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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-20
(45)【発行日】2023-04-28
(54)【発明の名称】酸素発生反応及び酸素還元反応触媒
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/644 20060101AFI20230421BHJP
   B01J 37/03 20060101ALI20230421BHJP
   H01M 4/90 20060101ALI20230421BHJP
   H01M 4/88 20060101ALI20230421BHJP
   H01M 12/08 20060101ALN20230421BHJP
【FI】
B01J23/644 M
B01J37/03 B
H01M4/90 X
H01M4/88 K
H01M12/08 K
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018091292
(22)【出願日】2018-05-10
(65)【公開番号】P2019195775
(43)【公開日】2019-11-14
【審査請求日】2021-04-07
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 第58回電池討論会 講演要旨集,第491頁 発行所:公益社団法人電気化学会 電池技術委員会 発行日:平成29年11月13日 [刊行物等] 第58回電池討論会 開催日:平成29年11月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】304028726
【氏名又は名称】国立大学法人 大分大学
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100173107
【弁理士】
【氏名又は名称】胡田 尚則
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【弁理士】
【氏名又は名称】出野 知
(74)【代理人】
【識別番号】100146466
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 正俊
(72)【発明者】
【氏名】衣本 太郎
【審査官】若土 雅之
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-055810(JP,A)
【文献】特開2018-055811(JP,A)
【文献】特表2012-530845(JP,A)
【文献】特開2004-149848(JP,A)
【文献】清水阿理紗 他,Bi,Ruパイロクロア型金属酸化物へのAlイオンの導入と酸素電極反応活性への影響,電気化学会第84回大会講演要旨集,日本,公益社団法人電気化学会,2017年03月17日,p. 2O06
【文献】江藤誠 他,Bi,Ruパイロクロア型金属酸化物の作製条件と酸素電極反応,電池討論会講演要旨集 THE 57TH BATTERY SYMPOSIUM IN JAPAN,p. 2I05,日本,公益社団法人電気化学会 電池技術委員会 第57回 電池討論会実行委員長 金村聖志,2016年11月28日
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00-38/74
H01M 4/86-4/98
2/00-16/00
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム、ビスマス、ルテニウム、酸素を含み、昇温還元法による測定において7.26の酸素比を示すパイロクロア型金属酸化物を主成分としていることを特徴とする、酸素発生反応及び酸素還元反応触媒。
【請求項2】
担体に担持されていることを特徴とする、請求項に記載の酸素発生反応及び酸素還元反応触媒。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の酸素発生反応及び酸素還元反応触媒を製造するための方法であって、前記触媒を、その構成元素であるビスマス、ルテニウム、アルミニウムの各供給源の混合物から所定の元素比の酸化物を調製することにより製造することを特徴とする、酸素発生反応及び酸素還元反応触媒の製造方法。
【請求項4】
前記触媒を共沈法により製造することを特徴とする、請求項に記載の製造方法。
【請求項5】
ビスマス源、ルテニウム源及びアルミニウム源の混合物を含む水にアルカリ水溶液を添加し、得られた混合水溶液を酸素含有ガスの供給下で攪拌し、次いで水を除去して固形物を回収し、回収した固形物を焼成することにより、前記触媒を得ることを特徴とする、請求項に記載の製造方法。
【請求項6】
ビスマス源として、硝酸ビスマス、硫酸ビスマス、塩化ビスマス、炭酸ビスマス、ビスマスアルコキシド、又はそれらの混合物を使用し、ルテニウム源として、塩化ルテニウム、水溶性のルテニウム錯体、ルテニウム塩、又はそれらの混合物を使用し、アルミニウム源として、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、塩化アルミニウム、アルミニウムアルコキシド、又はそれらの混合物を使用することを特徴とする、請求項3~5のいずれか一項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩基性水溶液中での電子の移動により酸素を発生させる反応及び酸素を還元する反応の両方に対して有効である、酸素発生反応及び酸素還元反応触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
塩基性水溶液中での電子の移動により酸素を発生させる反応は、水の電気分解(アルカリ水電解法)による水素製造で用いられている。このような反応では、反応触媒として、ニッケル、ニッケル系合金、鉄、ニッケル被覆鉄、希土類混合金属酸化物、貴金属酸化物などが用いられている。
【0003】
電気自動車など向けのエネルギー源として近年特に有望視されている空気二次電池においては、塩基性水溶液中での電子の移動に起因して、空気極である正極において充電時及び放電時に下記の反応が進み、それぞれ酸素の発生及び酸素の還元が行われる。
充電時: 4OH → O + 2HO +4e
放電時: O + 2HO + 4e → 4OH
【0004】
このような酸素発生反応及び酸素還元反応のためにもやはり触媒が利用されており、これまでに様々なものが提案されている。
【0005】
例えば、非特許文献1には、硝酸ビスマスと塩化ルテニウムから得られるパイロクロア型化合物のBiRuを、酸素発生反応及び酸素還元反応触媒として用いることが記載されている。この触媒は、上述の水素製造に用いられている各種の触媒よりも反応開始電位が低く、有利であることが知られている。
【0006】
特許文献1には、空気二次電池に用いる電極用触媒として、少なくとも2種の元素を含有する触媒が開示されている。第1の元素は、Ag、Co、Mn、Cu、Ru、Ni、Pd及びPtからなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、また、第2の元素は、Sb、Si及びVからなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましいことが記載されている(段落[0014])。
【0007】
特許文献2には、空気二次電池用の正極が記載されている。この正極は、ニッケルより密度の小さいコア材料と、それを被覆するニッケル及び/又はニッケル合金からなる被覆層を含むニッケル被覆材料を利用しており、そしてこのニッケル被覆材料と混合して用いられる触媒として、ビスマスルテニウム酸化物が挙げられ、そのビスマス及びルテニウムの一部を他の元素で部分的に置換してもよいことが記載されている。そしてこの触媒は、正極の導電材であるニッケルとの化学的相互作用により、酸素発生及び酸素還元に対する高い触媒活性を示すと説明されている(段落[0028])。
【0008】
特許文献3には、酸素発生反応及び酸素還元反応の両方に用いられる触媒ではなく、芳香族炭化水素化合物又は含窒素複素環式芳香族化合物を電気化学的に水素化するために用いられる還元触媒として、一般式A7-Z(式中のAはSn、Pb及びBiからなる群から選ばれる少なくとも一種であるAを含み、BはRu、Ir及びMnからなる群から選ばれる少なくとも一種であるBを含む)で表される酸化物を用いること、金属Aの一部及び/又は金属Bの一部を、それぞれA、B以外の金属で置換してもよい(段落[0027])ことが記載されており、A、B以外の金属の多数の例のうちにAlが含まれている(段落[0029])。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2013-126651号公報
【文献】特開2016-152068号公報
【文献】再表2013-125238号公報
【0010】
【文献】T. Kinumoto et al., Electrocatalysis, 9(2), 146-152
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
空気二次電池の正極の酸素発生反応及び酸素還元反応触媒として有用であることが知られているパイロクロア型金属酸化物であるBiRuの、例えば0.1M水酸化カリウム水溶液中における反応開始電位は、1.35V(過電圧で示すと0.13V)である。空気二次電池の正極では、充電時及び放電時にそれぞれ上記のとおりの反応が進行する。それぞれの反応が起こる電池電圧には差があり、その分はエネルギーロスになるため、空気二次電池における技術課題になっている。
【0012】
上記の課題を含めて、塩基性水溶液中での電子の移動により酸素を発生させる反応及び酸素を還元する反応の両方に対して有効な酸素発生反応及び酸素還元反応触媒の性能を高めることは、産業界における共通の課題である。そこで、本発明は、この共通課題に対処して、塩基性水溶液中での電子の移動により酸素を発生させる反応及び酸素を還元する反応の両方のために用いられる触媒として、従来のものより有用な酸素発生反応及び酸素還元反応触媒の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
発明者は、塩基性水溶液中での酸素発生反応及び酸素還元反応の両方に対して有効な触媒の開発を進めた結果、アルミニウム、ビスマス、ルテニウム、酸素を含むパイロクロア型金属酸化物であって、TPR測定において6.5~7.3の酸素比を示す化合物が、上述の課題の解決に有効であることを見いだした。
【0014】
より具体的に言えば、上述のパイロクロア型金属化合物を空気二次電池の正極反応触媒として使用した場合、0.1M水酸化カリウム水溶液中における充電時の反応(4OH→O+2HO+4e)の開始電圧は1.30V(過電圧で示すと0.07V)となった。また、BiRuを使用した場合よりも、ターフェル勾配が小さくなることも見いだした。一方、放電時の反応(O+2HO+4e→4OH)の開始電圧については、BiRuを使用した場合と変わらないが、ターフェル勾配が小さくなる優位性があることを見いだした。
【0015】
これらの知見に基づいてなされた本発明の酸素発生反応及び酸素還元反応触媒は、アルミニウム、ビスマス、ルテニウム、酸素を含み、TPR測定において6.5~7.3の酸素比を示すパイロクロア型金属酸化物を主成分としていることを特徴とする。本発明の触媒は、その酸素発生反応及び酸素還元反応触媒作用に有意の影響を及ぼさない限り、任意の他の成分を含んでもよい。また、本発明の触媒を使用する際には、担体に担持させることも可能である。
【0016】
本発明の酸素発生反応及び酸素還元反応触媒は、構成元素であるビスマス、ルテニウム、アルミニウムの各供給源の混合物から、所定の元素比の酸化物を調製することにより製造することができる。一例として、共沈法を利用するとすれば、ビスマス源、ルテニウム源及びアルミニウム源を含む水にアルカリ水溶液を添加し、得られた混合水溶液を酸素含有ガスの供給下で攪拌し、次いで水を除去して固形物を回収し、回収した固形物を焼成することにより得ることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明による触媒は、空気二次電池の正極反応触媒として使用した場合に、従来のパイロクロア型金属酸化物触媒と比べてかなり小さい酸素還元反応の過電圧を示し、しかもターフェル勾配も従来のパイロクロア型金属酸化物触媒と比べて小さくなる。そのため、本発明の触媒を空気二次電池の正極の酸素発生反応及び酸素還元反応用に使用することにより、空気二次電池の性能の向上が期待できる。空気二次電池は、電気自動車用電池としての利用が有望視されていることから、本発明は電気自動車産業に大いに貢献することが期待される。更に、空気二次電池は携帯電子機器や大型発電所用の電池としての活用も可能であるから、本発明はそれらの分野にとっても有用なものである。
【0018】
ここでは、本発明による触媒を、空気二次電池の正極反応触媒としての用途を対象に説明しているが、本発明による触媒は、塩基性水溶液中での電子の移動により酸素を発生させる反応及び酸素を還元する反応の両方に対して有効な酸素発生反応及び酸素還元反応触媒を必要とする様々な分野においても、同じように活用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】実施例1で説明する4つの触媒化合物のX線回折パターンである。
図2】実施例2で説明する3つの触媒化合物のX線回折パターンである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の酸素発生反応及び酸素還元反応触媒は、アルミニウム、ビスマス、ルテニウム、酸素を含み、TPR測定において6.5~7.3の酸素比を示すパイロクロア型金属酸化物(簡単にするため、以下ではこの化合物を「ABRO」と略記することもある)を主成分としていることを特徴とする。本発明の触媒において使用するこの化合物は、一般にA(この式中のA、Bは異なる金属元素を表す)で表されるパイロクロア型金属酸化物の式において酸素比zが6.5~7.3である金属酸化物に相当する。
【0021】
本発明の触媒は、その酸素発生反応及び酸素還元反応触媒作用に有意の影響を及ぼさない限り、任意の他の成分を含んでもよい。また、本発明の触媒を使用する際には、担体に担持させることも可能である。
【0022】
前記化合物は、その構成元素であるビスマス、ルテニウム、アルミニウムの各供給源の混合物から、所定の元素比の酸化物を得る方法により製造することができる。具体的な製造方法の一例として、共沈法を挙げることができる。共沈法以外にも、例えば、それらの塩を混合後焼成する固相法などを利用することが可能である。
【0023】
ビスマス源としては、例えば硝酸ビスマスを使用することができ、このほかに硫酸ビスマス、塩化ビスマス、炭酸ビスマス、ビスマスアルコキシドなどを使用することも可能である。場合により、複数種のビスマス源の混合物を使用することも可能である。
【0024】
ルテニウム源としては、例えば塩化ルテニウムを使用することができ、このほかに水溶性のルテニウム錯体、ルテニウム塩などを使用することも可能である。場合により、複数種のルテニウム源の混合物を使用することも可能である。
【0025】
アルミニウム源としては、例えば硝酸アルミニウムを使用することができ、このほかに硫酸アルミニウム、塩化アルミニウム、アルミニウムアルコキシドなどを使用することも可能である。場合により、複数種のアルミニウム源の混合物を使用することも可能である。
【0026】
一例として、共沈法によりABROを製造する場合には、まず、ビスマス、ルテニウム、アルミニウムの各供給源を水に溶解させて混合水溶液を作る。混合する供給源のモル比は、製造しようとする目標の化合物における元素比に応じて選択すればよい。例えば、硝酸ビスマスと塩化ルテニウムのモル比1:1の混合水溶液に、ビスマスに対しするアルミニウムのモル比が9:1~8:2となるような量の硝酸アルミニウムを添加することができる。
【0027】
こうして得られた混合水溶液に、更にアルカリ水溶液を加えて、水溶液のpHを8~14程度、好ましくは8~10程度に調整する。アルカリ水溶液としては、例えば水酸化ナトリウム水溶液を使用することができ、そのほかに水酸化カリウムなどの塩基性水溶液を使用することも可能である。
【0028】
次いで、アルカリ水溶液添加後の混合水溶液を酸素含有ガスを吹き込みながら攪拌する。酸素含有ガスとしては、空気、酸素ガスなどを使用することが可能であり、この場合の酸素ガスは、目標とする酸化物の生成に悪影響を与えない限り、酸素以外の成分(代表的には窒素など)を含んでもよい。攪拌は、酸素含有ガスが水溶液全体に分散するのを促進するために行う。この目的に反しない限り、攪拌に使用する装置や操作条件は任意である。
【0029】
続いて、水溶液から水を除去して固形物(酸化生成物)を回収する。水の除去は、回収する固形物に影響が及ばない限り、任意の方法で行うことができ、例えば蒸発・乾燥、ろ過などを利用することができる。
【0030】
最後に、回収した固形物(酸化生成物)を焼成して、目標の化合物を得ることができる。焼成は、空気中で行うことができる。焼成温度は、例えば450~700℃程度でよい。高温で焼成するほど、得られた化合物は、正極反応触媒として充電時の酸素発生反応に対して小さい過電圧と小さいターフェル勾配を示す傾向が見られる。とは言え、高温にするほど必要なエネルギーが増加することから、500~600℃程度での焼成がより好ましい。
【0031】
焼成後の化合物は、残留不純物の除去を目的として洗浄(例えば水洗)し、更に乾燥させてから使用に供するのが有利である。残留不純物除去のための洗浄は、焼成前に水溶液から回収した固形物に対して行うこともできる。
【実施例
【0032】
次に、実施例により本発明を更に説明することにするが、言うまでもなく本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
〔実施例1〕
本発明による触媒作用を示す化合物(ABRO)を、次に述べる方法により作製した。0.5gの塩化ルテニウム、0.7gの硝酸ビスマス、及び0.15gの硝酸アルミニウムを250ミリリットルの超純水に加え、75℃で1.5時間攪拌して混合水溶液を調製した。ここでは、塩化ルテニウムと硝酸ビスマスのモル比は1:1であり、硝酸ビスマス(あるいは塩化ルテニウム)9モルに対し1モルの割合で硝酸アルミニウムを加えた。次に、1モル/dmのNaOHの30ミリリットルを混合水溶液に加え、そして混合水溶液中に酸素を10ミリリットル/分の流量で流通させながら72時間攪拌した。攪拌後の混合物から85℃で水分を蒸発させて除去し、得られた固形物を次いで120℃で3時間乾燥させた。乾燥した固形物を乳鉢で粉砕し、空気中で3時間、500℃又は600℃で焼成した。焼成生成物を75℃の超純水で洗浄後、120℃で3時間乾燥させて、最終生成物のABRO-500(500℃で焼成したもの)及びABRO-600(600℃で焼成したもの)を得た。
【0033】
比較のために、超純水に硝酸アルミニウムを加えず、塩化ルテニウムと硝酸ビスマスのみを加えたことを除いて上記と同じ手順でもって、アルミニウムを含まずにビスマスとルテニウムを含むパイロクロア型金属酸化物(「BRO」と略記)を調製した(焼成温度を区別する場合、500℃で焼成したものはBRO-500、600℃で焼成したものはBRO-600と表記する)。
【0034】
こうして調製した4つの触媒化合物の同定を、放射光XRD回折(XRD)での分析により行った。得られた回折パターンを図1に示す。これらのパターンにおいて不純物相は確認されなかった。BRO-600のパターンにおいて、Bi1.9Ru6.92に帰属されるピークが確認された。BRO-500及びBRO-600の格子定数はそれぞれ1.0274及び1.0257であり、前者はパイロクロア構造のBiRuの格子定数1.029により近かった。そこで、BRO-500をその他の化合物の組成を決定するための基準とした。
【0035】
XRDで決定された組成を確認するために、熱重量測定(TG)、昇温還元法(TPR)による測定を行った。
【0036】
熱重量測定(TG)では、BRO前駆体(乳鉢で粉砕後の粉末試料)の空気中での焼成に伴う重量変化を調べた。500℃に加熱した前駆体と600℃に加熱した前駆体との比較により、BRO-600では式中の酸素組成比が7から6.30に低下したこと、ビスマス組成比が2から1.93に低下したことが観測された。このことから、BRO-600では酸素だけでなくビスマスの脱離も考えられ、その場合のBRO-600の組成はBi1.93Ru6.90と見積もられた。
【0037】
昇温還元法(TPR)による測定では、4つの試料化合物のそれぞれを水素雰囲気で加熱し、脱離した酸素が水素と反応して生成する水の量をカールフィッシャー水分計で定量することで、試料中の酸素量を測定した。測定に用いた温度プログラムは、試料をヘリウムガス供給下に120℃で3時間乾燥させてから、水素ガス供給下に10℃/分の速度で700℃まで昇温し、この温度を保持している間に生成する水の量を測定後、水が検出されなくなったならば降温する、というものであった。
【0038】
TPR測定の結果から得られた各化合物における酸素組成と各化合物の推定組成は、表1に示したとおりである。いずれの化合物においても式中のRuの組成は化学量論的値の2であることが、誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析により確認された。
【0039】
【表1】
【0040】
このとおり、本発明におけるパイロクロア型金属酸化物は、TPR測定においてほぼ6.5~7.3の酸素比を示すことが分かった。
【0041】
BROでは、焼成温度を500℃から600℃に上昇させることで酸素組成は0.14低下しているが、酸素のこの減少分はBROの質量の0.8%に過ぎない。従って、焼成温度を500℃から600℃に上昇させることによるBRO化合物の重量減少の大部分はBiの脱離によるものと考えることができる。ABROでは、焼成温度を500℃から600℃に上昇させると酸素組成が増加した。
【0042】
それぞれの化合物の触媒活性を、回転リングディスク電極を使用した電気化学測定(酸素還元反応(ORR)及び酸素発生反応(OER)の測定)により調べた。測定には三電極式の電気化学セルを使用し、電解液として0.1モル/dmのKOH水溶液を使用した。セルのリング電極は白金、参照電極はHg/HgOであり、対極はNiメッシュであった。以下に記載する電位は全て、水素電極基準に換算した電位である。
【0043】
ORR測定は、酸素を溶け込ませた0.1モル/dmのKOH水溶液中で、ディスク電位範囲1.2~0.05Vで、回転速度1600rpm、走査速度5mV/sの条件で行った。ORR測定時の反応は次のとおりである。
ディスク反応:
4電子:O+2HO+4e → 4OH
2電子:O+HO+2e → HO +OH
リング反応:
HO → O+2e+H
ディスク反応には、4電子の反応と中間体としてHO を伴う2電子反応があり、HO を検出するためにリング電極の電位は1.2Vで一定とした。
【0044】
OER測定は、ディスク電位範囲0.8~1.5Vで、N雰囲気下に回転速度1600rpm、走査速度1mV/sの条件で行った。OER測定時の反応は次のとおりである。
ディスク反応:
4OH → O+4e+2H
リング反応:
+ne+HO → nOH (n=3.53)
リング電位は、ディスクで発生した酸素を還元する0.4Vで一定とし、リング電流の増加が確認された電位をOER開始電位とした。
【0045】
BRO化合物のORR測定では、ディスクにおいて0.9V以下で還元電流が認められ、酸素還元反応の進行が確認された。リングでも、同じディスク電圧の時に酸化電流が認められた。測定したBRO化合物について得られた過電圧を、ターフェルプロットから得られたターフェル勾配とともに、表2に示す。
【0046】
【表2】
【0047】
BRO-500とBRO-600で過電圧は同じであったが、ターフェル勾配の値は焼成温度が高いBRO-600の方が小さかった。
【0048】
BRO化合物のOER測定では、ディスク電流が急激に増加し始めた電圧を開始電位とした。測定したBRO化合物について得られた過電圧を、ターフェルプロットから得られたターフェル勾配とともに、表3に示す。
【0049】
【表3】
【0050】
リング電流の変化から求めたOER過電圧は、BRO-500とBRO-600で同じであったが、ORR同様、ターフェル勾配の値は焼成温度が高いBRO-600の方が小さかった。
【0051】
本発明によるABRO化合物のORR測定では、ディスクにおいてやはり0.9V以下で還元電流が認められ、酸化還元反応の進行が確認された。リングでも、同じディスク電圧の時に酸化電流が認められた。測定したABRO化合物について得られた過電圧を、ターフェルプロットから得られたターフェル勾配とともに、表4に示す。
【0052】
【表4】
【0053】
BROのORR活性と同様に、ABRO-500とABRO-600で過電圧は同じであったが、ターフェル勾配の値は焼成温度が高いABRO-600の方が小さかった。
【0054】
ABRO化合物のOER測定では、表5に示したように、リング電流の変化から求めたOER過電圧、ターフェル勾配の値ともに、焼成温度が高いABRO-600の方が小さかった。
【0055】
【表5】
【0056】
BRO化合物についての結果(表2、3)とABRO化合物についての結果(表4、5)を比較すると、空気二次電池の放電時の正極における酸素還元反応の過電圧は同等で、ターフェル勾配はBROよりABROの方が小さいことが分かる。その一方、空気二次電池の充電時の正極における酸素発生反応の過電圧はBROよりABROの方が小さく、ABROでは化合物の焼成温度が高い方が過電圧が小さくなることが分かる。
【0057】
2〕(参考例)
実施例1で説明したように作製した3つの触媒化合物を比較した。一つは、塩化ルテニウムと硝酸ビスマスから出発して焼成温度500℃で作製した化合物(BRO)であり、ほかの二つは塩化ルテニウムと硝酸ビスマスに硝酸アルミニウムを加えた出発物質から焼成温度500℃で作製した化合物(ABRO-1、ABRO-2)であった。BROにおける塩化ルテニウムと硝酸ビスマスのモル比は11であった。ABRO-1とABRO-2では、塩化ルテニウムと硝酸ビスマスのモル比を11とし、そしてABRO-1については硝酸ビスマス(あるいは塩化ルテニウム)9モルに対して1モルの硝酸アルミニウムを加え、ABRO-2については硝酸ビスマス(あるいは塩化ルテニウム)8モルに対して1モルの硝酸アルミニウムを加えた。
【0058】
図2に、上記3つの化合物の粒径が同一の粒子について得たX線回折パターンを示す。また、表6に、これらのパターンのうちの2θ=30°付近における222回折ピークの測定角度2θ(°)と格子定数d(nm)を示す。
【0059】
【表6】
【0060】
表6から明らかなように、222回折ピークの測定角度は2つのABRO化合物ではBRO化合物と比べて高角度側に現れており、BiRu中にアルミニウムイオン(Al3+)が部分的に導入されていることが確認された。また、2つのABRO化合物ではBRO化合物と比べて格子定数が小さくなっており、やはりBRO化合物中にAl3+イオンが導入されたものと考えられた。
本発明に関連する発明の実施態様の一部を以下に示す。
[態様1]
アルミニウム、ビスマス、ルテニウム、酸素を含み、TPR測定において6.5~7.3の酸素比を示すパイロクロア型金属酸化物を主成分としていることを特徴とする、酸素発生反応及び酸素還元反応触媒。
[態様2]
担体に担持されていることを特徴とする、態様1に記載の酸素発生反応及び酸素還元反応触媒。
[態様3]
態様1又は2に記載の酸素発生反応及び酸素還元反応触媒を製造するための方法であって、前記化合物を、その構成元素であるビスマス、ルテニウム、アルミニウムの各供給源の混合物から所定の元素比の酸化物を調製することにより製造することを特徴とする、酸素発生反応及び酸素還元反応触媒の製造方法。
[態様4]
前記化合物を共沈法により製造することを特徴とする、態様3に記載の製造方法。
[態様5]
ビスマス源、ルテニウム源及びアルミニウム源の混合物を含む水にアルカリ水溶液を添加し、得られた混合水溶液を酸素含有ガスの供給下で攪拌し、次いで水を除去して固形物を回収し、回収した固形物を焼成することにより、前記化合物を得ることを特徴とする、態様4に記載の製造方法。
[態様6]
ビスマス源として、硝酸ビスマス、硫酸ビスマス、塩化ビスマス、炭酸ビスマス、ビスマスアルコキシド、又はそれらの混合物を使用し、ルテニウム源として、塩化ルテニウム、水溶性のルテニウム錯体、ルテニウム塩、又はそれらの混合物を使用し、アルミニウム源として、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、塩化アルミニウム、アルミニウムアルコキシド、又はそれらの混合物を使用することを特徴とする、態様3~5のいずれか1つに記載の製造方法。
図1
図2