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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-18
(45)【発行日】2023-04-26
(54)【発明の名称】センサ素子
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/416 20060101AFI20230419BHJP
   G01N 27/407 20060101ALI20230419BHJP
【FI】
G01N27/416 331
G01N27/407
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020550362
(86)(22)【出願日】2019-09-26
(86)【国際出願番号】 JP2019037894
(87)【国際公開番号】W WO2020071239
(87)【国際公開日】2020-04-09
【審査請求日】2022-04-19
(31)【優先権主張番号】P 2018187834
(32)【優先日】2018-10-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088672
【弁理士】
【氏名又は名称】吉竹 英俊
(74)【代理人】
【識別番号】100088845
【弁理士】
【氏名又は名称】有田 貴弘
(74)【代理人】
【識別番号】100134991
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 和樹
(74)【代理人】
【識別番号】100148507
【弁理士】
【氏名又は名称】喜多 弘行
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 悠介
(72)【発明者】
【氏名】甲斐 美佳
(72)【発明者】
【氏名】大西 諒
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 沙季
(72)【発明者】
【氏名】日野 隆志
【審査官】櫃本 研太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-096792(JP,A)
【文献】特開2016-109685(JP,A)
【文献】特開2012-189579(JP,A)
【文献】特開2018-169324(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/406-27/419
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定ガス中の所定ガス成分を検知するガスセンサに備わるセンサ素子であって、
酸素イオン伝導性の固体電解質からなり、一方端部にガス導入口を備える長尺板状のセラミックス体と、
前記セラミックス体の内部に備わり、前記ガス導入口と所定の拡散抵抗の下で連通する少なくとも1つの内部空室と、
前記セラミックス体において前記少なくとも1つの内部空室以外の箇所に形成された外側ポンプ電極と、前記少なくとも1つの内部空室に面して設けられた内側ポンプ電極と、前記外側ポンプ電極と前記内側ポンプ電極の間に存在する固体電解質からなり、前記少なくとも1つの内部空室と外部との間で酸素の汲み入れおよび汲み出しを行う、少なくとも1つの電気化学的ポンプセルと、
前記セラミックス体の前記一方端部側の所定範囲に埋設されてなるヒータと、
を有するとともに、
気孔率が30%~65%の多孔質からなる内側先端保護層、
を、少なくとも、前記一方端部側の対向する2つの主面上に備える素子基体と、
少なくとも一部が前記内側先端保護層と接触してなり、気孔率が25%~80%である多孔質からなる中間先端保護層と、
前記センサ素子の前記一方端部側の最外周部において前記素子基体を囲繞してなり、前記素子基体の4つの側面側において前記中間先端保護層および前記内側先端保護層と接触してなるとともに前記素子基体の先端面側において当該先端面または前記中間先端保護層と接触する、気孔率が15%~30%であって前記中間先端保護層の気孔率よりも小さい多孔質からなる外側先端保護層と、
を備え、
前記内側先端保護層と前記外側先端保護層との気孔率差が10%~50%である、
ことを特徴とするセンサ素子。
【請求項2】
請求項1に記載のセンサ素子であって、
前記中間先端保護層が、前記素子基体のうち、あらかじめ特定された被水割れ要対処領域に接触させて設けられてなり、
前記外側先端保護層が、前記素子基体のうち、あらかじめ特定された被水割れ不発生領域において、前記内側先端保護層と接触してなる、
ことを特徴とするセンサ素子。
【請求項3】
請求項2に記載のセンサ素子であって、
前記被水割れ要対処領域が、前記素子基体のうち、前記ガスセンサの使用時に500℃以上に加熱される領域であり、
前記外側先端保護層と前記内側先端保護層との接触部分が、前記ガスセンサの使用時に500℃以下に保たれる部分に配置されてなる、
ことを特徴とするセンサ素子。
【請求項4】
請求項2または請求項3に記載のセンサ素子であって、
前記中間先端保護層が、前記内側先端保護層の外面の一部と、前記素子基体の先端面とに接触してなり、
前記外側先端保護層が、前記素子基体の先端面側においても前記中間先端保護層と接触してなる、
ことを特徴とするセンサ素子。
【請求項5】
請求項2または請求項3に記載のセンサ素子であって、
前記中間先端保護層が、前記内側先端保護層の外面の一部に接触してなり、
前記外側先端保護層が、前記素子基体の先端面側において当該先端面と接触してなる、
ことを特徴とするセンサ素子。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれかに記載のセンサ素子であって、
前記内側先端保護層の厚みが20μm~50μmであり、
前記中間先端保護層の厚みが100μm~700μmであり、
前記外側先端保護層の厚みが100μm~400μmである、
ことを特徴とするセンサ素子。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれかに記載のセンサ素子であって、
前記外側先端保護層と前記内側先端保護層との接触部分の面積が、前記素子基体のうち前記外側先端保護層によって囲繞される範囲の面積の10%以上50%以下である、
ことを特徴とするセンサ素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被測定ガス中の所定ガス成分を検知するガスセンサに関し、特に、ガスセンサに備わるセンサ素子において被水割れを防止する構成に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、被測定ガス中の所望ガス成分の濃度を知るためのガスセンサとして、ジルコニア(ZrO)等の酸素イオン伝導性を有する固体電解質からなり、表面や内部にいくつかの電極を備えるセンサ素子を有するものが、広く知られている。このようなセンサ素子においては、水滴が付着することに起因して熱衝撃によりセンサ素子(より詳細には素子基体)が割れる、いわゆる被水割れを防止する目的で、多孔質体からなる保護層(多孔質保護層)が設けられる。この被水割れを防止する効果の程度は、耐被水性とも称される。
【0003】
このようなセンサ素子として、長尺平板状の素子基体の両主面に保護層を設けたうえで、先端部に対しさらに多孔質保護層を設ける構成が、すでに公知である(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、先端側に検知部を備えた長尺の板状素子と、検知部の全体を覆う多孔質の第1保護層と、第1保護層の外周を覆うと共に、少なくとも、第1保護層における先端側から素子外側に位置する電極を覆う多孔質層よりも後端側までを覆う多孔質の第2保護層とを備えるガスセンサ素子も、すでに公知である(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-48230号公報
【文献】特許第6014000号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1には、センサ素子先端部の、ガスセンサの使用時に500℃以上の温度状態となる領域には多孔質保護層を形成する一方で、使用時に300℃以下の温度状態となる領域には形成しないようにすることで、多孔質保護層の形成面積の低減による消費電力や検出までの待機時間の低減と、耐被水性の向上によるクラックの抑制とが実現できるとの開示がある。
【0007】
しかしながら、特許文献1に係るセンサ素子の耐被水性は必ずしも十分なものではなく、被水量が多い場合には被水割れが生じることがある。
【0008】
また、特許文献2に開示されたガスセンサ素子のうち、外側の第2保護層が内側の第1保護層全体を覆うものについては、第2保護層の気孔率が小さいために、後端側において第2保護層が素子本体と十分に密着せずに剥離するおそれや、高温となる使用時に被水割れのおそれがある。
【0009】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、被測定ガスの導入口が備わる一方端部側に多孔質の保護層を有し、従来よりもさらに耐被水性が優れているセンサ素子を提供することを、目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明の第1の態様は、被測定ガス中の所定ガス成分を検知するガスセンサに備わるセンサ素子であって、酸素イオン伝導性の固体電解質からなり、一方端部にガス導入口を備える長尺板状のセラミックス体と、前記セラミックス体の内部に備わり、前記ガス導入口と所定の拡散抵抗の下で連通する少なくとも1つの内部空室と、前記セラミックス体において前記少なくとも1つの内部空室以外の箇所に形成された外側ポンプ電極と、前記少なくとも1つの内部空室に面して設けられた内側ポンプ電極と、前記外側ポンプ電極と前記内側ポンプ電極の間に存在する固体電解質からなり、前記少なくとも1つの内部空室と外部との間で酸素の汲み入れおよび汲み出しを行う、少なくとも1つの電気化学的ポンプセルと、前記セラミックス体の前記一方端部側の所定範囲に埋設されてなるヒータと、を有するとともに、気孔率が30%~65%の多孔質からなる内側先端保護層を、少なくとも、前記一方端部側の対向する2つの主面上に備える素子基体と、少なくとも一部が前記内側先端保護層と接触してなり、気孔率が25%~80%である多孔質からなる中間先端保護層と、前記センサ素子の前記一方端部側の最外周部において前記素子基体を囲繞してなり、前記素子基体の4つの側面側において前記中間先端保護層および前記内側先端保護層と接触してなるとともに前記素子基体の先端面側において当該先端面または前記中間先端保護層と接触する、気孔率が15%~30%であって前記中間先端保護層の気孔率よりも小さい多孔質からなる外側先端保護層と、を備え、前記内側先端保護層と前記外側先端保護層との気孔率差が10%~50%である、ことを特徴とする。
【0011】
また、本発明の第2の態様は、第1の態様に係るセンサ素子であって、前記中間先端保護層が、前記素子基体のうち、あらかじめ特定された被水割れ要対処領域に接触させて設けられてなり、前記外側先端保護層が、前記素子基体のうち、あらかじめ特定された被水割れ不発生領域において、前記内側先端保護層と接触してなる、ことを特徴とする。
【0012】
また、本発明の第3の態様は、第2の態様に係るセンサ素子であって、前記被水割れ要対処領域が、前記素子基体のうち、前記ガスセンサの使用時に500℃以上に加熱される領域であり、前記外側先端保護層と前記内側先端保護層との接触部分が、前記ガスセンサの使用時に500℃以下に保たれる部分に配置されてなる、ことを特徴とする。
【0013】
また、本発明の第4の態様は、第2または第3の態様に係るセンサ素子であって、前記中間先端保護層が、前記内側先端保護層の外面の一部と、前記素子基体の先端面とに接触してなり、前記外側先端保護層が、前記素子基体の先端面側においても前記中間先端保護層と接触してなる、ことを特徴とする。
【0014】
また、本発明の第5の態様は、第2または第3の態様に係るセンサ素子であって、前記中間先端保護層が、前記内側先端保護層の外面の一部に接触してなり、前記外側先端保護層が、前記素子基体の先端面側において当該先端面と接触してなる、ことを特徴とする。
【0015】
また、本発明の第6の態様は、第1ないし第5の態様のいずれかに係るセンサ素子であって、前記内側先端保護層の厚みが20μm~50μmであり、前記中間先端保護層の厚みが100μm~700μmであり、前記外側先端保護層の厚みが100μm~400μmである、ことを特徴とする。
【0016】
また、本発明の第7の態様は、第1ないし第6の態様のいずれかに係るセンサ素子であって、前記外側先端保護層と前記内側先端保護層との接触部分の面積が、前記素子基体のうち前記外側先端保護層によって囲繞される範囲の面積の10%以上50%以下である、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明の第1ないし7の態様によれば、従来よりも耐被水性に優れ、かつ保護層の剥離が抑制されたセンサ素子が、実現される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】第1の実施の形態に係るセンサ素子10の概略的な外観斜視図である。
図2】センサ素子10の長手方向に沿った断面図を含むガスセンサ100の構成の概略図である。
図3】外側先端保護層2と中間先端保護層3の具体的な配置位置とその意義についてより詳細に説明するための図である。
図4】あるセンサ素子10を、あらかじめ定めた当該センサ素子10の使用時の制御条件に従ってヒータ150により加熱したときの、センサ素子10における温度プロファイルと、センサ素子10の構成との関係を例示する図である。
図5】センサ素子10を作製する際の処理の流れを示す図である。
図6】第2の実施の形態に係るセンサ素子20の長手方向に沿った断面図である。
図7】外側先端保護層12と中間先端保護層3の具体的な配置位置とその意義についてより詳細に説明するための図である。
図8】あるセンサ素子20を、あらかじめ定めた当該センサ素子20の使用時の制御条件に従ってヒータ150により加熱したときの、センサ素子20における温度プロファイルと、センサ素子20の構成との関係を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<第1の実施の形態>
<センサ素子およびガスセンサの概要>
図1は、本発明の第1の実施の形態に係るセンサ素子(ガスセンサ素子)10の概略的な外観斜視図である。また、図2は、センサ素子10の長手方向に沿った断面図を含むガスセンサ100の構成の概略図である。センサ素子10は、被測定ガス中の所定ガス成分を検知し、その濃度を測定するガスセンサ100の主たる構成要素である。センサ素子10は、いわゆる限界電流型のガスセンサ素子である。
【0020】
ガスセンサ100は、センサ素子10のほか、ポンプセル電源30と、ヒータ電源40と、コントローラ50とを主として備える。
【0021】
図1に示すように、センサ素子10は概略、長尺板状の素子基体1の一方端部側が、多孔質の外側先端保護層(第1の先端保護層)2と、その内側に備わり同じく多孔質の中間先端保護層(第2の先端保護層)3とによって被覆された構成を有する。
【0022】
素子基体1は概略、図2に示すように、長尺板状のセラミックス体101を主たる構造体とするとともに、該セラミックス体101の対向する2つの主面上には主面保護層170を備え、一先端部側においてはさらに、少なくともそれら2つの主面上に(主面保護層170上に)内側先端保護層(第3の先端保護層)180を備える。加えて、センサ素子10においては、素子基体1の当該一先端部側の4つの側面および先端面の外側に(内側先端保護層180が存在する部分にはその外側に)、上述の外側先端保護層2および中間先端保護層3が設けられてなる。これら外側先端保護層2および中間先端保護層3と内側先端保護層180とは、素子基体1の先端部を被毒物質の付着や被水から保護するという点では共通するが、形成手法や形成タイミング、さらには形成目的や機能などの点で相違する。
【0023】
なお、以降においては、センサ素子10(もしくは素子基体1、セラミックス体101)の長手方向における両端面を除く4つの側面を単に、センサ素子10(もしくは素子基体1、セラミックス体101)の側面と称する。また、セラミックス体101の先端面101eを素子基体1の先端面101eとも称する。
【0024】
セラミックス体101は、酸素イオン伝導性固体電解質であるジルコニア(イットリウム安定化ジルコニア)を主成分とするセラミックスからなる。また、係るセラミックス体101の外部および内部には、センサ素子10の種々の構成要素が設けられてなる。係る構成を有するセラミックス体101は、緻密かつ気密なものである。なお、図2に示すセンサ素子10の構成はあくまで例示であって、センサ素子10の具体的構成はこれに限られるものではない。
【0025】
図2に示すセンサ素子10は、セラミックス体101の内部に第一の内部空室102と第二の内部空室103と第三の内部空室104とを有する、いわゆる直列三室構造型のガスセンサ素子である。すなわち、センサ素子10においては概略、第一の内部空室102が、セラミックス体101の一方端部E1側において外部に対し開口する(厳密には外側先端保護層2および中間先端保護層3を介して外部と連通する)ガス導入口105と第一の拡散律速部110、第二の拡散律速部120を通じて連通しており、第二の内部空室103が第三の拡散律速部130を通じて第一の内部空室102と連通しており、第三の内部空室104が第四の拡散律速部140を通じて第二の内部空室103と連通している。なお、ガス導入口105から第三の内部空室104に至るまでの経路を、ガス流通部とも称する。本実施の形態に係るセンサ素子10においては、係る流通部がセラミックス体101の長手方向に沿って一直線状に設けられてなる。
【0026】
第一の拡散律速部110、第二の拡散律速部120、第三の拡散律速部130、および第四の拡散律速部140はいずれも、図面視上下2つのスリットとして設けられている。第一の拡散律速部110、第二の拡散律速部120、第三の拡散律速部130、および第四の拡散律速部140は、通過する被測定ガスに対して所定の拡散抵抗を付与する。なお、第一の拡散律速部110と第二の拡散律速部120の間には、被測定ガスの脈動を緩衝する効果を有する緩衝空間115が設けられている。
【0027】
また、セラミックス体101の外面には外部ポンプ電極141が備わり、第一の内部空室102には内部ポンプ電極142が備わっている。さらには、第二の内部空室103には補助ポンプ電極143が備わり、第三の内部空室104には測定電極145が備わっている。加えて、セラミックス体101の他方端部E2側には、外部に連通し基準ガスが導入される基準ガス導入口106が備わっており、該基準ガス導入口106内には、基準電極147が設けられている。
【0028】
例えば、係るセンサ素子10の測定対象が被測定ガス中のNOxである場合であれば、以下のようなプロセスによって、被測定ガス中のNOxガス濃度が算出される。
【0029】
まず、第一の内部空室102に導入された被測定ガスは、主ポンプセルP1のポンピング作用(酸素の汲み入れ或いは汲み出し)によって、酸素濃度が略一定に調整されたうえで、第二の内部空室103に導入される。主ポンプセルP1は、外部ポンプ電極141と、内部ポンプ電極142と、両電極の間に存在するセラミックス体101の部分であるセラミックス層101aとによって構成される電気化学的ポンプセルである。第二の内部空室103においては、同じく電気化学的ポンプセルである、補助ポンプセルP2のポンピング作用により、被測定ガス中の酸素が素子外部へと汲み出されて、被測定ガスが十分な低酸素分圧状態とされる。補助ポンプセルP2は、外部ポンプ電極141と、補助ポンプ電極143と、両電極の間に存在するセラミックス体101の部分であるセラミックス層101bとによって構成される。
【0030】
外部ポンプ電極141、内部ポンプ電極142、および補助ポンプ電極143は、多孔質サーメット電極(例えば、Auを1%含むPtとZrO2とのサーメット電極)として形成されてなる。なお、被測定ガスに接触する内部ポンプ電極142および補助ポンプ電極143は、被測定ガス中のNOx成分に対する還元能力を弱めた、あるいは、還元能力のない材料を用いて形成される。
【0031】
補助ポンプセルP2によって低酸素分圧状態とされた被測定ガス中のNOxは、第三の内部空室104に導入され、第三の内部空室104に設けられた測定電極145において還元ないし分解される。測定電極145は、第三の内部空室104内の雰囲気中に存在するNOxを還元するNOx還元触媒としても機能する多孔質サーメット電極である。係る還元ないし分解の際には、測定電極145と基準電極147との間の電位差が、一定に保たれている。そして、上述の還元ないし分解によって生じた酸素イオンが、測定用ポンプセルP3によって素子外部へと汲み出される。測定用ポンプセルP3は、外部ポンプ電極141と、測定電極145と、両電極の間に存在するセラミックス体101の部分であるセラミックス層101cとによって構成される。測定用ポンプセルP3は、測定電極145の周囲の雰囲気中におけるNOxの分解によって生じた酸素を汲み出す電気化学的ポンプセルである。なお、主ポンプセルP1、補助ポンプセルP2、および測定用ポンプセルP3におけるポンピングが好適に行われる限りにおいて、外部ポンプ電極141は、セラミックス体101の外面ではなく、内部空室以外の適宜の場所に設けられてよい。
【0032】
主ポンプセルP1、補助ポンプセルP2、および測定用ポンプセルP3におけるポンピング(酸素の汲み入れ或いは汲み出し)は、コントローラ50による制御のもと、ポンプセル電源(可変電源)30によって各ポンプセルに備わる電極の間にポンピングに必要な電圧が印加されることにより、実現される。測定用ポンプセルP3の場合であれば、測定電極145と基準電極147との間の電位差が所定の値に保たれるように、外部ポンプ電極141と測定電極145との間に電圧が印加される。ポンプセル電源30は通常、各ポンプセル毎に設けられる。
【0033】
コントローラ50は、測定用ポンプセルP3により汲み出される酸素の量に応じて測定電極145と外部ポンプ電極141との間を流れるポンプ電流Ip2を検出し、このポンプ電流Ip2の電流値(NOx信号)と、分解されたNOxの濃度との間に線型関係があることに基づいて、被測定ガス中のNOx濃度を算出する。
【0034】
なお、好ましくは、ガスセンサ100は、それぞれのポンプ電極と基準電極147との間の電位差を検知する、図示しない複数の電気化学的センサセルを備えており、コントローラ50による各ポンプセルの制御は、それらのセンサセルの検出信号に基づいて行われる。
【0035】
また、センサ素子10においては、セラミックス体101の内部にヒータ150が埋設されている。ヒータ150は、ガス流通部の図2における図面視下方側において、一方端部E1近傍から少なくとも測定電極145および基準電極147の形成位置までの範囲にわたって設けられる。ヒータ150は、センサ素子10の使用時に、セラミックス体101を構成する固体電解質の酸素イオン伝導性を高めるべく、センサ素子10を加熱することを主たる目的として、設けられてなる。より詳細には、ヒータ150はその周囲を絶縁層151に囲繞される態様にて設けられてなる。
【0036】
ヒータ150は、例えば白金などからなる抵抗発熱体である。ヒータ150は、コントローラ50による制御のもと、ヒータ電源40からの給電により発熱する。
【0037】
本実施の形態に係るセンサ素子10はその使用時、ヒータ150によって、少なくとも第一の内部空室102から第二の内部空室103に至る範囲の温度が500℃以上となるように、加熱される。さらには、ガス導入口105から第三の内部空室104に至るまでのガス流通部全体が500℃以上となるように、加熱される場合もある。これらは、各ポンプセルを構成する固体電解質の酸素イオン伝導性を高め、各ポンプセルの能力が好適に発揮されるようにするためである。係る場合、最も高温となる第一の内部空室102付近の温度は、700℃~800℃程度となる。
【0038】
以降においては、セラミックス体101の2つの主面のうち、図2において図面視上方側に位置する、主に主ポンプセルP1、補助ポンプセルP2、および測定用ポンプセルP3が備わる側の主面(あるいは当該主面が備わるセンサ素子10の外面)をポンプ面と称し、図2において図面視下方に位置する、ヒータ150が備わる側の主面(あるいは当該主面が備わるセンサ素子10の外面)をヒータ面と称することがある。換言すれば、ポンプ面は、ヒータ150よりもガス導入口105、3つの内部空室、および各ポンプセルに近接する側の主面であり、ヒータ面はガス導入口105、3つの内部空室、および各ポンプセルよりもヒータ150に近接する側の主面である。
【0039】
セラミックス体101のそれぞれの主面上の他方端部E2側には、センサ素子10と外部との間の電気的接続を図るための複数の電極端子160が形成されてなる。これらの電極端子160は、セラミックス体101の内部に備わる図示しないリード線を通じて、上述した5つの電極と、ヒータ150の両端と、図示しないヒータ抵抗検出用のリード線と、所定の対応関係にて電気的に接続されている。よって、センサ素子10の各ポンプセルに対するポンプセル電源30から電圧の印加や、ヒータ電源40からの給電によるヒータ150の加熱は、電極端子160を通じてなされる。
【0040】
さらに、センサ素子10においては、セラミックス体101のポンプ面およびヒータ面に、上述した主面保護層170(170a、170b)が備わっている。主面保護層170は、アルミナからなる、厚みが5μm~30μm程度であり、かつ20%~40%程度の気孔率にて気孔が存在する層であり、セラミックス体101の主面(ポンプ面およびヒータ面)や、ポンプ面側に備わる外部ポンプ電極141に対する、異物や被毒物質の付着を防ぐ目的で設けられてなる。それゆえ、ポンプ面側の主面保護層170aは、外部ポンプ電極141を保護するポンプ電極保護層としても機能するものである。
【0041】
なお、本実施の形態において、気孔率は、評価対象物のSEM(走査電子顕微鏡)像に対し公知の画像処理手法(二値化処理など)を適用することで求めるものとする。
【0042】
図2においては、電極端子160の一部を露出させるほかはポンプ面およびヒータ面の略全面にわたって主面保護層170が設けられてなるが、これはあくまで例示であり、図2に示す場合よりも、主面保護層170は、一方端部E1側の外部ポンプ電極141近傍に偏在させて設けられてもよい。
【0043】
そして、センサ素子10を構成する素子基体1の一方端部E1側においては、上述した内側先端保護層180が、少なくとも2つの主面(ポンプ面およびヒータ面)上に設けられてなる。内側先端保護層180は、アルミナにて構成される多孔質層であり、30%~65%という比較的大きな気孔率にて、20μm~50μmの厚みを有するように設けられる。ただし、少なくともポンプ面およびヒータ面において内側先端保護層180が形成される範囲には、セラミックス体101の表面に主面保護層170が備わるようにする。
【0044】
内側先端保護層180は、外側先端保護層2、中間先端保護層3、さらには主面保護層170ともども、センサ素子10の被毒や被水を防ぐ役割を有する。例えば、内側先端保護層180は、中間先端保護層3に次いで気孔率が大きいことに由来して、外側先端保護層2や主面保護層170に比して高い断熱性を有しており、このことは、センサ素子10の耐被水性の向上に資するものとなっている。
【0045】
また、内側先端保護層180は、外側先端保護層2および中間先端保護層3を素子基体1に対し形成する際の下地層としての役割も有する。その意味からは、内側先端保護層180は、素子基体1の対向する主面の、少なくとも外側先端保護層2および中間先端保護層3により囲繞される範囲に形成されればよいともいえる。
【0046】
<外側先端保護層および中間先端保護層>
センサ素子10においては、上述のような構成を有する素子基体1の一方端部E1側から所定範囲の最外周部に、純度99.0%以上のアルミナからなる多孔質層である外側先端保護層2が設けられ、係る外側先端保護層2と内側先端保護層180との間に、同種のアルミナからなる多孔質層である中間先端保護層3が設けられてなる。
【0047】
中間先端保護層3は素子基体1の4つの側面および一方端部E1側の端面に沿って設けられてなる。より具体的には、図2に示すように、少なくとも素子基体1の対向する2つの主面側では内側先端保護層180に接触し、少なくとも先端面101e側ではセラミックス体101と接触してなる。
【0048】
以降においては、中間先端保護層3のうち、素子基体1の側面に沿った部分を第1部分3aとし、先端面101eに沿った部分を第2部分3bとする。特に、第1部分3aのうち、ポンプ面に沿った部分をポンプ面側部分3a1とも称し、ヒータ面に沿った部分をヒータ面側部分3a2とも称する。ただし、第1部分3aと第2部分3bはいずれも独立してはおらず、互いに連続している。換言すれば、中間先端保護層3は全体として、有底形状をなしている。
【0049】
一方、外側先端保護層2は、係る中間先端保護層3の外面全てと接触する態様にて該中間先端保護層3を囲繞するとともに、素子長手方向において中間先端保護層3の形成範囲よりも後端側で、内側先端保護層180と接触している。それゆえ、外側先端保護層2も全体として、有底形状をなしている。
【0050】
以降においては、外側先端保護層2のうち、素子基体1との接触部分を基体固着部201と称し、素子基体1の側面を囲繞し、中間先端保護層3の第1部分3aと接触している部分を側面部202と称し、中間先端保護層3の第2部分3bと接触している部分を端面部203と称する。
【0051】
すなわち、外側先端保護層2は、その大部分において中間先端保護層3と接触し、素子基体1のそれぞれの側面に順次に沿って帯状をなしている基体固着部201においてのみ、素子基体1に固着されてなる。
【0052】
なお、外側先端保護層2および中間先端保護層3は、あくまで多孔質層であるので、素子基体1(セラミックス体101)と外部との間における気体の流出入は絶えず起こっている。すなわち、ガス導入口105からの素子基体1(セラミックス体101)の内部への被測定ガスの導入は、問題なく行われる。
【0053】
外側先端保護層2を設けるのは、素子基体1のうちガスセンサ100の使用時に高温となる部分を囲繞することによって、当該部分における耐被水性を得るためである。外側先端保護層2を設けることで、当該部分が直接に被水することによる局所的な温度低下に起因した熱衝撃により素子基体1にクラック(被水割れ)が生じることが、抑制される。そして、係る外側先端保護層2と素子基体1との間に中間先端保護層3を介在させるのは、熱容量の大きい空間が介在することにより、たとえ外側先端保護層2が被水して局所的な温度低下が生じたとしても、素子基体1に熱衝撃が作用して被水割れが生じることが、好適に抑制されるからである。
【0054】
中間先端保護層3は、25%~80%の気孔率にて、100μm~700μmの厚みに設けられる。一方、外側先端保護層2は、15%~30%の気孔率にて、100μm~400μmの厚みに設けられる。中間先端保護層3と外側先端保護層2の厚みが同じある必要はない。なお、以降において、外側先端保護層2の厚みとは、側面部202および端面部203の厚みを指し示すものとする。
【0055】
ただし、側面部202と端面部203の厚みは同じでなくともよい。一方、基体固着部201の厚みは、センサ素子10の素子厚み方向および素子幅方向において基体固着部201が側面部202よりも突出しない限りにおいて、側面部202の厚みよりも大きい値であってよい。
【0056】
また、厚みについては、内側先端保護層180のみ、外側先端保護層2と、中間先端保護層3との双方よりも小さな値とされてなる。
【0057】
これらのことは、外側先端保護層2と素子基体1との間に、気孔率と膜厚とがともに比較的大きく、それゆえに熱容量の大きく断熱性に優れた多孔質層である、中間先端保護層3が介在することを意味する。係る中間先端保護層3の具備は、たとえ外側先端保護層2が被水して局所的な温度低下が生じたとしても、素子基体1に熱衝撃が作用して被水割れが生じることが、好適に抑制される、という効果を奏する。
【0058】
付言すると、上述のように、中間先端保護層3に隣接する内側先端保護層180も、厚みは小さいものの30%~65%という比較的大きな気孔率にて形成されてなるので、中間先端保護層3には劣るものの、外側先端保護層2や主面保護層170に比して大きな熱容量を有している。係る内側先端保護層180の存在も、中間先端保護層3とともに、被水割れの抑制に資するものとなっている。
【0059】
ところで、中間先端保護層3と内側先端保護層180とは、同程度の比較的大きな気孔率を有しているので、一見すると、両者を併せた一の層が、両者のいずれかの形成手法にて形成されてもよいようにも思料される。
【0060】
しかしながら、そのような層を形成する場合、熱容量の確保という観点から、その厚みは最低でも100μmを超える程度に十分に大きいことが望まれるところ、後述する内側先端保護層180の形成に際して採用される塗布法においてそのような厚膜を形成することは、繰り返しの塗布を行うとしても容易ではない。
【0061】
一方、中間先端保護層3さらには外側先端保護層2の形成に際して採用される溶射法の場合、厚膜の形成は比較的容易である一方、形成される厚膜層(2つの層を併せると最低でも200μm超)の密着性(気孔率が相対的に小さい層への密着性)という点では、塗布法に比べやや劣ることがある。
【0062】
本実施の形態に係るセンサ素子10においては、これらの点を鑑み、素子基体1の形成過程において少なくともその対向する2つの主面に塗布法にて気孔率の大きな内側先端保護層180を20μm~50μmの厚みに設けておき、得られた素子基体1の最外周部に溶射法にて100μm~700μmという大きな厚みの中間先端保護層3を設けるようにすることで、厚膜の形成の容易さという溶射法の長所を享受しつつ、素子基体1に対する中間先端保護層3の密着性が確保されるようになっている。
【0063】
加えて、外側先端保護層2の気孔率と内側先端保護層180の気孔率との差が、10%以上50%以下とされる。これにより、外側先端保護層2の基体固着部201と内側先端保護層180との間に、いわゆるアンカー効果が好適に作用する。係るアンカー効果は、センサ素子10の使用時に、外側先端保護層2と中間先端保護層3との間の密着性は十分であるにも関わらず、外側先端保護層2と素子基体1との熱膨張率の差に起因して外側先端保護層2が素子基体1から剥離することを、抑制する効果がある。
【0064】
すなわち、本実施の形態に係るセンサ素子10においては、外側先端保護層2と素子基体1との間に断熱性に優れた中間先端保護層3を介在させつつ、外側先端保護層2を素子基体1に対して直接に固着させてなることが、被水割れの抑制と外側先端保護層2の密着性確保とを両立させるうえで効果的となっている。
【0065】
ちなみに、主面保護層170も内側先端保護層180と同様にアルミナにて構成されるが、内側先端保護層180に比して気孔率が小さく、また厚みも小さいため、仮に内側先端保護層180を省略して外側先端保護層2を直接に主面保護層170上に設けたとしても、内側先端保護層180のような熱膨張差の緩和効果はあまり期待できない。
【0066】
なお、外側先端保護層2の気孔率を15%未満とするのは、被毒物質による目詰まりが起きるリスクが高くなるほか、センサ素子10の応答性が悪くなるため、好ましくない。
【0067】
一方、外側先端保護層2の気孔率を30%超とするのは、外側先端保護層2の強度が確保されなくなるため好ましくない。
【0068】
また、中間先端保護層3の気孔率を25%未満とするのは、断熱効果が好適に得られないため、耐被水性を低下させることになり、好ましくない。
【0069】
また、内側先端保護層180の気孔率を65%超とするのは、セラミックス体101に対する密着性が十分に得られなくなるため、好ましくない。
【0070】
外側先端保護層2の基体固着部201と素子基体1(内側先端保護層180)との接触部分の面積(固着面積比)は、外側先端保護層2が素子基体1を囲繞する範囲についての総面積の10%以上50%以下であることが好ましい。係る場合、外側先端保護層2の素子基体1に対するより安定的な固着と、耐被水性の確保とが実現される。固着面積比が50%を超えると、中間先端保護層3の形成範囲が狭まるため、中間先端保護層3を具備することによる耐被水性確保の効果が十分に得られなくなるため、好ましくない。
【0071】
また、外側先端保護層2の基体固着部201以外の部分の厚みと中間先端保護層3の厚みとの総和は、外側先端保護層2の基体固着部201の厚みよりも大きいことが好ましい。これにより、耐被水性の確保がより確実になるとともに、ヒータ150による加熱に際して消費電力が抑制される。
【0072】
図3は、外側先端保護層2と中間先端保護層3の具体的な配置位置とその意義についてより詳細に説明するための図である。図3に示すように、素子基体1においては、素子長手方向においてゾーンA、ゾーンB、およびゾーンCという3つのゾーンが観念される。そして、これらのゾーンに基づき、外側先端保護層2と中間先端保護層3の配置が定まっている。
【0073】
ゾーンAは、ガスセンサ100の使用時に、ヒータ150によって500℃以上の温度に加熱される領域である。上述したように、ガスセンサ100の使用時、センサ素子10においては、少なくとも第一の内部空室102から第二の内部空室103に至る範囲が500℃以上となるように、ヒータ150による加熱がなされる。それゆえ、当該範囲は必ず、ゾーンAに属することになる。なお、図3においては、ゾーンAが、素子基体1の素子長手方向においてガス導入口105から第三の内部空室104に至るガス流通部を含む部分と略一致してなる場合を例示している。
【0074】
一方、ゾーンBは、基体固着部201の一方端部E1側の端部位置(中間先端保護層3の一方端部E1から最も遠い位置)を始点位置とし、素子基体1の他方端部E2を終点位置とする領域である。ゾーンBは、センサ素子10がヒータ150によって加熱される、ガスセンサ100の使用時であっても、500℃以下に保たれる。また、ゾーンBには中間先端保護層3は存在しない。より具体的には、ゾーンBにおいては、素子基体1の一方端部E1から離れるほど温度が低くなっており、500℃となるのは、ゾーンCまたはゾーンAとの境界近傍に限られる。
【0075】
また、ゾーンCは、素子基体1の素子長手方向においてゾーンAとゾーンBの間の領域である。ただし、ゾーンCは必須ではなく、ゾーンAとゾーンBとが隣接していてもよい。
【0076】
本実施の形態に係るガスセンサ100のセンサ素子10においては、外側先端保護層2の内側先端保護層180に対する基体固着部201がゾーンBに含まれることにより、先端部分を含め、少なくとも素子基体1のうちゾーンAに属する部分の周囲には必ず、中間先端保護層3(第1部分3aおよび第2部分3b)が介在してなる。
【0077】
換言すると、素子基体1のうちガスセンサ100の使用時に500℃以上の高温に加熱される部分は、外側先端保護層2とは非接触とされており、当該部分の周囲には必ず、中間先端保護層3が設けられてなる。なお、ガスセンサ100の使用時には、外側先端保護層2のうち側面部202および端面部203についても、500℃以上の高温となる。
【0078】
以上のような態様にて外側先端保護層2および中間先端保護層3が設けられてなるセンサ素子10を備えたガスセンサ100が、実際に使用される場合、センサ素子10は、ゾーンAの温度は500℃以上となる一方で、ゾーンBは500℃以下となる温度プロファイルが実現されるように、ヒータ150によって加熱される。
【0079】
係る加熱状況において、ゾーンAに属する外側先端保護層2の側面部202または端面部203に、被測定ガスに含まれる水蒸気が水滴として付着すると、すなわち、センサ素子10において500℃以上の高温に加熱された部分が被水すると、該付着部分(被水部分)において局所的かつ急激な温度低下が生じる。しかしながら、外側先端保護層2の側面部202および端面部203と素子基体1は非接触であり、両者の間には熱容量が大きい中間先端保護層3(第1部分3aおよび第2部分3b)が介在することから、素子基体1においては、係る被水部分の温度低下に起因した熱衝撃は生じない。これはすなわち、本実施の形態に係るガスセンサ100のように、使用時に500℃以上となる部分に多孔質の外側先端保護層2を設け、さらに該外側先端保護層2と素子基体1との間に中間先端保護層3を介在させる構成を採用することで、センサ素子10における被水割れの発生が好適に防止されることを、意味している。
【0080】
なお、温度が500℃以下である部分に水滴が付着しても、急激な温度低下は生じにくく、それゆえ被水割れを引き起こすような熱衝撃も生じにくいことが、あらかじめ確認されている。
【0081】
図4は、あるセンサ素子10を、あらかじめ定めた当該センサ素子10の使用時の制御条件に従ってヒータ150により加熱したときの、センサ素子10における温度プロファイルと、センサ素子10の構成との関係を例示する図である。図4に示す温度プロファイルは、センサ素子10のポンプ面側における表面温度を素子長手方向に沿って測定し、一方端部E1側の先端面101eの位置を原点としてプロットしたものである。表面温度の測定には、サーモグラフィを用いた。
【0082】
図4に示す例においては、素子先端(一方端部E1)から距離L1の範囲がゾーンAとなっており、素子基体1の先端から距離L2以上離れた範囲がゾーンBとなっている。
【0083】
なお、ヒータ150の制御条件を違えれば、センサ素子10の温度プロファイル異なるものとなる。しかしながら、センサ素子10の特性は加熱状態に依存することから、ヒータ150による加熱は通常、製造時にあらかじめ固定的に(通常はさらに、素子の特性が最大限に発揮されるように)定められた一の制御条件に基づいて、常に同じ温度プロファイルが得られるようになされる。それゆえ、センサ素子10は、同じ温度プロファイルが得られるように加熱される。従って、素子基体1において500℃以上に加熱される部分は常に同じであり、ゾーンA、ゾーンB、さらにはゾーンCの範囲は、個々のセンサ素子10において固定的なものと考えてよい。
【0084】
それゆえ、センサ素子10の作製時に、各ゾーンを特定し、その範囲に応じて中間先端保護層3と外側先端保護層2を設けさえすれば、その後の使用時においては常に、ヒータ150によって500℃以上の温度に加熱される領域(つまりはゾーンA)の周囲には中間先端保護層3が存在することになる。
【0085】
さらに、工業的に量産されるセンサ素子10など、同一の条件で作製される多数のセンサ素子10についていえば、ヒータ150による加熱を同一の制御条件にて行った場合、正常に作製されている限りは、それぞれのセンサ素子10から得られる温度プロファイルは略同一となる。それゆえ、個々のセンサ素子10全てについて実際に温度プロファイルを特定せずとも、サンプルとして抽出したセンサ素子10について温度プロファイルを特定し、係る温度プロファイルに基づいてゾーンA、ゾーンB、およびゾーンCとなる範囲を画定しさえすれば、それらの結果に基づいて、同一の条件で作製された全てのセンサ素子10についての外側先端保護層2の形成条件を定めることが、可能となる。すなわち、個々のセンサ素子10全てについて実際に温度プロファイルを求め、その結果に基づいてゾーンA、ゾーンB、およびゾーンCとなる範囲を画定する必要はない。
【0086】
換言すれば、上記のように同一の条件で作製されるセンサ素子10については、素子基体1のうち、使用時に水滴の付着に起因した熱衝撃を受けると被水割れが生じ得る可能性がある領域であって、それゆえに係る被水割れに対して対処を要する領域(被水割れ要対処領域)が、あらかじめヒータ150の制御条件の設定に伴い特定されているといえる。図3および図4の場合はゾーンAがこれに該当する。そして、係る被水割れ要対処領域と外側先端保護層2との間に中間先端保護層3が介在するように、外側先端保護層2が素子基体1の一方端部E1側の所定範囲を囲繞しているといえる。また、その際の素子基体1に対する外側先端保護層2の固着は、使用時に被水割れが生じない領域としてあらかじめ特定されている領域(被水割れ不発生領域)に対してなされている、ということもいえる。図3および図4の場合はゾーンBがこれに該当する。
【0087】
以上、説明したように、本実施の形態によれば、ガスセンサを構成するセンサ素子の素子基体のうち、少なくとも、あらかじめ特定された、第一の内部空室から第二の内部空室に至る範囲を含む被水割れ要対処領域の周囲に、熱容量の大きな中間先端保護層を設け、さらに、係る中間先端保護層を囲繞する態様にて、外側先端保護層を設けるようにすることで、従来よりも耐被水性に優れたセンサ素子を実現することができる。しかも、素子基体の外周のうち、少なくとも対向する2つの主面上に、外側先端保護層よりも気孔率が大きい内側先端保護層を設け、係る内側先端保護層のうち、あらかじめ特定されている被水割れ不発生領域にて外側先端保護層を固着させるようにすることで、外側先端保護層の剥離さらには脱離を好適に抑制することができる。
【0088】
<センサ素子の製造プロセス>
次に、上述のような構成および特徴を有するセンサ素子10を製造するプロセスの一例について説明する。図5は、センサ素子10を作製する際の処理の流れを示す図である。図5に示すように、本実施の形態においては概略、公知のグリーンシートプロセスを利用することにより、セラミックス体101を複数の固体電解質層の積層体として含む素子基体1を作製(ステップSa)したうえで、係る素子基体1に対し、外側先端保護層2および中間先端保護層3を付設する(ステップSb)という手順により、センサ素子10を作製するものとする。それゆえ、ゾーンA、ゾーンB、およびゾーンCとなる範囲については既知であるとする。
【0089】
素子基体1の作製に際しては、まず、ジルコニアなどの酸素イオン伝導性固体電解質をセラミックス成分として含み、かつ、パターンが形成されていないグリーンシートであるブランクシート(図示省略)を、複数枚用意する(ステップS1)。
【0090】
ブランクシートには、印刷時や積層時の位置決めに用いる複数のシート穴が設けられている。係るシート穴は、パターン形成に先立つブランクシートの段階で、パンチング装置による打ち抜き処理などで、あらかじめ形成されている。なお、セラミックス体101の対応する部分に内部空間が形成されることになるグリーンシートの場合、該内部空間に対応する貫通部も、同様の打ち抜き処理などによってあらかじめ設けられる。また、それぞれのブランクシートの厚みは、全て同じである必要はなく、最終的に形成される素子基体1におけるそれぞれの対応部分に応じて、厚みが違えられていてもよい。
【0091】
各層に対応したブランクシートが用意できると、それぞれのブランクシートに対してパターン印刷・乾燥処理を行う(ステップS2)。具体的には、各種電極のパターンや、ヒータ150および絶縁層151のパターンや、電極端子160のパターンや、主面保護層170のパターンや、図示を省略している内部配線のパターンなどが、形成される。また、係るパターン印刷のタイミングで、第一の拡散律速部110、第二の拡散律速部120、第三の拡散律速部130、および第四の拡散律速部140を形成するための昇華性材料の塗布あるいは配置も併せてなされる。
【0092】
各々のパターンの印刷は、それぞれの形成対象に要求される特性に応じて用意したパターン形成用ペーストを、公知のスクリーン印刷技術を利用してブランクシートに塗布することにより行う。印刷後の乾燥処理についても、公知の乾燥手段を利用可能である。
【0093】
各ブランクシートに対するパターン印刷が終わると、グリーンシート同士を積層・接着するための接着用ペーストの印刷・乾燥処理を行う(ステップS3)。接着用ペーストの印刷には、公知のスクリーン印刷技術を利用可能であり、印刷後の乾燥処理についても、公知の乾燥手段を利用可能である。
【0094】
続いて、接着剤が塗布されたグリーンシートを所定の順序に積み重ねて、所定の温度・圧力条件を与えることで圧着させ、一の積層体とする圧着処理を行う(ステップS4)。具体的には、図示しない所定の積層治具に積層対象となるグリーンシートをシート穴により位置決めしつつ積み重ねて保持し、公知の油圧プレス機などの積層機によって積層治具ごと加熱・加圧することによって行う。加熱・加圧を行う圧力・温度・時間については、用いる積層機にも依存するものであるが、良好な積層が実現できるよう、適宜の条件が定められればよい。
【0095】
上述のようにして積層体が得られると、続いて、係る積層体の複数個所を切断して、それぞれが最終的に個々の素子基体1となる単位体(素子体と称する)に切り出す(ステップS5)。
【0096】
次に、切り出された個々の素子体に対し、完成した素子基体1において内側先端保護層180となるパターンの形成(塗布および乾燥)を行う(ステップS6)。係るパターンの形成は、最終的に所望される内側先端保護層180が形成されるよう、あらかじめ調製されたペーストを用いて行う。
【0097】
続いて、内側先端保護層180となるパターンが形成された素子体を、1300℃~1500℃程度の焼成温度で焼成する(ステップS7)。これにより、素子基体1が作製される。すなわち、素子基体1は、固体電解質からなるセラミックス体101と、各電極と、主面保護層170と、内側先端保護層180とが、一体焼成されることによって生成されるものである。なお、係る態様にて一体焼成がなされることで、素子基体1においては、各電極が十分な密着強度を有するものとなっている。
【0098】
以上の態様にて素子基体1が作製されると、続いて、係る素子基体1に対し、外側先端保護層2および中間先端保護層3の形成が行われる。
【0099】
まず、中間先端保護層3の形成材料を含むスラリーが、素子基体1における中間先端保護層3の形成対象位置に溶射され、その後、乾燥される(ステップS11)。これにより、溶射膜から有機成分が揮発し、中間先端保護層3が形成される。
【0100】
続いて、外側先端保護層2の形成材料を含むスラリーが、素子基体1における外側先端保護層2の形成対象位置に溶射され、その後、乾燥される(ステップS12)。これにより、溶射膜から有機成分が揮発し、外側先端保護層2が形成される。
【0101】
それぞれの溶射に使用されるスラリーは、アルミナ粉末、バインダー、溶剤などからなり、各層において実現しようと気孔率に応じてあらかじめ調製される。
【0102】
以上により、センサ素子10が得られる。得られたセンサ素子10は、所定のハウジングに収容され、ガスセンサ100の本体(図示せず)に組み込まれる。
【0103】
<第2の実施の形態>
外側先端保護層と素子基体との間に中間先端保護層を介在させることで耐被水性を確保しつつ、外側先端保護層の剥離および脱離を抑制するセンサ素子の構成は、第1の実施の形態に示すものに限られない。本実施の形態においては、第1の実施の形態に係るセンサ素子10よりも低温側にシフトした温度プロファイルに従って加熱されるセンサ素子20の構成について説明する。
【0104】
図6は、本発明の第2の実施の形態に係るセンサ素子20の長手方向に沿った断面図である。センサ素子20の構成要素は、一部を除き第1の実施の形態に係るセンサ素子10の構成要素と共通している。それゆえ、係る共通の構成要素については、第1の実施の形態と同一の符号を付すとともに、以下において詳細な説明は省略する。
【0105】
また、センサ素子20も、第1の実施の形態に係るセンサ素子10と同様に、ガスセンサ100の主たる構成要素として、コントローラ50によるポンプセル電源30およびヒータ電源40の制御を通じた各ポンプセルおよびヒータ150の動作制御のもと、使用される。従って、ガスセンサ100の測定対象が被測定ガス中のNOxである場合であれば、コントローラ50によるポンプセル電源30およびヒータ電源40の制御を介してセンサ素子20の各ポンプセルおよびヒータ150の動作が制御され、係る制御のもとで測定用ポンプセルP3を流れるポンプ電流Ip2の電流値(NOx信号)と、分解されたNOxの濃度との間に線型関係があることに基づき、コントローラ50において被測定ガス中のNOx濃度が算出される。
【0106】
図6に示すように、センサ素子20は、センサ素子10に備わる外側先端保護層2に代えて、該外側先端保護層2とは素子基体1に対する固着の仕方が異なる外側先端保護層(第1の先端保護層)12を有してなる。具体的には、センサ素子20の外側先端保護層12は、素子基体1の側面との間に中間先端保護層3を介在させる態様にて設けられる点ではセンサ素子10の外側先端保護層2と共通するが、素子基体1の一方端部E1側において端面部204が素子基体1の先端面101eに固着した構成を有している点で、端面部203が素子基体と離隔している外側先端保護層2とは相違する。それゆえ、センサ素子20内に存在する中間先端保護層3は外側先端保護層12と素子基体1の側面との間に介在する第1部分3aのみであり、センサ素子10に介在していた第2部分3bは存在しない。なお、外側先端保護層12および中間先端保護層3はあくまで多孔質層であるので、ガス導入口105からの素子基体1(セラミックス体101)の内部への被測定ガスの導入は、問題なく行われる。
【0107】
すなわち、本実施の形態に係るセンサ素子20に備わる外側先端保護層12は、側面部202においては中間先端保護層3と接触している一方で、素子基体1のそれぞれの側面に順次に沿って帯状をなしている基体固着部201と、端面部204とにおいて、素子基体1に固着されてなる。
【0108】
外側先端保護層12も、センサ素子10の外側先端保護層2と同様、基体固着部201と素子基体1(内側先端保護層180)との接触部分の面積(固着面積比)は、外側先端保護層12が素子基体1を囲繞する範囲についての総面積の10%以上50%未満であることが好ましい。
【0109】
以上のような構成を有するセンサ素子20の作製は、最終的に形成する中間先端保護層3および外側先端保護層12の形状の相違に起因して、両者の溶射膜の形成態様が異なるほかは、図5に基づき説明した、第1の実施の形態に係るセンサ素子10の作製と同様に行える。
【0110】
第2部分3bの介在の有無というセンサ素子10とセンサ素子20の相違は、ガスセンサ100が使用される際の両者の温度プロファイルの相違に対応している。上述したように、本実施の形態に係るセンサ素子20は、第1の実施の形態に係るセンサ素子10よりも、低温側にシフトした温度プロファイルにて使用されることが想定されたものである。この点について、図7に基づき説明する。図7は、図3と同様、外側先端保護層12と中間先端保護層3の具体的な配置位置とその意義についてより詳細に説明するための図である。
【0111】
センサ素子20の場合も、センサ素子10と同様に、素子基体1を区分するゾーンに基づき、外側先端保護層12と中間先端保護層3の配置が定まっている。図7に示すように、センサ素子20も、センサ素子10と同様、ゾーンA、ゾーンB、およびゾーンCを有する。これらのゾーンの定義は、センサ素子10の場合と同じである。すなわち、ゾーンAは、少なくとも第一の内部空室102から第二の内部空室103に至る範囲を含む、ガスセンサ100の使用時に、ヒータ150によって500℃以上の温度に加熱される領域である。また、ゾーンBは、外側先端保護層12の内側先端保護層180に対する基体固着部201の一方端部E1側の端部位置を始点位置とし、素子基体1の他方端部E2を終点位置とする領域であって、ガスセンサ100の使用時であっても、500℃以下に保たれる領域である。また、ゾーンCは、素子基体1の素子長手方向においてゾーンAとゾーンBの間の領域である。
【0112】
ただし、図3に示したセンサ素子10においてはゾーンAがガス導入口105にまで達していたのに対し、図7に示したセンサ素子20においては、ガス導入口105から所定範囲が、ゾーンAとは別のゾーンDとして区分されている。
【0113】
ゾーンDは、センサ素子20の一方端部E1側において、ガスセンサ100の使用時であっても500℃以下に保たれる領域である。換言すると、センサ素子20を備えるガスセンサ100が使用される際、センサ素子20は、ゾーンA~ゾーンCに加え係るゾーンDが形成される温度プロファイルが実現されるように、その内部に備わるヒータ150によって加熱される。
【0114】
係るセンサ素子20の場合も、センサ素子10と同様、少なくとも素子基体1のうちゾーンAに属する部分の周囲には必ず、中間先端保護層3(第1部分3a)が介在してなる。それゆえ、ガスセンサ100の使用時にゾーンAに属する500℃以上の高温に加熱された部分が被水すると、該被水部分において局所的かつ急激な温度低下が生じるものの、外側先端保護層12の側面部202と素子基体1は非接触であり、両者の間には熱容量が大きい中間先端保護層3(第1部分3a)が介在することから、素子基体1においては、係る被水部分の温度低下に起因した熱衝撃は生じない。
【0115】
また、ガスセンサ100の使用時に、温度が500℃以下である部分に水滴が付着しても、急激な温度低下は生じにくく、それゆえ被水割れを引き起こすような熱衝撃も生じにくい点も、センサ素子10の場合と同様である。センサ素子20の場合は、そのような使用時に温度が500℃以下である部分が、他方端部E2側のゾーンBのみならず一方端部E1側のゾーンDにおいても存在しているということになる。
【0116】
外側先端保護層12の好適な厚みや気孔率の範囲は、センサ素子10の外側先端保護層2と同様である。また、中間先端保護層3の厚みや気孔率の範囲についても、センサ素子10と同様である。
【0117】
図8は、あるセンサ素子20を、あらかじめ定めた当該センサ素子20の使用時の制御条件に従ってヒータ150により加熱したときの、センサ素子20における温度プロファイルと、センサ素子20の構成との関係を例示する図である。図8に示す温度プロファイルは、センサ素子20のポンプ面側における表面温度を素子長手方向に沿って測定し、一方端部E1側の先端面101eの位置を原点としてプロットしたものである。表面温度の測定には、サーモグラフィを用いた。
【0118】
図8に示す例においては、図4の場合と異なり、先端面101eから距離L3の位置までの範囲がゾーンDとなっており、係る範囲に隣接する、距離L3の位置から距離L1の位置に至るまでの範囲がゾーンAとなっている。素子先端から距離L2以上離れた範囲がゾーンBとなっている。
【0119】
センサ素子20の場合も、その作製時に、各ゾーンを特定し、その範囲に応じて中間先端保護層3および外側先端保護層12を設けさえすれば、その後の使用時においては常に、ヒータ150によって500℃以上の温度に加熱される領域(つまりはゾーンA)の周囲には中間先端保護層3が存在することになる。
【0120】
さらに、センサ素子10の場合と同様、工業的に量産されるセンサ素子20など、同一の条件で作製される多数のセンサ素子20についていえば、個々のセンサ素子20全てについて実際に温度プロファイルを特定せずとも、サンプルとして抽出したセンサ素子20について温度プロファイルを特定し、係る温度プロファイルに基づいてゾーンA、ゾーンB、ゾーンC、およびゾーンDとなる範囲を画定しさえすれば、それらの結果に基づいて、同一の条件で作製された全てのセンサ素子20についての外側先端保護層12および中間先端保護層3の形成条件を定めることが、可能となる。すなわち、個々のセンサ素子20全てについて実際に温度プロファイルを求め、その結果に基づいてゾーンA、ゾーンB、ゾーンC、およびゾーンDとなる範囲を画定する必要はない。
【0121】
換言すれば、上記のように同一の条件で作製されるセンサ素子20についても、センサ素子10の場合と同様、素子基体1においては被水割れ要対処領域が、あらかじめヒータ150の制御条件の設定に伴い特定されているといえる。図7および図8の場合はゾーンAがこれに該当する。ただし、センサ素子20では被水割れ要対処領域が素子基体1の側面の一部のみとなっている点で、センサ素子10とは相違する。そして、係る被水割れ要対処領域と外側先端保護層12との間に中間先端保護層3が介在するように、外側先端保護層12が素子基体1の一方端部E1側の所定範囲を囲繞しているといえる。また、その際の素子基体1に対する外側先端保護層12の固着も、センサ素子10と同様、素子基体1の側面被水割れ不発生領域に対してなされている。図7および図8の場合はゾーンBがこれに該当する。ただし、センサ素子20ではさらに、外側先端保護層12は素子基体1の先端面101eに対しても固着しているという点で、センサ素子10とは相違する。
【0122】
なお、図8のセンサ素子20のように一方端部E1側の温度が500℃以下となる場合においても、第1の実施の形態に係るセンサ素子10と同様に、素子基体1との間に第2部分3bを介在するように、中間先端保護層3および外側先端保護層2が備わる態様であってもよい。ゾーンAの周囲に中間先端保護層3が存在することに変わりはないからである。
【0123】
以上、説明したように、本実施の形態においても、第1の実施の形態と同様に、ガスセンサを構成するセンサ素子の素子基体のうち、少なくとも、あらかじめ特定された、第一の内部空室から第二の内部空室に至る範囲を含む被水割れ要対処領域の周囲に、熱容量の大きな中間先端保護層を設け、さらに、係る中間先端保護層を囲繞する態様にて、外側先端保護層を設けているので、耐被水性に優れたセンサ素子が実現される。
【0124】
<変形例>
上述の実施の形態においては、3つの内部空室を備えたセンサ素子を対象としているが、3室構造であることは必須ではない。すなわち、素子基体のうち、少なくともガス流通部が備わる端部側の最外面を気孔率の大きな内側先端保護層とし、さらにその外側に、素子基体のうち少なくとも使用時に500℃以上となる部分との間に中間先端保護層を介在させる態様にて、内側先端保護層よりも気孔率の小さい多孔質層である外側先端保護層を設ける構成は、内部空室が2つあるいは1つのセンサ素子にも適用可能である。
【0125】
また、上述の実施の形態においては、図2または図6に示したセンサ素子の構造を前提に、使用時に500℃以上に加熱される領域を被水割れ要対処領域と設定しているが、センサ素子の構造によっては、被水割れ要対処領域の対象となる領域の加熱温度は異なっていてもよい。
【実施例
【0126】
(試験1)
第1の実施の形態に係るセンサ素子10として、外側先端保護層2の厚み(側面部202および端面部203の厚み)および気孔率と中間先端保護層3の厚み(第1部分3aおよび第2部分3bの厚み)および気孔率との組み合わせを違えた8種類のセンサ素子10(実施例1~実施例8)を作製し、その耐被水性について試験した。
【0127】
また、比較例として、中間先端保護層3を介在させることなく、全体を素子基体1に密着させる態様にて外側先端保護層2を形成したセンサ素子(比較例1)と、外側先端保護層2および中間先端保護層3を設けず素子基体1を露出させたままのセンサ素子(比較例2)を作製し、それらについても同様の試験を行った。
【0128】
表1に、各センサ素子についての、外側先端保護層2の厚み、中間先端保護層3の厚み、外側先端保護層2の気孔率、中間先端保護層3の気孔率、および、耐被水性試験における判定結果を、一覧にして示す。なお、素子基体1の作製条件は、全てのセンサ素子について同じとした。また、実施例1~実施例8に係るセンサ素子については、固着面積比を30%とした。内側先端保護層180については、全てのセンサ素子について、気孔率を40%とし、厚みを40μmとした。
【0129】
【表1】
【0130】
耐被水性試験は以下の要領にて行った。まず、ヒータ150に通電して、センサ素子10を、ゾーンAにおける最高温度が800℃となり、かつ、ゾーンBが500℃以下となる温度プロファイルが得られるように加熱した。なお、係る温度プロファイルは、素子長手方向においてガス導入口105から第三の内部空室104に至るまでの範囲がゾーンAに属するものであった。
【0131】
係る加熱状態を維持しつつ、大気雰囲気中で、センサ素子の各ポンプセルさらにはセンサセル作動させて、第一の内部空室102内の酸素濃度を所定の一定値に保つように制御し、主ポンプセルP1におけるポンプ電流Ip0が安定する状況を得た。
【0132】
そして、係る状況のもと、ゾーンAに属する外側先端保護層2の側面部202に対し(比較例2においては素子基体1の対応部分に対し)所定量の水滴を滴下し、係る滴下の前後におけるポンプ電流Ip0の変化が所定の閾値を超えるか否かを確認した。ポンプ電流Ip0の変化が閾値を超えなかった場合、滴下量を増やして係る確認を繰り返した。最終的にポンプ電流Ip0の変化が閾値を超えたときの滴下量を、クラック発生滴下量と定義し、係るクラック発生滴下量の値の大小に基づいて、耐被水性の良否を判定した。係る態様での判定を、判定1と称する。ただし、滴下量の最大値は40μLとした。
【0133】
なお、この試験では、ポンプ電流Ip0の変化を、素子基体1におけるクラックの発生の有無の判断基準として用いている。これは、外側先端保護層2への水滴の滴下(付着)に起因する熱衝撃によって素子基体1にクラックが生じると、酸素が該クラック部分を通過して第一の内部空室102内に流入することにより、ポンプ電流Ip0の値が大きくなる、という因果関係があることを利用している。
【0134】
具体的には、クラック発生滴下量が20μL以上であった場合、センサ素子は、極めて優れた耐被水性を有していると判定した。クラック発生滴下量が15μL以上20μL未満であった場合、センサ素子は、優れた耐被水性を有していると判定した。クラック発生滴下量が10μL以上15μL未満であった場合、センサ素子は、実用的に許容される範囲の耐被水性を有していると判定した。クラック発生滴下量が10μL未満のセンサ素子は、実用性の点から耐被水性が十分ではないと判定した。なお、特許文献1では、滴下量が3μLでクラックが発生しなかった場合につき、実施例と位置付けられている。それゆえ、少なくともクラック発生滴下量が10μL以上のセンサ素子については、従来よりも優れた耐被水性を有していると判断される。
【0135】
なお、外側先端保護層2を設けたセンサ素子においては、素子基体1にクラックが生じるまで、基体固着部201における外側先端保護層2の剥離は生じなかった。
【0136】
表1においては、判定1の結果につき、クラック発生滴下量が20μL以上であったか、あるいは最大滴下量に到達してもクラックが発生しなかったセンサ素子には「☆」(星印)を、クラック発生滴下量が15μL以上20μL未満であったセンサ素子には「◎」(二重丸印)を、クラック発生滴下量が10μL以上15μL未満であったセンサ素子には「〇」(丸印)を、クラック発生滴下量が10μL未満であったセンサ素子には「×」(バツ印)を付している。
【0137】
表1に示す結果においては、実施例1ないし実施例5のセンサ素子には「◎」または「〇」が付され、実施例6ないし実施例8のセンサ素子には「☆」が付されているのに対し、比較例1および比較例2のセンサ素子にはいずれも「×」が付されている。なお、実施例6ないし実施例8におけるクラック発生滴下量はそれぞれ、30μL、20μL、40μLであった。一方、比較例1のセンサ素子については5μL~9μLの滴下量でクラックが発生したと判断された。また、比較例2のセンサ素子については1μL未満の滴下量でクラックが発生したと判断された。
【0138】
表1に示す結果からは、例えば第1の実施の形態のように、ガスセンサを構成するセンサ素子の素子基体のうち、少なくとも、ガスセンサの使用時に500℃以上の高温に加熱される部分の周囲に、気孔率が25%~80%の範囲に属し、厚みが100μm以上700μm以下の範囲に属する多孔質層である中間先端保護層を設け、さらにその外側に、気孔率が15%~30%の範囲に属し、厚みが100μm以上400μm以下の範囲に属する多孔質層である外側先端保護層を設けることで、従来よりも耐被水性に優れたセンサ素子が実現されることがわかる。
【0139】
(試験2)
外側先端保護層2と内側先端保護層180との気孔率差が耐被水性や外側先端保護層2および中間先端保護層3と素子基体1との密着性に与える影響を確認する試験を行った。具体的には、外側先端保護層2の気孔率を15%~30%の範囲から設定し、中間先端保護層3の気孔率を25%~80%の範囲から設定し、内側先端保護層180の気孔率を30%~65%の範囲から設定するとともに、それらの値の組み合わせを種々に違えた8種類のセンサ素子(実施例9~実施例16)を作製し、それぞれを対象として、耐被水性と保護層の密着性について評価した。ただし、いずれのセンサ素子についても、外側先端保護層2の気孔率と内側先端保護層180との気孔率が10%以上50%以下の範囲内に収まるようにした。
【0140】
実施例9~実施例13のセンサ素子にはそれぞれ、実施例1~実施例5のセンサ素子と同じ条件で作製したもの(気孔率に加え厚みも同じもの)を用いた。実施例14のセンサ素子については、外側先端保護層2、中間先端保護層3、および内側先端保護層180の厚みをそれぞれ、200μm、200μm、50μmとした。実施例15~実施例16のセンサ素子については、外側先端保護層2、中間先端保護層3、および内側先端保護層180の厚みをそれぞれ、200μm、700μm、50μmとした。
【0141】
また、比較例として、内側先端保護層180を有さないセンサ素子(比較例3)と、外側先端保護層2、中間先端保護層3、および内側先端保護層180の気孔率のうち2つが上述の設定範囲から外れる2種類のセンサ素子(比較例4~比較例5)とを作製し、それらについても同様の試験を行った。
【0142】
耐被水性試験については、ヒータ150による通電態様と、水滴の滴下箇所とを違えた他は、試験1と同様の要領で行った。
【0143】
ヒータ150による通電は、ゾーンAに属する、外側先端保護層2と内側先端保護層180との間に中間先端保護層3が介在する部分(中間先端保護層介在部)における表面温度(最高温度)を700℃以上850℃以下の範囲で種々に違えるとともに、ゾーンBに属する、外側先端保護層2と内側先端保護層180との間に中間先端保護層3が介在しない部分(中間先端保護層非介在部)における表面温度を350℃以上500℃以下の範囲で種々に違えるようにした。なお、表面温度は、サーモグラフィにより測定している。
【0144】
なお、実施例9(実施例1)のセンサ素子と同じ条件にて作成したセンサ素子について、ヒータ150による通電態様のみを違え、中間先端保護層非介在部における表面温度を600℃としたものについても比較例(比較例6)とした。
【0145】
また、水滴の滴下箇所は、試験1と同様の、中間先端保護層介在部に相当する側面部202の表面と、中間先端保護層非介在部に相当する基体固着部201の表面の2箇所とした。それぞれの箇所における耐被水性の良否の判定を、判定1、判定2とした。
【0146】
密着性の評価については、加熱振動試験を行った後、目視観察にて外側先端保護層2および中間先端保護層3の剥離の有無を判定することにより行った。
【0147】
加熱振動試験は、振動試験機に設置したプロパンバーナーの排気管にそれぞれのセンサ素子を取り付けた状態で、以下の条件にて行った。
【0148】
ガス温度:850℃;
ガス空気比λ:1.05;
振動条件:50Hz→100Hz→150Hz→250Hzを30分掃引;
加速度 :30G、40G、50G;
試験時間:150時間。
【0149】
表2に、各センサ素子についての、外側先端保護層2、中間先端保護層3、および内側先端保護層180の気孔率と、外側先端保護層2と内側先端保護層180との気孔率差と、中間先端保護層介在部と中間先端保護層非介在部の表面温度と、試験1と同じ基準にて判定した耐被水性試験の結果(判定1および判定2)と、密着性の判定結果(判定3)とを示している。なお、密着性の判定結果については、剥離が確認されなかったセンサ素子については「〇」を付し、剥離が確認されたセンサ素子については「×」印を付している。
【0150】
【表2】
【0151】
表2においては、実施例9~実施例14のセンサ素子につき、判定1~判定3の全てにおいて、「☆」、「◎」、または「〇」が付されている。これらのセンサ素子については、外側先端保護層2と内側先端保護層180との気孔率差が10%以上50%以下の範囲に含まれている。
【0152】
これに対し、比較例3~比較例6のセンサ素子については、判定1については「◎」または「〇」が付されているものの、判定2または判定3の少なくとも一方に、「×」が付されている。
【0153】
より詳細には、内側先端保護層180を設けなかった比較例3と、中間先端保護層非介在部における表面温度を600℃とした比較例6において、判定2につき「×」が付される結果となった。係る結果と実施例9~実施例16とを対比すると、耐被水性確保の点からは、内側先端保護層180を設けること、さらには、外側先端保護層2が内側先端保護層180に対し直接に固着される基体固着部201を、センサ素子の使用時に500℃以下に保たれるゾーンBに属するようにすることが、必要であるといえる。
【0154】
また、内側先端保護層180を設けなかった比較例3と、外側先端保護層2と内側先端保護層180との気孔率差がそれぞれ5%と60%である比較例4および比較例5では、判定3につき「×」が付される結果となった。具体的には、これらのセンサ素子では、少なくとも外側先端保護層2の基体固着部201と内側先端保護層180との間において、剥離が生じていた。
【0155】
実施例9~実施例16をも踏まえると、係る結果は、外側先端保護層2と内側先端保護層180との気孔率差が10%以上50%以下の範囲内に収まる場合には、基体固着部201と内側先端保護層180との間に、アンカー効果が好適に作用することで、外側先端保護層2および中間先端保護層3の素子基体1に対する密着性が確保されることを、示しているものと考えられる。
【0156】
また、その際の中間先端保護層3の気孔率については、25%~80%の範囲内の値であれば足りるものと考えられる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8