(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-20
(45)【発行日】2023-04-28
(54)【発明の名称】石英製の格子構造体および回折格子の製造方法
(51)【国際特許分類】
G02B 5/18 20060101AFI20230421BHJP
【FI】
G02B5/18
(21)【出願番号】P 2018189248
(22)【出願日】2018-10-04
【審査請求日】2021-09-13
(73)【特許権者】
【識別番号】503359821
【氏名又は名称】国立研究開発法人理化学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】海老塚 昇
(72)【発明者】
【氏名】岡本 隆之
(72)【発明者】
【氏名】山形 豊
(72)【発明者】
【氏名】田中 壱
(72)【発明者】
【氏名】服部 尭
【審査官】吉川 陽吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-334874(JP,A)
【文献】特開2018-106048(JP,A)
【文献】特開2004-138895(JP,A)
【文献】特開2017-223726(JP,A)
【文献】特開2017-211670(JP,A)
【文献】特開2017-138597(JP,A)
【文献】N.Ebizuka et.al,Novel gratings for next-generation instruments of astronomical obserbations,SPIE Optics+Optoelectronics,SPIE,2018年07月22日,10233,1-8
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
石英製の格子構造体の製造方法であって、
SOQ(Silicon on Quartz)基板を用意する工程と、
前記SOQ基板のシリコン側表面にレジストパターンを描画する工程と、
前記レジストパターンをマスクとしてエッチングにより前記シリコン側表面に
、前記SOQ基板の石英層に接するシリコン製の接合層が残るように溝を掘る
ことにより、シリコン製の畝部を作製する工程と、
前記シリコン製の畝部および前記接合層を含む前記SOQ基板のシリコンの全体を酸化させる
ことにより石英製の畝部を得る工程と、
を含む、方法。
【請求項2】
前記シリコンの一部を酸化させる工程と、酸化シリコン層を除去する工程と、が前記
畝部を作成する工程の後に行われる、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記シリコンの一部を酸化させる前記工程と、酸化シリコン層を除去する前記工程とは、複数回行われる、
請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記レジストパターンは、所定の幅の細線が複数並んだパターンであり、それぞれの細線には所定の間隔でギャップが設けられている、
請求項1から3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記レジストパターンは、隣り合う細線の間に連結部を有する、
請求項4に記載の方法。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項の石英製の格子構造体の製造方法の各工程と、
前記格子構造体の溝部分に、石英よりも高屈折率の樹脂を充填する工程と、
を含む、回折格子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石英製の格子構造体および回折格子ならびにこれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、分光計測の分野において、広い波長範囲を同時に計測するためにエシェル分光法が広く利用されるようになった。エシェル分光法では、高次回折光を利用する高分散回折格子とプリズムや低分散の回折格子等の垂直分散素子等とを組み合わせて、2次元撮像装置にスペクトルを折り込んでいる。
【0003】
また、天文学観測においては、望遠鏡の大型化に伴って分光観測装置も巨大化するため、光学系の小型化が可能となる角度分散が大きな透過型回折格子の開発が求められている。特に入射角(入射光と回折格子法線のなす角)と回折角(回折光と回折格子法線のなす角)が45°の回折格子は、光軸が直角に折れ曲がるため、分光器等の光学系の配置が簡素になり、装置の小型化や光学調整の簡便さに貢献できる。角度分散:dβ/dλは、Nが格子の本数、mが回折次数、βが回折角、λが波長である場合に、
dβ/dλ=Nm/cosβ
であり、Nとmの積が大きく、βが90°に近いほど大きな値になる。従来の鋸歯形状(階段形状)を有する表面刻線型の透過型回折格子は、回折角が大きくなると回折効率が低下してしまうために、回折角が20°以下で使用されることが多い。
【0004】
このような状況の下、たとえば、現在建設中の30m望遠鏡(TMT)の第一期観測装置であるWFOS(Wide-Field Optical Spectrometer)では、紫外線から近赤外線の波長(30
0~1000nm)に対して、大きな回折角(たとえば36°~53°)で、高次回折光を精度良く測定可能な透過型回折格子の開発が求められている。
【0005】
前述の従来の表面刻線型の透過型回折格子は、回折角が大きくなる(角度分散が大きくなる)のにしたがって、格子を満たす媒質の屈折率を大きくしなければならない。例えば、入射角と回折角が45°の場合に格子を満たす媒質の屈折率が2.3以下の場合に回折光が
格子の外に現れなくなる。しかし、可視光において屈折率が2.3以上の透明な媒質はZnSeやZnS、TiO2、ダイアモンド等に限られる。さらに、波長400nm以下では、屈折率が2.3以上の透明な媒質はダイアモンド以外に存在しない。
【0006】
この問題を解決する手段として、
図9に示すような厚い矩形回折格子(Volume Binary grating。以下、VB回折格子と称する)が提案されている。
【0007】
VB回折格子は、S偏光とP偏光の特性を一致させて自然光偏光や円偏光に対して高い回折効率を達成することができる。たとえば、畝の屈折率が1.55、溝の屈折率が1.0、入射角と回折角が45°の場合は、畝の幅(L)に対する溝の幅(S)の比(デューティ比)を4:1、溝の幅(S)に対する深さ(t)の比(アスペクト比)が1:20程度となる。一方、高次回折光では、畝の屈折率が1.55、溝の屈折率が1.0、入射角と回折角が45°、デューティ比(L:S)が19:1、アスペクト比(S:t)が1:40程度の場合に6次以上において高い回折効率を達成することができる。
【0008】
石英の異方性エッチングやフォトレジストの紫外線露光等によって、溝のアスペクト比が1:10を超えるような格子構造体を製造する製造することは極めて困難である。可視光の1次回折光用として、石英のVB回折格子の試作が非特許文献1に報告されている。非特許文献1に記載のVB回折格子は、格子周期Λ~0.44μm、L:S=0.22μ
m:0.22μm、溝のアスペクト比が1:10(溝の深さt=2.2μm)である。しかしながら、この形状ではS偏光とP偏光の回折効率を一致させることができない。
【0009】
また、非特許文献2では、溝のアスペクト比が1:15(L=0.22μm:t=3.3μm)の溝の加工が試みられているが、理想的な形状が得られていない。
【0010】
このように、アスペクト比の高い石英製の格子構造体を製造することが望まれている。
【0011】
なお、石英製の格子構造体は回折格子以外にも、流路モジュール・加速度センサ・圧力センサ・ジャイロスコープのようなMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)にも好適に利用できる。石英は可視光を透過しかつ耐熱性を有するためである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0012】
【文献】M. C. Gupta, S. T. Peng, "Diffraction characteristics of surface-relief gratings," Appl. Opt. 32, 2911-2917 (1993)
【文献】T. Clausnitzer, E.B. Kley, H.J. Fuchs, A. Tuennermann, "Highly efficient polarization-independent transmission gratings for pulse stretching and compression." Proc. SPIE 5252, 174-182 (2004)
【文献】N. Ebizuka, et. al., "Novel gratings for next-generation instruments of astronomical observations," Proc. SPIE 10233, 0M1-0M8, 2017.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
このような問題を考慮して、本発明は、石英製の格子構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の第一の態様は、
石英製の格子構造体の製造方法であって、
SOQ(Silicon on Quartz)基板を用意する工程と、
前記SOQ基板のシリコン側表面にレジストパターンを描画する工程と、
前記レジストパターンをマスクとしてエッチングにより前記シリコン側表面に、前記SOQ基板の石英層に接するシリコン製の接合層が残るように溝を掘ることにより、シリコン製の畝部を作製する工程と、
前記シリコン製の畝部および前記接合層を含む前記SOQ基板のシリコンの全体を酸化させることにより石英製の畝部を得る工程と、
を含む、方法である。
【0015】
このように加工性のよいシリコンに対してエッチングにより溝を形成し、その後に酸化させることで、石英製の格子構造体が容易に製造できる。この製造方法であれば、高アスペクト比の格子構造体が製造できる。
【0016】
また、本態様に係る製造方法において、前記シリコンの一部を酸化させる工程と、酸化シリコン層を除去する工程と、が前記溝を掘る工程の後に行われてもよい。これら2つの工程は、1回のみ行われてもよいし、複数回行われてもよい。
【0017】
シリコンの一部の酸化と酸化シリコン層の除去により、格子構造体の畝部(以下、畝部)の幅を薄くすることができ、したがってレジストパターンの限界よりも細い幅の畝部を製造できる。また、エッチングの際に生じるスキャロップと呼ばれる表面粗さを除去して、表面をなめらかにできる。
【0018】
本態様に係る製造方法において、前記レジストパターンは、所定の幅の細線が複数並んだパターンであり、それぞれの細線には所定の間隔でギャップが設けられていてもよい。
【0019】
このようなレジストパターンを用いることで、生成される畝部も所定の間隔でギャップが設けられる。酸化の際に畝部が破断したり波打ったり倒れてしまうおそれがあるが、畝部にギャップを設けることで応力集中を避けられるので、このような事態を防止できる。
【0020】
本態様に係る製造方法において、前記レジストパターンは、隣り合う細線の間に連結部を有していてもよい。
【0021】
このようなレジストパターンを用いることで、隣接する2つの畝部の間を連結する補強部が作られる。したがって、酸化の際に畝部が倒れたりする事態を防止できる。
【0022】
本発明の第2の態様は、回折格子の製造方法であり、
上述の各工程と、
前記格子構造体の溝部分に、石英よりも高屈折率の樹脂を充填する工程と、
を含むことを特徴とする。
【0026】
本発明は、上述の石英製の格子構造体を有するマイクロ流路モジュール、圧力センサ、加速度センサ、ジャイロスコープなどとしても捉えることもできる。また、本発明は、上述の高アスペクト比の格子構造体を有する空中映像結像光学素子として捉えることもできる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、石英製の格子構造体を容易に製造することができ、特にアスペクト比の高い石英製の格子構造体も製造可能である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】
図1は、実施形態に係る透過型回折格子の構造を説明する図である。
【
図2】
図2は、実施形態に係る透過型回折格子内の製造工程を示す流れ図である。
【
図3】
図3は、実施形態に係る透過型回折格子の製造方法を説明する図である。
【
図4】
図4は、第1実施形態におけるレジストパターンを示す図である。
【
図5】
図5は、第1実施形態における格子構造体を示す図である。
【
図6】
図6は、第1実施形態に係る透過型回折格子の回折効率の数値解析結果を示す図である。
【
図7】
図7は、第2実施形態におけるレジストパターンを示す図である。
【
図8】
図8は、第2実施形態における格子構造体を示す図である。
【
図9】
図9は、従来技術に係るVB回折格子を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
<第1実施形態>
近年、分光計測の分野において、広い波長範囲を同時に計測するためにエシェル分光法が広く利用されるようになった。エシェル分光法では、高次回折光を利用する高分散回折格子とプリズムや低分散の回折格子等の垂直分散素子等とを組み合わせて、2次元撮像装置にスペクトルを折り込んでいる。
【0030】
本実施形態は、エシェル分光法に用いる高分散回折格子10(以下、単に回折格子10ともいう)である。
図1に回折格子10の構造を示す。
【0031】
回折格子10は、石英(SiO2)製の格子構造体11と、格子構造体11の溝部に充填された高屈折率の樹脂13(充填部)と、樹脂13の上に設けられたガラス基板14とを含む。格子構造体11は、基部の一方の面の上に複数の畝部12が互いに平行に並んで設けられた構造体を有する。畝部12は、直立した矩形形状を有する。畝部12は、フィンや櫛歯とも称される。
【0032】
本実施形態において、波長1.65μmの3次回折光の入射角と回折角が28°である場合に、畝部12の幅Lが0.5μm、隣接する畝部12の間の間隔Sが4.6μmであり、繰り返し周期Λが5.1μmである。また、畝部12の高さ(溝の深さ)tは16μmであり、アスペクト比L:tは1:32である。本実施形態では、畝部12の幅Lや間隔Sは一定であるが、位置に応じて幅Lや間隔Sが異なっていても構わない。
【0033】
次に、本実施形態に係る回折格子10の製造方法について説明する。
図2は、本実施形態に係る回折格子10の製造工程を示す流れ図である。
図3は、各工程を説明する図である。
【0034】
工程S10において、石英層31とシリコン層32が接合されたSOQ(Silicon on Quartz)基板を用意する(
図3A)。SOQ基板の石英層は格子構造体11の基部となり、シリコン層32は格子構造体11の畝部12となる。シリコン層32の厚さは、目的とする回折格子10の溝の深さ(畝部12の高さ)tに応じて決定すればよい。本実施形態では、例えば、厚さ17μmのシリコン層32が接合されたSOQ基板を用いる
【0035】
工程S20において、SOQ基板のシリコン層32の表面にフォトリソグラフによってレジストパターン33を描画する(
図3B)。レジストパターン33は、
図4に示すように、幅2.0μmの細線が、3.1μm間隔で複数並べられたストライプパターンとする。
【0036】
工程S30において、上記レジストパターンをマスクとしてサイクルエッチング(ボッシュプロセス)によって、高さ15.86μmの溝を掘る(
図3C)。ボッシュプロセスは、主に六フッ化硫黄(SF
6)ガスを用いた等方性エッチングとテフロン系ガス(C
4F
8な
ど)による側壁保護とを繰り返し行う深掘り反応性イオンエッチング(RIE)である。この際、シリコン層32を全てエッチングせず石英層31と接合する接合層32aを残しておく。本実施形態では、接合層32aの厚さは1.14μmである。本実施形態では、格子の側壁は基板に対して垂直とし、幅を一定とするが、サイクルエッチングの条件を変えてテーパー形状の格子を形成してもよい。
【0037】
工程S40においてシリコンを酸化させ(
図3D)、工程S50において酸化シリコン層34を除去する(
図3E)。工程S40とS50は、畝部12の幅が所望の値となるまで、複数回繰り返し行われる。本実施形態では、工程S40とS50を2回行うことで、畝部12の幅Lを2.0μmから0.22μmとする。畝部12の間隔Sは4.88μmである。酸化および酸化層の除去により、サイクルエッチングで生じる側壁の波打ち(スキャロップ)を除去し表面をなめらかにできる。また、接合層32aも薄くなるが完全には除去しないことが望まれる。
【0038】
工程S60において、シリコン全体を例えば1100℃程度まで加熱して酸化させる(
図3F)。ここまでの工程により、石英製の格子構造体11が得られる。工程S60の処理で得られる格子構造体11は、
図5に示すとおり、複数の畝部12が並んだ構造である。なお、
図5は構造を説明する概念図であり縮尺は正確ではない。酸化によりシリコン層が厚くなるため、得られる格子構造体11の畝部12の幅Lは0.5μm、間隔Sは4.6μm、高さtは16μmとすることができる。
【0039】
工程S70において、格子構造体11の溝部分に高屈折率の樹脂13を充填し(
図3G)、さらに工程S80において樹脂13の上にガラス基板14(ZnSe,n=2.45@1.65μm)を接着する(
図3H)。工程S70では、入射光が格子側壁において臨界角となる屈折率を有する樹脂13を使用する。
【0040】
図1において樹脂13の屈折率n
2を求める。ガラス基板14と樹脂13との界面にお
ける樹脂13内部の屈折角をθ
1とすると、
sinθ
0=n
2×sinθ
1
である。格子側壁における臨界角の式は、
n
1×sin90°=n
2×cosθ
1
である。以上より、
(sinθ
0)/n
1=tanθ
1
となり、θ
0とn
1が既知であり、θ
1が求まるので樹脂13の屈折率n
2が求まる。
【0041】
石英の屈折率はn1=1.44@1.65μmなので、θ0=28°の場合、上述の式よりn2≧1.516となる。また、θ0=45°の場合、上述の式よりn2≧1.60である。
【0042】
図6は、本実施形態に係る回折格子10の回折効率を示す図である。図中の実線はS偏光の回折効率を示し、点線はP偏光の回折効率を示す。図から分かるように、回折格子10は、2次~6次において約60%以上の高い回折効率を達成することができる。
【0043】
また、上記の説明では真空中あるいは空気中での利用(屈折率=1)を想定しているが、必ずしもその必要はない。回折格子が真空または空気以外と接していても構わない。その場合も上記と同様の手法によって形状の設計が可能である。
【0044】
本実施形態にかかる透過型回折格子は、エシェル分光計測のための分散光学素子以外としても利用できる。回折格子10は、結像機能を持つため、画像を空中に投影するための空中映像結像光学素子としても利用できる。
【0045】
本実施経形態にかかる透過型回折格子は、さらに格子周期を数10μm~100mm程度とすれば、回折格子としてではなく、外光を天井や部屋の奥に導いて照明として利用する機能性の省エネ窓等の応用も可能である。
【0046】
(第2実施形態)
第1実施形態の回折格子は、連続する畝部12が複数並んだ構造を有している。回折格子の面積を大きくするためには、畝部12の長さ(
図1において紙面に直交する方向の長さ)を長くする必要がある。そうすると、シリコン酸化のために1100℃程度まで加熱する際に、畝部12が破断したり波打ったりするおそれがある。そこで、本実施形態では、第1実施形態と異なる構造の畝構造体を作成する。
【0047】
図7は、本実施形態のレジストパターン描画工程S20におけるレジストパターン33を示す。第1実施形態では
図4に示すように、ストライプ状のパターンが用いられるが、本実施形態では、
図7に示すように、ストライプの途中にギャップ71が含むパターンが用いられる。
図7では1つのストライプに対してギャップ71は1つのみ設けられてストライプが2つのストライプセグメントに分割されているが、1つのストライプに対してギャップ71が2つ以上であってもよい。ギャップ71の間隔は、製造する回折格子の性能に影響を与えないような幅とすればよく、本実施形態では例えばギャップ71の間隔は3μmである。また、隣接する2つのストライプセグメントの間に連結部72が設けられる。
図7では、隣接するストライプセグメント間に1つの連結部72が設けられているが、2つ以上設けられてもよい。
【0048】
本実施形態において、工程S60の処理で得られる格子構造体11を
図8に示す。上述したようなレジストパターンを用いることにより、本実施形態に係る格子構造体11のそれぞれの畝部12にはギャップ81が設けられて分割される。また、隣接する畝部12セグメントの間に、連結部72に対応した補強部82が設けられる。このようにギャップ81や補強部82が設けられることで、酸化加熱時の破断や波打ちや倒壊を防止できる。すなわち、本実施形態によれば面積の大きな回折格子を製造することができる。
【0049】
(第3実施形態)
上記第1,第2実施形態は、格子構造体を回折格子として用いているが、上記で説明した格子構造体は回折格子以外の用途にも用いることができる。
【0050】
格子構造体11は、例えば、マイクロ流路モジュール(マイクロ流体デバイス)における流路や反応容器を規定するために用いることができる。例えば、DNAを蛍光顕微鏡で観察する際に格子構造体11を有するマイクロ流路モジュールを用いると、石英は蛍光を発生しないことから背景光を抑制することができる。あるいは、格子構造体11は、加速度センサ・圧力センサ・ジャイロスコープなどのような、その他のMEMSデバイスにも利用できる。他にも、格子構造体の表面を薄い金属膜等で覆って表面プラズモン共鳴を引き起こすことで光を増幅する光増幅器として用いることもできる。さらに、格子構造体11を、シリコン、金属、非線形光学結晶等と組み合わせることにより、全光コンピュータの論理ゲート、配線、フィルタなどに応用できることが見込まれる。
【0051】
従来、対象とする波長の光に対して透明な格子構造体が必要な場合に、樹脂を用いることがあったが、耐熱性が低いという問題があった。本実施形態の石英製の格子構造体は、光(可視光)に対して透明であり、かつ、熱にも強いので、様々な用途のMEMSデバイスに好適に利用できる。
【符号の説明】
【0052】
10:回折格子 11:格子構造体 12:格子構造体の畝部
13:樹脂(充填部) 14:ガラス基板
31:石英層 32:シリコン層 33:レジストパターン 34:酸化シリコン層