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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-19
(45)【発行日】2023-04-27
(54)【発明の名称】養殖システム
(51)【国際特許分類】
   A01K 63/04 20060101AFI20230420BHJP
【FI】
A01K63/04 Z
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021533080
(86)(22)【出願日】2020-07-14
(86)【国際出願番号】 JP2020027385
(87)【国際公開番号】W WO2021010399
(87)【国際公開日】2021-01-21
【審査請求日】2021-09-07
【審判番号】
【審判請求日】2022-05-09
(31)【優先権主張番号】P 2019131003
(32)【優先日】2019-07-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000497
【氏名又は名称】弁理士法人グランダム特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹廣 洋児
(72)【発明者】
【氏名】玉井 一誠
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 美由紀
(72)【発明者】
【氏名】プトラ グレイ ロレンス シロシ
(72)【発明者】
【氏名】竹之下 航洋
(72)【発明者】
【氏名】吉田 勇
(72)【発明者】
【氏名】西村 亮治
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 祐昌
【合議体】
【審判長】居島 一仁
【審判官】有家 秀郎
【審判官】藤脇 昌也
(56)【参考文献】
【文献】特許第6056949(JP,B1)
【文献】特許第2794398(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K61/00-63/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水生生物を養殖する循環式の養殖システムであって、
前記水生生物を飼育する飼育槽内の飼育水又は前記飼育槽の外部で前記飼育水を循環させる循環経路内の前記飼育水に含まれるミネラルの濃度を検出するミネラルセンサと、
前記ミネラルセンサによって検出される前記ミネラルの濃度と所定の基準とを比較し、前記ミネラルの濃度が前記基準を外れた場合に、前記飼育水の前記ミネラルの濃度を前記基準に合うように導く指示又は動作を行う調整部と、
を有し、
前記ミネラルセンサは、カルシウムセンサとマグネシウムセンサとの一方又は双方を含み、
前記水生生物は甲殻類であり、
前記ミネラルセンサは、複数種類のミネラルの濃度を検出し、
前記調整部は、前記複数種類のミネラルのそれぞれの濃度を前記基準に合うように導く指示又は動作を行い、
前記調整部は、前記飼育水に水を加える指示又は動作を行う場合、前記飼育水に水を加える指示又は動作を行う前に、必要な水投入量を算出し、前記水投入量の水を加えた事による前記複数種類のミネラルの濃度の変化を予測し、前記複数種類のミネラルの内の少なくとも一種類のミネラルの濃度が前記基準よりも小さくなると予測されたときに、前記少なくとも一種類のミネラルの濃度が前記基準に合うために必要なミネラル投入量を算出し、算出された前記水投入量に基づいて前記水を加える指示又は動作を行うと共に前記ミネラル投入量に基づいて前記少なくとも一種類のミネラルを加える指示又は動作を行い、前記複数種類のミネラルの内前記基準よりも濃度が小さくなるミネラルが無いと予測されたときに、算出された前記水投入量に基づいて前記水を加える指示又は動作を行う
養殖システム。
【請求項2】
水生生物を養殖する循環式の養殖システムであって、
前記水生生物を飼育する飼育槽内の飼育水又は前記飼育槽の外部で前記飼育水を循環させる循環経路内の前記飼育水に含まれる複数種類のミネラルの濃度を検出するミネラルセンサと、
前記ミネラルセンサによって検出される前記複数種類のミネラルのそれぞれの濃度と所定の基準とを比較し、前記ミネラルの濃度が前記基準を外れた場合に、前記飼育水の前記複数種類のミネラルのそれぞれの濃度を前記基準に合うように導く指示又は動作を行う調整部と、
を有し、
前記水生生物は甲殻類であり、
前記調整部は、前記飼育水に水を加える指示又は動作を行う場合、前記飼育水に水を加える指示又は動作を行う前に、必要な水投入量を算出し、前記水投入量の水を加えた事による前記複数種類のミネラルの濃度の変化を予測し、前記複数種類のミネラルの内の少なくとも一種類のミネラルの濃度が前記基準よりも小さくなると予測されたときに、前記少なくとも一種類のミネラルの濃度が前記基準に合うために必要なミネラル投入量を算出し、算出された前記水投入量に基づいて前記水を加える指示又は動作を行うと共に前記ミネラル投入量に基づいて前記少なくとも一種類のミネラルを加える指示又は動作を行い、前記複数種類のミネラルの内前記基準よりも濃度が小さくなるミネラルが無いと予測されたときに、算出された前記水投入量に基づいて前記水を加える指示又は動作を行う
養殖システム。
【請求項3】
前記調整部は、前記飼育水に2種類以上の前記ミネラルを加える指示又は動作を行う場合、加える前記2種類以上のミネラルの投入量を算出し、前記投入量に基づいて混合された前記2種類以上のミネラルを前記飼育水に加える指示又は動作を行う
請求項1又は請求項2に記載の養殖システム。
【請求項4】
前記調整部は、前記ミネラルセンサによって検出される前記ミネラルの濃度が前記基準よりも小さい場合に前記飼育水に前記ミネラルを加える指示又は動作を行う
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の養殖システム。
【請求項5】
前記調整部は、前記ミネラルセンサによって検出される前記ミネラルの濃度が前記基準よりも大きい場合に前記飼育水に水を加える指示又は動作を行う
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の養殖システム。
【請求項6】
前記調整部は、前記ミネラルセンサによって検出される前記ミネラルの濃度が前記基準を外れる場合に外部への警告動作を行う、
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の養殖システム。
【請求項7】
前記ミネラルセンサは、液膜式のミネラルセンサである、
請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の養殖システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、養殖システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、室内型エビ生産に用いるエビ育成・健康管理システムが開示されている。このシステムが適用されるエビプラントの飼育水は、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、重炭酸ナトリウム、硫酸ナトリウム及び塩化カリウムを含むものとされている。そして、カルシウムやマグネシウムがエビの脱皮や成長に必要であることが記載されている。
また、エビに限らず、様々な水生生物の飼育のために、ミネラルが必要であることは一般的に知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2008-43252号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来から提供又は提案されている水生生物の養殖方法の中には、飼育水内にミネラルを含ませて水生生物を生育する養殖方法もある。しかし、飼育水に含まれるミネラルの濃度を何らかの方法で基準に導くような調整・制御はなされていなかった。ミネラルは水生生物の育成と共に消費される成分である。そのため、飼育開始時や水交換時の濃度から徐々に減少していくのだが、飼育中における飼育水のミネラル調整は、現在の水量やミネラル濃度によって添加すべきミネラルの量が異なるため、調整が困難であった。
【0005】
本発明は、上述した課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、飼育槽内の飼育水に含まれるミネラルの濃度を基準に合うように導く調整を行い得る養殖システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一つの解決手段である養殖システムは、水生生物を養殖する循環式の養殖システムであって、水生生物を飼育する飼育槽内の飼育水又は前記飼育槽の外部で前記飼育水を循環させる循環経路内の前記飼育水に含まれるミネラルの濃度を検出するミネラルセンサと、前記ミネラルセンサによって検出される前記ミネラルの濃度と所定の基準とを比較し、前記ミネラルの濃度が前記基準を外れた場合に、前記飼育水の前記ミネラルの濃度を前記基準に合うように導く指示又は動作を行う調整部と、を有し、ミネラルセンサは、カルシウムセンサとマグネシウムセンサとの一方又は双方を含む。
本発明の一つの解決手段である養殖システムは、水生生物を養殖する循環式の養殖システムであって、水生生物を飼育する飼育槽内の飼育水又は飼育槽の外部で飼育水を循環させる循環経路内の飼育水に含まれる複数種類のミネラルの濃度を検出するミネラルセンサと、ミネラルセンサによって検出される複数種類のミネラルのそれぞれの濃度と所定の基準とを比較し、ミネラルの濃度が前記基準を外れた場合に、飼育水の複数種類のミネラルのそれぞれの濃度を基準に合うように導く指示又は動作を行う調整部と、を有する。
【0007】
上記養殖システムは、飼育槽内の飼育水又は循環経路内の飼育水に含まれるミネラルの濃度をミネラルセンサによって検出することができ、ミネラルセンサが検出したミネラルの濃度が基準を外れる場合には、調整部によって基準に合うように導く指示又は動作を行うことができる。よって、飼育水のミネラルの濃度の適正化を図ることができ、ミネラルの濃度が基準を外れた状態で運用され続けることを防ぐことができる。
ここで、基準とは、水生生物の育成に最適な数値や、基準から外れると水生生物の育成に悪影響を及ぼす、等の公知の知見から設定することが出来る、所定の数値や数値範囲を指す。
【0008】
上記の養殖システムにおいて、調整部は、ミネラルセンサによって検出されるミネラルの濃度が基準よりも小さい場合に飼育水にミネラルを加える指示又は動作を行ってもよい。
この養殖システムは、飼育水のミネラル濃度が基準よりも小さい場合、即ちミネラルが不足する場合に、調整部によって不足を補う指示又は動作を行うことができる。よって、この養殖システムは、飼育水のミネラル濃度が低すぎるまま運用され続けることを防ぐことができ、飼育水のミネラル濃度が低すぎる期間が継続しすぎることに起因する不具合を生じにくくすることができる。
【0009】
上記の養殖システムにおいて、調整部は、ミネラルセンサによって検出されるミネラルの濃度が基準よりも大きい場合に飼育槽内又は循環経路に水を加える指示又は動作を行ってもよい。
この養殖システムは、飼育槽内の飼育水のミネラル濃度が基準よりも大きい場合、即ちミネラルが過剰である場合に、調整部によって過剰状態を解消する指示又は動作を行うことができる。よって、この養殖システムは、飼育水のミネラル濃度が過剰であるまま運用され続けることを防ぐことができ、飼育水のミネラル濃度が過剰である期間が継続しすぎることに起因する不具合を生じにくくすることができる。
【0010】
上記の養殖システムにおいて、調整部は、ミネラルセンサによって検出されるミネラルの濃度が基準を外れる場合に外部への警告動作を行ってもよい。
この養殖システムは、飼育水のミネラル濃度が基準を外れる場合に外部に対して警告動作を行うことができるため、警告動作を認識した作業者等がミネラル濃度の異常を把握することができる。よって、作業者は、飼育水のミネラル濃度が基準を外れる場合に適した対応を迅速にとることができる。
【0011】
上記の養殖システムでは、対象とする水生生物が甲殻類であってもよい。
飼育水内で甲殻類を生育する場合、飼育水に含まれるミネラルの濃度がより重要であり、ミネラルの濃度が適正でない期間が長くなりすぎると、甲殻類が適正に生育されないリスクがより高まる。この点に関し、上記養殖システムは、飼育水のミネラルの濃度を適正化することができ、ミネラルの濃度が基準を外れた状態で運用され続けることを防ぐことができるため、甲殻類が適正に生育されないリスクをより抑え、甲殻類の生育の促進と安定化を図りうる。
【0012】
上記の養殖システムにおいて、上記ミネラルセンサは、液膜式のミネラルセンサであってもよい。
液膜式センサは、小型化を図りやすく、特別な前処理が不要又は少なくて済むため、簡便に計測することができる。
【0013】
上記の養殖システムは、複数種類のミネラルの濃度を検出するミネラルセンサを有していてもよい。そして、上記調整部は、上記複数種類のミネラルのそれぞれの濃度を上記基準に合うように導く指示又は動作を行うものであってもよい。
この養殖システムは、複数種類のミネラルのそれぞれの濃度が基準に合うように調整されやすく、複数種類のミネラルの濃度の適正化が図られながら運用されやすい。
【0014】
上記の養殖システムにおいて、上記調整部は、上記飼育水に2種類以上の上記ミネラルを加える指示又は動作を行う場合、加える上記2種類以上のミネラルの投入量を算出し、上記投入量に基づいて混合された上記2種類以上のミネラルを上記飼育水に加える指示又は動作を行ってもよい。
2種類以上のミネラルを加える際、一種類ずつ加えると、ミネラルのバランスが悪い時間が生じる虞があるが、上記の養殖システムは、2種類以上のミネラルを適切に混合して同時期に加えることができるため、ミネラルのバランスが悪い時間が生じることを防ぎやすい。
【0015】
上記の養殖システムにおいて、上記調整部は、上記飼育水に水を加える指示又は動作を行う場合、上記飼育水に水を加える指示又は動作を行う前に、必要な水投入量を算出し、上記水投入量の水を加えた事による上記複数種類のミネラルの濃度の変化を予測してもよい。そして、上記調整部は、上記複数種類のミネラルの内の少なくとも一種類のミネラルの濃度が上記基準よりも小さくなると予測されたときに、上記少なくとも一種類のミネラルの濃度が上記基準に合うために必要なミネラル投入量を算出し、算出された上記水投入量に基づいて上記水を加える指示又は動作を行うと共に上記ミネラル投入量に基づいて上記少なくとも一種類のミネラルを加える指示又は動作を行ってもよい。そして、上記調整部は、上記複数種類のミネラルの内上記基準よりも濃度が小さくなるミネラルが無いと予測されたときに、算出された上記水投入量に基づいて上記水を加える指示又は動作を行ってもよい。
上記の養殖システムは、飼育水に水を加える場合に、水の追加に起因する特定のミネラルの不足を予測して不足を補うように対応することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、飼育槽内の飼育水に含まれるミネラルの濃度を基準に合うように導く調整を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】第1実施形態の養殖システムを概略的に説明する説明図である。
図2図1の養殖システムの電気的構成を概念的に例示するブロック図である。
図3図1の養殖システムの一部について具体的に例示する説明図である。
図4図1の養殖システムで行われるミネラル調整制御の流れを例示するフローチャートである。
図5】第2実施形態の養殖システムで行われるミネラル調整制御の流れを例示するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
<第1実施形態>
1.養殖システムの概要
第1実施形態について、図面を参照して説明する。
図1で示す養殖システムSyは、水生生物を生育及び養殖するシステムであり、水生生物の生育及び養殖を行う生産拠点に設けられるシステムである。以下では、養殖システムSyが循環式の陸上養殖システムとして構成された例を挙げて説明する。また、以下では、水生生物としてエビなどの甲殻類を例示し、養殖システムSyが甲殻類を養殖する例について説明する。なお、養殖システムSyは、飼育槽50から排出される飼育水の全部または略全部を循環させて飼育槽50内に戻す閉鎖型循環式の陸上養殖システムであってもよく、飼育槽50から排出される飼育水の一部を循環させて飼育槽50内に戻す半閉鎖型循環式の陸上養殖システムであってもよい。
【0019】
図1で示す養殖システムSyは、情報処理装置10、飼育槽50、沈殿槽52、泡沫分離槽54、濾過部56、調温部58、ポンプ60、紫外線殺菌部62、酸素供給装置64、管路66A~66Gなどを備える。
【0020】
飼育槽50は、飼育水が溜められた水槽であり、水生生物を生育する水槽である。沈殿槽52は、飼育水に含まれる固形物を沈殿させて固液分離を行う槽である。泡沫分離槽54は、泡沫分離装置によって泡沫(気泡)を発生させるとともに飼育水中の汚濁物質を泡沫に吸着させて分離する層である。濾過部56は、飼育水を濾過処理する設備であり、例えば物理濾過及び生物濾過を順次行い得る槽を備える。調温部58は、飼育水の温度を調整する設備であり、例えば、飼育水の加熱及び冷却を行い得る槽として構成されている。ポンプ60は、飼育水を循環させるためのポンプである。紫外線殺菌部62は、流動する飼育水を紫外線殺菌灯によって殺菌する設備である。酸素供給装置64は、飼育水中の溶存酸素量を適正化するために飼育槽50内に酸素を供給する装置である。
【0021】
図1のシステムでは、飼育槽50と沈殿槽52の間には、飼育槽50内の飼育水を沈殿槽52に導く管路66Aが介在する。沈殿槽52と泡沫分離槽54との間には、沈殿槽52内の飼育水を泡沫分離槽54に導く管路66Bが介在する。泡沫分離槽54と濾過部56との間には、泡沫分離槽54内の飼育水を濾過部56に導く管路66Cが介在する。濾過部56と調温部58との間には、濾過部56を通った飼育水を調温部58に導く管路66Dが介在する。調温部58とポンプ60の間には、調温部58を通った飼育水をポンプ60に導く管路66Eが介在する。ポンプ60と紫外線殺菌部62との間には、ポンプ60を通った飼育水を紫外線殺菌部62に導く管路66Fが介在する。紫外線殺菌部62と飼育槽50との間には、紫外線殺菌部62を通った飼育水を飼育槽50に導く管路66Gが介在する。そして、沈殿槽52、泡沫分離槽54、濾過部56、調温部58、ポンプ60、紫外線殺菌部62、及び管路66A,66B,66C,66D,66E,66F,66Gによって循環経路70が構成される。循環経路70は、飼育槽50内の飼育水を、飼育槽50の外部を循環させて飼育槽50内に戻す経路である。
【0022】
図2で例示する電気的構成のように、養殖システムSyは、情報処理装置10、各種センサ(カルシウムセンサ22、マグネシウムセンサ24、ナトリウムセンサ26等)、各種機器(注水装置28、カルシウム供給部30、マグネシウム供給部32、ナトリウム供給部34)などを備える。
【0023】
情報処理装置10は、例えば、コンピュータシステムとして構成されており、主に、制御装置12、操作部14、記憶部16、表示部18、音声部20などを備える。情報処理装置10は、例えば、スマートフォン、タブレット端末、ノートパソコン等の携帯型の機器であってもよく、サーバ装置、デスクトップ型パソコン、タワー型パソコン等の据置型の機器であってもよい。制御装置12は、汎用のプロセッサ(例、CPU)と特定用途向け集積回路(例、ASIC)との一方又は双方を含み、様々な演算、制御、情報処理を行い得る。操作部14は、キーボード、マウス、タッチパネル等の公知の入力装置である。記憶部16は、ROM、RAM、不揮発性メモリ、HDD(hard disk drive)、SSD(solid state drive)、キャッシュメモリ、ワークメモリなどの公知の記憶装置である。表示部18は、液晶ディスプレイ、有機エレクトロルミネッセンスディスプレイ、表示ランプなどの公知の表示装置である。音声部20は、スピーカやブザーなどの音声を発する装置である。なお、図示はしていないが、情報処理装置10には、通信部を設けることもでき、例えば、制御装置12と通信部とが協働し、図示しない外部装置と公知の方式で有線通信又は無線通信を行うようになっていてもよい。また、情報処理装置10は一体物である必要はなく、一部を別体の構成としてもよい。例えば制御装置12や記憶部16が外部装置に格納され、各種センサや供給部、インターフェースとの間で、公知の方式で有線通信又は無線通信にて情報や命令のやり取りを行うようになっていたり、操作部14、表示部18、音声部20を制御装置12とは別体の携帯端末に格納して、制御装置12と携帯端末との間で公知の方式で有線通信又は無線通信にて情報や命令のやり取りを行うようになっていてもよい。
【0024】
また、養殖システムSyは、図示は省略しているが、上述したミネラルセンサ以外にも、飼育水の物理的パラメータ又は化学的パラメータを検出する様々なセンサを備えている。例えば、養殖システムSyは、温度センサ、溶存酸素センサ、pHセンサ、塩分センサ、アンモニアセンサ、亜硝酸センサ、硝酸センサ、二酸化炭素センサ、酸化還元電位センサ、導電率センサ、水位センサなどを備えている。
【0025】
2.ミネラルの検出及び調整のための構成
(検出及び調整のための基本構成)
図2のように、養殖システムSyは、ミネラルセンサの例として、カルシウムセンサ22、マグネシウムセンサ24、ナトリウムセンサ26などを備えている。
【0026】
カルシウムセンサ22は、飼育槽50内の飼育水Wに含まれるカルシウムイオンの濃度を検出するセンサである。カルシウムセンサ22は、公知方式で検知対象液体内のカルシウムイオン濃度を検知する公知のカルシウムイオンセンサによって構成されている。
【0027】
マグネシウムセンサ24は、飼育槽50内の飼育水Wに含まれるマグネシウムイオンの濃度を検出するセンサである。マグネシウムセンサ24は、公知方式で検知対象液体内のマグネシウムイオン濃度を検知する公知のマグネシウムイオンセンサによって構成されている。
【0028】
ナトリウムセンサ26は、飼育槽50内の飼育水Wに含まれるナトリウムイオンの濃度を検出するセンサである。ナトリウムセンサ26は、公知方式で検知対象液体内のナトリウムイオン濃度を検知する公知のナトリウムイオンセンサによって構成されている。なお、カルシウムセンサ22、マグネシウムセンサ24、ナトリウムセンサ26のいずれか1つ以上のセンサ(例えば全てのセンサ)が、液膜式のイオンセンサとして構成された液膜式のミネラルセンサであってもよい。このような方式が採用されれば、他の種類のセンサ(例えば、カラーセンサを用いた比色分析方式を採用するセンサ等)と比較して簡便に対象成分を測定することができる。
【0029】
具体的には、図3のように、養殖システムSyにおいてセンサユニットとして構成されるセンサ部Seが設けられ、飼育槽50内の飼育水Wが図示しないポンプによってセンサ部Seに送り込まれるようになっている。そして、センサ部Seにカルシウムセンサ22、マグネシウムセンサ24、ナトリウムセンサ26が設けられ、それぞれのセンサは、センサ部Seに送り込まれた飼育水W内に含まれる各成分の濃度を検出するように構成されている。なお、図3で示す例はあくまで一例であり、カルシウムセンサ22、マグネシウムセンサ24、ナトリウムセンサ26が飼育水W内の各成分の濃度を検出し得る配置、構成であればよく、例えば、飼育槽50内において飼育水Wに含まれる対象成分の濃度を検出するように設けられていてもよい。
【0030】
図3のように、養殖システムSyには、注水装置28が設けられている。注水装置28は、飼育槽50内に水を供給する装置であり、制御装置12によって注水量又は注水時間が制御される装置である。
【0031】
図3のように、養殖システムSyには、カルシウム供給部30、マグネシウム供給部32、ナトリウム供給部34が設けられている。カルシウム供給部30は、飼育槽50内にカルシウムを供給する装置であり、制御装置12からの指示に応じて飼育槽50内にカルシウムを投入する。カルシウムの投入は、例えば、カルシウムイオンが高い濃度で含まれる水溶液を投入する。マグネシウム供給部32は、飼育槽50内にマグネシウムを供給する装置であり、制御装置12からの指示に応じて飼育槽50内にマグネシウムを投入する。マグネシウムの投入は、例えば、マグネシウムイオンが高い濃度で含まれる水溶液を投入する。ナトリウム供給部34は、飼育槽50内にナトリウムを供給する装置であり、制御装置12からの指示に応じて飼育槽50内にナトリウムを投入する。ナトリウムの投入は、例えば、ナトリウムイオンが高い濃度で含まれる水溶液を投入する。
【0032】
(ミネラル調整制御)
次に、制御装置12によって行われるミネラル調整制御について説明する。
制御装置12は、開始条件の成立に応じて、記憶部16に記憶されている制御プログラムを読み出し、制御プログラムに従って図4で示すミネラル調整制御を開始する。なお、開始条件は、時間的条件(例えば、予め定められた時刻が到来したという条件、或いは、前回のミネラル調整制御から所定時間が経過したという条件など)であってもよく、その他の条件(例えば、作業者によって所定操作がなされるという条件、所定の装置が動作するという条件、所定の工程が行われるという条件など)であってもよい。また、図4の制御を繰り返すサイクルは、養殖期間の全体を通して一定であってもよく、期間や生育数に応じてサイクルを変えてもよい。
【0033】
制御装置12は、図4で示すミネラル調整制御を開始した場合、まず、ステップS1にて、カルシウム濃度検出値(具体的には、例えば、カルシウムセンサ22がステップS1の時点で検出した飼育水W内のカルシウムイオン濃度の値)を取得する。そして、制御装置12は、ステップS1の後、カルシウムセンサ22から取得した検出値が、予め定められた基準範囲を外れているか否かを判定する(ステップS2)。制御装置12では、予めカルシウム濃度の基準範囲が、例えば、A1(ppm)~A2(ppm)の範囲で定められている。そして、制御装置12は、ステップS1の時点でカルシウムセンサ22が検出した飼育水内のカルシウムイオン濃度の値が基準範囲(A1(ppm)~A2(ppm)の範囲)を外れていると判定した場合、ステップS3においてカルシウム濃度の調整処理を行う。
【0034】
制御装置12は、ステップS3の処理を行う場合、まず、外部への警告動作を行う。外部への警告動作は、「カルシウム濃度が基準範囲から外れています」といったメッセージ(カルシウム濃度が基準範囲を外れる旨のメッセージ)を表示部18に表示したり、音声部20によって音声で発したりしてもよい。或いは、カルシウム濃度が基準範囲を外れる異常(カルシウム異常)に対応付けたアラート音の発音や表示ランプの点灯などを行ってもよい。
【0035】
更に、制御装置12は、ステップS3において、飼育水のカルシウム濃度を基準範囲内に導く動作を行う。具体的には、カルシウムセンサ22によって検出されるカルシウムイオンの濃度Axが基準範囲の下限値A1よりも小さい場合、カルシウム供給部30と協働して飼育槽50内にカルシウムを加える動作を行う。例えば、制御装置12は、検出濃度Axが下限値A1よりも小さい場合、下限値A1と検出濃度Axとの差分(A1-Ax)が大きくなるほどカルシウム投入量を多くするようにカルシウム投入量を定める演算式又は演算テーブルによってカルシウム投入量を決定する。そして、制御装置12及びカルシウム供給部30は、決定した投入量のカルシウムを水溶液又は粉末の状態で飼育槽50内に投入する。なお、上記演算式又は上記演算テーブルは、上記差分(A1-Ax)に比例してカルシウム投入量を決定するような演算式又は演算テーブルであってもよく、上記差分(A1-Ax)をパラメータとするその他の算出式でカルシウム投入量を決定するような演算式又は演算テーブルであってもよい。
【0036】
一方、カルシウムセンサ22によって検出されるカルシウムイオンの濃度Axが基準範囲の上限値A2よりも大きい場合、注水装置28と協働して飼育槽50内に水を加える動作を行う。例えば、制御装置12は、検出濃度Axが上限値A2よりも大きい場合、上限値A2と検出濃度Axとの差分(Ax-A2)が大きくなるほど水の投入量を多くするように水の投入量を定める演算式又は演算テーブルによって水の投入量を決定する。そして、制御装置12及び注水装置28は、決定した投入量の水を飼育槽50内に投入する。なお、上記演算式又は上記演算テーブルは、上記差分(Ax-A2)に比例して水の投入量を決定するような演算式又は演算テーブルであってもよく、上記差分(Ax-A2)をパラメータとするその他の算出式で水の投入量を決定するような演算式又は演算テーブルであってもよい。
【0037】
なお、各種イオンの調整処理にて投入される水においては、基準(一点の数値(基準値)や幅をもった数値範囲(基準範囲))を超えたイオン(この場合は、カルシウムイオン)の濃度が0か、飼育槽50内の水よりも低い。他の成分については、含有してもしていなくても良く、飼育槽50内の濃度に応じて調整しても良い。
【0038】
制御装置12は、ステップS2でNoとなる場合又はステップS3の後、ステップS4にて、マグネシウム濃度検出値(具体的には、例えば、マグネシウムセンサ24がステップS4の時点で検出した飼育水W内のマグネシウムイオン濃度の値)を取得する。そして、制御装置12は、ステップS4の後、マグネシウムセンサ24から取得した検出値が、予め定められた基準範囲を外れているか否かを判定する(ステップS5)。制御装置12では、予めマグネシウム濃度の基準範囲が、例えば、B1(ppm)~B2(ppm)の範囲で定められている。そして、制御装置12は、ステップS4の時点でマグネシウムセンサ24が検出した飼育水内のマグネシウムイオン濃度の値が基準範囲(B1(ppm)~B2(ppm)の範囲)を外れていると判定した場合、ステップS6においてマグネシウム濃度の調整処理を行う。
【0039】
制御装置12は、ステップS6の処理を行う場合、まず、外部への警告動作を行う。外部への警告動作は、「マグネシウム濃度が基準範囲から外れています」といったメッセージ(マグネシウム濃度が基準範囲を外れる旨のメッセージ)を表示部18に表示したり、音声部20によって音声で発したりしてもよい。或いは、マグネシウム濃度が基準範囲を外れる異常(マグネシウム異常)に対応付けたアラート音の発音や表示ランプの点灯などを行ってもよい。
【0040】
更に、制御装置12は、ステップS6において、飼育水のマグネシウム濃度を基準範囲内に導く動作を行う。具体的には、マグネシウムセンサ24によって検出されるマグネシウムイオンの濃度Bxが基準範囲の下限値B1よりも小さい場合、マグネシウム供給部32と協働して飼育槽50内にマグネシウムを加える動作を行う。例えば、制御装置12は、検出濃度Bxが下限値B1よりも小さい場合、下限値B1と検出濃度Bxとの差分(B1-Bx)が大きくなるほどマグネシウム投入量を多くするようにマグネシウム投入量を定める演算式又は演算テーブルによってマグネシウム投入量を決定する。そして、制御装置12及びマグネシウム供給部32は、決定した投入量のマグネシウムを水溶液又は粉末の状態で飼育槽50内に投入する。なお、上記演算式又は上記演算テーブルは、上記差分(B1-Bx)に比例してマグネシウム投入量を決定するような演算式又は演算テーブルであってもよく、上記差分(B1-Bx)をパラメータとするその他の算出式でマグネシウム投入量を決定するような演算式又は演算テーブルであってもよい。
【0041】
一方、マグネシウムセンサ24によって検出されるマグネシウムイオンの濃度Bxが基準範囲の上限値B2よりも大きい場合、注水装置28と協働して飼育槽50内に水を加える動作を行う。例えば、制御装置12は、検出濃度Bxが上限値B2よりも大きい場合、上限値B2と検出濃度Bxとの差分(Bx-B2)が大きくなるほど水の投入量を多くするように水の投入量を定める演算式又は演算テーブルによって水の投入量を決定する。そして、制御装置12及び注水装置28は、決定した投入量の水を飼育槽50内に投入する。なお、上記演算式又は上記演算テーブルは、上記差分(Bx-B2)に比例して水の投入量を決定するような演算式又は演算テーブルであってもよく、上記差分(Bx-B2)をパラメータとするその他の算出式で水の投入量を決定するような演算式又は演算テーブルであってもよい。
【0042】
制御装置12は、ステップS5でNoとなる場合又はステップS6の後、ステップS7にて、ナトリウム濃度検出値(具体的には、例えば、ナトリウムセンサ26がステップS7の時点で検出した飼育水W内のナトリウムイオン濃度の値)を取得する。そして、制御装置12は、ステップS7の後、ナトリウムセンサ26から取得した検出値が、予め定められた基準範囲を外れているか否かを判定する(ステップS8)。制御装置12では、予めナトリウム濃度の基準範囲が、例えば、C1(ppm)~C2(ppm)の範囲で定められている。そして、制御装置12は、ステップS7の時点でナトリウムセンサ26が検出した飼育水内のナトリウムイオン濃度の値が基準範囲(C1(ppm)~C2(ppm)の範囲)を外れていると判定した場合、ステップS9においてナトリウム濃度の調整処理を行う。
【0043】
制御装置12は、ステップS9の処理を行う場合、まず、外部への警告動作を行う。外部への警告動作は、「ナトリウム濃度が基準範囲から外れています」といったメッセージ(ナトリウム濃度が基準範囲を外れる旨のメッセージ)を表示部18に表示したり、音声部20によって音声で発したりしてもよい。或いは、ナトリウム濃度が基準範囲を外れる異常(ナトリウム異常)に対応付けたアラート音の発音や表示ランプの点灯などを行ってもよい。
【0044】
更に、制御装置12は、ステップS9において、飼育水のナトリウム濃度を基準範囲内に導く動作を行う。具体的には、ナトリウムセンサ26によって検出されるナトリウムイオンの濃度Cxが基準範囲の下限値C1よりも小さい場合、ナトリウム供給部34と協働して飼育槽50内にナトリウムを加える動作を行う。例えば、制御装置12は、検出濃度Cxが下限値C1よりも小さい場合、下限値C1と検出濃度Cxとの差分(C1-Cx)が大きくなるほどナトリウム投入量を多くするようにナトリウム投入量を定める演算式又は演算テーブルによってナトリウム投入量を決定する。そして、制御装置12及びナトリウム供給部34は、決定した投入量のナトリウムを飼育槽50内に投入する。なお、上記演算式又は上記演算テーブルは、上記差分(C1-Cx)に比例してナトリウム投入量を決定するような演算式又は演算テーブルであってもよく、上記差分(C1-Cx)をパラメータとするその他の算出式でナトリウム投入量を決定するような演算式又は演算テーブルであってもよい。
【0045】
一方、ナトリウムセンサ26によって検出されるナトリウムイオンの濃度Cxが基準範囲の上限値C2よりも大きい場合、注水装置28と協働して飼育槽50内に水を加える動作を行う。例えば、制御装置12は、検出濃度Cxが上限値C2よりも大きい場合、上限値C2と検出濃度Cxとの差分(Cx-C2)が大きくなるほど水の投入量を多くするように水の投入量を定める演算式又は演算テーブルによって水の投入量を決定する。そして、制御装置12及び注水装置28は、決定した投入量の水を飼育槽50内に投入する。なお、上記演算式又は上記演算テーブルは、上記差分(Cx-C2)に比例して水の投入量を決定するような演算式又は演算テーブルであってもよく、上記差分(Cx-C2)をパラメータとするその他の算出式で水の投入量を決定するような演算式又は演算テーブルであってもよい。
【0046】
本構成では、制御装置12が調整部の一例に相当し、ミネラルセンサによって検出されるミネラルの濃度が基準範囲を外れた場合に、飼育水内のミネラルの濃度を基準範囲内に導く指示又は動作を行うように機能する。
【0047】
3.本構成の効果の例示
上記養殖システムSyは、飼育水Wに含まれるミネラルの濃度をミネラルセンサによって検出することができ、ミネラルセンサが検出したミネラルの濃度が基準範囲を外れる場合には、制御装置12(調整部)によって基準範囲内に導く指示又は動作を行うことができる。よって、飼育水Wのミネラルの濃度の適正化を図ることができ、ミネラルの濃度が基準範囲を外れた状態で運用され続けることを防ぐことができる。
【0048】
また、養殖システムSyは、飼育水Wのミネラル濃度が基準範囲の下限値よりも小さい場合、即ちミネラルが不足する場合に、制御装置12(調整部)によって不足を補う指示又は動作を行うことができる。よって、この養殖システムSyは、飼育水Wのミネラル濃度が低すぎるまま運用され続けることを防ぐことができ、飼育水Wのミネラル濃度が低すぎる期間が継続しすぎることに起因する不具合を生じにくくすることができる。
【0049】
また、養殖システムSyは、飼育水Wのミネラル濃度が基準範囲の上限値よりも大きい場合、即ちミネラルが過剰である場合に、制御装置12(調整部)によって過剰状態を解消する指示又は動作を行うことができる。よって、この養殖システムSyは、飼育水Wのミネラル濃度が過剰であるまま運用され続けることを防ぐことができ、飼育水Wのミネラル濃度が過剰である期間が継続しすぎることに起因する不具合を生じにくくすることができる。
【0050】
また、養殖システムSyは、飼育水Wのミネラル濃度が基準範囲を外れる場合に、制御装置12(調整部)によって外部に対して警告動作を行うことができるため、警告動作を認識した作業者等がミネラル濃度の異常を把握することができるようになる。よって、作業者は、飼育水Wのミネラル濃度が基準範囲を外れる場合に適した対応を迅速にとることができる。
【0051】
また、養殖システムSyでは、対象とする水生生物が甲殻類とされている。飼育水W内で甲殻類を生育する場合、飼育水Wに含まれるミネラルの濃度がより重要であり、ミネラルの濃度が適正でない期間が長くなりすぎると、甲殻類が適正に生育されないリスクがより高まる。具体的には、例えば、適正な早さで脱皮がなされなくなったり、適正な時期に適正な大きさに生育されなくなったりする問題が生じやすくなる。この点に関し、養殖システムSyは、飼育水Wのミネラルの濃度を適正化することができ、ミネラルの濃度が基準範囲を外れた状態で運用され続けることを防ぐことができるため、甲殻類が適正に生育されないリスクをより抑え、甲殻類の生育の促進と安定化を図りうる。
【0052】
<第2実施形態>
第2実施形態に係る養殖システムSyは、図4のミネラル調整制御を、図5のように変更した点のみが第1実施形態と異なり、その他の点は、第1実施形態の養殖システムSyと同一である。例えば、第2実施形態に係る養殖システムSyは、上述の「1.養殖システムの概要」で説明された内容については、第1実施形態と同一である。更に、第2実施形態に係る養殖システムSyは、上述の「2.ミネラルの検出及び調整のための構成」における(検出及び調整のための基本構成)で説明された内容については、第1実施形態に係る養殖システムSyと同一である。また、第2実施形態に係る養殖システムSyは、図1図3の構成は、第1実施形態に係る養殖システムSyと同一である。よって、以下の説明では、適宜図1図3が参照される。
【0053】
第2実施形態に係る養殖システムSy(図1)は、制御装置12(図1)が図5のような流れでミネラル調整制御を行う。
【0054】
図1に示される制御装置12は、開始条件の成立に応じて図5のミネラル調整制御を開始する。なお、開始条件は、時間的条件(例えば、予め定められた時刻が到来したという条件、或いは、前回のミネラル調整制御から所定時間が経過したという条件など)であってもよく、その他の条件(例えば、作業者によって所定操作がなされるという条件、所定の装置が動作するという条件、所定の工程が行われるという条件など)であってもよい。また、図5の制御を繰り返すサイクルは、養殖期間の全体を通して一定であってもよく、期間や生育数に応じてサイクルを変えてもよい。
【0055】
制御装置12は、図5で示すミネラル調整制御を開始した場合、まず、ステップS21にて、カルシウム濃度の判定を行う。ステップS21の処理は、例えば、図4におけるステップS1及びステップS2の処理と同一である。具体的には、カルシウムセンサ22がステップS21の時点で検出した飼育水W内のカルシウムイオン濃度の値を取得し、カルシウムイオン濃度の値(カルシウムセンサ22から取得した検出値)が、予め定められたカルシウムイオン濃度の基準範囲(A1(ppm)~A2(ppm)の範囲)を外れているか否かを判定する。
【0056】
制御装置12は、ステップS21の後、ステップS22にて、マグネシウム濃度の判定を行う。ステップS22の処理は、例えば、図4におけるステップS4及びステップS5の処理と同一である。具体的には、マグネシウムセンサ24がステップS22の時点で検出した飼育水W内のマグネシウムイオン濃度の値を取得し、マグネシウムイオン濃度の値(マグネシウムセンサ24から取得した検出値)が、予め定められたマグネシウムイオン濃度の基準範囲(B1(ppm)~B2(ppm)の範囲)を外れているか否かを判定する。
【0057】
制御装置12は、ステップS22の後、ステップS23にて、ナトリウム濃度の判定を行う。ステップS23の処理は、例えば、図4におけるステップS7及びステップS8の処理と同一である。具体的には、ナトリウムセンサ26がステップS23の時点で検出した飼育水W内のナトリウムイオン濃度の値を取得し、ナトリウムイオン濃度の値(ナトリウムセンサ26から取得した検出値)が、予め定められたナトリウムイオン濃度の基準範囲(C1(ppm)~C2(ppm)の範囲)を外れているか否かを判定する。
【0058】
制御装置12は、ステップS23の後、ステップS24において、ステップS21~S23の判定で基準範囲よりも濃度が大きい成分(過剰濃度の成分)が検出されたか否かを判定する。制御装置12は、ステップS21においてカルシウムイオン濃度が基準範囲(A1(ppm)~A2(ppm)の範囲)の上限値(A2(ppm))以下であると判定し、且つ、ステップS22においてマグネシウムイオン濃度が基準範囲(B1(ppm)~B2(ppm)の範囲)の上限値(B2(ppm))以下であると判定し、且つ、ステップS23においてナトリウムイオン濃度が基準範囲(C1(ppm)~C2(ppm)の範囲)の上限値(C2(ppm))以下であると判定した場合、ステップS24においてNoと判定し、ステップS34の処理を行う。
【0059】
制御装置12は、ステップS34において、不足成分の追加量(投入量)を算出し、その後、ステップS35において、ステップS34で算出された追加量(投入量)の不足成分を追加する指示又は動作を行う。制御装置12は、ステップS21、S22、S23の判定において、いずれの成分も各成分について定められた上限値以下であると判定され、且つ、いずれの成分も各成分について定められた下限値以上あると判定された場合、即ち、いずれの成分も基準範囲内である場合、ステップS34では、不足成分の追加量(投入量)は0とする。この場合、制御装置12は、ステップS35では、不足成分を加える指示及び動作を行わない。この場合、制御装置12は、ステップS35では、いずれの成分も基準範囲を満たす旨の報知を行うようにしてもよい。例えば、制御装置12は、「いずれの成分の濃度も適正です」といったメッセージを表示部18に表示したり、音声部20によって音声で発したりしてもよい。
【0060】
制御装置12は、ステップS21、S22、S23の判定において、いずれかの成分が当該成分について定められた下限値未満であると判定された後にステップS34の処理を行う場合、ステップS34では、当該成分(不足成分)の追加量(投入量)を算出する。この場合の追加量(投入量)は、飼育槽50内の飼育水Wに対して不足成分を当該追加量だけ加えた場合に、不足成分の濃度が基準範囲内になる量である。具体的には、追加量(投入量)は、飼育水Wに対して不足成分を当該追加量だけ加えた場合に、不足成分の濃度が基準範囲における所定の目標値になる量とすることができる。この場合の目標値は、例えば、基準範囲の中心値であってもよく、その他の値(上限値や下限値)であってもよい。具体的には、制御装置12は、ステップS34の開始時点の現在(追加前)の飼育水Wにおいてイオン濃度が基準範囲未満である不足成分の濃度と、飼育水Wの現在(追加前)の量Zwと、上記不足成分のイオン濃度の目標値と、に基づいて、不足成分の追加後に不足成分のイオン濃度が上記目標値(不足成分のイオン濃度の目標値)となるような不足成分の追加量を算出する。例えば、ステップS21において、カルシウムイオンの濃度Axが検出され、この濃度Axがカルシウムイオン濃度の下限値よりも低いと判定された場合においてステップS34の処理を行う場合、カルシウムが不足成分となるため、制御装置12は、ステップS34では、不足成分であるカルシウムの追加量(投入量)Xcを算出する。この追加量Xcは、カルシウムを当該追加量Xcだけ追加した場合に追加後の飼育水のカルシウムイオンの濃度が上記目標値Atとなる量であり、追加前のカルシウムイオンの濃度Axと、飼育槽50内の飼育水Wの量Zwと、目標値Atとが定まれば、追加量Xcは1つの値に定まる。従って、制御装置12は、現在(追加前)の飼育水Wにおけるカルシウムイオン濃度Axと、飼育槽50内の飼育水Wの現在(追加前)の量Zwと、カルシウムイオン濃度の目標値Atと、に基づいて、カルシウムの追加後にカルシウムイオン濃度が上記目標値Atとなるカルシウムの追加量Xcを算出する。
【0061】
制御装置12は、ステップS34において不足成分の追加量(投入量)を算出した後、ステップS35において、飼育水Wに不足成分のミネラルを加える指示又は動作を行う。この場合のミネラルの追加は第1実施形態と同様の方法で行うことができる。例えば、カルシウムイオンが不足成分であり、ステップS34において上記のように追加量(投入量)Xcが決定した場合、制御装置12及びカルシウム供給部30は、ステップS35において、決定した追加量Xcのカルシウムを水溶液又は粉末の状態で飼育槽50内に投入する。或いは、このような動作に代えて、制御装置12は、ステップS35において、表示部18や音声部20と協働し、「Xc(g)のカルシウムを投入してください」というメッセージなどを表示部18に表示したり、音声部20によって音声で発したりしてもよい。
【0062】
なお、ステップS34において2種類以上の成分が不足成分とされた場合、制御装置12は、ステップS34では、2種類以上の不足成分の各々について、上記の方法と同様の方法で各不足成分の各追加量(各投入量)を算出し、ステップS35では、ステップS34で算出された各不足成分の各追加量(各投入量)に基づいて、2種類以上の不足成分の各ミネラルを加える指示又は動作を行う。この例では、制御装置12は、ステップS35において、複数種類のミネラルのそれぞれの濃度を基準に合うように導く指示又は動作を行うことができる。また、制御装置12は、飼育水Wに2種類以上のミネラルを加える指示又は動作を行う場合、上述のように、加える2種類以上のミネラルの各追加量(各投入量)をステップS34においてそれぞれ算出した上で、ステップS35では、ステップS34で算出された各追加量(各投入量)に基づいて混合された2種類以上のミネラルを、飼育水Wに加える指示又は動作を行うこともできる。例えば、制御装置12は、ステップS34において、不足成分がカルシウムイオン、マグネシウムイオンであるとした場合、ステップS34において、不足成分であるカルシウムの追加量(投入量)Xc及びマグネシウムの追加量(投入量)Xmを上述の方法で算出し、その後のステップS35では、ステップS34で算出された各追加量(各投入量)Xc,Xmに基づいて定まる混合比(カルシウムの追加量Xc、マグネシウムの追加量Xmの混合比)でカルシウム及びマグネシウムを混合した上で飼育水Wに加えるように、カルシウム供給部30及びマグネシウム供給部32を動作させる制御(動作)を行ってもよい。この例では、制御装置12、カルシウム供給部30、マグネシウム供給部32は、加えるミネラルの全種類(カルシウム及びマグネシウム)を、ステップS34で算出された各追加量(各投入量)Xc,Xmに基づく混合比(カルシウムの追加量Xc、マグネシウムの追加量Xmの混合比)で混合した上で、飼育水Wに加えるように動作する。なお、この場合の「混合した上で加える動作」は、混合対象である複数のミネラルの投入時期が少なくとも一部の時期で重なっていればよく、複数のミネラルが同一の投入経路から投入されてもよく、別々の投入経路から投入されてもよい。なお、本明細書では、制御装置12が「調整部」の一例に相当するが、「調整部」はミネラルを供給する供給部(例えば、カルシウム供給部30、マグネシウム供給部32、ナトリウム供給部34)を含んでいてもよい。或いは、このような動作に代えて、制御装置12は、ステップS35において、ステップS34で算出された各投入量(各追加量)を使用者が認識又は特定できる報知を行ってもよい。例えば、制御装置12は、ステップS35において、「カルシウムXc(g)、マグネシウムXm(g)を混合して加えてください」というメッセージなどを表示部18に表示したり、音声部20によって音声で発したりしてもよい。なお、ステップS35等において飼育水Wにミネラルを加える動作を行う場合、ミネラルを加える動作は一回で行ってもよいし、複数回に分けて行ってもよい。
【0063】
制御装置12は、ステップS21においてカルシウムイオン濃度が基準範囲(A1(ppm)~A2(ppm)の範囲)よりも大きいと判定した場合、ステップS22においてマグネシウムイオン濃度が基準範囲(B1(ppm)~B2(ppm)の範囲)よりも大きいと判定した場合、ステップS23においてナトリウムイオン濃度が基準範囲(C1(ppm)~C2(ppm)の範囲)よりも大きいと判定した場合、のいずれかの場合には、ステップS24においてYesと判定し、ステップS26の処理を行う。
【0064】
制御装置12は、ステップS26では、ステップS21~S23の判定で基準範囲よりも濃度が大きい成分(過剰成分)が複数検出されたか否かを判定する。制御装置12は、ステップS26の処理において、ステップS21~S23の判定で基準範囲よりも濃度が大きい成分が1つのみ検出されたと判定した場合、ステップS26においてNoと判定し、ステップS27の処理を行う。
【0065】
制御装置12は、ステップS27では、追加水量Xwを算出する。この場合の追加水量Xwは、飼育槽50内の飼育水Wの現在(追加前)の量Zwに対して当該追加水量Xwだけ水を加えた場合に、過剰成分の濃度が当該過剰成分について定められた基準範囲内になる量である。具体的には、追加水量Xwは、飼育水Wの現在の量Zwに対して上記追加水量Xwだけ水を加えた場合に、上記過剰成分の濃度が過剰成分の基準範囲における上述の目標値になる量とすることができる。従って、制御装置12は、ステップS27の実行開始時点の現在(追加前)の飼育水Wにおいて過剰となっている対象成分(過剰成分)の濃度と、飼育水Wの現在(追加前)の量Zwと、上記対象成分の濃度の目標値と、に基づいて、水の追加後に過剰となっている対象成分の濃度が上記目標値となる追加水量Xwを算出する。例えば、ステップS21において、カルシウムイオンの濃度Axが検出され、この濃度Axがカルシウムイオン濃度の基準範囲(A1(ppm)~A2(ppm)の範囲)の上限値(A2(ppm))よりも大きいと判定された場合においてステップS27の処理を行う場合、ステップS27では、追加水量Xwだけ水を追加した場合に追加後の飼育水のカルシウムイオンの濃度が上記目標値Atとなるように上記追加水量Xwを算出する。この追加水量Xwは、ステップS27の実行開始時点の現在(追加前)のカルシウムイオンの濃度Axと、現在(追加前)の飼育槽50内の飼育水Wの量Zwと、上記目標値Atとが定まれば、追加水量Xwは1つの値に定まる。従って、制御装置12は、現在(追加前)の飼育水Wにおけるカルシウムイオン濃度Axと、飼育槽50内の飼育水Wの現在(追加前)の量Zwと、目標値Atと、に基づいて、水の追加後にカルシウムイオン濃度が目標値Atとなる追加水量Xwを算出する。なお、飼育槽50内の飼育水Wの量Zwは、公知の方法で検出することが可能である。例えば、飼育槽50の内縁形状が一定である場合、水位センサによって飼育槽50内の飼育水Wの水位が検出できれば、飼育水Wの量Zwを特定することができる。飼育水Wの量Zwの特定方法はこの方法に限定されず、例えば、水量センサによって飼育槽50内に流入した水の量と流出した水の量を検出することで、現在の飼育水Wの量Zwを特定してもよい。
【0066】
制御装置12は、ステップS26の処理において、ステップS21~S23の判定で基準範囲よりも濃度が大きい成分が複数検出されたと判定した場合、ステップS26においてYesと判定し、ステップS28の処理を行う。
【0067】
制御装置12は、ステップS28では、ステップS28の開始時点でイオン濃度が最も過剰となっている成分(以下、「最も過剰な成分」ともいう)に基づいて追加水量Xwを算出する。「最も過剰な成分」とは、ステップS28の開始時点でイオン濃度が過剰な複数の成分のうち、過剰なイオン濃度を解消して目標値にするための必要水量が最も大きい成分である。制御装置12は、ステップS28では、まず、ステップS28の開始時点の現在(追加前)の飼育水Wにおいて過剰となっている対象成分(過剰成分)の濃度と、飼育水Wの現在(追加前)の量Zwと、上記対象成分の濃度の目標値と、に基づいて、水の追加後に過剰となっている対象成分の濃度を上記目標値にするために追加すべき必要水量を算出する。この必要水量は、いずれかの「過剰成分」に着目し、飼育水Wの現在の量Zwに対して必要水量だけ水を加えた場合に、当該過剰成分の濃度が当該過剰成分において定められた目標値になる量である。例えば、過剰成分としてカルシウムイオンに着目した場合、飼育水Wの現在の量Zwに対して必要水量だけ水を加えた場合に、カルシウムイオンの濃度がカルシウムイオンにおいて定められた目標値Atになる量である。制御装置12は、このような必要水量を、複数の対象成分(過剰成分)の各々に着目してそれぞれ算出し、必要水量が最も大きい成分を「最も過剰な成分」とする。
【0068】
ステップS28で算出する追加水量Xwは、飼育槽50内の飼育水Wの現在の量Zwに対して追加水量Xwだけ水を加えた場合に、上記「最も過剰な成分」の濃度が「最も過剰な成分」において定められた目標値になる量である。制御装置12は、ステップS28の開始時点の現在(追加前)の飼育水Wにおける「最も過剰な成分」の濃度と、飼育水Wの現在(追加前)の量Zwと、「最も過剰な成分」の濃度の目標値と、に基づいて、水の追加後に「最も過剰な成分」の濃度が上記目標値となる追加水量Xwを算出する。例えば、「最も過剰な成分」がカルシウムイオンである場合、制御装置12は、ステップS28の開始時点の現在(追加前)の飼育水Wにおけるカルシウムイオン濃度Axと、飼育槽50内の飼育水Wの現在(追加前)の量Zwと、上記の目標値Atと、に基づいて、水の追加後にカルシウムイオン濃度が目標値Atとなる追加水量Xwを算出する。
【0069】
制御装置は、ステップS27又はステップS28の後、飼育槽50内の飼育水Wに対して上記追加水量Xwの水を追加したと仮定した場合の加水後における他の成分の濃度を算出する。ステップS27の後にステップS29の処理を行う場合、他の成分は、ステップS27で過剰成分とされた成分以外の成分である。ステップS28の後にステップS29の処理を行う場合、他の成分は、ステップS28で「最も過剰な成分」とされた成分以外の成分である。例えば、ステップS27における過剰成分、或いはステップS28における「最も過剰な成分」がカルシウムイオンである場合、いずれの場合でも、ステップS29での「他の成分」はマグネシウムイオン及びナトリウムイオンである。制御装置は、ステップS29では、ステップS27又はS28で算出された追加水量Xwの水が現在の水量Zwに追加された場合の上記他の成分の濃度をそれぞれ算出する。なお、飼育槽50内の飼育水Wにおける他の成分の現在の濃度は既に特定されているため、追加水量Xwの水を追加した後の追加後の飼育槽50内の飼育水の水量(Zw+Xw)が特定されれば、追加水量Xwの水を追加した後の上記他の成分の濃度もそれぞれ特定される。
【0070】
制御装置12は、ステップS29の後、ステップS30において、ステップS29で得られた他の成分の濃度(飼育槽50内に追加水量Xwの水を追加したと仮定した場合の追加後の他の成分の濃度)が基準範囲であるか否かを算出する。例えば、ステップS29において他の成分がマグネシウムイオンである場合、制御装置12は、ステップS30において、ステップS29で得られたマグネシウムイオンの濃度(飼育槽50内に追加水量Xwの水を追加したと仮定した場合の追加後のマグネシウムイオンの濃度)が基準範囲(B1(ppm)~B2(ppm)の範囲)であるか否かを算出する。
【0071】
制御装置12は、ステップS30において他の成分がいずれも基準範囲内であると判定した場合、ステップS31では、上述の追加水量Xwの水を追加する動作又は指示を行う。制御装置12は、ステップS31の処理を行う場合、注水装置28と協働し、追加水量Xwの水を飼育槽50内に投入する。或いは、制御装置12は、表示部18や音声部20と協働し、「Xw(g)の水を注入してください」というメッセージなどで表示部18に表示したり、音声部20によって音声で発したりしてもよい。
【0072】
制御装置は、ステップS30において「他の成分」の少なくともいずれかが基準範囲外(下限値未満)であると判定した場合、ステップS32において、この成分(不足成分となる他の成分)の補充量を算出する。この場合、制御装置12は、追加水量Xwを加えた場合に不足成分となるイオンの濃度と、飼育水Wの現在(追加前)の量Zwと、追加水量Xwと、上記不足成分のイオン濃度の目標値と、に基づいて、「追加水量Xwの水」と「追加量の不足成分」とを追加した後に不足成分のイオン濃度が上記目標値(不足成分のイオン濃度の目標値)となるような不足成分の追加量を算出する。例えば、ステップS32において、カルシウムイオンが「他の成分」のうちの不足成分(現在の水量Zwに対して追加水量Xwを加えた場合にイオン濃度が下限値未満となる成分)である場合、制御装置12は、ステップS32の開始時点の現在(追加前)の飼育水Wにおけるカルシウムイオンの濃度Axと、飼育水Wの現在(追加前)の量Zwと、追加水量Xwと、カルシウムイオン濃度の目標値Atと、に基づき、現在の飼育水Wに対して「追加水量Xwの水」と「追加量Xcのカルシウム」とを追加した後にカルシウムイオン濃度が上記目標値Atとなるようなカルシウムの追加量Xcを算出する。なお、追加水量Xwの水を加えた場合に複数の成分が不足成分(イオン濃度が下限値未満となる成分)になるとステップS30において判定された場合、各々の不足成分について、上記追加量を算出すればよい。
【0073】
制御装置12は、ステップS32の後、ステップS33において、「追加水量Xwの水」と「1以上の不足成分」を飼育水Wに加える指示又は動作を行う。制御装置12は、ステップS33では、追加水量Xwの水を追加する動作又は指示をステップS31と同様に行うことができる。また、制御装置12は、不足するミネラルを追加する動作又は指示を、ステップS35と同様に行うことができる。「追加水量Xwの水」を飼育水Wに加える動作又は指示と、「1以上の不足成分」を飼育水Wに加える動作又は指示は、同時期に行われることが望ましい。「追加水量Xwの水」と「1以上の不足成分」を飼育水Wに同時期に加えることで、ミネラルの濃度が基準範囲から乖離することを防止あるいは軽減しつつ、ミネラルの濃度を調整することができる。「同時期」とは、水を加える期間の少なくとも一部が、1以上の不足成分を加える期間と重なることを意味する。
【0074】
このように、制御装置12は、飼育水Wに水を加える指示又は動作を行う場合、飼育水Wに水を加える指示又は動作を行う前に、ステップS27又はS28において、必要な追加水量Xw(水投入量)を算出し、その後のステップS29において「他の成分の濃度」を算出することで、追加水量Xw(水投入量)の水を加えた事による複数種類のミネラルの濃度の変化を予測する。そして、制御装置12は、このような予測を行った場合において、追加水量(水投入量)Xwの水を追加することで複数種類のミネラルの内の少なくとも一種類のミネラルの濃度が基準よりも小さくなると予測されたときには、ステップS32において、上記「少なくとも一種類のミネラル」の濃度が基準に合うために必要なミネラル投入量として「他の成分の補充量」を算出し、ステップS33では、算出された追加水量(水投入量)Xwに基づいて水を加える指示又は動作を行うと共にステップS32で算出されたミネラル投入量(他の成分の補充量)に基づいて「少なくとも一種類のミネラル」を加える指示又は動作を行う。なお、制御装置12は、ステップS33において飼育水Wに2種類以上のミネラルを加える指示又は動作を行う場合でも、ステップS35において2種類以上のミネラルを飼育水に加える指示又は動作と同様に行うことができ、例えば、「ステップS32で算出された2種類以上のミネラル投入量」に基づいて混合された2種類以上のミネラルを飼育水Wに加える指示又は動作を行うことができる。一方、制御装置12は、ステップS29において上記のような予測を行った場合において、ステップS30でYesとなる場合、即ち、複数種類のミネラルの内で基準よりも濃度が小さくなるミネラルが無いと予測されたときには、ステップS31では、算出された追加水量Xw(水投入量)に基づいて水を加える指示又は動作を行う。
【0075】
<他の実施形態>
本発明は、上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではない。例えば、上述又は後述の実施形態の特徴は、矛盾しない範囲であらゆる組み合わせが可能である。また、上述又は後述の実施形態のいずれの特徴も、必須のものとして明示されていなければ省略することもできる。更に、上述した実施形態を、次のように変更してもよい。
【0076】
上記実施形態では、ミネラルセンサとして、カルシウムセンサ、マグネシウムセンサ、ナトリウムセンサを例示したが、これらのうちの1つまたは2つのみが設けられていてもよい。或いは、これらのミネラルセンサと併用して又はこれらのミネラルセンサに代えて、他種のミネラルセンサが設けられていてもよい。
【0077】
上記実施形態では、養殖システムSyで養殖する水生生物として、エビを例示したが、エビ以外の甲殻類(カニ、オキアミ等)であってもよく、魚類、貝類、水産動物類、海産ほ乳類、海藻類などの水生生物であってもよい。また、養殖システムが対象とする養殖は、「塩分を含む水で水産物を養殖する水産養殖」であってもよく、「塩分を含まない水での水産物を養殖する水産養殖」であってもよい。
【0078】
上記実施形態では、循環経路の一例として循環経路70を例示したが、飼育槽内の飼育水を飼育槽の外部で循環させて飼育槽に戻す経路であれば図1の構成に限定されず、様々な構成を採用することができる。
【0079】
上記実施形態では、ミネラルセンサが飼育槽50内の飼育水のミネラル濃度を検出する例を示したが、ミネラルセンサが循環経路70内の飼育水のミネラル濃度を検出してもよい。例えば、沈殿槽52内の飼育水のミネラル濃度を検出してもよく、管路66A~66G内の飼育水のミネラル濃度を検出してもよい。
【0080】
上記実施形態では、ミネラル濃度が基準範囲の下限値よりも小さい場合、ステップS3、S6、S9では、検出されたミネラル濃度と下限値との差分に応じた投入量でミネラルを投入したが、ミネラル濃度が基準範囲の下限値よりも小さい場合、予め定められた一定量のミネラルを投入してもよい。
【0081】
上記実施形態では、ミネラル濃度が基準範囲の上限値よりも大きい場合、ステップS3、S6、S9では、検出されたミネラル濃度と上限値との差分に応じた投入量で水を投入したが、ミネラル濃度が基準範囲の上限値よりも大きい場合、予め定められた一定量の水を投入してもよい。
【0082】
上記実施形態では、飼育水のミネラル濃度を基準範囲内に導く動作の一例として、ミネラル濃度が下限値よりも小さい場合にステップS3、S6、S9においてミネラル投入動作を行う例を示したが、ミネラルの投入動作に代えて、「飼育水のミネラル濃度を基準範囲内に導く指示」を行うようにしてもよい。例えば、上記実施形態では、カルシウム濃度が下限値よりも小さい場合にステップS3でカルシウムの投入動作を行ったが、カルシウムの投入動作に代えて、カルシウムの投入を表示や音声によって作業者に指示してもよい。例えば、「カルシウムを投入してください」というメッセージを表示部18に表示したり、音声部20によって音声で発したりしてもよい。或いは、上記実施形態と同様の方法でカルシウムの投入量を算出し、算出した投入量を例えば、「○○gのカルシウムを投入してください」というメッセージなどで表示部18に表示したり、音声部20によって音声で発したりしてもよい。ステップS6におけるマグネシウムの調整や、ステップS9におけるナトリウムの調整についても同様に行うことができる。また、上記実施形態では、カルシウム濃度が上限値よりも大きい場合にステップS3で水の注入動作を行ったが、水の注入動作に代えて、水の注入を表示や音声によって作業者に指示してもよい。例えば、「水を注入してください」というメッセージを表示部18に表示したり、音声部20によって音声で発したりしてもよい。或いは、上記実施形態と同様の方法で水の注入量を算出し、算出した注入量を例えば、「○○gの水を注入してください」というメッセージなどで表示部18に表示したり、音声部20によって音声で発したりしてもよい。また、水の注入動作に際し、水の排出も行い、水交換としてもよい。また、「飼育水のミネラル濃度を基準範囲内に導く指示」として、「〇〇を投入してください」といった直接的に指示するメッセージの代わりに、「〇〇が不足しています」「〇〇が過剰です」という警告表示や「〇〇の投入を推奨します」といった推奨するメッセージ等の、作業者にミネラル濃度を基準範囲内に導く動作を喚起するメッセージを表示してもよい。また、表示部18に表示されるメッセージは、文章に限られず、例えば、「要投入」と書かれた枠組みの中にミネラルや水を示すアイコンを表示する、不足しているミネラル成分を投入する動画を表示する等、画像や動画を用いて表示しても良い。
【0083】
上記実施形態では、飼育水のミネラル濃度の調整のため、基準値(基準となる数値範囲である基準範囲)を定め、ミネラル濃度が基準値の上下限から外れた場合に濃度調整動作を行う例を示したが、この形態に限られない。例えば、基準は数値範囲ではなく、1点の数値でも良く、また、育成段階等に応じて適宜変化させても良い。例えば、基準を数値範囲でなく、1点の数値とする例としては、第1、第2実施形態において、上述のカルシウムイオンの基準範囲A1(ppm)~A2(ppm)を、A1=A2とするように変更し、上述のマグネシウムイオンの基準範囲B1(ppm)~B2(ppm)を、B1=B2とするように変更し、上述のナトリウムイオンの基準範囲C1(ppm)~C2(ppm)を、C1=C2とするように変更すればよい。加えて、第2実施形態においては、カルシウムイオンの基準(基準値)及び目標値をいずれもA1とし、マグネシウムイオンの基準(基準値)及び目標値をいずれもB1とし、ナトリウムイオンの基準(基準値)及び目標値をいずれもC1とすればよい。
【0084】
上記実施形態では、制御装置12は、飼育水Wに2種類以上のミネラルを加える指示又は動作を行う場合、加えられる2種類以上のミネラルの追加量を算出し、算出された追加量に従って全てのミネラルを混合し、追加していたが、追加量に加えてそれらの混合比や複数回に分けて追加する際の一度あたりに追加する量を算出してもよい。不足成分や飼育環境によっては、全ての不足成分を一度に投入するよりも混合比を調整しつつ、段階的に投入することで、飼育水W中のミネラルの濃度の変化速度を抑えたりした方が望ましい場合があるためである。この算出は、ステップS32の、水と共に加えるミネラルが複数種類ある場合に行っても良い。
【0085】
上記実施形態において、飼育水Wに水及びミネラルを追加する動作又は指示を行う際は、同時期に行われることが望ましいが、飼育水への溶解のしやすさや作業者の作業性を鑑みて、養殖対象の水生生物への悪影響がない範囲で多少のタイムラグを設けても良い。
【0086】
制御装置12は、飼育水に加えられるミネラルの量(例、単位時間あたりのミネラルの追加量)と、飼育水におけるこのミネラルの濃度の時間変化との関係を表す情報を生成してもよい。制御装置12は、飼育水に加えられる水の量(例、単位時間あたりの水の追加量)と、飼育水におけるミネラルの濃度との関係を表す情報を生成してもよい。以下の説明において適宜、水とミネラルとの一方又は双方が飼育水に加えられた際のミネラルの濃度変化を表す情報を濃度応答情報という。制御装置12は、例えば、飼育水に加えられるミネラルの量の時間履歴と、このミネラルの濃度の時間変化とを対応付けることで、濃度応答情報を生成してもよい。飼育水に加えられるミネラルの量の時間履歴は、例えば、制御装置12が各ミネラルの供給部を制御する際の指令によって得られる。ミネラルの濃度の時間変化は、例えば、ミネラルセンサの検出結果から得られる。制御装置12は、例えば、飼育水にミネラルの追加を開始して時刻からのミネラルの濃度の時間変化を機械学習してもよい。制御装置12は、学習結果を利用して、例えば濃度のオーバーシュートを減らすように、各ミネラルの供給部を制御してもよい。制御装置12は、例えば、ミネラルの投入量を決定することに用いられる関数(例、数式、演算テーブル)を、学習結果を利用して更新してもよい。
【0087】
制御装置12は、例えば、記憶部16に記憶されたプログラムを読み出し、このプログラムに従って各種処理を実行する。上記プログラムは、例えば、コンピュータに水生生物を飼育する飼育槽内の飼育水又は飼育槽の外部で飼育水を循環させる循環経路内の飼育水に含まれるミネラルの濃度と所定の基準とを比較することを実行させる。ミネラルの濃度が基準を外れた場合に、上記プログラムは、コンピュータに、飼育水のミネラルの濃度を基準に合うように導く指示又は動作を行う制御を実行させてもよい。飼育水に2種類以上のミネラルを加える指示又は動作を行う場合、上記プログラムは、コンピュータに、加える2種類以上のミネラルの投入量を算出することを実行させてもよい。上記プログラムは、コンピュータに、投入量に基づいて混合された2種類以上のミネラルを飼育水に加える指示又は動作を行う制御を実行させてもよい。上記プログラムは、コンピュータに、飼育水に水を加える指示又は動作が行われる前に、必要な水投入量を算出することと、算出された水投入量の水を加えた事による複数種類のミネラルの濃度の変化を予測することと、複数種類のミネラルの内の少なくとも一種類のミネラルの濃度が基準よりも小さくなると予測されたときに、少なくとも一種類のミネラルの濃度が基準に合うために必要なミネラル投入量を算出することとを実行させてもよい。上記プログラムは、コンピュータに、算出された水投入量に基づいて水を加える指示又は動作を行う制御と、ミネラル投入量に基づいて少なくとも一種類のミネラルを加える指示又は動作を行う制御とを実行させてもよい。上記プログラムは、コンピュータに、複数種類のミネラルのうち基準よりも濃度が小さくなるミネラルが無いと予測されたときに、算出された水投入量に基づいて水を加える指示又は動作を行う制御を実行させてもよい。上記プログラムは、コンピュータに、上述の各種処理の一部を実行させなくてもよい。上記プログラムは、コンピュータ読み取り可能な記憶媒体に記録されて提供されてもよい。上記プログラムは、コンピュータシステムに記録されているプログラム(例、オペレーティングシステム)との組み合わせによって、各種処理を実行する差分プログラム、又は差分ファイルでもよい。
【0088】
なお、ミネラルは、一般的な有機物に含まれる4元素(炭素・水素・窒素・酸素)以外の無機質のうち、水生生物の生育に影響を及ぼす元素であればよい。つまり、本発明でいうミネラルは、カルシウム、マグネシウム、ナトリウムに限定されず、カリウム等も該当する。
【0089】
なお、今回開示された実施の形態は全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、今回開示された実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示された範囲内又は特許請求の範囲と均等の範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0090】
12…制御装置(調整部)
22…カルシウムセンサ(ミネラルセンサ)
24…マグネシウムセンサ(ミネラルセンサ)
26…ナトリウムセンサ(ミネラルセンサ)
50…飼育槽
70…循環経路
Sy…養殖システム
W…飼育水
図1
図2
図3
図4
図5