(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-20
(45)【発行日】2023-04-28
(54)【発明の名称】超電導線の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01B 13/00 20060101AFI20230421BHJP
【FI】
H01B13/00 565D
(21)【出願番号】P 2021566546
(86)(22)【出願日】2019-05-21
(86)【国際出願番号】 JP2019020130
(87)【国際公開番号】W WO2020235005
(87)【国際公開日】2020-11-26
【審査請求日】2022-02-25
(73)【特許権者】
【識別番号】516070601
【氏名又は名称】Faraday Factory Japan合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】弁理士法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ペトリキン,ヴァレリー
(72)【発明者】
【氏名】リー,セルゲイ
【審査官】鈴木 大輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-143516(JP,A)
【文献】特開2012-104444(JP,A)
【文献】国際公開第2013/002410(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 12/00-12/16
H01B 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上にバッファ層を形成し、前記バッファ層がAl
2O
3層を含み、前記Al
2O
3層が、反応性ガスとしての第1の酸素ガスとアルミニウム金属からなるスパッタリングターゲットが用いられる反応性マグネトロンスパッタリングによって形成され、前記Al
2O
3層が、第1の濃度の前記第1の酸素ガスを供給しながら形成され、前記第1の濃度が、前記スパッタリングターゲットの表面近傍のプラズマ中のAlの発光強度が第1の基準値の25%以上80%以下となる前記第1の酸素ガスの濃度であり、前記第1の基準値が、前記第1の酸素ガスの濃度がゼロであるときのAlの発光強度であり、
前記バッファ層上に超電導層を形成する、
ことを含む、
超電導線の製造方法。
【請求項2】
前記第1の濃度が、前記Alの発光強度が前記第1の基準値の30%以上80%以下であるときの前記第1の酸素ガスの濃度である、
請求項1に記載の超電導線の製造方法。
【請求項3】
前記バッファ層が前記Al
2O
3層上にY
2O
3層を含み、前記Y
2O
3層が、反応性ガスとしての第2の酸素ガスとイットリウム金属からなるスパッタリングターゲットが用いられる反応性マグネトロンスパッタリングによって形成され、前記Y
2O
3層が、第2の濃度の前記第2の酸素ガスを供給しながら形成され、前記第2の濃度が、前記スパッタリングターゲットの表面近傍のプラズマ中のYの発光強度が第2の基準値の15%以上90%以下であるときの前記第2の酸素ガスの濃度であり、前記第2の基準値が、前記第2の酸素ガスの濃度がゼロであるときのYの発光強度である、
請求項1又は2に記載の超電導線の製造方法。
【請求項4】
前記第2の濃度が、前記Yの発光強度が前記第2の基準値の30%以上80%以下であるときの前記第2の酸素ガスの濃度である、
請求項3に記載の超電導線の製造方法。
【請求項5】
前記バッファ層が前記Y
2O
3層上に二軸配向構造を有するMgO層を含み、前記MgO層が、反応性ガスとしての第3の酸素ガスとマグネシウム金属からなるスパッタリングターゲットが用いられ、アシストArイオンビームが適用された反応性マグネトロンスパッタリングによって形成され、前記MgO層が、第3の濃度の前記第3の酸素ガスを供給しながら形成され、前記第3の濃度が、前記スパッタリングターゲットの表面近傍のプラズマ中のMgの発光強度が第3の基準値の50%未満であるときの前記第3の酸素ガスの濃度であり、前記第3の基準値が、前記第3の酸素ガスの濃度がゼロであるときのMgの発光強度である、
請求項3又は4に記載の超電導線の製造方法。
【請求項6】
前記バッファ層が前記Y
2O
3層上に二軸配向構造を有するMgO層を含み、前記MgO層が、MgOからなるスパッタリングターゲットが用いられ、アシストArイオンビームが適用されたマグネトロンスパッタリングによって形成される、
請求項3又は4に記載の超電導線の製造方法。
【請求項7】
基板上にバッファ層を形成し、前記バッファ層がY
2O
3層を含み、前記Y
2O
3層が、反応性ガスとしての第2の酸素ガスとイットリウム金属からなるスパッタリングターゲットが用いられる反応性マグネトロンスパッタリングによって形成され、前記Y
2O
3層が、第2の濃度の前記第2の酸素ガスを供給しながら形成され、前記第2の濃度が、前記スパッタリングターゲットの表面近傍のプラズマ中のYの発光強度が第2の基準値の15%以上90%以下であるときの前記第2の酸素ガスの濃度であり、前記第2の基準値が、前記第2の酸素ガスの濃度がゼロであるときのYの発光強度であり、
前記バッファ層上に超電導層を形成する、
ことを含む、
超電導線の製造方法。
【請求項8】
前記第2の濃度が、前記Yの発光強度が前記第2の基準値の30%以上80%以下であるときの前記第2の酸素ガスの濃度である、
請求項7に記載の超電導線の製造方法。
【請求項9】
前記バッファ層が前記Y
2O
3層上に二軸配向構造を有するMgO層を含み、前記MgO層が、反応性ガスとしての第3の酸素ガスとマグネシウム金属からなるスパッタリングターゲットが用いられ、アシストArイオンビームが適用された反応性マグネトロンスパッタリングによって形成され、前記MgO層が、第3の濃度の前記第3の酸素ガスを供給しながら形成され、前記第3の濃度が、前記スパッタリングターゲットの表面近傍のプラズマ中のMgの発光強度が第3の基準値の50%未満であるときの前記第3の酸素ガスの濃度であり、前記第3の基準値が、前記第3の酸素ガスの濃度がゼロであうときのMgの発光強度である、
請求項7又は8に記載の超電導線の製造方法。
【請求項10】
前記バッファ層が前記Y
2O
3層上に二軸配向構造を有するMgO層を含み、前記MgO層が、MgOからなるスパッタリングターゲットが用いられ、アシストArイオンビームが適用されたマグネトロンスパッタリングによって形成される、
請求項7又は8に記載の超電導線の製造方法。
【請求項11】
基板上にバッファ層を形成し、前記バッファ層がMgO層を含み、前記MgO層が、反応性ガスとしての第3の酸素ガスとマグネシウム金属からなるスパッタリングターゲットが用いられ、イオンビームアシスト堆積が適用された反応性マグネトロンスパッタリングによって形成され、前記MgO層が、第3の濃度の前記第3の酸素ガスを供給しながら形成され、前記第3の濃度が、前記スパッタリングターゲットの表面近傍のプラズマ中のMgの発光強度が第3の基準値の50%未満であるときの前記第3の酸素ガスの濃度であり、前記第3の基準値が、前記第3の酸素ガスの濃度がゼロであるときのMgの発光強度であり、
前記バッファ層上に超電導層を形成する、
ことを含む、
超電導線の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超電導線に関する。
【背景技術】
【0002】
第2世代の超電導線(被覆導体)は多層構造を有する。その典型的な構造は
図1に示されるが、各ワイヤメーカーは、バッファ層の組み合わせとそれらの化学組成に独自の変更を加えている。従来、酸素欠乏雰囲気中での反応性マグネトロンスパッタリングによって形成されたAl
xO層を含む超電導線が知られている(例えば、特許文献1を参照)。ここで、Al
xOはアルミニウムリッチのアルミナである。
【0003】
また、イオンビームアシスト堆積(Ion Beam Assisted Deposition:IBAD)が適用された反応性マグネトロンスパッタリングによって形成されたMgO膜を含む超電導線が知られている(例えば、特許文献2を参照)。
【0004】
通常のマグネトロンスパッタリングで使用されるスパッタリングターゲットは、形成される膜と同じ材料からなる。そのため、通常のマグネトロンスパッタリングによって金属酸化物膜を形成するためには、金属酸化物からなるスパッタリングターゲットが用いられる。
【0005】
一方、反応性マグネトロンスパッタリングにより金属酸化物膜を形成する場合、堆積工程におけるマグネトロンプラズマ中の金属原子のその場酸化(in situ oxidation)のための反応性ガスとしての酸素ガスの追加とともに、目的の金属酸化物膜に含まれる金属からなるスパッタリングターゲットを用いることができる。
【0006】
金属は金属を含む金属酸化物よりも結晶格子エネルギーが低いため、両方のマグネトロン出力が等しい場合でも、金属スパッタリングターゲットを使用する反応性マグネトロンスパッタリングの方が、金属酸化物スパッタリングターゲットを使用する通常のマグネトロンスパッタリングよりも堆積速度が大きい。
【0007】
また、金属酸化物スパッタリングターゲットは、通常、金属スパッタリングターゲットよりも高価である。このため、反応性マグネトロンスパッタリングを用いることにより、金属酸化物膜の製造コストを削減することができる。
【0008】
これらの理由から、超電導線製造用の一連の金属酸化物膜を含むバッファ層の製造に反応性マグネトロンスパッタリングを用いることにより、最終製品の製造速度の向上および製造コストの低減を達成することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】国際公開第2015/033380号
【文献】特許第5830238号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
反応性マグネトロンスパッタリングでは、導入する反応性ガスの流量に応じて、薄膜の堆積速度と組成が大きく変化することが知られている。反応性ガスとしての酸素ガスの流量が少ない場合、金属スパッタリングターゲットから弾き出された金属原子が酸素ガスと反応することなく堆積し、金属膜が形成される(メタルモード)。このため、メタルモードでは純粋な金属酸化物膜を得ることはできない。
【0011】
一方、反応性ガスとしての酸素ガスの流量が多い場合、金属スパッタリングターゲットの表面が酸化する。そのため、金属酸化物が表面から弾き出されて堆積し、金属酸化物膜が形成される(酸化物モード)。しかしながら、酸化物モードでの堆積速度は小さく、金属酸化物スパッタリングターゲットを用いる通常のマグネトロンスパッタリングでの堆積速度とあまり変わらない。
【0012】
また、メタルモードと酸化物モードの間には、ヒステリシス特性を示す遷移領域が存在する。遷移領域では、金属スパッタリングターゲットの表面の酸化量が、酸化物モードよりも少なく、金属酸化物と金属原子の両方が金属スパッタリングターゲットから弾き出される。理想的なケースでは、金属原子の酸化はマグネトロンプラズマ中で行われるべきであるが、ターゲット表面は純金属で構成されていなければならない。 そのため、遷移領域でのスパッタリング速度は、酸化物モードでのスパッタリング速度よりも大きい。また、金属原子がプラズマ中で酸化され、固体材料が金属酸化物の形で堆積され、それによって、目的の金属酸化物膜が得られる。
【0013】
しかしながら、金属原子と酸素ガスの間の反応は定常状態のプロセスであり、金属、酸素、金属酸化物の間の動的平衡を表すため、遷移領域では不安定であり、遷移領域を利用した金属酸化物膜の形成は、従来の被覆導体のためのバッファの製造の技術では行われていなかった。
【0014】
本発明の目的は、超電導線のバッファ層の製造速度を向上させることにある。この目的のために、反応性マグネトロンスパッタリングの遷移領域における反応を制御することにより、超電導線の金属酸化物膜を高速で安定して形成する。
【課題を解決するための手段】
【0015】
[1]上記の目的を達成するために、本発明は、基板上にバッファ層を形成し、前記バッファ層がAl2O3層を含み、前記Al2O3層が、反応性ガスとしての第1の酸素ガスとアルミニウム金属からなるスパッタリングターゲットが用いられる反応性マグネトロンスパッタリングによって形成され、前記Al2O3層が、第1の濃度の前記第1の酸素ガスを供給しながら形成され、前記第1の濃度が、前記スパッタリングターゲットの表面近傍のプラズマ中のAlの発光強度が第1の基準値の25%以上80%以下となる前記第1の酸素ガスの濃度であり、前記第1の基準値が、前記第1の酸素ガスの濃度がゼロであるときのAlの発光強度であり、前記バッファ層上に超電導層を形成する、ことを含む、超電導線の製造方法を提供する。
【0016】
[2]上記[1]に記載の超電導線の製造方法において、前記第1の濃度が、前記Alの発光強度が前記第1の基準値の30%以上80%以下であるときの前記第1の酸素ガスの濃度である。
【0017】
[3]上記[1]又は[2]に記載の超電導線の製造方法において、前記バッファ層が前記Al2O3層上にY2O3層を含み、前記Y2O3層が、反応性ガスとしての第2の酸素ガスとイットリウム金属からなるスパッタリングターゲットが用いられる反応性マグネトロンスパッタリングによって形成され、前記Y2O3層が、第2の濃度の前記第2の酸素ガスを供給しながら形成され、前記第2の濃度が、前記スパッタリングターゲットの表面近傍のプラズマ中のYの発光強度が第2の基準値の15%以上90%以下であるときの前記第2の酸素ガスの濃度であり、前記第2の基準値が、前記第2の酸素ガスの濃度がゼロであるときのYの発光強度である。
【0018】
[4]上記[3]に記載の超電導線の製造方法において、前記第2の濃度が、前記Yの発光強度が前記第2の基準値の30%以上80%以下であるときの前記第2の酸素ガスの濃度である。
【0019】
[5]上記[3]又は[4]に記載の超電導線の製造方法において、前記バッファ層が前記Y2O3層上に二軸配向構造を有するMgO層を含み、前記MgO層が、反応性ガスとしての第3の酸素ガスとマグネシウム金属からなるスパッタリングターゲットが用いられ、アシストArイオンビームが適用された反応性マグネトロンスパッタリングによって形成され、前記MgO層が、第3の濃度の前記第3の酸素ガスを供給しながら形成され、前記第3の濃度が、前記スパッタリングターゲットの表面近傍のプラズマ中のMgの発光強度が第3の基準値の50%未満であるときの前記第3の酸素ガスの濃度であり、前記第3の基準値が、前記第3の酸素ガスの濃度がゼロであるときのMgの発光強度である。
【0020】
[6]上記[3]又は[4]に記載の超電導線の製造方法において、前記バッファ層が前記Y2O3層上に二軸配向構造を有するMgO層を含み、前記MgO層が、MgOからなるスパッタリングターゲットが用いられ、アシストArイオンビームが適用されたマグネトロンスパッタリングによって形成される。
【0021】
[7]上記の目的を達成するために、本発明は、基板上にバッファ層を形成し、前記バッファ層がY2O3層を含み、前記Y2O3層が、反応性ガスとしての第2の酸素ガスとイットリウム金属からなるスパッタリングターゲットが用いられる反応性マグネトロンスパッタリングによって形成され、前記Y2O3層が、第2の濃度の前記第2の酸素ガスを供給しながら形成され、前記第2の濃度が、前記スパッタリングターゲットの表面近傍のプラズマ中のYの発光強度が第2の基準値の15%以上90%以下であるときの前記第2の酸素ガスの濃度であり、前記第2の基準値が、前記第2の酸素ガスの濃度がゼロであるときのYの発光強度であり、前記バッファ層上に超電導層を形成する、ことを含む、超電導線の製造方法を提供する。
【0022】
[8]上記[7]に記載の超電導線の製造方法において、前記第2の濃度が、前記Yの発光強度が前記第2の基準値の30%以上80%以下であるときの前記第2の酸素ガスの濃度である。
【0023】
[9]上記[7]又は[8]に記載の超電導線の製造方法において、前記バッファ層が前記Y2O3層上に二軸配向構造を有するMgO層を含み、前記MgO層が、反応性ガスとしての第3の酸素ガスとマグネシウム金属からなるスパッタリングターゲットが用いられ、アシストArイオンビームが適用された反応性マグネトロンスパッタリングによって形成され、前記MgO層が、第3の濃度の前記第3の酸素ガスを供給しながら形成され、前記第3の濃度が、前記スパッタリングターゲットの表面近傍のプラズマ中のMgの発光強度が第3の基準値の50%未満であるときの前記第3の酸素ガスの濃度であり、前記第3の基準値が、前記第3の酸素ガスの濃度がゼロであうときのMgの発光強度である。
【0024】
[10]上記[7]又は[8]に記載の超電導線の製造方法において、前記バッファ層が前記Y2O3層上に二軸配向構造を有するMgO層を含み、前記MgO層が、MgOからなるスパッタリングターゲットが用いられ、アシストArイオンビームが適用されたマグネトロンスパッタリングによって形成される。
【0025】
[11]上記の目的を達成するために、本発明は、基板上にバッファ層を形成し、前記バッファ層がMgO層を含み、前記MgO層が、反応性ガスとしての第3の酸素ガスとマグネシウム金属からなるスパッタリングターゲットが用いられ、イオンビームアシスト堆積が適用された反応性マグネトロンスパッタリングによって形成され、前記MgO層が、第3の濃度の前記第3の酸素ガスを供給しながら形成され、前記第3の濃度が、前記スパッタリングターゲットの表面近傍のプラズマ中のMgの発光強度が第3の基準値の50%未満であるときの前記第3の酸素ガスの濃度であり、前記第3の基準値が、前記第3の酸素ガスの濃度がゼロであるときのMgの発光強度であり、前記バッファ層上に超電導層を形成する、ことを含む、超電導線の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、超電導線を高い生産速度および低コストで製造することができる超電導線の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】
図1は、実施の形態に係る、超電導線の断面図である。
【
図2】
図2は、実施の形態に係る、超電導線の製造工程を表すフローチャートである。
【
図3】
図3は、実施の形態に係る、バッファ層の形成に用いられる反応性マグネトロンスパッタリング装置の構成の概略図である。
【
図4】
図4は、実施例1に係る、マルチパステープ堆積オープンリール式システムの拡大図である。
【
図5】
図5は、実施例1に係る曲線Aと曲線Bを示す。曲線Aは、反応性ガスとしての酸素ガスの濃度と、スパッタリングターゲットの表面近傍のプラズマ中のAlの発光強度との関係を示す。曲線Bは、酸素ガスの濃度と、Al
2O
3とAlの両方又は一方を含むAl含有膜の堆積速度との関係を示す。
【
図6】
図6は、実施例1に係る、Alの発光強度が37.5%、50.0%、62.5%、75.0%、又は87.5%であるときの、テープの1巻目部分から7巻目部分の各々におけるAl含有膜の堆積速度を示す。
【
図7】
図7は、実施例1に係る、マルチパス堆積システムにおける1巻目部分から7巻目部分上のAl含有膜の堆積速度の平均値と、Alの発光強度との関係を示す。
【
図8】
図8は、実施例2に係る曲線Cと曲線Dを示す。曲線Cは、反応性ガスとしての酸素ガスの濃度と、スパッタリングターゲットの表面近傍のプラズマ中のYの発光強度との関係を示す。曲線Dは、酸素ガスの濃度と、Y
2O
3とYの両方又は一方を含むY含有膜の堆積速度との関係を示す。
【
図9】
図9は、実施例2に係る、Yの発光強度が37.6%、50.2%、62.3%、75.3%、又は87.8%である場合の、テープの1巻目部分から7巻目部分までの各々におけるY含有膜の堆積速度を示す。
【
図10】
図10は、実施例2に係る、1巻目部分から7巻目部分上のY含有膜の堆積速度の平均値とYの発光強度との関係を示す。
【
図11】
図11は、実施例3に係る曲線Eと曲線Fを示す。曲線Eは、反応性ガスとしての酸素ガスの濃度と、スパッタリングターゲットの表面近傍のプラズマ中のMgの発光強度との関係を示す。曲線Fは、酸素ガスの濃度と、MgOとMgの両方又は一方を含むMg含有膜の堆積速度との関係を示す。
【
図12】
図12は、実施例3に係る、最終製品としての超電導線の臨界電流Ic対長さの測定データである。
【
図13】
図13は、実施例4に係る、第1の試料の臨界電流Ic対長さを示すグラフである。
【
図14】
図14は、実施例4に係る、第2の試料の臨界電流Ic対長さを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
(超電導線の構成)
図1は、超電導線1の垂直断面図である。超電導線1は、金属基板10と、基板10上に形成されたバッファ層20と、バッファ層20上に形成されたCeO
2層30と、CeO
2層30上に形成された超電導層40と、超電導層40上に形成された保護層50とを含む。
【0029】
バッファ層20は、Al2O3層21、Y2O3層22、及びMgO層23からなる群から選択される少なくとも1つの層を含む。さらに、バッファ層20は、好ましくは、この群から選択される2つ又は3つの層を含む。バッファ層20は、例えば、20~180nmの範囲の厚さを有する。
【0030】
Al2O3層21とY2O3層22がバッファ層20に含まれる場合、Y2O3層22がAl2O3層21上に形成される。Y2O3層22とMgO層23がバッファ層20に含まれる場合、MgO層23がY2O3層22上に形成される。Al2O3層21とMgO層23がバッファ層20に含まれる場合、MgO層23がAl2O3層21の上側に形成される。Al2O3層21、Y2O3層22、及びMgO層23がバッファ層20に含まれる場合、Y2O3層22がAl2O3層21上に形成され、MgO層23がY2O3層22上に形成される。
【0031】
図1に示される例では、バッファ層20は、Al
2O
3層21と、Al
2O
3層21上に形成されたY
2O
3層22と、Y
2O
3層22上に形成されたMgO層23と、MgO層23上に形成されたLaMnO
3層24と、を含む。
【0032】
Al2O3層21は、反応性ガスとしての酸素ガスとアルミニウム金属からなるスパッタリングターゲットが用いられる反応性マグネトロンスパッタリングによって形成される。Y2O3層22は、反応性ガスとしての酸素ガスとイットリウム金属からなるスパッタリングターゲットが用いられる反応性マグネトロンスパッタリングによって形成される。
【0033】
MgO層23は、反応性ガスとしての酸素ガスとマグネシウム金属からなるスパッタリングターゲットが用いられ、イオンビームアシスト堆積(Ion Beam Assisted Deposition:IBAD)法において用いられるアシストArイオンビームが適用された反応性マグネトロンスパッタリングによって形成される。また、MgO層23の代わりに、MgOからなるスパッタリングターゲットが用いられ、アシストArイオンビームが適用されたマグネトロンスパッタリングによって形成された他のMgO層を用いてもよい。
【0034】
Al2O3層21、Y2O3層22、及びMgO層23以外のバッファ層20内の1つ又は複数の層は、例えば、物理蒸着法または溶液堆積法によって形成される。
【0035】
Al2O3層21は、例えば、20~80nmの範囲の厚さを有する。Y2O3層22は、例えば、7~35nmの範囲の厚さを有する。
【0036】
MgO層23は、二軸配向構造を有する。MgO層23は、Ca、Sr又はCuなどのドーパントを含んでもよい。MgO層23は、例えば、5~20nmの範囲の厚さを有する。また、MgO層23の代わりに、MgO以外の岩塩型構造を有する材料からなる二軸配向構造を有する他の層を用いてもよい。
【0037】
LaMnO3層24のようなMgO層23上に直接形成される層がペロブスカイト構造を有する場合、その層は、MgO層23と格子整合する。
【0038】
基板10はテープ状の基板であり、金属又はハステロイ(商標)などの金属合金を主成分とする。また、ステンレス鋼テープ、又は溶液堆積平坦化プロセスによって調製されたY2O3層を有するテープを基板10として用いてもよい。基板10は、例えば、20~100μmの範囲の厚さを有する。
【0039】
LaMnO3層24は、MgO層23と超電導層40との間の化学反応を抑制するキャップ層として機能することができる。また、LaMnO3層24は、超電導層40のエピタキシャル成長のために格子整合を向上させる。LaMnO3層24は、例えば、20~50nmの範囲の厚さを有する。
【0040】
CeO2層30は、LaMnO3層24と超電導層40との間のバッファ層である。CeO2層30は、CeO2層30の配向を改善し、また、酸素アニール工程の間の酸素拡散を促進するために、Gdなどの希土類元素がドーピングされていてもよい。CeO2層30中の酸素イオンが超電導層40に拡散するとき、超電導層40中の酸素イオンの均一な分布をより短い時間で達成することができる。
【0041】
CeO2層30は、ペロブスカイト構造を有するLaMnO3層24上に格子整合して形成される。CeO2層30は、例えば、100~500nmの範囲の厚さを有する。
【0042】
なお、CeO2層30は超電導線1に含まれなくてもよい。すなわち、超電導層40は、バッファ層20上に直接または間接的に形成される。言い換えると、超電導層40は、バッファ層20の上に形成される。
【0043】
超電導層40は、REBa2Cu3O6+xなどの高温超電導体を主成分とすることが好ましい。ここで、REは、Y、Nd、Eu、又はGdなどの希土類元素である。また、超電導層40は、YBa2Cu3O6+x、GdBa2Cu3O6+x、又はこれらの組み合わせを主成分とすることがより好ましい。超電導層40は、磁場中での超電導特性を向上させるために、非導電性ナノ粒子を含んでもよい。超電導層40は、例えば、1~6μmの範囲の厚さを有する。
【0044】
保護層50は、超電導層40を周囲の雰囲気及び機械的損傷から保護し、良好な電気的接触を提供する。保護層50は、Agなどを含む。保護層50は、例えば、0.5~10.0μmの範囲の厚さを有する。
【0045】
(超電導線の製造)
以下に、超電導線1の製造工程の例を説明する。
【0046】
図2は、超電導線1の製造工程を示すフローチャートである。まず、基板10の表面に電解研磨を施す(ステップS1)。
【0047】
次に、Al2O3層21を基板10上に形成する(ステップS2)。Al2O3層21は、反応性ガスとしての酸素ガスとアルミニウム金属からなるスパッタリングターゲットが用いられる反応性マグネトロンスパッタリングによって形成される。Al2O3層21は、第1の濃度の酸素ガスを供給しながら形成される。第1の濃度は、金属酸化物スパッタリングターゲットを用いる通常のマグネトロンスパッタリングよりも十分に高い堆積速度を提供するために、スパッタリングターゲットの表面近傍のプラズマ中のAlの発光強度が第1の基準値の25%以上80%以下となる酸素ガス濃度に設定される。ここで、“スパッタリングターゲットの表面近傍”は、例えば、“スパッタリングターゲットの表面から0~3cmの範囲”である。第1の基準値は、酸素ガスの濃度がゼロであるときのAlの発光強度である。この反応性マグネトロンスパッタリングは、主に遷移領域で達成され、おそらく遷移領域でのみ達成される。
【0048】
次に、Y2O3層22をAl2O3層21上に形成する(ステップS3)。Y2O3層22は、反応性ガスとして酸素ガスとイットリウム金属からなるスパッタリングターゲットが用いられる反応性マグネトロンスパッタリングによって形成される。Y2O3層22は、第2の濃度の酸素ガスを供給しながら形成される。第2の濃度は、金属酸化物スパッタリングターゲットが用いられる通常のマグネトロンスパッタリングよりも十分に高い堆積速度を提供するために、スパッタリングターゲットの表面近傍のプラズマ中のYの発光強度が第2の基準値の15%以上90%以下となる酸素濃度に設定される。ここで、“スパッタリングターゲットの表面近傍”は、例えば、“スパッタリングターゲットの表面から0~3cmの範囲”である。第2の基準値は、酸素ガスの濃度がゼロであるときのYの発光強度である。この反応性マグネトロンスパッタリングは、主に遷移領域で達成され、おそらく遷移領域でのみ達成される。
【0049】
第1の濃度は、Alの発光強度が第1の基準値の30%以上65%以下であるときの酸素ガスの濃度であってもよい。第2の濃度は、Yの発光強度が第2の基準値の35%以上65%以下であるときの酸素ガスの濃度であってもよい。
【0050】
次に、MgO層23をY2O3層22上に形成する(ステップS4)。MgO層23は、反応性ガスとしての酸素ガスとマグネシウム金属からなるスパッタリングターゲットが用いられ、アシストArイオンビームが適用された反応性マグネトロンスパッタリングによって形成される。MgO層23は、第3の濃度の酸素ガスを供給しながら形成される。マグネシウム金属からなるスパッタリングターゲットを用いる場合、第3の濃度は、金属酸化物スパッタリングターゲットが用いられる通常のマグネトロンスパッタリングよりも十分に高い堆積速度を提供するため、スパッタリングターゲットの表面近傍のプラズマ中のMgの発光強度が第3の基準値の50%未満となる酸素濃度に設定される。ここで、“スパッタリングターゲットの表面近傍”は、例えば、“スパッタリングターゲットの表面から0~3cmの範囲”である。第3の基準値は、酸素ガスの濃度がゼロであるときのMgの発光強度である。この反応性マグネトロンスパッタリングは、主に遷移領域で達成され、おそらく遷移領域でのみ達成される。
【0051】
このアシストArイオンビームが適用された反応性マグネトロンスパッタリングにおいては、アシストイオンとしてのArイオンを照射しながら反応性マグネトロンスパッタリングによりMgOを堆積させて、MgO層23を形成する。
【0052】
次に、RFマグネトロンスパッタリング、DCマグネトロンスパッタリング、又はPLD法によって、LaMnO3層24をMgO層23上に形成する(ステップS5)。
【0053】
次に、PLD法又はRFマグネトロンスパッタリングによって、CeO2層30をLaMnO3層24上に形成する(ステップS6)。
【0054】
次に、PLD法により、超電導層40をCeO2層30上に形成する(ステップS7)。また、酸素アニールにより、酸素を超電導層40に導入するべきである。超電導層40中の酸素濃度は、超電導層40の臨界温度や臨界電流などの超電導特性にとって重要である。
【0055】
次に、DCマグネトロンスパッタリング法により、保護層50を超電導層40上に形成する(ステップS8)。
【0056】
次に、酸素アニールにより、超電導層40中の酸素の量を適切に調整する(ステップS9)。
【0057】
図3は、バッファ層20を形成するために用いられる反応性マグネトロンスパッタリング装置60の概略図である。
【0058】
反応性マグネトロンスパッタリング装置60は、テープ70を供給するための供給リール61と、供給リール61によって供給されたテープ70を巻くためのガイドリール62及び63と、ガイドリール62及び63によって巻かれたテープ70上のAl
2O
3層21、Y
2O
3層22、又はMgO層23などの金属酸化物膜を形成するためのマグネトロンヘッドを備えたスパッタリングターゲット64と、及び金属酸化物膜を有するテープ70を巻き取るための受容リール66とを含む。また、
図3に示されるように、反応性マグネトロンスパッタリング装置60は、供給リール61とガイドリール62との間、及びガイドリール63と受容リール66との間にガイドローラー68を含んでもよい。
【0059】
また、MgO層23などの配向層を形成する場合には、アシストArイオンビームを照射するアシストイオンガン67が反応性マグネトロンスパッタリング装置60において用いられる。
【0060】
テープ70は、基板10、又は基板10と基板10上に既に形成されている層から構成される。
【0061】
スパッタリングターゲット64の表面近傍のプラズマ中のAl、Y、又はMgなどの金属の発光強度は、光電子増倍管(Photomultiplier Tube:PMT)ユニット71に接続されたプラズマ発光制御装置などによって測定される。コリメーター72に入るプラズマ光は、光ファイバ73を通って伝播し、PMTユニット71によって検出される。
【0062】
ここで、Al、Y、Mgの発光強度を測定するために、396.5nm、407.5nm、285.0nm付近の波長におけるプラズマ光の強度がそれぞれ検出される。
【実施例1】
【0063】
反応性マグネトロンスパッタリングによるAl2O3層21の好ましい形成条件を実験により求めた。
【0064】
実施例1においては、プラズマ発光制御装置として、堀場製作所製のプラズマエミッションコントローラーRU-1000を用いた。また、基板10として、厚さが60μm(マイクロメートル)、表面粗さが1nm未満、幅が12mmの電解研磨されたハステロイテープを用いた。また、Al2O3層21を形成するためのスパッタリングターゲット64として、アルミニウム金属からなるスパッタリングターゲットを用いた。
【0065】
図4は、本発明に係る実施例1におけるマルチパステープ堆積オープンリール式システムの拡大図である。
図4に示されるように、ガイドリール62及び63によるテープ70の巻き数は7とした。
【0066】
まず、マグネトロンの電力密度が15W/cm2以下、Arガスの圧力が0.35Pa以上4.0Pa以下であるときに、安定したプラズマが得られることを見出した。マグネトロンの電力密度が15W/cm2を超えると、アーク放電が発生した。Arガスの圧力が0.35~4.0Paの範囲外になると、プラズマが不安定になり、消滅することが多かった。また、Arガスの圧力が0.5Pa以下であるときに、より高い堆積速度が得られた。さらに、反応チャンバー内の温度が80℃以上170℃以下であるときに、高品質のAl含有膜が得られた。
【0067】
図5は、曲線Aと曲線Bを示す。曲線Aは、反応性ガスとしての酸素ガスの濃度と、スパッタリングターゲット64の表面近傍のプラズマ中のAlの発光強度との関係を示す。曲線Bは、酸素ガスの濃度と、Al
2O
3とAlの両方又は一方を含むAl含有膜の堆積速度との関係を示す。
【0068】
図5の横軸は、反応チャンバー内の酸素ガスの濃度を示す。左軸は、PMTユニット71によって測定された、スパッタリングターゲット64の表面から0~3cmの範囲のプラズマ中のAlの発光強度を示し、発光強度は、酸素ガスの濃度がゼロであるときのAlの発光強度である第1の基準値に対するパーセンテージで表される。右軸は、基板表面近傍に配置された水晶振動子マイクロバランス(quartz crystal microbalance:QCM)センサーによって測定されたAl含有膜の堆積速度(Å/s、オングストローム/s)を示す。
【0069】
図5のAl含有膜の堆積速度は、ガイドリール62とガイドリール63との間のテープ70の1巻目部分70aにおいて測定された。
【0070】
曲線Aは、酸素ガスの濃度が増加するのに伴い、Alの発光強度が低下することを示している。これは、酸素ガス濃度の増加に伴い、スパッタリングターゲット64の表面の酸化の度合いが大きくなることによる。このため、酸素ガスの濃度が低いときのAl含有膜はほぼ純粋なAlからなり(メタルモード)、酸素ガスの濃度が高いときのAl含有膜はほぼ純粋なAl
2O
3からなる(酸化物モード)。メタルモードと酸化物モードの間の遷移領域は、
図5に大まかに示されている。
【0071】
曲線Bは、Al含有膜の堆積速度が酸化物モード近傍で急速に低下することを示している。これは、スパッタリングターゲット64の表面が酸化され、Al酸化物がAlよりも高い結晶格子エネルギーを有するために、スパッタリング速度が低下することによる。
【0072】
図6は、Alの発光強度が37.5%、50.0%、62.5%、75.0%、又は87.5%であるときの、テープ70の1巻目部分70aから7巻目部分70gの各々におけるAl含有膜の堆積速度を示す。
【0073】
図7は、マルチパス堆積システムにおける1巻目部分70aから7巻目部分70g上のAl含有膜の堆積速度の平均値と、Alの発光強度との関係を示す。
【0074】
Al含有膜の堆積速度が大きければ、所定の厚さを有するAl含有膜を形成するためのテープ70の供給速度を大きくすることができる。
【0075】
表1は、Alの発光強度が37.5%、50.0%、62.5%、75.0%、又は87.5%であるときの、68nmの厚さを有するAl含有膜を形成するためのテープ70の供給速度と、対応する最終製品としての超電導線の臨界電流を示す。
【0076】
【0077】
超電導線は、Al含有膜上にY2O3膜、MgO膜、LaMnO3膜、CeO2膜、GdBa2Cu3O7膜、Ag膜を順に形成する工程を経て得られた。Y2O3膜とLaMnO3膜は、通常のRFマグネトロンスパッタリングによって形成した。MgO膜は、アシストArイオンビームが適用されたマグネトロンスパッタリングによって形成した。CeO2膜とGdBa2Cu3O7膜はPLD法によって形成した。Ag膜は、通常のDCマグネトロンスパッタリングによって形成した。
【0078】
また、表1は、参考用データとして、通常のRFマグネトロンスパッタリングによって68nmの厚さを有するAl2O3膜を形成するためのテープ70の供給速度、及びAl2O3膜をAl含有膜の代わりに有する超電導線の臨界電流を示す。
【0079】
Alの発光強度がおよそ30%以上80%以下であるときに、テープ70の供給速度が参考用データよりも大きく、超電導線が超電導特性を示した。さらに、Alの発光強度がおよそ50%以上65%以下であるときに、超電導線の臨界電流が参考用データとほぼ同じであった。また、Alの発光強度が30%以上80%以下であるときには、Al含有膜の組成は、ほぼ純粋なAl2O3から構成されていた。
【0080】
したがって、Al2O3層21を形成するための酸素ガスの濃度(第1の濃度)は、スパッタリングターゲットの表面近傍のプラズマ中のAlの発光強度が第1基準値の30%以上80%以下となる濃度であることが好ましく、スパッタリングターゲットの表面近傍のプラズマ中のAlの発光強度が第1基準値の50%以上65%以下となる濃度であることがより好ましい。
【実施例2】
【0081】
反応性マグネトロンスパッタリングによるY2O3層22の好ましい形成条件を実験により求めた。
【0082】
実施例2においては、実施例1と同様に、プラズマ発光制御装置として、堀場製作所製のプラズマエミッションコントローラーRU-1000を用いた。また、実施例2におけるテープ70は、基板10としての幅12mmの電解研磨されたハステロイテープと、通常のRFマグネトロンスパッタリングによりハステロイテープ上に形成されたAl2O3膜とから構成される。また、Y2O3層22を形成するためのスパッタリングターゲット64として、イットリウム金属からなるスパッタリングターゲットを用いた。
【0083】
図4に示されるように、ワインダー62及び63によるテープ70の巻き数は7とした。
【0084】
まず、マグネトロンの電力密度が13W/cm2以下、Arガスの圧力が0.25Pa以上1.5Pa以下であるときに、安定したプラズマが得られることを見出した。マグネトロンの電力密度が13W/cm2を超えると、アーク放電が発生した。Arガスの圧力が0.25~1.5Paの範囲外になると、プラズマが不安定になり、消滅することが多かった。さらに、Arガスの圧力が0.75Pa以上0.85Pa以下であるときに、より高い堆積速度が得られた。Y2O3層22の結晶化を回避するために、Y2O3層22は室温で形成された。
【0085】
図8は、曲線Cと曲線Dを示す。曲線Cは、反応性ガスとしての酸素ガスの濃度と、スパッタリングターゲット64の表面近傍のプラズマ中のYの発光強度との関係を示す。曲線Dは、酸素ガスの濃度と、Y
2O
3とYの両方又は一方を含むY含有膜の堆積速度との関係を示す。
【0086】
図8の横軸は、反応チャンバー内の酸素ガスの濃度を示す。左軸は、PMTユニット71によって測定された、スパッタリングターゲット64の表面から0~3cmの範囲のプラズマ中のYの発光強度を示し、発光強度は、酸素ガスの濃度がゼロであるときのYの発光強度である第2の基準値に対するパーセンテージで表される。右軸は、QCMセンサーによって測定されたY含有膜の堆積速度(Å/s、オングストローム/s)を示す。
【0087】
図8のY含有膜の堆積速度は、ワインダー62とワインダー63との間のテープ70の1巻目部分70aにおいて測定された。
【0088】
曲線Cは、酸素ガスの濃度が増加するのに伴い、Yの発光強度が低下することを示している。これは、酸素ガス濃度の増加に伴い、スパッタリングターゲット64の表面の酸化の度合いが大きくなることによる。このため、酸素ガスの濃度が低いときのY含有膜はほぼ純粋なYからなり(メタルモード)、酸素ガスの濃度が高いときのY含有膜はほぼ純粋なY
2O
3からなる(酸化物モード)。メタルモードと酸化物モードの間の遷移領域は、
図8に大まかに示されている。
【0089】
さらに、Yの発光強度が35%以下であるとき、スパッタリングターゲット64の表面の酸化が急速に進行したため、プラズマ発光制御装置の動作速度がY含有膜の堆積条件を安定して制御するのに十分ではなかった。また、曲線Dは、Yの発光強度が30%以下になるとき、Y含有膜の堆積速度が急激に低下することを示している。これは、堆積速度がQCMセンサーの測定可能な範囲から外れたことが原因である可能性がある。
【0090】
図9は、Yの発光強度が37.6%、50.2%、62.3%、75.3%、又は87.8%であるときの、テープ70の1巻目部分70aから7巻目部分70gの各々におけるY含有膜の堆積速度を示す。
【0091】
図10は、1巻目部分70aから7巻目部分70g上のY含有膜の堆積速度の平均値とYの発光強度との関係を示す。
【0092】
Y含有膜の堆積速度が大きければ、所定の厚さを有するY含有膜を形成するためのテープ70の供給速度を大きくすることができる。
【0093】
表2は、Yの発光強度が37.6%、50.2%、62.3%、75.3%、又は87.8%であるときの、45nmの厚さを有するY含有膜を形成するためのテープ70の供給速度と、最終製品としての超電導線の臨界電流を示す。
【0094】
【0095】
超電導線は、Y含有膜上にMgO膜、LaMnO3膜、CeO2膜、GdBa2Cu3O7膜、Ag膜を順に形成する工程を経て得られた。LaMnO3膜は、通常のRFマグネトロンスパッタリングによって形成した。MgO膜は、アシストArイオンビームが適用されたRFマグネトロンスパッタリングによって形成した。CeO2膜とGdBa2Cu3O7膜はPLD法によって形成した。Ag膜は、通常のDCマグネトロンスパッタリングによって形成した。
【0096】
また、表2は、参考用データとして、通常のRFマグネトロンスパッタリングによって45nmの厚さを有するY2O3膜を形成するためのテープ70の供給速度、及びY2O3膜をY含有膜の代わりに有する超電導線の臨界電流を示す。
【0097】
Yの発光強度がおよそ30%以上90%以下であるときに、テープ70の供給速度が参考用データよりも大きく、超電導線の臨界電流が参考用データとほぼ同じであった。一方、
図8によれば、80%はYの発光強度の急激な低下の開始点であり、これは金属がプラズマ中で急速に酸化して、良質のY
2O
3が得られることを意味している。
また、Yの発光強度がおよそ30%以上65%以下であるときに、臨界電流のばらつきを抑えることができた。また、Yの発光強度が30%以上90%以下であるときには、Y含有膜の組成は、ほぼ純粋なY
2O
3から構成されていた。
【0098】
したがって、Y2O3層22を形成するための酸素ガスの濃度(第2の濃度)は、スパッタリングターゲットの表面近傍のプラズマ中のYの発光強度が第2の基準値の30%以上80%以下となる濃度であることが好ましく、スパッタリングターゲットの表面近傍のプラズマ中のYの発光強度が第1の基準値の30%以上65%以下となる濃度であることがより好ましい。
【実施例3】
【0099】
反応性マグネトロンスパッタリングによるMgO層23の好ましい形成条件を実験により求めた。
【0100】
実施例3においては、実施例1と同様に、プラズマ発光制御装置として、堀場製作所製のプラズマエミッションコントローラーRU-1000を用いた。また、実施例3におけるテープ70は、基板10としての幅12mmの電解研磨されたハステロイテープと、通常のRFマグネトロンスパッタリングによりハステロイテープ上に形成されたAl2O3膜と、通常のRFマグネトロンスパッタリングによってAl2O3膜上に形成されたY2O3膜とから構成される。また、MgO層23を形成するためのスパッタリングターゲット64として、マグネシウム金属からなるスパッタリングターゲットを用いた。
【0101】
図4に示されるように、ワインダー62及び63によるテープ70の巻き数は7とした。
【0102】
まず、マグネトロンの電力密度が12.5W/cm2以下、Arガスの圧力が0.13Pa以上0.30Pa以下であるときに、安定したプラズマが得られることを見出した。マグネトロンの電力密度が12.5W/cm2を超えると、アーク放電が発生した。Arガスの圧力が0.13~0.30Paの範囲外になると、プラズマが不安定になり、消滅することが多かった。さらに、IBADの適用には、Arガスの圧力が0.30Pa以下であることが必要であった。加熱がMgO層23の配向に悪影響を及ぼしたため、MgO層23は室温で形成された。
【0103】
図11は、曲線Eと曲線Fを示している。曲線Eは、反応性ガスとしての酸素ガスの濃度と、スパッタリングターゲット64の表面近傍のプラズマ中のMgの発光強度との関係を示す。曲線Fは、酸素ガスの濃度と、MgOとMgの両方又は一方を含むMg含有膜の堆積速度との関係を示す。
【0104】
図11の横軸は、反応チャンバー内の酸素ガスの濃度を示す。左軸は、PMTユニット71によって測定された、スパッタリングターゲット64の表面から0~3cmの範囲のプラズマ中のMgの発光強度を示し、発光強度は、酸素ガスの濃度がゼロであるときのMgの発光強度である第3の基準値に対するパーセンテージで表される。右軸は、QCMセンサーによって測定されたMg含有膜の堆積速度(Å/s、オングストローム/s)を示す。
【0105】
図11のMg含有膜の堆積速度は、ワインダー62とワインダー63との間のテープ70の1巻目部分70aにおいて測定された。
【0106】
曲線Eは、酸素ガスの濃度が増加するのに伴い、Mgの発光強度が低下することを示している。これは、酸素ガス濃度の増加に伴い、スパッタリングターゲット64の表面の酸化の度合いが大きくなることによる。このため、酸素ガスの濃度が低いときのMg含有膜は多量のMg金属を含み(メタルモード)、酸素ガスの濃度が高いときのMg含有膜はほぼ純粋なMgOからなる(酸化物モード)。メタルモードと酸化物モードの間の遷移領域は、
図11に大まかに示されている。
【0107】
また、曲線Eは、Mg含有膜の形成における遷移領域が非常に狭いことを示している。さらに、曲線Eの、Mgの発光強度が第3の基準値のおよそ45%である遷移領域中の点において、異常がみられる。これは、プラズマ発光制御装置のフィードバックアルゴリズムが、異常点付近の酸素分圧を制御できないことを示している。
【0108】
したがって、MgO層23を形成するための酸素ガスの濃度(第3の濃度)は、スパッタリングターゲットの表面近傍のプラズマ中のMgの発光強度が第3の基準値の45%未満となる濃度であることが求められる。なお、Mgの発光強度が第3の基準値の45%未満であるときには、Mg含有膜はほぼ純粋なMgOから構成されていた。
【0109】
次に、Mg含有膜上にLaMnO3膜、CeO2膜、GdBa2Cu3O7膜、Ag膜を順に形成する工程を経て、最終製品としての超電導線を得た。LaMnO3膜は、通常のRFマグネトロンスパッタリングによって形成した。CeO2膜とGdBa2Cu3O7膜はPLD法によって形成した。Ag膜は、通常のDCマグネトロンスパッタリングによって形成した。
【0110】
図12は、最終製品としての超電導線の臨界電流Ic対長さの測定データである。
図12に係る超電導線におけるMg含有膜は、IBAD条件と臨界電流との関係を測定するために、異なるIBAD条件下で形成された複数の領域を有する。約0mmと約25000mmの間の場所、約38000mmと約54000mmの間の場所、及び約7000mmと約77000mmの間の場所は、異なるIBAD条件下で形成された3つの領域に対応する。IBAD条件には、イオン加速エネルギーとイオン電流が含まれる。
図12の横軸は、超電導線の長さ方向の位置を示す。縦軸は、超電導線の臨界電流を示す。
【0111】
図12の測定データにおいて、超電導線の長さ方向の位置が約38000mm~約54000mmの部分で臨界電流が200Aを超えている。この部分に対応するMg含有膜は、アシストArイオンビームのエネルギーが1000eV、イオン電流が200mA、第3の濃度がMgの発光強度が第3の基準値の31%となる酸素ガス濃度であるIBAD条件下で形成した。
【0112】
また、超電導線の長さ方向の位置が約0mm~約25000mmである部分に対応するMg含有膜は、アシストArイオンビームのエネルギーが1000eV、イオン電流が180mA、第3の濃度がMgの発光強度が第3の基準値の26%になる酸素ガス濃度であるIBAD条件下で形成した。また、超電導線の長さ方向の位置が約7000mm~約77000mmの部分に対応するMg含有膜は、アシストArイオンビームのエネルギーが1000eV、イオン電流が180mA、第3の濃度がMgの発光強度が第3の基準値の35%になる酸素ガス濃度であるIBAD条件下で形成した。
【実施例4】
【0113】
反応性マグネトロンスパッタリングによって形成されたMgO層23をバッファ層20中に含む超電導線1である第1の試料の臨界電流と、MgO層23の代わりに通常のマグネトロンスパッタリングによって形成されたMgO層をバッファ層20中に含む超電導線1である第2の試料の臨界電流とを比較した。
【0114】
第1の試料は、電解研磨されたハステロイテープで作られた基板10と、バッファ層20と、CeO2層30と、GdBa2Cu3O7からなる超電導層40と、Agからなる保護層50とを含む。このバッファ層20は、Al2O3層21、Y2O3層22、MgO層23、及びLaMnO3層24から構成される。
【0115】
第1の試料のAl2O3層21及びY2O3層22は、上記の実施形態に係る反応性マグネトロンスパッタリングによって形成した。第1の試料のMgO層23は、上記の実施形態に係るアシストArイオンビームが適用された反応性マグネトロンスパッタリングによって形成した。次に、LaMnO3層24は、RFマグネトロンスパッタリングによって堆積した。第1の試料のCeO2層30及び超電導層40は、PLD法によって形成した。第1の試料の保護層50は、通常のDCマグネトロンスパッタリングによって形成した。
【0116】
第2の試料は、第1の試料のMgO層23の代わりに、MgOからなるスパッタリングターゲットが用いられ、アシストArイオンビームが適用されたマグネトロンスパッタリングによって形成されたMgO層を含む。
【0117】
図13は、第1の試料の臨界電流Ic対長さを示すグラフである。
図13は、第1の試料の臨界電流がおよそ250Aであることを示している。
【0118】
図14は、第2の試料の臨界電流Ic対長さを示すグラフである。
図14は、第2の試料の臨界電流がおよそ500Aであることを示している。
【0119】
図13と
図14とを比較すると、第2の試料は、第1の試料よりも臨界電流が大きい。一方、MgO層23が反応性マグネトロンスパッタリングにより短時間で形成されるため、第1の試料の製造コストは第2の試料の製造コストよりも低い。このため、第1の試料と第2の試料は、異なる用途に用いることができる。なお、反応性マグネトロンスパッタリングなどのより高速なプロセスが、第1の試料と第2の試料のバッファ層の形成に用いられるため、第1の試料の製造コストと第2の試料の製造コストは、通常のマグネトロンスパッタリングによってバッファ層が形成される従来の超電導線の製造コストよりも低い。
【0120】
本発明において、本発明の主旨又は変更技術を逸脱しなければ、上述の実施の形態及び実施例に限定されない範囲で様々な変更が可能である。
【0121】
本発明は、完全かつ明瞭な開示のために特定の実施の形態及び実施例に関して記載されたが、添付の特許請求の範囲はこれらに限定されず、本明細書の開示の範囲内で当業者の想到し得るすべての変更と代替構造を具体化するものと解釈される。
【産業上の利用可能性】
【0122】
本発明によれば、超電導線を高い生産速度および低コストで製造することができる超電導線の製造方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0123】
1 超電導線
10 基板
20 バッファ層
21 Al2O3層
22 Y2O3層
23 MgO層
40 超電導層