cの充電レートで4.2Vまで充電をし、0.2Cの放電レートで3.0Vまで放電をして、リチウムイオン二次電池の初期の容量を測定した。その後、1Cの充電レートで4.2Vまで充電し、1Cの放電レートで3.0Vまで放電する充放電サイクルを100サイクル繰り返した。100サイクル充放電を繰り返した後、1Cの充電レートで4.2Vまで充電をし、0.2Cの放電レートで3.0Vまで放電をして、リチウムイオン二次電池の容量を測定した。そして、下記の式を用いて、容量維持率を求めた。求めた容量維持率を表1に示す。
【0037】
容量維持率(%)=(100サイクル後のリチウムイオン二次電池の容量/初期のリチウムイオン二次電池の容量)×100
【0038】
【0039】
<まとめ>
表1に示すように、気泡発生工程を0分間(気泡発生なし)とした比較例に比べ、気泡発生工程を30分間とした実施例の方が、容量維持率が高い結果が得られた。つまり、実施例では、表層側におけるリチウムイオンの吸蔵を良好にすることができたといえる。この結果から、負極層の負極集電体側の密度を小さくし、表層側の密度を大きくすることにより、表層側のリチウムの析出が抑制できる。
【0040】
以上、本発明を上記実施の形態に即して説明したが、本発明は上記実施の形態の構成にのみ限定されるものではなく、本願特許請求の範囲の請求項の発明の範囲内で当業者であればなし得る各種変形、修正、組み合わせを含むことは勿論である。
【符号の説明】
【0041】
1 負極活物質
2 溶媒
3 負極集電体
4 スラリー
5 気泡
6 負極層