IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ コリア リサーチ インスティチュート オブ ケミカル テクノロジーの特許一覧 ▶ コリア ファーマ カンパニー,リミテッドの特許一覧

特許7266220エスシタロプラムを含む微粒球状徐放出注射剤及びその製造方法
<>
  • 特許-エスシタロプラムを含む微粒球状徐放出注射剤及びその製造方法 図1
  • 特許-エスシタロプラムを含む微粒球状徐放出注射剤及びその製造方法 図2
  • 特許-エスシタロプラムを含む微粒球状徐放出注射剤及びその製造方法 図3
  • 特許-エスシタロプラムを含む微粒球状徐放出注射剤及びその製造方法 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-20
(45)【発行日】2023-04-28
(54)【発明の名称】エスシタロプラムを含む微粒球状徐放出注射剤及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/343 20060101AFI20230421BHJP
   A61K 9/107 20060101ALI20230421BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20230421BHJP
   A61K 47/34 20170101ALI20230421BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20230421BHJP
   A61P 25/24 20060101ALI20230421BHJP
【FI】
A61K31/343
A61K9/107
A61K47/12
A61K47/34
A61K47/36
A61P25/24
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020543445
(86)(22)【出願日】2018-11-01
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-01-14
(86)【国際出願番号】 KR2018013212
(87)【国際公開番号】W WO2019088744
(87)【国際公開日】2019-05-09
【審査請求日】2021-10-13
(31)【優先権主張番号】10-2017-0144796
(32)【優先日】2017-11-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】513201538
【氏名又は名称】コリア リサーチ インスティチュート オブ ケミカル テクノロジー
(73)【特許権者】
【識別番号】520150854
【氏名又は名称】コリア ファーマ カンパニー,リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】シン,ビュン チョル
(72)【発明者】
【氏名】チョ,ソン ハン
(72)【発明者】
【氏名】ヤン,テ ギョン
(72)【発明者】
【氏名】カン,ソク ヒ
(72)【発明者】
【氏名】パク,ウン ヒ
【審査官】新留 素子
(56)【参考文献】
【文献】特表2007-500238(JP,A)
【文献】特開2003-206240(JP,A)
【文献】特表2013-543874(JP,A)
【文献】特表2016-515612(JP,A)
【文献】T.G.Yang et al.,Suppression of initial burst in PLGA Microspheres using polymeric complex,The Polymer Society of Korea 2017 Fall Conference Research Thesis,2017年,Vol.42,p.90,Retrieved from the Internet: <URL: https://www.cheric.org/research/tech/proceedings/view.php?seq=147806&proceedingssearch=initial%20burst>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
A61P
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エスシタロプラムを含む生分解性高分子微粒球含有徐放性注射剤であって、前記微粒球は、ヒドロキシナフトエ酸を追加的に含むことで、微粒球内でエスシタロプラムが均一に分布され
前記生分解性高分子が、ポリラクチド、ポリグリコリド、ポリ(ラクチド-コ-グリコリド)及びポリ(ラクチド-コ-グリコリド)グルコースからなる群より選択された1種以上である、徐放性注射剤。
【請求項2】
生分解性高分子、エスシタロプラム及びヒドロキシナフトエ酸を含む溶液を製造する段階と、
前記溶液を水溶液に添加しながら撹拌してO/W乳剤を形成して微粒球を形成する段階とを含み、
前記生分解性高分子が、ポリラクチド、ポリグリコリド、ポリ(ラクチド-コ-グリコリド)及びポリ(ラクチド-コ-グリコリド)グルコースからなる群より選択された1種以上である、エスシタロプラムを含む生分解性高分子微粒球含有徐放性注射剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
[技術分野]
本発明は、生分解性高分子微粒球(microsphere)を含むエスシタロプラム徐放出製剤及びその製造方法に関する。より詳しくは、前記徐放出製剤は、生分解性高分子微粒球にエスシタロプラムが一定含量で担持された薬物担体であって、封入量及び封入効率が極大化し、初期過多放出が抑制され、一定時間にわたって持続的なエスシタロプラム放出を誘導することができる徐放出製剤及びその製造方法に関する。
【0002】
[背景技術]
一般に、うつ病患者は、脳におけるセロトニンと呼ばれる神経伝達物質が足りない。「エスシタロプラム(Escitalopram)」成分の抗鬱剤は、セロトニンが脳細胞で再吸収されることを防止し、結果的に脳で足りないセロトニンを増加させる働きをする最も代表的な「選択的セロトニン再取り込み阻害剤(SSRI)」である。
【0003】
一方、徐放性注射剤形とは、皮下または筋肉注射時に、体内で薬物が生物学的活性を維持しながら持続的且つ均一に放出できるように製剤化した注射剤形である。従来、このような徐放性注射製剤の一般的な製造方法は、コアセルベーション(coacervation)、溶融射出法、噴霧乾燥法、溶媒蒸発法などが知られている。このような方法のうち、二重乳化蒸発法(W/O/W emulsion)と単一乳化蒸発法(O/W emulsion)とに分類される溶媒蒸発法が最も多く用いられている。しかし、このような多重エマルション法を用いた微粒球は、初期放出率が高いという短所とともに、活性成分である薬物を有機溶媒または水に溶解させる場合、微粒球を形成しながら薬物の物性変化、薬効消失、低い封入効率などの問題を内包する。
【0004】
このような徐放性注射製剤の薬物封入率を増加させるか又は製造工程が容易であって初期過多放出が相対的に低い微粒球を製造するため多様に試みられているが、未だ十分ではない。「Active self-healing encapsulation of vaccine antigens in PLGA microspheres, Journal of Controlled Release 165(2013) 62-74」には、二重乳化蒸発法で微粒球を製造し、微粒球の微細孔から活性成分であるワクチン抗原をローディングした後、生分解性高分子のガラス遷移温度(Tg)以上加熱して微細孔を塞いで初期放出を抑制する方法が開示されているが、このような製造方法は、薬物が熱によって変性し得るという深刻な短所を有する。また、タンパク質捕獲剤を添加して薬物封入効率を相当高めたが(~97%)、活性物質の全体的な封入量(1.4~1.8%)はかなり低かった。このような方法は、生理活性物質が熱によって変性し得るという短所があり、また投与用量の多い薬物を高用量で封入するには適用することができない。また、複雑な製造過程のため実生産し難いという短所がある。
【0005】
[発明の概要]
[発明が解決しようとする課題]
したがって、本発明が解決しようとする課題は、有効成分としてエスシタロプラムを含む微粒球注射剤であって、エスシタロプラムの封入量及び封入効率が極大化し、高いローディング条件で微粒球が砕かれることが改善され、微粒球の初期放出抑制と放出遅延を適切に調節可能な生分解性高分子微粒球及びその製造方法を提供することである。
【0006】
[課題を解決するための手段]
上記の課題を解決するため、本発明は、エスシタロプラムを(内部に)含む生分解性高分子微粒球含有徐放性注射剤であって、前記微粒球は、薬剤学的に許容可能な疎水性の固形化剤を追加的に含むことで、微粒球内でエスシタロプラムが均一に分布されたことを特徴とする徐放性注射剤、及びその製造方法を提供する。
【0007】
一般に、PLGAなどの生分解性高分子にエスシタロプラムを封入して徐放出微粒球を製造すると、エスシタロプラムが液体状態であることから、製造後固形化した高分子と相分離されてo/o/wの形態で製造される。このような剤形によってエスシタロプラムのローディングが非常に低くなり、ローディングを高めると、微粒球がスポンジ状で存在して粒子の強度が弱く、微粒球の形態を維持し難いか又は砕かれた形態で存在するようになる。
【0008】
本発明は、微粒球内に薬剤学的に許容可能な疎水性物質である脂肪酸、芳香族酸、コレステロール誘導体、リン脂質などを含むことで、通常液相であるエスシタロプラムを固形化し、液相のエスシタロプラムによって形成されるo/o/wの微粒球をo/w型の微粒球にして、ローディング効率を高めるだけでなく、初期放出と放出持続が可能である。このような方法は、微粒球のスポンジ構造を改善して内部が均一な固体状の微粒球を製造することができる。
【0009】
本発明において、微粒球の体内投与後、前記生分解性高分子は経時的に体内の電解質を吸収して水和が行われて膨張し、内部のエスシタロプラムが徐々に放出されるようになる。
【0010】
本発明による方法のため、エスシタロプラムを固形化可能な方案としては、体温で固体状態で存在する疎水性脂質の物性を有する疎水性脂肪酸、芳香族酸、コレステロール誘導体、リン脂質のうち1つ以上を微粒球に含ませることができる。例えば、前記疎水性の固形化剤のうち脂肪酸としては、炭素数が18個以上であって融点が70℃以上の飽和脂肪酸であるステアリン酸、ベヘン酸(behenic acid)などが用いられ得、芳香族酸としては、融点が150℃以上である安息香酸、サリチル酸、ヒドロキシナフトエ酸、ナフテン酸、ナフトエ酸、ナフタル酸、パモ酸などが用いられ得、コレステロール誘導体としては、リトコール酸、コール酸、デオキシコール酸などが用いられ得、リン脂質としては、ジパルミトイルリン酸(dipalmitoyl phosphoric acid、DPPA)、ジパルミトイルホスファチジルグリセロール(dipalmitoyl phosphatidyl glycerol、DPPG)、ジパルミトイルホスファチジルセリン(dipalmitoyl phosphatidyl serine、DPPS)などが用いられ得る。
【0011】
より望ましくは、本発明の目的上、脂肪酸としては、炭素数が18個以上であって融点が70℃以上の飽和脂肪酸であるステアリン酸、芳香族酸としては、融点が150℃以上であるヒドロキシナフトエ酸、コレステロール誘導体としてはリトコール酸、リン脂質としてはDPPAを使用することが、エスシタロプラムの固形化を効率的に達成し、粒子内部のエスシタロプラムを均一且つ堅固に維持することができ、高いローディングの微粒球を得ることができる。
【0012】
最も望ましくは、本発明による、微粒球内に追加的に含まれる薬剤学的に許容可能な疎水性の固形化剤としては、ヒドロキシナフトエ酸が使用される。ヒドロキシナフトエ酸が使用される場合、適切な強度を有する微粒球を容易に製造できるだけでなく、望ましい溶出パターンを有するように微粒球を製造することができる。
【0013】
望ましくは、本発明による微粒球において、生分解性高分子としては、ポリラクチド(PLA)、ポリグリコリド(PGA)、ポリ(ラクチド-コ-グリコリド)(PLGA)、ポリ(ラクチド-コ-グリコリド)グルコースなどが1つ以上使用され得る。
【0014】
また、本発明は、O/W溶媒内抽出蒸発法(Solid-in-oil-in-water;solvent intra extraction evaporation)を用いた生分解性高分子微粒球状徐放出製剤の製造方法を提供する。前記方法によれば、微粒球内のエスシタロプラムの封入量及び封入効率を極大化し、持続的且つ均一な薬物の放出を誘導する徐放出製剤を製造することができる。
【0015】
すなわち、本発明は、生分解性高分子、エスシタロプラム及び薬剤学的に許容可能な疎水性の固形化剤を含む溶液を製造する段階と、前記溶液を水溶液に添加しながら撹拌してO/W乳剤を形成して微粒球を形成する段階とを含む、エスシタロプラムを含む生分解性高分子微粒球含有徐放性注射剤の製造方法を提供する。
【0016】
具体的に、本発明は、溶媒と生分解性高分子、エスシタロプラム、固形化剤を激しく混合撹拌して溶解させる段階(a)、前記溶液を水溶液(望ましくは、ポリビニルアルコール水溶液)に滴下して徐々に混合撹拌してO/W乳濁液を製造する段階(b)、前記O/W乳濁液共溶媒が水性媒質に拡散及び蒸発しながら微粒球が生成される硬化段階(c)を含む製造方法を提供する。また、本発明による前記製造方法は、前記(c)段階で生成された微粒球を乾燥、望ましくは凍結乾燥する段階(d)をさらに含み得る。
【0017】
例示的に、本発明の製造方法は、以下のような段階を経て製造され得る。
【0018】
(a)段階:生分解性高分子、エスシタロプラム及び固形化剤を激しく混合撹拌して溶解させる段階
非水性溶媒は、生分解性高分子を溶解できるものであれば、特に制限されない。本発明の具体的な一実施形態によれば、前記非水性溶媒として、沸点の低い、例えば沸点が25℃~85℃である非水性溶媒を使用し得る。非水性溶媒の沸点が上記の範囲に含まれる場合、微粒球を生成した後、その蒸発及び乾燥の面で有利である。本発明において、前記非水性溶媒の非制限的な例としては、ジクロロメタン、クロロホルム、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、エチルアセテートなどが挙げられるが、これらに限定されることはない。
【0019】
前記生分解性高分子は、薬物担体として使用可能な微粒球を製造するときに用いる通常の高分子であって、生体内で自己分解し、生体適合性を有するものである。本発明において、ポリラクチド(PLA)、ポリグリコリド(PGA)、ポリ(ラクチド-コ-グリコリド)(PLGA)、ポリ(ラクチド-コ-グリコリド)グルコースなどの生分解性合成高分子を1つ以上使用し得る。
【0020】
本発明の具体的な一実施形態において、前記生分解性高分子は、重量平均分子量が60,000以下のものが使用され得る。例えば、分子量が約13,000のポリ(ラクチド-コ-グリコリド)(50:50)、分子量が約33,000のポリ(ラクチド-コ-グリコリド)(50:50)、分子量が約52,000のポリ(ラクチド-コ-グリコリド)(50:50)、分子量が約20,000のポリ(ラクチド-コ-グリコリド)(75:25)、分子量が約16,000のポリ(ラクチド)(100:0)などを使用し得る。このような生分解性高分子は、例えば、ベーリンガーインゲルハイム社製のResomer RG502H、RG503H、RG504H、RG752H、R202Hなどが挙げられる。
【0021】
本発明の具体的な一実施形態において、前記生分解性高分子は0.16~0.6dL/gの固有粘度を有し得る。本発明において、前記生分解性高分子の粘度が0.1dL/g未満であれば、薬物粉末粒子を封入する微粒球が十分形成されないか又は薬物封入率が著しく減少し、0.6dL/gを超過する場合は、大き過ぎる微粒球が形成され得、薬物放出量が少なくて所望のレベルの薬効が得られないこともある。
【0022】
本発明の具体的な一実施形態によれば、前記段階において、生分解性高分子は第1混合液1ml当たり10mg~150mgの濃度、望ましくは25mg~125mgの濃度、より望ましくは50mg~125mgの濃度で溶解される。生分解性高分子の濃度が低い場合、高分子溶液の粘度が低くなって、ホモジナイザで分散するとき粒子が小さくなる傾向があるが、微粒球形成前の微細滴内の高分子の比率が小さくて粒子形成時に粗い構造を示すことがあり、それによって薬物の封入量及び封入効率も低くなり得る。一方、前記濃度が150mg/mlを超過する場合は、高分子溶液の粘度が高くなることで微粒球が大きくなる傾向がある。
【0023】
固形化剤としては、上述した物質が使用され得る。
【0024】
(b)段階:前記溶液を水溶液に滴下して徐々に混合撹拌してO/W乳濁液を製造する段階
本発明の前記水性媒質は乳化剤を含み得る。前記乳化剤の含量は、水性溶媒1L当たり0.1g~10g、または3g~7gの範囲、すなわち、0.1(w/v)%~10(w/v)%または3(w/v)%~7(w/v)%であることが望ましい。前記乳化剤としては、ポリソルベート、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポロキサマー、スパン80などがあるが、これらに限定されない。望ましくは、本発明において、前記乳化剤はポリビニルアルコールである。
【0025】
本発明の具体的な一実施形態において、前記(b)段階において、乳濁液は懸濁液と前記水性媒質とが体積比で1:5~1:50の比率で混合されて製造される。前記混合比率は、望ましくは1:10~1:20である。前記懸濁液と前記水性媒質との体積比が1:5未満である場合は、O/W乳濁液をホモジナイザで均質化した後、O/W乳濁液中の微細滴間の間隔が狭くて衝突する可能性が高くなって、共溶媒及び非水性溶媒の拡散及び蒸発前に微細滴同士が固まってしまい均一な大きさの微粒球を形成し難くなるおそれがある。また、前記比率が1:50を超過する場合は、添加される乳化剤の量が多くなってコストの面で不利である。
【0026】
(c)段階:前記O/W乳濁液で前記共溶媒が前記水性媒質に拡散及び蒸発しながら微粒球が生成される硬化段階
前記(b)段階において、共溶媒が水性媒質に拡散及び蒸発しながら1次的な高分子硬化が誘導され、それによって薬物粒子が微粒球内に封入される。すなわち、前記O/W乳濁液中の分散した微細滴内の共溶媒が水性溶媒に急激に拡散及び抽出されながら、生分解性高分子が素早く固形化して微粒球を形成する。本発明の具体的な一実施形態によれば、この過程で微細滴同士が互いに固まらないように、磁力撹拌機で激しく撹拌することが望ましい。微粒球の形成時間は1~10分であり得る。前記微粒球の形成時間が1分未満の場合は、微粒球の生分解性高分子が十分硬化せず、粒子同士が固まる現象が現れるおそれがある。一方、10分を超える場合は、薬物の封入効率が低くなるおそれがある。
【0027】
微粒球生成の後、前記O/W乳濁液から水性媒質及び溶媒を除去して微粒球を収得する。
【0028】
(d)段階:(c)段階で生成された微粒球を(凍結)乾燥する段階
前記(凍結)乾燥過程を通じて微粒球の構造が堅固になって、薬物が生分解性高分子に完全に封入される。本発明の具体的な一実施形態によれば、前記乾燥は、微粒球内に残留する溶媒を完全に除去するため、凍結乾燥段階をさらに含み得る。前記凍結段階は、-30℃~-40℃の温度条件で行われ得、乾燥時間は12~24時間であり得る。本発明の具体的な一実施形態によれば、前記凍結乾燥段階は、真空条件下で行われ得る。前記乾燥時間が12時間未満であれば、残留溶媒が完全に除去されないこともあり、24時間を超えれば、生産性が低くなるおそれがある。
【0029】
上述したように、本発明によるO/W溶媒内抽出蒸発法(Solid-in-oil-in-water;solvent intra extraction evaporation)を用いて徐放出製剤である生分解性高分子微粒球を製造することができる。前記方法によって収得された微粒球は、薬物封入量及び封入効率が高くて徐放出効果に優れる。
【0030】
本発明において、前記微粒球は、生分解性高分子が微粒球100重量%対比30~95重量%、望ましくは45~75重量%で含まれ得る。生分解性高分子が40重量%未満で含まれる場合は、微粒球の表面及び内部に多孔特性が現れる傾向があり、薬物が初期に過多放出されるか又は放出時間が短くなる問題がある。一方、95重量%を超過する場合は、患者または動物体に投与される微粒球の量が過剰に多くなって、投与し難くなるか、それとも、投与自体が不可能になるおそれがある。
【0031】
[発明の効果]
本発明は、エスシタロプラムを担持した生分解性高分子粒子の製造において、O/W溶媒内抽出蒸発法を用いて最小限の工程及びエネルギーを使用して高い薬物封入量及び封入効率、長期間にわたる持続的な薬物放出挙動を現わすことができる高分子微粒球徐放性製剤及びその製造方法を提供する。特に、微粒球内にエスシタロプラムを固形化可能な固形化剤を含ませることで、微粒球の封入率及びローディング率を増加させ、微粒球の内部構造を均一にして薬物放出を効率的に制御することができる。
【0032】
本明細書に添付される次の図面は、本発明の望ましい実施例を例示するものであり、発明の詳細な説明とともに本発明の技術的な思想をさらに理解させる役割をするものであるため、本発明は図面に記載された事項だけに限定されて解釈されてはならない。
【0033】
[図面の簡単な説明]
図1>実施例1、実施例2及び実施例3で製造された微粒球の電子顕微鏡写真である。左側写真は微粒球の全体写真であり、右側写真は微粒球の破砕面の内部を拡大した写真である。実施例1~3で製造された微粒球は内部が満たされた形態を有し、乾燥後に粒子が砕かれるか又は変形した形態が観察されなかった。
【0034】
図2>固形化剤が含まれていない比較例1の微粒球の写真である。比較例1は、o/o/wエマルション形態であり、薬物の含量が高くなるほど粒子内部に液体相の薬物があった小さいセルが多くなるだけでなく大きくなることで微粒球の強度が著しく低下し、結果的に凍結乾燥の後、砕かれた形態が多くなった。
【0035】
図3>本発明による実施例1、実施例2、実施例3(3-3)及び比較例1で製造された微粒球に対し、実験例3によって実験したイン・ビトロ(in vitro)薬物放出挙動の測定結果を示したグラフである。比較例1と比べて、リン脂質(DPPA)を含む場合、初期放出は見えるものの、時間が経過するほど放出遅延の効果が高く、脂肪酸(ステアリン酸)を添加した場合は、初期放出及び放出遅延の効果が低いことが見られる。芳香族酸を添加した実施例3の場合、初期放出抑制及び放出遅延の効果が良好であった。
【0036】
図4>初期放出抑制及び放出遅延の効果が良好な芳香族酸の実施例3の方法による実施例3-1、実施例3-2、実施例3-3及び実施例3-4における含量毎の放出挙動を、比較例1と比べた結果を示したグラフである。芳香族酸の含量が増加するほど初期放出抑制及び放出遅延の効果が良好になることが分かる。これは、疎水性固形化剤の添加によって、o/o/w型の不均一な微粒球の内部構造がo/w型の均一な内部構造に変わりながら、初期放出抑制及び放出遅延の効果が高まり、エスシタロプラムのローディング量が増加しても粒子が砕かれる現象を防止できるためである。
【0037】
[発明を実施するための形態]
以下、本発明の理解を助けるため、実施例などをあげて詳しく説明する。しかし、本発明による実施例は多くの他の形態に変形できるため、本発明の範囲が下記実施例に限定されると解釈されてはならない。本発明の実施例は、本発明が属した分野で平均的な知識を持つ者に本発明をより完全に説明するために提供されるものである。
【0038】
実施例1:生分解性高分子PLGA、エスシタロプラム及びDPPAを使用したO/W型微粒球の製造
1.5gの生分解性高分子PLGA(エボニック製、製品名:RESOMER RG504H)、1gのエスシタロプラム、0.5gのDPPAをジクロロメタン20mlに添加して1時間激しく撹拌して溶解させた。均一に溶解された溶液を5(w/v)%のポリビニルアルコール(シグマアルドリッチ製、87~90% hydrolyzed MW:30,000~70,000)水溶液200mlに注入しながら、ホモジナイザ(IKA製、ULTRA-TURRAX T8)を用いて1,000~2,000rpmで2分間分散させ、O/W乳濁液を得た。その後、前記乳濁液を、常温常圧下、磁力撹拌機(900rpm)で5時間激しく撹拌しながら微粒球を形成させた後、濾過紙(Whatman)を用いて微粒球を採取し、蒸留水で2~3回洗浄した。洗浄した微粒球を、常温常圧下、3時間にわたって1次乾燥した後、12時間、-35℃で凍結乾燥して微粒球内の溶媒を完全に除去した。
【0039】
実施例2:生分解性高分子PLGA、エスシタロプラム及びステアリン酸を使用したO/W型微粒球の製造
1.5gの生分解性高分子PLGA(エボニック製、製品名:RESOMER RG504H)、1gのエスシタロプラム、0.3gのステアリン酸をジクロロメタン20mlに添加して1時間激しく撹拌して溶解させた。その後、実施例1と同様に進行して微粒球を製造した。
【0040】
実施例3:生分解性高分子PLGA、エスシタロプラム及び1-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸を使用したO/W型微粒球の製造
1.5gの生分解性高分子PLGA(エボニック製、製品名:RESOMER RG504H)、1gのエスシタロプラム、0.5gの1-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸をジクロロメタン20mlに添加して1時間激しく撹拌して溶解させた。その後、実施例1と同様に進行して微粒球を製造した。
【0041】
1-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸の使用量を変更しながら同じ方法で実施例3-1~3-4を製造した。実施例3の代表例は実施例3-3である。
【0042】
【表1】
【0043】
比較例1:生分解性高分子PLGA及びエスシタロプラムを使用したO/O/W型微粒球の製造
1.5gの生分解性高分子PLGA(エボニック製、製品名:RESOMER RG504H)及び1gのエスシタロプラムをジクロロメタン20mlに添加して1時間激しく撹拌して溶解させた。その後、実施例1と同様に進行して微粒球を製造した。
【0044】
実験例1:微粒球の形態の測定
実施例1~3及び比較例1で得られた微粒球の形態を電子顕微鏡を用いて確認した。破砕面を観察するための試料は、乳鉢に微粒球100mgと液体窒素5mlを入れて粉砕して粒子を破砕して製造した。製造された微粒球約5mgをコーター(Quorum Q150 TES、10mA)を用いて4分間白金コーティングした後、走査電子顕微鏡(Tescan Mira 3、LMU FEG-SEM)を用いて微粒球の破砕面の形態及び表面を観察した。
【0045】
測定結果を図1及び図2に示した。結果によれば、それぞれの実施例及び比較例で大きさ約50~160μmの微粒球が確認された。比較例1では、液体状態のエスシタロプラムとPLGA高分子との相分離によって、内部にスポンジ形態の孔が生じたことが観察でき、それによって粒子の強度が著しく低下し、砕かれた粒子が多く観察された。一方、実施例1~3は、比較的粒子の内部が満たされた形態であって、砕かれた形態の粒子はほとんどなかった。実施例1のステアリン酸は、脂質の影響で粒子が柔らかくて少し潰れた球形を示し、実施例2のリン脂質(DPPA)は、内部破砕面が孔や亀裂なく固体で満たされた模様であったが、表面が多少荒い状態であった。実施例3は、芳香族酸であるヒドロキシナフトエ酸含有微粒球であって、粒子の模様は球形で表面が均質であり、内部破砕面は孔が若干観察されるが、その数は多くなかった。結果的に、使用された添加剤は多少相違するが、全般的に注射剤として使用するには大きい問題はないように見える。
【0046】
実験例2:微粒球のエスシタロプラム封入量及び封入率の測定
実施例1~3及び比較例1で製造した微粒球を約30mgずつクロロホルム(シグマアルドリッチ製)3mlに入れて完全に溶解させた後、400倍に希釈して検液として使用した。HPLC測定機を用いて吸光度を測定し、微粒球内に封入されているエスシタロプラムの含量を測定した。封入率は薬物の投入量対比封入量で計算した。
【0047】
HPLC分析条件は、以下のようであった。
【0048】
移動相は、アセトニトリル4:メタノール5:バッファ11の比率で製造し、検知器はUV240nm、分離用コラムは4.6-mm×25-cm;5-um packing L1であり、流速は1.5mL/min、インジェクションサイズは20uL、分析時間は15min、分析範囲は1000ug/ml~7.8125ug/mlの濃度範囲で測定した。
【0049】
測定結果を下記表2に示した。
【0050】
【表2】
【0051】
実施例1~3におけるエスシタロプラムの封入効率は、75~80%水準と高かった。しかし、比較例1は、薬物の液相への損失率が大きくなって、封入率が相対的に低かった。同様に、薬物の含有量も低かったが、理由は製造過程でスポンジ構造の微粒子が砕かれるか又は非理想的な放出が行われたためであると推測される。
【0052】
実験例3:微粒球のイン・ビトロ薬物放出挙動の測定
薬物の放出挙動を測定するため、実施例1~3及び比較例1で製造した各微粒球を粒子内の薬物の量が4.0mgになるように重量を測定した後、それぞれ100mlのPBS(Phosphate buffer saline、pH 7.4)に投入して37℃の等温機に保管した。時間帯毎に1mlを抽出したPBSを40倍に希釈してHPLC測定機を用いて放出量を測定した。吸光度値を換算して放出された薬物の濃度を求め、各粒子サンプルの全体薬物(4mg)に対する各時間帯毎に放出された薬物の量を累積百分率で計算して示した。エスシタロプラム溶液は本実験の対照群として使用した。測定結果を図3及び図4に示した。
【0053】
図3は、本発明による実施例1、実施例2、実施例3(3-3)及び比較例1で製造された微粒球に対し、実験例3によって実験したイン・ビトロ薬物放出挙動の測定結果を示したグラフである。比較例1と比べ、リン脂質(DPPA)を含む場合、初期放出は見えるものの時間が経つにつれて放出遅延効果が高く、脂肪酸(ステアリン酸)を添加した場合は、初期放出と放出遅延効果が弱いことが見られる。芳香族酸を添加した実施例3の場合、初期放出抑制及び放出遅延の効果が良好であった。
【0054】
図4は、初期放出抑制及び放出遅延の効果が良好な芳香族酸の実施例3の方法による実施例3-1、実施例3-2、実施例3-3及び実施例3-4における含量毎の放出挙動を、比較例1と比べた結果を示したグラフである。芳香族酸の含量が増加するほど初期放出抑制及び放出遅延の効果が良好になることが分かる。これは、疎水性固形化剤の添加によって、o/o/w型の不均一な微粒球の内部構造がo/w型の均一な内部構造に変わりながら、初期放出抑制及び放出遅延の効果が高まり、エスシタロプラムのローディング量が増加しても粒子が砕かれる現象を防止できるためである。
【図面の簡単な説明】
【0055】
図1】実施例1、実施例2及び実施例3で製造された微粒球の電子顕微鏡写真である。左側写真は微粒球の全体写真であり、右側写真は微粒球の破砕面の内部を拡大した写真である。
図2】固形化剤が含まれていない比較例1の微粒球の写真である。
図3】本発明による実施例1、実施例2、実施例3(3-3)及び比較例1で製造された微粒球に対し、実験例3によって実験したイン・ビトロ(in vitro)薬物放出挙動の測定結果を示したグラフである。
図4】初期放出抑制及び放出遅延の効果が良好な芳香族酸の実施例3の方法による実施例3-1、実施例3-2、実施例3-3及び実施例3-4における含量毎の放出挙動を、比較例1と比べた結果を示したグラフである。
図1
図2
図3
図4