(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-18
(45)【発行日】2023-04-26
(54)【発明の名称】成形体用変性樹脂およびゴルフボール
(51)【国際特許分類】
C08F 8/44 20060101AFI20230419BHJP
C08F 8/30 20060101ALI20230419BHJP
C08F 210/02 20060101ALI20230419BHJP
A63B 37/00 20060101ALI20230419BHJP
【FI】
C08F8/44
C08F8/30
C08F210/02
A63B37/00 312
A63B37/00 526
A63B37/00 412
(21)【出願番号】P 2020500476
(86)(22)【出願日】2019-02-12
(86)【国際出願番号】 JP2019004823
(87)【国際公開番号】W WO2019159881
(87)【国際公開日】2019-08-22
【審査請求日】2022-01-12
(31)【優先権主張番号】P 2018025206
(32)【優先日】2018-02-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000174862
【氏名又は名称】三井・ダウポリケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002871
【氏名又は名称】弁理士法人坂本国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】清水 貴広
【審査官】今井 督
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-321024(JP,A)
【文献】特開平10-045832(JP,A)
【文献】特開平11-043503(JP,A)
【文献】特表2015-531418(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0130216(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 8/00- 8/50
C08F210/00-210/18
A63B 37/00- 37/14
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン・不飽和カルボン酸共重合体のアイオノマーを
グアニジン塩酸塩またはグアニジン炭酸塩で変性した成形体用変性樹脂。
【請求項2】
前記エチレン・不飽和カルボン酸共重合体のアイオノマーを構成するエチレン・不飽和カルボン酸共重合体のメルトフローレートが、20(g/10分)以上600(g/10分)以下である請求項1記載の成形体用変性樹脂。
【請求項3】
前記エチレン・不飽和カルボン酸共重合体が、エチレン(メタ)アクリル酸共重合体である請求項1または2記載の成形体用変性樹脂。
【請求項4】
前記エチレン・不飽和カルボン酸共重合体中の不飽和カルボン酸に由来する構成単位の含有量が、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体の構成単位の合計に対して、10質量%以上30質量%以下である請求項1から3いずれか1項記載の成形体用変性樹脂。
【請求項5】
前記エチレン・不飽和カルボン酸共重合体のアイオノマーの中和度が0%超80%以下である請求項1から4いずれか1項記載の成形体用変性樹脂。
【請求項6】
前記エチレン・不飽和カルボン酸共重合体のアイオノマーが、亜鉛アイオノマーおよびナトリウムアイオノマーの少なくとも一種を含む請求項1から5いずれか1項記載の成形体用変性樹脂。
【請求項7】
前記成形体用変性樹脂中の前記エチレン・不飽和カルボン酸共重合体に含まれるカルボキシル基の総モル数(A)に対する
前記グアニジン塩酸塩またはグアニジン炭酸塩のグアニジニウムイオンの総モル数(B)の比(B/A)が、0.05以上0.8以下である請求項1から6いずれか1項記載の成形体用変性樹脂。
【請求項8】
前記成形体用変性樹脂が、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体のアイオノマーと、
前記グアニジン塩酸塩またはグアニジン炭酸塩と、を溶融混錬して得られた請求項1から
7いずれか1項記載の成形体用変性樹脂。
【請求項9】
請求項1から
8いずれか1項記載の成形体用変性樹脂を含むゴルフボール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形体用変性樹脂およびゴルフボールに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エチレン単独重合体、エチレンと他のオレフィンとの共重合体、エチレンと不飽和カルボン酸との共重合体等のポリオレフィン系樹脂は様々な分野で利用されている。例えば、ポリオレフィン系樹脂に水酸化マグネシウムや水酸化アルミニウム等を配合したものは難燃性に優れることから、電線の被覆材料または電気電子機器の部材に用いられている。また、用途によっては、酸変性または塩基性化合物を添加する等してポリオレフィン系樹脂の改質が広く行われている。
【0003】
塩基性化合物を添加した樹脂として、例えば、特許文献1には、酸変性ポリオレフィンのグアニジン化合物の塩を含む難燃性樹脂組成物が開示されている。この難燃性樹脂組成物によれば、難燃性に加え、機械特性にも優れることが記載されている。
【0004】
また、特許文献2には、エチレン-ビニルエステル系共重合体ケン化物、及び塩基性アミン化合物を含有するエチレン-ビニルエステル系共重合体ケン化物組成物が開示されている。この組成物を含有させた材料はポリエステル系樹脂との接着性が向上するため多層構造体に有用であることが記載されている。
【0005】
またさらに、特許文献3には、ポリオレフィンにグアニジン燐酸塩を添加したポリオレフィン系樹脂組成物が開示されている。このポリオレフィン系樹脂組成物によれば、燃焼時の腐食性ガスの発生を抑制しながら優れた機械特性を実現することができることが記載されている。
【0006】
一方、エチレンと(メタ)アクリル酸との共重合体を金属イオンで中和したアイオノマーは、高い硬度と反発弾性率を有することから、ゴルフボール等を構成する弾性材料層に用いられている(特許文献4参照)。ゴルフボールでは、ツーピースボールやスリーピースボール、フォーピースボールのような中心部のコア部を複数の弾性材料層で被覆し、最外層カバーを設けた多層ゴルフボールが主流である。
【0007】
多層ゴルフボールにおいて、コア、カバー層、コアとカバー層との間の層(中間層)の材質は、ボールの反発力、初速度、飛距離、スピン性能、および打球感に影響する。一般的には、コア層にはブタジエンゴム、中間層にはアイオノマー系樹脂、カバー層にはウレタン樹脂やアイオノマー樹脂が使用されている。それぞれの層に用いる材料を様々に選択し、組み合わせることによって、それぞれのゴルフボールブランドに特徴的な、反発力、初速度、飛距離、スピン性能、および打球感が調節されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2007-321024号公報
【文献】特開2012-107197号公報
【文献】特開平6-25476号公報
【文献】特開平11-299933号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記特許文献に記載の機械特性に優れる樹脂をゴルフボール等のボール材料として用いるには、反発弾性率および曲げ剛性率おいて、さらに改良の余地がある。
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、反発弾性および曲げ剛性率に優れる成形体用変性樹脂およびその成形体用変性樹脂を含むゴルフボールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体のアイオノマーをグアニジン誘導体およびその塩から選ばれる少なくとも一種のグアニジン化合物で変性することによって得られた変性樹脂が、反発弾性率および曲げ剛性率に優れることを見出し、本願発明に至った。
すなわち、本発明の成形体用変性樹脂は、
エチレン・不飽和カルボン酸共重合体のアイオノマーをグアニジン誘導体およびその塩から選ばれる少なくとも一種のグアニジン化合物で変性した成形体用変性樹脂である。
【0011】
エチレン・不飽和カルボン酸共重合体のアイオノマーを構成するエチレン・不飽和カルボン酸共重合体のメルトフローレートは、20(g/10分)以上600(g/10分)以下であることが好ましい。
なお、メルトフローレート(以下、MFRと記載する)は、温度190℃、載荷荷重2160gで、JIS K7210(1999)に従って測定した値である。
【0012】
エチレン・不飽和カルボン酸共重合体は、エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体であることが好ましい。
【0013】
エチレン・不飽和カルボン酸共重合体中の不飽和カルボン酸に由来する構成単位の含有量は、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体の構成単位の合計に対して、10質量%以上30質量%以下であることが好ましい。
【0014】
エチレン・不飽和カルボン酸共重合体のアイオノマーの中和度が、0%超80%以下である成形体用変性樹脂であることが好ましい。
【0015】
エチレン・不飽和カルボン酸共重合体のアイオノマーは、亜鉛アイオノマーおよびナトリウムアイオノマーの少なくとも一種を含むことが好ましい。
【0016】
エチレン・不飽和カルボン酸共重合体に含まれる不飽和カルボン酸由来のカルボキシル基の総モル数(A)に対するグアニジン化合物中のグアニジノ基またはグアニジニウムイオンの総モル数(B)の比(B/A)が0.05以上0.8以下であることが好ましい。
【0017】
グアニジン化合物は、グアニジン塩酸塩またはグアニジン炭酸塩であることが好ましい。
【0018】
成形体用変性樹脂は、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体のアイオノマーと、グアニジン誘導体およびその塩から選ばれる少なくとも一種のグアニジン化合物と、を溶融混錬して得られたものであることが好ましい。
【0019】
本発明のゴルフボールは、本発明の成形体用変性樹脂を含む。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、反発弾性率および曲げ剛性率に優れる成形体用変性樹脂およびゴルフボールを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について説明する。
なお、数値範囲の「X~Y」は特に断りがなければ、X以上Y以下を示す。また、本実施形態において、また、本実施形態において、「(メタ)アクリル」とは、アクリルもしくはメタクリル、またはアクリルとメタクリルの両方を意味する。
【0022】
[成形体用変性樹脂]
本実施形態に係る成形体用変性樹脂は、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体のアイオノマーをグアニジン誘導体およびその塩の少なくとも一種のグアニジン化合物で変性した成形体用変性樹脂である。
【0023】
(エチレン・不飽和カルボン酸共重合体のアイオノマー)
本実施形態に係る成形体用変性樹脂におけるエチレン・不飽和カルボン酸共重合体のアイオノマー(以下、単にアイオノマーと記載する場合がある)は、ベースポリマーであるエチレン・不飽和カルボン酸共重合体のカルボン酸基の少なくとも一部が金属イオンで中和された化合物である。
【0024】
-エチレン・不飽和カルボン酸共重合体-
アイオノマーのベースポリマーであるエチレン・不飽和カルボン酸共重合体は、エチレンと不飽和カルボン酸のみからなる共重合体に限られず、任意にその他の共重合成分が共重合された多元共重合体であってもよい。
【0025】
不飽和カルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、エタクリル酸、フマル酸、クロトン酸、マレイン酸、イタコン酸、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチル、無水マレイン酸、無水イタコン酸などの炭素数4~8の不飽和カルボン酸などを挙げることができる。特にアクリル酸またはメタクリル酸が好ましい。不飽和カルボン酸は1種類であっても、2種以上であってもよい。
【0026】
任意の他の共重合成分としては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸nブチル、アクリル酸イソオクチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸nブチル、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチルなどの不飽和カルボン酸エステル;プロピレン、ブテン、1,3-ブタジエン、ペンテン、1,3-ペンタジエン、1-ヘキセンなどの不飽和炭化水素;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどのビニルエステル;ビニル硫酸およびビニル硝酸などの酸化物;塩化ビニル、フッ化ビニルなどのハロゲン化物;ビニル基含有1,2級アミン化合物;一酸化炭素;二酸化硫黄などを例示することができる。上記の任意共重合成分は、一般には15モル%以下、好ましくは10モル%以下の割合で共重合されていてもよい。
【0027】
エチレン・不飽和カルボン酸共重合体は、ブロック共重合体、ランダム共重合体、グラフト共重合体のいずれであってもよい。工業的に入手可能な観点から、2元ランダム共重合体、3元ランダム共重合体、2元ランダム共重合体のグラフト共重合体あるいは3元ランダム共重合体のグラフト共重合体を用いるのが好ましい。より好ましくは2元ランダム共重合体または3元ランダム共重合体である。
【0028】
-不飽和カルボン酸に由来する構成単位の含有量-
本実施形態に係る成形体用変性樹脂を構成するエチレン・不飽和カルボン酸共重合体中の不飽和カルボン酸に由来する構成単位の含有量は、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体の構成単位の合計に対して、10質量%以上30質量%以下が好ましく、12質量%以上26質量%以下がより好ましく、14質量%以上22質量%以下がさらに好ましい。不飽和カルボン酸に由来する構成単位の含有量が10質量%以上30質量%であることにより、硬度、反発弾性率および曲げ剛性率に優れるものとすることができる。
【0029】
このようなエチレン・不飽和カルボン酸共重合体は、特に制限は無いが好ましくは高圧ラジカル共重合によって得ることができる。
【0030】
-エチレン・不飽和カルボン酸共重合体のMFR(単位:g/10分)-
本発明のエチレン・不飽和カルボン酸共重合体のアイオノマーを構成するエチレン・不飽和カルボン酸共重合体のMFRは20以上600以下であることが好ましい。さらに好ましくは20以上500以下である。600以下であることにより、反発弾性率および曲げ剛性率が良好である。また20以上であることにより粘度が高くなりすぎず、外観および成形性が良好となる。
数平均分子量(Mn)ではポリスチレン換算で10000程度以上30000程度以下が好ましい。
【0031】
(アイオノマー)
エチレン・不飽和カルボン酸共重合体のアイオノマーは、上記のエチレン・不飽和カルボン酸共重合体を、常法によりイオン化することによって得ることができる。
アイオノマーとともにエチレン・不飽和カルボン酸共重合体を併用することにより、溶融混合によってエチレン・不飽和カルボン酸共重合体のイオン化を行ってもよい。また、アイオノマーとして上市されている市販品を用いてもよく、市販品として、例えば、三井・デュポンポリケミカル株式会社製のハイミラン(登録商標)シリーズ、デュポン社製のサーリン(登録商標)等を使用することができる。アイオノマーは、エチレン・不飽和カルボン酸エステル共重合体のケン化によっても得ることができる。
【0032】
アイオノマーにおいては、金属イオンとしては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムなどの1価金属、亜鉛、マグネシウム、カルシウム、マンガン、銅、錫、ニッケル、コバルト、アルミニウムなどの多価金属を例示することができる。1価金属としては、ナトリウムが好ましい。多価金属としては2価金属が好ましく、亜鉛が好ましい。
【0033】
(アイオノマーの中和度)
アイオノマーの中和度は、0%超80%以下が好ましい。反発弾性率と曲げ剛性率を向上させる観点からより好ましくは20%以上、さらに好ましくは30%以上である。成形性の観点から70%以下がより好ましく、60%以下がさらに好ましい。
ここで、「アイオノマーの中和度」とは、アイオノマーのカルボキシル基に対する金属イオンの等量比を示す。
【0034】
(グアニジン化合物)
本発明においてグアニジン化合物とは、グアニジン誘導体(グアニジンを含む)およびその塩を意味する。
【0035】
-グアニジン誘導体およびその塩-
グアニジン誘導体としては、例えばグアニジン、アルキル(C1~20)基置換グアニジン(N-メチルまたはエチルグアニジン、1,3-ジメチルまたはジエチルグアニジン等)、芳香族グアニジン(フェニルグアニジン、ジフェニルグアニジン等)、ビグアニド化合物(ビグアニド、N -メチルビグアニド、N-ベンゾイルビグアニド、N-フェニルビグアニド、シアノビグアニド等);グアニルアルキル(C1~20)ウレタン(グアニルメチルウレタン、グアニルエチルウレタン等);その他のグアニジン誘導体(アミノグアニジン、ジシアノグアニジン、グアニル(チオ)尿素、シアノグアニル(チオ)尿素、等)が挙げられる。
グアニジン誘導体の塩としては、上記のグアニジン誘導体の塩酸塩、塩素酸塩、過塩素酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、硫酸塩、亜硫酸塩、リン酸塩、硝酸塩、炭酸塩、および有機酸(蟻酸、酢酸、プロピオン酸、スルホン酸)塩が含まれる。
【0036】
入手の容易さ及び反応性の観点から好ましくはグアニジン、炭素数1~20のアルキルグアニジン、芳香族グアニジンおよびそれらの無機酸塩および有機酸塩、より好ましいくはグアニジンおよびそれらの炭酸塩、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、燐酸塩、酢酸塩、スルホン酸塩である。さらに好ましくはグアニジンおよびそれらの炭酸塩、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、酢酸塩、スルホン酸塩である。最も好ましくは、グアニジン塩酸塩(以下、塩酸グアニジンとも記載する)またはグアニジン炭酸塩(以下、炭酸グアニジンとも記載する)である。
【0037】
(エチレン・不飽和カルボン酸共重合体に含まれるカルボキシル基に対するグアニジン化合物中のグアニジノ基またはグアニジニウムイオンのモル比)
成形体用変性樹脂中のエチレン・不飽和カルボン酸共重合体に含まれる不飽和カルボン酸由来のカルボキシル基の総モル数(A)に対するグアニジン化合物中のグアニジノ基またはグアニジニウムイオンの総モル数の比(B/A)は、反発弾性率と曲げ剛性率を向上させる観点から0.05以上0.8以下であることが好ましく、0.05以上0.7以下がより好ましく、0.05以上0.6以下がさらに好ましい。
【0038】
(任意成分)
本実施形態に係る成形体用変性樹脂には、必要に応じ、他の熱可塑性樹脂、粘着付与樹脂、ワックス、酸化防止剤、耐候安定剤、光安定剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、滑剤、顔料、染料、無機充填剤など各種添加剤等を配合することができる。
【0039】
[成形体用変性樹脂の製造方法]
本発明の成形体用変性樹脂は、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体のアイオノマーと、グアニジン化合物と、必要に応じて任意成分とを添加して溶融混錬する方法によって得ることができる。溶融混錬温度はエチレン・不飽和カルボン酸共重合体のアイオノマーおよびグアニジン化合物の溶融温度および分解温度の観点から好ましくは50~300℃、さらに好ましくは100~250℃である。
溶融混錬装置としては特に制限はないが、例えばバッチ混練機〔例えばバンバリーミキサー[商品名、Farrel株式会社製]およびニーダー〕、連続混練機〔例えばFCM[商品名、Farrel株式会社製]、LCM[商品名、株式会社神戸製鋼所製]およびCIM[商品名、株式会社日本製鋼所製]〕、単軸押出機および二軸押出機が挙げられる。
【0040】
本実施形態に係る成形体用変性樹脂を含有する樹脂組成物は、反発弾性率と曲げ剛性率に優れるため、このような特性が求められるボール、玩具部材、自動車部品、建材、フィルムまたはシート成形品等として有用である。また、改質剤としてナイロン、PET、PBT等他の樹脂に配合してもよい。
【0041】
[ゴルフボール]
本実施形態に係るゴルフボールは、本実施形態に係る成形体用変性樹脂と必要に応じて上記任意成分とを配合した材料を溶融混練および成形して得ることができる。例えば、ワンピースボール材料、ゴルフボールのコア材、またはゴルフボールカバー材として使用することができる。カバー材にあっては、ツーピースボールのカバー材料のみならず、2重カバーボールの外カバー材として、あるいは内カバー材として使用することができる。該溶融混練条件は、上記アイオノマーの製造と同様である。
【実施例】
【0042】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
【0043】
[原料]
(A)エチレン・不飽和カルボン酸共重合体のアイオノマー
(a1)エチレン・メタクリル酸共重合体(エチレン:メタクリル酸=85:15重量比(エチレン・不飽和カルボン酸共重合体中のエチレンに由来する構成単位の含有量が85質量%であり、不飽和カルボン酸に由来する構成単位の含有量が15質量%である)、MFR=60(g/10分))を、ナトリウムイオンで54%中和したアイオノマー
(a2)エチレン・メタクリル酸共重合体(エチレン:メタクリル酸=85:15重量比(エチレン・不飽和カルボン酸共重合体中のエチレンに由来する構成単位の含有量が85質量%であり、不飽和カルボン酸に由来する構成単位の含有量が15質量%である)、MFR=60(g/10分))を、亜鉛イオンで59%中和したアイオノマー
【0044】
(B)グアニジン化合物
(b1)塩酸グアニジン(東京化成工業株式会社製)
(b2)炭酸グアニジン(東京化成工業株式会社製)
【0045】
[物性測定方法]
反発弾性率と曲げ剛性率は、以下のようにして測定した。
(反発弾性率)
得られた成形体用変性樹脂を160℃に設定した熱プレス機を用いて150mm×150mm×3mm厚のシートを作製した。円形に打ち抜いたシートを6枚重ねて再度140℃に設定した熱プレス機で層厚み約13mmの試験片を作製した(試験片の直径29±0.5mm)。この試験片を23℃、相対湿度50%の雰囲気に2週間保存した。その後、この試験片をリュプケ反発弾性試験機にて測定した。測定条件はJIS K6255:2013に準拠した。
【0046】
(曲げ剛性率)
得られた成形体用変性樹脂を160℃に設定した熱プレス機を用いて150mm×150mm×3mm厚のシートを作製した。作製したシートを幅20mm×長さ100mmの短冊状に打ち抜き、試験片を作製した。この試験片を23℃、相対湿度50%の雰囲気に2週間保存した。その後、この試験片を用いて曲げ剛性率を測定し、測定条件はJIS K7106:1995に準拠した。
【0047】
<塩酸グアニジンで変性した成形体用変性樹脂>
まず、エチレン・メタクリル酸共重合体のアイオノマーを塩酸グアニジンで変性した場合の例について説明する。
[実施例1-1]
エチレン・メタクリル酸共重合体のナトリウムアイオノマー(a1)および塩酸グアニジン(b1)を、エチレン・メタクリル酸共重合体のナトリウムアイオノマー(a1)および塩酸グアニジン(b1)の合計100質量%に対して、塩酸グアニジンが1.0質量%となるように、ラボプラストミル(商品名「ラボプラストミル10C-100」、(株)東洋精機製作所製)に入れ、200℃、50rpmで、5~10分間混錬して塩酸グアニジンで変性したエチレン・メタクリル酸共重合体のアイオノマー(成形体用変性樹脂)を得た。
エチレン・メタクリル酸共重合体のカルボキシル基の総モル数に対する成形体用変性樹脂中のグアニジニウムイオンのモル比は、0.057であった。
【0048】
[実施例1-2]
塩酸グアニジン(b1)の配合量を4.8質量%とした以外は実施例1-1と同様にして成形体用変性樹脂を得た。
エチレン・メタクリル酸共重合体のカルボキシル基の総モル数に対する成形体用変性樹脂中のグアニジニウムイオンのモル比は、0.23であった。
【0049】
[実施例1-3]
塩酸グアニジン(b1)の配合量を10.0質量%とした以外は実施例1-1と同様にして成形体用変性樹脂を得た。
エチレン・メタクリル酸共重合体のカルボキシル基の総モル数に対する成形体用変性樹脂中のグアニジニウムイオンのモル比は、0.40であった。
【0050】
[比較例1-1]
エチレン・メタクリル酸共重合体のナトリウムアイオノマー(a1)を塩酸グアニジン(b1)で変性しなかった。
【0051】
[実施例1-4]
エチレン・メタクリル酸共重合体の亜鉛アイオノマー(a2)および塩酸グアニジン(b1)を、エチレン・メタクリル酸共重合体の亜鉛アイオノマー(a2)および塩酸グアニジン(b1)の合計100質量%に対して、塩酸グアニジンが1.0質量%となるように、ラボプラストミルに入れ、200℃、50rpmで、5~10分間混錬して塩酸グアニジンで変性したエチレン・メタクリル酸共重合体アイオノマー(成形体用変性樹脂)を得た。
エチレン・メタクリル酸共重合体のカルボキシル基の総モル数に対する成形体用変性樹脂中のグアニジニウムイオンのモル比は、0.057であった。
【0052】
[実施例1-5]
塩酸グアニジン(b1)の配合量を4.8質量%とした以外は実施例1-4と同様にして成形体用変性樹脂を得た。
エチレン・メタクリル酸共重合体のカルボキシル基の総モル数に対する成形体用変性樹脂中のグアニジニウムイオンのモル比は、0.23であった。
【0053】
[実施例1-6]
塩酸グアニジン(b1)の配合量を10.0質量%とした以外は実施例1-4と同様にして成形体用変性樹脂を得た。
エチレン・メタクリル酸共重合体のカルボキシル基の総モル数に対する成形体用変性樹脂中のグアニジニウムイオンのモル比は、0.40であった。
【0054】
[比較例1-2]
エチレン・メタクリル酸共重合体の亜鉛アイオノマー(a2)を塩酸グアニジン(b1)で変性しなかった。
【0055】
上記実施例1-1~1-6、比較例1-1および1-2について測定した物性を表1に示す。なお、表1の「グアニジニウム/MAA」は、成形体用変性樹脂中のエチレン・メタクリル酸共重合体のカルボキシル基の総モル数に対するグアニジニウムイオンのモル比を示す。
【0056】
【0057】
表1に示すように、ナトリウムアイオノマーを塩酸グアニジンで変性した実施例1-1~1-3は、変性していないナトリウムアイオノマーの比較例1-1に比べて反発弾性率および曲げ剛性率のいずれも高い値が得られた。
また、亜鉛アイオノマーを塩酸グアニジンで変性した実施例1-4~1-6も、変性していない亜鉛アイオノマーの比較例1-2に比べて反発弾性率および曲げ剛性率のいずれも高い値が得られた。
【0058】
<炭酸グアニジンで変性した成形体用変性樹脂>
次に、エチレン・メタクリル酸共重合体のアイオノマーを炭酸グアニジンで変性した場合の例について説明する。
【0059】
[実施例2-1]
エチレン・メタクリル酸共重合体のナトリウムアイオノマー(a1)および炭酸グアニジン(b2)を、エチレン・メタクリル酸共重合体のナトリウムアイオノマー(a1)および炭酸グアニジン(b2)の合計100質量%に対して、炭酸グアニジンが2.0質量%となるように、ラボプラストミル(商品名「ラボプラストミル10C-100」、(株)東洋精機製作所製)に入れ、220℃~230℃、50rpmで、5~10分間撹拌して炭酸グアニジンで変性したエチレン・メタクリル酸共重合体のアイオノマー(成形体用変性樹脂)を得た。
エチレン・メタクリル酸共重合体のカルボキシル基の総モル数に対する成形体用変性樹脂中のグアニジニウムイオンのモル比は、0.12であった。
【0060】
[実施例2-2]
炭酸グアニジン(b2)の配合量を4.5質量%とした以外は実施例2-1と同様にして成形体用変性樹脂を得た。
成形体用変性樹脂中の塩酸グアニジンに対するエチレン・メタクリル酸共重合体のカルボキシル基の総モル数に対する成形体用変性樹脂中のグアニジニウムイオンのモル比は、0.23であった。
【0061】
[実施例2-3]
炭酸グアニジン(b2)の配合量を9.5質量%とした以外は実施例2-1と同様にして成形体用変性樹脂を得た。
エチレン・メタクリル酸共重合体のカルボキシル基の総モル数に対する成形体用変性樹脂中のグアニジニウムイオンのモル比は、0.40であった。
【0062】
[比較例2-1]
エチレン・メタクリル酸共重合体のナトリウムアイオノマー(a1)を炭酸グアニジン(b1)で変性しなかった。
【0063】
[実施例2-4]
エチレン・メタクリル酸共重合体の亜鉛アイオノマー(a2)を用い、炭酸グアニジン(b2)の配合量を2.0質量%とした以外は、実施例2-1と同様にして成形体用変性樹脂を得た。
エチレン・メタクリル酸共重合体のカルボキシル基の総モル数に対する成形体用変性樹脂中のグアニジニウムイオンのモル比は、0.12であった。
【0064】
[実施例2-5]
炭酸グアニジン(b2)の配合量を4.5質量%とした以外は、実施例2-4と同様にして成形体用変性樹脂を得た。
エチレン・メタクリル酸共重合体のカルボキシル基の総モル数に対する成形体用変性樹脂中のグアニジニウムイオンのモル比は、0.23であった。
【0065】
[実施例2-6]
炭酸グアニジン(b2)の配合量を9.5質量%とした以外は、実施例2-4と同様にして成形体用変性樹脂を得た。
エチレン・メタクリル酸共重合体のカルボキシル基の総モル数に対する成形体用変性樹脂中のグアニジニウムイオンのモル比は、0.40であった。
【0066】
[比較例2-2]
エチレン・メタクリル酸共重合体の亜鉛アイオノマー(a2)を炭酸グアニジン(b2)で変性しなかった。
【0067】
なお、表2の「グアニジニウム/MAA」は、成形体用変性樹脂中のエチレン・メタクリル酸共重合体のカルボキシル基の総モル数に対するグアニジニウムイオンのモル比を示す。
【0068】
【0069】
表2に示すように、ナトリウムアイオノマーを炭酸グアニジンで変性した実施例2-1~実施例2-3は、炭酸グアニジンで変性していないナトリウムアイオノマーの比較例2-1に比べて、反発弾性率および曲げ剛性率のいずれも高い値が得られた。
また、亜鉛アイオノマーを用いた炭酸グアニジンで変性した実施例2-4~実施例2-6も、炭酸グアニジンで変性していない亜鉛アイオノマーの比較例2-2に比べて反発弾性率および曲げ剛性率のいずれも高い値が得られた。
【0070】
上記のように、本発明のエチレン・不飽和カルボン酸共重合体のアイオノマーをグアニジン塩で変性した樹脂は、反発弾性率および曲げ剛性率に優れるものである。
この出願は、2018年2月15日に出願された日本出願特願2018-025206号を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。