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特許7266047特に直接又は間接管状衝撃押出プロセスで使用するための、特にマグネシウム合金管を製造するための、潤滑剤
<図1>
  • 特許-特に直接又は間接管状衝撃押出プロセスで使用するための、特にマグネシウム合金管を製造するための、潤滑剤 図1
  • 特許-特に直接又は間接管状衝撃押出プロセスで使用するための、特にマグネシウム合金管を製造するための、潤滑剤 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-19
(45)【発行日】2023-04-27
(54)【発明の名称】特に直接又は間接管状衝撃押出プロセスで使用するための、特にマグネシウム合金管を製造するための、潤滑剤
(51)【国際特許分類】
   C10M 169/04 20060101AFI20230420BHJP
   C10M 101/02 20060101ALN20230420BHJP
   C10M 125/24 20060101ALN20230420BHJP
   C10M 125/22 20060101ALN20230420BHJP
   C10M 125/02 20060101ALN20230420BHJP
   C10M 129/68 20060101ALN20230420BHJP
   C10M 143/06 20060101ALN20230420BHJP
   C10N 40/24 20060101ALN20230420BHJP
   C10N 30/06 20060101ALN20230420BHJP
【FI】
C10M169/04
C10M101/02
C10M125/24
C10M125/22
C10M125/02
C10M129/68
C10M143/06
C10N40:24 Z
C10N30:06
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2020564386
(86)(22)【出願日】2019-04-17
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-09-13
(86)【国際出願番号】 EP2019059922
(87)【国際公開番号】W WO2019219318
(87)【国際公開日】2019-11-21
【審査請求日】2022-03-18
(31)【優先権主張番号】18172886.6
(32)【優先日】2018-05-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】512238276
【氏名又は名称】バイオトロニック アクチェンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】バイエル、ウルリッヒ
【審査官】中野 孝一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/001653(WO,A1)
【文献】特表2011-522933(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M101/00-177/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下を含む潤滑剤(4):
- 少なくとも45重量%のパラフィン油、
- 8重量%未満のピロリン酸塩又は三リン酸塩
- 6重量%超の第6族二硫化物又は二セレン化物、
- 最大27.5wt%の黒鉛。
【請求項2】
前記ピロリン酸塩又は三リン酸塩がピロリン酸又は三リン酸の金属塩である、請求項1に記載の潤滑剤。
【請求項3】
前記パラフィン油が45重量%~55重量%の潤滑剤の質量分率に相当する、請求項1又は2に記載の潤滑剤。
【請求項4】
前記ピロリン酸塩又は三リン酸塩が4重量%~6重量%の潤滑剤の質量分率に相当する、請求項1~3の一項に記載の潤滑剤。
【請求項5】
前記第6族二硫化物又は二セレン化物が8重量%~12重量%の潤滑剤の質量分率に相当する、請求項1~の一項に記載の潤滑剤。
【請求項6】
前記黒鉛が22.5重量%~27.5重量%の潤滑剤の質量分率に相当する、請求項1~の一項に記載の潤滑剤。
【請求項7】
前記ピロリン酸塩又は三リン酸塩、前記第6族二硫化物又は二セレン化物、及び前記黒鉛が、合わせて、35重量%~45重量%の潤滑剤の質量分率に相当する、請求項1~の一項に記載の潤滑剤。
【請求項8】
前記ピロリン酸塩又は三リン酸塩が1μm~5μmの範囲の直径中央値(D50)を有する固体粒子の形態で潤滑剤に含まれ;及び/又は前記第6族二硫化物又は二セレン化物が1μm~2μmの範囲の直径中央値(D50)を有する固体粒子の形態で潤滑剤に含まれ;及び/又は前記黒鉛が4μm~5μmの範囲の直径中央値(50)を有する固体粒子の形態で潤滑剤に含まれる、請求項1~の一項に記載の潤滑剤。
【請求項9】
前記潤滑剤がエステル油をさらに含み、該エステル油が6重量%~9重量%の範囲の潤滑剤の質量分率に相当する、請求項1~の一項に記載の潤滑剤。
【請求項10】
前記潤滑剤がポリブチレンをさらに含み、該ポリブチレンが1重量%~4重量%の範囲の潤滑剤の質量分率に相当する、請求項1~の一項に記載の潤滑剤。
【請求項11】
押出プロセスにおける請求項1~10の一項に記載の潤滑剤(4)の使用。
【請求項12】
前記押出プロセスが、マグネシウム合金管(1)の押し出しに関連する、請求項11に記載の使用。
【請求項13】
前記マグネシウム合金管(1)が、ステントを形成するためのブランクを形成する、請求項12に記載の使用。
【請求項14】
前記押出プロセスが、直接又は間接管状衝撃押出プロセスである、請求項11~13の一項に記載の使用。
【請求項15】
マグネシウム合金管(1)の製造方法であって、ダイ(2)及びパンチ(3)を使用してマグネシウム合金を押し出してマグネシウム合金管(1)を形成する、並びに、前記ダイ(2)の表面(20a)及び/又は前記パンチ(3)の表面(3a)を請求項1~10の一項に記載の潤滑剤(4)で潤滑する、上記方法。
【請求項16】
押し出されたマグネシウム合金管(1)をさらに処理してステントを形成する、請求項15に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に直接又は間接管状衝撃押出プロセスで使用するための、特にマグネシウム合金管を製造するための、潤滑剤に関する。
【背景技術】
【0002】
直接管状衝撃押出プロセスでは、金属がパンチによってダイに押し込まれ、中空管を形成する。
【0003】
工具、すなわちダイとパンチを保護するために、ダイの内側とパンチの外側に潤滑剤が塗布される。
【0004】
しかし、特に脆性鋳造合金、特にマグネシウム合金などの押し出しが困難な合金で形成され、比較的小さな潤滑ギャップを有して最終的な管の幾何学的形状と公差とを有する部品を押し出す場合は、押出工具を保護し、押し出される合金の純度を維持するために適切な潤滑剤を使用しなければならない。これは、インプラントが押出合金から製造され、特定の程度の生体適合性を必要とし、且つ、押出プロセス又は他のプロセスによって導入される毒性又は刺激性の不純物を許容しない場合に、特に重要である。
【0005】
Materials Science and Engineering:C,vol.33,8,4746-4750頁には、Mg管の押出プロセスが開示されている。Materials Transactions,vol.45,9,2004年,2838-2844頁には、マグネシウム合金の温間鍛造(warm forging)の方法が開示されている。米国特許第2486130号には、マグネシウム及びマグネシウム合金を成形するための潤滑剤が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明によって解決されるべき問題は、脆性鋳造合金、特にマグネシウム合金を押し出すための押出プロセスでの使用(特にステントなどの移植可能な医療用インプラントのブランクとして使用できるマグネシウム合金管を製造するための押出プロセスでの使用)に特に適合した潤滑剤を提供することである。このようなステントは、血管形成術として示される手順で使用して、処置中に広げられた患者の血管が開いたままであることを確実にすることができる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この問題は、本明細書で示唆される特徴を有する潤滑剤によって解決される。本発明のさらなる態様は、潤滑剤の使用及び潤滑剤を含む方法に関する。
【0008】
本明細書で示唆されるように本発明によれば、以下を含む潤滑剤が開示される:
- パラフィン油、
- ピロリン酸塩又は三リン酸塩、
- 第6族二硫化物又は二セレン化物、
- 黒鉛。
【0009】
本明細書で示唆されるピロリン酸塩又は三リン酸塩は、好ましくはピロリン酸又は三リン酸の金属塩であり、好ましくは一価、二価及び三価の金属である。
【0010】
本明細書で示唆される潤滑剤は、好ましくは少なくとも以下を含む:
- 少なくとも45重量%のパラフィン油、
- 8重量%未満のピロリン酸塩又は三リン酸塩、特にピロリン酸又は三リン酸の金属塩、
- 6重量%超の第6族二硫化物又は二セレン化物、
- 最大27.5wt%の黒鉛。
【0011】
本発明による潤滑剤の実施形態によれば、前記パラフィン油は、45重量%~55重量%、さらに47重量%~52重量%の潤滑剤の質量分率に相当する。一実施形態では、パラフィン油は、特に50重量%の潤滑剤の質量分率に相当する。パラフィン油は、好ましくは、高分子脂肪族の飽和炭素水和物を含むか、又はそれからなる。パラフィン油の典型的な例は、製造元Parafluid Mineraloelgesellschaft mbHのWeissoel Type PL420などとして得ることができる。
【0012】
さらに、一実施形態では、パラフィン油は、90cSt[センチストークス]~100cSt、特に40℃の温度で100cStの粘度を有してもよい。
【0013】
特に、パラフィン油は、工具内で摩擦を引き起こす物同士の摩擦を低減し、パラフィン油の粘稠性が特に本質的に潤滑剤の最終粘度を決定する。
【0014】
さらに、一実施形態によれば、前記ピロリン酸塩又は三リン酸塩は、4.0重量%~6.0重量%、好ましくは4.5重量%~5.5重量%の潤滑剤の質量分率に相当する。一実施形態では、ピロリン酸塩又は三リン酸塩は、特に5重量%の潤滑剤の質量分率に相当する。ピロリン酸塩又は三リン酸塩の好ましい実施形態は、ピロリン酸亜鉛、ピロリン酸ストロンチウム、及び三リン酸カルシウムである。特に、ピロリン酸亜鉛は高温の固体潤滑剤として機能し、さらに、耐圧性の高い耐荷重性離型剤として機能し、工具と半製品(工具のマグネシウム合金ブランクなど)との相互作用を最小限に抑え、摩擦も最小限に抑える。
【0015】
さらに、一実施形態によれば、前記第6族二硫化物又は二セレン化物は、8重量%~12重量%、好ましくは9重量%~11重量%潤滑剤の質量分率に相当する。一実施形態では、第6族の二硫化物又は二セレン化物は、特に10重量%の潤滑剤の質量分率に相当する。好ましい実施形態では、第6族二硫化物又は二セレン化物は、二硫化モリブデン、二セレン化モリブデン、二硫化タングステン及び二セレン化タングステンを含む。第6族元素は、クロム、モリブデン、タングステンから選択される元素の周期表の第6族の化学元素でなければならない。放射性元素のシーボーギウムは、組み込まれていないことを前提としている。特に、二硫化モリブデンは、約320℃までの低温で固体潤滑効果を提供する。上記の温度を超えると、MoO(特にMoO)及びSOは、分離効果と潤滑効果とを有するガスポケットの形態で生成される。特に、一実施形態では、二硫化モリブデン粒子の最大粒子サイズ(すなわち、直径)は7μmであり、これは、15μm~80μmの範囲の非常に小さな潤滑ギャップの場合にも高い潤滑効果をもたらすことを意味する。
【0016】
さらに、一実施形態によれば、前記グラファイトは、22.5重量%~27.5重量%、好ましくは24重量%~26重量%の潤滑剤の質量分率に相当する。一実施形態では、グラファイトは、特に25重量%の潤滑剤の質量分率に相当する。特に、グラファイトは、中温用の分離手段及び摩擦低減固体潤滑剤として機能する。特に、一実施形態では、グラファイト粒子の粒子サイズは12μmよりも小さく、これは、潤滑ギャップが非常に小さい場合にも潤滑効果をもたらす。特に好ましい実施形態では、グラファイト粒子の粒子サイズは9μmよりも小さい。より好ましい実施形態では、グラファイト粒子の粒子サイズは、粒子の90%が9μmより小さく、粒子の50%が5μmより小さく、粒子の10%が2μmより小さいというサイズ分布を示す。このような分布により、管押出プロセス中の摩擦を最小限に抑えることができ、粘度は依然として十分に高く、押出工具に対して十分な濡れ性が得られることが見出された。
【0017】
さらに、一実施形態によれば、前記ピロリン酸塩又は三リン酸塩、前記第6族二硫化物又は二セレン化物、及び前記黒鉛は、合わせて、35重量%~45重量%、特に39.2重量%~41重量%、特に40重量%の潤滑剤の質量分率に相当する。
【0018】
さらに、一実施形態によれば、本明細書に記載されている前記ピロリン酸塩又は三リン酸塩、好ましくはピロリン酸亜鉛は、1μm~5μmの範囲の直径中央値(D50)を有する固体粒子の形態で潤滑剤に含まれる。さらに、一実施形態によれば、本明細書に記載されている前記第6族二硫化物又は二セレン化物、好ましくは二硫化モリブデンは、1μm~2μmの範囲の直径中央値(D50)を有する固体粒子の形態で潤滑剤に含まれる。さらに、一実施形態では、前記黒鉛は、4μm~5μmの範囲の直径中央値(50)を有する固体粒子の形態で潤滑剤に含まれる。
【0019】
前記の直径の中央値(D50)は、母集団の半分がこの点より上に存在し(すなわち、直径が大きい)、母集団の半分がこの点より下に存在する(すなわち、直径が小さい)値として定義される。粒子サイズ分布の場合、中央値はD50と呼ばれる。
【0020】
さらに、一実施形態によれば、潤滑剤は、エステル油をさらに含み、好ましくは、エステル油は、6重量%~9重量%、好ましくは7重量%~8重量%の範囲の潤滑剤の質量分率に相当する。特に、一実施形態では、エステル油は7.5重量%の潤滑剤の質量分率に相当する。特に、エステル油は工具表面に対して腐食抑制剤として作用する。エステル油は、モノ、ジ、トリ、又は複数のエステルであり、後者の3つは、エステルカルボニル基間の短い、好ましくは1~6個の炭素原子の長さの炭化水素ブリッジを介して、エステル酸素原子へのより長い(4個を超える炭素原子)分岐又は非分岐、置換又は非置換、飽和又は不飽和の炭化水素鎖結合で連結されている。好ましくは、炭化水素鎖は、非分岐で、非置換であり、飽和している。さらに、一実施形態では、エステル油は、40℃で、30cSt~36cStの範囲の粘度、特に33cStの粘度を有する。
【0021】
さらに、一実施形態によれば、潤滑剤はポリブチレンをさらに含み、好ましくは、ポリブチレンは1重量%~4重量%、好ましくは2重量%~3重量%の範囲の潤滑剤の質量分率に相当する。一実施形態では、ポリブチレンは、特に2.5重量%の潤滑剤の質量分率に相当する。
【0022】
特に、一実施形態によれば、ポリブチレンは、100℃で、270cSt~330cStの範囲の粘度、特に300cStの粘度を有する。
【0023】
また、式H-(C-Hのポリブチレンは、好ましくは4~20の範囲のnを有する。
【0024】
さらに、ポリブチレンは、潤滑剤の動的粘度に特に寄与し、これは、6000Pas~25000Pasの範囲であってもよく、工具及び押し出されるマグネシウム合金に対して良好な濡れ性をもたらす。さらに、ポリブチレンは、工具及び押し出される合金の剪断強度及びグライディング効果を改善する。
【0025】
特に、本発明は、ステント製造に使用されるマグネシウム合金などの合金が、通常250℃を超える成形温度を必要とし、特定の合金では430℃に達する可能性があるという事実に基づいている。これらの場合、適切な潤滑剤を使用しない押出プロセスでは、荷重限界を超えることにより、押出工具が破壊されることがよくある。
【0026】
本発明の好ましい実施形態では、潤滑剤は、
- 45重量%~55重量%のパラフィン油、
- 6.0重量%~9.0重量%のエステル油、
- 4.0重量%~6.0重量%の本明細書に記載されているピロリン酸塩又は三リン酸塩、
- 8重量%~12重量%の本明細書に記載されている第6族二硫化物又は二セレン化物、
- 22.5重量%~27.5重量%の黒鉛、
- 1重量%~4重量%のポリブチレン、
から構成される(但し、ピロリン酸亜鉛、二硫化モリブデン及び黒鉛の量は、45%を超えず、好ましくは35重量%~45重量%の範囲であるという条件であり、さらにすべての成分が合計で100重量%になるという条件である)。
【0027】
本発明のさらに好ましい実施形態では、潤滑剤は、
- 47重量%~52重量%のパラフィン油、
- 7.0重量%~8.0重量%のエステル油、
- 4.5重量%~5.5重量%の本明細書に記載されているピロリン酸塩又は三リン酸塩、
- 9重量%~11重量%の本明細書に記載されている第6族二硫化物又は二セレン化物、
- 24重量%~26重量%の黒鉛、
- 2重量%~3重量%のポリブチレン、
から構成される(但し、ピロリン酸亜鉛、二硫化モリブデン及び黒鉛の量は、45%を超えず、好ましくは35重量%~45重量%の範囲であるという条件であり、さらにすべての成分が合計で100重量%になるという条件である)。
【0028】
本発明の好ましい実施形態では、潤滑剤は、
- 45重量%~55重量%のパラフィン油、
- 6.0重量%~9.0重量%のエステル油、
- 4.0重量%~6.0重量%のピロリン酸亜鉛、
- 8重量%~12重量%の二硫化モリブデン、
- 22.5重量%~27.5重量%の黒鉛、
- 1重量%~4重量%のポリブチレン、
から構成される(但し、ピロリン酸亜鉛、二硫化モリブデン及び黒鉛の量は、45%を超えず、好ましくは35重量%~45重量%の範囲であるという条件であり、さらにすべての成分が合計で100重量%になるという条件である)。
【0029】
本発明のさらに好ましい実施形態では、潤滑剤は、
- 47重量%~52重量%のパラフィン油、
- 7.0重量%~8.0重量%のエステル油、
- 4.5重量%~5.5重量%のピロリン酸亜鉛、
- 9重量%~11重量%のモリブデン、
- 24重量%~26重量%の黒鉛、
- 2重量%~3重量%のポリブチレン、
から構成される(但し、ピロリン酸亜鉛、二硫化モリブデン及び黒鉛の量は、45%を超えず、好ましくは35重量%~45重量%の範囲であるという条件であり、さらにすべての成分が合計で100重量%になるという条件である)。
【0030】
本発明による潤滑剤は、広範囲の温度にわたって潤滑を提供するように特に調整された液体及び固体成分を含むので、そのような用途によく適している。さらに、潤滑剤は特に金属添加剤(例えば、熱を放散するため)を含まないので、押し出される合金の純度を維持することができる。
【0031】
さらに、本発明による潤滑剤は、特にマグネシウム合金が押し出される場合に、直接又は間接管状衝撃押出プロセスに関して、いくつかの重要な利点を示す。その潤滑剤は、押し出されるマグネシウム合金ブランクの表面に関して、優れた濡れ性を備えている。さらに、潤滑剤の粘稠性により、好ましくは工具鋼で作られている押出工具のダイ及びパンチへの容易な塗布が可能になる。さらに、特に、本発明による潤滑剤は、マグネシウム合金管の表面との化学的相互作用が最小である。さらに、潤滑剤は、工具の深刻なコーキングを引き起こさないため、押し出し後の押出工具(ダイとパンチ)の機械的洗浄が容易になる。
【0032】
さらに、潤滑剤は、特に、押し出し中に形成される管の管壁内に拡散する元素/物質を含有せず、これは、最終的なマグネシウム合金管の生体適合性を維持するのに役立つ。
【0033】
さらに、特に、潤滑剤は、特に液体成分と固体成分の特定の比率により、ガスポケット潤滑効果を提供するために、押し出し中にガスを発生するように構成される。さらに、特に、固体潤滑剤成分の粒子サイズが小さいため、潤滑ギャップ(ブランクと工具表面の間の距離)が小さい場合でも潤滑効果がある。
【0034】
最後に、特に、本発明による潤滑剤には、硬質セラミック粒子(例えば、窒化ホウ素又はコランダム)などの研磨成分が好ましくは存在しないため、工具摩耗の増加を引き起こさない。
【0035】
本発明のさらなる態様によれば、特にマグネシウム合金管を押し出すための、押出プロセス(特に直接又は間接管状衝撃押出プロセス)における本発明による潤滑剤の使用が開示される。
【0036】
使用の一実施形態によれば、マグネシウム合金管は、ステント、特に生分解性ステント及び/又は薬剤溶出性ステントを形成するためのブランクを形成する。
【0037】
使用のさらなる一実施形態によれば、押出プロセスは、例えばダイ及びパンチを使用する直接管状衝撃押出プロセスである。
【0038】
本発明のさらに別の態様によれば、ダイ及びパンチを含む工具を用いてマグネシウム合金管を製造する方法が開示され、ここで、マグネシウム合金は、工具を用いてマグネシウム合金管を形成するために押し出され、ダイ及び/又はパンチは、本発明による潤滑剤で潤滑される。
【0039】
本方法の一実施形態によれば、マグネシウム合金は、直接管状衝撃押出によって押し出される。ここでは、ダイの裏側からダイの表側に延びる貫通穴を備えるダイが提供され、ダイの裏側から延びる貫通穴の第1のセクションは、一定の内径を有し、貫通穴の後続の第2のセクションは、ダイの前面の開口部に向かって先細りになり(taper)、開口部を通して合金が押し出される(すなわち、ダイから押し出される)。
【0040】
さらに、前記開口部から合金を押し出すために、円筒形の第2のセクションに接続された円筒形の第1のセクションを備えたパンチが提供される。ここで、パンチの第1のセクションの外径は、パンチの第2のセクションの外径よりも小さく、ダイの前記開口部の内径よりも小さく、貫通穴の前記第1のセクションの前記内径よりも小さく、特に、パンチの第2のセクションの外径は、貫通穴の第1のセクションの前記内径に対応し、その結果、パンチの第2のセクションは、貫通穴の第1のセクション内を滑ることができる。
【0041】
さらに、本方法の一実施形態によれば、円筒形のマグネシウム合金ブランクをダイの裏側から貫通穴の中に挿入し、且つ、金属が、パンチの第2のセクションによって、パンチの第1のセクションとダイの前面の前記開口部との間に形成された円周方向のギャップに押し込まれるようにして、パンチを、第1のセクションを前方にして、ダイの裏側から貫通穴の中に移動させる。
【0042】
このように、前記ギャップの幅は、押し出された管の壁の幅を決定し、パンチの第1のセクションの外径は、押し出された管の内径を決定する。
【0043】
さらに、本方法の一実施形態によれば、押し出されたマグネシウム合金管をさらに処理してステントを形成する。
【0044】
管/ステントのさらなる処理は、以下のうちの1つを含んでもよい:管を切断して複数の接続されたストラットを有するステントを形成すること、管又はストラットを化学物質でコーティングすること(特に当該化学物質は、薬物を含むか、又は薬物である)。
本発明の一態様を以下に示すが、本発明はそれに限定されない。
[発明1]
以下を含む潤滑剤(4):
- 少なくとも45重量%のパラフィン油、
- 8重量%未満のピロリン酸塩又は三リン酸塩、特にピロリン酸又は三リン酸の金属塩、
- 6重量%超の第6族二硫化物又は二セレン化物、
- 最大27.5wt%の黒鉛。
[発明2]
前記パラフィン油が45重量%~55重量%の潤滑剤の質量分率に相当する、発明1に記載の潤滑剤。
[発明3]
前記ピロリン酸塩又は三リン酸塩が4重量%~6重量%の潤滑剤の質量分率に相当する、発明1又は2に記載の潤滑剤。
[発明4]
前記第6族二硫化物又は二セレン化物が8重量%~12重量%の潤滑剤の質量分率に相当する、発明1~3の一に記載の潤滑剤。
[発明5]
前記黒鉛が22.5重量%~27.5重量%の潤滑剤の質量分率に相当する、発明1~4の一に記載の潤滑剤。
[発明6]
前記ピロリン酸塩又は三リン酸塩、前記第6族二硫化物又は二セレン化物、及び前記黒鉛が、合わせて、35重量%~45重量%の潤滑剤の質量分率に相当する、発明1~5の一に記載の潤滑剤。
[発明7]
前記ピロリン酸塩又は三リン酸塩が1μm~5μmの範囲の直径中央値(D50)を有する固体粒子の形態で潤滑剤に含まれ;及び/又は前記第6族二硫化物又は二セレン化物が1μm~2μmの範囲の直径中央値(D50)を有する固体粒子の形態で潤滑剤に含まれ;及び/又は前記黒鉛が4μm~5μmの範囲の直径中央値(50)を有する固体粒子の形態で潤滑剤に含まれる、発明1~6の一に記載の潤滑剤。
[発明8]
前記潤滑剤がエステル油をさらに含み、該エステル油が6重量%~9重量%の範囲の潤滑剤の質量分率に相当する、発明1~7の一に記載の潤滑剤。
[発明9]
前記潤滑剤がポリブチレンをさらに含み、該ポリブチレンが1重量%~4重量%の範囲の潤滑剤の質量分率に相当する、発明1~8の一に記載の潤滑剤。
[発明10]
押出プロセスにおける、特にマグネシウム合金管(1)を押し出すための、発明1~9の一に記載の潤滑剤(4)の使用。
[発明11]
前記押出プロセスが、マグネシウム合金管(1)の押し出しに関連する、発明10に記載の使用。
[発明12]
前記マグネシウム合金管(1)が、ステントを形成するためのブランクを形成する、発明11に記載の使用。
[発明13]
前記押出プロセスが、直接又は間接管状衝撃押出プロセスである、発明10~12に記載の使用。
[発明14]
マグネシウム合金管(1)の製造方法であって、ダイ(2)及びパンチ(3)を使用してマグネシウム合金を押し出してマグネシウム合金管(1)を形成する、並びに、前記ダイ(2)の表面(20a)及び/又は前記パンチ(3)の表面(3a)を発明1~9の一に記載の潤滑剤(4)で潤滑する、上記方法。
[発明15]
押し出されたマグネシウム合金管(1)をさらに処理してステントを形成する、発明14に記載の方法。
【0045】
以下では、本発明の実施形態/例を、図面を参照して説明する。
【図面の簡単な説明】
【0046】
図1】速度混合後の本発明による潤滑剤の一例の走査型電子顕微鏡(SEM)画像を示す。この図は、液体マトリックス(暗い背景)中の固体粒子(明るい)の均一な分布をさらに示している。
図2】本発明による潤滑剤を用いた本発明による方法の一実施形態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0047】
本発明の例として、下記の潤滑剤組成物1~4を、以下でさらに説明するプロセスで使用することができる。
組成物1:
- パラフィン油 45重量%、
- エステル油 8重量%、
- ピロリン酸亜鉛 6.0重量%、
- 二硫化タングステン 12.0重量%、
- 黒鉛 25.0重量%、及び
- ポリブチレン 4重量%。
【0048】
組成物2:
- パラフィン油 55重量%、
- エステル油 7.5重量%、
- 三リン酸カルシウム 4.0重量%、
- 二硫化モリブデン 9.0重量%、
- 黒鉛 22.5重量%、及び
- ポリブチレン 2重量%。
【0049】
組成物3:
- パラフィン油 48重量%、
- エステル油 8重量%、
- ピロリン酸ストロンチウム 5.0重量%、
- 二セレン化モリブデン 9.0重量%、
- 黒鉛 26.0重量%、及び
- ポリブチレン 3重量%。
【0050】
組成物4:
- パラフィン油 50重量%、
- エステル油 7.5重量%、
- ピロリン酸亜鉛 5.0重量%、
- 二硫化モリブデン 10.0重量%、
- 黒鉛 25.0重量%、及び
- ポリブチレン 2.5重量%。
【0051】
パラフィン油として、アルカン又はnが18~32のアルカンC2n+2の混合物(例えば、ドイツのPARAFLUID GmbHのPharma Weissoel PL420)を含み、40℃で100cSt(センチストークス)の粘度を有する水素化された完全飽和炭化水素を使用した。さらに、ピロリン酸亜鉛(Zn)として、ドイツのBUDENHEIMのZ 34-80、及びピロリン酸ストロンチウムとして、Sigma Aldrichの773921を使用することができる。さらに、二硫化モリブデン(MoS)として、例えば、オランダのClimax MolybdenumのMOLYSULFIDE Super Fine Gradeを使用することができる(98%MoS D50 1~2μm)。グラファイトとして、例えば、ドイツのGraphit Kropfmuehl GmbHのUF299,9を使用することができる(99,5~99,9%C、D50 4~5μm)。エステル油として、例えば、ドイツのFUCHS Schmierstoffe GmbHのUnifluid32を使用することができる(40°Cで33cSt[センチストークス]の粘度)。最後に、ポリブチレン((C)として、例えば、ベルギーのINEOS OligomersのINDOPOL H-15を使用することができる(100°Cで300cStの粘度)。
【0052】
例示的な潤滑油は、黒灰色の均一なペースト液体であり、柔軟な外観を有する。
【0053】
計算された潤滑剤の密度は1.70g/cmであり、動的粘度の範囲は室温(20℃~22℃)で6.000+/-25.000Pasである。
【0054】
特に、図1は、速度混合後の上記の潤滑剤組成物を示している。図1から分かるように、潤滑剤は、その成分について有利な均一な分布を有している。
【0055】
比較例
組成物5:
- パラフィン油 44重量%、
- エステル油 10重量%、
- ピロリン酸亜鉛 10.0重量%、
- 二硫化モリブデン 5.0重量%、
- 黒鉛 27.5重量%、及び
- ポリブチレン 5.0重量%。
【0056】
組成物5は、粗い、不均一な外観を示した。材料を工具にうまく適用することができず、押出プロセスに過度の圧力が必要であった。したがって、組成物5の潤滑特性は不十分であった。
【0057】
図2は、本発明による方法の一実施形態を示している。ここで、本発明による潤滑剤4は、特に上記の例の組成を有し、工具/ブランクを潤滑するために使用する。
【0058】
マグネシウム合金管1を押し出すために、例えば、WE43合金から作製されたものであって、例えば、前方中空押出プロセスにおいてそれを押し出すために、ダイ2及びパンチ3を使用する。ここで、押し出される合金と相互作用する前記ダイ2の表面20a及び前記パンチ3の表面3aを、図2に示すように潤滑剤4で潤滑する。
【0059】
特に、ダイ2は、ダイ2の裏側2bからダイ2の前面2aまで延びる貫通穴20を備え、ここで、ダイ2の裏側2bから延びる貫通穴20の第1のセクション201は、一定の内径D1を有し、貫通穴20の後続の第2のセクション202は、ダイ2の前面2aの開口部203に向かって先細りになっている(taper)。
【0060】
パンチ3は、パンチ3の円筒形の第2のセクション31に接続された円筒形の第1のセクション30を備え、ここで、パンチ3の第1のセクション30の外径D2は、パンチ3の第2のセクション31の外径D3よりも小さく、ダイ2の前記開口部203の内径D4よりも小さい。また、パンチ3の第2のセクションの31の外径D3は、パンチ3を案内する貫通孔20の第1セクション201の前記内径D1に対応している。管1を押し出すために、円筒形のマグネシウム合金ブランク5をダイ2の裏側2bから貫通穴20に挿入し、且つ、マグネシウム合金5が、パンチ3の第2のセクション31によって、パンチ3の第1のセクション30とダイ2の前面2aの前記開口部203の境界203aとの間に形成された円周方向のギャップ6に押し込まれるようにして、パンチ3を、パンチ3の第1のセクション30を前方にして、ダイ2の裏側2bから貫通穴20に押し込む。
【0061】
管1を押し出した後、さらに処理してステントを形成することができる。管/ステントのそのような処理は、以下のうちの1つを含んでもよい:管を切断して複数の接続されたストラットを有するステントを形成すること、管又はストラットを化学物質でコーティングすること(特に当該化学物質は、薬物を含むか、又は薬物である)。
図1
図2