(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-20
(45)【発行日】2023-04-28
(54)【発明の名称】制御装置及び異常検知方法
(51)【国際特許分類】
H05B 3/00 20060101AFI20230421BHJP
【FI】
H05B3/00 320B
(21)【出願番号】P 2022511482
(86)(22)【出願日】2020-04-03
(86)【国際出願番号】 JP2020015334
(87)【国際公開番号】W WO2021199429
(87)【国際公開日】2021-10-07
【審査請求日】2022-05-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000250317
【氏名又は名称】理化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088605
【氏名又は名称】加藤 公延
(74)【代理人】
【識別番号】100101890
【氏名又は名称】押野 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100098268
【氏名又は名称】永田 豊
(74)【代理人】
【識別番号】100130384
【氏名又は名称】大島 孝文
(74)【代理人】
【識別番号】100166420
【氏名又は名称】福川 晋矢
(74)【代理人】
【識別番号】100150865
【氏名又は名称】太田 司
(72)【発明者】
【氏名】池田 凌太
(72)【発明者】
【氏名】木原 健
(72)【発明者】
【氏名】成田 貴光
(72)【発明者】
【氏名】細田 佑磨
【審査官】土屋 正志
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-343537(JP,A)
【文献】特公昭62-009907(JP,B2)
【文献】特開2011-090610(JP,A)
【文献】特開2018-174046(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御対象を制御するための操作量を測定値と目標値に基づいて算出する制御装置であって、
基準時において所定の操作量を入力した際に得られた測定値に基づいて定められた制御のむだ時間と、基準時において所定の操作量を入力した際に得られた測定値に基づいて定められた基準値と、を記憶する記憶部と、
操作量が閾値である異常検知開始出力を超えた時点である異常検知開始時点から前記むだ時間の経過後に、測定値に基づく値と前記基準値の比較結果に基づいて、異常状態情報を出力する通知出力部と、
を備えることを特徴とする制御装置。
【請求項2】
前記基準値が、基準時において所定の操作量を入力した際に得られた測定値に基づいて定められた測定値の変化率に基づく基準変化率であり、
前記異常検知開始時点から前記むだ時間の経過後に、測定値の変化率と前記基準変化率の比較結果に基づいて、異常状態情報を出力することを特徴とする請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記基準値が複数定められていることにより、段階的な前記異常状態情報を出力することを特徴とする請求項1又は2に記載の制御装置。
【請求項4】
前記異常検知開始時点から前記むだ時間の経過後に、前記測定値に基づく値が断線基準値以下であった場合に、前記異常状態情報としての断線警報を出力することを特徴とする請求項1から3の何れかに記載の制御装置。
【請求項5】
前記異常検知開始時点から、前記むだ時間以上経過するまでの間において、前記測定値に基づく値が、前記基準値に一度も達しなかった場合に、異常を示す前記異常状態情報を出力することを特徴とする請求項1から4の何れかに記載の制御装置。
【請求項6】
制御対象を制御するための操作量を測定値と目標値に基づいて算出する制御装置であって、
基準時において所定の操作量を入力した際に得られた測定値に基づいて定められた制御のむだ時間を記憶する記憶部と、
操作量が閾値である異常検知開始出力を超えた時点から前記むだ時間の経過後に、測定値に基づく値が断線基準値以下であった場合に、断線警報を出力する通知出力部と、
を備えることを特徴とする制御装置。
【請求項7】
前記測定値に基づく値が、測定値の変化率であることを特徴とする請求項6に記載の制御装置。
【請求項8】
制御対象を制御するための操作量を測定値と目標値に基づいて算出する制御装置における異常検知方法であって、
基準時において所定の操作量を入力した際に得られた測定値に基づいて得られる制御のむだ時間と、基準時において所定の操作量を入力した際に得られた測定値に基づく基準値と、を予め定めるステップと、
操作量が閾値である異常検知開始出力を超えた時点から、前記むだ時間の経過後に、測定値に基づく値と前記基準値の比較結果に基づいて、異常状態情報を出力するステップと、
を備えることを特徴とする異常検知方法。
【請求項9】
前記基準値が、基準時において所定の操作量を入力した際に得られた測定値に基づいて定められた測定値の変化率に基づく基準変化率であり、
前記異常検知開始出力を超えた時点から前記むだ時間の経過後に、測定値の変化率と前記基準変化率の比較結果に基づいて、異常状態情報を出力することを特徴とする請求項8に記載の異常検知方法。
【請求項10】
制御対象を制御するための操作量を測定値と目標値に基づいて算出する制御装置における異常検知方法であって、
基準時において所定の操作量を入力した際に得られた測定値に基づいて得られる制御のむだ時間を予め定めるステップと、
操作量が閾値である異常検知開始出力を超えた時点から前記むだ時間の経過後に、測定値に基づく値が断線基準値以下であった場合に、断線警報を出力するステップと、
を備えることを特徴とする異常検知方法。
【請求項11】
前記測定値に基づく値が、測定値の変化率であることを特徴とする請求項10に記載の異常検知方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制御装置及び異常検知方法に関する。
【背景技術】
【0002】
操作量に基づいて制御対象を制御する各種の制御装置が使用されており、例えばヒータを目標温度に制御するために、ヒータへの電力供給を制御する温度制御装置が使用されている。
このような温度制御装置における、ヒータの断線の検知に関する従来技術が特許文献1や特許文献2によって開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-054853号公報
【文献】特開2002-343537号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
断線の検知の方法としては、電流測定部を設けることで、測定される電流値に基づいて断線等を判別するものがある。特許文献1もこれに属するものである。
これに対し、電流測定部を不要とした断線検知方法もあり、特許文献2がこれに属する。特許文献2の技術では、正常時における測定値PVの最大傾きを閾値として用い、計測したPVの最大傾きRが、閾値(正常時における測定値PVの最大傾き)よりも小さくなった時には、ヒータの断線が生じたと判断するものである。
特許文献2の技術によれば、電流測定部を不要とできる点で有利であるが、断線の検知までに時間がかかるという問題があった。即ち、“計測したPVの最大傾きR”を得るためには、“最大傾き”と判断できる時点まで待つ必要があり(“最大傾き”であるかどうかを判断するためには、少なくともPVの傾きがある程度小さくなった状態まで待つ必要があるため)、それまでは断線検知ができないものであった。
【0005】
本発明は、上記の点に鑑み、電流測定部を不要とした異常検知方法であって、断線の検知までの時間を従来よりも短縮することが可能な異常検知方法及びこれを利用した制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(構成1)
制御対象を制御するための操作量を測定値と目標値に基づいて算出する制御装置であって、基準時において所定の操作量を入力した際に得られた測定値に基づいて定められた制御のむだ時間と、基準時において所定の操作量を入力した際に得られた測定値に基づいて定められた基準値と、を記憶する記憶部と、操作量が閾値である異常検知開始出力を超えた時点である異常検知開始時点から前記むだ時間の経過後に、測定値に基づく値と前記基準値の比較結果に基づいて、異常状態情報を出力する通知出力部と、を備えることを特徴とする制御装置。
【0007】
(構成2)
前記基準値が、基準時において所定の操作量を入力した際に得られた測定値に基づいて定められた測定値の変化率に基づく基準変化率であり、前記異常検知開始時点から前記むだ時間の経過後に、測定値の変化率と前記基準変化率の比較結果に基づいて、異常状態情報を出力することを特徴とする構成1に記載の制御装置。
【0008】
(構成3)
前記基準値が複数定められていることにより、段階的な前記異常状態情報を出力することを特徴とする構成1又は2に記載の制御装置。
【0009】
(構成4)
前記異常検知開始時点から前記むだ時間の経過後に、前記測定値に基づく値が断線基準値以下であった場合に、前記異常状態情報としての断線警報を出力することを特徴とする構成1から3の何れかに記載の制御装置。
【0010】
(構成5)
前記異常検知開始時点から、前記むだ時間以上経過するまでの間において、前記測定値に基づく値が、前記基準値に一度も達しなかった場合に、異常を示す前記異常状態情報を出力することを特徴とする構成1から4の何れかに記載の制御装置。
【0011】
(構成6)
制御対象を制御するための操作量を測定値と目標値に基づいて算出する制御装置であって、基準時において所定の操作量を入力した際に得られた測定値に基づいて定められた制御のむだ時間を記憶する記憶部と、操作量が閾値である異常検知開始出力を超えた時点から前記むだ時間の経過後に、測定値に基づく値が断線基準値以下であった場合に、断線警報を出力する通知出力部と、を備えることを特徴とする制御装置。
【0012】
(構成7)
前記測定値に基づく値が、測定値の変化率であることを特徴とする構成6に記載の制御装置。
【0013】
(構成8)
制御対象を制御するための操作量を測定値と目標値に基づいて算出する制御装置における異常検知方法であって、基準時において所定の操作量を入力した際に得られた測定値に基づいて得られる制御のむだ時間と、基準時において所定の操作量を入力した際に得られた測定値に基づく基準値と、を予め定めるステップと、操作量が閾値である異常検知開始出力を超えた時点から、前記むだ時間の経過後に、測定値に基づく値と前記基準値の比較結果に基づいて、異常状態情報を出力するステップと、を備えることを特徴とする異常検知方法。
【0014】
(構成9)
前記基準値が、基準時において所定の操作量を入力した際に得られた測定値に基づいて定められた測定値の変化率に基づく基準変化率であり、前記異常検知開始出力を超えた時点から前記むだ時間の経過後に、測定値の変化率と前記基準変化率の比較結果に基づいて、異常状態情報を出力することを特徴とする構成8に記載の異常検知方法。
【0015】
(構成10)
制御対象を制御するための操作量を測定値と目標値に基づいて算出する制御装置における異常検知方法であって、基準時において所定の操作量を入力した際に得られた測定値に基づいて得られる制御のむだ時間を予め定めるステップと、操作量が閾値である異常検知開始出力を超えた時点から前記むだ時間の経過後に、測定値に基づく値が断線基準値以下であった場合に、断線警報を出力するステップと、を備えることを特徴とする異常検知方法。
【0016】
(構成11)
前記測定値に基づく値が、測定値の変化率であることを特徴とする構成10に記載の異常検知方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、電流測定部を不要とした異常検知方法において、断線の検知までの時間を従来よりも短縮することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明にかかる実施形態の温度制御装置の構成の概略を示すブロック図
【
図2】実施形態における異常検知処理の概略を示すフローチャート
【
図3】実施形態の温度制御装置の異常検知処理に関する実験結果を示す図
【
図4】実施形態の温度制御装置の異常検知処理に関する実験結果を示す図
【
図6】異常検知処理に関するシミュレーション結果を示す図
【
図7】異常検知処理に関するシミュレーション結果を示す図
【
図8】異常検知処理に関するシミュレーション結果を示す図
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら具体的に説明する。なお、以下の実施形態は、本発明を具体化する際の一形態であって、本発明をその範囲内に限定するものではない。
【0020】
図1は、本発明に係る実施形態の温度制御装置(制御装置の一例)の構成の概略を示すブロック図である。
本実施形態の温度制御装置1は、制御対象2の温度を制御するための装置であり、ここではヒータ21によって加熱される温度制御対象22の温度を制御するものを例として説明する。
温度制御装置1は、目標値SVと制御対象の測定値PV(温度測定部23による測定値)の偏差に基づくPID制御によって、制御対象2の温度を制御するものである。制御対象2の温度制御は、ヒータ21への電源供給ラインに設けられたスイッチング素子(特に図示せず)をPID制御によって算出された操作量MVに基づいてオン/オフ制御することによって行われる。
本実施形態の温度制御装置1は、ヒータ21の断線などを検知し、これに基づく情報(異常状態情報)を出力するものである。
温度制御装置1は、その大まかな構成として、演算部11と、記憶部12と、入力部13と、出力部14と、を備えている。
【0021】
演算部11は、
目標値SVと制御対象の測定値PVの偏差に基づくPID演算による操作量MVの算出処理を行うPID演算部111と、
PID演算のためのPID定数の算出を行うPID定数チューニング部112と、
以下で説明するように、操作量MVが、閾値である“異常検知開始出力”を超えた時点である異常検知開始時点から、むだ時間の経過後に、測定値の変化率PV
dと基準変化率の比較結果に基づいて、異常状態情報を出力する通知出力部113と、
を備えている。
なお、
図1では機能ごとに構成を分けて記載しているが、必ずしもハード的にこれらの構成に分かれていることを示すものではなく、例えば、演算部11がPLC、MCU、マイコン等の周知のデバイスを用いて構成されて各構成がソフトウェア的に実装されるものであってもよい。以下で説明するように、本実施形態では各構成がソフトウェア的に実装されるものを例としている。もちろん各構成がハード的に構成されるものであってよく、例えばFPGA等を利用して構成されるものや、ASICなどによって専用のハードとして構成されるもの等であってもよい。
【0022】
記憶部12には、以下で説明する各閾値や基準値、PID定数チューニング部112によるセルフチューニング処理において得られたPID定数、むだ時間情報、基準時の傾斜値等が記憶されている。
温度制御装置1は、制御対象や制御条件に適したPID定数を自動算出するセルフチューニング機能を有している。セルフチューニング処理自体については従来から用いられている技術であるため、ここでの詳しい説明を省略するが、操作量を100%とした入力に対して得られた測定値PVに基づいて、適切なPID定数を算出するものである。
このセルフチューニング処理に基づいて、むだ時間(入力に変化が発生した時刻から、それによって出力に変化が現れる時間までの時間)と、測定値PVの変化率を取得することでき、これが、むだ時間情報及び基準時の傾斜値として記憶部12に記憶される。
本実施形態では、セルフチューニング処理において、操作量を100%とした入力した際に、測定値PVが目標値SVに対して5%~95%の範囲にある際のデータに基づき、この範囲内の測定値PVの平均傾斜を“基準時の傾斜値”としている。なお、“基準時の傾斜値”をこれに限るものではなく、所定の操作量を入力した際に得られる出力の変化率を示す情報であればよく、例えば、測定値PVの最大傾斜を“基準時の傾斜値”とするもの等であってよい。
“基準時の傾斜値”は、測定値/時間であり、本実施形態における基準時の傾斜値の単位は℃/minである。
【0023】
入力部13は、ユーザからの各種の設定や、動作指示等の入力を受けるものであり、例えば、ユーザが直接入力操作する操作部や、外部装置からデータの入力を受ける受信部等によって構成される。
出力部14は、ユーザに対して情報の出力を行うものであり、例えば、各種の表示装置、スピーカー、各種の警告灯や、外部装置へデータを出力する送信部等によって構成される。
【0024】
上述したごとく、本実施形態の温度制御装置1は、ヒータ21の断線などを検知し、これに基づく情報(異常状態情報)を出力する機能を有する。先ず、装置に異常がない状態(若しくは装置が好ましい状態である際)における、所定の操作量を入力した際に得られた測定値に基づいて定められた、制御のむだ時間と、基準値とを、予め取得しておく、本実施形態では、基準値として、測定値の変化率に基づく“基準時の傾斜値”が予め取得される。そして、装置の稼働状態時において、測定値に基づく値(測定値PVの変化)を監視しつつ、これと基準値との比較結果に基づいて、異常状態情報を出力される。本実施形態では、測定値PVの変化率PV
dと、基準時の傾斜値に基づいて定められた基準変化率との比較結果に基づいて、異常状態情報を出力する。即ち、測定値PVの変化率(PVの傾斜)が、装置に異常がない状態と比べてどの程度変化しているかによって、装置に異常があるか否かを判別するものである。
以下、当該特徴に関する温度制御装置1の処理動作の一例について、
図2のフローチャートを参照しつつ説明する。
なお、
図2の処理は、必要に応じて記憶部12にデータを読み書きしつつ、演算部11によって実行されるものである。即ち、ここでは、PID演算部111、PID定数チューニング部112、通知出力部113が、ソフトウェア的に実装されるものを例としている。
【0025】
温度制御装置1の電源がONにされること等によって行われる装置のイニシャライズ処理において、異常状態情報を示すフラグであるTDAに2が代入される(ステップ201)。
本実施形態においては、異常状態の検知として、“異常なし”、“点検通知”、“断線検知”の3段階で判断するものを例としている。“異常なし”は装置に問題が無いと判断している状態であり、TDAの値は1が該当する。“点検通知”は故障には至っていないが性能の低下等が認められるため、メンテナンスを促す通知をするものである。TDAの値は2が該当する。“断線検知”は断線が検知された状態であり、TDAの値は3である。断線の検知時には、警報を発すると共に、制御の停止処理等が行われる。
【0026】
装置のイニシャライズ処理後、温度制御対象2に対する温度制御処理の開始によって、操作量MVの入力が行われる(操作量MVの値が上昇する)。
ステップ202では、操作量MVの値が“異常検知開始出力”を超えたか否かを判別する。“異常検知開始出力”は、本実施形態で説明する異常検知処理の開始を決める閾値となるものであり、本実施形態では80%で設定され、記憶部12に記憶されている。
【0027】
操作量MVの値が“異常検知開始出力”を超えた際、即ち、異常検知開始時点に至ったら、測定値PVの変化率であるPVdを取得し、これと断線基準値を比較する(ステップ202:Yes→ステップ203)。
PVdは、温度測定部23によって測定される温度制御対象22の温度の変化率(PVの微分値)である。
“断線基準値”は、断線と判断する閾値であり、例えば“基準時の傾斜値”に係数をかけた値や、所定の偏差量を引く等して設定される(定数(絶対値)的に設定されるものであっても勿論よい)。本実施形態では、係数が0であり、従って、“断線基準値”は、0℃/minである。なお、断線基準値そのものが記憶部12に設定されているものであってもよいし、係数や偏差量等の計算に必要な値が記憶部12に設定され、“基準時の傾斜値”から断線基準値を算出するようなものであってよい。また、断線基準値自体をユーザに設定させるようなものであってもよいし、断線基準値を算出するための係数や偏差量等をユーザに設定させてもよい。
【0028】
ステップ203の結果、PVdが断線基準値を超えてない(即ちPVの傾きが正になっていない)場合、ステップ203と211のループ処理となる。
ステップ211では、操作量MVの入力が開始された時点から、むだ時間L×1.2の時間が経過したか否かを判別している。操作量MVが入力されてからむだ時間の経過までは出力(PV)が得られないため、この時間を待つものである。なお、1.2倍としているのはマージンを取っているものであり、マージンの取り方は制御対象や設計思想等に基づいて任意に設定することができる(マージンを取らないこともできる)。
操作量MVの入力が開始された時点から、1.2Lが経過した後においてもPVdが断線基準値を超えてない場合には、TDAに3を代入し、断線警報を出力する(ステップ211:Yes→ステップ212)。操作量が入力されてから、むだ時間以上が経過しているにもかかわらず、PVの傾きが正になっていない(出力がない)状態であるため、断線であると判断しているものである。
“断線警報の出力”は、本実施形態では、該当する警告灯(出力部14としてのLED)の赤色点灯及び警告音の出力である。特に図示していないが、断線警報の出力と共に、制御の停止処理等も行われる。
上記の処理により、“異常検知開始時点からむだ時間の経過後に、測定値の変化率が断線基準値以下であった場合に、異常状態情報としての断線警報を出力する”処理が行われる。
【0029】
一方、ステップ203の判別の結果、PVdが断線基準値を超えた場合には、ステップ206、207のループ処理となる。ステップ206、207のループ処理の中では、ステップ204、205の処理も行われる。
【0030】
ステップ206では、PVdが“基準変化率1”を超えているか否かを判別する。
“基準変化率1”は、装置の状態を判断する閾値(の一つ)であり、“基準時の傾斜値”に係数をかけた値や所定の偏差量を引いた値等で設定される。本実施形態では、係数が0.3(30%)である。なお、基準変化率1そのものが記憶部12に設定されているものであってもよいし、係数や偏差量等の計算に必要な値が記憶部12に設定され、“基準時の傾斜値”から基準変化率1を算出するようなものであってもよい。また、基準変化率1自体をユーザに設定させるようなものであってもよいし、基準変化率1を算出するための係数や偏差量等をユーザに設定させてもよい。
【0031】
PVdが“基準変化率1”に至っていない場合、操作量MVの値が“異常検知終了出力”以下となったか否かを判別する(ステップ206:No→ステップ207)。“異常検知終了出力”は、異常検知処理の終了を決める閾値となるものであり、例えば、“異常検知開始出力”に係数をかけることや、“異常検知開始出力”から所定の偏差量を減算する等して設定される(“異常検知開始出力”自体が直接設定されるものであっても勿論よい)。本実施形態では偏差量が5%であり、従って、“異常検知終了出力”は、80-5=75%である。なお、異常検知終了出力そのものが記憶部12に設定されているものであってもよいし、係数や偏差量等の計算に必要な値が記憶部12に設定され、“異常検知開始出力”から異常検知終了出力を算出するようなものであってよい。また、異常検知終了出力自体をユーザに設定させるようなものであってもよいし、異常検知終了出力を算出するための係数や偏差量等をユーザに設定させてもよい。
【0032】
PVdが“基準変化率1”に至っておらず、操作量MVの値が“異常検知終了出力”以下となっていない場合には、ステップ206、207のループ処理が続き、この中でステップ204、205の処理が行われる。
ステップ204の処理は、上記説明したステップ211と同様の処理である。操作量MVの入力が開始された時点から1.2Lが経過していない場合には、ステップ205をスキップし、1.2L経過後はステップ205で、TDAの値に基づく出力を行う。TDAにはステップ201において2が入力されているため、ここでのTDAの値は2である。
前述のごとく、TDA値が2の場合は“点検通知”を示すものであり、ステップ205におけるTDAの値に基づく出力とは、本実施形態では、出力部14としてのLEDの黄色点灯である。
上記処理は、操作量が入力されてからむだ時間以上が経過した後において、PVdが“基準変化率1”に至っていない場合に、故障には至っていないが性能の低下等(例えばヒータ21の劣化等)が認められると判断し、メンテナンスを促す通知(LEDの黄色点灯)をしているものである。
【0033】
一方、PVdが“基準変化率1”を超えている場合にはステップ206、207のループ処理を抜けてステップ208へと移行する(ステップ206:Yes→ステップ208)。
【0034】
ステップ208では、TDAに1を代入する。前述のごとく、“異常なし”を示すものとなる。続くステップ209では、TDAの値に基づく出力を行う。
“TDAの値(1)に基づく出力”は、本実施形態では、出力部14としてのLEDの緑色点灯である。
本実施形態は、基準時の傾斜値の0.3倍の値のPVdが得られていれば、正常の範囲であると判断している例となる。
【0035】
ステップ209に続くステップ210は、上述したステップ207と同様の判別処理であり、操作量MVの値が“異常検知終了出力”以下となっていない場合には、ステップ209の処理(緑色点灯)を続ける。
上記説明からも理解されるように、本実施形態では、異常検知開始時点から、一度でも“基準変化率1”に達した場合には、“異常なし”が出力され、そうでない場合には“点検通知(若しくは断線警報)”が出力されることになる。即ち、“異常検知開始時点から、むだ時間を所定時間以上経過するまでの間において、測定値の変化率が、基準変化率に一度も達しなかった場合に、異常を示す前記異常状態情報を出力する”処理が行われるものである。
【0036】
ステップ207又は210の処理において、操作量MVの値が“異常検知終了出力”以下となった場合には、ステップ201へと戻る。即ち、操作量MVの値が“異常検知終了出力”以下となった場合には、一旦異常検知処理を終了する。操作量MVの値が再度異常検知開始出力に至った場合には(ステップ202)、上記説明した異常検知処理が再開されることになる。なお、異常検知処理の実行が終了した後においても、出力部14からのTDA情報に基づく出力(ここの例ではLEDの点灯)を継続するものであってよい。
【0037】
図3は、本実施形態の温度制御装置1の異常検知処理に関する実験結果(立ち上げ時)を示す図である。
図3の上側のグラフは、操作量MVと測定値PVの時間経過に伴う変化を示したものであり、下側のグラフは、測定値PVの傾きであるPV
dと、基準時の傾斜値及び基準変化率1を示したものである。
当該実験の条件は、以下の通りである(各閾値の設定については上記説明の通り)。
基準時の傾斜値=36.9(℃/min)
むだ時間L=22(sec)
比例帯=12.6(℃)
積分時間=81(sec)
微分時間=20(sec)
【0038】
MVが入力され、MVが異常検知開始出力(80%)になった際に、異常検知が開始される。そして、1.2L(1.2*22=26.4)秒後において、PV
dは、ほぼ“基準時の傾斜値”に近い値となっており、基準変化率(36.9*0.3=11.07)を超えているため、“異常なし”の出力が行われる。
図3から理解されるように、MVの立ち上がりに対して、PVは無駄時間分だけ遅れてゆっくりと立ち上がり始め、立ち上がり直後のPVの値としての変化は小さい。従来では、このゆるやかなPV値の変化等を考慮して、操作量MVが100%となった後、積分時間の2倍経過した時点でPVに変化が得られたか否かによって断線の有無の判断を行う等していたため、この例では断線警報に200(sec)程度必要となってしまうものであった。
また、特許文献2の技術の場合、“計測したPVの最大傾きR”を得るためには、“最大傾き”と判断できる時点まで待つ必要があり(“最大傾き”であるかどうかを判断するためには、少なくともPVの傾きがある程度小さくなった状態まで待つ必要があるため)、
図3の例では、やはり、200(sec)以上は、待つ必要がある。
これに対し、本実施形態では、75(sec)程度で異常検知結果を出力することが可能である。
図3から理解されるように、PV
dは、PV値自体に比べて、より早い段階から有意な変化値を得ることができ、従って、より早い検知をすることができるものである。
図3の下側のグラフからも理解されるように、50(sec)以前にPV
dが“基準変化率1”を超えており、実際には75(sec)より早い段階での異常検知を行うことができる。
また、従来では、断線の有無(2値のみ)の判断だけであったが、本実施形態では、段階的な判断が可能となっている。
【0039】
図4は、
図3と基本的に同条件の実験であり、制御が定常状態である際に、断線が生じた場合を模擬した実験の結果を示す図である。
図4の上側のグラフは、操作量MVと測定値PVの時間経過に伴う変化を示したものであり、下側のグラフは、測定値PVの傾きであるPV
dと、基準時の傾斜値及び断線基準値を示したものである。
MVやPVが定常状態である際に、断線が生じたことにより、PVが下がり始める。これに対し、フィードバックがかかりMVが上昇し始めるが、断線しているためPVは下がり続ける。これによりMVがさらに上昇し続け、MVが異常検知開始出力(80%)になった際に、異常検知が開始される。これから1.2L(1.2*22=26.4)秒後においても、PV
dは負の値であるため、この時点(図中で2350(sec)程度の時点)で断線警報が出力される。
これに対し、従来の断線警報(LBA)の場合、操作量MVが100%となった後、積分時間の2倍経過した時点でPVに変化が得られたか否かによって断線の有無の判断を行っていたため、この例では、2500(sec)を超えた時点にならないと警報が出力されないものであった。
【0040】
さらに本実施形態の異常検知処理に関するシミュレーションを行った。
図6~8にシミュレーション結果を示す。
図6~8は、
図4と同様に、上側のグラフが操作量MVと測定値PVの時間経過に伴う変化を示したものであり、下側のグラフが測定値PVの傾きであるPV
dと、基準時の傾斜値及び基準変化率1を示したものである。
図6~8のシミュレーションで使用した条件は以下の通りである(下記以外の設定については、
図4の実験と同条件)。
基準時の傾斜値=30.8(℃/min)
むだ時間L=47.6(sec)
比例帯=20.4(℃)
積分時間=87.8(sec)
微分時間=21.9(sec)
【0041】
図6は、装置が正常時の場合を模したシミュレーション結果である。
MVが入力され、MVが異常検知開始出力(80%)になった際に、異常検知が開始される。そして、1.2L(1.2*47.6≒57.1)秒後において、PV
dは基準変化率(30.8*0.3≒9.2)を超えているため、“異常なし”の出力(LEDの緑色点灯)が行われる。
図6から理解されるように、本実施形態によれば、PV
dが最大値(即ち最大傾き)となる前に、異常検知を行うことも可能である。“計測したPVの最大傾きR”を得る必要がある特許文献2の技術に比べ、より早い検知をすることができるものである。
【0042】
図7は、装置の異常(ヒータの劣化が進んだ状態)を模したシミュレーション結果である。
MVが入力され、MVが異常検知開始出力(80%)になった際に、異常検知が開始される。そして、1.2L(1.2*47.6≒57.1)秒後において、PV
dは断線基準値(0)を超えているが、基準変化率(30.8*0.3≒9.2)を超えていないため、メンテナンスを促す通知(LEDの黄色点灯)が行われることになる。なお、ここの例では、メンテナンスを促す通知(LEDの黄色点灯)が一旦行われるが、その後の
図7で80secを超えた時点で、PV
dが基準変化率を超えるため、この時点で異常なしの通知(LEDの緑色点灯)に変わる。これにより、ユーザとしては、装置が一応問題無い状態と言えるが、劣化しつつあることが認識できる。
【0043】
図8は、制御が定常状態である際に、断線が生じた場合を模したシミュレーションの結果である。
MVやPVが定常状態である際に、断線が生じたことにより、PVが下がり始める。これに対し、フィードバックがかかりMVが上昇し始めるが、断線しているためPVは下がり続ける。これによりMVがさらに上昇し続け、MVが異常検知開始出力(80%)になった際に、異常検知が開始される。これから1.2L(1.2*47.6≒57.1)秒後においても、PV
dは負の値であるため、この時点で断線警報が出力される。
【0044】
以上のごとく、本実施形態の温度制御装置1によれば、電流測定部を不要とした異常検知方法であって、断線の検知までの時間を従来よりも短縮することが可能である。
また、断線の有無の検知だけでなく、段階的な異常状態情報(本実施形態では、“異常なし”、“点検通知”、“断線検知”)を出力することができ、非常に有用である。
加えて、例えば特許文献2の方法のごとく、PVの最大傾きに基づいて断線検知をする場合、基本的には昇温時における断線検知しかできない(PVの最大傾きが得られないため)。これに対し、本実施形態の温度制御装置1によれば、上記説明のごとく、昇温時以外においても、断線検知を行うことが可能である。
【0045】
なお、本実施形態では、異常状態情報として、“異常なし”、“点検通知”、“断線検知”の3段階を例としているが、さらに多段階に判断するようにしてもよい。“基準変化率”を複数定めることにより、より多段階の異常状態情報を出力することができる。例えば、本実施形態では“基準変化率”を“基準時の傾斜値”に0.3を乗算したものとしているが、“基準時の傾斜値”に0.2、0.4、0.6、0.8等をそれぞれ乗算したものを、“基準変化率”として複数定め、異常を度合いで出力するようなものとしてもよい。
【0046】
一方で、断線検知のみを行うようなものとしてもよい。
図5は、立ち上げ時に断線検知のみを行う処理の概略を示すフローチャートである。
温度制御対象2に対する温度制御処理の開始(ステップ501)後、操作量MVが異常検知開始出力を超えているか否かを判別する(ステップ502)。次に、操作量MVが異常検知開始出力を超えてから1.2Lの経過を待つ(ステップ503)。ステップ502、503の処理は
図2のステップ202、211と同様の処理である。
操作量MVが異常検知開始出力を超えてから1.2Lの経過後に、PV
dが断線基準値を超えていなかった場合には、断線警報を出力し(ステップ504:No→ステップ505)、PV
dが断線基準値を超えていた場合には断線警報を出力しない。ステップ504、505の処理は
図2のステップ203、212と同様の処理である。
【0047】
実施形態では、異常検知開始出力が80%で設定されているもの例としているが、異常検知開始出力は任意の値に設定することができる。例えば
図5の断線警報処理において、より早く断線警報を通知させるために、異常検知開始出力をより小さい値に設定しても良い(異常検知開始出力を“0%”に設定することもできる)。
また、異常検知開始出力をユーザに設定させるものであってよい。
【0048】
実施形態では、セルフチューニング処理に基づいて、むだ時間と基準時の傾斜値を取得するものを例としているが、本発明をこれに限るものではない。PID定数を定めるための処理としてはオートチューニング処理等もあり、これに基づいてむだ時間と基準時の傾斜値を取得するものであってよい。また、PID定数を定めるための処理とは別に、むだ時間と基準時の傾斜値を取得するための処理を行うもの等であってもよい。制御対象や制御条件などが変わらないような装置においては、むだ時間と基準時の傾斜値を予め装置に設定しておく(工場出荷時に設定されている)ものであってもよい。
【0049】
実施形態では、制御処理としてPID制御を例として説明しているが、本発明をこれに限るものではなく、制御対象を制御するための操作量を測定値と目標値に基づいて算出する任意の制御方法に使用することができる。
また、本実施形態では、制御装置の一例として温度制御装置を用いて説明したが、本発明を温度制御装置に限るものではなく、操作量に基づいて制御対象を制御する制御装置に適用することができる。
【0050】
本実施形態では、“異常状態情報の出力”が警告灯の点灯処理であるものを例としたが、本発明をこれに限るものではない。例えば、表示装置への情報の表示や、警告音の出力、外部装置への情報の送信など、各種の方式によるものであってよい。また、異常状態情報を装置にログしていくことで、後の解析などに利用できるようにしてもよい。
【0051】
本実施形態では、“基準時において所定の操作量を入力した際に得られた測定値に基づいて定められた基準値”として、基準変化率(PVの変化率)を用い、これと対比する“測定値に基づく値”として測定値の変化率を使用するものを例としているが、本発明をこれに限るものではない。“基準値”として、“PV値そのもの”等、測定値PVの変化を評価し得る任意の値を用いることができる。
即ち、“基準時において所定の操作量を入力した際に得られた測定値に基づいて定められた基準値”として、例えば、基準時に測定されたPVそのものや、これに補正係数をかける等した値を用いてもよい。“基準時に測定されたPV”としては、ある時点(例えばむだ時間経過時や、むだ時間を所定時間経過した後など)のPV値や、ある範囲のPV値の平均値、ある範囲のPV値の最大値や最小値など、対象装置の設計思想等に基づいて適宜定めることができる。断線基準値についても同様である。
上記の場合、
図2のステップ206の処理において、その時点で測定されたPVと、基準値1(基準変化率1に替わるもの)が比較される処理となる。基準値1は、“基準時に測定されたPV”に係数をかけた値や所定の偏差量を引いた値等である(記憶部12に記憶されている)。また、
図2のステップ203や
図5のステップ504の処理では、その時点で測定されたPVと、断線基準値が比較される処理となる。断線基準値は、“基準時に測定されたPV”に係数をかけたものや、“0”等である(記憶部12に記憶されている)。その他の処理概念は、
図2、5で説明したものと同様である。
【0052】
なお、ここまでで説明した各数値情報の扱いにおいて、補正係数をかけるなど適宜最適化等の演算を行うことは、本発明の基本的な概念に相違を与えるものではない。
また、数値の比較処理において、“以上”であるか“超える”であるか、及び“未満”であるか“以下”であるか等の違いは、本発明の基本的な概念に相違を与えるものではない。
【符号の説明】
【0053】
1...温度制御装置(制御装置)
11...演算部
111...PID演算部
112...PID定数チューニング部
113...通知出力部
12...記憶部
13...入力部
14...出力部
2...制御対象