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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-19
(45)【発行日】2023-04-27
(54)【発明の名称】錠剤検査方法及び錠剤検査装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/85 20060101AFI20230420BHJP
   G01N 21/84 20060101ALI20230420BHJP
【FI】
G01N21/85 A
G01N21/84 E
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019061998
(22)【出願日】2019-03-27
(65)【公開番号】P2020159971
(43)【公開日】2020-10-01
【審査請求日】2021-09-22
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000102212
【氏名又は名称】ウシオ電機株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591040753
【氏名又は名称】東和薬品株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097548
【弁理士】
【氏名又は名称】保立 浩一
(72)【発明者】
【氏名】山田 剛
(72)【発明者】
【氏名】太田 彩
(72)【発明者】
【氏名】中山 幸治
【審査官】井上 徹
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-205390(JP,A)
【文献】特開2011-191129(JP,A)
【文献】特開2012-98181(JP,A)
【文献】国際公開第2008/001785(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00-G01N 21/01
G01N 21/17-G01N 21/61
G01N 21/84-G01N 21/958
G01J 3/00-G01J 4/04
G01J 7/00-G01J 9/04
G01B 11/00-G01B 11/30
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光測定を行うことによる、錠剤の良否を判断する錠剤検査方法であって、
広帯域でスペクトルが連続しているパルス光を光源から出射させる出射工程と、
出射されたパルス光のパルス幅を1パルスにおける波長と経過時間との関係が1対1となるように伸長素子によって伸長させる伸長工程と、
伸長工程において伸長されたパルス光を移動している錠剤に照射する照射工程と、
伸長されたパルス光が照射された錠剤からの透過光を受光器によって受光する受光工程と、
受光器からの出力データを処理して錠剤の良否を判断する判断工程と
を備えており、
判断工程は、
受光器からの出力データに従って錠剤の特定の成分の含有比又は含有量を算出し、算出された含有比又は含有量を基準値と比較することで錠剤の良否を判断する工程であることを特徴とする錠剤検査方法。
【請求項2】
前記出射工程で出射される広帯域でスペクトルが連続しているパルス光は、少なくとも1100nm以上1200nm以下の波長帯域に亘って連続したスペクトルの光であることを特徴とする請求項記載の錠剤検査方法。
【請求項3】
前記出射工程で出射される広帯域でスペクトルが連続しているパルス光は、少なくとも1000nm以上1300nm以下の波長帯域に亘って連続したスペクトルの光であることを特徴とする請求項記載の錠剤検査方法。
【請求項4】
前記伸長工程でパルス伸長されたパルス光は、波長に対する時間の変化の傾きが1nmあたり10ピコ秒以上であることを特徴とする請求項1乃至3いずれかに記載の錠剤検査方法。
【請求項5】
前記照射工程は、一方の側から前記錠剤と同等以上の大きさのパターンで前記パルス光を照射する工程であることを特徴とする請求項1乃至4いずれかに記載の錠剤検査方法。
【請求項6】
光測定を行うことによる、錠剤の良否を判断する錠剤検査装置であって、
広帯域でスペクトルが連続しているパルス光を出射するパルス光源と、
パルス光源から出射されたパルス光のパルス幅を1パルスにおける波長と経過時間との関係が1対1となるように伸長させる伸長素子と、
移動している錠剤に伸長素子により伸長されたパルス光が照射された際に当該錠剤からの透過光を受光する位置に設けられた受光器と、
受光器からの出力データを処理して錠剤の良否を判断する判断手段と
を備えており、
判断手段は、受光器からの出力データに従って錠剤の特定の成分の含有比又は含有量を算出し、算出された含有比又は含有量を基準値と比較することで錠剤の良否を判断する手段であることを特徴とする錠剤検査装置。
【請求項7】
前記パルス光源は、少なくとも1100nm以上1200nm以下の波長帯域に亘って連続したスペクトルの光であるパルス光を出射する光源であることを特徴とする請求項記載の錠剤検査装置。
【請求項8】
前記パルス光源は、少なくとも1000nm以上1300nm以下の波長帯域に亘って連続したスペクトルの光であるパルス光を出射する光源であることを特徴とする請求項記載の錠剤検査装置。
【請求項9】
前記伸長素子は、波長に対する時間の変化の傾きが1nmあたり10ピコ秒以上となる状態でパルス伸長を行う素子であることを特徴とする請求項6乃至8いずれかに記載の錠剤検査装置。
【請求項10】
不良品であると判断された錠剤を除外する除外機構を備えていることを特徴とする請求項6乃至9いずれかに記載の錠剤検査装置。
【請求項11】
前記伸長素子により伸長されたパルス光を一方の側から前記錠剤と同等以上の大きさのパターンで当該錠剤に照射する照射光学系を備えていることを特徴とする請求項6乃至10いずれかに記載の錠剤検査装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この出願の発明は、各種錠剤の良否を光測定によって行う錠剤検査の技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
対象物に光照射し、その対象物からの透過光や反射光等を分光器で分光してスペクトルを測定する分光分析の技術は、材料分析の手法として代表的なものの一つである。この手法は、製品の良否判断についても応用されている。
典型的には、HPLC(高速液体クロマトグラフィ)のように、製品の一部を抜き取り、必要に応じて溶液に溶解させてその吸収スペクトル等を測定することで製品の良否を判断している。良品である場合の吸収スペクトル等が予め調べられており、それと比較することで製品の良否が判断される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平06-034622号公報
【非特許文献】
【0004】
【文献】尾崎幸洋編著、株式会社講談社発行、「近赤外分光法」、59~75頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
吸収スペクトルや反射スペクトルといった光特性は、含有成分やその量を忠実に反映しており、成分の同定や定量を高い精度で行うことを可能にする。したがって、製品検査においても、高い信頼性で良否判断を行うことができる。
しかしながら、HPLCのような従来の手法では、測定やその準備に非常に時間がかかる欠点がある。このため、定期的に製品の一部を抜き取り、品質を確認するといった利用にとどまっている。医薬品のように特に高い信頼性が要求される製品については、全数検査が望ましい場合が多いが、全数検査を光測定によって行うことは、従来の手法では非現実的である。
【0006】
出来上がった各製品について、一部を溶液に溶解するのではなく、そのまま光を照射してその製品からの透過光を分光測定することで吸収スペクトルを求め、それによって良否判断をすることが一応は考えられる。しかしながら、回折格子を使用した従来の分光測定では、測定する波長域に合わせて回折格子の姿勢を変化させること(波長掃引)が必要であり、全数検査を想定した高速測定は実現できないと考えられる。
【0007】
また、吸収の多い(透過率が1%未満程度の)製品の場合、透過光が微弱となるため、測定精度上の問題が生じると予想される。回折格子を使用した分光測定では、測定のSN比を十分に高くしたり高感度の測定を行ったりするには、掃引を遅くしたり掃引を何回か行って受光器に入射する光の総量(光量)を多くする必要がある。この点は、高速測定が難しい要因の一つであるが、さらに被測定光が微弱な場合、この問題は顕著となる。つまり、高速性を優先させると、SN比の影響で検査精度が顕著に低下する。
【0008】
尚、多数の光電変換素子を一列に配列したエリアセンサを使用するマルチチャンネル型の分光測定装置を使用すれば、回折格子の掃引は不要である。しかし、高SN比や高感度の分析のためには光量を多くする必要があり、高速の分析が行えないという問題は解決されない。
本願の発明は、このような従来技術の課題を解決するために為されたものであり、高速且つ高信頼性の良否判断を光測定によって行う新しい技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本願の錠剤検査方法の発明は、光測定を行うことによる、固相である錠剤の良否を判断する錠剤検査方法であって、
広帯域でスペクトルが連続しているパルス光を光源から出射させる出射工程と、
出射されたパルス光のパルス幅を1パルスにおける波長と経過時間との関係が1対1となるように伸長素子によって伸長させる伸長工程と、
伸長工程において伸長されたパルス光を移動している錠剤に照射する照射工程と、
伸長されたパルス光が照射された錠剤からの透過光を受光器によって受光する受光工程と、
受光器からの出力データを処理して錠剤の良否を判断する判断工程と
を備える
そして、判断工程は、受光器からの出力データに従って錠剤の特定の成分の含有比又は含有量を算出し、算出された含有比又は含有量を基準値と比較することで錠剤の良否を判断する工程である。
また、上記課題を解決するため、本願の錠剤検査方法の発明は、前記出射工程で出射される広帯域でスペクトルが連続しているパルス光が、少なくとも1100nm以上1200nm以下の波長帯域に亘って連続したスペクトルの光であるという構成を持ち得る。
また、上記課題を解決するため、本願の錠剤検査方法の発明は、前記出射工程で出射される広帯域でスペクトルが連続しているパルス光が、少なくとも1000nm以上1300nm以下の波長帯域に亘って連続したスペクトルの光であるという構成を持ち得る。
また、上記課題を解決するため、本願の錠剤検査方法の発明は、前記伸長工程でパルス伸長されたパルス光が、波長に対する時間の変化の傾きが1nmあたり10ピコ秒以上であるという構成を持ち得る。
また、上記課題を解決するため、本願の錠剤検査方法の発明は、前記照射工程が、一方の側から前記錠剤と同等以上の大きさのパターンで前記パルス光を照射する工程であるという構成を持ち得る。
【0010】
また、上記課題を解決するため、本願の錠剤検査装置の発明は、光測定を行うことによる、錠剤の良否を判断する錠剤検査装置であって、
広帯域でスペクトルが連続しているパルス光を出射するパルス光源と、
パルス光源から出射されたパルス光のパルス幅を1パルスにおける波長と経過時間との関係が1対1となるように伸長させる伸長素子と、
移動している錠剤に伸長素子により伸長されたパルス光が照射された際に当該錠剤からの透過光を受光する位置に設けられた受光器と、
受光器からの出力データを処理して錠剤の良否を判断する判断手段と
を備える
そして、判断手段は、受光器からの出力データに従って錠剤の特定の成分の含有比又は含有量を算出し、算出された含有比又は含有量を基準値と比較することで錠剤の良否を判断する手段である。
また、上記課題を解決するため、本願の錠剤検査装置の発明は、前記パルス光源は、少なくとも1100nm以上1200nm以下の波長帯域に亘って連続したスペクトルの光であるパルス光を出射する光源であるという構成を持ち得る。
また、上記課題を解決するため、本願の錠剤検査装置の発明は、前記パルス光源は、少なくとも1000nm以上1300nm以下の波長帯域に亘って連続したスペクトルの光であるパルス光を出射する光源であるという構成を持ち得る。
また、上記課題を解決するため、本願の錠剤検査装置の発明は、前記伸長素子は、波長に対する時間の変化の傾きが1nmあたり10ピコ秒以上となる状態でパルス伸長を行う
素子であるという構成を持ち得る。
また、上記課題を解決するため、本願の錠剤検査装置の発明は、不良品であると判断された錠剤を除外する除外機構を備えているという構成を持ち得る。
また、上記課題を解決するため、本願の錠剤検査装置の発明は、前記伸長素子により伸長されたパルス光を一方の側から錠剤と同等以上の大きさのパターンで錠剤に照射する照射光学系を備えているという構成を持ち得る。
【発明の効果】
【0011】
以下に説明する通り、本願発明の錠剤検査方法又は錠剤検査装置によれば、製造された錠剤について溶液に溶解するといった処理をすることなく光を照射してその結果から良否判断をするので、極めて短時間に良否の結果を得ることができ、全数検査も可能となる。
また、対象錠剤の光特性により良否を判断する装置、方法ではあるものの、パルス伸長させたパルス光を利用するので、回折格子の掃引のような時間を要する動作は不要であり、高速の良否判断が可能となる。
さらに、回折格子を使用した空間的な分光ではなく、パルス伸長させたパルス光の時間波長一意性を利用した時間的な分光を行うので、短い時間でも十分な量の光を受光器に入射させることができる。このため、高速且つ高SN比の測定が可能で、高信頼性の良否判断を高速に行うことができる。
また、受光器が、錠剤を透過した光を受光する位置に設けられているので、吸収スペクトルにより製品の良否を好適に判断することができる。
また、パルス光源が少なくとも1100nm以上1200nm以下の波長帯域に亘って連続したスペクトルの光であるパルス光を出射する場合、錠剤の良否を判断するのがより容易となる。
また、パルス光源が少なくとも1000nm以上1300nm以下の波長帯域に亘って連続したスペクトルの光であるパルス光を出射する場合、より多くの種類の錠剤について良否判断を容易にできるようになる。
また、伸長素子が、波長に対する時間の変化の傾きが1nmあたり10ピコ秒以上となるようにパルス伸長を行う素子であると、十分な波長分解能が得られるので、良否判断をより正確に行うことができるようになる。
また、錠剤検査装置の発明が除外機構を備えていると、不良品と判断された錠剤が除外されるので、不良品が誤って出荷される事故を防ぐことができる。
また、パルス伸長させたパルス光が一方の側から錠剤よりも大きなパターンで錠剤に照射される構成の場合、光測定におけるSN比が高くなるので、この点でより精度の高い錠剤の良否判断が行えるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施形態の製品検査装置の概略図である。
図2】伸長素子によるパルス伸長について示した概略図であり、パルス伸長後の1パルス内の経過時間と波長との関係を模式的に示した図である。
図3】伸長素子として用いるファイバの分散特性の一例を示した概略図である。
図4】判断手段を構成する良否判断プログラムの概略を示した図である。
図5】スペクトル算出モジュールによるスペクトル算出について示した概略図である。
図6】第二の実施形態の製品検査装置の主要部の概略図である。
図7】第三の実施形態の製品検査装置の主要部の概略図である。
図8】第四の実施形態の製品検査装置の概略図である。
図9】伸長素子の他の例について示した概略図である。
図10】伸長素子の他の例について示した概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、この出願の発明を実施するための形態(実施形態)について説明する。
以下の説明は、製品検査方法及び製品検査装置の説明となっているが、製品の例として錠剤が想定されており、錠剤検査方法及び錠剤検査装置の説明を含んでいる。
図1は、実施形態の製品検査装置の概略図である。実施形態の製品検査装置は、各種製品の製造ラインで使用されるものであって、製造ラインの検査場所まで運ばれてきた製品に対して光測定を行うことによって製品の良否を判断する装置である。
【0014】
この装置は、光測定によって製品の良否を判断するものであるが、そのための光として、スーパーコンティニウム光を利用することが特徴点となっている。さらに、パルス光であるスーパーコンティニウム光のパルス幅を伸長させ、その際に1パルス内における波長と経過時間との関係が1対1となるようにした光を利用することが特徴点となっている。従来型の回折格子を使用した分光は、光を空間的に分光するものであるが、この実施形態では、光を時間的に分光して利用するものであるといえる。具体的には、実施形態の製品検査装置は、パルス光源1と、伸長素子2と、受光器3と、判断手段4とを備えている。
【0015】
超短パルスレーザのような超短パルス光を非線形ファイバのような非線形素子に通すと、自己位相変調等の非線形効果を生じさせて広帯域化する現象は、スーパーコンティニウム光(以下、SC光と略記する。)として知られている。実施形態のパルス光源1は、このSC光を出射する光源である。したがって、この実施形態では、パルス光源1は、超短パルスレーザ11と、非線形素子12とを備えている。
【0016】
超短パルスレーザ11としては、ゲインスイッチレーザ、マイクロチップレーザ、ファイバレーザ等を用いることができる。また、非線形素子12としては、ファイバが使用される場合が多い。例えば、フォトニッククリスタルファイバやその他の非線形ファイバが非線形素子12として使用できる。ファイバのモードとしてはシングルモードの場合が多いが、マルチモードであっても十分な非線形性を示すものであれば、非線形素子12として使用できる。
【0017】
尚、パルス光源1としては、1100~1200nm程度の近赤外の波長帯域に亘って連続したスペクトルの広帯域光を出射するものであることが好ましい。この実施形態では、後述するように、近赤外域における吸収スペクトルによって製品の良否を判断するからである。検査できる製品の範囲を増やすという観点では、パルス光源1は、少なくとも1000~1300nm程度の波長帯域に亘って連続したスペクトルの広帯域光を出射するものであるとさらに好ましい。
【0018】
伸長素子2は、パルス光源1から出射されるSC光のパルス幅を伸長させる素子である。パルス光源1から出射される光は、波長帯域としては広がっているが、パルス幅としてはフェムト秒からナノ秒オーダーの短パルスのままである。このままでは光測定用としては使用しづらいので、伸長素子2によってパルス伸長させる。この際に重要なことは、1パルスにおける波長と経過時間との関係が1対1となるように伸長する点である。
【0019】
具体的に説明すると、この実施形態では、伸長素子2としては、光通信の分野で分散補償ファイバ(DCF)として使用されているような波長分散ファイバを使用する。波長分散ファイバは、十分な群遅延特性を有するファイバであり、正常分散ファイバと異常分散ファイバに分類される。いずれも使用可能であるが、この実施形態では正常分散ファイバが伸長素子2として使用されている。
【0020】
図2は、伸長素子2によるパルス伸長について示した概略図であり、パルス伸長後の1パルス内の経過時間と波長との関係を模式的に示した図である。図2(1)は1パルス内の経過時間に対する強度を示し、図2(2)は各波長の強度を示す。また、図2(3)は、パルス内の経過時間と波長との関係を示す。
【0021】
図2(1)~(3)に示すように、パルス伸長後のSC光は、1パルス内の経過時間と波長とが1対1で対応している。即ち、1パルスの立ち上がり時刻をtとし、当該パルスの終了時刻をtとすると、1パルスの立ち上がりの初期には、最も長い波長λの光が存在している。時間が経過するにつれ、存在する光の波長は短波長側にシフトとする。そして、パルスの終期tの直前では最も短い波長λの光が存在している。このように、パルス内の波長と経過時間とが1対1で対応している。このため、パルスの始期tからの経過時間を特定して光の強度を取得すると、その強度は特定の波長の強度ということになる。即ち、各経過時間における強度は各波長の強度であり、これは分光スペクトルに他ならない。
【0022】
このような経過時間と波長との一意性は、受光器3からの出力の時間的変化により製品の良否判断を分光スペクトルにより求める実施形態の構成において特に重要であるが、時間の経過に対する波長の変化の割合もまた重要である。この点は、波長1nmの違いがどの程度の時間のずれ(時間分散)で存在しているかということであり、図2(3)にΔt/Δλで示す。実施形態では、Δλを1nmとするとΔtが10ピコ秒以上となっている。
【0023】
このような伸長素子23の各特性は、適宜の分散特性を有するファイバを選択することで実現できる。以下、この点について説明する。
図3は、伸長素子2として用いるファイバの分散特性の一例を示した概略図である。伸長素子2としてのファイバは、少なくとも1100~1200nmの波長域において、0分散を含まないものであることが望ましい。即ち、1100~1200nmの波長域において、全て正常分散特性又は全て異常分散特性であることが望ましい。図3は、正常分散特性のファイバの例である。
【0024】
1100~1200nmの波長域において0分散を含むと、同一時刻に2つ以上の波長が対応してしまうことになり、また意図しない非線形光学効果が生じ易いため、上述した時間波長一意性が崩れてしまう恐れがある。また、異常分散よりは正常分散を1100~1200nmにおいて示すファイバの方が望ましい。SC光は、長波長側の光が先に出射され、短波長側の光が後に出射される特性を持つものが多い。この場合、SC光のパルスは初期には長波長の光が存在し、その後、時間経過とともに短波長側にシフトする。伸長素子2として正常分散特性のファイバを使用すると、短波長側の光が長波長側の光に比べてさらに遅れる結果となるので、上記時間的関係を維持してさらに伸長した状態となる。このため、時間波長一意性を崩すことなく容易に長パルスの光を得ることができる。
【0025】
尚、1100~1200nmの波長域において異常分散のファイバを伸長素子2として使用することも可能である。この場合は、SC光においてパルスの初期に存在していた長波長側の光が遅れ、後の時刻に存在していた短波長側の光が進む状態で分散するので、1パルス内での時間的関係が逆転し、1パルスの初期に短波長側の光が存在し、時間経過とともにより長波長側の光が存在する状態でパルス伸長されることになる。但し、正常分散の場合に比べると、パルス伸長のための伝搬距離をより長くすることが必要になる場合が多く、損失が大きくなり易い。したがって、この点で正常分散の方が好ましい。
【0026】
図1に示すように、実施形態の製品検査装置は、パルス伸長されたSC光(以下、伸長SC光という。)を良否判断の対象となっている製品Pに照射するため、照射光学系5を備えている。また、照射光学系による伸長SC光の照射位置に製品Pを配置するため、配置具6を備えている。
照射光学系5は、上方から伸長SC光を照射する構成となっており、配置具6としては受け板61が使用されている。この実施形態では透過光により良否を判断するので、受け板61は、測定波長範囲において透明である。
【0027】
尚、照射光学系5はビームエキスパンダ51を含んでいる。伸長パルスSC光は、レーザ光であり、ビームパターンが小さいことを考慮としたものである。伸長パルス光は製品Pの一方の側から照射されるが、より精度の高い検査のためには、その一方の側から製品Pと同等以上の大きさのパターンで照射すべきだからである。
【0028】
受光器3は、伸長SC光が照射された製品Pからの透過光を受光する位置に設けられている。受光器3は、測定波長範囲において十分な感度を持つものが使用される。例えばInGaAsフォトダイオード等の光電変換素子を備えた高感度のものが、受光器3として使用される。
【0029】
判断手段4は、受光器3からの出力データを処理して製品の良否判断を行う手段である。判断手段4としては、この実施形態では、汎用PCが使用されている。汎用PCは、プロセッサ41や記憶部(ハードディスク、メモリ等)42を備えている。記憶部42には、受光器3からの出力データを処理して良否の判断結果を出力する良否判断プログラム43やその他の必要なプログラムがインストールされている。尚、受光器3と判断手段4との間にはAD変換器7が設けられており、受光器3からの出力データは、デジタルデータに変換されて判断手段4に入力される。
【0030】
図4は、判断手段4を構成する良否判断プログラム43の概略を示した図である。良否判断プログラム43の最終的な目的は、受光器3から出力されるデータ(以下、単に出力データという。)に基づいて製品の良否を判断することであるが、このための手法は、大別して二種類に分類される。一つは、出力データに基づいてスペクトルを算出し、それを基準値と比較して良否判断をする手法である。もう一つは、出力データからスペクトルを算出することなくそのまま基準値と比較し、良否判断をする手法である。この実施形態では、前者の手法が使用されている。
【0031】
図4に示すように、良否判断プログラム43は、スペクトル算出モジュール431、スペクトル定量モジュール432、判断モジュール433を備えている。スペクトル算出モジュール431は、出力データを処理して吸収スペクトルSを算出するモジュールである。スペクトル定量モジュール432は、算出された吸収スペクトルSに基づき、基準値と対比できる量(以下、定量値という。)Qを求めるモジュールである。判断モジュール433は、算出された定量値Qを基準値と比較し、良否判断をしてその結果をプログラムの実行結果として出力するモジュールである。
【0032】
まず、スペクトル算出モジュール431について説明する。図5は、スペクトル算出モジュール431によるスペクトル算出について示した概略図である。
前述したように、伸長SC光では、パルス内の波長と経過時間とが1対1で対応している。したがって、スペクトル算出モジュール431は、まず、出力データDの横軸を時間から波長に変換する。出力データDは、ある種のデータセットであり、所定の周期Δt毎の時刻t,t,t,・・・での値v,v,v,・・・である。スペクトル算出モジュール431は、各時刻の値を対応する波長λ,λ,λ,・・・での値として捉え直し、測定スペクトルSとする。
【0033】
次に、基準スペクトルデータSを適用し、吸収スペクトルSを算出する。即ち、基準スペクトルデータSは、受け板61上に何も配置しない状態で伸長パルス光を照射して受光器3に入射させることで予め取得されており、定数としてスペクトル算出モジュール431に与えられている。
基準スペクトルデータSも、ある種のデータセットであり、各時刻t,t,t,・・・での強度(基準強度)V,V,V,・・・の集まりである。スペクトル算出モジュール431は、各波長λ,λ,λ,・・・について、v/V,v/V,v/V,・・・を算出し、必要に応じて逆数の対数を取り、吸収スペクトルSとする。
【0034】
尚、図示は省略されているが、受光器3が波長に対して感度特性を有している場合(波長間で光電変換特性がフラットでない場合)、感度特性に応じた補正が行われる。補正のための係数が予め設定されており、各時刻t,t,t,・・・での値に対して係数を掛けて各波長λ,λ,λ,・・・での強度v,v,v,・・・であるとして測定スペクトルSを取得する。
【0035】
算出された吸収スペクトルSは、製品が含有する各成分の吸収スペクトルの合算である。それら全ての含有成分の量で製品の良否を判断することも可能であるが、あまりにも煩雑であるので、ある特定の成分の量で良否を判断する。ある特定の成分とは、製品の品質に最も影響を与える成分であるとか、その製品において最も多い成分であるとかである。医薬品の場合、有効成分の量で良否を判断する場合もある。
【0036】
いずれにしても、この実施形態では近赤外域の吸収スペクトルSで良否を判断している。周知のように、近赤外域では、多くの材料の吸収バンドが重なっており、吸収スペクトルの算出結果から直接的に目的成分の量を求めることは難しい。このため、スペクトル定量モジュール432は、ケモメトリクスの手法を採用している。
【0037】
ケモメトリクスについては、PCA(主成分分析)、PCR(主成分回帰分析)、PLSR(partial least square regression,PLS回帰)分析等の手法が知られている。いずれの手法も採用可能であるが、一例としてPLSRを行う場合について説明する。
PLSRを行う場合、目的成分の量が既知の多数のサンプル(製品)について同様に測定を行い、データセットを得ておく。そして、得られた多数のデータセットに基づいて回帰分析を行い、回帰係数を求めておく。実際の定量の際には、求めておいた回帰係数を使用して目的成分の量を予測し、予測値を定量値とする。
【0038】
PLSRは、PCAやPCRを発展させた手法であり、まず主成分分析を行う。即ち、以下の式1に示すように、多変量データX(ここでは目的成分量が既知のサンプルについて測定した吸収スペクトル)を、主成分スコアTと、ローディングベクトルRと、残差Eに分解する。
【数1】
【0039】
PLSRでは、多変量データXに対して主成分分析を行い、共線性を回避するため、そこで得られた主成分スコアTの値を使って回帰分析をする。この際、スペクトルデータセットXのうち主成分の量に関連する部分だけを取り出し、最小二乗法により回帰係数を求めていく。そして、このように求めた回帰係数に従い、検量線を作成する。PLSRその他のケモメトリクスについては、非特許文献1やその他の文献において解説されているので、さらなる説明は割愛する。
【0040】
図4に示すように、良否判断プログラム43は、スペクトル定量モジュール432の実行後、判断モジュール433を実行する。判断モジュール433は、スペクトル定量モジュール432で求められた定量値Qを基準値と比較し、良否を判断するモジュールである。判断モジュール433に対しては、基準値と、基準値からの乖離の許容度とが定数として与えられている。判断モジュール433は、これらに従って良否を判断し、その結果を良否判断プログラム43の実行結果として出力する。
【0041】
尚、目的成分の量Qは、全体に対する比率(含有比)の場合もあるし、絶対値(含有量)の場合もある。絶対値を算出する場合、絶対値が算出できるように検量線が作成されているか、又は重量比の場合には製品の重量を別途測定して算出するようにする。
また、実際には、出力データDに対して平滑化や二次微分のような前処理をし、その後、PLSRにより求めておいた回帰係数を適用して定量値Qが取得される。この際、目的成分に関連する部分のみを取り出すために波数域選択が行われ、その上で定量値の取得がされる。
【0042】
次に、図1および図4を用いて上記実施形態の製品検査装置の全体の動作について説明する。以下の説明は、製品検査方法の発明の実施形態の説明でもある。
前述したように、製品検査装置は、製品の製造ラインの検査場所に配置される。製品Pは、検査場所まで運ばれる。コンベアのような搬送機構によって運ばれる場合もあるし、作業者が手で持って運ぶ場合もある。
【0043】
製品Pは、受け板61の上に配置される。これも、ロボットのような機構により自動的に配置される場合もあるし、作業者が配置する場合もある。
パルス光源1から出射されたSC光は、伸長素子2によって時間波長一意性を持ってパルス伸長され、伸長SC光となる。伸長SC光は、照射光学系5によって製品Pに照射される。製品Pを透過した伸長SC光は、受光器3に達して光電変換される。
【0044】
受光器3からの出力は、AD変換器7でデジタル信号となり、出力データDとして判断手段4に入力される。判断手段4において、良否判断プログラム43が実行される。良否判断プログラム43は、出力データDから吸収スペクトルSを算出し、PLSRにより定量してその値Qを基準値と比較して良否を判断する。良否の判断結果は、判断手段4内の記憶部42に記憶される。
【0045】
このような実施形態の製品検査装置及び製品検査方法によれば、製造された製品について、溶液に溶解するといった処理をすることなくそのまま光を照射してその結果から良否判断をするので、極めて短時間に良否の結果を得ることができ、全数検査も可能となる。
また、製品の分光特性により良否を判断する装置、方法ではあるものの、伸長SC光を利用するので、波長掃引のために回折格子の姿勢を変化させるというような時間を要する動作は不要であり、高速の良否判断が可能となる。
【0046】
そして、回折格子を使用した空間的な分光ではなく、伸長SC光の時間波長一意性を利用した時間的な分光を行うので、短い時間でも十分な量の光を受光器に入射させることができる。回折格子を使用した空間的な分光の場合、空間に分散させる際の損失があるため、受光器に入射する光は微弱になり易く、高SN比の測定のためには光を長い時間入射させる必要がある。実施形態の装置、方法では、短い時間でも十分な量の光を受光器に入射させることができるので、高速且つ高SN比の測定が可能で、高信頼性の良否判断を高速に行うことができる。
【0047】
尚、上記説明では、1パルスの伸長SC光によって良否判断を行うように説明したが、必要な光量を確保するため、複数パルスの伸長パルス光を受光器3に入射させ、各時刻の値の合計ないし平均によって良否判断を行う場合もある。
上記実施形態において、パルス光源1が1100nm以上1200nm以下の波長帯域に亘って連続したスペクトルの光であるスーパーコンティニウム光を出射する点は、製品の良否判断を容易にする意義がある。1100~1200nmの近赤外域は、製品の含有成分に対応した吸収スペクトルを有している場合が多く、ケモメトリクスのような分析技術も発達している。このため、良否判断も容易となる。
【0048】
尚、近赤外域とはいっても、製品によって吸収スペクトルは多少異なる場合が多い。これを考慮すると、パルス光源が1000nm以上1300nm以下の波長帯域に亘って連続したスペクトルのSC光を出射するものであると、より好ましい。近赤外域の吸収スペクトルを有する多種類の製品について良否判断を容易にできるようになるからである。
【0049】
また、伸長素子2が、波長に対する時間の変化の傾きが1nmあたり10ピコ秒以上となるようにパルス伸長を行う点は、波長分解能の観点で良否判断の質を高める意義を有する。上記説明から解るように、波長に対する時間の変化の傾きが小さくなると、受光器の応答性との関係で、波長分解能(波長を時間的に分割する際の分解能)が低くなってしまう。こうなると、間がかなり開いたとびとびの波長での値に基づいて良否判断をすることになり、良否判断の精度が低下し易い。波長に対する時間の変化の傾きが1nmあたり10ピコ秒以上であれば、このような問題はない。
【0050】
また、受光器3が製品を透過した光を受光する位置に設けられている点は、吸収スペクトルにより製品の良否を判断する上でより好適な構成となっている。吸収スペクトルで良否判断を行う場合、光照射された製品からの反射光を捉えて吸収スペクトルを算出することも可能であるが、表面反射が大きい場合には測定精度が低くなり易く、良否判断が難しくなる場合が多い。また主に製品表面に起因する吸収スペクトルが得られるため、製品内部の情報を得ることが難しい。受光器3が製品を透過した光を受光する位置に設けられている場合、このような問題はない。
【0051】
尚、伸長SC光が製品と同様以上の大きさのパターンで製品に対して照射される点も、SN比を高くし、良否判断の精度を高める意義を有する。良否判断に必要な出力データとしては、受光器3が製品を見込む領域のうちの一部から出た光を光電変換したデータであっても、製品の性質を反映しており、良否判断は可能である。しかしながら、受光器3にはバックグラウンド光等も入射してノイズとなるから、製品からの光(シグナル光)はできるだけ多くしてSN比を高くするべきで、実施形態の構成はこの要請を満たすものとなっている。
【0052】
次に、第二の実施形態の製品検査装置、製品検査方法について説明する。
図6は、第二の実施形態の製品検査装置の主要部の概略図である。第二の実施形態では、判断手段4が備える良否判断プログラム43が第一の実施形態と異なっている。第二の実施形態は、受光器3からの出力データに基づいて良否判断を行うものの、第一の実施形態のような光特性の算出は行わずに良否判断を行う装置、方法となっている。即ち、第二の実施形態における良否判断プログラム43は、受光器3からの出力データについて光特性の算出を行うことなくケモメトリクスにより評価して値を取得する直接評価モジュール434を備えており、判断モジュール433は、直接評価モジュール434での取得値に基づいて良否を判断するようになっている。
【0053】
具体的に説明すると、第二の実施形態においても、受光器3からAD変換器7を経由して出力データDが判断手段4に入力される。これは、同様に、時刻t,t,t,・・・での値v,v,v,・・・から成るデータセットである。
第二の実施形態でも、このデータセットDについてケモメトリクスにより予め検量線を作成しているが、この際、吸収スペクトルのような光特性を算出することなく検量線を作成している。即ち、目的成分の量が既知である多数の製品について同様に伸長パルス光を照射して受光器3から多数のデータセットD(v,v,v,・・・)を得る。そして、データセットD(v,v,v,・・・)をそのまま使用してPLSRのような回帰処理を行い、回帰係数を算出して検量線を求めておく。
【0054】
このため、図6に示すように、第二の実施形態では、ある対象製品に伸長SC光を照射して出力データD(v,v,v,・・・)が得られた場合、それに対して回帰係数を適用して目的成分の量Q’を算出し、それが基準値に対して許容範囲かどうかを判断する。そして、許容範囲内であれば良品とし、許容範囲外であれば不良品とする。
【0055】
第二の実施形態では、光特性を算出するステップ、プログラムモジュールがないので、良否判断プログラム43が簡略化されており、良否判断をさらに高速に行うことができるようになる。尚、受光器3が波長に対して感度特性を持っている場合でも、同じ受光器3を使用する限り、感度特性に応じた補正は不要である。この点でも構成が簡略化される。但し、受光器3の感度に経時変化がある場合には、定期的な校正が必要になる。
【0056】
尚、第一の実施形態の場合、スペクトル算出モジュール431を実行した段階での結果を別途出力させることができる。この結果は、対象製品の吸収スペクトルであるが、製品の評価やその他の目的で吸収スペクトルを知る必要がある場合、第一の実施形態の方が好ましいということになる。
【0057】
また、上記第一の実施形態において、良否判断プログラム43は出力データDから吸収スペクトルSを算出してPLSRにより定量を行うものであったが、定量は行わずに良否判断を行う場合もあり得る。即ち、良品である場合の吸収スペクトル(基準吸収スペクトル)が予め定められており、スペクトル算出モジュール431が吸収スペクトルSを算出した後、判断モジュール433がその吸収スペクトルSと基準吸収スペクトルと比較することで良否判断を行う場合もあり得る。
【0058】
さらに別の実施形態として、ある特定の波長についての光特性又は光電変換値のみで良否判断をする場合もあり得る。例えば、ある製品がある特徴的な成分を含有しており、その成分は、ある特定の波長において強い吸収を有するとする。そして、他の成分はその波長では吸収はないとする。この場合、出力データにおいて、当該波長に対応する時刻のデータを取得し、そのデータ又はそのデータから算出した光特性を基準値と比較するのみで良否判断を行う場合もあり得る。
【0059】
次に、第三の実施形態の製品検査装置について説明する。図7は、第三の実施形態の製品検査装置の主要部の概略図である。
第三の製品検査装置は、判断手段4が不良品であると判断した製品を製造ラインから除外する除外機構8を備えている。除外機構8については、製品の形状や大きさに合わせて適宜構成することができるが、図7にその一例が示されている。図7(1)は正面概略図、(2)は平面概略図である。
【0060】
この実施形態では、製品Pとしては、錠剤のような小さなタブレット状のものが想定されている。第一第二の実施形態では、配置具6として受け板61が用いられたが、この実施形態では、配置具6として回転ドラム62が設けられている。
【0061】
回転ドラム62は、回転ドラム62と同心で水平な回転軸621の回りに回転する機構である。図示は省略されているが、水平な中心軸に対してベルトやモータを連結し、所定の回転速度で回転するように構成されている。
【0062】
回転ドラム62は、周面において複数の製品Pを保持する構造を有する。回転ドラム62の周面には、等間隔をおいて不図示の吸着孔が設けられている。各吸着孔は不図示の真空ポンプに連通しており、除外機構8は、各吸着孔の吸引を独立してオンオフさせる真空吸引系81を備えている。図7に示すように、各製品Pは、コンベア等で搬送されて回転ドラム62の周面に当接し、吸着孔に吸着されて保持される。真空吸引系81としては、各吸着孔と真空ポンプとの連通を独立してオンオフする機構が採用され得る。例えば、各吸着孔に対して開閉板が設けられており、各開閉板を独立して駆動する機構が採用され得る。
【0063】
尚、各製品Pは、厚さ方向が水平に向くようにして吸着される。このための構成としては、例えばコンベアに溝を設け、溝の幅を製品の厚み程度としておく。各製品は溝に落とし込まれて搬送されるが、この際、垂直に立った姿勢(径方向が鉛直面内となる姿勢)となり、この姿勢で回転ドラム62に吸着、保持されるようにする。
【0064】
一方、回転ドラム62に対して、所定の位置関係で光照射部と光受光部が設けられる。光照射部は、照射光学系5の一部であるが、この実施形態では、光源1からの光を導いて出射する照射側光ファイバ52である。光受光部は、製品Pからの透過光が入射する受光側光ファイバ31である。受光側光ファイバ31の出射側からの光を受光する位置に受光器が配置される。
【0065】
除外機構8は、真空吸引系81を制御する不図示の制御部を含んでおり、判断手段4の出力は制御部に入力される。また、回転ドラム62に対しては、良品の場合に製品をリリースする位置と、不良品の場合にリリースする位置とが異なる位置として設定されている。良品をリリースする位置には次の工程に搬送するためのコンベア等が配置され、不良品をリリースする位置には、廃棄用の投入口が配置される。
制御部は、判断手段4から不良品である旨の出力がされると、当該製品を吸着していた吸着孔の真空吸引を不良品をリリースする位置でオフにし、それ以外の場合は良品をリリースする位置でオフする。
【0066】
第三の実施形態によれば、除外機構8が設けられているので、不良品と判断された製品を確実に製造ラインから自動的に除外することができる。このため、不良品が誤って出荷される事故が防止される。
除外機構8の構成としては、上記の他、種々のものが採用され得る。例えば、製品を搬送するコンベアがシャッタのような開閉部を備えており、各開閉部の上に製品が配置されて搬送される構成であり、不良品と判断された製品については開閉部を開いて落下させる構成や、ロボットアームでピックアップしたりエアブローで排出したりすることで製造ラインから除外する構成等が採用できる。
【0067】
また、上記各実施形態において、搬送等のために移動している製品をその移動を止めることなく良否を判断する場合もあり得る。ある領域に伸長SC光を照射しておき、その領域を通過するようにして製品を移動させ、その際に良否判断をすることもあり得る。照射領域を通過中に複数パルスの照射を受けるようであれば、受光器3の出力データの処理において平均を取って良否判断を行う。移動を止めることなく良否判断を行えることは、スループットを低下させることなく良否判断を行えることにつながり、全数検査を行う場合にその意義は特に顕著である。
【0068】
尚、本願発明は、全数検査を可能にするものではあるが、全数検査を行うことは必ずしも必須ではない。抜き取り検査のみを行う場合でも、高速で高信頼性の検査が行える本願発明の構成は、良質な製品を高い生産性で製造するのに大きく貢献する。
【0069】
次に、第四の実施形態の製品検査装置について説明する。図8は、第四の実施形態の製品検査装置の概略図である。
図8に示すように、第四の実施形態の分光測定装置では、パルス伸長素子2で伸長されたパルス光を分岐させる分岐素子52が設けられている。分岐素子52としては、この実施形態では、ビームスプリッタが使用されている。
分岐素子52は、パルス光源1からの光路を、測定用光路と参照用光路に分割するものである。測定用光路には、第一の実施形態と同様、受け板3が配置され、受け板61上の対象物Pを透過した光を受光する位置に測定用受光器3が配置されている。
【0070】
参照用光路上には、参照用受光器31が配置されている。参照用受光器31には、分岐素子52で分岐して参照用光路を進む光がそのまま入射するようになっている。この光(参照光)は、対象物Pを経ることなく参照用受光器31に入射させ、基準スペクトルデータをリアルタイムで得るための光である。
【0071】
測定用受光器3及び参照用受光器31は、それぞれAD変換器7,71を介して演算手段4に接続されている。演算手段4内の良否判断プログラム43は、リアルタイムの基準強度スペクトル参照を行うようプログラミングされている。即ち、測定用受光器3からは各時刻t,t,t,・・・での測定値v,v,v,・・・が入力され、参照用受光器31からは、同時刻である各時刻t,t,t,・・・での基準強度V,V,V,・・・(基準スペクトルデータ)が入力される。良否判断プログラム43は、予め調べられている1パルス内の時刻t,t,t,・・・と波長λ,λ,λ,・・・との関係に従い、v/V,v/V,v/V,・・・を算出し、必要に応じて逆数の対数を取り、吸収スペクトルとする。反射スペクトルや散乱スペクトルを測定する場合も、リアルタイムで取得される基準スペクトルデータにより同様に行える。
この実施形態では、リアルタイムで基準スペクトルデータが取得されるので、定期的な基準スペクトルデータの取得は行われない。この点を除き、第一の実施形態と同様である。
【0072】
第四の実施形態によれば、基準スペクトルデータを別途取得することが不要なので、良否判断作業全体の能率が高くなる。また、第一の実施形態において、パルス光源1の特性や伸長素子2の特性が変化し易い場合には校正作業を頻繁に行う必要があるが、第四の実施形態では不要である。パルス光源1の特性や伸長素子2の特性が変化しなくても、測定環境が異なる場合(例えば温度条件やバックグラウンド光の条件等が異なる場合)、校正作業が必要な場合がある。第四の実施形態ではこのような場合にも校正作業は不要なので、検査の能率が高い。但し、第四の実施形態では、パルス光源1からの光束を二つに分割しているので、その分だけ対象物Pに照射できる光束は低下する。したがって、より高い強度で対象物Pを照射して検査する必要がある場合には、第一の実施形態の方が有利である。
【0073】
次に、伸長素子2の他の例について図9及び図10を参照して説明する。図9及び図10は、伸長素子2の他の例について示した概略図である。伸長素子2としては、ファイバの他、回折格子、チャープドファイバブラッググレーティング(CFBG)、プリズム等を使用して構成することができる。例えば、図9(1)に示すように、2個の回折格子21を使用して波長分散させることができる。光は、ミラーで折り返される際に往路と復路で2個の回折格子21で波長分する(計4回)。これにより、波長に応じて光路差が与えられ、時間波長一意性を達成した状態でパルス伸長する。この例では、長波長の光ほど光路が短くなるようにしている。
【0074】
また、図9(2)に示すように、CFBG22を使用してパルス伸長することも可能である。FBGは、コアの長さ方向に屈折率が変化する部位を周期的に設けて回折格子を構成したファイバであるが、このうち、CFBG22は、チャープミラーの機能をファイバを使って実現されるように反射位置が波長に応じて異なる位置となるようにしたものということができる。パルス伸長素子2として用いる場合、CFBG22において、入射した光のうち、例えば長波長側の光はファイバ中の進行方向の手前側で反射して戻り、短波長側になるにつれて奥側で反射して戻るようコア内の屈折率変動層を形成する。この場合、正常分散ファイバと同様に短波長側ほど遅れて戻ってくるので、時間波長一意性が確保される。
【0075】
さらに、図9(3)に示すように、プリズム23を使用してパルス伸長することもできる。この例では、4個のプリズム23を使用し、長波長側ほど光路が短くなり、短波長側ほど光路が長くなるように配置することで伸長素子2を構成している。この例でも、短波長側ほど遅れて受光器3に到達するので、時間波長一意性が確保される。
尚、図9(1)~(3)の例では、光を折り返す際に光路差を形成している。復路の光を取り出す構成としては、偏光ビームスプリッタと1/4波長板を組み合わせたものを伸長素子2の手前の光路上に配置する構成が採用できる。往路については偏光ビームスプリッタ、1/4波長板の順に光が進んでパルス伸長素子2に入射し、復路についてはパルス伸長素子2から戻った光が1/4波長板、偏光ビームスプリッタの順に進むように構成する。
【0076】
また、図10には、伸長素子2として複数のファイバ25を使用する例が示されている。この例では、アレイ導波路回折格子(AWG)24でパルス光を各波長の光に分割し、各波長の光をそれぞれのファイバ25でパルス伸長している。
アレイ導波路回折格子24は、基板241上に各機能導波路242~246を形成することで構成されている。各機能導波路は、光路長が僅かずつ異なる多数のアレイ導波路242と、アレイ導波路242の両端(入射側と出射側)に接続されたスラブ導波路243,244と、入射側スラブ導波路243に光を入射させる入射側導波路245と、出射側スラブ導波路244から各波長の光を取り出す各出射側導波路246となっている。
【0077】
スラブ導波路243,244は自由空間であり、入射側導波路245を通って入射した光は、入射側スラブ導波路243において広がり、各アレイ導波路242に入射する。各アレイ導波路242は、僅かずつ長さが異なっているので、各アレイ導波路242の終端に達した光は、この差分だけ位相がそれぞれずれる(シフトする)。各アレイ導波路242からは光が回折して出射するが、回折光は互いに干渉しながら出射側スラブ導波路244を通り、出射側導波路246の入射端に達する。この際、位相シフトのため、干渉光は波長に応じた位置で最も強度が高くなる。つまり、各出射端導波路246には波長が順次異なる光が入射するようになり、光が空間的に分光される。厳密には、そのように分光される位置に各入射端が位置するよう各出射側導波路246が形成される。各出射側導波路246に対して、伸長素子2としての各ファイバ25が接続される。
【0078】
各ファイバ25は同じものを使用しても良いし、異なる特性のものを使用しても良い。各ファイバ25には、波長が順次異なる光が入射するので、波長に応じてファイバ25の長さが異なるようにすると好適である。ファイバ25の長さの調節によって各波長の遅延を調節し、適宜の時間波長一意性が得られるようにする。
尚、複数のファイバ25はバンドルファイバであっても良い。また、マルチコアファイバを用い、各波長の光が各コアで伝送されるようにしてパルス伸長することも可能である。
【0079】
上記説明では、製品として錠剤を例示したが、含有成分が品質に与える製品であればど
のような製品についても上述した装置や方法は適用できる。錠剤や顆粒のような経口品としては健康食品やサプリメント等の各種食品が挙げられるし、完成後の含有成分の量が問題となり得る各種工業製品についても適用が可能である。例えば、半導体プロセスによって製造される微細部品や電子部品について、製造中や完成後に上記装置及び方法によって良否判断をすることが考えられる。
【0080】
上記の例は固相である製品の例であるが、上述した装置や方法は、液相である製品についても応用できる。例えば、服用液のような液相の医薬品の検査に使用できる。具体的には、製造された液相の医薬品を透明な容器越しにパルス光を照射して良否を検査する例が挙げられる。また、各種研究用や合成用等の試薬が製品である場合もあり、液相試薬について上記装置及び方法を適用することも可能である。
【0081】
また、パルス光源1としては、SC光を出射するものの他、ASE(Amplified Spontaneous Emission)光源、SLD(Superluminescent diode)光源などが採用されることもあり得る。ASE光源は、ファイバ内で発生する光なので、パルス伸張2としてファイバを使用する場合、親和性が高く、低損失で伸張素子2に広帯域パルス光を入射させることができ、高効率で広帯域パルス光を伸長させることができる。また、SLD光源も、狭い活性層での発光を取り出すので伸張素子2に低損失で入射させることができ、高効率で広帯域パルス光を伸長させることができる。
【符号の説明】
【0082】
1 パルス光源
11 超短パルスレーザ
12 非線形素子
2 伸長素子
3 受光器
4 判断手段
43 良否判断プログラム
431 スペクトル算出モジュール
432 スペクトル定量モジュール
433 判断モジュール
5 照射光学系
51 ビームエキスパンダ
6 配置具
61 受け板
8 除外機構
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10