(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-18
(45)【発行日】2023-04-26
(54)【発明の名称】多結晶立方晶窒化ホウ素材料
(51)【国際特許分類】
C04B 35/5835 20060101AFI20230419BHJP
B23B 27/14 20060101ALI20230419BHJP
B23B 27/20 20060101ALI20230419BHJP
【FI】
C04B35/5835
B23B27/14 B
B23B27/20
(21)【出願番号】P 2022545818
(86)(22)【出願日】2021-01-29
(86)【国際出願番号】 EP2021052072
(87)【国際公開番号】W WO2021152068
(87)【国際公開日】2021-08-05
【審査請求日】2022-07-26
(32)【優先日】2020-01-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】517007574
【氏名又は名称】エレメント シックス (ユーケイ) リミテッド
(73)【特許権者】
【識別番号】522298082
【氏名又は名称】セコ ツールズ アクチボラグ
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【氏名又は名称】松田 七重
(72)【発明者】
【氏名】リンドヴァル レベッカ
(72)【発明者】
【氏名】キャン アンティオネット
(72)【発明者】
【氏名】ムサオウビ ラシド
(72)【発明者】
【氏名】レンリック フィリップ エルンスト
(72)【発明者】
【氏名】ブシュルヤ ヴォロディミール
(72)【発明者】
【氏名】ストール ヤン-エリク
【審査官】田中 永一
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-512300(JP,A)
【文献】特開2014-214065(JP,A)
【文献】特表2007-523043(JP,A)
【文献】特開昭59-050076(JP,A)
【文献】特開平05-117037(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0174494(US,A1)
【文献】欧州特許出願公開第02778146(EP,A1)
【文献】特開昭55-119150(JP,A)
【文献】国際公開第2020/009117(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/5835
B23B 27/14
B23B 27/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多結晶立方晶窒化ホウ素(PCBN)材料であって、
-70から95体積%の立方晶窒化ホウ素(cBN)微粒子と;
-前記cBN微粒子が分散し、含有量が前記PCBN材料の5体積%から30体積%であるバインダマトリックス材料と;
を含み、
-前記バインダマトリックス材料が少なくとも50体積%の金属成分を含み、
-前記金属成分がクロム又はその化合物を前記バインダマトリックス材料の19から50質量%の量で含み、前記金属成分が前記バインダマトリックス材料の15から50質量%の量で存在するバナジウム(V)を更に含む、
多結晶立方晶窒化ホウ素(PCBN)材料。
【請求項2】
Crが前記バインダマトリックス材料の19から40質量%の量で存在する、請求項1に記載のPCBN材料。
【請求項3】
Crが前記バインダマトリックス材料の15から30質量%の量で存在する、請求項1に記載のPCBN材料。
【請求項4】
Crが前記バインダマトリックス材料の20から30質量%の量で存在する、請求項2
又は3に記載のPCBN材料。
【請求項5】
Crが前記バインダマトリックス材料の30から40質量%の量で存在する、請求項2に記載のPCBN材料。
【請求項6】
セラミックス成分を更に含み、前記セラミックス成分が二ホウ化チタン(TiB
2)を含む、請求項1から
5のいずれか一項に記載のPCBN材料。
【請求項7】
前記TiB
2が前記バインダマトリックス材料の2から10質量%の量で存在する、請求項
6に記載のPCBN材料。
【請求項8】
前記TiB
2が前記バインダマトリックス材料の2から5質量%の量で存在する、請求項
7に記載のPCBN材料。
【請求項9】
75から92体積%のcBN微粒子を含む、請求項1から
8のいずれか一項に記載のPCBN材料。
【請求項10】
80から93体積%のcBN微粒子を含む、請求項1から
8のいずれか一項に記載のPCBN材料。
【請求項11】
Vが前記バインダマトリックス材料の15から20質量%の量で存在する、請求項1から
10のいずれか一項に記載のPCBN材料。
【請求項12】
Vが前記バインダマトリックス材料の20から30質量%の量で存在する、請求項1から
10のいずれか一項に記載のPCBN材料。
【請求項13】
Vが前記バインダマトリックス材料の30から40質量%の量で存在する、請求項1から
10のいずれか一項に記載のPCBN材料。
【請求項14】
前記バインダマトリックス材料がアルミニウム又はその化合物、及び/或いはチタン又はその化合物を更に含む、請求項1から
13のいずれか一項に記載のPCBN材料。
【請求項15】
アルミニウム(Al)又はその化合物が前記バインダマトリックス材料の2から15体積%、好ましくは5から15体積%、より好ましくは5体積%の量で存在する、請求項
14に記載のPCBN材料。
【請求項16】
チタン、その合金又は化合物を機械加工するときに使用するための、請求項1から
15のいずれか一項に記載のPCBN材料を含むツール。
【請求項17】
チタンを含む合金又は化合物の機械加工における請求項
16に記載のツールの使用。
【請求項18】
チタンを含む前記合金又は化合物がTi6Al4Vである、請求項
17に記載のツールの使用。
【請求項19】
前記ツールの切削速度(V
c)が150から300m/分である、請求項
17又は
18に記載のツールの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、焼結多結晶立方晶窒化ホウ素材料の分野に関し、該材料を作製する方法に関する。特に、本開示は、焼結多結晶立方晶窒化ホウ素材料を使用したチタン合金の機械加工に関する。
【背景技術】
【0002】
チタン合金は独自の組合せの材料特性を有し、一般的に航空宇宙、自動車、化学及び医療産業など、厳しい環境において使用される構成部品の第1の選択材料である。チタン合金の最も重要な6つの材料特性は、高強度重量比、耐食性、低熱膨張、低弾性係数、低熱伝導率、及び高温で高強度を維持する能力である。
しかし、このような特性はチタン合金を難削剤とし、高い製造コストに苦しむ製造業者にとっては問題である。急激なツールの摩耗、切削ツールの突発的故障又は塑性変形を回避するために、低生産率となる。
明白な例として低弾性係数は、びびりを引き起こすことが知られている。低熱伝導率及び高温で高強度を維持する能力により、切れ刃は高温となる。チタン合金の7つ目の不都合な特性は、ツール材料との強い化学反応性であり、高いツール温度と共に、切削ツールを急激に劣化させる。
チタン合金を機械加工するときに見られる主な摩耗形態は、クレータ摩耗、逃げ面/ノーズ摩耗、ノッチング、クラッキング、チッピング、塑性変形及び突発的故障である。クレータ形成は一般的に拡散又は溶出摩耗(dissolution wear)機構に起因し、これらの摩耗では滑らかな摩耗表面が観察される。更に、摩擦は高切削温度でのツール材料の軟化による逃げ面摩耗の発生と連動する。
PCBNは高温で高硬度を維持することができるため、チタン合金を機械加工する上での評判が高まっている。しかし、PCBN材料は超硬合金工具と比較してコストが高い。費用効果を高くするため、これらはより高い生産性、例えば高切削速度及び高い切削率を示す必要がある。
これらの要望を満たすため、機械加工動作中のツール寿命を改善する特性を高めたPCBN材料の必要性がある。
【発明の概要】
【0003】
本発明の目的は、極端な条件下で良好に機能し、チタン合金を機械加工する実行可能な代替材料を開発することである。
【0004】
本発明の第1の態様によれば、多結晶立方晶窒化ホウ素(PCBN)材料であって、
-70から95体積%の立方晶窒化ホウ素(cBN)微粒子と;
-cBN微粒子が分散し、含有量がPCBN材料の5体積%から30体積%であるバインダマトリックス材料と;
を含み、
-バインダマトリックス材料が少なくとも50体積%の金属成分を含み、
-金属成分がクロム又はその化合物をバインダマトリックス材料の19から50質量%の量で含む、
多結晶立方晶窒化ホウ素(PCBN)材料を提供する。
第1の態様の好ましい及び/又は任意の特徴は、従属請求項2から17に示す。
本発明の第2の態様によれば、チタン、その合金又は化合物を機械加工するときに使用する、本発明の第1の態様に従うPCBN材料を含むツールを提供する。
本発明の第3の態様によれば、チタンを含む合金又は化合物を機械加工するときの、本発明の第2の態様に従うツールの使用を提供する。
第3の態様の好ましい及び/又は任意の特徴は、従属請求項20又は21に示す。
以下、例を通し、添付図を参照し、非限定的な実施形態を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0005】
【
図1】
図1は機械加工するときに使用する公知のツールホルダ及びツールインサートの斜視図である。
【
図2】
図2は
図1のツールホルダで使用するのに好適なPCBN材料で作製したツールインサート例である。
【
図3】
図3は本発明に従ってPCBN材料を作製するプロセスの一つの実施形態を示すフローチャートである。
【
図4】
図4はミル焼鈍状態のTi6Al4Vの微細構造を示す走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【
図5】
図5は参考(市販)のPCBN材料の微細構造を示すSEM写真である。
【
図6】
図6は参考のPCBN材料のケースcにおける逃げ面摩耗の光学画像である。
【
図7】
図7は参考のPCBN材料のケースdにおける逃げ面摩耗の光学画像である。
【
図8】
図8は参考のPCBN材料のケースc及びdで得られるツールの未摩耗状態での平均切削力を示す棒グラフである。
【
図9】
図9は参考のPCBN材料による機械加工中の連結時間の経過に伴う逃げ面摩耗及び表面粗さの展開を示す散布図である。
【
図10】
図10は参考のPCBN材料による機械加工中に得られる切削力(平均切削力、送り力、パッシブ力(passive force))を示す線グラフである。
【
図11】
図11は参考のPCBN材料から作製され、摩耗したPCBNツールのSEM画像であり、チップフロー(chip flow)の矢印を示す。
【
図12】
図12は
図10の摩耗したツールのSEM画像であり、逃げ面におけるワークピース材料の付着した層を示す。
【
図13】
図13a)-c)はa)摩耗したPCBNのすくい角、(b、c)露出したPCBNツール材料の局所的な箇所の反射電子像である。
【
図14】
図14a)-c)はa)エッチング後の摩耗した参考ツール、b)エッジのチッピング、及びc)マイクロクラックのSEM画像である。
【
図15】
図15は摩耗した参考のPCBN材料におけるクレータから抽出したラメラのSTEM HAADF画像である。
【
図16】
図16a)-d)はPCBNのラメラにおけるゾーン1のXEDS元素マップである。
【
図17】
図17a)-f)はcBN-Ti6Al4V界面のSTEM HAADF画像、及び各XEDSラインスキャンデータである。
【
図18】
図18はcBN-Ti6Al4V界面のa)フォールスカラーのSAEDパターン、及びb)フォールスカラーの暗視野TEM画像を5枚重ねた画像である。
【
図19】
図19a)-g)はPCBNのラメラにおけるゾーン2のXEDS元素マップである。
【
図20】
図20a)-m)はゾーン2におけるバインダプール付近にあるcBN-Ti6Al4V界面のSTEM HAADF画像、及び各XEDS元素マッピング及びラインスキャンデータである。
【発明を実施するための形態】
【0006】
図1を参照し、チタン合金を機械加工するためのツールモジュールを通常10に示す。ツールモジュール10は例えばミル又は旋盤上のツールアセンブリ(図示せず)に接続可能である。ツールモジュール10は、細長いツールホルダ12及び切削ツール14の例を含み、ツール14はツールホルダ12の一端に取り外し可能に取り付けられる。ツール14の上面16は可動クランプ18で適所に保持される。このクランプは典型的にスプリングバイアスで上面16に作用する。
図2は切削ツール20の第2の例を示す。典型的に機械加工ツールは、多結晶ダイヤモンド(PCD)又は多結晶立方晶窒化ホウ素(PCBN)などの多結晶材料で作られる。
【0007】
図3は、本発明に従ってPCBN材料を作製する工程例を示すフローチャートである。以下の数字は
図3と一致する。
S1.マトリックス前駆体粉末を提供する。マトリックス前駆体粉末は金属成分、及び任意にセラミックス成分を含む。金属成分はチタン(Ti)、バナジウム(V)及び/又はクロム(Cr)を含む。チタンをチタン含有合金状で提供してよい。このような実施形態において、好ましくはチタン含有合金の5から10質量%がチタンである。或いは、チタンを元素又は化合物状で提供してよい。マトリックス前駆体粉末に関する情報を以下に記載する。
任意に、マトリックス前駆体粉末は、セラミックス成分である二ホウ化チタン(TiB
2)を含んでよい。
S2.マトリックス前駆体粉末を摩擦粉砕する。これは密な混合物を形成し、所望の微粒子径が得られる。
S3.粉砕したマトリックス前駆体微粒子にcBN微粒子を添加する。好ましくは、cBN微粒子はサブミクロンから5μm、好ましくは2μm未満の平均径を有する。ISO標準4499-2:2010によれば、「サブミクロン」は0.5から0.8μmの径を有することが理解される。
S4.その後、粉砕したマトリックス前駆体微粒子及びcBN微粒子を混合する。好ましくは、高エネルギせん断プロセスを用いる。
S5.粉砕したマトリックス前駆体粉末を成形して、高圧高温(HPHT)カプセルに入れる前に金属封止でグリーン体を形成する。圧縮してグリーン体の密度を増加させ、焼結後の寸法変化が小さくなるのを回避する。
S6.炭化物体を成形したグリーン体に接触させて配置し、続いて基板を形成する。炭化物体のコバルト(Co)含有量は5から10質量%、好ましくは7から8質量%である。
工程S5及びS6は、どちらの順番に行ってもよい。
S7.次に、グリーン体を高温真空熱処理に付した後、HPHTカプセルで焼結する。
2から6GPaの圧力、1300℃から1600℃の温度で材料を焼結した。圧力は2から5GPaでよく、或いは圧力は4から5.5GPaである。
焼結温度はS型熱電対を使用して測定した。
S8.焼結後、結果として生じる焼結品を室温まで冷却する。冷却速度は制御しない。
焼結PCBN材料は、上記S1で使用するマトリックス前駆体材料に応じて、Cr、Ti、TiB
2及び/又はVの量を増加させたバインダを特徴とする。
その後、焼結PCBN材料の様々なサンプルを適用試験のために採取した。これらのサンプルを参考(市販)のPCBN材料に対して評価した。
【0008】
適用試験
SMT Sajo 500 Swedturn CNC旋盤を使用し、Ti6Al4Vワークピース材料に70kWのモータ力、4000rpmまでの主軸回転速度で縦方向の旋削を実施した。
仕上げ条件下で機械加工を実施した。切削パラメータを表1に示す。
【表1】
表1
高圧局部冷却(high pressure directed cooling)(HPDC)システムは、8%油-水エマルジョンと共に切削ツールのすくい面に向けて90バールの圧力でクーラントを供給した。HPDCシステムを使用してツール寿命を長くし、チップ破損の問題を低減し、チップの発火を回避する。キスラーの9129A型圧電3成分動力計を使用し、直交する切削力成分を機械加工中に得た。この動力計は、キスラー5070増幅器及びナショナルインスツルメンツ9223ADCを介してコンピュータに連結した。
【0009】
ワークピース材料の化学組成及び機械特性を表2及び表3に示す。
【表2】
表2
【表3】
表3
【0010】
ワークピース材料をミル焼鈍状態(HRC31)で供給し、その微細構造を
図4に示す。
各切削ツールをDCMW11T304F-L1インサート形状で製造し、SDJCL3225P11JETツールホルダに組み立て、主切れ刃角93°、逃げ角7°、すくい傾斜角(rake and inclination angle)0°とした。ツールは鋭く、平均切れ刃半径r
β=4μmであった。
摩耗基準VB=300μmに達するまで、逃げ面摩耗及び表面粗さを機械加工中連続して測定した。オリンパスSZX7光学実体顕微鏡を用いて測定を行った。次に、表面を95%エタノールできれいにし、クーラントの残渣を除去した。表面粗さ値R
aをMarSurf PS1を用いてワークピースの表面で測定した。ツール寿命の終わりにアリコナのInfinite Focus3D光学顕微鏡でクレータ摩耗を調査した。更に、摩耗した切削ツールをTescan Mira3 SEMで検査した。
表4の性質を有するHF系エッチャントを使用して摩耗した切削ツール及びワークピース材料のエッチングを行った。切削ツールを混合物に3.5分間浸漬して付着したチタン合金を除去した。ワークピース材料の研磨したサンプルを200μlで2分間エッチングし、微細構造の画像化に使用した。摩耗したツールの3D測定及びSEM検査をエッチング後に繰り返した。
【表4】
表4
デュアルビームFIB-SEM,FEI Nova Nanolab600を使用してリフトアウト手順によりエッチングしていない切削ツールの透過型電子顕微鏡(TEM)試料を調製した後、ラメラを電子透過まで薄くした。オックスフォードのXEDS検出器を備えた日本電子の3000F電界放出形透過電子顕微鏡を用いて、TM、XEDS及び制限視野電子回折(SAED)分析を行った。
【0011】
参考材料
85体積%の立方晶窒化ホウ素(cBN)微粒子及び15体積%のバインダを含む参考(市販)のPCBN材料を使用して適用試験を実施した。バインダ相の組成は下記表5に示す。
【表5】
表5
参考のPCBN材料の微細構造を
図5に示す。
下記実施例はすべてS1からS7を参照して、上記工程後に作製した。
【0012】
実施例1
85体積%の立方晶窒化ホウ素(cBN)微粒子及び15体積%のバインダを含む実施例1のPCBN材料を使用して適用試験を実施した。実施例1のバインダ相は、参考のPCBN材料(10質量%未満のCrを有する)と類似しているが、2から5質量%のTiB2も含有する。
実施例2
85体積%の立方晶窒化ホウ素(cBN)微粒子及び15体積%のバインダを含む実施例2のPCBN材料を使用して適用試験を実施した。実施例2のバインダ相は、参考のPCBN材料と類似しているが、Cr量を増加させた。Crはバインダマトリックス材料の10質量%の量で存在した。
実施例3
85体積%の立方晶窒化ホウ素(cBN)微粒子及び15体積%のバインダを含む実施例3のPCBN材料を使用して適用試験を実施した。実施例3のバインダ相は、参考のPCBN材料と類似しているが、Cr量を著しく増加させた。Crはバインダマトリックス材料の20質量%の量で存在した。
実施例4
85体積%の立方晶窒化ホウ素(cBN)微粒子及び15体積%のバインダを含む実施例4のPCBN材料を使用して適用試験を実施した。実施例4のバインダ相は参考のPCBN材料と類似しているが、Cr量を著しく増加させた。Crはバインダマトリックス材料の30質量%の量で存在した。
実施例5
85体積%の立方晶窒化ホウ素(cBN)微粒子及び15体積%のバインダを含む実施例5のPCBN材料を使用して適用試験を実施した。実施例5のバインダ相は実施例2と類似しているが、TiB2を添加した。TiB2はバインダマトリックス材料の5質量%の量で存在した。
実施例6
85体積%の立方晶窒化ホウ素(cBN)微粒子及び15体積%のバインダを含む実施例6のPCBN材料を使用して適用試験を実施した。実施例6のバインダ相は実施例3と類似しているが、TiB2を添加した。TiB2はバインダマトリックス材料の5質量%の量で存在した。
実施例7
85体積%の立方晶窒化ホウ素(cBN)微粒子及び15体積%のバインダを含む実施例7のPCBN材料を使用して適用試験を実施した。実施例7のバインダ相は実施例4と類似しているが、TiB2を添加した。TiB2はバインダマトリックス材料の5質量%の量で存在した。
【0013】
実施例8
85体積%の立方晶窒化ホウ素(cBN)微粒子及び15体積%のバインダを含む実施例8のPCBN材料を使用して適用試験を実施した。実施例8のバインダ相は実施例2と類似しているが、Vを添加した。Vはバインダマトリックス材料の17質量%の量で存在した。
実施例9
85体積%の立方晶窒化ホウ素(cBN)微粒子及び15体積%のバインダを含む実施例9のPCBN材料を使用して適用試験を実施した。実施例9のバインダ相は実施例2と類似しているが、Vを添加した。Vはバインダマトリックス材料の25質量%の量で存在した。
実施例10
85体積%の立方晶窒化ホウ素(cBN)微粒子及び15体積%のバインダを含む実施例10のPCBN材料を使用して適用試験を実施した。実施例10のバインダ相は実施例2と類似しているが、Vを添加した。Vはバインダマトリックス材料の35質量%の量で存在した。
実施例11
85体積%の立方晶窒化ホウ素(cBN)微粒子及び15体積%のバインダを含む実施例11のPCBN材料を使用して適用試験を実施した。実施例11のバインダ相は実施例5と類似しているが、Vを添加した。Vはバインダマトリックス材料の17質量%の量で存在した。
実施例12
85体積%の立方晶窒化ホウ素(cBN)微粒子及び15体積%のバインダを含む実施例12のPCBN材料を使用して適用試験を実施した。実施例12のバインダ相は実施例5と類似しているが、Vを添加した。Vはバインダマトリックス材料の25質量%の量で存在した。
実施例13
85体積%の立方晶窒化ホウ素(cBN)微粒子及び15体積%のバインダを含む実施例13のPCBN材料を使用して適用試験を実施した。実施例13のバインダ相は実施例5と類似しているが、Vを添加した。Vはバインダマトリックス材料の35質量%の量で存在した。
【0014】
更なる実施例
追加の実施例の組成を以下の表6に示す。各サンプルには<5質量%のAl、<5質量%のFe、<1質量%のTi、<20質量%のCo、<60質量%のNi、<1質量のCu、<5質量%のNb、<20質量%のMo、<20質量%のWが含まれた。表6に挙げる成分に加えてこれらの成分が含まれる。
【表6】
表6
【0015】
結果
性能及び挙動
表7は参考のPCBN材料を機械加工する間に到達するツール寿命、連結距離、材料除去率(MMR)及び最大表面粗さ(Ra)を示す。異なる2つの切削速度で試験を行ったため、c及びdの2つのケースを実施した。
【表7】
表7
切削速度300m/分(ケースc)で機械加工すると、350m/分(ケースd)と比較して、PCBNツール寿命はほぼ2倍であった。同様に、生じた表面粗さをツール寿命基準として用いると、やはり切削速度が低い(ケースc)ほど好ましい。
図6及び7(同じスケール)は、摩耗基準に達したか、超えた場合のケースc)及びd)の逃げ面摩耗の光学画像を示す。参考のPCBN材料を用いてVc=350m/分で機械加工すると、エッジのチッピング及び摩耗ランド(wear land)に沿った破壊によるツールの破損が起こった。
【0016】
摩耗形態
図8は、未摩耗状態である参考のPCBNツールを機械加工するときの切削力の値を示す。切削速度はどちらのケースでも切削力への影響がごくわずかであることがわかる。プロセス温度及び材料軟化が漸近値にほぼ等しく、すでに高いレベルにあることによる可能性が最も高い。
図9は、エッジのチッピングが起こり、クレータ摩耗が開始した後、PCBNの逃げ面摩耗がより速く増加することを示す。
図10は、機械加工中の平均切削力の展開を示す。送り力及びパッシブ力は、特にクレータ摩耗の開始後に増加して主切削力より大きくなる。これは、ツールの面取りによる負のすくい角の形成に関する可能性が最も高いと考えられる。従って、パッシブ切削力が他の力に対して、最も増加する。参考のPCBN材料を用いると、平均パッシブ力は初期値から9倍増加した。
図11は、摩耗した参考のPCBN材料のSEM画像を示し、チップフローには矢印で印を付ける。付着したワークピース材料は接触領域のほぼ全体を覆い、エッジのチッピング又は破壊(facture)等の他の種類のツール損傷を隠す場合がある。付着した層の厚みをクレータ内で測定することはできないが、
図12は、逃げ面側の最大厚みが約20μmであることを示す。
図13に見られる過剰な付着のため、摩耗したPCBNの逃げ面の分析から得られる情報は限られる。周囲圧力条件下、露出したPCBNのほんのわずかな小さな点がエッジ線付近に見える。
ツールのエッジにおいてTi6Al4Vの程度が多いため、参考のPCBNツールのエッチングを行い、
図14に示す実際のツールの摩耗形態を明らかにした。明らかなエッジのチッピング(
図14a)及び逃げ面摩耗ランドにおける亀裂が起こった(
図14b)。摩耗したツールの更なる分析は、エッジ線付近のすくい面上にマイクロクラックの存在を明らかにしており(
図14c)、エッジのチッピングを引き起こす可能性が高い。摩耗表面のクローズアップ分析では、高いバインダ含有量にも関わらず、バインダ位置においてマイクロクレータの形成が観察されないことも示され、従って機械加工条件下でPCBNバインダが液化しないことを示唆する。
【0017】
摩耗機構
クレータ形成、逃げ面摩耗、亀裂及びエッジのチッピングは、PCBNツールにおける主な摩耗形態である。クレータ形成に関する摩耗機構は拡散であることが示唆され、STEM、XEDS及び電子線回折研究を実施した。FIBライフアウト(FIB-life out)手順により、クレータからTEMラメラを抽出した。その位置を
図13a)に示す。なお、ラメラはツールのエッチング前に抽出した。ラメラを電子透過まで薄くし
図15に示す。
図15は付着したワークピース材料、多数のcBN粒子及びバインダ相を示している。強調したcBN-Ti6Al4V界面を含む1つのゾーン(ゾーン1)、及びバインダ-Ti6Al4V界面を含む別のゾーン(ゾーン2)の2つの詳細な分析を行った。
ゾーン1のXEDS分析を
図16に示す。チタン及びバナジウム信号はホウ素信号とわずかに重なっていることが分かり(
図16a-16b)、化学反応生成物の形成又はホウ素の外方拡散を潜在的に示す。チタン(バナジウムも)及び窒素信号(
図16c)は重ならないが、実質的に界面に直接接触している。この状況はアルミニウム(
図16d)の場合では異なり、40から50nmのギャップがアルミニウム及び窒素信号間に形成される。このようなギャップは、アルミニウムを含まない反応生成物の形成、又はバナジウムにより安定化され、アルミニウムを含まないβチタンの存在を示す場合がある。αチタンがホウ素及び窒素により安定化されるため、後者は除外することができる。
ゾーン1における界面を横断するXEDSラインスキャン(
図17)は、各すべての信号の直線的減少を示し、TEMサンプルにおける界面の傾きを示す。しかし、窒素信号は明確な段階を有し(
図17の矩形破線を参照)、反応生成物の存在を潜在的に示す。
アルミニウム信号が他の元素を基準としてシフトしていることがデータでも確認され、相互作用に参加していないことを示す。界面領域における強いホウ素信号がより一層明確であり、ホウ化物の適当な形成が示唆される。ホウ素は界面を出て、約100nm離れたワークピース材料まで及ぶことも見られるため、cBNの実際の摩耗機構としてホウ素及び窒素の拡散溶解が確認される。
【0018】
最小絞り120nmを用いて実施した制限視野回折(SAED)は、HCPαチタン、立方晶窒化ホウ素の存在を示す(
図18a)が、二ホウ化チタン(TiB
2)に相当する空間群191を有する(囲まれた)相の弱い反射信号も示す。XEDS及びSAEDデータを組み合わせると、チタン及びバナジウムのホウ化物の固溶体である(Ti,V)B
2の形成を結論づけることができる。
図18bは、(Ti,V)B
2、cBN及びα-Tiの各相からの複数の反射を含む手段として、最小回折面(対物)絞りで撮影した5枚の暗視野TEM画像を重ねた画像を示す。ホウ化物反応生成物はナノメータサイズであり(30~50nm)、界面上に直接位置し、cBN表面に連続膜を作製することがわかる。従って、機械加工プロセス中に原位置で形成されるこれらの反応生成物は、付着したTi6Al4VへのcBNの拡散溶解を妨害する拡散障壁として作用する。更なるTEMラメラのFIBによる薄層化により、
図17の矩形破線として示される界面の傾きの影響を回避した。ナノビーム回折データにより窒化物の反応生成物がないことを確認したため、(Ti,V)B
2が化学相互作用の唯一の生成物であることを示している。
バインダも存在する相互作用域を調査するため、ゾーン2のXEDSも
図19に示すように実施した。Ti及びVの侵入は、cBN界面レベルよりも深いバインダ領域で起こることがわかる。これは、バインダの溶出率がcBNよりも高いことを示す。特に、約100nmのバインダプールはニッケルを欠いており、一方クロムは安定しており、XEDSデータはTi及びVとの重なりを示す。この重なり領域内にアルミニウム信号が無ければ、
図16に示すような類似の機構を示し、Ti、V及びCrの混合ホウ化物が形成されることを意味する。
更に薄層化されたラメラのゾーン2の一側で実施したXEDSマッピング及びラインスキャン(
図20)は、Crが元々のバインダプール内に留まるだけでなく、隣接するcBN-Ti6Al4V界面に沿って広がり、Ti及びVとの固溶体を作製することを示す。従って、(Ti,V,Cr)B
2の形成が確認される。
これは、クロム系バインダが拡散侵食に良好に耐えることができ、PCBNツールに対する保護の作製及び安定化に寄与することを示す。ゾーン1及びゾーン2のデータ(
図15)は、反応生成物の連続保護層がcBN及びバインダ界面を含むpcBNツール表面に形成されることを示す。
【0019】
実施例1-33
参考のPCBN製品を分析して得た知識を利用するため、連続保護層を制御、強化するように、実施例1から33の材料を調製した。
反応生成物から形成される連続保護層の効果を増強するために、表6に示す添加剤は焼結前にマトリックス前駆体粉末に含まれた。
TEM、ZEDS及びナノビーム回折研究は、(Ti,V)B2保護層がcBN-Ti6Al4V界面上に形成されること、(Ti,V,Cr)B2保護層がバインダ領域に形成されることを示している。実施例1~33はすべて、試験で摩耗性能の改善を示した。
実施形態を参照して本発明を具体的に示し、説明してきたが、当業者は添付の特許請求の範囲で定められる本発明の範囲を逸脱することなく、形状や細部の様々な変更を行うことができることを理解するであろう。
【0020】
定義
本明細書で使用するとき、「PCBN」材料はある種の超硬度材料を指し、cBN粒子が金属又はセラミックスを含むマトリックス内に分散している。PCBNは超硬度材料の一例である。
本明細書で使用するとき、「マトリックス材料」は、多結晶構造内の孔、隙間又は格子間領域を全体的に又は部分的に満たすマトリックス材料を意味することが理解される。
「マトリックス前駆体粉末」という用語は、高圧高温焼結プロセスに付されると、マトリックス材料となる粉末を指すのに使用される。
特許請求の範囲は平均微粒子径を参照する。これは円相当径(ECD)技術を用いて測定される。複数の遊離、未結合、及び非凝集粒子のECD分布は、レーザー回折により測定することができ、粒子は入射光路に不規則に配置され、粒子による光の回折から生じる回折パターンが測定される。複数の球状粒子により生成されているかのように、回折パターンを数学的に解釈してよい。球状粒子の径分布はECD換算で計算、報告される。粒径分布の態様は、様々な統計的特性の観点から、様々な用語及び記号を用いて表してよい。このような用語の特定の例としては、平均、中央及び並数が挙げられる。径分布は、一連の各径のチャネルに相当する一組の値Diであると考えることができる。各Diはそれぞれのチャネルiに相当する幾何学的平均ECD値であり、iは1から使用するチャネル数nの整数である。
次に、本発明の好ましい態様を示す。
1. 多結晶立方晶窒化ホウ素(PCBN)材料であって、
-70から95体積%の立方晶窒化ホウ素(cBN)微粒子と;
-前記cBN微粒子が分散し、含有量が前記PCBN材料の5体積%から30体積%であるバインダマトリックス材料と;
を含み、
-前記バインダマトリックス材料が少なくとも50体積%の金属成分を含み、
-前記金属成分がクロム又はその化合物を前記バインダマトリックス材料の19から50質量%の量で含む、
多結晶立方晶窒化ホウ素(PCBN)材料。
2. Crが前記バインダマトリックス材料の15から40質量%又は15から30質量%の量で存在する、上記1に記載のPCBN材料。
3. Crが前記バインダマトリックス材料の15から20質量%の量で存在する、上記2又は3に記載のPCBN材料。
4. Crが前記バインダマトリックス材料の20から30質量%の量で存在する、上記2又は3に記載のPCBN材料。
5. Crが前記バインダマトリックス材料の30から40質量%の量で存在する、上記2又は3に記載のPCBN材料。
6. セラミックス成分を更に含み、前記セラミックス成分が二ホウ化チタン(TiB
2
)を含む、上記1から5のいずれか一項に記載のPCBN材料。
7. 前記TiB
2
が前記バインダマトリックス材料の2から10質量%の量で存在する、上記6に記載のPCBN材料。
8. 前記TiB
2
が前記バインダマトリックス材料の2から5質量%の量で存在する、上記7に記載のPCBN材料。
9. 75から92体積%のcBN微粒子を含む、上記1から8のいずれか一項に記載のPCBN材料。
10. 80から93体積%のcBN微粒子を含む、上記1から8のいずれか一項に記載のPCBN材料。
11. 前記金属成分がバナジウム(V)を更に含む、上記1から10のいずれか一項に記載のPCBN材料。
12. Vが前記バインダマトリックス材料の15から50質量%の量で存在する、上記11に記載のPCBN材料。
13. Vが前記バインダマトリックス材料の15から20質量%の量で存在する、上記12に記載のPCBN材料。
14. Vが前記バインダマトリックス材料の20から30質量%の量で存在する、上記12に記載のPCBN材料。
15. Vが前記バインダマトリックス材料の30から40質量%の量で存在する、上記12に記載のPCBN材料。
16. 前記バインダマトリックス材料がアルミニウム又はその化合物、及び/或いはチタン又はその化合物を更に含む、上記1から15のいずれか一項に記載のPCBN材料。
17. アルミニウム(Al)又はその化合物が前記バインダマトリックス材料の2から15体積%、好ましくは5から15体積%、より好ましくは5体積%の量で存在する、上記16に記載のPCBN材料。
18. チタン、その合金又は化合物を機械加工するときに使用するための、上記1から17のいずれか一項に記載のPCBN材料を含むツール。
19. チタンを含む合金又は化合物の機械加工における上記18に記載のツールの使用。
20. チタンを含む前記合金又は化合物がTi6Al4Vである、上記19に記載のツールの使用。
21. 前記ツールの切削速度(V
c
)が150から300m/分である、上記19又は20に記載のツールの使用。