(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-19
(45)【発行日】2023-04-27
(54)【発明の名称】電機子の製造方法
(51)【国際特許分類】
H02K 15/04 20060101AFI20230420BHJP
H02K 15/085 20060101ALI20230420BHJP
【FI】
H02K15/04 F
H02K15/085
(21)【出願番号】P 2023514942
(86)(22)【出願日】2022-11-18
(86)【国際出願番号】 JP2022042932
【審査請求日】2023-03-03
(31)【優先権主張番号】P 2022009724
(32)【優先日】2022-01-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004640
【氏名又は名称】日本発條株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小林 大
(72)【発明者】
【氏名】廣田 雄史
【審査官】尾家 英樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-115139(JP,A)
【文献】特開2019-208323(JP,A)
【文献】特開2019-80451(JP,A)
【文献】特開2018-98991(JP,A)
【文献】特開2014-107877(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 15/04
H02K 15/085
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のスロットが形成されたコアと、前記コアの各スロットに両脚部が挿入され、前記コアの径方向に複数の層状に重ねられて円環状に整列された複数のセグメントコイルとを備えた電機子の製造方法であって、
前記複数のセグメントコイルの両脚部を前記コアの各スロットに対して前記コアの軸方向一方側からそれぞれ挿入し、
少なくとも一つの歯を有するツールをロボットマニピュレータで移動させることにより、各前記層の前記端末間に前記少なくとも一つの歯を前記軸方向他方側から前記軸方向一方側へ向けて挿入し、
前記端末間への前記少なくとも一つの歯の挿入の際に、前記少なくとも一つの歯の挿入方向及び前記径方向と直交する軸線回りに前記ツールを傾斜させることにより、前記少なくとも一つの歯の先端を前記端末の絶縁被膜に対して非接触とする電機子の製造方法。
【請求項2】
前記少なくとも一方の歯の挿入の際には、前記ツールを前記軸方向一方側へ向けて移動させつつ前記軸線回りに回転させる請求項1に記載の電機子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電機子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
国際公開第2019/093515号には、回転電機の電機子におけるコアの端面から突出したセグメントコイルの脚部の端末にツイスト加工を施すセグメントコイルの加工方法が開示されている。ツイスト加工が施された複数のセグメントコイル脚部の端末は、溶接等により互いに電気的に接合される。この加工方法では、複数のセグメントコイルがコアの径方向に複数の層状に重ねられて円環状に整列される。そして、コア端面から突出したセグメントコイル脚部の端末にツイスト加工が施される。このツイスト加工の前には捌き処理(層間拡大処理)が実施される。この捌き処理では、層間拡大部材が有する捌き部材がコアの径方向及び軸方向に移動され、各層のセグメントコイル脚部の端末を径方向に離間させることにより、各層のセグメントコイル脚部の端末間の隙間を拡大される。これにより、ツイスト治具に対するセグメントコイル脚部の端末の位置合わせの煩雑さや面倒さを低減し、ツイスト工程における作業能率の向上を図るようにしている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記の先行技術では、捌き部材がコアの径方向及び軸方向に移動される際にセグメントコイル脚部の端末と摺接し、端末の絶縁被膜が損傷する可能性がある。
【0004】
本開示は上記事実を考慮し、セグメントコイル脚部の端末の絶縁被膜が層間隙間の拡大時に損傷することを防止できる電機子の製造方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
第1の態様の電機子の製造方法は、複数のスロットが形成されたコアと、前記コアの各スロットに両脚部が挿入され、前記コアの径方向に複数の層状に重ねられて円環状に整列された複数のセグメントコイルとを備えた電機子の製造方法であって、前記複数のセグメントコイルの両脚部を前記コアの各スロットに対して前記コアの軸方向一方側からそれぞれ挿入し、少なくとも一つの歯を有するツールをロボットマニピュレータで移動させることにより、各前記層の前記端末間に前記少なくとも一つの歯を前記軸方向他方側から前記軸方向一方側へ向けて挿入し、前記端末間への前記少なくとも一つの歯の挿入の際に、前記少なくとも一つの歯の挿入方向及び前記径方向と直交する軸線回りに前記ツールを傾斜させることにより、前記少なくとも一つの歯の先端を前記端末の絶縁被膜に対して非接触とする。
【0006】
第1の態様の電機子の製造方法では、複数のスロットが形成されたコアと、コアの各スロットに両脚部が挿入され、コアの径方向に複数の層状に重ねられて円環状に整列された複数のセグメントコイルとを備えた電機子が製造される。この製造方法では、複数のセグメントコイルの両脚部がコアの各スロットに対してコアの軸方向一方側からそれぞれ挿入される。そして、少なくとも一つの歯を有するツールがロボットマニピュレータで移動されることにより、各層のセグメントコイル脚部の端末間に上記少なくとも一つの歯が上記軸方向他方側から上記軸方向一方側へ向けて挿入される。これにより、各層のセグメントコイル脚部の端末間の隙間が拡大される。上記少なくとも一つの歯の挿入の際には、上記少なくとも一つの歯の挿入方向及び上記径方向と直交する軸線回りにツールが傾斜されることにより、上記少なくとも一つの歯の先端がセグメントコイル脚部の端末の絶縁被膜に対して非接触とされる。これにより、セグメントコイル脚部の端末の絶縁被膜が損傷することを防止できる。
【0007】
第2の態様の電機子の製造方法は、第1の態様において、前記少なくとも一つの歯の挿入の際には、前記ツールを前記軸方向一方側へ向けて移動させつつ前記軸線回りに回転させる。
【0008】
第2の態様の電機子の製造方法では、各層のセグメントコイル脚部の端末間にツールの少なくとも一つの歯が挿入される際には、ツールがコアの軸方向一方側へ向けて移動されている状態で、少なくとも一つの歯の挿入方向及びコアの径方向と直交する軸線回りにツールが回転される。これにより、少なくとも一つの歯の挿入によってコアの径方向に変位するセグメントコイル脚部の位置に応じて少なくとも一つの歯の傾きを調整することができる。
【発明の効果】
【0009】
以上説明したように、本開示に係る電機子の製造方法では、セグメントコイル脚部の端末の絶縁被膜が層間隙間の拡大時に損傷することを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施形態に係る電機子の製造方法によるステータの製造途中の状態を示す斜視図である。
【
図3】ステータコアの各スロットへのセグメントコイル脚部の挿入方法を説明するための平面図である。
【
図4】セグメントコイルの押込工程について説明するための断面図である。
【
図5】層間拡大装置の主要部を含む周辺の構成を示す側面図である。
【
図6】複数層に重なるセグメントコイルの脚部がクランプによって挟持された状態を示す側面図である。
【
図7】各層のセグメントコイル脚部の端末間にツールの櫛歯の先端が挿入された状態を示す側面図である。
【
図8】
図7の一部を拡大して示す拡大側面図である。
【
図9】各層のセグメントコイル脚部の端末間にツールの櫛歯が挿入される際にツールが傾斜された状態を示す側面図である。
【
図10】
図9の一部を拡大して示す拡大側面図である。
【
図11】各層のセグメントコイル脚部の端末間にツールの櫛歯が挿入されている途中で櫛歯が鉛直にされた状態を示す側面図である。
【
図12】第1比較例において、ツールが傾斜されない状態で各層のセグメントコイル脚部の端末間に櫛歯が挿入されている状態を示す側面図である。
【
図14】第2比較例において、各層のセグメントコイル脚部の端末間にツールの櫛歯が挿入される際にツールがステータコアの径方向外側へ移動されて上記端末間が拡張された状態を示す側面図である。
【
図16】第2比較例において、各層のセグメントコイル脚部の端末間が拡張された状態でツールの櫛歯がステータコアの軸方向一方側へ移動されている状態を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、
図1~
図11を参照して本開示の一実施形態に係る電機子の製造方法について説明する。なお各図においては、図面を見易くする関係から一部の符号を省略している場合がある。
図1には、本実施形態に係る電機子の製造方法によって製造されるステータ10の製造途中の状態が斜視図にて示されている。このステータ10(固定子;電機子)は、多数のスロット16が形成されたステータコア14と、ステータコア14の各スロット16に両脚部42A、42Bが挿入され、ステータコア14の径方向に複数の層状に重ねられて円環状に整列される多数のセグメントコイル(平角線コイル)40とを備えている。
【0012】
ステータコア14は、本開示における「コア」に相当する。このステータコア14は、多数枚の電磁鋼板が積層されて円筒状に形成されている。ステータコア14の内周部には、多数のスロット16が形成されている。多数のスロット16は、ステータコア14の軸方向の両側及び径方向の内側が開放されている。なお、
図4~
図7及び
図9において、矢印Y1、矢印Y2及び矢印Xは、ステータコア14の軸方向一方、軸方向他方及び径方向をそれぞれ示している。以下、ステータコア14の軸方向を単に「軸方向」と称し、ステータコア14の径方向を単に「径方向」と称し、ステータコア14の周方向を単に「周方向」と称する場合がある。
【0013】
図2A~
図2Cに示されるように、セグメントコイル40は、絶縁被膜によって覆われた銅等からなる平角線がU字状に成形されて製造されたものであり、互いに平行に延びる一対の脚部42A、42Bと、一対の脚部42A、42Bの一端部同士を繋いだ曲げ部(ターン部)44とによって構成されている。周方向の一方側の脚部42Aは、周方向の他方側の脚部42Bよりも軸方向に若干長く形成されている。また、各脚部42A、42Bの先端部においては、絶縁被膜が除去されている。
【0014】
曲げ部44の中央部は、
図2Cに示されるように、曲げ部44の一端側が曲げ部44の他端側に対して径方向にずれて配置されるようにクランク状に屈曲されている。この曲げ部44が形成されることによって脚部42Aと脚部42Bとの径方向の位置関係が変わるように構成されている。これにより、
図2Cに二点鎖線で示されるように、複数のセグメントコイル40が径方向に積層される。
【0015】
図1に示されるように、多数のセグメントコイル40は、両脚部42A、42Bがステータコア14の各スロット16に対して軸方向の一方側からそれぞれ挿入され、ステータコア14の径方向に複数層に重ねられて円環状に整列される。
図3に示されるように、セグメントコイル40がスロット16を周方向に一つずつずらして順次挿入されて一周することにより一つの層が形成される。本実施形態では、
図4に示されるように、セグメントコイル40の3つの層46A、46B、46Cが形成される。なお、本実施形態では一例として、各スロット16における径方向内側の端部に、スロット16からのセグメントコイル40の脱落を防止する抜止部18(
図3参照)が形成されている。
【0016】
図4に示されるように、本実施形態では、3つの層46A、46B、46Cにおける内側の層46Aから外側の層46Cへ向かうほどセグメントコイル40の脚部42A、42Bにおける軸方向の長さが段階的に長くなるように設定されている。また、
図3及び
図4に示されるように、各スロット16内においては、各層46A、46B、46C毎に、一のセグメントコイル40の一方側の脚部42Aが、他のセグメントコイル40の他方側の脚部42Bに対して径方向の外側に重ね合わされる。
【0017】
なお、ステータコア14への多数のセグメントコイル40の挿入は、例えば多数のセグメントコイル40を円環状の整列治具にセットすることで、円環状に整列されたセグメントコイル40の組体を形成し、その組体ごとステータコア14の各スロット16に挿入する方法を採用することができる。また、例えばステータコア14の各スロット16に、セグメントコイル40を一つずつ挿入していく方法を採用してもよい。何れの方法を採用する場合であっても、多数のセグメントコイル40は、ステータコア14の各スロット16に対して途中までしか挿入されない。このため、ステータコア14の各スロット16に多数のセグメントコイル40を挿入した後で、さらにステータコア14に対して多数のセグメントコイル40を押し込む押込工程が実施される。
【0018】
本実施形態では、
図4に示される第1治具50及び第2治具60を用いて、多数のセグメントコイル40の押込工程が行われる。この押込工程により、多数のセグメントコイル40がステータコア14に対して設定された位置まで押し込まれる。この押込工程が行われると、複数の層46A、46B、46Cの内側の層46Aから外側の層46Cへ向かうほどステータコア14の軸方向他方側の端面14Aからの脚部42A、42Bの端末の突出量が段階的に長くなる。なお、以下の説明では、セグメントコイル40の脚部42A、42Bを、単に「脚部42」と称する場合がある。
【0019】
上記の押込工程が完了すると、次の工程である層間拡大工程に移行する。層間拡大工程では、
図5に示されるように、押込工程後のステータ10が複数のセグメントコイル40の脚部42の端末を上方に向ける姿勢で図示しないターンテーブル上に載置される。なお、
図5では複数のセグメントコイル40の曲げ部44を概略的に図示している。上記のターンテーブルは、
図5に示される層間拡大装置70の一部を構成している。
【0020】
層間拡大工程では、上記の層間拡大装置70を用いて各層46A、46B、46Cの脚部42の端末間の径方向の隙間(以下、単に「端末間の隙間」と称する)が拡大される。この隙間拡大は、一例として1つのスロット16毎に順次行われる。この隙間拡大により、同じスロット16に挿入された複数(ここでは6つ)の脚部42が各層46A、46B、46Cのペア42A、42B毎に互いに離間される。これにより、層間拡大工程の後で実施されるツイスト工程において、ツイスト治具に対する脚部42の端末の位置合わせが容易になり、ツイスト工程における作業能率が向上する。なお、
図5において48は、セグメントコイル40の脚部42をステータコア14に対して絶縁するための絶縁紙(
図1、
図3及び
図4では図示省略)である。
【0021】
上記の層間拡大装置70は、ロボットマニピュレータ72と、ツール74と、クランプ78と、プッシャ84とを含んで構成されている。ロボットマニピュレータ72は、例えば6軸の垂直多関節型ロボットの本体部を構成しており、図示しないコントローラによって動作を制御される。なお、
図5においてθは、ロボットマニピュレータ72の第5軸回りの回転角を示している。
【0022】
ツール74は、ロボットマニピュレータ72の先端に取り付けられたエンドエフェクタであり、例えば金属によって構成されている。このツール74は、櫛の歯状に形成された櫛歯76を有している。櫛歯76は、ロボットマニピュレータ72の第6軸の軸方向に間隔をあけて並ぶ複数(ここでは3つ)の歯76A、76B、76Cを有している。3つの歯76A、76B、76Cは、上記第6軸の軸方向を板厚方向とし且つ上記第6軸の径方向を長手方向とする板状に形成されており、先端が片刃状に尖っている。このツール74は、3つの歯76A、76B、76Cが下方へ向けて延び且つ3つの歯76A、76B、76Cの歯並び方向が径方向と同じ方向となる姿勢でステータ10の上方に配置される。この状態では、3つの歯76A、76B、76Cは、片刃状に傾斜した面が径方向外側を向く姿勢となる。なお、ツール74は、少なくとも1つの歯を有していればよい。
【0023】
クランプ78は、内径側コイル押え80と外径側コイル押え82とを有している。内径側コイル押え80及び外径側コイル押え82は、例えば金属によって板状に形成されている。内径側コイル押え80は、内側の層46Aの脚部42Aの端末におけるステータコア14の端面14Aからの突出部分の根元に対してステータコア14の径方向の内側に配置される。外径側コイル押え82は、外側の層46Cの脚部42Bの端末におけるステータコア14の端面14Aからの突出部分の根元に対してステータコア14の径方向の外側に配置される。これらの内径側コイル押え80及び外径側コイル押え82は、図示しないアクチュエータよってステータコア14の径方向に移動される(
図5の矢印A及び矢印B参照)。これらの内径側コイル押え80及び外径側コイル押え82によって、各層46A、46B、46Cの脚部42の端末における端面14Aからの突出部分の根元を径方向に挟持可能とされている。
【0024】
プッシャ84は、例えば樹脂によってブロック状に形成されており、外側の層46Cの脚部42Bの端末におけるステータコア14の端面14Aからの突出部分の先端部に対してステータコア14の径方向の外側に配置される。このプッシャ84は、図示しないアクチュエータによって径方向に移動される(
図5の矢印C参照)。このプッシャ84によって、外側の層46Cの脚部42の端末を径方向の内側へ押圧可能とされている。
【0025】
上記構成の層間拡大装置70は、上述したロボットマニピュレータ72、ターンテーブル及び各アクチュエータが図示しないコントローラによって動作を制御されることにより、層間拡大工程を実施する。この層間拡大工程では、先ず
図6に示されるように、各層46A、46B、46Cの脚部42の端末におけるステータコア14の端面14Aからの突出部分の根元がクランプ78によって径方向に挟持される(
図6の矢印A1及び矢印B1参照)。これにより、各層46A、46B、46Cの脚部42の端末が径方向に位置決めされ、絶縁紙48が保護され、各層46A、46B、46Cの脚部42の曲げ起点が生成され、各層46A、46B、46Cの脚部42の軸方向移動が規制される。
【0026】
次いで、
図7に示されるように、ツール74がロボットマニピュレータ72によって軸方向及び径方向に移動される(
図7の矢印D1、矢印E1及び矢印D2参照)。これにより、
図7及び
図8に示されるように、ツール74の櫛歯76の先端が各層46A、46B、46Cの脚部42の端末間に挿入される。具体的には、櫛歯76の歯76Bの先端が層46Aと層46Bとの間に挿入され、櫛歯76の歯76Cの先端が層46Bと層46Cとの間に挿入される。
【0027】
次いで、ツール74がロボットマニピュレータ72によって軸方向一方側(下方側)へ移動されることにより、櫛歯76の歯76B、76Cが各層46A、46B、46Cの脚部42の端末間に軸方向他方側(上方側)から軸方向一方側(下方側)へ向けて挿入される。この挿入の際には、櫛歯76の歯並び方向(径方向)及び挿入方向と直交する軸線回り(ここではロボットマニピュレータ72の第5軸回り)にツール74が傾斜される。この際には、櫛歯76の歯76A、76B、76Cの各先端が軸方向一方側かつ径方向外側へ変位するようにツール74が傾斜される。これにより、
図9及び
図10に示されるように、櫛歯76の歯76A、76B、76Cの各先端が脚部42の端末の絶縁被膜に対して非接触とされる。
【0028】
本実施形態では、一例として、
図9に矢印F1で示されるようにツール74がロボットマニピュレータ72の第5軸回りに傾斜された後で、
図9に矢印D3で示されるようにツール74が軸方向一方側へ向けて移動される。また、本実施形態では、各層46A、46B、46Cの脚部42の端末間に櫛歯76が挿入される際には、ツール74が軸方向一方側へ移動されている状態で、ツール74がロボットマニピュレータ72の第5軸回りに回転される。これにより、例えば
図11に矢印Gで示されるようにツール74が軸方向一方側へ移動されている途中において、ツール74が矢印F2で示されるようにロボットマニピュレータ72の第5軸回りに回転され、ツール74の櫛歯76が鉛直にされる。
【0029】
なお、ツール74をロボットマニピュレータ72の第5軸回りに傾斜させながら、各層46A、46B、46Cの脚部42の端末間に櫛歯76を挿入してもよい。また、各層46A、46B、46Cの脚部42の端末間に櫛歯76を挿入しきった状態でツール74が傾斜していてもよいし、傾斜していなくてもよい。
【0030】
各層46A、46B、46Cの脚部42の端末間に櫛歯76が挿入しきると、ツール74がロボットマニピュレータ72によって移動されることにより、各層46A、46B、46Cの脚部42の端末が所定の形状(略クランク形状)に曲げられる。その後、ツール74がロボットマニピュレータ72によって上昇され、各層46A、46B、46Cの脚部42の端末間から櫛歯76が引き抜かれる。これにより、層間拡大工程が完了する。なお、本実施形態では、一例として1つのスロット16毎に層間拡大の処理が行われる構成にしたが、これに限るものではない。ロボットマニピュレータ72等の層間拡大装置70の構成部材が複数設けられることにより、複数のスロット16毎に層間拡大の処理が行われるようにしてもよい。
【0031】
(実施形態のまとめ)
本実施形態に係るステータの製造方法では、複数のスロット16が形成されたステータコア14と、ステータコア14の各スロット16に両脚部42A、42Bが挿入され、ステータコア14の径方向に複数層46A、46B、46Cに重ねられて円環状に整列された複数のセグメントコイル40とを備えたステータ10が製造される。この製造方法では、複数のセグメントコイル40の両脚部42A、42Bがステータコア14の各スロット16に対してステータコア14の軸方向一方側からそれぞれ挿入される。
【0032】
そして、櫛歯76を有するツール74がロボットマニピュレータ72で移動されることにより、各層46A、46B、46Cの脚部42の端末間に櫛歯76が軸方向他方側から軸方向一方側へ向けて挿入される。これにより、各層46A、46B、46Cの脚部42の端末間の隙間が拡大される。上記櫛歯76の挿入の際には、櫛歯76の歯並び方向及び挿入方向と直交する軸線回りにツール74が傾斜されることにより、櫛歯76の先端が脚部42の端末の絶縁被膜に対して非接触とされる。これにより、脚部42の端末の絶縁被膜が損傷することを防止できる。
【0033】
また、本実施形態では、ステータコア14の軸方向他方側の端面14Aからの脚部42の端末の突出量は、上記複数の層46A、46B、46Cの内側の層46Aから外側の層46Cへ向かうほど段階的に長くなるように設定される。これにより、各層46A、46B、46Cの脚部42の端末間の隙間を拡大し易くなる。また、後のツイスト工程でのツイスト加工が容易になる。
【0034】
また、本実施形態では、各層46A、46B、46Cの脚部42の端末間にツール74の櫛歯76が挿入される際には、ツール74がステータコア14の軸方向一方側へ向けて移動されている状態で、櫛歯76の歯並び方向及び挿入方向と直交する軸線回りにツール74が回転される。これにより、櫛歯76の挿入によってステータコア14の径方向に変位する脚部42の位置に応じて櫛歯76の傾きを調整することができる。
【0035】
以下、
図12~
図17に示される比較例を参照しながら本実施形態の効果について補足する。
図12及び
図13に示される第1比較例では、ツール74が傾斜されない状態で各層46A、46B、46Cの脚部42の端末間に櫛歯76が挿入される(
図12の矢印D4参照)。この第1比較例では、
図13に示されるように、櫛歯76の先端が脚部42の端末の側面と摺接することにより、脚部42の端末の絶縁被膜が損傷する。
【0036】
一方、
図14に示される第2比較例では、各層46A、46B、46Cの脚部42の端末間にツール74の櫛歯76が挿入される際に、櫛歯76の歯76A、76B、76Cの各先端側が各層46A、46B、46Cの脚部42の端末に接触した状態でツール74がステータコア14の径方向外側へ移動される(
図14の矢印E2及び矢印D5参照)。これにより、各層46A、46B、46Cの脚部42の端末間が径方向の外側へ拡大される。これにより、
図15に示されるように、櫛歯76の挿入初期には、櫛歯76の先端を脚部42の端末に対して非接触とすることができる。
【0037】
しかしながら、この第2比較例では、各層46A、46B、46Cの脚部42の端末間が径方向の外側へ拡大された状態でツール74の櫛歯76がステータコア14の軸方向一方側へ移動される(
図16の矢印E3及び矢印D6参照)。このため、脚部42と櫛歯76との摺動抵抗が大きくなる。その結果、ロボットマニピュレータ72の負荷が増加すると共に、セグメントコイル40が軸方向一方側へ不用意に位置ずれしてしまう(
図17の矢印G参照)。
【0038】
これに対し、本実施形態では、前述したようにツール74の傾斜によって櫛歯76の先端が脚部42の端末に対して非接触とされるので、脚部42の端末の絶縁被膜の損傷を防止できるのみならず、ロボットマニピュレータ72の負荷の増加や、セグメントコイル40の不用意な位置ずれを回避できる。しかも、櫛歯76の先端が尖ったツール74の使用が可能になるので、各層46A、46B、46Cの脚部42の端末間への櫛歯76の挿入が容易になる。
【0039】
なお、上記実施形態では、固定子であるステータが製造される場合について説明したが、回転子であるロータの製造に対しても本開示を適用可能である。
【0040】
その他、本開示は、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更して実施できる。また、本開示の権利範囲が上記実施形態に限定されないことは勿論である。
【0041】
また、2022年1月25日に出願された日本国特許出願2022-009724号の開示は、その全体が参照により本明細書に取り込まれる。本明細書に記載された全ての文献、特許出願、および技術規格は、個々の文献、特許出願、および技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個別に記載された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。
【要約】
セグメントコイル脚部の端末の絶縁被膜が層間隙間の拡大時に損傷することを防止する。
本製造方法では、ステータコアの各スロットに両脚部(42A、42B)が挿入され、ステータコアの径方向に複数層(46A、46B、46C)に重ねられて円環状に整列された複数のセグメントコイル(40)を備えたステータが製造される。この製造方法では、歯(76A、76B、76C)を有するツール(74)がロボットマニピュレータで移動されることにより、各層(46A、46B、46C)の脚部(42)の端末間に歯(76A、76B、76C)が挿入される。この挿入の際には、歯(76A、76B、76C)の挿入方向及び前記径方向と直交する軸線回りにツール(74)が傾斜されることにより、歯(76A、76B、76C)の先端が脚部(42)の端末の絶縁被膜に対して非接触とされる。