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特許7265754多糖類誘導体の製造方法、及びリグニン誘導体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-19
(45)【発行日】2023-04-27
(54)【発明の名称】多糖類誘導体の製造方法、及びリグニン誘導体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08B 3/00 20060101AFI20230420BHJP
   C08B 3/10 20060101ALI20230420BHJP
【FI】
C08B3/00
C08B3/10
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019042767
(22)【出願日】2019-03-08
(65)【公開番号】P2020143250
(43)【公開日】2020-09-10
【審査請求日】2021-11-29
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成25年度、国立研究開発法人科学技術振興機構 研究成果展開事業 センター・オブ・イノベーションプログラム「革新材料による次世代インフラシステムの構築~安全・安心で地球と共存できる数世紀社会の実現~」委託研究開発、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504160781
【氏名又は名称】国立大学法人金沢大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 大祐
(72)【発明者】
【氏名】サムエル ブディ ワルダナ クスマ
(72)【発明者】
【氏名】伊奈 大希
(72)【発明者】
【氏名】和田 直樹
(72)【発明者】
【氏名】高橋 憲司
【審査官】前田 憲彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-074113(JP,A)
【文献】特開2010-104768(JP,A)
【文献】特開2007-007635(JP,A)
【文献】特表2012-519740(JP,A)
【文献】国際公開第2012/133003(WO,A1)
【文献】国際公開第2009/054462(WO,A1)
【文献】特開2011-184816(JP,A)
【文献】特開2012-207136(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08B 3/
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多糖類を含む原料を、カチオンがアゾリウムイオンであり且つアニオンの共役酸の真空中におけるpKaが1以上である少なくとも1種のイオン液体に溶解させ、アルデヒドと酸化的に反応させる工程を含む多糖類誘導体の製造方法。
【請求項2】
前記多糖類が、セルロースである請求項1に記載の多糖類誘導体の製造方法。
【請求項3】
前記反応が、酸素の存在下で行われる請求項1又は2に記載の多糖類誘導体の製造方法。
【請求項4】
前記アルデヒドが、α,β-不飽和アルデヒドであり、酸化剤を別途使用せずに反応が行われる請求項1又は2に記載の多糖類誘導体の製造方法。
【請求項5】
前記α,β-不飽和アルデヒドが、シンナムアルデヒドである請求項4に記載の多糖類誘導体の製造方法。
【請求項6】
カチオンがアゾリウムイオンであり且つアニオンの共役酸の真空中におけるpKaが1以上である少なくとも1種の前記イオン液体を、反応中に生成させる請求項1~5のいずれか一項に記載の多糖類誘導体の製造方法。
【請求項7】
リグニンを含む原料を、カチオンがアゾリウムイオンであり且つアニオンの共役酸の真空中におけるpKaが1以上である少なくとも1種のイオン液体に溶解させ、アルデヒドと酸化的に反応させる工程を含むリグニン誘導体の製造方法。
【請求項8】
前記反応が、酸素の存在下で行われる請求項7に記載のリグニン誘導体の製造方法。
【請求項9】
前記アルデヒドが、α,β-不飽和アルデヒドであり、酸化剤を別途使用せずに反応が行われる請求項8に記載のリグニン誘導体の製造方法。
【請求項10】
前記α,β-不飽和アルデヒドが、シンナムアルデヒドである請求項9に記載のリグニン誘導体の製造方法。
【請求項11】
カチオンがアゾリウムイオンであり且つアニオンの共役酸の真空中におけるpKaが1以上である少なくとも1種の前記イオン液体を、反応中に生成させる請求項7~10のいずれか一項に記載のリグニン誘導体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多糖類誘導体の製造方法、及びリグニン誘導体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酢酸セルロース等のセルロース誘導体は、熱可塑性プラスチック材料として有用である。このようなセルロース誘導体等の多糖類誘導体を製造する方法が種々検討されている。従来の多糖類誘導体の製造方法として、セルロースとエステル化剤とを、酸触媒の存在下、強烈な条件で反応させる古典的エステル化方法が知られている。この方法では、反応中にセルロースが分解して重合度が低下してしまい、得られるセルロース誘導体の機械的強度が低下するという問題点があった。
【0003】
また、多糖類誘導体の製造方法として、セルロースと、酸塩化物、酸無水物、活性エステル、不活性エステル等のアシル化剤との縮合反応によりセルロースエステルを製造する方法も知られている。例えば、(非特許文献1)には、セルロースを、1-エチル-メチルイミダゾリウムアセテート(EmimOAc)及びDMSOに溶解させ、不活性エステルであるイソプロペニルアセテート(IPA)を触媒的に活性化させることでアシル化剤として反応させる酢酸セルロースの製造方法が開示されている。このような不活性エステル等のアシル化剤を用いる方法では、活性化剤由来の廃棄物が発生するという問題があった。また、特に酸塩化物や酸無水物等は反応によって塩酸等の酸を廃棄物として生じるため、塩酸等をトラップするための塩基を過剰量加える必要があった。
【0004】
その他の多糖類誘導体の製造方法として、(特許文献1)には、多糖類、小糖類又は二糖類又は相応する誘導体を少なくとも1種のイオン液体に溶解させ、ケテンと反応させることを特徴とする、多糖類、小糖類又は二糖類又はその誘導体のアシル化法が開示されている。しかし、効率やコストの点で不十分であった。
【0005】
また、リグニンは、芳香族化合物からなる高分子化合物であり、多糖類(セルロース及びヘミセルロース)とともに、植物の細胞壁を構成する主要成分である。紙パルプ製造プロセス又はバイオエタノール製造プロセスの副生成物として得られるが、主に燃料として利用されているのみであり、その工業的利用は進んでいないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特表2009-540075号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】R. Kakuchi, et al., RSC Adv., 2017,7, 9423-9430(DOI: 10.1039/C6RA28659C)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述のように、従来の多糖類誘導体の製造方法は、酸触媒を用いるため、得られる誘導体が一部分解し、機械的強度が低下するという問題があった。また、別の多糖類誘導体の製造方法では、活性化剤の使用によって廃棄物が発生したり、塩基を別途加える必要があり、環境・コスト面での負荷が大きかった。
【0009】
さらに従来、リグニンの工業的利用は進んでおらず、したがって、リグニンを誘導体化させ、有用な材料に変換するための技術の開発が望まれていた。
【0010】
そこで本発明は、酸触媒等の試薬を用いる必要がなく、また、廃棄物を生じず、塩基も不要であるため環境・コスト面で有利な多糖類誘導体の製造方法を提供することを目的とする。
【0011】
また本発明は、酸触媒等の試薬が不要であり、環境・コスト面での負荷が小さいリグニン誘導体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らが鋭意研究を行った結果、多糖類あるいはリグニンを含む原料を、特定のイオン液体に溶解させ、アルデヒドと酸化的に反応させることによって上記課題が解決されることを見い出し、発明を完成した。すなわち、本発明の要旨は以下の通りである。
【0013】
(1)多糖類を含む原料を、カチオンがアゾリウムイオンであり且つアニオンの共役酸の真空中におけるpKaが1以上である少なくとも1種のイオン液体に溶解させ、アルデヒドと酸化的に反応させる工程を含む多糖類誘導体の製造方法。
(2)前記多糖類が、セルロースである上記(1)に記載の多糖類誘導体の製造方法。
(3)前記反応が、酸素の存在下で行われる上記(1)又は(2)に記載の多糖類誘導体の製造方法。
(4)前記アルデヒドが、α,β-不飽和アルデヒドであり、酸化剤を別途使用せずに反応が行われる上記(1)又は(2)に記載の多糖類誘導体の製造方法。
(5)前記α,β-不飽和アルデヒドが、シンナムアルデヒドである上記(4)に記載の多糖類誘導体の製造方法。
(6)カチオンがアゾリウムイオンであり且つアニオンの共役酸の真空中におけるpKaが1以上である少なくとも1種の前記イオン液体を、反応中に生成させる上記(1)~(5)のいずれか一つに記載の多糖類誘導体の製造方法。
(7)リグニンを含む原料を、カチオンがアゾリウムイオンであり且つアニオンの共役酸の真空中におけるpKaが1以上である少なくとも1種のイオン液体に溶解させ、アルデヒドと酸化的に反応させる工程を含むリグニン誘導体の製造方法。
(8)前記反応が、酸素の存在下で行われる上記(7)に記載のリグニン誘導体の製造方法。
(9)前記アルデヒドが、α,β-不飽和アルデヒドであり、酸化剤を別途使用せずに反応が行われる上記(8)に記載のリグニン誘導体の製造方法。
(10)前記α,β-不飽和アルデヒドが、シンナムアルデヒドである上記(9)に記載のリグニン誘導体の製造方法。
(11)カチオンがアゾリウムイオンであり且つアニオンの共役酸の真空中におけるpKaが1以上である少なくとも1種の前記イオン液体を、反応中に生成させる上記(7)~(10)のいずれか一つに記載のリグニン誘導体の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明の多糖類誘導体あるいはリグニン誘導体の製造方法は、酸触媒等を用いる必要がなく、そのため得られる誘導体の機械的強度を高く保持することができる。したがって、有用な熱可塑性プラスチック材料を提供することができる。また、反応に伴う廃棄物が発生せず、塩基等の追加の試薬も不要であるため環境・コスト面で優れている。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、実施の形態に基づき本発明を詳細に説明する。
まず、多糖類誘導体の製造方法について述べる。本実施形態に係る多糖類誘導体の製造方法は、多糖類を含む原料を、特定のイオン液体に溶解させ、アルデヒドと酸化的に反応させる工程を含む。
【0016】
多糖類としては、種々の多糖が適用可能であり、例として、セルロース、ヘミセルロース、デンプン、アガロース、ペクチン、キチン、キトサン等を挙げることができる。これらの多糖類は、構造の一部が置換されていても良い。例えば、セルロースの水酸基の一部がエステル化されているセルロース誘導体を原料として用いることができる。
【0017】
また、多糖類を含む原料として、セルロース等の多糖類を混合物として含む天然材料を用いても良い。このような材料の具体例としては、バガス(サトウキビ残渣)、タケ(竹パウダー)、ケナフ、スギ、ユーカリ等の木材、ギンナン等、あるいはこれらの2種以上の混合物等を挙げることができる。なお、これらの天然材料は、本実施形態の反応に先立って裁断、乾燥等、必要に応じて種々の前処理を施すことができる。
【0018】
本実施形態に適用可能なイオン液体は、カチオンがアゾリウムイオンであり、且つアニオンの共役酸の真空中におけるpKaが1以上である少なくとも1種である。なお、上記pKaとしては、Advanced Chemistry Development (ACD/ Laboratories) Software, version 11.02 (1994-2011 ACD/ Laboratories)による計算値を用いることができる。このイオン液体は、本実施形態の誘導体化反応において、セルロース等の多糖類を溶解する溶媒として用いられるとともに、強力な有機分子触媒として機能する。
【0019】
アゾリウムイオンは、窒素原子を含有するヘテロ5員環を有するカチオンであり、具体的には、イミダゾリウムイオン、トリアゾリウムイオン、テトラゾリウムイオン等が適用可能である。トリアゾリウムイオンとしては、1-メチルトリアゾリウム、1-エチルトリアゾリウム、1-プロピルトリアゾリウム、1-ブチルトリアゾリウムのイオン等を挙げることができる。また、テトラゾリウムイオンとしては、1-ブチル-3-メチルテトラゾリウムイオン等を挙げることができる。
【0020】
アゾリウムイオンとして、下記式(1)で表されるイミダゾリウムイオンが反応効率に優れ、低コストであるため好ましく用いられる。
【0021】
【化1】
(式(1)中、R及びRは、それぞれ独立して、アルキル基、アルケニル基、アルコキシアルキル基又は置換もしくは非置換のフェニル基であり、R~Rは、それぞれ独立して、水素、アルケニル基、アルコキシアルキル基又は置換もしくは非置換のフェニル基である。)
【0022】
上記アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基等の1~20個の炭素原子を有する直鎖状又は分岐状のアルキル基が挙げられる。これらのアルキル基の末端には、スルホ基が結合していても良い。また、アルケニル基としては、ビニル基、1-プロペニル基、2-プロペニル基、1-ブテニル基、2-ブテニル基、1-ペンテニル基、2-ペンテニル基、1-ヘキセニル基、2-ヘキセニル基、1-オクテニル基等の1~20個の炭素原子を有する直鎖状又は分岐状のアルケニル基が挙げられる。また、アルコキシアルキル基としては、メトキシメチル基、エトキシメチル基、1-メトキシエチル基、2-メトキシエチル基、1-エトキシエチル基、2-エトキシエチル基等の2~20個の炭素原子を有する直鎖状又は分岐状のアルコキシアルキル基が挙げられる。さらに、置換もしくは非置換のフェニル基としては、水酸基、ハロゲン原子、低級アルコキシ基、低級アルケニル基、メチルスルホニルオキシ基、置換もしくは非置換の低級アルキル基、置換もしくは非置換のアミノ基、置換もしくは非置換のフェニル基、置換もしくは非置換のフェノキシ基及び置換もしくは非置換のピリジル基から選択される1~2個の基で置換されても良いフェニル基が挙げられる。
【0023】
また、イオン液体のアニオンは、共役酸の真空中におけるpKaが1以上、好ましくは3~14の範囲内となるイオン液体を形成可能なものであれば適用可能である。例として、ギ酸アニオン(HCOO)、酢酸アニオン(CHCOO)、プロピオン酸イオン(CHCHCHCOO)等のカルボン酸アニオン、ピリドネートアニオン等のアミド由来のアニオン、各種アミノ酸アニオン(グルタミン酸アニオン等)、シアン化物イオン(CN)、フッ化物イオン(F)等を挙げることができる。これらのアニオンは、部分的に置換されていても良い。例えば、置換カルボン酸アニオンの例として、3-フェニルプロピオン酸アニオン(Ph-CHCHCHCOO)等が挙げられる。塩化物イオン(Cl)、ヨウ素イオン(I)、臭化物イオン(Br)等のフッ化物イオン以外のハロゲンアニオン、硫酸アニオン、リン酸アニオン等の強酸のアニオンは、共役酸の真空中におけるpKaが1未満であるため不適である。
【0024】
本実施形態に係る製造方法に好適に用いられるイオン液体の例として以下の化合物を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
1-エチル-3-メチルイミダゾリウムアセテート(EmimOAc)、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムアセテート、1-ヘキシル-3-メチルイミダゾリウムアセテート、1-エチル-3-メチルイミダゾリウム2-ピリドネート(EmimOPy)、1-エチル-3-メチルイミダゾリウム3-フェニルプロピオネート(EmimPPA)等。
【0025】
上記のイオン液体を用いる以外に、本実施形態に係る製造方法では、カチオンがアゾリウムイオンであり且つアニオンの共役酸の真空中におけるpKaが1以上である少なくとも1種のイオン液体を、反応中に生成させることもできる。例えば、イミダゾリウムクロライド類(真空中におけるpKaが1未満)と塩基とを使用し、反応系内で活性なイオン液体を発生させて利用することができる。このようなイミダゾリウムクロライド類の具体例としては1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムクロライド(BmimCl)等が挙げられ、塩基としては酢酸カリウム、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデク-7-エン(DBU)、酢酸ナトリウム、炭酸カリウム、フッ化カリウム、ピリジン、トリエチルアミン、テトラアンモニウムアセテート、シアン化カリウム等を挙げることができる。
【0026】
多糖類を含む原料を、上記のイオン液体に溶解させ、アルデヒドと酸化的に反応させることにより、イオン液体が触媒としても機能して多糖類の誘導体化が進行する。ここで、「酸化的に反応させる」とは、酸化剤等を用いることによりアルデヒドを形式的に酸化しつつ多糖類の-OH基とアルデヒド(RCHO)との間にエステル結合(-OOCR)を形成することをいう。具体例として、空気中の酸素を酸化剤として、セルロースとアルデヒドとをイオン液体中で反応させ、セルロースエステルを製造する反応式を以下に示す。
【0027】
【化2】
【0028】
酸化剤としては、酸素の他、従来知られた種々の物質を用いることができる。例として、二酸化マンガン、過酸化水素等の無機酸化剤、アゾベンゼン等の有機酸化剤を挙げることができる。
【0029】
溶媒としてのイオン液体における、多糖類を含む原料の濃度は、多糖類の種類や分子量によって異なり、特に限定されるものではない。一般的には、イオン液体の重量を多糖類の重量の2倍以上とすることが好ましく、具体的には、イオン液体における多糖類の濃度を5重量%~20重量%とすることが好ましい。
【0030】
また、イオン液体は、有機溶媒との共溶媒系として用いることができる。この場合も、イオン液体の重量を多糖類の重量の2倍以上とすることが好ましく、この条件の範囲内で、イオン液体の使用量を低減させることができ、残りを有機溶媒で代替することで多糖類誘導体の製造コストを抑えることが可能となる。
【0031】
共溶媒として用いる場合の有機溶媒は、生成する多糖類誘導体に対する溶解性等を考慮し、イオン液体と反応しないことを条件として種々の有機溶媒の中から適宜選択することができる。具体的には、アセトニトリル、テトラヒドロフラン(THF)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、1,3-ジオキソラン、1,4-ジオキサン等を挙げることができる。クロロホルムは、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムアセテート(EmimAc)等、一部のイオン液体と反応するため適用できない場合が多いが、本発明の範囲から除外されるものではない。また、多糖類誘導体として酪酸セルロースを製造する場合は、テトラヒドロフラン(THF)、酢酸セルロースを製造する場合は、ジメチルスルホキシド(DMSO)、1,3-ジオキソラン等が好ましく用いられるがこれらに限定されるものではない。
【0032】
多糖類と反応させるアルデヒドとしては、製造対象とする多糖類誘導体(エステル化多糖)の種類に応じて、従来知られた種々のアルデヒドの中から適宜選択して用いることができる。具体的には、例えば、アセトアルデヒド、プロピルアルデヒド、ヘキサナール、ヘプタナール、オクタナール、ノナナール、デカナール、ウンデカナール、ドデカナール等の飽和脂肪族アルデヒド類;アクロレイン、メタクロレイン、シス-3-ヘキセナール、トランス-2-ヘキセナール、トランス-2-ヘプテナール、シス-4-ヘプテナール、トランス-4-ヘプテナール、トランス-2-オクテナール、トランス-2-ノネナール、シス-6-ノネナール、トランス-2-デセナール、シス-4-デセナール、トランス-4-デセナール、7-ウンデセナール、9-ウンデセナール、10-ウンデセナール等の不飽和脂肪族アルデヒド類;フルフラール等のヘテロ環式アルデヒド類;ベンズアルデヒド、ナフチルアルデヒド、アントラアルデヒド等の芳香族アルデヒド類等を挙げることができるがこれらに限定されるものではない。なお、アルデヒドはいずれか1種を単独で用いても良く、2種以上を用いても良い。
【0033】
本実施形態に係る製造方法において好適に用いられるアルデヒドとして、以下の化合物を挙げることができる。
【0034】
【化3】
【0035】
また、上述のアルデヒドの中でも、α,β-不飽和アルデヒドは、分子内に酸化度の高い二重結合を有し、アルデヒド自体が酸化剤として機能するため、酸素等の外部酸化剤を使用しなくても、イオン液体中で多糖類とアルデヒドを混合するだけで多糖類誘導体(エステル化多糖)を得ることができる。例として、酸素等の酸化剤を用いることなく、セルロースとα,β-不飽和アルデヒドとをイオン液体中で反応させ、セルロースエステルを製造する反応式を以下に示す。製造されるセルロースエステルでは、α,β-不飽和アルデヒドにおける二重結合は還元された状態で構造中に導入される。
【0036】
【化4】
【0037】
本実施形態に係る製造方法において好適に用いられるα,β-不飽和アルデヒドとして、以下のような化合物が挙げられる。この中でも、シンナムアルデヒドは反応性に優れ、多糖類誘導体を効率的に得ることができるため特に好ましく用いられる。
【0038】
【化5】
【0039】
なお、アルデヒドとしてα,β-不飽和アルデヒドと反応させる場合であっても、酸素等の外部酸化剤を用いても良い。外部酸化剤を用いると、α,β-不飽和アルデヒドにおける二重結合が還元されずそのままの状態でエステル化多糖の構造中に導入することができる。
【0040】
また、アルデヒドは、アルデヒドを含有する混合物をそのまま状態で用いても良い。例えば、天然物から得られる精油からアルデヒド成分を単離精製することなく、精油のまま反応に供することができる。このような精油として、シンナムアルデヒドを含有するシナモン精油が挙げられる。
【0041】
多糖類と反応させるアルデヒドの量は、多糖類の種類等によって異なるが、例えば、多糖類の水酸基1当量に対し0.3~2.0当量を反応させることが好ましい。また、反応条件は、イオン液体が触媒として機能し反応が進行する条件であれば良く、例えば、多糖類を含む原料、イオン液体及びアルデヒドの混合物を、25~80℃で1~48時間撹拌し反応を行うことができる。反応後の溶液は、メタノール等の溶媒を用いて再沈殿、ろ過等を行うことで、所定の多糖類誘導体を得ることができる。また、反応に用いたイオン液体は、回収して再利用することができる。
【0042】
製造した多糖類誘導体は、改質等を目的として、NaOH等の塩基もしくは硫酸等の酸触媒を用いる従来の方法により、あるいは引き続き本発明におけるイオン液体の存在下で、アルデヒド等の各種試薬とさらに反応させ、別の多糖類誘導体へと変換することができる。
【0043】
次に、別の実施形態として、リグニン誘導体の製造方法について説明する。この製造方法は、リグニンを含む原料を、カチオンがアゾリウムイオンであり且つアニオンの共役酸の真空中におけるpKaが1以上である少なくとも1種のイオン液体に溶解させ、アルデヒドと酸化的に反応させる工程を含むことを特徴とする。多糖類を含む原料に代えてリグニンを含む原料を用いる以外は、上述の多糖類誘導体の製造方法に準じて反応を行うことにより、適用するアルデヒドの構造に対応したリグニン誘導体を得ることができる。すなわち、下記式に示すように、アルデヒドによってリグニンの水酸基がエステル化された誘導体が得られる。このリグニンのエステル化物は、難燃剤等として好適に利用することができる。この際、リグニン分子中には、芳香族炭素に結合した水酸基と脂肪族炭素に結合した水酸基とがあるが、本実施形態によればいずれの水酸基も置換することができる。上述の多糖類誘導体の製造方法と同様に、所定のイオン液体が溶媒としてだけではなく触媒としても働き、リグニンのエステル化物が生成する。
【0044】
【化6】
【0045】
原料のリグニンとしては、従来知られた種々の天然リグニン及び単離リグニンから適宜選択して用いることができる。例として、針葉樹リグニン、広葉樹リグニン、イネ科植物リグニン等の天然リグニン、紙パルプ製造プロセスの化学パルプ化のパルプ廃液から大量に得られるリグノスルホン酸、クラフトリグニン、ソーダリグニン等のアルカリリグニン、ソーダ-アントラキノンリグニン、オルガノソルブリグニン、爆砕リグニン等の単離リグニン(工業リグニン)を挙げることができる。これらのリグニンは、いずれか一種を用いても良いし二種以上を併用しても良い。
【0046】
本実施形態のリグニン誘導体の製造方法において、適用可能なイオン液体の種類、アルデヒドの種類、並びに反応条件は、上述の多糖類誘導体の製造方法の場合と同様である。
【0047】
製造したリグニン誘導体は、改質等を目的として、NaOH等の塩基もしくは硫酸等の酸触媒を用いる従来の方法により、あるいは引き続き本発明におけるイオン液体の存在下で、アルデヒド等の各種試薬とさらに反応させ、別のリグニン誘導体へと変換することができる。
【実施例
【0048】
次に、実施例及び比較例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0049】
(実施例1)α,β-不飽和構造を内部酸化剤とするEmimOPy中におけるセルロースとシンナムアルデヒドの反応
20mLシュレンク管内で、セルロース(120mg、2.22mmol=[OH])を1-エチル-3-メチルイミダゾリウム2-ピリドネート(EmimOPy)(456mg、2.22mmol)に溶解させ、80℃で3時間減圧乾燥を行った。反応容器にアルゴンガスを充填したバルーンを取り付け、容器内部をアルゴンで置換し、脱水DMSO(3.15mL、44.4mmol)を加えて60℃で3時間撹拌した。撹拌後、セルロースが均一に溶液に溶解していることを確認し、シンナムアルデヒド(587mg、4.44mmol)を反応溶液中へ加え、60℃で24時間撹拌した。反応溶液を過剰量のメタノールに加えることで不溶分を析出させ、ろ過後さらにメタノールを用いて洗浄した後に回収した。減圧条件下60℃で一晩不溶分を乾燥させることで、固体を220mg得た。IR及びH NMR測定の解析結果から、回収物は目的のセルロースフェニルプロピオン酸エステルであることが確認された。置換度は3.0であった。
IR (ATR, cm-1) 1729.;1H NMR (600 MHz, Acetone-d6) δ; 8.0-6.5(br), 5.5-3.0(br), 3.0-2.5 (br).
【0050】
(実施例2)α,β-不飽和構造を内部酸化剤とするEmimOAc中におけるセルロースとシンナムアルデヒドの反応
20mLシュレンク管内で、セルロース(120mg、2.22mmol=[OH])を1-エチル-3-メチルイミダゾリウムアセテート(EmimOAc)(378mg、2.22mmol)に溶解させ、80℃で3時間減圧乾燥を行った。反応容器にアルゴンガスを充填したバルーンを取り付け、容器内部をアルゴンで置換し、脱水DMSO(3.15mL、44.4mmol)を加えて60℃で3時間撹拌した。撹拌後、セルロースが均一に溶液に溶解していることを確認し、シンナムアルデヒド(293mg、2.22mmol)を反応溶液中へ加え、60℃で24時間撹拌した。反応溶液を過剰量のメタノールに加えることで不溶分を析出させ、ろ過後さらにメタノールを用いて洗浄した後に回収した。減圧条件下60℃で一晩不溶分を乾燥させることで、固体を182mg得た。IR及びH NMR測定の解析結果から、回収物はセルロースフェニルプロピオン酸酢酸エステルであることが確認された。目的のフェニルプロピオン酸の置換度は1.0、酢酸の置換度は0.1であった。
IR (ATR, cm-1) 1729.;1H NMR (600 MHz, Acetone-d6) δ; 8.0-6.5 (br), 5.5-3.0 (br), 3.0-2.5 (br), 2.2-1.7 (br).
【0051】
(実施例3)α,β-不飽和構造を内部酸化剤とするEmimOPy中におけるセルロースとノネナールの反応
20mLシュレンク管内で、セルロース(120mg、2.22mmol=[OH])をEmimOPy(456mg、2.22mmol)に溶解させ、80℃で3時間減圧乾燥を行った。反応容器にアルゴンガスを充填したバルーンを取り付け、容器内部をアルゴンで置換し、脱水DMSO(3.15mL、44.4mmol)を加えて60℃で3時間撹拌した。撹拌後、セルロースが均一に溶液に溶解していることを確認し、ノネナール(622mg、4.44mmol)を反応溶液中へ加え、60℃で24時間撹拌した。反応溶液を過剰量のメタノールに加えることで不溶分を析出させ、ろ過後さらにメタノールを用いて洗浄した後に回収した。減圧条件下60℃で一晩不溶分を乾燥させることで、固体を295mg得た。IR及びH NMR測定の解析結果から、回収物は目的のセルロースエステルであることが確認された。回収物は目的のセルロースノナン酸エステルであることが確認された。置換度は2.8であった。
IR (ATR, cm-1) 1742.;1H NMR (600 MHz, Acetone-d6) δ; 5.5-3.0 (br), 2.5-0.6 (br).
【0052】
(比較例1)α,β-不飽和構造を内部酸化剤とする既知報告の触媒システムを使用したセルロースとシンナムアルデヒドの反応
参考文献:Bode et al., Org. Lett., 2005, 7, 3873-3876.
20mLシュレンク管内で、セルロース(120mg、2.22mmol=[OH])を80℃で3時間減圧乾燥を行った。反応容器にアルゴンガスを充填したバルーンを取り付け、容器内部をアルゴンで置換し、脱水DMSO(3.15mL、44.4mmol)を加えて60℃で3時間撹拌した。撹拌後、セルロースは溶液に溶解していないことを確認し、2-メシチル-2,5,6,7-テトラヒドロピロロ[2,1-c][1,2,4]トリアゾール-4-イウムクロライド(29.0mg、0.11mmol)、ジイソプロピルエチルアミン(28.4mg、0.22mmol)、シンナムアルデヒド(293mg、2.22mmol)を反応溶液中へ加え、60℃で24時間撹拌した。反応溶液を過剰量のメタノールに加えることで不溶分を析出させ、ろ過後さらにメタノールを用いて洗浄した後に回収した。減圧条件下60℃で一晩不溶分を乾燥させることで、固体を82.9mg得た。IR測定の解析結果から、エステル基に由来するピークは殆ど観測されず、回収物は出発原料のセルロースであることが確認された。
【0053】
(実施例4)α,β-不飽和構造を内部酸化剤とし、BmimClへの塩基添加により活性イオン液体種を反応系内で発生させながら行う、セルロースとシンナムアルデヒドの反応
20mLシュレンク管内で、セルロース(120mg、2.22mmol=[OH])を1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムクロライド(BmimCl)(388mg、2.22mmol)に溶解させ、80℃で3時間減圧乾燥を行った。反応容器にアルゴンガスを充填したバルーンを取り付け、容器内部をアルゴンで置換し、脱水DMSO(3.15mL、44.4mmol)を加えて60℃で1時間撹拌した。撹拌後、セルロースが均一に溶液に溶解していることを確認し、シンナムアルデヒド(559μL、4.44mmol)及び1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデク-7-エン(DBU、102mg、0.67mmol)を反応溶液中へ加え、60℃で24時間撹拌した。反応溶液を過剰量のメタノールに加えることで不溶分を析出させ、ろ過後さらにメタノールを用いて洗浄した後に回収した。減圧条件下60℃で一晩不溶分を乾燥させることで、固体を236mg得た。IR及びH NMR測定の解析結果から、回収物は目的のセルロースフェニルプロピオン酸エステルであることが確認された。置換度は1.6であった。
IR (ATR, cm-1) 1729.;1H NMR (600 MHz, Acetone-d6) δ; 8.0-6.5 (br), 5.5-3.0 (br), 3.0-2.5 (br).
【0054】
本実施例では、BmimClとDBUとの反応により、中間体として1-ブチル-3-メチルイミダゾールイリデンが部分的に生成し、その中間体がセルロースとシンナムアルデヒドの反応における触媒として作用したものと考えられる。
【0055】
(実施例5)α,β-不飽和構造を内部酸化剤とするEmimOPy中におけるセルロースとシナモン精油の反応
20mLシュレンク管内で、セルロース(120mg、2.22mmol=[OH])をEmimOPy(456mg、2.22mmol)に溶解させ、80℃で3時間減圧乾燥を行った。反応容器にアルゴンガスを充填したバルーンを取り付け、容器内部をアルゴンで置換し、脱水DMSO(3.15mL、44.4mmol)を加えて60℃で3時間撹拌した。撹拌後、セルロースが均一に溶液に溶解していることを確認し、シナモン精油(シンナムアルデヒド含有、濃度73重量%)(823μL)を反応溶液中へ加え、60℃で24時間撹拌した。反応溶液を過剰量のメタノールに加えることで不溶分を析出させ、ろ過後さらにメタノールを用いて洗浄した後に回収した。減圧条件下60℃で一晩不溶分を乾燥させることで、固体を237mg得た。IR及びH NMR測定の解析結果から、回収物は目的のセルロースフェニルプロピオン酸エステルであることが確認された。置換度は2.9であった。
IR (ATR, cm-1) 1729.;1H NMR (600 MHz, Acetone-d6) δ; 8.0-6.5 (br), 5.5-3.0 (br), 3.0-2.5 (br).
【0056】
(実施例6)α,β-不飽和構造を内部酸化剤とするEmimOPy中におけるアミロースとシナモン精油の反応
20mLシュレンク管内で、アミロース(120mg、2.22mmol=[OH])をEmimOPy(456mg、2.22mmol)に溶解させ、80℃で3時間減圧乾燥を行った。反応容器にアルゴンガスを充填したバルーンを取り付け、容器内部をアルゴンで置換し、脱水DMSO(3.15mL、44.4mmol)を加えて60℃で3時間撹拌した。撹拌後、アミロースが均一に溶液に溶解していることを確認し、シナモン精油(シンナムアルデヒド含有、濃度73重量%)(823μL)を反応溶液中へ加え、60℃で24時間撹拌した。反応溶液を過剰量のメタノールに加えることで不溶分を析出させ、ろ過後さらにメタノールを用いて洗浄した後に回収した。減圧条件下60℃で一晩不溶分を乾燥させることで、固体を307mg得た。IR及びH NMR測定の解析結果から、回収物は目的のアミロースフェニルプロピオン酸エステルであることが確認された。置換度は3.0であった。
IR (ATR, cm-1) 1739.;1H NMR (600 MHz, CDCl3) δ; 7.5-6.5 (br), 5.5-3.0 (br), 3.0-2.0 (br).
【0057】
(実施例7)α,β-不飽和構造を内部酸化剤とするEmimOPy中におけるリグニンとシナモン精油の反応
20mLシュレンク管内で、リグニン(363mg、2.22mmol=[OH])をEmimOPy(456mg、2.22mmol)に溶解させ、80℃で3時間減圧乾燥を行った。反応容器にアルゴンガスを充填したバルーンを取り付け、容器内部をアルゴンで置換し、脱水DMSO(3.15mL、44.4mmol)を加えて60℃で3時間撹拌した。撹拌後、リグニンが均一に溶液に溶解していることを確認し、シナモン精油(シンナムアルデヒド含有、濃度73重量%)(823μL)を反応溶液中へ加え、60℃で24時間撹拌した。反応溶液を過剰量のメタノールに加えることで不溶分を析出させ、ろ過後さらにメタノールを用いて洗浄した後に回収した。減圧条件下60℃で一晩不溶分を乾燥させることで、固体を410mg得た。IR測定の解析結果から、回収物は目的のエステル構造が導入されていることが確認された。
IR (ATR, cm-1) 1733.
【0058】
(実施例8)酸素(空気中)を外部酸化剤とするEmimOPy中におけるセルロースとベンズアルデヒドの反応
20mLシュレンク管内で、セルロース(120mg、2.22mmol=[OH])をEmimOPy(456mg、2.22mmol)に溶解させ、80℃で3時間減圧乾燥を行った。反応容器に乾燥処理を行った空気を充填したバルーンを取り付け、容器内部を空気で置換し、脱水DMSO(3.15mL、44.4mmol)を加えて60℃で3時間撹拌した。撹拌後、セルロースが均一に溶液に溶解していることを確認し、ベンズアルデヒド(226μL、2.22mmol)を反応溶液中へ加え、60℃で24時間撹拌した。反応溶液を過剰量のメタノールに加えることで不溶分を析出させ、ろ過後さらにメタノールを用いて洗浄した後に回収した。減圧条件下60℃で一晩不溶分を乾燥させることで、固体を118mg得た。IR及びH NMR測定の解析結果から、回収物は目的のセルロース安息香酸エステルであることが確認された。置換度は1.4であった。
IR (ATR, cm-1) 1714.;1H NMR (600 MHz, Acetone-d6) δ; 8.3-6.9 (br), 5.8-3.0 (br).
【0059】
(実施例9)酸素を外部酸化剤とするEmimOAc中におけるセルロースとベンズアルデヒドの反応
20mLシュレンク管内で、セルロース(120mg、2.22mmol=[OH])をEmimOAc(378mg、2.22mmol)に溶解させ、80℃で3時間減圧乾燥を行った。反応容器に酸素を充填したバルーンを取り付け、容器内部を酸素で置換し、脱水DMSO(3.15mL、44.4mmol)を加えて60℃で3時間撹拌した。撹拌後、セルロースが均一に溶液に溶解していることを確認し、ベンズアルデヒド(226μL、2.22mmol)を反応溶液中へ加え、60℃で24時間撹拌した。反応溶液を過剰量のメタノールに加えることで不溶分を析出させ、ろ過後さらにメタノールを用いて洗浄した後に回収した。減圧条件下60℃で一晩不溶分を乾燥させることで、固体を113mg得た。回収物の溶解性が低いためアセチル化処理を行った後に、IR及びH NMR測定を行った。解析結果から、アセチル化前の回収物は目的のセルロース安息香酸エステルであることが確認された。置換度は0.6であった。
IR (ATR, cm-1) 1711.;1H NMR (600 MHz, Acetone-d6) δ; 8.2-7.0 (br), 5.5-3.0 (br), 2.2-1.5 (br).
【0060】
(実施例10)酸素を外部酸化剤とするEmimOAc中におけるセルロースとベンズアルデヒドの反応
20mLシュレンク管内で、セルロース(120mg、2.22mmol=[OH])をEmimOAc(378mg、2.22mmol)に溶解させ、80℃で3時間減圧乾燥を行った。反応容器に酸素を充填したバルーンを取り付け、容器内部を酸素で置換し、脱水DMF(3.44mL、44.4mmol)を加えて60℃で3時間撹拌した。撹拌後、セルロースが均一に溶液に溶解していることを確認し、ベンズアルデヒド(226μL、2.22mmol)を反応溶液中へ加え、60℃で24時間撹拌した。反応溶液を過剰量のメタノールに加えることで不溶分を析出させ、ろ過後さらにメタノールを用いて洗浄した後に回収した。減圧条件下60℃で一晩不溶分を乾燥させることで、固体を139mg得た。回収物の溶解性が低いためアセチル化処理を行った後に、IR及びH NMR測定を行った。解析結果から、アセチル化前の回収物は目的のセルロース安息香酸エステルであることが確認された。置換度は0.4であった。
IR (ATR, cm-1) 1711.;1H NMR (600 MHz, Acetone-d6) δ; 8.2-7.0 (br),5.6-3.0 (br), 2.2-1.5 (br).
【0061】
(比較例2)酸素を外部酸化剤とするEmimCl中におけるセルロースとベンズアルデヒドの反応
20mLシュレンク管内で、セルロース(120mg、2.22mmol=[OH])を1-エチル-3-メチルイミダゾリウムクロライド(EmimCl)(325mg、2.22mmol)に溶解させ、80℃で3時間減圧乾燥を行った。反応容器に酸素を充填したバルーンを取り付け、容器内部を酸素で置換し、脱水DMSO(3.15mL、44.4mmol)を加えて60℃で3時間撹拌した。撹拌後、セルロースが均一に溶液に溶解していることを確認し、ベンズアルデヒド(226μL、2.22mmol)を反応溶液中へ加え、60℃で24時間撹拌した。反応溶液を過剰量のメタノールに加えることで不溶分を析出させ、ろ過後さらにメタノールを用いて洗浄した後に回収した。減圧条件下60℃で一晩不溶分を乾燥させることで、固体を102mg得た。IR測定の解析結果から、エステル基に由来するピークは殆ど観測されず、回収物は出発原料のセルロースであることが確認された。
【0062】
(比較例3)アルゴン雰囲気下、EmimOAc中におけるセルロースとベンズアルデヒドの反応
20mLシュレンク管内で、セルロース(120mg、2.22mmol=[OH])をEmimOAc(378mg、2.22mmol)に溶解させ、80℃で3時間減圧乾燥を行った。反応容器にアルゴンガスを充填したバルーンを取り付け、容器内部をアルゴンで置換し、脱水DMSO(3.15mL、44.4mmol)を加えて60℃で3時間撹拌した。撹拌後、セルロースが均一に溶液に溶解していることを確認し、ベンズアルデヒド(226μL、2.22mmol)を反応溶液中へ加え、60℃で24時間撹拌した。反応溶液を過剰量のメタノールに加えることで不溶分を析出させ、ろ過後さらにメタノールを用いて洗浄した後に回収した。減圧条件下60℃で一晩不溶分を乾燥させることで、固体を102mg得た。IR測定の解析結果から、エステル基に由来するピークは殆ど観測されず、回収物は出発原料のセルロースであることが確認された。
【0063】
(実施例11)酸素(空気中)を外部酸化剤とするEmimOPy中におけるセルロースとシトロネラールの反応
20mLシュレンク管内で、セルロース(120mg、2.22mmol=[OH])をEmimOPy(456mg、2.22mmol)に溶解させ、80℃で3時間減圧乾燥を行った。反応容器に乾燥処理を行った空気を充填したバルーンを取り付け、容器内部を空気で置換し、脱水DMSO(3.15mL、44.4mmol)を加えて60℃で3時間撹拌した。撹拌後、セルロースが均一に溶液に溶解していることを確認し、シトロネラール(342mg、2.22mmol)を反応溶液中へ加え、60℃で24時間撹拌した。反応溶液を過剰量のメタノールに加えることで不溶分を析出させ、ろ過後さらにメタノールを用いて洗浄した後に回収した。減圧条件下60℃で一晩不溶分を乾燥させることで、固体を65mg得た。回収物の溶解性が低いためアセチル化処理を行った後に、IR及びH NMR測定を行った。解析結果から、アセチル化前の回収物は目的のセルロースシトロネル酸エステルであることが確認された。置換度は0.1であった。
IR (ATR, cm-1) 1728.;1H NMR (600 MHz, Acetone-d6) δ; 5.5-3.0 (br), 2.2-0.7 (br).