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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-19
(45)【発行日】2023-04-27
(54)【発明の名称】リンパ球悪性疾患を治療するための方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/519 20060101AFI20230420BHJP
   A61K 31/436 20060101ALI20230420BHJP
   A61K 31/454 20060101ALI20230420BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20230420BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20230420BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230420BHJP
【FI】
A61K31/519 ZMD
A61K31/436
A61K31/454
A61K45/00
A61P35/02
A61P43/00 121
【請求項の数】 28
(21)【出願番号】P 2020522722
(86)(22)【出願日】2018-10-26
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-01-14
(86)【国際出願番号】 US2018057660
(87)【国際公開番号】W WO2019084369
(87)【国際公開日】2019-05-02
【審査請求日】2021-10-11
(31)【優先権主張番号】62/578,081
(32)【優先日】2017-10-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】516323275
【氏名又は名称】チョーチアン ディーティーアールエム バイオファーマ コーポレーション リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100095832
【弁理士】
【氏名又は名称】細田 芳徳
(74)【代理人】
【識別番号】100187850
【弁理士】
【氏名又は名称】細田 芳弘
(72)【発明者】
【氏名】フー,ウェイ
【審査官】新熊 忠信
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/145935(WO,A1)
【文献】特表2017-518276(JP,A)
【文献】特開2016-065078(JP,A)
【文献】特表2016-516817(JP,A)
【文献】Lancet Oncology,2016年,Vol.17,pp.48-56
【文献】Oncotarget,2014年,Vol.5, No.13,pp.4990-5001
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-33/44
A61K 45/00-45/08
A61K 39/00-39/44
A61K 35/00-35/768
A61P 35/00
A61P 43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リンパ球悪性疾患の治療を必要とするヒト患者においてリンパ球悪性疾患を治療する方法に使用するための医薬組成物であって、該医薬組成物は、1-((R)-3-(4-アミノ-3-(2-フルオロ-4-(2,3,5,6-テトラフルオロフェノキシ)フェニル)-1H-ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン-1-イル)ピロリジン-1-イル)プロパ-2-エン-1-オン(化合物A)、またはそのエナンチオマー、ジアステレオマーもしくは薬学的に許容され得る塩を含み、該方法は、1以上の治療サイクルにおいて、該患者に、化合物A、またはそのエナンチオマー、ジアステレオマーもしくは薬学的に許容され得る塩を投与する工程を含み、化合物Aが、50~400mgの日用量で各治療サイクル中14~28治療日数で患者に投与される、医薬組成物。
【請求項2】
該方法は、2以上の治療サイクルにおいて、該患者に化合物Aを投与する工程を含む、請求項1記載の医薬組成物。
【請求項3】
各治療サイクルが21~35日である、請求項1または2記載の医薬組成物。
【請求項4】
化合物Aが、
(i) 21日毎に14治療日数、
(ii) 28日毎に21治療日数、
(iii) 28日毎に28治療日数、または
(iv) 35日毎に28治療日数
で投与される、請求項1記載の医薬組成物。
【請求項5】
化合物Aの日用量が、50、100、150、200、300または400mgである、請求項1~4いずれか記載の医薬組成物。
【請求項6】
リンパ球悪性疾患がB細胞悪性疾患である、請求項1~5いずれか記載の医薬組成物。
【請求項7】
B細胞悪性疾患が再発性または治療抵抗性のB細胞悪性疾患である、請求項6記載の医薬組成物。
【請求項8】
B細胞悪性疾患がB細胞リンパ腫である、請求項6記載の医薬組成物。
【請求項9】
B細胞リンパ腫が非ホジキンB細胞リンパ腫である、請求項8記載の医薬組成物。
【請求項10】
非ホジキンB細胞リンパ腫が、慢性リンパ球性白血病(CLL)、小リンパ球性リンパ腫(SLL)、濾胞性リンパ腫(FL)、びまん性大B細胞リンパ腫(DLBCL)、ヴァルデンストレームマクログロブリン血症(WM)、辺縁層リンパ腫(MZL)およびマントル細胞リンパ腫(MCL)からなる群より選択される、請求項9記載の医薬組成物。
【請求項11】
非ホジキンB細胞リンパ腫がDLBCLである、請求項10記載の医薬組成物。
【請求項12】
化合物Aが、治療モノクローナル抗体もしくはその誘導体、またはキメラ抗原受容体(CAR) T細胞療法と組み合わせて投与される、請求項1~11いずれか記載の医薬組成物。
【請求項13】
治療モノクローナル抗体またはCAR T細胞療法が、B細胞上の細胞表面受容体を標的化し、任意に、該細胞表面受容体がCD20、CD30またはCD52である、請求項12記載の医薬組成物。
【請求項14】
治療モノクローナル抗体が、リツキシマブ、オビヌツズマブ、オファツムマブ、イブリツモマブ チウキセタン、アレムツズマブおよびブレンツキシマブ ベドチンからなる群より選択される、請求項13記載の医薬組成物。
【請求項15】
該方法は、前記1以上の治療サイクルにおいて、患者にラパマイシンの哺乳動物標的(mTOR)阻害剤の治療有効量を投与する工程をさらに含む、請求項1~14いずれか記載の医薬組成物。
【請求項16】
mTOR阻害剤が、エベロリムス、ラパマイシン、[7-(6-アミノ-3-ピリジニル)-2,3-ジヒドロ-1,4-ベンゾオキサゼピン-4(5H)-イル][3-フルオロ-2-メチル-4-(メチルスルホニル)フェニル]-メタノン(XL388)、N-エチル-N'-[4-[5,6,7,8-テトラヒドロ-4-[(3S)-3-メチル-4-モルホリニル]-7-(3-オキセタニル)ピリド[3,4-d]ピリミジン-2-イル]フェニル]-ウレア(GDC-0349)、3-(2,4-ビス((S)-3-メチルモルホリノ)ピリド[2,3-d]ピリミジン-7-イル)-N-メチルベンズアミド(AZD2014)、(5-(2,4-ビス((S)-3-メチルモルホリノ)ピリド[2,3-d]ピリミジン-7-イル)-2-メトキシフェニル)メタノール(AZD8055)、GSK105965、3-(2-アミノベンゾ[d]オキサゾール-5-イル)-1-イソプロピル-1H-ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン-4-アミン(TAK-228またはMLN0128)、テムシロリムス(temsirolimus)、リダフォロリムス(ridaforolimus)、PI-103、NVP-BEZ235、WJD008、XL765、SF-1126、Torin1、PP242、PP30、Ku-0063794、WYE-354、WYE-687、WAY-600、INK128、OSI 027、ゲダトリシブ(gedatolisib)(PF-05212384)、CC-223、LY3023414、PQR309、LXI-15029、SAR245409またはそれらの薬学的に許容され得る塩である、請求項15記載の医薬組成物。
【請求項17】
該方法は、前記治療日数において、患者に0.5~25mgの日用量でエベロリムスを投与する工程を含む、請求項15記載の医薬組成物。
【請求項18】
エベロリムスの日用量が0.5、1、1.25、1.5、2.5、3.75または5mgである、請求項17記載の医薬組成物。
【請求項19】
該方法は、前記1以上の治療サイクルにおいて、患者に免疫調節薬(IMiD)の治療有効量を投与する工程をさらに含む、請求項15~18いずれか記載の医薬組成物。
【請求項20】
IMiDが、サリドマイド、レナリドミド、ポマリドミド、CC-220またはそれらの薬学的に許容され得る塩である、請求項19記載の医薬組成物。
【請求項21】
該方法は、ポマリドミドを、0.2~4mgの日用量で患者に投与する工程を含む、請求項19記載の医薬組成物。
【請求項22】
ポマリドミドの日用量が0.33、0.5、0.67、1、2、3または4mgである、請求項21記載の医薬組成物。
【請求項23】
化合物A、mTOR阻害剤および/またはIMiDが、患者にp.o.で投与される、請求項1~22いずれか記載の医薬組成物。
【請求項24】
該方法は、(a)100mgの化合物Aおよび(b)1.25mgのエベロリムスを含む錠剤またはカプセル剤を、患者に、
(i) 21日治療サイクル中14治療日数、
(ii) 28日治療サイクル中21治療日数、
(iii) 28日治療サイクル中28治療日数、または
(iv) 35日治療サイクル中28治療日数
でp.oで投与する工程を含む、請求項1記載の医薬組成物。
【請求項25】
該方法は、(a)100mgの化合物A、(b)1.25mgのエベロリムスおよび(c)0.33、0.5または0.67mgのポマリドミドを含む錠剤またはカプセル剤を、患者に、
(i) 21日治療サイクル中14治療日数、
(ii) 28日治療サイクル中21治療日数、または
(iii) 28日治療サイクル中28治療日数
でp.oで投与する工程を含む、請求項1記載の医薬組成物。
【請求項26】
該方法は、1より多い治療サイクルにおいて、患者に前記錠剤またはカプセル剤を投与する工程を含む、請求項24または25記載の医薬組成物。
【請求項27】
100mgの化合物A、1.25mgのエベロリムスおよび薬学的に許容され得る賦形剤を含む、リンパ球悪性疾患の治療を必要とするヒト患者においてリンパ球悪性疾患を治療する方法に使用するための医薬組成物。
【請求項28】
錠剤またはカプセル剤である、請求項27記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願についての相互参照
本願は、2017年10月27日に出願された米国仮特許出願第62/578,081号の優先権を主張する。該優先権出願の開示は、その全体において参照により本明細書に援用される。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
B細胞リンパ腫は、広範囲の臨床的かつ組織学的特徴を有する最も一般的な型の非ホジキンリンパ腫(NHL)である(Swerdlow et al., Blood 127(20):2375-2390 (2016); Cheson et al., NEJM 359(6):613-626 (2008))。化学療法へのリツキシマブの追加はB細胞リンパ腫を有する患者の結果を向上したが、B細胞リンパ腫の高い異質性のために再発性/治療抵抗性の疾患は依然として起こる(Cheson、上述)。そのため、再発性/治療抵抗性のB細胞リンパ腫は、現在の実験室的および臨床的な研究の焦点となっており、新規の薬剤が緊急に必要とされる。
【0003】
以前の試験では、悪性B細胞の生存および増殖は、B細胞受容体(BCR)シグナル伝達経路の構成的な活性化に依存することが報告された(Wiestner, J Clin Oncol 31:128-30 (2013); Davis et al., Nature 463:88-92 (2010); Kenkre et al., Curr Hematol Malig Rep 7:216-20 (2012))。この経路の下流分子として、ブルトンチロシンキナーゼ(BTK)は、BCRシグナル伝達ならびにB細胞の発生および機能に決定的な役割を果たす(Herman et al., Blood 117(23):6287-6296 (2011); Wang et al., Exp Hematol Oncol 1(1):36 (2012))。そのため、BTKに対する標的化療法は活発な臨床開発中にある(Novero et al., Exp Hematol Oncol 3(1):4 (2014); Aalipour et al., Br J Haematol. 163(4):436-443 (2013); Byrd et al., NEJM 374(4):323-332 (2016))。
【0004】
第1世代BTK阻害剤としてのイブルチニブは、種々の型のB細胞リンパ腫の治療のためのブレークスルー療法として、米国食品医薬品局(FDA)に承認されている。いくつかの臨床試験により、再発性/治療抵抗性のB細胞リンパ腫における単一療法としてのイブルチニブの有効性が示されている(Wang et al., NEJM 369(6):507-516 (2013); Blum, Hematology Am Soc Hematol Educ Program 2015:82-91 (2015))。しかしながら、出血、心房細動および発疹などの有害事象が報告されており、イブルチニブの標的から外れた(off-target)効果のためであると考えられる(Fabbro et al., JAMA Oncol 1(5):684-686 (2015); Levade et al., Blood 124(26):3991-3995 (2014); Furman et al., NEJM 370(24):2352-2354 (2014))。一方、患者間の薬物動態学(PK)暴露は患者ごとに有意に変化する。そのため、よりよいBTK標的化療法が緊急に必要とされる。
【発明の概要】
【0005】
発明の概要
本開示は、リンパ球悪性疾患の治療を必要とするヒト患者においてリンパ球悪性疾患を治療する方法に関する。該方法は、患者に、BTK阻害剤、例えば1-((R)-3-(4-アミノ-3-(2-フルオロ-4-(2,3,5,6-テトラフルオロフェノキシ)フェニル)-1H-ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン-1-イル)ピロリジン-1-イル)プロプ-2-エン-1-オン(化合物A)、またはそのエナンチオマー、ジアステレオマー、薬学的に許容され得る塩もしくはプロドラッグを、1以上の治療サイクルで投与する工程を含み、ここで化合物Aは、各治療サイクル中14~28治療日数の間に50~400mgの日用量で患者に投与される。いくつかの態様において、該治療サイクルは1回以上反復される。いくつかの態様において、各治療サイクルは21~35日である。
【0006】
いくつかの態様において、該方法は、患者に、化合物Aを、(i)21日毎に14治療日数、(ii)28日毎に21治療日数、(iii)28日毎に28治療日数、または(iv)35日毎に28治療日数投与する工程を含む。該治療日数は連続または非連続であり得る。
【0007】
いくつかの態様において、化合物Aの日用量は、50、100、150、200、300または400mgである。
【0008】
いくつかの態様において、リンパ球悪性疾患は、B細胞悪性疾患、例えば再発性または治療抵抗性のB細胞悪性疾患、B細胞リンパ腫、非ホジキンB細胞リンパ腫(例えば慢性リンパ球性白血病(CLL)、小リンパ球性リンパ腫(SLL)、濾胞性リンパ腫(FL)、びまん性大B細胞リンパ腫(DLBCL)、ヴァルデンストレームマクログロブリン血症(WM)、辺縁層リンパ腫(MZL)およびマントル細胞リンパ腫(MCL))である。特定の態様において、非ホジキンB細胞リンパ腫はDLBCLである。
【0009】
いくつかの態様において、化合物Aは、治療モノクローナル抗体もしくはその誘導体、またはキメラ抗原受容体(CAR) T細胞療法と組み合わせて投与される。いくつかの態様において、治療モノクローナル抗体またはCAR T細胞療法は、B細胞上の細胞表面受容体を標的とし、ここで任意に該細胞表面受容体は、CD20、CD30またはCD52である。治療モノクローナル抗体は、リツキシマブ、オビヌツズマブ、オファツムマブ、イブリツモマブ チウキセタン、アレムツズマブおよびブレンツキシマブ ベドチンからなる群より選択され得る。
【0010】
治療方法のいくつかは、前記1以上の治療サイクルにおいて、患者に、ラパマイシンの哺乳動物標的(mTOR)阻害剤の治療有効量を投与する工程をさらに含む。
【0011】
いくつかの態様において、mTOR阻害剤は、エベロリムス、ラパマイシン、[7-(6-アミノ-3-ピリジニル)-2,3-ジヒドロ-1,4-ベンゾキサゼピン-4(5H)-イル][3-フルオロ-2-メチル-4-(メチルスルホニル)フェニル]-メタノン(XL388)、N-エチル-N'-[4-[5,6,7,8-テトラヒドロ-4-[(3S)-3-メチル-4-モルホリニル]-7-(3-オキセタニル)ピリド[3,4-d]ピリミジン-2-イル]フェニル]-ウレア(GDC-0349)、3-(2,4-ビス((S)-3-メチルモルホリノ)ピリド[2,3-d]ピリミジン-7-イル)-N-メチルベンズアミド(AZD2014)、(5-(2,4-ビス((S)-3-メチルモルホリノ)ピリド[2,3-d]ピリミジン-7-イル)-2-メトキシフェニル)メタノール(AZD8055)、GSK105965、3-(2-アミノベンゾ[d]オキサゾール-5-イル)-1-イソプロピル-1H-ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン-4-アミン(TAK-228またはMLN0128)、テムシロリムス(temsirolimus)、リダフォロリムス(ridaforolimus)、PI-103、NVP-BEZ235、WJD008、XL765、SF-1126、Torin1、PP242、PP30、Ku-0063794、WYE-354、WYE-687、WAY-600、INK128、OSI 027、ゲダトリシブ(gedatolisib)(PF-05212384)、CC-223、LY3023414、PQR309、LXI-15029、SAR245409ならびにそれらの薬学的に許容され得る塩およびプロドラッグからなる群より選択される。いくつかの態様において、治療方法は、本明細書において、前記治療日数において、患者に、エベロリムスを0.5~25mgの日用量、例えば0.5、1、1.25、1.5、2.5、3.75または5mgの日用量で投与する工程を含む。
【0012】
前記の組合せ治療方法のいくつかは、前記1以上の治療サイクルにおいて、患者に、免疫調節薬物(IMiD)の治療有効量を投与する工程をさらに含む(例えばBTK阻害、mTOR阻害剤およびIMiDの三重組合せ)。いくつかの態様において、IMiDは、サリドマイド、レナリドミド、ポマリドミド、CC-112、CC-220またはそれらの薬学的に許容され得る塩もしくはプロドラッグである。いくつかの態様において、治療方法は、ポマリドミドを、患者に、治療日数において0.2~4、0.5~3、1~3、1~2または2~3mgの日用量、例えば0.33、0.5、0.67、1、2、3または4mgの日用量で投与する工程を含む。
【0013】
いくつかの態様において、治療方法は、患者に、それぞれ(a)100mgの化合物Aおよび(b)1.25mgのエベロリムスを含む1以上(例えば2または3)の錠剤またはカプセル剤を、(i)21日治療サイクル中14治療日数、(ii)28日治療サイクル中21治療日数、(iii)28日治療サイクル中28治療日数または(iv)1以上の35日治療サイクル中28治療日数の間にp.oで投与する工程を含む。
【0014】
いくつかの態様において、治療方法は、患者に、それぞれ(a)100mgの化合物A、(b)1.25mgのエベロリムスおよび(c)0.33、0.5もしくは0.67mgのポマリドミドを含む1以上(例えば2または3)の錠剤またはカプセル剤を、(i)21日治療サイクル中14治療日数、(ii)28日治療サイクル中21治療日数、(iii)28日治療サイクル中28治療日数または(iv)1以上の35日治療サイクル中28治療日数の間にp.oで投与する工程を含む。
【0015】
本明細書における方法において、患者は、治療剤を、p.o.(すなわち経口)で受け得る。
【0016】
100mgの化合物A、1.25mgのエベロリムスおよび薬学的に許容され得る賦形剤を含む医薬組成物も本開示に含まれる。いくつかの態様において、該医薬組成物は、0.33、0.5または0.67mgのポマリドミドをさらに含む。いくつかの態様において、該医薬組成物は錠剤またはカプセル剤である。
【0017】
本明細書に記載される方法におけるリンパ球悪性疾患の治療のための医薬の製造における化合物Aの使用、本明細書に記載される方法におけるリンパ球悪性疾患の治療における使用のための化合物A、本明細書に記載される方法における使用のための前記のものなどの医薬組成物ならびに本明細書に記載される方法における使用のための化合物A含有キットおよび製品も本開示に含まれる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
発明の詳細な説明
本開示は、化合物AなどのBTK阻害剤を使用する、B細胞悪性疾患などのリンパ球悪性疾患のための新規の治療方法を提供する。小リンパ球性リンパ腫(SLL)、前リンパ球性白血病(PLL)、急性リンパ球性白血病(ALL)、慢性リンパ球性白血病(CLL)、リクター症候群、びまん性大B細胞リンパ腫(DLBCL)、ヴァルデンストレームマクログロブリン血症(WM)、濾胞性リンパ腫(FL)、多発性骨髄腫、マントル細胞リンパ腫(MCL)、辺縁層リンパ腫(MZL)、ホジキンリンパ腫および非ホジキンリンパ腫を含むが限定されない種々のリンパ球悪性疾患は、開示される方法により治療され得る。いくつかの態様において、治療されるB細胞悪性疾患は、再発性または治療抵抗性のB細胞悪性疾患であり得る。いくつかの態様において、治療されるB細胞悪性疾患はDLBCLである。
【0019】
化合物Aは、0.7nMのIC50値を有する、選択的、不可逆的かつ潜在的なBTK阻害剤である。例えば、米国特許第9,717,745号(化合物Aは該特許における化合物3である);および米国特許第9,532,990号(化合物Aは該特許における化合物45である)参照。両方の特許は、それらの全体において参照により本明細書に援用される。化合物Aは、104のタンパク質(例えば輸送体、細胞受容体、イオンチャンネルおよび酵素)に対する標的を外れたスクリーニングにおいて、標的を外れた阻害活性を有さないことが示されている。46のキナーゼパネルに対して、化合物Aは、110nMのEGFRキナーゼに対するIC50をもってEGFR、FGFR1、FGFR2およびJAK3キナーゼのみの部分的な阻害を発揮することが示されている。ラットおよびビーグル犬における化合物Aの向上された毒物動態学的特性は、化合物Aは、ヒト患者においてより良い薬物動態学的特性を有し得ることをさらに示唆する。
【0020】
合成致死性は、正常細胞を残しながら悪性細胞を差別的に殺傷する、複数の異常遺伝子の化学的な阻害を特徴とする。本開示には、腫瘍細胞の合成致死性は、低用量で相乗作用を伴う標的化された因子の最良の部類(best-in-class)の組合せの投与養生法を含む、本明細書に記載される投与養生法に従って投与される化合物AなどのBTK阻害剤により達成され得ることが記載される。
【0021】
BTK阻害剤療法
本開示は、中国および米国におけるヒトでの最初の(first-in-human)単一療法試験において得られるデータを提供する。該試験は、化合物Aの50mg、100mg、200mgから400mgへと段階的に増加される日用量で行われた。該試験の第1の終点は安全性であり、該試験の第2の終点は抗腫瘍活性および薬物動態学的パラメーターであった。該試験に含まれた患者は、以下の基準を満たした:再発性/治療抵抗性のCLLおよびB細胞リンパ腫に利用可能な有効な治療がない、≧18歳、および米国東海岸癌臨床試験グループ(Eastern Cooperative Oncology Group) (ECOG)スコア≦1。化合物Aは、中国試験において35日サイクル中28連続日数(すなわち28日の治療、その後1週間治療なし)の間、および米国試験において28日サイクル中21連続日数(すなわち21日の治療、その後1週間治療なし)の間投与された。治療サイクルは、疾患進行または許容できない毒性が観察されるまで反復した。3+3の用量段階的増加方法を使用した。該試験からのデータにより、化合物Aは再発性/治療抵抗性のB細胞リンパ腫を有する患者において安全で十分に許容されることが示される。化合物の有効性は、ヴァルデンストレームマクログロブリン血症、辺縁層リンパ腫および小リンパ球性リンパ腫/慢性リンパ球性白血病を有し、化合物Aを1日に1回50~400mgで経口摂取した患者においても観察された。下記の実施例1も参照。
【0022】
本治療方法に有用なBTK阻害剤は、表1に示される化合物1、化合物2、化合物3(化合物A)、化合物4、化合物5、化合物6、化合物7もしくは化合物8、またはそれらのエナンチオマー、ジアステレオマー、薬学的に許容され得る塩もしくはプロドラッグであり得る。いくつかの態様において、BTK阻害剤は化合物Aである。上記のBTK阻害化合物の合成および特徴は、その全体において参照により本明細書に援用される米国特許第9,532,990号に記載される。
【0023】
【表1-1】
【表1-2】
【0024】
他の態様において、以下のリスト:イブルチニブ、ACP-196(アカラブルチニブ(acalabrutinib))、BGB-3111、スペブルチニブ(spebrutinib)、ONO-4059、HM71224、RN486、4-(4-((4-((3-アクリルアミドフェニル)アミノ)-5-フルオロピリミジン-2-イル)アミノ)フェノキシ)-N-メチルピコリンアミド(CNX-774)、N-[3-[4,5-ジヒドロ-4-メチル-6-[[4-(4-モルホリニルカルボニル)フェニル]アミノ]-5-オキソピラジニル]-2-メチルフェニル]-4-(1,1-ジメチルエチル)-ベンズアミド(CGI-1746)、AVL-292 (CC-292)、PRN1008、M7583、M2951、BIIB068、CT-1530、AC0058TA、ARQ 531、GS-4059、REDX08608、RXC005、BMS-986142、TP-0158、SNS-062およびBI-BTK-1、またはそれらの薬学的に許容され得る塩もしくはプロドラッグから選択されるBTK阻害剤が使用され得る。
【0025】
本明細書で使用する場合、「プロドラッグ」は、体内で代謝されて薬物を生じ得る、生物学的に不活性な化合物である。例えば、BTK阻害剤のプロドラッグは、例えばアミド、カルバメート等のアミノ基またはポリエチレングルコールにおいてプロドラッグであり得る。
【0026】
本明細書で使用する場合、用語「薬学的に許容され得る塩」は、限定されないが、(a)酸付加塩:無機酸(例えば塩化水素酸、臭化水素酸、硫酸、リン酸、硝酸および他の有機酸)、および有機酸(例えば酢酸、シュウ酸、酒石酸、コハク酸、リンゴ酸およびアスコルビン酸);ならびに(b)塩基付加塩、亜鉛、カルシウム、ナトリウムおよびカリウムなどの金属カチオンの形成を含む、酸または塩基で形成される塩をいう。
【0027】
本開示の治療方法において、本明細書に記載されるものなどのBTK阻害剤は、10~500、25~450、50~400、50~200、100~300、100~400または200~400mgの日用量、例えば10、25、50、100、200、300または400mgの日用量で患者に投与され得る。本明細書に記載されるものなどの組合せ療法において使用される場合、BTK阻害化合物の用量は、化合物が単一療法において単独で使用される場合よりも低くあり得る。
【0028】
いくつかの態様において、BTK阻害剤は、15~50、15~45、21~28、21~35または25~40日治療サイクルにおいて10~40、10~35、14~21、14~28または20~30日間投与され(すなわち連続または非連続であり得る治療日数)、ここで治療サイクルは、1以上の非治療日数を有し得、患者が所望の治療終点を達成するまで、または患者において疾患進行もしくは許容できない毒性が生じるまで、1回または1回より多く反復され得る。例えば、BTK阻害剤は、(i)21日サイクル中14連続治療日数、(ii)28日サイクル中21連続治療日数、または(iii)35日サイクル中28連続治療日数で投与され得、ここで該サイクルは、患者が所望の治療終点を達成するまで、または患者において疾患進行もしくは許容できない毒性が生じるまで、1回以上反復される。
【0029】
いくつかの態様において、BTK阻害剤は、患者が所望の治療終点を達成するまで、または患者において疾患進行もしくは許容できない毒性が生じるまで、連続様式で毎日投与され得る。例えば、患者は、BTK阻害剤を用いて反復28日サイクル中28連続日数で治療され得、ここで患者の状態は、治療サイクルごとに少なくとも1回評価され得る。
【0030】
組合せ療法
本開示の別の局面は、BTK阻害剤およびラパマイシンの哺乳動物標的(mTOR)阻害剤を含む組合せ療法を使用して、ヒト患者におけるB細胞悪性疾患などのリンパ球悪性疾患を治療する方法に関する。いくつかの態様において、組合せ療法はまた、IMiDを含む。本開示は、米国臨床試験由来の、化合物Aおよびエベロリムスを用いた経口二重療法、化合物A、エベロリムスおよびポマリドミドを用いた経口三重療法におけるデータを提供する。以下の実施例2~4参照。
【0031】
いくつかの態様において、BTK阻害剤の治療有効量は、mTOR阻害剤の治療有効量と組み合わせて投与される。mTORタンパク質は、細胞の成長、増殖、代謝およびアポトーシスの重要な制御因子として働くプロテインキナーゼである。本発明の組合せ療法において有用なmTORの阻害剤としては、限定されないが、
エベロリムス、
ラパマイシン(シロリムス)、
[7-(6-アミノ-3-ピリジニル)-2,3-ジヒドロ-1,4-ベンゾキサゼピン-4(5H)-イル][3-フルオロ-2-メチル-4-(メチルスルホニル)フェニル]-メタノン(XL388)、
N-エチル-N'-[4-[5,6,7,8-テトラヒドロ-4-[(3S)-3-メチル-4-モルホリニル]-7-(3-オキセタニル)ピリド[3,4-d]ピリミジン-2-イル]フェニル]-ウレア(GDC-0349 (Genentech))、
3-(2,4-ビス((S)-3-メチルモルホリノ)ピリド[2,3-d]ピリミジン-7-イル)-N-メチルベンズアミド(AZD2014 (AstraZeneca))、
(5-(2,4-ビス((S)-3-メチルモルホリノ)ピリド[2,3-d]ピリミジン-7-イル)-2-メトキシフェニル)メタノール(AZD8055)、
GSK105965、
3-(2-アミノベンゾ[d]オキサゾール-5-イル)-1-イソプロピル-1H-ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン-4-アミン(TAK-228またはMLN0128 (Takeda))、
テムシロリムス、
リダフォロリムス、
PI-103、
NVP-BEZ235、
WJD008、
XL765、
SF-1126、
Torin1、
PP242、
PP30、
Ku-0063794、
WYE-354、
WYE-687、
WAY-600、
INK128、
OSI-027、
ゲダトリシブまたはPF-05212384 (Pfizer)、
CC-223 (Celgene)、
LY3023414 (Lilly)、
PQR309 (PIQUR Therapeutics)、
LXI-15029 (Luoxin Pharma)、
SAR245409 (Sanofi)、およびそれらの薬学的に許容され得る塩が挙げられる。
【0032】
いくつかの態様において、エベロリムスは、mTOR阻害剤として組合せ療法に使用される。エベロリムスは、0.1~30、0.5~25、0.75~20、1~17.5、1.5~15、2~10、2~7.5、0.5~5または2.5~5mgの日用量、例えば1.25、2、2.5、3、3.75、4または5mgの日用量で投与され得る。エベロリムスは、乳癌、膵臓癌、腎細胞癌、腎臓血管筋脂肪腫および結節硬化症の治療のために、米国食品医薬品局により承認されている。また、臓器移植もmTORを活性化するので、エベロリムスは、低用量で臓器移植拒絶を治療するために使用されている。本発明者は、本開示の組合せ療法をこれらの状況においても使用し得ることを企図する。
【0033】
いくつかの態様において、BTK阻害剤は、mTOR阻害剤の治療有効量と組み合わせて、15~50、15~45、21~28、21~35または25~40日治療サイクル中10~40、10~35、14~21、14~28または20~30治療日数(例えば連続日数)の間投与され、ここで該治療サイクルは、1以上の非治療日数を有し得、患者が所望の治療終点を達成するまでまたは患者において疾患進行もしくは許容できない毒性が生じるまで1回または1回より多く反復され得る。例えば、BTK阻害剤およびmTOR阻害剤は、同日に(例えば別の組成物または単一組成物で)、患者に、(i)21日サイクル中14連続日数、(ii)28日サイクル中21連続日数または(iii)35日サイクル中28連続日数の間投与され得、ここで該サイクルは、患者が所望の治療終点を達成するまでまたは患者において疾患進行もしくは許容できない毒性が生じるまで1回以上反復され得る。
【0034】
いくつかの態様において、BTK阻害剤およびmTOR阻害剤は、患者が所望の治療終点を達成するまでまたは患者において疾患進行もしくは許容できない毒性が生じるまで、連続様式で毎日投与され得る。例えば、患者は、2つの阻害剤で同日に(例えば別の組成物または単一組成物で)、反復して28日サイクル中28連続日数の間治療され得、ここで患者の症状は、治療サイクルごとに少なくとも1回評価され得る。
【0035】
さらなる態様において、患者は、組合せ療法において、BTK阻害剤の治療有効量、mTOR阻害剤の治療有効量および免疫調節薬(IMiD)の治療有効量を用いて治療され、ここで3つの化合物は、別の組成物または単一組成中で投与され得る。免疫調節薬(IMiD)は、サリドマイドならびにその構造的および機能的アナログを含む薬物の群である。IMiDは、癌細胞について抗脈管形成、抗増殖およびプロアポトーシス特性を有する。IMiDは、Tリンパ球を刺激して、増殖、サイトカイン産生および細胞傷害性を誘導するので、T細胞の抗癌活性を増加する。IMiDは、種々の炎症性および自己免疫疾患の治療に有用である。IMiDはまた、血液学的新形成、例えば多発性骨髄腫および骨髄異形成症候群などの新形成疾患、ならびに特定の固形腫瘍の治療に有用である。レナリドミド、ポマリドミド、CC-112 (Celgene)およびCC-220 (Celgene)などのIMiDは、サリドマイドに比べて向上した効能および低減された副作用を有する。いくつかの態様において、IMiDは、サリドマイド、レナリドミド、ポマリドミド、CC-112、CC-220またはそれらの薬学的に許容され得る塩もしくはプロドラッグである。いくつかの態様において、IMiDは、0.2~4、0.5~3、1~3、1~2または2~3mgの毎日量、例えば0.33、0.5、0.67、1、2、3または4mgの毎日量のポマリドミドまたはその薬学的に許容され得る塩である。
【0036】
いくつかの態様において、BTK阻害剤、mTOR阻害剤およびIMiDの組合せは、患者に、15~50、15~45、21~28、21~35または25~40日治療サイクル中10~40、10~35、14~21、14~28または20~30治療日数(例えば連続日数)の間投与され、ここで該治療サイクルは、1以上の非治療日数を有し得、患者が所望の治療終点を達成するまでまたは患者において疾患進行もしくは許容できない毒性が生じるまで、1回または1回より多く反復され得る。例えば、3つの化合物は、同日に(例えば別の組成物または単一組成物で)、患者に、(i)21日サイクル中14連続日数または(ii)28日サイクル中21連続日数の間投与され得、ここで該サイクルは、患者が所望の治療終点を達成するまでまたは患者において疾患進行もしくは許容できない毒性が生じるまで、1回以上反復され得る。
【0037】
いくつかの態様において、BTK阻害剤、mTOR阻害剤およびIMiDは、患者が所望の治療終点を達成するまでまたは患者において疾患進行もしくは許容できない毒性が生じるまで、連続様式で毎日投与され得る。例えば、患者は、3つの阻害剤を用いて、同日に(例えば別の組成物または単一組成物で)、反復28日サイクル中28連続日数の間治療され得、ここで患者の症状は、治療サイクルごとに少なくとも1回評価され得る。
【0038】
他の態様において、BTK阻害剤単独、BTK阻害剤とmTOR阻害剤の組合せまたはBTK阻害剤、mTOR阻害剤とIMiDの組合せは、B細胞悪性疾患などのリンパ球悪性疾患を治療するために、治療モノクローナル抗体またはその誘導体とさらに組み合わせて投与される。治療モノクローナル抗体またはその誘導体の非限定的な例としては、リツキシマブ、オビヌツズマブ、オファツムマブ、イブリツモマブ チウキセタン、アレムツズマブおよびブレンツキシマブ ベドチンが挙げられる。リツキシマブ、オビヌツズマブ、オファツムマブおよびイブリツモマブ チウキセタンは、B細胞表面抗原CD20に方向づけられる。アレムツズマブは、CD52を標的化するモノクローナル抗体である。ブレンツキシマブ ベドチンは、化学療法薬に付随した抗CD30抗体である。
【0039】
いくつかの態様において、本開示は、B細胞悪性疾患などのリンパ球悪性疾患の治療を必要とするヒト患者に、(a)10~500、25~450、50~400、50~200、100~400、100~300または200~400mgの日用量で化合物A;および(b)0.5~25、0.75~20、1~17.5、1.5~15、2~10、2~7.5、0.5~5または2.5~5mgの日用量、例えば0.5、1、1.25、1.5、2、2.5、3、3.75、4または5mgの日用量でエベロリムスを投与する工程を含む、該患者において、B細胞悪性疾患などのリンパ球悪性疾患を治療する方法に関する。B細胞悪性疾患は、小リンパ球性リンパ腫(SLL)、マントル細胞リンパ腫(MCL)、濾胞性リンパ腫(FL)、びまん性大B細胞リンパ腫(DLBCL)、ヴァルデンストレームマクログロブリン血症(WM)、辺縁層リンパ腫(MZL)または慢性リンパ球性白血病(CLL)である。特定の態様において、B細胞悪性疾患はDLBCLである。一態様において、化合物Aの日用量は100~300mgであり、エベロリムスの日用量は1.25、2.5、3.75または5mgである。別の態様において、化合物Aの日用量は200~400mgであり、エベロリムスの日用量は0.5、1、1.25、1.5、2.5、3.75または5mgである。一般的に、化合物Aの用量を増加する場合、エベロリムスの用量は、治療有効性を下げることなく、有利に低減され得る。いくつかの態様において、投与は連続様式で毎日行われる。いくつかの態様において、投与は、所望の臨床終点が達成されるまでまたは疾患進行もしくは許容できない毒性が生じるまで、反復21日サイクル中14連続日数の間行われる。いくつかの態様において、投与は、所望の臨床終点が達成されるまでまたは疾患進行もしくは許容できない毒性が生じるまで、反復28日サイクル中21連続日数の間行なわれる。いくつかの態様において、投与は、所望の臨床終点が達成されるまでまたは疾患進行もしくは許容できない毒性が生じるまで、反復28日サイクル中28連続日数の間行なわれる。いくつかの態様において、投与は、所望の臨床終点が達成されるまでまたは疾患進行もしくは許容できない毒性が生じるまで、反復35日サイクル中28連続日数の間行なわれる。
【0040】
いくつかの態様において、二重組合せ療法における化合物Aおよびエベロリムスの日用量は、以下の表に示されるようなものである:
【0041】
【表2】
【0042】
いくつかの態様において、本開示は、B細胞悪性疾患などのリンパ球悪性疾患の治療を必要とするヒト患者に、(a)10~500、25~450、50~400、50~200、100~400、100~300または200~400mgの日用量で化合物A;(b)0.5~25、0.75~20、1~17.5、1.5~15、2~10、2~7.5、0.5~5または2.5~5mgの日用量、例えば0.5、1、1.25、1.5、2、2.5、3、3.75、4または5mgの日用量でエベロリムス;および(c)0.2~4、0.5~3、1~3、1~2または2~3mgの日用量、例えば0.33、0.5、0.67、1、2、3または4mgの日用量でポマリドミドを投与する工程を含む、該患者においてB細胞悪性疾患などのリンパ球悪性疾患を治療する方法に関する。B細胞悪性疾患は、小リンパ球性リンパ腫(SLL)、マントル細胞リンパ腫(MCL)、濾胞性リンパ腫(FL)、びまん性大B細胞リンパ腫(DLBCL)、ヴァルデンストレームマクログロブリン血症(WM)、辺縁層リンパ腫(MZL)または慢性リンパ球性白血病(CLL)であり得る。特定の態様において、B細胞悪性疾患はDLBCLである。一般的に、化合物Aの用量を増加する場合、エベロリムスおよび/またはIMiDの用量は、またはその逆に、治療有効性を下げることなく有利に低減され得る。一態様において、化合物Aの日用量は100~300mgであり、エベロリムスの日用量は1.25、2.5、3.75または5mgである。別の態様において、化合物Aの日用量は200~400mgであり、エベロリムスの日用量は0.5、1、1.25、1.5、2.5、3.75または5mgである。いくつかの態様において、化合物A、エベロリムスとポマリドミドの組合せは、患者に、15~50、15~45、21~28、21~35または25~40日治療サイクル中、10~40、10~35、14~21、14~28または20~30治療日数(例えば連続日数)の間投与され、ここで該治療サイクルは、1以上の非治療日数を有し得、患者が所望の治療終点を達成するまでまたは患者において疾患進行もしくは許容できない毒性が生じるまで、1回または1回より多く反復され得る。いくつかの態様において、投与は、患者が所望の治療終点を達成するまでまたは患者において疾患進行もしくは許容できない毒性が生じるまで、連続様式(例えば28日サイクル中28日投与)で毎日行なわれる。いくつかの態様において、投与は、患者が所望の治療終点を達成するまでまたは患者において疾患進行もしくは許容できない毒性が生じるまで、反復28日サイクル中21連続日数の間行なわれる。他の態様において、投与は、患者が所望の治療終点を達成するまでまたは患者において疾患進行もしくは許容できない毒性が生じるまで、反復21日サイクル中14連続日数の間行なわれる。
【0043】
いくつかの態様において、ポマリドミドの日用量は、0.2~4、0.5~3、1~3、1~2または2~3mg、例えば0.33、0.5、0.67、1、2、3または4mgであり、ポマリドミドのそれぞれの前記日用量において、三重組合せ療法における化合物Aおよびエベロリムスの日用量は、上述の表2に示されるとおりである。
【0044】
本開示において、複数の治療剤(例えばBTK阻害剤、mTOR阻害剤、IMiDおよび/または治療モノクローナル抗体)を患者に投与する場合、薬剤は、任意の順序で連続して投与され得る。代替的に、組合せにおける薬剤は、同時に(at the same time)、例えば別の医薬組成物中で同時に(concurrently)、または共製剤化医薬組成物中で同様に投与され得る。さらに代替的に、組合せにおける薬剤のいくつかは、他の薬剤(1つまたは複数)を別々に投与しながら、同時に(simultaneously)投与され得る。
【0045】
いくつかの態様において、BTK阻害剤、mTOR阻害剤およびIMiDのそれぞれは毎日1回以上、患者に経口(すなわちper osまたはp.o.)投与される。
【0046】
以下の表3は、本発明に有用な化合物のいくつかの構造を示す。
【0047】
【表3-1】
【表3-2】
【表3-3】
【表3-4】
【表3-5】
【表3-6】
【表3-7】
【表3-8】
【表3-9】
【表3-10】
【0048】
医薬組成物
個々のBTK阻害剤、mTOR阻害剤、IMiDまたは治療モノクローナル抗体もしくはその誘導体あるいはそれらの組合せを含む医薬組成物は、担体、賦形剤および他の適切な添加剤を使用して調製され得る。投与形態は、BTK阻害剤、mTOR阻害剤およびIMiDについては経口剤型、例えば錠剤、丸薬、カプセル剤、顆粒剤、散剤、エマルジョン、シロップ剤、懸濁液、液体製剤;または非経口剤型、例えば静脈内、皮下もしくは筋内注射、坐剤、経皮植込み、もしくは吸入についての形態であり得る。
【0049】
経口投与のための固形組成物は、錠剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤等であり得る。かかる固形組成物において、1つ以上の活性物質は、少なくとも1つの不活性賦形剤(例えば、ラクトース、マンニトール、グルコース、ヒドロキシプロピルセルロース、微結晶セルロース、デンプン、ポリビニルピロリドン、ケイ酸マグネシウムアルミニウム等)と混合され得る。該組成物は、滑剤(例えばステアリン酸マグネシウム)、崩壊剤(例えばカルボキシメチルデンプンナトリウム)および溶解補助剤などの不活性添加剤を含み得る。必要な場合、錠剤または丸薬は、糖コーティングまたは胃もしくは腸溶性コーティング剤などの適切なコーティングでコーティングされ得る。
【0050】
経口投与のための液体組成物は、薬学的に許容され得るエマルジョン、溶液、水性または油性の懸濁液、シロップ剤、エリキシル剤および一般的に使用される不活性希釈剤(例えば精製水およびエタノール)を含む。不活性希釈剤に加えて、該組成物はまた、可溶化剤、湿潤剤、懸濁剤、ならびに甘味料、矯味矯臭剤、矯味矯臭剤および保存剤などの添加剤を含み得る。
【0051】
非経口投与のための注射剤としては、滅菌の水性または非水性液体製剤、懸濁液およびエマルジョンが挙げられ得る。希釈水溶液としては、蒸留水および生理食塩水が挙げられ得る。非水性希釈溶液としては、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、植物油、アルコール(例えばエタノール)およびポリソルベート80が挙げられ得る。かかる組成物はさらに、保存剤、湿潤剤、乳化剤、分散剤、安定化剤、溶解補助剤等の等張剤を含み得る。該組成物は、細菌保持フィルターによる濾過、殺菌剤の添加または放射線照射により滅菌され得る。また、これらの組成物は、滅菌固形組成物として作製され得、使用前に注射のために滅菌水または滅菌溶媒に溶解または懸濁され得る。
【0052】
吸入および鼻腔吸収などの経粘膜投与に使用される医薬組成物は、固体、液体または半固体状態の用途であり得、従来の方法に従って作製され得る。例えば、ラクトース、デンプン、pH調整剤、保存剤、界面活性剤、滑剤、安定化剤および濃化剤等の賦形剤が添加され得る。適切な吸入または吹送デバイスが使用され得る。例えば、計量用量吸入デバイスが使用され得る。適切な推進剤(例えばクロロフルオロアルカン、ヒドロフルオロアルカンまたは二酸化炭素などの適切な気体)を用いて、加圧エアゾールスプレーも使用され得る。
【0053】
いくつかの態様において、本開示の組合せ療法の治療剤は、単一のカプセル剤または錠剤に共製剤化され得る。例えば化合物Aおよびエベロリムスを使用するBTK/mTOR二重組合せについて、100mgの化合物Aおよび1.25mgのエベロリムスは、単一の錠剤またはカプセル剤に共製剤化され得、ここで患者は、1つの錠剤(100mg化合物Aおよび1.25mgエベロリムス)、2つの錠剤(200mg化合物Aおよび2.5mgエベロリムス)または3つの錠剤(300mg化合物Aおよび3.75mgエベロリムス)を、治療日に経口で与えられ得る。いくつかの態様において、単一の錠剤またはカプセル剤はさらに、0.33、0.5または0.67mgポマリドミドを含む。
【0054】
いくつかの態様において、本開示のBTK単一療法または組合せ療法は、同じ症状について別の薬物で治療されていない患者を治療するための第1ラインの治療として使用される。他の態様において、患者が同じ症状について、別の薬物、例えばリツキシマブ(B細胞上のCD20を標的化する)、CHOP(シクロホスファミド-ヒドロキシダウノルビシン-オンコビン-プレドニゾン療法)またはリツキシマブ+CHOP(R-CHOP)により成功裡に治療されていない(例えば治療抵抗性または再発性)場合、本発明のBTK単一療法または組合せ療法は、第2、第3または第4ラインの治療として使用される。
【0055】
そうではないと定義されない限り、本明細書で使用される全ての技術的および科学的な用語は、本発明が属する技術分野の当業者により一般的に理解されるものと同じ意味を有する。例示的な方法および材料を以下に記載するが、本明細書に記載されるものと同様または同等の方法および材料も本発明の実施または試験に使用され得る。本明細書において言及される全ての文献および他の参照は、それらの全体において参照により援用される。矛盾する場合、定義を含む本明細書が支配する。いくつかの文献が本明細書に引用されるが、この引用は、これらの文献のいずれかが当該技術分野における一般常識の一部を形成することの容認を構成しない。
【0056】
本明細書および態様を通じて、単語「含む(comprise)」、または「含む(comprises)」もしくは「含む(comprising)」などの変形は、任意の他の整数または整数の群の排除ではなく述べられた整数または整数の群を含むこと(inclusion)を暗示することが理解される。材料、方法および例は、例示のみのものであり、限定を意図しない。
【0057】
本明細書で使用する場合、用語「実質的に(substantially)」、「実質的な(substantial)」および「約」は、小さな変化を記載および説明するために使用される。事象または状況と組み合わせて使用される場合、該用語は、該事象または状況が正確に起こる例および該事象または状況が近い概数を生じる例をいい得る。例えば、該用語は、±10%以下、例えば±5%以下、±4%以下、±3%以下、±2%以下、±1%以下、±0.5%以下、±0.1%以下または±0.05%以下をいい得る。
【0058】
さらに、量、比および他の数値は、しばしば、本明細書において範囲の形式で示される。かかる範囲の形式は、便利さおよび簡潔さのために使用されることが理解され、範囲の限界として明確に特定された数値を含むが、それぞれの数値およびサブ範囲が明確に特定される場合に、該範囲に含まれる全ての個々の数値またはサブ範囲も含むことが柔軟に理解されるべきである。例えば、約1~約200の範囲の比は、約1および約200の明確に記載される限界を含むが、約2、約3および約4などの個々の比、ならびに約10~約50、約20~約100などのサブ範囲なども含むことが理解されるべきである。
【0059】
以下の実施例は、本発明の方法および材料を例示することを意図する。当業者に明確な、技術分野において通常に出くわす記載される状態およびパラメーターの適切な改変および適用は、本発明の精神および範囲内にある。
【実施例
【0060】
実施例
実施例1:再発性/治療抵抗性B細胞リンパ腫およびCLLについての化合物A単一療法の臨床試験
この実施例には、B細胞リンパ腫を有する患者における化合物Aカプセル剤の複数用量経口投与の安全性および許容性を評価するための第I相、オープンラベルの臨床試験が記載される。化合物Aの薬物動態学も評価した。
【0061】
方法
患者登録
以下の含める基準:i)年齢≧18歳、性別制限なし、インフォームドコンセントフォームを提供;ii)B細胞リンパ腫分類が、CLL、小リンパ球性リンパ腫(SLL);17p-を有するCLL;MCL;WM;DLBCL等を含むWHO分類規定に基づく;iii)測定可能な病変:NHLは少なくとも1つの≧2cm二次元病変直径、CLLは≧5000白血病細胞/mm3、WMはIgM≧1000mg/dL、骨髄リンパは血漿様細胞浸潤、DLBCLとして組織病理学的診断を必要とする;iv)少なくとも1回リンパ腫治療に不首尾であり標準的な治療選択肢を有さない患者;自己幹細胞移植に適切でないかまたは拒絶するDLBCL患者;およびv)ECOG(米国東海岸癌臨床試験グループ)性能状態0~1、を満たした患者を中国における試験に登録した。一方、以下の基準:i)病理学的な組織の型の変化を有する疾患(大細胞形質転換を含む);ii)他のBTK阻害剤療法を受けた患者(中国のみ);およびiii)HIV感染またはHBs-AgもしくはHBc-Ab陽性の患者、のいずれか1つに該当する患者は除外した。
【0062】
米国試験についての適格基準は中国試験と同様であったが、組織学的サブタイプは、再発性/治療抵抗性CLL、ホジキンリンパ腫およびDLBCLなどのB細胞NHLを有する患者を含んだ。BTK阻害剤への以前の暴露を受けた患者は試験に入れた。
【0063】
試験設計
前述の登録基準を満たした再発性/治療抵抗性B細胞リンパ腫患者を、無作為化することなく登録した。中国試験について、50mg、100mg、200mgから400mgに段階的に増加する日用量の化合物A単一療法を用いて試験を行った。患者は第1の投与後24時間入院することを求められた。化合物Aを28日間経口投与して、1週間追跡を行った(35日サイクル)。標準的な3+3用量段階的増加方法を使用した(Eisenhauer et al., J Clin Oncol 18(3):684-92 (2000)):3名の患者はコホート用量レベルで治療し、化合物A経過投与の完了後1週間以内に用量制限毒性(DLT)を有する患者が見られなかった場合、次の3名の患者について用量レベルを1段階、段階的に増加した。化合物Aの患者間の用量段階的増加は許容されなかった。偶発性または急性の毒性の発生を排除するために、各群の化合物Aを受けた第1の患者は、第1の投与後24時間入院することが求められ、その他の患者は、この期間に化合物Aを受けることは許されなかった。治療の最初の28日はDLT期間とみなした。以下のシナリオ:i)疾患の進行もしくは許容できない毒性またはii)試験からの患者の脱退が起こるまで、観察者が化合物A治療の継続は患者に有益であると決定した場合に、患者は化合物A治療の継続を許可された。
【0064】
米国試験は、再発性/治療抵抗性CLL、ホジキンリンパ腫およびDLBCLなどのB細胞NHLを有する患者において、化合物Aを単一療法またはエベロリムスおよびポマリドミドとの組合せとして調べる第Ia/Ib相のヒトでの最初の複数施設試験であった。第Ia相は報告され、50、100、200mgおよび300mgの化合物A単一療法用量の段階的増加からなった。化合物A治療は、疾患進行または許容できない毒性まで、28日サイクルの21連続日数の間投与された。50mgおよび100mgコホートは、グレード2以上の薬物関連有害事象の症例において患者の数の拡大が求められた単一患者コホートであった。200mgおよび300mgコホートに対する試験は標準的な3+3設計で行った。
【0065】
結果評価
第1の目的は、再発性/治療抵抗性B細胞リンパ腫を有する患者における化合物Aカプセル剤の複数用量経口投与の安全性および許容性を評価することであった。部分的応答および完全応答速度を含む応答速度は、非ホジキンリンパ腫についての改訂国際作業群基準(Revised International Working Group Criteria) (Cheson et al., J Clin Oncol 25:579-86 (2007))に従って定義された。DLT、非血液学的AEおよび血液学的AEを含む薬物関連有害事象(AE)を記録した。第2の目的は、化合物Aカプセル剤の複数用量経口投与のPKを評価することであった。単一用量投与のPK指標は、AUClast、AUC0-∞、Cmax、tmax、t1/2、CL/FおよびVd/Fを含んだ。連続投与下での安定状態のPK指標はAUCss、Cmax,ssおよびtmax,ssを含んだ。
【0066】
統計学的分析
試験の最終試料サイズは、用量段階的増加期の間に調べられた用量レベルの数に依存した。第Ia相試験における単一療法としての化合物Aカプセル剤の用量養生法を評価するために、5~11名の患者が採用されることが予測された。スポンサーが同意した基準に従ってデータを分析した。化合物Aカプセル剤を受けた全ての患者は、化合物Aの安全性および許容性の評価に含まれた。化合物Aカプセル剤を受けてPKデータを有した全ての患者は化合物AのPK特性を評価するために使用した。他の評価可能なパラメーターを統計学的レポートに列挙した。
【0067】
結果
患者および治療
前述の含める/除く基準を満たした13名の患者(9名の男性および4名の女性)を中国において登録した。濾胞性リンパ腫(FL)を有する7名の患者、ヴァルデンストレームマクログロブリン血症(MW)を有する3名の患者、辺縁層B細胞リンパ腫(MZL)を有する2名の患者および小リンパ球性リンパ腫(SLL)/慢性リンパ球性白血病(CLL)を有する1名の患者が見られた。これらの患者の中央年齢は56歳であった(範囲、30~72歳)。中央前治療は2であった(範囲、1~6)。4名の患者を50mg用量コホートに登録し、3名の患者を他の3用量コホート(100/200/400mg)のそれぞれに登録した。詳細な情報を表4に記載する。
【0068】
【表4】
【0069】
1名のDLBCLおよび1名の辺縁層リンパ腫を含む3名のB細胞リンパ腫を有する患者、ならびに2名のCLLを有する患者を含む5名の患者(3名の男性および2名の女性)を米国において登録した。50mgおよび100mgの用量コホートのそれぞれで1名の患者を治療し、200mg用量コホートで3名の患者を治療した。中央年齢は67歳であり(範囲、46~77)、中央前治療は2であった(範囲、1~5)。
【0070】
安全性評価
28日用量スケジュールで中国において治療した患者のうち、観察された薬物関連AEの大部分はグレード1であった。20%より多くの患者で生じた最も一般的な血液学的AEは、白血球減少症(23.1%)、貧血(23.1%)および好中球減少症(23.1%)であった。3名の患者はグレード1の白血球減少症を経験し、3名の患者はグレード1の貧血を経験した。1名の患者(7.7%)はグレード1の好中球減少症を経験し、2名の患者(15.4%)はグレード3の好中球減少症を経験した。グレード2、4または5の血液学的事象は起こらなかった。非血液学的事象は、それぞれ1名(7.7%)の患者で起こったグレード1のアラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)増加事象およびグレード3の肺炎を含んだ。グレード2、4または5の非血液学的事象は起こらなかった。用量制限毒性は起こらなかった。1名の患者のみが疾患進行のための治療を中断した。
【0071】
21日用量スケジュールで米国において治療された5名の患者のうち、有害事象はほとんどグレード1および2であった。血液学的事象は、貧血(60%)ならびに単一の患者事象のグレード3血小板減少症およびグレード3好中球減少症を含んだ。非血液学的事象は、上気道感染(40%)、挫傷(40%)および関節痛(40%)ならびに単一の患者事象のグレード3肺感染、気管支炎、筋肉痛、悪心、疲労および紫斑(全てグレード1)を含んだ。AEのために試験治療を中断した患者はなく、試験中または30日の追跡期間内に死亡した患者はなかった。
【0072】
有効性評価
中国試験において、1名の患者は治療の間に自発的に抜けて、3名のFL患者は治療後に進行性の疾患を経験した。そのため、9名の患者(WM=3、FL=3、MZL=2、SLL/CLL=1)が第1サイクルを超えて化合物Aを受け続けた。中央追跡は4.8ヶ月(範囲、1.6~10.5ヶ月)、2017年9月であった。これらの患者のうち、6名の患者を応答について評価した:WM (N=2:2PR)、FL (N=2:1PR、1SD)およびMZL (N=2:1CR、1SD)。PR:部分的応答;SD:安定疾患;CR:完全応答。
【0073】
米国試験において、3名の患者は、疾患進行のために化合物A単一療法の5ヶ月後(B細胞リンパ腫、50mg)、8ヶ月後(CLL、200mg)および2ヶ月後(DLBCL、200mg)のそれぞれに試験から抜けた。2名の患者は、13ヶ月目(CLL、100mg)および11ヶ月目(MZL)に化合物A単一療法を用いた試験において治療を続けた。全ての患者を応答について評価した:CLL (N=2、1PR、1SD)、MZL (1PR)、B細胞リンパ腫 (1SD)およびDLBCL (PD)。PD:疾患進行。
【0074】
表5Aおよび5Bは、治療の1日目および8日目それぞれの中国試験における化合物AのPKデータを示す。
【0075】
【表5A】
【表5B】
【0076】
表6は、1日目の米国試験における化合物AのPKデータを示す。
【0077】
【表6】
【0078】
米国試験において3名の追加の患者に300mgの化合物Aを与えた。データは、化合物Aは300mgでこれらの患者において十分に許容されたことを示す。
【0079】
PKデータは、全ての用量レベルで全ての患者における化合物Aへの適切な暴露を示す。
【0080】
前記のこれらのデータは、化合物Aが再発性/治療抵抗性CLLおよびB細胞リンパ腫を有する患者において安全でかつ十分に許容されたことを示す。化合物A単一療法について最大許容用量は到達されなかった。中国および米国の試験における患者は、23サイクル以上の化合物A単一療法までを許容した。一方、予備的有効性は、WM、MZLおよびSLL/CLL患者において観察された。好ましい毒性プロフィールは、化合物Aが、現在利用可能なものよりも弱くかつそれ以上に効果的な養生法により再発性/治療抵抗性B細胞リンパ腫を治療するための機会を提供し得ることを示す。
【0081】
実施例2:化合物A/エベロリムス組合せ療法を用いたB細胞悪性疾患の治療
この実施例には、化合物Aおよび低用量のエベロリムスの経口投与の組合せを用いた、B細胞悪性疾患を有する患者のための治療養生法が記載される。化合物Aおよびエベロリムスは、以下の表7に示される日用量で、B細胞悪性疾患を有する患者にPO投与される。
【0082】
【表7】
【0083】
薬物は、21日サイクル中14連続日数または28日サイクル中21連続日数の間に投与される。代替的に、薬物は、35日サイクル中28連続日数の間に投与される。薬物はまた連続して投与され得る(例えば28日サイクル中28連続日数)。複数サイクルは、患者が所望の臨床終点を達成するまでまたは疾患進行もしくは許容できない毒性が生じるまで投与され得る。治療されるB細胞悪性疾患としては、CLLおよび非ホジキンB細胞リンパ腫、例えば小リンパ球性リンパ腫(SLL)、濾胞性リンパ腫(FL)、びまん性大B細胞リンパ腫(DLBCL)、ヴァルデンストレームマクログロブリン血症(WM)、辺縁層リンパ腫(MZL)およびマントル細胞リンパ腫(MCL)が挙げられる。B細胞悪性疾患は、進行性、再発性または治療抵抗性であり得る。これらの組合せ療法は、悪性細胞に対して合成致死性と共に腫瘍の組織量および体積を効果的に低減することにより患者に利益および好ましい副作用プロフィールをもたらすと予想される。
【0084】
実施例3:化合物A/エベロリムス/ポマリドミド組合せ療法を用いたB細胞悪性疾患の治療
この実施例には、化合物Aと低用量のエベロリムスおよびポマリドミドの経口投与の組合せを用いたB細胞悪性疾患を有する患者のための治療養生法が記載される。3つの薬物は、以下の表8に示される日用量で、B細胞悪性疾患を有する患者にPO投与される。
【0085】
【表8】
【0086】
薬物は、28日サイクル中21連続日数の間に投与される。代替的に、薬物は、21日サイクル中14連続日数の間に投与される。複数サイクルは、疾患進行または許容できない毒性が生じるまで投与され得る。治療されるB細胞悪性疾患としては、CLLおよび非ホジキンB細胞リンパ腫、例えば小リンパ球性リンパ腫(SLL)、濾胞性リンパ腫(FL)、びまん性大B細胞リンパ腫(DLBCL)、ヴァルデンストレームマクログロブリン血症(WM)、辺縁層リンパ腫(MZL)およびマントル細胞リンパ腫(MCL)が挙げられる。B細胞悪性疾患は、進行性、再発性または治療抵抗性であり得る。これらの組合せ療法は、悪性細胞に対する合成致死性と共に腫瘍の組織量および体積を効果的に低減することにより、患者に利益および好ましい副作用プロフィールをもたらすと予想される。
【0087】
実施例4:臨床試験における経口化合物A/エベロリムス二重療法および経口化合物A/エベロリムス/ポマリドミド三重療法を用いたB細胞悪性疾患の治療
この実施例には、B細胞リンパ腫を有する患者において、「3+3」試験設計を用いた、経口化合物A/エベロリムス二重療法および化合物A/エベロリムス/ポマリドミド三重療法の安全性および抗腫瘍活性を評価するための第I相、オープンラベル臨床試験が記載される。
【0088】
方法
適格な患者は、少なくとも18歳であり、再発性/治療抵抗性慢性リンパ球性白血病(CLL)、びまん性大B細胞リンパ腫(DLBCL)、マントル細胞リンパ腫(MCL)、濾胞性リンパ腫(FL)または古典的ホジキンリンパ腫(cHL)に2未満のECOG性能状態を有した。試験治療は、28日サイクルにわたり21連続日数の間毎日投与された。用量制限毒性(DLT)期間は治療の第1サイクルの間に規定され、治療は、疾患進行または許容できない毒性まで継続された。患者は2ヶ月ごとに腫瘍評価を受け、改訂応答基準(IWCLLおよびCheson 2014)を使用して応答を記録した。
【0089】
二重療法において、化合物Aおよびエベロリムスは、上記の表7に示される日用量で、B細胞悪性疾患を有する患者にPO投与された。
【0090】
三重療法において、化合物A、エベロリムスおよびポマリドミドは、上記の表8に示される日用量で、B細胞悪性疾患を有する患者にPO投与された。
【0091】
結果
DLBCL、CLL、MCL、FLおよびcHLを有する7名の患者を、2~12サイクルの間経口二重療法により治療した。表9は、経口二重療法の結果を示す。
【0092】
【表9】
【0093】
二重療法から移された1名の患者を含む3名の患者(2DLBCL、1FL)を経口三重療法で治療した。表10は、経口三重療法の結果を示す。
【0094】
【表10】
【0095】
ほとんどのAEは公知であり管理可能であった。再発性AEはほとんどグレード1または2であり、応答は、多様なリンパ腫組織学にわたり経口二重療法と経口三重療法の両方により示された(表9および表10参照)。応答について評価可能な全ての患者は、経口二重療法および経口三重療法に対して部分的応答(PR)を示し、2/7(二重)および3/3(三重)名の患者は治療を受けたままであった。
【0096】
上述のデータは、現在固定されている用量の二重および三重組合せについて、最大許容用量が到達されなかったことを示す。毒性は中程度であり、試験治療の反復サイクルは、その後の治療サイクルの間に十分に許容され、管理可能であった。
本発明の態様として以下のものが挙げられる。
項1
1以上の治療サイクルにおいて、リンパ球悪性疾患の治療を必要とするヒト患者に、1-((R)-3-(4-アミノ-3-(2-フルオロ-4-(2,3,5,6-テトラフルオロフェノキシ)フェニル)-1H-ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン-1-イル)ピロリジン-1-イル)プロプ-2-エン-1-オン(化合物A)、またはそのエナンチオマー、ジアステレオマー、薬学的に許容され得る塩もしくはプロドラッグを投与する工程を含む、該患者においてリンパ球悪性疾患を治療する方法であって、化合物Aが、50~400mgの日用量で各治療サイクル中14~28治療日数の間に患者に投与される、方法。
項2
2以上の治療サイクルにおいて、該患者に化合物Aを投与する工程を含む、項1記載の方法。
項3
各治療サイクルが21~35日である、項1または2記載の方法。
項4
化合物Aが、
(i) 21日毎に14治療日数、
(ii) 28日毎に21治療日数、
(iii) 28日毎に28治療日数、または
(iv) 35日毎に28治療日数
の間投与される、項1記載の方法。
項5
化合物Aの日用量が、50、100、150、200、300または400mgである、項1~4いずれか記載の方法。
項6
リンパ球悪性疾患がB細胞悪性疾患である、項1~5いずれか記載の方法。
項7
B細胞悪性疾患が再発性または治療抵抗性のB細胞悪性疾患である、項6記載の方法。
項8
B細胞悪性疾患がB細胞リンパ腫である、項6記載の方法。
項9
B細胞リンパ腫が非ホジキンB細胞リンパ腫である、項8記載の方法。
項10
非ホジキンB細胞リンパ腫が、慢性リンパ球性白血病(CLL)、小リンパ球性リンパ腫(SLL)、濾胞性リンパ腫(FL)、びまん性大B細胞リンパ腫(DLBCL)、ヴァルデンストレームマクログロブリン血症(WM)、辺縁層リンパ腫(MZL)およびマントル細胞リンパ腫(MCL)からなる群より選択される、項9記載の方法。
項11
非ホジキンB細胞リンパ腫がDLBCLである、項10記載の方法。
項12
化合物Aが、治療モノクローナル抗体もしくはその誘導体、またはキメラ抗原受容体(CAR) T細胞療法と組み合わせて投与される、項1~11いずれか記載の方法。
項13
治療モノクローナル抗体またはCAR T細胞療法が、B細胞上の細胞表面受容体を標的化し、任意に、該細胞表面受容体がCD20、CD30またはCD52である、項12記載の方法。
項14
治療モノクローナル抗体が、リツキシマブ、オビヌツズマブ、オファツムマブ、イブリツモマブ チウキセタン、アレムツズマブおよびブレンツキシマブ ベドチンからなる群より選択される、項13記載の方法。
項15
前記1以上の治療サイクルにおいて、患者にラパマイシンの哺乳動物標的(mTOR)阻害剤の治療有効量を投与する工程をさらに含む、項1~14いずれか記載の方法。
項16
mTOR阻害剤が、エベロリムス、ラパマイシン、[7-(6-アミノ-3-ピリジニル)-2,3-ジヒドロ-1,4-ベンゾキサゼピン-4(5H)-イル][3-フルオロ-2-メチル-4-(メチルスルホニル)フェニル]-メタノン(XL388)、N-エチル-N'-[4-[5,6,7,8-テトラヒドロ-4-[(3S)-3-メチル-4-モルホリニル]-7-(3-オキセタニル)ピリド[3,4-d]ピリミジン-2-イル]フェニル]-ウレア(GDC-0349)、3-(2,4-ビス((S)-3-メチルモルホリノ)ピリド[2,3-d]ピリミジン-7-イル)-N-メチルベンズアミド(AZD2014)、(5-(2,4-ビス((S)-3-メチルモルホリノ)ピリド[2,3-d]ピリミジン-7-イル)-2-メトキシフェニル)メタノール(AZD8055)、GSK105965、3-(2-アミノベンゾ[d]オキサゾール-5-イル)-1-イソプロピル-1H-ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン-4-アミン(TAK-228またはMLN0128)、テムシロリムス(temsirolimus)、リダフォロリムス(ridaforolimus)、PI-103、NVP-BEZ235、WJD008、XL765、SF-1126、Torin1、PP242、PP30、Ku-0063794、WYE-354、WYE-687、WAY-600、INK128、OSI 027、ゲダトリシブ(gedatolisib)(PF-05212384)、CC-223、LY3023414、PQR309、LXI-15029、SAR245409またはそれらの薬学的に許容され得る塩もしくはプロドラッグである、項15記載の方法。
項17
前記治療日数において、患者に0.5~25mgの日用量でエベロリムスを投与する工程を含む、項15記載の方法。
項18
エベロリムスの日用量が0.5、1、1.25、1.5、2.5、3.75または5mgである、項17記載の方法。
項19
前記1以上の治療サイクルにおいて、患者に免疫調節薬(IMiD)の治療有効量を投与する工程をさらに含む、項15~18いずれか記載の方法。
項20
IMiDが、サリドマイド、レナリドミド、ポマリドミド、CC-112、CC-220またはそれらの薬学的に許容され得る塩もしくはプロドラッグである、項19記載の方法。
項21
ポマリドミドを、0.2~4mgの日用量で患者に投与する工程を含む、項19記載の方法。
項22
ポマリドミドの日用量が0.33、0.5、0.67、1、2、3または4mgである、項21記載の方法。
項23
化合物A、mTOR阻害剤および/またはIMiDが、患者にp.o.で投与される、項1~22いずれか記載の方法。
項24
(a)100mgの化合物Aおよび(b)1.25mgのエベロリムスを含む錠剤またはカプセル剤を、患者に、
(i) 21日治療サイクル中14治療日数、
(ii) 28日治療サイクル中21治療日数、
(iii) 28日治療サイクル中28治療日数、または
(iv) 35日治療サイクル中28治療日数
の間p.oで投与する工程を含む、項1記載の方法。
項25
(a)100mgの化合物A、(b)1.25mgのエベロリムスおよび(c)0.33、0.5もしくは0.67mgのポマリドミドを含む錠剤またはカプセル剤を、患者に、
(i) 21日治療サイクル中14治療日数、
(ii) 28日治療サイクル中21治療日数、または
(iii) 28日治療サイクル中28治療日数
の間p.oで投与する工程を含む、項1記載の方法。
項26
1より多い治療サイクルにおいて、患者に前記錠剤またはカプセル剤を投与する工程を含む、項24または25記載の方法。
項27
項1~26いずれか記載の方法におけるリンパ球悪性疾患の治療のための医薬の製造における化合物Aの使用。
項28
項1~26いずれか記載の方法におけるリンパ球悪性疾患の治療における使用のための化合物A。
項29
100mgの化合物A、1.25mgのエベロリムスおよび薬学的に許容され得る賦形剤を含む、医薬組成物。
項30
錠剤またはカプセル剤である、項29記載の医薬組成物。
項31
項1~26いずれか記載の方法における使用のための、項29または30記載の医薬組成物。