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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-20
(45)【発行日】2023-04-28
(54)【発明の名称】治療化合物および方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 235/78 20060101AFI20230421BHJP
   C07D 209/16 20060101ALI20230421BHJP
   A61K 31/198 20060101ALI20230421BHJP
   A61K 31/195 20060101ALI20230421BHJP
   A61K 31/223 20060101ALI20230421BHJP
   A61K 31/165 20060101ALI20230421BHJP
   A61K 31/4045 20060101ALI20230421BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230421BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20230421BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20230421BHJP
   A61K 8/35 20060101ALI20230421BHJP
   A61Q 19/08 20060101ALI20230421BHJP
【FI】
C07C235/78 CSP
C07D209/16
A61K31/198
A61K31/195
A61K31/223
A61K31/165
A61K31/4045
A61P43/00 107
A61P25/00
A61P1/04
A61K8/35
A61Q19/08
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2019556904
(86)(22)【出願日】2018-04-20
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-06-18
(86)【国際出願番号】 AU2018050360
(87)【国際公開番号】W WO2018191789
(87)【国際公開日】2018-10-25
【審査請求日】2021-04-20
(31)【優先権主張番号】2017901457
(32)【優先日】2017-04-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(73)【特許権者】
【識別番号】519048894
【氏名又は名称】ユニヴァーシティー オブ タスマニア
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(72)【発明者】
【氏名】ヌーリ、ギュベン
(72)【発明者】
【氏名】ジェイソン、スミス
(72)【発明者】
【氏名】クリステル、リー、ウーリー
(72)【発明者】
【氏名】モニラ、ナディクディ
【審査官】武貞 亜弓
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-098042(JP,A)
【文献】特表2016-520621(JP,A)
【文献】特表2013-541502(JP,A)
【文献】国際公開第2014/074976(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
C07D
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(Ib)の化合物
【化1】
式(Ib)

またはその薬学上許容可能な塩
[式中、
は、Hおよびメチルから選択され、
は、場合により置換されていてもよいC-C12アリールであり、
Rは、Hまたは場合により置換されていてもよいC-Cアルキルであり;
13は、各存在において、H、場合により置換されていてもよいフェニル、および場合により置換されていてもよいベンジルから独立に選択され、
nは、1、2、3、4および5から選択される整数であり、かつ、
mは、0、1、2,および3から選択される整数であり、
ここで、任意選択の置換基は同じまたは異なっていてもよく、かつ、ハロゲン、C1-6アルキル、C1-6アルコキシ、C2-6アルケニル、C2-6アルキニル、C1-6ハロアルキル、C1-6ハロアルコキシ、-OH、フェニル、ベンジル、フェノキシ、ベンジルオキシ、ベンゾイル、-NH、-NHC1-4アルキル、-N(C1-4アルキル)、-CN、-NO、メルカプト、-P=O(OH)(NH)、-S(O)NH、-S(O)NHC1-4アルキル、-S(O)N(C1-4アルキル)、C1-6アルキルカルボニル、C1-6アルコキシカルボニル、COH、-S(O)R"'(ここで、R"'は、 1-6 アルキル基またはシクロアルキルである)および-S(O)R"'(ここで、R"'は、 1-6 アルキル基、シクロアルキルまたはOHである)から選択される]。
【請求項2】
が場合により置換されていてもよいCアリールである、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
はジメトキシフェニル、好ましくは3,4-ジメトキシフェニルである、請求項1または2に記載の化合物。
【請求項4】
がHである、請求項1に記載の化合物。
【請求項5】
がメチルである、請求項1に記載の化合物。
【請求項6】
【表1】




からなる群から選択される、化合物。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の化合物を含んでなる、医薬組成物。
【請求項8】
付加的活性剤をさらに含んでなる、請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記付加的活性剤が抗糖尿病薬である、請求項8に記載の医薬組成物。
【請求項10】
ミトコンドリア機能障害に関連する疾患または障害を治療または予防するための、請求項7~9のいずれか一項に記載の医薬組成物であって、前記ミトコンドリア機能障害に関連する疾患または障害が、レーベル遺伝性視神経症(LHON)、優性視神経症(DOA)、リー症候群、フリードライヒ運動失調、ミトコンドリア筋疾患、脳筋症、乳酸アシドーシス、脳卒中様症状(MELAS)、赤色ぼろ線維を伴うミオクロヌス性てんかん(MERRF)、筋神経原胃腸脳症(MNGIE)、カーンズ・セイアー症候群、CoQ.10欠乏症、ミトコンドリア複合体欠損症、神経障害、運動失調、色素性網膜炎、および眼瞼下垂(NARP)、脊髄小脳失調症、毛細血管拡張性運動失調症、眼球運動失行を伴う運動失調症1および2(AOA1および2)、てんかん発作、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、運動ニューロン病(MND)、パーキンソン病、アルツハイマー病、ハンチントン病、脳卒中/再潅流傷害、または認知症、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)、ベッカー型筋ジストロフィー(BMD)、肢体型筋ジストロフィー(LGMD)、X連鎖拡張型心筋症(XLDCM)、パントテン酸キナーゼ関連神経変性症(PKAN)、脊髄性筋萎縮症(SMA)、多発性硬化症、一次性進行型多発性硬化症(PP-MS)、クーゲルベルグ・ウェランダー病、ウケルドニッヒ・ホフマン病、糖尿病および難聴(DAD)、ウェルフラム症候群、非アルコール性肝疾患、老化関連の肉体の衰え、肥満、過体重、糖尿病、II型糖尿病、糖尿病性網膜症、代謝症候群、統合失調症、大鬱病性障害、双極性障害、癲癇、心的外傷後ストレス障害(PTSD)、日内周期障害、潰瘍性大腸炎(UC)、クローン病(CD)、関節炎、乾癬または関節リウマチ、片頭痛、ドライアイ症候群、ブドウ膜炎、アレルギー性結膜炎、術後炎症および急性腎臓傷害からなる群から選択される、医薬組成物。
【請求項11】
薬剤性または環境誘発性のミトコンドリア機能障害を治療または予防するための、請求項7~9のいずれか一項に記載の医薬組成物であって、前記ミトコンドリア機能障害が、抗ウイルス薬;抗癌薬;抗生剤;CNS薬;高血圧症薬;アントラサイクリン;非ステロイド系抗炎症薬(NSAID);麻酔薬;β遮断薬;抗不整脈;抗糖尿病薬;抗炎症薬;または別の薬剤の使用により引き起こされる薬剤性ミトコンドリア機能障害である、医薬組成物。
【請求項12】
老化の影響の改善のための、請求項1~6のいずれか一項に記載の化合物を含んでなる、化粧用組成物。
【請求項13】
薬剤性または環境誘発性のミトコンドリア機能障害の治療または予防のための、請求項1~6のいずれか一項に記載の化合物を含んでなる医薬組成物であって、前記ミトコンドリア機能障害が、抗ウイルス薬;抗癌薬;抗生剤;CNS薬;高血圧症薬;アントラサイクリン;非ステロイド系抗炎症薬(NSAID);麻酔薬;β遮断薬;抗不整脈薬;抗糖尿病薬;抗炎症薬;または別の薬剤の使用により引き起こされる薬剤性ミトコンドリア機能障害である、医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、ミトコンドリア活性の変調に有用な化合物に関する。本発明はまた、ミトコンドリア機能障害に関連する疾患および障害の治療におけるこれらの化合物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
本明細書において著者が参照した刊行物の書誌事項は、本明細書の末尾にアルファベット順にまとめてある。
【0003】
いずれの事前掲載(もしくはそれから派生する情報)、または既知の事項の参照も、事前掲載(もしくはそれから派生する情報)または既知事項が、本明細書が関連する努力傾注分野における共通の一般知識の一部をなすことの承認または容認または提案として見なされず、また、見なされるべきではない。
【0004】
ミトコンドリアは、様々な細胞代謝機能を行う細胞小器官である。ミトコンドリアの主要な機能は、酸化的リン酸化を介してアデノシン三リン酸(ATP)の形でエネルギーを生産することである。ATPは細胞中でエネルギー「通過」またはエネルギー担体として働き、真核細胞はそれらのATPの大部分をミトコンドリアにより行われる生物化学的プロセスから誘導する。ミトコンドリアはまた、シグナル伝達、細胞分化、および細胞死の調節にも主要な役割を果たす。ミトコンドリアにより行われる生物化学的プロセスには、酸化型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+)から還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NADH + H+)を生成するクエン酸回路(クレブス回路とも呼称される)と酸化的リン酸化(その間にNADH + H+が酸化されてNAD+に戻る)が含まれる。ミトコンドリアがある範囲の両方の疾患および障害に関連しているという認識がますます高まっている。
【0005】
ミトコンドリア機能障害、すなわち、典型的なミトコンドリア機能低下または障害は、遺伝因子または環境因子またはそれらの組合せから生じ得る。ミトコンドリア機能障害は、様々な病状に関与すると考えられ、いくつかの遺伝性障害の特徴である。新生児最大100名に1名が生涯ミトコンドリア病の影響を受けると推測される。加えて、ミトコンドリア機能障害は、限定されるものではないが、神経変性疾患、糖尿病、癌、失明、難聴、心疾患、肝疾患、腎疾患、消化管障害、脳卒中(stoke)、発作、アルツハイマー病、パーキンソン病、自閉症、双極性、統合失調症、鬱病、喘息、慢性疲労、赤色ぼろ線維を伴うミオクロヌス性てんかん(MERRF);ミトコンドリア筋疾患、脳症、乳酸アシドーシス(lactacidosis);レーベル遺伝性視神経症(LHON);優性視神経萎縮症(DOA);リー症候群;カーンズ・セイアー症候群(KSS);フリードライヒ運動失調(FRDA);心筋症;脳筋症;腎尿細管性アシドーシス;筋萎縮性側索硬化症(ALS);ハンチントン病、および発達性広汎性障害を含む多くの一般的疾患および健康状態の基礎にある病態生理学の一部をなす可能性があると考えられる。
【0006】
ミトコンドリア機能を回復または増進することができる治療法の特定には、広範な応用の可能性がある。これまでに、上記適応症に対する治療アプローチは、一般に、基礎にあるミトコンドリア機能障害に取り組むというよりも症状の緩和および/または二次的病態もしくは関連病態の治療に向けられていた。ベンゾキノン、イデベノンが、2015年に欧州医薬品庁により、若年者のミトコンドリア機能障害誘発性視力低下の一形態(レーベル遺伝性視神経症、LHON)の治療に承認された。しかしながら、イデベノンは、バイオアベイラビリティが極めて低く、投与時に肝臓で過度の初回通過代謝を受ける。
【0007】
ミトコンドリア機能障害に関連する疾患および障害の治療のための改善された特異的な治療法の必要がある。
【発明の概要】
【0008】
本発明は、式(I)の化合物およびそれらの医薬組成物を提供する。ある実施形態では、式(I)の化合物は、ミトコンドリア活性の変調に有用である。別の実施形態では、式(I)の化合物は、ミトコンドリア機能の増進に有用である。さらに別の実施形態では、式(I)の化合物は、ミトコンドリア機能の回復に有用である。さらに別の実施形態では、式(I)の化合物は、ミトコンドリア機能障害からの保護に有用である。
【0009】
本明細書において実現された式(I)の化合物およびそれらの医薬組成物は、ミトコンドリア機能障害に関連する疾患および障害の予防および/または治療に有用であると考えられる。
【0010】
1以上の側面において、式(I)の化合物:
【化1】
またはその薬学上許容可能な塩が提供され、式中、
、R、RおよびRは各々独立に、H、場合により置換されていてもよいC-Cアルキル、場合により置換されていてもよいC-Cアルケニル、場合により置換されていてもよいC-Cアルキニル、場合により置換されていてもよいC-Cアルコキシ、ハロゲン、場合により置換されていてもよいC-Cアルキルハロ;場合により置換されていてもよいC-Cチオアルキル、-SR、-NRR’、場合により置換されていてもよいC-Cシクロアルキル、場合により置換されていてもよいC-C12ヘテロシクリル、場合により置換されていてもよいC-C12アリール、および場合により置換されていてもよいC-C12ヘテロアリールから選択され、
は、H、場合により置換されていてもよいC-Cアルキル、場合により置換されていてもよいC-Cアルケニル、場合により置換されていてもよいC-Cアルキニル、場合により置換されていてもよいC-Cアルコキシ、ハロゲン、場合により置換されていてもよいC-Cアルキルハロ;場合により置換されていてもよいC-Cチオアルキル、-SR、-NRR’、場合により置換されていてもよいC-Cシクロアルキル、場合により置換されていてもよいC-C12ヘテロシクリル、場合により置換されていてもよいC-C12アリール、および場合により置換されていてもよいC-C12ヘテロアリールから選択され、
Lは、結合、場合により置換されていてもよいC-C20アルキレン、場合により置換されていてもよいC-C20アルケニレン、場合により置換されていてもよいC-C20アルキニレンから選択される二価リンカーであり;
Yは、存在しないか、または場合により置換されていてもよいC-Cシクロアルキレン、場合により置換されていてもよいC-C12ヘテロシクリル、場合により置換されていてもよいC-C12アリーレン、場合により置換されていてもよいC-C12ヘテロアリーレン、-C(O)-NR-、-C(O)-NR-(CH-、-C(O)-O-、-C(O)-OR-、-C(O)-O-(CH-、-C(O)-、-C(CX)-NR-、-CRR’X-NR-、-NR-C(O)-NR’-、-O-C(O)O-、-C=N-O-、-SO-NR-、-(CH-NR-、-(CH-S-(CH-、-(CH-O-(CH-から選択される二価リンカーであり、ここで、yおよびzはそれぞれ、0、1、2、3および4から独立に選択される整数であり;
は、H、-COOR、-OR、-NRR’、-SR、場合により置換されていてもよいC-C20アルキル、場合により置換されていてもよいC-C20アルケニル、場合により置換されていてもよいC-C20アルキニル;場合により置換されていてもよいC-Cシクロアルキル、場合により置換されていてもよいC-C12アリール、場合により置換されていてもよいC-C12ヘテロアリールまたは場合により置換されていてもよいC-C12ヘテロシクリル、場合により置換されていてもよいC-Cアルカノールアミノ、場合により置換されていてもよいアミノ酸、場合により置換されていてもよいジペプチド、場合により置換されていてもよいトリペプチド、および場合により置換されていてもよいポリペプチドから選択され、
またはYおよびRは一緒になって
-C(O)-[NR-C(R)(R)-C(O)]-OR10
-C(O)-[NR-C(R)(R)-C(R11)(R12)]-OR10
-[NR-C(R)(R)-C(O)]-OR10;および
-[NR-C(R)(R)-C(R11)(R12)]-OR10
から選択される基を形成し、
ここで、R、R、R10、R11およびR12は、各存在において、Hまたは場合により置換されていてもよいC-C-アルキルであり;Rは、各存在において、Hおよびアミノ酸側鎖またはその誘導体から独立に選択され;かつ、wは、0~20の整数であり、
RおよびR’は、独立に、H、場合により置換されていてもよいC-Cアルキル、場合により置換されていてもよいC-Cシクロアルキル、場合により置換されていてもよいC-C12ヘテロシクリル、場合により置換されていてもよいC-C12アリール、および場合により置換されていてもよいC-C12ヘテロアリールであり、かつ、
Xは、ハロゲンである。
【0011】
さらなる側面では、式(Ia)の化合物:
【化2】
またはその薬学上許容可能な塩が提供され、ここで、
は、Hおよび場合により置換されていてもよいC-Cアルキルから選択され、
Lは、場合により置換されていてもよいC-C20アルキレンであり、
Yは、場合により置換されていてもよい-C(O)-NR-、-C(O)-NR-(CH-、-C(O)-O-、-C(O)-、-(CH-S-(CH-、-(CH-O-(CH-から選択される二価リンカーであり、ここで、yおよびzはそれぞれ、0、1、2、3および4から独立に選択される整数であり;
は、H、-COOR;場合により置換されていてもよいC-C12アリール、場合により置換されていてもよいC-C12ヘテロアリール、場合により置換されていてもよいC-Cアルカノールアミノ、場合により置換されていてもよいアミノ酸から選択され、
またはYおよびRは一緒になって、
-C(O)-[NR-C(R)(R)-C(O)]-OR10
-C(O)-[NR-C(R)(R)-C(R11)(R12)]-OR10
から選択される基を形成し、
ここで、R、R、R10、R11およびR12は、各存在において、Hまたは場合により置換されていてもよいC-C-アルキルであり;Rは、各存在において、Hおよびアミノ酸側鎖またはその誘導体から独立に選択され;かつ、wは、0~20の整数であり;
RおよびR’は、独立に、H、場合により置換されていてもよいC-Cアルキルである。
【0012】
別の側面では、式(Ib)の化合物:
【化3】
またはその薬学上許容可能な塩が提供され、式中、
は、Hおよびメチルから選択され、
は、H、-COOR、-OH、場合により置換されていてもよいC-C12アリール、場合により置換されていてもよいC-C12ヘテロアリールから選択され、
Rは、Hまたは場合により置換されていてもよいC-Cアルキルであり;
13は、各存在において、H、場合により置換されていてもよいフェニル、および場合により置換されていてもよいベンジルから独立に選択され、
nは、1、2、3、4および5から選択される整数であり、かつ、
mは、0、1、2、および3から選択される整数である。
【0013】
本明細書ではまた、式(I)、式(Ia)および式(Ib)の化合物の製造のための方法も教示される。これらの方法は有利には、式(I)、式(Ia)および式(Ib)の化合物を比較的少ない化学工程で、かつ/または高純度での迅速な構築を提供する。
【0014】
さらに本明細書では、本明細書で定義されるような式(I)の化合物またはその薬学上許容可能な塩の投与を含んでなる、哺乳動物対象の治療方法も企図される。上記に示したように、本明細書において実現された式(I)の化合物およびそれらの医薬組成物は、ミトコンドリア機能障害に関連する疾患および障害の予防および/または治療に有用であると考えられる。
【0015】
ある実施形態では、ミトコンドリア機能障害に関連する疾患および障害は、限定されるものではないが、レーベル遺伝性視神経症(LHON)、優性視神経症(DOA)、リー症候群、フリードライヒ運動失調、ミトコンドリア筋疾患、脳筋症、乳酸アシドーシス、脳卒中様症状(MELAS)、赤色ぼろ線維を伴うミオクロヌス性てんかん(MERRF)、筋神経胃腸脳症(MNGIE)、カーンズ・セイアー症候群、CoQ.10欠乏症、またはミトコンドリア複合体欠損症、神経障害、運動失調、色素性網膜炎、および眼瞼下垂(NARP)を含む、原発性ミトコンドリア疾患である。
【0016】
ある実施形態では、ミトコンドリア機能障害に関連する疾患および障害は、限定されるものではないが、脊髄小脳失調症、毛細血管拡張性運動失調症、眼球運動失行を伴う運動失調症1および2(AOA1および2)、てんかん発作、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、運動ニューロン病(MND)、パーキンソン病、アルツハイマー病、ハンチントン病、脳卒中/再潅流傷害、または認知症、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)、ベッカー型筋ジストロフィー(BMD)、肢体型筋ジストロフィー(LGMD)、X連鎖拡張型心筋症(XLDCM)、パントテン酸キナーゼ関連神経変性症(PKAN)、脊髄性筋萎縮症(SMA)、多発性硬化症および一次性進行型多発性硬化症(PP-MS)、クーゲルベルグ・ウェランダー病、およびウケルドニッヒ・ホフマン病、糖尿病および難聴(DAD)を含む、ミトコンドリア機能障害に関連する神経変性疾患または神経筋疾患である。
【0017】
ある実施形態では、ミトコンドリア機能障害に関連する疾患および障害は、限定されるものではないが、ウェルフラム症候群、非アルコール性肝疾患(すなわち、NAFLD、NASH、硬変)、老化関連の肉体の衰え、肥満、過体重、糖尿病、II型糖尿病、糖尿病性網膜症、および代謝症候群を含む、ミトコンドリア機能障害に関連する代謝障害である。
【0018】
ある実施形態では、ミトコンドリア機能障害に関連する疾患および障害は、限定されるものではないが、統合失調症、大鬱病性障害、双極性障害、癲癇、心的外傷後ストレス障害(PTSD)、および日内周期障害を含む、ミトコンドリア機能障害に関連する精神障害である。
【0019】
ある実施形態では、ミトコンドリア機能障害に関連する疾患および障害は、限定されるものではないが、潰瘍性大腸炎(UC)、クローン病(CD)、関節炎、乾癬または関節リウマチ、片頭痛、ドライアイ症候群、ブドウ膜炎、アレルギー性結膜炎、術後炎症および急性腎臓傷害を含む、ミトコンドリア機能障害に関連する炎症性障害である。本発明はさらに、体重増加の影響を軽減するための手段としても役割を有する。従って、対象とするミトコンドリア機能障害に対して治療的側面と美容的側面の両方がある。
【0020】
ある実施形態では、疾患および障害は、薬剤性または環境誘発性ミトコンドリア機能障害により引き起こされる。例えば、ミトコンドリア活性または機能に悪影響を有する因子としては、抗ウイルス薬;抗癌薬;抗生剤;CNS薬;高血圧症薬;アントラサイクリン;非ステロイド系抗炎症薬(NSAID);麻酔薬;β遮断薬;抗不整脈薬;抗糖尿病薬;抗炎症薬;または別の薬剤から起こる薬剤性または環境誘発性ミトコンドリア機能障害が含まれる。
【0021】
ミトコンドリア活性または機能に悪影響を有する抗ウイルス薬の例としては、アバカビル、ジダノシン、エムトリシタビン、エンテカビル、エムトリシタビン、ラミブジン、ネビラピン、テルビブジン、テノホビル、チプラナビル、スタブジン、ザルシタビン、およびジドブジンが挙げられる。ミトコンドリア活性または機能に悪影響を有する抗癌薬の例としては、三酸化ヒ素、セツキシマブ、ダカルバジン、デニロイキン、ディフティトックス、フルタミド、ゲムツズマブ、メトトレキサート、ミトキサントロン、ペントスタチン、およびタモキシフェンが挙げられる。ミトコンドリア活性または機能に悪影響を有する抗生剤の例としては、アンチマイシンA、イソニアジド、クロラムフェニコール、エタンブトール、ゲンタマイシン、ケトコナゾール、リネゾリド、ストレプトゾシン、ストレプトマイシン、トブラマイシン、テトラサイクリン、およびトロバフロキサシンが挙げられる。ミトコンドリア活性または機能に悪影響を有するCNS薬の例としては、アミトリプチリン、アンフェタミン、アトモキセチン、クロルプロマジン、コカイン、ダントロレン、デシプラミン、ジバルプロエクス、ドロペリドール、フェルバメート、フルフェナジン、イミプラミン、メタンフェタミン、ナルトレキソン、ネファゾドン、ペルゴリド、およびバルプロ酸が挙げられる。ミトコンドリア活性または機能に悪影響を有する高血圧症薬の例としては、ボセンタンが挙げられる。ミトコンドリア活性または機能に悪影響を有するアントラサイクリンの例としては、ダウノルビシン、ドキソルビシン、エピルビシン、およびイダルビシンが挙げられる。ミトコンドリア活性または機能に悪影響を有する非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)の例としては、アスピリン、セレコキシブ、ジクロフェナク、ジフルニサル、エトドラク、フェノプロフェン、イブプロフェン、インドメタシン、ケトプロフェン、メフェナム酸、メロキシカム、ナプロキセン、ナブメトン、オキサプロジン、ピロキシカム、サルサレート、スリンダック、チオリダジン、およびトルメチンが挙げられる。ミトコンドリア活性または機能に悪影響を有する麻酔薬の例としては、ブピバカインおよびイソフルランが挙げられる。ミトコンドリア活性または機能に悪影響を有するβ遮断薬の例としては、アテノロールが挙げられる。ミトコンドリア活性または機能に悪影響を有する抗不整脈薬の例としては、アミオダロン、ジソピラミド、ドフェチリド、およびイブチリドが挙げられる。ミトコンドリア活性または機能に悪影響を有する抗糖尿病薬の例としては、ピオグリタゾンおよびロシグリタゾンが挙げられる。ミトコンドリア活性または機能に悪影響を有する抗炎症薬の例としては、プレドニゾロン、デキサメタゾン、ヒドロコルチゾン、およびトリアムシロン(triamcilone)が挙げられる。ミトコンドリア活性または機能に悪影響を有するその他の薬剤の例としては、クリオキノール、シアン化物、ヘキサクロロフェン、ロテノン、およびスタチンが挙げられる。
【0022】
ある実施形態では、哺乳動物は、ヒトである。
【0023】
本明細書ではさらに、本明細書で定義されるような式(I)の化合物と1以上の薬学上許容可能な担体、希釈剤および/または賦形剤とを含んでなる医薬組成物が教示される。また、本明細書で定義されるような式(I)の化合物と1以上の美容上許容可能な担体、希釈剤および/または賦形剤とを含んでなる化粧用組成物も実現可能である。
【0024】
本明細書ではさらに、療法を必要とする哺乳動物対象の治療のための薬剤の製造における本明細書で定義されるような式(I)の化合物またはその薬学上許容可能な塩の使用が教示される。関連の実施形態では、本明細書において、療法を必要とする哺乳動物対象の治療において使用するための、本明細書で定義されるような式(I)の化合物またはその薬学上許容可能な塩が実現される。別の実施形態では、本明細書において、老化の影響を改善するために哺乳動物の美容的処置において使用するための本明細書で定義されるような式(I)の化合物またはその薬学上許容可能な塩が実現される。ある実施形態では、哺乳動物はヒトである。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1図1:in vitroにおける10μMのロテノン毒性に対する式(I)の化合物(10μM)の細胞保護効果。式(I)の代表例UTA23、UTA37、UTA62、UTA74、UTA77;対照物質は、ナフトキノン部分がベンゾキノンまたはプラストキノンに置換された誘導体であった。
図2図2:in vitroにおけるロテノン毒性に対する式(I)の化合物(10μM)の細胞保護効果。23種の化合物(白丸)は、イデベノンに比べて有意に改善された細胞保護活性を示した(点線、生存率約65%)。ロテノンのみに曝した細胞では、生存率は100%(黒い点線、生存率100%)から30%(点線、生存率<30%)を下回るまで低下した。
図3図3:in vitroにおけるロテノン毒性に対する式(I)の化合物(10μM)による処理後のATPレベルの比較。7種の化合物(白丸)は、ロテノンの存在下で、イデベノンに比べて細胞ATPレベルを有意に増加させた(点線、生存率約80%)。ロテノンのみに曝した細胞では、生存率は、100%(黒い点線、生存率100%)から30%(点線、生存率<30%)を下回るまで低下した。化合物は総て10μMで試験した。
図4図4:肝細胞においてイデベノンと比較した代表的な式(I)の化合物(10μM)in vitro毒性。代表的な化合物に対して14日の期間にわたり、HepG2細胞においてコロニー形成アッセイを用いて評価した長期毒性。代表的な化合物は、イデベノンに対して同等のin vitro毒性を示した。
図5図5:レーベル遺伝性視神経症(LHON)マウスモデルにおける代表的な式(I)の化合物の有効性。C57BL/6マウスモデル(Refer to Heitz, F. D et al. (2012). PLoS One., 7(9), e45182)において左眼にロテノン注射(5μM)により誘導したLHON。代表的な化合物による処置は、イデベノン対照に比べてin vivoにおける視力保護の増大をもたらした。代表的な化合物(UTA37およびUTA77)およびイデベノンは、観察期間にわたって200mg/kgで投与した。代表的な化合物UTA37およびUTA77では視力の統計的に有意な保護が見られたが、この濃度のイデベノン(図5にRと表示)では見られなかった。
図6図6:代表的な式(I)の化合物のよる処置後の糖尿病性網膜症ラットモデルにおける血糖応答。Long Evansラットに、血糖値が経時的に急速に上昇した4週間目に、ストレプトゾトシン(STZ)(125mg/kg)浸透圧ポンプを移植した。14週目に、代表的な式(I)の化合物(UTA37 4.6mg/ml;UTA77 7.36mg/ml)、イデベノン(表示#1;10mg/ml)またはビヒクル対照を含む点眼剤を1日1回投与した。非処置眼はn=23眼/群(1~14週)、#01処置眼はn=10眼/群(14~18週およびn=7眼/群 18~20週)、UTA37およびUTA77はそれぞれn=4眼/群および7眼/群(14~20週)、ビヒクル処置はn=2眼/群。
図7図7:代表的な式(I)の化合物による処置後の糖尿病性網膜症ラットモデルの視力。視力は、19週間の期間にわたり、Long Evansラットの左眼および右眼の両方に対して視覚運動性応答を用いて測定した。ストレプトゾトシン(STZ)投与(4週目)は、9週目までに反射性頭部運動に有意な障害を与えた。14週目に、代表的な式(I)の化合物(UTA37 4.6mg/ml;UTA77 7.36mg/ml)、イデベノン(#1;10mg/ml)またはビヒクル対照を含む点眼剤を1日1回投与した。非処置眼はn=23眼/群(1~14週)、イデベノン(#1)処置眼はn=10眼/群(14~18週およびn=7眼/群 18~19週)、UTA37およびUTA77はそれぞれn=4眼/群および7眼/群(14~19週)。なお、ビヒクル対処はn=2眼/群。エラーバー=SEM
図8図8~11:代表的な式(I)の化合物(UTA77)による処置後の潰瘍性大腸炎マウスモデル;図8:体重減;図9:便の堅さ;図10:血便;図11:疾患活動指数。大腸炎は、マウスにおいて2.5%デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)の7日間投与により化学的に誘導した。UTA77に食餌粉末(200mg/kg体重)を配合し、7日間、1日1回経口投与した。
図9図8~11:代表的な式(I)の化合物(UTA77)による処置後の潰瘍性大腸炎マウスモデル;図8:体重減;図9:便の堅さ;図10:血便;図11:疾患活動指数。大腸炎は、マウスにおいて2.5%デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)の7日間投与により化学的に誘導した。UTA77に食餌粉末(200mg/kg体重)を配合し、7日間、1日1回経口投与した。
図10図8~11:代表的な式(I)の化合物(UTA77)による処置後の潰瘍性大腸炎マウスモデル;図8:体重減;図9:便の堅さ;図10:血便;図11:疾患活動指数。大腸炎は、マウスにおいて2.5%デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)の7日間投与により化学的に誘導した。UTA77に食餌粉末(200mg/kg体重)を配合し、7日間、1日1回経口投与した。
図11図8~11:代表的な式(I)の化合物(UTA77)による処置後の潰瘍性大腸炎マウスモデル;図8:体重減;図9:便の堅さ;図10:血便;図11:疾患活動指数。大腸炎は、マウスにおいて2.5%デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)の7日間投与により化学的に誘導した。UTA77に食餌粉末(200mg/kg体重)を配合し、7日間、1日1回経口投与した。
【発明の具体的説明】
【0026】
本明細書を通じ、文脈がそうではないことを必要としない限り、「含んでなる(comprise)」という用語、または「含んでなる(comprises)」もしくは「含んでなる(comprising)」などの変形形態は、記載された要素もしくは整数もしくは方法工程または要素もしくは整数もしくは方法工程の群の包含を意味するが、他の任意の要素もしくは整数もしくは方法工程または要素もしくは整数もしくは方法工程の群の排除を意味するものではないと理解される。
【0027】
本明細書で使用する場合、単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」および「その(the)」は、文脈が明らかにそうではないことを示さない限り、複数の側面を含む。よって、例えば、「1つの生物学的調節薬」という場合には、単数の生物学的調節薬、ならびに2つ以上の生物学的調節薬を含み;「1つの薬剤」という場合には、単数の薬剤、ならびに2以上の薬剤を含み;「その開示」という場合には、その開示により教示される単数および複数の側面を含むなどである。本明細書で教示および実現された側面は、「発明」という用語に包含される。このような側面は総て、本発明の範囲内で実現される。本明細書で企図されるいずれの変形および派生物も本発明の「形態」に包含される。
【0028】
本発明は、一般に、ミトコンドリア活性を変調する式(I)、式(Ia)および式(Ib)の化合物に関する。ある実施形態では、式(I)の化合物は、ミトコンドリア機能の増進に有用である。別の実施形態では、式(I)、式(Ia)および式(Ib)の化合物は、ミトコンドリア機能障害の回復に有用である。
【0029】
さらに、本発明は、比較的少ない化学工程で、かつ/または高純度で式(I)、式(Ia)および式(Ib)の化合物を製造するための方法に関する。
【0030】
本明細書で使用する場合、「ミトコンドリア」は、様々な細胞代謝機能の行う細胞小器官を意味する。ミトコンドリアの主要な機能は、酸化的リン酸化を介してアデノシン三リン酸(ATP)の形でエネルギーを生産することである。ミトコンドリアはまた、アポトーシスまたはプログラム細胞死のプロセスにも重要な役割を果たす。加えて、ミトコンドリアは、細胞内で適切なカルシウムイオンレベルを維持する助けをする。肝細胞などのある特定の細胞種では、ミトコンドリアは、アンモニア解毒に寄与する。他の場面では、ミトコンドリアは、血液成分ならびにテストステロンおよびエストロゲンなどのホルモンの生産に寄与する。
【0031】
本明細書で使用する場合、「ミトコンドリア機能障害」という用語は、健常な細胞、組織および器官における典型的なミトコンドリア機能の低下または障害を意味する。ミトコンドリア機能障害は、広範囲の疾患および障害に関連付けられている。いくつかの場合では、ミトコンドリア機能障害および関連の障害は、ミトコンドリアDNAまたはミトコンドリア成分をコードする核遺伝子の獲得型または遺伝性の突然変異によって引き起こされることもある。他の場合では、ミトコンドリア機能障害は、薬物使用または感染などの有害な環境因子によることもある。本明細書で使用する場合、用語「ミトコンドリア疾患」および「ミトコンドリア障害」および関連の用語は互換的に使用可能で、特に断りのない限り、獲得型または遺伝性のミトコンドリア機能障害に関連する障害ならびに有害な環境因子によるミトコンドリア機能障害に関連する疾患または障害を包含すると理解される。
【0032】
本明細書で「変調する」または「変調」という場合には、相互作用の阻害および/または促進に及び、それらを包含する変調は、限定されるものではないが、正常化および増進を含む。
【0033】
本明細書でバイオマーカーの「正常化」またはバイオマーカーを「正常化する」という場合には、バイオマーカーのレベルを病的な値から通常値へ向かって変化させることを意味し、ここで、エネルギーバイオマーカーの通常値は、i)健常者または健常対象のバイオマーカーのレベル、またはii)ヒトまたは対象において1以上の望ましくない症状を緩和するエネルギーバイオマーカーのレベルであり得る。すなわち、病状において抑えられているバイオマーカーを正常化することは、そのバイオマーカーのレベルを通常(健常)値に向かってまたは望ましくない症状を緩和する値に向かって増大させることを意味し;病状において上昇しているエネルギーバイオマーカーを正常化することは、エネルギーバイオマーカーのレベルを通常(健常)値に向かってまたは望ましくない症状を緩和する値に向かって低減することを意味する。
【0034】
本明細書でバイオマーカーの「増大」またはバイオマーカーを「増大させる」という場合には、有益なまたは所望の効果を得るために、1以上のバイオマーカーのレベルを通常値または増大前の値から変化させることを意味する。例えば、多大なエネルギー要求が対象に存在する場合には、その対象のATPレベルをその対象の通常のATPレベルを超えるレベルに上昇させることが望ましいことがある。ミトコンドリア疾患などの疾患または病理を被っている対象においては、バイオマーカーの正常化がその対象に最適な転帰を達成しないことがあるという点で、増大が有益な効果となることがあり、このような場合、1以上のバイオマーカーの増大が有益となる可能性があり、例えば、通常より高いレベルのATP、または通常より低いレベルの乳酸(乳酸塩)がこのような対象に有益となり得る。
【0035】
用語「アミノ酸」は本明細書ではその最も広い意味で使用され、アミノ基およびカルボン酸基を有する化合物を意味し得る。本発明のペプチドに組み込まれるアミノ酸は、D型もしくはL型のタンパク原性もしくは天然アミノ酸であり得、またはD型もしくはL型の非タンパク原性または非天然アミノ酸であり得る。本明細書に言及される場合、この用語は、合成アミノ酸およびそれらの類似体(塩、異性体、互変異性体、エステルおよびN-メチル化アミノ酸を含む)に及ぶ。
【0036】
用語「アミノ酸側鎖は、本明細書で使用する場合、例えば以下にR基として示されるα炭素と結合している基を意味する。
【化4】
【0037】
天然のタンパク原性アミノ酸を表1に、それらの三文字コードおよび一文字コードで示す。L-アミノ酸は大文字または最初だけ大文字を用いて示され、D-アミノ酸は小文字を用いて示される。
【0038】
【表1】
【0039】
非天然または非タンパク原性アミノ酸の例としては、限定されるものではないが、オルニチン、ノルロイシン、4-アミノ酪酸、4-アミノ-3-ヒドロキシ-5-フェニルペンタン酸、6-アミノヘキサン酸、t-ブチルグリシン、ノルバリン、フェニルグリシン、サルコシン、4-アミノ-3-ヒドロキシ-6-メチルヘプタン酸および2-チエニルアラニンの使用が挙げられる。本明細書で企図される好適な非タンパク原性または非天然アミノ酸の例を表2に示す。
【0040】
【表2】
【0041】
用語「ジペプチド」および「トリペプチド」は、本明細書で使用する場合、それぞれ2個および3個のアミノ酸残基またはそれらの誘導体を含んでなるペプチドを意味する。
【0042】
用語「ポリペプチド」および「ペプチド」は、本明細書では、アミノ酸残基のポリマーを意味して互換的に使用される。これらの用語は、1以上のアミノ酸残基が対応する天然アミノ酸の人為的化学類似体であるアミノ酸ポリマー、ならびに天然のアミノ酸ポリマーに当てはまる。
【0043】
用語「アルキル」は、本明細書において単独でまたは組み合わせて使用される場合、直鎖または分岐鎖飽和炭化水素基を意味する。用語「C1-12アルキル」は、1から12個の炭素原子を含有するこのような基を意味し、「低級アルキル」は、1~6個の炭素原子を含有するC1-6アルキル基、例えば、メチル(「Me」)、エチル(「Et」)、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチルなどを意味する。
【0044】
用語「シクロアルキル」は、非芳香族、飽和非芳香族炭素環を意味する。例えば、用語「C4-9シクロアルキル」は、4~9個の炭素原子を有するこのような基を意味する。例としては、シクロブチル、シクロペンチルおよびシクロヘキシルが挙げられる。
【0045】
用語「アルケニル」は、1以上の二重結合を含有する直鎖または分岐型の炭化水素を意味する。例えば、用語「C2-12アルケニル」は、2~12個の炭素原子を含有するこのような基を意味する。アルケニルの例としては、アリル、プレニル、ゲラニル、1-メチルビニル、ブテニル、イソ-ブテニル、1,3-ブタジエニル、3-メチル-2-ブテニル、1,3-ブタジエニル、1,4-ペンタジエニル、1-ペンテニル、1-ヘキセニル、3-ヘキセニル、1,3-ヘキサジエニル、1,4-ヘキサジエニル、および1,3,5-ヘキサトリエニルが挙げられる。
【0046】
用語「シクロアルケニル」は、単環式環または複数の縮合環と少なくとも1つ内部不飽和点を有し、好ましくは、4~11個の炭素原子が組み込まれた環式アルケニル基を意味する。好適なシクロアルケニル基の例としては、例えば、シクロブタ-2-エニル、シクロペンタ-3-エニル、シクロヘキサ-4-エニル、シクロオクタ-3-エニル、インデニルなどが挙げられる。
【0047】
用語「アルキニル」は、1以上の三重結合、好ましくは、1または2個の三重結合を含有する直鎖または分岐型の炭化水素を意味する。例えば、用語「C2-12アルキニル」、2~12個の炭素原子を含有するこのような基を意味する。例としては、2-プロピニルおよび2-または3-ブチニルが挙げられる。
【0048】
用語「アルコキシ」は、単独でまたは組み合わせて使用される場合、酸素結合(-O-)を介して共有結合された直鎖または分岐鎖アルキル基を意味し、用語「C1-6アルコキシ」および「低級アルコキシ」は、1~6個の炭素原子を含有するこのような基、例えば、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、ブトキシ、t-ブトキシなどを意味する。
【0049】
用語「アルカノールアミノ」および「アミノアルコール」は、アミノ基(-NH、-NHR、および-NR)およびアルコールまたはヒドロキシル基(-OH)を有する化合物を指して最も広い意味で互換的に使用される。好ましい実施形態では、式(I)、式(Ia)および式(Ib)の化合物または以上に述べた実施形態は、1以上のβ-アミノアルコールを含んでなり得る。本発明においてβ-アミノアルコールは、天然および/または非必須アミノ酸から誘導され得、従って、例えば以下にR基として示される「アミノ酸側鎖」を含んでなり得る。
【化5】
【0050】
用語「アリール」は、炭素環式(非複素環式)芳香環または環系を意味する。芳香環は、一環式または二環式環系であり得る。芳香環または環系は一般に、5~10個の炭素原子から構成される。好適なアリール基の例としては、限定されるものではないが、フェニル、ビフェニル、ナフチル、テトラヒドロナフチルなどが挙げられる。
【0051】
アリール基には、フェニル、ナフチル、インデニル、アズレニル、フルオレニルまたはアントラセニルが含まれる。
【0052】
用語「ヘテロアリール」は、好ましくは、環内に2~10個の炭素原子と酸素、窒素および硫黄から選択される1~4個のヘテロ原子を有する一価の芳香族炭素環式基を意味する。好ましくは、ヘテロ原子は窒素である。このようなヘテロアリール基は、単環(例えば、ピリジル、ピロリルもしくはフリル)または複数の縮合環(例えば、インドリジニル、ベンゾチエニル、もしくはベンゾフラニル)を有し得る。
【0053】
用語「ヘテロシクリル」は、単環または複数の縮合環、好ましくは、環内に1~8個の炭素原子と窒素、硫黄、酸素、セレンまたはリンから選択される1~4個のヘテロ原子を有する一価の飽和または不飽和基を意味する。
【0054】
5員単環式ヘテロシクリルおよびヘテロアリール基の例としては、フリル、チエニル、ピロリル、H-ピロリル、ピロリニル、ピロリジニル、オキサゾリル、オキサジアゾリル(1,2,3および1,2,4-オキサジアゾリルを含む)、チアゾリル、イソキサゾリル、フラザニル、イソチアゾリル、ピラゾリル、ピラゾリニル、ピラゾリジニル、イミダゾリル、イミダゾリニル、トリアゾリル(1,2,3-および1,3,4-トリアゾリルを含む)、テトラゾリル、チアジアゾリル(1,2,3-および1,3,4-チアジアゾリルを含む)が挙げられる。
【0055】
6員単環式ヘテロシクリルおよびヘテロアリール基の例としては、ピリジル、ピリミジニル、ピリダジニル、ピラニル、ピラジニル、ピペリジニル、1,4-ジオキサニル、モルホリニル、1,4-ジチアニル、チオモルホリニル、ピペラジニル、1,3,5-トリチアニルおよびトリアジニルが挙げられる。
【0056】
8、9および10員二環式ヘテロシクリルおよびヘテロアリール基の例としては、1Hチエノ[2,3-c]ピラゾリル、チエノ[2,3-b]フリル、インドリル、イソインドリル、ベンゾフラニル、ベンゾチエニル、ベンゾキサゾリル、ベンゾチアゾリル、ベンズイソキサゾリル、ベンズイソチアゾリル、ベンズイミダゾリル、インダゾリル、イソキノリニル、キノリニル、キノキサリニル、ウリジニル、プリニル、シンノリニル、フタラジニル、キナゾリニル、キノキサリニル、ベンゾトリアジニル、ナフチリジニル、プテリジニルなどが挙げられる。
【0057】
用語「ハロ」および「ハロゲン」は、フルオロ、クロロ、ブロモおよびヨード基を意味する。
【0058】
用語「ハロアルキル」基は、アルキル基上の1以上の水素原子がハロゲンで置換されている。注目に値する例は、-CFまたは-CFHである。
【0059】
用語「アリールオキシ」は、酸素結合(-O-)を介して親構造に連結されている、上記のようなアリール基を意味する。注目に値する例は、フェノキシである。同様に、用語「ヘテロアリールオキシ」は、酸素基を介して親構造に連結されている、上記のようなヘテロアリール基を意味する。注目に値する例は、4、6または7-ベンゾ[b]フラニルオキシ基である。
【0060】
用語「アシル」は、H-C(O)-、アルキル-C(O)-、シクロアルキル-C(O)-、アリール-C(O)-、ヘテロアリール-C(O)-およびヘテロシクリル-C(O)-基を意味し、ここで、アルキル、シクロアルキル、アリール、ヘテロアリールおよびヘテロシクリルは本明細書に記載されている。
【0061】
用語「オキシアシル」は、HOC(O)-,アルキル-OC(O)-、シクロアルキル-OC(O)-、アリール-OC(O)-、ヘテロアリール-OC(O)-、およびヘテロシクリル-OC(O)-基を意味し、ここで、アルキル、シクロアルキル、アリール、ヘテロアリールおよびヘテロシクリルは本明細書に記載されている通りである。
【0062】
用語「アシルアミノ」は、-NR”C(O)R”基を意味し、ここで、各R”は、独立に水素、アルキル、シクロアルキル、アリール、ヘテロアリールおよびヘテロシクリルであり、ここで、アルキル、シクロアルキル、アリール、ヘテロアリールおよびヘテロシクリルのそれぞれは本明細書に記載されている通りである。
【0063】
用語「アルキレン」は、好ましくは、1~20個の炭素原子を有し、より好ましくは、1~6個の炭素原子を有する直鎖または分岐型の二価アルキル基を意味する。このようなアルキレン基の例としては、メチレン(-CH-)、エチレン(-CHCH-)、およびプロピレン異性体(例えば、-CHCHCH-および-CH(CH)CH-)などが挙げられる。
【0064】
用語「アルケニレン」は、1以上の二重結合を含有し、好ましくは、2~20個の炭素原子を有する直鎖または分岐型の二価アルケニル基を意味する。このようなアルケニレン基の例としては、エテニレン(-CH=CH-)、プロペニレン、プレネニレン、ゲラネニレンおよびそれらの異性体が挙げられる。
【0065】
用語「スルファモイル」は、-S(O)NR”R”基を意味し、ここで、各R”は、独立に水素、アルキル、シクロアルキル、アリール、ヘテロアリールおよびヘテロシクリルであり、ここで、アルキル、シクロアルキル、アリール、ヘテロアリールおよびヘテロシクリルのそれぞれは本明細書に記載されている通りである。
【0066】
用語「場合により置換されていてもよい」は、ある基が1以上の置換基を含み得ることを意味する。その基上の1以上の水素原子が、ハロゲン(例えば、-CFまたは-CFHなどのハロアルキル)、C1-6アルキル、C2-6アルケニル、C2-6アルキニル、-(CH3-7シクロアルキル、-(CH4-7シクロアルケニル、-(CHアリール、-(CHヘテロシクリル、-(CHヘテロアリール、-CS(O)1-6アルキル、-C(Ph)、-CN、-OR、-O-(CH1-6-R、-O-(CH1-6-OR、-OC(O)R、-C(O)R、-C(O)OR、-OC(O)NR’R”、-NR’R”、-NO、-NRC(O)R’、-NRC(O)NR’R”、-NRC(S)NR’R”、-NRS(O)R’、-NRC(O)OR’、-C(NR)NR’R”、-C(=NOR’)R、-C(=NOH)NR’R”、-C(O)NR’R”、-C(=NCN)-NR’R”、-C(=NR)NR’R”、-C(=NR’)SR”、-NR’C(=NCN)SR”、-CONRSOR’、-C(S)NR’R”、-S(O)R、-SONR’R”、-SONRC(O)R’、-OS(O)R、-PO(OR)および-NOから独立に選択される置換基で置換されていてもよく;
ここで、vは0~6であり、qは0~2であり、かつ、各R、R’およびR”は、H、C1-6アルキル、C2-6アルケニル、C2-6アルキニル、C3-7シクロアルキル、C4-7シクロアルケニル、アリール、ヘテロシクリル、ヘテロアリール、C1-6アルキルアリール、C1-6アルキルヘテロアリール、およびC1-6アルキルヘテロシクリルから独立に選択され、ここで、アルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、シクロアルケニル、アリール、ヘテロシクリル、ヘテロアリール、C1-6アルキルアリール、C1-6アルキルヘテロアリール、またはC1-6アルキルヘテロシクリルは、ハロゲン、ヒドロキシ、低級アルキル、低級アルコキシ、-COH、CF、CN、フェニル、NHおよび-NOから選択される同じまたは異なる1~6個の基で場合により置換されていてもよく;または、R’およびR”が同じ窒素原子と結合している場合には、それらはそれらが結合されている原子と一緒になって、複素環式環を含有する5~7員窒素を形成する。
【0067】
ある実施形態では、任意選択の置換基は、ハロゲン(特に、Cl、BrまたはF)、C1-6アルキル、C1-6アルコキシ、C2-6アルケニル、C2-6アルキニル、C1-6ハロアルキル(特に、-CF)、C1-6ハロアルコキシ(例えば、-OCF)、-OH、フェニル、ベンジル、フェノキシ、ベンジルオキシ、ベンゾイル、シリル、-NH、-NHC1-4アルキル、-N(C1-4アルキル)、-CN、-NO、メルカプト、-P=O(OH)(NH)、-S(O)NH、-S(O)NHC1-4アルキル、-S(O)N(C1-4アルキル)、C1-6アルキルカルボニル、C1-6アルコキシカルボニル、COH、-S(O)R”’(ここで、R”’は、低級アルキルまたはシクロアルキルである)および-S(O)R”’(ここで、R”’は、低級アルキル、シクロアルキルまたはOHである)から選択され得る。
【0068】
そうではないことが定義されない限り、非芳香族炭素環式または複素環式化合物の環原子に関してのみ、このような化合物の環原子は、上記の任意選択の置換基の代わりにまたはそれに加えて、1または2個の=O基でも場合により置換されていてよい。
【0069】
任意選択の置換基がアルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、アリール、ヘテロアリールもしくはヘテロシクリル基であるかまたはそれらを含有する場合、その基はそれ自体、ハロゲン、C1-6アルキル、C1-6アルコキシ、C2-6アルケニル、C2-6アルキニル、C1-6ハロアルキル(特に、-CF)、C1-6ハロアルコキシ(例えば、-OCF)、-OH、フェニル、ベンジル、フェノキシ、ベンジルオキシ、ベンゾイル、-NH、-NHC1-4アルキル、-N(C1-4アルキル)、-CN、-NO、メルカプト、-P=O(OH)(NH)、-S(O)NH、-S(O)NHC1-4アルキル、-S(O)N(C1-4アルキル)、C1-6アルキルカルボニル、C1-6アルコキシカルボニル、COH、-S(O)R”’(ここで、R”’は、低級アルキルまたはシクロアルキルである)および-S(O)R”’(ここで、R”’は、低級アルキル、シクロアルキルまたはOHである)から選択される同じまたは異なる1~6個の置換基で場合により置換されてもよい。
【0070】
上記のように、一つの側面において、式(I)の化合物:
【化6】
またはその薬学上許容可能な塩が提供され、式中、
、R、RおよびRは、各々独立に、H、場合により置換されていてもよいC-Cアルキル、場合により置換されていてもよいC-Cアルケニル、場合により置換されていてもよいC-Cアルキニル、場合により置換されていてもよいC-Cアルコキシ、ハロゲン、場合により置換されていてもよいC-Cアルキルハロ;場合により置換されていてもよいC-Cチオアルキル、-SR、-NRR’、場合により置換されていてもよいC-Cシクロアルキル、場合により置換されていてもよいC-C12ヘテロシクリル、場合により置換されていてもよいC-C12アリール、および場合により置換されていてもよいC-C12ヘテロアリールから選択され、
は、H、場合により置換されていてもよいC-Cアルキル、場合により置換されていてもよいC-Cアルケニル、場合により置換されていてもよいC-Cアルキニル、場合により置換されていてもよいC-Cアルコキシ、ハロゲン、場合により置換されていてもよいC-Cアルキルハロ;場合により置換されていてもよいC-Cチオアルキル、-SR、-NRR’、場合により置換されていてもよいC-Cシクロアルキル、場合により置換されていてもよいC-C12ヘテロシクリル、場合により置換されていてもよいC-C12アリール、および場合により置換されていてもよいC-C12ヘテロアリールから選択され、
Lは、結合、場合により置換されていてもよいC-C20アルキレン、場合により置換されていてもよいC-C20アルケニレン、場合により置換されていてもよいC-C20アルキニレンから選択される二価リンカーであり;
Yは、存在しないか、または場合により置換されていてもよいC-Cシクロアルキレン、場合により置換されていてもよいC-C12ヘテロシクリル、場合により置換されていてもよいC-C12アリーレン、場合により置換されていてもよいC-C12ヘテロアリーレン、-C(O)-NR-、-C(O)-NR-(CH-、-C(O)-O-、-C(O)-OR-、-C(O)-O-(CH-、-C(O)-、-C(CX)-NR-、-CRR’X-NR-、-NR-C(O)-NR’-、-O-C(O)O-、-C=N-O-、-SO-NR-、-(CH-NR-、-(CH-S-(CH-、-(CH-O-(CH-から選択される二価リンカーであり、ここで、yおよびzはそれぞれ、0、1、2、3および4から独立に選択される整数であり;
は、H、-COOR、-OR、-NRR’、-SR、場合により置換されていてもよいC-C20アルキル、場合により置換されていてもよいC-C20アルケニル、場合により置換されていてもよいC-C20アルキニル;場合により置換されていてもよいC-Cシクロアルキル、場合により置換されていてもよいC-C12アリール、場合により置換されていてもよいC-C12ヘテロアリールまたは場合により置換されていてもよいC-C12ヘテロシクリル、場合により置換されていてもよいC-Cアルカノールアミノ、場合により置換されていてもよいアミノ酸、場合により置換されていてもよいジペプチド、場合により置換されていてもよいトリペプチド、および場合により置換されていてもよいポリペプチドから選択され、
またはYおよびRは一緒になって、
-C(O)-[NR-C(R)(R)-C(O)]-OR10
-C(O)-[NR-C(R)(R)-C(R11)(R12)]-OR10
-[NR-C(R)(R)-C(O)]-OR10;および
-[NR-C(R)(R)-C(R11)(R12)]-OR10
から選択される基を形成し、
ここで、R、R、R10、R11およびR12は、各存在において、Hまたは場合により置換されていてもよいC-C-アルキルであり;Rは、各存在において、Hおよびアミノ酸側鎖またはその誘導体から独立に選択され;かつ、wは、0~20の整数であり;
RおよびR’は、独立に、H、場合により置換されていてもよいC-Cアルキル、場合により置換されていてもよいC-Cシクロアルキル、場合により置換されていてもよいC-C12ヘテロシクリル、場合により置換されていてもよいC-C12アリール、および場合により置換されていてもよいC-C12ヘテロアリールであり、かつ、
Xは、ハロゲンである。
【0071】
別の側面において、式(Ia)の化合物:
【化7】
またはその薬学上許容可能な塩が提供され、式中、
は、Hおよび場合により置換されていてもよいC-Cアルキルから選択され、
Lは、場合により置換されていてもよいC-C20アルキレンであり、
Yは、場合により置換されていてもよい-C(O)-NR-、-C(O)-NR-(CH-、-C(O)-O-、-C(O)-、-(CH-S-(CH-、-(CH-O-(CH-から選択される二価リンカーであり、ここで、yおよびzはそれぞれ、0、1、2、3および4から独立に選択される整数であり;
は、H、-COOR;場合により置換されていてもよいC-C12アリール、場合により置換されていてもよいC-C12ヘテロアリール、場合により置換されていてもよいC-Cアルカノールアミノ、場合により置換されていてもよいアミノ酸から選択され、
またはYおよびRは一緒になって、
-C(O)-[NR-C(R)(R)-C(O)]-OR10
-C(O)-[NR-C(R)(R)-C(R11)(R12)]-OR10
から選択される基を形成し、
ここで、R、R、R10、R11およびR12は、各存在において、Hまたは場合により置換されていてもよいC-C-アルキルであり;Rは、各存在において、Hおよびアミノ酸側鎖またはその誘導体から独立に選択され;かつ、wは、0~20の整数であり;
RおよびR’は、独立に、H、場合により置換されていてもよいC-Cアルキルである。
【0072】
別の側面において、式(Ib)の化合物:
【化8】
またはその薬学上許容可能な塩が提供され、式中、
は、Hおよびメチルから選択され、
は、H、-COOR、-OH、場合により置換されていてもよいC-C12アリール、場合により置換されていてもよいC-C12ヘテロアリールから選択され、
Rは、Hまたは場合により置換されていてもよいC-Cアルキルであり;
13は、各存在において、H、場合により置換されていてもよいフェニル、および場合により置換されていてもよいベンジルから独立に選択され、
nは、1、2、3、4および5から選択される整数であり、かつ、
mは、0、1、2、および3から選択される整数である。
【0073】
ある実施形態では、Lは、任意の好適な二価リンカー基である。一つの実施形態では、Lは結合である。他の実施形態では、Lは、場合により置換されていてもよいC-C20アルキレン、場合により置換されていてもよいC-C20アルケニレン、場合により置換されていてもよいC-C20アルキニレンから選択される二価リンカー基である。好ましい一つの実施形態では、LはCアルキレンである。別の好ましい実施形態では、LはCアルキレンである。別の好ましい実施形態では、LはCアルキレンである。別の好ましい実施形態では、LはCアルキレンである。別の好ましい実施形態では、LはC10アルキレンである。
【0074】
ある実施形態では、Yは存在しないか、または任意の好適な二価リンカー基である。一つの実施形態では、Yは存在しない。別の実施形態では、Yは、場合により置換されていてもよいC-Cシクロアルキレン、場合により置換されていてもよいC-C12ヘテロシクリル、場合により置換されていてもよいC-C12アリーレン、場合により置換されていてもよいC-C12ヘテロアリーレン、-C(O)-NR-、-C(O)-NR-(CH-、-C(O)-O-、-C(O)-OR-、-C(O)-O-(CH-、-C(O)-、-C(CX)-NR-、-CRR’X-NR-、-NR-C(O)-NR’-、-O-C(O)O-、-C=N-O-、-SO-NR-、-(CH-NR-、-(CH-S-(CH-、-(CH-O-(CH-から選択される二価リンカー基であり、ここで、yおよびzはそれぞれ、0、1、2、3および4から独立に選択される整数であり;RおよびR’は、独立に、H、場合により置換されていてもよいC-Cアルキル、場合により置換されていてもよいC-Cシクロアルキル、場合により置換されていてもよいC-C12ヘテロシクリル、場合により置換されていてもよいC-C12アリール、および場合により置換されていてもよいC-C12ヘテロアリールであり、かつ、Xはハロゲンである。別の好ましい実施形態では、Yは-C(O)-NH-である。別の好ましい実施形態では、Yは-C(O)-である。さらなる好ましい実施形態では、Yは-S-である。さらなる好ましい実施形態では、Yは-S-(CH-である。別の好ましい実施形態では、Yは-O-である。別の好ましい実施形態では、Yは-C(O)-NR-(CH-である。別の好ましい実施形態では、Yは-C(O)-NH-(CH-である。
【0075】
ある実施形態では、R 、RおよびRは、H、場合により置換されていてもよいC-Cアルキル、場合により置換されていてもよいC-Cアルケニル、場合により置換されていてもよいC-Cアルキニル、場合により置換されていてもよいC-Cアルコキシ、ハロゲン、場合により置換されていてもよいC-Cアルキルハロ;場合により置換されていてもよいC-Cチオアルキル、-SR、-NRR’、場合により置換されていてもよいC-Cシクロアルキル、場合により置換されていてもよいC-C12ヘテロシクリル、場合により置換されていてもよいC-C12アリール、および場合により置換されていてもよいC-C12ヘテロアリールから独立に選択され;ここで、RおよびR’は、独立に、H、場合により置換されていてもよいC-Cアルキル、場合により置換されていてもよいC-Cシクロアルキル、場合により置換されていてもよいC-C12ヘテロシクリル、場合により置換されていてもよいC-C12アリール、および場合により置換されていてもよいC-C12ヘテロアリールである。好ましい実施形態では、R、R、RおよびRのうち1以上はHである。別の好ましい実施形態では、RはHである。別の好ましい実施形態では、RはHである。別の好ましい実施形態では、RはHである。別の好ましい実施形態では、RはHである。
【0076】
ある実施形態では、Rは、H、場合により置換されていてもよいC-Cアルキル、場合により置換されていてもよいC-Cアルケニル、場合により置換されていてもよいC-Cアルキニル、場合により置換されていてもよいC-Cアルコキシ、ハロゲン、場合により置換されていてもよいC-Cアルキルハロ;場合により置換されていてもよいC-Cチオアルキル、-SR、-NRR’、場合により置換されていてもよいC-Cシクロアルキル、場合により置換されていてもよいC-C12ヘテロシクリル、場合により置換されていてもよいC-C12アリール、および場合により置換されていてもよいC-C12ヘテロアリールから選択され、ここで、RおよびR’は、独立に、H、場合により置換されていてもよいC-Cアルキル、場合により置換されていてもよいC-Cシクロアルキル、場合により置換されていてもよいC-C12ヘテロシクリル、場合により置換されていてもよいC-C12アリール、および場合により置換されていてもよいC-C12ヘテロアリールである。好ましい実施形態では、RはHである。別の好ましい実施形態では、Rはメチルである。
【0077】
ある実施形態では、Rは、H、-OR、-C(O)OR、C(O)NR、-NRR’、-SR、場合により置換されていてもよいC-C20アルキル、場合により置換されていてもよいC-C20アルケニル、場合により置換されていてもよいC-C20アルキニル;場合により置換されていてもよいC-Cシクロアルキル、場合により置換されていてもよいC-C12アリール、場合により置換されていてもよいC-C12ヘテロアリールまたは場合により置換されていてもよいC-C12ヘテロシクリル、場合により置換されていてもよいC-Cアルカノールアミノ、場合により置換されていてもよいアミノ酸、場合により置換されていてもよいジペプチド、場合により置換されていてもよいトリペプチド、および場合により置換されていてもよいポリペプチドから選択され、ここで、RおよびR’は、独立に、H、場合により置換されていてもよいC-Cアルキル、場合により置換されていてもよいC-Cシクロアルキル、場合により置換されていてもよいC-C12ヘテロシクリル、場合により置換されていてもよいC-C12アリール、および場合により置換されていてもよいC-C12ヘテロアリールである。好ましい実施形態では、RはHである。他の好ましい実施形態では、Rは、場合により置換されていてもよいC-C12アリールである。他の好ましい実施形態では、Rは、場合により置換されていてもよいCアリールである。さらなる好ましい実施形態では、Rは、1以上のアルコキシ基で置換されたC-C12アリールである。他の好ましい実施形態では、Rは、1以上のメトキシ基で置換されたC-C12アリールである。さらなる好ましい実施形態では、Rは、2個のメトキシ基で置換されたCアリールである。さらなる好ましい実施形態では、Rは、3,4-ジメトキシフェニルである。他の好ましい実施形態では、Rは、アミノ酸から誘導された基である。他の好ましい実施形態では、Rは、アミノアルコールから誘導された基である。さらなる好ましい実施形態では、Rは、フェニルアラニンから誘導された基である。
【0078】
他の実施形態では、YおよびRは一緒になって、式
a)-C(O)-[NR-C(R)(R)-C(O)]-OR10
b)-C(O)-[NR-C(R)(R)-C(R11)(R12)]-OR10
c)-[NR-C(R)(R)-C(O)]-OR10;または
d)-[NR-C(R)(R)-C(R11)(R12)]-OR10
の基を形成してもよく、
ここで、R、R、R10、R11およびR12は、各存在において、Hまたは場合により置換されていてもよいC-C-アルキルであり;Rは、各存在において、Hおよびアミノ酸側鎖またはその誘導体から独立に選択され;かつ、wは、0~20の整数である。いくつかの実施形態では、RはHである。いくつかの実施形態では、RはHである。いくつかの実施形態では、R11はHである。いくつかの実施形態では、R12はHである。いくつかの実施形態では、R10は、H、メチル、エチル、プロピルおよびt-ブチルから選択される。いくつかの実施形態では、wは、0~10の整数である。いくつかの実施形態では、wは1である。いくつかの実施形態では、wは2である。いくつかの実施形態では、wは3である。いくつかの実施形態では、Rは、Hまたはアミノ酸側鎖または
【化9】
からなる群から選択されるその誘導体である。
【0079】
いくつかの実施形態では、YおよびRは一緒になって、式-C(O)-[NR-C(R)(R)-C(O)]-OR10の基を形成し、ここで、R、RおよびR10はHであり、Rは、
【化10】
であり、かつ、wは1である。
【0080】
本明細書で開示される式(I)の化合物に関して、以下の(i)~(viii)のいずれか1以上の組合せが企図される:
(i)RはHである;
(ii)RはHである;
(iii)RはHである;
(iv)RはHである;
(v)RはHであるか;または
はメチルである;
(vi)Lは結合であるか;または
LはCアルキレンであるか;または
LはCアルキレンであるか;または
LはCアルキレンであるか;または
LはCアルキレンであるか;または
LはC10アルキレンである;
(vii)Yは存在しないか;または
Yは-C(O)-NH-であるか;または
Yは-C(O)-NH-(CH-であるか;または
Yは-C(O)-NH-(CH-であるか;または
Yは-C(O)-O-であるか;または
Yは-C(O)-であるか;または
Yは-S-であるか;または
Yは-S-(CH-であるか;または
Yは-O-である;
(viii)RはHであるか;または
は-COOHであるか;または
は-フェニルであるか;または
は-3,4-ジメトキシフェニルであるか;または
はヘテロアリールであるか;または
はアミノ酸またはその誘導体であるか;または
はアミノアルコールまたはその誘導体であるか;または
YおよびRは一緒になって式
a)-C(O)-[NR-C(R)(R)-C(O)]-OR10
b)-C(O)-[NR-C(R)(R)-C(R11)(R12)]-OR10
c)-[NR-C(R)(R)-C(O)]-OR10;または
d)-[NR-C(R)(R)-C(R11)(R12)]-OR10
の基を形成し、
ここで、R、R、R、R10、R11およびR12とwは、従前に定義された通りである。
【0081】
代表的な式(I)の化合物としては、以下が含まれる。
【0082】
【表3】
【0083】
式(I)、式(Ia)および式(Ib)の化合物または以上に述べた実施形態の塩は好ましくは医薬上許容可能なものであるが、薬学上許容可能でない塩も、これらが薬学上許容可能な塩の製造において中間体として有用であることから、本発明の範囲内に入ることが認識されるであろう。これらの塩はまた、それらの化合物がアンチエージング目的に使用される限り、美容上許容可能であり得る。
【0084】
式(I)、式(Ia)および式(Ib)の化合物または以上に述べた実施形態、ならびにその塩は、薬学上許容可能な誘導体の形態で提供できることが認識されるであろう。用語「薬学上許容可能な誘導体」には、式(I)、式(Ia)もしくは式(Ib)の化合物またはその塩の薬学上許容可能なエステル、プロドラッグ、溶媒和物および水和物が含まれる。薬学上許容可能な誘導体には、対象に投与した際に、式(I)の化合物、またはその活性代謝物もしくは残基を(直接的または間接的に)提供し得るいずれの薬学上許容可能な水和物またはいずれの他の化合物またはプロドラッグも含み得る。
【0085】
薬学上許容可能な塩としては、酸付加塩、塩基付加塩、ならびに第四級アミンおよびピリジニウムの塩が含まれる。酸付加塩は、本発明の化合物と、限定されるものではないが、塩酸、臭化水素酸、硫酸、リン酸、メタンスルホン酸、トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、酢酸、プロピオン酸、アスコルビン酸、クエン酸、マロン酸、フマル酸、マレイン酸、乳酸、サリチル酸、スルファミン酸、または酒石酸を含む薬学上許容可能な無機または有機酸から形成される。第四級アミンおよびピリジニウムの対イオンとしては、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、硫酸イオン、リン酸イオン、メタンスルホン酸イオン、クエン酸イオン、酢酸イオン、マロン酸イオン、フマル酸イオン、スルファミン酸イオン、および酒石酸イオンが含まれる。塩基付加塩としては、限定されるものではないが、ナトリウム、カリウム、カルシウム、リチウム、マグネシウム、アンモニウムおよびアルキルアンモニウムなどの塩が含まれる。また、塩基性窒素含有基は、塩化、臭化およびヨウ化メチル、エチル、プロピル、およびブチルなどの低級アルキルハリド;硫酸ジメチルおよびジエチルのような硫酸ジアルキル;その他の薬剤で第四級化されてよい。これらの塩は、既知の方法で、例えば、好適な溶媒の存在下、化合物を適当な酸または塩基で処理することによって作製することができる。
【0086】
式(I)、式(Ia)および式(Ib)の化合物または以上に述べた実施形態は、結晶形および/または溶媒和物(例えば、水和物)であってもよく、両形態とも本発明の範囲内にあることが意図される。用語「溶媒和物」は、溶質と溶媒によって形成された様々な化学量論の複合体である。このような溶媒は、溶質の生物活性に干渉するべきではない。溶媒は、例えば、水、エタノールまたは酢酸であり得る。溶媒和の方法は当技術分野で一般に既知である。
【0087】
用語「プロドラッグ」は、その最も広い意味で使用され、in vivoで本発明の化合物に変換される誘導体を包含する。このような誘導体は当業者には容易に想到し、例えば、遊離ヒドロキシ基がエステル誘導体に変換される、または環窒素原子がN-オキシドに変換される化合物が含まれる。エステル誘導体の例としては、アルキルエステル、リン酸エステルおよびアミノ酸、好ましくは、バリンから形成されるものが挙げられる。式(I)、式(Ia)および式(Ib)の化合物または以上に述べた実施形態のプロドラッグである化合物はいずれも本発明の範囲および趣旨の範囲内にある。
【0088】
用語「薬学上許容可能なエステル」としては、式(I)、式(Ia)および式(Ib)の化合物または以上に述べた実施形態の生物学上許容可能なエステル、例えば、硫酸誘導体、ホスホン酸誘導体およびカルボン酸誘導体が挙げられる。
【0089】
従って、本発明の別の側面では、本発明の化合物またはその塩のプロドラッグまたは薬学上許容可能なエステルが提供される。
【0090】
本発明の化合物は少なくとも1つの不斉中心を有し、従って、2つ以上の立体異性形で存在し得ることが認識されるであろう。本発明は、これらの個々の形態のそれぞれおよびラセミ化合物を含むそれらの混合物に及ぶ。異性体は、従来どおり、クロマトグラフィー法により、または分割剤を用いて分離することができる。あるいは、個々の異性体は、キラル中間体を用いた不斉合成によって作製することもできる。化合物が少なくとも1つの炭素-炭素二重結合を有する場合、それはZ型およびE型で存在可能であり、式(I)、式(Ia)および式(Ib)の化合物または以上に述べた実施形態のあらゆる異性形が本発明に含まれる。
【0091】
本発明はまた、可能であれば、本発明の上述の実施形態の塩または薬学上許容可能な誘導体、例えば、薬学上許容可能なエステル、溶媒和物および/またはプロドラッグも含む。
【0092】
本発明の別の側面では、治療上有効な量の1以上の上述の化合物またはその薬学上許容可能な誘導体含む薬学上許容可能な塩と場合により薬学上許容可能な担体または希釈剤とを含んでなる医薬組成物が提供される。本発明のなおさらなる側面は、美容上有効な量の1以上の上述の化合物またはその薬学上もしくは美容上許容可能な塩(その薬学上許容可能な誘導体を含む)と場合により薬学上許容可能な担体または希釈剤とを含んでなる化粧用組成物である。化粧用処方物は、老化の影響を改善するために有用であり、アンチエージング処方物と呼称することができる。
【0093】
用語「組成物」は、有効成分(担体とともにまたは担体を伴わずに)が担体に囲まれているカプセルを得るために、担体としての封入剤を伴う有効成分の処方物を含むことを意図する。
【0094】
医薬組成物または処方物には、経口、直腸、鼻腔、局所(口内および舌下)、眼、膣または非経口(筋肉内、皮下および静脈内を含む)投与に好適なものまたは吸入もしくは吹送による投与に好適な形態ものが含まれる。
【0095】
従って、式(I)、式(Ia)もしくは式(Ib)のいずれかの化合物または以上に述べた実施形態は、従来のアジュバント、担体、または希釈剤とともに、医薬組成物およびその単位投与形の形態とすることでき、このような形態では、錠剤もしくは充填済みカプセルなどの固体として、または溶液、懸濁液、エマルション、エリキシル剤などの液体、もしくはそれを充填したカプセル剤で(総て経口用)、直腸投与用の坐剤の形態で;あるいは非経口(皮下を含む)使用のための無菌注射溶液の形態で使用することができる。
【0096】
このような医薬組成物およびその単位投与形は、従来の割合の従来の成分を、付加的有効化合物または成分とともにまたは伴わずに含んでなってよく、このような単位投与形は、意図される使用一日用量範囲に見合った任意の好適な有効量の有効成分を含有し得る。従って、1錠当たり10ミリグラムの有効成分またはより広くは0.1~100ミリグラムを含有する処方物が好適な代表的単位投与形である。
【0097】
式(I)、式(Ia)および式(Ib)の化合物または以上に述べた実施形態は、多様な経口、局所、眼および非経口投与形で投与することができる。当業者は、以下の投与形が有効成分として、式(I)、式(Ia)および式(Ib)の化合物またはその薬学上許容可能な塩を含んでなり得ることが自明であろう。
【0098】
式(I)、式(Ia)もしくは式(Ib)の化合物または以上に述べた実施形態から医薬組成物を調製するために、薬学上許容可能な担体は固体または液体であり得る。固体製剤には、散剤、錠剤、丸剤、カプセル剤、カシェ剤、坐剤、分配可能な顆粒が含まれる。固体担体は、希釈剤、香味剤、可溶化剤、滑沢剤、沈殿防止剤、結合剤、保存剤、錠剤崩壊剤、または封入剤としても働き得る1以上の物質であり得る。
【0099】
散剤では、担体は、微粉有効成分との混合物である微粉固体である。
【0100】
錠剤では、有効成分は、必要な結合能を有する担体と好適な割合で混合され、所望の形状および大きさに圧縮される。
【0101】
散剤および錠剤は好ましくは、5または10~約70%の有効化合物を含有する。好適な担体は、炭酸マグネシウム、ステアリン酸マグネシウム、タルク、糖、ラクトース、ペクチン、デキストリン、デンプン、ゼラチン、トラガカントガム、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、低融点ワックス、カカオ脂などである。用語「製剤」は、有効化合物と担体としての封入剤との処方物をカプセル化したもの(有効成分が担体とともにまたは伴わずに担体に囲まれている、従って、担体と会合されている)を含むことを意図する。同様に、カシェ剤およびトローチ剤も含まれる。錠剤、散剤、カプセル剤、丸剤、カシェ剤、およびトローチ剤は、経口投与に好適な固体形態として使用することができる。
【0102】
坐剤を調製するためには、脂肪酸グリセリドまたはカカオ脂の混合物などの低融点ワックスをまず融解し、有効成分をそこに撹拌によって均一に分散させる。次に、融解した均一な混合物を好都合な大きさの型に注ぎ、冷ますことで固化させる。
【0103】
膣投与に好適な処方物は、有効成分に加えて当技術分野で適当であることが知られている担体を含有する膣坐剤、タンポン、クリーム、ゲル、ペースト、フォームまたはスプレーとして提供することができる。
【0104】
液体製剤としては、溶液、懸濁液、およびエマルション、例えば、水または水-プロピレングリコール溶液が含まれる。例えば、非経口注射液製剤は、ポリエチレングリコール水溶液中の溶液として処方することができる。
【0105】
無菌液体組成物としては、無菌溶液、懸濁液、エマルション、シロップ、エリキシル剤、または無菌眼用溶液が含まれる。有効成分を無菌水、無菌有機溶媒または両方の混合物などの薬学上許容可能な担体に溶解または懸濁させることができる。
【0106】
従って、式(I)、式(Ia)および式(Ib)の化合物または以上に述べた実施形態は、非経口投与(例えば、注射、例えば、ボーラス注射または持続的注入による)向けに処方されてもよく、単位投与形、アンプル、充填済みシリンジ、少量注入または保存剤を添加した多用量容器で提供してもよい。これらの組成物は、油性または水性ビヒクル中の懸濁液、溶液、またはエマルションなどの形態を採ってもよく、沈澱防止剤、安定剤および/または分散剤などの処方剤を含有してよい。あるいは、有効成分は、使用前に好適なビヒクル、例えば、無菌発熱性物質除去水で構成するための無菌固体の無菌単離によってまたは溶液からの凍結乾燥によって得られた粉末形態であってもよい。
【0107】
経口使用に好適な水溶液は、有効成分を水に溶解させ、所望により好適な着色剤、香味剤、安定剤および増粘剤を加えることによって調製することができる。
【0108】
経口使用に好適な水性懸濁液は、微粉有効成分を天然または合成ガム、樹脂、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウムなどの粘稠な材料、またはその他の周知の沈殿防止剤とともに水に溶解させることによって作製することができる。
【0109】
また、使用直前に経口投与用の液体製剤に変換されることを意図する固体製剤も含まれる。このような液体形態には、溶液、懸濁液、およびエマルションが含まれる。これらの製剤は、有効成分に加えて、着色剤、香味剤、安定剤、バッファー、人工および天然甘味剤、分散剤、増粘剤、可溶化剤などを含有し得る。
【0110】
表皮への局所投与については、本発明による化合物は、軟膏、クリームもしくはローションとして、または経皮パッチとして処方することができる。軟膏およびクリームは、例えば、好適な増粘および/またはゲル化剤を添加した水性または油性基剤を用いて処方することができる。ローションは、水性または油性基剤を用いて処方することができ、一般に、1種類以上の乳化剤、分解防止剤、分散剤、沈殿防止剤、増粘剤、または着色剤を含む。
【0111】
口内の局所投与に好適な処方物としては、香味基剤、通常にはスクロースおよびアラビアガムまたはトラガカントガム中に活性剤を含んでなるトローチ剤;ゼラチンおよびグリセリンまたはスクロースおよびアラビアガムなどの不活性基剤中に有効成分を含んでなる香錠;ならびに好適な液体担体中に有効成分を含んでなる口内洗浄剤が含まれる。
【0112】
溶液または懸濁液は、従来の手段により、例えば、ドロッパー、ピペットまたはスプレーにより鼻腔に直接適用される。処方物は、単回または多回形態で提供され得る。ドロッパーまたはピペットの後者の場合には、これは患者が適当な所定容量の溶液または懸濁液を投与することによって達成することができる。スプレーの場合、これは例えば、定量霧化スプレーポンプの手段によって達成され得る。鼻腔送達および保持を改善するために、式(I)、式(Ia)または式(Ib)の化合物を、シクロデキストリンを用いて封入してもよいし、あるいは、鼻腔粘膜における送達および保持を増強することが期待される他の薬剤を用いて処方してもよい。
【0113】
気道への投与はまた、有効成分がクロロフルオロ炭素(CFC)、例えば、ジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、もしくはジクロロテトラフルオロエタンなど、二酸化炭素、またはその他の好適なガスなどの好適な噴射剤とともに加圧バッグに提供されるエアロゾル処方物の手段によって達成してもよい。エアロゾルは、好都合には、レシチンなどの界面活性剤を含有し得る。薬の用量は定量バルブの提供により制御することができる。
【0114】
あるいは、有効成分は、ラクトース、デンプン、デンプン誘導体、例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロースおよびポリビニルピロリドン(PVP)などの好適な粉末基剤中の、化合物のドライパウダー、例えば、粉末混合物の液体で提供することができる。好都合には、粉末担体は、鼻腔内でゲルを形成する。粉末組成物は単位用量形態、例えば、そこから粉末が吸入器の手段によって投与され得る例えばゼラチンのカプセルもしくはカートリッジ、またはブリスターパックで提供することができる。
【0115】
鼻腔処方物を含む気道への投与に意図される処方物では、化合物は一般に例えば5~10ミクロン以下程度の小粒径を有する。このような粒径は、当技術分野で公知の手段、例えば、微粉化によって得ることができる。
【0116】
眼投与では、本発明による化合物は、無菌眼用溶液または眼用送達デバイス(即放、時限放出、または持続放出を助けるコンタクトレンズなど)として処方することができる。眼用投与については、この組成物は、好ましくは、眼用組成物の形態である。眼用組成物は、好ましくは、点眼処方物として処方され、眼への投与を助けるための適当な容器、例えば、好適なピペットが取り付けられたドロッパーに充填される。好ましくは、これらの組成物は、精製水を用いた無菌で水性ベースのものである。本発明の化合物に加え、眼用組成物は、界面活性剤;増粘剤;抗酸化剤;エタノールおよびその他の賦形剤、例えば、等張剤、バッファー、保存剤、および/またはpH調整剤のうち1以上を含有してよい。眼用組成物のpHは、望ましくは、4~8の範囲内である。
【0117】
所望により、有効成分の持続放出を得るのに適合した処方物を使用することができる。さらに、処方物は、老化の影響を改善するために美容的使用に好適な形態であってもよい。
【0118】
医薬製剤は好ましくは単位投与形である。このような形態において、製剤は、適当な量の有効成分を含有する単位用量に細分割される。単位投与形は包装製剤であってもよく、この包装品は、包装された錠剤、カプセル剤、およびバイアルまたはアンプル中の散剤など、個別の量の製品を含有する。また、単位投与形は、カプセル剤、錠剤、カシェ剤、またはトローチ剤そのものであってもよいし、あるいは適当な数のこれらのいずれかの包装された形態であってもよい。
【0119】
本発明はまた、担体が存在しない、化合物が単位投与形である場合の式(I)、式(Ia)および式(Ib)の化合物または以上に述べた実施形態も含む。
【0120】
式(I)、式(Ia)および式(Ib)の化合物または以上に述べた実施形態の投与量は、化合物の活性および治療される疾患に応じて1日当たり約10mg~2000mgの範囲であり得る。
【0121】
鼻腔投与用の液体または散剤、経口投与用の錠剤またはカプセル剤および静脈投与用の液体は好ましい組成物である。
【0122】
式(I)、式(Ia)および式(Ib)の化合物または以上に述べた実施形態の医薬製剤は、併用療法において1以上の他の活性剤と併用投与してもよい。例えば、有効化合物の医薬製剤は、ミトコンドリア機能障害に関連する疾患または障害を治療するために使用される1以上の他の薬剤と併用(例えば、個別、同時または逐次)投与してもよい。例えば、本発明の化合物の医薬製剤は、他のミトコンドリア保護剤または酸化防止化合物または細胞呼吸の前駆体または生成物などのエネルギー代謝を変調する成分と併用投与してもよい。いくつかの実施形態では、付加的活性剤として抗糖尿病薬をさらに含んでなる医薬組成物が提供される。
【0123】
さらに、有効化合物の医薬製剤は、薬剤性または環境誘発性ミトコンドリア機能障害を治療、予防、改善または軽減するために併用(例えば、個別、同時または逐次)投与してもよい。例えば、有効化合物の医薬製剤を、結果として起こる薬剤性または環境誘発性ミトコンドリア機能障害を治療、予防、改善または軽減するために、ミトコンドリア活性または機能に悪影響を有する他の活性剤と併用投与してもよい。ミトコンドリア活性または機能に悪影響を有する他の活性剤の例としては、抗ウイルス薬;抗癌薬;抗生剤;CNS薬;高血圧症薬;アントラサイクリン;非ステロイド系抗炎症薬(NSAID);麻酔薬;β遮断薬;抗不整脈薬;抗糖尿病薬;抗炎症薬;または別の薬剤が挙げられる。よって、式(I)の化合物の医薬製剤は、他の活性剤の投与に関連するミトコンドリア活性または機能に対する悪影響を治療、予防、改善または軽減するために併用投与し得ることが想定される。
【0124】
ミトコンドリア活性または機能に悪影響を有する抗ウイルス薬の例としては、アバカビル、ジダノシン、エムトリシタビン、エンテカビル、エムトリシタビン、ラミブジン、ネビラピン、テルビブジン、テノホビル、チプラナビル、スタブジン、ザルシタビン、およびジドブジンが挙げられる。ミトコンドリア活性または機能に悪影響を有する抗癌薬の例としては、三酸化ヒ素、セツキシマブ、ダカルバジン、デニロイキン、ディフティトックス、フルタミド、ゲムツズマブ、メトトレキサート、ミトキサントロン、ペントスタチン、およびタモキシフェンが挙げられる。ミトコンドリア活性または機能に悪影響を有する抗生剤の例としては、アンチマイシンA、イソニアジド、クロラムフェニコール、エタンブトール、ゲンタマイシン、ケトコナゾール、リネゾリド、ストレプトゾシン、ストレプトマイシン、トブラマイシン、テトラサイクリン、およびトロバフロキサシンが挙げられる。ミトコンドリア活性または機能に悪影響を有するCNS薬の例としては、アミトリプチリン、アンフェタミン、アトモキセチン、クロルプロマジン、コカイン、ダントロレン、デシプラミン、ジバルプロエクス、ドロペリドール、フェルバメート、フルフェナジン、イミプラミン、メタンフェタミン、ナルトレキソン、ネファゾドン、ペルゴリド、およびバルプロ酸が挙げられる。ミトコンドリア活性または機能に悪影響を有する高血圧症薬の例としては、ボセンタンが挙げられる。ミトコンドリア活性または機能に悪影響を有するアントラサイクリンの例としては、ダウノルビシン、ドキソルビシン、エピルビシン、およびイダルビシンが挙げられる。ミトコンドリア活性または機能に悪影響を有する非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)の例としては、アスピリン、セレコキシブ、ジクロフェナク、ジフルニサル、エトドラク、フェノプロフェン、イブプロフェン、インドメタシン、ケトプロフェン、メフェナム酸、メロキシカム、ナプロキセン、ナブメトン、オキサプロジン、ピロキシカム、サルサレート、スリンダック、チオリダジン、およびトルメチンが挙げられる。ミトコンドリア活性または機能に悪影響を有する麻酔薬の例としては、ブピバカインおよびイソフルランが挙げられる。ミトコンドリア活性または機能に悪影響を有するβ遮断薬の例としては、アテノロールが挙げられる。ミトコンドリア活性または機能に悪影響を有する抗不整脈の例としては、アミオダロン、ジソピラミド、ドフェチリド、およびイブチリドが挙げられる。ミトコンドリア活性または機能に悪影響を有する抗糖尿病薬の例としては、ピオグリタゾンおよびロシグリタゾンが挙げられる。ミトコンドリア活性または機能に悪影響を有する抗炎症薬の例としては、プレドニゾロン、デキサメタゾン、ヒドロコルチゾン、およびトリアムシロン(triamcilone)が挙げられる。ミトコンドリア活性または機能に悪影響を有する他の薬剤の例としては、クリオキノール、シアン化物、ヘキサクロロフェン、ロテノン、およびスタチンが挙げられる。例としては、式(I)の化合物の医薬製剤は、他の活性剤の投与に関連するミトコンドリア活性または機能に対する悪影響を治療、予防、改善または軽減するために併用投与し得ることが想定される。
【0125】
用語「治療上有効な量」は、治療を必要とするヒトを含む哺乳動物などの対象に投与した際に、上記で定義したような治療を果たすのに十分な量を意味する。治療上有効な量は、治療される対象および病状、苦痛の重篤度、ならびに投与方法によって異なり、当業者には慣例により決定可能である。
【0126】
用語「処置」は、本明細書で使用する場合、動物、好ましくは哺乳動物、より好ましくはヒトにおける病態または疾患の処置を包含し、(i)その疾患の素因を持ち得るが罹患しているとはまだ診断されていない対象にその疾患または病態が生じないように予防すること;(ii)その疾患または病態を阻害する、すなわち、その発症を阻止すること;(iii)その疾患またはその病態を緩和する、すなわち、その退縮を生じさせることを含む。「処置」はまた美容的処置も含み、これには老化の影響を改善するための非治療的な美容的処置を含む。
【0127】
本明細書では、本明細書で定義されるような式(I)、式(Ia)および式(Ib)の化合物またはその薬学上許容可能な塩もしくは組成物の投与を含んでなる哺乳動物対象の処置方法が実現される。本明細書において実現される式(I)の化合物およびそれらの医薬組成物はミトコンドリア機能障害に関連する疾患および障害の予防および/または治療に有用であると考えられる。
【0128】
ある実施形態では、ミトコンドリア機能障害に関連する疾患および障害は、限定されるものではないが、レーベル遺伝性視神経症(LHON)、優性視神経症(DOA)、リー症候群、フリードライヒ運動失調、ミトコンドリア筋疾患、脳筋症、乳酸アシドーシス、脳卒中様症状(MELAS)、赤色ぼろ線維を伴うミオクロヌス性てんかん(MERRF)、筋神経胃腸脳症(MNGIE)、カーンズ・セイアー症候群、CoQ.10欠乏症、またはミトコンドリア複合体欠損症、神経障害、運動失調、色素性網膜炎、および眼瞼下垂(NARP)を含む原発性ミトコンドリア疾患である。
【0129】
ある実施形態では、ミトコンドリア機能障害に関連する疾患および障害は、限定されるものではないが、脊髄小脳失調症、毛細血管拡張性運動失調症、眼球運動失行を伴う運動失調症1および2(AOA1および2)、てんかん発作、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、運動ニューロン病(MND)、パーキンソン病、アルツハイマー病、ハンチントン病、脳卒中/再潅流傷害、または認知症、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)、ベッカー型筋ジストロフィー(BMD)、肢体型筋ジストロフィー(LGMD)、X連鎖拡張型心筋症(XLDCM)、パントテン酸キナーゼ関連神経変性症(PKAN)、脊髄性筋萎縮症(SMA)、多発性硬化症および一次性進行型多発性硬化症(PP-MS)、クーゲルベルグ・ウェランダー病、およびウケルドニッヒ・ホフマン病、糖尿病および難聴(DAD)を含むミトコンドリア機能障害に関連する神経変性疾患または神経筋疾患である。
【0130】
ある実施形態では、ミトコンドリア機能障害に関連する疾患および障害は、限定されるものではないが、ウェルフラム症候群、非アルコール性肝疾患(すなわち、NAFLD、NASH、硬変)、老化関連の肉体の衰え、肥満、過体重、糖尿病、II型糖尿病、糖尿病性網膜症、および代謝症候群を含むミトコンドリア機能障害に関連する代謝障害である。
【0131】
ある実施形態では、ミトコンドリア機能障害に関連する疾患および障害は、限定されるものではないが、統合失調症、大鬱病性障害、双極性障害、癲癇、心的外傷後ストレス障害(PTSD)、および日内周期障害を含むミトコンドリア機能障害に関連する精神障害である。
【0132】
ある実施形態では、ミトコンドリア機能障害に関連する疾患および障害は、限定されるものではないが、潰瘍性大腸炎(UC)、クローン病(CD)、関節炎、乾癬または関節リウマチ、片頭痛、ドライアイ症候群、ブドウ膜炎、アレルギー性結膜炎、術後炎症および急性腎臓傷害を含むミトコンドリア機能障害に関連する炎症性障害である。ある実施形態では、ミトコンドリア機能障害に関連する疾患または障害は、老化の影響である。ゆえに、本明細書に記載の化合物は、ミトコンドリア機能障害を改善することによりアンチエージング効果を有すると提案される。
【0133】
ある実施形態では、疾患および障害は、薬剤性または環境誘発性ミトコンドリア機能障害によって引き起こされる。例えば、ミトコンドリア活性または機能に悪影響を有する因子には、抗ウイルス薬;抗癌薬;抗生剤;CNS薬;高血圧症薬;アントラサイクリン;非ステロイド系抗炎症薬(NSAID);麻酔薬;β遮断薬;抗不整脈薬;抗糖尿病薬;抗炎症薬;または別の薬剤から起こる薬剤性または環境誘発性ミトコンドリア機能障害が含まれる。
【0134】
ミトコンドリア活性または機能に悪影響を有する抗ウイルス薬の例としては、アバカビル、ジダノシン、エムトリシタビン、エンテカビル、エムトリシタビン、ラミブジン、ネビラピン、テルビブジン、テノホビル、チプラナビル、スタブジン、ザルシタビン、およびジドブジンが挙げられる。ミトコンドリア活性または機能に悪影響を有する抗癌薬の例としては、三酸化ヒ素、セツキシマブ、ダカルバジン、デニロイキン、ディフティトックス、フルタミド、ゲムツズマブ、メトトレキサート、ミトキサントロン、ペントスタチン、およびタモキシフェンが挙げられる。ミトコンドリア活性または機能に悪影響を有する抗生剤の例としては、アンチマイシンA、イソニアジド、クロラムフェニコール、エタンブトール、ゲンタマイシン、ケトコナゾール、リネゾリド、ストレプトゾシン、ストレプトマイシン、トブラマイシン、テトラサイクリン、およびトロバフロキサシンが挙げられる。ミトコンドリア活性または機能に悪影響を有するCNS薬の例としては、アミトリプチリン、アンフェタミン、アトモキセチン、クロルプロマジン、コカイン、ダントロレン、デシプラミン、ジバルプロエクス、ドロペリドール、フェルバメート、フルフェナジン、イミプラミン、メタンフェタミン、ナルトレキソン、ネファゾドン、ペルゴリド、およびバルプロ酸が挙げられる。ミトコンドリア活性または機能に悪影響を有する高血圧症薬の例としては、ボセンタンが挙げられる。ミトコンドリア活性または機能に悪影響を有するアントラサイクリンの例としては、ダウノルビシン、ドキソルビシン、エピルビシン、およびイダルビシンが挙げられる。ミトコンドリア活性または機能に悪影響を有する非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)の例としては、アスピリン、セレコキシブ、ジクロフェナク、ジフルニサル、エトドラク、フェノプロフェン、イブプロフェン、インドメタシン、ケトプロフェン、メフェナム酸、メロキシカム、ナプロキセン、ナブメトン、オキサプロジン、ピロキシカム、サルサレート、スリンダック、チオリダジン、およびトルメチンが挙げられる。ミトコンドリア活性または機能に悪影響を有する麻酔薬の例としては、ブピバカインおよびイソフルランが挙げられる。ミトコンドリア活性または機能に悪影響を有するβ遮断薬の例としては、アテノロールが挙げられる。ミトコンドリア活性または機能に悪影響を有する抗不整脈の例としては、アミオダロン、ジソピラミド、ドフェチリド、およびイブチリドが挙げられる。ミトコンドリア活性または機能に悪影響を有する抗糖尿病薬の例としては、ピオグリタゾンおよびロシグリタゾンが挙げられる。ミトコンドリア活性または機能に悪影響を有する抗炎症薬の例としては、プレドニゾロン、デキサメタゾン、ヒドロコルチゾン、およびトリアムシロン(triamcilone)が挙げられる。ミトコンドリア活性または機能に悪影響を有するその他の薬剤の例としては、クリオキノール、シアン化物、ヘキサクロロフェン、ロテノン、およびスタチンが挙げられる。
【0135】
ある実施形態では、哺乳動物はヒトである。
【0136】
用語「予防する」および「予防」は、本明細書で使用する場合、疾患または障害の1以上の症状の出現を防ぐまたは妨げるために予め薬剤を投与することを意味する。医学分野の熟練者は、「予防する」という用語が絶対的な用語でなはないことを認識する。医学分野では、それは病態、または病態の症状の可能性または重篤度を実質的に軽減するための薬物の予防的投与を意味すると理解され、これが本開示において意図される意味である。本分野の標準テキストである「Physician’s Desk Reference」で使用されるように、障害または疾患に関して「予防する」、「予防すること」および「予防」という用語は、疾患または障害がそれ自体を完全に顕在化する前に疾患または障害の原因、効果、症状または進行を防ぐことを意味する。これはまた、老化の直接的影響を軽減するための老化の影響の改善にも当てはまる。
【0137】
式(I)、式(Ia)もしくは式(Ib)または以上に述べた実施形態の化合物、組成物または処方物に関して用語「投与する」、「投与すること」または「投与」は、処置を必要とする動物の系に化合物を導入することを意味する。本発明の化合物が1以上の他の活性剤と組み合わせて提供される場合、「投与」およびその変形はそれぞれ、化合物および他の活性剤の同時および/または逐次導入を含むと理解される。
【0138】
式(I)、式(Ia)もしくは式(Ib)のいずれかの化合物または以上に述べた実施形態はまた、実験系において1以上のバイオマーカーを変調するためにin vitro、in vivo、またはex vivo実験などの研究適用で使用することもできる。このような実験系は、細胞サンプル、組織サンプル、細胞成分もしくは細胞成分の混合物、部分的器官、器官全体、または生物体であり得る。このような研究適用には、限定されるものではないが、アッセイ試薬としての使用、生化学的経路の解明、または1以上の本発明の化合物の存在/不在下での実験系の代謝状態に対する他の薬剤の効果の評価を含み得る。
【0139】
加えて、式(I)、式(Ia)および式(Ib)の化合物または以上に述べた実施形態は、生化学的試験またはアッセイでも使用できる。このような試験は、1以上の化合物の投与に対する対象の潜在的応答(または対象の特定のサブセットの応答)を評価するため、またはどの式(I)もしくは式(Ia)の化合物または以上に述べた実施形態が特定の対象または対象のサブセットにおいて最適な効果を生じるかを決定するための、1以上の式(I)、式(Ia)および式(Ib)の化合物または以上に述べた実施形態と対象由来の組織または細胞サンプルとのインキュベーションを含み得る。よって、本明細書では、1以上のバイオマーカーの活性を変調する式(I)、式(Ia)および式(Ib)の化合物または以上に述べた実施形態を特定するためのアッセイまたはスクリーニングが実現され、このアッセイは、i)対象または対象セットから1以上のバイオマーカーの変調がアッセイ可能である細胞サンプルまたは組織サンプルを得る工程;ii)1以上の本発明の化合物をその細胞サンプルまたは組織サンプルに投与する工程;および3)1以上の化合物の投与の1以上のバイオマーカーの変調に及ぼす化合物の効果を1以上の化合物の投与前のバイオマーカーの状態と比較して定量する工程を含んでなる。
【0140】
さらに本明細書では、1以上のバイオマーカーの活性を変調する式(I)、式(Ia)および式(Ib)の化合物または以上に述べた実施形態を特定するためのアッセイまたはスクリーニングが実現され、そのアッセイは、i)対象または対象セットから1以上のバイオマーカーの変調がアッセイ可能な細胞サンプルまたは組織サンプルを得る工程;ii)本発明の少なくとも2つの化合物を前記細胞サンプルまたは組織サンプルに投与する工程;iii)少なくとも2つの化合物の投与後の1以上のバイオマーカーの変調に及ぼす化合物の効果を、少なくとも2つの化合物の投与前のバイオマーカーの状態と比較して定量する工程、およびiv)工程iii)で決定された変調の量に基づいて、処置、抑制、または変調において使用するための化合物を選択する工程を含んでなる。
【0141】
ある実施形態では、バイオマーカーは、ケモカイン、サイトカイン、増殖因子または走化性因子である。1以上のバイオマーカーの活性を変調する式(I)、式(Ia)および式(Ib)の化合物または以上に述べた実施形態を特定する方法において、化合物は、1以上の物理化学的特性、薬物動態特性、生物学的特性、および/または生理学的特性に基づいて選択され得る。このような特性の例としては、限定されるものではないが、結合親和性、選択性、毒性、有効性、安定性、親油性、および/または活性、例えば、促進、拮抗および/または阻害が挙げられる。
【0142】
バイオマーカーとの相互作用は、核磁気共鳴(NMR)、質量分析(MS)、等温滴定熱量測定法(ITC)、動的光散乱(DLS)、表面プラズモン共鳴(SPR)、二面偏波式干渉法(DPI)、マイクロスケール熱泳動(MST)、ゲル遅延度、フィルター遅延度、アフィニティー共電気泳動、生物発光共鳴エネルギー移動(BRET)アッセイ、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)アッセイ、蛍光偏光(FP)アッセイ、シンチレーション近接アッセイまたは質量分析検出と組み合わせたものを含むバイオチップもしくはその他の表面への固定化といった任意の好都合な手段によって検出することができる。
【0143】
前記のものは、まず化合物をチップに固定化し、次にサンプルを加えることによって達成することができる。あるいは、所与のバイオマーカーをチップに固定化し、それに結合する化合物の能力をスクリーニングするために使用してもよい。
【0144】
当然のことながら、式(I)、式(Ia)または式(Ib)の化合物とバイオマーカーの間の相互作用をスクリーニングするために使用可能な他のアッセイはいくつも存在する。もう一つのアッセイはフィルター結合アッセイである。このアッセイでは、化合物またはバイオマーカーのうち一方を、蛍光色素などの識別可能なシグナルを生じ得るリポーター分子で標識し、両分子を溶液中で相互作用させる。次に、得られた混合物を、化合物またはバイオマーカーなどの成分の1つを遅延させ得るフィルターに通す。
【0145】
化合物が違えば違った生物学的レギュレーターと相互作用するか、またはレギュレーターが違えば違った化合物と相互作用するか、またはその両方である。加えて、化合物が違えば、違った生物学的レギュレーター受容体差と相互作用し得る。よって、別のアッセイは、ケモカインが固定化されたアフィニティーカラムの使用を含む。次に、そのカラムに化合物を通し、化合物の遅延の存在が判定される。好都合には、結合した化合物を溶出させるために塩勾配が使用される。
【0146】
本発明により企図される他のアッセイ例としては、全細胞アッセイなどの機能アッセイが含まれる。このような機能アッセイは、試験化合物の効果に関して結合アッセイよりも有用な情報を提供し得る。
【0147】
本明細書で使用する場合、「薬学上許容可能な塩」という表現は、塩が医薬としての投与に好適な場合の所与の化合物の塩を意味する。例えば、このような塩は、酸または塩基と、それぞれアミノ基またはカルボキシル基との反応によって形成され得る。
【0148】
薬学上許容可能な塩基付加塩は、無機および有機塩基から調製され得る。無機塩基から誘導される塩としては、限定されるものではないが、ナトリウム、カリウム、リチウム、アンモニウム、カルシウム、およびマグネシウム塩が含まれる。有機塩基から誘導される塩としては、限定されるものではないが、第1級、第2級および第3級アミン、天然置換アミンを含む置換アミン、ならびにイソプロピルアミン、トリメチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、エタノールアミン、2-ジメチルアミノエタノール、トロメタミン、リシン、アルギニン、ヒスチジン、カフェイン、プロカイン、ヒドラバミン、コリン、ベタイン、エチレンジアミン、グルコサミン、N-アルキルグルカミン、テオブロミン、プリン、ピペラジン、ピペリジン、およびN-エチルピペリジンを含む環状アミンの塩が含まれる。また、例えば、カルボキサミド、低級アルキルカルボキサミド、ジ(低級アルキル)カルボキサミドなどを含むカルボン酸アミドなど、他のカルボン酸誘導体も有用であろうことが理解されるべきである。
【0149】
薬学上許容可能な酸付加塩は、無機および有機酸から調製され得る。無機酸から誘導される塩としては、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸などが含まれる。有機酸から誘導される塩としては、酢酸、プロピオン酸、グリコール酸、ピルビン酸、シュウ酸、リンゴ酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、酒石酸、クエン酸、安息香酸、桂皮酸、マンデル酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、サリチル酸などが含まれる。
【0150】
用語「保護基」は、化合物の1以上のヒドロキシル基、チオール基、アミノ基またはカルボキシル基に結合した際にこれらの基に反応が起こることを防ぐいずれの基も意味し、このような保護基は、従来の化学的または酵素的工程によって除去して、ヒドロキシル基、チオ基、アミノ基またはカルボキシル基を再確立することができる。どの除去可能な遮断基が使用されるかは重要ではないが、好ましい除去可能なヒドロキシル遮断基としては、アリル、ベンジル、アセチル、クロロアセチル、チオベンジル、ベンジリジン、フェナシル、t-ブチル-ジフェニルシリルおよびヒドロキシル官能基に化学的に導入され得る他の任意の基などの従来の置換基が含まれ、前記のものは、生成物の性質に適合する温和な条件で化学的または酵素的方法のいずれかによって選択的に除去される。保護基は、Greene and Wuts (1991), "Protective Groups in Organic Synthesis" 第2版, John Wiley and Sons,N.Y.により詳しく開示されている。
【0151】
除去可能なアミノ遮断基の例としては、t-ブチオキシカルボニル(t-butyoxycarbonyl)(t-BOC)、ベンジルオキシカルボニル(CBZ)、フルオレニルメトキシカルボニル(FMOC)、アリルオキシカルボニル(ALOC)などの従来の置換基が挙げられ、これらは生成物の性質に適合する従来の条件によって除去可能である。
【0152】
除去可能なアルコール遮断基の例としては、メチルエーテル、t-ブチルエーテル、シリルエーテル;メトキシメチルエーテル(MOM)、アリルエーテル、ベンジルエーテルを含むエーテル、ならびに酢酸エステル(AcO-)および安息香酸エステルなどのエステルといった従来の置換基が挙げられ、これらは生成物の性質に適合する従来の条件によって除去可能である。
【0153】
除去可能なカルボニルまたは酸遮断基の例としては、メチルエステル、t-ブチルエステル、ベンジルエステルを含むエステルなどの従来の置換基が挙げられ、これらは生成物の性質に適合する従来の条件によって除去可能である。
【0154】
「選択性」または「特異性」は一般に、種々の受容体に対するあるリガンドの結合選好性の尺度および/またはある受容体に対する種々のリガンドの結合選好性の尺度である。その標的受容体に対する別の受容体と比較したリガンドの選択性は、各Kd値(すなわち、各リガンド-受容体複合体の解離定数)の比によって与えられ、あるいは生物学的効果がそのKdを下回る値で見られる場合には、選択性は、各EC50値(すなわち、2つの異なる受容体と相互作用するリガンドの最大応答の50%をもたらす濃度)の比によって与えられる。
【実施例
【0155】
一般合成スキームおよび説明
便宜上、多くの化学部分は、限定されるものではないが、メチル(Me)、エチル(Et)、n-プロピル(nPr)、イソ-プロピル(iPr)、n-ブチル(nBu)、tert-ブチル(tBu)、n-ヘキシル(nHex)、シクロヘキシル(cHex)、フェニル(Ph)、メトキシ(MeO)、エトキシ(EtO)、トリメチルシリル(TMS)、tert-ブチルオキシカルボニル(Boc)、およびアセチル(Ac)など、周知の省略形を用いて表す。
【0156】
便宜上、多くの化学化合物は、限定されるものではないが、メタノール(MeOH)、エタノール(EtOH)、ジエチルエーテル(EtO)、酢酸エチル(EtOAc)、トリエチルアミン(TEA)、ジクロロメタン(塩化メチレン、DCM)、トリフルオロ酢酸(TFA)、トリフルオロエタノール(TFE)、ジメチルホルムアミド(DMF)、硫酸ナトリウム(NaSO)、テトラヒドロフラン(THF)、メタ-クロロペルオキシ安息香酸(mCPBA)、ヘキサメチルジシラザンナトリウム塩(NaHMDS)、O-(7-アザベンゾトリアゾール-1-イル)-N,N,N’,N’-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェート(HATU)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、硫酸マグネシウム(MgSO)、炭酸水素ナトリウム(NaHCO)、tert-ブタノール(t-BuOH)、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDCl.HCl)、フッ化テトラ-n-ブチルアンモニウム(TBAF)、臭化テトラ-n-ブチルアンモニウム(TBAB)、N,N-ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA)、tert-ブチルジメチルシリル(TBDMS)、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)、トランス-ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)(PdCl(PPh)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)(Pd(PPh)、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)(Pd(dba))、テトラフルオロホウ酸トリ-t-ブチルホスホニウム(t-BuPH.BF)、4,5-ビス(ジフェニルホスフィノ)-9,9-ジメチルキサンテン(Xantphos)、トリフェニルホスフィン(PPh)、アゾジカルボン酸ジイソプロピル(DIAD)、クロロクロム酸ピリジニウム(PCC)、ジメチル硫化ボラン(BMS)、チタンイソプロポキシド(TiOiPr)、トリアセトキシ水素化ホウ素ナトリウム(NaBH(OAc))、シアノ水素化ホウ素ナトリウム(NaBH(CN))、水素化ホウ素ナトリウム(NaBH)、塩化アンモニウム(NHCl)、クロロホルム(CHCl)、二酸化マンガン(MnO)、炭酸カリウム(KCO)、1,2-ジクロロエタン(DCE)、アジ化ナトリウム(NaN)、亜硝酸ナトリウム(NaNO)および二炭酸ジ-tert-ブチル(BocO)など、周知の省略形を用いて表す。
【0157】
一般手順A:キノン酸合成;銀媒介ラジカル脱炭酸
【化11】
【0158】
カルボン酸(2当量)をCHCN/HO(3:1)中、メナジオン(1当量)の溶液に加え、この混合物を75℃に加熱した。この溶液に、AgNO(0.1当量)を加えた後、HO(5mL)中(NH(2.5当量)を10分かけてゆっくり加えた。得られた混合物をさらに2時間撹拌した。この混合物を室温に冷却し、ジクロロメタンで抽出し、有機抽出液をHOで洗浄した。有機層をMgSOで乾燥させ、濾過し、溶媒を減圧下で除去して粗生成物を得、これをフラッシュクロマトグラフィー(シリカゲル)により精製した。
【0159】
一般手順B:キノンアミドカップリング
【化12】
【0160】
キノン酸(1当量)をN雰囲気下で無水ジクロロメタン(5~10ml)に加え、0℃に冷却した。アミン(1当量)、ジメチルアミノピリジン(DMAP、0.1当量)、トリエチルアミン(EtN、2.5当量)およびカップリング剤(1.4当量)を連続的に加え、この反応混合物をゆっくり室温に温めた後に一晩置いた。反応物をHO(20mL)で急冷し、有機層を飽和KHSO溶液、飽和NaHCO溶液およびHOで洗浄した。有機層をMgSOで乾燥させ、濾過し、溶媒を減圧下で除去して粗生成物を得、これをフラッシュクロマトグラフィー(シリカゲル)により精製し、純粋な類似体を得た。
【0161】
一般手順C:t-ブチルエステル脱保護法
【化13】
【0162】
t-ブチルエステルをジクロロメタン(5.0mL)中10%TFAに加え、この反応混合物を室温で一晩撹拌した後、減圧下で溶媒を除去した。粗生成物が得られ、フラッシュクロマトグラフィー(シリカゲル)により精製し、純粋な類似体を得た。
【0163】
代表的実施例
式(I)の化合物の代表的実施例を、一般手順A、Bおよび/またはCとして記載したように製造した。
【0164】
実施例1:2-(10-ヒドロキシデシル)-3メチル-1,4-ナフトキノン(UTA#2)
【化14】
【0165】
UTA#2は、メナジオン(201mg、1.17mmol)および11-ヒドロキシウンデカン酸(467mg、2.30mmol)から一般手順Aに従って製造し、生成物をフラッシュクロマトグラフィー(40%酢酸エチル/ヘキサン)により精製し、融点74~75℃を有する淡黄色固体としてのUTA#2を収率19%(168mg、0.511mmol)で得た。
【0166】
1H NMR δ (CDCl3, 300 MHz): 1.24 - 1.57 (m, 16H), 2.17 (s, 3H), 2.61 (t, J = 7.0 Hz, 2H), 3.62 (t, J = 6.6 Hz, 2H), 7.65 - 7.69 (m, 2H), 8.04 - 8.07 (m, 2H) ; 13C NMR δ (CDCl3, 75 MHz): 12.8, 25.8, 27.2, 28.9, 29.5, 29.6, 29.7, 30.1, 32.9, 63.2, 126.3, 126.4 132.3, 132.4, 133.4, 133.5, 143.3, 147.7, 184.9, 185.5 (1つの炭素の重複) ; HRMS: C21H28O3に関して予測値328.20384, 実測値328.20383; MS m/z (EI+): 328 (M+, 62), 310 (5), 211 (10), 187 (100), 174 (12) 158 (18); IR最大反応速度: 3525, 2917, 2848, 1658, 1618, 1593, 1459, 1738, 1327, 1297, 717
【0167】
実施例2:4-(3-メチル-1,4-ナフタレン-2-イル)-ブタン酸(UTA#23)
【化15】
【0168】
UTA#23は、メナジオン(1.953g、11.34mmol)およびグルタル酸(3.041g、23.01mmol)から一般手順Aに従って製造し、フラッシュクロマトグラフィー(シリカゲル、100%CHCl、次いで100%酢酸エチル)により精製し、UTA#23を融点74~78℃を有する黄色固体として収率40%(1.169g、4.525mmol)で得た。
【0169】
1H NMR δ (CDCl3, 400 MHz): 1.82 (quin, J =7.6 Hz, 2H), 2.20 (s, 3H), 2.46 (t, J =7.2 Hz, 2H), 2.69 (t, J = 7.9 Hz, 2H), 7.66 - 7.69 (m, 2H), 8.04 - 8.06 (m, 2H); 13C NMR δ (CDCl3, 100 MHz): 12.84, 23.57, 26.41, 33.89, 126.43, 126.50, 132.24, 132.28, 133.61, 133.62, 144.15, 146.27, 179.39, 184.77, 185.36; IR最大反応速: 3064, 2938, 2359, 2340, 1706, 1699, 1695, 1658, 1616, 1595, 1412, 1379, 1325, 1295, 1260, 717, 692, 66
【0170】
実施例3:25-(3-メチル-1,4-ナフトキノン-2-イル)ペンタン酸(UTA#67)
【化16】
【0171】
UTA#67は、メナジオン(2.1636g、12.566mmol)およびアジピン酸(3.7242g、25.484mmol)から一般手順Aに従って製造し、生成物をフラッシュクロマトグラフィー(100%ジクロロメタン、次いで、100%酢酸エチル)により精製し、UTA#67を融点66~70℃を有する結晶性黄色固体として収率78%(2.6528g、9.7422mmol)で得た。
【0172】
1H NMR δ (CDCl3, 400 MHz): 1.49 - 1.57 (m, 2H), 1.70 - 1.77 (m, 2H), 2.17 (s, 3H), 2.40 (t, J = 7.4 Hz, 2H), 2.64 (t, J = 7.9 Hz, 2H), 7.66 - 7.68 (m, 2H), 8.03 - 8.05 (m, 2H); 13C NMR δ (CDCl3, 100 MHz): 12.7, 24.9, 26.7, 28.1, 33.8, 126.3, 126.4, 132.20, 132.21, 133.4, 133.5, 143.5, 146.8, 179.6, 184.7, 185.3; IR最大反応速度: 2939, 1705, 1658, 1618, 1595, 1379, 1327, 1294, 1261, 715
【0173】
実施例4:4-(1,4-ナフトキノン-2-イル)ブタン酸(UTA#59)
【化17】
【0174】
UTA#59は、ナフトキノン(1.9989g、12.64mmol)およびグルタル酸(0.8354mg、6.323mmol)から一般手順Aに従って製造し、生成物をReveleris(Registered Trade Mark)X2自動フラッシュクロマトグラフィーシステム(溶出剤:ヘキサン中酢酸エチル勾配0~80%、カラム:Reveleris(Registered Trade Mark)シリカ24g、流速:18mL/分)により精製し、UTA#59を融点120~122℃を有する褐色固体として収率42%(0.6546g、2.680mmol)で得た。
【0175】
1H NMR δ (CD3OD, 400 MHz): 1.90 (quin, J = 7.6 Hz, 2H), 2.39 (t, J = 7.2 Hz, 2H), 2.62 (td, J = 7.6, 1.1 Hz, 2H), 6.85 (t, J = 1.2 Hz, 1H), 7.78 - 7.80 (m, 2H), 8.02 - 8.04 (m, 1H), 8.07 - 8.10 (m, 1H); 13C NMR δ (CD3OD, 100 MHz): 24.4, 30.0, 34.3, 126.8, 127.4, 133.4, 133.7, 134.8, 134.9, 136.0, 152.4, 186.1, 186.3 (1つの炭素が見つからないか、または重複) ; IR最大反応速度: 2956, 1699, 1660, 1620, 1953, 1417, 1327, 1303, 1265, 1143, 783, 661
【0176】
実施例5:(R)-メチル-2(4-(3-メチル-1,4-ナフトキノン-2-イル)ブトアミド)-3-フェニルプロパノアート(UTA#35)
【化18】
【0177】
UTA#35は、UTA#23(107.7mg、0.4170mmol)および(R)-フェニルアラニンメチルエステル(90.4mg、0.4193mmol)から一般手順Bに従って製造した。生成物をReveleris(Registered Trade Mark)X2自動フラッシュクロマトグラフィーシステム(溶出剤:勾配100%ヘキサン~100%酢酸エチル、カラム:Reveleris(Registered Trade Mark)シリカ4g、流速:18m/分)により精製し、UTA#35を黄色油状物として収率29%(51.3mg、0.1223mmol)で得た。
【0178】
1H NMR δ (CDCl3, 400 MHz): 1.80 (quin, J = 8.2 Hz, 2H), 2.20 (s, 3H), 2.29 (t, J = 7.2 Hz, 2H), 2.65 (t, J = 7.9, 2H), 3.15 (qd, J = 14.0, 6.0 Hz, 2H), 3.74 (s, 3H), 6.11 (d, J = 7.8, 1H), 4.92 (q, J = 6.1 Hz, 1H), 7.12 - 7.14 (m, 2H), 7.24 - 7.31 (m, 3H), 7.70 - 7.72 (m, 2H), 8.07 - 8.10 (m, 2H); 13C NMR δ (CDCl3, 100 MHz): 12.9, 24.3, 26.4, 23.9, 38.1, 52.5, 53.2, 126.4, 126.5, 127.3 128.7 (2個の炭素), 129.4 (2個の炭素), 132.2, 132.3, 133.5, 133.6, 136.1, 144.2, 146.4, 172.0, 172.3, 184.9, 185.3; HRMS: C25H25N1O5に関して予測値419.17327, 実測値419.17403; MS m/z (EI+): 419 (M+, 45), 241 (100), 197 (50), 162 (100), 120 (45); IR最大反応速度: 3371, 3293, 2951, 1745, 1652, 1596, 1538, 1436, 1378, 1329, 1295, 1215, 717
【0179】
実施例6:(S)-tert-ブチル-2-(4-(3-メチル-1,4-ナフトキノン-2-イル)ブタンアミド)-3-フェニルプロパノアート(UTA#36)
【化19】
【0180】
UTA#36は、UTA#23(504.2mg、1.9522mmol)およびL-フェニルアラニンt-ブチルエステル.HCl(489.4mg、1.9023mmol)から一般手順Bに従って製造し、生成物をフラッシュクロマトグラフィー(40%酢酸エチル/ヘキサン)により精製し、UTA#36を黄色油状物として収率36%(317.3mg、0.6875mmol)で得た。
【0181】
1H NMR δ (CDCl3, 400 MHz): 1.40 (s, 9H), 1.78 (quin, J = 7.8 Hz, 2H), 2.17 (s, 3H), 2.27 (t, J = 7.4 Hz, 2H), 2.62 (t, J = 8.0 Hz, 2H), 3.04 - 3.13 (m, 2H), 4.77 (q, J = 6.2 Hz, 1H), 6.09 (d, J = 7.8 Hz, 1H), 7.14 - 7.27 (m, 5H), 7.66 - 7.69 (m, 2H), 8.04 - 8.07 (m, 2H)
【0182】
13C NMR δ (CDCl3, 100 MHz): 12.8, 24.3, 26.3, 28.0 (3個の炭素), 36.1, 38.2, 53.5, 82.4, 126.3, 126.4, 127.0, 128.4 (2個の炭素), 129.5 (2個の炭素), 132.21, 132.26, 133.4, 133.5, 136.3, 144.0, 146.4, 170.9, 171.8, 184.8, 185.3; [α]D 20: +36.24(c 0.91, CHCl3); IR最大反応速度: 3420, 2978, 1732, 1658, 1595, 1525, 1367, 1329, 1294, 1257, 1226, 1155, 700
【0183】
実施例7:(S)-tert-ブチル-1-(4-(3-メチル-1,4-ナフトキノン-2-イル)ブタノイル)ピロリジン-2-カルボキシラート(UTA#42)
【化20】
【0184】
UTA#42は、UTA#23(196.9mg、0.7623mmol)およびL-プロリンt-ブチルエステル.HCl(139.5mg、0.6716mmol)から一般手順Bに従って製造し、生成物をフラッシュクロマトグラフィー(60%酢酸エチル/ヘキサン)により精製し、UTA#42を黄色油状物として収率53%(145.8mg、0.3543mmol)で得た。
【0185】
1H NMR δ (CDCl3, 400 MHz): 1.44 (s, 9H), 1.82 - 1.88 (m, 2H), 1.90 - 1.96 (m, 2H), 2.04 - 2.13 (m, 2H), 2.21 (s, 3H), 2.36 - 2.48 (m, 2H), 2.67 - 2.71 (m, 2H), 3.47 - 3.52 (m, 1H), 3.59 - 3.64 (m, 1H), 4.37 (dd, J = 8.5, 3.9 Hz, 1H), 7.66 - 7.68 (m, 2H), 8.03 - 8.07 (m, 2H); 13C NMR δ (CDCl3, 100 MHz): 12.8, 23.7, 24.7, 26.5, 28.0 (3個の炭素), 29.3, 34.1, 47.1, 59.5, 81.2, 126.2 (2個の炭素), 132.23, 132.26, 133.3 (2個の炭素),144.0, 146.7, 171.0, 171.6, 184.7, 185.3 ; [α]D 20: +48.70(c 0.97, CHCl3); IR最大反応速度: 2976, 2935, 1735, 1654, 1618, 1595, 1456, 1425, 1367, 1294, 1153, 719
【0186】
実施例8:N-(2-(1H-インドール-3-イル)エチル)-4-(3-メチル-1,4-ナフトキノン-2-イル)ブタンアミド(UTA#73)
【化21】
【0187】
UTA#73は、UTA#23(193.9mg、0.7507mmol)およびトリプタミン(123.5mg、0.7708mmol)から一般手順Bに従って製造し、生成物をフラッシュクロマトグラフィー(80%酢酸エチル/ヘキサン)により精製し、UTA#73を褐色の粘稠な油状物として収率42%(127.3mg、0.3178mmol)で得た。
【0188】
1H NMR δ (CDCl3, 400 MHz): 1.77 (quin, J = 7.6 Hz, 2H), 2.14 (s, 3H), 2.22 (t, J = 7.3 Hz, 2H), 2.59 (t, J = 7.9 Hz, 2H), 2.97 (t, J = 6.8 Hz, 2H), 3.61 (q, J = 6.2 Hz, 2H), 6.13 (t, J = 5.2 Hz, 1H), 7.01 (bs, 1H), 7.04 - 7.08 (m, 1H), 7.11 - 7.15 (m, 1H), 7.32 (d, J = 8.1 Hz, 1H), 7.56 (d, J = 7.9 Hz, 1H), 7.64 - 7.67 (m, 2H), 7.99 - 8.04 (m, 2H), 8.69 (bs, 1H); 13C NMR δ (CDCl3, 100 MHz): 12.7, 24.3, 25.2, 26.3, 36.1, 39.9, 111.4, 112.7, 118.6, 119.3, 122.0, 122.2, 126.2 (2個の炭素), 127.3, 132.02, 132.09, 133.42, 133.47, 136.4, 143.9, 146.2, 172.6, 184.8, 185.1; IR最大反応速度: 3392, 3294, 2935, 1705, 1653, 1595, 1527, 1458, 1332, 1296, 740, 715
【0189】
実施例9:N-(4-ヒドロキシフェネチル)-4-(3-メチル-1,4-ナフトキノン-2-イル)ブタンアミド(UTA#74)
【化22】
【0190】
UTA#74は、UTA#23(235.6mg、0.9122mmol)およびチラミン(119.0mg、0.8675mmol)から一般手順Bに従って製造し、生成物をフラッシュクロマトグラフィー(80%酢酸エチル/ヘキサン)により精製し、UTA#74を融点116~118℃を有する黄色固体として収率33%(108.9mg、0.2885mmol)で得た。
【0191】
1H NMR δ (CDCl3, 400 MHz): 1.76 (quin, J = 7.5 Hz, 2H), 2.12 (s, 3H), 2.24 (t, J = 7.2 Hz, 2H), 2.56 - 2.60 (m, 2H), 2.71 (t, J = 7.0 Hz, 2H), 3.47 (q, J = 6.4 Hz, 2H), 6.22 (t, J = 5.5 Hz, 1H), 6.75 (d, J = 8.4 Hz, 2H), 6.96 (d, J = 8.4 Hz, 2H), 7.62 - 7.65 (m, 2H), 7.97 - 8.00 (m, 2H); 13C NMR δ (CDCl3, 100 MHz): 12.7, 24.4, 16.3, 34.7, 36.1, 41.1, 115.7 (2個の炭素), 126.3 (2個の炭素), 129.8 (2個の炭素), 129.9, 132.0, 132.1, 133.53, 133.59, 144.2, 146.2, 155.3, 173.1, 185.0, 185.2; IR最大反応速度: 3365, 3306, 2935, 1654, 1616, 1595, 1541, 1516, 1375, 1330, 1296, 715
【0192】
実施例10:N-(3,4-ジメトキシフェネチル)-4-(3-メチル-1,4-ナフトキノン-2-イル)ブタンアミド(UTA#77)
【化23】
【0193】
UTA#77は、UTA#23(187.5mg、0.7260mmol)および3,4-ジメトキシフェニルエチルアミン(146.6mg、0.8088mmol)から一般手順Bに従って製造し、生成物をフラッシュクロマトグラフィー(90%酢酸エチル/ヘキサン)により精製し、UTA#77を融点105~108℃を有する淡橙色の結晶性固体として収率38%(117.0mg、0.2776mmol)で得た。
【0194】
1H NMR δ (CDCl3, 400 MHz): 1.77 (quin, J = 7.7 Hz, 2H), 2.16 (S, 3H), 2.22 (t, J = 7.2 Hz, 2H), 2.60 (t, J = 8.0 Hz, 2H), 2.74 (t, J = 7.2 Hz, 2H), 3.48 (q, J = 6.5 Hz, 2H), 3.79 (s, 3H), 3.81 (s, 3H), 5.94 (t, J = 5.6 Hz, 1H), 6.68 - 6.76 (m, 3H), 7.63 - 7.66 (m, 2H), 7.98 - 8.02 (m, 2H); 13C NMR δ (CDCl3, 100 MHz): 12.7, 24.3, 26.3, 35.2, 36.1, 40.7, 55.8, 55.9, 111.4, 111.9, 120.7, 126.25, 126.29, 131.4, 132.0, 132.1, 133.4, 133.5, 144.0, 146.2, 147.7, 149.0, 172.3, 184.8, 185.1.; IR最大反応速度: 3377, 3296, 2935, 2656, 1595, 1516, 1462, 1329, 1294, 1261, 1236, 1157, 1141, 1028, 717
【0195】
実施例12:
(S)-N-(1-ヒドロキシ-3-フェニルプロパン-2-イル)-4-(3-メチル-1,4-ナフトキノン(naphthyoquinone)-2-イル)ブタンアミド(UTA#62)
【化24】
【0196】
UTA#62は、UTA#23(133.5mg、5169mmol)およびL-フェニルアラニノール(76.4mg、0.5053mmol)から一般手順Bに従って製造し、生成物をフラッシュクロマトグラフィー(100%酢酸エチル)により精製し、UTA#62を黄色/橙色の油状物として収率49%(97.7mg、0.2496mmol)で得た。
【0197】
1H NMR δ (CDCl3, 400 MHz): 1.70 - 1.78 (m, 2H), 2.15 (s, 3H), 2.25 (t, J = 7.2 Hz, 2H), 2.55 (t, J = 8.0 Hz, 2H), 2.83 - 2.94 (m, 2H), 3.03 (bs, 1H), 3.59 (dd, J = 11.2, 5.4 Hz, 1H), 3.71 (dd, J = 11.2, 3.8 Hz, 1H), 4.21 - 4.29 (m, 1H), 6.31 (d, J = 8.0 Hz, 1H), 7.15 - 7.27 (m, 5H), 7.64 - 7.69 (m, 2H), 8.00 - 8.05 (m, 2H); 13C NMR δ (CDCl3, 100 MHz): 12.7, 24.3, 26.2, 36.2, 37.0, 52.9, 64.1, 126.35, 126.36, 126.6, 128.6 (2個の炭素), 129.2 (2個の炭素), 132.0, 132.1, 133.5, 133.6, 137.9, 144.2, 146.2, 173.1, 185.12, 185.13; [α]D 20: -21.33(c 1.57, CHCl3); IR最大反応速度: 3369, 3296, 2933, 1658, 1595, 1539, 1456, 1377, 1330, 1296, 1043, 717, 702
【0198】
実施例13:(S)-2-(4-(2-(ヒドロキシメチル)ピロリジン-1-イル)-4-オキソブチル)-3-メチル-1,4-ナフトキノン(UTA#61)
【化25】
【0199】
UTA#61は、UTA#23(116.8mg、0.4522mmol)およびL-プロリノール(159.1mg、0.7587mmol)から一般手順Bに従って製造し、生成物をフラッシュクロマトグラフィー(100%酢酸エチル)により精製し、UTA#61を黄色油状物として収率36%(49.8mg、1459mmol)で得た。
【0200】
1H NMR δ (CDCl3, 400 MHz): 1.60 (quin, J = 6.2 Hz, 2H), 1.82 - 2.02 (m, 6H), 2.21 (s, 3H), 2.39 (t, J = 7.2 Hz, 2H), 2.67 - 2.72 (m, 2H), 3.50 - 3.55 (m, 1H), 3.66 (dd, J = 11.3, 2.8 Hz, 1H), 4.15 - 4.22 (m, 1H), 7.66 - 7.68 (m, 2H), 8.03 - 8.07 (m, 2H). ; 13C NMR δ (CDCl3, 100 MHz): 12.8, 23.6, 24.5, 26.4, 28.3, 34.6, 48.1, 61.2, 67.3, 126.33, 126.37, 132.1, 132.2, 133.4, 133.5, 144.1, 146.6, 173.6, 184.9, 185.3; [α]D 20: -35.12(c 0.41, CHCl3); IR最大反応速度: 3367, 2953, 2877, 1695, 1654, 1616, 1595, 1454, 1329, 1296, 1047, 732, 719
【0201】
実施例14:2-(4-(1,4-ナフトキノン-2-イル)ブタンアミド)-3-フェニルプロパン酸(S)-tert-ブチル(UTA#116)
【化26】
【0202】
UTA#116は、UTA#59(29.5mg、0.1208mmol)およびL-フェニルアラニンt-ブチルエステル.HCl(34.8mg、0.1353mmol)から一般手順Bに従って製造し、生成物をReveleris(Registered Trade Mark)X2自動フラッシュクロマトグラフィーシステム(溶出剤:勾配100%ヘキサン~80%酢酸エチル、カラム:Reveleris(登録商標)シリカ4g、流速:18mL/分)により精製し、UTA#116を褐色油状物として収率20%(10.9mg、0.0243mmol)で得た。
【0203】
1H NMR δ (CDCl3, 400 MHz): 1.43 (s, 9H), 1.91 (quin, J = 7.6 Hz, 2H), 2.29 (td, J = 7.5, 2.9 Hz, 2H), 2.56 - 2.60 (m, 2H), 3.10 - 3.14 (M, 2H), 4.76 - 4.81 (M, 1H), 6.03 (d, J = 7.3 Hz, 1H), 7.16 -6 7.31 (m, 5H), 7.74 - 7.76 (m, 2H), 8.07 - 8.12 (m, 2H); 13C NMR δ (CDCl3, 100 MHz): 23.9, 28.1 (3個の炭素), 29.1, 35.8, 38.2, 53.5, 82.5, 126.2, 126.7, 127.1, 128.5 (2個の炭素), 129.6 (2個の炭素), 132.2, 132.3, 133.7, 133.8, 135.3, 136.3, 150.9, 170.9, 172.5, 185.1, 185.2; [α]D 20: +38.46(c 0.39, CHCl3); IR最大反応速度: 3309,2978, 2931, 1732, 1662, 1595, 1525, 1367, 1301, 1259, 1153, 700。UTA#116は場合により3位(R5)でメチル化されてもよい。
【0204】
実施例15:(S)-2-(4-(3-メチル-1,4-ナフトキノン-2-イル)ブタンアミド)-3-フェニルプロパン酸(UTA#37)
【化27】
【0205】
UTA#37は、一般手順Cを用い、UTA#36(317.3mg、0.6875mmol)の脱保護から製造した。生成物をフラッシュクロマトグラフィー(5%メタノール/酢酸エチル)により精製し、UTA#37を褐色の粘稠な油状物として収率79%(219.6mg、0.5416mmol)で得た。
【0206】
1H NMR δ (CDCl3, 400 MHz): 1.72 - 1.79 (m, 2H), 2.14 (s, 3H), 2.29 (t, J = 7.2 Hz, 2H), 2.58 (t, J = 7.8 Hz, 2H), 3.12 (dd, J = 14.0, 7.0 Hz, 1H), 3.26 (dd, J = 14.1, 5.4 Hz, 1H), 4.90 (m, 1H), 6.54 (d, J = 7.7 Hz, 1H), 7.17 - 7.28 (m, 5H), 7.66 - 7.69 (m, 2H), 8.02 - 8.05 (m, 2H), 8.92 (bs, 1H); 13C NMR δ (CDCl3, 100 MHz): 12.8, 24.2, 26.2, 35.8, 37.3, 53.4, 126.4 (2個の炭素), 127.2, 128.7 (2個の炭素), 129.4 (2個の炭素), 132.0, 132.2, 133.5, 133.6, 135.9, 144.3, 146.2, 173.5, 174.7, 185.1, 185.2; [α]D 20: +35.83(c 0.24, CHCl3); IR最大反応速度: 3491, 2931, 1716, 1660, 1616, 1595, 1521, 1456, 1332, 1296, 1267, 1217, 702
【0207】
実施例16:(S)-1-(4-(3-メチル-1,4-ナフトキノン-2-イル)ブタノイル)ピロリジン-2-カルボン酸(UTA#43)
【化28】
【0208】
UTA#43は、一般手順Cを用い、UTA#42(113.8mg、0.2766mmol)の脱保護から製造した。生成物をフラッシュクロマトグラフィー(3%メタノール/酢酸エチル)により精製し、UTA#43を褐色の粘稠な油状物として収率65%(63.9mg、0.1798mmol)で得た。
【0209】
1H NMR δ (CDCl3, 400 MHz): 1.82 - 1.90 (m, 2H), 2.02 - 2.08 (m, 2H), 2.21 (s, 3H), 2.13 - 2.33 (m, 2H), 2.45 - 2/50 (m, 2H), .68 - 2.72 (m, 2H), 3.49 - 3.53 (m, 1H), 3.60-3.63 (m, 1H), 4.55 - 4.58 (m, 1H), 7.53 bs, 1H), 7.68 - 7.07 (m, 2H), 8.04 - 8.08 (m, 2H); 13C NMR δ (CDCl3, 100 MHz): 12.8, 23.3, 24.8, 26.4, 28.0, 34.1, 47.8, 59.7, 126.34, 126.38, 132.1, 132.2, 133.51, 133.56, 144.2, 146.3, 173.4, 173.9, 184.8, 185.3; [α]D 20: -65.80(c 1.69, CHCl3); IR最大反応速度: 2976, 2956, 1732, 1658, 1616, 1595, 1456, 1329, 1294, 1188, 717
【0210】
実施例17:3-((3-メチル-1,4-ナフトキノン-2-イル)チオ)プロパン酸(UTA#46)
【化29】
【0211】
3-メルカプトプロパン酸(1.4mL、10.829mmol)を、メタノール(50mL)および2-プロパノール(40mL)中、メナジオン(535.8mg、3.1119mmol)の溶液に加え、この反応混合物を室温で24時間撹拌した。減圧下で溶媒を除去し、ジクロロメタンに再溶解させ、10%硫酸銅溶液(2×25mL)およびHO(3×25mL)で洗浄した。有機層をMgSOで乾燥させ、濾過し、減圧下で溶媒を除去して粗生成物を得、これをフラッシュクロマトグラフィー(30%酢酸エチル/ヘキサン)により精製し、UTA#46を赤色の固形油として収率48%(387.4mg、1.4021mmol)で得た。スペクトルデータは文献[9]に報告されているものと一致する。
【0212】
1H NMR δ (CDCl3, 400 MHz): 2.34 (s, 3H), 2.75 (t, J = 7.0 Hz, 2H), 3.42 (t, J = 7.0 Hz, 2H), 7.69 - 7.71 (m, 2H), 8.06 - 8.09 (m, 2H); 13C NMR δ (CDCl3, 100 MHz): 15.4, 28.9, 35.4, 126.7, 126.9, 132.1, 132.9, 133.5, 133.8, 145.8, 147.6, 176.2, 181.3, 182.2
【0213】
薬物動態/生物学的実施例
実施例18:急性ATPレスキューアッセイ(ミトコンドリア機能障害条件下)
ミトコンドリア障害は、ミトコンドリア機能の障害を特徴とし、通常、ミトコンドリアのATP合成の低下として示される。このエネルギー危機は、細胞障害および最終的には細胞死の主要な寄与因子と見られる。従って、細胞および組織機能を正常化するためには、ミトコンドリア機能の障害に関連する異常なエネルギー状態を改善することが必要である。
【0214】
HepG2細胞を96ウェルプレートに5000細胞/ウェルの密度で播種し、0.3g/lグルコース、10%FBSおよびペニシリン-ストレプトマイシン-グルタミンを含むDMEM中で24時間インキュベートした。細胞をグルコース不含DMEM中、ロテノン(10μM)の存在下または不在下で60分間、1μMキノンで処理した。ATPレベルを、ルシフェラーゼによるルシフェリンのATP依存性酵素酸化からの発光を用いて定量した。細胞を室温(RT)で200rpmのオービタルシェーカー上、40μl容量(4mM EDTA、0.2% Triton(登録商標) X-100)に5分間溶解した。96ウェルプレートにて、100μlのATP測定バッファー(25mM HEPES pH7.25、300μM D-ルシフェリン、5μg/mlホタルルシフェラーゼ、75μM DTT、6.25mM MgCL、625μM EDTAおよび1mg/ml BSA)を10μlの溶解液と合わせ、反応を開始した。すぐにマルチモードプレートリーダー(Fluoroscan Ascent、Thermo Scientific)を用いて発光を定量した。市販のBCAアッセイ(Protein DC;BioRad)を用いてATPレベルをタンパク質レベルに対して標準化し、変化をDMSO処理対照細胞のレベルに対するパーセンテージとして計算した。データを非処理(ロテノンなし)対照と比較した%ATPとして表す。これらのデータは、6反復ウェル(n=6)の3回の独立した実験の平均±S.D.を表す。
【0215】
代表的な式(I)の化合物のATPレスキューの程度を表4に示す。ビタミンK、メナジオンおよびイデベノンを比較対照として用いた。DMSOを対照として用いた。
【0216】
【表4】
【0217】
ミトコンドリア障害の場合など、ミトコンドリア機能の変化は細胞ATPレベルの枯渇をもたらし得る。表4で強調されるように、代表的な式(I)の化合物はミトコンドリア機能障害条件下でATPレベルを有意に救済するが、比較化合物であるビタミンKおよび、メナジオンは全く効果を示さないか、または効果は小さかった。
【0218】
実施例19:ミトコンドリア阻害剤の存在下での細胞生存の救済
ATP生産の減少および反応性酸素種の生産の増大によるミトコンドリア機能障害は、細胞生存の著しい低下をもたらす。従って、式(I)もしくは式(Ia)の化合物または以上に述べた実施形態で見られたようなエネルギー供給の改善は、ミトコンドリア機能障害に対して細胞生存を保護するはずである。
【0219】
ナフトキノンによるHepG2細胞の細胞保護作用を、ミトコンドリア毒素ロテノンの存在下で定量した。簡単に述べれば、HepG2細胞を96ウェルプレートにて、0.3g/lグルコース、10%FBSおよびペニシリン-ストレプトマイシン-グルタミンを含むDMEM中5000細胞/ウェルで播種した。標準条件下で一晩のインキュベーション後に、細胞を試験化合物(10μM)で2日間処理し、その後、ハンクス平衡塩溶液(HBSS)中、10μM試験化合物の存在下、1μMロテノンで6時間細胞を刺激した。この後、HBSS中10μM試験化合物単独でさらに18時間、ポストインキュベーションを行った。細胞生存率の測定については、細胞を100μL PBSで2回洗浄した後、200rpmのオービタルシェーカー上、室温(RT)で5分間、40μLの溶解溶液(4mM EDTA、0.2%Triton(登録商標) X-100)を用いて溶解させた。次に、白色96ウェルプレートにて10μLの溶解液に90μLの酵素-基質混合物(上記の通り)を混合し、すぐにプレートリダー(Fluoroscan Ascent、Thermo Scientific)を用いて発光を測定した。データを非処理(ロテノンなし)対照と比較した%生存率として表す。これらのデータは、6反復ウェル(n=6)の3回の独立した実験の平均±S.D.を表す。
【0220】
ロテノン刺激に対する代表的な式(I)の化合物の細胞生存の保護程度を以下の表5に示す。ビタミンK、メナジオンおよびイデベノンを比較対照として用いた。DMSOを対照として用いた。
【0221】
【表5】
【0222】
表5で強調されるように、ミトコンドリア機能障害条件下、代表的な式(I)の化合物は、特に比較化合物メナジオンおよびイデベノンと比較した場合に、細胞生存の保護を有意に改善する。比較化合物ビタミンKは、保護効果を全く示さなかった。
【0223】
実施例20:ミトコンドリア阻害剤の存在下での細胞生存率
代表的な式(I)の化合物の細胞保護効果をロテノン毒性(10μM)に対する応答としてin vitroでさらに検討した。代表的化合物を実施例19と同様の条件下、ミトコンドリア毒素ロテノンの存在下で、HepG2細胞で評価した。細胞を式(I)の化合物の代表的化合物(10μM)で2日間処理した後、細胞を10μMロテノンで刺激した。
【0224】
図1で強調されるように、ミトコンドリア機能障害条件下、代表的な式(I)の化合物は、細胞生存率を有意に改善する。式(I)の代表的ナフトキノン化合物(Nと表示)を対応するベンゾキノン(B)誘導体またはプラストキノン(C)誘導体と比較する。L、Y、R、Rに同じ置換基を含んでなるものの、等価なベンゾキノン(B)またはプラストキノン(P)誘導体は、式(I)の対応するナフトキノンよりも全体的に低い細胞保護活性を示した。
【0225】
【化30】
【0226】
図2で強調されるように、23の化合物(白丸)は、イデベノン(点線、生存率約65%)に比べて有意に改善した細胞保護活性を示した。ロテノンのみに曝した細胞では、生存率は100%(黒い点線、生存率100%)から30%未満(点線、生存率<30%)に低下した。
【0227】
ロテノン刺激に対する代表的な式(I)の化合物の細胞生存率を以下の表6にまとめる(図2のデータに対応する)。ビタミンK、メナジオンおよびイデベノンを比較対照として用いた。
【0228】
【表6】
【0229】
実施例21:ミトコンドリア阻害剤の存在下でのATP救済
代表的な式(I)の化合物のATP救済の程度をロテノン毒性(10μM)に対する応答としてin vitroでさらに検討した。代表的化合物を、実施例18と同様の条件下、ミトコンドリア毒素ロテノンの存在下で、HepG2細胞で評価した。細胞を式(I)の化合物の代表的化合物(10μM)で2日間処理した後、細胞を10μMロテノンで刺激した。
【0230】
図3で強調されるように、7つの化合物(白丸)は、ロテノンの存在下、イデベノン(紫の点線)に比べて、細胞ATPレベルを有意に増加させた。ロテノンのみに曝した細胞では、生存率は100%(黒い点線、生存率100%)から30%未満(点線、生存率<30%)に低下した。化合物は総て10μMで試験した。
【0231】
代表的な式(I)の化合物のロテノン刺激に対するATP救済を以下の表7にまとめる(図2のデータに対応する)。ビタミンK、メナジオンおよびイデベノンを比較対照として用いた。
【0232】
【表7】
【0233】
実施例22:細胞外乳酸レベルに及ぼす効果
ミトコンドリア機能障害、および続いてのATP生産の低下は一般に、ATPレベルを維持するための解糖の増加によって細胞により補償される。しかしながら、これには一般に解糖副産物の乳酸の増加も伴う。高濃度の乳酸は媒体を酸性化し、in vitroおよびin vivoで誘導となる(乳酸アシドーシスと呼ばれる)。ゆえに、試験化合物による乳酸レベルの低下は、ミトコンドリア機能の改善の指標となる。
【0234】
培養培地の乳酸濃度は、酵素結合比色定量アッセイによって決定した。簡単に述べれば、150,000のHepG2細胞を6ウェルプレート(Life Science、USA)の各ウェルの通常の増殖培地(DMEM、10%FCS、Pen/Strep)に播種し、24時間インキュベートした。この培地を、試験化合物を含むおよび含まない(25mMグルコース)含有増殖培地に置き換えた。細胞のみを含む3つの非処理ウェルを試験ベースライン対照と見なし、総ての化合物を3つの異なるウェルで同時に試験した。上清を48時間後に回収し、96ウェル形式に移した。90μlの反応バッファー(10mM KH2PO4 pH7.8、1mg/ml BSA、0.5mM PMS、2mM EDTA、0.6mM DCPIP、0.8mM NAD+、5U/mlグルタミン酸-ピルビン酸-トランスアミナーゼ、1.5mMグルタミン酸、12.5U/ml乳酸デヒドロゲナーゼ)を添加した後、プレートをマルチモードプレートリーダー(Multiscan Go、Thermo Scientific)内で、30℃でインキュベートし、100分にわたって600nmで吸光度を測定した。既知の乳酸濃度を添加した培地を用いて標準曲線を作成した。最後に、タンパク質レベルを定量し、各ウェルの乳酸濃度をそのタンパク質含量に対して標準化した後、対照に対する%として表した。
【0235】
本発明の試験化合物ならびに比較化合物ビタミンK、メナジオンおよびイデベノンによる細胞培養培地における乳酸低下の程度を以下の表6に示す。
【0236】
【表8】
【0237】
表6で強調されるように、代表的な式(I)の化合物は乳酸生産を有意に低下し、これはミトコンドリア機能の改善の指標となる。対照的に、比較化合物メナジオンおよびイデベノンは乳酸濃度を増大させることが判明した。比較化合物ビタミンKは、わずかな有意でない効果を示すに過ぎなかった。
【0238】
実施例23:in vivo毒性
代表的な式(I)の化合物のin vivo毒性は肝細胞におけるものであった。特に、HepG2細胞でコロニー形成アッセイを用いて評価される長期毒性を、10μMの代表的な式(I)の化合物に関して14日にわたって評価した。イデベノンを比較対照として用いた(10μM)。図5に強調されるように、本発明の代表的な化合物は、イデベノンと同等のin vitro毒性を示した。
【0239】
実施例24:レーベル遺伝性視神経症(LHON)モデルにおける活性
代表的な式(I)の化合物の有効性をレーベル遺伝性視神経症(LHON)マウスモデルで評価した。LHONは、失明に至る視力および色の対比感度の急速な低下を特徴とするまれな遺伝性のミトコンドリア障害である。LHONは、ミトコンドリアDNA(mtDNA)突然変異により起こり、そのうち3つの、いわゆる主要なmtDNA突然変異が全LHON症例の95%を超えるものを説明する。
【0240】
LHONモデルは、Heitz et al. 2012が記載しているようにC57BL/6マウスモデルに左眼にロテノンを硝子体内注射することにより誘導した。代表的化合物(UTA37およびUTA77)ならびにイデベノンを観察期間にわたって200mg/kgで投与した。視力低下は頭部回転数を評価することによって測定した。
【0241】
C57BL/6マウス(雄、8~11週齢、平均体重約25g)を、科学目的の動物の使用に関するオーストラリアコードに従い、タスマニア大学(UTAS)動物倫理委員会からの必要な動物倫理承認(承認番号A0016080)の下で使用した。動物には、行動試験に使用する前に輸送によりもたらされるストレスを軽減するために動物施設に馴化させるように少なくとも7日与えた。総てのマウスに、従前に記載されているように(Heitz, F. D. et al. (2012). PLoS One., 7(9), e45182)、個々の一日食の一部に試験化合物を混合することにより、試験化合物を経口供給した。薬物摂取を管理するために、マウスは個々にケージに入れ、自然な行動の機会を与えるために、囲いと寝床材、小さなおもちゃ、オートクレーブ処理したトイレットペーパー、かじるための小さな木ぎれおよびガラス大理石を含む十分な環境を提供した。総てのマウス(各群n=10~11)にミトコンドリア毒素ロテノンの眼内注射前の7日間200mg/kg体重の試験化合物で前処理し、その後残りの試験期間も処理した。試験化合物はフードパウダーと配合して個々の一部とし、これを一日一回ケージに入れた。簡単に述べれば、試験化合物(20mg/ml)を500mlの0.5%カルボキシメチルセルロース(CMC)溶液中、4℃で一晩撹拌した。37.5mlのCMC溶液に、41.25gのスクロース、371.25gのフードパウダーおよび0.5%のCMC溶液を混合してフードマッシュを調製し、秤量トレイにて小分けし(5.5gずつ)、-20℃で個々に保存した。試験中、追加のフードペレットと水は自由に採れるようにした。ミトコンドリア機能障害誘発性視力低下を誘導するために、マウスを5%イソフルラン(600ml/分の酸素)で麻酔し、手術中は2%イソフルラン(300ml/分の酸素)に減らした。眼内注射の前後に、生理食塩水に浸した綿棒を用いて眼の周囲をぬぐった。硝子体内注射については、後の眼圧の上昇を防ぐために、31ゲージ針を用いて強膜を穿刺し、眼を穏やかにマッサージして少量の硝子液を除去した。次に、10μlハミルトンシリンジ(眼内注射キット、World Precision Instruments、USA)に適合した33ゲージ針を用いて左眼の硝子体腔に1μlのロテノン(ジメチルスルホシド中5mM)を注射した。右眼は内部対照として用いた。針の先端を眼の上半球に、強膜から硝子体に扁平部のレベルで、45°の角度で挿入した。この投与経路は、網膜剥離または水晶体および虹彩を含む眼の構造の損傷を回避する。次に、マウスをヒーティングパッド上で回復させた後、ホームケージに戻した。注射した眼を術後7週間、毎日1回、炎症の徴候に関して注意深く調べた。マウスの視力は、従前に記載されているように(Heitz et al. 2012)、視運動応答を用いて毎週繰り返し検査した。マウスを黒と白の縦縞(厚さ1cm)を有するモータードラム(直径30cm)に囲まれた小プラットフォームに置いた。このシステムへの10分の順応期間の後、視力検査は、これらの縦縞を時計回りおよび反時計回りに、各方向に2分間、2回転間に30秒間隔を設けて2回転/分で回転させることによって実施した。マウスの行動は、その後の頭部追跡運動のスコア化のためにデジタルビデオカメラで記録した。動画素材の分析は総て、評価者盲検方式で行った。観察期間の終了時に総てのマウスを、最終的に腹腔内ペントバルビタールナトリウム(110mg/kg体重)で麻酔した。
【0242】
代表的な式(I)の化合物による処置は、イデベノン対照に比べてin vivoにおける視力の保護の増大をもたらした。図5で強調されるように、代表的な化合物UTA37およびUTA77では有意な視力の保護が見られたが、この濃度のイデベノン(図5にRと表示)では見られなかった。
【0243】
実施例25:糖尿病性網膜症モデルにおける活性
糖尿病性網膜症(DR)は、糖尿病患者における慢性高血糖症に関連する合併症である。本発明の化合物の活性は、化学的に誘発される糖尿病性網膜症ラットモデルで評価し、この場合、ストレプトゾトシン(STZ)投与がLong Evansラットで疾患の発生を誘発する。血糖応答および視力をそれぞれ、代表的な式(I)の化合物による処置後に調べた。
【0244】
30週齢、平均体重約400gの雄Long-Evansラットを使用した。ラットを3群で、21±2℃にて12時間-12時間明-暗周期で飼育した。試験中、食物および水は自由に摂らせた。2型糖尿病は従前に記載されているように(Premilovac D, et al.(2017) Sci Rep. 7(1) pp. 14158)、高脂肪食(HFD;肥満関連のインスリン抵抗性を生じる)と、インスリン産生β細胞の数を減少させるための浸透圧ミニポンプにより送達されるストレプトゾトシン(STZ)とを組み合わせて誘発した。この組合せは、ヒト2型糖尿病に典型的な肥満、インスリン抵抗性表現型を保持しつつ、結果としての高血糖のレベルを上回る制御を付与する。
【0245】
最初の4週間、体重、血糖値、水分摂取および視力をモニタリングした後、浸透圧ミニポンプを外科的に移植した。血糖値が20mMに達したらすぐにポンプを除去した。最初の手術後5週間以内に、有意な視力低下が検出された。視力検査のために、視覚運動性応答(OKR)を測定した。ラットを、黒と白の縦縞(厚さ6.11cm)を有するモータードラム(直径70cm)に囲まれた小プラットフォームに置いた。このシステムへの10分の順応期間の後、視力検査は、これらの縦縞を時計回りおよび反時計回りに、各方向に2分間、2回転間に30秒間隔を設けて2.61回転/分で回転させて左眼および右眼の視力を評価することによって実施した。ラットの行動は、その後の頭部追跡運動のスコア化のためにデジタルビデオカメラで記録した。動画素材の分析は総て、評価者盲検方式で行った。
【0246】
糖尿病ラット(n=3~10)を4つの異なる試験区に無作為に分けた:
1.介入なし;
2.イデベノン処置;
3.UTA37処置;
4.UTA77処置。
【0247】
試験化合物を点眼剤溶液(5%チロキサポール、66mMクエン酸バッファー pH7.4中5%鉱油)に、イデベノンは10mg/ml、UTA37は4.6mg/ml、およびUTA77は7.36mg/mlに溶解させた。14週目から、糖尿病ラットの右眼を、試験化合物を含有する点眼剤溶液で1日1回処置した(適用容量およそ50μl)。左(非処置眼)を内部対照として用いた。観察期間の終了時に(21週目)、総ての動物を安楽死させ、組織を回収した。
【0248】
図6で強調されるように、4週目のストレプトゾトシン(STZ)(125mg/kg)浸透圧ポンプの移植はLong Evansラットにおいて血糖値の急速な上昇をもたらした。イデベノン、UTA37およびUTA77のいずれか1つを含んでなる点眼剤の1日1回の投与は、対照ラットに比べて全身血糖値を有意に変化させなかった。
【0249】
図7で強調されるように、19週間、Long Evansラットの左眼および右眼の両方の視覚運動性応答を用いて視力を評価した。4週目のストレプトゾトシン(STZ)投与は、9週までに反射性頭部運動に有意に障害を与えた。14週目に、代表的な式(I)の化合物を含む点眼剤を1日1回投与した。式(I)の化合物は糖尿病性網膜症モデルで効力があった。具体的には、代表的な式(I)の化合物の1日1回の投与は、視覚運動性応答によって測定したところ、STZによる障害の後に視力を部分的に回復させ、このような化合物が糖尿病に関連する眼の合併症を含む、糖尿病に関連する二次的合併症の治療に有効であり得ることを示唆する。
【0250】
実施例26:大腸炎モデルにおける活性
潰瘍性大腸炎(UC)は、消化管の、一般に結腸および直腸における、慢性炎症の一形態である。症状には、粘液を伴うまたは伴わない血性下痢、直腸切迫、裏急後重、腹痛、体重減少、疲労および腸管外症状の発生が含まれる。デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)による誘発される大腸炎モデルは、ヒトの潰瘍性大腸炎のための適切なマウスモデルと認められている。
【0251】
大腸炎は、2.5%デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)の投与によりマウスに化学的に誘導した。体重(図8参照)、便の堅さ(図9参照)、便の血液含量(図10参照)、および一般疾患活動指数(図11参照)は総て、代表的な式(I)の化合物UTA77による処置後に評価した。
【0252】
雌C57BL/6マウスは、7~8週齢の平均体重約17gのものを使用した。マウスを3つの異なる群に無作為に分けた:
1.DSS無しの健常対照群、
2.DSSを用いた対照群、
3.DSSおよび試験化合物処置群(各群n=5)。
【0253】
マウスの体重を、1週間の初期馴化期間に毎日評価した(図8)。総てのマウスを空腹とならないように、食物および飲用水(オートクレーブ処理をした水道水)を自由に摂らせた。代表的な式(I)の化合物をフードパウダーと配合して(200mg/kg体重)個々の一部とし、これを一日一回ケージに入れた。代表的な式(I)の化合物(20mg/ml)を500mlの0.5%カルボキシメチルセルロース(CMC)溶液中、4℃で一晩撹拌した。37.5mlのCMC溶液に、41.25gのスクロース、371.25gのフードパウダーおよび0.5%のCMC溶液を混合してフードマッシュを調製し、秤量トレイに小分けし(2.2gずつ)、-20℃で個々に保存した。大腸炎は、0日目~7日目(終了日)にマウスの飲用水に2.5%w/vのデキストラン硫酸ナトリウム(DSS、MW=36,000~50,000、大腸炎級、MP Biomedicals、USA)を供給することによって誘発した。0日目に、DSSおよび試験化合物に曝す前に、総てのマウスの体重を測定し、便の堅さおよび潜血を調べた。対照動物にはDSSを含まないオートクレーブ処理をした飲用水と通常のチャウペレットを与え、DSS処置群には0日目~7日目に水道水中2.5%のDSSを与えた。また、総ての対照群に試験化合物を含まない2.2gのフードマッシュを与えた。薬物処置群の動物には、0日目~7日目に、フードマッシュ中に200mg/kgの試験化合物を水中2.5%のDSSとともに与えた。体重(図8参照)、便の堅さ(図9参照)、便の血液含量(図10参照)を毎日記録した。疾患活動指数(DAI)(図11)を以下の表9に従って計算した。各パラメーターをそれぞれスコア化し、3つのパラメーターの総てを加算してDAIを計算した。
【0254】
【表9】
【0255】
UTA77で処置したマウスは、DSS対照に比べて、疾患活動の低下、便の改善および血便の減少を示した。さらに、UTA77で処置したマウスは、処置期間中、DSS対照よりも体重減少が少なかった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11