(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-18
(45)【発行日】2023-04-26
(54)【発明の名称】7xxxシリーズアルミニウム合金製品
(51)【国際特許分類】
C22C 21/10 20060101AFI20230419BHJP
C22F 1/053 20060101ALI20230419BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20230419BHJP
【FI】
C22C21/10
C22F1/053
C22F1/00 602
C22F1/00 612
C22F1/00 623
C22F1/00 630A
C22F1/00 630B
C22F1/00 640A
C22F1/00 630G
C22F1/00 682
C22F1/00 683
C22F1/00 685Z
C22F1/00 686B
C22F1/00 692A
C22F1/00 681
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 694A
C22F1/00 630K
(21)【出願番号】P 2021528963
(86)(22)【出願日】2020-01-09
(86)【国際出願番号】 EP2020050370
(87)【国際公開番号】W WO2020148140
(87)【国際公開日】2020-07-23
【審査請求日】2021-05-21
(32)【優先日】2019-01-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】518412058
【氏名又は名称】ノベリス・コブレンツ・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Novelis Koblenz GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100221501
【氏名又は名称】式見 真行
(72)【発明者】
【氏名】ビュルガー,アヒム
(72)【発明者】
【氏名】コスラ,スニル
(72)【発明者】
【氏名】クレヒェル,クリスティアン ゲルハルト
(72)【発明者】
【氏名】シュパンゲル,ザビーネ マリア
(72)【発明者】
【氏名】マイヤー,フィリップ
【審査官】川口 由紀子
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-058047(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第00829552(EP,A1)
【文献】特開2012-214905(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 21/10
C22F 1/053
C22F 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、
Zn
6.75~7.10、
Mg
2.35~2.55、
Cu
1.35~1.75、
及びCu+Mg<4.50、及びMg<2.5+5/3(Cu-1.2)、
Fe 最大で0.25、
Si 最大で0.25、
及び、任意選択で以下からなる群から選択される1つ以上の元素:
Zr 最大で0.3、
Cr 最大で0.3、
Mn 最大で0.45、
Ti 最大で0.25、
Sc 最大で0.5、
Ag 最大で0.5を含み、
残部がアルミニウム及び不純物である組成を有する、展伸7xxxシリーズアルミニウム合金製品であって、
前記製品
は時効化して:
- ASTM-B557-15に準拠して測定して、1/4厚みでのL方向の引張降伏強度(MPa)が、485-0.12*(t-100)MPa越であり(tは、mmでの前記製品の厚さ)、
- ASTM G47-98に準拠して測定して、応力腐食割れ(SCC)による破損のない最低寿命が、170MPaの厚さ方向(ST)応力レベルにおいて少なくとも30日以上であり、
- 荷重制御疲労試験においてASTM E647-13e01に準拠した室温、標準大気でのCT試料のL-S 方向の亀裂伝播試験による亀裂偏向のない最小K
max-dev値が少なくとも平均40MPa√m以上であり(亀裂偏向は、意図した破壊面から20°を超えて偏向する亀裂として定義される)、
が達成された、前記展伸7xxxシリーズアルミニウム合金製品。
【請求項2】
前記Zn含有量が、少なくとも6.50%である、請求項1に記載の展伸7xxxシリーズアルミニウム合金製品。
【請求項3】
前記Zn含有量が、最大7.10%である、請求項1または2に記載の展伸7xxxシリーズアルミニウム合金製品。
【請求項4】
Cu+Mg<4.45、及びMg<2.55+2(Cu-1.25)である、請求項1~3のいずれか一項に記載の展伸7xxxシリーズアルミニウム合金製品。
シリーズアルミニウム合金製品。
【請求項5】
Zn 6.75~7.10、
Mg 2.45~2.55、
Cu 1.35~1.75である、請求項1~
4のいずれか一項に記載の展伸7xxxシリーズアルミニウム合金製品。
【請求項6】
前記製品が、0.03%~0.25%の範囲のZr含有量を有する、請求項1~
5のいずれか一項に記載の展伸7xxxシリーズアルミニウム合金製品。
【請求項7】
前記製品が、0.04%~0.3%の範囲のCr含有量を有する、請求項1~
6のいずれか一項に記載の展伸7xxxシリーズアルミニウム合金製品。
【請求項8】
前記製品が、最大0.05%のCr含有量を有する、請求項1~
6のいずれか一項に記載の展伸7xxxシリーズアルミニウム合金製品。
【請求項9】
前記製品が、0.05%~0.4%の範囲のMn含有量を有する、請求項1~
8のいずれか一項に記載の展伸7xxxシリーズアルミニウム合金製品。
【請求項10】
前記製品が、最大0.05%のMn含有量を有する、請求項1~
8のいずれか一項に記載の展伸7xxxシリーズアルミニウム合金製品。
【請求項11】
前記製品が、最大0.05%のMn+Crの合計を有する、請求項
8及び
10に記載の展伸7xxxシリーズアルミニウム合金製品。
【請求項12】
前記製品が、少なくとも12.7mmの厚さを有する、請求項1~
11のいずれか一項に記載の展伸7xxxシリーズアルミニウム合金製品。
【請求項13】
前記製品が航空宇宙製品である、請求項1~
12のいずれか一項に記載の展伸7xxxシリーズアルミニウム合金製品。
【請求項14】
前記製品がT7状態にある、請求項1~
13のいずれか一項に記載の展伸7xxxシリーズアルミニウム合金製品。
【請求項15】
前記製品が、T73、T74、T76、T77、及びT79からなる群から選択されるT7状態にある、請求項
14に記載の展伸7xxxシリーズアルミニウム合金製品。
【請求項16】
前記製品が、少なくとも25.4mmの厚さを有する、請求項1~
15のいずれか一項に記載の展伸7xxxシリーズアルミニウム合金製品。
【請求項17】
前記製品が、圧延、押し出し、または鍛錬製品の形態である、請求項1~
16のいずれか一項に記載の展伸7xxxシリーズアルミニウム合金製品。
【請求項18】
前記製品が、圧延製品の形態である、請求項1~
17のいずれか一項に記載の展伸7xxxシリーズアルミニウム合金製品。
【請求項19】
前記製品
は時効化して:
- ASTM-B557-15に準拠して測定して、1/4厚みでのL方向の引張降伏強度(MPa)が、500-0.12*(t-100)MPa越であり(tは、mmでの前記製品の厚さ)、
- 荷重制御疲労試験においてASTM E647-13e01に準拠した室温、標準大気でのCT試料のL-S 方向の亀裂伝播試験による亀裂偏向のない最小K
max-dev値が平均50MPa√m以上であり(亀裂偏向は、意図した破壊面から20°を超えて偏向する亀裂として定義される)、
- ASTM G47-98に準拠して測定して、応力腐食割れ(SCC)による破損のない最低寿命が、205MPaの厚さ方向(ST)応力レベルにおいて少なくとも30日以上であり、
のうちの1つ以上が達成されている、請求項1~
18のいずれか一項に記載の展伸7xxxシリーズアルミニウム合金製品。
【請求項20】
前記展伸製品が航空機構造部品である、請求項1~
19のいずれか一項に記載の展伸7xxxシリーズアルミニウム合金製品。
【請求項21】
前記展伸製品が、翼桁、翼リブ、翼外板、床梁、及び胴体フレームの群から選択される航空機構造部品である、請求項1~
20のいずれか一項に記載の展伸7xxxシリーズアルミニウム合金製品。
【請求項22】
請求項1~
21のいずれか一項に記載の、少なくとも12.7mmの
厚さを有する圧延アルミニウム合金製品の製造方法であって、前記方法が:
(a) 請求項1~
11のいずれか一項に記載の組成を有するインゴットを鋳造し;
(b) 前記鋳造したインゴットを、均質化し;
(c) 前記鋳造インゴットを、少なくとも12.7mmの厚さを有する熱間圧延製品に熱間圧延し
;
(e) 前記熱間圧延した熱間圧延製品を溶体化熱処理し;
(f) 前記溶体化熱処理した製品を、スプレー焼入れまたは水もしくは他の焼入れ媒体へのずぶ焼入れのうちの1つによって冷却し;
(g) 前記溶体化熱処理して冷却した製品を、元の長さの0.5%~6%の範囲で延伸し;そして
(h) T7451、T7651、T7751、及びT7951からなる群から選択されるT7条件に人工時効化して:
- ASTM-B557-15に準拠して測定して、1/4厚みでのL方向の引張降伏強度(MPa)が、485-0.12*(t-100)MPa越であり(tは、mmでの前記製品の厚さ)、
- ASTM G47-98に準拠して測定して、応力腐食割れ(SCC)による破損のない最低寿命が、170MPaの厚さ方向(ST)応力レベルにおいて少なくとも30日以上であり、
- ASTM E647-13e01に準拠した室温、標準大気でのCT試料のL-S 方向の亀裂伝播試験による亀裂偏向のない最小K
max-dev値が平均40MPa√m以上であり(亀裂偏向は、意図した破壊面から20°を超えて偏向する亀裂として定義される)、
を達成する工程を含む、前記製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、展伸Al-Zn-Mg-Cuアルミニウムタイプ(またはアルミニウム協会指定の7000または7xxxシリーズのアルミニウム合金)に関する。より具体的には、本発明は、亀裂偏向耐性が向上した、時効硬化性、高強度、高応力腐食耐性のアルミニウム合金、及びそのアルミニウム合金製の製品に関する。この合金から作られた製品は、航空宇宙用途に非常に適しているが、それに限定されない。アルミニウム合金は、例えば、薄いプレート、厚いプレート、押し出し製品、鍛錬(forged)製品などの様々な製品形態に加工することができる。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム-亜鉛-マグネシウム-銅系に基づく高強度アルミニウム合金は、多くの用途で使用されている。通常、これらの合金の特性プロファイルは用途に合わせて調整する必要があり、他の特性に悪影響を与えずに1つの特性を改善することは困難である。例えば、強度と腐食耐性は、目的の用途に最適な質別を適用することによってバランスをとる必要がある。関連性のある別の特性は、亀裂偏向に対する耐性であり、その場合、高感受性の合金がL-Sサンプルの予亀裂に疲労荷重を受ける場合、材料中に亀裂経路の偏向が生じ得る。この現象は、特定の条件下では構造の完全性に影響を及ぼす可能性があるため、部品メーカーにとって課題となり得る。亀裂偏向に対する感受性は、特にZn含有高強度アルミニウム合金で観察されている。したがって、高強度と優れたSCC腐食耐性を兼ね備え、同時に亀裂偏向に対する耐性を高めたアルミニウム合金が必要である。
【0003】
欧州特許EP-0863220-B2は、自動車産業で使用するための、押出加工によりAlZnMgCu合金から製造されるスクリューまたはリベットを開示しており、AlZnMgCu合金は、重量%で、6.0~8.0%Zn、2.0~3.5%Mg、好ましくは2.6~2.9%Mg、1.6~1.9%Cu、0.05~0.30%Zr、最大0.10%Cr、最大0.50%Mn、最大0.10%Ti、最大0.20%Si、最大0.20%Fe、その他の元素がそれぞれ最大0.05%、合計で最大0.15%であり、残部がアルミニウムと不可避的不純物からなる。
【図面の簡単な説明】
【0004】
【
図1】試験したすべての合金のL方向のTYSに対するK
max,devをプロットしたグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0005】
本明細書中で理解されているように、別段示される場合を除き、アルミニウム合金の指定及び質別の指定は、2018年にアルミニウム協会によって公開されているように、アルミニウム規格及びデータならびに登録記録におけるアルミニウム協会による指定を指し、当業者に周知である。質別の指定は、欧州規格EN515に規定されている。
【0006】
合金組成物または好ましい合金組成物の任意の記載について、パーセンテージに対するすべての言及は、別段示されない限り、重量パーセントである。
【0007】
本明細書中で使用する場合、用語「約」とは、合金添加元素の組成範囲または量を記載するために使用する場合、当業者によって理解されているように、標準的な処理のバリエーションなどの要因によって、合金添加元素の実際の量が、公称の意図された量に対して変動し得ることを意味する。
【0008】
本明細書中で使用する場合、用語「最大」及び「最大約」とは、それが言及する特定の合金化成分がゼロ重量パーセントである可能性を明示的に含んでいるが、限定されない。例えば、最大0.5%のScには、Scを含まないアルミニウム合金が含まれ得る。
【0009】
本発明の目的は、高強度と高SCC耐性のバランスが改良され、亀裂偏向に対する耐性が向上した展伸7xxxシリーズのアルミニウム合金製品を提供することである。
【0010】
この目的及び他の目的ならびにさらなる利点は、展伸7xxxシリーズのアルミニウム合金製品を提供する本発明によって満たされ、達成され、合金製品は、好ましくは少なくとも12.7mm(0.5インチ)のゲージを有し、重量%で以下の組成を有する。
Zn 6.40%~7.50%、
Mg 2.15%~2.85%、
Cu 1.20%~2.00%、
ただし、Cu及びMg含有量が、Cu+Mg<4.50%及びMg<2.5+5/3(Cu-1.2)である。
Fe 最大0.25%、好ましくは最大0.15%、
Si 最大0.25%、好ましくは最大0.15%、
及び、任意選択で以下からなる群から選択される1つ以上の元素:
Zr 最大0.3%、
Cr 最大0.3%、
Mn 最大0.45%、
Ti 最大0.25%、好ましくは最大0.15%、
Sc 最大0.5%、
Ag 最大0.5%、
残部はアルミニウム及び不純物である。通常、そのような不純物は、それぞれ<0.05%、合計<0.15%で存在し、以下の特性を有するように製品を時効化する:
- ASTM-B557-15規格に準拠して測定して、1/4厚みでの従来のL方向の引張降伏強度(MPa)が、485-0.12*(t-100)MPa超(tはmmでの製品の厚さ)である。好ましい実施形態では、引張降伏強度は、>500-0.12(t-100)MPa、より好ましくは>510-0.12(t-100)MPaである。
- ASTM G47-98に準拠して測定して、応力腐食割れ(SCC)による破損のない最低寿命が、170MPaの厚さ方向(ST)応力レベルにおいて少なくとも30日以上である。好ましい実施形態では、厚さ方向(ST)応力レベルは、205MPa、より好ましくは240MPaである。
- 荷重制御疲労試験においてASTM E647-13e01に準拠した室温、標準大気でのCT試料のL-S 方向の亀裂伝播試験による亀裂偏向のない最小K
max-dev
値が少なくとも平均40MPa√m以上、好ましくは、少なくとも平均45MPa√m以上、より好ましくは、少なくとも平均50MPa√m以上である(亀裂偏向は、意図した破壊面から20°を超えて偏向する亀裂として定義される)。本明細書中で使用する場合、「亀裂偏向耐性」は、「Standard Test Method for Measurement of Fatigue Crack Growth Rates」(「ASTM E647」)と題されたASTM E647-13e01に従って少なくとも3つのC(T)試験片を調製することによって決定される。少なくとも3つのC(T)試験片は、L-S方向に材料の幅/3~2×幅/3で取り、試験片の「B」寸法は6.35mm(0.25インチ)であり、試験片の「W」寸法は少なくとも25mm(0.98インチ)であり、T/2位置から取る。試験片を、ASTM E647の定荷重振幅試験法に従って試験し、R=0.1(P分/Pmax)、大気または高湿度空気、室温とする。予亀裂はASTM E647のすべての有効性要件を満たしていなければならず、予亀裂の生成はASTM E647の要件に従って実施しなければならない。Kmax>10MPa√m.(9.098ksi√インチ)を使用して試験を開始し、開始力は、ASTM E647 C(T)試験片の有効性要件((W-a)≧(4/π)*(Kmax-dev/TYS)2)がもはや試験に適合しなくなる前に亀裂偏向が生じるのに十分な大きさでなければならない。試験は、最大で亀裂偏向のポイントまでASTM E647に従って有効でなければならない。C(T)試験片の亀裂が意図した破壊面から任意の方向に実質的に(例えば、20~110°)ずれる場合、亀裂は「偏向」し、その偏向は、意図しない破壊面に沿った試験片の分離をもたらす。偏向時の平均亀裂長さ(adev)は、2つの表面値(前面と背面の値)の平均を使用して導出される。Kmax-devは、C(T)試験片に対する、偏向時の平均亀裂長さ(adev)、最大加力(Pmax)、及びASTM E647 A1.5.1.1に準拠した応力拡大係数の式を使用して計算された最大応力拡大係数である(注:ΔKとΔPは、ASTM E6473.2.14で定義されるように、応力比関係R=Kmin/Kmax及び^K=Kmax-Kminに従って、それぞれ、Kmax-devとPmaxに置き換えるべきである)。
【0011】
特にアルミニウム合金のZn、Cu及びMgレベルを注意深く制御することにより、特にT7条件で時効化すると、展伸7xxxシリーズアルミニウム合金製品は、高強度、高SCC耐性と、優れた亀裂偏向耐性を有することの組み合わせのバランスが改善される。
【0012】
一実施形態では、展伸アルミニウム合金製品のZn含有量は、最大7.30%、好ましくは最大7.10%である。十分な強度を得るための好ましい最小Zn含有量は、6.50%、より好ましくは6.60%、そして最も好ましくは6.75%である。
【0013】
一実施形態では、展伸アルミニウム合金製品のCu含有量は、最大1.90%、好ましくは最大1.80%、より好ましくは最大1.75%、最も好ましくは最大1.70%である。亀裂偏向を伴わずに、高い最小Kmax-dev値と組み合わせて十分な強度を提供するための好ましい最小Cu含有量は1.30%、より好ましくは1.35%である。
【0014】
一実施形態では、亀裂偏向を伴わずに、増加した最小Kmax-dev値と組み合わせて十分な強度を提供するための展伸アルミニウム合金製品のMg含有量は、少なくとも2.25%、好ましくは少なくとも2.30%、より好ましくは少なくとも2.35%、最も好ましくは少なくとも2.45%である。一実施形態では、展伸アルミニウム合金製品のMg含有量は、最大2.75%、好ましくは最大2.60%、より好ましくは最大2.55%である。
【0015】
好ましい実施形態では、展伸アルミニウム合金製品は、Zn 6.40%~7.30%、Mg 2.25%~2.75%、及びCu 1.25%~1.90%を有し、ただし、Cu+Mg<4.45、及びMg<2.55+2(Cu-1.25)である。
【0016】
より好ましい実施形態では、展伸アルミニウム合金製品は、Zn 6.50%~7.20%、Mg 2.30%~2.60%、及びCu 1.30%~1.80%を有する。
【0017】
より好ましい実施形態では、展伸アルミニウム合金製品は、Zn 6.75%~7.10%、Mg 2.35%~2.55%、及びCu 1.35%~1.75%を有する。
【0018】
最も好ましい実施形態では、展伸アルミニウム合金製品は、Zn 6.75%~7.10%、Mg 2.45%~2.55%、及びCu 1.35%~1.75%を有する。
【0019】
本発明による
展伸アルミニウム合金製品の好ましいZn、Cu及びMg範囲の概要を以下の表1に示す。
表1. 本発明による
展伸7xxxシリーズアルミニウム合金製品における好ましいZn、Cu及びMgの範囲の概要。
【0020】
一実施形態では、展伸アルミニウム合金製品は、V、Ni、Co、Nb、Mo、Ge、Er、Hf、Ce、Y、Dy、及びSrの群から選択される1つ以上の元素を、最大0.3%、さらに含む。
【0021】
鉄及びシリコンの含有量は、例えば、Feが約0.15%を超えない、好ましくはFeが0.10%未満であり、及びSiが約0.15%超えない、好ましくはSiが0.10%以下であるように、有意に低く保つべきである。いずれにせよ、本明細書ではあまり好ましくない基準ではあるが、依然としてわずかに高いレベルの両方の不純物、すなわち、最大で約0.25%のFe、及び最大で約0.25%のSiが許容され得ると考えられる。
【0022】
展伸アルミニウム合金製品は、任意選択で、粒子構造と急冷感受性を制御するために:最大0.3%のZr、最大0.3%のCr、最大0.45%のMn、最大0.25%のTi、最大0.5%のScからなる群から選択される1つ以上の分散質形成元素を含む。
【0023】
Zrレベルの好ましい最大値は0.25%である。Zrレベルの適切な範囲は、約0.03%~0.25%、より好ましくは約0.05%~0.18%、最も好ましくは約0.05%~0.13%である。Zrは、本発明によるアルミニウム合金製品における好ましい分散質形成合金元素である。
【0024】
Scの添加は、好ましくは約0.5%以下、より好ましくは約0.3%以下、最も好ましくは約0.25%以下である。好ましいSc添加の下限は、0.03%、より好ましくは0.05%である。一実施形態では、Zrと組み合わせるとき、Sc+Zrの合計は、0.35%未満、好ましくは0.30%未満とするべきである。
【0025】
単独で、または他の分散質形成剤と一緒に添加することができる別の分散質形成元素は、Crである。Crレベルは、好ましくは0.3%未満、より好ましくは最大約0.25%、最も好ましくは最大約0.22%とするべきである。好ましいCrの下限は、約0.04%であろう。
【0026】
本発明によるアルミニウム合金展伸製品の別の実施形態では、合金はCrを含まず、これは、実際にはCrが不純物とみなされ、Cr含有量は、最大0.05%、好ましくは最大0.04%、より好ましくは最大でも0.03%に過ぎないことを意味する。
【0027】
Mnは、単一の分散質形成剤として、または他の言及された分散質形成剤のいずれかと組み合わせて添加することができる。Mn添加の最大値は約0.4%である。Mn添加の実用的な範囲は、約0.05%~0.4%の範囲であり、好ましくは約0.05%~0.3%の範囲である。好ましいMn添加の下限は、約0.12%である。Zrと組み合わせるとき、MnとZrの合計は、約0.4%未満、好ましくは約0.32%未満とするべきであり、適切な最小値は約0.12%である。
【0028】
本発明によるアルミニウム合金展伸製品の別の実施形態では、合金はMnを含まず、これは、実際には不純物とみなされ、Mn含有量は、最大0.05%、好ましくは最大0.04%、より好ましくは最大でも0.03%に過ぎないことを意味する。
【0029】
別の実施形態では、Cr及びMnのそれぞれは、アルミニウム合金展伸製品中に不純物レベルでのみ存在する。好ましくは、CrとMnは合計で、最大0.05%、好ましくは最大0.04%、より好ましくは最大0.02%のみ存在する。
【0030】
最大約0.5%の範囲の銀(Ag)を合目的に添加して、時効中に強度をさらに向上させることができる。合目的なAg添加の好ましい下限は、約0.05%、より好ましくは約0.08%であろう。好ましい上限は、約0.4%であろう。
【0031】
一実施形態では、Agは、不純物元素であり、それは最大で0.05%、好ましくは最大で0.03%存在し得る。
【0032】
一実施形態では、展伸7xxx系アルミニウム合金製品は、好ましくは少なくとも12.7mm(0.5インチ)のゲージを有し、重量%で、以下からなる組成を有する。
Zn 6.40%~7.50%、
Mg 2.15%~2.85%、
Cu 1.20%~2.00%、
ただし、Cu+Mg<4.50及びMg<2.5+5/3(Cu-1.2)、
Fe 最大0.25%、
Si 最大0.25%、
及び、任意選択で以下からなる群から選択される1つ以上の元素:
Zr 最大0.3%、
Cr 最大0.3%、
Mn 最大0.45%、
Ti 最大0.25%、
Sc 最大0.5%、
Ag 最大0.5%、
残部は、アルミニウムと不純物が、各<0.05%、合計で<0.15%であり、本明細書に記載し、請求されているように、より狭い組成範囲が好ましい。
【0033】
別の実施形態では、展伸7xxx系アルミニウム合金製品は、好ましくは少なくとも12.7mm(0.5インチ)のゲージを有し、重量%で、以下からなる組成を有する。
Zn 6.40%~7.50%、
Mg 2.15%~2.85%、
Cu 1.20%~2.00%、
ただし、Cu+Mg<4.50及びMg<2.5+5/3(Cu-1.2)、
Fe 最大0.25%、好ましくは最大0.15%、
Si 最大0.25%、好ましくは最大0.15%、
Zr 0.05%~0.18%、好ましくは0.05%~0.13%、
Ti 最大0.25%、好ましくは最大0.15%、
残部は、アルミニウムと不純物が、各<0.05%、合計で<0.15%であり、本明細書に記載し、請求されているように、より狭い組成範囲が好ましい。
【0034】
強度、SCC耐性、及び改善された亀裂偏向耐性の最適なバランスを提供するために、展伸製品を、過時効したT7状態で提供することが好ましい。より好ましくは、T7状態は、T73、T74、T76、T77、及びT79からなる群から選択される。
【0035】
好ましい実施形態では、展伸製品を、T74質別、より具体的にはT7451質別に、またはT76質別、より具体的にはT7651質別で提供する。
【0036】
好ましい実施形態では展伸製品を、T77質別、より具体的にはT7751質別に、またはT79質別、より具体的にはT7951質別で提供する。
【0037】
好ましい実施形態では、本発明による展伸製品は、少なくとも12.7mm(0.5インチ)の公称厚さを有する。さらなる実施形態では、厚さは、少なくとも25.4mm(1.0インチ)である。さらに別の実施形態では、厚さは、少なくとも38.1mm(1.5インチ)、好ましくは少なくとも76.2mm(3.0インチ)である。一実施形態では、最大厚さは、304.8mm(12.0インチ)である。好ましい実施形態では、最大厚さは、254mm(10.0インチ)であり、より好ましくは最大203.2mm(8.0インチ)である。
【0038】
展伸製品は、様々な形態で、特に圧延製品、押し出し製品または鍛錬製品として提供することができる。
【0039】
好ましい実施形態では、展伸製品を、圧延製品として、より具体的には圧延プレート製品として提供する。
【0040】
一実施形態では、展伸製品は、航空宇宙製品、より具体的には、航空機構造部品、例えば、翼桁、翼リブ、翼外板、床梁、または胴体フレームである。
【0041】
特定の実施形態では、展伸製品を、38.4mm(1.5インチ)~307.2mm(12.0インチ)の範囲の、本明細書中に記載し請求するような好ましい狭い範囲の厚さを有する圧延製品として、理想的には航空機構造部品として提供し、T7状態で、より好ましくはT74またはT76状態で提供する。この実施形態では、圧延製品は、本明細書に記載し、請求するような特性を有する。
【0042】
特定の実施形態では、展伸製品を、38.1mm(1.5インチ)~304.8mm(12.0インチ)の範囲の、本明細書中に記載し請求するような好ましい狭い範囲の厚さを有する圧延製品として、理想的には航空機構造部品として提供し、T76状態で、より好ましくはT7651状態で提供する。この実施形態では、圧延製品は、本明細書に記載し、請求するような特性を有する。
【0043】
本発明のさらなる態様では、それは、好ましくは少なくとも12.7mm(0.5インチ)のゲージを有する展伸7xxx系アルミニウム合金製品の製造方法に関し、方法は、
a. 本発明によるAA7000シリーズアルミニウム合金のインゴットの素材を鋳造し、
b. 鋳造した素材を予備加熱及び/または均質化し、
c. 圧延、押し出し、及び鍛錬からなる群から選択される1つ以上の方法により、素材を熱間加工し、
d. 任意選択で、熱間加工した素材を冷間加工し、
e. 熱間加工し、任意選択で冷間加工した素材を溶体化熱処理(「SHT」)し、
f. 好ましくは、スプレー焼入れまたは水もしくは他の焼入れ媒体へのずぶ焼入れのうちの1つにより、SHT素材を冷却し、
g. 任意選択で、冷却したSHT素材を延伸または圧縮するか、あるいは冷却したSHT素材を冷間加工、例えば、冷却したSHT素材をレベリングまたは延伸または冷間圧延して応力を緩和し、
h. 冷却し、任意選択で延伸または圧縮するか、あるいは冷間加工したSHT素材を人工的に時効させて、所望の質別を達成し、好ましくはT7状態とする、工程を順に含む。
【0044】
アルミニウム合金は、鋳造製品のための当技術分野で一般的な鋳造技術、例えば直接チル(DC)鋳造法、電磁鋳造(EMC)法、電磁攪拌(EMS)鋳造法により、適切な展伸製品に製造するためのインゴット、スラブ、またはビレットとして提供することができる。連続鋳造から生じるスラブ、例えば、ベルトキャスターまたはロールキャスターもまた使用してよく、これは特により薄いゲージの最終製品を製造するときに有利であり得る。当技術分野で周知のように、例えば、チタンとホウ素、またはチタンと炭素を含有する結晶粒微細化剤もまた使用してもよい。アルミニウム合金のTi含有量は、最大0.25%、好ましくは最大0.15%、より好ましくは0.01%~0.1%の範囲である。任意選択で、鋳造インゴットは、例えば、それを約350℃~450℃の範囲の温度に保持し、続いて周囲温度までゆっくりと冷却することによって、応力を軽減することができる。合金素材を鋳造した後、一般的に、インゴットの表面を削ってインゴットの鋳放し表面近くの分離ゾーンを取り除く。
【0045】
均質化熱処理の目的は、少なくとも以下の目的を有する。(i)凝固中に形成される粗い可溶性相を可能な限り溶解すること、及び(ii)溶解工程を容易にするために濃度勾配を低減すること。予熱処理はまた、これらの目的のうちのいくつかも達成する。
【0046】
一般的に、予熱とは、インゴットを設定温度に加熱し、この温度で設定時間浸漬した後、ほぼその温度で熱間圧延を開始することを指す。均質化とは、圧延インゴットに適用する、1つ以上の浸漬工程を含む加熱、浸漬、及び冷却サイクルを指し、均質化後の最終温度は周囲温度である。
【0047】
本発明による方法で用いるAA7xxxシリーズ合金についての一般的な予熱処理は、2~50時間、より一般的には2~20時間の範囲の浸漬時間で、390℃~450℃の温度であろう。
【0048】
最初に、合金素材のS相、T相、及びM相などの可溶性共晶相及び/または金属間相を、通常の業界慣行を使用して溶解する。これは、AA7xxxシリーズ合金ではS相(Al2MgCu相)の融点が約489℃であり、M相(MgZn2相)の融点が約478℃であることから、通常、素材を500℃未満の温度、通常は450℃~485℃の範囲で加熱することによって実行する。これは、当該温度範囲で均質化処理し、熱間圧延温度まで冷却するか、または均質化後、素材を引き続き冷却し、熱間圧延の前に再加熱することによって達成することができる。均質化プロセスは、所望の場合、2つ以上の工程で行ってもよく、これは、一般的には、AA7xxxシリーズ合金では430℃~490℃の温度範囲で実行され得る。特定の好ましい実施形態では、2工程均質化プロセスを適用し、正確な合金組成に応じて様々な相の溶解プロセスを最適化するために、455℃~470℃の第1工程、及び470℃~485℃の第2工程が存在する。
【0049】
均質化温度での浸漬時間は1~50時間の範囲であり、より一般的には2~20時間である。適用し得る加熱速度は、当技術分野で一般的なものである。
【0050】
予熱及び/または均質化の実施に続いて、圧延、押し出し、及び鍛錬からなる群から選択される1つ以上の方法によって素材を熱間加工する。本発明には熱間圧延法が好ましい。
【0051】
熱間加工、特に熱間圧延は、好ましくは12.7mm(0.5インチ)以上の最終ゲージまで実施してもよい。
【0052】
一実施形態では、プレート材を、第1の熱間圧延工程において中間熱間圧延ゲージに熱間圧延し、続いて中間焼鈍工程、次いで第2の熱間圧延工程において熱間圧延して最終熱間圧延ゲージとする。
【0053】
別の実施形態では、プレート材を第1の熱間圧延工程において中間熱間圧延ゲージに圧延し、続いて最大でSHT温度範囲の温度で再結晶焼鈍処理し、次いで第2の熱間圧延工程において熱間圧延して最終的な熱間圧延ゲージとする。これにより、特性の等方性が向上し、亀裂偏向に対する耐性がさらに向上する。
【0054】
あるいは、熱間加工工程を実施して、中間ゲージで素材を提供することもできる。その後、中間ゲージのこの素材を、例えば圧延によって、最終ゲージまで冷間加工することができる。冷間加工の量に応じて、冷間加工作業の前または最中に中間焼鈍を使用してもよい。
【0055】
次のプロセス工程は、熱間加工及び任意選択で冷間加工した素材の溶体化熱処理(「SHT」)である。製品を加熱して、可能な限り、可溶性の亜鉛、マグネシウム、及び銅のすべてまたは実質的にすべての部分を溶液内に入れるべきである。SHTは、好ましくは、本明細書に記載の本発明による均質化処理と同じ温度範囲及び時間範囲で、好ましい狭い範囲と共に実施される。しかしながら、より短い浸漬時間もまた、例えば、約2~180分の範囲において、依然として非常に有用であり得ると考えられる。SHTは通常、バッチまたは連続炉で実施する。SHT後、アルミニウム合金を高い冷却速度で175℃以下の温度、好ましくは周囲温度まで冷却して、二次相、例えば、Al2CuMg及びAl2Cu、及び/またはMgZn2の制御不能な析出を防止または最小限に抑えることが重要である。一方、冷却速度は、製品における十分な平坦性及び低レベルの残留応力を可能とするために、高過ぎるべきではない。適切な冷却速度は、水の使用、例えば、水浸漬または水ジェットを用いて達成され得る。
【0056】
素材を、例えば、元の長さの約0.5%~8%の範囲で延伸することによってさらに冷間加工して、内部の残留応力を緩和し、製品の平坦性を向上させてもよい。好ましくは、延伸は、約0.5%~6%、より好ましくは約1%~3%の範囲である。冷却後、素材を人工時効化して、好ましくはT7状態、より好ましくはT7x51状態を提供する。
【0057】
次いで、これらの熱処理したプレートの切片から、より一般的には、例えば、人工時効後に、所望の構造形状または最終製品に近い構造形状に機械加工する。
【0058】
押し出し工程または鍛錬加工工程で作製する切片の製造において、続いて、SHT、急冷、任意選択の応力緩和操作、及び人工時効も行う。
【0059】
本発明を、本発明による非限定的な例を参照して例示する。
【0060】
実施例1.
6つの異なるアルミニウム合金の圧延インゴットを製造する工業規模では、1260×440mmの寸法を有する合金A3を除いて、1470×440mmの寸法と数メートルの長さでDC鋳造されている。アルミニウム組成物(重量%)は、表2に記載されており、合金A1、A2及びA3は比較用の合金であり、合金A4、A5及びA6は本発明による合金である。合金A1はAA7475、合金A2はAA7181及び合金A3はAA7010の組成範囲内にある。当技術分野で通常行われているように、インゴットの応力を緩和し、続いて2工程の均質化熱処理を行う。合金A1は、470℃で2時間、続いて495℃で15時間均質化し、合金A2~A6は、それぞれ470℃で12時間、続いて475℃で25時間均質化した。ロジスティック上の理由から、均質化後のインゴットを、当技術分野で通常の冷却速度を使用して周囲温度に冷却し、スカルピングして、インゴットの平坦性を向上させ、鋳造表面を除去し、410℃に再加熱し、次に複数回の圧延工程で熱間圧延して100mm厚の圧延製品とした。熱間圧延プレート製品から部分サンプルを取り出し、実験室規模の炉で470℃、24時間熱処理し、冷水で急冷した。続いて、サンプルを120℃で5時間、続いて165℃で15時間、人工時効化した。適用した人工時効化の慣行により、圧延製品は、T76質別となる。次に、人工時効化した材料から、部分サンプルを関連する場所から取り出して機械加工し、適切な基準に従って試験するための寸法にした。
表2. 試験した6つの合金の合金組成(重量%)。残部はアルミニウムと不可避的不純物によって構成される。
【0061】
L方向及びST方向の機械的特性(引張降伏強度(TYS)、引張強度(UTS)、及び伸びA50mm)は、適用される規格EN2002-1に従って1/4の厚さで決定された。3つのサンプルの平均を表3に示す。
【0062】
170MPaの厚さ方向(ST)応力レベルで、ASTM G47-98に準拠して測定する応力腐食割れ(SCC)による破損のない最小寿命(日)を試験した。結果は表3にも記載されており、すべてのサンプルは、破損することなく30日を上回る寿命を有していた。
【0063】
また、荷重制御疲労試験で試験したCTサンプル上で、L-S方向のASTM E647-13e01に準拠した、室温、標準大気での亀裂伝播試験による、亀裂偏向のない最小K
max-dev値も試験した(亀裂偏向は、意図した破壊面から20°を超えて偏向する亀裂として定義される)。本明細書中で使用する場合、「亀裂偏向耐性」は、「Standard Test Method for Measurement of Fatigue Crack Growth Rates」(「ASTM E647」)と題されたASTM E647-13e01に従って少なくとも3つのC(T)試験片を調製することによって決定される。少なくとも3つのC(T)試験片は、L-S方向に材料の幅/3~2×幅/3で取り、試験片の「B」寸法は6.35mm(0.25インチ)であり、試験片の「W」寸法は少なくとも25mm(0.98インチ)であり、T/2位置から取る。試験片を、ASTM E647の定荷重振幅試験法に従って試験し、R=0.1(P
分/P
max)、大気または高湿度空気、室温とする。予亀裂はASTM E647のすべての有効性要件を満たしていなければならず、予亀裂の生成はASTM E647の要件に従って実施しなければならない。K
max>10MPa√m.(9.098ksi√インチ)を使用して試験を開始し、開始力は、ASTM E647 C(T)試験片の有効性要件((W-a)≧(4/π)*(K
max-dev/TYS)
2)がもはや試験に適合しなくなる前に亀裂偏向が生じるのに十分な大きさでなければならない。試験は、最大で亀裂偏向のポイントまでASTM E647に従って有効でなければならない。C(T)試験片の亀裂が意図した破壊面から任意の方向に実質的に(例えば、20~110°)ずれる場合、亀裂は「偏向」し、その偏向は、意図しない破壊面に沿った試験片の分離をもたらす。偏向時の平均亀裂長さ(a
dev)は、2つの表面値(前面と背面の値)の平均を使用して導出される。K
max-devは、C(T)試験片に対する、偏向時の平均亀裂長さ(a
dev)、最大加力(P
max)、及びASTM E647 A1.5.1.1に準拠した応力拡大係数の式を使用して計算された最大応力拡大係数である(注:ΔKとΔPは、ASTM E6473.2.14で定義されるように、応力比関係R=K
min/K
max及び^K=K
max-K
minに従って、それぞれ、K
max-devとP
maxに置き換えるべきである)。
表3. 6つの合金すべての試験結果。
【0064】
表3の結果から、すべてのアルミニウム合金製品が優れたSCC耐性を備えていると理解することができ、これは、多くの航空宇宙用途で使用するための前提条件である。
【0065】
表3の結果から、合金A1は、亀裂偏向に対する優れた耐性と組み合わせて、非常に優れたSCC耐性を提供すると理解することができる。しかしながら、少なくともL方向の強度レベルは非常に低く、アルミニウム合金は特定の構造的航空宇宙用途の理想的な候補ではない。
【0066】
合金A2は、Zn含有量が有意に増加しており、L方向の強度レベルが高くなっている。しかしながら、亀裂偏向に対する耐性は、合金A1及び合金A3に比べて有意に低くなっている。
【0067】
合金A1に比べて、合金A3は少なくともZn含有量が高いため、L方向の強度も高くなっている。亀裂偏向に対する耐性は合金A1よりもわずかに低く、これは、強度の増加、特に引張降伏強度の増加に伴ってK
max,devが減少すると予想されるとおりである。本発明による合金A4、A5及びA6は、良好なSCC耐性、向上した強度レベル、及び亀裂偏向に対する向上した耐性の好ましい組み合わせを提供する。
図1には、試験したすべての合金のL方向のTYSに対するK
max,devをプロットしている。この図から、合金A6が最も好ましいバランスを提供していると理解することができる。
【0068】
本発明は、前術した実施形態に限定されるものではなく、添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の範囲内で広く変化し得る。