IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本毛織株式会社の特許一覧

特許7265572多層構造紡績糸、その製造方法、生地及び衣類
<>
  • 特許-多層構造紡績糸、その製造方法、生地及び衣類 図1
  • 特許-多層構造紡績糸、その製造方法、生地及び衣類 図2
  • 特許-多層構造紡績糸、その製造方法、生地及び衣類 図3
  • 特許-多層構造紡績糸、その製造方法、生地及び衣類 図4
  • 特許-多層構造紡績糸、その製造方法、生地及び衣類 図5
  • 特許-多層構造紡績糸、その製造方法、生地及び衣類 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-18
(45)【発行日】2023-04-26
(54)【発明の名称】多層構造紡績糸、その製造方法、生地及び衣類
(51)【国際特許分類】
   D02G 3/36 20060101AFI20230419BHJP
   A41D 31/00 20190101ALI20230419BHJP
   D02G 3/04 20060101ALI20230419BHJP
   D03D 15/233 20210101ALI20230419BHJP
   D03D 15/283 20210101ALI20230419BHJP
   D03D 15/292 20210101ALI20230419BHJP
   D03D 15/47 20210101ALI20230419BHJP
【FI】
D02G3/36
A41D31/00 503D
A41D31/00 503G
D02G3/04
D03D15/233
D03D15/283
D03D15/292
D03D15/47
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021046247
(22)【出願日】2021-03-19
(65)【公開番号】P2022145007
(43)【公開日】2022-10-03
【審査請求日】2023-03-14
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390018153
【氏名又は名称】日本毛織株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】安田 智則
(72)【発明者】
【氏名】岡部 孝之
(72)【発明者】
【氏名】茂上 英明
【審査官】藤原 敬士
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-217741(JP,A)
【文献】特開2008-174848(JP,A)
【文献】特開2012-117194(JP,A)
【文献】特開2015-196928(JP,A)
【文献】国際公開第2018/127991(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D02G 1/00 - 3/48
A41D 31/00
D02J 1/00 - 13/00
D03D 1/00 - 27/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯成分繊維と鞘成分繊維で構成され、前記鞘成分繊維は内層繊維と表層繊維を含む多層構造紡績糸であって、
前記鞘成分繊維は、内層に位置する短繊維が無撚り状であり、表層に位置する短繊維がS撚り又はZ撚りで一方向に実撚り状に巻き付いて全体を束ねており、
前記芯成分繊維は伸縮性マルチフィラメント糸であり、
前記鞘成分繊維は獣毛繊維と獣毛繊維以外の短繊維を含む混紡繊維であり、
前記多層構造紡績糸を100質量%としたとき、獣毛繊維の混率は5~50質量%であり、
前記獣毛繊維の平均繊維長は20~35mmであることを特徴とする多層構造紡績糸。
【請求項2】
前記伸縮性マルチフィラメント糸は、コンジュゲートマルチフィラメント糸及び仮撚マルチフィラメント糸からなる群から選ばれる少なくとも一つである請求項1に記載の多層構造紡績糸。
【請求項3】
前記鞘成分繊維の獣毛繊維以外の短繊維は、ポリエステル短繊維である請求項1又は2に記載の多層構造紡績糸。
【請求項4】
前記多層構造紡績糸を100質量%としたとき、芯成分繊維は10~40質量%であり、鞘成分繊維は60~90質量%である請求項1~3のいずれか1項に記載の多層構造紡績糸。
【請求項5】
前記多層構造紡績糸の単糸は、メートル番手で20~52番(繊度:500~192decitex)の範囲である請求項1~4のいずれか1項に記載の多層構造紡績糸。
【請求項6】
前記多層構造紡績糸が獣毛繊維以外の短繊維を含む場合は、前記獣毛繊維以外の短繊維の平均繊維長は20~51mmである請求項1~5のいずれか1項に記載の多層構造紡績糸。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の多層構造紡績糸の製造方法であって、
鞘成分繊維となる獣毛繊維と獣毛繊維以外の短繊維を含む混紡繊維のスライバーをドラフトゾーンに供給してドラフトし、
前記ドラフトゾーンのフロントローラの上流側に芯成分繊維となる伸縮性マルチフィラメント糸を供給し、前記スライバーと合体させて繊維束とし、
前記繊維束を前記フロントローラの排出部から離れて配置されている1個のスピンドルに供給し、旋回流によって仮撚りを掛けた後に巻き取ることを特徴とする多層構造紡績糸の製造方法。
【請求項8】
請求項1~6のいずれか1項に記載の多層構造紡績糸を含む生地。
【請求項9】
請求項1~6のいずれか1項に記載の多層構造紡績糸を含む衣類又は請求項に記載の生地を含む衣類。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芯成分繊維がフィラメント糸で鞘成分繊維が獣毛繊維を含む混紡短繊維の多層構造紡績糸、その製造方法、生地及び衣類に関する。
【背景技術】
【0002】
芯成分繊維がフィラメント糸で鞘成分繊維が短繊維の長短複合紡績糸は、フィラメント糸と短繊維の持つそれぞれの長所を生かせることから、従来から様々な提案がされている。特許文献1には、リング紡績法により、マルチフィラメント糸を電気開繊して短繊維と撚糸し、均一混繊構造の長短複合紡績糸を作る方法が提案されている。特許文献2には、リング紡績法により、芯部にコンジュゲート複合繊維糸からなるフィラメント糸を配置し、鞘部に短繊維を配置した長短複合紡績糸が提案されている。本発明者らは、リング紡績法により、芯部にマルチフィラメント仮撚糸を配置し、鞘部に短繊維束を配置した長短複合紡績糸が提案している(特許文献3)。特許文献4には結束紡績法を用いた長短複合紡績糸が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012-102445号公報
【文献】特開2015-045112号公報
【文献】特許第6696004号公報
【文献】特開平11-217741号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、前記従来技術は、糸構造及び獣毛繊維の混率に問題があり、生地の摩擦強力、緯伸び及び抗ピリング性に問題があった。
【0005】
本発明は、前記従来の問題を解決するため、糸構造及び獣毛繊維の混率の最適化を図り、生地の摩擦強力、緯伸び及び抗ピリング性を向上した多層構造紡績糸、その製造方法、生地及び衣服を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の多層構造紡績糸は、芯成分繊維と鞘成分繊維で構成され、前記鞘成分繊維は内層繊維と表層繊維を含む多層構造紡績糸であって、前記鞘成分繊維は、内層に位置する短繊維が無撚り状であり、表層に位置する短繊維がS撚り又はZ撚りで一方向に実撚り状に巻き付いて全体を束ねており、前記鞘成分繊維は獣毛繊維と獣毛繊維以外の短繊維を含む混紡繊維であり、前記多層構造紡績糸を100質量%としたとき、獣毛繊維の混率は5~50質量%であり、前記獣毛繊維の平均繊維長は20~35mmであることを特徴とする。
【0007】
本発明の多層構造紡績糸の製造方法は、前記の多層構造紡績糸の製造方法であって、鞘成分繊維となる獣毛繊維と獣毛繊維以外の短繊維を含む混紡繊維のスライバーをドラフトゾーンに供給してドラフトし、前記ドラフトゾーンのフロントローラの上流側に芯成分繊維となる伸縮性マルチフィラメント糸を供給し、前記スライバーと合体させて繊維束とし、前記繊維束を前記フロントローラの排出部から離れて配置されているスピンドルに供給し、旋回流によって仮撚りを掛けた後に巻き取ることを特徴とする。
【0008】
本発明の生地は、前記の多層構造紡績糸を使用したことを特徴とする。また、本発明の衣類は、前記の多層構造紡績糸又は生地を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の多層構造紡績糸は、糸構造及び獣毛繊維の混率の最適化を図り、生地の摩擦強力、緯伸び及び抗ピリング性を向上した多層構造紡績糸、その製造方法、生地及び衣服を提供できる。これらの特性は、ビジネス用スーツ、ビジネス用ユニホーム、学生服などに好適である。本発明の多層構造紡績糸の製造方法は、結束紡績法であるため、リング紡績法に比べて約10~20倍の高速で紡績でき、効率よく合理的に、コストも安く製造できる。また、毛羽数が少なく均整な糸であり、熱水収縮率も高い多層構造紡績糸を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は本発明の一実施形態における芯鞘構造紡績糸を製造するための結束紡績装置の要部を示す模式的斜視図である。
図2図2は本発明の一実施形態における芯鞘構造紡績糸の模式的斜視図である。
図3図3は本発明の別の実施形態における芯鞘構造紡績糸の模式的斜視図である。
図4図4は本発明の一実施形態における芯鞘構造紡績糸の側面写真(倍率200倍)である。
図5図5は本発明の別の実施形態における芯鞘構造紡績糸の側面写真(倍率200倍)である。
図6図6は本発明の一実施形態における織物の織組織図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の多層構造紡績糸は、芯成分繊維と鞘成分繊維で構成され、前記鞘成分繊維は内層繊維と表層繊維を含む3層構造になっている。この糸構造により、糸構造は強固となり、生地の摩擦強力及び抗ピリング性を向上できる。またこの糸構造により、後の工程で多層構造紡績糸又は生地を熱水収縮させても、芯成分繊維の伸縮性マルチフィラメント糸が外に飛び出さず、スナールになりにくい。
【0012】
芯成分繊維は伸縮性マルチフィラメント糸である。伸縮性マルチフィラメント糸は、コンジュゲートマルチフィラメント糸又は仮撚マルチフィラメント糸が好ましい。これにより、生地の緯伸びを向上できる。コンジュゲートマルチフィラメント糸は、一例として、ポリエチレンテレフタレート(PET)とポリトリメチレンテレフタレート(PTT)がサイドバイサイドで複合紡糸されたポリエステルコンジュゲートフィラメント糸が好ましい。このような伸縮糸は例えば、商品名“ライクラT400ファイバー”(東レ・オペロンテックス社販売)がある。別の伸縮糸としては、極限粘度の異なる2成分のポリエチレンテレフタレートのコンジュゲート糸、PETとポリブチレンテレフタレート(PBT)とのコンジュゲート糸、PTTとPBTとのコンジュゲート糸なども使用できる。このようなポリエステルコンジュゲートフィラメント糸は、PETマルチフィラメント糸と同様に耐塩素性も耐光性も高い。コンジュゲートマルチフィラメント糸は染色温度程度の熱水処理により捲縮が発現し、伸縮性(ストレッチ性)が発現する。このことから潜在捲縮糸ともいわれている。
【0013】
仮撚マルチフィラメント糸は、ポリエステル仮撚マルチフィラメント糸、ナイロン仮撚マルチフィラメント糸、セルロースアセテート仮撚マルチフィラメント糸、キュプラ仮撚マルチフィラメント糸、シルク仮撚マルチフィラメント糸などが好ましい。これらの糸は獣毛繊維と組み合わせるとより高付加価値の交撚糸となる。なかでもポリエチレンテレフタレートマルチフィラメント仮撚糸は強度も高く腰もあることから好ましい。
【0014】
鞘成分繊維は獣毛繊維と獣毛繊維以外の短繊維を含む混紡繊維で構成される。鞘成分繊維は、内層に位置する短繊維が無撚り状であり、表層に位置する短繊維が一方向に実撚り状に巻き付いて全体を束ねている。内層の無撚り状短繊維と、表層に位置する実撚り状繊維は、別の繊維であってもよいし、同一繊維がマイグレーションにより入れ替わっていてもよい。
【0015】
獣毛繊維は、羊の毛であるウール(メリノ・ウールの場合、繊維長30~150mm)、山羊の毛であるモヘヤ(繊維長100~300mm)、カシミヤ(繊維長40~90mm)ラクダの毛であるキャメル(繊維長50~70mm)、アルパカ(繊維長100~200mm)、ビキューナ(繊維長20~70mm)、ウサギの毛であるアンゴララビット(繊維長100~130mm)等を使用できる。このうち好ましいのは最も汎用性があるウールである。ウールと他の獣毛繊維とを混紡してもよい。獣毛繊維の平均繊維長は20~35mmにカットするのが好ましい。多層構造紡績糸を100質量%としたとき、獣毛繊維の混率は5~50質量%である。好ましい獣毛繊維の混率は7~45質量%であり、より好ましくは10~40質量%である。これにより、風合いが良く、温かい織物、編み物が得られる。
【0016】
鞘成分繊維は、獣毛繊維と獣毛繊維以外の短繊維を混紡する。獣毛繊維以外の短繊維は、合成繊維、再生繊維、天然繊維のいずれかでもよい。好ましくはポリエステル短繊維、ナイロン短繊維、セルロースアセテート短繊維、キュプラ短繊維、シルク短繊維、コットン繊維、麻繊維、レーヨン繊維などである。この中でもポリエステル短繊維は強度高く腰もあることから好ましい。獣毛繊維以外の短繊維の平均繊維長は20~51mmにカットするのが好ましい。
【0017】
多層構造紡績糸を100質量%としたとき、芯成分繊維の伸縮性マルチフィラメント糸は10~40質量%であり、鞘成分繊維は60~90質量%が好ましい。より好ましくは、芯成分繊維の伸縮性マルチフィラメント糸は15~35質量%、鞘成分繊維は65~85質量%であり、さらに好ましくは、芯成分繊維の伸縮性マルチフィラメント糸は20~30質量%、鞘成分繊維は70~80質量%である。
【0018】
本発明の多層構造紡績糸は、生産性に優れることから結束紡績糸が好ましい。リング紡績糸に比べて結束紡績糸は、約10~20倍生産性に優れる。とくに旋回流ノズルが1個の結束紡績装置により得られた結束紡績糸は毛羽も少なく、糸構造は強固となり、生地の摩擦強力及び抗ピリング性を向上できる。なお、結束紡績は、ボルテックス(VORTEX)紡績ともいう。
【0019】
本発明の多層構造紡績糸は、メートル番手(単糸)で、20~52番(繊度:500~192decitex)の範囲が好ましい。この範囲であれば、ビジネス用スーツ、ビジネス用ユニホーム、学生服などに好適である。多層構造紡績糸は2本撚り合わされた双糸としてもよい。前記双糸のメートル番手は10~26番(繊度:1000~384decitex)が好ましい。双糸にすると、生地の表面がきれいになるうえ、織物の強度も高くなる。
【0020】
本発明の織物又は編み物の単位面積あたりの質量(目付)は50~400g/mの範囲が好ましい。前記範囲であれば、さらに軽くて着心地の良い衣服とすることができる。さらに好ましくは100~350g/mの範囲、とくに好ましくは150~300g/mの範囲である。織物組織は、平織り、綾織り、朱子織、その他の変化織など、どのような組織であってもよい。編み物は、横編み、丸編み、経編などであり、編み物組織はどのような組織であってもよい。
【0021】
次に本発明の芯鞘構造糸を製造するための装置と方法について図面を用いて説明する。以下の図面において、同一符号は同一物を示す。図1は本発明の一実施例における結束紡績装置1の要部を示す斜視図である。
(1)ドラフト工程
結束紡績装置1のドラフトゾーン6は、一対のフロントローラ2,2’と、エプロンを有する一対のセカンドローラ3と、一対のサードローラ4と、一対のバックローラ5で構成されている。鞘成分繊維となる獣毛繊維と獣毛繊維以外の短繊維を混紡したスライバー7は、スライバーガイド8を通過させてバックローラ5から供給され、ドラフトゾーン6でドラフトされる。
(2)芯成分繊維と被覆成分繊維との合体工程
ドラフトゾーン6のフロントローラ2,2’手前(上流側)に、芯成分繊維となる伸縮性マルチフィラメント糸9を供給し、スライバー7がドラフトされた繊維束と合体させる。
(3)紡績糸形成工程
フロントローラ2,2’の排出部から離れて配置されているスピンドル10に、合体させた芯成分繊維糸と鞘成分繊維の繊維束を供給し、旋回流によって仮撚りを掛けて多層構造紡績糸11とする。
(4)巻き取り工程
得られた多層構造紡績糸11は、スラブキャッチャー12を通過し、フリクションローラ13で引き取られ、巻取り部17の巻き取りドラム14により駆動されクレードルアーム15に支持されたパッケージ16に巻き取られる。
本発明の製造方法に使用する紡績機は、例えば村田機械社製、商品名"MURATA VORTEX SPINNER"として販売されている。特徴的なことは、糸速度が300~450m/分であり、リング紡績機の約10~20倍生産速度が速いことである。
【0022】
本発明の一例の多層構造紡績糸(結束紡績糸)20を図2に示す。この例は、多層構造紡績糸を100質量%としたとき、ウールの混率を15質量%とした例である。芯成分繊維21が伸縮性マルチフィラメント糸であり、鞘成分繊維24はウールとポリエステル(PET)短繊維の混紡繊維である。ウールは内層繊維22に多く存在し、無撚り状態である。PET短繊維は表層の巻き付き繊維23に多く存在している。表層の巻き付き繊維23は一方向に撚りが掛けられた実撚り状であり、全体を束ねている。これにより、毛羽やたるみは少なく、摩耗を受けても繊維が脱落せず、強固な糸状態を保つ。前記において一方向とは、S撚りの巻き付け繊維又はZ撚りの巻き付け繊維のことをいい、撚り角が同一ということではない。S撚りの巻き付け繊維又はZ撚りの巻き付け繊維は、結束紡績機のスピナーの圧空旋回流の方向によって決まる。この多層構造紡績糸(結束紡績糸)20は、芯成分繊維21と、鞘成分繊維24のうちの無撚りの内層繊維22と、表層の巻き付き繊維23の3層構造になっている。この糸構造により、糸強度は高いものとなる。また、内層のウールは表層のPET短繊維に被覆保護されていることにより、ウールの傷みは防止される。
【0023】
本発明の別の例の多層構造紡績糸(結束紡績糸)25を図3に示す。この例は、多層構造紡績糸25を100質量%としたとき、ウールの混率を35質量%とした例である。図2と異なるのは、鞘成分繊維28の内層繊維26も表層の巻き付き繊維27も、ウールとPET短繊維の混紡繊維の状態で内層繊維22と表層の巻き付き繊維23となっていることである。26bは内層のウール,26aは内層のPET短繊維、27bは表層のウール、27aは表層のPET短繊維である。この多層構造紡績糸も3層構造になっていることから、糸強度は高いものとなる。また、表層の巻き付き繊維は、ウールとPET短繊維がしっかりと絡んでいるため、ウールの傷みは防止される。
【0024】
図4は本発明の一実施形態における芯鞘構造紡績糸の側面写真(倍率200倍)であり、多層構造紡績糸を100質量%としたとき、ウールの混率を15質量%とした側面写真である。
図5は本発明の別の実施形態における芯鞘構造紡績糸の側面写真(倍率200倍)であり、多層構造紡績糸を100質量%としたとき、ウールの混率を35質量%とした例である。
図2図5から総じていえることは、表層の巻き付き繊維が、芯成分繊維及び鞘成分の内層繊維を強固にラッピングしており、これが生地の摩擦強力、緯伸び及び抗ピリング性の向上に寄与しているといえる。
【0025】
図6は本発明の一実施形態における織物組織図であり、バラシア(barathea)組織である。経糸は1種類の糸を使用し、緯糸は2種類の糸を交互に打ち込んだ組織である。変化マット織物ともいわれる。
【実施例
【0026】
以下、実施例を用いてさらに具体的に説明する。本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
本発明の実施例、比較例における測定方法はJIS又は業界規格にしたがって測定した。
【0027】
(実施例1~2)
1.使用繊維
(1)芯成分繊維
芯成分繊維として、ポリエチレンテレフタレート(PET)とポリトリメチレンテレフタレート(PTT)が50:50の割合でサイドバイサイド複合紡糸されたポリエステルコンジュゲートフィラメント糸、商品名“ライクラT400ファイバー”(東レ・オペロンテックス社販売)、トータル繊度83decitex、構成本数34本、黒原着品を使用した。
(2)鞘成分繊維
下記の2種類の繊維を混紡した。
(i)ウール
平均直径22μm、平均繊維長80mmのメリノ種ウールの繊維束(20g/m)を平均繊維長28mmにスクウエアカットした。
(ii)PET短繊維
繊度1.56decitexのポリエチレンテレフタレート(PET)、スクエアカット(平均繊維長38mm)、黒原着品を使用した。
以上のウールとPET短繊維を表1に示す所定の割合にて均一混紡した。
2.多層構造紡績糸の作製
図1に示す方法によりポリエステルコンジュゲートフィラメント糸を芯成分繊維とし、ウールとPET短繊維を混紡した繊維束(スライバー)を鞘成分繊維とし、図1に示す村田機械社製、商品名”No.870,MURATA VORTEX SPINNER”を使用し、300m/分の速度で多層構造結束紡績糸を製造した。各繊維の割合は表1に示すとおりである。得られた糸のメートル番手は36番(278decitex)であった。この糸は単糸使いの場合は1/36と表示する。
【0028】
(実施例3)
多層構造結束紡績糸のメートル番手を40番(250decitex)とした以外は実施例2と同様に製造した。この糸は単糸使いの場合は1/40と表示する。
【0029】
(比較例1)
メートル番手60番(167decitex)のリング紡績糸と、PETとPTTが50:50の割合でサイドバイサイド複合紡糸されたポリエステルコンジュゲートフィラメント糸、商品名“ライクラT400ファイバー”(東レ・オペロンテックス社販売)、トータル繊度83decitex,構成本数34本、黒原着品を撚糸機で撚り合わせ、撚糸交撚糸とした。各繊維の割合は表1に示すとおりである。この糸は約40番(250decitex)であった。
【0030】
以上の条件と結果は表1にまとめて示す。表1において、熱水処理後の収縮率(%)は、下記の式によって求める。熱水処理は100℃の熱水に20分間浸漬して行った。
熱水収縮率(%)=[(L1-L2)/L1]×100
L1:熱水処理前の糸長
L2:熱水処理後の糸長
【0031】
【表1】
【0032】
表1から明らかなとおり、実施例1~3の多層構造紡績糸(結束紡績糸)は比較例1の撚糸交撚糸に比べて1mm以上の毛羽数が少なく均整な糸であり、熱水収縮率も高かった。
【0033】
(実施例4)
次の糸を使用して織物を製造した。
(1)緯糸1
実施例3の多層構造紡績糸を用いた。
(2)緯糸2
実施例1の鞘成分繊維に使用したウールとPET短繊維の混紡スライバーを使用し、実施例1と同じ紡績装置で結束紡績糸を作成した。この結束紡績糸は、ウール30質量%、PET短繊維70質量%であり、メートル番手は40番(250decitex)であった。
(3)経糸
前記緯糸2と同じ質量比のメートル番手80番(125decitex)のリング紡績糸双糸を用いた。
(4)織物の作製
経糸1と、緯糸1、緯糸2を使用し、レピア織機を使用して図6に示すバラシア組織(barathea)の織物を製織した。得られた織物は、ウールを染色するため酸性染料を使用し、室温(25℃)から100℃まで75分かけて昇温し、100℃の熱水で45分間浸漬して染色し、その後洗浄した。
【0034】
(比較例2)
緯糸1として、比較例1の撚糸交撚糸を使用した。これ以外は実施例4と同様とした。
以上条件と結果は表2にまとめて示す。
【0035】
【表2】
【0036】
表2から明らかなとおり、実施例4の織物生地は摩擦強力、緯伸び及び抗ピリング性が高かった。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明の多層構造紡績糸から作られる生地は、ビジネス用スーツ、ビジネス用ユニホーム、学生服などに好適である。その他、靴下、手袋、ホールガーメントなどにも好適である。
【符号の説明】
【0038】
1 結束紡績装置
2,2’ フロントローラ
3 セカンドローラ
4 サードローラ
5 バックローラ
6 ドラフトゾーン
7 スライバー
8 スライバーガイド
9 伸縮性マルチフィラメント糸
10 スピンドル
11 多層構造紡績糸
12 スラブキャッチャー
13 フリクションローラ
14 巻き取りドラム
15 クレードルアーム
16 パッケージ
20,25 多層構造紡績糸
21 芯成分繊維
22,26 内層繊維
23,27 巻き付き繊維
24,28 鞘成分繊維
26b 内層のウール
26a 内層のPET短繊維
27b 表層のウール
27a 表層のPET短繊維
図1
図2
図3
図4
図5
図6