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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-18
(45)【発行日】2023-04-26
(54)【発明の名称】固体製剤及びその検査方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/88 20060101AFI20230419BHJP
   A61K 9/44 20060101ALI20230419BHJP
   A61K 47/22 20060101ALI20230419BHJP
   A61K 9/28 20060101ALI20230419BHJP
【FI】
G01N21/88 Z
A61K9/44
A61K47/22
A61K9/28
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021063420
(22)【出願日】2021-04-02
(62)【分割の表示】P 2017115942の分割
【原出願日】2017-06-13
(65)【公開番号】P2021105617
(43)【公開日】2021-07-26
【審査請求日】2021-04-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】110003764
【氏名又は名称】弁理士法人OMNI国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100130580
【弁理士】
【氏名又は名称】小山 靖
(72)【発明者】
【氏名】森川 聡一郎
(72)【発明者】
【氏名】前田 恵介
【審査官】田中 洋介
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/117515(WO,A1)
【文献】特開2015-218268(JP,A)
【文献】特開2014-162081(JP,A)
【文献】特開2006-168017(JP,A)
【文献】特開昭57-150610(JP,A)
【文献】特開2006-089741(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0222704(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第106290382(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/84-21/958
A61K 9/00-9/72
A61K 47/00-47/69
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面一部にコーティング層が設けられた固体製剤であって、
波長域が380nm~760nmの可視光を透過し、かつ、波長域が380nm未満の紫外線を反射する前記コーティング層、が設けられたコーティング領域と、
前記波長域の紫外線を吸収し、かつ、前記コーティング層が設けられていない非コーティング領域とを少なくとも有し、
前記固体製剤の表面と前記コーティング層の間の少なくとも一部にインク層が設けられており、
前記コーティング層はインクジェット用水性コーティング液の乾燥皮膜からなり、前記波長域の紫外線に対し光反射性を有する分を少なくとも含み、
前記分は、数平均分子量2000~200000の範囲内のポリビニルピロリドンであり、
前記ポリビニルピロリドンは、前記インクジェット用水性コーティング液に含まれるインクジェット用水性コーティング組成物中に、1質量%以上、20質量%以下の範囲で含まれ、
前記インク層は前記ポリビニルピロリドンを含有しない固体製剤。
【請求項2】
表面一部にコーティング層が設けられた固体製剤の検査方法であって、
前記固体製剤は、
波長域が380nm~760nmの可視光を透過し、かつ、波長域が380nm未満の紫外線を反射する前記コーティング層、が設けられたコーティング領域と、
前記波長域の紫外線を吸収し、かつ、前記コーティング層が設けられていない非コーティング領域とを少なくとも有し、
前記固体製剤の表面と前記コーティング層の間の少なくとも一部にインク層が設けられており、
前記コーティング層は、前記インク層に含まれる顔料を前記固体製剤の表面に定着させ、かつ前記波長域の紫外線に対し光反射性を有する顔料定着成分を少なくとも含み、
前記顔料定着成分は、数平均分子量2000~200000の範囲内のポリビニルピロリドンであり、
前記コーティング領域及び非コーティング領域に、前記波長域の紫外線を少なくとも含む照射光を照射する照射工程と、
前記照射光が前記コーティング領域で反射された反射光を受光し、前記コーティング領域及び非コーティング領域を撮像する撮像工程とを含む固体製剤の検査方法。
【請求項3】
前記コーティング層がインクジェット用水性コーティング液の乾燥皮膜からなり、
前記インクジェット用水性コーティング液に含まれるインクジェット用水性コーティング組成物は、ポリビニルピロリドンを1質量%以上、20質量%以下の範囲で含有する請求項に記載の固体製剤の検査方法。
【請求項4】
前記照射工程は、前記照射光として波長域が380nm未満の紫外線のみを用いる工程である請求項又はに記載の固体製剤の検査方法。
【請求項5】
前記撮像工程は、前記反射光として波長域が380nm未満の紫外線のみを受光して撮像する工程である請求項の何れか1項に記載の固体製剤の検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は固体製剤及びその検査方法に関し、より詳細には、可視光を照射した場合には、識別が困難であり、紫外線を照射した場合には、印刷不良の有無を検査することが可能なコーティング層を表面に有する固体製剤及びその検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
錠剤等の固体製剤への画像等の印刷に用いるインクジェット用インクは、薬事法で定める医薬品添加物、日本薬局方又は食品添加物公定書の基準に適合した原材料で構成される必要がある。そのようなインクジェット用インクとして、着色に用いる粉末(染料)がインクジェット用インク中に溶存している染料インクからなるものと、着色に用いる粉末(顔料)がインクジェット用インク中に分散している顔料インクからなるものが製造販売されている。
【0003】
染料インクは、顔料インクと比較して、時間経過に伴い、光照射により褪色しやすいという問題がある。そのため、耐光性に優れた顔料インクを、錠剤等の固体製剤への印刷に使用することが多くなってきている。
【0004】
しかしながら、FC(フィルムコーティング)錠や糖衣錠等の固体製剤は、他の固体製剤と比較して、表面が平滑であるため、顔料が十分に定着せずに、剥がれて転写してしまうという問題がある。そのため、現状では、顔料インクを使用可能な条件は限られている。この問題を解決するために、顔料インク等によって画像形成された要素に対して、コーティング層としての無色透明なオーバーコート層を設けることで、前記要素の剥離を防止することが開示されている(下記特許文献1参照)。
【0005】
一方、オーバーコート層は、顔料インクが固体製剤に印刷されることにより形成され、顔料インクの乾燥皮膜からなる顔料インク層の視認性を確保するためには、可視光透過性を有し、無色透明であることが好ましい。前記オーバーコート層が無色透明である場合、固体製剤に於いて、当該オーバーコート層の存在するコーティング領域を、目視又はカメラ等の撮像手段を用いて識別することは難しい。そのため、オーバーコート層の印刷不良の有無を検査することが困難であるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2002-207275号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は前記問題点に鑑みなされたものであり、その目的は、印刷画像の視認性が低下するのを抑制し、かつ、プライマーコート層やオーバーコート層等のコーティング層の印刷不良の有無を確認することが可能な固体製剤及びその検査方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の課題は、以下に述べる発明により解決される。
即ち、本発明に係る固体製剤は、前記の課題を解決する為に、表面の少なくとも一部にコーティング層が設けられた固体製剤であって、波長域が380nm~760nmの可視光を透過し、かつ、波長域が380nm未満の紫外線を反射する前記コーティング層、が設けられたコーティング領域と、前記波長域の紫外線を吸収し、かつ、前記コーティング層が設けられていない非コーティング領域とを少なくとも有し、前記コーティング領域及び非コーティング領域に波長域が380nm~760nmの可視光を照射した場合の前記非コーティング領域に対する前記コーティング領域の階調値の差は5未満であり、前記コーティング領域及び非コーティング領域に前記波長域の紫外線を照射した場合の前記非コーティング領域に対する前記コーティング領域の階調値の差は5以上である。
【0009】
従来のオーバーコート層は、印刷画像の良好な視認性を確保するとの観点から、波長域が380nm~760nmの範囲の可視光領域に於いて光透過性を有している。そのため、従来のオーバーコート層では、ノズル欠け等の吐出不良や印刷位置のズレによる印刷不良を、目視又はカメラ等の撮像手段で検出することは困難であった。一方、本発明の固体製剤は、前記構成の通り、前記波長域の可視光をコーティング領域及び非コーティング領域に照射した場合に、当該非コーティング領域に対する当該コーティング領域の階調値の差が5未満となるように構成されるものである。そのため、前記コーティング層が設けられたコーティング領域は、前記波長域の可視光照射下において目視等で識別するのを困難にしている。
【0010】
また、コーティング領域は、波長域が380nm未満の紫外線を反射するコーティング層が設けられた領域であり、非コーティング領域は、前記波長域の紫外線を吸収する領域である。さらに、コーティング領域と非コーティング領域は、これらに前記波長域の紫外線を照射した場合に、当該コーティング領域の有する前記光反射性及び当該非コーティング領域の有する前記光吸収性により、当該非コーティング領域に対する当該コーティング領域の階調値の差が5以上となるように構成されている。そのため、前記波長域の紫外線照射下ではコーティング層の識別が可能となり、コーティング層の印刷不良の有無を検査することができる。
【0011】
また、前記の構成に於いては、前記固体製剤の表面と前記コーティング層の間の少なくとも一部にインク層が設けられており、前記コーティング層は、前記インク層に含まれる顔料を前記固体製剤の表面に定着させ、かつ前記波長域の紫外線に対し光反射性を有する顔料定着成分を少なくとも含むオーバーコート層であってもよい。
【0012】
前記構成によれば、固体製剤の表面とコーティング層の間の少なくとも一部にインク層を設けることで、当該コーティング層をオーバーコート層として機能させ、当該インク層を被覆し保護することができる。ここで、オーバーコート層としてのコーティング層は、波長域が380nm~760nmの可視光を透過するので、例えば、インク層が形成する印刷画像の視認性が阻害されるのを抑制することができる。また、オーバーコート層としてのコーティング層はインク層を保護するので、他の固体製剤等と接触した際に、当該インク層の転写を抑制することができる。また、当該コーティング層は、インク層に含まれる顔料を固体製剤の表面に定着させる顔料定着成分を含むため、当該固体製剤の表面からの顔料の剥離を防止できる。更に、顔料定着成分は前記波長域の紫外線に対し光反射性を有するため、コーティング層に当該波長域の紫外線を反射する機能を付与することができる。
【0013】
前記固体製剤に於いては、前記顔料定着成分が、数平均分子量2000~200000の範囲内のポリビニルピロリドンであることが好ましい。
【0014】
本発明に係る固体製剤の検査方法は、前記の課題を解決するために、表面の少なくとも一部にコーティング層が設けられた固体製剤の検査方法であって、前記固体製剤は、波長域が380nm~760nmの可視光を透過し、かつ、波長域が380nm未満の紫外線を反射する前記コーティング層、が設けられたコーティング領域と、前記波長域の紫外線を吸収し、かつ、前記コーティング層が設けられていない非コーティング領域とを少なくとも有し、前記コーティング領域及び非コーティング領域に前記波長域の可視光を照射した場合の前記非コーティング領域に対する前記コーティング領域の階調値の差が5未満であり、前記コーティング領域及び非コーティング領域に前記波長域の紫外線を照射した場合の前記非コーティング領域に対する前記コーティング領域の階調値の差が5以上のものであり、前記コーティング領域及び非コーティング領域に、前記波長域の紫外線を少なくとも含む照射光を照射する照射工程と、前記照射光が前記コーティング領域で反射された反射光を受光し、前記コーティング領域及び非コーティング領域を撮像する撮像工程とを含む前記照射光が前記コーティング領域で反射された反射光を受光し、前記コーティング領域及び非コーティング領域を撮像する撮像工程とを含むものである。
【0015】
前記構成によれば、撮像対象となる固体製剤の表面には、前記波長域の可視光照射下に於いて、非コーティング領域に対する階調値の差が5未満のコーティング領域が設けられている。そのため、前記波長域の可視光照射下では、目視又はカメラ等による撮像手段によってコーティング領域を視認することが困難となっている。また、コーティング層は前記波長域の可視光を透過するものであるため、例えば、コーティング層をオーバーコート層として使用する場合には印刷画像の視認性が低下するのを抑制することができる。
【0016】
また、コーティング領域は波長域が380nm未満の紫外線を反射する領域であり、非コーティング領域は前記波長域の紫外線を吸収する領域である。そして、コーティング領域及び非コーティング領域に、前記波長域の紫外線を含む光を照射した場合には、当該非コーティング領域に対する階調値の差が5以上となるように構成されている。そのため、前記照射工程で、コーティング領域及び非コーティング領域に、前記波長域の紫外線を少なくとも含む照射光を照射することにより、当該コーティング領域のコーティング層で照射光の少なくとも一部を反射させると共に、当該非コーティング領域では当該照射光の少なくとも一部を吸収させ、当該コーティング層の識別(視認)が可能な状態にする。その上で、前記構成に於いては、照射光がコーティング領域で反射された反射光を受光し、コーティング領域と非コーティング領域を撮像する(撮像工程)。これにより、コーティング層の印刷状態の良否を容易に判別し検査することができ、従来よりも固体製剤の歩留まりを向上させることが可能になる。
【0017】
前記の構成に於いて、前記照射工程は、前記照射光として波長域が380nm未満の紫外線のみを用いる工程であることが好ましい。コーティング領域は波長域が380nm未満の紫外線に対し光反射性を示す領域であり、非コーティング領域は当該波長域の紫外線に対し光吸収性を示す領域である。従って、前記照射工程で使用する照射光を波長域が380nm未満の紫外線のみとすることで、非コーティング領域に対するコーティング領域の階調値の差の最大化が図れる。その結果、固体製剤に於けるコーティング層の識別を一層容易にし、当該コーティング層の印刷不良の有無の検査精度を一層向上させることができる。
【0018】
前記の構成に於いて、前記撮像工程は、前記反射光として波長域が380nm未満の紫外線のみを受光して撮像する工程であることが好ましい。前述の通り、コーティング領域は波長域が380nm未満の紫外線に対し光反射性を示す領域であり、非コーティング領域は当該波長域の紫外線に対し光吸収性を示す領域であるため、前記撮像工程で波長域が380nm未満の紫外線のみを受光することで、当該非コーティング領域に対する当該コーティング領域の階調値の差の最大化が図れる。その結果、固体製剤に於けるコーティング層の識別を一層容易にし、当該コーティング層の印刷不良の有無の検査精度を一層向上させることができる。
【0019】
前記の構成に於いては、前記固体製剤の表面と前記コーティング層の間の少なくとも一部にインク層が設けられており、前記コーティング層は、前記インク層に含まれる顔料を前記固体製剤の表面に定着させ、かつ前記波長域の紫外線に対し光反射性を有する顔料定着成分を少なくとも含むオーバーコート層であってもよい。
【0020】
前記の構成によれば、固体製剤の表面とコーティング層の間の少なくとも一部にインク層を設けることで、当該コーティング層をオーバーコート層として機能させ、当該インク層を被覆し保護することができる。ここで、オーバーコート層としてのコーティング層は、波長域が380nm~760nmの可視光を透過するので、例えば、インク層が形成する印刷画像の視認性が阻害されるのを抑制することができる。また、オーバーコート層としてのコーティング層はインク層を保護するので、他の固体製剤等と接触した際に、当該インク層の転写を抑制することができる。また、当該コーティング層は、インク層に含まれる顔料を固体製剤の表面に定着させる顔料定着成分を有しているため、当該固体製剤の表面からの顔料の剥離を防止できる。更に、顔料定着成分は前記波長域の紫外線に対し光反射性を有するため、コーティング層に当該波長域の紫外線を反射する機能を付与することができる。
【0021】
さらに、前記の構成に於いては、前記顔料定着成分が、数平均分子量2000~200000の範囲内のポリビニルピロリドンであることが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明は、前記に説明した手段により、以下に述べるような効果を奏する。
即ち、本発明の固体製剤によれば、コーティング層が設けられているコーティング領域及び当該コーティング層が設けられていない非コーティング領域は、当該コーティング領域及び非コーティング領域に可視光(380nm~760nm)を照射した場合に、非コーティング領域に対するコーティング領域の階調値の差が5未満となるように構成されている。そのため、本発明の固体製剤に於いては、可視光照射下ではコーティング層を目視又はカメラ等の撮像手段で視認(識別)することが困難になっている。また、コーティング領域は、波長域が380nm未満の紫外線を吸収するコーティング層が設けられた領域であり、非コーティング領域は当該波長域の紫外線を吸収する領域である。そして、コーティング領域は、当該コーティング領域及び非コーティング領域に紫外線を照射した場合に、当該非コーティング領域に対する階調値の差が5以上となるように構成されている。そのため、本発明によれば、前記波長域の紫外線照射によりコーティング領域の識別が可能となり、コーティング層の印刷不良の有無を検査することが可能な固体製剤を提供することができる。
【0023】
また、本発明に係る固体製剤の検査方法によれば、前記固体製剤のコーティング領域及び非コーティング領域に、少なくとも前記波長域の紫外線を含む照射光を照射することにより、前記可視光下に於いて目視又はカメラ等の撮像手段では識別(視認)が困難なコーティング層を識別可能な状態にした後、コーティング領域で反射した反射光を受光して、コーティング領域と、非コーティング領域を撮像するものである。これにより、コーティング層が固体製剤上に適切に印刷されているか容易に判別し検査することが可能になり、コーティング層の印刷不良に起因する歩留まりの低下を抑制した固体製剤の提供が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の実施の一形態に係る固体製剤を模式的に表す説明図である。
図2】固体製剤の検査方法に使用する撮像装置の概略を表す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
(固体製剤)
本実施の形態に係る固体製剤について、図1を参照しながら以下に説明する。図1は本実施の形態に係る固体製剤を模式的に表す説明図である。
【0026】
図1に示すように、本実施の形態の固体製剤10は、その表面の少なくとも一部にコーティング層11が設けられている。そして、本実施の形態の固体製剤10は、コーティング層11が設けられているコーティング領域Aとコーティング層11が設けられていない非コーティング領域Bとを少なくとも有している。
【0027】
本明細書に於いて、「固体製剤」とは、食品製剤及び医薬製剤を含む意味であり、固体製剤の形態としては、例えばOD(口腔内崩壊)錠、素錠、FC錠、糖衣錠等の錠剤又はカプセル剤が挙げられる。固体製剤は、医薬品用途であってもよく、食品用途であってもよい。食品用途の錠剤の例としては、錠菓やサプリメント等の健康食品が挙げられる。固体製剤のうち、前記錠剤は常温下に於いて固体状であり、例えば、有効成分を含む錠剤材料を一定の形状に圧縮及び/又は成形により製造されたものが好ましい。錠剤の形状は特に限定されず、任意の形状を採用することができる。
【0028】
<コーティング領域>
コーティング領域Aは、波長域が380nm未満の紫外線に対し、光反射性を示すコーティング層11が設けられた領域である。そのため、コーティング領域Aに対し前記波長域の紫外線を含む光を照射した場合、少なくとも当該波長域の紫外線を反射する。前記波長域は、260nm以上380nm未満の範囲がより好ましく、280nm以上360nm以下の範囲が特に好ましい。また、コーティング層11は波長域が380nm~760nmの範囲内の可視光に対し光透過性を有する。そのため、コーティング領域Aに対して、前記波長域の可視光を照射した場合、コーティング層11の示す前記光透過性により、照射した前記波長域の可視光の少なくとも一部は透過する。
【0029】
尚、本明細書に於いて「光反射性」とは、入射した前記波長域の紫外線の少なくとも一部を反射する性質を意味する。また、本明細書に於いて「光透過性」とは、入射した前記波長域の可視光の少なくとも一部を透過する性質を意味する。また光透過性には、コーティング層11が無色である場合の他、有色である場合も含む意味である。
【0030】
コーティング層11は可食性を有し、インクジェット用水性コーティング液(詳細については後述する。)の乾燥皮膜からなるものが好ましい。当該乾燥皮膜は、前記インクジェット用水性コーティング液を用いて、例えばインクジェット方式等により固体製剤10表面に直接印刷されることにより形成することができる。尚、本明細書に於いて「可食性」とは、薬事法で定める医薬品添加物、日本薬局方又は食品添加物公定書の基準に適合したものを意味し、「インクジェット方式」とは、水性コーティング組成物を微細なインクジェットヘッドより液滴として吐出して、その液滴を固体製剤に定着させ、画像形成させる方式を意味する。
【0031】
また、コーティング層11としては、オーバーコート層(保護層)として機能するものが好ましい。この場合、コーティング層11は印刷画像を形成するインク層(図示しない)を覆う様に設けられる。オーバーコート層としてインク層を被覆することにより、印刷画像の保護を図ることが可能になる。その結果、印刷面が接触物に接触することにより印刷画像が当該接触物に転写し、画質が低下するのを防止することができる。また、コーティング層11が印刷画像を保護することで、例えば熱安定性や光安定性、耐擦過性、耐摩耗性(又は耐摩擦性)を付与することもできる。
【0032】
さらに、コーティング層11をオーバーコート層として用いる場合、当該コーティング層11は、水溶性の顔料定着成分(詳細については後述する。)を含むインクジェット用水性コーティング液の乾燥皮膜からなり、インク層の顔料を固体製剤10に定着させるものであることが好ましい。インクジェット用水性コーティング液に前記顔料定着成分が含まれることにより、固体製剤表面に対する顔料の定着性能の向上をさせることができる。尚、固体製剤は、水に対し可溶性を示すため、前記顔料定着成分を含むインクジェット用水性コーティング液を固体製剤の表面に接触させると、当該顔料定着成分を固体製剤に浸透させることができる。
【0033】
ここで、コーティング層11に含まれる顔料定着成分が、固体製剤10表面に対する顔料の定着性能の向上をさせるのは、以下に述べる理由によるものと考えられる。すなわち、第1は、固体製剤10に浸透した顔料定着成分を乾燥させることにより、固体製剤10の表層部分(顔料定着成分が固体製剤10に浸透した部分)の機械的強度を向上させることができるというものである。これにより、固体製剤10が衝撃等の外力を受けても、顔料が固体製剤10の表層部分ごと削り取られるのを抑制し、他の固体製剤等に顔料が転写するのを低減することができる。例えば、固体製剤10が外力に脆く、その表面が削れやすい場合には、たとえ固体製剤10表面に対する顔料自体の定着が強固であっても、固体製剤10の表層部分そのものの剥離により、顔料の転写が発生し得る。本発明の顔料定着成分は、そのような固体製剤10に対しても、表層部分の機械的強度を向上させることにより顔料の転写を防止することができる。
【0034】
第2は、固体製剤10に浸透した顔料定着成分の乾燥により、当該顔料定着成分が、顔料を固体製剤10表面に強固に定着させる接着剤として機能するというものである。これにより、顔料が固体製剤10表面から剥離するのを防止することができる。
【0035】
第3は、顔料定着成分が固体製剤10上の顔料を被覆した状態で乾燥することにより、その乾燥皮膜がオーバーコート層として機能するというものである。これにより、固体製剤10の表面に定着した顔料に、他の固体製剤等が接触しても、顔料の転写を抑制することができる。
【0036】
従って、前記構成のコーティング層11が顔料定着成分を含むことにより、固体製剤10の表層部分の機械的強度を向上させると共に、固体製剤10表面に顔料を接着させ、さらにオーバーコート層として顔料を被覆し保護することができるので、印刷画像の耐擦過性及び耐剥離性を向上させることが可能になる。
【0037】
また、コーティング層11がオーバーコート層である場合、コーティング層11は前記波長域の可視光に対し無色の光透過性を有していることが好ましい。これにより、コーティング層11を介して印刷画像を観察したときの視認性が低下するのを抑制することができる。但し、本発明は、印刷画像の視認性に悪影響を及ぼさない限り、コーティング層11が、色補正やその他の特別な目的等のために有色の光透過性を有することを妨げるものではない。
【0038】
オーバーコート層としてのコーティング層11の(乾燥塗布後の)厚さは、インクジェット用水性コーティング液の組成や要求される印刷画像の保護性能等を考慮して適宜設定すればよく、特に限定されない。通常、コーティング層11の厚さは0.03μm~5μmの範囲内であり、好ましくは0.05μm~3μm、より好ましくは0.1μm~1μmである。コーティング層11の厚さを0.03μm以上にすることにより、印刷画像に対する耐擦過性及び耐摩耗性を付与することができる。その一方、コーティング層11の厚さを5μm以下にすることにより、インクジェット用水性コーティング液の液滴からなる塗布層の乾燥不良及び印刷画像の視認性の低下を抑制することができる。
【0039】
また、コーティング層11はプライマーコート層(プライマー層)として用いてもよい。この場合、コーティング層11は固体製剤の表面に設けられる。さらに、コーティング層11上には、インク層が設けられる。プライマーコート層を設けることで、固体製剤10とインク層との密着性及び接着性の向上を図ることができる。その結果、固体製剤10に於いてインク層が剥離するのを低減し、当該インク層の画質が低下するのを抑制することができる。プライマーコート層の(乾燥塗布後の)厚さは、コーティング液の組成や要求される接着性能等を考慮して適宜設定すればよく、特に限定されない。通常、プライマーコート層の厚さは0.03μm~5μmの範囲内であり、好ましくは0.05μm~3μm、より好ましくは0.1μm~1μmである。
【0040】
尚、インク層は可食性を有する顔料を含むインクジェット用水性インクの乾燥皮膜からなる。インク層は、例えばインクジェット方式等の従来公知の方法により、インクジェット用水性インクを固体製剤10表面に直接印刷して形成することができる。尚、インク層の(乾燥塗布後の)厚さは特に限定されず、適宜必要に応じて設定することができる。
【0041】
可食性を有する顔料としては、薬事法で定める医薬品添加物、日本薬局方又は食品添加物公定書の基準に適合したカーボンブラックや、黄酸化鉄、黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄、ベンガラ又は黒色酸化鉄等の酸化鉄、食用赤色2号、食用赤色3号、食用赤色40号、食用黄色4号、食用黄色5号、食用青色1号又は食用青色2号等の食用アルミニウムレーキ等が挙げられる。
【0042】
尚、前記インクジェット用水性インクとしては、薬事法で定める医薬品添加物、日本薬局方又は食品添加物公定書の基準に適合し、前記顔料を含んだ水性顔料組成物を含むものであれば特に限定されない。
【0043】
<非コーティング領域>
非コーティング領域Bは、380nm未満の波長域の紫外線を少なくとも含む光が照射された場合に、当該紫外線を吸収する領域であり、本実施の形態に於いてはコーティング層11が設けられていない領域である。
【0044】
非コーティング領域Bが前記波長域の紫外線に対し光吸収性を備えるためには、例えば、固体製剤10自体に紫外線吸収成分が含まれているものを用いるのが好ましい。前記紫外線吸収成分としては、例えば二酸化チタン(TiO)又は酸化亜鉛(ZnO)が挙げられる。これらの紫外線吸収成分は一種単独で、又は併用することができる。固体製剤10自体に紫外線吸収性分が含まれているものの例としては、例えば、紫外線吸収成分として二酸化チタンが含まれる糖衣錠等が挙げられる。また、固体製剤10自体に前記紫外線吸収成分が含まれておらず、あるいは当該固体製剤10自体に紫外線を反射する成分が含まれる場合には、前記紫外線吸収成分を含む紫外線吸収層を固体製剤10表面に設けることにより、非コーティング領域Bを形成することが可能である。あるいは、コーティング層11の紫外線に対する反射波長を、固体製剤10の紫外線に対する反射波長と異ならせることによっても、非コーティング領域Bを形成することが可能である。尚、本明細書に於いて「光吸収性」とは、入射した前記波長域の紫外線の少なくとも一部を吸収する性質を意味する。
【0045】
<コーティング領域及び非コーティング領域の階調値の差>
コーティング領域A及び非コーティング領域Bに対して、前記波長域の可視光を同時に照射した場合の、非コーティング領域Bに対するコーティング領域Aの階調値の差は5未満である。前記階調値の差を5未満にすることにより、可視光照射下に於いてコーティング層11が目視又はカメラ等による撮像手段により識別されるのを困難にし、又は低減することができる。
【0046】
また、コーティング領域A及び非コーティング領域Bに対して、前記波長域の紫外線を同時に照射した場合の、非コーティング領域Bに対するコーティング領域Aの階調値の差は5以上である。前記階調値の差を5以上にすることにより、紫外線照射下に於いてコーティング層11の識別が可能となり、コーティング層11の印刷不良の有無を検査することができる。
【0047】
本明細書に於いて「階調値」とは、撮像された画像の濃淡を表す値であって、画像データをグレースケールに変換して得られた8ビットの階調値(0から255までの256段階の値)を意味する。また、本明細書に於いて「階調値の差」とは、コーティング領域Aの階調値の平均値から非コーティング領域Bの階調値の平均値を差し引いた値を意味する。さらに、階調値の平均値とは、コーティング領域A又は非コーティング領域Bの画像データに於ける複数のピクセルの階調値の平均値を意味する。
【0048】
前記照射光を照射した場合のコーティング領域A及び非コーティング領域Bに於ける階調値の平均値は、例えば当該照射光の光強度を調節することにより制御可能である。具体的には、照射光の光強度を適切に制御することによりコーティング領域Aと非コーティング領域Bの階調値の差を最大化し、より鮮明な撮像を可能にする。例えば照射光の光源の光強度が弱すぎるためにコーティング領域Aと非コーティング領域Bの階調値の平均値が共に小さな値となり、かつ、その差が小さい場合は、光源の光強度を大きくすることにより階調値の差を大きくすることが可能になる。また、光源の光強度が大きすぎて、撮像が露出オーバーとなりコーティング領域Aと非コーティング領域Bの階調値の平均値が共に大きな値となり、かつ、その差が大きい場合は、光源の光強度を小さくすることにより、階調値の差を大きくすることが可能になる。また、非コーティング領域Bに対するコーティング領域Aの階調値の差は、照射光の光強度に加えて、照射光に少なくとも含まれる紫外線の波長との最適な組み合わせにより制御可能である。あるいは、コーティング層11に含まれる光反射性成分の濃度を調節することにより、コーティング領域Aに於ける紫外線反射能を向上又は低下させ、非コーティング領域Bに対するコーティング領域Aの階調値の差を制御してもよい。
【0049】
<インクジェット用水性コーティング液>
次に、コーティング領域Aを形成するコーティング層11の構成材料として、本実施の形態に係るインクジェット用水性コーティング液(以下、「水性コーティング液」という。)を以下に説明する。本実施の形態の水性コーティング液はインクジェット用水性コーティング組成物(以下、「水性コーティング組成物」という。)を含むものである。以下では、当該水性コーティング組成物として、顔料定着成分と、水とを少なくとも含み、
前記インク層をオーバーコートすることにより、当該インク層に含まれる顔料を、固体製剤に定着させる機能を有する水性コーティング組成物を例にして説明する。
【0050】
本実施の形態の水性コーティング組成物は、薬事法で定める医薬品添加物、日本薬局方又は食品添加物公定書の基準に適合した材料を用いることにより、可食性を有しており、これにより医薬品や食品等の錠剤又はカプセル剤等からなる固体製剤への使用に適したものにできる。
【0051】
また、本実施の形態の水性コーティング組成物は、可視光領域(380nm~760nm)での光透過性を有している。これにより、当該水性コーティング組成物を含む水性コーティング液を用いてコーティング層を形成した場合には、当該コーティング層の可視光に対する光透過性を付与することができる。尚、水性コーティング組成物が有する光透過性は無色である場合の他、有色であってもよい。
【0052】
前記顔料定着成分は、固体製剤表面に印刷された印刷画像に於ける顔料の定着に寄与するものであり、水溶性及び可食性を有している。
【0053】
ここで、本明細書に於いて「水溶性」とは、常温常圧下に於いて水100gに対し1g以上溶解する場合をいう。
【0054】
さらに、前記「常温」とは5℃~35℃の温度範囲にあることを意味する。また、前記「常圧」とは、大気の標準状態近傍に於ける圧力(標準大気圧)のことを意味し、大気の標準状態とは、約25℃近傍の温度、絶対圧で101kPa近傍の大気圧条件のことを意味する。さらに、前記「常圧」には標準大気圧に対し僅かに陽圧又は陰圧の場合も含み得る。
【0055】
顔料定着成分としては水溶性及び可食性を有するものであれば特に限定されないが、コーティング層11に対して、波長域が380nm未満の紫外線の少なくとも一部を反射する、光反射性を付与するものであることが好ましい。そのような顔料定着成分としては、例えばポリビニルピロリドン等が挙げられる。ポリビニルピロリドンは水溶性高分子であり、かつ、薬事法で定める医薬品添加物に該当する。また、ポリビニルピロリドンは、顔料等に対する接着性(濡れ性)や被膜形成性をコーティング層11に付与するものである。そして、ポリビニルピロリドンは前記波長域の紫外線に対して光反射性を示す、光反射性成分としても機能する。
【0056】
ポリビニルピロリドンの数平均分子量は2000~200000の範囲内が好ましく、より好ましくは10000~160000、さらに好ましくは20000~50000である。ポリビニルピロリドンの数平均分子量を2000以上にすることにより、常温・常圧下に於いて、単体では固体状に存在することを可能にする。また、常温・常圧下に於いて単独では固体の形態をとる場合でも、印刷後の乾燥皮膜の硬さが、乾燥条件等によって不十分となるのを防止することができる。その一方、ポリビニルピロリドンの数平均分子量を200000以下にすることにより、水性コーティング組成物の粘度が過度に増大し、粘性がニュートニアンな状態から大きく外れ、当該水性コーティング組成物の液滴の飛翔性が低下するのを防止することができる。
【0057】
尚、数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によるポリスチレン換算により求めることができる。例えば、島津製作所製LC-6Aを用いた測定では、分離カラムPolymer Laboratries社製PLゲル5μmMIXEDーC:溶媒、ジメチルフォルムアミド(0.01molLiBr添加):カラム流量1.0ml/min:カラム温度50℃:サンプル濃度0.2%(W/V)の条件下で、RI検出器を用いて測定することができる。
【0058】
顔料定着成分の含有量は、当該顔料定着成分の種類等に応じて適宜設定することができる。例えば、前記ポリビニルピロリドンを顔料定着成分に用いた場合、その含有量の下限値は、水性コーティング組成物の全質量に対し1質量%以上であることが好ましく、より好ましくは2質量%以上、特に好ましくは5質量%以上である。また、ポリビニルピロリドンの含有量の上限値は、水性コーティング組成物の全質量に対し20質量%以下であることが好ましく、より好ましくは15質量%以下、特に好ましくは10質量%以下である。ポリビニルピロリドンの含有量の下限値を1質量%以上にすることにより、顔料の定着性を維持することができ、印刷画像の耐擦過性及び耐剥離性の低下を抑制することができる。その一方、ポリビニルピロリドンの含有量の上限値を20質量%以下にすることにより、水性コーティング組成物の粘度が過度に増大し、粘性がニュートニアンな状態から大きく外れ、当該水性コーティング組成物の液滴の飛翔性が低下するのを防止することができる。
【0059】
本実施の形態の水性コーティング組成物に含まれる水としては、イオン交換水、限外ろ過水、逆浸透水、蒸留水等の純水、又は超純水等のイオン性不純物を除去したものを用いるのが好ましい。特に、紫外線照射等により滅菌処理した水は、長期間にわたってカビやバクテリアの発生を防止することができるので好適である。また、水の含有量としては特に限定されず、適宜必要に応じて設定することができる。
【0060】
本実施の形態の水性コーティング組成物は、非水溶性成分を実質的に含んでおらず、水溶性であることが好ましい。これにより、本実施の形態の水性コーティング組成物は、当該水性コーティング組成物が乾燥前の液体状であるときは、固体製剤に対し浸透可能である。
【0061】
ここで、本明細書に於いて「非水溶性」とは、水に実質的に溶解しないことを意味し、より具体的には、常温常圧下に於ける溶解度が水100gに対し1g未満であることをいう。さらに、「非水溶性成分」とはそのような非水溶性を有する成分を意味し、具体的には高分子エマルジョン等が挙げられる。さらに、高分子エマルジョンとしては、メタクリル酸、メタクリル酸メチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸ジメチルアミノメチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸塩化トリメチルアンモニウムエチル等のポリマーやそれらの共重合体等が例示できる。また、市販品の高分子エマルジョンとしては、オイドラギット E100(アミノアルキルメタクリレートコポリマーE)、オイドラギット EPO(アミノアルキルメタクリレートコポリマーE)、オイドラギット L100(メタクリル酸コポリマーL)、オイドラギット L30D-55(メタクリル酸コポリマーLD)、オイドラギット L100-55(乾燥メタクリル酸コポリマーLD)、オイドラギット S100(メタクリル酸コポリマーS)、オイドラギット RL100(アンモニオアルキルメタクリレートコポリマー)、オイドラギット RLPO(アンモニオアルキルメタクリレートコポリマー)、オイドラギット RL30D(アンモニオアルキルメタクリレートコポリマー分散液)、オイドラギット RS100(アンモニオアルキルメタクリレートコポリマー)、オイドラギット RSPO(アンモニオアルキルメタクリレートコポリマー)、オイドラギット RS30D(アンモニオアルキルメタクリレートコポリマー分散液)、オイドラギット NE30D(アクリル酸エチル・メタクリル酸メチルコポリマー分散液)、オイドラギット FS30D(アクリル酸メチル・メタクリル酸メチル・メタクリル酸コポリマー)等が例示できる。これらの市販品は何れもエボニック社製であり、またオイドラギットは登録商標である。さらに、前記「常温」とは5℃~35℃の温度範囲にあることを意味する。
【0062】
また、本実施の形態の水性コーティング組成物には、必要に応じて表面張力調整剤を含有してもよい。当該表面張力調整剤は、薬事法で定める医薬品添加物、日本薬局方又は食品添加物公定書の基準に適合したものであれば特に限定されず、例えば、カプリル酸デカグリセリル、ラウリン酸ヘキサグリセリンエステル、オレイン酸ヘキサグリセリンエステル、縮合リノレン酸テトラグリセリンエステル、脂肪酸エステルヤシパーム、HLBが15以下のラウリン酸デカグリセリル、HLBが13未満のオレイン酸デカグリセリル等が挙げられる。これらは一種単独で、又は二種以上を混合して用いてもよい。
【0063】
前記カプリル酸デカグリセリルとしては、市販品を用いることが可能であり、そのような市販品としては、例えば、リョートー(登録商標)ポリグリエステル CE19D(商品名、三菱化学フーズ(株)製、HLB値15)、SYグリスターMCA750(商品名、阪本薬品工業(株)製、HLB値16)等が挙げられる。
尚、前記HLBの値は、グリフィン法によるHLB値であり、下記式によって得られる値を意味する。
HLB値=20×(親水基の式量の和/分子量)
HLB値は0~20の範囲内の値となり、HLB値が大きいほど親水性が強くなり、HLB値が小さいほど疎水性が強くなる。
【0064】
前記ラウリン酸デカグリセリルとしては、HLBが15以下のものを用いることができる。HLBが15を超えるラウリン酸デカグリセリルであると、インクジェットヘッドのノズルの目詰まりに起因してかすれ等が発生するなど、吐出安定性が低下する。HLBの下限は、水溶媒に対する溶解度の観点からは、10以上であることが好ましい。また、HLBが15以下のラウリン酸デカグリセリルとしては、市販品を用いることが可能であり、そのような市販品としては、例えば、NIKKOL(登録商標) DECAGLYN 1-L(商品名、日光ケミカルズ(株)製、HLB値14.5)、SYグリスターML-750(商品名、阪本薬品工業(株)製、HLB値14.8)等が挙げられる。
【0065】
前記オレイン酸デカグリセリルとしては、HLBが13未満のものを用いることができる。HLBが13以上であると、インクジェットヘッドのノズルの目詰まりに起因してかすれ等が発生するなど、吐出安定性が低下する。尚、HLBの下限は、水溶媒に対する溶解度の観点からは、10以上であることが好ましい。また、HLBが13未満のオレイン酸デカグリセリルとしては、市販品を用いることが可能であり、そのような市販品としては、例えば、NIKKOL(登録商標) DECAGLYN 1-OV(商品名、日光ケミカルズ(株)製、HLB値12)、SYグリスターMO-7S(商品名、阪本薬品工業(株)製、HLB値12.9)等が挙げられる。
【0066】
前記ラウリン酸ヘキサグリセリンエステルとしては、市販品を用いることが可能であり、そのような市販品としては、例えば、NIKKOL(登録商標) HEXAGLYN 1-L(商品名、日光ケミカルズ(株)製、HLB値14.5)、SYグリスターML-500(商品名、阪本薬品工業(株)製、HLB値13.5)等が挙げられる。
【0067】
前記オレイン酸ヘキサグリセリンエステルとしては、市販品を用いることが可能であり、そのような市販品としては、例えば、SYグリスターMO-5S(商品名、阪本薬品工業(株)製、HLB値11.6)等が挙げられる。
【0068】
前記縮合リノレン酸テトラグリセリンエステルとしては、市販品を用いることが可能であり、そのような市販品としては、例えば、SYグリスターCR-310(商品名、阪本薬品工業(株)製)等が挙げられる。
【0069】
脂肪酸エステルヤシパームとしては、市販品を用いることが可能であり、そのような市販品としては、例えば、チラバゾールW-01(商品名、太陽化学(株)製)等が挙げられる。
【0070】
表面張力調整剤の含有量は、水性コーティング組成物の全質量に対し、0.5質量%~5質量%の範囲内であることが好ましく、1質量%~3質量%の範囲内であることがより好ましい。表面張力調整剤の含有量が0.5質量%以上であると、インクジェット方式で印刷を行った場合に、インクジェットヘッドに於けるノズルでのメニスカス面形成不良等による吐出不良を防止し、当該ノズルの目詰まりが発生するのを防止することができる。その結果、吐出安定性の向上が図れる。その一方、表面張力調整剤の含有量が5質量%以下であると、表面張力調整剤の不溶分や乳化不良による吐出への悪影響を防止することができる。
【0071】
また、本実施の形態の水性コーティング組成物には、他の添加剤が配合されていてもよい。但し、他の添加剤は、本発明の課題解決を阻害しない範囲内であり、かつ、薬事法で定める医薬品添加物、日本薬局方又は食品添加物公定書の基準に適合するものであることを要する。そのような他の添加剤としては、例えば、界面活性剤、粘度調整剤、防腐剤、滑剤、発泡剤、粘度調整剤、消泡剤等が挙げられる。これらの他の添加剤の含有量は特に限定されず、適宜必要に応じて設定することができる。
【0072】
水性コーティング組成物の粘度は、インクジェットノズルからの吐出安定性を考慮すると、インクジェットノズル吐出時に於いて、2mPa・s~7mPa・sが好ましく、3mPa・s~5mPa・sがより好ましい。水性コーティング組成物の粘度を前記数値範囲内にすることにより、インクジェットノズルでの目詰まりの発生を抑制して良好な吐出安定性の維持が図れ、飛翔性の低下を抑制することができる。尚、水性コーティング組成物の粘度は、例えば、粘度計(商品名:VISCOMATE MODEL VM-10A、(株)セコニック製)を用いて、測定温度25℃の条件下で測定することにより得られる。
【0073】
本実施の形態の水性コーティング組成物は、前述の各成分を適宜な方法で混合することにより製造することができる。各成分の混合方法及び添加順序は特に限定されない。混合後は、十分に撹拌し、必要に応じて目詰まりの原因となる粗大粒子及び異物を除去するための濾過を行う。これにより、本実施の形態に係る水性コーティング組成物を得ることができる。
【0074】
尚、各材料の混合方法としては特に限定されず、例えば、メカニカルスターラー、マグネチックスターラー等の撹拌装置を備えた容器に順次材料を添加して撹拌混合を行う。また、濾過方法としては特に限定されず、例えば、公知の自然濾過、加圧濾過、減圧濾過、遠心濾過等を採用することができる。
【0075】
また、本実施の形態の水性コーティング組成物は、薬事法等で定められている医薬品添加物、日本薬局方又は食品添加物公定書の基準に適合した可食性の顔料定着成分を用いているので、医薬品又はサプリメント等の錠剤やカプセル剤からなる固体性剤の印刷画像上に直接塗布することが可能である。
【0076】
尚、以上の実施の形態に於いては、顔料定着成分が光反射性成分として機能する場合を例にして説明した。しかし、本発明はこの実施態様に限定されるものではない。例えば、水性コーティング組成物中に、顔料定着成分とは異なる第3成分としての光反射性成分が含まれていてもよい。
【0077】
<コーティング層の印刷方法>
前記固体製剤10の表面にコーティング層11を形成する方法としては特に限定されず、例えば、前記水性コーティング組成物を含む水性コーティング液を用いてインクジェット方式で印刷する方法が挙げられる。
【0078】
前記固体製剤の表面に対するインクジェット印刷方法については、特に限定されない。具体的には、例えば、微細なノズルより前記水性コーティング液を液滴として吐出し、その液滴を錠剤表面に付着させる。吐出方法として特に限定されず、例えば、連続噴射型(荷電制御型、スプレー型等)、オンデマンド型(ピエゾ方式、サーマル方式、静電吸引方式等)等の公知の方法を採用することができる。
【0079】
尚、水性コーティング液の吐出量は、固体製剤への顔料定着液の浸透の程度やオーバーコート層の層厚、印刷速度、乾燥時間等を考慮して適宜設定することができる。通常は、1pl~30plの範囲であり、好ましくは2pl~20pl、より好ましくは3pl~10plである。
【0080】
次に、前記固体製剤の表面に付着した前記水性コーティング液の液滴からなる塗布層を乾燥させることにより、コーティング層11を形成する。乾燥方法としては特に限定されず、自然乾燥、熱風乾燥、赤外線乾燥等を行うことができる。また、乾燥時間や乾燥温度等の乾燥条件についても特に限定されず、前記水性コーティング液の吐出量や前記水性コーティング組成物の種類等に応じて適宜設定することができる。尚、本実施の形態の水性コーティング組成物は非水溶性成分を実質的に含まないので、当該水性コーティング組成物からなる水性コーティング液が仮にインクジェットヘッドの端面等で乾燥して固着したとしても、水性の洗浄液等で容易に除去することができる。
【0081】
また、コーティング層11が前記インク層を被覆するオーバーコート層である場合、コーティング層11の形成は、当該インク層の印刷後に前記水性コーティング液を用いて、前記と同様の方法で印刷することにより行われる。
【0082】
(固体製剤の検査方法)
次に、本実施の形態に係る固体製剤の検査方法について、図1に基づき以下に説明する。
本実施の形態の固体製剤10の検査方法は、照射工程と、撮像工程と、検査工程とを少なくとも含む。
【0083】
前記照射工程は、コーティング領域A及び非コーティング領域Bに対して、波長域が380nm未満の紫外線を少なくとも含む照射光を照射する工程である。前記波長域の紫外線を含む照射光の照射により、コーティング領域Aでは、コーティング層11が有する光反射性により、前記照射光に含まれる前記波長域の紫外線の少なくとも一部が反射する。非コーティング領域Bでは、前記固体製剤10が有する光吸収性により、前記照射光に含まれる前記波長域の紫外線の少なくとも一部が吸収される。これにより、コーティング領域Aでは非コーティング領域Bに対する階調値の差が5以上となり、コーティング層11を識別可能な状態にする。
【0084】
ここで、前記照射光としては、前記波長域の紫外線のみを照射することが好ましい。コーティング層11は波長域が380nm未満の範囲の紫外線を反射するものであり、非コーティング領域Bは当該紫外線を吸収するものであるため、照射工程で使用する照射光を当該波長域の紫外線のみとすることで、可視光や赤外線等の他の波長域の光も合わせて、撮像工程で撮像されるのを防止することができる。すなわち、前記波長域の紫外線のみを照射することにより、非コーティング領域Bに対するコーティング領域Aの階調値の差をさらに大きくすることができ、一層良好なコントラストでの撮像を可能にする。
【0085】
尚、前記照射光に含まれる紫外線の波長域は、380nm未満の範囲であればよく、当該紫外線の波長域は、コーティング層11に含まれる紫外線吸収成分の種類に応じて適宜設定することができる。また、前記照射光の照度は特に限定されないが、通常は1000μW/m~50000μW/mの範囲内であり、好ましくは5000μW/m~30000μW/m、より好ましくは10000μW/m~20000μW/mである。照射光の照度を1000μW/m以上にすることにより、撮像工程における受光量の絶対量が不足し、明度差がなく、黒一色の黒つぶれの状態で撮像されるのを防止することができる。その一方、照射光の照度を50000μW/m以下にすることにより、明度差がなく、白一色の白とびの状態で撮像されるのを防止することができる。さらに、照射光の固体製剤10に対する照射角度は特に限定されず、適宜設定することができる。尚、前記「照射角度」とは、固体製剤10に対して照射される照射光の照射方向と、当該固体製剤10が載置された水平面とのなす角度を意味する。
【0086】
前記撮像工程は、前記照射光がコーティング領域A及び非コーティング領域Bで反射した反射光を受光し、コーティング領域A及び非コーティング領域Bを撮像する工程である。コーティング領域Aでは、非コーティング領域Bと比較して、前記波長域の紫外線を多く反射するため、前記撮像では、コーティング領域Aと非コーティング領域Bの間に階調値の差が生じる。非コーティング領域Bに対するコーティング領域Aの階調値の差により、コーティング層11の印刷不良の有無を検査することができる。
【0087】
尚、受光条件は、照射光の波長域に対し最大感度を示す様に設定することが好ましい。具体的には、受光可能な光の波長域を、照射光の波長域と少なくとも一部一致させる様に受光条件を設定することが好ましく、より好ましくは受光可能な光の波長域を380nm未満に設定することである。これにより、受光量の増大が図られ、コーティング領域Aと非コーティング領域Bを良好なコントラストで撮像することが可能になる。尚、反射光等の波長域に対し受光感度が低い、あるいはない場合には、コーティング領域Aと非コーティング領域Bを撮像することが困難になる場合がある。
【0088】
また、反射光等を受光する際の受光角度は特に限定されず、反射光等の受光量が最大となる様に適宜設定すればよい。尚、前記「受光角度」とは、コーティング領域Aに於ける反射光等の光量が最大となる光線と、水平面に対する法線とのなす角度を意味する。
【0089】
前記検査工程は、撮像工程に於いて撮像したコーティング層11の印刷不良の有無を確認する工程である。検査方法としては特に限定されず、従来公知の方法を採用することができる。例えば、前記波長域の紫外線を、印刷不良がない固体製剤のコーティング層に対して照射して反射させ、当該コーティング層を予め撮像して基準コーティング層とする。そして、検査対象である固体製剤のコーティング層(以下、「被検査コーティング層」という。)に対しても、基準コーティング層と同じ照射条件で紫外線を照射して、基準コーティング層と同じ撮像条件で撮像する。その後、基準コーティング層の撮像データと被検査コーティング層の撮像データを対比して、被検査コーティング層に印刷不良が存在するか否かを判別する。
【0090】
尚、以上の説明に於いては、コーティング層11の印刷(乾燥工程を含む)後に照射工程、撮像工程及び検査工程を行う場合を例にして説明した。しかし、本発明はこの態様に限定されるものではなく、照射工程から検査工程までの一連の工程を、水性コーティング液を塗布して塗布層(乾燥前のコーティング層)を形成した後であって、当該塗布層の乾燥工程前に行ってもよい。この場合、前記乾燥前のコーティング層には水分等が含まれた状態であるため、前記波長域の紫外線の反射率をさらに向上させることができる。そのため、乾燥前に検査工程を行う場合に於いては、乾燥後に検査工程を行う場合と比較して、非コーティング領域Bに対するコーティング領域Aの階調値の差を大きくすることができる。その結果、固体製剤10に於けるコーティング層11の識別を一層容易にし、当該コーティング層11の印刷不良の有無の検査精度をさらに向上させることができる。
【0091】
<撮像装置>
次に、固体製剤10のコーティング領域A及び非コーティング領域Bの撮像に使用する撮像装置について、図2に基づき以下に説明する。図2は、前記固体製剤10の検査方法に於ける撮像工程で使用する撮像装置の概略を表す模式図である。
【0092】
図2に示すように、本実施の形態の撮像装置は、固体製剤10に照射光を照射するための光照射手段21と、当該固体製剤10を撮像するための撮像手段22とを少なくとも備える。
【0093】
光照射手段21としては、波長域が380nm未満の紫外線を照射可能なものであれば特に限定されず、例えば、白熱電球、放電ランプ、発光ダイオードランプ等の公知のもの又は太陽光を使用することができる。
【0094】
また、光照射手段21が可視光等を含む光を照射するものであって、固体製剤10に対し前記波長域の紫外線のみを照射したい場合には、当該波長域以外の波長域の光(例えば、可視光や赤外光等)を遮断し、又は減衰させる第1光学フィルター23を介して照射してもよい。あるいは、光照射手段21として、そのような第1光学フィルター23を内蔵したものを用いてもよい。
【0095】
撮像手段22は照射光の照射により固体製剤10で反射した反射光を受光し、コーティング領域Aと非コーティング領域Bの画像を撮像するものである。撮像手段22としては、より具体的には、従来公知の紫外線カメラ等が挙げられる。
【0096】
また、撮像手段22で受光する光の波長を制御したい場合には、波長フィルター等の第2光学フィルター24を介して、撮像手段22で受光を行ってもよい。これにより、例えば、受光する光の波長域を、照射光の波長域と一致させることができる。第2光学フィルター24としては特に限定されず、例えば、可視光や赤外光等を遮断し、又は減衰させることが可能な従来公知の波長フィルター等が挙げられる。また、撮像手段22として、そのような第2光学フィルター24を内蔵したものを用いてもよい。
【実施例
【0097】
以下に、この発明の好適な実施例を例示的に詳しく説明する。但し、下記の実施例に記載されている材料や含有量等は、特に限定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定するものではない。また、固体製剤、顔料及び顔料定着成分は何れも薬事法で定める医薬品添加物、日本薬局方又は食品添加物公定書の基準に適合するものである。
【0098】
(インクジェット用水性顔料インク組成物の調製及びインク層の印刷)
下記表1に示す通り、顔料としてカーボンブラック25質量%、顔料分散剤としてポリオキシエチレンアルキルエーテル(日光ケミカルズ(株)製)7.5質量%及びイオン交換水67.5質量%を用意し、常温で16時間(分散時間)分散させた。これにより、カーボンブラック顔料濃度が25質量%の顔料分散溶液を得た。
【0099】
【表1】
【0100】
さらに、下記表2に示す通り、顔料分散溶液、表面張力調整剤、湿潤剤及びイオン交換水を混合し、顔料濃度が3質量%、表面張力調整剤濃度が2質量%、湿潤剤濃度が40質量%になるように水性顔料インク組成物を作成した。表面張力調整剤としてはポリグリセリン脂肪酸エステル(商品名:SYグリスター、阪本薬品工業(株)製)を、湿潤剤としてはプロピレングリコールを用いた。
【0101】
【表2】
【0102】
尚、表1中の数値は、顔料分散溶液の全質量に対する質量%の値であり、表2中の数値は、特に表記がない限り、水性顔料インク組成物の全質量に対する質量%の値である。また、各材料は何れも薬事法で定める医薬品添加物、日本薬局方又は食品添加物公定書の基準に適合するものである。
【0103】
前記水性顔料インク組成物からなるインクジェット用水性インクを用いてインクジェット記録法により、二酸化チタンを含む糖衣錠(糖衣層がショ糖)に対し、一方の面にのみ印刷を行った。印刷は、インクジェットプリンタ(KC 600dpiヘッド搭載印字冶具)を用いて、シングルパス(ワンパス)方式にて行った。印刷条件は、液滴1滴当たりの質量を5ng、液滴量を5plとした。また、印刷後は、印刷画像面を24時間の自然乾燥により乾燥させた。これにより、糖衣錠の表面にインク層を形成した。
【0104】
(インクジェット用水性コーティング組成物の調製)
下記表3に示す通り、水性コーティング組成物のコーティング成分及び光反射性を示す顔料定着成分として数平均分子量約40000のポリビニルピロリドン(BASFジャパン(株)製)5質量%、表面張力調整剤としてカプリル酸デカグリセリル(阪本薬品工業(株)製)2質量%及びイオン交換水93質量%を容器に入れ、撹拌混合することにより、水性コーティング組成物を作成した。
【0105】
【表3】
【0106】
(数平均分子量の測定)
ポリビニルピロリドンの数平均分子量は、ポリスチレンを標準品として、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより下記の条件で求めた値である。
測定装置:LC-6A(株式会社島津製作所製)
分離カラム:PLゲル5μmMIXEDーC(Polymer Laboratries社製)
溶離液:ジメチルフォルムアミド(0.01molLiBr添加)
カラム流量:1.0ml/min
検出器:RI検出器
カラム温度:50℃
サンプル濃度:0.2%(W/V)
分子量標準:標準ポリスチレン
【0107】
(オーバーコート層の印刷)
インク層が印刷された糖衣錠の表面に、コーティング層としてのオーバーコート層を印刷した。オーバーコート層の印刷は、表3に示す組成の水性コーティング組成物からなる水性コーティング液を用いて、インクジェット記録方法により行った。また、オーバーコート層の印刷は当該オーバーコート層がインク層を被覆する様に行い、糖衣錠表面にオーバーコート層が設けられたコーティング領域と、当該オーバーコート層が設けられていない非コーティング領域とを形成した。
【0108】
また、オーバーコート層の印刷はインクジェットプリンタ(KC 600dpiヘッド搭載印字治具)を用いてシングルパス(ワンパス)方式にて行った。印刷条件は、液滴1滴当たりの質量を5ng、液適量を5plとした。また、オーバーコート層の印刷後、当該オーバーコート層を24時間の自然乾燥により乾燥させた。オーバーコート層は380nm~760nmの可視光に対し光透過性を有しており、インク層に対し良好な視認性を確保していた。また、前記可視光下では、オーバーコート層を目視及びカメラによって識別することはできなかった。
【0109】
(実施例1~6)
先ず、インク層及びオーバーコート層を印刷した糖衣錠に対し、可視光(室内灯)下に於ける、オーバーコート層を印刷していない領域(非コーティング領域B)に対する、オーバーコート層を印刷した領域(コーティング領域A)の階調値の差を求めた。糖衣錠に於けるオーバーコート層が印刷された面の撮像には、スマートフォン内蔵カメラ(商品名:iPhone6(登録商標)、Apple Inc.製)を用いた。
【0110】
前記階調値の差は、次の様にして求めた。すなわち、前記デジタルカメラで撮像し取得した画像データを市販のソフトウェアを用いて8ビットグレースケールに画像変換し、複数のピクセルに於ける0から255までの256段階の階調値を求めた。さらに得られた階調値の平均値を算出し、コーティング領域Aの階調値の平均値から非コーティング領域Bの階調値の平均値を差し引いて前記階調値の差を算出した。
【0111】
次に、オーバーコート層を印刷した糖衣錠に対し、実施例毎に波長を変えながら紫外線を照射し(照射工程)、当該オーバーコート層から反射される反射光を撮像した(撮像工程)。照射手段としては、下記表4に示す朝日分光(株)製のキセノン光源(商品名;MAX-303)を用いた。照射する紫外線の波長の変更は、前記キセノン光源に付属のミラーモジュールと、各種のUVバンドパスフィルター(第1光学フィルター)を併用することにより行った。紫外線の波長は、下記表3に示す通り、260nm、280nm、300nm、320nm、340nm、360nmとした。また、また、キセノン光源の光強度は約5000μW/cmとした。
【0112】
【表4】
【0113】
また、撮像工程で用いる撮像手段としては、下記表5に示す紫外線カメラを用いた。また、照射工程及び撮像工程は、キセノン光源以外の外光が侵入しない暗室にて行った。
【0114】
【表5】
【0115】
続いて、各波長の紫外線照射下に於ける、オーバーコート層が印刷されていない領域(非コーティング領域B)に対する、当該オーバーコート層が印刷された領域(コーティング領域A)の階調値の差を算出した。当該階調値の差は、可視光照射下での場合と同様にして求めた。結果を下記表6に示す。
【0116】
(比較例1)
本比較例1に於いては、UVバンドパスフィルター(LX0380、朝日分光(株)製)(第1フィルター)を用いて、波長が380nmの紫外線を照射光とした。それ以外は実施例1~6と同様にして、照射工程及び撮像工程を行い、その撮像の前記非コーティング領域Bに対する前記コーティング領域Aの階調値の差を算出した。
【0117】
(オーバーコート層の識別性)
実施例1~6及び比較例1に於いては、紫外線照射下に於けるオーバーコート層の識別性の評価を行った。また、紫外線照射前の糖衣錠に対しても、可視光下での識別性の評価を行った、評価基準は下記の通りとした。結果を下記表6に示す。
○:非コーティング領域Bに対するコーティング領域Aの階調値の差が5以上であり、コーティング層の識別が可能
×:非コーティング領域Bに対するコーティング領域Aの階調値の差が5未満であり、コーティング層の識別が困難
【0118】
【表6】
【0119】
(結果)
前記表6に示す通り、オーバーコート層を印刷した糖衣錠の可視光照射下に於ける、非コーティング領域Bに対するコーティング領域Aの階調値の差は3であり、当該オーバーコート層を目視により確認することはできなかった。
【0120】
次に、前記表6に示す通り、実施例1~6の糖衣錠に対して、260nm~360nmの範囲でそれぞれ所定の波長の紫外線を照射すると、オーバーコート層が印刷されたコーティング領域Aに於いては照射した紫外線が反射されたことにより、紫外線カメラに於いて白く撮像された。その一方、非コーティング領域Bに於いては当該紫外線が吸収されたことにより、紫外線カメラに於いて黒く撮像された。さらに各実施例1~6に於いては、非コーティング領域Bに対するコーティング領域Aの階調値の差を8以上にすることができ、オーバーコート層が十分に識別可能な程度にコントラストを生じさせることができた。
【0121】
一方、比較例1のように波長が380nmの紫外線を照射した場合には、非コーティング領域Bに対するコーティング領域Aの階調値の差が3であり、オーバーコート層の識別が困難であった。これらの結果から、波長域が380nm未満の紫外線を照射した場合には、固体製剤表面に設けられたオーバーコート層を識別可能であるため、当該オーバーコート層の印刷不良の有無を検査可能であることが確認された。
【符号の説明】
【0122】
10 固体製剤
11 コーティング層
21 光照射手段
22 撮像手段
23 第1光学フィルター
24 第2光学フィルター
A コーティング領域
B 非コーティング領域
図1
図2