IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社片山化学工業研究所の特許一覧 ▶ ナルコジャパン合同会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-20
(45)【発行日】2023-04-28
(54)【発明の名称】海生生物の付着防止方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/50 20230101AFI20230421BHJP
   C02F 1/76 20230101ALI20230421BHJP
【FI】
C02F1/50 531M
C02F1/50 510C
C02F1/50 510E
C02F1/50 531N
C02F1/50 531P
C02F1/50 532D
C02F1/50 532C
C02F1/50 532E
C02F1/50 532H
C02F1/50 532J
C02F1/50 540A
C02F1/50 540B
C02F1/50 550C
C02F1/76 A
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021142658
(22)【出願日】2021-09-01
(62)【分割の表示】P 2018006454の分割
【原出願日】2018-01-18
(65)【公開番号】P2021183336
(43)【公開日】2021-12-02
【審査請求日】2021-09-01
(31)【優先権主張番号】P 2017017772
(32)【優先日】2017-02-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000154727
【氏名又は名称】株式会社片山化学工業研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】505112048
【氏名又は名称】ナルコジャパン合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100065248
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100159385
【弁理士】
【氏名又は名称】甲斐 伸二
(74)【代理人】
【識別番号】100163407
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 裕輔
(74)【代理人】
【識別番号】100166936
【弁理士】
【氏名又は名称】稲本 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100213849
【弁理士】
【氏名又は名称】澄川 広司
(72)【発明者】
【氏名】太田 文清
【審査官】高橋 成典
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-505069(JP,A)
【文献】特表2013-506002(JP,A)
【文献】特開2013-000696(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103523875(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0152495(US,A1)
【文献】特開平06-153759(JP,A)
【文献】特開平01-275504(JP,A)
【文献】特表2016-538119(JP,A)
【文献】特開2003-104804(JP,A)
【文献】特開2001-261506(JP,A)
【文献】特開2003-275770(JP,A)
【文献】特開2011-104586(JP,A)
【文献】国際公開第2008/041400(WO,A1)
【文献】特開2000-042544(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0174942(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/50
1/70 - 1/78
A01N 1/00 - 65/48
A01P 1/00 - 23/00
A01M 1/00 - 99/00
E02B 1/00 - 3/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
海水冷却水系の海水中でそれぞれ0.01~0.3mg/Lの有効塩素濃度および0.005~0.05mg/Lの濃度になるように、海水を電気分解することにより得られる次亜塩素酸含有電解海水と二酸化塩素とをこの順もしくは逆順でまたは同時に、1日1~24時間添加して、海水冷却水系への海生生物の付着を防止することを特徴とする海生生物の付着防止方法。
【請求項2】
前記次亜塩素酸含有電解海水と二酸化塩素とがこの順で前記海水冷却水系の海水中に添加される請求項1に記載の海生生物の付着防止方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海生生物の付着防止方法およびそれに用いる付着防止剤に関する。さらに詳しくは、本発明は、低濃度の薬剤添加でその効果を長期間持続し、しかも広範な海生生物種の付着を防止し得る海生生物の付着防止方法およびそれに用いる付着防止剤に関する。
【背景技術】
【0002】
海水は、工業用の冷却水として、特に火力発電所や原子力発電所の復水器の冷却水として多量に使用されている。そのため、海水取水路壁や配管内および熱交換器内には、ムラサキイガイなどのイガイ類やフジツボ類やコケムシ類などの海生生物種が多量に付着して、様々な障害を惹き起こす。これらの中でも足糸で着生するムラサキイガイなどの二枚貝類は、成長が速く、成貝になると熱交換器チューブの一部を閉塞させて海水の通水を阻害し、また乱流を生じさせ、エロージョン腐食などの障害を惹き起こす。
【0003】
これら海生生物種の密集着生(付着)を防止するために、従来から次亜塩素酸ナトリウム、電解塩素もしくは塩素ガスなどの塩素発生剤(「塩素剤」ともいう)、過酸化水素もしくは過酸化水素発生剤(「過酸化水素剤」ともいう)の添加が行われている(例えば、特開平11-37666号公報:特許文献1および特開2005-144212号公報:特許文献2参照)。
【0004】
一方、二酸化塩素は、殺菌力が強く、有害な有機塩素化合物を形成しないため、環境への影響が小さいという利点がある。
例えば、特開平1-275504号公報(特許文献3)には、二酸化塩素または二酸化塩素発生剤を有効成分とする水中付着生物防除剤に関する技術が、特開平6-153759号公報(特許文献4)には、淡水または海水を使用する施設に設置された淡水または海水を通す水路に、二酸化塩素水溶液を連続的もしくは比較的高濃度の二酸化塩素水溶液を間欠的に注入することからなる、水路に付着する生物の付着防止または防除方法に関する技術が開示されている。
しかしながら、二酸化塩素は化学物質として極めて不安定であり、海生生物の付着防止効果の持続性に問題がある。
また、本出願人は、二酸化塩素と過酸化水素とを併用する海生生物の付着防止方法およびそれに用いる付着防止剤を提案している(特許第5879596公報:特許文献5参照)。
なお、特開2005-7254号公報(特許文献6)には、殺菌剤として塩素系薬剤と二酸化塩素とを併用する浴槽水の殺菌方法に関する技術が開示されている。しかし、この技術の対象水系は浴槽水であり、海水冷却水系ではなく、その目的はレジオネラ菌などの殺菌やバイオフィルムの破壊であり、海生生物の付着防止ではなく、本発明とは技術分野や目的が異なる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平11-37666号公報
【文献】特開2005-144212号公報
【文献】特開平1-275504号公報
【文献】特開平6-153759号公報
【文献】特許第5879596号公報
【文献】特開2005-7254号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
海生生物の付着防止において、環境への影響を考慮して塩素剤や臭素剤などのハロゲン系薬剤の使用を避ける動きがある中、現状では旧来のプラント設備を使用するため塩素剤や臭素剤を使用せざるを得ない場合や、リサイクル処理により副生された塩素系化合物を有効利用する場合がある。
このような状況の中で、環境への影響に配慮して塩素剤の使用量を低減しつつ、優れた海生生物の付着防止効果を発揮し得る薬剤およびそれを用いる方法の開発が望まれている。
【0007】
本発明は、低濃度の薬剤添加でその効果を長期間持続し、しかも広範な海生生物種やスライムの付着を防止し得る海生生物の付着防止方法およびそれに用いる付着防止剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の発明者は、塩素剤または臭素剤と二酸化塩素との併用により、ムラサキイガイなどのイガイ類を含む広範な海生生物種の付着を長期間持続して有効に防止し得ること、さらには従来技術の塩素剤または臭素剤および二酸化塩素の単独使用と比較して、薬剤添加量を低減させても海生生物やスライム等の有効な付着防止効果が得られることを見い出し、本発明を完成するに到った。
【0009】
かくして、本発明によれば、海水冷却水系の海水中で0.01~0.3mg/Lの有効塩素濃度になるように塩素剤(但し、二酸化塩素を除く)または臭素剤と、0.005~0.05mg/Lの濃度になるように二酸化塩素とをこの順もしくは逆順でまたは同時に、1日1~24時間添加して、海水冷却水系への海生生物の付着を防止することからなり、
前記塩素剤が、次亜塩素酸ナトリウム、N-クロロスルファマートおよびモノクロラミンから選択され、前記臭素剤が、次亜臭素酸ナトリウム、N-ブロモスルファマートおよびモノブロラミンから選択されることを特徴とする海生生物の付着防止方法が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、低濃度の薬剤添加でその効果を長期間持続し、しかも広範な海生生物種やスライムの付着を防止し得る海生生物の付着防止方法を提供することができる。
すなわち、本発明の海生生物の付着防止方法では、塩素剤または臭素剤と二酸化塩素とが海水中で相乗効果を奏する濃度になるように添加されるため、両者の海生生物の付着防止効果が一定時間持続して発揮され、塩素剤または臭素剤と二酸化塩素とをそれぞれ単独で使用した場合よりも、少量添加でより優れた海生生物の付着防止効果を得ることができる。
また、本発明の海生生物の付着防止方法は、広範な海生生物種、例えば、ムラサキイガイなどのイガイ類やフジツボ類、コケムシ類などの海生生物やスライムの付着防止に有効である。
【0011】
また、本発明の海生生物の付着防止方法は、次のいずれか1つの要件を満足する場合に、上記の効果をさらに発揮する。
(1)塩素剤または臭素剤および二酸化塩素が、海水に対してそれぞれ0.005~0.3mg/Lの有効塩素濃度および0.002~0.2mg/Lの濃度になるように海水中に添加される。
(2)塩素剤または臭素剤と二酸化塩素とが1日1~24時間添加される。
(3)塩素剤または臭素剤が添加された海水冷却水系の海水中に二酸化塩素を添加する、すなわち塩素剤または臭素剤と二酸化塩素とがこの順で海水冷却水系の海水中に添加される。
(4)塩素剤または臭素剤が、
(a)塩素ガス、次亜塩素酸カルシウム、次亜塩素酸ナトリウム、塩素化イソシアヌル酸、ジクロロイソシアヌル酸ナトリウム、ジクロロイソシアヌル酸カリウム、モノクロロイソシアヌル酸ナトリウム、モノクロロイソシアヌル酸カリウム、トリクロロイソシアヌル酸ナトリウムおよびトリクロロイソシアヌル酸カリウムの中から選択される一種以上の水中で次亜塩素酸を生成する物質、
(b)次亜臭素酸ナトリウム、臭化ナトリウムと次亜塩素酸ナトリウムとの反応物および臭素水から選択される一種以上の水中で次亜臭素酸を生成する物質、
(c)海水電解液、または
(d)モノクロラミン、ジクロラミン、トリクロラミン、モノブロラミン、ジブロラミン、トリブロラミン、N-クロロスルファマートおよびN-ブロモスルファマートから選択される一種以上の結合塩素または結合臭素
である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(海生生物の付着防止方法)
本発明の海生生物の付着防止方法は、海水冷却水系の海水中で相乗効果を奏する濃度になるように塩素剤(但し、二酸化塩素を除く)または臭素剤と二酸化塩素とをこの順もしくは逆順でまたは同時に添加して、海水冷却水系への海生生物の付着を防止することを特徴とする。
【0013】
(塩素剤または臭素剤)
本発明において用いられる塩素剤または臭素剤としては、併用する二酸化塩素を除く公知の塩素剤または臭素剤が挙げられ、例えば、
(a)塩素ガス、次亜塩素酸塩(次亜塩素酸カルシウム、次亜塩素酸ナトリウムなど)、塩素化イソシアヌル酸、ジクロロイソシアヌル酸塩(ジクロロイソシアヌル酸ナトリウム、ジクロロイソシアヌル酸カリウムなど)、モノクロロイソシアヌル酸塩(モノクロロイソシアヌル酸ナトリウム、モノクロロイソシアヌル酸カリウムなど)、トリクロロイソシアヌル酸塩(トリクロロイソシアヌル酸ナトリウム、トリクロロイソシアヌル酸カリウムなど)などの水中で次亜塩素酸を生成する物質、
(b)次亜臭素酸ナトリウム、臭化ナトリウムと次亜塩素酸ナトリウムとの反応物および臭素水などの水中で次亜臭素酸を生成する物質、
(c)海水電解液(海水を電解槽で電解することによって得られる次亜塩素酸を含む電解液)、ならびに
(d)モノクロラミン、ジクロラミン、トリクロラミン、モノブロラミン、ジブロラミン、トリブロラミン、N-クロロスルファマートおよびN-ブロモスルファマートなどの結合塩素(安定化塩素)または結合臭素(安定化臭素)
が挙げられる。これらの中でも、海生生物の付着防止効果、経済性、取扱い性などの実用的な観点から、(a)、(b)および(c)が好ましく、工業的な入手し易さの観点から、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カリウムが特に好ましい。(d)の中では、海生生物の付着防止効果の観点から、モノクロラミン、モノブロラミンが好ましく、次に、N-クロロスルファマート、N-ブロモスルファマートが好ましい。
【0014】
N-クロロスルファマートおよびN-ブロモスルファマートは、公知の方法、例えば、特表2003-503323号公報、特開2006-022097号公報、特表平11-506139号公報、特表2001-501869号公報、特表2003-507326号公報、特開2014-101251号および特開2017-159276号公報などに記載の方法により調製することができる。
本発明では、スルファミン酸と、次亜塩素酸および/または次亜臭素酸との反応生成物を好適に用いることができる。
モノクロラミンなどの結合塩素は、特許第4914146号公報、特開2017-119245号公報および特開2017-53054号公報などに記載の方法により調製することができる。
【0015】
上記の塩素剤および臭素剤は、添加に際して所望の濃度になるように海水や淡水で希釈または溶解して用いてもよい。
なお、(a)水中で次亜塩素酸を生成する物質や(c)海水電解液を海水に添加した場合、次亜塩素酸は海水中に存在する臭化物イオンと反応し、速やかに塩素と臭素が置換する。例えば、次亜塩素酸ナトリウムを海水に添加すると、速やかに次亜臭素酸ナトリウムになる。よって、(a)、(b)および(c)のいずれを用いても海生生物に対する付着防止効果は同等である。
【0016】
塩素剤または臭素剤は、併用する二酸化塩素の濃度、添加する海水の状態などにより適宜設定すればよいが、通常、塩素剤または臭素剤を海水に対して有効塩素濃度として0.005~0.3mg/Lの濃度になるように添加するのが好ましい。
本明細書では、塩素剤または臭素剤の濃度は「有効塩素濃度」を意味する。
塩素剤または臭素剤の濃度が0.005mg/L未満では、二酸化塩素との併用による海生生物の付着防止効果が十分に得られないことがある。一方、塩素剤または臭素剤の濃度が0.3mg/Lを超えると、それ以上の効果が期待できず、経済的な面から好ましくない。
より好ましい塩素剤または臭素剤の濃度は、0.01~0.2mg/L、さらに好ましくは0.01~0.1mg/Lである。
【0017】
塩素剤または臭素剤の添加時間は、併用する二酸化塩素の添加濃度、添加する海水の状態などにより適宜設定すればよいが、通常、1日当たり1~24時間である。
添加時間が1日当たり1時間未満では、二酸化塩素との併用による海生生物の付着防止効果が十分に得られないことがある。
より好ましい塩素剤または臭素剤の添加時間は、1日当たり14~24時間、さらに好ましくは、1日当たり18~22時間である。
【0018】
(二酸化塩素)
本発明において用いられる二酸化塩素は、極めて不安定な化学物質であるため、その貯蔵や輸送は非常に困難である。したがって、その場で公知の方法により二酸化塩素を製造(生成)し、添加濃度に調整して用いるのが好ましい。
例えば、次のような反応により二酸化塩素を製造することができ、市販の二酸化塩素発生器(装置)を用いることもできる。
(1)次亜塩素酸ナトリウムと塩酸と亜塩素酸ナトリウムとの反応
NaOCl+2HCl+2NaClO2 → 2ClO2+3NaCl+H2
(2)亜塩素酸ナトリウムと塩酸との反応
5NaClO2+4HCl → 4ClO2+5NaCl+2H2
(3)塩素酸ナトリウム、過酸化水素および硫酸との反応
2NaClO3+H22+H2SO4 → 2ClO2+Na2SO4+O2+2H2
【0019】
二酸化塩素は、併用する塩素剤または臭素剤の濃度、添加する海水の状態などにより適宜設定すればよいが、通常、二酸化塩素を海水に対して0.002~0.2mg/Lの濃度になるように添加するのが好ましい。
二酸化塩素の濃度が0.002mg/L未満では、塩素剤または臭素剤との併用による海生生物の付着防止効果が十分に得られないことがある。一方、二酸化塩素の濃度が0.2mg/Lを超えると、それ以上の効果が期待できず、経済的な面から好ましくない。
より好ましい二酸化塩素の濃度は、0.005~0.1mg/L、さらに好ましくは0.005~0.05mg/Lである。
【0020】
二酸化塩素の添加時間は、併用する塩素剤または臭素剤の海水中での濃度、添加する海水の状態などにより適宜設定すればよいが、通常、1日当たり1~24時間である。
添加時間が1日当たり1時間未満では、塩素剤または臭素剤との併用による海生生物の付着防止効果が十分に得られないことがある。
より好ましい二酸化塩素の添加時間は、1日当たり14~24時間、さらに好ましくは、1日当たり18~22時間である。
【0021】
(塩素剤または臭素剤と二酸化塩素との海水中での相乗効果)
以上のことから、前記塩素剤または臭素剤および二酸化塩素が、前記海水中でそれぞれ0.005~0.3mg/Lの有効塩素濃度および0.002~0.2mg/Lの濃度になるように添加されるのが好ましい。
海水中における塩素剤または臭素剤および二酸化塩素の濃度は、海水中での各化合物の経時的な濃度低下があることから、厳密には各化合物の添加濃度と等価ではない。
したがって、本発明の実施に当たっては、海水やそこに生息する海生生物の状況などに応じて、海水中での塩素剤または臭素剤および二酸化塩素の濃度が上記の範囲になるように、それらの濃度低下を見越して、添加濃度および添加時間などを適宜設定すればよい。
また、以上のことから、塩素剤または臭素剤と二酸化塩素とは、1日1~24時間添加されるのが好ましい。
【0022】
(他の添加剤)
本発明の海生生物の付着防止方法では、本発明の効果を阻害しない限りにおいて、当該技術分野で公知の他の添加剤を併用してもよい。
例えば、ジアルキルジチオカルバミン酸塩、カチオン系界面活性剤等の海生生物付着防止剤、鉄系金属腐食防止剤、消泡剤などが挙げられる。
【0023】
(添加場所)
海水冷却水系は、例えば、取水系設備、復水器やその他機器などの冷却対象となる設備および放水系設備などからなる。取水系設備は、導水路、海水中の異物を除去するスクリーン、循環水ポンプ(取水ポンプ)および循環水管(取水管)などからなる。
【0024】
本発明における各薬剤の添加場所は、取水路、熱交換器または復水器に付帯する配管中や導水路、熱交換器の入口または復水器の入口のいずれであってもよいが、海生生物の付着による障害防止効果の点で、取水ポンプの取水口近傍、熱交換器または復水器の入口が好ましい。
【0025】
発電所などでは、海水生物の付着防止効果を得るために、取水した海水に塩素剤または臭素剤を添加しているが、排水の残留塩素の濃度規制により、十分な塩素剤または臭素剤の添加ができず、熱交換器(復水器)で必要な塩素または臭素濃度を残留させることができず、十分な付着防止効果が得られないことがある。そこで、本発明によれば、このような海水系に低濃度の二酸化塩素を復水器の上流側に添加することで、上記の残留塩素の濃度規制内で十分な海水生物の付着防止効果を得ることができる。したがって、塩素剤または臭素剤の添加後に二酸化塩素を添加する、すなわち塩素剤または臭素剤および二酸化塩素とは、この順で海水冷却水系の海水中に添加されるのが特に好ましい。
【0026】
(添加方法)
各薬剤の添加方法としては、注入ポンプや散気管、噴霧器などを用いた方法が挙げられる。本発明において微量の薬剤を海水冷却水系中に、迅速にかつ実質的に均一に拡散させるためには、従来の物理的手段を用いることができる。具体的には、該水系中への拡散器、攪拌装置や邪魔板などの設置が挙げられる。また、これらに該当する設備は海水冷却水系に付設されているので、これを転用してもよい。
【0027】
(海生生物の付着防止剤)
本発明の海生生物の付着防止剤は、上記の方法に使用される海生生物の付着防止剤であって、
前記付着防止剤が、
塩素剤または臭素剤としての
(a)塩素ガス、次亜塩素酸カルシウム、次亜塩素酸ナトリウム、塩素化イソシアヌル酸、ジクロロイソシアヌル酸ナトリウム、ジクロロイソシアヌル酸カリウム、モノクロロイソシアヌル酸ナトリウム、モノクロロイソシアヌル酸カリウム、トリクロロイソシアヌル酸ナトリウムおよびトリクロロイソシアヌル酸カリウムの中から選択される一種以上の水中で次亜塩素酸を生成する物質、
(b)次亜臭素酸ナトリウム、臭化ナトリウムと次亜塩素酸ナトリウムとの反応物および臭素水から選択される一種以上の水中で次亜臭素酸を生成する物質、
(c)海水電解液、または
(d)モノクロラミン、ジクロラミン、トリクロラミン、モノブロラミン、ジブロラミン、トリブロラミン、N-クロロスルファマートおよびN-ブロモスルファマートから選択される一種以上の結合塩素(安定化塩素)もしくは結合臭素(安定化臭素)と、
二酸化塩素発生源としての
(1)次亜塩素酸ナトリウムと塩酸と亜塩素酸ナトリウムとの組み合わせ、
(2)亜塩素酸ナトリウムと塩酸との組み合わせ、または
(3)塩素酸ナトリウム、過酸化水素および硫酸との組み合わせ
とを含むことを特徴とする。
【実施例
【0028】
本発明を以下の試験例により具体的に説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではない。
【0029】
[試験例1]
次亜塩素酸と二酸化塩素との併用による海生生物の付着防止効果を確認した。
太平洋に面した和歌山県沿岸の某所に水路試験装置を設け、試験を行った。
水中ポンプを用いて揚水した未濾過の海水(pH8)を、15系統に分岐させた水路(試験区)に流量1m3/hで70日間、一過式に通水し、各水路に下記のように調製した添加薬剤(次亜塩素酸と二酸化塩素)を表1に示す薬剤濃度になるように、表1に示す1日当たりの添加時間で添加した。
なお、薬剤濃度は下記の付着防止効果確認用のアクリル製カラム内での設定濃度であり、次亜塩素酸の濃度は有効塩素濃度である。
また、薬剤濃度が同じ試験区の薬剤添加量は同量である。例えば、実施例1、実施例2および比較例1の次亜塩素酸の添加量は同じであり、実施例2および比較例6の二酸化塩素の添加量は同じである。
【0030】
また、各水路内には、付着防止効果確認用にアクリル製カラム(内径64mm×長さ300mm×厚さ2mm、表面積602.88cm2)を挿入し、通水終了後にカラムに付着した付着生物量を測定し、付着防止効果を評価した。
なお、ブランクとして薬剤無添加についても試験した。
得られた結果を、各添加薬剤およびそれらの濃度、時間と共に表1に示す。
【0031】
(添加薬剤)
二酸化塩素は、表1に示す二酸化塩素濃度が得られるように、亜塩素酸ナトリウムおよび塩酸をそれぞれ適宜純水で希釈した水溶液を、薬剤添加ポイント前のチューブ内で混合し、1時間の滞留時間を持たせることで発生した二酸化塩素水溶液を付着防止効果確認用アクリル製カラムの手前から定量ポンプを用いて添加した。なお、二酸化塩素の発生については、予備試験において発生を確認すると共に、亜塩素酸ナトリウムが残留しないことを確認している。
次亜塩素酸は、有効塩素として12%の次亜塩素酸ナトリウム水溶液を適宜純水で希釈することで海水に添加する薬剤濃度に調整し、二酸化塩素と同様に付着防止効果確認用アクリル製カラムの手前から定量ポンプを用いて添加した。
【0032】
(付着防止効果の確認)
試験後、水路から取り外したカラムの質量Wa(g)を測定した。予め試験前に測定しておいた乾燥時のカラムの質量Wbと共に、次式により付着生物量(g)を算出した。
付着生物量(g)=Wa-Wb
付着生物は、主としてムラサキイガイなどのイガイ類やフジツボ類、コケムシ類などの海生付着生物に由来する。また、カラムには、付着生物やスライムの排泄物や死骸、細胞外分泌物などの有機質を多く含むデトリタス様物質、海水中に含まれる粘度粒子や浮遊物も付着するが、これらも付着生物量に含める。
ブランクでの海生生物の付着状況から、本試験例では付着生物量が15g以下の場合に十分な海生生物の付着防止効果があると判断できる。また、付着生物量が5g以下の場合には、生物や汚れの付着が目視では全く確認されず、最良の海生生物の付着防止と判断できる。
【0033】
【表1】
【0034】
表1の結果から次のことがわかる。
(1)次亜塩素酸を単独で使用した場合には、添加濃度0.075mg/L(比較例3)で、二酸化塩素を単独で使用した場合には、添加濃度0.030mg/L(比較例8)で十分な海生生物の付着防止効果が得られること
(2)一方、次亜塩素酸と二酸化塩素とを併用した場合には、それぞれ添加濃度0.025mg/Lおよび0.005mg/L(実施例1)、すなわち、それぞれ上記(1)の1/3および1/6の添加濃度で十分な海生生物の付着防止効果が得られること
(3)次亜塩素酸と二酸化塩素とをそれぞれ添加濃度0.025mg/Lおよび0.010mg/L(実施例2および5)、すなわち、それぞれ上記(1)の1/3および1/3の添加濃度で併用した場合には、1日当たりの添加時間が上記(1)の場合(22時間/日)より短くても(18時間/日)、上記(2)よりも優れた海生生物の付着防止効果が得られること
(4)先に次亜塩素酸を添加して後から二酸化塩素を添加する場合(実施例2)および先に二酸化塩素を添加して後から次亜塩素酸を添加する場合(実施例5)を比較すると、共に十分な海生生物の付着防止効果が得られるものの、前者が優れていること
【0035】
(5)上記(1)以上、すなわち単独で十分な海生生物の付着防止効果を示す添加濃度以上に次亜塩素酸および二酸化塩素をそれぞれ添加しても、付着生物量が塩素では8.7g(比較例4)、二酸化塩素では7.8g(比較例8)までしか低減しないこと
(6)一方、次亜塩素酸と二酸化塩素とを併用した場合には、付着生物量が4.6g(実施例2)、4.8g(実施例3)、4.6g(実施例4)、6.1g(実施例5)まで低減すること
上記の結果は、海水中に次亜塩素酸と二酸化塩素とが共存して両者の効果、つまり相乗効果に相当する効果が発揮されることによるものと考えられる。次亜塩素酸(塩素)の代替として用いられる二酸化塩素を次亜塩素酸と併用することにより、このような相乗効果が得られることは意外な事実である。
【0036】
塩素系酸化剤の海生生物に対する付着防止効果は、一般的に薬剤添加後の海水のORPに比例すると考えられている。ORPは海水の性状や水温などにより常に一定の数値を示す訳ではないが、本試験例では、次亜塩素酸と二酸化塩素とを併用した実施例1および2ではORPがそれぞれ406および414となり、同濃度の次亜塩素酸を単独で使用した比較例1でもORPが同等の412となった。このような結果から、次亜塩素酸と二酸化塩素との併用により一方もしくは両方の薬剤の一部が酸化還元反応により分解していることが推測され、上記のような相乗効果は得られないと類推される。しかしながら、上記のような海生生物に対する優れた付着防止効果が得られたことは、当業者が容易に想到し得ない意外な事実といえる。
【0037】
[試験例2]
塩素剤としてN-クロロスルファマートまたはモノクロラミンを使用し二酸化塩素と併用した場合、臭素剤としてN-ブロモスルファマートまたはモノブロラミンを使用し二酸化塩素と併用した場合の海生生物の付着防止効果を確認した。
太平洋に面した和歌山県沿岸の某所に水路試験装置を設け、試験を行った。
水中ポンプを用いて揚水した未濾過の海水(pH8)を、17系統に分岐させた水路(試験区)に流量1m3/hで68日間、一過式に通水した。各水路には下記のように調製した添加薬剤を表2に示す薬剤濃度になるように、表2に示す1日当たりの添加時間になるように添加した。
なお、薬剤濃度は下記の付着防止効果確認用のアクリル製カラム内での設定濃度であり、塩素剤および臭素剤の薬剤濃度は有効塩素濃度(有効塩素換算濃度)である。
また、薬剤濃度が同じ試験区の薬剤添加量は同量である。例えば、実施例6および比較例10のN-クロロスルファマートの添加量は同じであり、実施例7および比較例16の二酸化塩素の添加量は同じである。
【0038】
また、各水路内には、付着防止効果確認用にアクリル製カラム(内径64mm×長さ300mm×厚さ2mm、表面積602.88cm2)を挿入し、通水終了後にカラムに付着した付着生物量を測定し、付着防止効果を評価した。
なお、ブランクとして薬剤無添加についても試験した。
得られた結果を、各添加薬剤およびそれらの濃度、時間と共に表2に示す。
【0039】
(添加薬剤)
二酸化塩素は、試験例1と同様に調整し添加した。
N-クロロスルファマートおよびN-ブロモスルファマートは、公知の方法(例えば、特開2017-159276号公報に記載の方法)によって、モノクロラミンおよびモノブロラミンは、公知の方法(例えば、特開2017-53054号公報に記載の方法)によって、それぞれ生成させた後、適宜純水で希釈することで海水に添加する薬剤濃度に調整し、二酸化塩素と同様に付着防止効果確認用アクリル製カラムの手前から定量ポンプを用いて添加した。
【0040】
(付着防止効果の確認)
試験例1と同様にして、カラムの付着生物量(g)を算出し、海生生物の付着防止効果を確認した。
【0041】
【表2】
【0042】
表2の結果から次のことがわかる。
(1)塩素剤または臭素剤を単独で使用した場合には十分な海生生物の付着防止効果が得られないが(比較例10~12)、二酸化塩素と併用した場合には十分な海生生物の付着防止効果が得られること(実施例6~8)
(2)十分な海生生物の付着防止効果が得られる塩素剤を単独で使用する場合(比較例14)の1/2の塩素剤の添加濃度では十分な効果が期待できないが、少量の二酸化塩素との併用した場合には十分な海生生物の付着防止効果が得られること(実施例10)
(3)塩素剤または臭素剤を単独で使用した場合にも十分な海生生物の付着防止効果が得られるが(比較例13~15)、二酸化塩素と併用した場合には最良の海生生物の付着防止効果が得られること(実施例9、11および12)
(4)十分な海生生物の付着防止効果が得られる二酸化塩素を単独で使用する場合(比較例18)の1/6~2/3の二酸化塩素の添加濃度では十分な効果が期待できないが、塩素剤または臭素剤との併用した場合には十分な海生生物の付着防止効果が得られること(実施例6~12)
上記の結果は、海水中にN-クロロスルファマート、N-ブロモスルファマート、モノクロラミンおよびモノブロラミンと、二酸化塩素とが共存して両者の効果、つまり相乗効果に相当する効果が発揮されることによるものと考えられる。