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特許7266045複合樹脂水性分散体及び複合樹脂水性分散体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-19
(45)【発行日】2023-04-27
(54)【発明の名称】複合樹脂水性分散体及び複合樹脂水性分散体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 283/00 20060101AFI20230420BHJP
   C08G 18/10 20060101ALI20230420BHJP
【FI】
C08F283/00
C08G18/10
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020558361
(86)(22)【出願日】2019-11-18
(86)【国際出願番号】 JP2019045001
(87)【国際公開番号】W WO2020105569
(87)【国際公開日】2020-05-28
【審査請求日】2021-08-03
(31)【優先権主張番号】P 2018218341
(32)【優先日】2018-11-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002288
【氏名又は名称】三洋化成工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 将浩
(72)【発明者】
【氏名】山根 増美
【審査官】古妻 泰一
(56)【参考文献】
【文献】特開平01-104651(JP,A)
【文献】米国特許第04644030(US,A)
【文献】特開2014-167036(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 283/00
C08G 18/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリウレタン樹脂(U)とビニル系樹脂(V)とを同一粒子内に含む複合樹脂粒子を含有する複合樹脂水性分散体であって、ポリウレタン樹脂(U)が活性水素成分(A)、有機イソシアネート成分(B)及び鎖伸長剤(E)の反応物であり、活性水素成分(A)、有機イソシアネート成分(B)及び鎖伸長剤(E)の内の少なくとも1種が3官能以上の化合物を含有することにより、ポリウレタン樹脂(U)に架橋構造が導入されており、活性水素成分(A)は、Mnが1,500~3,000の高分子ポリオール(a1)を含有し、ビニル系樹脂(V)を構成する単量体のうち、2官能以上のビニル系モノマー(M2)及びウレタン樹脂(U)と共有結合している水酸基、アミノ基、イミノ基又はチオール基を有する単官能のビニル系モノマー(M12’)の合計[(M2)+(M12’)]が、ビニル系樹脂(V)を構成する単量体の合計重量に基づいて、4重量%以下であり、複合樹脂水性分散体を乾燥させた皮膜が以下の(1)~(3)を全て満足するものである複合樹脂水性分散体:
(1)N,N-ジメチルホルムアミドに対するゲル分率が35~100%である;
(2)破断伸度が200~1,000%である;
(3)25℃における貯蔵弾性率E’が100~3,000MPaである。
【請求項2】
活性水素成分(A)における3官能以上の化合物が、炭素数3~20の3価アルコール、炭素数5~20の4~8価アルコール及び/又は糖類である請求項1に記載の複合樹脂水性分散体。
【請求項3】
有機イソシアネート成分(B)における3官能以上の化合物が、ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート体及び/又はイソホロンジイソシアネートのイソシアヌレート体である請求項1又は2に記載の複合樹脂水性分散体。
【請求項4】
鎖伸長剤(E)における3官能以上の化合物が、アルキレン基の炭素数が2~6で窒素原子の数が3~7であるポリアルキレンポリアミンである請求項1~3のいずれか1項に記載の複合樹脂水性分散体。
【請求項5】
複合樹脂水性分散体中のポリウレタン樹脂(U)とビニル系樹脂(V)との重量比[(U):(V)]が、30:70~70:30である請求項1~4のいずれか1項に記載の複合樹脂水性分散体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリウレタン樹脂とビニル系樹脂とを同一粒子内に含む複合樹脂粒子を含有する複合樹脂水性分散体と、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題、安全性の観点から樹脂の水性分散体が多く使用されている。中でも、機械的強度、耐候性及び耐水性等が要求されるコーティング剤等には、アクリル樹脂水性分散体が一般的に使用されている。アクリル樹脂水性分散体を用いた場合、その皮膜は一般的に可とう性に劣るため、可とう性を向上させる方法としてアクリル樹脂水性分散体とポリウレタン樹脂水性分散体を併用する方法が提案されている(例えば特許文献1参照)。しかし、一般にアクリル樹脂とポリウレタン樹脂とは相溶性が良くないため、アクリル樹脂水性分散体とポリウレタン樹脂水性分散体とを併用した場合、皮膜の柔軟性、機械的強度、可とう性、透明性及び光沢性等の性能が低下するという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平06-192616号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、柔軟性、機械的強度、貯蔵安定性、可とう性、硬度、透明性及び光沢性に優れた、ポリウレタン樹脂とビニル系樹脂とを同一粒子内に含む複合樹脂粒子を含有する複合樹脂水性分散体及びこの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、本発明に到達した。
即ち本発明は、第1の発明であるポリウレタン樹脂(U)とビニル系樹脂(V)とを同一粒子内に含む複合樹脂粒子を含有する複合樹脂水性分散体であって、ポリウレタン樹脂(U)が活性水素成分(A)、有機イソシアネート成分(B)及び鎖伸長剤(E)の反応物であり、活性水素成分(A)、有機イソシアネート成分(B)及び鎖伸長剤(E)の内の少なくとも1種が3官能以上の化合物を含有し、複合樹脂水性分散体を乾燥させた皮膜が以下の(1)~(3)を全て満足する複合樹脂水性分散体である:
(1)N,N-ジメチルホルムアミドに対するゲル分率が35~100%である;
(2)破断伸度が200~1,000%である;
(3)25℃における貯蔵弾性率E’が100~3,000MPaである。
【0006】
また、第2の発明は、ポリウレタン樹脂(U)とビニル系樹脂(V)とを同一粒子内に含む複合樹脂粒子を含有する複合樹脂水性分散体の製造方法であって、下記工程(1)~(6)を含み、活性水素成分(A)、有機イソシアネート成分(B)及び鎖伸長剤(E)の内の少なくとも1種が3官能以上の化合物を含有する複合樹脂水性分散体の製造方法である。
工程(1):水酸基、アミノ基、イミノ基又はチオール基のいずれも有しない単官能のビニル系モノマー(M11)の存在下で、活性水素成分(A)及び有機イソシアネート成分(B)を反応させて末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマー(P)を製造する工程;
工程(2):工程(1)と下記工程(3)との間で実施される任意の工程であって、水酸基、アミノ基、イミノ基又はチオール基のいずれも有しない単官能のビニル系モノマー(M11)を追加する工程;
工程(3):工程(1)で得られたウレタンプレポリマー(P)の溶液又は工程(2)を実施した場合には工程(2)で得られたウレタンプレポリマー(P)の溶液を水性媒体に分散させて水性分散体(α)を得る工程;
工程(4):水性分散体(α)中のウレタンプレポリマー(P)を鎖伸長剤(E)で伸長させる工程;
工程(5):工程(4)と下記工程(6)との間で実施される任意の工程であって、単官能のビニル系モノマー(M1)を追加する工程;
工程(6):水性分散体(α)中のビニル系モノマー(M11)又は工程(5)を実施した場合にはビニル系モノマー(M11)及び単官能のビニル系モノマー(M1)を重合させる工程。
【発明の効果】
【0007】
本発明の複合樹脂水性分散体は、柔軟性、機械的強度、貯蔵安定性、可とう性、硬度、透明性及び光沢性に優れており、本発明の製造方法によれば、柔軟性、機械的強度、貯蔵安定性、可とう性、硬度、透明性及び光沢性に優れたポリウレタン樹脂とビニル系樹脂とを同一粒子内に含む複合樹脂粒子を含有する複合樹脂水性分散体が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
まず、第1の発明である複合樹脂水性分散体について説明する。
本発明の複合樹脂水性分散体は、ポリウレタン樹脂(U)とビニル系樹脂(V)とを同一粒子内に含む複合樹脂粒子を含有する複合樹脂水性分散体であって、ポリウレタン樹脂(U)が活性水素成分(A)、有機イソシアネート成分(B)及び鎖伸長剤(E)の反応物であり、活性水素成分(A)、有機イソシアネート成分(B)及び鎖伸長剤(E)の内の少なくとも1種が3官能以上の化合物を含有し、複合樹脂水性分散体を乾燥させた皮膜が以下の(1)~(3)を全て満足する複合樹脂水性分散体である:
(1)N,N-ジメチルホルムアミドに対するゲル分率が35~100%である;
(2)破断伸度が200~1,000%である;
(3)25℃における貯蔵弾性率E’が100~3,000MPaである。
【0009】
本発明において、ポリウレタン樹脂(U)は、活性水素成分(A)、有機イソシアネート成分(B)及び鎖伸長剤(E)の反応物である。
活性水素成分(A)としては、数平均分子量(以下、Mnと略記)が300以上の高分子ポリオール(a1)、Mn又は化学式量が300未満の低分子ポリオール(a2)、イオン性基と活性水素原子を有する化合物(a3)及び反応停止剤(a4)が挙げられる。
【0010】
Mnが300以上の高分子ポリオール(a1)としては、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリエーテルエステルポリオール及びヒマシ油系ポリオール等が挙げられる。高分子ポリオール(a1)は、1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0011】
Mnが300以上のポリエステルポリオールとしては、縮合型ポリエステルポリオール、ポリラクトンポリオール及びポリカーボネートポリオール等が挙げられる。
【0012】
Mnが300以上の縮合型ポリエステルポリオールとしては、Mn又は化学式量が300未満の低分子ポリオール(a2)と炭素数2~20の多価カルボン酸又はそのエステル形成性誘導体[酸無水物、低級(炭素数1~4)アルキルエステル及び酸ハライド等]との縮合により得られるもの等が挙げられる。
【0013】
Mn又は化学式量が300未満の低分子ポリオール(a2)としては、炭素数2~20の多価アルコール;炭素数2~20の多価アルコールの炭素数2~12のアルキレンオキサイド(以下、AOと略記)付加物であってMn又は化学式量が300未満のもの;ビスフェノール(ビスフェノールA、ビスフェノールS及びビスフェノールF等)の炭素数2~12のAO付加物であってMn又は化学式量が300未満のもの;ビス(2-ヒドロキシエチル)テレフタレート及びその炭素数2~12のAO付加物であってMn又は化学式量が300未満のもの等が挙げられる。
【0014】
本発明における炭素数2~12のAOとしては、エチレンオキサイド、1,2-又は1,3-プロピレンオキサイド、1,2-,1,3-又は2,3-ブチレンオキサイド、テトラヒドロフラン、3-メチルテトラヒドロフラン、スチレンオキサイド、α-オレフィンオキサイド及びエピクロルヒドリン等が挙げられる。
【0015】
炭素数2~20の多価アルコールとしては、炭素数2~12の直鎖又は分岐の脂肪族2価アルコール[エチレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-ドデカンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール及びテトラエチレングリコール等の直鎖アルコール;1,2-、1,3-又は2,3-ブタンジオール、2-メチル-1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、2,2-ジエチル-1,3-プロパンジオール、2-メチル-1,5-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-メチル-1,6-ヘキサンジオール、3-メチル-1,6-ヘキサンジオール、2-メチル-1,7-ヘプタンジオール、3-メチル-1,7-ヘプタンジオール、4-メチル-1,7-ヘプタンジオール、2-メチル-1,8-オクタンジオール、3-メチル-1,8-オクタンジオール及び4-メチルオクタンジオール等の分岐アルコール等];炭素数6~20の脂環式2価アルコール[1,4-シクロヘキサンジオール、1,3-又は1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,4-シクロヘプタンジオール、2,5-ビス(ヒドロキシメチル)-1,4-ジオキサン、2,7-ノルボルナンジオール、テトラヒドロフランジメタノール、1,4-ビス(ヒドロキシエトキシ)シクロヘキサン、1,4-ビス(ヒドロキシメチル)シクロヘキサン及び2,2-ビス(4-ヒドロキシシクロヘキシル)プロパン等];炭素数8~20の芳香脂肪族2価アルコール[m-又はp-キシリレンジオール、ビス(ヒドロキシエチル)ベンゼン及びビス(ヒドロキシエトキシ)ベンゼン等];炭素数3~20の3価アルコール[脂肪族トリオール(グリセリン及びトリメチロールプロパン等)等];炭素数5~20の4~8価アルコール[脂肪族ポリオール(ペンタエリスリトール、ソルビトール、マンニトール、ソルビタン、ジグリセリン及びジペンタエリスリトール等);糖類(ショ糖、グルコース、マンノース、フルクトース、メチルグルコシド及びその誘導体)];等が挙げられる。
【0016】
炭素数2~20の多価カルボン酸又はそのエステル形成性誘導体としては、脂肪族ジカルボン酸(コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、オクタデカンジカルボン酸、デシルコハク酸、フマル酸及びマレイン酸等)、脂環式ジカルボン酸(ダイマー酸等)、芳香族ジカルボン酸(テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、t-ブチルイソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸及び4,4’-ビフェニルジカルボン酸等)、3価又はそれ以上のポリカルボン酸(トリメリット酸及びピロメリット酸等)、これらの無水物(無水コハク酸、無水マレイン酸、無水フタル酸及び無水トリメリット酸等)、これらの酸ハロゲン化物(アジピン酸ジクロライド等)、これらの低分子量アルキルエステル(コハク酸ジメチル及びフタル酸ジメチル等)並びこれらの併用が挙げられる。これらの内で好ましいものは脂肪族ジカルボン酸及びそのエステル形成性誘導体である。多価カルボン酸は1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0017】
Mnが300以上のポリラクトンポリオールとしては、上記炭素数2~20の多価アルコールを開始剤として炭素数3~12のラクトンモノマー(β-プロピオラクトン、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、ε-カプロラクトン、η-カプリロラクトン、11-ウンデカノラクトン及び12-ドデカノイド等)を開環重合させたもの等が挙げられる。ラクトンモノマーは1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0018】
ポリカーボネートポリオールとしては、上記炭素数2~20の多価アルコール(好ましくは炭素数3~9、更に好ましくは炭素数4~6の脂肪族2価アルコール)の1種又は2種以上と、低分子カーボネート化合物(例えば、アルキル基の炭素数1~6のジアルキルカーボネート、炭素数2~6のアルキレン基を有するアルキレンカーボネート及び炭素数6~9のアリール基を有するジアリールカーボネート)から、脱アルコール反応させながら縮合させることによって製造されるポリカーボネートポリオールが挙げられる。
【0019】
Mnが300以上のポリエーテルポリオールとしては、上記Mn又は化学式量が300未満の低分子ポリオール(a2)に炭素数2~12のAOを付加させた化合物等が挙げられる。AOは1種を単独で用いても2種以上を併用してもよく、後者の場合はブロック付加(チップ型、バランス型、活性セカンダリー型等)でもランダム付加でもこれらの併用系でもよい。
【0020】
Mn又は化学式量が300未満の低分子ポリオール(a2)へのAOの付加は、例えば無触媒で又は触媒(アルカリ触媒、アミン系触媒、酸性触媒等)の存在下(特にAO付加の後半の段階で)に常圧又は加圧下に1段階又は多段階で行なわれる。
【0021】
ポリエーテルポリオールの具体例としては、ポリ(オキシエチレン)ポリオール、ポリ(オキシプロピレン)ポリオール、ポリ(オキシテトラメチレン)ポリオール、ポリ(オキシ-3-メチルテトラメチレン)ポリオール、テトラヒドロフラン/エチレンオキサイド共重合ポリオール及びテトラヒドロフラン/3-メチルテトラヒドロフラン共重合ポリオール等が挙げられる。これらの内で引張強伸度の観点から好ましいものはポリ(オキシテトラメチレン)ポリオールである。
【0022】
Mnが300以上のポリエーテルエステルポリオールとしては、上記ポリエーテルポリオールの1種以上と上記縮合型ポリエステルポリオールの原料として例示した炭素数2~20の多価カルボン酸又はそのエステル形成性誘導体の1種以上とを縮重合させて得られるもの等が挙げられる。
【0023】
ヒマシ油系ポリオールとしては、ヒマシ油、ヒマシ油脂肪酸と上記炭素数2~20の多価アルコールやポリオキシアルキレンポリオールとからのポリエステルポリオール(ヒマシ油脂肪酸のモノ-又はジグリセライド、ヒマシ油脂肪酸とトリメチロールプロパンとからのモノ-、ジ-又はトリエステル及びヒマシ油脂肪酸とポリオキシプロピレングリコールとからのモノ-又はジエステル等)、ヒマシ油に炭素数2~12のAOを付加したもの及びこれらの2種以上の混合物等が挙げられる。
【0024】
高分子ポリオール(a1)のMnは、引張強伸度の観点から、好ましくは300以上、更に好ましくは1,000~5,000、特に好ましくは1,500~3,000である。
【0025】
尚、本発明におけるポリオールのMnは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより、例えば以下の条件で測定することができる。
装置:「Waters Alliance 2695」[Waters社製]
カラム:「Guardcolumn Super H-L」(1本)、「TSKgel SuperH2000、TSKgel SuperH3000、TSKgel SuperH4000(いずれも東ソー株式会社製)を各1本連結したもの」
試料溶液:0.25重量%のテトラヒドロフラン溶液
溶液注入量:10μl
流量:0.6ml/分
測定温度:40℃
検出装置:屈折率検出器
基準物質:標準ポリエチレングリコール
【0026】
イオン性基と活性水素原子を有する化合物(a3)としては、アニオン性基と活性水素原子を含有する化合物(a31)及びカチオン性基と活性水素原子を含有する化合物(a32)が挙げられる。化合物(a3)は1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0027】
アニオン性基と活性水素原子を含有する化合物(a31)としては、例えばアニオン性基としてカルボキシル基を含有し、活性水素原子として水酸基を有し、炭素数が2~10の化合物[ジアルキロールアルカン酸(例えば2,2-ジメチロールプロピオン酸、2,2-ジメチロールブタン酸、2,2-ジメチロールヘプタン酸及び2,2-ジメチロールオクタン酸)、酒石酸及びアミノ酸(例えばグリシン、アラニン及びバリン)等]、アニオン性基としてスルホン酸基を含有し、活性水素原子として水酸基を有し、炭素数が2~16の化合物[3-(2,3-ジヒドロキシプロポキシ)-1-プロパンスルホン酸及びスルホイソフタル酸ジ(エチレングリコール)エステル等]、アニオン性基としてスルファミン酸基を含有し、活性水素原子として水酸基を有し、炭素数が2~10の化合物[N,N-ビス(2-ヒドロキシルエチル)スルファミン酸等]等並びにこれらの化合物を中和剤で中和した塩が挙げられる。
【0028】
アニオン性基と活性水素原子を含有する化合物(a31)の塩に用いられる中和剤としては、例えばアンモニア、炭素数1~20のアミン化合物又はアルカリ金属水酸化物(水酸化ナトリウム、水酸化カリウム及び水酸化リチウム等)が挙げられる。
炭素数1~20のアミン化合物としては、モノメチルアミン、モノエチルアミン、モノブチルアミン及びモノエタノールアミン等の1級アミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジブチルアミン、ジエタノールアミン及びジイソプロパノールアミン、メチルプロパノールアミン等の2級アミン並びにトリメチルアミン、トリエチルアミン、ジメチルエチルアミン、ジメチルモノエタノールアミン及びトリエタノールアミン等の3級アミン等が挙げられる。
【0029】
アニオン性基と活性水素原子を含有する化合物(a31)の塩に用いられる中和剤としては、生成する複合樹脂水性分散体の乾燥性及び乾燥皮膜の耐水性の観点から、25℃における蒸気圧が高い化合物が好適である。このような観点から、アニオン性基と活性水素原子を含有する化合物(a31)の塩に用いられる中和剤としては、アンモニア、モノメチルアミン、モノエチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン及びジメチルエチルアミンが好ましい。
【0030】
アニオン性基と活性水素原子を含有する化合物(a31)の内、得られる皮膜の機械的強度及び複合樹脂水性分散体の分散安定性の観点から好ましいのは、2,2-ジメチロールプロピオン酸及び2,2-ジメチロールブタン酸及びこれらの塩類であり、更に好ましいのは2,2-ジメチロールプロピオン酸及び2,2-ジメチロールブタン酸のアンモニア又は炭素数1~20のアミン化合物による中和塩である。
【0031】
カチオン性基と活性水素原子を含有する化合物(a32)としては、カチオン性基として3級アミノ基を有し、活性水素原子として水酸基を有する化合物、例えば炭素数1~20の3級アミノ基含有ジオール[N-アルキルジアルカノールアミン(例えばN-メチルジエタノールアミン、N-プロピルジエタノールアミン、N-ブチルジエタノールアミン及びN-メチルジプロパノールアミン)及びN,N-ジアルキルモノアルカノールアミン(例えばN,N-ジメチルエタノールアミン)等]等の化合物を中和剤で中和した塩が挙げられる。
【0032】
カチオン性基と活性水素原子を含有する化合物(a32)の塩に用いられる中和剤としては、炭素数1~10のモノカルボン酸(例えばギ酸、酢酸、プロパン酸等)、炭酸、炭酸ジメチル、硫酸ジメチル、メチルクロライド及びベンジルクロライド等が挙げられる。
カチオン性基と活性水素原子を含有する化合物(a32)の塩に用いられる中和剤としては、生成する複合樹脂水性分散体の乾燥性及び乾燥皮膜の耐水性の観点から、25℃における蒸気圧が高い化合物が好適である。このような観点からカチオン性基と活性水素原子を含有する化合物(a32)に用いられる中和剤としては、炭素数1~10のモノカルボン酸及び炭酸が好ましく、更に好ましいのはギ酸及び炭酸、特に好ましいのは炭酸である。
【0033】
反応停止剤(a4)としては、炭素数1~20のモノアルコール類(メタノール、エタノール、ブタノール、オクタノール、デカノール、ドデシルアルコール、ミリスチルアルコール、セチルアルコール及びステアリルアルコール等)、炭素数1~20のモノアミン(モノメチルアミン、モノエチルアミン、モノブチルアミン、ジブチルアミン及びモノオクチルアミン等のモノ又はジアルキルアミン並びにモノエタノールアミン、ジエタノールアミン及びジイソプロパノールアミン等のモノ又はジアルカノールアミン等)が挙げられる。
【0034】
本発明における有機イソシアネート成分(B)としては、2~3個又はそれ以上のイソシアネート基を有する炭素数8~26の芳香族ポリイソシアネート(b1)、炭素数4~22の脂肪族ポリイソシアネート(b2)、炭素数8~18の脂環式ポリイソシアネート(b3)、炭素数10~18の芳香脂肪族ポリイソシアネート(b4)及びこれらの有機ポリイソシアネートの変性物(b5)等が挙げられる。
【0035】
炭素数8~26の芳香族ポリイソシアネート(b1)としては、例えば1,3-又は1,4-フェニレンジイソシアネート、2,4-又は2,6-トリレンジイソシアネート(以下、トリレンジイソシアネートをTDIと略記)、粗製TDI、4,4’-又は2,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(以下、ジフェニルメタンジイソシアネートをMDIと略記)、粗製MDI、ポリアリールポリイソシアネート、4,4’-ジイソシアナトビフェニル、3,3’-ジメチル-4,4’-ジイソシアナトビフェニル、3,3’-ジメチル-4,4’-ジイソシアナトジフェニルメタン、1,5-ナフチレンジイソシアネート、4,4’,4”-トリフェニルメタントリイソシアネート及びm-又はp-イソシアナトフェニルスルホニルイソシアネートが挙げられる。
【0036】
炭素数4~22の脂肪族ポリイソシアネート(b2)としては、例えばエチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(以下、HDIと略記)、ドデカメチレンジイソシアネート、1,6,11-ウンデカントリイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、2,6-ジイソシアナトメチルカプロエート、ビス(2-イソシアナトエチル)フマレート、ビス(2-イソシアナトエチル)カーボネート及び2-イソシアナトエチル-2,6-ジイソシアナトヘキサノエートが挙げられる。
【0037】
炭素数8~18の脂環式ポリイソシアネート(b3)としては、例えばイソホロンジイソシアネート(以下、IPDIと略記)、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(以下、水添MDIと略記)、シクロヘキシレンジイソシアネート、メチルシクロヘキシレンジイソシアネート、ビス(2-イソシアナトエチル)-4-シクロヘキセン-1,2-ジカルボキシレート及び2,5-又は2,6-ノルボルナンジイソシアネートが挙げられる。
【0038】
炭素数10~18の芳香脂肪族ポリイソシアネート(b4)としては、例えばm-又はp-キシリレンジイソシアネート及びα,α,α’,α’-テトラメチルキシリレンジイソシアネートが挙げられる。
【0039】
(b1)~(b4)の有機ポリイソシアネートの変性物(b5)としては、上記ポリイソシアネートのウレタン基、カルボジイミド基、アロハネート基、ウレア基、ビウレット基、ウレトジオン基、ウレトイミン基、イソシアヌレート基又はオキサゾリドン基含有変性物[例えば変性MDI(ウレタン変性MDI、カルボジイミド変性MDI及びトリヒドロカルビルホスフェート変性MDI等)、ウレタン変性TDI、HDIのビウレット体、HDIのイソシアヌレート体及びIPDIのイソシアヌレート体]が挙げられる。
【0040】
これらの内、耐候性の観点から好ましいのは炭素数4~22の脂肪族ポリイソシアネート(b2)、炭素数8~18の脂環式ポリイソシアネート(b3)及びこれらの変性物、更に好ましいのはHDI、IPDI、水添MDI、HDIのイソシアヌレート体及びIPDIのイソシアヌレート体である。
有機イソシアネート成分(B)は、1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0041】
鎖伸長剤(E)としては、水及びMn又は化学式量が500未満のポリアミン化合物等が挙げられる。
Mn又は化学式量が500未満のポリアミン化合物としては、炭素数2~36の脂肪族ポリアミン[エチレンジアミン及びヘキサメチレンジアミン等のアルキレンジアミン;ジエチレントリアミン、ジプロピレントリアミン、ジヘキシレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチエレンヘキサミン及びヘキサエチレンヘプタミン等のアルキレン基の炭素数が2~6で窒素原子の数が3~7であるポリアルキレンポリアミン{ポリ(n=2~6)アルキレン(炭素数2~6)ポリ(n=3~7)アミン}等]、炭素数6~20の脂環式ポリアミン(1,3-又は1,4-ジアミノシクロヘキサン、4,4’-又は2,4’-ジシクロヘキシルメタンジアミン及びイソホロンジアミン等)、炭素数6~20の芳香族ポリアミン(1,3-又は1,4-フェニレンジアミン、2,4-又は2,6-トリレンジアミン、4,4’-又は2,4’-メチレンビスアニリン等)、炭素数8~20の芳香脂肪族ポリアミン[1,3-又は1,4-キシリレンジアミン、ビス(アミノエチル)ベンゼン、ビス(アミノプロピル)ベンゼン及びビス(アミノブチル)ベンゼン等]、炭素数3~20の複素環式ポリアミン[2,4-ジアミノ-1,3,5-トリアジン、ピペラジン及びN-(2-アミノエチル)ピペラジン等]、ヒドラジン又はその誘導体(例えばアジピン酸ジヒドラジド等の二塩基酸ジヒドラジド)及び炭素数2~20のアミノアルコール類(例えばエタノールアミン、ジエタノールアミン、2-アミノ-2-メチルプロパノール及びトリエタノールアミン)等が挙げられる。
【0042】
本発明の複合樹脂水性分散体において、ポリウレタン樹脂(U)は、活性水素成分(A)、有機イソシアネート成分(B)及び鎖伸長剤(E)の内の少なくとも1種が3官能以上の化合物を含有する原料の反応物である。本発明においては、活性水素成分(A)、有機イソシアネート成分(B)及び鎖伸長剤(E)の内の少なくとも1種に3官能以上の化合物を用いることにより、ポリウレタン樹脂(U)に架橋構造を導入する。
【0043】
活性水素成分(A)の内、上記目的に用いる3官能以上の化合物として好ましいのは、Mn又は化学式量が300未満の低分子ポリオール(a2)の内の炭素数3~20の3価アルコール、炭素数5~20の4~8価アルコール及び糖類であり、更に好ましいのは炭素数3~20の3価アルコール、特に好ましいのはトリメチロールプロパンである。
【0044】
有機イソシアネート成分(B)の内、上記目的に用いる3官能以上の化合物として好ましいのは、HDIのイソシアヌレート体及びIPDIのイソシアヌレート体である。
【0045】
鎖伸長剤(E)の内、上記目的に用いる3官能以上の化合物として好ましいのは、アルキレン基の炭素数が2~6で窒素原子の数が3~7であるポリアルキレンポリアミン[ポリ(n=2~6)アルキレン(炭素数2~6)ポリ(n=3~7)アミン]であり、更に好ましいのはジエチレントリアミン及びトリエチレンテトラミンである。
【0046】
乾燥皮膜の機械的強度の観点から、鎖伸長剤(E)に3官能以上の化合物を用いることによりポリウレタン樹脂(U)に架橋構造を導入することが好ましい。
【0047】
本発明において、ビニル系樹脂(V)を構成するビニル系モノマー(M)としては、単官能のビニルモノマー(M1){水酸基、アミノ基、イミノ基又はチオール基のいずれも有しない単官能のビニル系モノマー(M11)、水酸基、アミノ基、イミノ基又はチオール基を有する単官能のビニル系モノマー(M12)}、2官能以上のビニル系モノマー(M2)が挙げられ、ビニル系モノマー(M)は1種を用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
上記ビニル系モノマー(M11)としては、下記ビニル系モノマー(m1)~(m7)が挙げられる。
水酸基、アミノ基、イミノ基又はチオール基を有する単官能のビニル系モノマー(M12)としては、下記ビニル系モノマー(m8)~(m10)が挙げられる。
【0048】
(1)エステル基含有ビニル系モノマー(m1):
不飽和アルコール又はヒドロキシスチレンと炭素数1~12のモノカルボン酸とのエステル、例えば酢酸ビニル、ビニルブチレート、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、イソプロペニルアセテート、メチル-4-ビニルベンゾエート、ビニルメトキシアセテート、ビニルベンゾエート及びアセトキシスチレン;不飽和カルボン酸アルコール(炭素数1~30)エステル、例えばメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ヘキサデシル(メタ)アクリレート、ヘプタデシル(メタ)アクリレート、エイコシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、メチルノルボルネン(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、エチル-α-エトキシ(メタ)アクリレート、ジ(シクロ)アルキルフマレート(2個のアルキル基は、炭素数2~8の、直鎖又は分岐の基である)及びジ(シクロ)アルキルマレエート(2個のアルキル基は、炭素数2~8の、直鎖又は分岐の基である);重合度5~50のポリオキシアルキレン(炭素数2~4)モノオール不飽和カルボン酸エステル、例えばメチルアルコールエチレンオキシド10モル付加物(メタ)アクリレート及びラウリルアルコールエチレンオキシド30モル付加物(メタ)アクリレート。
【0049】
(2)ビニル系炭化水素(m2):
(2-1)脂肪族ビニル系炭化水素:炭素数2~20のアルケン類、例えばエチレン、プロピレン、ブテン、イソブチレン、ペンテン、ヘプテン、オクテン、ドデセン、オクタデセン及び上記以外のα-オレフィン。
(2-2)脂環式ビニル系炭化水素:モノシクロアルケン、例えばシクロヘキセン等。
(2-3)芳香族ビニル系炭化水素(炭素数8~20):スチレン及びそのハイドロカルビル(アルキル及び/又はシクロアルキル)置換体、例えばα-メチルスチレン、ビニルトルエン、2,4-ジメチルスチレン、エチルスチレン、イソプロピルスチレン、ブチルスチレン、フェニルスチレン、シクロヘキシルスチレン、ベンジルスチレン、クロチルベンゼン及びビニルナフタレン。
【0050】
(3)エポキシ基含有ビニル系モノマー(m3):
グリシジル(メタ)アクリレート及びβ-メチルグリシジル(メタ)アクリレート等の炭素数6~20のグリシジル基含有(メタ)アクリレート;4-ビニル-1,2-エポキシシクロヘキサン及び5-ビニル-2,3-エポキシノルボルナン等の炭素数6~20の脂環式エポキシ基含有ビニル系モノマー等。
【0051】
(4)カルボキシル基含有ビニル系モノマー(m4):
炭素数3~30の不飽和モノカルボン酸、不飽和ジカルボン酸並びにその無水物及びそのモノアルキル(炭素数1~24)エステル、例えば(メタ)アクリル酸、(無水)マレイン酸、マレイン酸モノアルキルエステル、フマル酸、フマル酸モノアルキルエステル、クロトン酸、イタコン酸、イタコン酸モノアルキルエステル、シトラコン酸、シトラコン酸モノアルキルエステル及び桂皮酸。
【0052】
(5)スルホ基含有ビニル系モノマー(m5):
炭素数2~14のアルケンスルホン酸、例えばビニルスルホン酸、(メタ)アリルスルホン酸及びメチルビニルスルホン酸;スチレンスルホン酸及びその炭素数1~24のアルキル置換体、例えばα-メチルスチレンスルホン酸等;スルホ(ヒドロキシ)アルキル(炭素数1~8)-(メタ)アクリレート又は(メタ)アクリルアミド、例えば、スルホプロピル(メタ)アクリレート、2-(メタ)アクリロイルオキシエタンスルホン酸、3-(メタ)アクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸、2-(メタ)アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸及び3-(メタ)アクリルアミド-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸;アルキル(炭素数3~18)(メタ)アリルスルホコハク酸エステル等。
【0053】
(6)ケト基含有ビニル系モノマー(m6):
分子中に少なくとも1個のケト基(カルボキシル基、エステル基及びアミド基中のケト基は含まない)と重合可能な二重結合を有するモノマーであれば特に制限されることなく使用でき、例えば、ジアセトンアクリルアミド、ビニルメチルケトン、ビニルエチルケトン、ビニルイソブチルケトン、(メタ)アクリルオキシアルキルプロパナール及びジアセトン(メタ)アクリルアミド。
【0054】
(7)アルデヒド基含有ビニル系モノマー(m7):
分子中に少なくとも1個のアルデヒド基と、重合可能な二重結合を有するモノマーであれば特に制限されることなく使用でき、例えば、アクロレイン、ホルミルスチロール、(メタ)アクリルアミドピバリンアルデヒド及びアセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート。
【0055】
(M11)として、複合樹脂水性分散体の分散安定性の観点から好ましいのは(m1)、(m4)、(m5)及び(m6)であり、更に好ましいのはメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート及び(メタ)アクリル酸である。
【0056】
(8)水酸基含有ビニル系モノマー(m8)としては、炭素数2~12のアルケノール、例えばビニルアルコール、(メタ)アリルアルコール、1-ブテン-3-オール及び2-ブテン-1-オール;炭素数4~12のアルケンジオール、例えば2-ブテン-1,4-ジオール;水酸基含有芳香族ビニルモノマー、例えばヒドロキシスチレン;炭素数5~8のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、例えばヒドロキシエチル(メタ)アクリレート及びヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート;炭素数3~30のアルケニルエーテル、例えば2-ヒドロキシエチルプロペニルエーテル及び蔗糖アリルエーテル等が挙げられる。
【0057】
(9)アミノ基又はイミノ基含有ビニル系モノマー(m9)としては、炭素数5~20のアミノアルキル(メタ)アクリレート、例えば7-アミノ-3,7-ジメチルオクチル(メタ)アクリレート、モノメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、t-ブチルアミノエチル(メタ)アクリレート、t-オクチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート及びジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート等;炭素数5~20のN-アミノアルキル(メタ)アクリルアミド、例えばN-(2-アミノエチル)(メタ)アクリルアミド、N-(1-メチル-2-アミノエチル)(メタ)アクリルアミド、N-(3-アミノプロピル)(メタ)アクリルアミド、N-(4-アミノブチル)(メタ)アクリルアミド、N-(5-アミノペンチル)(メタ)アクリルアミド、N-(6-アミノヘキシル)(メタ)アクリルアミド、N-(3-メチルアミノプロピル)(メタ)アクリルアミド、N-(2-イソプロピルアミノエチル)(メタ)アクリルアミド、N-(3-イソプロピルアミノプロピル)(メタ)アクリルアミド及びN-(3-tert-ブチルアミノプロピル)(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。
【0058】
(10)チオール基含有ビニル系モノマー(m10)としては、(メタ)アリルメルカプタン及びチオール基を有する(メタ)アクリル酸エステル[上記水酸基含有ビニル系モノマー(m8)へのエチレンスルフィド付加物{2-(2-メルカプトエトキシ)エチル(メタ)アクリレート等}及び(メタ)アクリル酸へのエチレンスルフィド付加物{2-メルカプトエチル(メタ)アクリレート等}等]等が挙げられる。
【0059】
2官能以上のビニル系モノマー(M2)としては、ジビニルベンゼン、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10-デカンジオールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチエレングルコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロポキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、プロポキシ化エトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、エトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、9,9-ビス[4-(2-(メタ)アクリロイルオキシエトキシ)フェニル]フルオレン、エトキシ化イソシアヌル酸トリ(メタ)アクリレート、ε-カプロラクトン変性トリス-(2-(メタ)アクリロキシエチル)イソシアヌレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールポリ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールポリ(メタ)アクリレート、ポリペンタエリスリトールポリ(メタ)アクリレート、エトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、トリアリルイソシアヌレート、イソ(テレ)フタル酸ジアリル、イソシアヌル酸ジアリル及びマレイン酸ジアリル等が挙げられる。
【0060】
本発明において、ビニル系樹脂(V)を構成する単量体のうち、2官能以上のビニル系モノマー(M2)及びウレタン樹脂(U)と共有結合している水酸基、アミノ基、イミノ基又はチオール基を有する単官能のビニル系モノマー(M12’)の合計[(M2)+(M12’)]が、ビニル系樹脂(V)を構成する単量体の合計重量に基づいて、4重量%以下が好ましく、さらに好ましくは3重量%以下であり、特に好ましくは2重量%以下である。
上記値を小さくするためには、ビニル系樹脂(V)を構成するビニル系モノマー(M)中の2官能以上のビニル系モノマー(M2)の重量割合を少なくすればよい。また、ビニル系樹脂(V)を構成するビニル系モノマー(M)中の水酸基、アミノ基、イミノ基又はチオール基を有する単官能のビニル系モノマー(M12)の重量割合を少なくする、又はウレタン樹脂(U)を製造した後、イソシアネート基が非常に少ない、若しくはほとんど残っていない段階で水酸基、アミノ基、イミノ基又はチオール基を有する単官能のビニル系モノマー(M12)を用いればよい。
なお、2官能以上のビニル系モノマー(M2)及び水酸基、アミノ基、イミノ基又はチオール基を有する単官能のビニル系モノマー(M12)の重量割合は、熱分解ガスクロマトグラフ質量分析法によって求めることができる。また、「ウレタン樹脂(U)と共有結合している」水酸基、アミノ基、イミノ基又はチオール基を有する単官能のビニル系モノマー(M12’)の重量割合は、JIS K1557-1に準拠して分析した水酸基価、JIS K1557-7に準拠して分析した全アミン価、メタロジェニクス株式会社製「レドックスアッセイチオール定量キット」を使用したDTNB法によって求めたチオール基含量及び熱分解ガスクロマトグラフ質量分析法から定性した(M12)の分子量から「ウレタン樹脂(U)と結合していない」水酸基、アミノ基、イミノ基又はチオール基を有する単官能のビニル系モノマーの重量割合を求め、(M12)の重量割合から減じることで求めることができる。
熱分解ガスクロマトグラフ質量分析法として具体的には、2官能以上のビニル系モノマー(M2)及び/又は水酸基、アミノ基、イミノ基又はチオール基を有する単官能のビニル系モノマー(M12)を含む組成既知の2種以上のビニル系樹脂を熱分解ガスクロマトグラフ質量分析法によって分析し、2官能以上のビニル系モノマー(M2)及び/又は水酸基、アミノ基、イミノ基又はチオール基を有する単官能のビニル系モノマー(M12)のピークの積分値から作成した検量線を使用し、組成分析したい樹脂の熱分解ガスクロマトグラフ質量分析法における2官能以上のビニル系モノマー(M2)及び/又は水酸基、アミノ基、イミノ基又はチオール基を有する単官能のビニル系モノマー(M12)のピークの積分値から2官能以上のビニル系モノマー(M2)及び/又は水酸基、アミノ基、イミノ基又はチオール基を有する単官能のビニル系モノマー(M12)の重量割合を算出することができる。
本発明において、水酸基、アミノ基、イミノ基又はチオール基のいずれも有しない単官能のビニル系モノマー(M11)の重量割合は、ビニル系樹脂(V)を構成する単量体の合計重量に基づいて、96重量%以上であることが好ましく、さらに好ましくは98重量%以上であり、特に好ましくは100重量%である。
【0061】
本発明における複合樹脂水性分散体中のポリウレタン樹脂(U)とビニル系樹脂(V)との重量比[(U):(V)]は、分散安定性及び乾燥皮膜の柔軟性、機械的強度、貯蔵安定性、硬度、可とう性、透明性及び光沢性の観点から、好ましくは30:70~70:30、さらに好ましくは40:60~60:40である。
【0062】
本発明における複合樹脂水性分散体において、水性媒体としては、水及び水と有機溶剤との混合物が挙げられる。
有機溶剤としては、ケトン系溶剤(例えばアセトン及びメチルエチルケトン)、エステル系溶剤(例えば酢酸エチル)、エーテル系溶剤(例えばテトラヒドロフラン)、アミド系溶剤(例えばN,N-ジメチルホルムアミド及びN-メチルピロリドン)、アルコール系溶剤(例えばイソプロピルアルコール)及び芳香族炭化水素系溶剤(例えばトルエン)等が挙げられる。有機溶剤は1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0063】
本発明における複合樹脂水性分散体は、架橋剤、粘度調整剤、消泡剤、防腐剤、耐候安定化剤及び凍結防止剤等を含有することができる。
【0064】
架橋剤としては、ポリウレタン樹脂(U)及びビニル系樹脂(V)が有する反応性官能基と反応し得る官能基を分子内に2個以上含有する水溶性又は水分散性の化合物が挙げられる。具体的にはポリウレタン樹脂(U)がカルボキシル基を有する場合、メラミン化合物、オキサゾリン化合物、カルボジイミド化合物、エポキシ化合物及びアジリジン化合物等の化合物を架橋剤として用いることができる。
また、ビニル系樹脂(V)が水酸基、アミノ基、イミノ基又はチオール基を有する場合、メラミン化合物、オキサゾリン化合物、アジリジン化合物、エポキシ化合物及びブロックイソシアネート化合物等を架橋剤として用いることができる。
架橋剤は1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの架橋剤の使用量はポリウレタン樹脂(U)の重量に基づいて1.0~20重量%、更に好ましくは1.5~10重量%である。
【0065】
粘度調整剤としては増粘剤、例えば無機系粘度調整剤(ケイ酸ソーダ及びベントナイト等)、セルロース系粘度調整剤(Mnが20,000以上のメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース及びヒドロキシメチルセルロース等)、タンパク質系粘度調整剤(カゼイン、カゼインソーダ及びカゼインアンモニウム等)、アクリル系(Mnが20,000以上のポリアクリル酸ナトリウム及びポリアクリル酸アンモニウム等)及びビニル系粘度調整剤(Mnが20,000以上のポリビニルアルコール等)が挙げられる。
消泡剤としては、長鎖アルコール(オクチルアルコール等)、ソルビタン誘導体(ソルビタンモノオレート等)及びシリコーンオイル(ポリメチルシロキサン及びポリエーテル変性シリコーン等)等が挙げられる。
【0066】
防腐剤としては、有機窒素硫黄化合物系防腐剤及び有機硫黄ハロゲン化物系防腐剤等が挙げられる。
耐候安定化剤としては、酸化防止剤(ヒンダードフェノール系、硫黄系、リン系等)、紫外線吸収剤(ベンゾトリアゾール系、トリアジン系、ベンゾフェノン系、ベンゾエート系等)、ヒンダードアミン系光安定剤等の耐候安定化剤を含有することができる。これらの耐候安定化剤の使用量はポリウレタン樹脂(U)の重量に基づいて好ましくは0.1~10重量%、更に好ましくは0.2~5重量%である。
凍結防止剤としては、エチレングリコール及びプロピレングリコール等が挙げられる。
粘度調整剤、消泡剤、防腐剤、耐候安定化剤及び凍結防止剤の使用量は、複合樹脂水性分散体の重量を基準としてそれぞれ好ましくは5重量%以下、更に好ましくは3重量%以下である。
【0067】
本発明における複合樹脂水性分散体中の粒子の体積平均粒子径(Dv)は、複合樹脂水性分散体のハンドリング性及び分散安定性の観点から、好ましくは0.01~1μm、更に好ましくは0.02~0.7μm、特に好ましくは0.03~0.4μmである。(Dv)は、光散乱粒度分布測定装置[ELS-8000{大塚電子(株)製}]を用いて測定される。
【0068】
本発明における複合樹脂水性分散体の固形分濃度(揮発性成分以外の成分の含有量)は、水性分散体の取り扱い易さの観点から、好ましくは20~65重量%、更に好ましくは25~55重量%である。固形分濃度は、水性分散体約1gをペトリ皿上にうすく伸ばし、精秤した後、循環式定温乾燥機を用いて130℃で、45分間加熱した後の重量を精秤し、加熱前の重量に対する加熱後の残存重量の割合(百分率)を計算することにより得ることができる。
【0069】
本発明における複合樹脂水性分散体の25℃における粘度は、好ましくは10~100,000mPa・s、更に好ましくは10~5,000mPa・sである。粘度はBL型粘度計を用いて測定することができる。
本発明における複合樹脂水性分散体の25℃におけるpHは、好ましくは2~12、更に好ましくは4~10である。pHは、pH Meter M-12[堀場製作所(株)製]を用いて測定することができる。
【0070】
本発明の複合樹脂水性分散体を乾燥させた皮膜は、以下の(1)~(3)を全て満足するものである。
(1)N,N-ジメチルホルムアミドに対するゲル分率が35~100%である;
(2)破断伸度が200~1,000%である;
(3)25℃における貯蔵弾性率E’が100~3,000MPaである。
上記(1)~(3)における皮膜は、複合樹脂水性分散体を105℃で3時間乾燥後、更に105℃、圧力1.3kPaで1時間減圧乾燥して得られたものであって、膜厚が200μmの皮膜を用いる。
【0071】
上記(1)におけるN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)に対するゲル分率は、例えば以下の方法によって求めることができる。
複合樹脂水性分散体を、乾燥膜厚が200μmとなるようにポリプロピレン板に塗布し、105℃で乾燥して皮膜を得る。得られた塗膜からサンプルを切り出し、上記サンプルの重量を測定して、「DMF浸漬前の皮膜の重量」を決定する。上記サンプルの重量としては、0.035~0.045gが好ましい。その後、サンプルを20mlのDMFに入れ、23℃で24時間浸漬する。浸漬後、四フッ化エチレン樹脂(PTFE)フィルターを用いてサンプルを含むDMFを濾過する。更に上記フィルター及び残渣物を105℃で3時間乾燥した後冷却して、「DMF浸漬後のフィルターと残渣物の総重量」を測定する。「DMF浸漬前の皮膜の重量」、「フィルターの重量」、「DMF浸漬後のフィルターと残渣物の総重量」を下記式(1)に代入して、ゲル分率を求める。
ゲル分率(%)=(「DMF浸漬後のフィルターと残渣物の総重量」-「フィルターの重量」)/「DMF浸漬前の皮膜の重量」)×100 ・・・(1)
【0072】
上記(2)における破断伸度は、JIS K6251に準拠して、試験片の形状をダンベル状3号形とし、オートグラフ[島津製作所(株)製「AGS-500D」]を用いて、引張速度500mm/分で測定した値である。
【0073】
上記(3)における貯蔵弾性率E’は、貯蔵弾性率測定装置[Rheogel E4000{UBM(株)製}]を使用して周波数11Hzで測定した値である。
【0074】
DMFに対するゲル分率は、35~100%であり、好ましくは36~95%、さらに好ましくは37~80%、特に好ましくは38~70%である。
DMFに対するゲル分率が35%未満では、塗料やインクに配合した際の貯蔵安定性、乾燥皮膜の柔軟性、機械的強度及び破断伸度の観点で劣る。
DMFに対するゲル分率は、架橋密度及びポリウレタン樹脂(U)とビニル系樹脂(V)との重量比[(U):(V)]によって調整することができる。具体的には、3官能以上の化合物を多くして架橋密度を高くする又はポリウレタン樹脂(U)の重量割合を大きくするとゲル分率を高くすることができる。
【0075】
破断伸度は、200~1,000%であり、好ましくは210~800%、さらに好ましくは220~650%である。
破断伸度が200%未満では、可とう性が劣り、1,000%を超えると、硬度及び強度が劣る。
破断伸度は、架橋密度及びポリウレタン樹脂(U)とビニル系樹脂(V)との重量比[(U):(V)]によって調整することができる。具体的には、用いる3官能以上の化合物を少なくして架橋密度を低くする又はポリウレタン樹脂(U)の重量割合を大きくすると破断伸度を高くすることができる。
【0076】
貯蔵弾性率E’は、100~3,000MPaであり、好ましくは150~2,000MPa、さらに好ましくは200~1,000MPaである。
貯蔵弾性率E’が100MPa未満では、硬度及び強度が劣り、3,000MPaを超えると、可とう性が劣る。
貯蔵弾性率E’は、ポリウレタン樹脂(U)のウレタン基、ウレア基含量及びビニル系樹脂(V)のガラス転移点によって調整することができる。具体的には、有機イソシアネート成分(B)を多く使用したり、ガラス転移点の高いビニル系モノマーを使用することにより貯蔵弾性率E’を高くすることができる。
【0077】
本発明の複合樹脂水性分散体において、ポリウレタン樹脂(U)のウレタン基含量は、柔軟性、硬度、機械的強度及び可とう性の観点から、ポリウレタン樹脂(U)の重量に基づいて0.9~2.5mmol/gが好ましく、更に好ましくは1.2~2.2mmol/g、特に好ましくは1.5~2.0mmol/gである。
なお、ウレタン基含量は窒素分析計によって定量されるN原子含量とH-NMRによって定量されるウレタン基とウレア基の比率及びアロハネート基とビウレット基含量から算出することができる。
【0078】
本発明の複合樹脂水性分散体において、ポリウレタン樹脂(U)のウレア基含量は、柔軟性、硬度、機械的強度及び可とう性の観点から、ポリウレタン樹脂(U)の重量に基づいて0.15~1.5mmol/gが好ましく、更に好ましくは0.18~1.3mmol/g、特に好ましくは0.2~1.1mmol/gである。
なお、ウレア基含量は窒素分析計によって定量されるN原子含量とH-NMRによって定量されるウレタン基とウレア基の比率及びアロハネート基とビウレット基含量から算出することができる。
【0079】
窒素分析計については、例えば窒素分析計[ANTEK7000(アンテック社製)]が使用できる。
H-NMR測定については、「NMRによるポリウレタン樹脂の構造研究:武田研究所報34(2)、224-323(1975)」に記載の方法で行う。すなわちH-NMRを測定して、脂肪族を使用した場合、化学シフト6ppm付近のウレア基由来の水素の積分量と化学シフト7ppm付近のウレタン基由来の水素の積分量の比率からウレア基とウレタン基の重量比を算出し、該重量比と上記のN原子含量及びアロハネート基及びビウレット基含量からウレタン基及びウレア基含量を算出する。芳香族イソシアネートを使用した場合、化学シフト8ppm付近のウレア基由来の水素の積分量と化学シフト9ppm付近のウレタン基由来の水素の積分量の比率からウレア基とウレタン基の重量比を算出し、該重量比と上記のN原子含量からウレア基含量を算出する。
【0080】
本発明の複合樹脂水性分散体において、ビニル系樹脂(V)のガラス転移点は柔軟性、硬度、機械的強度及び可とう性の観点から、-70~180℃が好ましく、更に好ましくは0~150℃、特に好ましくは30~120℃、最も好ましくは60~110℃である。
本発明の複合樹脂水性分散体において、ビニル系樹脂(V)が2成分のモノマーから構成される場合のガラス転移点Tg(K)は下記式(2)のFoxの式を用いた理論計算によって算出することができる。
1/Tg=W/Tg+W/Tg ・・・(2)
[式中、Tg及びTgはモノマー1及びモノマー2のホモポリマーのガラス転移点(K)、W及びWはモノマー1及びモノマー2の重量分率である]
【0081】
ビニル系樹脂(V)が3成分のモノマーから構成される場合のガラス転移点Tg(K)は下記式(3)のFoxの式を用いた理論計算によって算出することができる。
1/Tg=W/Tg+W/Tg+W/Tg・・・(3)
[式中、Tg、Tg及びTgはモノマー1、モノマー2及びモノマー3のホモポリマーのガラス転移点(K)、W、W及びWはモノマー1、モノマー2及びモノマー3の重量分率である]
【0082】
本発明の複合樹脂水性分散体は、後述する第2の発明である複合樹脂水性分散体の製造方法、及び下記(I)~(II)の製造方法により得ることができる。なお、(I)~(II)において、活性水素成分(A)、有機イソシアネート成分(B)及び鎖伸長剤(E)の内の少なくとも1種が3官能以上の化合物を含有する。
本発明において、複合樹脂水性分散体の製造方法としては、柔軟性、機械的強度及び可とう性の観点から、第2の発明である複合樹脂水性分散体の製造方法が好ましい。
【0083】
(I)下記工程(1’)~(6’)を含む製造方法。
工程(1’):ビニル系モノマー(M’)の存在下で、活性水素成分(A)及び有機イソシアネート成分(B)を反応させて末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマー(P’)を製造する工程であって、ビニル系モノマー(M’)が水酸基、アミノ基、イミノ基又はチオール基のいずれも有しない単官能のビニル系モノマー(M11)と水酸基、アミノ基、イミノ基又はチオール基を有する単官能のビニル系モノマー(M12)及び/又は2官能以上のビニル系モノマー(M2)とを含有し、(M’)の重量を基準として(M12)及び(M2)の合計重量割合が4重量%以下である工程;
工程(2’):工程(1’)と下記工程(3’)との間で実施される任意の工程であって、ビニル系モノマー(M’)を追加する工程;
工程(3’):工程(1’)で得られたウレタンプレポリマー(P’)の溶液又は工程(2’)を実施した場合には工程(2’)で得られたウレタンプレポリマー(P’)の溶液を水性媒体に分散させて水性分散体(α’)を得る工程;
工程(4’):水性分散体(α’)中のウレタンプレポリマー(P’)を鎖伸長剤(E)で伸長させる工程;
工程(5’):工程(4’)と下記工程(6’)との間で実施される任意の工程であって、単官能のビニル系モノマー(M11)、単官能のビニル系モノマー(M12)及び2官能以上のビニルモノマー(M2)からなる群より選ばれる少なくとも1種を追加する工程;
工程(6’):水性分散体(α’)中のビニル系モノマー(M11)、(M12)及び(M2)を重合させる工程。
(I)の製造方法では、工程(1’)並びに工程(2’)を実施した場合には工程(1’)及び工程(2’)において、(M’)の重量を基準として(M11)を96重量%以上100重量%未満含有することにより、(V)の架橋密度を適切な範囲に設定することができ、乾燥皮膜の柔軟性、機械的強度及び可とう性に優れた複合樹脂水性分散体が得られる。
【0084】
(I)の製造方法において、ビニル系モノマー(M’)以外の条件として好ましいものは、下記の第2の発明{(I)における工程(1’)~(6’)に対応する第2の発明の工程(1)~(6)}と同様である。
【0085】
(II)下記工程(1’’)~(4’’)を含む製造方法。
工程(1’’):ビニル系モノマーの不存在下で、活性水素成分(A)及び有機イソシアネート成分(B)を反応させて末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマー(P’’)を製造する工程;
工程(2’’):工程(1’’)で得られたウレタンプレポリマー(P’’)の溶液を水性媒体に分散させて水性分散体(αx)を得た後にウレタンプレポリマー(P’’)を鎖伸長剤(E)で伸長させて水性分散体(α’’)を得る工程、又は工程(1’’)で得られたウレタンプレポリマー(P’’)を鎖伸長剤(E)で伸長させた後に水性媒体に分散させて水性分散体(α’’)を得る工程;
工程(3’’):水性分散体(α’’)中にビニル系モノマー(M’’)を共存させる工程であって、ビニル系モノマー(M’’)が水酸基、アミノ基、イミノ基又はチオール基のいずれも有しない単官能のビニル系モノマー(M11)と、必要により水酸基、アミノ基、イミノ基又はチオール基を有する単官能のビニル系モノマー(M12)及び/又は2官能以上のビニル系モノマー(M2)とを含有し、(M’)の重量を基準として(M2)の重量割合が4重量%以下である工程;
工程(4’’):水性分散体(α’’)中のビニル系モノマー(M’’)を重合させる工程。
【0086】
(II)の製造方法における各工程と、第2の発明における各工程との対応関係は下記である。
工程(1’’):工程(1)
工程(2’’):工程(3)及び工程(4)
工程(3’’):工程(5)
工程(4’’):工程(6)
また、(II)の製造方法において、工程(1’’)におけるビニル系モノマー不存在下でウレタンプレポリマーを製造する以外の条件として好ましい条件は、第2の発明における工程(1)と同様である。また、工程(2’’)において、好ましい条件は第2の発明における工程(3)及び(4)と同様である。工程(3’’)において、ビニル系モノマー(M’’)を用いる以外の好ましい条件は、第2の発明における工程(5)と同様である。工程(4’’)において、好ましい条件は、第2の発明における工程(6)と同様である。
【0087】
第2の発明である複合樹脂水性分散体の製造方法について説明する。
第2の発明である複合樹脂水性分散体の製造方法は、ポリウレタン樹脂(U)とビニル系樹脂(V)を同一粒子内に含む複合樹脂粒子を含有する複合樹脂水性分散体の製造方法であって、下記工程(1)~(6)を含み、活性水素成分(A)、有機イソシアネート成分(B)及び鎖伸長剤(E)の内の少なくとも1種が3官能以上の化合物を含有する複合樹脂水性分散体の製造方法である。
工程(1):水酸基、アミノ基、イミノ基又はチオール基のいずれも有しない単官能のビニル系モノマー(M11)の存在下で、活性水素成分(A)及び有機イソシアネート成分(B)を反応させて末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマー(P)を製造する工程;
工程(2):工程(1)と下記工程(3)との間で実施される任意の工程であって、水酸基、アミノ基、イミノ基又はチオール基のいずれも有しない単官能のビニル系モノマー(M11)を追加する工程;
工程(3):工程(1)で得られたウレタンプレポリマー(P)の溶液又は工程(2)を実施した場合には工程(2)で得られたウレタンプレポリマー(P)の溶液を水性媒体に分散させて水性分散体(α)を得る工程;
工程(4):水性分散体(α)中のウレタンプレポリマー(P)を鎖伸長剤(E)で伸長させる工程;
工程(5):工程(4)と下記工程(6)との間で実施される任意の工程であって、単官能のビニル系モノマー(M1)を追加する工程;
工程(6):水性分散体(α)中のビニル系モノマー(M11)又は工程(5)を実施した場合にはビニル系モノマー(M11)及び単官能のビニル系モノマー(M1)を重合させる工程。
【0088】
活性水素成分(A)、有機イソシアネート成分(B)及び鎖伸長剤(E)の内の少なくとも1種が3官能以上の化合物を含有することにより、ポリウレタン樹脂(U)に架橋構造が導入され、ポリウレタン樹脂(U)形成の際に系内に存在していたビニル系モノマー(M11)又は(M11)及び(M1)を重合することにより、ポリウレタン樹脂(U)の網目間にビニル系樹脂(V)の分子鎖が貫通する構造の複合樹脂を形成させることができ、乾燥皮膜の柔軟性、機械的強度及び可とう性に優れた複合樹脂水性分散体が得られる。
また、単官能のビニル系モノマーを使用して線状のビニル系樹脂とすること及び工程(1)及び(2)におけるビニル系モノマーとして水酸基、アミノ基、イミノ基又はチオール基のいずれも有しないものを用いてポリウレタン樹脂(U)とビニル系樹脂(V)が共有結合を形成しないようにすることにより、乾燥皮膜の柔軟性、機械的強度及び可とう性を更に向上させることができる。
【0089】
工程(1)で用いる活性水素成分(A)は、第1の発明における活性水素成分(A)と同様であり、好ましいものも同様である。
【0090】
本発明における有機イソシアネート成分(B)としては、第1の発明における有機イソシアネート成分(B)と同様であり、好ましいものも同様である。
【0091】
工程(1)で用いる水酸基、アミノ基、イミノ基又はチオール基のいずれも有しない単官能のビニル系モノマー(M11)としては、第1の発明におけるビニル系モノマー(m1)~(m7)と同様である。
【0092】
これらの内、ウレタンプレポリマー(P)の溶解性の観点から好ましいのは(m1)、(m4)、(m5)及び(m6)であり、更に好ましいのはメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート及び(メタ)アクリル酸である。工程(1)で用いるビニル系モノマー(M11)は、1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0093】
工程(1)におけるウレタンプレポリマー(P)は、水酸基、アミノ基、イミノ基又はチオール基のいずれも有しない単官能のビニル系モノマー(M11)の存在下で、活性水素成分(A)と有機イソシアネート成分(B)とを、活性水素含有基(カルボキシル基、スルホ基及びスルファミン酸基を除く)に対するイソシアネート基の当量比率(イソシアネート基/活性水素含有基)が好ましくは1.01~3、更に好ましくは1.1~2となる割合でウレタン化反応させることにより形成される。
【0094】
工程(1)開始時の活性水素成分(A)及び有機イソシアネート成分(B)の合計重量と水酸基、アミノ基、イミノ基又はチオール基のいずれも有しない単官能のビニル系モノマー(M11)の重量比[{(A)+(B)}:(M11)]は、好ましくは40:60~90:10、更に好ましくは50:50~80:20、特に好ましくは55:45~75:25である。
【0095】
ウレタンプレポリマー化反応は、好ましくは20~150℃、更に好ましくは60~110℃の反応温度で行われ、反応時間は好ましくは2~30時間である。ウレタンプレポリマーは好ましくは0.1~5重量%のイソシアネート基を有する。
【0096】
ウレタンプレポリマー化反応に際し、反応促進のため必要により触媒を用いることができる。触媒の具体例としては、例えば有機金属化合物(ジブチルスズジラウレート、ジオクチルスズジラウレート、ビスマスカルボキシレート、ビスマスアルコキシド及びジカルボニル基を有する化合物とビスマスとのキレート化合物等)、無機金属化合物(酸化ビスマス、水酸化ビスマス、ハロゲン化ビスマス等);アミン(トリエチルアミン、トリエチレンジアミン及び1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]-7-ウンデセン等)及びこれらの2種以上の併用が挙げられる。
【0097】
また、ウレタンプレポリマー化反応に際し、反応系の粘度の異常上昇を抑制するために、ラジカル捕捉剤を用いることが好ましい。
【0098】
ラジカル捕捉剤としては、2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール、6-[3-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロポキシ]-2,4,6,10-テトラ-ブチルジベンズ[d,f][1,3,2]ジオキサフォスフェピン、3-4’-ヒドロキシ-3’-5’-ジ-t-ブチルフェニル)プロピオン酸-n-オクタデシル、オクタデシル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)-プロピオネート、3,9-ビス[2-〔3-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオニルオキシ〕-1,1ジメチルエチル]-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5・5]ウンデカン、2,2’-メチレンビス(6-t-ブチル-4-メチルフェノール)、4,4’ブチリデンビス(6-t-ブチル-3-メチルフェノール)、3,6-ジオキサオクタメチレン=ビス[3-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオナート]、4,4’-チオビス(2-t-ブチル-5-メチルフェノール)、4,4’-チオビス(6-t-ブチル-3-メチルフェノール)、チオジエチレンビス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオナート、1,3,5-トリス(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシベンジル)イソシアヌル酸、1,1,3-トリス(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)ブタン、ペンタエリスリチル・テトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]及び1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)等のヒンダードフェノール系化合物等が挙げられる。ラジカル捕捉剤は、1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0099】
ラジカル捕捉剤の使用量は、異常な粘度上昇抑止の観点からビニル系モノマー(M1)の重量を基準として、好ましくは0.01~2重量%、更に好ましくは0.02~1重量%である。
【0100】
本発明における工程(2)は、工程(1)と工程(3)の間で実施される任意の工程であって、水酸基、アミノ基、イミノ基又はチオール基のいずれも有しない単官能のビニル系モノマー(M11)を追加する工程である。
【0101】
工程(1)においては暴走反応の危険性の観点から、ウレタンプレポリマー(P)に対して多くのビニル系モノマー(M11)を使用することができないので、本発明における複合樹脂水性分散体中のポリウレタン樹脂(U)とビニル系樹脂(V)との重量比を所望の値にするためにビニル系モノマー(M11)を追加する必要がある場合がある。工程(2)はこのために実施する工程である。
【0102】
追加するビニル系モノマー(M11)は、工程(1)で使用したビニル系モノマー(M11)と同一でも異なっていてもよい。また、工程(2)で用いるビニル系モノマー(M11)は、1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0103】
工程(2)におけるビニル系モノマー(M11)として好ましいものは、工程(1)において好ましいものとして挙げたものと同様のものが挙げられる。
また、工程(1)においては、ビニル系モノマー(M11)の内、ビニル系炭化水素(m2)はウレタンプレポリマー(P)の溶解性があまり良くないことから、好ましいモノマーに挙げられていないが、工程(2)における追加用のビニル系モノマー(M11)として、特に(m2)の内の炭素数8~20の芳香族ビニル系炭化水素(特にスチレン)を乾燥皮膜の機械的強度の観点から好ましく用いることができる。
【0104】
本発明における工程(3)は、工程(1)で得られたウレタンプレポリマー(P)の溶液又は工程(2)を実施した場合には工程(2)で得られたウレタンプレポリマー(P)の溶液を水性媒体に分散させて水性分散体(α)を得る工程である。
【0105】
工程(3)で用いる水性媒体としては、水及び水と有機溶剤との混合物が挙げられる。
有機溶剤としては、ケトン系溶剤(例えばアセトン及びメチルエチルケトン)、エステル系溶剤(例えば酢酸エチル)、エーテル系溶剤(例えばテトラヒドロフラン)、アミド系溶剤(例えばN,N-ジメチルホルムアミド及びN-メチルピロリドン)、アルコール系溶剤(例えばイソプロピルアルコール)及び芳香族炭化水素系溶剤(例えばトルエン)等が挙げられる。有機溶剤は1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0106】
反応液を水性媒体に分散させる際、分散安定性の観点から界面活性剤(C)を使用することが好ましい。また、分散安定性の観点からポリウレタン樹脂(U)の構成単量体としてイオン性基と活性水素原子を有する化合物(a3)を用いることが好ましい。
【0107】
界面活性剤(C)としては、ラジカル反応性基を有する反応性界面活性剤(C1)及び非反応性界面活性剤(C2)が挙げられ、1種を単独で使用してもよいし、反応性界面活性剤(C1)と非反応性界面活性剤(C2)の併用を含めて2種以上を併用してもよい。これらの内、乾燥皮膜の耐水性の観点から反応性界面活性剤(C1)が好ましい。
【0108】
反応性界面活性剤(C1)としては、ラジカル反応性を有するものであれば特に制限されるものではないが、具体的にはアデカリアソープ[登録商標、(株)ADEKA製]SE-10N、SR-10、SR-20、SR-30、ER-20、ER-30、アクアロン[登録商標、第一工業製薬(株)製]HS-10、KH-05、KH-10、KH-1025、エレミノール[登録商標、三洋化成工業(株)製]JS-20、ラテムル[登録商標、花王(株)製]PD-104、PD-420、PD-430、イオネット[登録商標、三洋化成工業(株)製]MO-200等が挙げられる。
【0109】
非反応性活性剤(C2)としては、ノニオン性界面活性剤(C21)、アニオン性界面活性剤(C22)、カチオン性界面活性剤(C23)、両性界面活性剤(C24)及びその他の乳化分散剤(C25)が挙げられる。
【0110】
ノニオン性界面活性剤(C21)としては、例えばAO付加型ノニオン性界面活性剤及び多価アルコール型ノニオン性界面活性剤が挙げられる。AO付加型としては、炭素数10~20の脂肪族アルコールのエチレンオキサイド(以下、EOと略記)付加物、フェノールのEO付加物、ノニルフェノールのEO付加物、炭素数8~22のアルキルアミンのEO付加物及びポリ(オキシプロピレン)グリコールのEO付加物等が挙げられ、多価アルコール型としては、多価(3~8価又はそれ以上)アルコール(炭素数2~30)の脂肪酸(炭素数8~24)エステル(例えばグリセリンモノステアレート、グリセリンモノオレエート、ソルビタンモノラウレート及びソルビタンモノオレエート等)及びアルキル(炭素数4~24)ポリ(重合度1~10)グリコシド等が挙げられる。
【0111】
アニオン性界面活性剤(C22)としては、例えば炭素数8~24の炭化水素基を有するエーテルカルボン酸又はその塩[ラウリルエーテル酢酸ナトリウム及び(ポリ)オキシエチレン(付加モル数1~100)ラウリルエーテル酢酸ナトリウム等];炭素数8~24の炭化水素基を有する硫酸エステル又はエーテル硫酸エステル及びそれらの塩[ラウリル硫酸ナトリウム、(ポリ)オキシエチレン(付加モル数1~100)ラウリル硫酸ナトリウム、(ポリ)オキシエチレン(付加モル数1~100)ラウリル硫酸トリエタノールアミン及び(ポリ)オキシエチレン(付加モル数1~100)ヤシ油脂肪酸モノエタノールアミド硫酸ナトリウム等];炭素数8~24の炭化水素基を有するスルホン酸塩[ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等];炭素数8~24の炭化水素基を1個又は2個有するスルホコハク酸塩;炭素数8~24の炭化水素基を有するリン酸エステル又はエーテルリン酸エステル及びそれらの塩[ラウリルリン酸ナトリウム及び(ポリ)オキシエチレン(付加モル数1~100)ラウリルエーテルリン酸ナトリウム等];炭素数8~24の炭化水素基を有する脂肪酸塩[ラウリン酸ナトリウム及びラウリン酸トリエタノールアミン等];炭素数8~24の炭化水素基を有するアシル化アミノ酸塩[ヤシ油脂肪酸メチルタウリンナトリウム、ヤシ油脂肪酸サルコシンナトリウム、ヤシ油脂肪酸サルコシントリエタノールアミン、N-ヤシ油脂肪酸アシル-L-グルタミン酸トリエタノールアミン、N-ヤシ油脂肪酸アシル-L-グルタミン酸ナトリウム及びラウロイルメチル-β-アラニンナトリウム等]が挙げられる。
【0112】
カチオン性界面活性剤(C23)としては、例えば、第4級アンモニウム塩型[塩化ステアリルトリメチルアンモニウム、塩化ベヘニルトリメチルアンモニウム、塩化ジステアリルジメチルアンモニウム及びエチル硫酸ラノリン脂肪酸アミノプロピルエチルジメチルアンモニウム等]並びにアミン塩型[ステアリン酸ジエチルアミノエチルアミド乳酸塩、ジラウリルアミン塩酸塩及びオレイルアミン乳酸塩等]が挙げられる。
【0113】
両性界面活性剤(C24)としては、例えば、ベタイン型両性界面活性剤[ヤシ油脂肪酸アミドプロピルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、2-アルキル-N-カルボキシメチル-N-ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、ラウリルヒドロキシスルホベタイン及びラウロイルアミドエチルヒドロキシエチルカルボキシメチルベタインヒドロキシプロピルリン酸ナトリウム等]並びにアミノ酸型両性界面活性剤[β-ラウリルアミノプロピオン酸ナトリウム等]が挙げられる。
【0114】
その他の乳化分散剤(C25)としては、例えばポリビニルアルコール、デンプン及びその誘導体、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース及びヒドロキシエチルセルロース等のセルロース誘導体並びにポリアクリル酸ソーダ等のカルボキシル基含有(共)重合体及び米国特許第5906704号明細書に記載のウレタン基又はエステル基を有する乳化分散剤[例えばポリカプロラクトンポリオールとポリエーテルジオールをポリイソシアネートで連結させたもの]等が挙げられる。
【0115】
界面活性剤(C)の使用量は、乾燥皮膜の耐水性及び分散安定性の観点から、ビニル系モノマー(M11)の重量又は後述の工程(5)で単官能のビニル系モノマー(M1)を用いる場合は(M11)及び(M1)の合計重量を基準として、好ましくは0.5~10重量%、好ましくは1~5重量%である。
【0116】
工程(1)における活性水素成分(A)にイオン性基と活性水素原子を有する化合物(a3)を用いた場合、アニオン性基と活性水素原子を含有する化合物(a31)及びカチオン性基と活性水素原子を含有する化合物(a32)の塩に用いられる中和剤は、ウレタンプレポリマー化反応前、ウレタンプレポリマー化反応中、ウレタンプレポリマー化反応後、水分散工程[工程(3)]前、水分散工程中又は水分散工程後のいずれの時期に添加してもよいが、水性分散体(α)の安定性の観点から水分散工程前又は水分散工程中に添加することが好ましい。
工程(3)の実施温度は好ましくは0~100℃であり、時間は好ましくは1~180分である。
【0117】
本発明における工程(4)は、工程(3)で得られた水性分散体(α)中のウレタンプレポリマー(P)を鎖伸長剤(E)で伸長させる工程である。
【0118】
鎖伸長剤(E)としては、第1の発明における鎖伸長剤(E)と同様であり、好ましいものも同様である。
【0119】
鎖伸長剤(E)は、1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
尚、鎖伸長剤(E)は、工程(1)における活性水素成分(A)として用いることもできる。
工程(4)の実施温度は好ましくは0~100℃であり、時間は好ましくは1~120分である。
【0120】
本発明における工程(5)は、工程(4)と下記工程(6)の間で実施される任意の工程であって、単官能のビニル系モノマー(M1)を追加する工程である。
【0121】
工程(1)で用いるビニル系モノマー(M11)は、ポリウレタン樹脂(U)にエチレン性不飽和結合基が導入されないように水酸基、アミノ基、イミノ基又はチオール基のいずれも有しないものを用いる必要があるが、工程(5)で用いるビニル系モノマー(M1)には、水酸基、アミノ基、イミノ基又はチオール基を有する単官能のビニル系モノマー(M12)を用いることができる。これらのビニル系モノマーを用いることにより、ビニル系樹脂(V)に水酸基、アミノ基、イミノ基又はチオール基が導入され、乾燥皮膜の基材への密着性が向上し、また、複合樹脂水性分散体に水酸基、アミノ基、イミノ基又はチオール基と反応性を有する後述の架橋剤を併用することにより、乾燥皮膜の機械的強度を向上させることができる。
【0122】
水酸基、アミノ基、イミノ基又はチオール基を有する単官能のビニル系モノマー(M12)としては、第1の発明における水酸基含有ビニル系モノマー(m8)、アミノ基又はイミノ基含有ビニル系モノマー(m9)及びチオール基含有ビニル系モノマー(m10)と同様であり、好ましいものも同様である。
【0123】
ビニル系モノマー(M1)には、水酸基、アミノ基、イミノ基又はチオール基のいずれも有しない単官能のビニル系モノマー(M11)を用いることもできる。この場合、工程(1)で使用したビニル系モノマー(M11)と同一でも異なっていてもよい。ビニル系モノマー(M1)は、1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
工程(5)の実施温度は好ましくは0~100℃であり、時間は好ましくは1~180分である。
【0124】
本発明における工程(6)は、水性分散体(α)中のビニル系モノマー(M11)又は工程(5)を実施した場合にはビニル系モノマー(M11)及び(M1)を重合させる工程である。
【0125】
工程(6)での重合に用いられる重合開始剤としては、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム及び過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩系開始剤;アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ系開始剤;過酸化ベンゾイル、クメンヒドロパーオキサイド、tert-ブチルパーオキシベンゾエート及びtert-ブチルヒドロパーオキサイド等の有機過酸化物類;過酸化水素;等一般的なラジカル重合開始剤を用いることができ、これらを単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。また、重合開始剤の使用量は、重合に使用するビニル系モノマー(M11)及び(M1)の合計重量を基準として、0.05~5重量%であることが好ましい。
これら開始剤は重合開始時に必要量を一括して使用してもよいし、分割して任意の時間ごとに添加してもよい。
【0126】
重合においては、必要に応じて上記重合開始剤と共に還元剤を使用してもよい。このような還元剤としては、アスコルビン酸、酒石酸、クエン酸、ブドウ糖及びホルムアルデヒドスルホキシラート金属塩等の還元性有機化合物並びにチオ硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、重亜硫酸ナトリウム及びメタ重亜硫酸ナトリウム等の還元性無機化合物等が挙げられる。
【0127】
また、重合においては、必要に応じて連鎖移動剤を使用してもよい。このような連鎖移動剤としては、n-ドデシルメルカプタン、tert-ドデシルメルカプタン、n-ブチルメルカプタン、2-エチルヘキシルチオグリコレート、2-メルカプトエタノール、β-メルカプトプロピオン酸及びα-メチルスチレンダイマー等が挙げられる。
更に必要に応じて、緩衝剤として、酢酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム等が、また、保護コロイドとしてポリビニルアルコール、水溶性セルロース誘導体及びポリメタクリル酸のアルカリ金属塩等が適量使用できる。
【0128】
重合反応は、好ましくは20℃~150℃、更に好ましくは40℃~100℃の範囲で行われる。温度が20℃未満の場合は、重合速度が遅くなる場合がある。また、温度が150℃を超えると重合反応を制御することが難しくなる場合がある。反応時間は好ましくは1分~50時間である。重合反応は不活性ガス存在下で行うことが好ましい。
【0129】
工程(1)~(6)に用いる製造装置は特に限定されず、混合・分散能力のある装置であれば使用可能であるが、温度調整及び混合・分散能力等の観点から、回転式混合・分散装置を用いることが好ましい。
回転式混合・分散装置としては、例えばマックスブレンドやヘリカル翼等の一般的な攪拌羽を有する混合装置、TKホモミキサー[プライミクス(株)製]、クレアミックス[エムテクニック(株)製]、フィルミックス[プライミクス(株)製]、ウルトラターラックス[IKA(株)製]、エバラマイルダー[荏原製作所(株)製]、キャビトロン(ユーロテック社製)及びバイオミキサー[日本精機(株)製]等が例示される。
【0130】
本発明においては、その任意の製造工程において有機溶剤を使用することができ、その後の工程で脱溶剤することもできる。
有機溶剤としては特に限定されず、炭素数3~10のケトン系溶剤(アセトン、メチルエチルケトン及びメチルイソブチルケトン等)、炭素数2~10のエステル系溶剤(酢酸エチル、酢酸ブチル及びγ-ブチロラクトン等)、炭素数4~10のエーテル系溶剤(ジオキサン、テトラヒドロフラン、エチルセロソルブ及びジエチレングリコールジメチルエーテル等)、炭素数3~10のアミド系溶剤(N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン及びN-メチルカプロラクタム等)、炭素数2~10のスルホキシド系溶剤(ジメチルスルホキシド等)、炭素数1~8のアルコール系溶剤(メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール及びオクタノール等)及び炭素数4~10の炭化水素系溶剤(シクロヘキサン、トルエン及びキシレン等)等が挙げられる。有機溶剤を使用した場合、その後の工程で脱溶剤を行ってもよい。
【0131】
上述の通り、本発明においては、活性水素成分(A)、有機イソシアネート成分(B)及び鎖伸長剤(E)の内の少なくとも1種に3官能以上の化合物を用いることにより、ポリウレタン樹脂(U)に架橋構造を導入する。
【0132】
活性水素成分(A)、有機イソシアネート成分(B)、鎖伸長剤(E)の内、上記目的に用いる3官能以上の化合物として好ましいのは、第1の発明における3官能以上の化合物として好ましいものと同様である。
【0133】
乾燥皮膜の機械的強度の観点から、鎖伸長剤(E)に3官能以上の化合物を用いることによりポリウレタン樹脂(U)に架橋構造を導入することが好ましい。
【0134】
本発明における複合樹脂水性分散体中のポリウレタン樹脂(U)とビニル系樹脂(V)の重量比[(U):(V)]は、分散安定性及び乾燥皮膜の柔軟性、機械的強度、可とう性、透明性及び光沢性の観点から、好ましくは20:80~80:20、更に好ましくは30:70~70:30、特に好ましくは40:60~60:40である。
【0135】
本発明における複合樹脂水性分散体は、架橋剤、粘度調整剤、消泡剤、防腐剤、耐候安定化剤及び凍結防止剤等を含有することができ、具体例は第1の発明におけるものと同様であり、好ましい含有量も同様である。
【0136】
本発明における複合樹脂水性分散体中の粒子の体積平均粒子径(Dv)は、複合樹脂水性分散体のハンドリング性及び分散安定性の観点から、好ましくは0.01~1μm、更に好ましくは0.02~0.7μm、特に好ましくは0.03~0.4μmである。(Dv)は、光散乱粒度分布測定装置[ELS-8000{大塚電子(株)製}]を用いて測定される。
【0137】
本発明における複合樹脂水性分散体の固形分濃度(揮発性成分以外の成分の含有量)は、水性分散体の取り扱い易さの観点から、好ましくは20~65重量%、更に好ましくは25~55重量%である。固形分濃度は、水性分散体約1gをペトリ皿上にうすく伸ばし、精秤した後、循環式定温乾燥機を用いて130℃で、45分間加熱した後の重量を精秤し、加熱前の重量に対する加熱後の残存重量の割合(百分率)を計算することにより得ることができる。
【0138】
本発明における複合樹脂水性分散体の25℃における粘度は、好ましくは10~100,000mPa・s、更に好ましくは10~5,000mPa・sである。粘度はBL型粘度計を用いて測定することができる。
本発明における複合樹脂水性分散体の25℃におけるpHは、好ましくは2~12、更に好ましくは4~10である。pHは、pH Meter M-12[堀場製作所(株)製]を用いて測定することができる。
【実施例
【0139】
以下本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。尚、以下において部は重量部を表す。
【0140】
<実施例1>(第2の発明の製造方法)
撹拌機及び加熱装置を備えた簡易加圧反応装置に表1に記載の種類と量の活性水素成分(A)、有機イソシアネート成分(B)、ラジカル捕捉剤及び工程(1)におけるビニル系モノマー(M11)を仕込んで80℃で10時間攪拌してウレタン化反応を行ってウレタンプレポリマー(P-1)を得た後、工程(2)におけるビニル系モノマー(M11)を仕込んで撹拌均一化することでウレタンプレポリマー(P-1)の溶液を得た。
表2に記載の処方に従って、得られたウレタンプレポリマー(P-1)の溶液500.0部に中和剤としてのトリエチルアミン15.7部及び反応性界面活性剤(C1)としてのエレミノールJS-20[三洋化成工業(株)製]26.0部(固形分:10.0部)を加えて均一溶液とした後、200rpmで撹拌しながらイオン交換水828.0部を加えて(P-1)の溶液を分散させた。得られた分散液に鎖伸長剤(E)としてのエチレンジアミン5.0重量%水溶液4.7部及びジエチレントリアミン5.0重量%水溶液40.7部を加えて25℃で鎖伸長反応を行った。窒素気流下で80℃まで昇温し、重合開始剤としての過硫酸ナトリウム10重量%水溶液8.0部を添加して、80℃で3時間重合させ複合樹脂水性分散体(Q-1)を得た。
【0141】
<実施例2~4>(第2の発明の製造方法)
表1に記載の各原料を用いて、実施例1と同様にしてウレタンプレポリマー(P-2)~(P-4)溶液を製造し、表2に記載の各原料を用いて、実施例1と同様にして複合樹脂水性分散体(Q-2)~(Q-4)を得た。実施例2は工程(2)を省略した。
【0142】
<実施例5>(第2の発明の製造方法)
表1に記載の各原料を用いて、実施例1と同様にしてウレタンプレポリマー(P-5)溶液を製造した。表2に記載の各原料を用いて、実施例1と同様にして(P-5)の溶液を分散させた後、鎖伸長反応を行った。次いで、工程(5)におけるビニル系モノマー(M12)としてヒドロキシエチルメタクリレート17.0部を添加して、窒素気流下で80℃まで昇温し、重合開始剤としての過硫酸カリウム10重量%水溶液11.0部を添加して、80℃で3時間重合させ複合樹脂水性分散体(Q-5)を得た。
【0143】
<実施例6>(第2の発明の製造方法)
撹拌機及び加熱装置を備えた簡易加圧反応装置に表1に記載の種類と量の活性水素成分(A)、有機イソシアネート成分(B)、ラジカル捕捉剤、工程(1)におけるビニル系モノマー(M11)及び有機溶剤を仕込んで80℃で10時間攪拌してウレタン化反応を行ってウレタンプレポリマー(P-6)を得た後、工程(2)におけるビニル系モノマー(M11)を仕込んで撹拌均一化することでウレタンプレポリマー(P-6)の溶液を得た。
表2に記載の処方に従って、得られたウレタンプレポリマー(P-6)の溶液500.0部に中和剤としてのトリエチルアミン8.9部及び反応性界面活性剤(C1)としてのエレミノールJS-20[三洋化成工業(株)製]15.6部(固形分:6.0部)を加えて均一溶液とした後、200rpmで撹拌しながらイオン交換水905.0部を加えて(P-6)の溶液を分散させた。得られた分散液に鎖伸長剤としてのジエチレントリアミン5.0重量%水溶液16.7部を加えて25℃で鎖伸長反応を行った。窒素気流下80℃まで昇温し、開始剤としての過硫酸カリウム10重量%水溶液5.0部を添加して、80℃で3時間重合させた。その後、減圧下に65℃で8時間かけて有機溶剤を留去して複合樹脂水性分散体(Q-6)を得た。
【0144】
<実施例7~9>(第2の発明の製造方法)
表1に記載の各原料を用いて、実施例1と同様にしてウレタンプレポリマー(P-7)~(P-9)溶液を製造し、表2に記載の各原料を用いて、実施例1と同様にして複合樹脂水性分散体(Q-7)~(Q-9)を得た。
【0145】
<実施例10>((II)の製造方法)
撹拌機及び加熱装置を備えた簡易加圧反応装置に表1に記載の種類と量の活性水素成分(A)、有機イソシアネート成分(B)、ラジカル捕捉剤及び有機溶剤を仕込んで80℃で10時間攪拌してウレタン化反応を行ってウレタンプレポリマー(P-10)の溶液を得た。
表2に記載の処方に従って、得られたウレタンプレポリマー(P-10)の溶液500.0部に中和剤としてのトリエチルアミン7.1部を加えて均一溶液とした後、200rpmで撹拌しながらイオン交換水640.0部を加えて(P-10)の溶液を分散させた。得られた分散液に鎖伸長剤としてのジエチレントリアミン5.0重量%水溶液95.5部を加えて25℃で鎖伸長反応を行った。その後、減圧下に65℃で8時間かけて有機溶剤を留去してウレタン樹脂水性分散体を得た。
別途、モノマー分散液用滴下ロート、開始剤溶液用滴下ロート、攪拌装置、還流冷却管、温度計及び窒素導入管を備えたセパラブルフラスコに、得られたウレタン樹脂水性分散体を全量仕込み、窒素気流下で攪拌し、70℃に昇温した。次にメチルメタクリレート122.5部、n-ブチルアクリレート27.3部、反応性界面活性剤(C1)としてのアクアロンKH-1025[第一工業製薬(株)製]18.0部(固形分:4.5部)及びイオン交換水184.5部からなるモノマー分散液を調製してモノマー分散液用滴下ロートに仕込み、開始剤としての過硫酸カリウム10重量%水溶液5.0部を開始剤溶液用滴下ロートに仕込み、反応系内の温度を70±2℃に維持しながら、モノマー分散液及び開始剤溶液を3時間かけて等速度で滴下した。その後も同温度で90分間撹拌を継続した後、室温まで冷却し、複合樹脂水性分散体(Q-10)を得た。
【0146】
<実施例11及び12>((I)の製造方法)
表1に記載の各原料を用いて、実施例1と同様にしてウレタンプレポリマー(P-11)及び(P-12)溶液を製造し、表2に記載の各原料を用いて、実施例1と同様にして複合樹脂水性分散体(Q-11)及び(Q-12)を得た。
【0147】
<比較例1>
撹拌機及び加熱装置を備えた簡易加圧反応装置に表1に記載の種類と量の活性水素成分(A)、有機イソシアネート成分(B)、ラジカル捕捉剤及び有機溶剤を仕込んで80℃で10時間攪拌してウレタン化反応を行い、ウレタンプレポリマー(P’-1)の溶液を得た。
表2に記載の処方に従って、得られたウレタンプレポリマー(P’-1)の溶液500.0部に中和剤としてのトリエチルアミン8.9部を加えて均一溶液とした後、200rpmで撹拌しながらイオン交換水563.0部を加えて(P’-1)の溶液を分散させた。得られた分散液に鎖伸長剤としてのジエチレントリアミン5.0重量%水溶液35.7部を加えて25℃で鎖伸長反応を行った後、減圧下に65℃で8時間かけて有機溶剤を留去してポリウレタン樹脂水性分散体(1)を得た。
別途、モノマー分散液用滴下ロート、開始剤溶液用滴下ロート、攪拌装置、還流冷却管、温度計及び窒素導入管を備えたセパラブルフラスコに、イオン交換水120.8部及び反応性界面活性剤(C1)としてのエレミノールJS-20[三洋化成工業(株)製]1.3部(固形分:0.5部)を仕込み、窒素気流下で攪拌し、70℃に昇温した。
次に、イオン交換水226.4部、反応性界面活性剤(C1)としてのエレミノールJS-20[三洋化成工業(株)製]24.7部(固形分:9.5部)、メチルメタクリレート301.5部、n-ブチルアクリレート143.7部、スチレン50.0部及びメタクリル酸7.7部からなるモノマー分散液を調製してモノマー分散液用滴下ロートに仕込み、この内の30.2部をセパラブルフラスコに加えた。
次に、開始剤としての過硫酸ナトリウム10重量%水溶液8.0部を添加して重合を開始し、反応系内の温度を70±2℃に維持しながら、残りのモノマー分散液及び開始剤溶液を3時間かけて等速度で滴下した。その後も同温度で90分間撹拌を継続した後、室温まで冷却し、ビニル系樹脂水性分散体(1)を得た。
得られたポリウレタン樹脂水性分散体(1)100部とビニル系樹脂水性分散体(1)100部を均一に混合することで複合樹脂水性分散体(Q’-1)を得た。
尚、比較例1の複合樹脂水性分散体(Q’-1)は、ポリウレタン樹脂水性分散体(1)とビニル系樹脂水性分散体(1)の混合物であり、本発明の製造方法で製造したものではないが、表1及び表2に原材料の種類と使用量を記載した。
【0148】
<比較例2~4>
表1に記載の各原料を用いて、実施例1と同様にしてウレタンプレポリマー(P’-2)~(P’-4)の溶液を製造し、表2に記載の各原料を用いて、実施例1と同様にして複合樹脂水性分散体(Q’-2)~(Q’-4)を得た。
【0149】
【表1】
【0150】
尚、表1において商品名で表した原料の組成は以下の通りである。
・ニッポラン980R:Mn=2,000のポリヘキサメチレンカーボネートジオール[日本ポリウレタン工業(株)製]
・クラレポリオールC-3090[Mn=3,000のポリ(3-メチル-5-ペンタンジオール/ヘキサメチレン)カーボネートジオール][(株)クラレ製]
・デュラノールG4672:Mn=2,000のポリ(テトラメチレン/ヘキサメチレン)カーボネートジオール[旭化成ケミカルズ(株)製]
・PTMG2000:Mn=2,000のポリ(オキシテトラメチレン)グリコール[三菱化学(株)製]
・PTMG3000:Mn=3,000のポリ(オキシテトラメチレン)グリコール[三菱化学(株)製]
・クラレポリオールP-2010:Mn=2,000のポリ-3-メチル-1,5-ペンタンアジペートジオール[(株)クラレ製]
・デュラネートTKA-100:ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート体[旭化成ケミカルズ(株)製]
・IRGANOX 1010:ペンタエリスリチル・テトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート][BASFジャパン(株)製]
・IRGANOX 245:3,6-ジオキサオクタメチレン=ビス[3-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオナート][BASFジャパン(株)製]
【0151】
【表2】
【0152】
実施例1~12の複合樹脂水性分散体(Q-1)~(Q-12)及び比較例1~4の複合樹脂水性分散体(Q’-1)~(Q’-4)を用いて下記方法により測定した乾燥皮膜の物性(DMFに対するゲル分率、25℃における貯蔵弾性率E’、100%応力、破断強度及び破断伸度、エタノール膨潤率、ケーニッヒ硬度、180℃折り曲げ試験)、及び塗装物の評価結果(ヘイズ及び光沢度)を表3に示す。
【0153】
<2官能以上のビニル系モノマー(M2)及びポリウレタン樹脂(U)と共有結合している単官能のビニル系モノマー(M12’)の重量割合>
○ビニル系樹脂(V)の水酸基の測定
JIS K1557-1に準拠して水酸基価を求めた。
○熱分解ガスクロマトグラフィー質量分析
下記「乾燥皮膜の製造」で得た乾燥皮膜を用いて、下記熱分解ガスクロマトグラフィー質量分析条件で、ビニル系樹脂(V)を構成する全てのビニル系モノマー(M)のそれぞれのモノマーの重量割合を求めた。
[熱分解ガスクロマトグラフィー質量分析条件]
機器:GCMS QP-2010PLUS[島津製作所(株)製]
カラム:Ultra Alloy-5[フロンティア・ラボ(株)製]
温度:480℃
得られた水酸基価の結果と、熱分解ガスクロマトグラフィー質量分析の結果から、2官能以上のビニル系モノマー(M2)及び(U)と共有結合している単官能のビニル系モノマー(M12’)の重量割合を算出した。
【0154】
<乾燥皮膜の物性>
[乾燥皮膜の製造]
ポリプロピレン製モールドに予め固形分濃度20重量%に調製した複合樹脂水性分散体を乾燥後の膜厚が約200μmとなるように静かに流し込み、全体が均一になる様に広げ、25℃で24時間静置後、循風乾燥機を用いて105℃で3時間乾燥後、更に105℃、圧力1.3kPaで1時間減圧乾燥して乾燥皮膜を得た。
【0155】
[ゲル分率の測定]
上記で得た乾燥皮膜を0.035~0.045g程度になるように切り出したサンプルを、20mlのDMFに入れ、23℃で24時間浸漬した。浸漬後、四フッ化エチレン樹脂(PTFE)フィルター(商品名:TORAST Disc GLCTD-PTFE2522、(株)島津ジーエルシー製)を用いてサンプルを含むDMFを濾過した。更に上記フィルター及び残渣物を105℃で3時間乾燥した後冷却して、「DMF浸漬後のフィルターと残渣物の総重量」を測定した。「DMF浸漬前の皮膜の重量」、「フィルターの重量」、「DMF浸漬後のフィルターと残渣物の総重量」を下記式(1)に代入して、ゲル分率を求めた。
ゲル分率(%)=(「DMF浸漬後のフィルターと残渣物の総重量」-「フィルターの重量」)/「DMF浸漬前の皮膜の重量」)×100 ・・・(1)
【0156】
[貯蔵弾性率E’]
上記で得た乾燥皮膜について、貯蔵弾性率測定装置[Rheogel E4000{UBM(株)製}]を使用して周波数11Hzで測定した。
【0157】
[100%応力、破断強度及び破断伸度]
上記で得た乾燥皮膜をJIS K6251に準拠して、試験片の形状をダンベル状3号形とし、オートグラフ[島津製作所(株)製「AGS-500D」]を用いて、引張速度500mm/分で100%応力、破断強度及び破断伸度を測定した。なお、比較例4で得た複合樹脂水性分散体は、破断伸度が100%未満であったので、100%応力は測定できなかった。
【0158】
[エタノール膨潤率]
上記で得た乾燥皮膜を1cm×4cmに切り出しエタノールに浸漬し、25℃で24時間静置した。その後浸漬した皮膜を取り出し、ろ紙で皮膜表面に付着したエタノールを拭き取り「エタノール浸漬後の皮膜の重量」を測定した。エタノール浸漬後の皮膜を130℃、45分乾燥させ、「乾燥後の皮膜の重量」を測定した。下記式(4)にてエタノール膨潤率を求めた。
エタノール膨潤率(%)=(「エタノール浸漬後の皮膜の重量」-「乾燥後の皮膜の重量」)/「乾燥後の皮膜の重量」×100 ・・・(4)
【0159】
[ケーニッヒ硬度]
上記で得た乾燥皮膜をASTM D 4366に準拠して、ペンドラム硬度計[BYK gardner(株)製{Pendulum Hardness Tester}]でケーニッヒ式振り子を用いて測定した。測定結果は数値が大きい程、硬度が高いことを示す。
【0160】
[180度折り曲げ試験]
上記で得た乾燥皮膜を180度折り曲げ試験を10回繰り返し、亀裂の有無を目視にて確認し、亀裂が無いものを○、亀裂があるものを×とした。
【0161】
<塗装物の評価>
[ヘイズ]
複合樹脂水性分散体をポリエチレンテレフタレートフィルム(ルミラーL-38T60[東レ(株)製])上に乾燥後の膜厚が25μmとなるようにバーコーターで塗布し、105℃で60分加熱して塗装物を作製した。JIS-K7136に準拠し、全光線透過率測定装置[商品名「haze-garddual」BYK gardner(株)製]を用いて塗装物のヘイズを測定した。
【0162】
[光沢度]
複合樹脂水性分散体をポリエチレンテレフタレートフィルム(ルミラーL-38T60[東レ(株)製])上に乾燥後の膜厚が25μmとなるようにバーコーターで塗布し、105℃で60分加熱して塗装物を作製した。塗装面の60°光沢度を光沢度計(BYK社製)により測定した。
【0163】
【表3】
【0164】
表3の結果から、ゲル分率が35~100%、破断伸度が200~1,000%及び25℃における貯蔵弾性率E’が100~3,000MPaであることにより、エタノール膨潤率が113%以下と低く塗料やインクにした際の貯蔵安定性に優れていることが分かる。また、折り曲げ試験の結果も優れており、柔軟性及び可とう性に優れていることがわかる。また、破断強度が31MPa以上と高く、ケーニッヒ硬度が15回以上と高く、硬度及び機械的強度に優れていることがわかる。また、ヘイズが1.1%以下と小さく、光沢度も78以上と大きく、透明性及び光沢性に優れていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0165】
本発明の複合樹脂水性分散体及び本発明の製造方法で得られる複合樹脂水性分散体は品質が一定しており、また、貯蔵安定性、硬度、可とう性、機械的強度、耐水性、耐溶剤性、透明度及び光沢性等の性能に優れるため、塗料、コーティング剤(防錆コーティング剤、防水コーティング剤、撥水コーティング剤及び防汚コーティング剤等)、接着剤、繊維加工処理剤(顔料捺染用バインダー、不織布用バインダー、補強繊維用集束剤、抗菌剤用バインダー及び人工皮革・合成皮革用原料等)、紙処理剤やインキ等に幅広く使用することができ、特に水性塗料、水性防錆コーティング剤、水性繊維加工処理剤及び水性接着剤用の複合樹脂水性分散体として好適に使用することができる。