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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-18
(45)【発行日】2023-04-26
(54)【発明の名称】排ガス浄化触媒装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 37/02 20060101AFI20230419BHJP
   B05D 7/00 20060101ALI20230419BHJP
   B05D 1/40 20060101ALI20230419BHJP
   B05C 3/09 20060101ALI20230419BHJP
   B05C 3/18 20060101ALI20230419BHJP
   B05C 3/20 20060101ALI20230419BHJP
   B05C 7/04 20060101ALI20230419BHJP
【FI】
B01J37/02 301D
B05D7/00 K
B05D1/40 Z
B05C3/09 ZAB
B05C3/18
B05C3/20
B05C7/04
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021189145
(22)【出願日】2021-11-22
【審査請求日】2023-03-16
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000104607
【氏名又は名称】株式会社キャタラー
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100208225
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 修二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100217179
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 智史
(74)【代理人】
【識別番号】100122404
【弁理士】
【氏名又は名称】勝又 秀夫
(72)【発明者】
【氏名】岡田 裕己
(72)【発明者】
【氏名】大賀 剛治
(72)【発明者】
【氏名】溝口 和宏
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 仁美
(72)【発明者】
【氏名】河原崎 祐司
【審査官】安齋 美佐子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/114132(WO,A1)
【文献】特開2018-15704(JP,A)
【文献】特開昭51-79692(JP,A)
【文献】特表2018-511468(JP,A)
【文献】特表2011-529788(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00-38/74
B05C 1/00-21/00
B05D 1/00-7/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)塗工液載置ステーションにおいて、セル壁によって区画された複数のセル流路を有するハニカム基材を、前記セル流路の流路方向が鉛直となるように保持し、前記基材の上端面上に触媒コート層形成用塗工液を載置すること、
(B)前記塗工液載置後の基材を、前記塗工液載置ステーションから吸引ステーションまで移送すること、
(C)前記吸引ステーションにおいて、前記塗工液載置後の基材を下端面から吸引して、前記塗工液を前記基材のセル壁上及びセル壁中の1つ以上にコートすること、並びに
(D)前記塗工液コート後の基材を、前記吸引ステーションから取り出して、次工程まで移送すること
を含み、
前記工程(C)において、前記塗工液載置後の基材を下端面から吸引するための時間が、前記工程(A)において、前記基材の上端面上に触媒コート層形成用塗工液を載置するための時間よりも長い、排ガス浄化触媒装置の製造方法であって、
前記吸引ステーションが、2個以上の吸引装置を含み、
前記工程(B)が、
(B1)前記塗工液載置後の基材を、前記塗工液載置ステーションから分岐ステーションまで移送すること、及び
(B2)前記塗工液載置後の基材を、前記分岐ステーションから前記吸引ステーションまで移送すること
を含み、
前記工程(B2)において、前記塗工液載置後の基材を、前記吸引ステーションの前記2個以上の吸引装置のうちの空いている吸引装置のいずれかに移送する、
排ガス浄化触媒装置の製造方法。
【請求項2】
前記工程(A)の終了時から前記工程(C)の開始時までの時間が所定の範囲内となるように、前記工程(A)~(D)を行う、請求項1に記載の排ガス浄化触媒装置の製造方法。
【請求項3】
前記工程(A)において、前記基材の上端面上への前記触媒コート層形成用塗工液の載置を、所定時間の待機の後に行う、請求項2に記載の排ガス浄化触媒装置の製造方法。
【請求項4】
前記工程(D)が、
(D1)前記塗工液コート後の基材を、前記吸引ステーションから取り出して、前記分岐ステーションまで移送すること、及び
(D2)前記塗工液コート後の基材を、前記分岐ステーションから次工程まで移送すること
を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の排ガス浄化触媒装置の製造方法。
【請求項5】
前記吸引ステーションに含まれる前記吸引装置の数が、3個以上6個以下である、請求項1~4のいずれか一項に記載の排ガス浄化触媒装置の製造方法。
【請求項6】
セル壁によって区画された複数のセル流路を有するハニカム基材を、前記セル流路の流路方向が鉛直となるように保持し、前記基材の上端面上に触媒コート層形成用塗工液を載置するための塗工液載置ステーション、
前記塗工液載置後の基材を、下端面から吸引して、前記塗工液を前記基材のセル壁上及びセル壁中の1つ以上にコートするための吸引装置を2個以上含む、吸引ステーション、並びに
前記塗工液載置後の基材を、前記吸引ステーションに含まれる前記2個以上の吸引装置のいずれかに送り出すための分岐ステーション
を含む、
排ガス浄化触媒装置の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排ガス浄化触媒装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車エンジン等の内燃機関から排出される排ガスは、排気系に設置される排ガス浄化触媒装置によって浄化された後、大気に放出されている。この排ガス浄化触媒装置は、例えば、隔壁によって区画された複数のセル流路を有するハニカム基材と、該ハニカム基材の隔壁上及び/又は隔壁中に形成された触媒コート層とを含む構造を有する。
【0003】
このような排ガス浄化触媒装置は、例えば、ハニカム基材上に、触媒コート層の原料成分を含有する塗工液をコートした後、焼成することにより、製造されている。
【0004】
ここで、ハニカム基材上への塗工液のコートを、ハニカム基材の片方の端面に塗工液を載置し、反対側の端面から吸引する方法によって行うことが知られている。例えば、特許文献1には、ハニカム基材の第1端面に塗工液を貯留可能とする枠型形状の貯留治具を装着して、第1端面上に塗工液を貯留したうえで、第1端面と反対側の第2端面側の圧力を、第1端面側の圧力に対して相対的に低くして、第1端面から第2端面への塗工液の流れを生じさせることにより、ハニカム基材上へ塗工液をコートすることが記載されている。
【0005】
ところで、排ガス浄化触媒装置の工業的な製造は、自動加工システムによって行われることが通常である。自動加工システムでは、上流側から下流側に向けて複数の加工ステーションを設けて、順次に加工が行われる。
【0006】
このような自動加工システムでは、各加工ステーションにおける加工時間はかならずしも一致しない。この場合、上流側から下流側に向けて設けられた一連の加工ステーションのうちの、最も長い加工時間を要する加工ステーションにおける加工が、工程全体の律速段階となる。
【0007】
このような場合、律速となる加工装置を複数設け、これらを自動加工システムの上流側から下流側に向けて並べて配置して、律速工程を分担して行わせることが考えられる。
【0008】
例えば、特許文献2には、搬送ラインに沿ってワーク(被加工体)を搬送する搬送手段と、この搬送ラインの近傍に設けられた加工手段とで構成した搬送装置において、搬送ライン上の先行のワークを把持して上昇させる追い越し補助手段を設け、後行のワークが先行のワークを追い越して先に搬送されるようにすることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2018-015704号公報
【文献】特開2003-237940号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ハニカム基材上への塗工液のコートが、ハニカム基材の片端面への塗工液の載置、及び反対側端面からの吸引によって行われる場合、吸引工程が律速となる場合が多い。
【0011】
具体的には、ハニカム基材の端面への塗工液の載置、及び吸引を伴うコート方法では、ハニカム基材の片端面への塗工液の載置工程よりも、反対側端面からの吸引工程の方が長時間を要する場合が多く、したがって、吸引工程が塗工液コートの律速になる場合が多い。
【0012】
吸引工程が律速になるハニカム基材上への塗工液のコートに対して、特許文献2に記載の方法を適用すると、塗工液の載置から吸引開始までの時間がハニカム基材ごとに区々になり、得られるコート層の品質がハニカム基材ごとにばらつくことが懸念される。
【0013】
特許文献2に記載の方法に代えて、所定の加工時間を要するある加工について、1つのワークを複数の加工装置に順次に受け渡して、それぞれの加工装置において少ない時間の加工を分割して行い、複数の加工装置の全体で所定の加工時間を確保することが考えられる。
【0014】
しかし、ハニカム基材上への塗工液のコートにおいて、端面への塗工液の載置後の吸引を分割して行うと、コート層にムラができ、排ガス浄化能が損なわれることが懸念される。
【0015】
本発明は、上記に事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、ハニカム基材上への塗工液のコートが、ハニカム基材の片端面への塗工液の載置、及び反対側端面からの吸引によって行われる場合に、所定の吸引時間を確保しつつ、工程全体の速度を速くすることのできる、効率の高い排ガス浄化触媒装置の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、以下のとおりである。
【0017】
《態様1》(A)塗工液載置ステーションにおいて、セル壁によって区画された複数のセル流路を有するハニカム基材を、前記セル流路の流路方向が鉛直となるように保持し、前記基材の上端面上に触媒コート層形成用塗工液を載置すること、
(B)前記塗工液載置後の基材を、前記塗工液載置ステーションから吸引ステーションまで移送すること、
(C)前記吸引ステーションにおいて、前記塗工液載置後の基材を下端面から吸引して、前記塗工液を前記基材のセル壁上及びセル壁中の1つ以上にコートすること、並びに
(D)前記塗工液コート後の基材を、前記吸引ステーションから取り出して、次工程まで移送すること
を含み、
前記工程(C)において、前記塗工液載置後の基材を下端面から吸引するための時間が、前記工程(A)において、前記基材の上端面上に触媒コート層形成用塗工液を載置するための時間よりも長い、排ガス浄化触媒装置の製造方法であって、
前記吸引ステーションが、2個以上の吸引装置を含み、
前記工程(B)が、
(B1)前記塗工液載置後の基材を、前記塗工液載置ステーションから分岐ステーションまで移送すること、及び
(B2)前記塗工液載置後の基材を、前記分岐ステーションから前記吸引ステーションまで移送すること
を含み、
前記工程(B2)において、前記塗工液載置後の基材を、前記吸引ステーションの前記2個以上の吸引装置のうちの空いている吸引装置のいずれかに移送する、
排ガス浄化触媒装置の製造方法。
《態様2》前記工程(A)の終了時から前記工程(C)の開始時までの時間が所定の範囲内となるように、前記工程(A)~(D)を行う、態様1に記載の排ガス浄化触媒装置の製造方法。
《態様3》前記工程(A)において、前記基材の上端面上への前記触媒コート層形成用塗工液の載置を、所定時間の待機の後に行う、態様2に記載の排ガス浄化触媒装置の製造方法。
《態様4》前記工程(D)が、
(D1)前記塗工液コート後の基材を、前記吸引ステーションから取り出して、前記分岐ステーションまで移送すること、及び
(D2)前記塗工液コート後の基材を、前記分岐ステーションから次工程まで移送すること
を含む、態様1~3のいずれか一項に記載の排ガス浄化触媒装置の製造方法。
《態様5》前記吸引ステーションに含まれる前記吸引装置の数が、3個以上6個以下である、態様1~4のいずれか一項に記載の排ガス浄化触媒装置の製造方法。
《態様6》セル壁によって区画された複数のセル流路を有するハニカム基材を、前記セル流路の流路方向が鉛直となるように保持し、前記基材の上端面上に触媒コート層形成用塗工液を載置するための塗工液載置ステーション、
前記塗工液載置後の基材を、下端面から吸引して、前記塗工液を前記基材のセル壁上及びセル壁中の1つ以上にコートするための吸引装置を2個以上含む、吸引ステーション、並びに
前記塗工液載置後の基材を、前記吸引ステーションに含まれる前記2個以上の吸引装置のいずれかに送り出すための分岐ステーション
を含む、
排ガス浄化触媒装置の製造装置。
【発明の効果】
【0018】
本発明によると、ハニカム基材上への塗工液のコートが、ハニカム基材の片端面への塗工液の載置、及び反対側端面からの吸引によって行われる場合に、所定の吸引時間を確保しつつ、工程全体の速度を速くすることができ、しかも、高品質のコート層が得られる、排ガス浄化触媒装置の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、実施形態1の排ガス浄化触媒装置の製造方法の概要を示す概念図である。
図2図2は、実施形態2の排ガス浄化触媒装置の製造方法の概要を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の排ガス浄化触媒装置の製造方法は、
(A)塗工液載置ステーションにおいて、セル壁によって区画された複数のセル流路を有するハニカム基材を、前記セル流路の流路方向が鉛直となるように保持し、前記基材の上端面上に触媒コート層形成用塗工液を載置すること、
(B)前記塗工液載置後の基材を、前記塗工液載置ステーションから吸引ステーションまで移送すること、
(C)前記吸引ステーションにおいて、前記塗工液載置後の基材を下端面から吸引して、前記塗工液を前記基材のセル壁上及びセル壁中の1つ以上にコートすること、並びに
(D)前記塗工液コート後の基材を、前記吸引ステーションから取り出して、次工程まで移送すること
を含み、
前記工程(C)において、前記塗工液載置後の基材を下端面から吸引するための時間が、前記工程(A)において、前記基材の上端面上に触媒コート層形成用塗工液を載置するための時間よりも長い、排ガス浄化触媒装置の製造方法であって、
前記吸引ステーションが、2個以上の吸引装置を含み、
前記工程(B)が、
(B1)前記塗工液載置後の基材を、前記塗工液載置ステーションから分岐ステーションまで移送すること、及び
(B2)前記塗工液載置後の基材を、前記分岐ステーションから前記吸引ステーションまで移送すること
を含み、
前記工程(B2)において、前記塗工液載置後の基材を、前記吸引ステーションの前記2個以上の吸引装置のうちの空いている吸引装置のいずれかに移送する、
排ガス浄化触媒装置の製造方法である。
【0021】
本発明の方法では、塗工液載置後のハニカム基材を、分岐ステーション経由で、空いている吸引装置に移送する。そのため、特定の吸引装置における吸引待ちの渋滞が発生しない。したがって、ハニカム基材への塗工液の載置から吸引開始までの時間を、容易に所定の時間に制御することができる。
【0022】
また、本発明の方法では、1つのハニカム基材についての吸引工程が、1つの吸引装置で中断を経ずに行われる。したがって、得られるコート層にムラが発生し難く、高品質のコート層が得られる。
【0023】
以下、本発明の排ガス浄化触媒装置の製造方法における各要素について、順に説明する。以下では、先ず、基材、塗工液載置ステーション、吸引ステーション、及び分岐ステーションについて説明し、次に、本発明の排ガス浄化触媒装置の製造方法を構成する各工程について説明する。
【0024】
〈基材〉
本発明の排ガス浄化触媒装置の製造方法に適用される基材は、セル壁によって区画された複数のセル流路を有するハニカム基材である。このハニカム基材は、例えば、コージェライト、SiC、ステンレス鋼、無機酸化物粒子等の材料から構成されている、例えば、ストレートフロー型又はウォールフロー型のモノリスハニカム基材であってよい。
【0025】
〈塗工液載置ステーション〉
塗工液載置ステーションは、セル壁によって区画された複数のセル流路を有するハニカム基材を、前記セル流路の流路方向が鉛直となるように保持し、前記基材の上端面上に触媒コート層形成用塗工液を載置するための加工ステーションである。
【0026】
塗工液載置ステーションは、塗工装置を備えていてよい。この塗工装置は、例えば、セル流路の流路方向が鉛直となるように保持されたハニカム基材の上端面上に、塗工液を載置することが可能な塗工装置であってよい。
【0027】
塗工装置は、例えば、枠形状の載置治具、及び塗工液供給機を備えていてよい。
【0028】
載置治具は、例えば、枠形状を有し、ハニカム基材の上端面に着脱可能に配置することができ、かつ、基材の上端面、及び載置治具によって、塗工液の載置部を形成しできるものであってよい。
【0029】
塗工液供給機は、例えば、上記の載置部に塗工液を供給して載置することができる機能を有していてよい。この塗工液供給機は、例えば、シャワー式、スプレー式等の供給機であってよい。
【0030】
《吸引ステーション》
吸引ステーションは、塗工液載置後のハニカム基材を下端面から吸引して、塗工液を基材のセル壁上及びセル壁中の1つ以上にコートするための加工ステーションである。
【0031】
塗工液を基材のセル壁上にコートするとは、塗工液のコート層が、セル流路に面するセル壁の表面上に形成される態様のコートを意味する。また、塗工液を基材のセル壁中にコートするとは、塗工液のコート層が、多孔質のセル壁の細孔壁の表面上に形成される態様のコートを意味する。
【0032】
吸引ステーションは、2つ以上の吸引装置を含む。各吸引装置は、少なくとも減圧チャネル、及び減圧チャネルとハニカム基材を下端面とを連結するための吸引治具を有していてよい。吸引治具は、ハニカム基材の下端面に着脱自在に装着することができ、吸引治具を装着された基材は、セル流路の下端近傍に減圧が印加される。
【0033】
これにより、基材のセル流路の上端から下端への空気の流れが生じ、これにより、基材の上端面上に載置された塗工液がセル流路中に流れ込んで、塗工液のコートが行われて、コート層が形成される。
【0034】
吸引装置の減圧チャネルは、減圧発生機に連結されていてよい、2つ以上の吸引装置の減圧チャネルは、それぞれ固有の減圧発生機に連結されていてもよいし、2つ以上の減圧チャネルで1つの減圧発生機を共有していてもよい。又は、2つ以上の減圧チャネルがいくつかのグループに分割されており、減圧チャネルのグループごとに1つの減圧発生機を共有していてもよい。
【0035】
減圧発生機は、例えば、真空ポンプ等であってよい。
【0036】
吸引ステーションに含まれる吸引装置の数は、2個以上であり、3個以上、又は4個以上であってよい。吸引装置の数は、8個以下、又は6個以下であってよい。吸引ステーションに含まれる吸引装置の数は、典型的には、2個以上8個以下、又は3個以上6個以下である。
【0037】
《分岐ステーション》
分岐ステーションは、塗工液載置ステーションから移送されてきた、上端面上に触媒コート層形成用塗工液が載置されたハニカム基材を受け入れ、吸引ステーション中のいずれかの吸引装置に向けて送り出す機能を有する。
【0038】
分岐ステーションにおいて、塗工液載置ステーションから受け入れたハニカム基材を、吸引ステーション中のいずれかの吸引装置に向けて送り出すのは、例えば、方向転換装置によって行われてよい。方向転換装置は、塗工液載置ステーションから分岐ステーションに向けて移送されてきたハニカム基材を、分岐ステーションから吸引ステーション中のいずれか特定の吸引装置に向けて送り出すように、ハニカム基材の進行方向を変更する機能を有していてよい。
【0039】
分岐ステーションは、吸引ステーション中の2個以上の吸引装置のうちの任意の吸引装置に向けて送り出す機能を有する多方向型の方向転換装置を1つだけ有していてもよいし、特定の吸引装置のみに向けて送り出す機能を有する単方向型の方向転換装置を、吸引ステーション中の吸引装置と同じ数だけ有していてもよい。又は、2つ以上の吸引装置がいくつかのグループに分割されており、吸引装置のグループごとに1つの多方向型方向転換装置を共有していてもよい。
【0040】
《排ガス浄化触媒装置の製造方法》
上述したとおり、本発明の排ガス浄化触媒装置の製造方法は、
(A)塗工液載置ステーションにおいて、セル壁によって区画された複数のセル流路を有するハニカム基材を、前記セル流路の流路方向が鉛直となるように保持し、前記基材の上端面上に触媒コート層形成用塗工液を載置すること(塗工液載置工程)、
(B)前記塗工液載置後の基材を、前記塗工液載置ステーションから吸引ステーションまで移送すること(吸引ステーション搬入工程)、
(C)前記吸引ステーションにおいて、前記塗工液載置後の基材を下端面から吸引して、前記塗工液を前記基材のセル壁上及びセル壁中の1つ以上にコートすること(吸引コート工程)、並びに
(D)前記塗工液コート後の基材を、前記吸引ステーションから取り出して、次工程まで移送すること(吸引ステーション搬出工程)
を含み、
前記工程(C)において、前記塗工液載置後の基材を下端面から吸引するための時間が、前記工程(A)において、前記基材の上端面上に触媒コート層形成用塗工液を載置するための時間よりも長い、排ガス浄化触媒装置の製造方法であって、
前記吸引ステーションが、2個以上の吸引装置を含み、
前記工程(B)が、
(B1)前記塗工液載置後の基材を、前記塗工液載置ステーションから分岐ステーションまで移送すること(第1移送工程)、及び
(B2)前記塗工液載置後の基材を、前記分岐ステーションから前記吸引ステーションまで移送すること(第2移送工程)
を含み、
前記工程(B2)において、前記塗工液載置後の基材を、前記吸引ステーションの前記2個以上の吸引装置のうちの空いている吸引装置のいずれかに移送する、
排ガス浄化触媒装置の製造方法である。
【0041】
本発明の排ガス浄化触媒装置の製造方法では、(C)吸引コート工程において、塗工液載置後のハニカム基材を下端面から吸引するための時間が、(A)塗工液載置工程において、基材の上端面上に触媒コート層形成用塗工液を載置するための時間よりも長い場合に、本発明の有利な効果が発現する。特に、(C)吸引コート工程における吸引時間が、(A)塗工液載置工程における塗工液載置時間に対して、2倍以上、3倍以上、又は4倍以上である場合に、本発明の効果が特に有利に発現する。(C)吸引コート工程における吸引時間は、(A)塗工液載置工程における塗工液載置時間に対して、20倍以下、又は15倍以下であってよい。
【0042】
本発明の排ガス浄化触媒装置の製造方法は、(B)吸引ステーション搬入工程が、
(B1)塗工液載置後のハニカム基材を、塗工液載置ステーションから分岐ステーションまで移送する第1移送工程と、
(B2)塗工液載置後の基材を、分岐ステーションから吸引ステーションまで移送する第2移送工程と
を含み、
(B2)第2移送工程において、塗工液載置後の基材を、吸引ステーションの2個以上の吸引装置のうちの空いている吸引装置のいずれかに移送する
ことを特徴とする。
【0043】
このような本発明の排ガス浄化触媒装置の製造方法では、基材が分岐ステーションに至った時点で、吸引ステーションの有する2つ以上の吸引装置のうちの少なくとも1つが開いている状態にあることが望まれる。これを実現するためには、吸引ステーションにおける吸引装置の数を、(C)吸引コート工程における吸引時間の(A)塗工液載置工程における塗工液載置時間に対する比(倍数)よりも多くすることが望ましい。例えば、吸引時間が塗工液載置時間の2倍かかるのであれば、分岐ステーションは2個以上の吸引装置を有することが望まれる。また、吸引時間が塗工液載置時間の2.5倍かかるのであれば、分岐ステーションは3個以上の吸引装置を有することが望まれる。
【0044】
しかしながら、塗工液の載置から吸引開始までの時間を一定の範囲内に制御して、得られるコート層の品質のばらつきを抑制するためには、吸引ステーションが、上記の基準で算出された数の吸引装置を具備することは、必ずしも必須の要件ではない。
【0045】
例えば、基材が分岐ステーションに至った時点で、吸引ステーションの有する2つ以上の吸引装置のうちの少なくとも1つが開いているようにするために、(A)塗工液載置工程における、基材の上端面上への塗工液の載置を、所定時間の待機の後に行うことによっても、塗工液の載置から吸引開始までの時間を一定にすることができる。
【0046】
本発明の方法では、
吸引ステーションの吸引装置の数を2個以上とし、かつ、
塗工液載置ステーションと吸引ステーションとの間に、分岐ステーションを設けて、
塗工液載置後の基材を、吸引ステーションの前記2個以上の吸引装置のうちの空いている吸引装置のいずれかに移送すること、及び
必要に応じて、(A)塗工液載置工程における、基材の上端面上への塗工液の載置を、所定時間の待機の後に行うこと
によって、塗工液の載置から吸引開始までの時間を一定の範囲内に制御して、得られるコート層の品質のばらつきを抑制しつつ、工程全体の速度を速くすることができる。
【0047】
本発明の排ガス浄化触媒装置の製造方法では、次いで、(D)吸引ステーション搬出工程において、塗工液コート後の基材を、吸引ステーションから取り出して、次工程まで移送する。
【0048】
このとき、塗工液コート後の基材を、吸引ステーションから次工程まで直接移送してもよいし、吸引ステーションから一旦分岐ステーションに戻して、分岐ステーションから次工程まで移送してもよい。
【0049】
塗工液コート後の基材を、吸引ステーションから一旦分岐ステーションに戻して、分岐ステーションから次工程まで移送する場合の(D)吸引ステーション搬出工程は、
(D1)塗工液コート後の基材を、吸引ステーションから取り出して、分岐ステーションまで移送する第3移送工程、及び
(D2)塗工液コート後の基材を、分岐ステーションから次工程まで移送する第4移送工程
を含んでいてよい。
【0050】
上記のような本発明の排ガス浄化触媒装置の製造方法によると、(A)塗工液載置工程の終了時から(C)吸引コート工程の開始時までの時間が所定の範囲内となるように、工程(A)~(D)を行うことができる。本発明の方法によると、A)塗工液載置工程の終了時から(C)吸引コート工程の開始時までの時間の、予め定められた所定の時間に対する差を、±50%以内、±40%以内、±30%以内、±20%以内、±10%以内、±5%以内、±3%以内、±1%以内、±0.5%以内、±0.3%以内、又は±0.1%以内にすることができる。
【0051】
本発明の排ガス浄化触媒装置の製造方法の次工程は、例えば、焼成工程、第2の触媒コート層の形成工程、触媒成分の担持工程、状態調節工程、ケーシング装填工程等の任意の工程であってよい。
【0052】
《排ガス浄化触媒装置の製造装置》
本発明の別の観点では、
セル壁によって区画された複数のセル流路を有するハニカム基材を、前記セル流路の流路方向が鉛直となるように保持し、前記基材の上端面上に触媒コート層形成用塗工液を載置するための塗工液載置ステーション、
前記塗工液載置後の基材を、下端面から吸引して、前記塗工液を前記基材のセル壁上及びセル壁中の1つ以上にコートするための吸引装置を2個以上含む、吸引ステーション、並びに
前記塗工液載置後の基材を、前記吸引ステーションに含まれる前記2個以上の吸引装置のいずれかに送り出すための分岐ステーション
を含む、
排ガス浄化触媒装置の製造装置が提供される。
【0053】
《実施形態》
以下、具体的な実施形態を示して、本発明の排ガス浄化触媒装置の製造について詳細に説明する。しかしながら、本発明は、以下に記載の実施形態に限定されない。
【0054】
〈実施形態1〉
実施形態1の排ガス浄化触媒装置の製造方法の概要を説明するための概念図を、図1に示した。
【0055】
図1の製造方法は、塗工液載置ステーション、分岐ステーション、及び吸引ステーションを含む。吸引ステーションは、3つの吸引装置(吸引装置(1)、吸引装置(2)、及び吸引装置(3))を有し、分岐ステーションは、1つの方向転換装置を有する。
【0056】
図1に示した方法では、塗工液載置ステーションにおける塗工液載置工程後の基材は、第1移送工程によって、分岐ステーションまで移送される。基材が分岐ステーションに移送されたとき、吸引装置(1)が空いていれば、方向転換装置は基材の進行方向を、吸引装置(1)の方向に転換し、基材は吸引装置(1)に移送されて、(C)吸引コート工程が行われる。
【0057】
しかしながら、基材が方向転換装置に至ったとき、吸引装置(1)において、他の基材についての(C)吸引コート工程が行われており、かつ、吸引装置(2)が空いていた場合には、方向転換装置は基材の進行方向を、吸引装置(1)の方向に転換し、基材は吸引装置(2)に移送されて、(C)吸引コート工程が行われる。
【0058】
同様に、基材が分岐ステーションに移送されたとき、吸引装置(1)及び吸引装置(2)において、他の基材についての(C)吸引コート工程が行われていた場合には、方向転換装置は基材の進行方向を、吸引装置(3)の方向に転換し、基材は吸引装置(3)に移送されて、(C)吸引コート工程が行われる。
【0059】
図1の製造方法では、吸引装置(1)~(3)のいずれかによって塗工液コートが行われた基材は、(D1)第3移送工程によって、方向転換装置に移送された後、(D2)第4移送工程によって、次工程に移送される。
【0060】
したがって、実施形態1の製造方法における方向転換装置は、
塗工液ステーションから移送されてきた基材を、吸引装置(1)、吸引装置(2)、又は吸引装置(3)に向けて送りだす機能、及び
吸引装置(1)、吸引装置(2)、又は吸引装置(3)から移送されてきた基材を、次工程に向けて送りだす機能を有する。
【0061】
〈実施形態2〉
【0062】
実施形態2の排ガス浄化触媒装置の製造方法の概要を説明するための概念図を、図2に示した。
【0063】
図1の製造方法は、塗工液載置ステーション、分岐ステーション、及び吸引ステーションを含む。吸引ステーションは、3つの吸引装置(吸引装置(1)、吸引装置(2)、及び吸引装置(3))を有し、分岐ステーションは、吸引ステーションにおける吸引装置の数と同数の3つの方向転換装置(方向転換装置(1)、方向転換装置(2)、及び方向転換装置(3))を有する。
【0064】
塗工液載置ステーションにおける塗工液載置工程後の基材は、第1移送工程によって、分岐ステーションまで移送される。分岐ステーションにおいて、基材は、先ず、方向転換装置(1)に至る。このとき、吸引装置(1)が空いていれば、方向転換装置(1)は基材の進行方向を、吸引装置(1)の方向に転換し、基材は吸引装置(1)に移送されて、(C)吸引コート工程が行われる。
【0065】
しかしながら、基材が方向転換装置(1)に至ったとき、吸引装置(1)において、他の基材についての(C)吸引コート工程が行われていた場合には、方向転換装置(1)は基材の進行方向を転換せず、基材は、方向転換装置(2)に移送される。このとき、吸引装置(2)が空いていれば、方向転換装置(2)は基材の進行方向を、吸引装置(2)の方向に転換し、基材は吸引装置(2)に移送されて、(C)吸引コート工程が行われる。
【0066】
同様に、基材が方向転換装置(2)に至ったとき、吸引装置(2)において、他の基材についての(C)吸引コート工程が行われていた場合には、方向転換装置(2)は基材の進行方向を転換せず、基材は、方向転換装置(3)に移送される。そして、方向転換装置(3)は基材の進行方向を、吸引装置(3)の方向に転換し、基材は吸引装置(3)に移送されて、(C)吸引コート工程が行われる。
【0067】
吸引装置(1)によって塗工液コートが行われた基材は、(D1)第3移送工程によって、方向転換装置(1)に移送される。この基材は、更に、(D2)第4移送工程によって、方向転換装置(2)及び方向転換装置(3)を介して、次工程に移送される。
【0068】
また、吸引装置(2)によって塗工液コートが行われた基材は、(D1)第3移送工程によって、方向転換装置(2)に移送される。この基材は、更に、(D2)第4移送工程によって、方向転換装置(3)を介して、次工程に移送される。
【0069】
そして、吸引装置(3)によって塗工液コートが行われた基材は、(D1)第3移送工程によって、方向転換装置(3)に移送される。この基材は、更に、(D2)第4移送工程によって、次工程に移送される。
【0070】
したがって、実施形態2の製造方法において、
方向転換装置(1)は、
塗工液ステーションから移送されてきた基材を、吸引装置(1)又は方向転換装置(2)に向けて送りだす機能、及び
吸引装置(1)から移送されてきた基材を、方向転換装置(2)に向けて送りだす機能を有し、
方向転換装置(2)は、
塗工液ステーションから方向転換装置(1)を介して移送されてきた基材を、基材を吸引装置(2)又は方向転換装置(3)に向けて送りだす機能、及び
吸引装置(2)から移送されてきた基材を、方向転換装置(3)に向けて送りだす機能を有し、
方向転換装置(3)は、
塗工液ステーションから方向転換装置(1)及び(2)を介して移送されてきた基材を、吸引装置(3)に向けて送りだす機能、並びに
吸引装置(3)から移送されてきた基材を、次工程に向けて送りだす機能を有する。
【要約】
【課題】所定の吸引時間を確保しつつ、工程全体の速度を速くすることのできる、効率の高い排ガス浄化触媒装置の製造方法を提供すること。
【解決手段】(A)塗工液載置ステーションにおいて、セル壁によって区画された複数のセル流路を有するハニカム基材の上端面上に触媒コート層形成用塗工液を載置すること、(B)塗工液載置後の基材を、塗工液載置ステーションから吸引ステーションまで移送すること、並びに(C)吸引ステーションにおいて、塗工液載置後の基材を下端面から吸引して、塗工液を基材のセル壁上にコートすることを含み、吸引ステーションが、2個以上の吸引装置を含み、工程(B)が、(B1)塗工液載置後の基材を、塗工液載置ステーションから分岐ステーションまで移送すること、及び(B2)塗工液載置後の基材を、分岐ステーションの吸引装置のうちの空いている吸引装置まで移送することを含む、排ガス浄化触媒装置の製造方法。
【選択図】図1
図1
図2