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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-20
(45)【発行日】2023-04-28
(54)【発明の名称】分離剤およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 20/22 20060101AFI20230421BHJP
   B01J 20/28 20060101ALI20230421BHJP
   B01J 20/30 20060101ALI20230421BHJP
   C02F 1/28 20230101ALI20230421BHJP
   C22B 3/26 20060101ALN20230421BHJP
【FI】
B01J20/22 B
B01J20/28 Z
B01J20/30
C02F1/28 B
C22B3/26
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019116854
(22)【出願日】2019-06-25
(65)【公開番号】P2021000612
(43)【公開日】2021-01-07
【審査請求日】2022-03-09
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成30年9月4日に、化学工学会第50回秋季大会ウェブサイト(http://www3.scej.org/meeting/50f/abst/PA348.pdf)にて公開された「講演番号:PA348、講演名:活性炭表面の化学修飾による高機能性吸着剤の開発と有機化合物および金属吸着能の評価」研究発表講演要旨
(73)【特許権者】
【識別番号】000156961
【氏名又は名称】関西熱化学株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504224153
【氏名又は名称】国立大学法人 宮崎大学
(74)【代理人】
【識別番号】100079382
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 征彦
(74)【代理人】
【識別番号】100123928
【弁理士】
【氏名又は名称】井▲崎▼ 愛佳
(74)【代理人】
【識別番号】100136308
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 優子
(72)【発明者】
【氏名】塚▲崎▼ 孝規
(72)【発明者】
【氏名】馬場 由成
【審査官】谷本 怜美
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-031449(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 20/00-20/34
C02F 1/28
C22B 3/26
JSTPlus/JSTChina/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
担持体とキレート剤とを有し、分離対象物を抽出するための分離剤であって、記キレート剤が上記担持体の質量に対して10~250質量%添加されることにより付与されており、上記担持体が炭素多孔質材料であり、上記キレート剤が2-イソニトロソプロピオフェノンであることを特徴とする分離剤。
【請求項2】
上記担持体の比表面積が1000~5000m2/gである請求項1記載の分離剤。
【請求項3】
上記分離剤の比表面積が50~4500m2/gである請求項1または2記載の分離剤。
【請求項4】
レート剤が担持体の質量に対して10~250質量%添加されることにより付与されており、上記担持体が炭素多孔質材料であり、上記キレート剤が2-イソニトロソプロピオフェノンである分離剤を製造する方法であって、上記担持体と上記キレート剤とを準備する工程と、上記キレート剤を溶媒に溶解させてキレート溶液を作製する工程と、上記キレート溶液中に上記担持体を浸漬して上記担持体の内部にまで上記キレート溶液を含浸させる工程と、上記キレート溶液を含浸させた上記担持体から上記溶媒を除去する工程とを備えることを特徴とする分離剤の製造方法。
【請求項5】
上記担持体の比表面積が1000~5000m2/gである請求項4記載の分離剤の製造方法。
【請求項6】
上記分離剤の比表面積が50~4500m2/gである請求項4または5記載の分離剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海水等の金属を含有する水溶液から金属の分離、精製を行うことができる活性炭由来の分離剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
コバルト(Co)、ニッケル(Ni)等のレアメタルは、電子材料や電池電極等において重要な金属であり、現在では欠かせない資源となっている。しかし、新たにレアメタルを採掘するには環境汚染や二酸化炭素の排出等という問題があり、簡単ではない。一方、レアメタルをリサイクルする取り組みもされているが、コストが高くつくという問題がある。そこで、近年、海水からレアメタルを選択的に分離して回収することが着目されるようになっている。
【0003】
ところで、現在、レアメタルをはじめとする金属を有する水溶液からこれらを回収する工業的方法として、溶媒抽出法(solvent extraction)が広く知られている。溶媒抽出法は、互いに混じり合わない2相間における物質の分配を利用した分離技術であり、上記2相として、通常、水溶液と有機溶媒が用いられる。よって、溶媒抽出法によって多量の金属の回収を行うためには、多量の有機溶媒が必要になる。しかし、有機溶媒は揮発性が高く、毒性を持つものが多いため、安全性を考慮してその使用量が厳しく制限されている。
【0004】
このため、上記溶媒抽出法に代わる手法の開発が進められ、近年、Extractant impregnated resins(EIR)といわれる抽出剤含浸樹脂技術が提案されている(非特許文献1)。このものは、細孔を有する樹脂に抽出剤を含浸させることにより、有機溶媒を用いることなく抽出剤の特性を発揮させることができる。しかし、EIRは、使用する樹脂の製造コストが高いことや、使用する樹脂が劣化し、分解するというおそれがある。また、金属の回収作業時に、含浸させた抽出剤が金属を含有する水溶液中に漏出するおそれもある。
【0005】
一方、主に炭素で構成される活性炭は、表面に細孔を有し、非極性であり、高い有機化合物抽出能を有している。よって、気相、液相中の有機化合物を除去するための脱臭、脱色剤として用いられている。また、活性炭の表面には、カルボキシ基や水酸基等の官能基が存在し、金属イオンの抽出も可能であるため、上記溶媒抽出法に代わる金属回収方法に用いることが期待されている。しかし、一般的に、活性炭はその細孔のサイズがランダムであるため、一旦抽出(吸着)するとその抽出物(吸着物)を脱離させることが困難となる。このため、有害物質の除去に用いられるものの、有用物質の抽出および脱離による再利用を目的として用いるのは難しい。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】K. Babic, Louis van der Ham, Andre de Haan, "Recovery of benzaldehyde from aqueous streams using extractant impregnated resins", Reactive and functional polymers, 66, 2006, p1494 - 1505.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、有用金属等を回収するために有機溶媒を使用する必要がなく、低コストで製造することができ、しかも付与した抽出剤が溶液中に漏出することが少なく、再利用に用いることのできる分離剤およびその製造方法の提供をその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明は、以下の[1]~[10]を要旨とする。
[1]担持体とキレート剤とを有し、分離対象物を抽出するための分離剤であって、上記担持体に対し上記キレート剤が10~250質量%付与された分離剤。
[2]上記担持体の比表面積が1000~5000m2/gである、[1]記載の分離剤。
[3]上記分離剤の比表面積が50~4500m2/gである、[1]または[2]記載の分離剤。
[4]上記キレート剤が2-イソニトロソプロピオフェノンである、[1]~[3]のいずれかに記載の分離剤。
[5]上記担持体が炭素多孔質材料である、[1]~[4]のいずれかに記載の分離剤。
[6]担持体に対しキレート剤が10~250質量%付与された分離剤を製造する方法であって、上記担持体と上記キレート剤とを準備する工程と、上記キレート剤を溶媒に溶解させてキレート溶液を作製する工程と、上記キレート溶液中に上記担持体を浸漬して上記担持体の内部にまで上記キレート溶液を含浸させる工程と、上記キレート溶液を含浸させた上記担持体から上記溶媒を除去する工程とを備える分離剤の製造方法。
[7]上記担持体の比表面積が1000~5000m2/gである、[6]記載の分離剤の製造方法。
[8]上記分離剤の比表面積が50~4500m2/gである、[6]または[7]記載の分離剤の製造方法。
[9]上記キレート剤が2-イソニトロソプロピオフェノンである、[6]~[8]のいずれかに記載の分離剤の製造方法。
[10]上記担持体が炭素多孔質材料である、[6]~[9]のいずれかに記載の分離剤の製造方法。
【0009】
すなわち、本発明者らは、有機溶媒を使用せずに海水等の金属を含有する水溶液から金属の分離、精製を行う技術について、種々の研究を重ねた。その研究の過程で、高い比表面積を有し、多孔質抽出剤として活用されてきた活性炭に着目し、さらに研究を重ねた。その結果、活性炭を担持体とし、これにキレート剤を付与したものを分離剤として用いると、上記課題を解決できることを見い出し、本発明に想到した。
【発明の効果】
【0010】
本発明の分離剤は、金属等を分離する際に有機溶媒を使用する必要がないため、分離作業時に危険に晒されることがなく安心して使用することができる。また、担持体にキレート剤を付与することにより使用時に有機溶媒の漏出することが少なく、耐久性にも優れている。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施の形態の形態である分離剤について、金属水溶液のpHと金属抽出率との関係を示した図である。
図2】上記分離剤の比較例品について、金属水溶液のpHと金属抽出率との関係を示した図である。
図3】上記分離剤の他の比較例品について、金属水溶液のpHと金属抽出率との関係を示した図である。
図4】本発明の一実施の形態である分離剤およびその比較例について、コバルトの平衡濃度と吸着量の関係を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
つぎに、本発明の実施の形態を詳しく説明する。ただし、本発明は、この実施の形態に限定されるものではない。
【0013】
本発明の分離剤は、担持体とキレート剤とを有し、分離対象物を抽出するための分離剤であって、上記担持体に対し上記キレート剤が10~250質量%付与されたものである。そして、本発明において、分離剤とは、金属を含有する水溶液から金属を抽出することにより、金属を水溶液から分離するものを意味し、複数の金属を含有する水溶液から特定の金属を抽出し、これらを分離することも含むものである。さらに、本発明の分離剤は、一旦抽出した金属を他の溶液に再溶解し、分離剤と金属とを分離することをも意味する。
以下に、本発明の分離剤の材料である上記担持体と、キレート剤、そして、分離剤そのものについて詳しく説明する。
【0014】
[担持体]
上記担持体とは、有機化合物に対し親和性が高く、水溶液中で分解・変性しないもの、また、水中からの回収が容易であるものを用いることができる。具体的には、例えば、多孔質樹脂やポリマーなどが挙げられる。なかでも、とりわけ、活性炭が好ましく用いられる。
【0015】
上記活性炭とは、やし殻などの炭素質物質および/または炭素質物質の炭化材(以下、まとめて「炭化材」ということがある)を賦活処理して得られる多孔質物質である。
なお、上記賦活処理とは、炭化材の表面に細孔を形成して、比表面積および細孔容積を大きくする処理をいう。
【0016】
上記炭素質物質としては、活性炭原料として公知の炭素質物質であれば、特に限定されない。例えば、木材、おが屑、木炭、ヤシガラ、セルロース系繊維、合成樹脂(例えばフェノール樹脂)等の難黒鉛化性炭素;メソフェーズピッチ、ピッチコークス、石油コークス、石炭コークス、ニードルコークス、ポリ塩化ビニル、ポリイミド、PAN等の易黒鉛化性炭素;およびこれらの混合物等が挙げられる。これらの炭素質物質は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。好ましくは、石油コークスである。これらは、単独で用いてもよいし、2種類以上組み合わせて用いてもよい。
【0017】
上記炭素質物質は、必要に応じて、賦活処理前に高温炭化処理されていてもよい。上記高温炭化処理としては、例えば、上記炭素質物質を、不活性ガス中で400℃~1000℃で1~3時間熱処理することが挙げられる。
【0018】
上記炭化材を賦活処理する方法としては、ガス賦活、薬品賦活等が挙げられる。
上記ガス賦活とは、炭化材を所定の温度まで加熱した後、賦活ガスを供給することにより賦活処理を行う方法である。賦活ガスとしては、水蒸気、空気、炭酸ガス、酸素、燃焼ガスおよびこれらの混合ガスを用いることができる。
上記薬品賦活とは、炭化材と賦活剤を混合し、加熱することにより賦活処理を行う方法である。
本発明の活性炭の製造方法では、炭化材の賦活処理方法は特に限定されないが、賦活処理の方法として、炭化材と、アルカリ金属化合物を含む賦活剤とを混合し、不活性ガス中で加熱して活性炭を得るアルカリ賦活処理方法を採用することが好ましい。アルカリ賦活によって、より高比表面積を有する炭化材が得られる。
【0019】
上記アルカリ賦活剤は、特に限定されるものではないが、アルカリ成分として、水酸化カリウム,水酸化ナトリウム,水酸化リチウム等のアルカリ金属の水酸化物(苛性アルカリ)、水酸化バリウム等のアルカリ土類金属の水酸化物、炭酸カリウム,炭酸ナトリウム,炭酸リチウム等のアルカリ金属の炭酸塩等を有するものを用いることができる。なかでも、水酸化カリウム,水酸化ナトリウムが好ましく用いられる。これらは、単独で用いてもよいし、2種類以上組み合わせて用いてもよい。
【0020】
上記炭化材の形状としては、例えば、粒状、粉末状、繊維状等があげられるが、粒状のものが好ましく用いられる。なかでも、一般的な炭化材よりも粒径が小さく、かつ、粒度分布がブロードであるものを用いることが好ましい。
【0021】
上記炭化材の質量に対する、上記アルカリ賦活剤のアルカリ成分の質量の比(以下、この比を「KOH/C」とすることがある)は、特に限定されるものではないが、通常、1~5の範囲内である。
【0022】
上記炭化材とアルカリ賦活剤を用いて活性炭を製造するには、例えば、活性炭製造装置の反応容器に上記炭化材と上記アルカリ賦活剤を入れ、これらを加熱することにより、上記炭化材を賦活処理して、活性炭を得る。この賦活処理は、通常、400~1000℃程度の加熱下で、0.1~20時間程度行われる。なお、上記加熱温度および加熱時間は一例であり、用いる炭化材およびアルカリ賦活剤の種類や量等により、適宜調整される。そして、上記賦活処理された炭化材(反応物)を上記反応容器から排出し、必要に応じて、アルカリ洗浄,整粒,酸洗浄,脱水等を行うことにより、活性炭を得ることができる。
【0023】
上記活性炭の比表面積は、特に限定されるものではないが、比表面積は1000~5000m2/gの範囲にあることが好ましく、2000~4000m2/gの範囲にあることがより好ましく、さらに好ましくは2500~3500m2/gの範囲である。また、その平均細孔径は0.3~10nmであることが好ましく、0.5~2.5nmであることがより好ましい。上記比表面積および平均細孔径は、比表面積/細孔径分布測定装置を用い、窒素ガス吸着法により得られた窒素吸着等温線から算出した値である。
【0024】
[キレート剤]
上記キレート剤は、特に限定されるものではないが、例えば、2-イソニトロソプロピオフェノン、ジ-(2-エチルヘキシル)リン酸(D2EHPA)、ジ-(2エチルヘキシル)ホスホン酸(PC88A)、ジ-(2エチルヘキシル)ホスフィン酸等、さらにはオキシム系抽出剤(LIX系等)、リン酸系抽出剤(Cyanex系等)の抽出剤等が挙げられる。なかでも、2-イソニトロソプロピオフェノンを用いることが好ましい。
【0025】
2-イソニトロソプロピオフェノン(以下「INP」とすることがある)は、常温(23℃程度)において、白~薄い黄色を有する結晶および結晶粉末の化合物(MW:163.18)であり、下記の構造式(1)で表される。
【0026】
【化1】
【0027】
本発明の分離剤において、担持体に対するキレート剤の付与量は10~250質量%の範囲にあり、好ましくは20~200質量%、より好ましくは50~180質量%である。キレート剤の付与量が多すぎると担持体の細孔を閉塞させるとともに、担持体の表面を過剰に覆ってしまうことが懸念される。一方、少なすぎると分離剤としての効果が低減する傾向がみられる。
【0028】
上記活性炭とINPとから本発明の分離剤を製造するには、例えば、つぎのようにする。まず、INPを溶媒に溶解させ、INP溶液を作製する。つぎに、作製したINP溶液中に活性炭を浸漬して撹拌し、活性炭の表面のみならず、その内部にまで充分にINP溶液を含浸させる。そして、INP溶液を含浸させた活性炭をINP溶液中に活性炭を存在させたまま、溶媒を除去することにより、本発明の、INPが付与された活性炭を得ることができる。
【0029】
上記INP溶液に用いられる溶媒としては、例えば、アルコール、芳香族炭化水素等が挙げられ、具体的には、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n-ブタノール、t-ブタノール、アリルアルコール、トルエン等を用いることができ、なかでもINPの溶解性に優れ、環境負荷が少ない点から、エタノールが好ましく用いられる。
【0030】
上記INP溶液は、通常、溶媒中にINPが0.1~70mmol(以下「mM」とすることがある)含有されており、好ましくは1~60mM、より好ましくは、3~50mMであり、一層好ましくは5~15mMである。
【0031】
上記INP溶液と活性炭の比率は、活性炭に対しINPが10~250質量%付与されるようになっていればどのようであってもよく、通常、INP溶液300cm3に対して活性炭0.1~5.0cm3(みかけ容積)であり、好ましくは0.2~3.0cm3、より好ましくは0.5~2.0cm3である。
【0032】
上記INP溶液を活性炭に含浸させる時間は、通常、1~36時間程度であり、好ましくは2~30時間、より好ましくは4~24時間、一層好ましくは5~10時間である。また、そのときのINP溶液の温度は、通常、10~50℃、好ましくは20~40℃、より好ましくは25~30℃である。
【0033】
上記INP溶液を含浸させた活性炭から上記溶媒を除去する方法は、特に制限されるものではなく、例えば、加熱除去、減圧留去、風乾等があげられる。
【0034】
上記のようにして得られた分離剤は、金属、特にレアメタル等を分離対象物とし、これらの分離、回収に好適に用いられる。例えば、海水等の金属が含有された水溶液(以下「金属水溶液」とすることがある)を対象として使用されるものであり、このような金属水溶液としては、例えば、各種金属(例えば、白金族金属、金、銀、銅、ニッケル、クロム、バナジウム、コバルト、鉛、亜鉛等)またはこれらの金属化合物を含有する水溶液、あるいは一般の河川水、湖沼水、海水、土壌溶出水、用水、生物処理水、工場廃水、鉱山廃水、温泉水等があげられる。そして、本発明の分離剤は、これらの金属水溶液から金属を抽出し、回収、除去、分離することができる。なかでも、Co、Niの抽出および分離に好適である。
【0035】
また、本発明の分離剤は有機溶媒を含有していないため、これまで工業的に利用することができなかった分野への利用可能性が認められる。すなわち、有機溶媒の代替として用いることで、有機溶媒による環境汚染を防止することが期待できる。また、有機溶媒に対して難溶性を有する各種抽出剤の利用可能性を高めることができる。
【0036】
上記分離剤は、常法に従って用いることができる。例えば、常温(23℃程度)の金属水溶液に加えて撹拌したり、分離剤を充填したシリンダーに金属水溶液を流し込んだりする等して用いることができる。
【0037】
本発明の分離剤は、活性炭等の担持体に対し、INP等のキレート剤が10~250質量%付与されたものである。とりわけ、担持体に対しキレート剤が50~200質量%付与されたものであると、対象とする分離対象物の抽出容量がより高まる点から好ましい。
【0038】
本発明の分離剤の比表面積は、特に限定されないが、50~4500m2/gの範囲にあることが好ましく、より好ましくは100~4000m2/g、更に好ましくは150~3000m2/g、より更に好ましくは200~2500m2/gである。分離剤の比表面積が低下し過ぎると、分離対象物を抽出する抽出サイトが減少する傾向がみられ、多すぎると分離剤としての効果が低減する傾向がみられる。
【0039】
本発明の分離剤の全細孔容積は、特に限定されないが、0.05~2cm3/gの範囲にあることが好ましく、より好ましくは0.1~0.8cm3/gである。分離剤の全細孔容積が大きすぎると、対象とする分離対象物の抽出に適するサイズの細孔容積比率が低下し、抽出量が低下する傾向がみられ、小さすぎると、対象とする分離対象物の抽出に適するサイズの細孔容積自体も減少し、充分な抽出量が得られない傾向がみられる。
【0040】
つぎに、実施例について、従来例および比較例と併せて説明する。ただし、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例
【0041】
[実施例1]
INP 0.5g(3.0mM)を100cm3のエタノールに加え、これをエバポレーターで減圧せずに30℃の温度下で撹拌して、INP溶液を作製した。上記INP溶液に活性炭(MSC30、関西熱化学社製)1.0gを加え、さらに12時間撹拌して、活性炭内部までINP溶液を含浸させた。その後、INP溶液に活性炭を浸漬させた状態のまま(INP溶液から活性炭を取り出すことなく)、エバポレーターを減圧してエタノールを減圧留去することにより、活性炭に対し50質量%のINPが付与された分離剤を得た。
【0042】
[実施例2]
実施例1において、INPの量を1.0g(6.0mM)にした以外は、実施例1と同様にして、活性炭に対し100質量%のINPが付与された分離剤を得た。
【0043】
[実施例3]
実施例1において、INP 2.0g(12.0mM)にした以外は、実施例1と同様にして、活性炭に対し200質量%のINPが付与された分離剤を得た。
【0044】
[比較例1]
市販品である活性炭(MSC30、関西熱化学社製)を比較例1とした。
【0045】
[比較例2]
INP1.223g(7.5mM)をトルエン150cm3に溶解させ、50mM-INP溶液を調製し、比較例2とした。
【0046】
上記実施例1~3および比較例1品の比表面積、全細孔容積および平均細孔径を測定し、後記の表1に示す。なお、各項目の測定方法は以下に示すとおりである。
【0047】
<比表面積>
各実施例および比較例品0.2gを70℃にて真空加熱した後、窒素吸着装置(マイクロメリティック社製、「ASAP-2420」)を用いて、液体窒素雰囲気下(77K)で窒素吸着等温線を求め、BET法により各実施例および比較例品の比表面積(m2/g)を求めた。
【0048】
<全細孔容積>
各実施例および比較例品について、それぞれ窒素吸着等温線を算出し、各窒素吸着等温線に基づき、相対圧P/P0(P:吸着平衡にある吸着質の気体圧力、P0:吸着温度における吸着質の飽和蒸気圧)が0.93における細孔直径300nmまでの窒素吸着量を求め、これを各実施例および比較例品の全細孔容積(cm3/g)とした。
【0049】
<平均細孔径>
各実施例および比較例品の細孔をシリンダー状と仮定し、以下の式に基づいてこれらの平均細孔径を算出した。
平均細孔径(nm)=(4×全細孔容積(cm3/g))/比表面積(m2/g)×1,000
【0050】
【表1】
なお、実施例3品は、実施例1および比較例1品に比べて比表面積が顕著に小さいと考えられ、上述の方法で比表面積が測定できなかったため、上記表1に記載していない。
【0051】
つぎに、各実施例品および比較例品を適宜用いて、pHの影響および抽出容量について、検討および評価を行った。なお、各項目の検討および評価の方法は以下に示すとおりである。
【0052】
<pHの影響>
金属水溶液として、3重量%の塩化アンモニウム水溶液に、CoおよびNiをそれぞれ1mM添加したものを準備した。
初期pHは3.0~9.0まで設定し、pH調整は0.1N-HClと0.1N-NaOHを用いて行った。
上記実施例2品または比較例1品50mgを、上記金属水溶液10cm3が入ったサンプル管に加え、30℃、120rpm、24時間振とうして、上記金属水溶液から金属を抽出した。これをろ過し、平衡後のpHについてpHメーター(LAQUA F-72S、堀場製作所社製)を用いて測定するとともに、金属水溶液の金属濃度について原子吸光光度計(Z-2310、日立ハイテクノロジーズ社製)を用いて検量線法で測定し、これらの抽出率を下記の式(1)により求めた。
一方、比較例2品は、上記金属水溶液10cm3が入った三角フラスコに10cm3加え、30℃、120rpm、24時間振とうして、上記金属水溶液から金属を抽出した。振とう後の金属水溶液を採取し、上記実施例2および比較例1品と同様に、平衡後のpHおよび金属濃度を測定し、抽出率を求めた。
【0053】
抽出率(%)=(C0-C1)/C0×100・・・(1)
0:抽出させる前の金属水溶液の金属濃度(mM)
1:抽出させた後の金属水溶液の金属濃度(mM)
【0054】
これらの結果を図1(実施例2品)、図2(比較例1品)および図3(比較例2品)にそれぞれ示す。
図1の結果から、実施例2品は、Co,Ni平衡の抽出率が高くなっており、優れた抽出能を有することがわかる。また、pH5.0付近でCoが急激に抽出され、pH6.0付近でNiが急激に抽出される傾向がみられたことから、Coが優先的に抽出されるものと思われる。これは、抽出剤として用いたINPの特性が反映されていると考えられる。
図2の結果から、比較例1品は、Co,NiともにpHが高くなるにつれて、抽出率が上昇する傾向がみられた。これは、活性炭の官能基が解離することにより負に帯電し、金属カチオンを抽出するためではないかと考えられる。しかし、全体としての抽出量は少なかった。
図3の結果から、比較例2品は、どのpH領域でもNiをほとんど抽出していないことがわかる。Coについては、pHの上昇に伴い抽出率の上昇がみられ、平衡後pH7.0付近から急激に抽出率が上昇していた。このことから、INPはCoに対して選択性を有していると考えられる。なお、全体としての抽出量は少なかった。
【0055】
<抽出容量>
上記実施例1~3品および比較例1品について、使用量と金属抽出量との関係を下記の手順にしたがって検討した。
【0056】
金属水溶液として、3重量%の塩化アンモニウム水溶液に、CoおよびNiをそれぞれ5mM添加したものを準備した。
初期pHは8.0で設定し、pH調整は0.1N-HClと0.1N-NaOHを用いて行った。
上記実施例1~3品および比較例1品を、それぞれ準備した30cm3サンプル管に所定量(10~70mgの範囲で10mg刻み)を量り取った後、上記金属水溶液を10cm3加え、30℃、120rpm、24時間振とうして、上記金属水溶液から金属を抽出した。振とう後の金属水溶液を採取し、平衡後のpHをpHメーター(LAQUA F-72S、堀場製作所社製)を用いて測定するとともに、Co、Niそれぞれの濃度について原子吸光光度計(Z-2310、日立ハイテクノロジーズ社製)を用いて検量線法で測定し、等温線を作成した。Coについて作成した等温線を図4に示す。この結果から、INPが付与されることにより抽出能は約4倍に増加することが判明した。
【0057】
このように、本発明の分離剤は高い抽出能を有しているため、金属の抽出剤として活用できる。また、本発明の分離剤は、有機溶媒抽出法における抽出剤としての活用が充分に期待できる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の分離剤は、海水等の金属を含有する水溶液から金属の抽出、精製を行う場合に利用可能である。
図1
図2
図3
図4