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特許7266293スペックル信号調整装置、並びにこれを使用した画像化測定装置の校正方法および画像化測定装置の異常診断方法
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  • 特許-スペックル信号調整装置、並びにこれを使用した画像化測定装置の校正方法および画像化測定装置の異常診断方法 図1
  • 特許-スペックル信号調整装置、並びにこれを使用した画像化測定装置の校正方法および画像化測定装置の異常診断方法 図2
  • 特許-スペックル信号調整装置、並びにこれを使用した画像化測定装置の校正方法および画像化測定装置の異常診断方法 図3
  • 特許-スペックル信号調整装置、並びにこれを使用した画像化測定装置の校正方法および画像化測定装置の異常診断方法 図4
  • 特許-スペックル信号調整装置、並びにこれを使用した画像化測定装置の校正方法および画像化測定装置の異常診断方法 図5
  • 特許-スペックル信号調整装置、並びにこれを使用した画像化測定装置の校正方法および画像化測定装置の異常診断方法 図6
  • 特許-スペックル信号調整装置、並びにこれを使用した画像化測定装置の校正方法および画像化測定装置の異常診断方法 図7
  • 特許-スペックル信号調整装置、並びにこれを使用した画像化測定装置の校正方法および画像化測定装置の異常診断方法 図8
  • 特許-スペックル信号調整装置、並びにこれを使用した画像化測定装置の校正方法および画像化測定装置の異常診断方法 図9
  • 特許-スペックル信号調整装置、並びにこれを使用した画像化測定装置の校正方法および画像化測定装置の異常診断方法 図10
  • 特許-スペックル信号調整装置、並びにこれを使用した画像化測定装置の校正方法および画像化測定装置の異常診断方法 図11
  • 特許-スペックル信号調整装置、並びにこれを使用した画像化測定装置の校正方法および画像化測定装置の異常診断方法 図12
  • 特許-スペックル信号調整装置、並びにこれを使用した画像化測定装置の校正方法および画像化測定装置の異常診断方法 図13
  • 特許-スペックル信号調整装置、並びにこれを使用した画像化測定装置の校正方法および画像化測定装置の異常診断方法 図14
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-20
(45)【発行日】2023-04-28
(54)【発明の名称】スペックル信号調整装置、並びにこれを使用した画像化測定装置の校正方法および画像化測定装置の異常診断方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 3/12 20060101AFI20230421BHJP
   A61B 5/026 20060101ALI20230421BHJP
   G01N 21/17 20060101ALI20230421BHJP
【FI】
A61B3/12 300
A61B5/026 120
G01N21/17 610
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019132937
(22)【出願日】2019-07-18
(65)【公開番号】P2021016483
(43)【公開日】2021-02-15
【審査請求日】2022-04-07
(73)【特許権者】
【識別番号】513102235
【氏名又は名称】ソフトケア有限会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149711
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 耕市
(72)【発明者】
【氏名】藤居 仁
(72)【発明者】
【氏名】岡本 兼児
(72)【発明者】
【氏名】高橋 則善
(72)【発明者】
【氏名】白川 武
【審査官】鷲崎 亮
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-112262(JP,A)
【文献】国際公開第2018/207471(WO,A1)
【文献】特開2014-212851(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 3/00 -3/18
A61B 5/026
G01N 21/17
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入射したレーザー光を多重散乱させてスペックル信号に変調させて出射するスペックル信号調整装置であって、
前記レーザー光を多重散乱させてスペックル信号に変調させながら反射する散乱体と、
前記散乱体に入射させるレーザー光を屈折させて前記散乱体への受光角を調整する投光・受光角調整部と、
前記レーザー光を減衰させる色素の濃度を調整するオプティカルインデックス調整部と、
前記散乱体を所望の速度で移動させる駆動部と、
を備えるスペックル信号調整装置。
【請求項2】
前記散乱体に入射させるレーザー光を細分化させて光路長の差を生じさせる細分化手段を有する請求項1記載のスペックル信号調整装置。
【請求項3】
前記駆動部による前記散乱体の移動は回転である請求項1記載のスペックル信号調整装置。
【請求項4】
レーザースペックル画像のコントラストに基づく値を測定する画像化測定装置に取り外し可能に取り付ける取付手段を備える請求項1記載のスペックル信号調整装置。
【請求項5】
レーザースペックル画像のコントラストに基づく値を測定する画像化測定装置の校正方法であって、
請求項1から4のいずれかに記載のスペックル信号調整装置を用いて、前記画像化測定装置の標準機と校正対象機について、前記散乱体の移動速度と前記レーザースペックル画像のコントラストに基づく値との関係をそれぞれ求め、求めた2つの関係の差に基づいて前記校正対象機を校正することを特徴とする画像化測定装置の校正方法。
【請求項6】
レーザースペックル画像のコントラストに基づく値を測定する画像化測定装置の異常診断方法であって、
請求項1から4のいずれかに記載のスペックル信号調整装置を用いて、前記画像化測定装置の標準機と診断対象機について、前記散乱体の移動速度と前記レーザースペックル画像のコントラストに基づく値との関係をそれぞれ求め、求めた2つの関係の差が所定値を超えた場合に異常と判定することを特徴とする画像化測定装置の異常診断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血球を有する生体組織にレーザー光を照射し、その生体組織から反射されたスペックル信号に基づき、血流速度を測定し画像化するに際して、前述の手法を用いる異なる機器間において同一の血流速度を有する測定対象を数値化した際に、標準機に比べて数値を同一に合わせるスペックル信号調整装置、並びにこれを使用した画像化測定装置の校正方法および画像化測定装置の異常診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の血流速度測定装置は、眼底や皮膚など血球を有する生体組織にレーザー光を照射して、その血球からの反射光が干渉した結果形成されるランダムな斑点模様の画像、いわゆるスペックル画像が、固体撮像装置(CCDやCMOS)等のイメージセンサー上に導かれる。このスペックル画像は、連続的に所定時間間隔で多数枚取り込んで、記憶される。その記憶された多数の画像は、所定枚数選択して、各画像の各画素における出力の時間変動速度を反映した値を算出し、この値から血球の速度(血流速度)を算出する。この種の血流速度測定装置では、各画素の出力変動速度の値が血球の移動速度に対応するので、この算出された各画素の出力変動値に基づき、生体組織での血流分布を二次元画像(血流マップ)として、モニター画面上にカラー表示することができる。実際に観測される血流マップは、毎秒30フレーム程度で算出される一連の血流マップ(以下、元マップと呼ぶ)で構成され、動画として表示することもできるので、眼底や皮膚の血行動態を観測する装置として実用化されている(特許文献1~7参照)。
【0003】
また本発明者らは、数秒間の血流測定で得られた一連の元マップに対して、心臓の拍動(心拍)による周期性を利用し、元マップを各心拍の先頭から対応する元マップ同士を平均化し、一心拍の平均血流マップ(以下、心拍マップと呼ぶ)を作成し、一心拍における拍動内の血流変化を観測視野内の各部位において解析し、動脈性の鋭い立ち上がり波形を有する部位と、静脈性の緩やかに上下する波形を有する部位を区別できる数値、即ち歪度等を導入し、血流マップ上に動脈性の拍動部分と静脈性の拍動部分を表示することができる血流速度画像化装置も提案した(特許文献8参照)。
【0004】
さらに本発明者らは、従来の装置に新たな血流画像診断機能を付加し、心拍強度演算部に所定領域内における時系列血流データが有する基本周波数の強度を求め、外信号強度を基に心拍の強度を表す心拍強度を画像化する血流動態画像化診断装置も提案した(特許文献9参照)。
【0005】
血流動態画像化診断装置では、生体組織での血流分布を二次元画像表示した血流マップを作成する。血流マップは、取り込んだ複数枚の画像上の各画素において光強度の変化率を演算し、その変化率をマップ化したものであり、血球の動きを反映する。血流マップ上の各画素は血流値を有し、血球の動きが速い領域は数値が高く、逆に血球の動きがゆっくりとした場合には低値になる。
【0006】
この血流値は、血球の動きを反映した数値であるが、絶対的な速度、例えばmm/secなどと計算できるものではない。いわば光強度の変化率を数値化した数値であり、一般的にコントラストと呼ばれるものを利用しており、絶対的な速度に変換することは難しいとされている。
【0007】
これは色素濃度の違う人種を想定して考えるとわかりやすい。例えば血流速度が同じだが、色素濃度の異なる被験者がいたとする。この場合、本来血流速度は同一で同じ血流値を期待されるが、実際には血流値は同じにならない。例えば色素濃度が濃い人種の場合は、レーザーの散乱光は生体内の濃い色素により吸収され、散乱光の減衰が早く形成されるスペックルのコントラストが高くなる。一方で色素濃度が薄い場合には、レーザー散乱光が色素に吸収されづらく散乱光が減衰しづらいので、コントラストの低下を招き血流値が高くなる。結果的に色素濃度が濃い人種では血流速度は同一でもコントラストの差異により血流値が低くなる。この血流値の差異を補正するため本発明者らは色素濃度による血流値の差異を補正する血流画像化装置も提案した(特許文献7参照)が、あくまでも色素濃度の差異がある人種間での血流値の相対的な補正であり、血流値から血流速度への絶対値化は困難であると考えられた。
【0008】
血流動態画像化診断装置で用いられている血流値は前述したように相対値であったが、利用者は同一機種の血流動態画像化診断装置を用いる限りは、同一の測定対象である所定領域内の血流を測定する場合、血流動態画像化診断装置の機体毎に出力される血流値が同一の値であることを期待する。発明者らは同一の測定対象に対して同一機種の血流動態画像化診断装置の機体毎にある程度の不確かさを持つ同一の数値が得られるように、標準になる機械(以降、標準機と呼ぶ)と製造する血流動態画像化診断装置の機体毎に校正を行ってきた。
【0009】
この従来まで行ってきた校正方法について説明をする。まず被験者の血流値を標準機と製造する血流動態画像化診断装置(以降、製品と呼ぶ)を交互に測定をする。被験者の同一領域を測定した原器と製品で測定した対になった複数の血流値を得る。得られた対になる複数の血流値から標準機の血流値(x)を横軸、製品の血流値(y)を縦軸に散布図を描き、回帰直線を求める。製品の血流値(y)と標準機の血流値(x)を測定しプロットした散布図の例を図14に示す。製品の血流値を標準機の血流値に一致させるためには、得られた回帰直線1の式2の傾き(=0.9329)と切片(=0.2366)をそれぞれ傾き=1になるように製品の血流値に対して比例常数を乗じ、切片=0になるように補正常数を加算し線形補正を行えばよい。
【0010】
この従来の校正方法では、確実に製品となる血流動態画像化診断装置の校正を行う事ができるが、次の4つの制約があった。
まず健全な生体、つまり健常な被験者が必要となる。被験者は血流を安定にするために高血圧などの病気や疾患などない健全な血流を持つ者を選別し、被験者を固定化する必要がある。被験者を固定化するため、対象となる被験者が不在の時には、校正を行う事ができない。
【0011】
次に校正時には時間の制約がある。測定対象は生体であるので一日の中で血流が変化している。この日内変動があるため常に安定した血流値を得るために校正時には短時間で測定する工夫が必要になる。例えば標準機と製品を交互に短時間で繰り返し測定を行い、繰り返し測定した血流値が安定していることを担保しながら測定し、血流の日内変動が少ない短時間のうちに校正のための測定を終えるなどである。また変化しやすい生体の血流値から散布図を作成し回帰直線を求めるので、対になる血流値はばらつきを持つので、対になる血流値のサンプル数は多数が必要であり、サンプルを多くするための測定には時間がかかる問題もあった。
【0012】
さらに場所の制約としては、次の2点があげられる。
まず短時間で繰り返して測定を行うために必ず標準機と製品を並べて設置する必要がある。このため、これら標準機と製品を並べて設置するスペースが必要になる。
次に標準機は緻密に調整された光学部品から構成されており、標準機を輸送するとこの調整された光学系に狂いが生じるリスクもあり、安易に移動させることができない。このため製造所以外の場所では校正を行う事が出来ないという問題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】特公平5-28133号公報
【文献】特公平5-28134号公報
【文献】特開平4-242628号公報
【文献】特開平8-112262号公報
【文献】特開2003-164431号公報
【文献】特開2003-180641号公報
【文献】国際公開第2014/175154 A1号パンフレット
【文献】国際公開第2008/69062 A1号パンフレット
【文献】国際公開第2018/003139 A1号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
血流動態画像化診断装置を校正しようとすると、標準機と被験者が必要であり、いつでもどこでも実施することができなかった。特に血流動態画像化診断装置が設置される病院のような限られた空間の現場では簡便に校正を行う事が出来なかった。現場からは、血流動態画像化診断装置から出力される血流値が故障などにより不安定になっていないか現場で点検をしたいと思われることもあるようで血流動態画像化診断装置が正常に動作しているか、血流値の健全性を確認する手段が求められていた。
【0015】
また製造所では校正を行うために被験者を拘束せずに、同一機種の機器に対していつでも簡便に血流動態画像化診断装置の校正を行える校正装置が求められていた。
【0016】
さらに色素濃度が異なる場合の補正方法について吟味する場合には、色素濃度の異なる被験者が必要となるが、色素濃度の異なる被験者を確保することは容易ではない。色素濃度に依存する血流値を、色素濃度の影響を加味し校正する方法も望まれていた。
【0017】
以上、本発明が解決しようとする課題は、従来の校正方法・異常診断方法に代わる手段として生体を用いず、時間、場所の制約もなく安定して画像化診断装置の校正や異常診断を行うことができるようにすることである。
【0018】
さらに色素濃度の違いによる血流値の補正を行う事ができる校正装置を提供可能にすることである。
これによって、これまで製造所でしか行えなかった血流動態画像化診断装置の校正を、どこでも、いつでも行う事ができ、血流動態画像化診断装置の血流値の健全性を簡便に検証できる。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明のスペックル信号調整装置は、入射したレーザー光を多重散乱させてスペックル信号に変調させて出射するものであって、レーザー光を多重散乱させてスペックル信号に変調させながら反射する散乱体と、散乱体に入射させるレーザー光を屈折させて散乱体への受光角を調整する投光・受光角調整部と、レーザー光を減衰させる色素の濃度を調整するオプティカルインデックス調整部と、散乱体を所望の速度で移動させる駆動部と、を備えている。
【0020】
この場合、散乱体に入射させるレーザー光を細分化させて光路長の差を生じさせる細分化手段を有するようにしても良い。
また、駆動部による散乱体の移動を回転としても良い。
さらに、レーザースペックル画像のコントラストに基づく値を測定する画像化測定装置に取り外し可能に取り付ける取付手段を備えるようにしても良い。
【0021】
また、本発明の画像化診断装置の校正方法は、レーザースペックル画像のコントラストに基づく値を測定するものであって、上記のスペックル信号調整装置を用いて、画像化測定装置の標準機と校正対象機について、散乱体の移動速度とレーザースペックル画像のコントラストに基づく値との関係をそれぞれ求め、求めた2つの関係の差に基づいて校正対象機を校正するものである。
【0022】
さらに、本発明の画像化測定装置の異常診断方法は、レーザースペックル画像のコントラストに基づく値を測定するものであって、上記のスペックル信号調整装置を用いて、画像化測定装置の標準機と診断対象機について、散乱体の移動速度とレーザースペックル画像のコントラストに基づく値との関係をそれぞれ求め、求めた2つの関係の差が所定値を超えた場合に異常と判定するものである。
【発明の効果】
【0023】
従来、血流動態画像化診断装置の校正では生体を標準機と製品とで撮り比べて比較していたため、健全な生体を維持し、短時間のうちに標準機と製品を並べて測定する必要があり、校正できる場所が製造所に限定されていた。本発明によれば、健全な生体を必要とせず、また標準機を並べる必要もないので場所の制限もなくなり、製造所以外の現場でもどこでも簡便に校正を行う事ができる。
【0024】
また本発明品を用いることにより血流動態画像化診断装置が出力する血流値が健全であることを簡便に確認することができる。
【0025】
色素濃度の異なる人種に対して相対値である血流値を同一に校正するため、色素濃度を考慮した校正装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明のスペックル信号調整装置の実施形態の一例を示す概略構成図である。
図2】本発明のスペックル信号調整装置の作動の概念を示す図である。
図3】細分化手段の概念図である。
図4】固形散乱体の表面の概念図である。
図5】固形散乱体に対してレーザー光が入射される様子を説明するための図で、(a)は屈折角が大きい場合の図、(b)は屈折角が小さい場合の図である。
図6】スペックル信号調整装置を血流動態画像化診断装置に取り付ける様子を示す概略構成図である。
図7】本発明のスペックル信号調整装置を使用した画像化診断装置3の校正方法の実施形態の一例を示し、マスターデータを作成するフローチャートである。
図8】本発明のスペックル信号調整装置を使用した画像化診断装置3の校正方法の実施形態の一例を示し、製品(校正対象機)の校正常数を求めるフローチャートである。
図9】本発明により製品(校正対象機)を校正する前の回帰直線を記載した散布図の例を示す。
図10】本発明により製品(校正対象機)を校正した後の回帰直線を記載した散布図の例を示す。
図11】本発明の画像化診断装置の異常診断方法によって異常を検知するときに用いる散布図の例を示す。
図12】本発明のスペックル信号調整装置の他の実施形態を示す概略構成図である。
図13】本発明のスペックル信号調整装置の更に他の実施形態を示す概略構成図である。
図14】従来の標準機と製品を使って校正で使用していた散布図の例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、例示に基づき本発明を説明する。
<スペックル信号調整装置>
図1に、本発明のスペックル信号調整装置の実施形態の一例を示す。スペックル信号調整装置4は、例えばレーザースペックル画像のコントラストに基づく値を測定する画像化測定装置3の校正や異常診断に使用される。
【0028】
画像化測定装置3は、例えば血流動態画像化診断装置(以下、血流動態画像化診断装置3という)である。ただし、血流動態画像化診断装置3に限るものではなく、例えば、レーザー光源とスペックルを観察できるカメラとを有するレーザー血流計であれば適用可能である。
【0029】
血流動態画像化診断装置3では、一次元または二次元に配置した受光素子を使ってスペックル信号の変調の程度を、CCDなどの受光素子を使って得られた画像からコントラストを計算し、血流値として出力している。実際には、一画素上に結像するスペックル信号の変調が低いとスペックル信号はゆったりと変化する。これを空間的に連続した画素で受光すると受光量に比例した出力が得られるので、メリハリの利いたスペックル画像になり、得られたスペックル画像のコントラストが増加する。逆に変調が高いと受光素子の積分効果によりメリハリが効いていないのっぺりとしたスペックル画像となりコントラストが低下する。コントラストの逆数が血流値なので、コントラストが高い場合、つまりスペックル信号の変調が低いほど血流値は低くなり、逆にコントラストが低い場合、つまりスペックル信号の変調が高いほど血流値は高くなる。よって校正時には、血流値であるスペックル信号の変調の程度を実際の血流の帯域に合わせてスペックル信号調整装置4内で制御することがとても重要になる。できればこの校正に使用する血流値の範囲は、測定対象となる血流の範囲の最低値以下から最大値以上の十分な範囲と分解能を備えていることが望ましい。
【0030】
本実施形態では、照射対象に向けて集光するレーザー光を出射する血流動態画像化診断装置3、例えば眼底用の血流動態画像化診断装置3の校正や異常診断に使用するスペックル信号調整装置4について説明する。
【0031】
スペックル信号調整装置4は、入射したレーザー光5を多重散乱させてスペックル信号に変調させて出射するものであって、レーザー光5を多重散乱させてスペックル信号に変調させながら反射する散乱体10と、散乱体10に入射させるレーザー光5を屈折させて散乱体10への受光角を調整する投光・受光角調整部6と、レーザー光5を減衰させる色素の濃度を調整するオプティカルインデックス調整部8と、散乱体10を所望の速度で移動させる駆動部9と、を備えている。
【0032】
また、本実施形態のスペックル信号調整装置4は、照射対象に向けて集光するレーザー光を出射する血流動態画像化診断装置3の校正や異常診断を行うものであることから、さらに、散乱体10に入射させるレーザー光を細分化させる細分化手段26を有している。細分化手段26は、例えば投光・受光角調整部6に設けられている。集光するレーザー光であるレーザー光5を細分化手段26に通すことで拡散光に変換してオプティカルインデックス調整部8に入射させることができる。
【0033】
なお、後述するように、照射対象に向けて拡散するレーザー光を出射する血流動態画像化診断装置3、例えば皮膚用の血流動態画像化診断装置3の校正や異常診断に使用するスペックル信号調整装置4の場合は、細分化手段26は省略可能である。
【0034】
図2に、スペックル信号調整装置4の作動の概念を示す。スペックル信号調整装置4は、血流動態画像化診断装置3から照射されたレーザー光5の経路上に投光・受光角調整部6、オプティカルインデックス調整部8、散乱体10を備えている。投光・受光角調整部6には細分化手段26が設けられている。
【0035】
血流動態画像化診断装置3のレーザー光照射部(図示せず)から照射されたレーザー光5は、投光・受光角調整部6に向けて集光するものであり、投光・受光角調整部6とオプティカルインデックス調整部8を透過して散乱体10に到達し、散乱体10で反射され、オプティカルインデックス調整部8と投光・受光角調整部6を透過して戻り、血流動態画像化診断装置3のカメラ部(図示せず)に入射される。
【0036】
血流動態画像化診断装置3は、レーザー光5をスペックル信号調整装置4の投光・受光角調整部6の前面6aに照射する。投光・受光角調整部6は、レーザー光5の進行方向に対してその前面6a、内部6b、または背面6cに光の進行方向を少なくとも一方向以上に細分化し、屈折させレーザー光5の進行方向を調整する構造(細分化手段26)を有している。本実施形態では、細分化手段26として粗面が設けられている。図3に、細分化手段26の概念を示す。この調整構造はレーザー光5の進行方向に対して垂直な面に二次元に配置されており、進行するレーザー光5の屈折方向を調整し、オプティカルインデックス調整部8で更に屈折されるレーザー光5の散乱体10への受光角が過大になるのを防止する。
【0037】
投光・受光角調整部6に設けられた細分化手段26としての粗面は、レーザー光5の進行方向に対して垂直面からやや斜めに光学的屈折率を変化させるように細かく分布しており、レーザー光5の投光・受光面である背面6cを様々な方向に向けて配置しているように分布している。この細分化手段26により、通過するレーザー光5を細分化することができる。
【0038】
進行するレーザー光5を光束と考えると、投光・受光角調整部6から出力されるレーザー光5は細分化手段26により、複数の方向に屈折した少なくとも一つ以上の光束から構成された細かい光束の集合に再構成される。
【0039】
また投光・受光角調整部6では、色素濃度を調整し通過中のレーザー光5を減衰させ、色素濃度を調整したレーザー光5にすることもできる。色素濃度を濃くするとレーザー光5は、レーザー光量を減衰することができる。レーザー光量を減衰することにより、後段の各部を通過するレーザー光5に対して散乱回数を調整し、スペックル信号の変調の程度を制御することができる。
【0040】
投光・受光角調整部6から出力した細かいレーザー光束の集合であるレーザー光5は、オプティカルインデックス調整部8に入る。オプティカルインデックス調整部8は、屈折したレーザー光5が広がりすぎないように、オプティカルインデックス調整部8に配置した物質によりレーザー光5の屈折角を調整する。
【0041】
またオプティカルインデックス調整部8では、色素濃度を調整し通過中のレーザー光5を減衰させる役目も持っている。オプティカルインデックス調整部8は、例えば液体によって構成されており、液体中の色素の量を増減することで色素濃度を調整することができる。色素濃度を濃くするように調整しレーザー光5を減衰させると、後段の散乱体10内での多重散乱の回数が少なくなる。回数が少なくなるという事は、散乱体10の内部までレーザー光5が深達しなくなることを意味する。レーザー光5のスペックルは散乱した光の光路差により生じる干渉模様であるが、深達の浅い多重散乱回数の少ないレーザー散乱光は、干渉性の高い散乱光となる。干渉性の高い散乱光から形成される時間的に変化するスペックルは、血流動態画像化装置内では、コントラストの高いスペックルとなり、低い血流値として数値化される。一方で、色素濃度を薄く調整した場合は、散乱体10の内部奥深くまでレーザー光5が深達し、多重散乱の回数が増加し、干渉性の低い散乱光になる。干渉性の低い散乱光から形成される時間的に変化するスペックルは、血流動態画像化装置内では色素濃度を濃く調整した場合とは対照的に、コントラストの低いスペックルとなり、高い血流値に数値化される。このように色素濃度を調整することにより、得たい血流値を制御することができる。
【0042】
オプティカルインデックス調整部8でさらに屈折方向を調整したレーザー光5はオプティカルインデックス調整部8を通過する間にランダムな斑点模様であるスペックル状の光束となり、散乱体10に到達する。
【0043】
散乱体10は、例えば円板状の固形散乱体(以下、固形散乱体10という)である。固形散乱体10は、表面または内部にレーザー光5を多重散乱させる構造(例えば、粗面)を有する。この構造は固形散乱体10表面に二次元上に配置させてもよいし、表面または内部に三次元上に分布させてもよい。なお、多重散乱させる構造としては、表面の粗面によって多重散乱させることの他、固形散乱体10内部のガラスの色素によって多重散乱させるようにしても良い。図4に固形散乱体10の表面に三次元状に分布させた多重散乱させる構造を示す。
【0044】
固形散乱体10としては、例えば、ホワイト拡散ガラス(エドモンド・オプティクス・ジャパン株式会社)の使用が可能である。
【0045】
駆動部9は、例えば固形散乱体10を移動させる電動モータ30と、固形散乱体10の移動速度を検出するセンサ31とを備えている(図1)。本実施形態では、固形散乱体10の移動は回転であり、センサ31は固形散乱体10の移動速度を検出するロータリーエンコーダである。
【0046】
駆動部9は散乱体制御部11によって制御される。散乱体制御部11は、例えばコンピュータに制御プログラムをインストールし実行させることで構成される。散乱体制御部11はセンサ31からの信号によって固形散乱体10の回転速度を認識すると共に、電動モータ30をコントロールして固形散乱体10を任意の速度で回転させることができる。
【0047】
すなわち、散乱体制御部11は、任意の速度で固形散乱体10を移動させる機構を持ち、固形散乱体10を指令により任意の速度で移動させることができる。この固形散乱体10を低速から高速まで移動させると、移動速度に呼応し固形散乱体10内部のレーザー光5内の細かい光束それぞれにおいて多重散乱の回数が増加する。移動する固形散乱体10内部または表面の構造より、多重散乱された細かい光束は移動する固形散乱体10の移動に伴い時々刻々と振動方向が変化するレーザー光5となる。意図的に速度を変更することにより固形散乱体10から放射されるレーザー光5は、固形散乱体10の移動速度に呼応した振動方向と強さを有するが、このレーザー光5の光束の変化は結果的に血流動態画像化診断装置3内の受光素子上に形成されるスペックル信号の変調に呼応する。例えば低速で固形散乱体10が移動する場合は、多重散乱の回数が少なくなり、スペックルの信号の変調は低くなる。逆に高速で移動する場合には、多重散乱の回数が多くなりスペックル信号の変調が高くなる。
【0048】
なおオプティカルインデックス調整部8で屈折角を調整すると記載したが、固形散乱体10の特徴について記載したので、この調整ポイントについて説明を加える。オプティカルインデックス調整部8で屈折角が大きすぎると固形散乱体10に到達したレーザー光5は拡散し、固形散乱体10に対して広い受光角で入射されるようになる(図5(a))。広い受光角で入射されるとレーザー光5の細かい光束は結果的に固形散乱体10内に広く散乱するようになり、光束毎に多重散乱回数が増え、よりスペックル信号の変調が高くなる。スペックル信号の変調がより高くなると、変調信号が血流動態画像化装置3の検出能力以上に飽和しやすくなり血流値が飽和するようになるため、正しい校正が困難になる。したがって、図5(b)に示すように、オプティカルインデックス調整部8の屈折角が大きく成り過ぎないようにする。血流値が飽和しないように固形散乱体10内の多重散乱の程度を調整するオプティカルインデックス調整部8での屈折角の調整の役割は非常に重要になる。
【0049】
固形散乱体10から出力されるレーザー光5は前述したように適度に調整した多重散乱によりスペックル信号に変調を起こした少なくとも一つ以上の光束の集合になる。また固形散乱体10は粗さ構造に色素濃度の変化を持たせ、レーザー光5を適切に減衰させる機能を持たせることができる。例えば、固形散乱体10を着色する色素の濃度を濃くすることでレーザー光5の減衰を大きくすることができ、逆に色素の濃度を薄くすることでレーザー光5の減衰を小さくすることができる。また、固形散乱体10を着色する色素の色を変化させることで、レーザー光5の減衰を調整しても良い。例えば、色素の色を濃い色にすることでレーザー光5の減衰を大きくすることができ、逆に色素の色を薄い色にすることでレーザー光5の減衰を小さくすることができる。これらの機能によりレーザー光5は色素濃度の異なる人種による散乱光束を模擬することができる。
【0050】
固形散乱体10から出力されたレーザー光5は、再度オプティカルインデックス調整部8を通過し、投光・受光角調整部6に入力される。
【0051】
オプティカルインデックス調整部8を通過したレーザー光5は一つ以上の細かい光束の集合である。投光・受光角調整部6は少なくとも一方向以上に屈折させレーザー光束の進行方向を調整する構造(細分化手段26)を有しているが、ここでもその構造により、レーザー光5内の一つ以上の細かい光束それぞれが分解されたり、また集約されたりする。基本的に投光・受光角調整部6内の受光角をもつ細かい構造は複数の細かい光束を集約するように作用する。一部光束が複数の細かい構造にわたる場合には、分離し、また別の細かい光束と一緒に集約される。複数の細かい光束を集約するので、それぞれの光束内に含まれるスペックル信号の変調情報は重畳され、投光・受光角調整部6の前面6aから出力されるレーザー光5は更に変調が高くなるように調整される。
【0052】
投光・受光角調整部6から出力されるレーザー光5は移動する固形散乱体10の速度情報を加えたスペックル信号の変調情報をもった複数の細かい光束の集合である。血流動態画像化診断装置3では、このレーザー光5が入射すると、血流動態画像化診断装置3内の受光素子上にスペックルとして結像する。血流動態画像化診断装置3では、一次元または二次元に分布する受光素子毎に血流値を計算し、血流マップが作成され、血流マップ上の任意の指定領域の血流値を出力できる。
【0053】
これまで、校正や異常診断には被検体として健常な生体を使っていたが、本発明は物質的に安定した固形の散乱体10を用いる特徴がある。これにより安定した移動する固形散乱体10の多重散乱の程度を、目的の血流値の測定範囲に合わせて制御することが可能になる。校正や異常診断を行うためには幅広い血流値の取得が必要になるが、固形散乱体10の移動速度を種々変更することにより、目的の血流値を得られるようになる。
【0054】
図6に示すように、本実施形態のスペックル信号調整装置4は、血流動態画像化診断装置3に取り外し可能に取り付ける取付手段42を備えており、例えば、血流動態画像化診断装置3を用いて人眼を測定する際に使用する人の顎を置く台を利用して血流動態画像化診断装置3に着脱可能に取り付けられている。
【0055】
スペックル信号調整装置4は支持具39に支持されている。また、血流動態画像化診断装置3の顎を置く台は左右から支持している柱38を有している。スペックル信号調整装置4の支持具39はねじ留め手段等の取付手段42によって着脱可能に柱38に取り付けられている。
【0056】
取付手段42によってスペックル信号調整装置4を血流動態画像化診断装置3に簡単に取り付け・取り外しできるので、現場に設置された血流動態画像化診断装置3の校正や異常診断を簡単に行うことができる。
【0057】
<スペックル信号調整装置を使用した画像化測定装置3の校正方法>
次に、スペックル信号調整装置4を使用した画像化測定装置3の校正方法について説明する。この校正方法は、レーザースペックル画像のコントラストに基づく値を測定する画像化測定装置3の校正方法であって、スペックル信号調整装置4を用いて、画像化測定装置3の標準機と校正対象機について、固形散乱体10の移動速度とレーザースペックル画像のコントラストに基づく値との関係をそれぞれ求め、求めた2つの関係の差に基づいて校正対象機を校正するものである。この方法で得られる血流値(測定値)は固形散乱体10を用いているので安定しており、繰り返し再現可能である。このため校正に使用するデータの取得は、従来の方法のように必ず標準機と調整対象機のデータを連続して測定する必要が無く、それぞれ独立に行う事ができる。また、マスターデータを一度取得しておけば、各現場の画像化診断装置3に対してそのマスターデータを使用することができ、各現場では校正対象機についての測定だけを行えば足りるので、現場での校正作業を簡単なものにすることができる。
【0058】
まず標準機での校正データの作成について説明する。図7のステップ15では、血流動態画像化診断装置3の標準機とスペックル信号調整装置4を用い、血流値の校正範囲内の血流値を得るため、散乱体制御部11が駆動部9をコントロールし、少なくとも一つ以上の速度で固形散乱体10を移動させながら速度に対応する血流値(測定値)を取得する。
【0059】
ステップ16では、スペックル信号調整装置4を用いて標準機で得た移動速度に対する幅広い範囲内の血流値をもとに校正時の基準となる移動速度と対になる血流値を記録したマスターデータを作成する。マスターデータは、ステップ15で少なくとも一回以上測定し、平均化などの統計的な手法や補間手法を用いて作成した血流値を用いて作成してもよい。
ステップ15およびステップ16は、例えば生産工場などで予め行われる。
【0060】
次に、血流動態画像化診断装置3の調整対象機での校正データの取得について説明する。血流動態画像化診断装置3の調整対象機について、調整対象機とスペックル信号調整装置4を用いて校正データを図8のステップ17で取得する。取得方法はステップ15で標準機に実施した方法と同じでもよいし、移動速度を変えて測定する回数を少なくした簡略化した方法でもよい。
【0061】
ステップ18ではステップ17で測定した少なくとも一つ以上の移動速度と対になる血流値をもとに、移動速度と対になる血流値を保存した調整対象機データを作成する。移動速度と対になる血流値の関係は多項式によるモデリングなどの手法を用いて移動速度から血流値を推定する方法を用いてもよい。
【0062】
ステップ19では、ステップ16で作成したマスターデータとステップ18で作成した調整対象機データから校正に用いる散布図を作成する。散布図の作成にあたっては調整対象機で測定した血流値に対応する移動速度を基にマスターデータ内の移動速度に対応する血流値を抽出し、このマスターデータの血流値と調整対象機で測定した血流値からなる少なくとも一つ以上の対になるデータを使ってプロットする。
【0063】
ステップ20では、ステップ19で作成した散布図をもとに標準機に対する調整対象機の血流値特性をもとに補正を行う。補正方法は、回帰直線の式を基に調整対象機の血流値を補正するための校正常数を求める方法や、調整対象機の血流値に対して標準機と同一の値をとる対応テーブルなどを作成してもよい。
【0064】
校正方法の一例として図9に調整対象機を校正する前の回帰直線21と回帰直線の式22を例示し説明する。例えば、この回帰直線21とその式22が、固形散乱体10の移動速度とレーザースペックル画像のコントラストに基づく値との関係である。図9の散布図は、調整対象機の血流値を測定したときの移動速度を参照し、この移動速度を基にマスターデータから当該の標準機の血流値xを抽出し、縦軸に校正対象機の血流値yをプロットしている。補正前の調整対象機の回帰直線の傾きをSlope_preとし、切片をIntercept_preとすると、図9の例の場合、Slopr_pre=0.8とIntercept_pre=1.54となる。調整対象機の血流値を標準機の血流値に一致させるためには、回帰直線の傾きを1に、また切片を0になるような、調整対象機の血流値に適用する変換式を作成すればよい。
【0065】
調整対象機の補正前の血流値をxとし、補正後の血流値y_postとすると変換式は数1のように記載できる。
【数1】
【0066】
調整対象機に補正のためのパラメータとしてSlope_preおよびIntercept_preを入力することで、調整対象機は測定した血流値xをy_postに補正して血流値として出力する。
【0067】
図9の例をもとに、数式1の変換式を用いて補正した調整対象機の血流値(y_post)とマスターデータから抽出した標準機の血流値xを基に散布図を作成した例を図10に示す。回帰直線式24は補正後の回帰直線23の数式である。回帰直線式24の標準機の血流値xに対する傾きが1になっており、また切片も0であることから、調整対象機の補正後の血流値は標準機の血流値と一致していることがわかる。またこの校正方法により、調整対象機の血流値を標準機の血流値と一致させることが可能となった。
なお、ステップ17~ステップ20は、例えば調整対象機が設置されている現場で行われる。
【0068】
以上、スペックル信号調整装置4を用いた校正方法の一例を説明した。基本的にマスターデータと調整対象機データの移動速度に対する血流値の対比が行えれば、標準機と調整対象機の対になる血流値の散布図を作成することができ、いつでもどこでも血流動態画像化診断装置3の校正が可能になる。これにより、校正時に従来まで必要だった標準機が必要ではなくなり、マスターデータさえあれば標準機なしに校正を行う事ができるようになる。
【0069】
合わせて再現性の良いスペックル信号調整装置4を実現したことにより、測定した血流値が不確かさ以上の血流値の逸脱があった場合には、測定した血流動態画像化診断装置3の故障が疑われ、血流動態画像化診断装置3の異常を検知することも可能となった。
【0070】
色素濃度が異なる校正を行う場合には、目的の人種に合致した色素濃度に調整した投光・受光角調整部6、またはオプティカルインデックス調整部8、または固形散乱体10のデータを血流動態画像化診断装置3で測定をし、色素濃度を変更する前のマスターデータと比較することにより血流値の補正を行う事ができる。
【実施例1】
【0071】
本発明による効果的な実施例を提示するため、血流動態画像化診断装置3のスペックル信号調整装置4を構成した一例を図1に示す。図1はスペックル信号調整装置4を横から概観した模式図である。
【0072】
レーザー光5は血流動態画像化診断装置3から照射される。投光・受光角調整部6は、レーザー光5を通過させるため、材料が1.3~1.8の屈折率を有する透過性のある物質から構成されるのが望ましい。例えば光学ガラスや加工が容易な光学プラスチックを用いてもよい。レーザー光5を適切に透過し、または色素によりレーザー光5を減衰する性質を有している材料ならば候補となりうる。投光・受光角調整部6はレーザー光5の進行を阻害しない形状であればよい。ここでは投光・受光角調整部6の材料は入手しやすいガラスを一例に、形状が円柱状のガラスロッドを用いている。
【0073】
投光・受光角調整部6には細分化手段26としての粗面が設けられている。本実施例では、細分化手段26を投光・受光角調整部6の背面6cに設けている。ただし、背面6cに代えて、あるいは、背面6cに加えて、前面6aに細分化手段26としての粗面を設けても良い。背面6cや前面6aに粗面を設ける手段としては、研磨剤等の研磨手段を用いて研磨することが考えられる。あるいは、投光・受光角調整部6の内部6bに細分化手段26を設けても良い。すなわち、投光・受光角調整部6内に屈折率の異なる物質を三次元的にバリエーションを持たせ積層させることで、細分化手段26を構築してもよい。屈折率の異なる物質を使って三次元的にバリエーションを持たせる方法としては、いったん投光・受光角調整部6となるガラスロッドの背面に細かい構造(粗面)を作成し、その上にガラスとは屈折率の異なる物質(例えば、エポキシ樹脂等の接着剤等)を介してガラスロッドを積層させ、更にこの積層した面に細かい構造(粗面)やフラットな層を持たせ屈折率にバリエーションを持たせることもできる。積層する層は一つとは限らず、複数あってもよい。
【0074】
オプティカルインデックス調整部8は、浴槽28に貯められた液体である。オプティカルインデックス調整部8の材料としては、屈折率の調整が容易な液体が適している。例えば屈折率1.33の液体である水を満たす。すなわち、投光・受光角調整部6の材料としてガラスを使用する場合は、オプティカルインデックス調整部8の材料として屈折率が1.3程度の水などの散乱粒子が無い液体が適するが、この組合せに限るものではない。
【0075】
浴槽28はオプティカルインデックス調整部8に液体を用いる事から、液体を安定に貯留するための構造を有している浴槽である。この例の場合、投光・受光角調整部6としてのガラスロッドが浴槽28から液体が漏れないように栓をしている配置になっている。
【0076】
固形散乱体10はガラス拡散板である。固形散乱体10はその表面10aを研磨剤で研磨し、研磨した表面10aの粗い構造とガラス拡散板内の細かいガラス構造により移動する固形散乱体10として多重散乱を進める機能を果たしている。ここでは一例としてガラス拡散板を示したが、内部に細かい気泡などを有するオパールグラスなどを用いてもよい。
【0077】
固形散乱体10はモータ30によりモータ軸32を回転駆動し回転する配置になっており、オプティカルインデックス調整部8としての液体中を回転移動する。モータ30は外部から電圧を与えて、モータ軸32に回転運動を与える。
【0078】
ロータリーエンコーダ等のセンサ31はモータ軸32の回転を検知し、固形散乱体10の一秒あたりの回転数を検出する。検出した回転数をもとに固形散乱体10の移動速度を計算し、校正時の固形散乱体10の移動速度として利用する。
【0079】
スペックル信号調整装置4は、血流動態画像化診断装置3の校正時又は異常診断時には血流動態画像化診断装置3の前に設置するが、小型な部品で構成できるので、装置全体も小さくでき場所も取らないため可搬性に優れる。本発明のスペックル信号調整装置4は、これまで出荷時にしか行えなかった校正や異常診断が病院などの現場でも実施可能であり、課題を解決できる。
【実施例2】
【0080】
<スペックル信号調整装置を使用した画像化測定装置3の異常診断方法>
本発明による効果的な実施例として、血流動態画像化診断装置3が正常に動作しているか、血流値の健全性を確認する手段(異常診断方法)について説明をする。
【0081】
血流動態画像化診断装置3は、出力できる血流の範囲内で正しく血流値を出力できているか確認する手段がこれまでなかった。被験者の血流を測定し血流値を得ても、血流動態画像化診断装置3が出力できる血流値の範囲内の最大値付近の数値というわけでもないので、確実に血流動態画像化診断装置3の血流値の範囲内において、いつもと変わらない安定した速度に対応した血流値が得られていることを確認する必要があった。本発明のスペックル信号調整装置4を用いれば、血流動態画像化診断装置3の出力できる血流値の範囲内において、定常的に速度に対応した血流値が得られているか測定値を担保することができる。
【0082】
スペックル信号調整装置4を使用した画像化診断装置3の異常診断方法は、画像化測定装置3の標準機と診断対象機について、固形散乱体10の移動速度とレーザースペックル画像のコントラストに基づく値(例えば、血流値)との関係をそれぞれ求め、求めた2つの関係の差が所定値を超えた場合に異常と判定するものである。
【0083】
すなわち、異常診断方法は、まず検証する血流動態画像化診断装置3とスペックル信号調整装置4を用いて、診断対象機を校正する場合と同じように固形散乱体10の速度を変えながら血流値を測定する。
【0084】
次に測定した血流値yを基に診断対象機の校正時と同じように散布図(固形散乱体10の移動速度とレーザースペックル画像のコントラストに基づく値(血流値y)との関係)を描き、あらかじめ決めた正常範囲内に測定した血流値が収まっているか確認する。
【0085】
測定した血流値に異常発生を仮定した散布図の例を図11に示す。図11の散布図には診断対象機の不確かさを加味した速度に対応する正常な血流値の下限値の境界線33と、同様に上限値の境界線34がプロットされている。診断対象機の血流値が正常な範囲は上限値の境界線34と下限値の境界線33の間の領域である。これらの境界線は、正常範囲の一例であって必ずしも直線にならなくてもよい。
【0086】
なお、上限・下限値の決め方は、以下の通りである。すなわち、正常と考えられる血流動態画像化診断装置を用いて固形散乱体10の移動速度と血流値(測定値)のペアのデータ(固形散乱体10の移動速度とレーザースペックル画像のコントラストに基づく値(血流値)との関係)を得る。得られた速度と血流値のペアのデータは、標準機でも同様にしてマスターデータとして得られており、速度が同じでもある程度の揺らぎをもって血流値が存在している。これら速度と血流値の揺らぎから、標準機の血流値に対する正常な血流動態画像化診断装置3の予測区間が統計的手法により求められる。この正常な血流動態画像化診断装置の予測区間の上限の境界を上限値とし、下限の境界を下限値とすることができる。
【0087】
測定点はマスターデータから抽出した標準機の血流値に対応するように図11内に黒点でプロットしている。プロットした測定点の中に領域35の丸で囲んだ測定点は、下限値の境界線33よりも下方にプロットされており、正常範囲から逸脱していることがわかる。
領域35で囲んだ測定点の正常範囲からの逸脱は、診断対象機の故障が疑われ、メンテナンスを必要とする。
【0088】
図11の例のように、ある血流値の範囲内だけ正常範囲から逸脱することが考えられるので、このようにスペックル信号調整装置4を使って広範囲に血流値の正常性を検討できる意義は製造者のみならず利用者にとっても大きい。
【0089】
以上、本開示にて幾つかの実施の形態のみを単に一例として詳細に説明したが、本発明の新規な教示及び有利な効果から実質的に逸脱せずに、その実施の形態には多くの改変例が可能である。
【0090】
例えば、上述の説明のスペックル信号調整装置4は、照射対象に向けて集光するレーザー光を出射する血流動態画像化診断装置3の校正や異常診断を行うものであり、細分化手段26を有していたが、必ずしもこれに限られない。例えば、照射対象に向けて拡散するレーザー光を出射する血流動態画像化診断装置(例えば、皮膚用の血流動態画像化診断装置)3の校正や異常診断に使用するスペックル信号調整装置4の場合には、細分化手段26は省略可能である。
【0091】
その構成を図12に示す。このスペックル信号調整装置4は投光・受光角調整部6が省略されており、拡散するレーザー光5は固形散乱体10に向けて照射される。固形散乱体10の下部はオプティカルインデックス調整部8である液体(例えば、水)に漬けられている。固形散乱体10は駆動部9によって回転されるので、図12中仮想線で示すように固形散乱体10の表面には液体の膜12が形成される。この液体の膜12がオプティカルインデックス調整部8として機能する。したがって、血流動態画像化診断装置3から照射されたレーザー光5はオプティカルインデックス調整部8によって屈折角を調整されて固形散乱体10への受光角を調整されると共に、膜12を作る液体中に含まれる色素によって減衰されて固形散乱体10に入射する。
【0092】
このスペックル信号調整装置4も、図1のスペックル信号調整装置4と同様、血流動態画像化診断装置3から照射されたレーザー光5を多重散乱させてスペックル信号に変調させて出力することができる。
【0093】
また、上述の説明(図6)では、取付手段42によってスペックル信号調整装置4を柱38に取り付けていたが、取付場所は柱38に限るものではない。例えば、図13に示すように、スペックル信号調整装置4を血流動態画像化診断装置3の鏡筒40に直接取り付けるようにしても良い。例えば、スペックル信号調整装置4の支持具39に取付手段42を固定し、この取付手段42を鏡筒40に嵌め込むことで、スペックル信号調整装置4を取り外し可能に取り付けるようにしても良い。取付手段42は板状の部材であり、鏡筒40を嵌め込む孔が設けられている。取付手段42の孔に鏡筒40を嵌め込むだけでスペックル信号調整装置4を取り付けることができるので、血流動態画像化診断装置3が設置されている現場において簡単にスペックル信号調整装置4を取り付けたり取り外したりすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明のスペックル信号調整装置は、対象にレーザー光を照射し、反射されたスペックル信号を画像化する画像化測定装置3、例えば血流動態画像化診断装置等の校正及び異常診断に利用できる。
【符号の説明】
【0095】
3 血流動態画像化診断装置(画像化測定装置)
4 スペックル信号調整装置
5 レーザー光
6 投光・受光角調整部
8 オプティカルインデックス調整部
9 駆動部
10 固形散乱体
11 散乱体制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14