(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-20
(45)【発行日】2023-04-28
(54)【発明の名称】振止装置
(51)【国際特許分類】
B23B 13/08 20060101AFI20230421BHJP
【FI】
B23B13/08
(21)【出願番号】P 2019004304
(22)【出願日】2019-01-15
【審査請求日】2021-12-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000127042
【氏名又は名称】株式会社アルプスツール
(74)【代理人】
【識別番号】110000958
【氏名又は名称】弁理士法人インテクト国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100120237
【氏名又は名称】石橋 良規
(72)【発明者】
【氏名】小林 和義
(72)【発明者】
【氏名】小山 政浩
【審査官】小川 真
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-159422(JP,A)
【文献】米国特許第04700593(US,A)
【文献】実開昭64-004501(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 13/02、13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加工機においてチャッキングされるとともに主軸によって回転される棒材の振止装置であって、
前記棒材を回転可能に支持する棒材支持ユニットを備え、
当該棒材支持ユニットは、
前記棒材が挿通され、前記棒材に接触可能な接触部材を備え、
当該接触部材の配置具合により、前記接触部材に挿通された前記棒材を把持可能又は前記接触部材が前記棒材に対して位置決め可能であって、
前記接触部材は、弾性体から成るブッシュ部材を備え、
前記ブッシュ部材は、前記ブッシュ部材よりも機械強度の高い材質からなる補強体を備え
、
前記ブッシュ部材は、略環状に形成されると共に、径方向に突出して前記棒材支持ユニットに取り付け可能なツバ部を有し、
前記補強体は、前記ツバ部の周方向に延設される環状部と、軸方向に突出する回り留め部を備えることを特徴とする振止装置。
【請求項2】
請求項
1に記載の振止装置において、
前記回り留め部は、先端に抜け止め手段を備えることを特徴とする振止装置。
【請求項3】
請求項
1又は
2に記載の振止装置において、
前記補強体は、前記ブッシュ部材の軸方向に沿って取り付けられることを特徴とする振止装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、材料供給機に用いられる棒材の振止装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から棒材をNC自動旋盤等の加工機に供給する材料供給機が知られている。材料供給機は、棒材の後端をフィンガーチャックで把持した状態で加工機へと送り込む。加工機に送り込まれた棒材の先端部は、加工機のチャックで把持され、バイト等の工具により切削加工が行われる。特に、長尺の棒材を切削加工する場合、この切削加工において加工機の主軸は高速で回転することから、チャックとフィンガーチャックにより把持されていない棒材の中間部は自重により下がりやすく、その軸線が主軸の回転軸線と一致しない場合に棒材が振り回されるため回転振れが生じる。
【0003】
このような回転振れを防止するために、通常、材料供給機には棒材の振止装置が設けられている(特許文献1参照)。
【0004】
この種の振止装置は、棒材を回転可能に支持する棒材支持ユニットを備え、該棒材支持ユニットは、棒材の周囲に配置され、棒材に接触可能な接触部材を備え、複数の接触部材の配置具合によって複数の接触部材の内側に形成される空間の大きさを変位可能であって、該空間に棒材が通され、加工機によって棒材がチャッキングされる前に、各々の接触部材の一部が棒材に対して圧接されるように該空間の大きさを変位させて主軸の回転軸線に棒材の軸線を一致させるという構成を有している。
【0005】
このような振止装置は、従来の振止装置に対して大幅な改造を行うことなく、簡易かつ確実に棒材の芯合わせ機能を備えた材料供給機を実現することができるという効果を奏する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の振止装置では、
図14に示すように、接触部材170には、振動や騒音を低減するために弾性体から成るブッシュ部材180がベアリング173,173によって挟持されるように取り付けられており、ブッシュ部材180に対して軸線方向に材料等から外力が作用した場合、ツバ部181が当該外力を受けることでブッシュ部材180の抜け止め機能を構成していたが、外力が大きい場合には、
図14に示すように、ツバ部181が大きく変形することでベアリング173,173から外れてしまう可能性があるという課題があった。
【0008】
そこで、本発明は上記課題を解決するためになされたものであって、従来の振止装置に大幅な改良を行うことなく、棒材に大きな外力が加わった場合であってもブッシュ部材がベアリングから外れることがない振止装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明に係る振止装置は、加工機においてチャッキングされるとともに主軸によって回転される棒材の振止装置であって、前記棒材を回転可能に支持する棒材支持ユニットを備え、当該棒材支持ユニットは、前記棒材が挿通され、前記棒材に接触可能な接触部材を備え、当該接触部材の配置具合により、前記接触部材に挿通された前記棒材を把持可能又は前記接触部材が前記棒材に対して位置決め可能であって、前記接触部材は、弾性体から成るブッシュ部材を備え、前記ブッシュ部材は、前記ブッシュ部材よりも機械強度の高い材質からなる補強体を備え、前記ブッシュ部材は、略環状に形成されると共に、径方向に突出して前記棒材支持ユニットに取り付け可能なツバ部を有し、前記補強体は、前記ツバ部の周方向に延設される環状部と、軸方向に突出する回り留め部を備えることを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る振止装置において、前記回り留め部は、先端に抜け止め手段を備えると好適である。
【0013】
また、本発明に係る振止装置において、前記補強体は、前記ブッシュ部材の軸方向に沿って取り付けられると好適である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、大幅な改良を行うことなく、棒材の振れ回りを発生させずに、棒材に大きな力が加わった場合であっても接触部材からブッシュ部材が抜け落ちることを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図2】材料供給機における棒材の供給例を示す模式図であり、
図2(a)は材料供給機の構成例、
図2(b)は
図2(a)のA部分の拡大図。
【
図9】ブッシュ部材の構成を説明するための分解図。
【
図12】ブッシュ部材に外力が加わった状態を示す断面図。
【
図14】従来のブッシュ部材に外力が加わった状態を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための好適な実施形態について、図面を用いて説明する。なお、以下の実施形態は、各請求項に係る発明を限定するものではなく、また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0018】
図1は、正面から視認した材料供給機の模式図であり、
図2は、材料供給機における棒材の供給例を示す模式図であり、
図2(a)は材料供給機の構成例、
図2(b)は
図2(a)のA部分の拡大図であり、
図3は、振止装置の構成例を示す正面図であり、
図4は、振止装置の構成を説明するための構成図であり、
図5は、振止装置の動作を説明するための正面図であり、
図6は、接触部材の構成を説明するための正面図であり、
図7は、
図6におけるB-B断面図であり、
図8は、ブッシュ部材の一部断面図であり、
図9は、ブッシュ部材の構成を説明するための分解図であり、
図10は、補強体の一部拡大図であり、
図11は、補強体の変形例を示す一部拡大図であり、
図12は、ブッシュ部材に外力が加わった状態を示す断面図であり、
図13は、ブッシュ部材の変形例を示す一部断面図である。
【0019】
本実施形態の材料供給機Mは、一例として旋盤と称される材料加工機(以下「加工機50」と称する。)に材料を供給するものであって、加工機50に隣接して配置される。
【0020】
図1に示すように、材料供給機Mは、加工機50に材料としての棒材2を供給する本体5と、この本体5を所定の高さで支持する基台7と、を備える。
【0021】
本体5は、外部から供給される棒材2を保持する棒材保持部10と、その棒材2を加工機に送出する棒材送出部20と、を備え、棒材保持部10に保持される棒材2が棒材送出部20によって加工機50に送出される。
【0022】
なお、本体5には、外部から供給される棒材2を各棒材保持部10に適宜供給する図示しない棒材供給部を備えているが、従来から公知であるためその詳細は省略する。
【0023】
一方、加工機50は、棒材2が通過可能な筒状の主軸51を備え、この主軸51には、棒材2の先端部を把持するチャック53が設けられている。棒材2は、当該チャック53によって把持された状態で回転され、図示しない所定の切削工具(例えば、バイト)によって加工される。
【0024】
棒材保持部10は、
図1に示すように、基台7上であってその長手方向に延びるようにして略半円状に形成されるホルダ13を備え、棒材2は、ホルダ13に沿って加工機側に送出されることで加工機50の主軸51に送出される。
【0025】
なお、図示しないが、例えば、ホルダ13には、外部から供給される棒材2を載せるための棒材供給棚から棒材供給部によって棒材2が供給される。
【0026】
棒材送出部20は、ホルダ13に受け入れられた棒材2を加工機へと搬送するための押し具31を備えている。
【0027】
押し具31は、例えば、ホルダ13の長手方向に沿って進退自由に移動可能な断面が円形状のスライダ33と、このスライダ33の前方に配置されて棒材2を押し出すプッシュロッド34と、このプッシュロッド34の前方に軸受を介して配置され、棒材2の後端部をくわえるフィンガーチャック35と、を備えている。
【0028】
そして、棒材2は、
図2(a)、(b)に示すように、フィンガーチャック35によって後端がくわえられ、スライダ33の移動によるプッシュロッド32の押出動作によって、棒材2の先端部が加工機50のチャック53によって把持され、ストッパ54に突き当てられるまで加工機側へと送出される。
【0029】
なお、スライダ33は、図示しない駆動手段によってホルダ13内を進退制御され、プッシュロッド34を前進させることで棒材2は加工機へと送出されるが、この駆動手段は、従来から公知であるためその説明を省略するものとする。
【0030】
また、
図1に示すように、ホルダ13の前方には、棒材2を回転可能に支持する棒材支持ユニット60(本願の振止装置)が設けられ、この棒材支持ユニット60によって棒材2の振れ回りが防止される。
【0031】
図3に示すように、棒材支持ユニット60は、棒材2を通す孔の径を変位可能な孔部61を有し、押し具31によって押し出された棒材2が当該孔部61に通され、当該孔部61によって回転可能に支持されつつ加工機50の主軸51に送出される。
【0032】
図4に示すように、棒材支持ユニット60は、上述した孔部61がそれぞれ形成されて、該孔部61を同軸に配置した複数の接触部材70,70,70を備えている。接触部材70は、少なくとも3つを配置することが好ましい。また、複数の接触部材70,70,70のうち、軸方向の両端に配置された接触部材70は、中央に配置された接触部材70に対して、
図3に示すように中央の接触部材70から同角度(120°)をなして下方左右に傾いて配置されている。すなわち、複数の接触部材70,70,70は、主軸の回転軸周りに均等に配置されている。
【0033】
また、
図3に示すように接触部材70は、回動軸71を中心に揺動可能に組み付けられており、それぞれの接触部材70,70,70は、リンク部材72によって連結され、任意の接触部材70が図示しない駆動源から駆動力を受けて回動軸71を支点として揺動すると、該揺動が他の接触部材70に伝達されて同じ方向に同じ量だけ揺動することができるように構成されている。
【0034】
このように構成された棒材支持ユニット60は、
図5に示すように、接触部材70の内側に形成された孔部61から成る空間の大きさを、接触部材70を揺動させることで変位可能に構成されており、棒材2の外径形状に応じて孔部61の重複具合を調整することで孔部61によって形成される空間の大きさを変位させて該空間によって棒材2を支持して棒材2の振止装置として機能させている。
【0035】
また、
図6に示すように、接触部材70は、回動軸71が挿通される回動軸孔71a及び、リンク部材72が取り付けられるリンク取付部72aがそれぞれ形成されており、孔部61の内周に取り付けられるブッシュ部材80を備えている。
【0036】
図7に示すように、ブッシュ部材80は、接触部材70の孔部61内に配置された一対のベアリング73,73に挟持されるように取り付けられており、より詳細にはブッシュ部材80のツバ部81がベアリング73,73に挟持されている。
【0037】
ブッシュ部材80は、ウレタンやゴム等の弾性体によって構成され、略環状に形成されると共に、径方向に突出したツバ部81を有しており、該ツバ部には、ブッシュ部材80よりも機械強度の高い材質(例えば、鉄や鋼等)からなる補強体90が取り付けられている。
【0038】
図9に示すように、補強体90は、ツバ部81の周方向に沿って延設される環状部91と、環状部91から軸方向に向かって突出すると共に、周方向に断続的に形成された複数の回り留め部92とを備えており、ブッシュ部材80のツバ部81に形成された取付孔82に対して、軸方向から回り留め部92を挿入してブッシュ部材80に取り付けられている。
【0039】
図10に示すように、回り留め部92は、取付孔82に対して挿入し易くかつ取付孔82を損傷しないように、先端が円弧状に形成されている。なお、回り留め部92の形状はこのような形状に限られず、例えば
図11に示すように、先端に抜け止め手段として返し93を形成しても構わない。
【0040】
このように、補強体90を軸方向に沿ってブッシュ部材80に組み付けることで、ブッシュ部材80が使用により摩耗等して交換が必要となった場合であっても、補強体90を付け替えることで再利用することができ、ランニングコストの低減を図ることが可能となる。
【0041】
このように形成された本実施形態に係る棒材支持ユニット60(振止装置)は、
図12に示すように、棒材が押し出されることによってブッシュ部材80に軸方向に沿った外力が加わった場合であっても、ツバ部81に補強体90が取り付けられているので、補強体90の環状部91によって外力によるツバ部81の変形を防止して、ブッシュ部材80がベアリング73,73から外れることを防止することができる。また、回り留め部92がツバ部81に挿入されているので、棒材が回転力を受けた場合であっても補強体90とブッシュ部材80とが相対的に回転することを防止することができる。
【0042】
なお、補強体90は、ブッシュ部材80に対して軸方向から取り付けられる場合に限らず、例えば
図13に示すように、ブッシュ部材80の成型時に補強体90´をツバ部81に埋め込んで一体としても構わない。補強体90´をブッシュ部材80と一体化する方法としては、ブッシュ部材80を成型する金型に補強体90´を予め載置しておき、溶融樹脂を射出することで、ブッシュ部材80のツバ部81に補強体90´をインサート成型する方法などを行うことができる。さらに、ブッシュ部材80のツバ部81に補強体90´をインサート成形する場合、補強体90´は少なくとも環状部を備えていればよく、回り留め部は必要に応じて形成することができる。
【0043】
このようにツバ部81に補強体90´を一体とすれば、回り留め部92とブッシュ部材80とが密着することで、機械的強度が増し、より大きな外力を受けた場合にベアリングから外れることを防止することができる。
【0044】
なお、本願は本実施形態に限定されるものではなく、種々の形態にて実施することが可能である。例えば、本実施形態では、3つの接触部材を用いて孔部を構成しているが、孔部は、接触部材の数に限定されるものではない。
【0045】
また、本実施形態の棒材支持ユニット60は、材料供給機Mと一体的に取り付けられているが、別途独立して設けられても構わない。
【符号の説明】
【0046】
M 材料供給機
2 棒材
10 棒材保持部
50 加工機
51 主軸
60 棒材支持ユニット
61 孔部
70 接触部材
71 回動軸
72 リンク部材
73 ベアリング
80 ブッシュ部材
81 ツバ部
82 取付孔
90,90´ 補強体
91 環状部
92 回り留め部