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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-19
(45)【発行日】2023-04-27
(54)【発明の名称】複合部材の製造方法及び板状複合部材
(51)【国際特許分類】
   B29C 70/34 20060101AFI20230420BHJP
   C08J 5/00 20060101ALI20230420BHJP
【FI】
B29C70/34
C08J5/00
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020108105
(22)【出願日】2020-06-23
(65)【公開番号】P2022002885
(43)【公開日】2022-01-11
【審査請求日】2022-12-13
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】519435049
【氏名又は名称】黒瀬 隆
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三宅 裕一
(72)【発明者】
【氏名】泉 美奈子
(72)【発明者】
【氏名】永井 隆之
(72)【発明者】
【氏名】黒瀬 隆
【審査官】▲高▼村 憲司
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-044281(JP,A)
【文献】特開2013-019059(JP,A)
【文献】特開2019-035011(JP,A)
【文献】特開2018-145222(JP,A)
【文献】特開平06-134881(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 70/00 - 70/88
C08J 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性粒子及びフレーク状の無機粒子を含む混合液を調製することと、
前記混合液を抄いて抄造物を作製することと、
前記抄造物を熱加圧成形することと、
を含む、複合部材の製造方法であって、
前記混合液に含まれる無機粒子と熱可塑性粒子の合計体積に対する無機粒子の体積分率Vfx及び熱可塑性粒子の体積分率Vfy、並びに、無機粒子の平均体積v、及び熱可塑性粒子の平均有効体積vが、下記式(1):
【数1】
を満たす、方法。
【請求項2】
熱可塑性材料と、
前記熱可塑性材料中に分散したフレーク状の無機粒子と、
を含む板状複合部材であって、
前記無機粒子が前記板状複合部材の表面に平行に配向し、
下記式(2):
=αV+V (2)
(式(2)中、Eは前記板状複合部材の曲げ弾性率(GPa)、αは前記無機粒子による補強効率、Vは前記板状複合部材の体積に対する前記無機粒子の体積分率、Eは前記無機粒子の弾性率(GPa)、Vは前記板状複合部材の体積に対する前記熱可塑性材料の体積分率、Eは前記熱可塑性材料の弾性率(GPa)を表す。)で定義される、前記無機粒子による補強効率αが、0.375を超える、板状複合部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合部材の製造方法及び板状複合部材に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂に無機粒子等の充填材を添加して強度を向上させた複合材料は、種々の構造体材料として広く用いられている。例えば、特許文献1には、ポリマーマトリックスと約10~約50,000のアスペクト比を有する充填材を含むポリマー複合体が記載され、このポリマー複合体は高い強度及び靱性を有することが記載されている。
【0003】
特許文献2には、熱可塑性樹脂に雲母フレークを混合し、溶融混練してフィルム又はシートに成形する際、押出装置により平板状に賦形した直後、圧延比(圧延前の厚み/圧延後の厚み)5/3以上で圧延する、実質的に雲母フレークがフィルム又はシート面に対して平行に配向した雲母充填熱可塑性樹脂フィルム又はシートの製造方法が記載されている。
【0004】
特許文献3には、無機層間イオンを有機官能基で置換した合成マイカを、ポリアミド繊維等の繊維と混合して抄造してマイカ薄葉材を得、該マイカ薄葉材にエポキシ樹脂等の樹脂を含浸し、加熱して樹脂を硬化させることにより、電気絶縁材料を製造することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2013-535532号公報
【文献】特開昭54-161667号公報
【文献】特開昭53-018000号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
樹脂等のマトリクス材料に充填材(フィラー)を添加した複合部材は、より一層高い曲げ強度及び曲げ弾性率を有することが求められる。そこで、本発明の一態様は、高い曲げ強度及び曲げ弾性率を有する複合部材の製造方法を提供することを目的とする。また、本発明の一態様は、高い曲げ弾性率を有する強化部材として用いられる、又は高い曲げ弾性率を有する強化部材を製造するために用いられる、板状複合部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に従えば、
熱可塑性粒子及びフレーク状の無機粒子を含む混合液を調製することと、
前記混合液を抄いて抄造物を作製することと、
前記抄造物を熱加圧成形することと、
を含む、複合部材の製造方法が提供される。
【0008】
本発明の一態様に従えば、
熱可塑性材料と、
前記熱可塑性材料中に分散したフレーク状の無機粒子と、
を含む板状複合部材であって、
前記無機粒子が前記板状複合部材の表面に平行に配向し、
下記式:
=αV+V
(式中、Eは前記板状複合部材の曲げ弾性率(GPa)、αは前記無機粒子による補強効率、Vは前記板状複合部材の体積に対する前記無機粒子の体積分率、Eは前記無機粒子の弾性率(GPa)、Vは前記板状複合部材の体積に対する前記熱可塑性材料の体積分率、Eは前記熱可塑性材料の弾性率(GPa)を表す。)で定義される、前記無機粒子による補強効率αが、0.375を超える、板状複合部材が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一態様に係る製造方法により得られる複合部材は、高い曲げ強度及び曲げ弾性率を有する。また、本発明の一態様に係る板状複合部材は、高い曲げ弾性率を有し、高い曲げ弾性率を有する強化部材として、又は高い曲げ弾性率を有する強化部材を製造するために、用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、実施形態に係る複合部材の製造方法を示すフローチャートである。
図2図2は、実施形態に係る板状複合部材の断面を模式的に示す図である。
図3図3は、実施例1の熱プレス前の圧着体の断面SEM画像である。
図4図4は、実施例1の成形体の断面SEM画像である。
図5図5は、実施例2の成形体の断面SEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<複合部材の製造方法>
実施形態に係る複合部材の製造方法は、図1に示すように、混合液を調製するステップ(S1)と、混合液を抄いて抄造物を作製するステップ(S2)と、抄造物を熱加圧成形するステップ(S3)と、を含む。
【0012】
(1)混合液の調製
空気中又は窒素雰囲気等の不活性雰囲気下で、熱可塑性粒子とフレーク状の無機粒子を、水、アルコール等の溶媒中で混合し、混合液を調製する。
【0013】
熱可塑性粒子は、熱可塑性材料を主成分として含む。熱可塑性材料としては、例えば、ポリプロピレン(PP)、ポリアミド(PA)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリエーテルスルホン(PES)等の熱可塑性樹脂、ガラス、セルロース、竹やケナフ等の植物を原料とする天然繊維が挙げられる。熱可塑性粒子は、繊維状、フレーク状、又は球状の形状を有してよい。
【0014】
繊維状の熱可塑性粒子は、例えば、0.01~1000μmの平均繊維径Dfibを有してよく、0.1μm~50mmの平均繊維長Lfibを有してよい。また、繊維状の熱可塑性粒子のアスペクト比、すなわち、平均繊維長と平均繊維径の比Lfib/Dfibは、例えば10~10,000であってよい。平均繊維長Lfibは、光学顕微鏡像を用いて測定することができる。平均繊維径Dfibは、走査型電子顕微鏡(SEM)又は透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて得た粒子の断面像から、30個以上の粒子の直径(円相当径)を測定して平均することにより求められる。
【0015】
本願において、フレーク状とは、投影面積が最大となる面(扁平面)の円相当径が、この面に垂直な方向の長さ(厚さ)の最大値よりも大きいことを意味し、鱗片状、板状、薄片状ともいうことができる。フレーク状の熱可塑性粒子は、例えば、1~5,000μmの平均直径Dflを有してよく、0.1~100μmの平均厚さTflを有してよい。また、フレーク状の熱可塑性粒子のアスペクト比、すなわち、平均直径と平均厚さの比Dfl/Tflは、例えば10~10,000であってよい。フレーク状の熱可塑性粒子の平均直径Dflとしては、レーザー回折式粒度分布測定装置を用いて計測されるメジアン径d50の値が用いられる。フレーク状粒子の平均厚さTflは、SEM又はTEMを用いて得た粒子の断面像から、30個以上の粒子の厚さを測定して平均することにより求められる。
【0016】
球状の熱可塑性粒子は、例えば、10nm~1,000μmの平均直径Dspを有してよい。球状の熱可塑性粒子の平均直径Dspとしては、レーザー回折式粒度分布測定装置を用いて計測されるメジアン径d50の値が用いられる。
【0017】
フレーク状の無機粒子としては、例えば、天然マイカ、合成マイカ、スメクタイト、タルク、炭酸塩、ケイ酸塩、シリカの粒子を用いることができる。フレーク状の無機粒子は、例えば、100nm~5,000μmの平均直径dを有してよく、10nm~10μmの平均厚さtを有してよい。また、フレーク状の無機粒子のアスペクト比、すなわち、平均直径と平均厚さの比d/tは、例えば5~10000であってよい。フレーク状の無機粒子の平均直径d及び平均厚さtは、フレーク状の熱可塑性粒子と同様の方法で測定することができる。
【0018】
混合する熱可塑性粒子と無機粒子の合計体積に対する無機粒子の体積分率Vfxは、5~99%、特に40~60%であってよい。それにより、実施形態に係る製造方法により製造される複合部材がより高い曲げ強度及び曲げ弾性率を有することができる。
【0019】
また、無機粒子と熱可塑性粒子の合計体積に対する無機粒子の体積分率Vfx及び熱可塑性粒子の体積分率Vfy、並びに、無機粒子の平均体積v、及び熱可塑性粒子の平均有効体積vは、下記式(1)
【数1】
を満たしてよい。ここで、無機粒子の平均体積vは、上述の無機粒子の平均直径d及び平均厚さtに基づいて計算される。熱可塑性粒子が繊維状で、且つ、その平均繊維長Lfibが、無機粒子の平均直径dを超える場合は、熱可塑性粒子の平均有効体積vは下記式(2)
=πd(Dfib/2) (2)
で計算され、それ以外の場合は、熱可塑性粒子の平均有効体積vは、上述の熱可塑性粒子の各種寸法を用いて計算される熱可塑性粒子の体積を指す。上記式(1)を満たす量の無機粒子と熱可塑性粒子を用いることにより、実施形態に係る製造方法により製造される複合部材がより高い曲げ強度及び曲げ弾性率を有することができる。
【0020】
(2)抄造物の作製
調製した混合液を抄いて、抄造物を作製する。抄造は、JIS P 8222:2015に従って行うことができる。具体的には、製紙工業で使われる抄紙装置を使用して混合液を抄いて、メッシュ上にウェットマットを得、ウェットマットに含まれる溶媒を乾燥除去することにより、シート状の抄造物を得ることができる。
【0021】
抄造物において、フレーク状の無機粒子は、重なりあって配置され、無機粒子の厚さ方向が、抄造物の厚さ方向に略平行になるように配向する。重なった無機粒子の間には、熱可塑性材料が存在する。
【0022】
(3)熱加圧成形
抄造物を熱加圧成形して、複合部材を作製する。作製する複合部材の形状に応じて、抄造物を複数枚重ねて熱加圧成形を行ってもよい。さらに、ハンドリング性を向上させるために、熱加圧成形前に、重ねた抄造物を予備的に圧着してもよい。圧着時には、熱可塑性粒子の溶融温度未満の温度に抄造物を加熱してもよい。熱加圧成形は、熱可塑性粒子の溶融温度以上、分解温度以下に抄造物を加熱して行う。それにより、熱可塑性粒子が、溶融し、無機粒子の間の空間を満たすように広がる。その後、冷却して熱可塑性材料を固化する。それにより、抄造物が成形され、複合部材が得られる。複合部材は、マトリクス材料として熱可塑性材料と、マトリクス中に分散したフィラーとして配向したフレーク状の無機粒子とを含む。
【0023】
実施形態に係る製造方法において、抄造プロセスを用いることにより、フレーク状の無機粒子が高度に配向した複合部材を製造することができる。また、予め熱可塑性粒子と無機粒子を混合して得た混合液を用いて抄造物を作製するため、抄造物において、熱可塑性粒子と無機粒子が均一に分散し、無機粒子の間に熱可塑性粒子が挟まれる。このような抄造物を熱加圧成形することにより、熱可塑性材料のマトリクス中にフィラーである無機粒子が均一に分散した複合部材を製造することができる。複合部材がこのような構造を有することにより、複合部材は、高い曲げ弾性率及び高い曲げ強度を有することができる。特に、上述した式(1)を満たす量の熱可塑性粒子と無機粒子を用いる場合、混合液中に含まれる熱可塑性粒子と無機粒子の数の比が特に好適となり、抄造物において無機粒子間に熱可塑性粒子がより確実に存在することができ、その結果、製造される複合部材における無機粒子の分散性がより向上する。それにより、複合部材が一層高い曲げ弾性率及び曲げ強度を有することができる。
【0024】
また、特許文献2に記載されるような、熱可塑性材料とフレーク状の無機粒子を溶融混練する方法では、粘度の高い溶融した熱可塑性材料と無機粒子を混練する間に無機粒子が割れる等により、無機粒子のアスペクト比が低下する。一方、実施形態に係る製造方法では、このような混練プロセスを用いていないため、無機粒子のアスペクト比の低下が抑制される。そのため、製造される複合部材に含まれる無機粒子は、高いアスペクト比を有することができ、その結果、複合部材は、より高い曲げ弾性率及び曲げ強度を有することができる。
【0025】
<板状複合部材>
実施形態に係る板状複合部材は、上述の実施形態に係る複合部材の製造方法により製造することができる。図2に示すように、板状複合部材10は、熱可塑性材料2と、熱可塑性材料2中に分散したフレーク状の無機粒子4と、を含む。なお、本願において、「板状」は、図2に示すような平板状のみならず、曲面状に湾曲した部分を有する湾曲板状も含む。
【0026】
熱可塑性材料2及びフレーク状の無機粒子4の材料例、無機粒子4の形状、並びに熱可塑性材料2と無機粒子4の体積分率は、上述の実施形態に係る複合部材の製造方法と同様であるため説明を省略する。
【0027】
フレーク状の無機粒子4は、板状複合部材10の表面10aに平行に配向する。それにより、板状複合部材10は、高い曲げ強度及び曲げ弾性率を有することができる。なお、本願において、「フレーク状の無機粒子4が、板状複合部材10の表面10aに平行に配向する」とは、フレーク状の無機粒子4の扁平面4aと板状複合部材10の表面10aのなす角度の平均が30度以下であることを意味する。フレーク状の無機粒子4の扁平面4aと板状複合部材10の表面10aのなす角度の平均は、好ましくは20度以下、より好ましくは10度以下、特に好ましくは5度以下であってよい。フレーク状の無機粒子4の扁平面4aと板状複合部材10の表面10aのなす角度の平均は、板状複合部材10の断面SEM像又は断面TEM像から、30個以上の無機粒子4の扁平面4aと板状複合部材10の表面10aのなす角度を求め、平均することにより求められる。
【0028】
板状複合部材10において、下記式(3)
=αV+V (3)
(式(3)中、Eは板状複合部材10の曲げ弾性率(GPa)、Vは板状複合部材10の体積に対する無機粒子4の体積分率、Eは無機粒子4の弾性率(GPa)、Vは板状複合部材10の体積に対する熱可塑性材料2の体積分率、Eは熱可塑性材料2の弾性率(GPa)を表す。)で定義される無機粒子4による補強効率αは、0.375を超え、好ましくは0.4以上、より好ましくは0.5以上、特に好ましくは0.55以上である。このような高い補強効率αを有する板状複合部材10は、上述の実施形態に係る製造方法により初めて実現されたものである。
【0029】
板状複合部材10は、フィラーである無機粒子4による補強効率αの高い強化複合部材として用いることができる。また、板状複合部材10をさらに成形してもよい。すなわち、板状複合部材10は、最終製品である強化複合部材を製造するための中間素材として用いることもできる。
【0030】
熱可塑性材料2が結晶性材料の場合、板状複合部材10の製造過程において、熱可塑性材料2を固化させたときに、無機粒子4との界面において結晶成長しやすい。そのため、板状複合部材10において、無機粒子4に挟まれた熱可塑性材料2は、高い結晶性を有する。また、熱可塑性材料2が非晶性材料の場合、板状複合部材10の製造過程において、熱加圧成形したときに、熱可塑性材料2の分子が、無機粒子4の扁平面4aに平行な方向に延伸する。そのため、板状複合部材10において、熱可塑性材料2の分子が、無機粒子4の扁平面4aに平行な方向に延伸する。これらに起因して、熱可塑性材料2が結晶性、非晶性のいずれの場合も、板状複合部材10にマトリクス材料として含まれる熱可塑性材料2は、それ自体が高い曲げ強度及び曲げ弾性率を有することができる。熱可塑性材料2の代わりに熱硬化性樹脂を用いた場合、熱硬化性樹脂の分子はランダムに架橋されて特定の配向を持たないため、熱硬化性樹脂自体の曲げ強度及び曲げ弾性率は特段高くはならない。
【0031】
以上、本発明の実施形態について詳述したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の精神を逸脱しない範囲で、種々の設計変更を行うことができる。
【実施例
【0032】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0033】
実施例1
(1)混合液の調製
熱可塑性粒子として、繊維状のポリアミド6(PA6)粒子(東レ株式会社製)(平均繊維径11μm、平均繊維長3mm)を、フレーク状の無機粒子として、白雲母を湿式粉砕したマイカ粒子(平均直径400μm、平均厚さ1μm)を用意した。なお、PA6粒子の平均繊維径及びマイカ粒子の平均厚さは、後述するSEM画像から求めた。PA6粒子の繊維長は、光学顕微鏡観察により求めた。マイカ粒子の平均直径は、レーザー回折式粒度分布測定装置(Malvern社製Mastersizer 3000)を用いて測定したメジアン径d50の値である。
【0034】
1.35gのPA6粒子を400mLの水に加えて懸濁液を得た。2.4gのマイカ粒子を400mLの水に加えて懸濁液を得た。これら懸濁液を混合して、混合液を得た。
【0035】
なお、混合したマイカ粒子とPA6粒子の合計体積に対するマイカ粒子の体積分率Vfx及びPA6粒子の体積分率Vfyを、PA6の密度(1.13g/cm)とマイカの密度(3.0g/cm)を用いて計算したところ、マイカ粒子の体積分率Vfxは40%、PA6粒子の体積分率Vfyは60%であった。
【0036】
また、マイカ粒子の平均体積vは、1.3×10-13であった。また、PA6粒子の平均有効体積vは、3.8×10-14であった。ただし、PA6粒子の平均繊維長がマイカ粒子の平均直径よりも大きかったため、PA6粒子の平均有効体積vの計算には、上述の式(2)を用いた。Vfx/vは、3.2×1012-3、Vfy/vは、1.6×1013-3と計算された。
【0037】
(2)抄造物の作製
抄造装置に2Lの水を加えて、水面が抄造装置の金網よりも高くなるようにした。次いで、抄造装置に上記の混合液を加えて撹拌した後、抄造装置の下部から排水した。それにより、金網で混合液が濾過されて、金網上にウェットマットが形成された。
【0038】
ウェットマットにセルロース製の濾紙を重ね、さらにその上にステンレス板を重ねた。ステンレス板の上から金属ローラーで転圧して、ウェットマットを圧縮するとともに、ウェットマット中の水を濾紙で吸収した。
【0039】
金網及び濾紙からウェットマットを取り外し、空気中で乾燥させた。それによりシート状の抄造物を得た。同様にして、抄造物を合計で8枚作製した。
【0040】
(3)熱加圧成形
8枚の抄造物を重ね、220℃で圧着した。圧着体を50mm×50mmの正方形に切り出し、熱プレス機(株式会社東洋精機製作所製)を用いて、270℃で5分間加熱し、さらに270℃に維持しながら5分間10MPaの圧力でプレスした。それにより、板状の成形体(複合部材)を得た。
【0041】
実施例2
0.9gのPA6粒子と、3.6gのマイカ粒子を用いたこと以外は実施例1と同様にして、成形体を作製した。なお、マイカ粒子の体積分率Vfxは60%、PA6粒子の体積分率Vfyは40%であった。また、Vfx/vは、4.8×1012-3、Vfy/vは、1.1×1013-3と計算された。
【0042】
比較例
2.26gのPA6粒子を用い、マイカ粒子を用いなかったこと以外は実施例1と同様にして、成形体を作製した。
【0043】
<曲げ試験>
実施例1、2、及び比較例の成形体から幅10mmの試験片を4枚切り出し、曲げ強度及び曲げ弾性率Ecを測定した。測定には、(株)島津製作所製オートグラフAGS-10kNXを用い、JIS K 7017:1999(3点曲げ試験)に準じて、支点間距離24mm、試験速度1mm/分で行った。結果を表1に示す。実施例1、2の成形体は、比較例の成形体と比べて高い曲げ強度及び曲げ弾性率を示した。
【0044】
<補強効率>
実施例1、2の成形体の曲げ弾性率Ecの測定結果に基づき、下記式:
=αV+V
(式中、Eは成形体の曲げ弾性率(GPa)、αはマイカ粒子による補強効率、Vは成形体の体積に対するマイカ粒子の体積分率、Eはマイカ粒子の弾性率(GPa)、Vは成形体の体積に対するPA6の体積分率、EはPA6の弾性率(GPa)を表す。)で定義される、マイカ粒子による補強効率αを求めた。なお、マイカ粒子の弾性率E、PA6の弾性率Eは、それぞれ、172GPa、2.6GPaとした。また、実施例1の成形体の体積に対するマイカ粒子の体積分率VとPA6の体積分率Vは、それぞれ、0.4、0.6であり、実施例2の成形体の体積に対するマイカ粒子の体積分率VとPA6の体積分率Vは、それぞれ、0.6、0.4である。求めた補強効率αの値を表1に示す。実施例1、2の成形体は、0.375を超える高い補強効率αを示した。
【0045】
【表1】
【0046】
<SEM観察>
実施例1と同様にして作製した、熱プレス成形前の圧着体と熱プレス成形後の成形体の断面を、SEM((株)日立ハイテク製TM3030Plus)にて観察した。得られたSEM画像を図3及び図4に示す。図3、4のSEM画像において、白色部分はマイカ粒子の断面を表している。図3の灰色の略円状の部分はPA6粒子の断面を表し、それ以外の灰色部分は、断面観察用試料の作製に用いたエポキシ樹脂を表している。図4の灰色部分は、PA6樹脂を表している。図3から、圧着体においてマイカ粒子が重なるように配向していることが示された。また、圧着体において、マイカ粒子とPA6粒子が十分に混合されており、マイカ粒子の間にはPA6粒子が存在することが確認された。図4から、成形体においても、マイカ粒子が成形体の表面に平行に高度に配向していることが示された。また、マイカ粒子の間はPA6樹脂で満たされていた。すなわち、PA6粒子が熱プレスにより溶融したことにより形成されたPA6マトリクス中に、成形体の表面に平行に高度に配向したマイカ粒子が良好に分散していた。実施例2の成形体の断面も同様にSEMにて観察した。得られたSEM画像を図5に示す。実施例2の成形体においても、PA6マトリクス中に、成形体の表面に平行に高度に配向したマイカ粒子が良好に分散していることが確認された。このような成形体の構造に起因して、高い曲げ強度及び曲げ弾性率が得られたと考えられる。
図1
図2
図3
図4
図5