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特許7266248糞量及び窒素排せつ量を低減するための豚用飼料
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-20
(45)【発行日】2023-04-28
(54)【発明の名称】糞量及び窒素排せつ量を低減するための豚用飼料
(51)【国際特許分類】
   A23K 50/30 20160101AFI20230421BHJP
   A23K 10/20 20160101ALI20230421BHJP
   A23K 10/30 20160101ALI20230421BHJP
   A23K 10/33 20160101ALI20230421BHJP
【FI】
A23K50/30
A23K10/20
A23K10/30
A23K10/33
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020075533
(22)【出願日】2020-04-21
(65)【公開番号】P2021170954
(43)【公開日】2021-11-01
【審査請求日】2020-04-21
【審判番号】
【審判請求日】2022-01-21
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 開示日 令和元年7月26日 開示場所 株式会社のだファーム 事務所(岩手県九戸郡野田村大字野田第20地割10) 〔刊行物等〕 開示日 令和元年9月12日 開示場所 株式会社のだファーム 事務所(岩手県九戸郡野田村大字野田第20地割10) 〔刊行物等〕 販売日 令和元年11月23日~令和2年3月6日 販売場所 株式会社のだファーム(岩手県九戸郡野田村大字野田第20地割10) 〔刊行物等〕 開示日 令和2年3月6日 開示場所 ポークランドグループ事務所(秋田県鹿角郡小坂町小坂字坂ノ影1) 〔刊行物等〕 開示日 令和2年3月23日 開示場所 JA全農北日本くみあい飼料株式会社 本社応接室(宮城県仙台市宮城野区宮城野1丁目12番1号いちご仙台イーストビル4F) 〔刊行物等〕 開示日 令和2年4月14日 開示場所 岩手中央農協 本所(岩手県紫波郡紫波町桜町字上野沢38-1) 〔刊行物等〕 開示日 令和2年4月16日 開示場所 株式会社のだファーム 事務所(岩手県九戸郡野田村大字野田第20地割10) 〔刊行物等〕 開示日 令和2年4月21日 開示場所 株式会社バブコックスワイン・ジャパン 事務所(岩手県一関市藤沢町黄海字町裏63-1)
(73)【特許権者】
【識別番号】000201641
【氏名又は名称】全国農業協同組合連合会
(73)【特許権者】
【識別番号】503011745
【氏名又は名称】JA全農北日本くみあい飼料株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001656
【氏名又は名称】弁理士法人谷川国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】笠崎 貴之
(72)【発明者】
【氏名】久保田 祥史
【合議体】
【審判長】住田 秀弘
【審判官】藤脇 昌也
【審判官】土屋 真理子
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-83597(JP,A)
【文献】斎藤守,ニワトリおよびブタからの環境負荷物質の低減化に関する栄養飼料学的研究の動向,日本畜産学会報,2001年,72巻,8号,p.177-199
【文献】森本宏,飼料学 改訂増補,日本,株式会社養賢堂,1980年8月20日発行,第186頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23K 10/00 - 50/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粗繊維含量が2.3%以下、粗タンパク質含量が12.9~14.5%、糖蜜含量が1.0~5.0%であり、加熱加工されていることを特徴とする、糞量及び窒素排せつ量を低減するための子豚育成用飼料。
【請求項2】
粗繊維含量が2.3%以下、粗タンパク質含量が11.0~12.9%、糖蜜含量が1.0~5.0%であり、加熱加工されていることを特徴とする、糞量及び窒素排せつ量を低減するための肉豚肥育用飼料。
【請求項3】
加熱加工がエキスパンダー加工又はペレット加工である、請求項1記載の子豚育成用飼料。
【請求項4】
加熱加工がエキスパンダー加工又はペレット加工である、請求項2記載の肉豚肥育用飼料。
【請求項5】
請求項1若しくは3記載の子豚育成用飼料を育成期の子豚に給与すること、又は請求項2若しくは4記載の肉豚肥育用飼料を肥育期の豚に給与することを含む、育成期の子豚又は肥育期の豚の糞量及び窒素排せつ量を低減する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糞量及び窒素排せつ量を低減するための豚用飼料に関する。
【背景技術】
【0002】
日本国内では常時母豚で約80万頭、肥育豚で800万頭飼育され、年間に約1,600万頭の肥育豚が出荷されている。これにともない年間に約2,100万トンの豚糞が発生している(H31年時点、非特許文献1)。
【0003】
豚糞は発生量のほとんどが堆肥に加工され、耕種農家で肥料として使用されている。養豚場近郊に耕種農家が多い場合は堆肥を処理することができるが、近郊に引き取り手がない生産者は遠方まで輸送したり、自農場で農地を確保したり、焼却処分するなどコストが多くかかる場合がある。また、悪臭や環境問題も発生することがある。養豚生産者は常に豚糞の処理に課題を抱えており、発生量を減らしたいと考えている。
【0004】
また、水質汚濁防止法による畜産農家向けの排水基準において、硝酸性窒素濃度は暫定的な措置として500mg/Lの基準が設けられているが、令和4年6月末までに再度見直される予定である。最終的には一般排水基準の100mg/Lまで規制される見通しであり、家畜の窒素排せつ量を減らすことが求められている。
【0005】
排せつ物量や窒素排せつ量の低減に関しては種々の報告がなされており(非特許文献2)、例えば、エキスパンダー加工することで加工をしない場合と比べて糞量が約30%減ること(非特許文献3)、飼料中の粗繊維を減らすことで、その減らす量に応じて糞量が減ること(非特許文献4)、低蛋白飼料にすることで尿中窒素排せつ量が減ること(非特許文献5、6)が報告されている。また、家禽においては、飼料中の粗繊維含量を低く抑えつつ、特定の原料(コーングルテンミール、小麦、及び動物由来蛋白質原料から選択される少なくとも1種)を配合することにより、糞量を大幅に低減できるという技術が知られている(特許文献1)。
【0006】
一方で、飼料中粗繊維に関しては、低蛋白飼料にリンゴジュース粕を添加することで、粗繊維含量は高まるが尿中窒素排せつ量が大幅に低下したという報告もある(非特許文献7)。また、糞中の窒素排せつ量に関しては、非特許文献5では低蛋白質化により低減効果が認められている一方、非特許文献6、7では低蛋白質化による糞中窒素排せつ量の低減効果は認められておらず、低蛋白飼料による糞中窒素排せつ量の低減効果は安定的ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2020-14411号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】農林水産省ウェブページ「家畜排せつ物の発生と管理の状況」、URL; https://www.maff.go.jp/j/chikusan/kankyo/taisaku/t_mondai/02_kanri/
【文献】斎藤守、「ニワトリおよびブタからの環境負荷物質の低減化に関する栄養飼料科学的研究の動向」、Anim Sci J 72(8): J177-J199, 2001
【文献】押田敏雄、「ふんの量を減らし、質を改善する方法」、養豚の友、1996年9月号、p.51~60
【文献】梅本栄一ら、「飼料による豚ぷんの少量・固形化に関する試験 II 飼料の質がふん尿排泄量・理化学的性状に及ぼす影響」、神奈川県畜産試験場 研究報告、第66号、35-48ページ、1976年
【文献】山本朱美ら、「肉豚へのアミノ酸添加低タンパク質飼料の給与による尿量、窒素排泄量およびアンモニア発生量の低減効果」、日豚会誌、39巻1号、p.1~7、2002年3月
【文献】尾上武ら、「アミノ酸添加低タンパク質飼料の肥育豚への給与が季節別の尿量および窒素排せつ量に与える低減効果」、日豚会誌、47巻1号、p.1~7、2020年3月
【文献】山本朱美ら、「リンゴジュース粕の低蛋白質飼料への添加が肥育豚の発育、窒素排泄量および背脂肪厚に及ぼす影響」、日豚会誌、40巻3号、2003年9月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、豚の糞量および窒素排せつ量を低減できる新規な手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願発明者らは、養豚用配合飼料の原料を鋭意検討した結果、飼料中の粗繊維含量及び粗タンパク質含量を低減した上で、さらにエキスパンダー加工を行うことにより、発育成績を落とすことなく、通常のエキスパンダー加工飼料よりも豚糞の発生量と糞中窒素排せつ量を低減できること、低粗繊維化及び低蛋白質化にエキスパンダー加工等の加熱加工を組み合わせることにより、糞量低減及び尿中窒素排せつ量低減に加えて糞中窒素排せつ量も低減できることを見出し、本願発明を完成させた。
【0011】
すなわち、本発明は、粗繊維含量が2.3%以下、粗タンパク質含量が12.9~14.5%、糖蜜含量が1.0~5.0%であり、加熱加工されていることを特徴とする、糞量及び窒素排せつ量を低減するための子豚育成用飼料、並びに、粗繊維含量が2.3%以下、粗タンパク質含量が11.0~12.9%、糖蜜含量が1.0~5.0%であり、加熱加工されていることを特徴とする、糞量及び窒素排せつ量を低減するための肉豚肥育用飼料を提供する。また、本発明は、上記本発明の子豚育成用飼料を育成期の子豚に給与すること、又は上記本発明の肉豚肥育用飼料を肥育期の豚に給与することを含む、育成期の子豚又は肥育期の豚の糞量及び窒素排せつ量を低減する方法を提供する。

【発明の効果】
【0012】
本発明の豚用飼料によれば、従来技術では困難であった糞中窒素排せつ量も低減できる。本発明の飼料を給与する以外は飼育方法を変更することなく、発育成績に悪影響を及ぼさずに糞量及び窒素排せつ量を低減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の豚用飼料は、粗繊維含量が2.3%以下、粗タンパク質含量が11.0~14.5%であり、加熱加工されていることを特徴とする、糞量及び窒素排せつ量を低減するための飼料である。窒素排せつ量には、尿中窒素排せつ量及び糞中窒素排せつ量が包含される。従来技術では糞中窒素排せつ量を安定的に低減することは難しく、主として尿中窒素排せつ量の低減により総窒素排せつ量が低減されていたが、本発明の飼料によれば、糞中窒素排せつ量も低減することができる。
【0014】
粗繊維含量は2.3%以下であり、例えば2.2%以下、又は2.1%以下であってよい。
【0015】
肉用豚の発育ステージは、体重10 kgまでの哺乳期前期(約5週齢まで)、10~30 kgの哺乳期後期(約5週齢~約10週齢)、30~70 kgの子豚育成期(約10週齢~約16週齢)、70~110kgないし115kgの肉豚肥育期(約16週齢~約25週齢)に区分される。本発明の豚用飼料には、子豚育成期に使用する子豚育成用飼料、及び肉豚肥育期に使用する肉豚肥育用飼料が包含される。
【0016】
子豚育成用飼料の場合、粗タンパク質含量は12.9~14.5%であり、例えば12.9~14.0%、12.9~13.5%、12.9~13.4%、12.9~13.3%、12.9~13.2%、又は12.9~13.1%であってよい。
【0017】
肉豚肥育用飼料の場合、粗タンパク質含量は11.0~12.9%であり、例えば11.0~12.5%、11.0~12.0%、11.2~11.8%、11.2~11.8%、又は11.3~11.7%であってよい。
【0018】
本発明の豚用飼料は、糖蜜が配合されていることが好ましい。糖蜜を配合する場合、その配合割合(飼料全体の重量に占める当該原料の配合重量)は1.0%以上であり、例えば1.0~5.0%、1.0~4.5%、1.0~4.0%、1.5~4.0%、1.8~4.0%、1.8%~3.5%、又は2.0~3.5%であってよい。
【0019】
本発明の豚用飼料は、原料として油脂が配合されていないものであってよい。油脂を添加すると糞量が低減することが知られているが(非特許文献2)、本発明の飼料においては、油脂を添加することなく糞量低減の効果を得ることができる。「原料として油脂が配合されていない」とは、油脂が原料の1つとして用いられていないことを意味しており、他の原料に微量に含まれ得る油脂分は原料としての油脂には該当しない。
【0020】
上記以外の原料については特に条件はなく、上記した粗繊維含量及び粗タンパク質含量を満たす限り、豚用飼料として一般的な原料を用いて製造することができる。例えば、トウモロコシ、米等の穀類原料、大豆搾油粕、糟糠類等の原料を挙げることができるが、これらに限定されない。また、所望により添加剤等を配合してもよく、例えば、繊維質を分解する酵素をさらに配合してもよい。もっとも、本発明の飼料は、繊維質を分解する酵素を配合することなく、下記実施例に示した糞量及び窒素排せつ量の低減効果を発揮できる。
【0021】
加熱加工は特に限定されないが、通常は蒸気による加熱であり、加圧を行なってもよい。飼料製造における一般的な加熱加工として、エキスパンダー加工、ペレット加工等を挙げることができ、本発明の飼料における加熱加工もこれらの加工のいずれかであってよい。
【0022】
本発明の豚用飼料は、従来の飼料と同様に用いることができ、飼育方法自体は従来通りで良い。本発明の飼料を豚に給与することにより、糞量及び窒素排せつ量を低減することができる。
【実施例
【0023】
以下、本発明を実施例に基づきより具体的に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0024】
(1) 実証試験1(子豚育成用飼料)
ア.供試動物:体重約30kgの去勢豚を10頭
イ.試験飼料の配合割合と成分
低蛋白質・低繊維飼料(実施例)及び対照飼料(比較例)における原料及びその配合割合を表1-1に、成分を表1-2に示す。飼料はいずれも、穀類原料を粉砕後に全原料を混合し、加熱加工(エキスパンダー加工)を行なった。
【0025】
【表1-1】
【0026】
【表1-2】
【0027】
ウ.試験方法
供試動物を1個体ごとケージに入れて試験飼料(低蛋白質・低繊維飼料又は対照飼料)を制限給与(開始体重約3%)・自由飲水の条件下で15日間給与した。排せつ物(糞、尿)のサンプリングは、試験飼料の給与開始から11日目~15日目の5日間行ない、生糞量、乾燥糞量、糞中窒素排せつ量、尿中窒素排せつ量を測定した。窒素排せつ量の測定は以下の通りに行った。糞は計量後、2%塩酸を噴霧し、60℃で48時間通風乾燥させ、乾燥糞全量を粉砕後、混合し一部を分析に用いた。尿は6N硫酸50mlを入れた採取容器にてサンプリングし、分析まで-20℃で凍結保存した。糞および尿はケルダール法にて窒素量を測定した。
【0028】
エ.試験結果
5日間測定した各排せつ量を、1日当たりの排せつ量として算出した結果を下記表1-3に示す。
【0029】
【表1-3】
【0030】
オ.試験結果から分かること
加工形態(加熱加工)およびエネルギー(TDN)は同一で、低蛋白質・低繊維飼料は対照飼料(通常飼料)と比較して、排せつ糞量(生・乾燥)および排せつ物中の窒素排せつ量を低減させることが出来た。
加熱加工することで排せつ糞量を低減できることが知られているが(非特許文献3)、加熱加工に低繊維化を組み合わせることで、糞量低減効果が高まることが確認された。
低蛋白質化による糞中窒素排せつ量の低減効果は安定的ではないことが知られているが(非特許文献5~7)、低蛋白質化に加えて低繊維化を組み合わせることにより、糞中への窒素排せつ量も対照飼料の約70%に低減させることが出来た。
【0031】
(2) 実証試験2(肉豚肥育用飼料)
ア.供試動物:体重約50kgの去勢豚を計10頭
イ.試験飼料の配合割合と成分
低蛋白質・低繊維飼料(実施例)及び対照飼料(比較例)における各原料の配合割合を表2-1に、成分を表2-2に示す。飼料はいずれも、穀類原料を粉砕後に全原料を混合し、加熱加工(エキスパンダー加工)を行なった。
【0032】
【表2-1】
【0033】
【表2-2】
【0034】
ウ.試験方法
実証試験1と同じ。
【0035】
エ.試験結果
5日間測定した各排せつ量を、1日当たりの排せつ量として算出した結果を下記表2-3に示す。
【0036】
【表2-3】
【0037】
オ.試験結果から分かること
子豚育成段階(実証試験1)と同様の考え方で飼料設計した肉豚肥育用飼料を給与した場合にも、対照飼料(通常飼料)と比較して排せつ糞量(生・乾燥)および排せつ物中の窒素排せつ量を低減させることが出来た。
子豚育成段階(実証試験1)と同様に、肥育段階においても、加熱加工に低繊維化を組み合わせることで排せつ糞量の低減効果が高まること、低蛋白質化に加えて低繊維化を組み合わせることで尿中だけではなく糞中の窒素排せつ量も低減できることが確認された。また、総窒素排せつ量の低減効果は、低蛋白質化よりも高まることが確認された(データ示さず)。
【0038】
(3) 実証試験3
ア.供試動物:体重約30kgの肥育豚を計48頭
イ.試験方法:
体重約30kgから試験開始し体重約70kgまで実証試験1の試験飼料を給与し、体重約70kgから出荷まで実証試験2の試験飼料を給与した。体重約110kg到達時点でと畜解体し、枝肉試験を実施した。
ウ.試験飼料の配合割合と成分:実証試験1と実証試験2の試験飼料
エ.試験結果
【0039】
【表3-1】
【0040】
【表3-2】
【0041】
オ.試験結果から分かること
加工形態(加熱加工)およびエネルギー(TDN)は同一で、低蛋白質・低繊維化した子豚育成用飼料および肉豚肥育用飼料を給与した場合、対照飼料(通常飼料)と比較して発育成績および枝肉成績に悪影響を及ぼさないことが確認された。