(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-19
(45)【発行日】2023-04-27
(54)【発明の名称】オーバーレイ計測装置およびオーバーレイ計測方法
(51)【国際特許分類】
G01B 11/02 20060101AFI20230420BHJP
G03F 7/20 20060101ALI20230420BHJP
H01L 21/66 20060101ALI20230420BHJP
【FI】
G01B11/02 H
G03F7/20 521
H01L21/66 J
(21)【出願番号】P 2019053485
(22)【出願日】2019-03-20
【審査請求日】2021-12-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松村 明
【審査官】山▲崎▼ 和子
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-136563(JP,A)
【文献】特開平08-285539(JP,A)
【文献】特開2002-198278(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 11/00-11/30
H01L 21/64-21/66
G03F 7/20-7/24
9/00-9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1パターンが、予め定められた配列方向に等間隔にて配列された複数の第1パターン要素を含み、第2パターンが、前記配列方向に等間隔にて配列された複数の第2パターン要素を含み、基板上に形成された第1層に含まれる前記第1パターンと、前記第1層に重なる第2層に含まれる前記第2パターンとを撮像して得られたバーニアパターン画像から、前記配列方向における前記第1層と前記第2層との間のずれ量を取得するオーバーレイ計測装置であって、
前記第1パターンが撮像された第1画像領域と、前記第2パターンが撮像された第2画像領域とを含む計測対象画像を前記バーニアパターン画像から取得するパターン画像取得部と、
前記計測対象画像の第1画像領域から、前記配列方向に対して垂直な軸を中心とする前記複数の第1パターン要素の対称性を示す第1評価値を取得し、前記計測対象画像の前記第2画像領域から、前記配列方向に対して垂直な軸を中心とする前記複数の第2パターン要素の対称性を示す第2評価値を取得する評価値取得部と、
前記配列方向において、前記第1評価値が最大となる第1位置および前記第2評価値が最大となる第2位置を取得し、前記第1位置と前記第2位置との差分に基づいて、前記第1層と前記第2層との間のずれ量と前記配列方向におけるずれ方向とを取得するずれ量取得部と、
を備え
、
前記評価値取得部は、前記バーニアパターン画像から取得された第1矩形領域の中の前記第1パターンの撮像部分と、前記第1矩形領域を反転させた鏡像の中の前記第1パターンの撮像部分とを重ね合わせて特定された、前記第1パターンの中心位置が長手方向の中央位置に合致する第2矩形領域を有する第1参照画像に基づいて、前記第1評価値を取得することを特徴とするオーバーレイ計測装置。
【請求項2】
前記評価値取得部は、前記第1参照画像と、前記第1参照画像を反転させた反転画像とに基づいて、前記第1評価値を取得する、請求項
1に記載のオーバーレイ計測装置。
【請求項3】
前記評価値取得部は、前記バーニアパターン画像から取得された第3矩形領域の中の前記第2パターンの撮像部分と、前記第3矩形領域を反転させた鏡像の中の前記第2パター
ンの撮像部分とを重ね合わせて特定された、前記第2パターンの中心位置が長手方向の中央位置に合致する第
4矩形領域を有する第2参照画像に基づいて、前記第2評価値を取得する、請求項1
または2に記載のオーバーレイ計測装置。
【請求項4】
前記評価値取得部は、前記第2参照画像と、前記第2参照画像を反転させた反転画像とに基づいて、前記第2評価値を取得する、請求項
3に記載のオーバーレイ計測装置。
【請求項5】
前記評価値取得部は、前記第1画像領域内の前記第1パターンの撮像部位を除く背景部の色相に応じて色補正された前記第2参照画像に基づいて、前記第2評価値を取得する、請求項
3または
4に記載のオーバーレイ計測装置。
【請求項6】
前記評価値取得部は、前記第1画像領域内の前記第1パターンの撮像部位を除く背景部の彩度および明度の少なくとも一方の色特性に応じて色補正された前記第2参照画像に基づいて、前記第2評価値を取得する、請求項
5に記載のオーバーレイ計測装置。
【請求項7】
前記評価値取得部は、前記第1画像領域内の前記第1パターンの撮像部位を除く背景部を抽出する、請求項
5または
6に記載のオーバーレイ計測装置。
【請求項8】
前記評価値取得部は、前記第1画像領域内の前記第1パターンの撮像部位を除く背景部の色相に応じて色補正された前記第2参照画像をさらにコントラスト強調する、請求項
5または
6に記載のオーバーレイ計測装置。
【請求項9】
第1パターンが、予め定められた配列方向に等間隔にて配列された複数の第1パターン要素を含み、第2パターンが、前記配列方向に等間隔にて配列された複数の第2パターン要素を含み、基板上に形成された第1層に含まれる前記第1パターンと、前記第1層に重なる第2層に含まれる前記第2パターンとを撮像して得られたバーニアパターン画像から、前記配列方向における前記第1層と前記第2層との間のずれ量を取得するオーバーレイ計測方法であって、
前記第1パターンが撮像された第1画像領域と、前記第2パターンが撮像された第2画像領域とを含む計測対象画像を前記バーニアパターン画像から取得する工程と、
前記計測対象画像の第1画像領域から、前記配列方向に対して垂直な軸を中心とする前記複数の第1パターン要素の対称性を示す第1評価値を取得し、前記計測対象画像の前記第2画像領域から、前記配列方向に対して垂直な軸を中心とする前記複数の第2パターン要素の対称性を示す第2評価値を取得する工程と、
前記配列方向において、前記第1評価値が最大となる第1位置および前記第2評価値が最大となる第2位置を取得し、前記第1位置と前記第2位置との差分に基づいて、前記第1層と前記第2層との間のずれ量と前記配列方向におけるずれ方向とを取得する工程と、
を備え
、
前記第1評価値、及び前記第2評価値を取得する工程において、前記バーニアパターン画像から取得された第1矩形領域の中の前記第1パターンの撮像部分と、前記第1矩形領域を反転させた鏡像の中の前記第1パターンの撮像部分とを重ね合わせて特定された、前記第1パターンの中心位置が長手方向の中央位置に合致する第2矩形領域を有する第1参照画像に基づいて、前記第1評価値を取得することを特徴とするオーバーレイ計測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バーニアパターンを示す画像から基板上の2層間のずれ量を取得するオーバーレイ計測技術に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置の製造では、基板上に回路パターンを含む複数の層が積層、その際には従来より、層間の理想的な位置からの相対的な距離(以下、「ずれ量」という。)の計測が行われている。ずれ量は、正確には、一の層が含むパターンと他の層が含むパターンとの相対位置のずれ量である。ずれ量の計測は、オーバーレイ計測と呼ばれ、計測結果は、品質管理や製造工程の改善等に利用される。オーバーレイ計測の一手法として、一の層に主尺パターンを含め、他の層に副尺パターンを含め、これらのパターンを含む画像からずれ量を取得する手法が知られている。例えば、特許文献1には、主尺と副尺との複数の要素対画像から、要素対の配列方向における位置と評価値との関係を示す評価値関数を取得し、その評価値関数に基づいてずれ量を取得する技術が開示されている。
【0003】
なお、通常、「バーニア」とは副尺を指すが、以下の説明では、主尺および副尺の双方を含むパターンを「バーニアパターン」と呼び、バーニアパターンを含む画像を「バーニアパターン画像」とも呼ぶ。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記技術では、主尺および副尺パターンが、要求される計測精度に相応する寸法精度で形成されていることを前提にしている。しかしながら、実際には、層を積層するにつれて設計どおりの寸法精度を保っていない場合が多くなる。極端な例では、隣り合う主尺パターンどうしが接触してバーニア本来の読み取りが困難なものすらある。また、層を積層するにつれて下層の主尺(または副尺)が見えにくくなり、バーニアとしての読み取りが困難な場合もある。これらは、製品となる回路パターンそのものではないため、形成の質についてはどちらかといえば軽視される傾向にある。
【0006】
このような本来の方法での読み取りが困難になったバーニアについては、目視(顕微鏡観察)によりおおまかに許容される最大ずれ量を超えていないか判定されるが、これは非常に手間のかかる作業となる。
【0007】
本発明は、このような事情を鑑みてなされたものであり、バーニアパターンの形成精度が不十分な場合でも、単純な手順により短い処理時間で層間のずれ量を正確に推定することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一実施形態に係るオーバーレイ計測装置は、第1パターンが、予め定められた配列方向に等間隔にて配列された複数の第1パターン要素を含み、第2パターンが、配列方向に等間隔にて配列された複数の第2パターン要素を含み、基板上に形成された第1層に含まれる第1パターンと、第1層に重なる第2層に含まれる第2パターンとを撮像して得られたバーニアパターン画像から、配列方向における第1層と第2層との間のずれ量を
取得するオーバーレイ計測装置であって、第1パターンが撮像された第1画像領域と、第2パターンが撮像された第2画像領域とを含む計測対象画像を前記バーニアパターン画像から取得するパターン画像取得部と、計測対象画像の第1画像領域から、配列方向に対して垂直な軸を中心とする複数の第1パターン要素の対称性を示す第1評価値を取得し、計測対象画像の第2画像領域から、配列方向に対して垂直な軸を中心とする複数の第2パターン要素の対称性を示す第2評価値を取得する評価値取得部と、配列方向において、第1評価値が最大となる第1位置および第2評価値が最大となる第2位置を取得し、第1位置と第2位置との差分に基づいて、第1層と第2層との間のずれ量と配列方向におけるずれ方向とを取得するずれ量取得部と、を備えることを特徴とする。
【0009】
このような構成によれば、パターンの崩れによりバーニア本来の読み取りが困難になった場合でも、単純な手順により短い処理時間で層間のずれ量を正確に推定することができる。
【0010】
また、上記のオーバーレイ計測装置において、評価値取得部は、バーニアパターン画像から取得された第1矩形領域の中の第1パターンの撮像部分と、第1矩形領域を反転させた鏡像の中の第1パターンの撮像部分とを重ね合わせて特定された、第1パターンの中心位置が長手方向の中央位置に合致する第2矩形領域を有する第1参照画像に基づいて、第1評価値を取得するようにしてもよい。また、評価値取得部は、バーニアパターン画像から取得された第3矩形領域の中の第2パターンの撮像部分と、第3矩形領域を反転させた鏡像の中の第2パターンの撮像部分とを重ね合わせて特定された、第2パターンの中心位置が長手方向の中央位置に合致する第4矩形領域を有する第2参照画像に基づいて、第2評価値を取得するようにしてもよい。
【0011】
このような構成によれば、形成精度が不十分なバーニアパターン画像であっても、画像領域内において、各パターンが有する対称性を保持させた矩形領域のテンレート画像が確保できる。
【0012】
また、上記のオーバーレイ計測装置において、評価値取得部は、第1参照画像と、第1参照画像を反転させた反転画像とに基づいて、第1評価値を取得するようにしてもよい。また、評価値取得部は、第2参照画像と、第2参照画像を反転させた反転画像とに基づいて、第2評価値を取得するようにしてもよい。
【0013】
このような構成によれば、1画素精度のマッチング演算でも1/2画素精度の中心線位置を得ることが可能になる。
【0014】
また、上記のオーバーレイ計測装置において、評価値取得部は、第1画像領域内の第1パターンの撮像部位を除く背景部の色相に応じて色補正された第2参照画像に基づいて、第2評価値を取得するようにしてもよい。また、評価値取得部は、第1画像領域内の第1パターンの撮像部位を除く背景部の彩度および明度の少なくとも一方の色特性に応じて色補正された第2参照画像に基づいて、第2評価値を取得するようにしてもよい。また、評価値取得部は、第1画像領域内の第1パターンの撮像部位を除く背景部を抽出するようにしてもよい。評価値取得部は、第1画像領域内の前記第1パターンの撮像部位を除く背景部の色相に応じて色補正された第2参照画像をさらにコントラスト強調するようにしてもよい。
【0015】
このような構成によれば、テンプレート画像の背景の色相を計測対象画像のそれに合致させることで、マッチングスコアを向上できるため、各パターンと背景の明度差が僅かなバーニアパターンにも対応することが可能になる。
【0016】
また、本発明の一実施形態に係るオーバーレイ計測方法は、第1パターンが、予め定められた配列方向に等間隔にて配列された複数の第1パターン要素を含み、第2パターンが、配列方向に等間隔にて配列された複数の第2パターン要素を含み、基板上に形成された第1層に含まれる第1パターンと、第1層に重なる第2層に含まれる第2パターンとを撮像して得られたバーニアパターン画像から、配列方向における第1層と第2層との間のずれ量を取得するオーバーレイ計測方法であって、第1パターンが撮像された第1画像領域と、第2パターンが撮像された第2画像領域とを含む計測対象画像をバーニアパターン画像から取得する工程と、計測対象画像の第1画像領域から、配列方向に対して垂直な軸を中心とする複数の第1パターン要素の対称性を示す第1評価値を取得し、計測対象画像の第2画像領域から、配列方向に対して垂直な軸を中心とする複数の第2パターン要素の対称性を示す第2評価値を取得する工程と、配列方向において、第1評価値が最大となる第1位置および第2評価値が最大となる第2位置を取得し、第1位置と第2位置との差分に基づいて、第1層と第2層との間のずれ量と配列方向におけるずれ方向とを取得する工程と、を備えることを特徴とする。
【0017】
なお、本発明は、上記手段や処理の少なくとも一部を含むオーバーレイ計測装置として特定することができる。上記処理や手段は、技術的な矛盾が生じない限りにおいて、自由に組み合わせて実施することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、バーニアパターンの形成精度が不十分な場合でも、単純な手順により短い処理時間で層間のずれ量を正確に推定できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】一実施形態におけるオーバーレイ計測装置の概略構成を示す図である。
【
図2】一実施形態におけるコンピュータの構成を示す図である。
【
図3】一実施形態におけるコンピュータの機能構成を示すブロック図である。
【
図4】一実施形態における準備作業の流れを示す図である。
【
図5】一実施形態における計測対象のバーニアパターン画像の一例を示す図である。
【
図6】一実施形態におけるテンプレート画像の登録の流れを示す図である。
【
図7】一実施形態におけるオーバーレイ計測装置の処理の流れを示す図である。
【
図8】一実施形態における計測対象画像における主尺パターンの正像画像および鏡像画像の重なりを説明する図である。
【
図9】一実施形態における色補正処理の流れの一例を示す図である。
【
図10】一実施形態における各画像間の色相差を説明する図である。
【
図11】一実施形態における計測対象画像の副尺パターンの正像画像および鏡像画像の重なりを説明する図である。
【
図12】一実施形態におけるコントラスト改善処理を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して、一実施形態に係るオーバーレイ計測装置について説明する。以下の実施形態の構成は例示であり、本オーバーレイ計測装置は実施形態の構成には限定されない。
【0021】
図1は、本発明の一実施形態に係るオーバーレイ計測装置1の概略構成を示す図である。オーバーレイ計測装置1は、対象物である半導体基板(以下、「基板」という。)9上に形成された複数層間のずれ量を取得する。すなわち、基板9上にはフォトリソグラフィ技術を利用して回路パターンを含む一の層が形成され、当該層上にフォトリソグラフィ技術を利用して回路パターンを含む他の層が形成されている。オーバーレイ計測装置1は、
基板9の画像を光学的に取得し、画像から層間のパターンのずれ量を取得する。
【0022】
オーバーレイ計測装置1は、ステージ21と、ステージ駆動部22と、撮像部3とを備える。ステージ21は、基板9を保持する。ステージ駆動部22は、撮像部3に対してステージ21を相対的に移動する。ステージ駆動部22はボールねじ、ガイドレール、モータ等により構成される。撮像部3は、ステージ21の上方に配置され、基板9を撮像して画像データを取得する。撮像部3は、照明部31と、光学系32と、撮像デバイス33とを備える。照明部31は、照明光を出射する。光学系32は、基板9に照明光を導くとともに基板9からの光が入射する。撮像デバイス33は、光学系32により結像された基板9の像を電気信号に変換する。
【0023】
オーバーレイ計測装置1には、さらに、各種演算処理を行うコンピュータ5が設けられる。コンピュータ5がステージ駆動部22および撮像部3を制御することにより、基板9上の対象領域が撮像される。
【0024】
図2は、コンピュータ5の構成を示す図である。コンピュータ5は各種演算処理を行うCentral Processing Unit(CPU)51と、基本プログラムを記憶するRead Only Memory(ROM)52と、各種情報を記憶するRandom Access Memory(RAM)53とを含む
汎用的なコンピュータシステムの構成となっている。コンピュータ5は、情報記憶を行う固定ディスク54と、画像等の各種情報の表示を行うディスプレイ55と、操作者からの入力を受け付けるキーボード56aおよびマウス56b(以下、「入力部56」と総称する。)と、光ディスク、磁気ディスク、光磁気ディスク等のコンピュータ読み取り可能な記録媒体8から情報の読み取りを行う読取装置57と、オーバーレイ計測装置1の他の構成要素との間で信号を送受信する通信部58とをさらに含む。
【0025】
コンピュータ5では、事前に読取装置57を介して記録媒体8からプログラム80が読み出されて固定ディスク54に記憶されている。CPU51は、プログラム80に従ってRAM53や固定ディスク54を利用しつつ演算処理を実行する。
【0026】
図3は、コンピュータ5の演算処理により実現される機能構成を示すブロック図である。
図3では、コンピュータ5はCPU51、ROM52、RAM53、固定ディスク54等により実現される機能構成である。コンピュータ5は、パターン画像取得部511と、要素対画像取得部512と、評価値取得部513と、ずれ量取得部514と、これらの動作を制御する制御部510とを含む。これらの機能の詳細は後述する。各機能は専用の電気回路により構築されてもよく、部分的に専用の電気回路が利用されてもよい。
【0027】
図4は、オーバーレイ計測装置1における準備作業の流れを示す図である。準備作業では、まず、ステージ21上に参照用の基板9が載置され、作業者の操作により、基板9上に形成された基準マークが撮像部3により撮像される。作業者が取得画像中の基準マークの位置を入力部56を介して指定することにより、コンピュータ5において、ステージ21に対する基板9の相対位置が取得される。
【0028】
次に、作業者の操作により、基板9上に設けられたバーニアパターンが撮像部3により撮像される。これにより、バーニアパターンを含む矩形領域の画像が取得される。作業者は、ディスプレイ55の表示を見ながら、入力部56を介して参照用のバーニアパターン画像の位置および範囲を指定する。これにより、コンピュータ5において、参照用のバーニアパターン画像が取得され、参照用のバーニアパターン画像を元画像とした主尺および副尺のテンプレート画像が登録される(ステップS11)。
【0029】
なお、基板9上には、x方向のずれ量を取得するためのバーニアパターンと、x方向に
垂直なy方向のずれ量を取得するためのバーニアパターンとが、予め定められた位置に複数に配置される。作業者は、基板9上に配置された複数のバーニアパターンの中から参照用に使用するバーニアパターンを含む画像を取得する。
【0030】
図5は、本実施形態が計測対象とするバーニアパターン画像の一例を示す図である。
図5においては、予め定めされたx方向のずれ量を取得するためのバーニアパターン画像601が示される。バーニアパターン画像601には、基板9上においてバーニアとして機能する第1パターン61および第2パターン62を示す部位が含まれる。
【0031】
バーニアパターン画像601では、第1パターン61は、x方向に等間隔にて配列された複数の第1パターン要素611を含む。第2パターン62は、x方向に等間隔にて配列された複数の第2パターン要素621を含む。
図5では、第1パターン要素611の数は11であり、第2パターン要素621の数も11である。第2パターン要素621のピッチは、第1パターン要素611のピッチよりも僅かに大きい。
【0032】
第1パターン61は、基板9上に形成された一の層に含まれる。以下、第1パターン61を含む層を「第1層」と呼ぶ。正確には、第1パターン61は、第1層を利用してフォトリソグラフィにより回路パターンとともに形成される。第2パターン62は、基板9上に形成された他の一の層に含まれる。以下、第2パターン62を含む層を「第2層」と呼ぶ。正確には、第2パターン62は、第2層を利用してフォトリソグラフィにより回路パターンとともに形成される。第1層と第2層とは重なるが、直接的に重なっている必要はなく、他の層が介在して間接的に重なってもよい。また、パターンはフォトリソグラフィ以外の技術により形成されてもよい。
【0033】
第1パターン61は、いわゆる主尺であり、第2パターン62は、いわゆる副尺である。もちろん、第1パターン61および第2パターン62の主尺および副尺の役割は入れ替えられてもよい。また、第1パターン要素611の間隔は第2パターン要素621の間隔よりも大きくてもよい。
【0034】
第1層と第2層とがx方向にずれていない場合、すなわち、第1層の回路パターンと第2層の回路パターンとがx方向に関してずれていない場合、バーニアパターン画像601において、中央の第1パターン要素611のx方向の中心位置と、中央の第2パターン要素621のx方向の中央位置とが一致する。第1層と第2層とがx方向にずれると、中央以外のいずれかの第1パターン要素611の中央位置と、他のいずれかの第2パターン要素621の中央位置とが最も近づく。ずれ量に応じて、中央位置が最も近づく第1パターン要素611と第2パターン要素621との組合せの位置が変化する。なお、x方向に垂直なy方向のずれ量を取得するためのバーニアパターンについても同様である。
【0035】
図5に示すように、本実施形態が計測対象とするバーニアパターン画像601では、主尺を構成する各要素611は隣り合うパターン同士のエッジが重なるように接触した状態で形成されているため、バーニア本来の読み取りが困難なものになっている。副尺を構成する各要素621についても同様である。
【0036】
本実施形態においては、形成精度が不十分なバーニアパターン画像を用いた層間のずれ量の推定を可能にするため、主尺および副尺の部分画像を用いたテンプレート画像の生成処理を行う。
【0037】
図6は、ステップS11の処理で行われるテンプレート画像の生成処理の流れを示す図である。ステップS101では、パターン画像取得部511により、作業者によって指定された位置および範囲の参照用のバーニアパターン画像601が取得される。ステップS
102では、要素対画像取得部512により、バーニアパターン画像601に含まれる主尺パターン61および副尺パターン62の、それぞれについての部分画像の切り出しが行われる。バーニアパターン画像601に含まれる主尺パターンの部分画像、および、副尺パターンの部分画像が、矩形領域の主尺パターン画像および副尺パターン画像として取得される。
【0038】
ステップS103では、主尺パターン画像の部分画像、副尺パターンの部分画像のそれぞれについて鏡像画像が生成される。例えば、x方向のずれ量を取得するためのバーニアパターンにおいては、左右を反転させた反転画像が生成される。また、y方向のずれ量を取得するためのバーニアパターンにおいては、上下を反転させた反転画像が生成される。以下、鏡像画像の生成元となった各パターンの部分画像を「正像画像」とも称する。
【0039】
ステップS104では、正像画像の主尺パターンと鏡像画像の主尺パターンとの間のパターンマッチングが行われる。また、正像画像の副尺パターンと鏡像画像の副尺パターンとの間のパターンマッチングが行われる。パターンマッチングは、評価値取得部513により行われる。評価値取得部513により、正像画像の各パターンと鏡像画像の各パターンと重ねた際の一致度を示すマッチングスコアに基づいて、正像画像および鏡像画像に撮像された各パターンの相対的な位置関係が決定される。
【0040】
ステップS105では、各パターンのそれぞれについて、正像画像と鏡像画像とを重ね合わせた際の中心位置(座標情報)が記録される。例えば、正像画像における各パターンの中心位置が記録される。そして、各パターンのそれぞれについて、記録された位置を中心として、各パターンの両端に外接するテンプレート領域を示す矩形枠が特定される(ステップS106)。これにより、主尺パターンの中心位置と、テンプレート領域の長手方向の中心位置とを合致させた、参照用のテンプレート画像が取得される。また、副尺パターンの中心位置と、テンプレート領域の長手方向の中心位置とを合致させた、参照用のテンプレート画像が取得される。形成精度が不十分なバーニアパターン画像であっても、画像領域内において、各パターンが有する対称性を保持させた矩形領域のテンレート画像が確保できる。
【0041】
ステップS107では、主尺パターンの中心位置と、テンプレート領域の長手方向の中心位置とを合致させたテンプレート画像が参照用の主尺テンプレート画像として登録される。また、ステップS108では、副尺パターンの中心位置と、テンプレート領域の長手方向の中心位置とを合致させたテンプレート画像が参照用の副尺テンプレート画像として登録される。
【0042】
図6の処理により、x方向のずれ量を取得するためのバーニアパターンと、x方向に垂直なy方向のずれ量を取得するためのバーニアパターンのそれぞれについて、参照用の主尺テンプレート画像、副尺テンプレート画像が登録される。それぞれのテンプレート画像は、長手方向に延伸する各パターンの両端に外接し、各パターンの中心位置を基準として長手方向にパターン毎の対称性を保持する矩形領域で構成される。このような構成により、登録された各テンプレート画像は、形成精度が不十分なバーニアパターン画像から生成されたものであっても、照合基準画像としての信頼性を高めることができる。
【0043】
図4に戻り、参照用の主尺テンプレート画像、副尺テンプレート画像の登録後、作業者は計測対象のバーニアパターンの位置や配列方向をコンピュータ5に入力する(ステップS12)。なお、主尺パターンおよび副尺パターンを構成するパターン要素(611、621)の要素数が入力されてもよい。例えば、
図5のバーニアパターン画像601では、要素数として「11」が入力される。また、計測対象のバーニアパターンの位置や配列方向は、計測対象になる基板9毎に予め指定されていてもよい。例えば、
図5のバーニアパ
ターン画像601では、配列方向として「x」が入力される。
【0044】
図7は、オーバーレイ計測装置1の処理の流れの一例を示す図である。ステージ21に計測対象となる基板9が載置されると、撮像部3によりアライメントマークが自動的に撮像され、ステージ21に対する基板9の位置が取得される。そして、パターン画像取得部511により、予め登録されているバーニアパターンの位置および範囲に基づいて、バーニアパターンが存在すると想定される範囲を撮像した計測対象画像が取得される(ステップS21)。
【0045】
ステップS22では、取得された計測対象画像と、主尺パターンである第1パターンのテンプレート画像とのパターンマッチングが行われる。より具体的には、評価値取得部513は、予め登録された主尺パターンのテンプレート画像を正像画像とする、テンプレート画像の鏡像画像を生成する。そして、評価値取得部513は、正像画像および鏡像画像のそれぞれのテンプレート画像を用いて、計測対象画像の撮像領域を探索する。
【0046】
ステップS23では、評価値取得部513は、正像画像の主尺パターンと計測対象画像に撮像された主尺パターンとのパターンマッチングを行い、両者を重ねた際のマッチングスコアを評価値として取得する。また、評価値取得部513は、鏡像画像の主尺パターンと計測対象画像に撮像された主尺パターンとのパターンマッチングを行い、両者を重ねた際のマッチングスコアを評価値として取得する。
【0047】
マッチングスコアの算出方法として、様々な手法が採用され得る。例えば、「画素値の差分の二乗和(二乗誤差)」で類似度を評価するSSD(Sum of Squared Difference)
、「画素値の差分の絶対値の和」で類似度を評価するSAD(Sum of Absolute Difference)が例示される。また、「正規化相互相関」で類似度を評価するNCC(Normalized Cross Correlation)、「零平均正規化相互相関」と呼ばれる統計量で類似度を評価するZNCC(Zero means Normalized Cross Correlation)といった算出方法を適用してもよ
い。なお、マッチングスコアの算出方法として、SSDやSADによる手法が採用される場合には、画像が完全に一致した際のスコア値は「0.0」になる。また、NCCやZNCCによる手法が採用される場合には、画像が完全に一致した際のスコア値は「1.0」になる。
【0048】
ステップS24では、主尺パターンのテンプレート画像の正像画像によるパターンマッチングで得られた評価値と、鏡像画像によるパターンマッチングで得られた評価値とに基づいて、計測対象画像における主尺パターンの中心位置が特定される。
【0049】
図8は、計測対象画像における主尺パターンの正像画像および鏡像画像の重なりを説明する図である。
図8では、一点鎖線の矩形枠で囲まれた主尺パターンの正像画像61aと、実線の矩形枠で囲まれた鏡像画像61bとが、計測対象画像上で重なり合った状態が模式的に例示される。ステップS24の処理では、計測対象画像上で主尺パターンにマッチングされた正像画像と鏡像画像とが重なり合う範囲が特定される。
図8に示すように、計測対象画像上の主尺パターンに外接する、正像画像61aと鏡像画像61bとが重なり合った矩形領域61cが特定される。そして、上記特定された矩形領域の長手方向の中心位置を、計測対象画像における主尺パターンの中心線C1と特定する。矩形領域61cにおいては、主尺パターンは、中心線C1を基準線として、長手方向に対称になる。ここで、x方向のずれ量を取得するためのバーニアパターンにおいては、矩形領域の長手方向の中心位置を示すx座標が記録され、x方向に垂直なy方向のずれ量を取得するためのバーニアパターンにおいては、矩形領域の長手方向の中心位置を示すy座標が記録される。
【0050】
なお、主尺パターンの中心線C1を特定する際において、正像画像とのパターンマッチ
ングによって求められた中心位置と、鏡像画像とのパターンマッチングによって求められた中心位置との差分に基づいて特定してもよい。例えば、上記の差分が単位分解能に相当する距離値に対応する閾値以下のときには、各中心位置を平均することで得られる位置を中心位置とすることもできる。
【0051】
図7に戻り、ステップS25では、評価値取得部513により、計測対象画像の背景色に基づくテンプレート画像に対する色補正が行われる。一般的に、テンプレートの基になった画像に比べて、計測対象画像におけるパターン背景の明度や彩度あるいは色相に変化が生じた場合のテンプレートマッチング結果は、コントラスト良く観察可能な主尺よりも副尺のほうが影響を受けやすい傾向があるからである。本実施形態では、副尺パターンについてのマッチングスコアへの影響を抑制するため、副尺テンプレート画像への、計測対象画像の背景色に基づく色補正を行う。
【0052】
図9は、ステップS25の色補正処理の流れの一例を示す図である。
図9においては、計測対象画像から検出された主尺パターンに基づく色補正の処理形態が例示される。
図9のステップS111では、計測対象画像から検出された第1パターンである主尺パターン部分の画像が取得される。評価値取得部513は、例えば、ステップS24で中心線が特定された矩形領域61cの画像を、主尺パターン部分の部分画像として取得する。
【0053】
ステップS112では、主尺パターン部分の部分画像に対してRGB色空間からHSV色空間への変換を行い、色相、彩度、明度で表される変換画像I1を生成する。ステップS113では、HSV色空間へ変換された変換画像I1の色相のヒストグラムから出現頻度数がピークとなる色相値H1を特定する。これにより、計測対象画像の主尺パターン部分の部分画像における、出現頻度数がピークとなる色相値H1が取得される。
【0054】
次に、ステップS114では、主尺パターンのテンプレート画像について、RGB色空間からHSV色空間への変換を行い、色相、彩度、明度で表される変換画像I2を生成する。そして、ステップS113と同様にして、HSV色空間へ変換された変換画像I2の色相のヒストグラムから出現頻度数がピークとなる色相値H2が特定される(ステップS115)。これにより、主尺パターンのテンプレート画像における、出現頻度数がピークとなる色相値H2が取得される。
【0055】
ステップS116では、計測対象画像を基準としたテンプレート画像との間の色相差(ΔH=H2-H1)が求められる。
図10は、各画像間の色相差を説明する図である。
図10(1)には、主尺パターンのテンプレート画像についての色相ヒストグラムのグラフが例示され、
図10(2)には、計測対象画像についての主尺パターン部分の色相ヒストグラムのグラフが例示されている。各グラフの、横軸は色相値を表し、縦軸は出現頻度数を表す。なお、各グラフにおいて、右端の色相値は色相環により左端の色相値となる。
【0056】
図10(1)のグラフにおいて、ピークP1は、主尺パターンのテンプレート画像における出現頻度数がピークとなる色相値H1を表す。また、
図10(2)のグラフにおいて、ピークP2は、計測対象画像の主尺パターン部分の部分画像における出現頻度数がピークとなる色相値H1を表す。
図10(2)のグラフに示すように、ステップS116では、計測対象画像とテンプレート画像との間の、出現頻度数がピークとなる色相値についての色相差(ΔH=H2-H1)が求められる。
【0057】
図9に戻り、ステップS117では、第2パターンである副尺パターンのテンプレート画像について、RGB色空間からHSV色空間への変換が行われ、変換画像I3が生成される。そして、ステップS118においては、変換画像I3を構成する全画素に対して、ステップS116の処理で求められた色相差(ΔH)に基づく色補正が行われる。より具
体的には、変換画像I3を構成する全画素の色相値から、色相差(ΔH)を減算し、変換画像I3に対する色補正が行われる。そして、色補正後の変換画像に対して、HSV色空間からRGB色空間への再変換を行い、色相差に基づいて色補正がなされた副尺パターンのテンプレート画像が生成される。
図9の処理により、計測対象画像の主尺パターン部分と、主尺パターンのテンプレート画像との間の色相差(ΔH=H2-H1)に基づいて色補正が行われた、副尺パターンのテンプレート画像が取得できる。
【0058】
図9の処理では、色相差に基づく色補正を説明したが、他の要素(彩度(S)、明度(V))を反映させるようにしてもよい。例えば、色相(H)を色相差分だけシフトさせるだけではなく、彩度(S)に対して予め定められた補正係数を乗じてもよく、明度(V)のヒストグラムの分布範囲を揃えてもよい。明度(V)のヒストグラムの分布範囲を揃えることは、例えば、主尺テンプレート画像と計測対象画像をグレースケール化して作成されたヒストグラムに基づくコントラスト改善とほぼ等価である。
【0059】
図7に戻り、ステップS26では、取得された計測対象画像と、色補正が行われた副尺パターンである第2パターンのテンプレート画像との間のパターンマッチングが行われる。より具体的には、評価値取得部513は、色補正が行われた副尺パターンのテンプレート画像を正像画像とする、鏡像画像を生成する。そして、評価値取得部513は、正像画像および鏡像画像のそれぞれのテンプレート画像を用いて、計測対象画像の撮像領域を探索する。なお、計測対象画像における探索領域は、ステップS24で求められた主尺パターンの中心位置に基づいて限定してもよい。
【0060】
ステップS27では、評価値取得部513は、正像画像の副尺パターンと計測対象画像に撮像された副尺パターンとのパターンマッチングを行い、両者を重ねた際のマッチングスコアを評価値として取得する。また、評価値取得部513は、鏡像画像の副尺パターンと計測対象画像に撮像された副尺パターンとのパターンマッチングを行い、両者を重ねた際のマッチングスコアを評価値として取得する。これらのマッチングスコアの算出方法はS23の処理と同様である。但し、ステップS27で採用されるマッチングスコアの算出方法は、S23と同じ算出方法であってもよく、異なる算出方法であってもよい。
【0061】
ステップS28では、副尺パターンのテンプレート画像の正像画像によるパターンマッチングで得られた評価値と、鏡像画像によるパターンマッチングで得られた評価値とに基づいて、計測対象画像における副尺パターンの中心位置が特定される。
【0062】
図11は、計測対象画像における副尺パターンの正像画像および鏡像画像の重なりを説明する図である。
図11では、一点鎖線の矩形枠で囲まれた副尺パターンの正像画像62aと、実線の矩形枠で囲まれた鏡像画像62bとが、計測対象画像上で重なり合った状態が模式的に例示される。なお、破線の矩形枠で囲まれた範囲は、計測対象画像における副尺パターンの探索領域を表す。
【0063】
ステップS28の処理では、計測対象画像上で副尺パターンにマッチングされた正像画像と鏡像画像とが重なり合う範囲が特定される。
図11に示すように、計測対象画像上の副尺パターンに外接する、正像画像62aと鏡像画像62bとが重なり合った矩形領域62cが特定される。そして、上記特定された矩形領域の長手方向の中心位置を、計測対象画像における副尺パターンの中心線C2と特定する。矩形領域62cにおいては、副尺パターンは、中心線C2を基準線として、長手方向に対称になる。
【0064】
なお、ステップS28の処理においても、正像画像とのパターンマッチングによって求められた中心位置と、鏡像画像とのパターンマッチングによって求められた中心位置との差分が所定の閾値以下のときには、各中心位置を平均することで得られる位置を中心とし
てもよい。ここで、所定の閾値とは、例えば、単位分解能に相当する距離値である。
【0065】
また、x方向のずれ量を取得するためのバーニアパターンにおいては、矩形領域の長手方向の中心位置を示すx座標が記録される。さらに、x方向に垂直なy方向のずれ量を取得するためのバーニアパターンにおいては、矩形領域の長手方向の中心位置を示すy座標が記録される。
【0066】
図7に戻り、ステップS29では、ずれ量取得部514は、主尺パターンの中心線C1の位置と副尺パターンの中心線C2の位置とに基づいて、第1層と第2層との間のずれ量を推定する。より具体的には、ずれ量取得部514は、x方向のずれ量を取得するためのバーニアパターンにおいては、各中心位置を示すx座標の差分の絶対値からずれ量を推定し、差分の符号からずれ方向(-x方向、+x方向)を推定する。同様にして、ずれ量取得部514は、y方向のずれ量を取得するためのバーニアパターンにおいては、各中心位置を示すy座標の差分の絶対値からずれ量を推定し、差分の符号からずれ方向(-y方向、+y方向)を推定する。ステップS29の処理後、計測対象になるバーニアパターンの画像についての存在の有無が判定される(ステップS30)。そして、計測対象になるバーニアパターンの画像が存在する場合には(ステップS30、“Yes”)、ステップS21からステップS30の処理が繰り返される。
【0067】
以上、説明したように、本実施形態に係るオーバーレイ計測装置1によれば、パターンの崩れによりバーニア本来の読み取りが困難になった場合でも、単純な手順により短い処理時間で層間のずれ量を正確に推定することができる。また、参照用のテンプレート画像に正像パターン画像と鏡像パターン画像の2つを用いることで、例えば、1画素精度のマッチング演算でも1/2画素精度の中心線位置を得ることが可能になる。
【0068】
さらに、本実施形態に係るオーバーレイ計測装置1によれば、必ずしも形成されたパターンそのものが原因とは言えない非対称性によって引き起こされるマッチング位置の誤差を相殺することができる。このようなケースとして、例えば、目視手作業の限界でテンプレート画像の左右余白が異なる場合や、膜厚の違いあるいはレジスト端部での屈折の違いといった光学的な条件の組合せでパターンエッジの影が左右で異なる場合などである。本実施形態によれば、このようなケースであっても1画素精度のマッチング演算でも1/2画素精度の中心線位置を得ることが可能になる。
【0069】
さらにまた、本実施形態に係るオーバーレイ計測装置1では、テンプレート画像の背景の色相を計測対象画像のそれに合致させることで、マッチングスコアを向上できるため、各パターンと背景の明度差が僅かなバーニアパターンにも対応することが可能になる。本実施形態によれば、バーニアパターンの形成精度が不十分な場合でも、単純な手順により短い処理時間で層間のずれ量を正確に推定可能な技術が提供できる。
【0070】
<変形例>
ステップS25の背景色に基づく色補正処理において、主尺パターンのテンプレート画像と計測対象画像のそれぞれから、バーニアのパターン部分を除いた背景だけを選び出す処理を施すようにしてもよい。このような処理は、例えば、主尺パターンのテンプレート画像、計測対象画像のそれぞれを、RGBからグレースケール化したのちに二値化することで得られるマスクを用いたマスク処理が例示できる。マスク処理では、例えば、グレースケール化した背景を「1」(白色:255)、それ以外を「0」(黒色:0)とするマスクが生成される。そして、生成されたマスク値を各画像の全画素に乗ずればよい。なお、グレースケール画像に何らかのコントラスト強調処理を施してもよい。また、二値化の際には、固定閾値ではなく適応的閾値処理を施してもよい。さらに、二値化後の画像に対して、中央値や膨張収縮といったノイズ除去フィルタ処理を施すこともできる。このよう
な処理を施すことで、副尺パターンのマッチングスコアを高めることが可能になる。
【0071】
また、ステップS26のパターンマッチング処理において、RGB色空間に再変換された副尺パターンのテンプレート画像の正像画像および鏡像画像のそれぞれに対して、コントラストを強調する処理を施すことができる。同様にして、計測対象画像の探索範囲内の画像に対してコントラストを強調する処理を施すことができる。そしてコントラスト強調処理が施された各画像において、テンプレートマッチングを行うとしてもよい。ステップS25の背景色に基づく色補正処理が完了した時点では、テンプレート画像と計測対象画像の色相はほぼ一致しているため、上記コントラスト強調処理がテンプレートマッチングに悪影響を及ぼすことはない。このようなコントラスト改善処理として、RGBヒストグラムの線形伸長が例示できる。但し、ガンマ補正といった非線形な処理を施してもよく、元画像の色を保たないコントラスト強調処理を施すこともできる。
【0072】
図12は、コントラスト改善処理を説明する図である。
図12(1)は、コントラスト改善処理を施す前の副尺パターンのテンプレート画像を表し、
図12(2)は、コントラスト改善処理としてRGBヒストグラムの線形伸長が施された状態のテンプレート画像を表す。また、
図12(3)は、コントラスト改善処理として元画像の色を保たないコントラスト強調処理が施された状態のテンプレート画像を表す。
【0073】
図12(1)、(2)に示すように、RGBヒストグラムの線形伸長が施された状態では、元画像のR1、G1、B1の分布範囲がそれぞれR2、G2、B2に示す分布範囲に伸長される。また、
図12(1)、(3)に示すように、元画像の色を保たないコントラスト強調処理が施された状態では、元画像のR1、G1、B1の分布範囲が重ね合わさって、それぞれR3、G3、B3の分布範囲となる。
図12(3)においては、R3、G3、B3が重なる範囲は無色状態となるため、テンプレート画像では副尺パターンのコントラストが強調された状態となる。
【0074】
上記実施の形態および各変形例における構成は、相互に矛盾しない限り適宜組み合わせることができる。また、上記実施の形態にて示したオーバーレイ計測装置1の動作の流れは適宜変更されてよい。例えば、x方向に対応するバーニアパターン画像に対する演算処理と、y方向に対応するバーニアパターン画像に対する演算処理とは、並行して行われてもよい。
【0075】
また、基板9は半導体基板には限定されない。ガラス基板等の微細な多層パターンが形成されるものであれば、オーバーレイ計測装置1の技術が適用可能である。また、撮像部3は、多層膜を観察することができるのであれば、光学顕微鏡以外の顕微鏡であってもよい。また、オーバーレイ計測装置1による上記の演算処理の対象は、バーニアパターン画像に限らない。例えば、一の層に正方形パターンが形成され、他の層に一の層の正方形パターンよりも小さい正方形パターンが形成され、層間にずれが無いときに各正方形パターンの幾何学中心が一致するアライメントマーク画像も対象にすることができる。
【0076】
《コンピュータが読み取り可能な記録媒体》
情報処理装置その他の機械、装置(以下、コンピュータ等)に上記いずれかの機能を実現させるプログラムをコンピュータ等が読み取り可能な記録媒体に記録することができる。そして、コンピュータ等に、この記録媒体のプログラムを読み込ませて実行させることにより、その機能を提供させることができる。
【0077】
ここで、コンピュータ等が読み取り可能な記録媒体とは、データやプログラム等の情報を電気的、磁気的、光学的、機械的、または化学的作用によって蓄積し、コンピュータ等から読み取ることができる記録媒体をいう。このような記録媒体のうちコンピュータ等か
ら取り外し可能なものとしては、例えばフレキシブルディスク、光磁気ディスク、CD-ROM、CD-R/W、DVD、ブルーレイディスク、DAT、8mmテープ、フラッシュメモリなどのメモリカード等がある。また、コンピュータ等に固定された記録媒体としてハードディスクやROM等がある。
【符号の説明】
【0078】
1 オーバーレイ計測装置
9 基板
61 第1パターン
62 第2パターン
511 パターン画像取得部
512 要素対画像取得部
513 評価値取得部
514 ずれ量取得部
601 バーニアパターン画像
611 第1パターン要素
621 第2パターン要素