(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-18
(45)【発行日】2023-04-26
(54)【発明の名称】カテーテル組立体
(51)【国際特許分類】
A61M 25/00 20060101AFI20230419BHJP
A61M 25/06 20060101ALI20230419BHJP
A61M 25/14 20060101ALI20230419BHJP
【FI】
A61M25/00 530
A61M25/06 500
A61M25/14 512
(21)【出願番号】P 2020509297
(86)(22)【出願日】2019-03-28
(86)【国際出願番号】 JP2019013494
(87)【国際公開番号】W WO2019189533
(87)【国際公開日】2019-10-03
【審査請求日】2021-11-17
(31)【優先権主張番号】P 2018064988
(32)【優先日】2018-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100077665
【氏名又は名称】千葉 剛宏
(74)【代理人】
【識別番号】100191134
【氏名又は名称】千馬 隆之
(74)【代理人】
【識別番号】100136548
【氏名又は名称】仲宗根 康晴
(74)【代理人】
【識別番号】100136641
【氏名又は名称】坂井 志郎
(74)【代理人】
【識別番号】100180448
【氏名又は名称】関口 亨祐
(72)【発明者】
【氏名】石田 昌弘
【審査官】村上 勝見
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-164423(JP,A)
【文献】特表2013-518691(JP,A)
【文献】特開2014-236863(JP,A)
【文献】特開2005-169012(JP,A)
【文献】特開2016-214391(JP,A)
【文献】特開2001-340466(JP,A)
【文献】特開2015-208425(JP,A)
【文献】特表2009-500129(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 25/00
A61M 25/06
A61M 25/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端部と、前記先端部の基端に連なり軸方向に沿って延在する胴部と、を有するカテーテルと、
針先を有し、前記カテーテル内に離脱可能に挿入される中空の内針と、
前記内針内に進退自在に挿入され、前記針先から送出されるガイドワイヤと、を備え、
前記カテーテルの先端部は、
樹脂材料によりばね形態ではない管状に形成されており、且つその表面の少なくとも一部分に前記胴部よりも硬い要素部を有し、
前記ガイドワイヤは、前記内針から送出される先端部分に湾曲部を有し、
前記湾曲部がコイル状に巻回され
、
前記要素部は、前記ガイドワイヤが前記要素部に接触した場合に前記カテーテルの先端部が損傷することを抑制する
ことを特徴とするカテーテル組立体。
【請求項2】
請求項1記載のカテーテル組立体において、
前記要素部は、前記カテーテルの先端部の外周面に設けられている
ことを特徴とするカテーテル組立体。
【請求項3】
請求項2記載のカテーテル組立体において、
前記カテーテルの先端部は、先端方向に向かって先細りとなるテーパ外周面を有し、
前記要素部は、前記テーパ外周面を含む領域に設けられている
ことを特徴とするカテーテル組立体。
【請求項4】
請求項2記載のカテーテル組立体において、
前記カテーテルの先端部は、先端方向に向かって先細りとなるテーパ外周面を有し、
前記要素部は、前記テーパ外周面よりも基端側の外周面に設けられている
ことを特徴とするカテーテル組立体。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載のカテーテル組立体において、
前記要素部は、前記カテーテルの先端部の内周面に設けられている
ことを特徴とするカテーテル組立体。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載のカテーテル組立体において、
前記要素部は、前記カテーテルの先端部の最先端に設けられている
ことを特徴とするカテーテル組立体。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載のカテーテル組立体において、
前記カテーテルは、前記先端部における前記要素部の存在箇所以外を構成している別要素部が、前記胴部と同じ硬さに設定されている
ことを特徴とするカテーテル組立体。
【請求項8】
請求項1~6のいずれか1項に記載のカテーテル組立体において、
前記カテーテルは、前記先端部における前記要素部の存在箇所以外を構成している別要素部が、前記要素部よりも柔らかく且つ前記胴部よりも硬い
ことを特徴とするカテーテル組立体。
【請求項9】
請求項1~6のいずれか1項に記載のカテーテル組立体において、
前記カテーテルは、前記先端部における前記要素部の存在箇所以外を構成している別要素部が、前記胴部よりも柔らかい
ことを特徴とするカテーテル組立体。
【請求項10】
請求項1~
9のいずれか1項に記載のカテーテル組立体において、
前記カテーテルは、前記先端部のうち最も先端側に位置する先端接触部が前記内針に密着する一方で、前記先端接触部よりも基端側が前記内針から離間しており、
前記先端接触部には、前記カテーテルの厚さ方向に貫通する横開口が設けられ、
前記内針は、前記先端接触部よりも基端側に側孔を有する
ことを特徴とするカテーテル組立体。
【請求項11】
請求項1~
10のいずれか1項に記載のカテーテル組立体において、
前記カテーテルは、前記内針が挿入されるメインルーメンと、前記メインルーメンと平行に延在するサブルーメンとを有する
ことを特徴とするカテーテル組立体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガイドワイヤを送出してカテーテルの挿入を案内するカテーテル組立体に関する。
【背景技術】
【0002】
米国特許第9162037号明細書には、カテーテルに内針が挿入された多重構造針を有するカテーテル組立体が開示されている。このカテーテル組立体は、患者の血管内にカテーテルを挿入する際に、ガイドワイヤを内針の針先から先行して送出し、このガイドワイヤによりカテーテルの挿入を案内する。
【0003】
特に、米国特許第9162037号明細書に開示のガイドワイヤは、その先端部が自然状態でコイル状に形状付けられた湾曲部に構成されている。湾曲部は、内針からの送出に伴いコイル状に巻回することで外形を丸くし、血管壁に引っ掛かり難くさせると共に、血管壁の傷付けを抑制することができる。
【発明の概要】
【0004】
しかしながら、上記のように構成されたガイドワイヤは、ガイドワイヤを送出する際にコイル状に湾曲することで、カテーテルに接触して、カテーテルの先端部を損傷させるおそれがある。例えば、カテーテルの先端部の損傷としては、ガイドワイヤの先端がカテーテルに突き刺す又は引っ掻く場合がある。
【0005】
或いは、カテーテルの進出時に、ガイドワイヤに対しカテーテルの内側が接触してカテーテルの先端がめくれる場合もある。なお、ガイドワイヤが湾曲部を備えない形状(例えば、直線状に延在するもの)でも、ガイドワイヤの先端が血管に接触してカテーテル側に反り返ることがあり、損傷等の同様の現象を生じさせる可能性もある。
【0006】
本発明は、上記の実情に鑑みてなされたものであって、ガイドワイヤを先行して送出する構成でも、ガイドワイヤによるカテーテルの損傷を良好に抑制することができるカテーテル組立体を提供することを目的とする。
【0007】
前記の目的を達成するために、本発明に係るカテーテル組立体は、先端部と、前記先端部の基端に連なり軸方向に沿って延在する胴部と、を有するカテーテルと、針先を有し、前記カテーテル内に離脱可能に挿入される中空の内針と、前記内針内に進退自在に挿入され、前記針先から送出されるガイドワイヤと、を備え、前記カテーテルの先端部は、樹脂材料によりばね形態ではない管状に形成されており、且つその表面の少なくとも一部分に前記胴部よりも硬い要素部を有し、前記ガイドワイヤは、前記内針から送出される先端部分に湾曲部を有し、前記湾曲部がコイル状に巻回され、前記要素部は、前記ガイドワイヤが前記要素部に接触した場合に前記カテーテルの先端部が損傷することを抑制することを特徴とする。
【0009】
また、前記要素部は、前記カテーテルの先端部の外周面に設けられているとよい。
【0010】
さらに、前記カテーテルの先端部は、先端方向に向かって先細りとなるテーパ外周面を有し、前記要素部は、前記テーパ外周面を含む領域に設けられていてもよい。
【0011】
またさらに、前記カテーテルの先端部は、先端方向に向かって先細りとなるテーパ外周面を有し、前記要素部は、前記テーパ外周面よりも基端側の外周面に設けられていてもよい。
【0012】
或いは、前記要素部は、前記カテーテルの先端部の内周面に設けられていてもよい。
【0013】
さらにまた、前記要素部は、前記カテーテルの先端部の最先端に設けられているとよい。
【0014】
ここで、前記カテーテルは、前記先端部における前記要素部の存在箇所以外を構成している別要素部が、前記胴部と同じ硬さに設定されていることが好ましい。
【0015】
前記カテーテルは、前記先端部における前記要素部の存在箇所以外を構成している別要素部が、前記要素部よりも柔らかく且つ前記胴部よりも硬い構成でもよい。
【0016】
或いは、前記カテーテルは、前記先端部における前記要素部の存在箇所以外を構成している別要素部が、前記胴部よりも柔らかい構成でもよい。
【0023】
本発明によれば、カテーテル組立体は、カテーテルの先端部の表面の少なくとも一部分に胴部よりも硬い要素部を有することで、ガイドワイヤが針先から送出された際に、ガイドワイヤによるカテーテルの損傷を良好に抑制することができる。すなわちカテーテルの先端部は、硬い要素部を有することで、ガイドワイヤの送出時の突き刺し、引っ掻き、カテーテルの移動時のめくれのうち少なくとも1つを抑制することができる。これにより、カテーテルを容易に移動可能とし、またカテーテルの移動時や留置時に、損傷したカテーテルの先端部が血管壁を傷付ける、血液の流動を阻害する等の不都合を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明の一実施形態に係るカテーテル組立体の全体構成を示す斜視図である。
【
図2】
図2Aは、ガイドワイヤを内針内に収容した状態を拡大して示す側面図である。
図2Bは、ガイドワイヤを内針から送出した状態を拡大して示す側面図である。
【
図3】
図3Aは、ガイドワイヤを内針内に収容した状態を拡大して示す側面断面図である。
図3Bは、ガイドワイヤの送出時にカテーテルの先端部に接触した例を示す側面断面図である。
図3Cは、ガイドワイヤに沿ってカテーテルを移動した際にカテーテルの先端部に接触した例を示す側面断面図である。
【
図4】カテーテルの先端部の表面の領域を示す拡大側面断面図である。
【
図5】
図5Aは、第1変形例に係るカテーテルの先端部を示す拡大側面断面図である。
図5Bは、第2変形例に係るカテーテルの先端部を示す拡大側面断面図である。
【
図6】
図6Aは、第3変形例に係るカテーテルの先端部を示す拡大側面断面図である。
図6Bは、第4変形例に係るカテーテルの先端部を示す拡大側面断面図である。
【
図7】
図7Aは、第5変形例に係るカテーテルの先端部を示す拡大側面断面図である。
図7Bは、別構成例に係るカテーテルの先端部を示す拡大側面断面図である。
【
図8】
図8Aは、第6変形例に係るカテーテルの先端部を示す拡大側面断面図である。
図8Bは、
図8Aのカテーテル組立体の血管穿刺時を示す拡大側面断面図である。
【
図9】
図9Aは、
図8AのIXA-IXA線断面図である。
図9Bは、別構成例に係るカテーテルの先端部を示す正面断面図である。
【
図10】
図10Aは、第7変形例に係るカテーテルの先端部を示す拡大側面断面図である。
図10Bは、
図10Aのカテーテル組立体の血管穿刺時を示す拡大側面断面図である。
【
図12】
図12Aは、第8変形例に係るカテーテルの先端部を示す正面断面図である。
図12Bは、第9変形例に係るカテーテルの先端部を示す正面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明について好適な実施形態を挙げ、添付の図面を参照して詳細に説明する。
【0028】
本発明の一実施形態に係るカテーテル組立体10は、
図1に示すように、患者の体外から体内に挿入されるカテーテル20を有し、カテーテル20により輸液や輸血の導入部を患者(生体)に構築する。カテーテル20は、末梢静脈カテーテルよりも長さが長いもの(例えば、中心静脈カテーテル、PICC、ミッドラインカテーテル等に適用されるもの)である。なお、カテーテル20は、末梢静脈カテーテルに構成されていてもよく、或いは静脈用カテーテルに限らず、末梢動脈カテーテル等の動脈用に構成されていてもよい。
【0029】
カテーテル組立体10は、上記カテーテル20の他に、カテーテル20内に離脱可能に挿入される内針30、カテーテル20を固定保持するカテーテルハブ40、及び内針30を固定保持する内針ハブ50を備える。さらに、カテーテル組立体10は、カテーテル20、カテーテルハブ40を操作するカテーテル操作部材60と、内針30内に進退自在に挿入されるガイドワイヤ70と、ガイドワイヤ70を操作するガイドワイヤ操作部材80と、を備える。
【0030】
カテーテル組立体10は、使用前の状態(初期状態)で、外側から内側に向かって、カテーテル20、内針30及びガイドワイヤ70が重なる多重構造針12を構成している(
図2Aも参照)。また、カテーテル組立体10は、初期状態で、多重構造針12の基端側、カテーテルハブ40、カテーテル操作部材60及びガイドワイヤ操作部材80を内針ハブ50内に収容している。
【0031】
このカテーテル組立体10の使用において、ユーザは、内針ハブ50を把持して、多重構造針12の先端を患者の血管内に穿刺する。さらにユーザは、この穿刺状態を維持したまま、ガイドワイヤ操作部材80を内針ハブ50と相対的に進出操作することで、内針30からガイドワイヤ70を送出する。
【0032】
ここで、本実施形態に係るガイドワイヤ70は、
図2Bに示すように、内針30から露出されると、その送出領域71の先端部分がコイル状に巻回することで、湾曲形状(以下、湾曲部72という)に変形する。湾曲部72は、側面視で、刃面が臨む上方向に湾曲して、その外形がカテーテル20の直径よりも大きな円形状を呈する。この湾曲部72は、ガイドワイヤ70が内針30に収容されていない自然状態で、予め形状付けされており、内針30内に収容される際に概ね直線状に弾性変形する(
図3Aも参照)。このため、ガイドワイヤ70が内針30から露出された際に、湾曲部72は、直ちに弾性復元してコイル状に戻るように作用する。
【0033】
カテーテル組立体10は、この湾曲部72を有するガイドワイヤ70を送出することで、ガイドワイヤ70の先端が血管壁に引っ掛からず、また血管壁を傷付けることなく、ガイドワイヤ70を挿入していくことが可能である。このガイドワイヤ70の湾曲部72は、ユーザの操作下に血管の奥に挿入される。その後、ユーザは、内針ハブ50に対してカテーテル操作部材60を相対的に進出することで、カテーテル20及びカテーテルハブ40を、内針30よりも先端側に進出させる。この際、カテーテル20は、先行するガイドワイヤ70に沿って血管内に挿入される。
【0034】
そして、内針30、内針ハブ50に対するカテーテル20、カテーテルハブ40の進出(又はカテーテル20、カテーテルハブ40に対する内針30、内針ハブ50の相対的な後退)により、カテーテルハブ40が内針30から離脱する。その後、カテーテル操作部材60がカテーテルハブ40から取り外されることで、カテーテル20及びカテーテルハブ40が患者側に留置される。以下、このカテーテル組立体10について、具体的に説明していく。
【0035】
カテーテル組立体10のカテーテル20は、
図1、
図2A及び
図2Bに示すように、先端部21と、先端部21に連なり軸方向に沿って延在する胴部22と、を有する管状部材に形成される。このカテーテル20は、適度な可撓性を有するように形成され、且つ軸方向に延在する内腔20aを内部に備える。内腔20aは、カテーテル20の先端に設けられた先端開口20bに連通している。カテーテル20の全長は、特に限定されるものではないが、例えば、14~500mmであるとよく、好ましくは30~400mmであり、或いは76~200mmであるとより好ましい。
【0036】
また、本実施形態に係るカテーテル20の先端部21は、先端方向に向かって先細りとなるテーパ外周面23を有する。さらに、先端部21は、胴部22よりも硬質に設計されている。このカテーテル20の先端部21の構成については、後に詳述する。
【0037】
一方、カテーテル20の基端部は、かしめ、融着、接着、インサート成形等の適宜の固着手段によってカテーテルハブ40内の先端部に固着される。カテーテルハブ40は、先端方向に先細りの筒状を呈しており、その内部に、カテーテル20の内腔20aに連通する内部空間(不図示)を有する。カテーテルハブ40は、カテーテル20が患者の血管内に挿入された状態で患者の皮膚上に露出され、他の医療機器(輸液や輸血のチューブ)が接続される。
【0038】
カテーテルハブ40の構成材料は、特に限定されず、例えば、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリスルホン、ポリアリレート、メタクリレート-ブチレン-スチレン共重合体等の熱可塑性樹脂を適用するとよい。
【0039】
カテーテル組立体10の内針30は、生体の皮膚を穿刺可能な剛性を有する中空状の管体に構成され、鋭利な針先31を先端に備える。内針30の内部には、軸方向に延在する中空部30aが設けられ、この中空部30aは、針先31に設けられた先端開口31aに連通している。
【0040】
内針30の構成材料としては、例えば、ステンレス鋼、アルミニウム又はアルミニウム合金、チタン又はチタン合金のような金属材料、或いは硬質樹脂、セラミックス等があげられる。内針30は、融着、接着、インサート成形等の適宜の固着手段により、内針ハブ50に強固に固定される。
【0041】
内針ハブ50は、内針30の軸方向長さよりも短く延びる細長い角筒状を呈しており、その内側に収容空間50aを有する。収容空間50a内には、所定の高さ位置で内針30の基端を固着する針保持部(不図示)が設けられている。
【0042】
また、内針ハブ50の先端側における所定範囲は、収容空間50aを上側に開放しており、カテーテル操作部材60及びガイドワイヤ操作部材80の先端部分が配置されている。さらに、内針ハブ50の内側面には、カテーテル操作部材60の側縁を摺動可能に配置する一対のレール部51が設けられている。内針ハブ50を構成する樹脂材料は、特に限定されず、例えば、カテーテルハブ40であげた材料を適宜選択し得る。
【0043】
カテーテル操作部材60は、平板状に形成され、初期状態で、その基端部にカテーテルハブ40が取り付けられる。そして、カテーテル操作部材60は、内針ハブ50のレール部51に側縁61が収容された状態で、収容空間50a内の所定位置から先端まで延在している。カテーテル20(多重構造針12)は、このカテーテル操作部材60の下側を延在し、内針ハブ50とカテーテル操作部材60の間で上下に撓みが抑制されるように支持される。カテーテル操作部材60の先端には、ユーザがカテーテル操作部材60を操作するための上側操作部62及び横側操作部63が設けられている。
【0044】
カテーテル操作部材60の基端部は、例えば、内針ハブ50の長手方向に沿ってスライドする姿勢ではカテーテルハブ40の係合が継続する一方で、カテーテルハブ40に対し所定角度傾くことでカテーテルハブ40との係合が解除するように構成される。
【0045】
また、ガイドワイヤ操作部材80は、初期状態で、カテーテル操作部材60の上面に配置される。このガイドワイヤ操作部材80は、先端側の操作板部81と、操作板部81から基端方向に延びる一対の延在部82と、一対の延在部82の基端間を架橋してガイドワイヤ70を保持する保持体83と、を含む。
【0046】
操作板部81は、ユーザがガイドワイヤ操作部材80を操作するための操作突片81aを先端に備える。そして、操作板部81の基端側の両側辺に一対の延在部82が連結される。一対の延在部82は、操作板部81から基端方向に延び、保持体83を内針ハブ50の収容空間50aの基端側に配置している。
【0047】
保持体83は、上下方向に長い直方形状のブロックに形成され、一対の延在部82の幅方向中間に位置している。ガイドワイヤ70は、保持体83の先端面から挿入され、その内部において固着されている。保持体83は、内針ハブ50の針保持部と対向する位置に配置される。
【0048】
保持体83に保持されたガイドワイヤ70は、
図1に示すように、内針ハブ50内を先端方向(針保持部)に向かって延び、針保持部に固定された内針30の中空部30aに挿入される。このガイドワイヤ70は、保持体83が内針ハブ50内の基端側に位置する状態で、その先端が内針30の先端開口31aよりも基端側に位置する長さに形成されている。
【0049】
そして、ガイドワイヤ70は、ユーザによるガイドワイヤ操作部材80の進出操作時の移動力を受けることで、内針30内を進出してその先端が針先31から送出される。上述したように、ガイドワイヤ70の送出領域71は、針先31から露出されるとコイル状の湾曲部72を形成する。
【0050】
上記のガイドワイヤ70を有するカテーテル組立体10は、内針30の針先31からのガイドワイヤ70の送出初期時に、例えば
図3Bに示すように、ガイドワイヤ70の先端73が弾性復元時の湾曲により基端側且つ多重構造針12の軸心側に反り返ることで、カテーテル20の先端部21の外周面に接触する場合がある。またカテーテル組立体10は、ガイドワイヤ70に沿ってカテーテル20を進出する際に、例えば
図3Cに示すように、カテーテル20の最先端21a(先端部21の一部)が湾曲部72に接触することになる。
【0051】
ここで、本明細書におけるカテーテル20の「先端部21」とは、カテーテル20の最先端21aから基端側に向かって所定長さ(ガイドワイヤ70の湾曲部72の外径よりも長い寸法)の範囲を指すものである。例えば、先端部21の軸方向長さは、胴部22の軸方向長さの1/10以下に設計される。そして、本実施形態に係るカテーテル20の先端部21は、テーパ外周面23の形成部分と、テーパ外周面23よりも多少基端側の部分と、を含んだ範囲となっている。
【0052】
また、カテーテル20の先端部21は、
図3B及び
図3Cのようなガイドワイヤ70の動作に対応するため、カテーテル20の胴部22よりも硬質に形成されている。詳細には、カテーテル20の先端部21は、胴部22と異なる材料で構成された第1要素部24(要素部)と、胴部22と同じ材料で構成された第2要素部25(別要素部)と、を含んで構成されている。
【0053】
第1要素部24は、カテーテル20の最先端21aを含み、カテーテル20の先端部21の中で最も先端側を構成する部分である。第1要素部24の外周面は、テーパ外周面23と、テーパ外周面23に連なると共にカテーテル20の軸心に対して平行に延在する平行外周面26と、を有する。平行外周面26は、胴部22の外周面に対して面一に連続している。また第1要素部24の内周面は、最先端からカテーテル20の軸心に対して平行に延在する平行内周面27となっている。第1要素部24の基端面24aは、平行外周面26と平行内周面27の基端同士を繋いで、先端方向に向かって内側に傾斜している。
【0054】
第1要素部24は、カテーテル20の周方向全周に設けられる。なお、第1要素部24は、カテーテル20の周方向全周に設けられるだけでなく、ガイドワイヤ70が湾曲部72により反り返る方向(
図3B中の上側位置)に部分的に設けられる構成でもよい。
【0055】
第2要素部25は、先端部21において、第1要素部24の存在箇所以外を構成し、
図3A中では、第1要素部24の基端面24aに連なり先端部21の内側を構成している。第2要素部25の先端面25aは第1要素部24の基端面24aに対応したテーパ状に形成されている。第2要素部25は、胴部22と同一の材料で構成されていることから、胴部22が先端方向に向かって先細りに形成された部分と言うこともできる。
【0056】
胴部22及び第2要素部25の構成材料は、軟質樹脂材料が好適であり、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂(PFA)等のフッ素系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン系樹脂又はこれらの混合物、ポリウレタン、ポリエステル、ポリアミド、ポリエーテルナイロン樹脂、オレフィン系樹脂とエチレン-酢酸ビニル共重合体との混合物等があげられる。
【0057】
一方、第1要素部24の構成材料は、胴部22に応じて適宜のもの(胴部22よりも硬い材質)が選択されればよく、上記の材料を適用してよい。第1要素部24の硬さ、又は後述する滑り性や復元力は、材料の密度や混合物の割合等も影響するため、第1要素部24は、胴部22と同じ材料でも構成し得る。
【0058】
以上のカテーテル20は、第2要素部25を含む胴部22を一連に成形すると共に、第1要素部24を別に成形し、その後の後加工で第2要素部25の先端面25aに対し第1要素部24を接合することにより製造することが可能である。第1要素部24と第2要素部25がテーパ状に接合されることで、接合範囲が広がると共に、カテーテル20の軸方向上での物性の変化が緩やかになる。
【0059】
そして、カテーテル20の先端部21は、第1要素部24を有することで、ガイドワイヤ70が内針30から送出されて反り返った際に、ガイドワイヤ70によるカテーテル20の損傷(ガイドワイヤ70の先端73の突き刺し、ガイドワイヤ70の先端73による引っ掻き等)を抑制する物性に構成されている。この場合の物性としては、カテーテル20自体の硬さ、ガイドワイヤ70を滑らせる滑り性(潤滑性)、ガイドワイヤ70が接触した際の復元力(弾力性)があげられる。
【0060】
具体的には、カテーテル20は、第1要素部24の硬さHaと、胴部22の硬さHbとを比較した場合に、Ha>Hbの関係に設定され得る。また、カテーテル20は、第1要素部24の滑り性Saと、胴部22の滑り性Sbとを比較した場合に、Sa>Sbの関係に設定され得る。さらに、カテーテル20は、第1要素部24の復元力Raと、胴部22の復元力Rbとを比較した場合に、Ra>Rbの関係に設定され得る。
【0061】
ここで、第1要素部24と胴部22の硬さの関係(Ha>Hb)、第1要素部24と胴部22の滑り性の関係(Sa>Sb)、及び第1要素部24と胴部22の復元力の関係(Ra>Rb)の各関係は、少なくとも1つが成立していればよい。より好ましくは2つ以上の関係が成立しているとよく、さらに好ましくは3つの関係が全て成立しているとよい。
【0062】
すなわち
図3Bに示すように、カテーテル20は、湾曲部72の弾性復元によりガイドワイヤ70の先端73が先端部21(第1要素部24)に接触した際に、先端部21が硬いことでカテーテル20の損傷を抑制してガイドワイヤ70を先端部21から逃がすことができる。これによりガイドワイヤ70の先端73が先端方向に誘導されコイル状への復元を円滑に行うことができる。同様に、カテーテル20は、先端部21が滑り易い(滑り性が良い)ことで、カテーテル20の損傷を抑制してガイドワイヤ70を先端部21から逃がすことができる。さらに、カテーテル20は、先端部21が容易に復元する(復元力が良い)ことで、ガイドワイヤ70が接触した際に、ガイドワイヤ70に応じて変形してガイドワイヤ70を逃がした後に復元することができる。
【0063】
また
図3Cに示すように、カテーテル20は、ガイドワイヤ70に沿って移動する際に湾曲部72が内側に接触しても、先端部21が硬いことでカテーテル20の内側からのめくれを抑制して、カテーテル20を円滑に移動させることができる。同様に、カテーテル20は、先端部21が滑り易いことで、ガイドワイヤ70の接触部分が変位し易くなり、めくれを抑制することができる。さらに、カテーテル20は、先端部21の復元力が良いことで、カテーテル20の内側からのめくれが生じても容易に復元して、カテーテル20を円滑に移動させることができる。
【0064】
なお、ガイドワイヤ70の先端73は、湾曲に伴いカテーテル20の先端部21の表面(外周面及び内周面)に接触する。このことから、カテーテル20は、先端部21の表面の少なくとも一部分の物性(硬さ、滑り性、復元力)を、胴部22の物性よりも高めた構成であればよい。特に、カテーテル20の先端部21の表面を、
図4に示す拡大側面断面図で、4つの領域(最先端領域91、外周面中間領域92、外周面基端領域93、内周面領域94)に設定した場合に、そのいずれかの領域の物性が胴部22の物性よりも高ければよい。
【0065】
具体的に、最先端領域91は、カテーテル20の先端部21の中でも最も先端に位置し、最先端21aを含む部分である。例えば、先端部21の軸方向長さにおいて最先端領域91が占める割合は、1/5以下である。この最先端領域91は、カテーテル20の進出時にガイドワイヤ70の先端が接触してめくれ易い箇所にあたる。このため、最先端領域91が、胴部22よりも硬い、滑り易い、復元し易い、のいずれかであれば、ガイドワイヤ70が接触してもカテーテル20のめくれを良好に抑制する、又はめくれても容易に戻すことができる。
【0066】
外周面中間領域92は、最先端領域91の基端に連なりテーパ外周面23を延在して平行外周面26の先端部分をある程度含む部分である。この外周面中間領域92は、ガイドワイヤ70が湾曲した際に、特に、その先端73が接触することでカテーテル20の引っ掻きが生じ易い箇所にあたる。このため、外周面中間領域92が、胴部22よりも硬い、滑り易い、復元し易い、のいずれかであれば、ガイドワイヤ70が接触してもカテーテル20の引っ掻きを良好に抑制することができる。
【0067】
外周面基端領域93は、外周面中間領域92の基端に連なり平行外周面26が先端部21の基端まで延在する部分である。この外周面基端領域93は、ガイドワイヤ70が湾曲した際に、特に、その先端73が接触することでカテーテル20の突き刺しが生じ易い箇所にあたる。このため、外周面基端領域93が、胴部22よりも硬い、滑り易い、復元し易い、のいずれかであれば、ガイドワイヤ70が接触してもカテーテル20の穿刺を良好に抑制することができる。
【0068】
内周面領域94は、最先端領域91の基端に連なりカテーテル20の内周面を先端部21の基端まで延在する部分である。この内周面領域94は、最先端領域91と同様に、カテーテル20の進出時或いはガイドワイヤ70が中空部30a内に移動した際に、ガイドワイヤ70の先端73が接触してめくれ易い箇所にあたる。このため、内周面領域94が、胴部22よりも硬い、滑り易い、復元し易い、のいずれかであれば、ガイドワイヤ70が接触してもカテーテル20のめくれを良好に抑制する、又はめくれても容易に戻すことができる。
【0069】
すなわち、カテーテル組立体10のカテーテル20は、
図4中の最先端領域91、外周面中間領域92、外周面基端領域93、内周面領域94のいずれかの物性(硬さ、滑り性、復元力)を高める構成を採用するとよい。例えば、上述した
図3A中のカテーテル20の先端部21は、第1要素部24が先端部21の大部分を構成している。従って、カテーテル20の表面は、第1要素部24により最先端領域91、外周面中間領域92、外周面基端領域93、内周面領域94の全ての領域の物性を高めることができる。
【0070】
また、
図5Aに示す第1変形例のように、カテーテル20Aの先端部21は、第1要素部24を外側に備える一方で、第2要素部25を内側に備えた構成でもよい。従って、カテーテル20Aの先端部21の表面は、第1要素部24により、最先端領域91、外周面中間領域92、外周面基端領域93の物性が、胴部22よりも高められることになる。
【0071】
つまり、カテーテル20Aの先端部21は、第1要素部24を外側に備えることで、ガイドワイヤ70の先端73の突き刺しや引っ掻きを良好に抑制することができる。またカテーテル20Aの先端部21は、第2要素部25を内側に備えることで、先端部21全体としては柔軟性が高まるので、蛇行する血管に追従し易くなる。このカテーテル20Aは、例えば、押し出し成形により第1要素部24及び第2要素部25を積層して成形し、後加工で胴部22に接合することで製造することができる(
図5A、
図5B中の点線は、先端部21と胴部22の接合境界部分を示している)。
【0072】
さらに、
図5Bに示す第2変形例のように、カテーテル20Bの先端部21は、第1要素部24を中間層に備える一方で、第2要素部25を内層と外層に備える三層構造に構成されている。また、第1要素部24は、最先端領域91において外側に露出されている。従って、カテーテル20Bの先端部21の表面は、第1要素部24により、最先端領域91の物性が胴部22よりも高められることになる。
【0073】
これにより、カテーテル20Bの先端部21は、ガイドワイヤ70に沿ってカテーテル20Bを進出する際におけるめくれを良好に抑制することができる。また、カテーテル20Bの先端部21は、第2要素部25を内層及び外層に備えることで、第1変形例の形態よりも先端部21全体の柔軟性をさらに高めることができる。そして、このカテーテル20Bも、第1変形例と同様の方法で製造することができる。
【0074】
またさらに、
図6Aに示す第3変形例のように、カテーテル20Cの先端部21は、第1要素部24と胴部22の間に、第1要素部24及び胴部22とは異なる物性の第2要素部28を備えた構成でもよい。第2要素部28は、その硬さHcが、第1要素部24の硬さHa、及び胴部22の硬さHbよりも低く(柔らかく)設定される。つまりカテーテル20Cの硬さの関係は、Ha>Hb>Hcとなっている。これにより、胴部22に対して先端部21が柔軟に動くようになり、先端部21(第1要素部24)におけるガイドワイヤ70の先端の突き刺し、引っ掻き、めくれを抑制しつつ、さらに血管への追従性を高めることができる。
【0075】
なお、第2要素部28の硬さHcは、先端部21の硬さHaより柔らかく、胴部22の硬さHbよりも硬い構成とすることもできる。つまりカテーテル20Cの硬さの関係は、Ha>Hc>Hbに設定されてもよい。これにより、カテーテル20Cは、先端方向に向かって徐々に硬くなるように構成されことになり、物性の変化によるキンクの発生を抑えることができる。
【0076】
また、第2要素部28は、復元力Rc等の他の物性が第1要素部24の物性よりも低く構成されてもよい。例えば、カテーテル20Cは、復元力の関係がRa>Rb>Rc又はRa>Rc>Rbであれば、第2要素部28により先端部21を良好に支持することができる。
【0077】
図6Bに示す第4変形例のように、カテーテル20Dは、第1要素部24を外側に備える一方で、先端部21及び胴部22と異なる物性の第2要素部28を内側に備えている。つまり第2要素部28は、第3変形例と同様に、硬さHc、滑り性Sc、復元力Rcとした場合に、Ha>Hb>Hc、Ha>Hc>Hb、Sa>Sb>Sc、Sa>Sc>Sb、Ra>Rb>Rc、Ra>Rc>Rbのいずれかの関係を満たすように構成される。
【0078】
これにより、カテーテル20Dの先端部21は、ガイドワイヤ70の先端の突き刺しや引っ掻きを良好に抑制することができ、これに加えて先端部21全体を血管に一層追従し易い物性に設計することができる。
【0079】
すなわち、カテーテル20、20A~20Dは、先端部21の表面の少なくとも一部に第1要素部24を配置し、且つ第1要素部24、第2要素部28及び胴部22の物性(硬さ、滑り性、復元力)の関係が、Ha>Hb>Hc、Ha>Hc>Hb、Sa>Sb>Sc、Sa>Sc>Sb、Ra>Rb>Rc、Ra>Rc>Rbのいずれか1つ又は複数を満たすように設計される。これによりカテーテル20、20A~20Dは、ガイドワイヤ70の送出時の突き刺し、引っ掻き、カテーテル20、20A~20Dの移動時のめくれのうち少なくとも1つを抑制することができる。
【0080】
なお、カテーテル20の先端部21は、その表面(最先端領域91、外周面中間領域92、外周面基端領域93、内周面領域94)の物性を高めるため、コーティング処理が施されて構成されてもよい。コーティング処理される材料は、カテーテル20を構成する材料と反応することで、硬さ、滑り性、復元力のうちいずれかが高まるものを適宜選択すればよい。
【0081】
図7Aに示す第5変形例のように、カテーテル組立体10のカテーテル100は、最も先端側に位置し内針30の外周面と接触(密着)する先端接触部102と、先端接触部102の基端に傾斜部103を介して連なり内針30から離間している基部104とを有する構成でもよい。先端接触部102、傾斜部103及び基部104は、上記のカテーテル20の先端部21と同じ部分(先端部101)を構成し、基部104の基端側が胴部22に連なっている。すなわちカテーテル100は、初期状態で、先端接触部102において当該先端接触部102の内周面と内針30の外周面とで閉塞され、基部104において空間を形成する内腔100aを内側に有する。内腔100aは、内針30が露出される先端開口100bに連通している。
【0082】
先端接触部102には、カテーテル100の厚さ方向に貫通する横開口105が設けられる。すなわち、横開口105は、カテーテル100上で内針30の接触部分に形成されている。横開口105は、先端開口100bとは別に、内腔100aと先端接触部102の外側とを連通する。カテーテル100の周方向上における横開口105の形成位置は、特に限定されないが、例えば、針先31の刃面が臨む方向(
図7A中の上方向)と同位置にあるとよい。
【0083】
また、内針30は、針先31(先端開口31a)から基端方向に所定距離離れた位置に側孔106(ノッチ)を備える。側孔106は、初期状態で、傾斜部103又は基部104に重なる位置(カテーテル100との非接触部分)にあって、先端接触部102により閉塞された内腔100aと内針30の中空部30aとを連通している。
【0084】
ガイドワイヤ70の先端73は、初期状態で、側孔106よりも基端側に配置されている。従って、内針30は、針先31が血管に到達した際に、先端開口31aから中空部30aに流入した血液を、側孔106を通して内腔100aに円滑に導き、血液のフラッシュバックをユーザに容易に確認させることができる。内針30の周方向上における側孔106の形成位置は、特に限定されないが、コイル状に形状付けられたガイドワイヤ70の湾曲方向と異なる方向に設けられるとよい。例えば、側孔106は、針先31の刃面が臨む方向に対し90°位相がずれる位置に設けられる。
【0085】
また第5変形例に係るカテーテル100の先端部101は、上記のカテーテル20と同様に、第1要素部24と、胴部22と同じ材料で構成された第2要素部25とを有する。第1要素部24は、先端接触部102、傾斜部103及び基部104の先端側にわたって延在している。第2要素部25は、基部104の基端側に設けられている。
【0086】
第1要素部24は、第2要素部25よりも硬い材質(又は滑り性が高い材質、或いは復元力が高い材質)により構成される。このように構成されたカテーテル100は、ガイドワイヤ70を内針30の先端開口31aから送出した場合に、コイル状に弾性復元したガイドワイヤ70の先端73を第1要素部24に接触させる。従って、カテーテル100の損傷を抑制してガイドワイヤ70を先端部101から逃がすことができる。
【0087】
また、カテーテル組立体10は、多重構造針12の穿刺時に、先端接触部102が閉塞されたカテーテル100の内腔100aに、内針30の中空部30a及び側孔106を介して血液を導くことができる。この際、横開口105は、内針30とカテーテル100とが接触している箇所に存在するため、フラッシュバックの血液を漏らすことがない。従って、ユーザに血液のフラッシュバックを良好に確認させることができる。
【0088】
さらに、カテーテル100を血管内に留置した際に、2つの開口(先端開口100b、横開口105)を介して内腔100aと血管内が連通する。従って、カテーテル100を使用して血液を吸引する際には、一方の開口(例えば、先端開口100b)が血管壁により閉塞しても、他方の開口(例えば、横開口105)が開放されることになり、血液を良好に吸引することができる。
【0089】
また、カテーテル組立体10は、
図7Bに示す第5変形例の別構成例のように、1つの要素部(例えば第1要素部24)によって先端部111を構成したカテーテル110を有していてもよい。なお、カテーテル110において、先端接触部102、傾斜部103、基部104、横開口105及び側孔106等の構成は、
図7Aで説明したものと同じである。このようにカテーテル110の先端部111が、1つの要素部により構成されても、上記カテーテル100と同様の効果が得られる。
【0090】
なお、カテーテル100、110に横開口105を備えると共に、内針30に側孔106を備える構成は、他の実施形態に適用し得ることは勿論であり、例えば、後記のマルチルーメンタイプのカテーテル組立体10にも適用できる。
【0091】
第6変形例に係るカテーテル120は、
図8A、
図8B及び
図9Aに示すように、2つの内腔(メインルーメン121、サブルーメン122)を有するダブルルーメンタイプ(マルチルーメンタイプ)に構成されている。そして、カテーテル120は、ガイドワイヤ70を内部に配置した内針30を、メインルーメン121に挿入している。
【0092】
メインルーメン121は、カテーテル120の最先端の先端開口121aに連通している。内針30の針先31は、先端開口121aから露出している。サブルーメン122は、メインルーメン121に対して上側に位置している。ここで、メインルーメン121の「上側」とは、初期状態において針先31の刃面が臨む方向と同じ方向を言う。メインルーメン121の「上側」は、コイル状に形状付けされたガイドワイヤ70の弾性復元時に、ガイドワイヤ70が反り返る(湾曲する)方向でもある。
【0093】
サブルーメン122は、カテーテル120内をメインルーメン121と平行に延在し、メインルーメン121とは別の液体(薬液、血液)を血管に流入させる。サブルーメン122の先端開口122aは、カテーテル120の最先端から基端方向に向かって斜めに傾いたテーパ面123上に形成されており、メインルーメン121の先端開口121aよりも若干基端側に位置している。
【0094】
また、第6変形例に係るカテーテル120の先端部124は、上記のカテーテル20と同様に、第1要素部24と、胴部22と同じ材料で構成された第2要素部25とを有する。図示例において第1要素部24及び第2要素部25は、カテーテル120の全周とメインルーメン121とサブルーメン122の間の隔壁に設けられているが、第1要素部24はカテーテル120の上側(サブルーメン122の周辺)に部分的に設けられてもよい。第1要素部24は、第2要素部25よりも硬い材質(又は滑り性が高い材質、或いは復元力が高い材質)により構成される。
【0095】
以上のように構成されたカテーテル120は、多重構造針12の穿刺時に、メインルーメン121に配置された内針30の先端開口31aからガイドワイヤ70を送出することができる。これにより、コイル状に形状付けされたガイドワイヤ70は、血管内において巻回した状態に移行する。
【0096】
この際、下側のメインルーメン121(内針30)からガイドワイヤ70が送出されるカテーテル120では、
図8Bに示すようにガイドワイヤ70が血管前壁Vfから離れた位置で巻回するので、ガイドワイヤ70による血管前壁Vfへの干渉が抑制される。
【0097】
また
図9Aに示すように、カテーテル120は、ガイドワイヤ70を内針30に戻す際に、カテーテル120に負荷がかかる部分が肉厚で距離Lが長いためカテーテル120が傷み難いというメリットがある。さらに、カテーテル120は、ガイドワイヤ70が複数回巻回してコイル状の湾曲部72に形成した際に、隣接し合うガイドワイヤ70間のピッチを密にできる(幅Wが比較的狭くなる)。このため、湾曲部72は、血管後壁Vrに当たる圧力が弱まり血管後壁Vrを傷めにくい。
【0098】
なお、カテーテル120は、
図9Aに示すように正面視で正円形状に形成されるだけでなく、
図9Bに示す第6変形例の別構成例のように、正面視でメインルーメン121とサブルーメン122が並ぶ方向に長軸を有する楕円状に形成されていてもよい。このように楕円形状に形成されたカテーテル120は、ガイドワイヤ70の湾曲部72の幅W(隣接し合うガイドワイヤ70間のピッチ)を狭めることができ、血管後壁Vrに当たる圧力を一層弱めることができる。
【0099】
第7変形例に係るカテーテル130は、
図10A、
図10B及び
図11Aに示すように、メインルーメン131、サブルーメン132を有するが、メインルーメン131に対しサブルーメン132が下側に位置している。メインルーメン131には、ガイドワイヤ70を内部に配置した内針30が挿入されている。メインルーメン131の「下側」とは、初期状態において針先31の刃面が臨む方向とは反対側の方向を言う。また、メインルーメン131の「下側」は、コイル状に形状付けされたガイドワイヤ70の湾曲部72が形成される方向に対し、逆側にあたる。
【0100】
例えば、サブルーメン132は、カテーテル130の最先端の先端開口132aに連通している。メインルーメン131の先端開口131aは、カテーテル130の最先端から基端方向に向かって斜めに傾いたテーパ面133上に形成されており、サブルーメン132の先端開口132aよりも若干基端側に位置している。この場合、内針30の針先31は、先端開口131aよりも先端方向に突出している。
【0101】
また、第7変形例に係るカテーテル130の先端部134も、上記のカテーテル20と同様に、第1要素部24と、胴部22と同じ材料で構成された第2要素部25とを有する。第1要素部24は、第2要素部25よりも硬い材質(又は滑り性が高い材質、或いは復元力が高い材質)により構成される。
【0102】
以上のように構成されたカテーテル130は、上側のメインルーメン131(内針30)からガイドワイヤ70を送出した際に、
図10Bに示すようにガイドワイヤ70が血管後壁Vrに対して長い距離を稼ぐ(二点鎖線参照)。このため、ガイドワイヤ70が弾性変形し易くなり、血管後壁Vrを傷めることを抑制することができる。
【0103】
また
図11Aに示すように、カテーテル130は、カテーテル120と同様に、ガイドワイヤ70が複数回巻回してコイル状の湾曲部72に形成した際に、隣接し合うガイドワイヤ70間のピッチを密にできる(幅Wが比較的狭くなる)。このため、湾曲部72は、血管後壁Vrに当たる圧力が弱まり血管後壁Vrを傷めにくい。なお、カテーテル130は、
図11Aに示すように正面視で正円形状に形成されるだけでなく、
図11Bに示す第7変形例の別構成例のように、正面視でメインルーメン131とサブルーメン132が並ぶ方向に長軸を有する楕円状に形成されていてもよい。このように楕円形状に形成されたカテーテル130は、やはりガイドワイヤ70の湾曲部72の幅W(隣接し合うガイドワイヤ70間のピッチ)を狭めることができ、血管後壁Vrに当たる圧力を一層弱めることができる。
【0104】
また
図12Aに示す第8変形例のように、カテーテル140は、メインルーメン141及びサブルーメン142を有するダブルルーメンタイプに構成される場合に、相互のルーメンが横並びに配置されてもよい。具体的には、カテーテル140は、正面視で、ガイドワイヤ70を収容した内針30が挿入されるメインルーメン141の左側(第1方向)にサブルーメン142を有する。ここで、メインルーメン141の「左側」とは、ガイドワイヤ70が弾性復元した際にコイル状の湾曲部72が形成される方向(右側:第2方向)と反対方向を言う。
【0105】
このように構成されたカテーテル140は、メインルーメン141からガイドワイヤ70を送出した際に、サブルーメン142から離間する右側に湾曲部72を形成する。このためガイドワイヤ70の湾曲部72の幅W(隣接し合うガイドワイヤ70間のピッチ)を大幅に狭めることができ、血管後壁Vrに当たる圧力をより一層弱めることができる。
【0106】
さらに、
図12Bに示す第9変形例のように、カテーテル150は、正面視で、メインルーメン151の右側(第2方向)にサブルーメン152を有するダブルルーメンタイプに構成されてもよい。ここで、メインルーメン151の「右側」とは、ガイドワイヤ70が弾性復元した際にコイル状の湾曲部72が形成される方向と同じ方向を言う。
【0107】
このように構成されたカテーテル150は、ガイドワイヤ70を内針30に戻す際に、カテーテル150に負荷がかかる部分が肉厚で距離Lが長いためカテーテル150が傷み難いというメリットがある。
【0108】
以上のように、本発明に係るカテーテル組立体10は、カテーテル20の先端部21の表面の少なくとも一部分に胴部22よりも硬い第1要素部24を有する。これによりガイドワイヤ70が内針30の針先31から送出された際に、ガイドワイヤ70によるカテーテル20の損傷を良好に抑制することができる。すなわちカテーテル20の先端部21は、硬い第1要素部24を有することで、ガイドワイヤ70の送出時の突き刺し、引っ掻き、カテーテル20の移動時のめくれのうち少なくとも1つを抑制することができる。これにより、カテーテル20を容易に移動可能とし、またカテーテル20の移動時や留置時に、損傷したカテーテル20の先端部21が血管壁を傷付ける、血液の流動を阻害する等の不都合を防ぐことができる。
【0109】
ガイドワイヤ70は、先端部分に湾曲部72を有することで、血管壁の引っ掛かりや傷付けを抑制して血管内を移動することができる。またカテーテル20は、硬い先端部21に構成されているので、ガイドワイヤ70の湾曲部72が接触しても損傷が抑制される。
【0110】
特に、カテーテル組立体10は、カテーテル20の先端部21の外周面に第1要素部24が設けられていることで、ガイドワイヤ70の先端73が外周面に接触した際に、カテーテル20の突き刺しや引っ掻きを抑制して、ガイドワイヤ70を良好に逃がすことが可能となる。
【0111】
この場合、カテーテル20の先端部21は、テーパ外周面23に第1要素部24を有することで、ガイドワイヤ70がテーパ外周面23を引っ掻くことを抑制して、カテーテル20において肉厚が薄くなる部分の損傷をより確実に防ぐことができる。
【0112】
また、カテーテル20の先端部21は、テーパ外周面23の基端側の外周面(外周面基端領域93)に第1要素部24を有することで、ガイドワイヤ70の先端73がカテーテル20に突き刺さることを抑制することができる。
【0113】
さらに、カテーテル20の先端部21は、内周面に第1要素部24を有することで、ガイドワイヤ70に対しカテーテル20を移動する際に、カテーテル20の内周面にガイドワイヤ70が接触しても、カテーテル20のめくれを抑制することができる。またガイドワイヤ70の先端73による内周面の損傷も抑制される。
【0114】
そして、カテーテル20の先端部21は、最先端21aに第1要素部24を有することで、ガイドワイヤ70による最先端21aのめくれを抑制することができる。
【0115】
またさらに、カテーテル20の先端部21は、第1要素部24の他に、胴部22と同じ硬さの第2要素部25を有することで、先端部21の硬さが胴部22と大きく異なることによるキンク等の影響を抑えることができる。また製造時に先端部21と胴部22を接合する場合に、良好な接合状態を形成することができる。
【0116】
或いは、カテーテル20の先端部21は、第1要素部24の他に、第1要素部24よりも柔らかく胴部22よりも硬い第2要素部28を有することで、カテーテル20の先端方向に向かって徐々に硬くなる構造となり、キンク等をより確実に抑制することができる。
【0117】
また例えば、カテーテル20の先端部21は、第1要素部24の他に、胴部22よりも柔らかい第2要素部28を有することで、先端部21の物性を適切に設計することが可能となり、カテーテル20の先端部21を血管に追従させ易くすることができる。
【0118】
なお、本発明は、上述の実施形態に限定されず、発明の要旨に沿って種々の改変が可能である。